知っておこう!PCR・抗体検査・抗原検査それぞれの違いと特徴
さて、covid-19(新型コロナウイルス感染症)に対するPCR検査を無意味にdisった一部界隈中心に、なぜか抗体検査を妙に持ち上げる動きがみられるようです。
しかし、抗体検査はPCRとはまったく性質が異なる検査で、追加で行うならともかく、PCRの代わりになるようなものではありません。
ここではそれに抗原検査も加え、各検査の特徴について簡単に説明しましょう。
- PCR検査
これは今や詳細は必要ないでしょうが、ポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction)の略称で、極めて微小な量のDNA断片を100万倍にも増幅して検出する技術です。RNAウイルスの場合は、RNAをDNAに逆転写して鋳型とします。コロナウイルスもRNAウイルスなのでこちらですね。
http://www.takara-bio.co.jp/kensa/pdfs/book_1.pdf
PCRでみているのはウイルスの生存や増殖に不可欠な「ゲノム」ですので、検査ではウイルスの有無を検出していると考えて問題ないでしょう。
ウイルスのゲノム配列に正しく結合する適切な「プライマー」があれば、一般にPCRでは70%程度の感度と100%に近い特異度で診断を行うことができるといわれています*1。 診断の感度が低いという人もいますが、例えばインフルエンザの抗原検査キットは一般に感度60%程度であり、他と比べて特別に低いというわけではありません*2。ただ、PCRには専用の機器が必要になるため、ほとんどの場合は検査センターにサンプルを送付して1~数日の結果待ちというやり方になります。
ちなみに日本はPCR検査能力が低いという謎の説もありますが、民間検査会社ではすでに一社で1000件/日以上の検査能力はあると発表されていますし、さらに拡大予定とされています。複数社で効率的な検査コンソーシアムを組めば一日一万件くらいは民間だけでも処理できるようになるでしょう。
https://ssl4.eir-parts.net/doc/4544/tdnet/1804587/00.pdf
- 抗体検査
では抗体検査とはなんでしょうか。
もっとも大きな違いは、ウイルスそのものを見るわけではない、という点です。ウイルスの侵入に対して、人体の免疫系が反応し、抗体を産生して攻撃しようとするわけですが、これには大きく一次応答と二次応答の二段階があります。
一次応答ではIgMという種類の抗体が、二次応答ではIgGという種類の抗体が産生され、抗体検査では、このIgMやIgGを血液から検出することになります。
こちらの図がわかりやすいですね。
ただ、誤解しやすいところなのですが、
『抗体があることは、治癒や免疫成立を必ずしも意味しません』。
というのも、抗体ができたとしても、その質(中和能)や量(抗体価)によっては、完全にウイルスを撃退するに至らない場合もあるからです。
IgGが検出されても感染中であったり、あるいは再感染する場合も十分考えられます。
新型コロナ、回復者に免疫あるか不明 WHOが警告 (写真=ロイター) :日本経済新聞
Coronavirus: low antibody levels raise questions about reinfection risk | South China Morning Post
抗体検査は、感染の時期や感染暦を判断するためのものであって、感染の状態を知るものではないのです。わかるのは「感染したことがある」または「感染している」のどちらかであるということ。
将来的に研究が進めば「これくらいの抗体価があれば感染防止できる」というようなことがわかってくるかもしれませんが、今はまだその段階ではありません。
また、近年では、抗体がウイルスの感染を増強するケースがあることも報告されています。covid-19と同様コロナウイルスによるSARSや、デング熱ワクチン、HPVワクチンにおいてもその懸念が指摘されています。
ワクチンが効かない?新型コロナでも浮上する「抗体依存性感染増強」
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(09)61821-3/fulltext
covid-19については未だわかりませんが、そういった可能性も排除せず備えておくべきでしょう。
- 抗原検査
最後に『抗原検査』です。抗体検査と字面は似ていますが、こちらは「ウイルスの蛋白質」を検出する方法であり、PCRと同じくウイルスの有無を見ていると考えて差し支えありません。
長所は、うまくキット化すれば、検体をセンターに送らずともベッドサイドで15~30分で簡便に診断できる「迅速検査」が行えること。インフルエンザなど多くの感染症でこのような迅速検査が活用されています。
短所は、上でも触れましたが感度が高くない場合が多いこと。
インフルエンザの場合は一般に感度60%、特異度98%程度といわれており、PCRを上回ることは難しいと考えられます。*3
Accuracy of rapid influenza diagnostic tests: a meta-analysis. - PubMed - NCBI
「PCRは感度が低いから使えない」という主張の方にとっては、抗原検査はさらに使えないことになりますが、そんなことはありません。
迅速にリスク群を層別することで、隔離を早めて医療者の感染リスクを低減したり、早期治療に備えたり、医療資源を準備したり、広域の分布を把握したりといろいろとやるべきことはあるのです。
ただし、確定のためにはやはりPCR検査が必要であり、基本的には素早く方針について目処を立てるためのものと考えたほうがよいでしょう。
いずれの場合も、PCR検査の完全代替になったり、PCRが不要になることはありません。追加や補助の知見を得るため抗体検査・抗原検査を行うのは意義があることでしょうが、あくまでPCR検査がきっちりなされることが前提です。
それぞれの検査の特性を知り、正しく活用することが必要なのです。