JPH11210865A - 疲労寿命および耐磨耗性に優れたAl合金製動力伝達部品 - Google Patents
疲労寿命および耐磨耗性に優れたAl合金製動力伝達部品Info
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Abstract
し、疲労寿命および耐磨耗性を兼備したAl合金製動力伝
達部品を提供する。 【解決手段】 疲労寿命と耐磨耗性の要求特性が各々
異なる部分が存在するAl合金製動力伝達部品において、
硬度(Hv)が250 以上のめっき皮膜を表面に設けるととも
に、特に疲労寿命が要求される部分のめっき皮膜表面の
残留応力が、めっき皮膜硬度(Hv)との関係で、めっき皮
膜硬度(Hv)≧8 ×めっき皮膜表面の残留応力 (kgf/mm2)
+330 、および、めっき皮膜硬度(Hv)≧100 ×めっき皮
膜表面の残留応力 (kgf/mm2)−500 を満足することであ
る。
Description
を有するAl合金製動力伝達部品に関し、特に自動車など
の輸送機用のプーリとして使用されて好適な、疲労寿命
および耐磨耗性に優れたAl合金製動力伝達部品に関す
る。
境保全の立場、あるいは機械自体の高性能化や省エネル
ギー化を推進するため、自動車を代表とする、航空機、
鉄道車両などの輸送機、あるいはロボットなどの産業機
械では、構成部品の軽量化が求められている。そして、
この軽量化対策の一環として、構成部品に用いられる部
品の、鋼からアルミニウムまたはアルミニウム合金 (以
下、単にAl合金と言う)への転換が進んでいる。特に、
構成部品の内でも、動力伝達部品をAl合金製とすれば、
動力伝達部品自体の軽量化だけではなく、動力伝達部品
の駆動装置の小型化なども図ることができるので、軽量
化の効果が大きい。
ーリ (ベルト車或いは滑車) などが例示されるが、以下
に、代表的なプーリを例にして説明する。プーリは、輸
送機のみならず、自転車、産業機械、家電製品に、カム
タイミングプーリやリアプーリとして種々汎用されてい
る。このプーリの形状には、用途により種々の種類があ
るが、自動車用カムタイミングプーリの代表的な例を図
4 に示す。図4 (a) の縦断面図、(b) の平面図に示すよ
うに、カムタイミングプーリ1 は、基本的に、駆動軸が
嵌合される孔5 を有する円筒状の固定部4 と、該固定部
4 の外周に配設された円盤状のアーム部2 と、該アーム
部2 の外周に配設された円筒状の動力伝達部3 とから構
成される。なお、このような基本的な構成は、形状や大
きさは種々違っても、他のプーリにおいても基本的に同
じである。
ーリには、特に輸送機用においては、比較的大きなトル
クがかかるため、特に、高い疲労寿命および耐磨耗性が
要求される。このため、プーリを鋼製のものからAl合金
製のものへ転換すると、Al合金製のプーリの疲労寿命お
よび耐磨耗性が、鋼製のプーリに比して著しく劣るとい
う問題がある。特に、図4 に示すようなアーム部2 と動
力伝達部3 とを有するようなプーリ1 においては、大き
なトルクがかかった場合、比較的薄肉のアーム部2 が最
も疲労破壊しやすく、また、ベルト等と当接する動力伝
達部3 が最も磨耗しやすい。
の向上を図るためには、鋼に比して著しく軟質なAl合金
素材側の改良には限界があるため、どうしてもAl合金製
プーリの表面に硬質な皮膜を設ける必要がある。
10829 号公報などには、Al合金製プーリの表面に鋼をプ
ラズマ溶射した後にCrめっきを施した、織物機械用など
のAl合金製プーリが開示されている。また、特公昭58
−35562 号公報などには、Al合金製プーリの表面に硬質
陽極酸化皮膜を形成した自動車用のAl合金製高速カムタ
イミングプーリが開示されている。更に、特開平6 −
158264号公報などには、Crを多量に含有した高炭素鋼系
の材料を高速フレーム溶射したAl合金製プーリが開示さ
れている。また、特開平9 −280345号公報などには、
Al合金製プーリの表面に樹脂塗装を行うことが開示され
ている。
は、硬質Ni-Pめっき皮膜を設けたTi合金などの金属基材
製動力伝達部品において、外部からの応力や衝撃による
めっき皮膜の破壊や、長期間の使用によるめっき皮膜自
体の疲労破壊や剥離を防止する技術が開示されている。
より具体的には、金属基材の表面に、硬質電気Ni-Pめっ
き皮膜を設けた後に熱処理を行って、めっき皮膜の高硬
度化と高密着化を図り、その後更に、めっき皮膜に微粒
子を吹き当てるショットピーニングやドライホーニング
を行って、めっき皮膜に残留圧縮応力を付与し、前記熱
処理によるNi-Pめっき皮膜の靱性低下を回復して、めっ
き皮膜の硬さと靱性をバランスよく向上させる技術が開
示されている。
ーリの表面にコーティングを施す前記従来技術は、全
て、Al合金製プーリにおける耐磨耗性の向上乃至耐磨耗
性の皮膜の密着性の向上を図ることのみを目的としてい
る。したがって、確かに、コーティングの無いAl合金製
プーリに比べると、耐磨耗性自体は向上する。しかし、
これら従来技術は、前記図4 で示したような、アーム部
と動力伝達部を有するAl合金製プーリにおいて、比較的
大きなトルクがかかる場合の、特にアーム部の疲労破壊
に対する疲労寿命の向上を全く意図していない。
と動力伝達部を有するAl合金製プーリにおいては、繰り
返して曲げ応力がかかるアーム部に対しては、特に疲労
破壊に対する疲労寿命の向上が必要であり、動力伝達部
に対しては特に耐磨耗性の向上が必要であり、プーリの
部位で異なる特性が要求されている。このため、Al合金
製プーリの表面のコーティングなり、めっき皮膜には、
単に耐磨耗性の向上だけではなく、これら異なる要求特
性を両者満足する必要がある。しかも後述する通り、本
発明者らが知見したところによれば、動力伝達部の耐磨
耗性の向上に対して有効なめっき皮膜が、逆に、アーム
部などの疲労寿命が特に要求される部分の、疲労寿命を
低下させる場合がある。即ち、プーリなどのAl合金製動
力伝達部品の分野においては、疲労寿命と耐磨耗性の要
求特性が各々異なる部分が存在するため、動力伝達部の
耐磨耗性の向上と、アーム部の疲労寿命の向上とが、互
いに相矛盾する技術課題になっているという特異な状況
が存在する。
ティングを施す、前記前記〜の従来技術は、Al合金
製プーリにおける特にアーム部の疲労寿命の向上を全く
意図していないため、却って、Al合金製プーリの疲労寿
命を劣化させることがあり、この点がAl合金製プーリの
信頼性を低下させ、プーリなどの動力伝達部品のAl合金
化を、著しく妨げていた。
などの、Al合金製プーリの表面に鋼をプラズマ溶射した
後にCrめっきを施す技術は、Al合金製プーリの耐磨耗性
を向上させるためには有効である。しかし、一方のAl合
金製プーリの疲労寿命に対しては、Crめっき自体が起点
となって、疲労破壊を起こしやすくなるため、実用化で
きないという問題がある。
どの、Al合金製プーリの表面に硬質陽極酸化皮膜を形成
する技術は、硬質陽極酸化皮膜自体が脆く、プーリ用途
では特に硬質陽極酸化皮膜の剥離や欠落が生じやすく、
Al合金製プーリの耐磨耗性の向上の点からだけでも、実
用化できる技術ではない。
どの、Al合金製プーリの表面にCrを多量に含有した高炭
素鋼系の材料を高速フレーム溶射する技術は、Al合金製
プーリの耐磨耗性を向上させるためには有効である。し
かし、一方のAl合金製プーリの疲労寿命に対しては、前
記の従来技術と同様に、含有するCr自体が起点となっ
て、疲労破壊を起こしやすくなるため、実用化できない
という問題がある。
どの、Al合金製プーリの表面に樹脂塗装を行う技術は、
樹脂コーティングが剥離しやすく、前記の技術と同様
に、Al合金製プーリの耐磨耗性の向上の点からだけで
も、実用化できる技術ではない。
は、Ti合金などの金属製動力伝達部品の疲労強度を、表
面のNi-Pめっき皮膜により高めようとしている。即ち、
同公報では、めっき皮膜を高硬度化して、この高硬度化
しためっき層のタガ締め効果により、Ti合金製動力伝達
部品の疲労強度を高めようとしており、めっき皮膜の高
硬度化に伴う密着性や靱性の劣化を防止するために、め
っき皮膜に残留圧縮応力を積極的に付与して、Ni-Pめっ
き皮膜の靱性を向上させている。
一などの場合、Al合金はTi合金に比して強度( 硬度) な
どが低く、高硬度のめっきを施した場合、Ti合金と違っ
て、基材Al合金とめっき皮膜との硬度の差が著しい。し
かも、本発明が意図するAl合金製プーリの、特に繰り返
して曲げ応力のような外力がかかるアーム部では、前記
めっき皮膜とAl合金との硬度の差によって、めっき皮膜
自体が、逆にAl合金の疲労寿命を低下させるという、特
異な現象が起こりうる。したがって、プーリなどのAl合
金製動力伝達部品の分野においては、疲労寿命と耐磨耗
性の要求特性が各々異なる部分が存在するとともに、動
力伝達部の耐磨耗性の向上と、アーム部の疲労寿命の向
上とが、互いに相矛盾する技術課題になっている。この
結果、前記特開平8 −39432 号公報の技術を適用し
て、高硬度のめっきを施すとともに、ショットピーニン
グやドライホーニングにより、めっき皮膜に積極的に残
留圧縮応力を付与した場合、後述する通り、Ni-Pめっき
皮膜自体が起点となって、Al合金製プーリ本体の疲労破
壊を起こしやすくなり、疲労寿命が低下して、実用化で
きない場合が生じるという問題がある。
れたものであって、その目的は、疲労寿命と耐磨耗性の
要求特性が各々異なる部分が存在するAl合金製動力伝達
部品における、Ni、Ni-P、Fe-P、Crなどの硬質めっきを
改良し、疲労寿命および耐磨耗性という相矛盾する要求
特性を両方兼備した、疲労寿命および耐磨耗性に優れた
Al合金製動力伝達部品を提供しようとするものである。
に、本発明は、疲労寿命と耐磨耗性の要求特性が各々異
なる部分が存在するAl合金製動力伝達部品において、硬
度(Hv)が250 以上のめっき皮膜を表面に設けるととも
に、特に疲労寿命が要求される部分のめっき皮膜表面の
残留応力が、めっき皮膜硬度(Hv)との関係で、めっき皮
膜硬度(Hv)≧8 ×めっき皮膜表面の残留応力 (kgf/mm2)
+330 、および、めっき皮膜硬度(Hv)≧100 ×めっき皮
膜表面の残留応力 (kgf/mm2)−500 を満足することを要
旨としている。
も、アーム部と動力伝達部とで、疲労寿命と耐磨耗性の
要求特性が各々異なるAl合金製プーリにおいては、特に
疲労寿命が要求される部分である、前記アーム部のめっ
き皮膜表面の残留応力が、めっき皮膜硬度(Hv)との関係
で、めっき皮膜硬度(Hv)≧8 ×めっき皮膜表面の残留応
力 (kgf/mm2)+330 、および、めっき皮膜硬度(Hv)≧10
0 ×めっき皮膜表面の残留応力 (kgf/mm2)−500 を満足
することを要旨としている。
用の前記アーム部と動力伝達部とを含むAl合金製プーリ
において、大きなトルクがかかる場合のプーリ本体の疲
労破壊特性について調査した。この結果、このような場
合にAl合金製プーリが使用不能となるには二つの形態が
あり、一つはアーム部が疲労破壊を起こす疲労型であ
り、もう一つはベルトに動力を伝達する動力伝達部の磨
耗により動力伝達部の表面に肌あれが生じる磨耗型であ
ることを知見した。
伝達部とを含むようなAl合金製プーリにおいては、プー
リとしては疲労寿命および耐磨耗性との両特性が必要で
あるとともに、一個のプーリの中でも、アーム部と動力
伝達部とで、疲労寿命と耐磨耗性の要求特性が各々異な
ることを意味している。そして、このような疲労寿命と
耐磨耗性の要求特性が各々異なる部分が存在するAl合金
製動力伝達部品においては、これら各々の要求特性に対
応しためっき皮膜、それも場合によっては、各々特性の
異なるめっき皮膜を表面に設ける必要性があることを意
味している。
面の肌あれは、通常の技術常識通り、元々Al合金製プー
リ表面乃至表面皮膜の硬度不足に起因するものである。
そして、この動力伝達部表面の肌あれが著しくなるほ
ど、ベルトの滑りや鳴きを多発して、最終的には効率的
な動力伝達が不可能となる事態を生じる。
は、勿論、プーリの母材である、Al合金自体の疲労破壊
特性、特に引張強度や耐力などの機械的性質と深く係わ
っていることは公知である。このため、従来から、Al合
金の中でも、疲労破壊特性の優れたJIS 5000系や6000系
あるいは7000系などのAl合金が用いられている。しか
し、これらプーリ用途に要求される疲労破壊特性を十分
に具備している、引張強さが190N/mm2以上のAl合金を用
いた場合にも、硬質めっき皮膜を設けたAl合金製プーリ
では、使用中にアーム部の疲労破壊を生じる点が、特異
な点である。
プーリの疲労破壊形態とめっき特性との関係を検討した
結果、まず、Al合金製プーリ表面のNi、Ni-P、Fe-P、Cr
などの硬質めっき皮膜が、プーリ本体のAl合金の疲労破
壊と深く係わっていること、そして、Al合金製プーリ
の、特に繰り返して曲げ応力のような外力がかかるアー
ム部では、硬質めっき皮膜自体のクラック (割れ) など
が、Al合金の疲労破壊の起点となって、めっき皮膜を設
けないAl合金よりも、却って疲労寿命を低下させるとい
う、特異な現象があることを知見した。そして、更に、
硬質めっき皮膜の諸特性のうちでも、特にめっき皮膜表
面の残留応力が、プーリ本体の疲労破壊と深く係わり、
めっき皮膜表面の残留応力が高いほどプーリ本体の疲労
破壊特性が低下し、めっき皮膜表面の残留応力を低減す
れば、プーリ本体の疲労破壊特性が向上し、疲労寿命に
優れることを知見した。
膜表面の残留応力を単に低減するだけでは、プーリ本体
の疲労破壊特性乃至疲労寿命を確実に保証することはで
きないことも合わせて知見した。即ち、プーリ本体の疲
労寿命を確実に保証するためには、めっき皮膜の基本的
な特性の一つであるめっき皮膜硬度(Hv)との関係で、め
っき皮膜表面の残留応力を規定する必要があることも知
見した。
通常、Ni、Ni-P、Fe-P、Crなどの硬質めっきや、Znなど
の比較的軟質のめっき、あるいは陽極酸化皮膜などの、
Al合金表面に設けられた皮膜表面の残留応力が、皮膜自
体の割れや剥離性 (密着性)に影響すること自体は、前
記特開平8 −39432 号公報などでも勿論公知である。し
かし、Al合金の表面に設けられた硬質めっき皮膜が、Al
合金の疲労破壊の起点となって、逆にAl合金自体の疲労
寿命を低下させること、あるいは、Al合金の表面に設け
られためっき皮膜表面の残留応力が、Al合金自体の疲労
破壊と深く係わっているとの認識や知見は、今までに無
い。
は、Ti合金製動力伝達部品の疲労破壊特性乃至疲労寿命
を向上させるために、めっき皮膜によるタガ締め効果を
狙い、部品表面のNi-Pめっき皮膜をより高硬度化し、め
っき皮膜の残留圧縮応力を積極的に付与している。これ
は、プーリ本体の疲労破壊特性乃至疲労寿命に対し、本
発明では有害と認識しているめっき皮膜の高硬度化や残
留圧縮応力の付与を積極的に行っているものであり、本
発明の技術思想や手段とは、違う指向をしているとも言
える。このため、特開平8 −39432 号公報の技術を硬度
の比較的高いTi合金に適用した場合には有効であるもの
の、Al合金製プーリに適用した場合には、却って表面に
残留応力を有するNi-Pめっき皮膜自体が起点となって、
Al合金製プーリ本体の疲労破壊を起こしやすくなるた
め、疲労寿命が低下して、実用化できない結果となる。
は、後述する通り、例えめっき皮膜の組成や膜厚、或い
は硬度などの、めっき皮膜の基本特性が例え同じであっ
たとしても、めっき条件等の微妙な違いにより、めっき
皮膜表面の残留応力が大きく相違してくるという点であ
る。したがって、めっき皮膜の基本特性やめっき方法の
基本条件が、例え、全く同じであったとしても、それだ
けでは、めっき皮膜表面の残留応力が同じとなるという
ことは一切言えない。即ち、この事実は、Al合金製プー
リ本体なり、Al合金製動力伝達部品本体なりの疲労破壊
特性乃至疲労寿命を確実に保証するためには、めっき皮
膜表面の残留応力自体を測定して、本発明の規定する範
囲内か否かを評価する必要があることを示している。
寿命を、確実に保証し得る点にも、本発明のめっき皮膜
表面の残留応力による規定の意義がある。より具体的に
は、Al合金製動力伝達部品の疲労寿命を改善する場合、
試験的や試作的に、疲労寿命が改善されたとしても、実
際に、多量にかつ継続的にAl合金製動力伝達部品を製造
するとともに、対象とする輸送機のプーリなどの用途
に、多量にかつ継続的に適用するためには、実際問題と
して、工業的に製造されるAl合金製動力伝達部品が、全
て疲労破壊を生じないことを、顧客などに継続的に保証
していく必要がある。この製品保証の点は、特に安全性
が要求される輸送機などの用途では特に厳しく、重要な
課題となっている。
とはならないAl合金製動力伝達部品のめっきラインにお
いて、あるいは、試作段階で疲労寿命に優れたAl合金製
動力伝達部品を実際のめっきラインにのせて製造する際
において、再現性乃至効率良く、Al合金製動力伝達部品
を生産し続けるためには、製造される製品の疲労寿命の
正確でかつ定量的な評価結果をフィードバックし、製造
される製品の疲労寿命を常に保証することが、工業的な
品質管理上重要となる。この点はコストダウンやAl合金
の特性改善などの目的で、大幅にめっきライン工程や条
件を変える乃至めっきラインを新増設する場合でも同様
である。したがって、本発明の効果の一つである、前記
疲労寿命を保証するということは、単にAl合金製動力伝
達部品の疲労寿命がデータ的に優れているということだ
けではなく、前記品質管理や工程管理を含んだ上での、
工業的により厳密な意味を持っている。
の残留応力が、なぜ、Al合金自体の疲労破壊と深く係わ
っているかという理由は、未だ定かではない。しかし、
Ti合金や鋼のような元々硬度や剛性の高い素材では、そ
の特性ゆえに、表面に設けられた皮膜の、Ti合金や鋼自
体の疲労破壊特性などに対する影響や寄与はごく小さ
い。しかし、Al合金の場合は、Ti合金や鋼よりも硬度や
剛性が比較的低いために、表面に設けられた皮膜の、Al
合金の疲労破壊特性などに対する影響や寄与が大きくな
る。また、プーリのアーム部などのように、特に繰り返
して曲げ応力のような外力がかかり、しかも近年の軽量
化のための薄肉化された動力伝達部品では、表面に設け
られた特に硬質めっき皮膜の残留応力などの特性が、Al
合金の疲労破壊特性に対し、より顕著に影響するものと
考えられる。
膜の基本的な条件や特徴的な要件の意義および限定理由
について具体的に説明する。
のめっき皮膜は、めっき皮膜表面の残留応力が、めっき
皮膜硬度(Hv)との関係で、めっき皮膜硬度(Hv)≧8 ×め
っき皮膜表面の残留応力 (kgf/mm2)+330 、および、め
っき皮膜硬度(Hv)≧100 ×めっき皮膜表面の残留応力
(kgf/mm2)−500 を満足することが必要である。そし
て、特にアーム部と動力伝達部とを含むAl合金製プーリ
においては、少なくとも、前記アーム部のめっき皮膜表
面の残留応力が、前記めっき皮膜硬度(Hv)との関係を満
足することが必要である。
て、めっき皮膜表面の残留応力とめっき皮膜硬度(Hv)、
およびAl合金製プーリの疲労寿命との関係を説明する。
図1は、横軸にAl合金製プーリのめっき皮膜表面の残留
応力(kgf/mm2) 、縦軸にめっき皮膜硬度(Hv)をとったも
のである。なお、本発明におけるめっき皮膜表面の残留
応力(kgf/mm2) は、公知のX 線応力測定方法により、め
っき皮膜最表面からX線が侵入する深さまでの平均応力
として測定することができる。また、一部の無電解めっ
きなど、めっき皮膜が非晶質で、X 線応力測定方法が使
えないものに対しては、公知のスパイラル応力計によっ
て測定することができる。更に、また、めっき皮膜硬度
(Hv)はビッカース硬度計により測定可能である。
めっき、三角印のプロットは各々Niめっき、四角印のプ
ロットは各々Crめっき、☆印のプロットは各々無電解Ni
めっきを表す。なお、丸印、三角印、四角印のプロット
の内、白抜きのものは、めっき皮膜を設けないAl合金製
プーリの疲労寿命よりも特性が20% 以上向上している、
めっき皮膜を設けたAl合金製プーリを表す。また、丸
印、三角印、四角印のプロットの内、網かけのものは、
めっき皮膜を設けないAl合金製プーリの疲労寿命と特性
が同等の、めっき皮膜を設けたAl合金製プーリを表す。
更に、丸印、三角印、四角印のプロットの内、黒塗りの
ものは、めっき皮膜を設けないAl合金製プーリの疲労寿
命に比して特性が劣っている、皮膜を設けたAl合金製プ
ーリを、各々表す。
めっき皮膜表面の残留応力が高ければ、網かけ乃至黒塗
りのプロットが多く、Al合金製プーリの疲労寿命は向上
しないか、却って低下していることが分かる。一方、Al
合金製プーリのめっき皮膜表面の残留応力がより低くな
るにつれて、白抜きのプロットが多く、Al合金製プーリ
の疲労寿命は向上していることが分かる。そして、更に
重要な点は、Al合金製プーリのめっき皮膜表面の残留応
力が15kgf/mm2 以下、あるいは、10kgf/mm2 以下のより
低い値となったとしても、この領域では、まだ疲労寿命
は向上しないか、却って低下しているAl合金製プーリ
(網かけ乃至黒塗りのプロット) が存在している点であ
る。
り、めっき皮膜表面の残留応力を単に低減するだけで
は、疲労寿命に劣るプーリが存在し、プーリの疲労破壊
特性乃至疲労寿命を確実に保証することはできないこと
を示している。そして、プーリ本体の疲労寿命を確実に
保証するためには、めっき皮膜の基本的な特性の一つで
あるめっき皮膜硬度(Hv)との関係で、めっき皮膜表面の
残留応力を規定する必要があることを示している。
っき皮膜表面の残留応力がより低くなるにつれて、Al合
金製プーリの疲労寿命は向上しており、Al合金製プーリ
の疲労寿命を向上させるためには、めっき皮膜表面の残
留応力を低くすること、好ましくは15kgf/mm2 以下、よ
り好ましくは、10kgf/mm2 以下の低い値とすることが必
要条件であることが分かる。
B2が、めっき皮膜表面の残留応力とめっき皮膜硬度(Hv)
との関係を示すとともに、プーリ本体の疲労寿命を確実
に保証する臨界的な領域を示している。即ち、斜線A1が
Y=8X+330 の線であり、斜線A1よりも上側の領域が、め
っき皮膜硬度(Hv)≧8 ×めっき皮膜表面の残留応力 (kg
f/mm2)+330 を満足し、プーリ本体の疲労破壊特性乃至
疲労寿命を確実に保証する領域である。また、斜線A2が
Y=8X+410 の線であり、斜線A2よりも上側の領域が、め
っき皮膜硬度(Hv)≧8 ×めっき皮膜表面の残留応力 (kg
f/mm2)+410 を満足する、より好ましい領域を示して
る。
斜線B1よりも左側の領域が、めっき皮膜硬度(Hv)≧100
×めっき皮膜表面の残留応力 (kgf/mm2)−500 を満足
し、プーリ本体の疲労破壊特性乃至疲労寿命を確実に保
証する領域である。また、斜線B2がY=100X−50の線であ
り、斜線B2よりも左側の領域が、めっき皮膜硬度(Hv)≧
100 ×めっき皮膜表面の残留応力 (kgf/mm2)−50を満足
するより好ましい領域を示してる。したがって、この図
1 からも、本発明の、めっき皮膜硬度(Hv)との関係でめ
っき皮膜表面の残留応力を規定することにより、プーリ
本体の疲労寿命の向上と、プーリ本体の疲労寿命の確実
な保証を行うことができることが分かる。そして、本発
明のめっき皮膜表面の残留応力の規定の臨界的な意義も
明らかである。
力がより低くなるにつれて、Al合金製プーリの疲労寿命
は向上している。したがって、Al合金製プーリの疲労寿
命を向上させるためには、めっき皮膜表面の残留応力を
低くし、更に、めっき皮膜表面の残留応力を、前記めっ
き皮膜硬度(Hv)との特定の関係にするためには、めっき
皮膜の条件を調節することにより行う。しかし、前記し
た通り、めっき皮膜の基本特性が例え同じであったとし
ても、めっき皮膜表面の残留応力が大きく相違してく
る。したがって、Al合金製プーリ本体なり、Al合金製動
力伝達部品本体なりの疲労寿命を確実に保証するために
は、最終的に、めっき皮膜表面の残留応力自体を測定し
て、本発明で規定する範囲内か否かを評価する必要があ
るのは勿論である。
的なめっき皮膜の因子は、めっき皮膜の成分組成と膜厚
である。特に、Ni-Pなどの硬質めっきにおいては、めっ
き皮膜が非晶質の場合、めっき皮膜表面の残留応力は、
ほぼ0kgf/mm2となり、前記図2 における、Al合金製プー
リの疲労寿命の向上を保証する領域に入れやすくなるの
で好ましい。
は、プーリの耐食性や耐磨耗性などの要求特性に応じ
て、Ni、Ni-P、Fe-P、Crなどの硬質めっきが適宜選択さ
れる。本発明におけるめっき皮膜の重要な特性の一つで
ある、優れた耐磨耗性を有するためには、めっき皮膜硬
度(Hv)が250 以上であることが必要であり、更にめっき
皮膜硬度(Hv)が400 以上であることが好ましい。
-P、Fe-P、Crなどの硬質めっき、あるいはこれらのめっ
き皮膜に更にSiC 、アルミナ、BN、シリカ、シリコンナ
イトライドなどの硬質粒子を分散させて更なる高硬度化
を図った硬質めっきを用いることが好ましい。また、め
っき皮膜もこれらの単独乃至単層だけではなく、これら
を組み合わせて、複合化乃至複層化しためっき皮膜とし
ても、勿論良い。
特性のもう一つである、めっき皮膜表面の残留応力を本
発明範囲内とするためには、Ni-P、Fe-Pなどの合金硬質
めっきの場合に、P 量など合金成分を調節しても、残留
応力の制御が可能である。また、後述する膜厚によって
も、残留応力の制御が可能である。したがって、前記耐
磨耗性などの他のめっき皮膜への要求特性との関係や、
後述する膜厚などの他のメッキ皮膜条件との関係で、め
っき皮膜の成分組成を決定していくことが好ましい。
るほど、めっき皮膜表面の残留応力が大きくなる傾向が
あるので、膜厚は数μm 程度の薄い方が好ましい。た
だ、P量を2 〜4wt%含有するNi-Pめっきなどの場合に
は、膜厚が5 μm 以下、または40μm 以上でめっき皮膜
表面の残留応力が低くなるなど、めっきの種類や条件に
より一概に言えない部分もあるので、めっきの種類や条
件毎に最適膜厚を設定していくことが好ましい。
る一方の重要特性である、Al合金製プーリの耐磨耗性を
確保するための重要な因子である。そして、前記めっき
皮膜表面の残留応力とは逆に、数十μm 程度と、めっき
皮膜の膜厚が厚くなるほど、耐磨耗性が向上して、めっ
き皮膜硬度(Hv)が250 以上、好ましくはめっき皮膜硬度
(Hv)が400 以上を確保しやすくなる。したがって、めっ
き皮膜の膜厚は、めっき皮膜表面の残留応力低減と耐磨
耗性を確保する両方の観点から決定されるのが好まし
い。
つである、前記図4 に示したアーム部と動力伝達部とを
含む自動車などの輸送機用のAl合金製プーリは、前記し
た通り、前記アーム部と動力伝達部との要求特性が異な
る。即ち、大きなトルクがかかる場合のプーリの疲労破
壊特性が主として問題となるのは、アーム部であり、ベ
ルトに動力を伝達する動力伝達部の方は、磨耗による表
面の肌あれを防止するための耐磨耗性である。
む自動車などの輸送機用のAl合金製プーリでは、アーム
部のめっき皮膜は、疲労寿命の向上のために、特にめっ
き皮膜表面の残留応力を低くする必要がある。このため
には、アーム部のめっき皮膜の膜厚は数μm 程度の薄い
方が好ましい。一方、動力伝達部のめっき皮膜は、耐磨
耗性の向上のために、めっき皮膜の膜厚は数十μm 程度
の厚い方が好ましい。また、アーム部のめっき皮膜の、
疲労寿命の向上のために、めっき皮膜を非晶質とする方
法もある
を含む自動車などの輸送機用のAl合金製プーリでは、N
i、Ni-P、Crなどの硬質めっき、あるいはこれらのめっ
き皮膜に更にSiC などの硬質粒子を分散させた硬質めっ
きを行う場合、アーム部のめっき皮膜の膜厚を10μm 以
下の数μm 程度、動力伝達部のめっき皮膜の膜厚を10μ
m 以上の15〜20μm 程度とすることが好ましい。
について説明する。Ni、Ni-P、Crなどの硬質めっき、あ
るいはこれらのめっき皮膜に更にSiC などの硬質粒子を
分散させた硬質めっきを設ける場合、無電解めっき、置
換めっき、浸漬めっきなどのめっき方法もあるが、基本
的にAl合金製プーリを電気めっきすることにより設ける
方法が効率的である。
動力伝達部とを含む自動車などの輸送機用のAl合金製プ
ーリを電気めっきする方法について説明する。図2 は、
動力伝達部のめっき皮膜厚さが、前記アーム部のめっき
皮膜厚さよりも厚い疲労寿命および耐磨耗性に優れたAl
合金製プーリを得るための、電気めっき装置の概要を示
している。図2 において、電気めっき装置は、めっき浴
7 を収容する電解層6と、めっきされるAl合金製プーリ1
を多数支持するとともに、プーリ1 に−の架電を行う
回転軸9 と、プーリ1 に対向して配置された陽極8 、8
と、これらの電極に通電する電源10とからなる。
する回転軸9 は、陽極8 の面に対し、プーリ1 を自転乃
至公転させてめっき皮膜を設ける。そして、この際、プ
ーリ1 の自転乃至公転を、プーリ1 の動力伝達部3 、3
の方を、アーム部2 、2 よりも陽極8 の面に近づけて行
い、陽極8 を内包する面に対して直交する面内で、陽極
と平行の軸を中心として行うことにより、動力伝達部3
、3 のめっき皮膜厚さを、アーム部2 、2 のめっき皮
膜厚さよりも厚くすることが可能である。
きAl合金製プーリの間に電圧をかけ、電流を流すことに
より、めっき皮膜を成長させる方法である。このため、
陽極に最も近い部分に電流が流れやすいという傾向があ
る。したがって、電流が多く流れた部分のめっき膜厚
は、電流の流れる量が少ない部分よりも厚くなる。前記
方法は、電気めっきの、このような特性を活かして、動
力伝達部3 、3 のめっき皮膜厚さを、アーム部2 、2 の
めっき皮膜厚さよりも厚くしている。
金の種類は、プーリなどの動力伝達部品の要求特性や機
械的性質に応じて適宜選択される。但し、前記した通
り、特にプーリのアーム部などの疲労破壊は、母材であ
るAl合金特性にも大きく影響を受ける。このため、動力
伝達部品の中でも、特に疲労寿命が要求される場合に
は、Al合金の中でも、特にプーリ用途に要求される疲労
破壊特性を具備している、好ましくは、引張強さが190N
/mm2以上のJIS 5052、5056などの5000系や、JIS 6063な
どの6000系、あるいはJIS 7075などの7000系などのAl合
金を用いることが好ましい。しかし、用途によっては、
JIS 2014、2017などの2000系や、JIS4032 などの4000
系、A C4B 、A C8C 、A DC12などを用いることも可能で
ある。
乃至成形自体は、公知の方法により行われる。例えば、
Al合金鋳塊を圧延や押出、鍛造などにより、熱間成形加
工や冷間成形加工して、またはAl合金粉末を焼結するな
どの粉末冶金法により、所定の動力伝達部品が製造され
る。
具体的に説明する。引張強さが195N/mm2であるJIS 5052
(O材)Al 合金を、図4 に示す形状のアーム部と動力伝達
部とを含むプーリに加工し、このプーリを被めっき材と
して、電気Niめっき、電気Ni-Pめっき、無電解Niめっ
き、Crめっきして、各々のめっき皮膜を表面に形成し
た。このアーム部と動力伝達部とを含むAl合金製プーリ
の、アーム部と動力伝達部とのめっき皮膜の膜厚は同じ
とした。そして、このめっき皮膜を表面に形成したAl合
金製プーリの、めっき皮膜硬度と、めっき皮膜表面の残
留応力を測定するとともに、Al合金製プーリの疲労寿命
を評価した。これらの結果を、図1 に示す。
の、めっき皮膜の基本的な条件と、めっき皮膜表面の残
留応力、Al合金製プーリの疲労寿命の評価を整理して、
表1 、2 に示す。表1 は電気Ni-Pめっきの例、表2 は電
気Niめっきの例、無電解Niめっきの例、Crめっきの例で
ある。なお、表1 、2 における図1 との対応について、
表1 、2 では、図1 にプロットしている印 (めっきの種
類) のみを示し、白抜き、網かけ、黒塗りの区別はして
いない。また、表1 、2 において、めっき皮膜を設けた
Al合金製プーリの疲労寿命の評価は、めっき皮膜を設け
ないAl合金製プーリの疲労寿命よりも特性が20% 以上向
上しているプーリを○印で、また、めっき皮膜を設けな
いAl合金製プーリの疲労寿命と特性が同等のプーリを△
印で、更に、めっき皮膜を設けないAl合金製プーリの疲
労寿命に比して特性が劣っている、プーリを×印で、各
々表す。
度計により測定した。また、各めっき皮膜表面の残留応
力(kgf/mm2) は、X 線管球にCrを用い、ヤング率12000k
gf/mm2、ポアソン比0.3 の定数を用いた公知のX 線応力
測定方法により測定した。この際、無電解Niめっきのみ
は、スパイラル応力計によりめっき時に膜応力を測定し
た。
のプーリの自動車部品への使用環境を模擬して、プーリ
に300kgf/mm2の引張力を付加しながら回転させる、回転
疲労試験によって行い、疲労破壊が生じるまでの回転数
で評価した。また、同じ試験方法・条件によるめっきし
ないAl合金製プーリの疲労寿命を基準として比較した。
なお、めっきしないAl合金製プーリの疲労寿命は5 ×10
5 回であった。
よりも上側の領域、即ち、めっき皮膜硬度(Hv)≧8 ×め
っき皮膜表面の残留応力 (kgf/mm2)+330 を満足する、
より好ましくは、めっき皮膜硬度(Hv)≧8 ×めっき皮膜
表面の残留応力 (kgf/mm2)+410 を満足するめっき皮膜
で、かつ、斜線B1やB2よりも左側の領域、即ち、めっき
皮膜硬度(Hv)≧100 ×めっき皮膜表面の残留応力 (kgf/
mm2)−500 を満足する、より好ましくは、めっき皮膜硬
度(Hv)≧100 ×めっき皮膜表面の残留応力 (kgf/mm2)−
50を満足するめっき皮膜が、めっき皮膜の種類に拘ら
ず、プーリ本体の疲労破壊特性乃至疲労寿命を向上さ
せ、確実に保証することができる。
製プーリのめっき皮膜表面の残留応力が15kgf/mm2 以
下、あるいは、10kgf/mm2 以下のより低い値となったと
しても、めっき皮膜の種類に拘らず、Al合金製プーリの
疲労寿命は向上しないか、却って低下している。したが
って、この実施例から、本発明における、めっき皮膜硬
度(Hv)との関係でめっき皮膜表面の残留応力を規定する
ことの、プーリ本体の疲労寿命を確実に保証する臨界的
な意義が明らかである。
の前記発明領域内にある各発明例は、めっき皮膜の種類
や基本めっき条件の違いに拘らず、プーリ本体の疲労破
壊特性乃至疲労寿命を向上させ、確実に保証することが
できる。
比、即ち、表1 の電気Ni-Pめっきにおける、発明例No.4
と比較例No.8、発明例No.5と比較例No.11 との対比など
から明らかな通り、めっき皮膜の基本的条件が同じ乃至
近似していても、めっき皮膜表面の残留応力は大きく異
なり、プーリ本体の疲労寿命が著しく相違していること
が分かる。
明例No.12 と比較例No.16 、発明例No.14 と比較例No.1
7 、更には、Crめっきにおける、発明例No.22 と比較例
No.27 、発明例No.24 と比較例No.26 との対比などから
も明らかである。
めっき皮膜の基本特性やめっきの基本条件が、例え、全
く同じであったとしても、それだけでは、めっき皮膜表
面の残留応力が同じとなるとは言えないこと、即ち、Al
合金製プーリ本体なり、Al合金製動力伝達部品本体なり
の疲労破壊特性乃至疲労寿命を確実に保証するために
は、めっき皮膜表面の残留応力自体を測定して評価する
必要があることを裏付けている。したがって、本発明の
ように、めっき皮膜表面の残留応力の規定により、疲労
破壊特性乃至疲労寿命を、確実に保証できることの意義
が裏付けられている。
に示しためっき装置を用いて、P 量を2 〜4wt%含有する
電気Ni-Pめっき皮膜を表面に形成した。そして、アーム
部と動力伝達部とを含むAl合金製プーリの、アーム部の
膜厚を5 μm 程度、動力伝達部の膜厚を20μm 程度と設
定して、部分により膜厚を変えた電気Ni-Pめっき皮膜を
表面に形成した。
ーリの、アーム部と動力伝達部の膜厚を図3 に示す。図
3 の数値は、プーリ1 の各部分の表面に形成した電気Ni
-Pめっき皮膜の膜厚を示している。この図3 から明らか
な通り、図2 に示す装置と方法を用いることにより、各
部分によってめっき皮膜の膜厚が異なるAl合金製プーリ
を製作するのが可能であることが分かる。
ーリの疲労寿命を評価した。この結果、特にアーム部の
疲労寿命は、めっきしないAl合金製プーリの疲労寿命に
比して、20% 以上向上していた。
は、Al合金製動力伝達部品に要求される疲労寿命および
耐磨耗性という相矛盾した特性を兼備することが可能で
あり、Al合金製プーリのみならず、疲労寿命と耐磨耗性
の要求特性が各々異なる部分が存在する他のAl合金製動
力伝達部品、例えば、歯車、ラックなどに、自動車など
の輸送機用や、自転車用、産業機械用、家電製品用とし
て、汎用できることが分かる。
労寿命および耐磨耗性という相矛盾した特性を兼備し、
しかもこれら特性を保証したAl合金製動力伝達部品を提
供することができる。したがって、特に自動車などの輸
送機用のAl合金製動力伝達部品の用途を拡大し、輸送機
などのAl合金化および軽量化を促進させる優れた工業的
な価値を有するものである。
膜硬度(Hv)、およびAl合金製プーリの疲労寿命の関係を
示す説明図である。
っき皮膜厚さよりも厚いAl合金製プーリを得るための、
電気めっき装置の概要を示す説明図である。
表面に設けたプーリの、アーム部と動力伝達部の膜厚を
示す説明図である。
示し、図4 (a) は縦断面図、(b) は平面図である。
部、5:駆動軸が嵌合される孔、6:電解層、7:めっき浴、
8:陽極、9:回転軸、10: 電源、A1、A2、B1、B2:プーリ
の疲労寿命を保証する臨界的な領域を示す斜線、
Claims (15)
- 【請求項1】 疲労寿命と耐磨耗性の要求特性が各々異
なる部分が存在するAl合金製動力伝達部品において、硬
度(Hv)が250 以上のめっき皮膜を表面に設けるととも
に、特に疲労寿命が要求される部分のめっき皮膜表面の
残留応力が、めっき皮膜硬度(Hv)との関係で、めっき皮
膜硬度(Hv)≧8 ×めっき皮膜表面の残留応力 (kgf/mm2)
+330 、および、めっき皮膜硬度(Hv)≧100 ×めっき皮
膜表面の残留応力 (kgf/mm2)−500 を満足することを特
徴とする疲労寿命および耐磨耗性に優れたAl合金製動力
伝達部品。 - 【請求項2】 前記動力伝達部品がプーリである請求項
1に記載の疲労寿命および耐磨耗性に優れたAl合金製動
力伝達部品。 - 【請求項3】 前記プーリが、円筒状の固定部と該固定
部の外周に配設された円盤状のアーム部と該アーム部の
外周に配設された円筒状の動力伝達部とからなり、前記
アーム部のめっき皮膜表面の残留応力が、めっき皮膜硬
度(Hv)との関係で、めっき皮膜硬度(Hv)≧8 ×めっき皮
膜表面の残留応力 (kgf/mm2)+330 、および、めっき皮
膜硬度(Hv)≧100 ×めっき皮膜表面の残留応力 (kgf/mm
2)−500 を満足する請求項2に記載の疲労寿命および耐
磨耗性に優れたAl合金製動力伝達部品。 - 【請求項4】 前記めっき皮膜表面の残留応力が、めっ
き皮膜硬度(Hv)≧8×めっき皮膜表面の残留応力 (kgf/m
m2)+410 、および、めっき皮膜硬度(Hv)≧100 ×めっ
き皮膜表面の残留応力 (kgf/mm2)−50を満足する請求項
1乃至3のいずれか1項に記載の疲労寿命および耐磨耗
性に優れたAl合金製動力伝達部品。 - 【請求項5】 前記めっき皮膜表面の残留応力が、15kg
f/mm2 以下である請求項1乃至4のいずれか1項に記載
の疲労寿命および耐磨耗性に優れたAl合金製動力伝達部
品。 - 【請求項6】 前記めっき皮膜表面の残留応力が、10kg
f/mm2 以下である請求項1乃至5のいずれか1項に記載
の疲労寿命および耐磨耗性に優れたAl合金製動力伝達部
品。 - 【請求項7】 前記めっき皮膜硬度(Hv)が400 以上であ
る請求項1乃至6のいずれか1項に記載の疲労寿命およ
び耐磨耗性に優れたAl合金製動力伝達部品。 - 【請求項8】 前記アーム部のめっき皮膜厚さが、前記
動力伝達部のめっき皮膜厚さよりも薄い請求項1乃至7
のいずれか1項に記載の疲労寿命および耐磨耗性に優れ
たAl合金製動力伝達部品。 - 【請求項9】 前記めっき皮膜が、Ni、Ni-P、Fe-P、Cr
の内から選択される硬質めっきである請求項1乃至8の
いずれか1項に記載の疲労寿命および耐磨耗性に優れた
Al合金製動力伝達部品。 - 【請求項10】 前記めっき皮膜が、Al合金製動力伝達
部品を電気めっきすることにより設けられる請求項1乃
至9のいずれか1項に記載の疲労寿命および耐磨耗性に
優れたAl合金製動力伝達部品。 - 【請求項11】 前記電気めっきが、陽極面に対し、Al
合金製動力伝達部品を自転乃至公転させてめっき皮膜を
設けるものである請求項10に記載の疲労寿命および耐
磨耗性に優れたAl合金製動力伝達部品。 - 【請求項12】 前記Al合金製プーリの自転乃至公転
を、Al合金製プーリの動力伝達部の方をアーム部よりも
陽極面に近づけて行い、動力伝達部のめっき皮膜厚さ
を、アーム部のめっき皮膜厚さよりも厚くした請求項1
1に記載の疲労寿命および耐磨耗性に優れたAl合金製動
力伝達部品。 - 【請求項13】 前記Al合金の引張強さが190N/mm2以上
である請求項1乃至12のいずれか1項に記載の疲労寿
命および耐磨耗性に優れたAl合金製動力伝達部品。 - 【請求項14】 前記Al合金製動力伝達部品が輸送機用
である請求項1乃至13のいずれか1項に記載の疲労寿
命および耐磨耗性に優れたAl合金製動力伝達部品。 - 【請求項15】 前記Al合金製動力伝達部品が自動車用
である請求項1乃至14のいずれか1項に記載の疲労寿
命および耐磨耗性に優れたAl合金製動力伝達部品。
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JP00854598A JP4620191B2 (ja) | 1998-01-20 | 1998-01-20 | 疲労寿命および耐磨耗性に優れたAl合金製プーリおよびAl合金製プーリのめっき方法 |
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