WO2023176614A1

WO2023176614A1 - 農用組成物

Info

Publication number: WO2023176614A1
Application number: PCT/JP2023/008744
Authority: WO
Inventors: 洋章堀; 敦史大久保; 龍星松田; 拓人角; 忠英藤田; 孝典村瀬
Original assignee: 日本化薬株式会社
Priority date: 2022-03-15
Filing date: 2023-03-08
Publication date: 2023-09-21
Also published as: TW202400016A; CN118890964A

Abstract

本発明は、人に対する安全性が担保された有効成分により、低濃度で、対象有害生物種によって防除効果に差が生じない農園芸有害生物の防除を達成できる有害生物防除剤を提供することを目的とし、（ａ）脂肪酸エステル及び（ｂ）アミド化合物を含有する農用組成物であって、（ａ）脂肪酸エステルは、（ポリ）グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、（ポリオキエチレン）ソルビタン脂肪酸エステル、及びプロピレングリコール脂肪酸エステルからなる群から選択される１種以上であり、（ｂ）アミド化合物は、式（１）及び／又は式（２）で示されるアミド化合物［式（１）又は式（２）において、Ｒは、炭素数６～２０の直鎖状もしくは分岐状の飽和もしくは不飽和炭化水素であり、Ｒａ及びＲｂは、それぞれ独立して、水素原子及び／又は炭素数１～４のアルキル基であり、ｘは０～４の整数である。］、を含む農用組成物。

Description

農用組成物

　本発明は、脂肪酸エステルとアミド化合物を含む農園芸における有害生物防除に適用するための農用組成物に関する。詳しくは、安全性が高い脂肪酸エステルを有効主成分とし、添加剤としてアミド化合物を含む農園芸作物における散布組成物に関するものである。

　農園芸作物を安定して供給するために、害虫や病気の防除は必須である。現在それらの病害虫を防除するために、経済性や防除効果が優れているという理由から、化学農薬が広く使われている。しかしながら、化学農薬は継続して使用され続けると、対象病害虫が薬剤抵抗性を発達させてしまう場合がある。また近年、消費者の農薬に対する意識が高まり、人体や環境に対して安全性の高い農薬が求められている。天敵等の生物農薬やフィルム等を用いた物理的防除による病害虫防除は有効性が確認されているものもあるが、現状は費用対効果が満足されていない。

　そのような状況の中で、化学農薬とは異なり、物理的な作用による有害生物防除組成物が報告されている。例えば、有効成分として、特許文献１では水溶性高分子、特許文献２では炭素数８～１０の中鎖脂肪酸トリグリセライド、特許文献３ではソルビタン脂肪酸エステルをそれぞれ用いた有害生物防除組成物が記載されている。しかしながら、これら記載の組成物は充分な効果を発揮するために必要な有効成分濃度が高いこと、対象有害生物種によって著しい防除効力差が認められること等の課題がある。種差なく充分な薬効を発揮するために高濃度での薬剤散布を行った場合、それにより引き起こされる薬害が懸念されるほか、希釈倍率が低いことから、水による希釈液の調製が頻繁で煩雑となり、作業性が悪くなる等、費用対効果が低くなることが課題として挙げられる。

　近年ではこれら課題に対して改善された組成物が報告されている。特許文献４には、ＨＬＢが５以下であり、且つ常温で液体のポリグリセリン脂肪酸エステル及びノニオン界面活性剤を含有する有害生物防除組成物が開示されており、ハダニ類、アブラムシ類に対して１０００倍という高希釈液においても高い防除効果を示すことが記載されている。また、特許文献５には、ポリグリセリン脂肪酸エステルを有効成分として含む、植物害虫及び／又は植物病害用の防除剤であって、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルが、炭素数８～１０の脂肪酸から選ばれる少なくとも１種の脂肪酸と、３～１０個のグリセリンが重合した少なくとも１種のポリグリセリンとのエステルであることを特徴とする、前記防除剤が開示されており、ダニ類、アザミウマ類、アブラムシ類、コナジラミ類、灰色カビ病、うどんこ病等幅広い有害生物に対して、水により５００倍に希釈して用いることにより一様に高い防除効果を示すことが記載されている。このように種々ポリグリセリン脂肪酸エステルを用いることで幅広い有害生物の防除を可能とすることが示されている。しかしながら、現状使用される化学農薬と比較して、費用対効果の点においてさらなる改善が強く求められている。

特開平７－１２６１０５号公報特開平１１－２９４１１号公報特開２００６－１３７７２８号公報国際公開第２０１１／１０８２２０号国際公開第２０１４／０５８０６５号

　本発明は、従来技術における課題を鑑みてなされたものであり、人に対する安全性が担保された有効成分により、低濃度で農園芸有害生物の防除を達成できる有害生物防除剤を提供することである。更に、対象有害生物種によって防除効果に差が生じない有害生物防除剤を提供することである。特に農業上の重要有害生物であるハダニ類、及び従来技術では充分に防除することが困難であるとされるアザミウマ類に対して、十分な防除効力を有する有害生物防除剤を提供することにある。

　本発明者等は前記課題を解決すべく鋭意研究の結果、食品添加物として人体及び環境への安全性が知られている脂肪酸エステルとアミド化合物とを組み合わせることによる物理化学的な特徴に着目し、農園芸における植物体、害虫又は病害の原因菌に対して高い湿展性および付着性を発揮することにより、有害生物に対して低濃度でも高い防除効果があることを見出して、本発明の完成に至った。

　即ち、本発明は下記［１］～［１４］に係る発明に関するものである。
［１］　（ａ）脂肪酸エステル及び（ｂ）アミド化合物を含有する農用組成物であって、
（ａ）脂肪酸エステルは、（ポリ）グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、（ポリオキエチレン）ソルビタン脂肪酸エステル、及びプロピレングリコール脂肪酸エステルからなる群から選択される１種以上であり、
（ｂ）アミド化合物は、式（１）及び／又は式（２）

［式（１）又は式（２）において、Ｒは、炭素数６～２０の直鎖状もしくは分岐状の飽和もしくは不飽和炭化水素であり、Ｒａ及びＲｂは、それぞれ独立して、水素原子及び／又は炭素数１～４のアルキル基であり、ｘは０～４の整数である。］で示されるアミド化合物、
を含む農用組成物。
［２］　（ｂ）アミド化合物において、式（１）のＲａ及びＲｂが共にメチル基である、［１］に記載の農用組成物。
［３］　（ｂ）アミド化合物において、式（２）のｘが２又は３である、［１］又は［２］に記載の農用組成物。
［４］　（ｂ）アミド化合物が、Ｎ，Ｎ－ジメチルカプリル酸アミド、Ｎ，Ｎ－ジメチルカプリン酸アミド、Ｎ，Ｎ－ジメチルラウリン酸アミド、Ｎ，Ｎ－ジメチルミリスチン酸アミド、Ｎ－カプリルピロリドン、及びＮ－ラウリルピロリドンからなる群から選択される１種以上である、［１］～［３］の何れか１項に記載の農用組成物。
［５］　（ａ）脂肪酸エステルが、炭素数８～２２の飽和脂肪酸及び／又は不飽和脂肪酸で構成された脂肪酸エステルである、［１］～［４］の何れか１項に記載の農用組成物。
［６］　（ａ）脂肪酸エステルが、それを構成する脂肪酸が、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、オレイン酸、リノール酸、リシノール酸、及びエルカ酸からなる群から選択される１種以上である、［１］～［５］の何れか１項に記載の農用組成物。
［７］　組成物中における成分含有質量比が、（ａ）脂肪酸エステル：（ｂ）アミド化合物＝１：０．０１～１：１である、［１］～［６］の何れか１項に記載の農用組成物。
［８］　［１］～［７］の何れか１項に記載の農用組成物を有効成分として含む、有害生物防除用組成物。
［９］　カメムシ目、ダニ目、アザミウマ目、及びチョウ目から選ばれる動物目に属する生物の防除用である、［８］に記載の有害生物防除用組成物。
［１０］　［１］～［７］の何れか１項に記載の農用組成物、もしくは［８］又は［９］に記載の有害生物防除用組成物と水とを含む、水分散液。
［１１］　（ａ）脂肪酸エステルの濃度が１００～２０００ｐｐｍである、［１０］に記載の水分散液。
［１２］　殺菌剤、殺虫剤、殺ダニ剤、除草剤及び植物成長調節剤から選ばれる化学農薬有効成分を含む、［１０］又は［１１］に記載の水分散液。
［１３］　［１０］～［１２］の何れか１項に記載の水分散液を、有害生物もしくは有害生物の発生する作物に直接散布することを特徴とする、有害生物の防除方法。

　本発明の農用組成物は、農園芸作物に対する有害生物に対して、優れた防除効果を示すと共に、その主成分である脂肪酸エステル（ａ）は、分解により毒性の低い脂肪酸と多価アルコールとなることから、環境負荷が少なく安全性が高い。そのため、これら成分の多くが食品添加物として使用実績があり、人体に対する安全性が保証されている成分である。また、アミド化合物（ｂ）は、農薬乳剤の溶剤として使用されている他、化粧品等の基剤としても使用実績があり、安全性の担保された溶剤である。よって、これら成分を組み合わせることで得られる本発明の農用組成物の安全性は極めて高い。そして、本発明の農用組成物は、公知の組成物と比較して、対象とする植物、害虫、又は植物病害の原因菌表面にて優れた湿展性及び付着性を示し、より低濃度で幅広い有害生物種に対して高い防除効果を有する。そのため、希釈液の調製等の作業性向上や薬剤コスト低減等、費用対効果が高い有害生物防除剤及び有害生物防除方法を提供することが出来る。

　本発明は、特定の（ａ）脂肪酸エステル及び（ｂ）アミド化合物を含有する農用組成物である。（ａ）脂肪酸エステル及び（ｂ）アミド化合物を併用することにより、植物、害虫、又は植物病害の原因菌表面にて優れた湿展性及び付着性を示し、従来の物理的な作用による有害生物防除組成物と比べて優れた防除効果を示す。本明細書において「有害生物防除」とは、カメムシ目、ダニ目、アザミウマ目、及びチョウ目等の動物目に属する害虫及び植物病害の原因菌に対し直接的に作用し、例えば有害生物に薬剤が被覆又は一部付着することで活動を妨げること、または害虫の気門を封鎖することなどにより、物理的にそれらの有害生物を衰弱又は致死させ、防除することを意味する。

　本発明に用いられる（ａ）脂肪酸エステルは、（ポリ）グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、（ポリオキシエチレン）ソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、及びプロピレングリコール脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも１種が適している。これらは天然の動植物油や化粧品、食品及び食品添加物等で使用される成分であり、安全性の観点でも優れた成分である。

　（ａ）脂肪酸エステルは、（ポリ）グリセリン、ショ糖、（ポリオキシエチレン）ソルビタン、又はプロピレングリコールからなる群から選択されるポリオール化合物の水酸基に、飽和もしくは不飽和脂肪酸が１つ以上エステル結合した化合物が適用される。該ポリオール化合物に結合する脂肪酸が２つ以上結合している場合は、同一脂肪酸のエステル化合物であっても、異なる２種以上の脂肪酸のエステル化合物であっても良い。
　（ａ）脂肪酸エステルを構成する脂肪酸は、炭素数４～３０の飽和もしくは不飽和脂肪酸が好ましく、より好ましくは炭素数８～２２の飽和もしくは不飽和脂肪酸である。例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、リノール酸、リシノール酸、エルカ酸、等が挙げられる。好ましくは、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、オレイン酸、リノール酸、リシノール酸、及びエルカ酸からなる群から選択される１種以上である。
　（ａ）脂肪酸エステルは、エステル化率が１０～９０％のものを用いることが好ましく、より好ましくは２０～８５％の脂肪酸エステルである。なお、該エステル化率とは、前記ポリオール化合物に含まれる水酸基数のうち、脂肪酸がエステル結合している割合（％）を示す指標である。

　（ａ）脂肪酸エステルとして、例えば以下に示すものが挙げられる。
＜（ポリ）グリセリン脂肪酸エステル＞
　「（ポリ）グリセリン脂肪酸エステル」とは、「グリセリン脂肪酸エステル又はポリグリセリン脂肪酸エステルであり、これらからなる群から選ばれる１種以上」の意味である。ポリグリセリン脂肪酸エステルは、好ましくは重合数２～２０のポリグリセリンの１以上の脂肪酸とのエステル化合物である。
　好ましくは、グリセリン又はポリグリセリンと、炭素数４～３０の飽和もしくは不飽和脂肪酸が１つ以上エステル結合した化合物が挙げられ、より好ましくは重合数２～１０のポリグリセリンと、炭素数８～２２の飽和もしくは不飽和脂肪酸が１つ以上エステル結合した化合物である。
　例えば、グリセリンモノカプリル酸エステル、グリセリンジカプリル酸エステル、グリセリントリカプリル酸エステル、グリセリンカプリン酸エステル、グリセリンジカプリン酸エステル、グリセリントリカプリン酸エステル、グリセリンモノラウリン酸エステル、グリセリンジラウリン酸エステル、グリセリントリラウリン酸エステル、グリセリンモノミリスチン酸エステル、グリセリンジミリスチン酸エステル、グリセリントリミリスチン酸エステル、グリセリンモノパルミチン酸エステル、グリセリンジパルミチン酸エステル、グリセリントリパルミチン酸エステル、グリセリンモノステアリン酸エステル、グリセリンジステアリン酸エステル、グリセリントリステアリン酸エステル、グリセリンモノオレイン酸エステル、グリセリンジオレイン酸エステル、グリセリントリオレイン酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンシュウ酸脂肪酸エステル、菜種油、コーン油、綿実油、オリーブオイル、ごま油、パーム油、植物油、動物油、水素添化油、ジグリセリンモノカプリル酸エステル、テトラグリセリンモノカプリル酸エステル、ジグリセリンモノラウリン酸エステル、テトラグリセリンモノラウリン酸エステル、テトラグリセリンジラウリン酸エステル、ヘキサグリセリンモノラウリン酸エステル、ヘキサグリセリントリラウリン酸エステル、デカグリセリンモノラウリン酸エステル、デカグリセリンジラウリン酸エステル、デカグリセリンテトララウリン酸エステル、デカグリセリンヘキサラウリン酸エステル、デカグリセリンデカラウリン酸エステル、グリセリンモノオレイン酸エステル、ジグリセリンモノオレイン酸エステル、テトラグリセリンモノオレイン酸エステル、テトラグリセリンペンタオレイン酸エステル、ヘキサグリセリンモノオレイン酸エステル、ヘキサグリセリンペンタオレイン酸エステル、デカグリセリンモノオレイン酸エステル、デカグリセリンデカオレイン酸エステル、ジグリセリンモノステアリン酸エステル、テトラグリセリンモノステアリン酸エステル、テトラグリセリンペンタステアリン酸エステル、ヘキサグリセリンモノステアリン酸エステル、ヘキサグリセリンペンタステアリン酸エステル、デカグリセリンモノステアリン酸エステル、デカグリセリンデカステアリン酸エステル、デカグリセリンオクタエルカ酸エステル、デカグリセリンデカベヘン酸エステル、ヘキサグリセリン縮合リシノール酸エステル等のポリグリセリン縮合リシノール酸エステル等が挙げられる。
　（ポリ）グリセリン脂肪酸エステルは、ポエム（商品名、理研ビタミン株式会社製）又は、ＳＹグリスター（商品名、阪本薬品工業株式会社製）等で市販されている。

＜ショ糖脂肪酸エステル＞
　ショ糖脂肪酸エステルは、好ましくは、ショ糖と炭素数４～３０の飽和もしくは不飽和脂肪酸が１つ以上エステル結合した化合物が挙げられ、より好ましくは、炭素数８～２２の飽和もしくは不飽和脂肪酸が１つ以上エステル結合した化合物である。
　例えば、ショ糖ラウリン酸エステル、ショ糖ミリスチン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖オレイン酸エステル、ショ糖エルカ酸エステル等が挙げられる。
　ショ糖脂肪酸エステルは、リョートーシュガーエステル（商品名、三菱ケミカルフーズ株式会社製）等で市販されている。

＜（ポリオキシエチレン）ソルビタン脂肪酸エステル＞
　「（ポリオキシエチレン）ソルビタン脂肪酸エステル」とは、「ソルビタン脂肪酸エステル又はポリオキシエチレン－ソルビタン脂肪酸エステルであり、これらからなる群から選ばれる１種以上」の意味である。（ポリオキシエチレン）ソルビタン脂肪酸エステルは、ソルビタン誘導体と任意のポリオキシエチレン基が結合し、１以上の脂肪酸が結合した化合物である。
　（ポリオキシエチレン）ソルビタン脂肪酸エステルは、好ましくは、（ポリオキシエチレン）ソルビタンと炭素数４～３０の飽和もしくは不飽和脂肪酸が１つ以上エステル結合した化合物が挙げられ、より好ましくは、炭素数８～２２の飽和もしくは不飽和脂肪酸が１つ以上エステル結合した化合物である。
　例えば、ソルビタンラウリン酸エステル、ソルビタンミリスチン酸エステル、ソルビタンパルミチン酸エステル、ソルビタンステアリン酸エステル、ソルビタンオレイン酸エステル、（ポリオキシエチレン）ソルビタンラウリン酸エステル、（ポリオキシエチレン）ソルビタンミリスチン酸エステル、（ポリオキシエチレン）ソルビタンパルミチン酸エステル、（ポリオキシエチレン）ソルビタンステアリン酸エステル、（ポリオキシエチレン）ソルビタンオレイン酸エステル等が挙げられる。
　（ポリオキシエチレン）ソルビタン脂肪酸エステルはソルボン（商品名、東邦化学株式会社製）又はニューカルゲン（商品名、竹本油脂株式会社製）等で市販されている。

＜プロピレングリコール脂肪酸エステル＞
　プロピレングリコール脂肪酸エステルは、好ましくは、プロピレングリコールと炭素数４～３０の飽和もしくは不飽和脂肪酸が１つ以上エステル結合した化合物が挙げられ、より好ましくは、炭素数８～２２の飽和もしくは不飽和脂肪酸が１つ以上エステル結合した化合物である。
　例えば、プロピレングリコールモノカプリル酸エステル、プロピレングリコールモノカプリン酸エステル、プロピレングリコールモノラウリン酸エステル、プロピレングリコールモノパルミチン酸エステル、プロピレングリコールモノステアリン酸エステル、プロピレングリコールモノオレイン酸エステル、プロピレングリコールモノベヘン酸エステル、プロピレングリコールジカプリル酸エステル、プロピレングリコールジカプリン酸エステル、プロピレングリコールジラウリン酸エステル、プロピレングリコールジステアリン酸エステル、プロピレングリコールジイソステアリン酸エステル、プロピレングリコールジオレイン酸エステル等が挙げられる。
　プロピレングリコール脂肪酸エステルはリケマール（商品名、理研ビタミン株式会社製）又は、ＮＩＫＫＯＬ（商品名、日光ケミカルズ株式会社製）等で市販されている。

　本発明に用いられる（ａ）脂肪酸エステルにおける脂肪酸は湿展性、付着性、及び有害生物防除効果の観点から、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、オレイン酸、リノール酸、リシノール酸、エルカ酸のいずれかが好ましい。付着性及び薬害リスクの観点から、（ａ）脂肪酸エステルは（ポリ）グリセリン脂肪酸エステルが好ましく、より好ましい具体例としては、ジグリセリンモノカプリル酸エステル、ジグリセリンモノラウリン酸エステル、テトラグリセリンモノラウリン酸エステル、ジグリセリンモノオレイン酸エステル、テトラグリセリンモノオレイン酸エステル、テトラグリセリンペンタオレイン酸エステル、ヘキサグリセリンモノオレイン酸エステル、ヘキサグリセリンペンタオレイン酸エステル、デカグリセリンデカオレイン酸エステルがより好ましく、ジグリセリンモノカプリル酸エステル、ヘキサグリセリンペンタオレイン酸エステル、又はデカグリセリンデカオレイン酸エステルが特に好ましい。
　（ａ）脂肪酸エステルは、単独で使用しても良く、２種以上の脂肪酸エステルを混合して使用することもできる。

　本発明に用いられる（ｂ）アミド化合物は、湿展性、付着性、及び有害生物防除効果の観点から、下記式（１）及び／又は式（２）で表されるアミド化合物が適用される。

　式（１）又は式（２）において、Ｒは、炭素数６～２０の直鎖状もしくは分岐状の飽和もしくは不飽和炭化水素であり、Ｒａ及びＲｂは、それぞれ独立して、水素原子及び／又は炭素数１～４のアルキル基であり、ｘは０～４の整数である。
　Ｒは、炭素数８～１８の直鎖状の飽和炭化水素であることが好ましい。
　式（１）におけるＲａ及びＲｂは、例えば、水素原子、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヒドロキシエチル等が挙げられる。Ｒａ及びＲｂは炭素数１～４のアルキル基が好ましく、共にメチル基であることがより好ましい。
　式（２）は炭素数６～２０の直鎖状もしくは分岐状の飽和もしくは不飽和炭化水素がＮ－置換した環状アミド（いわゆるラクタム）である。環状アミド（ラクタム）部位は、式（２）において、ｘが０の場合は３員環のα―ラクタム、ｘが１の場合は４員環のβ－ラクタム、ｘが２の場合は５員環のγ－ラクタム、ｘが３の場合は６員環のδ－ラクタム、ｘが４の場合は７員環のε－ラクタムの各Ｎ置換環状アミド（ラクタム）化合物である。好ましくは、ｘが２又は３であり、γ－ラクタム化合物（２－ピロリドン誘導体）又はδ－ラクタム化合物（２－ピペリドン誘導体）が特に好ましい。

　（ｂ）アミド化合物は、具体的には、例えば、Ｎ，Ｎ－ジメチルカプリル酸アミド、Ｎ，Ｎ－ジメチルカプリン酸アミド、Ｎ，Ｎ－ジメチルラウリン酸アミド、Ｎ，Ｎ－ジメチルミリスチン酸アミド、Ｎ－カプリル－２－ピロリドン、Ｎ－ラウリル－２－ピロリドン等が好ましい例として挙げられる。Ｎ，Ｎ－ジメチルラウリン酸アミド、Ｎ，Ｎ－ジメチルミリスチン酸アミド、Ｎ－ラウリル－２－ピロリドンが特に好ましい。

　本発明における農用組成物中の成分含有質量比は、特に制限されないものの、使用時の有害生物防除効果と薬害の観点から、脂肪酸エステル：アミド化合物＝１：０．０１～１：１０が適しており、好ましくは１：０．０５～１：５、より好ましくは１：０．１～１：１の質量比である。
　（ａ）脂肪酸エステルの含有量が低すぎる場合は、散布対象である植物、害虫又は病害の原因菌に対する付着量が低下し、低濃度に希釈した際の有害生物に対する防除効果が不十分となる。また、（ｂ）アミド化合物の含有量が少なすぎる場合、散布対象である植物、害虫又は病害の原因菌に対する湿展性が低下し、低濃度に希釈した際の有害生物に対する防除効果が不十分となる。また、（ｂ）アミド化合物の含有量が多すぎる場合は、高すぎる湿展性により散布液の付着量の低下や薬害リスクの増加等の問題が発生する懸念がある。

　本発明の農用組成物は、植物、害虫、又は植物病害の原因菌表面にて優れた湿展性及び付着性を示し、農園芸における害虫や病因菌等の有害生物に対し直接的に作用し、対象生物への被覆・付着により、物理的にそれらの有害生物を衰弱又は致死させることができるものである。したがって、本発明の農用組成物は、このもの自体を有効成分とする有害生物防除剤として適用できる。本発明は、前記農用組成物を有効成分として含む有害生物防除用組成物に係る発明も包含する。本発明の有害生物防除用組成物は物理的に防除効果を発揮し、いわゆる化学農薬成分を用いることなく農園芸有害生物を防除できることが利点となり得る。よって、本発明に係る有害生物防除用組成物は、殺菌剤、殺虫剤、殺ダニ剤、除草剤及び植物成長調節剤から選ばれる化学農薬有効成分を含まない組成物が、好ましい態様として挙げられる。

　このように、本発明における農用組成物は単独で有害生物防除組成物として用いることが適しているが、本発明における優れた物理的特性が失われない範囲内で、防除効力向上や更なる効力の付加を目的として、任意の農薬を混用しても良い。もしくは任意の製剤用の添加成分を含むこともできる。
　例えば、任意の農薬としては殺虫剤、殺菌剤、殺虫殺菌剤、除草剤、植物成長調整剤等の種々の農薬有効成分が挙げられる。
　任意の製剤用添加成分としては、当該農用組成物を水に希釈して使用する際の乳化性向上を目的とした界面活性剤、組成物の外観を調整するための動植物油、鉱物油、パラフィン、水、ポリエチレングリコール、アルコール等の各種溶剤等が挙げられる。また、シリカゲル、クレー、シルト、ベントナイト、乳糖、シクロデキストリン等の鉱物、又は有機物の固体担体を挙げることができる。その他の任意の添加成分として、消泡成分、抑泡成分、着色成分、香料成分等が挙げられ、これらは農薬に一般的に使用される物であれば特に限定されない。
　水を除く上記の溶剤または固体担体の合計含有量は、本発明の有害生物防除用組成物の総量に対して、通常０～９０重量％であり、好ましくは０～５０重量％、さらに好ましくは０～３０重量％である。

　本発明の有害生物防除用組成物は、果樹、茶樹、野菜及び花卉等の農作物に発生する有害生物の防除に対して用いられる。この有害生物防除用組成物が防除対象とする有害生物としては、例えば、ダニ目、半翅目、鱗翅目及びアザミウマ目等の動物目に属する、農作物に害を与えるダニ及び昆虫等が挙げられ、特にハダニ類及びアザミウマ類に対して優れた防除効果を有する。
　ダニ目に属する生物としてはハダニ類、サビダニ類及びホコリダニ類が挙げられる。ハダニ類としてはナミハダニ、カンザワハダニ、ミカンハダニ及びリンゴハダニなどが挙げられ、サビダニ類としては、トマトサビダニ及びミカンサビダニなどが挙げられ、ホコリダニ類としてはチャノホコリダニなどが挙げられる。
　半翅目に属する生物としてはアブラムシ類、コナジラミ類及びカイガラムシ類などが挙げられる。アブラムシ類としてはワタアブラムシ及びモモアカアブラムシなどが挙げられ、コナジラミ類としてはオンシツコナジラミ及びタバココナジラミなどが挙げられ、カイガラムシ類としてはクワシロカイガラムシなどが挙げられる。
　鱗翅目に属する生物としてはコナガ及びハスモンヨトウなどが挙げられる。
　アザミウマ目に属する生物としてはミカンキイロアザミウマ、ミナミキイロアザミウマ、チャノキイロアザミウマ、ヒラズハナアザミウマ及びハナアザミウマなどが挙げられる。
　また、野菜や花卉や果樹に発生するうどんこ病などの菌類による病害の防除にも、本発明の有害生物防除用組成物は効果的である。

　本発明の有害生物防除用組成物は、通常、散布に際して、水で希釈することにより調製される水分散液を散布液とて用いる有害生物防除剤として用いられる。該水分散液を、有害生物が寄生している植物の葉面に、十分な量において、散布することにより、農園芸用作物における有害生物を防除することができる。なお、該水分散液は、（ａ）脂肪酸エステル及び／又は（ｂ）アミド化合物が均一に溶解している水溶液であっても良く、水中に（ａ）脂肪酸エステル及び／又は（ｂ）アミド化合物が分散して乳化している状態であっても良い。
　本発明の水分散液中における（ａ）脂肪酸エステルの濃度は、５０～５０００ｐｐｍであることが好ましく、より好ましくは１００～２０００ｐｐｍである。該水分散液は、本発明の農用組成物を、（ａ）脂肪酸エステルの濃度が上記の範囲になるように調整して、水で希釈することにより、調製することができる。

　なお、本発明の有害生物防除用組成物は、農園芸有害生物に対し直接的に作用して防除効果をもたらすものであるが、防除効力向上や更なる効力の付加を目的として、本発明の有害生物防除用組成物の物理的特性が失われない範囲内で、任意の農薬有効成分を混用しても良い。その場合、殺菌剤、殺虫剤、殺ダニ剤、除草剤及び植物成長調節剤から選ばれる任意の化学農薬有効成分を含んだ当該散布液として適用され得る。その場合、本発明の水分散液に、任意の化学農薬有効成分又はその製剤を添加して、散布液を調製しても良く、任意の化学農薬有効成分を含む農薬散布液に、本発明の有害生物防除用組成物を添加して、本発明の水分散液としても良い。

　具体的に、本発明の水分散液の調製方法及び有害生物の防除方法を下記に説明する。本発明の有害生物防除用組成物１質量部に対し、脂肪酸エステル（ａ）が５０～５０００ｐｐｍ、もしくは１００～２０００ｐｐｍとなるよう、適宜、水を１００～１００００質量部を加え、良く攪拌し、均一な混合液とすることにより水分散液を調整することができる。
　該水分散液を、常法に従い、有害生物もしくは有害生物の発生している作物に対して、ハンドスプレー、肩掛け式噴霧器、動力噴霧器、ブームスプレーヤー、スピードスプレーヤー等を用いて、十分な量を散布することにより、該有害生物を防除することができる。
　本発明の有害生物防除用組成物は、有効成分が有害生物に直接作用することにより防除するものである。また、本発明の有害生物防除用組成物は、物理的な防除効果を有する製剤であるにもかかわらず、上記のように、有効成分である該脂肪酸エステルを低濃度で含有する水分散液としても、高い有害生物防除効果を達成することができる。

　本発明の有害生物防除用組成物は、水に希釈して散布した際、対象有害生物の皮殻表面、特に気門周辺に（ａ）脂肪酸エステルを含む組成物が付着し、対象有害生物の気門を封鎖する等の作用により、物理的に有害生物の防除を達成するものである。従って、本発明の有害生物防除用組成物は、複数種の有害生物（例えばハダニ類とアザミウマ類等）に対して、また、幼虫、若虫及び成虫等の各段階の有害生物に対して、高い防除効果を有し、更に、一度の散布により複数の有害生物を同時に防除することができる。

　以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。

実施例１
　デカグリセリンデカオレイン酸エステル（阪本薬品工業株式会社；商品名　ＳＹグリスターＤＡＯ－７Ｓ）７０質量部、及び、Ｎ，Ｎ－ジメチル脂肪酸（Ｃ１２－１４）アミド（Ｓｔｅｐａｎ　Ｃｏｍｐａｎｙ；商品名　ＨＡＬＬＣＯＭＩＤ　Ｍ－１２－１４）３０質量部を混合して本発明の農用組成物を得た。

実施例２
　ジグリセリンモノカプリル酸エステル（阪本薬品工業株式会社；商品名　ＳＹグリスターＭＣＡ－１５０）７０質量部、及び、Ｎ，Ｎ－ジメチル脂肪酸（Ｃ１２－１４）アミド（Ｓｔｅｐａｎ　Ｃｏｍｐａｎｙ；商品名　ＨＡＬＬＣＯＭＩＤ　Ｍ－１２－１４）３０質量部を混合して本発明の農用組成物を得た。

実施例３
　グリセリンモノカプリル酸エステル（株式会社花王；商品名　カオーホモテックスＰＴ）７０質量部、及び、Ｎ，Ｎ－ジメチル脂肪酸（Ｃ１２－１４）アミド（Ｓｔｅｐａｎ　Ｃｏｍｐａｎｙ；商品名　ＨＡＬＬＣＯＭＩＤ　Ｍ－１２－１４）３０質量部を混合して本発明の農用組成物を得た。

実施例４
　ソルビタンモノラウリン酸エステル（竹本油脂株式会社；商品名　ニューカルゲンＤ－９３１）７０質量部、及び、Ｎ，Ｎ－ジメチル脂肪酸（Ｃ１２－１４）アミド（Ｓｔｅｐａｎ　Ｃｏｍｐａｎｙ；商品名　ＨＡＬＬＣＯＭＩＤ　Ｍ－１２－１４）３０質量部を混合して本発明の農用組成物を得た。

実施例５
　ポリオキシエチレン（２０）ソルビタンモノラウリン酸エステル（竹本油脂株式会社；商品名　ニューカルゲンＤ－９４１）７０質量部、及び、Ｎ，Ｎ－ジメチル脂肪酸（Ｃ１２－１４）アミド（Ｓｔｅｐａｎ　Ｃｏｍｐａｎｙ；商品名　ＨＡＬＬＣＯＭＩＤ　Ｍ－１２－１４）３０質量部を混合して本発明の農用組成物を得た。

実施例６
　プロピレングリコールモノラウリン酸エステル（理研ビタミン株式会社；商品名　ＴＹＰＥ－ＢＰ）７０質量部、及び、Ｎ，Ｎ－ジメチル脂肪酸（Ｃ１２－１４）アミド（Ｓｔｅｐａｎ　Ｃｏｍｐａｎｙ；商品名　ＨＡＬＬＣＯＭＩＤ　Ｍ－１２－１４）３０質量部を混合して本発明の農用組成物を得た。

実施例７
　ショ糖オレイン酸エステル（三菱ケミカルフーズ株式会社；商品名　リョートーシュガーエステルＯ－１７０）７０質量部、及び、Ｎ，Ｎ－ジメチル脂肪酸（Ｃ１２－１４）アミド（Ｓｔｅｐａｎ　Ｃｏｍｐａｎｙ；商品名　ＨＡＬＬＣＯＭＩＤ　Ｍ－１２－１４）３０質量部を混合して本発明の農用組成物を得た。

実施例８
　ジグリセリンモノカプリル酸エステル（阪本薬品工業株式会社；商品名　ＳＹグリスターＭＣＡ－１５０）７０質量部、及び、Ｎ，Ｎ－ジメチル脂肪酸（Ｃ８－１０）アミド（Ｓｔｅｐａｎ　Ｃｏｍｐａｎｙ；商品名　ＨＡＬＬＣＯＭＩＤ　Ｍ－８－１０）３０質量部を混合して本発明の農用組成物を得た。

実施例９
　ジグリセリンモノカプリル酸エステル（阪本薬品工業株式会社；商品名　ＳＹグリスターＭＣＡ－１５０）７０質量部、及び、Ｎ－ラウリル－２－ピロリドン（Ｓｔｅｐａｎ　Ｃｏｍｐａｎｙ；商品名　Ａｇｓｏｌｅｘ１２）３０質量部を混合して本発明の農用組成物を得た。

実施例１０
　ジグリセリンモノカプリル酸エステル（阪本薬品工業株式会社；商品名　ＳＹグリスターＭＣＡ－１５０）５０質量部、及び、Ｎ，Ｎ－ジメチル脂肪酸（Ｃ１２－１４）アミド（Ｓｔｅｐａｎ　Ｃｏｍｐａｎｙ；商品名　ＨＡＬＬＣＯＭＩＤ　Ｍ－１２－１４）５０質量部を混合して本発明の農用組成物を得た。

実施例１１
　ジグリセリンモノカプリル酸エステル（阪本薬品工業株式会社；商品名　ＳＹグリスターＭＣＡ－１５０）９０質量部、及び、Ｎ，Ｎ－ジメチル脂肪酸（Ｃ１２－１４）アミド（Ｓｔｅｐａｎ　Ｃｏｍｐａｎｙ；商品名　ＨＡＬＬＣＯＭＩＤ　Ｍ－１２－１４）１０質量部を混合して本発明の農用組成物を得た。

実施例１２
　デカグリセリンデカオレイン酸エステル（阪本薬品工業株式会社；商品名　ＳＹグリスターＤＡＯ－７Ｓ）７０質量部、及び、Ｎ－ラウリル－２－ピロリドン（Ｓｔｅｐａｎ　Ｃｏｍｐａｎｙ；商品名　Ａｇｓｏｌｅｘ１２）３０質量部を混合して本発明の農用組成物を得た。

実施例１３
　ポリオキシエチレン（２０）ソルビタンモノラウリン酸エステル（竹本油脂株式会社；商品名　ニューカルゲンＤ－９４１）７０質量部、及び、Ｎ－ラウリル－２－ピロリドン（Ｓｔｅｐａｎ　Ｃｏｍｐａｎｙ；商品名　Ａｇｓｏｌｅｘ１２）３０質量部を混合して本発明の農用組成物を得た。

実施例１４
　ジグリセリンモノカプリル酸エステル（阪本薬品工業株式会社；商品名　ＳＹグリスターＭＣＡ－１５０）５０質量部、及び、Ｎ－ラウリル－２－ピロリドン（Ｓｔｅｐａｎ　Ｃｏｍｐａｎｙ；商品名　Ａｇｓｏｌｅｘ１２）５０質量部を混合して本発明の農用組成物を得た。

実施例１５
　ジグリセリンモノカプリル酸エステル（阪本薬品工業株式会社；商品名　ＳＹグリスターＭＣＡ－１５０）９０質量部、及び、Ｎ－ラウリル－２－ピロリドン（Ｓｔｅｐａｎ　Ｃｏｍｐａｎｙ；商品名　Ａｇｓｏｌｅｘ１２）１０質量部を混合して本発明の農用組成物を得た。

比較例１
　ジグリセリンモノカプリル酸エステル（阪本薬品工業株式会社；商品名　ＳＹグリスターＭＣＡ－１５０）を比較例の農用組成物として使用した。

比較例２
　ソルビタンモノラウリン酸エステル（竹本油脂株式会社；商品名　ニューカルゲンＤ－９３１）を比較例の農用組成物として使用した。

比較例３
　プロピレングリコールモノラウリン酸エステル（理研ビタミン株式会社；商品名　ＴＹＰＥ－ＢＰ）を比較例の農用組成物として使用した。

比較例４
　Ｎ，Ｎ－ジメチル脂肪酸（Ｃ８－１０）アミド（Ｓｔｅｐａｎ　Ｃｏｍｐａｎｙ；商品名　ＨＡＬＬＣＯＭＩＤ　Ｍ－８－１０）を比較例の農用組成物として使用した。

比較例５
　水７０質量部、及び、Ｎ，Ｎ－ジメチル脂肪酸（Ｃ８－１０）アミド（Ｓｔｅｐａｎ　Ｃｏｍｐａｎｙ；商品名　ＨＡＬＬＣＯＭＩＤ　Ｍ－８－１０）３０質量部を混合して比較例の農用組成物を得た。

比較例６
　Ｎ，Ｎ－ジメチル脂肪酸（Ｃ１２－１４）アミド（Ｓｔｅｐａｎ　Ｃｏｍｐａｎｙ；商品名　ＨＡＬＬＣＯＭＩＤ　Ｍ－１２－１４）を比較例の農用組成物として使用した。

比較例７
　水７０質量部、及び、Ｎ，Ｎ－ジメチル脂肪酸（Ｃ１２－１４）アミド（Ｓｔｅｐａｎ　Ｃｏｍｐａｎｙ；商品名　ＨＡＬＬＣＯＭＩＤ　Ｍ－１２－１４）３０質量部を混合して比較例の農用組成物を得た。

比較例８
　Ｎ－ラウリル－２－ピロリドン（Ｓｔｅｐａｎ　Ｃｏｍｐａｎｙ；商品名　Ａｇｓｏｌｅｘ１２）を比較例の農用組成物として使用した。

比較例９
　水７０質量部、及び、Ｎ－ラウリル－２－ピロリドン（Ｓｔｅｐａｎ　Ｃｏｍｐａｎｙ；商品名　Ａｇｓｏｌｅｘ１２）３０質量部を混合して比較例の農用組成物を得た。

比較例１０
　ジグリセリンモノカプリル酸エステル（阪本薬品工業株式会社；商品名　ＳＹグリスターＭＣＡ－１５０）７０質量部、及び、ラウリン酸メチル（花王株式会社；商品名　エキセパールＭＬ－８５）３０質量部を混合して比較例の農用組成物を得た。

比較例１１
　ジグリセリンモノカプリル酸エステル（阪本薬品工業株式会社；商品名　ＳＹグリスターＭＣＡ－１５０）７０質量部、及び、オレイン酸３０質量部を混合して比較例の農用組成物を得た。

比較例１２
　ジグリセリンモノカプリル酸エステル（阪本薬品工業株式会社；商品名　ＳＹグリスターＭＣＡ－１５０）７０質量部、及び、ラウリルアルコール３０質量部を混合して比較例の農用組成物を得た。

比較例１３
　ジグリセリンモノカプリル酸エステル（阪本薬品工業株式会社；商品名　ＳＹグリスターＭＣＡ－１５０）７０質量部、及び、ポリオキシエチレンラウリルエーテル（株式会社花王；商品名　エマルゲン１０８）３０質量部を混合して比較例の農用組成物を得た。

比較例１４
　ジグリセリンモノカプリル酸エステル（阪本薬品工業株式会社；商品名　ＳＹグリスターＭＣＡ－１５０）７０質量部、及び、ポリオキシエチレンラウリン酸エステル（日油株式会社；商品名　ノニオンＬ－４）３０質量部を混合して比較例の農用組成物を得た。

生物試験例１：ナミハダニ（Ｔｅｔｒａｎｙｃｈｕｓ　ｕｒｔｉｃａｅ）防除試験
　インゲン葉を一辺が２．５ｃｍになる正方形に切り、水で湿らせた脱脂綿の上に置いた。ここにナミハダニ成虫１０頭を放虫した。このインゲン葉に水により１０００倍に希釈した各農用組成物３０ｍＬを、ハンドスプレーを用いて散布した。風乾後、インゲン葉をプラスチックカップに移し、２５℃の定温室にて保管した。処理２日後に成虫の生死を観察し、死虫率を算出した。
　結果を表１にまとめた。

生物試験例２：ミナミキイロアザミウマ（Ｔｈｒｉｐｓ　ｐａｌｍｉ）防除試験
　インゲン葉を一辺が２．５ｃｍになる正方形に切り、水で湿らせた脱脂綿の上に置いた。ここにミナミキイロアザミウマ１齢幼虫１０頭を放虫した。このインゲン葉に水により５００倍に希釈した農用組成物３０ｍＬを、ハンドスプレーを用いて散布した。風乾後、２５℃の定温室にて飼育した。処理１日後に生死を観察し、死虫率を算出した。また、試験後のインゲン葉の状態を観察し、薬害についても評価した。
＜薬害評価基準＞
－：葉面上変化なし　　±：葉面上に軽微な損傷が確認される
＋：葉面上一部に損傷が確認される　　＋＋：葉面上全面に損傷が確認される
　結果を表１にまとめた。

　試験例１、２の結果で示されたように、本発明の農用組成物はナミハダニ及びミナミキイロアザミウマといった異なる有害生物に対しても高い殺虫効果を有することが認められた。また、植物に対する薬害症状についても、無症状～軽微な損傷に留まっていることが確認された。一方で、比較例１～３の組成物のように（ａ）脂肪酸エステルのみでは一部でナミハダニに対する高い殺虫効果は示すものがあるものの、ミナミキイロアザミウマ防除をも両立する高い殺虫効果は認められなかった。また、比較例４～９では（ｂ）アミド化合物を単独で供試したが、高い殺虫効果を発揮する条件では同時に強い薬害症状を呈し、薬害症状が緩和される条件では充分な殺虫効果が得られない事が示された。比較例１０～１４ではアミド化合物を種々脂肪族化合物に変えたが、いずれも充分な殺虫効果は示されなかった。

　本発明は、水に希釈して調製される散布液を作物に散布することにより、有害生物を致死させる農用組成物を提供する。したがって本発明の農用組成物は、農園芸植物における有害生物の防除を目的として利用される。また、本発明に係る農用組成物は、人体に対する安全性が担保された脂肪酸エステルを有効成分とし、低濃度での施用において十分な有害生物防除効果を示す。更に本発明の農用組成物は、多様な有害生物に対して高い防除効果を有することから、本発明は一度の施用において複数種類の対象生物の同時防除が可能な農園芸の有害生物防除用農薬として利用され得る、有害生物防除用組成物ならびにその用途を提供する。

Claims

　（ａ）脂肪酸エステル及び（ｂ）アミド化合物を含有する農用組成物であって、
（ａ）脂肪酸エステルは、（ポリ）グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、（ポリオキエチレン）ソルビタン脂肪酸エステル、及びプロピレングリコール脂肪酸エステルからなる群から選択される１種以上であり、
（ｂ）アミド化合物は、式（１）及び／又は式（２）

［式（１）又は式（２）において、Ｒは、炭素数６～２０の直鎖状もしくは分岐状の飽和もしくは不飽和炭化水素であり、Ｒａ及びＲｂは、それぞれ独立して、水素原子及び／又は炭素数１～４のアルキル基であり、ｘは０～４の整数である。］で示されるアミド化合物、
を含む農用組成物。
　（ｂ）アミド化合物において、式（１）のＲａ及びＲｂが共にメチル基である、請求項１に記載の農用組成物。
　（ｂ）アミド化合物において、式（２）のｘが２または３である、請求項１又は２に記載の農用組成物。
　（ｂ）アミド化合物が、Ｎ，Ｎ－ジメチルカプリル酸アミド、Ｎ，Ｎ－ジメチルカプリン酸アミド、Ｎ，Ｎ－ジメチルラウリン酸アミド、Ｎ，Ｎ－ジメチルミリスチン酸アミド、Ｎ－カプリルピロリドン、及びＮ－ラウリルピロリドンからなる群から選択される１種以上である、請求項１～３の何れか１項に記載の農用組成物。
　（ａ）脂肪酸エステルが、炭素数８～２２の飽和脂肪酸及び／又は不飽和脂肪酸で構成された脂肪酸エステルである、請求項１～４の何れか１項に記載の農用組成物。
　（ａ）脂肪酸エステルが、それを構成する脂肪酸が、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、オレイン酸、リノール酸、リシノール酸、及びエルカ酸からなる群から選択される１種以上である、請求項１～５の何れか１項に記載の農用組成物。
　組成物中における成分含有質量比が、（ａ）脂肪酸エステル：（ｂ）アミド化合物＝１：０．０１～１：１である、請求項１～６の何れか１項に記載の農用組成物。
　請求項１～７の何れか１項に記載の農用組成物を有効成分として含む、有害生物防除用組成物。
　カメムシ目、ダニ目、アザミウマ目、及びチョウ目から選ばれる動物目に属する生物の防除用である、請求項８に記載の有害生物防除用組成物。
　請求項１～７の何れか１項に記載の農用組成物、もしくは請求項８又は９に記載の有害生物防除用組成物と水を含む、水分散液。
　（ａ）脂肪酸エステルの濃度が１００～２０００ｐｐｍである、請求項１０に記載の水分散液。
　殺菌剤、殺虫剤、殺ダニ剤、除草剤及び植物成長調節剤から選ばれる化学農薬有効成分を含む、請求項１０又は１１に記載の水分散液。
　請求項１０～１２の何れか1項に記載の水分散液を、有害生物もしくは有害生物の発生する作物に直接散布することを特徴とする、有害生物の防除方法。