動物が体調を崩した場合、言葉でコミュニケーションができない分、飼い主の不安はより募る。症状に気付いた時は、病気が進行していたというケースもあり得る。大切な家族の一員であるペットたちが、いつまでも健康でいてほしいというのはすべての飼い主の願いだろう。
そんな時のために、新薬を使ったがん治療や「問題行動」を獣医学の観点から治療する「行動診療」など、最新の獣医療を紹介。また、日常で必要となり得る夜間診療や輸血治療などは、「もしも」の時に慌てないよう覚えておくことが安心につながる。
【獣医療の最前線】犬の膀胱・尿道移行上皮癌、新しい治療法に向けた臨床試験[インタビュー]
主に膀胱と尿道にできる「移行上皮癌」は、有効な治療法が確立されていなかった。東京大学の前田真吾助教は、がん細胞だけを狙い撃ちする新薬の臨床試験を行った。薬を投与した症例の7~8割で腫瘍の縮小が認められ、治療法の確立に光明が見られた。(臨床試験はすでに終了したが、新薬を使用した治療は実費負担で可能。「移行上皮癌や前立腺癌でお困りの場合は是非ご相談ください」とのことだ)【獣医療の最前線】犬のがん治療に期待が高まる、抗体薬を使った臨床試験[インタビュー]
山口大学の水野拓也教授らの研究グループが、抗体薬を使って犬のがんを治療する臨床試験の成果を発表。肺に転移するまで進行したステージ4の「口腔内悪性黒色腫(口の中にできたメラノーマ)」で、がんの大きさがかなり縮小する効果が確認された。抗体薬を使った治療は、幅広いがんへの効果も期待され現在も臨床試験が続けられている。【獣医療の最前線】獣医動物行動学とは?…犬や猫の「問題行動」を獣医学的に診断・治療[インタビュー]vol.1
犬や猫の「問題行動」に悩む飼い主は少なくない。動物の精神面での健康改善に獣医学の観点から取り組むのが「獣医動物行動学」で、2014年からは獣医師の国家試験にも含まれている。東大附属動物医療センターの「行動診療科」で、武内ゆかり教授にペットの問題行動について聞いた。【獣医療の最前線】受診する飼い主の悩みは攻撃行動や常同障害、トイレ問題など…獣医動物行動学編[インタビュー]vol.2
武内教授が実際に診察してきた症例で一番多いのは攻撃行動で、犬の場合は6割近くを占める。同じ行動をずっと続けてしまう「常同障害」と「分離不安」、「過剰吠え」や異物を飲み込んでしまう「異嗜(いし)」もあるそうだ。猫も一番多いのは攻撃行動で、「不適切な排泄」、常同障害、過剰鳴きと続く。治療法は「行動修正法」、「薬物療法」と「外科的療法」があるが、1頭1頭に合わせた慎重な診断が重要だという。【獣医療の最前線】飼い主がペットと向き合う上でのアドバイスは?…獣医動物行動学編[インタビュー]vol.3
飼い主にとって大切なのは、ペットを知り、信頼関係を構築することだと武内教授は言う。個々に異なる「ストレスサイン」を理解すれば、適切な対処を行うことができる。また、問題行動の中には、獣医学的な診断が効果のある治療につながる場合も多い。選択肢の1つとして獣医動物行動学について知っておくことが、ペットと飼い主双方の幸せにつながるかも知れない。【獣医療の最前線】同じ動きを繰り返し生活に支障をきたす、犬の“常同障害”[インタビュー]vol.1
東京大学附属動物医療センターの「行動診療科」を受診する犬には、「常同障害」という病気も多い。「常に同じ」行動を繰り返すことで生活に支障が出る障害で、足先など体の一部を舐め過ぎて出血したり、尻尾を噛んでけがをしたり、食事をせずに同じ行動を続けるという症例もあるそうだ。精神的・肉体的なトラブルが出るだけでなく、飼い主にも大きなストレスがかかる。【獣医療の最前線】常同障害も早期発見・早期治療がカギ、「あれ?」と思ったら相談を [インタビュー]vol.2
山田良子博士によると、自分の尻尾を噛んで出血したりかみ切ってしまったりする自傷行動に至る場合もあると言う。常同障害も他の病気と同様に、早期発見・早期治療が大切だそうだ。症状が重い場合などは投薬治療も有効なため、「あれ?」と思ったら専門家に相談するのが安心だろう。「飼い主が“おかしい”と思ったらまず電話を」…24時間診療の動物病院[インタビュー]
ペットが突然の体調不良に見舞われた場合、飼い主の不安は募る。深夜や早朝でも救急車を呼ぶことはできない。そんな時に頼りになるのが夜間も開いている動物病院だ。東京都と千葉県で24時間診療を行っている苅谷動物病院グループの林幸太郎博士に、夜間診療について聞いた。犬と猫の輸血治療はどのように行われるのか?…ドナーの確保が重要[インタビュー]
SNS上で「供血犬(猫)を探しています」といった、飼い主からの投稿を見ることが多い。人間の場合は輸血が必要であれば、通常は病院で問題なく受けられる。しかし、動物の場合は事情が異なるようだ。東京都と千葉県で輸血治療に力を入れている苅谷動物病院グループの長島友美・獣医師に、ペットの輸血治療の内容と課題について聞いた。
どんな病気や怪我も、早期の適切な治療が重要になる。最先端治療に関する臨床試験や、あまり知られていない行動診療などの存在を知っておくことで、愛犬の命や健康が守られる場合もあるだろう。また緊急の場合に備え、24時間診療や輸血治療を行っている最寄りの動物病院を調べておくことも、大切な家族の一員であるペットを守る飼い主の責任と言えるだろう。