【発明の詳細な説明】
キラル化合物とその分割 発明の分野
この発明は、薬学的に活性なグルタルイミドの合成の中間体として有用なキラ
ル化合物およびその分割に関する。発明の背景
3,3−ジ置換グルタルイミド、例えば、3−エチル−3−(4−アミノフェニ
ル)ピペリジン−2,6−ジオン(アミノグルテチミド)および3−エチル−3−(
4−ピリジル)ピペリジン−2,6−ジオン(ログレチミド)等のラセミ化合物は
ホルモン依存性乳癌の治療に有効であることが報告されている[スミスら、Lanc
et ii、第646頁(1978年)およびフォスターら、J.Med.Chem.、第
28巻、第200頁(1985年)参照]。この種の化合物は、アンドロゲンから
のエストロゲンの生成を触媒する酵素アロマターゼを阻害する作用があると考え
られている。従って、この種の化合物はエストロゲンによって促進される腫瘍の
増殖を阻害する。
マッカグらによる報文には、5−アルキル誘導体を含むログレチミド誘導体が
アロマターゼの阻害活性を改良することが開示されている[J.Med.Chem.、
第35巻、第3699頁〜第3704頁(1992年)参照]。アミノグルテチミ
ド、ログレチミドおよびシクロヘキシルアミノグルテチミドの鏡像体による生体
外でのアロマターゼの阻害がオグブヌデらの文献に報告されている[Chirality
、第6巻、第623頁〜第626頁(1994年)参照]。
グラベスらの報文には、この種の化合物の(R)−鏡像体は(S)−鏡像体よりも
アロマターゼのインヒビターとしてより有効であるこが開示されている[Endocr
inology、第105巻、第52頁(1979年)参照]。従って、ラセミ化合物の
うちで(R)−鏡像体が実質的な活性成分であると考えられているので、該鏡像体
の製造法が要請されている。
アミノグルテチミドとログレチミドの別々の鏡像体は酒石酸塩の反復再結晶処
理とカンファーから誘導されるキラル助剤の使用によってそれぞれ調製されてい
る[フィンチら、Experientia、第31巻、第1002頁(1975年)およびマ
ッカグら、J.Chem.Sac.Perkin Trans.、第1巻、第196頁〜第19
8頁(1989年)参照]。生成物の分離は、酒石酸アミドまたはトリアシルセル
ロースに基づくキラル固定相を用いるクロマトグラフィーによっておこなわれる
。しかしながら、これらの方法は、単一の薬剤成分の経済的な大規模生産には不
適当である。
WO−A−9304058号特許公報には、グルタレートジエステルの生体触
媒分割によってこの種のグルタルイミド化合物を製造する方法が開示されている
。障害度のより少ないエステル官能基のみが適当な生体触媒によって加水分解さ
れ、その鏡像体特異性は、該生体触媒が第四級炭素原子上のアリル、エチルおよ
びカルボン酸エステル置換基を区別する程度である。ログレチミドの前駆体の場
合にみられる特異性は中程度に過ぎないが、バイオトランスフォーメーションに
よる生成物はログレチミドに容易に変換され、また、鏡像体過剰率を増大させる
手段が見出された。発明の概要
WO−A−9304058号特許公報に記載された方法で用いるバイオトラン
スフォーメーション用基質はジエステルであるが、本発明においては、対応する
エステル−ニトリル[請求項1記載の式(II)(式中、RはHではない)参照]が満足
すべき基質であることが判明した。所望の鏡像体は不要な鏡像体から分離し、例
えば酸を用いて容易に環化することによって該特許公報に記載された生成物と同
じ生成物(I)を得ることができる。
本発明の1つの観点によれば、利用し得るエステラーゼを用いる有効な生体触
媒分割は式(II)で表わされるエステル−ニトリルを使用しておこなうことができ
る。
良好な鏡像体特異性は、エステル官能基の生体触媒による加水分解による分割
に対して得られる。適当な酵素は、第四級炭素原子上の置換基、例えばアリール
、エチルおよびニトリルを区別することができる。特に、式IIで表わされるラセ
ミ化合物は、他方の鏡像体と反応して対応する酸(式IIにおいてRがHのときの
化
合物)(該酸は分離してもよい)を生成させることによって混合物中の一方の鏡像
体の含有量を高める鏡像体特異性エステラーゼと接触させてもよい。部分的な濃
度増大は酒石酸または常套のカンファーから誘導されるキラル助剤を用いる分割
処理によっておこなってもよい。発明の詳細な説明
バイオトランスフォーメーション用基質としては、式IIにおいてRがエステル
化基、炭素原子数が1〜10のアルキル基(例えば、直鎖状または分枝鎖状アル
キル)、アリールアルキルおよび所望により、例えばハロゲン原子等によって置
換されていてもよいアリールである化合物である(Rがアルキル基の化合物が適
当である)。本発明の目的にとっては、Rがメチルまたはエチルである化合物が
適当であり、また、このような化合物は化学的処理を簡単化する点で好ましい。
バイオトランスフォーメーション後の環化反応に対しては、RはHでもよいが、
所望の鏡像体に応じてRは変化させてもよい。
XおよびZは各々Hまたは有機残基である。Xは例えば、エチルのようなC1- 10
アルキルであってもよい。Zは好ましくはHまたはC1-10アルキルであり、こ
の場合には、例えば5−アルキル生成物が得られる。式Iで表わされる化合物は
いずれのアロマターゼインヒビター、例えば、アミノグルテチミド(式Iにおい
てXがエチル、Yが4−アミノフェニルおよびZがHである化合物)またはいず
れかの類似体、例えば、前記の特定の化合物、またはイソプロピルグルテチミド
等であってもよい。式Iで表わされる化合物はペラパミルのような血圧降下剤の
中間体であってもよい。Yは定義の通りであり、一般的には、Y(後述の反応ス
キームにおいてはArで示す)は環状基、即ち、アリール、炭素環式基または複素
環式基のいずれであってもよく、例えば、いずれかの置換基を有することもある
炭素原子数が12までの環状基が挙げられる。Yは好ましくはジメトキシフェニ
ル、4−ピリジル、4−アミノフェニル(Nが所望により保護されていてもよい)
、イソプロピルフェニルまたはシクロヘキシルフェニルである。例えば、接触水
素化によってアミノフェニルに変換される前駆体として、Yはニトロフェニルで
あってもよい。(R)−3−エチル−3−(4−ニトロフェニル)ピペリジン−3,
6−
ジオンは新規化合物である。式IIにおいてYがニトロフェニルである化合物はバ
イオトランスフォーメーションにおいて特に良好な収率をもたらす。
説明を簡単化するために、本発明に含まれる製法は、例えば、後述の反応スキ
ームにおいてその概略を示すアミノグルテチミド鏡像体の製法に関して説明する
。式IIで表わされる化合物(特に式1で表わされる化合物)は当業者に既知の方法
によって調製してもよく、これについては以下の実施例において説明する。この
種の方法の1つには、アクリレートエステルに対するミカエル付加が含まれる(
実施例4参照)。
反応スキームに示す第一段階は本発明の特徴である。この段階はラセミ体ニト
リル(1)の一方の鏡像体を優先的に加水分解して光学的に濃縮された残余エステ
ル(2)と酸(3)を生成する生体触媒の使用に基づく。エステルのR−鏡像体を生
成する生体触媒(即ち、反応スキームにおける生体触媒A)およびS−鏡像体を生
成する生体触媒(生体触媒B)がある。
適当なエステラーゼ活性はアシラーゼI[アスペルギルス(Aspergillus)、エ
ステラーゼ30,000、リゾプス・ジャポニクス(Rhizopus Japonicus)リパ
ーゼ、F3リパーゼ、A2リパーゼ(豚の膵臓)、F6リパーゼ[カンジタ(Candi
da)]、豚の肝臓エステラーゼ、CEリパーゼおよびAYリパーゼから得てもよい
。コレステロールエステラーゼを利用してもよい。生体触媒Aとしては、カンジ
タ・シリンドラカエ(Candida cylidracae)リパーゼおよび実施例8〜10に示
す属の酵素活性を示すものが例示される。
バイオトランスフォーメーションに対して適当な別の生体触媒としては、微生
物菌株P3U1、NCIMB40517が例示され、これらは60%ee以上でR
−エステル酸を生成する。その他の適当な生体触媒Bとしてはトリコスポロン(
Trichosporon)ENZA I−3、IMI348917が例示され、アラルカノ
ン酸(aralkanoic acid)エステルを酸(例えば(S)−ケトプロフェン)に変換する
鏡像体特異性を含むこれらの特性はWO−A−9304189号特許公報に記載
されている。α−キモトリプシンも適当な生体触媒Bである。
アリールプロピオン酸エステルの鏡像体特異的加水分解用の別の生体触媒はW
O−A−9420634号特許公報に記載されているタイプの真菌から得られる
ものである。このタイプの特定の真菌はオフィオストマ・ノボーウルミ(Ophios
toma novo-ulmi)、IMI356050である。
カンジタ・アンタルクチカ(Candida antarctica)リパーゼを用いるフェニル
グルタロニトリルエステル(Ar=Ph、R=Me)の具体的なバイオトランスフォ
ーメーションにおいては、エステル官能基は酸に加水分解された。この場合、鏡
像体特異性(E)は12であった。ニトロフェニル化合物(Ar=4−ニトロフェニ
ル、R=Me)をα−キモトリプシンを用いるバイオトランスフォーメーションの
場合には、Eは39であった。オフィオストマ・ノボーウルミから得られるエス
テラーゼを用いる同じ基質のバイオトランスフォーメーションにおいては反対の
特異性がみられた。
中性pHにおける溶剤抽出によって容易に分離されるバイオトランスフォーメ
ーション生成物は常套の化学的方法によって鏡像異性的に濃縮されたグルタルイ
ミドに変換される。
この種のニトロエステルのグルタルイミドへの変換は酸(例えば、酢酸と硫酸
との混合物)の共存下での加熱条件下において容易におこなうことができ、これ
によって光学的に活性なグルタルイミド化合物が得られる。このような処理条件
はラセミ体ニトリル−エステルをラセミ体グルタルイミド、アミノグルテチミド
およびログレチミドへ変換する反応において知られている。
以下の実施例1および4においてはバイオトランスフォーメーション用基質で
あるニトリル−エステル(II)の調製を例示し、実施例6においては関連する還元
について説明する。実施例2、5および8〜10においてはバイオトランスフォ
ーメーションを説明し、実施例3および7においては本発明による環化反応につ
いて説明する。実施例1〜3および4〜7においては同一生成物の別の調製法に
ついて説明する。
実施例1 メチル4−シアノ−4−(4−アミノフェニル)ヘキサノエート
3つ口丸底フラスコ内にメチル4−シアノ−4−(4−ニトロフェニル)ヘキサ
ノエート(20.0g)、90%エタノール(1000ml)およびPtO2(1.0g)を入
れた。フラスコ内へは排気後、窒素ガスを導入した。上記混合物を激しく撹拌し
、バルーンを介して大気圧のH2を導入した。セライトを用いて触媒を濾去した
後、溶剤を減圧下で除去することによって、メチル4−シアノ−4−(4−アミ
ノフェニル)−ヘキサノエートを褐色の粘性オイルとして18g得た(収率100
%)。
実施例2
ジャケット付バイオトランスフォーメーション用容器(500ml)内にKH2P
O4の0.1M溶液(pH7.0、250ml)およびメチル4−(4−アミノフェニル)
4−シアノヘキサノエート(5.0g、20.3mmol)を入れ、カンジタ・シリンド
ラセアリパーゼ(CCL;5.0g)を加え、混合物をオーバーヘッドスターラーを
用いて撹拌した。温度は熱循環器を用いて30℃に維持し、また、pHは自動滴
定装置に接続したプローブを用いて調整した。バイオトランスフォーメーション
はNaOHの1M溶液10mlを添加するまでおこなった(変換率50%)。これに
は約3時間を要した。この時点で、NaCl(25g)の添加によってバイオトラン
スフォーメーションを停止させ、得られた混合物をジエチルエーテルを用いて抽
出した(250ml×4)。水性溶液のpHを濃塩酸を用いて3に調整し、混合物を
酢酸エチルを用いて抽出した(400ml×3)。抽出液を集めて乾燥させた後、減
圧下で濃縮することによって4−(4−アミノフェニル)−4−シアノヘキサン酸
を褐色オイルとして1.8g得た(収率38%)。生成物中の異性体は(R)−鏡像体
の含有量の方が多かった。この生成物はさらに処理することなく、以下の実施例
3における反応成分として使用した。
実施例3 (R)−アミノグルテチミド
(R)−鏡像体の含有量の多い4−(4−アミノフェニル)−4−シアノヘキサン
酸(1.8g、7.7mmol)を、25ml丸底フラスコ内の氷酢酸(6.0ml)に溶解させ
た。得られた混合物を油浴を用いて60℃まで加熱した後、濃硫酸を3.0ml滴
下した。この溶液を100℃まで加熱し、この温度に30分間保持した後、10
0gの氷に注いだ。NaOHの5M溶液を用いてpHを6に調整した後、ジクロロ
メタンを用いて抽出した(3×200ml)。抽出液を集めてMgSO4を用いて乾燥
した後、減圧下で濃縮することによって(R)−アミノグルテチミドを褐色オイル
として1.75g得た(収率97%)。キラルHPLC分析によれば、(Chiralcel
OJカラム;移動相1:1n−ヘプタン−イソプロパノール)、eeは78%であっ
た。
実施例4A 2−(4−ニトロフェニル)ブチロニトリル
3つ口丸底フラスコに濃硝酸(240ml)を入れ、氷/アセトン浴を用いて10
℃まで冷却した後、濃硫酸(240ml)をゆっくりと添加して温度を30℃以下に
維持した。この溶液に2−フェニルブチロニトリル(アルドリッチ社製;110ml
)を撹拌下で1時間かけて滴下した(温度は20℃以下に維持した)。次いで、氷
/アセトン浴を取り除き、混合物を周囲温度においてさらに30分間撹拌した後
、破砕した氷(100g)上に注いだ。得られた混合物を酢酸エチルを用いて抽出
し、抽出液を集め、重炭酸塩の飽和溶液(1000ml)および水(500ml)を用い
て洗浄した。MgSO4を用いて乾燥させた後、酢酸エチルを減圧下で蒸発させる
ことによって2−(4−ニトロフェニル)−ブチロニトリル粗製物を黄色オイルと
して138g得た(収率98%)。GC・MS分析によれば、パラ:メタ比は3.5
:1であった。
実施例4B メチル4−シアノ−4−(4−ニトロフェニル)ヘキサノエート
磁気フォロアーを備えた3つ口丸底フラスコ(100ml)内に2−(4−ニトロ
フェニル)ブチロニトリル(10.0g)、ブタノール(10ml)およびメチルアクリ
レート(5.2ml)を入れ、この混合物に、t−ブタノール(10ml)にカリウムt−
ブトキシド(0.6g)を溶解させた溶液を滴下した。滴下中、温度は約10℃に維
持した。滴下後、溶液は紫色に変色した。添加終了後、混合物を周囲温度まで昇
温させ、さらに2時間撹拌した。反応混合物をジエチルエーテル(400ml)とK
H2PO4の1M溶液(400ml)との間の分配処理に付すことによって上記反応を
終了させた。エーテル層を水(50ml)を用いて洗浄し、次いでMgSO4を用いて
乾燥させた後、減圧下で濃縮することによってメチル4−シアノ−4−(4−ニ
トロフェニル)ヘキサノエートをオレンジ色オイルとして14.1g得た(収率99
%)。
実施例5
ジャケット付のバイオトランスフォーメーション用容器(1リットル)内にKH2
PO4の0.05M溶液(pH7.5;500ml)およびメチル4−シアノ−4−(4
−ニトロフェニル)ヘキサノエート(20g、70mmol)を入れ、これにα−キモト
リプシン(アルドリッチ社製;4g)を添加した後、該混合物を、オーバーヘッド
スターラーを用いて撹拌した。熱循環器を用いて温度を37℃に保持し、pHは
自動滴定装置に接続したプローブを用いて調整した。バイオトランスフォーメー
ションはNaOHの1M溶液を18ml添加するまでおこなった(変換率50%)。
これには約68時間要した。さらに、24時間後および50時間後にα−キモト
リプシン1gを添加した。この時点で、NaCl(50g)を添加することによってバ
イオトランスフォーメーションを停止させ、得られた反応混合物をジエチルエー
テルを用いて抽出した(500ml×3)。抽出液を集めて乾燥した後、減圧下で濃
縮することによって(R)−メチル4−シアノ−4−(4−ニトロフェニル)ヘキサ
ノエートを10g得た(収率50%)。この生成物は(R)−鏡像体を多く含有し、e
eはキラルHPLC分析によれば70%であった。
実施例6 ニトログルテチミド
(R)−鏡像体の含有量が多い(約70%ee)(R)−メチル4−シアノ−4−(4
−ニトロフェニル)ヘキサノエート10g(36mmol)を、丸底フラスコ(25ml)内
に入れた氷酢酸30.0mlに溶解させ、これを油浴を用いて60℃まで加熱した
後、濃硫酸15.0mlを滴下した。この溶液を100℃で30分間加熱した後、
氷100g上に注いだ。NaOHの5M溶液を用いてpHを6に調整し、混合物を
ジクロロメタンを用いて抽出した(3×200ml)。抽出液を集め、MgSO4を用
いて乾燥した後、減圧下で濃縮することによって(R)−ニトログルテチミドを褐
色オイルとして約8.3g得た(収率88%)。この生成物のeeは約70%であった
。
実施例7 (R)−アミノグルテチミド
3つ口丸底フラスコ内にeeが約70%の(R)−ニトログルテチミド8.3g(3
2mmol)、90%エタノール(250ml)およびPtO20.35gを入れ、該フラス
コ内には排気後、窒素ガスを導入した。混合物を激しく撹拌し、バルーンを介し
て大気圧のH2を導入した。セライトを用いて触媒を濾去した後、溶剤を減圧下
で除去することによって(R)−アミノグルテチミドを淡褐色固体てして7.1g得
た(収率96%)。この生成物のeeは約70%であった。
実施例8
酵母抽出物5g/l、(NH4)2SO41g/l、KH2PO45g/l、MgSO4・
7H2O 0.2g/lおよびグルコース10g/lを含有する滅菌水性培地(pH6.
0)50mlをエーレンスマイヤーフラスコ(500ml)に入れ、該培地に耳(loop)
一杯のカンジダ・ルゴサ(Candida rugosa)(ATCC10571)を接種し、該
フラスコを1インチ(25mm)のスロー(throw)を用いて250rpmの条件下におい
て25℃で24時間振盪させた。増殖した細胞は1200gでの遠心分離処理に
10分間付すことによって収集した。収集した細胞の元の体積の5分の1の量の
50mMリン酸カリウム溶液(pH6.0)に該細胞を再懸濁させた。Tween80を
0.1%含有する50mMリン酸カリウム溶液中にエチル4−シアノ−4−(4−
ニトロフェニル)ヘキサノエートを含有するエマルション(濃度: 50mg/ml)を
、「ソニプレプ(Soniprep)150」を用いる振幅18μmでの超音波処理に10分
間付すことによって調製した(サイクルのオン時間は10秒間とし、オフ時間は
3秒間とした)。この基質エマルション400μlを、20mlガラス瓶内に入れた
前記の再懸濁細胞1.6mlに添加した。バイオトランスフォーメーションの反応
混合物を250rpmの条件下において25℃で69時間振盪させることによって
インキュベートした。この反応は酢酸エチル2mlを添加することによって停止さ
せた。キラルHPLC(Chiralpak ADカラム: 移動相98.3%ヘプタン−1.
7%イソプロピルアルコール; 流速2ml/分)によって鏡像体過剰率を分析した
。反応を停止させた反応混合物を激しく振盪させた後、分層させ、酢酸エチル層
をピペットを用いて採取した。これを無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥させた
後、新しいガラス瓶内に移し、これにトリメチルシリルジアゾメタン25μlを
添加した。試料を混合して周囲温度で1時間放置した後、HPLC分析に付した
ところ、バイオトランスフォーメーションにおいてeeが99%以上の(R)−4−
シアノ−4−(4−ニトロフェニル)ヘキサン酸が生成し(残余基質のeeは24%
である)、変
換率は19%であることが判明した。
実施例9
酵母抽出物20g/l、(NH4)2SO44g/l、KH2PO45g/l、MgSO4
・7H2O 0.3g/l、Na2HPO4・2H2O5g/l、CaCl2・2H2O 0.
2g/lおよびグルコース40g/l含有する滅菌水性培地(pH6.0)25mlをポ
イント・バフル(point−baffle)を有するエーレンスマイヤーフラスコ(250ml
)内に入れ、フサリウム・オキシスポルム(Fusarium oxysporum)IMI 329
6 62を該培地に接種し、該フラスコを1インチ(25mm)のスローを用いて2
50rpmの条件下において25℃で72時間振盪することによって培養した。細
胞を収集し、等容量の50mMリン酸カリウム溶液に再懸濁させた後、実施例8
の場合のようにしてバイオトランスフォーメーションにおいて使用した。バイオ
トランスフォーメーションを24時間後に停止させ、キラルHPLC分析を実施
例8に記載の方法によっておこなったところ、eeが95.9%の(R)−4−シア
ノ−4−(4−ニトロフェニル)ヘキサン酸がトランスフォーメーションにおいて
生成したことが判明した。
実施例10
ペニシリウム・ピノフィルム(Penicillium pinophilum)IMI 11493
3を実施例9に記載のようにして培養した。但し、この場合には培地にトリブチ
リンを10g/l含有させた。細胞を収集し、等容量の50mMリン酸カリウム溶
液に再懸濁させた後、実施例8の場合のようにしてバイオトランスフォーメーシ
ョンにおいて使用した。バイオトランスフォーメーションを24時間後に停止さ
せ、キラルHPLC分析を実施例8に記載の方法によっておこなったところ、ee
が89%の(R)−4−シアノ−4−(4−ニトロフェニル)−ヘキサン酸がトラン
スフォーメーションにおいて生成したことが判明した。
【手続補正書】特許法第184条の8
【提出日】1996年5月30日
【補正内容】
請求の範囲
1.次式II:
(式中、XおよびZはHまたは有機残基を示し、Yは環状基を示し、Rはエステ
ル化基を示す)
で表されるラセミ体形態のキラルエステルを鏡像体特異的エステラーゼと接触さ
せ、
エステラーゼによって形成される対応する酸(R=H)から式IIで表されるエス
テルを分離させ、
この光学的に濃縮された酸またはエステルを環化させることを含む、次式I:
(式中、X、YおよびZは前記と同意義である。)
で表されるキラル化合物を少なくとも1種の優勢な鏡像体の形態で製造する方法
。
2.XがC1-10アルキルであり、RがHまたはC1-10アルキルである請求項1
記載の方法。
3.Xがエチルである請求項2記載の方法。
4.Rがメチルまたはエチルである請求項1から3いずれかに記載の方法。
5.ZがHである請求項1から4いずれかに記載の方法。
6.Yが4−ピリジル、フェニル、4−ニトロフェニルまたは所望によりNが
保護された4−アミノフェニルである請求項1から5いずれかに記載の方法。
7.Yが4−ニトロフェニルであり、付加的な還元過程によってYが4−アミ
ノフェニルである対応する化合物を得る請求項1記載の方法。
8.式Iで表わされる化合物が(R)−4−ピリドグテチミドまたは(R)−アミ
ノグルテチミドである請求項1から7いずれかに記載の方法。
9.式Iが表わされる化合物がアロマターゼインヒビターである請求項1から
8いずれかに記載の方法。
10.環化反応が酸性媒体中での加熱を含む請求項1から9いずれかに記載の
方法。
11.式II(式中、RはHではない)で表わされるラセミ化合物を鏡像体特異的
エステラーゼと接触させ、所望により分割処理をおこなった後、生成する酸から
式(II)で表わされる化合物をエステラーゼ反応によって分離する過程を含む請求
項1から10いずれかに記載の方法。
12.エステラーゼがα−キモトリプシンのようなプロテアーゼまたはオフィ
オストマ・ノボーウルミ(IMI 356050)において入手可能なプロテアー
ゼの特性を有する請求項11記載の方法。
13.分割処理をカンファースルフォネート塩またはその他の分割剤を用いて
おこなう請求項11または12記載の方法。
14.他の鏡像体を実質的に含有しない1種の鏡像体として得られる請求項1
から9いずれかにおいて定義される式IIで表わされる化合物。
15.1種の鏡像体が(R)−鏡像体である請求項14記載の化合物。
16.Xがエチルであり、Yが請求項6記載の意義を有する請求項14または
15記載の化合物。
17.(R)−3−エチル−3−(4−ニトロフェニル)ピペリジン−2,6−ジ
オン(ニトログルテチミド)。
18.鏡像体過剰率が少なくとも50%である請求項14から17いずれかに
記載の化合物。
─────────────────────────────────────────────────────
フロントページの続き
(81)指定国 EP(AT,BE,CH,DE,
DK,ES,FR,GB,GR,IE,IT,LU,M
C,NL,PT,SE),OA(BF,BJ,CF,CG
,CI,CM,GA,GN,ML,MR,NE,SN,
TD,TG),AP(KE,MW,SD,SZ,UG),
AM,AU,BB,BG,BR,BY,CA,CN,C
Z,EE,FI,GB,GE,HU,IS,JP,KE
,KG,KP,KR,KZ,LK,LR,LT,LV,
MD,MG,MN,MW,MX,NO,NZ,PL,R
O,RU,SD,SG,SI,SK,TJ,TM,TT
,UA,UG,UZ,VN
(72)発明者 テイラー,スティーブン・ジョン・クリフ
ォード
イギリス、シービー7・4エムティー、ケ
ンブリッジシャー、イーリ、ケンブリッ
ジ・ロード52番