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JPWO2011105573A1 - 抗icam3抗体およびその用途 - Google Patents

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JPWO2011105573A1 JP2012501892A JP2012501892A JPWO2011105573A1 JP WO2011105573 A1 JPWO2011105573 A1 JP WO2011105573A1 JP 2012501892 A JP2012501892 A JP 2012501892A JP 2012501892 A JP2012501892 A JP 2012501892A JP WO2011105573 A1 JPWO2011105573 A1 JP WO2011105573A1
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Abstract

ICAM3を人工的に高発現させたBaF3細胞をマウスに免疫して得た抗ICAM3抗体を基に、血液癌細胞株に対し、増殖抑制活性とADCC活性の双方で細胞傷害作用を発揮し、in vivoにおいて腫瘍縮小活性を発揮するキメラ抗体を調製することに成功した。

Description

本発明は、抗ICAM3抗体およびその用途に関し、より詳しくは、細胞傷害活性を有する抗ICAM3抗体およびその医薬などの用途に関する。
ICAM(interacellular adhesion molecule)は、細胞外にC型免疫グロブリン様ドメインを数個有する免疫グロブリンスーパーファミリーに属する糖蛋白であり、ICAM1〜5までが同定されている。ICAM3(CD50)は5つのC型免疫グロブリン様ドメインを持つICAMファミリーメンバーの1つである(非特許文献1〜3)。ICAM3は他のICAMファミリー分子であるICAM1、ICAM2と構造的に非常によく似ているが、他のICAMファミリー分子が血管内皮をはじめ比較的ユビキタスな発現分布を示すのに対し、ICAM3はリンパ球、白血球、胸腺細胞などの血球系細胞に限局したユニークな発現パターンを示す(非特許文献1)。ICAM3は、ICAM1やICAM2と同様、LFA-1(lymphocyte function antigen 1; CD11a/CD18)に結合するが、それ以外にも、CD11d/CD18に結合し、免疫応答における補助分子として機能していると考えられている(非特許文献1〜4)。
ICAM3は細胞外からのさまざまな情報を細胞内に伝達するシグナル伝達分子として機能している。特に、いくつかの血球細胞においては、抗体によるクロスリンクが、増殖抑制やアポトーシスを誘導することが報告されており、このことから生体内において血球細胞のアポトーシス制御もICAM3の機能の一つであると考えられている。
例えば、PMA刺激などによるT細胞の増殖促進効果を、抗ICAM3抗体は抑制することが報告されている(非特許文献5)。また、ヒト胸腺細胞のICAM3を、抗ICAM3抗体でクロスリンクすると、細胞内カルシウム濃度の上昇を伴って、アポトーシスが誘導されることが報告されている(非特許文献6)。さらに、正常ヒト骨髄より調製した血球細胞、および、白血病細胞株(U937, Jurkat)に対してもアポトーシスを誘導することが報告されている(非特許文献7)。また、他のグループにより、顆粒球、特に好塩基球や好中球に対しても、抗ICAM3抗体がアポトーシスを誘導したとの報告がある(非特許文献8)。
しかしながら、これまでに報告されている抗体のアポトーシス誘導活性、細胞増殖抑制活性は決して強くはなく、生体内で抗腫瘍効果を発揮させる為には不十分であると考えられる。
Vazeux R et al. Nature. 1992, 360, 485-488 Fawcett J et al. Nature. 1992, 360, 481-484 de Fougerolles & Spronger. J.Exp.Med. 1992, 175, 185-190 Van der Vieren M et al. Immunity. 1995, 3, 683-690 Green J. & Thompson C. Cell Immunology. 1996. 171. 126-131 Martinez-Caceres E et al. 1996. 48. 626-635 Stucki A et al. Br J Haematol. 2000. 108. 157-166 Kessel J et al. J Allergy Clin Immunol. 2006. 118. 831-836
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、生体内で高い抗腫瘍効果を発揮させることを可能とする抗体を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決すべく、強力な増殖抑制作用を有する抗ICAM3抗体を作製することを試みた。まず、ICAM3を人工的に高発現させたBaF3細胞を樹立し、これをマウスに免疫することで抗ICAM3抗体の作製を行った。次に、ハイブリドーマ細胞のスクリーニングを、細胞増殖抑制活性のみを指標に行い、その中から増殖抑制活性の強いモノクローナル抗体IB23を選択した。選択したマウスモノクローナル抗体IB23は、各種癌細胞株の表面に結合するとともに、ICAM3に相同性の高いファミリー分子には結合せず、ICAM3特異的な結合を示した。さらに、本発明者らは、マウスモノクローナル抗体IB23のH鎖可変領域およびL鎖可変領域の配列を決定し、ヒトキメラ抗体へと改変し、この抗体のin vitro細胞傷害活性を解析した。その結果、IB23ヒトキメラ抗体は抗体単独で各種血液癌細胞株に対して強い増殖抑制活性を示すことが判明した。また、ADCC活性についても解析した結果、ヒトキメラ抗体は、強いADCC活性を有していることが確認された。すなわち、IB23抗体は、血液癌細胞株に対し、増殖抑制活性とADCC活性の双方で細胞傷害作用を発揮する抗体であることが判明した。
次に、IB23抗体がin vivoにおいて腫瘍縮小活性を示すか否かの解析を行った。その結果、IB23ヒトキメラ抗体は、ヒト白血病マウスモデルにおいて、有意な腫瘍縮小効果を示すことが確認された。脱糖鎖型にすることでADCC活性を除去した脱糖鎖型IB23抗体においても腫瘍縮小効果が認められたが、増殖抑制活性とADCC活性とを併せ持つIB23ヒトキメラ抗体は、脱糖鎖型抗体の薬効を優位に上回った。このことから、抗体の増殖抑制活性に加えてADCC活性を付加することで、in vivoでの薬効を増強できることが証明された。
すなわち、本発明は、細胞傷害活性を有する抗ICAM3抗体およびその医薬などの用途に関し、より詳しくは、以下の発明を提供するものである。
(1)細胞傷害活性を有する抗ICAM3抗体。
(2)細胞傷害活性がADCC活性である、(1)に記載の抗ICAM3抗体。
(3)さらに、細胞増殖抑制活性を有する、(1)または(2)に記載の抗ICAM3抗体。
(4)in vivoで抗腫瘍活性を有する、(1)から(3)のいずれかに記載の抗ICAM3抗体。
(5)ICAM1および/またはICAM5に実質的に結合しない、(1)から(4)のいずれかに記載の抗ICAM3抗体。
(6)以下の(a)から(c)いずれかに記載の抗体。
(a)配列番号:15に記載のアミノ酸配列を有する重鎖CDR1、配列番号:16に記載のアミノ酸配列を有する重鎖CDR2、配列番号:17に記載のアミノ酸配列を有する重鎖CDR3、配列番号:22に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖CDR1、配列番号:23に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖CDR2、配列番号:24に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖CDR3を含む抗体;
(b)(a)に記載の抗体において1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入された抗体であって、(a)に記載の抗体と同等の活性を有する抗体;
(c)(a)または(b)のいずれかに記載の抗体が認識するエピトープと同じエピトープを認識する抗体。
(7)ヒト由来の定常領域を有する、(1)から(6)いずれかに記載の抗ICAM3抗体。
(8)(1)から(7)のいずれかに記載の抗体をコードするDNA。
(9)(1)から(7)のいずれかに記載の抗体を有効成分として含む医薬組成物。
(10)抗癌剤である、(9)に記載の医薬組成物。
(11)癌が白血病、骨髄腫、または悪性リンパ腫である、(10)に記載の医薬組成物。
(12)ICAM3タンパク質またはICAM3タンパク質をコードする遺伝子を検出することを特徴とする癌の診断方法。
本発明の抗体は、ICAM3を表面に発現している細胞に結合し、強力な細胞増殖作用および強力な抗体依存性細胞介在性細胞傷害作用を示した。特に、本発明の抗体を腫瘍細胞に作用させた場合には、in vitroおよびin vivoにおいて、優れた抗腫瘍効果を示した。従って、本発明の抗体により、ICAM3が関与する疾患(特に癌)を効果的に治療することが可能となった。
各マウス抗ICAM3抗体の、KMS-12-BM細胞に対する細胞増殖抑制活性を検出した結果を示すグラフである。 IB23抗体の、各種血液癌株に対する結合活性を検出した結果を示すグラフである。 IB23抗体の、ICAM1発現BaF3トランスフェクタント(ICAM1/BaF3)およびICAM5発現BaF3トランスフェクタント(ICAM5/BaF3)に対する結合活性を検出した結果を示すグラフである。 IB23ヒトキメラ抗体の、各種血液癌株に対する増殖抑制活性を検出した結果を示すグラフである。 IB23ヒトキメラ抗体(IB23スタンダード抗体)と脱糖鎖型IB23ヒトキメラ抗体の、SKM-1細胞に対する細胞増殖抑制活性を検出した結果を示すグラフである。 IB23ヒトキメラ抗体(IB23スタンダード抗体)の、ICAM3発現BaF3トランスフェクタント(ICAM3/BaF3)および各種血液癌株に対するADCC活性を検出した結果を示すグラフである。 IB23ヒトキメラ抗体(IB23スタンダード抗体)と脱糖鎖型IB23ヒトキメラ抗体の、ICAM3発現BaF3トランスフェクタント(ICAM3/BaF3)に対するADCC活性を検出した結果を示すグラフである。 IB23ヒトキメラ抗体(IB23スタンダード抗体)のin vivo抗腫瘍活性を検出した結果を示すグラフである。 脱糖鎖型IB23ヒトキメラ抗体のin vivo抗腫瘍活性を検出した結果を示すグラフである。
[ICAM3]
本発明の抗体の標的とする「ICAM3(interacellular adhesion molecule 3)」は、5つのC型免疫グロブリン様ドメインを持つICAMファミリーメンバーの1つであり(非特許文献1〜3)、例えば、ヒトICAM3のアミノ酸配列は、GenBank Accession No.NM_002162に記載されている。ヒトICAM3のアミノ酸配列を配列番号:2に、該アミノ酸配列をコードするDNAの塩基配列を配列番号:1に示した。ICAM3の由来は、ヒトに限定されず、他の哺乳動物(例えば、ラット、マウス、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウサギ、サル)であり得る。本発明の抗体がヒトの治療や診断を目的とする場合には、ヒトICAM3が標的となる。また、ICAM3は、典型的なアミノ酸配列を有するもの以外に、天然においてアミノ酸が変異したものも存在しうる。従って、本発明の抗体の標的とするICAM3には、天然のアミノ酸の変異体も含まれる。ヒト以外の哺乳動物に由来するICAM3およびICAM3の変異体は、上記ヒトICAM3のアミノ酸配列と1または複数のアミノ酸が異なりうる。通常、上記ヒトICAM3のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するポリペプチド、好ましくは80%以上の相同性を有するポリペプチド、さらに好ましくは90%以上の相同性を有するポリペプチド、より好ましくは95%以上の相同性を有するポリペプチドである。
本発明における「ICAM3」は、本発明の抗体を製造するための抗原として用いる場合には、上記天然のアミノ酸配列を有するもの以外に、1または複数のアミノ酸が改変された改変体であってもよい。上述の配列において1または複数のアミノ酸が改変された改変体の例としては、上述のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するポリペプチド、好ましくは80%以上の相同性を有するポリペプチド、さらに好ましくは90%以上の相同性を有するポリペプチド、より好ましくは95%以上の相同性を有するポリペプチドを挙げることができる。また、これらのICAM3の部分ペプチドであってもよい。ヒトを対象とする抗体医薬や診断薬の開発を目的とする場合には、ヒトICAM3タンパク質であることが好ましい。
[抗ICAM3抗体]
本発明の抗ICAM3抗体はポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよい。「ポリクローナル抗体」は、異なるエピトープに対する異なる抗体を含む抗体調製物である。また、「モノクローナル抗体」とは、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体(抗体断片を含む)を意味する。ポリクローナル抗体とは対照的に、モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基を認識するものである。本発明の抗ICAM3は、モノクローナル抗体であることが好ましい。本発明の抗ICAM3抗体は、ICAM3タンパク質に結合すればよく、その由来、種類、形状などは特に限定されない。具体的には、非ヒト動物由来の抗体(例えば、マウス抗体、ラット抗体、ラクダ抗体)、ヒト由来のヒト抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体などの抗体が使用できる。
本発明の抗ICAM3抗体は抗ヒトICAM3抗体であることが好ましい。抗ヒトICAM3抗体は、ヒトICAM3に特異的に結合する抗体であってもよいし、ヒトICAM3以外に他の動物由来のICAM3(例えばマウスICAM3)に結合する抗体であってもよい。
本発明の抗ICAM3抗体は、公知の手段を用いてポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体として取得できる。本発明の抗ICAM3抗体としては、特に哺乳動物由来のモノクローナル抗体が好ましい。哺乳動物由来のモノクローナル抗体は、ハイブリドーマにより産生されるもの、および遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した宿主により産生されるもの等を含む。
本発明の抗ICAM3抗体は、ポリエチレングリコール(PEG)等の各種分子で修飾してもよい。また、後述するように、細胞傷害活性を有する化学療法剤や放射性化学物質等で修飾してもよい。
本発明の抗ICAM3抗体は、以下の(1)〜(6)に記載する1もしくは複数の活性を持つ抗体であることが好ましい。
(1)細胞傷害活性
癌などの細胞増殖性疾患の治療においては、抗体は、そのエフェクター活性を維持していることが望ましい。すなわち、本発明における好ましい抗体は、ICAM3に対する結合親和性とエフェクター機能の両方を有する。抗体のエフェクター機能には、抗体依存性細胞介在性細胞傷害(antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity:ADCC)活性および補体依存性細胞傷害(complement-dependent cytotoxicity:CDC)活性が含まれる。本発明における治療用の抗体は、特に好ましくは、ADCC活性をエフェクター機能として備える。本発明の抗体が治療目的で用いられる場合、抗体は、好ましくは細胞傷害活性を有する抗体である。細胞傷害活性としては、例えば、ADCC活性、CDC活性などを挙げることができる。本発明において「ADCC活性」とは、標的細胞の細胞表面抗原に特異的抗体が付着した際、そのFc部分にFcγ受容体保有細胞(免疫細胞等)がFcγ受容体を介して結合し、標的細胞に傷害を与える活性を意味する。一方、「CDC活性」とは、補体系による細胞傷害活性を意味する。
本実施例において、本発明の抗ICAM3抗体がICAM3を発現する細胞に対して、低濃度でADCC活性を有することが示された(実施例6)。本発明の抗ICAM3抗体は、好ましくは、O.1μg/mlでICAM3を発現する細胞に対してADCC活性を有する抗体である。ICAM3を発現する細胞としては、例えば、ICAM3を発現させたBaF3細胞や各種血液癌細胞(SKM-1細胞、U937細胞、KMS12BM細胞など)が挙げられる。O.1μg/mlの抗ICAM3抗体を用いた場合のADCC活性は、本実施例に記載のようにカルセイン遊離率で評価した場合において、好ましくは、カルセイン遊離率が5%以上(10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、55%以上)である。
抗ICAM3抗体がADCC活性を有するか否か、またはCDC活性を有するか否かは公知の方法により測定することができる(例えば、Current protocols in Immunology, Chapter7. Immunologic studies in humans, Editor, John E, Coligan et al., John Wiley & Sons, Inc.,(1993)等)。具体的には、まず、エフェクター細胞、補体溶液、標的細胞の調製が実施される。
i)エフェクター細胞の調製
CBA/Nマウスなどから脾臓を摘出し、RPMI1640培地(Invitrogen社製)中で脾臓細胞が分離される。10%ウシ胎児血清(FBS、HyClone社製)を含む同培地で洗浄後、細胞濃度を5×106/mlに調製することによって、エフェクター細胞が調製できる。
ii)補体溶液の調製
Baby Rabbit Complement(CEDARLANE社製)を10%FBS含有培地(Invitrogen社製)にて10倍希釈し、補体溶液が調製できる。
iii)標的細胞の調製
ICAM3タンパク質を発現する細胞を0.2mCiの51Cr-クロム酸ナトリウム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)とともに、10%FBS含有DMEM培地中で37℃にて1時間培養することにより該標的細胞を放射性標識できる。ICAM3タンパク質を発現する細胞としては、ICAM3タンパク質をコードする遺伝子で形質転換された細胞、各種血液癌細胞(SKM-1細胞、U937細胞、KMS12BM細胞など)等を利用することができる。放射性標識後、細胞を10%FBS含有RPMI1640培地にて3回洗浄し、細胞濃度を2×105/mlに調製することによって、該標的細胞が調製できる。
ADCC活性、またはCDC活性は下記に述べる方法により測定できる。ADCC活性の測定の場合は、96ウェルU底プレート(Becton Dickinson社製)に、標的細胞と、抗ICAM3抗体を50μlずつ加え、氷上にて15分間反応させる。その後、エフェクター細胞100μlを加え、炭酸ガスインキュベーター内で4時間培養する。抗体の終濃度は0または10μg/mlとする。培養後、100μlの上清を回収し、ガンマカウンター(COBRAII AUTO-GAMMA、MODEL D5005、Packard Instrument Company社製)で放射活性を測定する。細胞傷害活性(%)は得られた値を使用して(A-C)/(B-C)x100の計算式に基づいて計算できる。Aは各試料における放射活性(cpm)、Bは1%NP-40(nacalai tesque社製)を加えた試料における放射活性(cpm)、Cは標的細胞のみを含む試料の放射活性(cpm)を示す。
また、放射活性標識(51Cr-クロム酸ナトリウム)を利用する方法に代えて、本実施例に記載のように、カルセインAM(和光純薬、349-07201)などの蛍光色素を用い、蛍光強度(特異的カルセイン遊離率)を測定することによって、ADCC活性を評価することもできる。この方法による場合の細胞傷害活性(%)は得られた値を使用して(A-C)/(B-C)x100の計算式に基づいて計算できる。Aは各試料における蛍光数値、Bは終濃度1%Nonidet P-40で細胞溶解して培地へ放出される平均蛍光数値、Cは培地のみを添加した場合における平均蛍光数値である。
一方、CDC活性の測定の場合は、96ウェル平底プレート(Becton Dickinson社製)に、標的細胞と、抗ICAM3抗体を50μlずつ加え、氷上にて15分間反応させる。その後、補体溶液100μlを加え、炭酸ガスインキュベーター内で4時間培養する。抗体の終濃度は0または3μg/mlとする。培養後、100μlの上清を回収し、ガンマカウンターで放射活性を測定する。細胞傷害活性はADCC活性の測定と同様にして計算できる。上記同様に、蛍光色素を利用して測定することもできる。
一方、抗体コンジュゲートによる細胞傷害活性の測定の場合は、96ウェル平底プレート(Becton Dickinson社製)に、標的細胞と、抗ICAM3抗体コンジュゲートを50μlずつ加え、氷上にて15分間反応させる。炭酸ガスインキュベーター内で1から4時間培養する。抗体の終濃度は0または3μg/mlとする。培養後、100μlの上清を回収し、ガンマカウンターで放射活性を測定する。細胞傷害活性はADCC活性の測定と同様にして計算できる。上記同様に、蛍光色素を利用して測定することもできる。
(2)細胞増殖抑制活性
本発明の抗ICAM3抗体の好ましい態様は、細胞増殖抑制活性を有する抗体である。例えば、in vitroでの細胞増殖抑制活性を評価、あるいは測定するために、ICAM3発現細胞を各ウェル当たり適当な細胞数で、96ウェルプレートにまく。そこに、抗ICAM3抗体を加え、数日から1週間程度培養する。その後、生細胞数を生細胞数測定試薬SF(ナカライ)を用いて添付の説明書に従って測定することができる。陰性対照としてPBSなどを投与してもよいし、同一のアイソタイプを有する対照抗体を投与してもよい。ICAM3発現細胞としては特に限定されず、ICAM3発現BaF3細胞や各種癌細胞(例えば、血液癌細胞)を用いることができる。。
本実施例において、本発明の抗ICAM3抗体がICAM3を発現する細胞に対して、低濃度で増殖抑制活性を有することが示された(実施例7)。本発明の抗ICAM3抗体は、好ましくは、O.06μg/ml(60ng/ml)でICAM3を発現する細胞に対して増殖抑制活性を有する抗体である。特に好ましくは、O.06μg/ml(60ng/ml)でICAM3を発現する細胞に対して最大増殖抑制効果を示す抗体である。ICAM3を発現する細胞としては、例えば、各種血液癌細胞(HL60細胞、SKM-1細胞、KMS12BM細胞、IM9細胞、ARH77細胞、Kijk細胞、およびMC/CAR細胞)が挙げられる。
(3)in vivoでの抗腫瘍活性
本発明の抗ICAM3抗体の他の好ましい態様は、in vivoで抗腫瘍活性を有する抗体である。例えば、in vivoでの抗腫瘍活性を評価、あるいは測定するために、ICAM3発現癌細胞を非ヒト被検動物の皮内または皮下に移植後、当日または翌日から、毎日または数日間隔で、被験抗体を静脈または腹腔内に投与する。腫瘍の大きさを経日的に測定することにより抗腫瘍活性を測定することができる。陰性対照としてPBSなどを投与してもよいし、同一のアイソタイプを有する対照抗体を投与してもよい。抗ICAM3抗体投与群における腫瘍の大きさが陰性対照投与群における腫瘍の大きさよりも小さい場合(特に限定されないが、例えば、陰性対照投与郡と比較して、5mg/kg投与で20%以上、好ましくは30%以上の腫瘍増殖抑制率、25mg/kg投与で30%以上、好ましくは40%以上の腫瘍増殖抑制率)に抗腫瘍活性を有すると判定することが可能である。癌細胞は特に限定されないが、好ましくは血液癌細胞(例えば、SKM-1細胞などの白血病細胞)である。また、癌細胞が投与されるマウスは特に限定されないが、好ましくはSCIDマウスである。より具体的には、例えば、本願実施例に記載された方法により抗体のin vivoでの抗腫瘍活性を測定することも可能である。
また、本発明の抗ICAM3抗体の好ましい態様として、他の抗体によるクロスリンクなどを要することなく、抗ICAM3抗体単独で抗腫瘍効果を有していることが好ましい。
(4)交差反応
本発明の抗ICAM3抗体の他の好ましい態様は、ICAM1および/またはICAM5に実質的に結合しない抗体である。特に好ましくは、ヒトICAM3には結合するが、ヒトICAM1および/またはヒトICAM5には結合しない抗体である。ヒトICAM1および/またはヒトICAM5に結合するか否かは当業者に公知の方法により確認することが可能であり、例えば、被検抗体がヒトICAM1またはヒトICAM5発現BaF3細胞に結合するか否かにより確認することが可能である。ヒトICAM1およびヒトICAM5の配列は公知であり、例えば、それぞれGenBank Accession No. X06990、GenBank Accession No. U72671を参考にすることが可能である。ヒトICAM1のアミノ酸配列を配列番号:4に、該アミノ酸配列をコードするDNAを配列番号:3に示した。また、ヒトICAM5のアミノ酸配列を配列番号:6に、該アミノ酸配列をコードするDNAを配列番号:5に示した。
(5)インターナライズ活性
また、本発明の抗ICAM3抗体はインターナライズ活性を有していてもよい。本発明において「インターナライズ活性を有する抗体」とは、ICAM3に結合した際に細胞内(細胞質内、小胞内、他の小器官内など)に輸送される抗体を意味する。
抗体がインターナライズ活性を有するか否かは当業者に公知の方法を用いて確認することができ、例えば、標識物質を結合した抗ICAM3抗体をICAM3を発現する細胞に接触させ該標識物質が細胞内に取り込まれたか否かを確認する方法、細胞傷害性物質を結合した抗ICAM3抗体をICAM3を発現する細胞に接触させ該ICAM3発現細胞に細胞死が誘導されたか否かを確認する方法、などにより確認することができる。
インターナライズ活性を有する抗体は例えば上述の細胞傷害性物質を結合することにより、後述する抗癌剤などの医薬組成物として用いることができる。
(6)アポトーシス誘導活性
また、本発明の抗ICAM3抗体はアポトーシス誘導活性を有していてもよい。アポトーシス誘導活性を有するか否かの確認は当業者に公知の方法で行うことが可能である(例えば、特開平9-295999号公報など)。例えば、ヒト白血球細胞やICAM3遺伝子を導入したICAM3発現細胞などを、被検抗体の存在下で培養し、MTS法やフローサイトメトリーによりアポトーシスを検出する方法などにより行うことが可能である。
本発明の抗ICAM3抗体は、ICAM3タンパク質に結合すればよく、その性質や形状などは特に限定されない。例えば、以下の(a)〜(f)のような抗体であってもよい。
(a)コンジュゲート抗体
本発明の抗ICAM3抗体に化学療法剤、毒性ペプチドあるいは放射性化学物質などの細胞傷害性物質を結合することも可能である。このような抗体修飾物(以下、抗体コンジュゲートと称する。)は、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。なお、抗体の修飾方法はこの分野においてすでに確立されている。
抗ICAM3抗体に結合させて細胞傷害活性を機能させる化学療法剤としては、例えば、次のような化学療法剤が例示できる:アザリビン(azaribine)、アナストロゾール(anastrozole)、アザシチジン(azacytidine)、ブレオマイシン(bleomycin)、ボルテゾミブ(bortezomib)、ブリオスタチン-1(bryostatin-1)、ブスルファン(busulfan)、カンプトテシン(camptothecin)、10-ヒドロキシカンプトテシン(10-hydroxycamptothecin)、カルムスチン(carmustine)、セレブレックス(celebrex)、クロラムブシル(chlorambucil)、シスプラチン(cisplatin)、イリノテカン(irinotecan)、カルボプラチン(carboplatin)、クラドリビン(cladribine)、シクロホスファミド(cyclophosphamide)、シタラビン(cytarabine)、ダカルバジン(dacarbazine)、ドセタキセル(docetaxel)、ダクチノマイシン(dactinomycin)、ダウノマイシングルクロニド(daunomycin glucuronide)、ダウノルビシン(daunorubicin)、デキサメタゾン(dexamethasone)、ジエチルスチルベストロール(diethylstilbestrol)、ドキソルビシン(doxorubicin)、ドキソルビシンブルクロニド(doxorubicin glucuronide)、エピルビシン(epirubicin)、エチニルエストラジオール(ethinyl estradiol)、エストラムスチン(estramustine)、エトポシド(etoposide)、エトポシドグルクロニド(etoposide glucuronide)、フロキシウリジン(floxuridine)、フルダラビン(fludarabine)、フルタミド(flutamide)、フルオロウラシル(fluorouracil)、フルオキシメステロン(fluoxymesterone)、ゲムシタビン(gemcitabine)、ヒドロキシプロゲステロンカプロエート(hydroxyprogesterone caproate)、ヒドロキシウレア(hydroxyurea)、イダルビシン(idarubicin)、イフォスファミド(ifosfamide)、ロイコボリン(leucovorin)、ロムスチン(lomustine)、メクロレタミン(mechlorethamine)、メドロキシプロゲステロンアセテート(medroxyprogesterone acetate)、メゲストロールアセテート(megestrol acetate)、メルファラン(melphalan)、メルカプトプリン(mercaptopurine)、メトトレキセート(methotrexate)、ミトキサントロン(mitoxantrone)、ミトラマイシン(mithramycin)、ミトマイシン(mitomycin)、ミトタン(mitotane)、フェニルブチレート(phenylbutyrate)、プレドニゾン(prednisone)、プロカルバジン(procarbazine)、パクリタキセル(paclitaxel)、ペントスタチン(pentostatin)、セムスチン(semustine)、ストレプトゾシン(streptozocin)、タモキシフェン(tamoxifen)、タキサン類(taxanes)、タキソール(taxol)、テストステロンプロピオネート(testosterone propionate)、サリドマイド(thalidomide)、チオグアニン(thioguanine)、チオテパ(thiotepa)、テニポシド(teniposide)、トポテカン(topotecan)、ウラシルマスタード(uracil mustard)、ビンブラスチン(vinblastine)、ビノレルビン(vinorelbine)、ビンクリスチン(vincristine)。
好ましい化学療法剤は、低分子の化学療法剤である。低分子の化学療法剤は、抗体への結合の後も、抗体の機能に干渉する可能性が低い。本発明において、低分子の化学療法剤は、通常100〜2000、好ましくは200〜1000の分子量を有する。ここに例示した化学療法剤は、いずれも低分子の化学療法剤である。これらの本発明における化学療法剤は、生体内で活性な化学療法剤に変換されるプロドラッグを含む。プロドラッグの活性化は酵素的な変換であっても、非酵素的な変換であっても良い。
また、抗体を毒性ペプチドで修飾することもできる。毒性ペプチドの例としては、次のものを挙げることができる。ジフテリアトキシンA鎖(Diphtheria toxin A Chain)(Langone J.J.,et al.,Methods in Enzymology,93,307-308,1983)、シュードモナスエキソトキシン(Pseudomonas Exotoxin)(Nature Medicine,2,350-353,1996)、リシン鎖(Ricin A Chain)(Fulton R.J.,et al.,J.Biol.Chem.,261,5314-5319,1986;Sivam G.,et al.,Cancer Res.,47,3169-3173,1987;Cumber A.J.et al.,J.Immunol.Methods,135,15-24,1990;Wawrzynczak E.J.,et al.,Cancer Res.,50,7519-7562,1990;Gheeite V.,et al.,J.Immunol.Methods,142,223-230,1991);無糖鎖リシンA鎖(Deglicosylated Ricin A Chain)(Thorpe P.E.,et al.,Cancer Res.,47,5924-5931,1987);アブリンA鎖(Abrin A Chain)(Wawrzynczak E.J.,et al.,Br.J.Cancer,66,361-366,1992;Wawrzynczak E.J.,et al.,Cancer Res.,50,7519-7562,1990;Sivam G.,et al.,Cancer Res.,47,3169-3173,1987;Thorpe P.E.,et al.,Cancer Res.,47,5924-5931,1987);ゲロニン(Gelonin)(Sivam G.,et al.,Cancer Res.,47,3169-3173,1987;Cumber A.J.et al.,J.Immunol.Methods,135,15-24,1990;WawrzynczakE.J.,et al.,Cancer Res.,50,7519-7562,1990;Bolognesi A.,et al.,Clin.exp.Immunol.,89,341-346,1992);ポークウイード抗ウィルス蛋白(PAP-s;Pokeweed anti-viral protein fromseeds)(Bolognesi A.,et al.,Clin.exp.Immunol.,89,341-346,1992);ブリオジン(Briodin)(Bolognesi A.,et al.,Clin.exp.Immunol.,89,341-346,1992);サポリン(Saporin)(Bolognesi A.,et al.,Clin.exp.Immunol.,89,341-346,1992);モモルジン(Momordin)(Cumber A.J.,et al.,J.Immunol.Methods,135,15-24,1990;Wawrzynczak E.J.,et al.,Cancer Res.,50,7519-7562,1990;Bolognesi A.,et al.,Clin.exp.Immunol.,89,341-346,1992);モモルコキン(Momorcochin)(Bolognesi A.,et al.,Clin.exp.Immunol.,89,341-346,1992);ジアンシン32(Dianthin 32)(Bolognesi A.,et al.,Clin.exp.Immunol.,89,341-346,1992);ジアンシン30(Dianthin 30)(Stirpe F.,Barbieri L.,FEBS letter 195,1-8,1986);モデッシン(Modeccin)(Stirpe F.,Barbieri L.,FEBS letter 195,1-8,1986);ビスカミン(Viscumin)(Stirpe F.,Barbieri L.,FEBS letter 195,1-8,1986);ボルケシン(Volkesin)(Stirpe F.,Barbieri L.,FEBS letter 195,1-8,1986);ドデカンドリン(Dodecandrin)(Stirpe F.,Barbieri L.,FEBS letter 195,1-8,1986);トリチン(Tritin)(Stirpe F.,Barbieri L.,FEBS letter 195,1-8,1986);ルフィン(Luffin)(Stirpe F.,Barbieri L.,FEBS letter 195,1-8,1986);トリコキリン(Trichokirin)(Casellas P.,et al.,Eur.J.Biochem.176,581-588,1988;Bolognesi A.,et al.,Clin.exp.Immunol.,89,341-346,1992)。
本発明において放射性化学物質とは、放射性同位体を含む化学物質のことをいう。放射性同位体は特に限定されず、如何なる放射性同位体を用いてもよいが、例えば、32P、14C、125I、3H、131I、186Re、188Reなどを用いることが可能である。
また別の態様では、一または二以上の低分子化学療法剤と毒性ペプチドをそれぞれ組み合わせて抗体の修飾に使用できる。抗ICAM3抗体と上記の低分子化学療法剤との結合は共有結合または非共有結合が利用できる。これら化学療法剤を結合した抗体の作製方法は公知である。
タンパク質性の薬剤や毒素は、遺伝子工学的な手法によって抗体と結合することができる。具体的には、例えば、上記毒性ペプチドをコードするDNAと抗ICAM3抗体をコードするDNAをインフレームで融合させて発現ベクター中に組み込んだ組換えベクターが構築できる。該ベクターを適切な宿主細胞に導入することにより得られる形質転換細胞を培養し、組み込んだDNAを発現させて、毒性ペプチドを結合した抗ICAM3抗体を融合タンパク質として得ることができる。抗体との融合タンパク質を得る場合、一般に、抗体のC末端側にタンパク質性の薬剤や毒素を配置される。抗体と、タンパク質性の薬剤や毒素の間には、ペプチドリンカーを介在させることもできる。
(b)二重特異性抗体
本発明の抗ICAM3抗体は、二重特異性抗体(bispecific antibody)であってもよい。二重特異性抗体とは、異なるエピトープを認識する可変領域を同一の抗体分子内に有する抗体をいう。本発明において、二重特異性抗体はICAM3分子上の異なるエピトープを認識する抗原結合部位を有することができる。このような二重特異性抗体は、1分子のICAM3に対して2分子の抗体分子が結合できる。その結果、より強力な細胞傷害作用を期待できる。
あるいは、一方の抗原結合部位がICAM3を認識し、他方の抗原結合部位が細胞傷害性物質を認識する二重特異性抗体とすることもできる。細胞傷害性物質には、具体的には、化学療法剤、毒性ペプチドあるいは放射性化学物質等が含まれる。このような二重特異性抗体は、ICAM3を発現している細胞に結合する一方で、細胞傷害性物質を捕捉する。その結果、細胞傷害性物質をICAM3発現細胞に直接作用させることができる。すなわち細胞傷害性物質を認識する二重特異性抗体によって、腫瘍細胞を特異的に傷害し、腫瘍細胞の増殖を抑制することができる。
また本発明においては、ICAM3以外の抗原を認識する抗原結合部位と組み合わせた二重特異性抗体を用いることもできる。例えば、ICAM3と同様に標的とする癌細胞の細胞表面に特異的に発現する抗原であって、ICAM3とは異なる抗原を認識するような抗原結合部位と組み合わせて二重特異性抗体とすることができる。
二重特異性抗体を製造するための方法は公知である。例えば、認識抗原が異なる2種類の抗体を結合させて、二重特異性抗体を作製することができる。結合させる抗体は、それぞれが重鎖と軽鎖を有する1/2分子であっても良いし、重鎖のみからなる1/4分子であっても良い。あるいは、異なるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを融合させて、二重特異性抗体産生融合細胞を作製することもできる。さらに、遺伝子工学的手法により二重特異性抗体が作製できる。
抗体の抗原結合活性(Antibodies A Laboratory Manual. Ed Harlow, David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)の測定には公知の手段を使用することができる。例えば、ELISA(酵素結合免疫吸着検定法)、EIA(酵素免疫測定法)、RIA(放射免疫測定法)あるいは蛍光免疫法などを用いることができる。
(c)糖鎖改変抗体
本発明の抗ICAM3抗体は、糖鎖が改変された抗体であってもよい。抗体の糖鎖を改変することにより抗体の細胞傷害活性を増強できることが知られている。糖鎖が改変された抗体としては、例えば、糖鎖が修飾された抗体(国際公開第99/54342号パンフレットなど)、糖鎖に付加するフコースが欠損した抗体(国際公開第00/61739号パンフレット、国際公開第02/31140号パンフレットなど)、バイセクティングGlcNAcを有する糖鎖を有する抗体(国際公開第02/79255号パンフレットなど)などが公知である。
(d)遺伝子組換え型抗ICAM3抗体
抗体がヒトに投与されるべきものである場合、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体とすることができる。遺伝子組換え型抗体とは、例えば、キメラ(Chimeric)抗体、ヒト化(Humanized)抗体などを含む。これらの改変抗体は、公知の方法を用いて製造することができる。
i)キメラ抗体
キメラ抗体とは、互いに由来の異なる可変領域と定常領域とを連結した抗体をいう。例えば、マウス抗体の重鎖および軽鎖の可変領域と、ヒト抗体の重鎖および軽鎖の定常領域とからなる抗体は、マウス−ヒト−異種キメラ抗体である。マウス抗体の可変領域をコードするDNAをヒト抗体の定常領域をコードするDNAと連結させ、これを発現ベクターに組み込むことによって、キメラ抗体を発現する組換えベクターが作製できる。該ベクターにより形質転換された組換え細胞を培養し、組み込まれたDNAを発現させることによって、培養中に生産される該キメラ抗体を取得できる。
キメラ抗体の定常領域には、通常、ヒト抗体のものが使用される。例えば重鎖においては、Cγ1、Cγ2、Cγ3、Cγ4、Cμ、Cδ、Cα1、Cα2、およびCεを定常領域として利用することができる。また軽鎖においてはCκやCλを定常領域として使用できる。これらの定常領域のアミノ酸配列、ならびにそれをコードする塩基配列は公知である。また、抗体自体の安定性、あるいは抗体の産生の安定性を改善するために、ヒト抗体定常領域中の1または数個のアミノ酸を置換、欠失、付加および/または挿入することができる。
ii)ヒト化抗体
一般にキメラ抗体が、ヒト以外の動物由来抗体の可変領域とヒト抗体由来の定常領域とから構成されるのに対して、ヒト化抗体は、ヒト以外の動物由来抗体の相補性決定領域(CDR;complementarity determining region)と、ヒト抗体由来のフレームワーク領域(FR;framework region)およびヒト抗体由来の定常領域とから構成される。ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称される。具体的には、ヒト以外の動物、例えばマウス抗体のCDRをヒト抗体に移植したヒト化抗体などが公知である。ヒト化抗体はヒト体内における抗原性が低下しているため、本発明の治療剤の有効成分として有用である。
抗体の可変領域は、通常、4つのFRにはさまれた3つのCDRで構成されている。CDRは、実質的に、抗体の結合特異性を決定している領域である。CDRのアミノ酸配列は多様性に富む。一方、FRを構成するアミノ酸配列は、異なる結合特異性を有する抗体の間でも、高い相同性を示すことが多い。そのため、一般に、CDRの移植によって、ある抗体の結合特異性を、他の抗体に移植することができるといわれている。
ヒト化抗体を得るための一般的な遺伝子組換え手法も知られている。具体的には、マウスの抗体のCDRをヒトのFRに移植するための方法として、例えば、オーバーラップエクステンションPCR(Overlap Extension PCR)が公知である。オーバーラップエクステンションPCRにおいては、ヒト抗体のFRを合成するためのプライマーに、移植すべきマウス抗体のCDRをコードする塩基配列が付加されたプライマーを用いる。プライマーは4つのFRのそれぞれについて用意される。一般に、マウスCDRのヒトFRへの移植においては、マウスのFRと相同性の高いヒトFRを選択するのが、CDRの機能の維持において有利であるといわれている。すなわち、一般に、移植すべきマウスCDRに隣接しているFRのアミノ酸配列と相同性の高いアミノ酸配列からなるヒトFRを利用することが好ましい。
また連結される塩基配列は、互いにインフレームで接続されるようにデザインされる。それぞれのプライマーによってヒトFRが個別に合成される。その結果、各FRにマウスCDRをコードするDNAが付加された産物が得られる。各産物のマウスCDRをコードする塩基配列は、互いにオーバーラップするようにデザインされている。続いて、オーバーラップしたCDR部分を互いにアニールさせて相補鎖合成反応が行われる。この反応によって、ヒトFRがマウスCDRの配列を介して連結される。
最終的に3つのCDRと4つのFRが連結された可変領域遺伝子は、その5’末端と3'末端にアニールし適当な制限酵素認識配列を付加されたプライマーによってその全長が増幅される。上記のように得られたDNAとヒト抗体定常領域をコードするDNAとをインフレームで融合するように発現ベクター中に挿入することによって、ヒト化抗体発現用ベクターが作成できる。このベクターを宿主に導入して組換え細胞を樹立した後に、組換え細胞を培養し、ヒト化抗体をコードするDNAを発現させることによって、ヒト化抗体が培養細胞の培養物中に産生される(欧州特許公開第239400号公報、国際公開第96/02576号パンフレット参照)。
上記のように作製されたヒト化抗体の抗原への結合活性を定性的または定量的に測定し、評価することによって、CDRを介して連結されたときに該CDRが良好な抗原結合部位を形成するようなヒト抗体のFRが好適に選択できる。必要に応じ、ヒト化抗体のCDRが適切な抗原結合部位を形成するようにFRのアミノ酸残基を置換することもできる。例えば、マウスCDRのヒトFRへの移植に用いたPCR法を応用して、FRにアミノ酸配列の変異を導入することができる。具体的には、FRにアニーリングするプライマーに部分的な塩基配列の変異を導入することができる。このようなプライマーによって合成されたFRには、塩基配列の変異が導入される。アミノ酸を置換した変異型抗体の抗原への結合活性を上記の方法で測定し評価することによって所望の性質を有する変異FR配列が選択できる(Sato, K.et al., Cancer Res, 1993, 53, 851-856)。
(e)多価抗体
本発明の抗体には、ICAM3タンパク質に結合する限り、IgG(IgG1、IgG2、IgG4など)に代表される二価抗体だけでなく、一価抗体、もしくはIgMに代表される多価抗体も含まれる。本発明の多価抗体には、全て同じ抗原結合部位を有する多価抗体、または、一部もしくは全て異なる抗原結合部位を有する多価抗体が含まれる。
(f)低分子化抗体
本発明の抗体は、抗体の全長分子に限られず、ICAM3タンパク質に結合する限り、低分子化抗体またはその修飾物であってもよい。
低分子化抗体は、全長抗体(whole antibody、例えばwhole IgG等)の一部分が欠損している抗体断片を含む。ICAM3抗原への結合能を有する限り、抗体分子の部分的な欠損は許容される。本発明における抗体断片は、重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)のいずれか、または両方を含んでいることが好ましい。また、本発明における抗体断片はCDRを含んでいることが好ましい。本発明の抗体断片に含まれるCDRの数は特に限定されないが、重鎖CDR1、CDR2、CDR3、軽鎖CDR1、CDR2、CDR3の6つを少なくとも含んでいることが好ましい。
VHまたはVLのアミノ酸配列は、置換、欠失、付加および/または挿入を含むことができる。さらにICAM3抗原への結合能を有する限り、VHおよびVLのいずれか、または両方の一部を欠損させることもできる。また、可変領域はキメラ化やヒト化されていてもよい。抗体断片の具体例としては、例えば、Fab、Fab'、F(ab')2、Fvなどを挙げることができる。また、低分子化抗体の具体例としては、例えば、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv、scFv(single chain Fv)、ダイアボディー、sc(Fv)2(single chain (Fv)2)、scFv-Fcなどを挙げることができる。本発明において好ましい低分子化抗体は、ダイアボディーまたはsc(Fv)2である。これら抗体の多量体(例えば、ダイマー、トリマー、テトラマー、ポリマー)も、本発明の低分子化抗体に含まれる。
抗体の断片は、抗体を酵素で処理して抗体断片を生成させることによって得ることができる。消化酵素は、抗体断片の特定の位置を切断し、特定の構造の抗体断片を与える。抗体断片を生成する酵素として、例えば、パパイン、ペプシン、あるいはプラスミンなどが公知であり、パパイン消化の場合、F(ab)2またはFabを、ペプシン消化の場合、F(ab’)2またはFab’を与える。あるいは、これら抗体断片をコードする遺伝子を構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させることができる(例えば、Co, M.S. et al., J. Immunol.(1994)152, 2968-2976、Better, M. & Horwitz, A. H. Methods in Enzymology(1989)178, 476-496、Plueckthun, A. & Skerra, A. Methods in Enzymology(1989)178, 497-515、Lamoyi, E., Methods in Enzymology(1986)121, 652-663、Rousseaux, J. et al., Methods in Enzymology(1986)121, 663-669、Bird, R. E. et al., TIBTECH(1991)9, 132-137参照)。
酵素的に得られた抗体断片に対して、遺伝子工学的手法を利用すると、抗体の任意の部分を欠失させることができる。本発明における低分子化抗体は、ICAM3に対する結合親和性を有する限り、任意の領域を欠失した抗体断片であることができる。
i)ダイアボディー
ダイアボディーは、遺伝子融合により構築された二価(bivalent)の抗体断片を指す(Holliger P et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90: 6444-6448 (1993)、欧州特許公開第404,097号公報、国際公開第93/11161号パンフレット等)。ダイアボディーは、2本のポリペプチド鎖から構成されるダイマーである。通常、ダイマーを構成するポリペプチド鎖は、各々、同じ鎖中で重鎖可変領域および軽鎖可変領域がリンカーにより結合されている。ダイアボディーにおけるリンカーは、一般に、重鎖可変領域と軽鎖可変領域が互いに結合できない位に短い。具体的には、リンカーを構成するアミノ酸残基は、例えば、5残基程度である。そのため、同一ポリペプチド鎖上にコードされる重鎖可変領域と軽鎖可変領域とは、単鎖可変領域フラグメントを形成できず、別の単鎖可変領域フラグメントと二量体を形成する。その結果、ダイアボディーは2つの抗原結合部位を有することとなる。
ii)scFv
scFvは、抗体の重鎖可変領域と軽鎖可変領域とを連結することにより得られる。scFvにおいて、重鎖可変領域と軽鎖可変領域は、リンカー、好ましくはペプチドリンカーを介して連結される(Huston, J. S. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A, 1988, 85, 5879-5883)。scFvにおける重鎖可変領域および軽鎖可変領域は、本明細書に記載されたいずれの抗体由来であってもよい。可変領域を連結するペプチドリンカーには、特に制限はない。例えば、3から25残基程度からなる任意の一本鎖ペプチドをリンカーとして用いることができる。具体的には、例えば、後述のペプチドリンカー等を用いることができる。
両鎖の可変領域は、例えば、PCR法によって連結することができる。PCR法による可変領域の連結のために、まず抗体の重鎖または重鎖可変領域をコードするDNA配列、および抗体の軽鎖または軽鎖可変領域をコードするDNA配列のうち、全部あるいは所望の部分アミノ酸配列をコードするDNAが鋳型として利用される。
増幅すべきDNAの両端の配列に対応する配列を有するプライマーの一対を用いたPCR法によって、重鎖と軽鎖の可変領域をコードするDNAがそれぞれ増幅される。次いで、ペプチドリンカー部分をコードするDNAを用意する。ペプチドリンカーをコードするDNAもPCRを利用して合成することができる。このとき利用するプライマーの5'側に、別に合成された各可変領域の増幅産物と連結できる塩基配列を付加しておく。次いで、[重鎖可変領域DNA]−[ペプチドリンカーDNA]−[軽鎖可変領域DNA]の各DNAと、アセンブリーPCR用のプライマーを利用してPCR反応を行う。
アセンブリーPCR用のプライマーは、[重鎖可変領域DNA]の5’側にアニールするプライマーと、[軽鎖可変領域DNA]の3'側にアニールするプライマーとの組み合わせからなる。すなわちアセンブリーPCR用プライマーとは、合成すべきscFvの全長配列をコードするDNAを増幅することができるプライマーセットである。一方、[ペプチドリンカーDNA]には、各可変領域DNAと連結できる塩基配列が付加されている。その結果、これらのDNAが連結され、さらにアセンブリーPCR用のプライマーによって、最終的にscFvの全長が増幅産物として生成される。一旦、scFvをコードするDNAが作製されると、それらを含有する発現ベクター、および該発現ベクターにより形質転換された組換え細胞が常法に従って取得できる。また、その結果得られる組換え細胞を培養して該scFvをコードするDNAを発現させることにより、該scFvが取得できる。
iii)scFv-Fc
scFv-FcはscFvにFc領域を融合させた低分子化抗体である(Cellular & Molecular Immunology 2006; 3: 439-443)。scFv-Fcに用いられるscFvの由来は特に限定されないが、例えば、IgM由来のscFvを用いることができる。また、Fcの由来は特に限定されないが、例えば、ヒトIgG(ヒトIgG1など)を用いることができる。従って、scFv-Fcの好ましい態様の例として、IgM抗体のscFv断片と、ヒトIgG1のCH2(例えば、Cγ2)とCH3(例えば、Cγ3)をヒトIgG1のヒンジ領域(Hγ)で連結させたscFv-Fcを挙げることができる。
iv)sc(Fv)2
sc(Fv)2は、2つの重鎖可変領域(VH)および2つの軽鎖可変領域(VL)をリンカー等で結合して一本鎖にした低分子化抗体である(Hudson et al、J Immunol. Methods 1999;231:177-189)。sc(Fv)2は、例えば、scFvをリンカーで結ぶことによって作製できる。4つの抗体可変領域を結合する場合には、通常、3つのリンカーが必要となる。
また2つのVHおよび2つのVLが、一本鎖ポリペプチドのN末端側を基点としてVH、VL、VH、VL([VH]リンカー[VL]リンカー[VH]リンカー[VL])の順に並んでいることを特徴とする抗体が好ましい。
2つのVHと2つのVLの順序は特に上記配置に限定されず、どのような順序で並べられていてもよい。例えば以下のような配置も挙げることができる。
[VL]リンカー[VH]リンカー[VH]リンカー[VL]
[VH]リンカー[VL]リンカー[VL]リンカー[VH]
[VH]リンカー[VH]リンカー[VL]リンカー[VL]
[VL]リンカー[VL]リンカー[VH]リンカー[VH]
[VL]リンカー[VH]リンカー[VL]リンカー[VH]
抗体の可変領域を結合するリンカーとしては、遺伝子工学により導入し得る任意のペプチドリンカー、または合成化合物リンカー(例えば、Protein Engineering, 9(3), 299-305, 1996参照)に開示されるリンカー等を用いることができる。複数のリンカーは、同じでもよいし、異なるリンカーを用いることもできる。本発明においては、ペプチドリンカーが好ましい。ペプチドリンカーの長さは特に限定されず、目的に応じて当業者が適宜選択することができる。通常、ペプチドリンカーを構成するアミノ酸残基は、1から100アミノ酸、好ましくは3から50アミノ酸、さらに好ましくは5から30アミノ酸、特に好ましくは12から18アミノ酸(例えば、15アミノ酸)である。
ペプチドリンカーを構成するアミノ酸配列は、scFvの結合作用を阻害しない限り、任意の配列とすることができる。ペプチドリンカーのアミノ酸配列は、目的に応じて当業者が適宜選択することができる。
よって本発明において特に好ましいsc(Fv)2の態様としては、例えば、以下のsc(Fv)2を挙げることができる:
[VH]ペプチドリンカー(15アミノ酸)[VL]ペプチドリンカー(15アミノ酸)[VH]ペプチドリンカー(15アミノ酸)[VL]。
あるいは、合成化学物リンカー(化学架橋剤)を利用して可変領域を連結することもできる。ペプチド化合物などの架橋に通常用いられている架橋剤を本発明に利用することができる。例えば、次のような化学架橋剤が公知である。これらの架橋剤は市販されている:
N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、ジスクシンイミジルスベレート(DSS)、ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート(BS3)、ジチオビス(スクシンイミジルプロピオネート)(DSP)、ジチオビス(スルホスクシンイミジルプロピオネート)(DTSSP)、エチレングリコールビス(スクシンイミジルスクシネート)(EGS)、エチレングリコールビス(スルホスクシンイミジルスクシネート)(スルホ−EGS)、ジスクシンイミジル酒石酸塩(DST)、ジスルホスクシンイミジル酒石酸塩(スルホ−DST)、ビス[2-(スクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン(BSOCOES)、およびビス[2-(スルホスクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン(スルホ-BSOCOES)など。
本発明で用いられる、ICAM3を認識してこれに結合する抗体の例として、例えば、以下の抗体を挙げることができる:
(a)配列番号:15に記載のアミノ酸配列を有する重鎖CDR1、配列番号:16に記載のアミノ酸配列を有する重鎖CDR2、配列番号:17に記載のアミノ酸配列を有する重鎖CDR3、配列番号:22に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖CDR1、配列番号:23に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖CDR2、配列番号:24に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖CDR3を含む抗体;
(b)(a)に記載の抗体において1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入された抗体であって、(a)に記載の抗体と同等の活性を有する抗体;
(c)(a)または(b)のいずれかに記載の抗体が認識するエピトープと同じエピトープを認識する抗体。
上述の抗体が定常領域を含む場合、使用される定常領域は特に限定されず、如何なる定常領域が使用されてもよい。本発明で使用される好ましい定常領域として、ヒト由来の定常領域を挙げることができる。例えば、重鎖定常領域の場合、ヒトIgG1由来の定常領域、ヒトIgG2由来の定常領域、ヒトIgG3由来の定常領域、ヒトIgG4由来の定常領域などを使用することができる。また、例えば、軽鎖定常領域の場合、ヒトκ鎖由来の定常領域、ヒトλ鎖由来の定常領域などを使用できる。ヒトIgG1由来の重鎖定常領域のアミノ酸配列を配列番号:26に、該アミノ酸配列をコードするDNAの塩基配列を配列番号:25に示す。また、ヒトIgG1由来の軽鎖定常領域のアミノ酸配列を配列番号:28に、該アミノ酸配列をコードするDNAの塩基配列を配列番号:27に示す。本発明で使用される定常領域は天然配列を有する定常領域であってもよいし、天然配列を有する定常領域において1または複数のアミノ酸が改変された改変体であってもよい。
上述の抗体がFRを含む場合、使用されるFRは特に限定されず、ヒトICAM3への結合活性が維持される限り如何なるFRが使用されてもよい。FRの例としては、配列番号:11から14のアミノ酸配列で示される重鎖可変領域のFR1からFR4、および配列番号:18から21のアミノ酸配列で示される軽鎖可変領域のFR1からFR4を挙げることができる。本発明で使用されるFRの好ましい例としては、ヒト抗体由来のFRを挙げることができる。抗体の抗原への結合活性を維持したままFRを置換する技術は公知であるので、当業者は適宜、FRを選択することが可能である。本発明で使用されるFRは天然配列を有するFRであってもよいし、天然配列において1または複数のアミノ酸が改変されたFRであってもよい。
配列番号:15に記載のアミノ酸配列を有する重鎖CDR1、配列番号:16に記載のアミノ酸配列を有する重鎖CDR2、配列番号:17に記載のアミノ酸配列を有する重鎖CDR3、配列番号:22に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖CDR1、配列番号:23に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖CDR2、配列番号:24に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖CDR3を含む抗体の例としては、可変領域として、配列番号:8(IB23重鎖可変領域)に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域および配列番号:10(IB23軽鎖可変領域)に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む抗体を挙げることができる。当該抗体は、キメラ抗体である場合、その定常領域として、配列番号:26に記載のヒトIgGの重鎖定常領域および配列番号:28に記載のヒトIgGの軽鎖定常領域を含むことができる。
本発明において、本発明の抗体と同等の活性を有するとは、ICAM3への結合活性、ICAM3を発現する細胞に対する細胞増殖抑制活性、細胞死誘導活性、細胞傷害活性(ADCC活性など)、および/または抗腫瘍活性が同等であることをいう。本発明において活性が同等とは、必ずしも活性が同一であることは要求されず、例えば上述の抗体の活性と比較して50%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上の活性を有していればよい。活性の上限は特に限定されず、例えば1000%以下、500%以下、300%以下、150%以下、100%以下などの例をあげることができる。
本発明の抗体において1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入された抗体も本発明の範囲内であり、人為的に作製されたものでも、自然的に生じたものであってもよい。ポリペプチドに変異を導入する方法としては、例えば、部位特異的変異誘発法(Hashimoto-Gotoh, T. et al. (1995) Gene 152, 271-275、Zoller, MJ, and Smith, M.(1983) Methods Enzymol. 100, 468-500、Kramer, W. et al. (1984) Nucleic Acids Res. 12, 9441-9456、Kramer W, and Fritz HJ(1987) Methods. Enzymol. 154, 350-367、Kunkel,TA(1985) Proc Natl Acad Sci USA. 82, 488-492、Kunkel (1988) Methods Enzymol. 85, 2763-2766)などが挙げられ、これは、あるポリペプチドと機能的に同等なポリペプチドを調製するための、当業者によく知られた方法の一つである。当業者であれば、このような方法を用いて、本発明の抗体に適宜変異を導入することにより、該抗体と機能的に同等な抗体を調製することができる。また、アミノ酸の変異は自然界においても生じうる。このように、本発明の抗体のアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が変異したアミノ酸配列を有し、該抗体と機能的に同等な抗体もまた本発明の抗体に含まれる。
このような変異体において、変異するアミノ酸数は、通常、50アミノ酸以内であり、好ましくは30アミノ酸以内であり、さらに好ましくは10アミノ酸以内(例えば、5アミノ酸以内)である。
変異するアミノ酸残基においては、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されることが望ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質に基づいて、次のような分類が確立している:
疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸およびアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ酸(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。
あるアミノ酸配列に対する1または数個のアミノ酸残基の欠失、付加および/または他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するポリペプチドが、元のポリペプチドの生物学的活性を維持することはすでに知られている(Mark, D. F. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1984) 81, 5662-5666、Zoller, M. J. and Smith, M., Nucleic Acids Research (1982) 10, 6487-6500、Wang, A. et al., Science 224, 1431-1433、Dalbadie-McFarland, G. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1982) 79, 6409-6413)。すなわち、一般に、あるポリペプチドを構成するアミノ酸配列中、各群に分類されたアミノ酸の間で相互に置換したときに、当該ポリペプチドの活性が維持される可能性が高いといわれている。本発明において、上記アミノ酸群の群内のアミノ酸間の置換を保存的置換という。
本発明は、また、本発明において同定されたCDRを含む抗体の重鎖もしくは軽鎖またはそれらの可変領域からなるペプチドを提供する。好ましいペプチドは、配列番号:15から17に記載のアミノ酸配列を含む本発明の抗体の重鎖またはその可変領域からなるペプチドであり、特に好ましくは、配列番号:8に記載のアミノ酸配列を含むペプチドである。他の好ましいペプチドは、配列番号:22から24に記載のアミノ酸配列を含む本発明の抗体の軽鎖またはその可変領域からなるペプチドであり、特に好ましくは、配列番号:10に記載のアミノ酸配列を含むペプチドである。これらペプチドを、例えば、リンカー等により連結することで、機能的な抗体を作製することが可能である。
また本発明は、上述の抗体が結合するエピトープと同じエピトープに結合する抗体も提供する。
被験抗体が、ある抗体とエピトープを共有するか否かは、両者の同じエピトープに対する競合によって確認することができる。抗体間の競合は、交叉ブロッキングアッセイなどによって検出される。例えば競合ELISAアッセイは、好ましい交叉ブロッキングアッセイである。
具体的には、交叉ブロッキングアッセイにおいては、マイクロタイタープレートのウェル上にコートしたICAM3タンパク質を、候補の競合抗体の存在下、または非存在下でプレインキュベートした後に、本発明の抗ICAM3抗体が添加される。ウェル中のICAM3タンパク質に結合した本発明の抗ICAM3抗体の量は、同じエピトープへの結合に対して競合する候補競合抗体(被験抗体)の結合能に間接的に相関している。すなわち、同一エピトープに対する被験抗体の親和性が大きくなればなる程、本発明の抗ICAM3抗体のICAM3タンパク質をコートしたウェルへの結合量は低下し、一方、被験抗体のICAM3タンパク質をコートしたウェルへの結合量は増加する。
ウェルに結合した抗体量は、予め抗体を標識しておくことによって、容易に測定することができる。例えば、ビオチン標識された抗体は、アビジンペルオキシダーゼコンジュゲートと適切な基質を使用することにより測定できる。ペルオキシダーゼなどの酵素標識を利用した交叉ブロッキングアッセイを、特に競合ELISAアッセイと言う。抗体は、検出あるいは測定が可能な他の標識物質で標識することができる。具体的には、放射標識あるいは蛍光標識などが公知である。
さらに被験抗体が本発明の抗ICAM3抗体と異なる種に由来する定常領域を有する場合には、ウェルに結合した抗体を、いずれかの定常領域を認識する標識抗体によって測定することもできる。あるいは同種由来の抗体であっても、クラスが相違する場合には、各クラスを識別する抗体によって、ウェルに結合した抗体を測定することができる。
競合抗体の非存在下で実施される対照試験において得られる結合活性と比較して、候補抗体が、少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、さらに好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも80%、抗ICAM3抗体の結合をブロックできるならば、該候補抗体は本発明の抗ICAM3抗体と実質的に同じエピトープに結合するか、または同じエピトープへの結合に対して競合する抗体である。
本発明の抗体は高い細胞増殖抑制活性、細胞死誘導活性、細胞傷害活性(例えば、ADCC活性)、および/または抗腫瘍活性を発揮することが可能であるので、医薬品、特に抗癌剤として有用である。
[抗ICAM3抗体の作製]
1. モノクローナル抗体産生ハイブリドーマによる抗ICAM3抗体の作製
モノクローナル抗体産生ハイブリドーマは、公知技術にしたがい、以下のようにして作製できる。まず、ICAM3タンパク質、あるいは後述するその部分ペプチドを感作抗原として使用し、通常の免疫方法にしたがって動物を免疫する。得られた免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させてハイブリドーマを得る。さらにこのハイブリドーマから、通常のスクリーニング法により、目的とする抗体を産生する細胞をスクリーニングすることによって抗ICAM3抗体を産生するハイブリドーマを選択する。選択したハイブリドーマから所望の抗ICAM3モノクローナル抗体を得る。具体的には、以下のようにして行う。
(1)ICAM3タンパク質の調製
まず、ICAM3遺伝子を発現させることによって、抗体取得の感作抗原として使用されるICAM3タンパク質が取得できる。すなわち、ICAM3をコードする遺伝子配列を公知の発現ベクターに挿入して適当な宿主細胞を形質転換させた後、その宿主細胞中または培養上清中から、目的のヒトICAM3タンパク質を公知の方法で精製する。精製した天然のICAM3タンパク質、あるいは、ICAM3タンパク質の所望の部分ポリペプチドを異なるポリペプチドと融合した融合タンパク質を免疫原として利用することもできる。免疫原とする融合タンパク質を製造するために、例えば、抗体のFc断片やペプチドタグなどを利用することができる。融合タンパク質を発現するベクターは、所望の二種類またはそれ以上のポリペプチド断片をコードする遺伝子をインフレームで融合させ、該融合遺伝子を発現ベクターに挿入することにより作製することができる。融合タンパク質の作製方法はMolecular Cloning 2nd ed.(Sambrook,J et al., Molecular Cloning 2nd ed., 9.47-9.58, Cold Spring Harbor Lab. press, 1989)に記載されている。
このようにして精製されたICAM3タンパク質を、哺乳動物に対する免疫に使用する感作抗原として使用できる。ICAM3の部分ペプチドもまた感作抗原として使用できる。例えば、次のようなペプチドを感作抗原とすることができる。
部分ペプチドとして用いるICAM3の領域および大きさは限定されない。感作抗原とするペプチドを構成するアミノ酸の数は、少なくとも3以上、例えば、5以上、あるいは6以上であることが好ましい。より具体的には、8〜50、好ましくは10〜30残基のペプチドを感作抗原とすることができる。
(2)ICAM3タンパク質による免疫
ICAM3タンパク質あるいはその部分ペプチドを感作抗原として、哺乳動物を免疫する。免疫される哺乳動物は、特に限定されないが、モノクローナル抗体を細胞融合法によって得るためには、細胞融合に使用する親細胞との適合性を考慮して免疫動物を選択するのが好ましい。一般的には、げっ歯類の動物が免疫動物として好ましい。具体的には、マウス、ラット、ハムスター、あるいはウサギを免疫動物とすることができる。その他、サル等を免疫動物とすることもできる。
上記の動物は、公知の方法にしたがい、感作抗原により免疫できる。例えば、一般的方法として、感作抗原を腹腔内または皮下に注射することにより哺乳動物を免疫することができる。具体的には、該感作抗原が哺乳動物に4から21日毎に数回投与される。感作抗原は、PBS(Phosphate-Buffered Saline、リン酸緩衝食塩水)や生理食塩水等で適当な希釈倍率で希釈して免疫に使用される。さらに、感作抗原をアジュバントとともに投与してもよい。例えば、フロイント完全アジュバントと混合し、乳化して、感作抗原とすることができる。また、感作抗原の免疫時には適当な担体が使用できる。特に分子量の小さい部分ペプチドが感作抗原として用いられる場合には、該感作抗原ペプチドをアルブミン、キーホールリンペットヘモシアニン等の担体タンパク質と結合させて免疫することが望ましい。
(3)DNA免疫
モノクローナル抗体は、DNA免疫(DNA Immunization)によっても得ることができる。DNA免疫とは、免疫動物中で抗原タンパク質をコードする遺伝子が発現できるような態様で構築されたベクターDNAを当該免疫動物に投与し、免疫抗原を免疫動物の生体内で発現させることによって、免疫刺激を与える方法である。蛋白質抗原を投与する一般的な免疫方法と比べて、DNA免疫には、次のような優位性を期待できる。
・ICAM3のような膜蛋白質の構造を維持して免疫刺激を与えることができる。
・免疫抗原を精製する必要が無い。
DNA免疫によって本発明のモノクローナル抗体を得るには、まず、ICAM3タンパク質を発現するDNAを免疫動物に投与する。ICAM3をコードするDNAは、PCRなどの公知の方法によって合成することができる。得られたDNAを適当な発現ベクターに挿入し、免疫動物に投与する。発現ベクターとしては、例えば、pcDNA3.1などの市販の発現ベクターを利用することができる。ベクターを生体に投与する方法も、一般に用いられている方法を利用することができる。例えば、発現ベクターを吸着させた金粒子を、遺伝子銃(gene gun)で細胞内に打ち込むことによってDNA免疫を行うことができる。
(4)ハイブリドーマの作製
上述のように哺乳動物が免疫され、血清中における所望の抗体量の上昇が確認された後に、哺乳動物から免疫細胞が採取され、細胞融合に付される。好ましい免疫細胞としては、特に脾細胞が使用できる。
上記の免疫細胞と融合される細胞として、哺乳動物のミエローマ細胞が用いられる。ミエローマ細胞は、スクリーニングのための適当な選択マーカーを備えていることが好ましい。選択マーカーとは、特定の培養条件の下で生存できる(あるいはできない)形質を指す。選択マーカーには、ヒポキサンチン−グアニン−ホスホリボシルトランスフェラーゼ欠損(以下、「HGPRT欠損」と省略する)、あるいはチミジンキナーゼ欠損(以下、「TK欠損」と省略する)などが公知である。HGPRTやTKの欠損を有する細胞は、ヒポキサンチン−アミノプテリン−チミジン感受性(以下、「HAT感受性」と省略する)を有する。HAT感受性の細胞はHAT選択培地中でDNA合成を行うことができず死滅するが、正常な細胞と融合すると正常細胞のサルベージ回路を利用してDNAの合成を継続することができるためHAT選択培地中でも増殖するようになる。
HGPRT欠損やTK欠損の細胞は、それぞれ6チオグアニン、8アザグアニン(以下、「8AG」と省略する)、あるいは5'ブロモデオキシウリジンを含む培地で選択することができる。正常な細胞はこれらのピリミジンアナログをDNA中に取り込んでしまうので死滅するが、これらの酵素を欠損した細胞は、これらのピリミジンアナログを取り込めないので選択培地の中で生存することができる。この他、G418耐性と呼ばれる選択マーカーは、ネオマイシン耐性遺伝子によって2-デオキシストレプタミン系抗生物質(ゲンタマイシン類似体)に対する耐性を与える。細胞融合に好適な種々のミエローマ細胞が公知である。例えば、以下のようなミエローマ細胞を、本発明におけるモノクローナル抗体の製造に利用することができる。
P3(P3x63Ag8.653)(J. Immunol.(1979)123, 1548-1550)、P3x63Ag8U.1(Current Topics in Microbiology and Immunology(1978)81, 1-7)、NS-1(Kohler. G. and Milstein, C. Eur. J. Immunol.(1976)6, 511-519)、MPC-11(Margulies. D.H. et al., Cell(1976)8, 405-415)、SP2/0(Shulman, M. et al., Nature(1978)276, 269-270)、FO(de St. Groth, S. F. etal., J. Immunol. Methods(1980)35, 1-21)、S194(Trowbridge, I. S. J. Exp. Med.(1978)148, 313-323)、R210(Galfre, G. et al., Nature(1979)277, 131-133)等。
基本的には公知の方法、例えば、ケーラーとミルステインらの方法(Kohler. G. and Milstein, C.、Methods Enzymol.(1981)73, 3-46)等に準じて、免疫細胞とミエローマ細胞との細胞融合が行われる。
より具体的には、例えば細胞融合促進剤の存在下で通常の栄養培養液中で、細胞融合が実施できる。融合促進剤としては、例えばポリエチレングリコール(PEG)、センダイウイルス(HVJ)等を使用することができる。さらに融合効率を高めるために所望によりジメチルスルホキシド等の補助剤を加えることもできる。
免疫細胞とミエローマ細胞との使用割合は任意に設定できる。例えば、ミエローマ細胞に対して免疫細胞を1から10倍とするのが好ましい。細胞融合に用いる培養液としては、例えば、ミエローマ細胞株の増殖に好適なRPMI1640培養液、MEM培養液、その他、この種の細胞培養に用いられる通常の培養液を利用することができる。さらに、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を培養液に添加することができる。
細胞融合は、免疫細胞とミエローマ細胞との所定量を培養液中でよく混合し、予め37℃程度に加温したPEG溶液を混合することによって目的とする融合細胞(ハイブリドーマ)が形成される。細胞融合法においては、例えば平均分子量1000から6000程度のPEGを、通常30から60%(w/v)の濃度で添加することができる。続いて、上記に挙げた適当な培養液を逐次添加し、遠心して上清を除去する操作を繰り返すことによりハイブリドーマの生育に好ましくない細胞融合剤等が除去される。
このようにして得られたハイブリドーマは、細胞融合に用いられたミエローマが有する選択マーカーに応じた選択培養液を利用することによって選択することができる。例えばHGPRTやTKの欠損を有する細胞は、HAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培養液)で培養することにより選択できる。すなわち、HAT感受性のミエローマ細胞を細胞融合に用いた場合、HAT培養液中で、正常細胞との細胞融合に成功した細胞を選択的に増殖させることができる。目的とするハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間、上記HAT培養液を用いた培養が継続される。具体的には、一般に、数日から数週間の培養によって、目的とするハイブリドーマを選択することができる。次いで、通常の限界希釈法を実施することによって、目的とする抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングおよび単一クローニングが実施できる。
目的とする抗体のスクリーニングおよび単一クローニングは、公知の抗原抗体反応に基づくスクリーニング方法によって好適に実施できる。例えば、ポリスチレン等でできたビーズや市販の96ウェルのマイクロタイタープレート等の担体に抗原を結合させ、ハイブリドーマの培養上清と反応させる。次いで担体を洗浄した後に酵素で標識した二次抗体等を反応させる。培養上清中に感作抗原と反応する目的とする抗体が含まれる場合、二次抗体はこの抗体を介して担体に結合する。最終的に担体に結合する二次抗体を検出することによって、目的とする抗体が培養上清中に存在しているかどうかが決定できる。抗原に対する結合能を有する所望の抗体を産生するハイブリドーマを限界希釈法等によりクローニングすることが可能となる。この際、抗原としては免疫に用いたものを始め、実質的に同質なICAM3タンパク質が好適に使用できる。例えば、ICAM3を発現する細胞株、可溶型ICAM3などを抗原として利用することができる。
ヒトICAM3に対する抗体の産生には、国際公開第03/104453号パンフレットに記載された方法を利用することもできる。
また、ヒト以外の動物に抗原を免疫することによって上記ハイブリドーマを得る方法以外に、ヒトリンパ球を抗原感作して目的とする抗体を得ることもできる。具体的には、まずインビトロにおいてヒトリンパ球をICAM3タンパク質で感作する。次いで、免疫感作されたリンパ球を適当な融合パートナーと融合させる。融合パートナーには、例えば、ヒト由来であって永久分裂能を有するミエローマ細胞を利用することができる(特公平1-59878号公報参照)。
さらに、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物に対して抗原となるICAM3タンパク質を投与するか、またはICAM3を当該動物中において発現するように構築されたDNAによって免疫することによって、抗ICAM3ヒト抗体を得ることもできる。免疫動物の抗体産生細胞は、適当な融合パートナーとの細胞融合やエプスタインバーウイルスの感染などの処理によって不死化させることができる。このようにして得られた不死化細胞から、ICAM3タンパク質に対するヒト抗体を単離することができる(国際公開第94/25585号パンフレット、国際公開第93/12227号パンフレット、国際公開第92/03918号パンフレット、国際公開第94/02602号パンフレット参照)。さらに不死化された細胞をクローニングすることにより、目的の反応特異性を有する抗体を産生する細胞をクローニングすることもできる。トランスジェニック動物を免疫動物とするときには、当該動物の免疫システムは、ヒトICAM3を異物と認識する。したがって、ヒトICAM3に対するヒト抗体を容易に得ることができる。
(5)ハイブリドーマからのモノクローナル抗体の取得
以上のようにして作製されるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、通常の培養液中で継代培養することができる。また、該ハイブリドーマを液体窒素中で長期にわたって保存することもできる。
目的とするモノクローナル抗体は、ハイブリドーマを通常の方法に従い培養し、その培養上清から得ることができる。あるいはハイブリドーマをこれと適合性がある哺乳動物に投与して増殖させ、その腹水としてモノクローナル抗体を得ることもできる。前者の方法は、高純度の抗体を得るのに適している。
2. 遺伝子工学的手法による抗ICAM3抗体の作製
(1)抗体遺伝子のクローニング
抗体産生細胞からクローニングされた抗体遺伝子を利用することにより、遺伝子工学的手法を用いて、抗体を作製することもできる。クローニングした抗体遺伝子は、適当なベクターに組み込んで宿主に導入することによって抗体として発現させることができる。抗体遺伝子の単離と、ベクターへの導入、そして宿主細胞の形質転換のための方法は既に確立されている(例えば、Vandamme, A. M. et al., Eur.J. Biochem.(1990)192, 767-775参照)。
例えば、抗ICAM3抗体を産生するハイブリドーマ細胞から、抗ICAM3抗体の可変領域をコードするcDNAを得ることができる。そのためには、通常、まずハイブリドーマから全RNAが抽出される。細胞からmRNAを抽出するための方法として、例えば、次のような方法を利用することができる。
・グアニジン超遠心法(Chirgwin, J. M. et al., Biochemistry(1979)18, 5294-5299)
・AGPC法(Chomczynski, P.et al., Anal. Biochem.(1987)162, 156-159)
抽出されたmRNAは、mRNA Purification Kit(GEヘルスケアバイオサイエンス製)等を使用して精製することができる。あるいは、QuickPrep mRNA Purification Kit(GEヘルスケアバイオサイエンス製)などのように、細胞から直接全mRNAを抽出するためのキットも市販されている。このようなキットを用いて、ハイブリドーマから全mRNAを得ることもできる。得られたmRNAから逆転写酵素を用いて抗体可変領域をコードするcDNAを合成することができる。その際、抗体遺伝子に共通な配列より選び出した任意の15-30塩基の配列をプライマーとして用いることができる。cDNAは、AMV Reverse Transcriptase First-strand cDNA Synthesis Kit(生化学工業社製)等によって合成することができる。また、cDNAの合成および増幅のために、5’-Ampli FINDER RACE Kit(Clontech製)およびPCRを用いた5’-RACE法(Frohman, M. A. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA(1988)85, 8998-9002、Belyavsky, A.et al., Nucleic Acids Res.(1989)17, 2919-2932)を利用することができる。さらに、こうしたcDNAの合成の過程において、cDNAの両末端に後述する適切な制限酵素サイトが導入できる。
得られたPCR産物から目的とするcDNA断片が精製され、次いで、ベクターDNAと連結される。このように組換えベクターが作製され、大腸菌等に導入されコロニーが選択された後に、該コロニーを形成した大腸菌から所望の組換えベクターが調製できる。そして、cDNAの塩基配列を、公知の方法、例えば、ジデオキシヌクレオチドチェインターミネーション法等により確認することができる。
また、抗体の可変領域をコードする遺伝子を得るために、cDNAライブラリーを利用することもできる。まず、抗体産生細胞から抽出されたmRNAを鋳型としてcDNAを合成し、cDNAライブラリーを得る。cDNAライブラリーの合成には市販のキットを用いるのが便利である。実際には、少数の細胞のみから得られるmRNAは極めて微量なので、それを直接精製すると収率が低い。したがって、通常は、抗体遺伝子を含まないことが明らかなキャリアRNAを添加した後にmRNAを精製する。あるいは抗体産生細胞から一定量のRNAを抽出できる場合には、キャリアRNAを添加しなくても効率よく抽出することができる。例えば、10以上、あるいは30以上、好ましくは50以上の抗体産生細胞からのRNA抽出には、キャリアRNAの添加は必要でない場合がある。
得られたcDNAライブラリーを鋳型として、PCR法によって抗体遺伝子が増幅される。抗体遺伝子をPCR法によって増幅するためのプライマーが公知である。例えば、論文(J. Mol. Biol. (1991) 222, 581-597)などの開示に基づいて、ヒト抗体遺伝子増幅用のプライマーをデザインすることができる。これらのプライマーは、イムノグロブリンのサブクラスごとに異なる塩基配列をもつ。したがって、サブクラスが不明のcDNAライブラリーを鋳型とするときには、あらゆる可能性を考慮してプライマーを選択してPCR法が行われる。
具体的には、例えば、ヒトIgGをコードする遺伝子の取得を目的とするときには、重鎖としてγ1〜γ5、軽鎖としてκ鎖とλ鎖をコードする遺伝子の増幅が可能なプライマーを利用することができる。IgGの可変領域遺伝子を増幅するためには、一般に3'側のプライマーには、ヒンジ領域に相当する部分にアニールするプライマーが利用される。一方、5'側のプライマーには、各サブクラスに応じたプライマーを用いることができる。
重鎖と軽鎖の各サブクラスの遺伝子増幅用プライマーによるPCR産物は、それぞれ独立したライブラリーとする。こうして合成されたライブラリーを利用して、重鎖と軽鎖の組み合せからなるイムノグロブリンを再構成することができる。再構成されたイムノグロブリンの、ICAM3に対する結合活性を指標として、目的とする抗体をスクリーニングすることができる。
(2)宿主細胞への抗体遺伝子の導入
抗ICAM3抗体を製造するために、クローニングされた抗体遺伝子を、発現制御領域の制御下で発現するように発現ベクターに組み込む。抗体を発現するための発現制御領域とは、例えば、エンハンサーやプロモーターを含む。次いで、この発現ベクターで適当な宿主細胞を形質転換することによって、抗ICAM3抗体をコードするDNAを発現する組換え細胞を得ることができる。
抗体遺伝子の発現にあたり、抗体重鎖および軽鎖をコードするDNAは、それぞれ別の発現ベクターに組み込むことができる。重鎖と軽鎖が組み込まれたベクターを、同じ宿主細胞に同時に形質転換(co-transfect)することによって、重鎖と軽鎖を備えた抗体分子を発現させることができる。あるいは重鎖および軽鎖をコードするDNAを単一の発現ベクターに組み込んで宿主細胞を形質転換させてもよい(国際公開第94/11523号パンフレット参照)。
単離した抗体遺伝子を適当な宿主に導入して抗体を作製するための宿主と発現ベクターの多くの組み合わせが公知である。これらの発現系は、いずれも本発明に応用することができる。真核細胞を宿主として使用する場合、動物細胞、植物細胞、あるいは真菌細胞が使用できる。具体的には、本発明に利用することができる動物細胞としては、CHO、COS、ミエローマ、BHK(baby hamster kidney)、Hela、Vero、HEK293、Ba/F3、HL-60、Jurkat、SK-HEP1などの哺乳動物細胞、アフリカツメガエル卵母細胞などの両生類細胞、sf9、sf21、Tn5などの昆虫細胞を例示することができる。
植物細胞としては、ニコティアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)などのニコティアナ(Nicotiana)属由来の細胞による抗体遺伝子の発現系が公知である。植物細胞の形質転換には、カルス培養した細胞を利用することができる。
さらに、真菌細胞としては、次のような細胞を利用することができる。例えば、酵母ととしては、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces serevisiae)などのサッカロミセス(Saccharomyces)属に属する酵母、メタノール資化酵母(Pichia pastoris)などのPichia属に属する酵母が挙げられる。また、糸状菌としては、:スペスギルス・ニガー(Aspergillus niger)などのアスペルギルス(Aspergillus)属に属する糸状菌が挙げられる。
あるいは原核細胞を利用した抗体遺伝子の発現系も公知である。例えば、細菌細胞を用いる場合、大腸菌(E.coli)、枯草菌などの細菌細胞を本発明に利用することができる。
哺乳類細胞を用いる場合、常用される有用なプロモーター、発現させる抗体遺伝子、該遺伝子の3’側下流に機能的に結合させたポリAシグナルを含む構築物を用いて発現させることができる。該構築物は、さらに、エンハンサーを含んでいてもよい。プロモーター/エンハンサーとしては、例えば、ヒトサイトメガロウイルス前期プロモーター/エンハンサー(human cytomegalovirus immediate early promoter/enhancer)を挙げることができる。
また、その他に、ウイルスプロモーター/エンハンサー、あるいはヒトエロンゲーションファクター1α(HEF1α)などの哺乳類細胞由来のプロモーター/エンハンサー等を、抗体発現のために使用することができる。プロモーター/エンハンサーを利用することができるウイルスとして、具体的には、レトロウイルス、ポリオーマウイルス、アデノウイルス、シミアンウイルス40(SV40)等を示すことができる。
SV40プロモーター/エンハンサーを使用する場合は、Mulliganらの方法(Nature(1979)277, 108)を利用することができる。また、HEF1αプロモーター/エンハンサーは、Mizushimaらの方法(Nucleic Acids Res.(1990)18, 5322)により、容易に目的とする遺伝子発現に利用することができる。
動物細胞を用いて抗体を産生させる場合に、細胞外への分泌のために必要とされるシグナル配列としては、抗体の重鎖遺伝子または軽鎖遺伝子のシグナル配列を用いることが望ましい。また、IL-3やIL-6などの分泌タンパク質が有するシグナル配列を用いることも可能である。
大腸菌の場合、常用される有用なプロモーター、抗体分泌のためのシグナル配列、および発現させる抗体遺伝子が機能的に結合されている構築物を用いて、該遺伝子を発現させることができる。プロモーターとしては、例えば、lacZプロモーター、araBプロモーターを挙げることができる。lacZプロモーターを使用する場合は、Wardらの方法(Nature(1989)341, 544-546 ; FASEBJ.(1992)6, 2422-2427)を利用することができる。あるいはaraBプロモーターは、Betterらの方法(Science(1988)240, 1041-1043)により、目的とする遺伝子の発現に利用することができる。
抗体分泌のためのシグナル配列としては、大腸菌のペリプラズムに産生させる場合、pelBシグナル配列(Lei, S. P. et al., J. Bacteriol.(1987)169, 4379)を使用すればよい。そして、ペリプラズムに産生された抗体を分離した後、尿素やグアニジン塩酸塩などのタンパク質変性剤を使用することによって、所望の結合活性を有するように、抗体の構造を組み直すことができる(リフォールディング)。
発現ベクターに挿入される複製起源としては、SV40、ポリオーマウイルス、アデノウイルス、ウシパピローマウイルス(BPV)等に由来するものを用いることができる。さらに、宿主細胞系で遺伝子コピー数増幅のため、発現ベクター中に、選択マーカーを挿入することができる。具体的には、アミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ(APH)遺伝子、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、大腸菌キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Ecogpt)遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)遺伝子等のような選択マーカーを利用することができる。
(3)宿主細胞からの抗体の取得
これらの発現ベクターを宿主細胞に導入し、次に、形質転換された宿主細胞をインビトロまたはインビボで培養して目的とする抗体を産生させる。宿主細胞の培養は公知の方法に従って行うことができる。例えば、培養液として、DMEM、MEM、RPMI1640、IMDMを使用することができ、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできる。
上述のように発現させ、産生させた抗体は、通常のタンパク質の精製で使用されている公知の方法を単独で使用することによってまたは適宜組み合わせることによって精製できる。例えば、プロテインAカラムなどのアフィニティーカラム、クロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、透析等を適宜選択、組み合わせることにより、抗体を分離、精製することができる(Antibodies A Laboratory Manual. Ed Harlow, David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)。
従って、本発明は、本発明の抗体をコードする遺伝子を提供する。さらに本発明は、当該遺伝子を含むベクターを提供する。さらに本発明は、当該ベクターを保持する宿主細胞を提供する。さらに本発明は、当該宿主細胞を培養する工程を含む、当該遺伝子によりコードされる抗体を製造する方法を提供する。
3.トランスジェニック動物による抗体産生
組換え型抗体の産生には、上記宿主細胞の他、トランスジェニック動物を利用することもできる。すなわち、目的とする抗体をコードする遺伝子を導入された動物から、目的とする抗体を得ることができる。例えば、抗体遺伝子は、乳汁中に固有に産生されるタンパク質をコードする遺伝子の内部にインフレームで挿入することによって融合遺伝子として構築できる。乳汁中に分泌されるタンパク質として、例えば、ヤギβカゼインなどを利用することができる。抗体遺伝子が挿入された融合遺伝子を含むDNA断片はヤギの胚へ注入され、該注入胚が雌のヤギへ導入される。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギ(またはその子孫)が産生する乳汁からは、所望の抗体を乳汁タンパク質との融合タンパク質として取得できる。また、トランスジェニックヤギから産生される所望の抗体を含む乳汁量を増加させるために、ホルモンがトランスジェニックヤギに適宜使用できる(Ebert, K.M. et al., Bio/Technology(1994)12, 699-702)。
[医薬組成物]
抗ICAM3抗体は、ICAM3を発現する癌の治療などに有用である。すなわち、本発明は、抗ICAM3抗体を有効成分として含有する医薬組成物を提供する。ある実施形態において、本発明の医薬組成物は、細胞増殖抑制剤、特に抗癌剤である。本発明の細胞増殖抑制剤および抗癌剤は、癌を罹患している対象または罹患している可能性がある対象に投与されることが好ましい。
本発明の医薬組成物(例えば、抗癌剤)において用いられる抗ICAM3抗体は特に限定されず、例えば、上述した任意の抗ICAM3抗体を用いることができる。
本発明において、「抗ICAM3抗体を有効成分として含有する」とは、抗ICAM3抗体を主要な活性成分として含むという意味であり、抗ICAM3抗体の含有率を制限するものではない。
本発明の医薬組成物が対象とする疾患が癌の場合、対象となる癌は特に限定されないが、白血病(例えば、急性骨髄性白血病など)や骨髄腫、悪性リンパ腫であることが好ましい。癌は、原発巣および転移巣のいずれであってもよい。
本発明の医薬組成物は、経口投与および非経口投与のいずれかによって患者に投与することができる。好ましくは非経口投与である。投与方法としては具体的には、注射投与、経鼻投与、経肺投与、経皮投与などが挙げられる。注射投与の例としては、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などが挙げられる。これら投与方法を実施することによって、本発明の医薬組成物を全身または局部的に投与することができる。また、患者の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。投与量としては、例えば、一回の投与につき体重1kgあたり0.0001mgから1000mgの範囲で投与量が選択できる。あるいは、例えば、患者あたり0.001から100000mgの範囲で投与量が選択できる。しかしながら、本発明の医薬組成物はこれらの投与量に制限されるものではない。
本発明の医薬組成物は、常法に従って製剤化することができ(例えば、Remington's Pharmaceutical Science, latest edition, Mark Publishing Company, Easton, U.S.A)、有効成分以外に、医薬的に許容される担体や添加物を共に含むものであってもよい。担体や添加物としては、例えば、界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等が挙げられる。さらにこれらに制限されず、その他常用の担体や添加物が適宜使用できる。具体的には、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を担体として挙げることができる。
本発明の抗ICAM3抗体は、ICAM3発現細胞と接触させることにより、該細胞の細胞死を誘導する、傷害を引き起こす、および/または細胞の増殖を抑制することができる。本発明において「接触」は、例えば、試験管内で培養しているICAM3発現細胞の培養液に抗体を添加することにより行われる。また本発明において「接触」はさらに、ICAM3発現細胞を体内に移植した非ヒト動物や内在的にICAM3を発現する癌細胞を有する動物に投与することによっても行われる。本発明の抗ICAM3抗体のこうした利用方法も、本発明の範囲である。用いられる抗ICAM3抗体は、特に限定されず、例えば、上述した任意の抗ICAM3抗体を用いることが可能である。抗ICAM3抗体が結合する細胞はICAM3が発現している細胞であれば特に限定されない。本発明における好ましいICAM3発現細胞は、癌細胞である。本発明の抗ICAM3抗体は、より好ましくは、白血病または骨髄腫、悪性リンパ腫に対して適用される。
[診断薬(診断方法)]
また、本発明はICAM3タンパク質またはICAM3タンパク質をコードする遺伝子を検出することを特徴とする癌の診断方法を提供する。ICAM3は癌細胞株、特に白血病(例えば急性骨髄性白血病など)や骨髄腫、において顕著な発現亢進が確認されている。したがって、ICAM3は、癌を特異的に検出するためのマーカーとして有用である。
本発明の診断方法の具体例の一つとして、被験者から単離された試料を提供する工程、および、該試料におけるICAM3タンパク質またはICAM3遺伝子の発現量を検出する工程、を含む癌の診断方法を挙げることができる。本発明の方法においては、さらに、該ICAM3タンパク質またはICAM3遺伝子の発現量に基づいて、被験者が癌である可能性を評価する工程、を含んでも良い。
(1)ICAM3タンパク質の検出
本発明の方法の1つの態様においては、試料中のICAM3タンパク質を検出することにより癌の診断が行われる。ICAM3タンパク質の検出は、ICAM3タンパク質を認識する抗体を用いて行われることが好ましい。
本発明において検出とは、定量的または定性的な検出を含む意である。定性的な検出としては、例えば、単にICAM3タンパク質が存在するか否かの測定、ICAM3タンパク質が一定の量以上存在するか否かの測定、ICAM3タンパク質の量を他の試料(例えば、対照試料など)と比較する測定などを挙げることができる。一方、定量的な検出としては、例えば、ICAM3タンパク質の濃度の測定、ICAM3タンパク質の量の測定などを挙げることができる。
本発明における被検試料は、ICAM3タンパク質が含まれる可能性のある試料であれば特に制限されない。具体的には、哺乳類などの生物の体から採取された試料が好ましい。さらに好ましい試料は、ヒトから採取された試料である。被検試料の具体的な例としては、血液、間質液、血漿、血管外液、脳脊髄液、滑液、胸膜液、血清、リンパ液、唾液、尿、組織などが挙げられる。好ましい試料は、生物の体から採取された組織もしくは細胞が固定化された標本または細胞の培養液などの被検試料から得られる試料である。
本発明によって診断される癌は、特に制限されることはなく如何なる癌でもよい。具体的には、白血病(例えば、急性骨髄性白血病など)や骨髄腫を挙げることができる。本発明においては、原発病巣および転移病巣のいずれをも診断することができる。
本発明においては、被検試料中にタンパク質が検出された場合に、そのレベルを指標として癌が診断される。具体的には、陰性対照または健常者と比較して被検試料中に検出されるICAM3タンパク質の量が多い場合に、被検者が癌である、または将来癌を羅患する可能性が高いことが示される。すなわち本発明は、被検者から採取された生体試料中のICAM3発現レベルを検出する工程(工程(1))、および、該工程で検出されたICAM3の発現レベルが、対照と比較して高い場合に被検者が癌を有すると判定される工程(工程(2))、を含む癌の診断方法に関する。
本発明において、対照とは、比較の基準となる試料をいい、陰性対照や健常者の生体試料が含まれる。陰性対照は、健常者の生体試料を採取し、必要に応じて混合することによって得ることができる。対照のICAM3の発現レベルは、被検者の生体試料におけるICAM3の発現レベルと併行して検出することができる。あるいは、予め、多数の健常者の生体試料におけるICAM3の発現レベルを検出し、健常者における標準的な発現レベルを統計学的に決定し、決定した標準値を対照値として用いることができる。具体的には、例えば、平均値±2×標準偏差(S.D.)、あるいは平均値±3×標準偏差(S.D.)を標準値とすることができる。統計学的に、平均値±2×標準偏差(S.D.)は80%の、また平均値±3×標準偏差(S.D.)は90%の健常者の値を含む。
あるいは、対照におけるICAM3の発現レベルを、ROC曲線を利用して設定することができる。ROC曲線(receiver operating characteristic curve;受信者操作特性曲線)は、縦軸に検出感度を、横軸に擬陽性率(すなわち"1-特異度")を示すグラフである。本発明においては、生体試料中のICAM3の発現レベルを判定するための基準値を連続的に変化させたときの、感度と擬陽性率の変化をプロットすることによって、ROC曲線を得ることができる。
なお、ROC曲線を得るための「基準値」は、統計学的な解析のために一時的に利用される数値である。ROC曲線を得るための「基準値」は、一般的には、選択しうる全ての基準値をカバーできる範囲内で、連続的に変化させられる。例えば、解析される集団のICAM3の測定値の最小値と最大値の間で、基準値を変化させることができる。
得られたROC曲線に基づいて、所望の検出感度、ならびに精度を期待できる標準値を選択することができる。ROC曲線などによって統計学的に設定された標準値は、カットオフ値(cut-off value)とも呼ばれる。カットオフ値に基づく癌の検出方法においては、上記工程(2)において、工程(1)で検出されたICAM3の発現レベルが、カットオフ値と比較される。そして、カットオフ値よりも、工程(1)で検出されたICAM3の発現レベルが高いときに、被検者の癌が検出される。
本発明において、ICAM3の発現レベルは、任意の方法によって決定することができる。具体的には、ICAM3のmRNAの量、ICAM3タンパク質の量、またはICAM3タンパク質の生物学的な活性を評価することによって、ICAM3の発現レベルを知ることができる。ICAM3のmRNAやタンパク質の量は、本明細書に記載したような方法によって決定することができる。
本発明においては、特に好適な被検者はヒトである。なおヒト以外の動物を被験者とするときは、当該動物種のICAM3タンパク質が検出される。被検試料に含まれるICAM3タンパク質の検出方法は、特に限定されないが、抗ICAM3抗体を用いた、以下に例示されるような免疫学的方法により検出することが好ましい。
酵素結合免疫吸着法(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、エンザイムイムノアッセイ(EIA)、蛍光イムノアッセイ(FIA)、発光イムノアッセイ(LIA)、免疫沈降法(IP)、免疫比濁法(TIA)、ウエスタンブロット(WB)、免疫組織化学(IHC)法、免疫拡散法(SRID)、ドットブロット法、スロットブロット法。
これらの手法の中で、免疫組織化学(IHC)法は、癌に羅患した患者から取得した組織もしくは細胞を固定化した切片上でICAM3タンパク質を検出する工程を含み、癌の診断方法として好ましい免疫学的アッセイ法の一つである。免疫組織化学(IHC)法などの上述した免疫学的方法は当業者に公知の方法である。
ICAM3は、癌細胞において特異的に発現が増強している膜タンパク質であることから、抗ICAM3抗体によって、癌細胞(癌組織中の癌細胞を含む)を検出することができる。上記の免疫組織学的な解析によって、生体から採取された細胞や組織に含まれる癌細胞が検出される。
別な好ましい態様では、生体内の癌細胞を抗ICAM3抗体によって検出することもできる。生体内に投与した抗体を追跡するために、検出可能に標識された抗ICAM3抗体を用いることができる。この方法は、具体的には、放射性同位元素等の標識物質で標識された抗ICAM3抗体を被検者に投与する工程と、該標識物質の集積を検出する工程を含む。例えば、標識物質として、蛍光物質や発光物質、あるいは放射性同位元素を用い、これらで標識された抗体の生体における挙動を追跡することで、生体内の癌細胞を検出することができる。蛍光物質や発光物質で標識された抗体は、内視鏡や腹腔鏡を利用して観察することができる。標識物質として放射性同位元素を用いた場合、その放射活性を追跡することによって、抗体の局在を画像化することができる。本発明において、生体内における抗ICAM3抗体の局在は、癌細胞の存在を表している。
生体内の癌を検出するために抗体を標識する放射性同位元素として、陽電子放出核種を利用することができる。例えば、18F、55Co、64Cu、66Ga、68Ga、76Br、89Zr、および124Iのような陽電子放出核種で抗体を標識することができる。これらの陽電子放出核種による抗ICAM3抗体の標識には、公知の方法(Acta Oncol. 32, 825-830, 1993)を利用することができる。
陽電子放出核種で標識された抗ICAM3抗体がヒトや動物に投与された後に、PET(ポジトロン断層撮影装置)により、その放射性核種から放射される放射線を体外から計測し、コンピュータートモグラフィーの手法で画像に変換される。PETは、薬物の体内挙動などに関するデータを非侵襲的に得るための装置である。PETによって、放射強度をシグナル強度として定量的に画像化することができる。上記のようにPETを使用することによって、患者から試料を採取することなく特定の癌で高発現する抗原分子が検出できる。抗ICAM3抗体は、上記の核種の他に11C、13N、15O、18F、45Ti等の陽電子放出核種を用いた短寿命核種によって放射標識することもできる。
医療用サイクロトロンによる上記核種を用いた短寿命核種の生産、短寿命放射標識化合物の製造技術等に関する研究開発が進められている。これらの技術により抗ICAM3抗体を種々の放射性同位元素によって標識することができる。患者に投与された抗ICAM3抗体は、各部位の病理組織に対する抗ICAM3抗体の特異性に従って原発巣および転移巣に集積する。抗ICAM3抗体を陽電子放出核種で標識すれば、該原発巣および転移巣の存在を、放射活性の局在によって検出することができる。該診断用途に用いる場合には、25-4000keVのガンマ粒子または陽電子放射量の活性値を好適に使用することができる。また、適切な核種を選択して、さらに大量に投与すれば治療効果も期待できる。放射線による抗癌作用を得るために、70-700keVのガンマ粒子または陽電子放射量値を与える核種を使用できる。
(2)ICAM3タンパク質をコードするポリヌクレオチドの検出
本発明の方法の別の態様においては、ICAM3のポリヌクレオチドの発現を検出する。本発明において検出されるポリヌクレオチドは特に限定されないが、mRNAが好ましい。本発明において検出とは、定量的または定性的な検出を含む意である。定性的な検出として、例えば、単にICAM3のmRNAが存在するか否かの測定、ICAM3のmRNAが一定の量以上存在するか否かの測定、ICAM3のmRNAの量を他の試料(例えば、対照試料など)と比較する測定など、を挙げることができる。一方、定量的な検出としては、例えば、ICAM3のmRNAの濃度の測定、ICAM3のmRNAの量の測定などを挙げることができる。
本発明における被検試料としては、ICAM3のmRNAが含まれる可能性のある任意の試料を利用することができる。試料としては、好ましくは哺乳類などの生物の体から採取された試料であり、さらに好ましくはヒトから採取された試料である。被検試料の具体的な例としては、血液、間質液、血漿、血管外液、脳脊髄液、滑液、胸膜液、血清、リンパ液、唾液、尿、組織などが挙げられる。生物の体から採取された組織もしくは細胞が固定化された標本、または細胞の培養液など、被検試料から得られる試料も本発明の被検試料に含まれる。
生物の体から採取された組織もしくは細胞が固定化された標本、または細胞の培養液などの、被検試料から得られる試料を用いる場合には、インシトゥーハイブリダイゼーション法が好適に用いられる。インシトゥーハイブリダイゼーション法は、細胞や組織内の特定のDNAやRNAの有無もしくは分布およびその発現の強弱を確認する手法として発展してきた。その原理として、細胞内の特定の核酸配列に対して相補的な塩基配列を有するプローブ核酸が特異的に複合体を形成する性質を利用している。当該プローブに予め放射性同位元素(RI)や抗原物質(ハプテン)等を標識しておくことにより、当該標識の検出を通じてハイブリダイゼーションした箇所が識別可能となる。このため、インシトゥーハイブリダイゼーション法は、細胞内のDNAやRNAなどの検出に用いられている。プローブの標識として、放射性同位元素を好適に用いることができる。さらに好適な標識の例としては、非放射性物質のビオチンやジゴキシゲニン等のハプテン等を利用した蛍光標識が挙げられる。特に好適な検出法の例は、FISHと呼ばれる蛍光インシトゥーハイブリダイゼーション(fluorescence in situ hibridization)による検出法である。
本発明によって診断される癌は、特に制限されない。具体的には、白血病や骨髄腫を挙げることができる。本発明においては、原発病巣および転移病巣のいずれをも診断することができる。
本発明においてはICAM3遺伝子を発現する任意の動物種を被験者とすることができる。特に好適な被検者はヒトである。なお、ヒト以外の動物種を被験者とするときには、当該動物種のICAM3の遺伝子が検出される。
以下に検出方法の具体的な態様を記載する。まず、被検者から試料を調製する。次いで、該試料に含まれるICAM3のmRNAを検出する。本発明においては、mRNAから合成したcDNAを検出することもできる。本発明においては、被検試料中にICAM3のmRNAやICAM3をコードするcDNAが検出された場合、癌の可能性があると判定される。例えば、陰性対照または健常者と比較して、被検試料中に検出されるICAM3のmRNAやICAM3をコードするcDNAの量が多い場合に、被検者が癌である、または将来癌を羅患する可能性が高いことが示される。
mRNAを検出する方法は、公知である。具体的には、例えば、遺伝子チップ、cDNAアレイ、およびメンブレンフィルターから選ばれる固相化試料を用いた核酸ハイブリダイゼーション法、RT-PCR法、リアルタイムPCR法、サブトラクション法、ディファレンシャル・ディスプレイ法、ディファレンシャル・ハイブリダイゼーション法、ならびにクロスハイブリダイゼーション法等を本発明に利用することができる。
上記の本発明の検出方法は、種々の自動検査装置を用いて自動化することもできる。自動化することによって、短時間に多数の試料を検査することができる。
[癌の診断のためのキット]
本発明は、被検試料中のICAM3タンパク質を検出するための試薬を含む、癌の診断のための診断薬またはキットも提供する。本発明の診断薬は、少なくとも抗ICAM3抗体を含む。
本発明の癌の診断用試薬と、ICAM3の検出に用いられるその他の要素を組み合わせることによって、癌の診断のためのキットとすることができる。すなわち、本発明は、ICAM3に結合する抗体と、該抗体とICAM3との結合を検出する試薬を含み、さらに、ICAM3を含む生体試料からなる対照試料を含んでいてもよい、癌の診断のためのキットに関する。本発明のキットは、さらに、測定操作を説明するための指示書を含むこともできる。
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1] マウス抗ICAM3抗体の取得
(1)ICAM3発現BaF3の樹立
ICAM3(GenBank No.NM_002162)cDNA断片(配列番号:1)を動物細胞発現用のベクターに導入した。作製した発現ベクターをBa/F3細胞にエレクトロポレーション法により導入し、ICAM3発現BaF3トランスフェクタント(ICAM3/BaF3)を樹立した。なお、塩基配列の確認は、BigDye Terminator Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)とDNAシークエンサーABI PRISM 3700 DNA Sequencer(Applied Biosystems)とを用い、添付説明書に従って行った。
(2)マウス抗ICAM3抗体産生ハイブリドーマの作製
i)ICAM3/BaF3細胞免疫マウスを用いたハイブリドーマの作製
雄で4週齢のMRL/lprマウス(日本チャールズリバー)を免疫に用いた。ICAM3/BaF3細胞を細胞濃度1〜3x107細胞で100μlのPBSに懸濁し、これをマウスに静脈内投与した。週一回の免疫を4回行った後、マウスの脾臓細胞とマウスミエローマ細胞P3X63Ag8U.1(P3U1と称す、ATCC CRL-1597)を、PEG1500(Roche Diagnostics)を用いた常法に従い細胞融合した。融合細胞(すなわち、ハイブリドーマ)は、HAT培地(RPMI1640+PS,10%FCS,HAT(Sigma, H0262),5%BM condimed H1(Roche: #1088947))にて培養した。
ii)1.2.2.ハイブリドーマ細胞の選抜
一次スクリーニングは、細胞融合から約1週間後に、細胞凝集誘導活性を指標に行った。細胞凝集誘導活性の確認は以下のとおり行った。ICAM3/BaF3細胞を4x103細胞/ウェル・25μlで96ウェルプレートに撒き、各ハイブリドーマの培養上清80μlを加え、37℃で一晩培養した。各ウェルを顕微鏡で観察し、細胞凝集を起こしているウェルを目視で判断した。細胞凝集を起こしているウェルのハイブリドーマ細胞を陽性クローンとして選択した。
続いて、二次スクリーニングを以下の通り行った。KMS-12-BM細胞にハイブリドーマの培養上清を反応させ、KMS-12-BM細胞に対する結合活性をFACSで解析した。ハイブリドーマの中から、KMS-12-BM細胞に強く結合する抗体を産生するクローンを、陽性クローンとして選抜した。
選抜したウェルのハイブリドーマ細胞を1細胞/ウェルとなるように96ウェルプレートにまきなおし、約10日間培養した。その後、ICAM3/BaF3、およびBaF3細胞に対する結合活性をFACSで調査し、ICAM3/BaF3特異的に反応する単一クローンを選抜した。これにより、抗ICAM3モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを樹立した。
ここで得られたモノクローナル抗体の中で、もっとも増殖抑制活性の強いクローンの選抜を以下の手順で行った。まず、ハイブリドーマ培養上清からの抗体の精製を、Hi Trap Protein G HP 1mlカラム(Amersham Biosciences #17-0404-01)を用い、添付の説明書に従って実施した。精製した抗体を用いて、KMS-12-BM細胞に対する細胞増殖抑制活性を以下の通り解析した。KMS-12-BM細胞を1X104細胞/ウェルで96ウェルプレートにまいた。各ウェルに、精製した抗体を0〜10μg/mlになるように加えて6日間培養し、その後、生細胞数を生細胞数測定試薬SF(ナカライ)を用いて添付の説明書に従って測定した。この測定結果に基づき、細胞増殖抑制活性が最も強かったクローンIB23を選抜した(図1)。
[実施例2] 各種血液癌株に対するIB23抗体の結合活性の比較
各種血液癌株の細胞表面ICAM3抗原数をIB23抗体の結合活性ユニットをもとに算出した。測定に使用した血液癌細胞株のリストを表1に示す。これらの細胞におけるICAM3抗原数(すなわち、IB23抗体の結合ユニット)の解析は、QIFI KIT(ダコ社, K0078)を用いて行った。各種血液癌細胞株をマウス抗IB23抗体(30μg/ml)で染色し、FACS解析により結合活性を測定した。この結合活性(蛍光強度)をもとに添付の説明書に従って、ICAM3抗原数を算出し数値化した。その結果を図2に示す。
[実施例3] ICAMファミリーへの交差性解析
ICAM3は、ICAMファミリー分子の中でも、ICAM1およびICAM5と相同性が高いことから、これらのファミリー分子に対する交差反応性の解析を行った。
ヒトICAM1(GenBank No.X06990)cDNA断片(配列番号:3)は、human lung marathon-ready cDNA(takara, S0629)を鋳型に、ヒトICAM5(GenBank No.U72671)cDNA断片(配列番号:5)は、human brain marathon-ready cDNA(takara, S0598)を鋳型に、PCR法により増幅し、動物細胞発現用のベクターに導入した。塩基配列の確認は、BigDye Terminator Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)とDNAシークエンサーABI PRISM 3700 DNA Sequencer(Applied Biosystems)とを用い、添付説明書に従って行った。作製した発現ベクターをそれぞれBa/F3細胞に導入し、ICAM1発現BaF3トランスフェクタント(ICAM1/BaF3)およびICAM5発現BaF3トランスフェクタント(ICAM5/BaF3)を樹立した。
次に、これら樹立した細胞株を用いて、IB23のICAMファミリーへの交差性解析を行った。ICAM1/BaF3、ICAM5/BaF3に、IB23抗体、抗ヒトICAM1抗体(R&D社、#BBA3)、抗ヒトICAM5抗体(R&D社、#MAB1950)をそれぞれ10μg/mlずつ反応させた。その後、抗マウスIgG-FITC抗体(Beckman Coulter # IM0819)で染色し、各抗体の結合をFACS(ベクトンディッキンソン)にて解析した。
その結果、IB23は、ICAM1/BaF3、ICAM5/BaF3のどちらにも結合せず、ICAM3に特異的に反応することが判明した(図3)。
[実施例4] マウス抗ICAM3抗体:IB23の可変領域の決定
ハイブリドーマ細胞から、RNeasy Mini Kits(QIAGEN)を用いて全RNAを抽出し、SMART RACE cDNA Amplification Kit(BD Biosciences)によりcDNAを合成した。作製したcDNAを鋳型として用いて、PCRにより抗体の可変領域部分のDNAを増幅し、得られた抗体の可変領域遺伝子をクローニングベクターに挿入した。各DNA断片の塩基配列は、BigDye Terminator Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)とDNAシークエンサーABI PRISM 3700 DNA Sequencer(Applied Biosystems)とを用い、添付説明書に従って決定した。決定したマウスIB23抗体のH鎖可変領域を配列番号:7に、L鎖可変領域を配列番号:9に示した。CDRとFRの決定は、Kabat numberingに従って行った。
[実施例5] IB23ヒトキメラ抗体の作製
マウスIB23抗体のH鎖可変領域(配列番号:7)とヒトIgG1 H鎖定常領域(配列番号:25)を結合した遺伝子断片を動物細胞発現ベクターに導入した。また、マウスIB23抗体のL鎖可変領域(配列番号:9)とヒトIgG1 L鎖定常領域(配列番号:27)を結合した遺伝子断片を動物細胞発現ベクターに導入した。抗体の発現と精製は下記参考例1に記した方法で実施した。
[実施例6] 脱糖鎖型IB23ヒトキメラ抗体の作製
ヒトIgG1のFc領域中の297番目のアスパラギンをアラニンに置換し、脱糖鎖型にすることによって、エフェクター細胞上のFc受容体への結合が弱まり、これによりエフェクター細胞によるADCC活性が消失することが文献的に知られている。そこで、IB23抗体について、脱糖鎖型ヒトキメラ化抗体の作成を行った。
文献情報(Cancer Res 2008, 68, 9832-9838)に従って、ヒトIgG1 Fc領域中のEUナンバリング297番目アスパラギンをアラニンに置換した重鎖定常領域(CH_N297A)(配列番号:29)を作成した。マウスIB23抗体のH鎖可変領域(配列番号:7)にCH_N297Aを連結させたものを重鎖とし、これを動物細胞発現ベクターに導入した。
また、マウスIB23抗体のL鎖可変領域(配列番号:9)にヒトIgG1 L鎖定常領域(配列番号:27)を連結させたものを軽鎖とし、これを動物細胞発現ベクターに導入した。抗体の発現と精製は下記参考例1に記した方法で実施した。
[実施例7] 各種血液癌株に対するIB23抗体の増殖抑制活性
ICAM3を発現しているヒト血液癌細胞株を用いて、以下に示す通りIB23ヒトキメラ化IgG1抗体の細胞増殖抑制活性を測定した。
各種血液癌細胞株を3〜6x103細胞/ウェルで96ウェルプレートに撒き、精製したIB23ヒトキメラ抗体を最終濃度が0〜16μg/mlになるように添加した。4日間培養後、WST-8(cell counting kit-8)を用いて生細胞数を測定した。測定はn=3で行い、各測定結果の平均値を算出した。その結果、図4に示すように、IB23ヒトキメラ抗体は、各種血液癌細胞株において細胞増殖抑制活性を示し、その活性は60ng/mlという低濃度でも最大増殖抑制効果を示すことが明らかとなった。この結果から、IB23抗体は、抗体単独で非常に強く細胞増殖を抑制できることが分かった。
次に、IB23ヒトキメラ抗体と脱糖鎖型IB23ヒトキメラ抗体の両者の間で、細胞増殖抑制活性に差が認められるか否かの検討を行った。SKM-1細胞を3x103細胞/ウェルで96ウェルプレートに撒き、上記同様、IB23ヒトキメラ抗体(スタンダード抗体)と脱糖鎖型IB23ヒトキメラ抗体をそれぞれ添加した。WST8(cell counting kit-8)を用いて生細胞数を測定し、両抗体の増殖抑制活性を比較した。その結果、脱糖鎖型にしてもIB23抗体の有する増殖抑制活性はスタンダードIB23抗体と変わらないことが確認された(図5)。
[実施例8] IB23抗体のADCC活性の解析
IB23スタンダード抗体(ヒトキメラIgG1)の血液癌細胞株に対するADCC活性を解析した。ADCC活性の解析は、カルセイン放出法により実施した。96ウェルプレートに撒いたICAM3/BaF3細胞、SKM-1細胞、U937細胞、およびKMS-12-BM細胞のそれぞれに、カルセインAM(和光純薬、349-07201)を添加して90分間培養し、細胞内にカルセインを取り込ませた。その後培養液で細胞を洗浄し、新しい培養液に懸濁した。続いて抗体を添加し、さらに各ウェルに、標的細胞に比べて約5倍量のエフェクター細胞(NK-92[ATCC, CRL-2407]にマウスFc-gamma受容体3[NM_010188]を強制発現させた組換え細胞)を添加し、プレートを5%CO2インキュベーター中で37℃にて4時間静置した。静置後プレートを遠心し、各ウェルより一定量の上清を回収して、細胞傷害により培地中に放出されたカルセインの蛍光強度を測定した(λex=490nm, λem=515nm)。その結果、図6に示したように、IB23スタンダード抗体は、ICAM3/BaF3細胞だけでなく血液癌細胞株に対して非常に強いADCC活性を誘導した。このことから、IB23抗体は、単独で細胞増殖を抑制するだけでなく、ADCC活性をも誘導できることが判明した。
次に、IB23スタンダード抗体とIB23脱糖鎖型抗体のADCC活性の比較をICAM3/BaF3細胞を標的細胞として用いて解析した。その結果を図7に示す。スタンダード抗体では非常に強いADCC活性が認められたが、これを脱糖鎖抗体にすることで、ADCC活性が完全に消失することが確認された。
なお、特異的カルセイン遊離率は、式「特異的カルセイン遊離率(%)=(A-C)×100/(B-C)」から算出した。ここで、Aは各ウェルにおける蛍光数値、Bは終濃度1% Nonidet P-40で細胞溶解して培地へ放出される平均蛍光数値、Cは培地のみ添加した場合における平均蛍光数値である。
[実施例9] IB23抗体によるin vivo抗腫瘍活性の解析
ヒト白血病細胞株SKM-1細胞(1x107細胞)をRPMI1640(SIGMA Cat.No.R8758)で調整し、前日に抗アシアロGM1抗体(和光純薬社製)0.2mgを腹腔内投与したSCIDマウス(Icr-scid Jclメス、6週齢、日本クレア)の腹部皮下に移植した。腫瘍の生着を確認し、移植23日目(day23)に、腫瘍体積と体重で5群(対照群1群、薬剤投与群4群、それぞれn=6)に群分けを行った。
群分け当日(day23)と30日目(day30)に対照群にPBS、薬剤投与群にIB23スタンダード抗体とIB23脱糖鎖型抗体を5mg/kgと25mg/kgの各用量を10mL/kgで静脈内に投与した。その後、経時的に腫瘍体積を測定し、グラフにプロットした。
図8にその結果を示す。最終測定時の各用量の腫瘍増殖抑制率はIB23スタンダード抗体では、5mg/kg投与群で39%、25mg/kg投与群で44%であった(図8A)。一方、ADCC活性のないIB23脱糖鎖型抗体投与でも、5mg/kg投与群で29%、25mg/kg投与群で43%の腫瘍増殖抑制率が認められた(図8B)。
ADCC活性のないIB23脱糖鎖抗体で腫瘍縮小が確認されたことから、IB23抗体の増殖抑制活性だけでも十分に抗腫瘍作用を発揮できることが確認された。また、スタンダード抗体を投与した群ではそれを上回る薬効が見られたことから、増殖抑制活性に加えてADCC活性が相加的に作用してIB23抗体の抗腫瘍作用を増強させると考えられた。
[参考例1] 抗体の発現ベクターの作製および抗体の発現と精製
目的の抗体の重鎖および軽鎖の塩基配列をコードする遺伝子の取得は、Assemble PCR等を用いて当業者公知の方法で行った。アミノ酸置換の導入はQuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene)あるいはPCR等を用いて当業者公知の方法で行った。得られたプラスミド断片を動物細胞発現ベクターに挿入し、目的の重鎖発現ベクターおよび軽鎖発現ベクターを作製した。得られた発現ベクターの塩基配列は当業者公知の方法で決定した。抗体の発現は以下の方法を用いて行った。各抗体発現ベクター15μgをpvuIで切断し、DG44株(Invitrogen)にエレクトロポレーションにより導入し、96ウェルプレートに撒いた。その後、500μg/mlのG418(Invitrogen)を含むCHO-S-SFM-II(Invitrogen)培地で培養し、G418耐性ウェルの培養上清中の抗体産生をELISAにより検出した。抗体産生が認められたクローンをさらに拡大し、培養上清を回収し、抗体精製に用いた。培養上清は、遠心分離(約2000g、5分間、室温)により細胞を除去した後に、さらに0.22μmフィルターMILLEX(R)-GV(Millipore)に通した。得られた培養上清からHi Trap Protein G HPカラム(Amersham Biosciences #17-0404-01)を用いて当業者公知の方法で抗体を精製した。精製した抗体は0.22μmフィルター(MILLIPORE #SLGV033RS)を通し、解析に用いた。
本発明の抗ICAM3抗体は、ICAM3を表面に発現する細胞に対し、優れた増殖抑制作用と細胞傷害作用を発揮することができる。本発明の抗ICAM3抗体は、各種血液癌細胞株に対して強い作用を示したことから、特に、白血病、骨髄腫、または悪性リンパ腫などの治療において有用である。また、本発明の抗ICAM3抗体は、その特異性から、ICAM3を表面に発現する細胞の検出や選別などへの応用も可能である。
配列番号11
<223> IB23_VH_FR1
配列番号12
<223> IB23_VH_FR2
配列番号13
<223> IB23_VH_FR3
配列番号14
<223> IB23_VH_FR4
配列番号15
<223> IB23_VH_CDR1

配列番号16
<223> IB23_VH_CDR2
配列番号17
<223> IB23_VH_CDR3
配列番号18
<223> IB23_VL_FR1
配列番号19
<223> IB23_VL_FR2
配列番号20
<223> IB23_VL_FR3
配列番号21
<223> IB23_VL_FR4
配列番号22
<223> IB23_VL_CDR1
配列番号23
<223> IB23_VL_CDR2
配列番号24
<223> IB23_VL_CDR3

Claims (12)

  1. 細胞傷害活性を有する抗ICAM3抗体。
  2. 細胞傷害活性がADCC活性である、請求項1に記載の抗ICAM3抗体。
  3. さらに、細胞増殖抑制活性を有する、請求項1または2に記載の抗ICAM3抗体。
  4. in vivoで抗腫瘍活性を有する、請求項1から3のいずれかに記載の抗ICAM3抗体。
  5. ICAM1および/またはICAM5に実質的に結合しない、請求項1から4のいずれかに記載の抗ICAM3抗体。
  6. 以下の(a)から(c)いずれかに記載の抗体。
    (a)配列番号:15に記載のアミノ酸配列を有する重鎖CDR1、配列番号:16に記載のアミノ酸配列を有する重鎖CDR2、配列番号:17に記載のアミノ酸配列を有する重鎖CDR3、配列番号:22に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖CDR1、配列番号:23に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:24に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖CDR3を含む抗体;
    (b)(a)に記載の抗体において1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入された抗体であって、(a)に記載の抗体と同等の活性を有する抗体;
    (c)(a)または(b)のいずれかに記載の抗体が認識するエピトープと同じエピトープを認識する抗体。
  7. ヒト由来の定常領域を有する、請求項1から6いずれかに記載の抗ICAM3抗体。
  8. 請求項1から7のいずれかに記載の抗体をコードするDNA。
  9. 請求項1から7のいずれかに記載の抗体を有効成分として含む医薬組成物。
  10. 抗癌剤である、請求項9に記載の医薬組成物。
  11. 癌が白血病、骨髄腫、または悪性リンパ腫である、請求項10に記載の医薬組成物。
  12. ICAM3タンパク質またはICAM3タンパク質をコードする遺伝子を検出することを特徴とする癌の診断方法。
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