6月19・20日の2日間、「Animal World Cup 2021(アニマルワールドカップ2021)」がオンライン・ライブイベントとして行われた。メインコンテンツの1つであるドッグスポーツの中から、今回は、奥の深い「ドッグダンス」についてレポートする。
起源は1980年代の欧州
日本を含む世界各国で、盲導犬や介助犬など人間の生活を支えてくれる「使役犬」たちが活躍している。ドッグダンスは、こうした犬たちが現役を退いた後の健康管理手段として1980年代にヨーロッパで始まったという。2000年には競技に進化し、日本でも2004年に初めての競技会が開催された。2017年には犬の血統証を世界的に管理している「国際畜犬連盟(FCI)」が国際ルールを定め、グローバルなドッグスポーツとなった。
犬と飼い主による社交ダンスとフィギュアスケート
競技は2種類に分けられている。ハンドラー(主に飼い主)と犬が密着したポジションで、正確なステップを刻むのが「ヒールワーク・トゥ・ミュージック(HTM)」と呼ばれるカテゴリーである。「ヒールワーク」とは犬の訓練に使われる動きの1つで、犬は常にハンドラーの足元*にぴたりとつけることが求められる。そのヒールワークを音楽に合わせて行うため、この名が付けられた。密着したポジションのまま、音楽に合わせて犬と人間が一体となった様々な動きの中で、その難易度や方向(犬には難しい後退や横歩きなど)、ペース変化などを考慮して得点が与えられる。
もう1つのカテゴリーである「フリースタイル」では、その名の通り動きに制約はない。衣装や小道具、披露する技も一切制限されていない。犬を危険にさらすような動き以外、自由な演技が許されている。技の難易度やバラエティ、音楽の流れに合った構成などが評価ポイントとなるそうだ。
人間と犬が一緒に行う社交ダンスがHTM、フィギュアスケートがフリースタイルとイメージすれば分かりやすいだろう。どちらも採点基準としては、「表現」、構成などの「内容」、「芸術的解釈」がそれぞれ9点満点。犬に対して無理をさせない優しい動きであるかどうかなど、「動物福祉」について3点満点で評価される。これを基に、FCIが設けた世界共通の「ジャッジ・ガイドライン」で採点が行われる。
飼い主と愛犬との「楽しい」関係性構築がカギ
ドッグダンスでは、1曲の中で20~30種類の指示(コマンド)がハンドラーから犬に対して出されるそうだ。競技中は、おやつなどの報酬を使用することが禁止されている。したがって、犬自身が楽しいと感じなければ、複雑な動きや高度な技を覚えることはできない。さらに、集中力を維持して演技を続けることは難しいだろう。
飼い主と一緒に行うダンスそのものを、犬自身が楽しいと感じるような関係性の構築がドッグダンスの難しさであるとともに、醍醐味とも言える。吠えや噛み、言うことを聞かないなど愛犬の問題行動に悩む一般の飼い主は少なくないだろう。そんなケースでは、ドッグダンスを通じた関係性の修復や構築も、解決方法の1つになるのではないだろうか。
愛犬との芸術表現というユニークなスポーツ
アニマルワールドカップでドッグダンスを紹介した「あおぞらドッグサークル」の伊藤哲朗氏によれば、「犬とハンドラーの究極の信頼関係」に基づいた「一体感のある芸術表現」がドッグダンスだそうだ。競技人口の比較的多い「フリスビードッグ」やアジリティ、パルクールなど、ドッグスポーツもさまざまなものが生まれている。その中で、犬と一緒に芸術表現をするドッグダンスは、ユニークな存在と言えるだろう。
楽しく遊びながら「しつけ」ができるドッグスポーツ
今回のイベントで紹介された様々なドッグスポーツに共通していたのは、いわゆる「訓練」ではなく楽しみながら行う関係性の構築だった。「トレーニング」や「しつけ」ではなく、遊びを通してハンドラーの指示を理解して実行することを覚えてもらうのがドッグスポーツ全般の方法だと感じる。そうした時間を共に過ごすことで、ハンドラー(家庭犬の場合は飼い主)との関係性も、「服従」ではなく「パートナー」というポジティブな形で構築が可能ではないだろうか。
* ヒール:「ハイヒール」などに使われる英語のheel = かかとを意味する