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JP7540976B2 - 片面溶接方法及び溶接継手の製造方法 - Google Patents

片面溶接方法及び溶接継手の製造方法 Download PDF

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JP7540976B2 JP2021115270A JP2021115270A JP7540976B2 JP 7540976 B2 JP7540976 B2 JP 7540976B2 JP 2021115270 A JP2021115270 A JP 2021115270A JP 2021115270 A JP2021115270 A JP 2021115270A JP 7540976 B2 JP7540976 B2 JP 7540976B2
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Description

本発明は、開先の下側から裏当て材としてフラックスを配置するとともに、開先に開先充填剤を充填し、開先の表面を2以上の電極を用いてガスシールドアーク溶接を行う片面溶接方法及び溶接継手の製造方法に関する。
片面溶接方法は、被溶接材(以下、母材又はワークとも称する。)である突合せ継手の開先裏面側に耐火性の裏当て材を押し当て、開先表側から溶接を行って、開先裏面側にも裏ビードを形成する溶接方法である。これにより、突合せ継手を反転させることなく、片側のみからの溶接で完全溶込みを得ることができるため、溶接作業の能率を向上させることができる。
この片面溶接方法は、裏ビードの形成状態が重要視される。例えば、特許文献1には、裏ビードの形成状態が非常に良好であり、衝撃性能にも優れた多電極ガスシールドアーク片面溶接方法が開示されている。特許文献1に記載の片面溶接方法は、先行極と後行極とを含み、先行極は逆極性であり、フラックス入りワイヤ又はソリッドワイヤを用い、後行極は正極性であり、フラックス入りワイヤを用いるものである。
また、先行極については、ワイヤ突出し長さ(EL)を15~35mm、溶接電流(IL)を350~550A、ワイヤ送給量(WL)を5.0~14.0m/分とし、130≦(IL×WL/EL)≦450の関係を満たすものとしている。さらに、後行極であるフラックス入りワイヤは、金属Alを1.5~3.5質量%、及びMgを0.2~1.0質量%含有し、2.0質量%≦(金属Al+Mg)≦4.0質量%、及び、2.0≦(金属Al/Mg)≦10.0の関係を満たすものとしている。
特開2019-13980号公報
ところで、ガスシールドアーク溶接における片面溶接は、上述のとおり開先裏面側に耐火性裏当て材を用いており、一般的には固形のセラミックス裏当て材が用いられることが多い。このセラミックス裏当て材は、粘着材により開先の裏面に貼り付ける方法が主流であるが、この貼り付けは作業者の手作業であるため、対象の溶接長が長ければ長いほど作業時間を要する。
例えば、溶接長が長い溶接(以下、長尺溶接とも称する。)に対してサブマージアーク溶接を適用し、裏当て材としてフラックス(以下、裏当てフラックスとも称する。)を用いるフラックスバッキング法を適用できれば、開先の裏面にフラックスを配置する手間は不要となり、作業時間を短縮させることができると考えられる。
なお、サブマージアーク溶接は、溶接能率が高く、例えば、造船分野における厚板パネルラインでの大板継ぎ溶接等のように、直線的かつ単調な溶接は得意である。しかしながら、サブマージアーク溶接は、大型の設備構成となり、かつ、ブロック継ぎや曲がり外板の溶接等、適用が困難な溶接箇所がある。一方、ガスシールドアーク溶接における片面溶接は設備コストが比較的安価で、適用箇所が多く汎用性も高い。
このように、サブマージアーク溶接と適用箇所が異なるガスシールドアーク溶接においても、フラックスバッキング法を適用できれば良いのであるが、ガスシールドアーク溶接は、サブマージアーク溶接と比較して高電流密度となり、緊縮により熱集中しやすいという特性がある。したがって、開先の表面をガスシールドアーク溶接により溶接する場合に、サブマージアーク溶接と比較して、アークの影響が顕著に現れ、良好な裏ビード形状と溶接欠陥の防止とを共に満足することが困難である。
特に、適切な溶着量と良好な裏ビード形状とを確保するために溶接電流を上げると、アークの熱エネルギーが過剰となり、裏当てフラックスが必要以上に熱せられることになる。その結果、裏当てフラックスから金属蒸気が多量に発生し、この金属蒸気が原因で気孔欠陥という溶接欠陥が発生する。
一方、裏当てフラックスへの影響を抑制するために、溶接電流を弱くすると、充填剤や母材の溶融が不十分となり、溶接能率が低下するとともに、良好な裏ビード形状が得られないという問題点がある。
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであって、裏当て材としてフラックスを使用し、複数の電極によりガスシールドアーク溶接を行う片面溶接方法であって、適切な溶着量と良好な裏ビード形状とを得ることができるとともに、裏ビードの気孔欠陥を防止することができる片面溶接方法及び溶接継手の製造方法を提供することを目的とする。
本発明の上記目的は、片面溶接方法に係る下記[1]の構成により達成される。
[1] 一対の鋼板を略水平に突合せて開先を構成し、前記開先の下側から裏当てフラックスを配置するとともに、前記開先に開先充填剤を充填し、溶接線方向に配した複数の電極を用いて、前記開先の上側からガスシールドアーク溶接を行う片面溶接方法であって、
前記開先充填剤の充填高さを4mm以上とし、
前記裏当てフラックスを前記開先側に向けて押当てる押当て圧力を0.05Pa以上とし、
最も先行する先行極の平均溶接電流を440A以上とし、
前記先行極の平均溶接電流をI(av)と表し、前記先行極の平均アーク電圧をV(av)と表す場合に、I(av)/V(av)を12.0以上14.0以下とすることを特徴とする、片面溶接方法。
また、片面溶接方法に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[2]~[11]に関する。
[2] 前記開先充填剤は、粉末充填剤及びカットワイヤのうち少なくとも1種であり、
開先充填剤全質量に対して、Feを95質量%以上含有することを特徴とする、[1]に記載の片面溶接方法。
[3] 前記押当て圧力を、0.07MPa以上0.15MPa以下とすることを特徴とする、[1]又は[2]に記載の片面溶接方法。
[4] 前記先行極をソリッドワイヤとし、
前記複数の電極のうち、前記先行極を除く電極の少なくとも1つをフラックス入りワイヤとすることを特徴とする、[1]~[3]のいずれか1つに記載の片面溶接方法。
[5] 前記複数の電極を、前記先行極と、前記先行極に追従する後行極との2電極により構成し、
前記先行極及び前記後行極の極性を、いずれもDCEPとすることを特徴とする、[1]~[4]のいずれか1つに記載の片面溶接方法。
[6] 前記先行極と前記後行極との極間距離を、40mm以上65mm以下とすることを特徴とする、[5]に記載の片面溶接方法。
[7] 前記先行極のトーチの角度を、溶接進行方向に対して45°以上110°以下とし、
前記後行極のトーチの角度を、溶接進行方向に対して90°以上135°以下とすることを特徴とする、[5]又は[6]に記載の片面溶接方法。
[8] 前記後行極の溶接電流を250A以上400A以下とし、
前記後行極の平均アーク電圧を28V以上とすることを特徴とする、[5]~[7]のいずれか1つに記載の片面溶接方法。
[9] 前記先行極及び前記後行極のうち少なくとも一方を、溶接進行方向に対して幅方向にウィービングさせることを特徴とする、[5]~[8]のいずれか1つに記載の片面溶接方法。
[10] 前記裏当てフラックスは、
金属粉及びスラグ形成剤のうち少なくとも1種を含有し、
残部が不可避的不純物であることを特徴とする、[1]~[9]のいずれか1つに記載の片面溶接方法。
[11] 前記裏当てフラックスは、さらに、
非金属粉、及びスラグ形成剤を除く非金属化合物粉のうち少なくとも1種を含有することを特徴とする、[10]に記載の片面溶接方法。
また、本発明の上記目的は、溶接継手の製造方法に係る下記[12]に関する。
[12] [1]~[11]のいずれか1つに記載の片面溶接方法を用いて溶接継手を製造することを特徴とする、溶接継手の製造方法。
本発明によれば、適切な溶着量と良好な裏ビード形状とを得ることができるとともに、裏ビードの気孔欠陥を防止することができる片面溶接方法及び溶接継手の製造方法を提供することができる。
図1は、本発明の実施形態に係る片面溶接方法における溶接前の充填剤の様子を示す模式図である。 図2は、本発明の実施形態に係る片面溶接方法における溶接後の溶接金属を示す模式図である。 図3は、溶接中におけるワイヤの位置及び充填剤の様子を溶接線方向に沿って示す模式的断面図である。
本発明者らは、複数の電極を用いたガスシールドアーク溶接により片面溶接する場合に、良好な裏ビード形状と溶接欠陥の防止とを共に満足することができる条件について、種々検討を行った。その結果、開先充填剤の充填高さを制御することにより、開先充填剤を、ガスシールドアーク溶接における過剰なアーク圧力を緩衝させる緩衝体として作用させることができることを見出した。
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
[1.片面溶接方法]
本実施形態に係る片面溶接方法は、一対の鋼板を略水平に突合せて開先を構成し、開先の下側、すなわち、裏面側から裏当てフラックスを配置するとともに、前記開先に開先充填剤を充填し、溶接線方向に配した複数の電極を用いて、開先の上側、すなわち表面側からガスシールドアーク溶接を行う方法である。
以下、図面を参照して、本実施形態に係る片面溶接方法の一例を具体的に説明する。図1は、本実施形態に係る片面溶接方法における溶接前の充填剤の様子を示す模式図である。図2は、本実施形態に係る片面溶接方法における溶接後の溶接金属を示す模式図である。図3は、溶接中におけるワイヤの位置及び充填剤の様子を溶接線方向に沿って示す模式的断面図である。なお、本実施形態においては、先行極と、この先行極に追従する後行極と、の2電極により溶接するものとする。
図1に示すように、一対の鋼板1a、1bを、任意の開先幅G(以下、ギャップ幅とも称する。)で突合せて水平に配置することにより開先2を形成し、開先2の下側に、裏当てフラックス11を配置する。裏当てフラックス11は、下敷きフラックス12を介してエアホース13内の気体の圧力(以下、押当て圧力Pと称する。)によって、開先側に向けて押圧されている。また、裏当てフラックス11、下敷きフラックス12及びエアホース13は、コの字形の金属ケース15に収納されている。さらに、金属ケース15は、その下方に配置されたエアホース14内の気体の圧力(以下、トラフ押当て圧力Pと称する。)によって持ち上げられ、開先に近接されており、これにより、エアホース13による裏当てフラックス11の押圧を確実にしている。このようにして、裏当てフラックス11を、所定の位置に保持する。
次に、開先充填剤6を開先2内に散布する。散布する開先充填剤6の量は、本発明の実施形態に係る片面溶接方法において、予め決定された充填高さhと、開先角度及び開先幅Gとによって決定される。
その後、図2及び図3に示すように、開先2の上側に、先行極として、ソリッドワイヤ7aを消耗電極としたアーク溶接用トーチ7を配置するとともに、後行極として、フラックス入りワイヤ8aを消耗電極としたアーク溶接用トーチ8を、溶接線方向の間隔(以下、極間距離とも称する。)が任意の範囲となるように保持して配置する。
その後、開先充填剤6の充填量に基づいて溶接条件を設定するとともに、押当て圧力Pを設定する。そして、先行極および後行極において、それぞれシールドガス9、10を流しつつアーク7b、8bを発生させて、これらを一対の鋼板1a、1bの開先2に沿って相対的に移動させる。
このとき、先行極においては、裏当てフラックス11は過度に熱せられることがない一方で、開先充填剤6は十分に溶融される条件に設定されているため、良好な埋もれアークの状態が維持される。なお、埋もれアークとは、アーク長を短く保ち、アーク圧力によって掘られた溶融池の中まで、ワイヤが突っ込んだ状態を指す。
また、後行極は、先行極の補助的な役割を有し、後行極の電流及び電圧等を適切に制御することにより、溶融池の形状をより一層良好にすることができる。
このようにして、鋼板1a、1bの開先2における表面が溶融して、溶融金属16が形成され、これが冷却されることにより、開先2の表面側及び裏面側に、それぞれ、スラグ4、5で被覆された、優れたビード形状を有する溶接金属3が形成され、鋼板1aと鋼板1bとが接合される。以下、表面のビードを「表ビード」、裏面のビードを「裏ビード」という。
なお、図1~図3に示す上述の実施形態においては、ソリッドワイヤ7aを保持したアーク溶接用トーチ7を、先行極とし、フラックス入りワイヤ8aを保持したアーク溶接用トーチ8を、上記先行極に追従させる後行極としたが、本発明はこれに限定されない。例えば、熱源としては、2以上の電極であればよい。複数の電極を使用する場合に、最も先行する先行極の溶接電流、及びこの先行極の平均溶接電流と平均アーク電圧との比を制御することにより、上記のように、開先の表面側及び裏面側に、それぞれ優れたビード形状を有する溶接金属を形成することができる。
以下、本実施形態に係る片面溶接方法において適用される開先充填剤の種類、充填高さ、裏当てフラックスの押当て圧力、溶接条件及び溶接材料等について、詳細に説明する。
<開先充填剤>
(開先充填剤の種類)
本実施形態において開先充填剤は特に制限されないが、溶融しやすいことから、金属粉を含有する粉末充填剤及びカットワイヤのうち少なくとも1種を用いることが好ましい。また、開先充填剤の組成も特に限定されないが、例えば、開先充填剤全質量に対してFeを95質量%以上含有するものであるか、又は後述するソリッドワイヤと同じ規格内の組成であることが好ましく、具体的には、純鉄、Feに微量のMnが添加された合金であることが好ましい。
(開先充填剤の充填高さh:4mm以上)
開先充填剤は、溶着量を確保し、溶接効率を向上させるという従来の効果に加えて、本実施形態においては、ガスシールドアーク溶接における過剰なアーク圧力を緩衝させる緩衝体としての効果を有する。なお、アーク圧力の緩衝を考慮する場合に、溶融金属の深さが重要視されるため、充填剤量ではなく、充填剤を添加したときの高さ(以下、充填高さhとも称する。)が重要な目安となる。すなわち、充填高さhを決定してから、開先形状、開先角度及び開先幅に基づいて、充填剤の充填量を決定する。
開先充填剤の充填高さhが4mm未満であると、アーク圧力により、溶融金属が掘り下げられ、裏当フラックスが露出し、アークの熱によって裏当フラックスが過度に熱せられるため、金属蒸気が多量に発生し、気孔欠陥が発生する。したがって、開先充填剤の充填高さhは、4mm以上とし、4.5mm以上とすることが好ましい。
なお、開先充填剤の充填高さhの上限は特に制限されないが、7mm以下であると、裏ビード形状がより良好となることから好ましく、6.5mm以下であることがより好ましい。
<裏当てフラックスの押当て圧力P:0.05MPa以上>
裏当てフラックスの押当て圧力Pは、裏当フラックスの凝集性に影響を与える。圧力Pが増加し、裏当てフラックスが圧縮されると、凝集性が高くなり、この凝集性が高くなるほど、溶融金属の垂れ落ちを抑制し、裏ビードの形状を良好に保つことができる。また、裏当てフラックスの凝集性が高いほど、裏当てフラックス内部からの金属蒸気が抜けにくくなり、気孔欠陥を防止することができる。
押当て圧力Pが、0.05MPa未満であると、気孔欠陥が発生し、裏ビード形状が凸状になりやすくなる。したがって、裏当てフラックスの押当て圧力Pは0.05MPa以上とし、より良好な裏ビードを得るためには、押当て圧力Pは0.06MPa以上とすることが好ましく、0.07MPa以上とすることがより好ましい。
一方、押当て圧力Pの上限は特に制限されないが、過度に高くなると、裏ビード形状が平坦気味になりやすいため、良好な裏ビード形状を得るためには、押当て圧力Pは0.15MPa以下とすることが好ましく、0.14MPa以下とすることがより好ましい。
なお、押当て圧力Pを制御する方法は、裏当てフラックスを配置する方法によって任意に選択することができる。例えば、図1及び図2に示す方法により、裏当てフラックス11を開先2側に向けて押圧する場合に、押当て圧力Pは、エアホース13内の気体の圧力を調整することによって、制御することができる。
<先行極>
(先行極の平均溶接電流I(av):440A以上)
本実施形態においては、複数の電極を用いてガスシールドアーク溶接を実施するため、最も先行する先行極の平均溶接電流I(av)及び平均アーク電圧V(av)等を制御することにより、上述のとおり、良好な埋もれアークの状態を維持することができる。その結果、開先の表面側及び裏面側に、それぞれ優れたビード形状を有する溶接金属を形成することができる。
具体的には、先行極の平均溶接電流I(av)を調整することにより、溶接効率のよい溶着量を得ることができるとともに、良好な裏ビードを形成することができる。
先行極の平均溶接電流I(av)が、440A未満であると、充填剤を設けた溶接効率の高い条件において、良好な裏ビードが形成されない。したがって、先行極の平均溶接電流I(av)は440A以上とし、445A以上とすることが好ましく、450A以上とすることがより好ましい。
一方、本実施形態において、先行極の平均溶接電流I(av)の上限は特に制限されないが、汎用的な500A電源を使用することを考慮し、設備面の観点から、500A以下とすることが好ましい。
(先行極の平均溶接電流I(av)/先行極の平均アーク電圧V(av):12.0以上14.0以下)
本実施形態においては、開先充填剤の充填高さhを制御することにより、開先充填剤を緩衝体として用いているが、この緩衝効果は高く、単純に溶接電流を上げるだけでは、裏ビードを形成することが困難である。よって、先行極の平均溶接電流と平均アーク電圧との比を考慮することにより、良好な埋もれアークの状態を維持することができる。なお、上述のとおり、埋もれアークとは、溶融池の中までワイヤが突っ込まれた状態を指す。
先行極の平均溶接電流をI(av)と表し、先行極の平均アーク電圧をV(av)と表す場合に、埋もれアークの状態をI(av)/V(av)の式で表すことができる。すなわち、I(av)/V(av)の値が12.0未満であると、溶着量を確保できる充填剤の条件に対して、アーク圧力が弱く、掘られた溶融池は浅くなるため、裏ビード形状が形成されない。したがって、I(av)/V(av)により得られる値は、12.0以上とし、12.7以上であることが好ましい。
一方、I(av)/V(av)の値が14.0を超えると、アーク圧力が過度に高くなり、掘られた溶融池は、必要以上に深くなるため、裏当フラックスが露出する。その結果、アークの熱によって裏当フラックスが過度に熱せられるため、金属蒸気が多量に発生し、気孔欠陥が発生する。したがって、I(av)/V(av)により得られる値は、14.0以下とし、13.8以下であることが好ましい。
(先行極の平均アーク電圧V(av):31.5V以上40V以下)
本実施形態において、先行極の平均アーク電圧V(av)は特に制限されないが、アーク安定性の観点から、31.5V以上とすることが好ましく、32V以上とすることがより好ましい。
また、アーク安定性の観点から、先行極の平均アーク電圧V(av)は40V以下とすることが好ましく、38V以下とすることがより好ましい。
(先行極のワイヤ送給量:5.0m/分以上15.0m/分)
本実施形態において、先行極のワイヤ送給量は特に制限されないが、裏ビードの形成を容易にする観点から、ワイヤ送給量は5.0m/分以上とすることが好ましく、5.5m/分以上とすることがより好ましく、6.0m/分以上とすることがさらに好ましい。
一方、先行極のワイヤ送給量を15.0m/分以下とすると、裏ビードの安定性が良好となり、溶け落ちも防ぐことができるため、好ましい。したがって、先行極のワイヤ送給量は15.0m/分以下とすることがより好ましく、13.0m/分以下とすることがさらに好ましい。
(先行極のウィービング幅:0mm以上7mm以下)
本実施形態において、先行極及び後行極の少なくとも一方を、溶接進行方向に対して幅方向にウィービングさせることが好ましい。先行極のウィービングは必要に応じて行えばよく、ウィービングしなくともよい。また、先行極のウィービング幅は特に制限されないが、裏ビードの形成状態を向上させる観点から、0mm以上とすることが好ましく、1mm以上とすることがより好ましい。
一方、裏ビードの形成状態を向上させる観点から、先行極のウィービング幅は、7mm以下とすることが好ましく、5mm以下とすることがより好ましい。
(先行極の極性:DCEP)
先行極の極性は、裏ビードを形成させるためのアーク圧力を高める観点から、DCEP(直流棒プラス:Direct Current Electrode Positive)とすることが好ましい。
(先行極のワイヤの種類:フラックス入りワイヤ又はソリッドワイヤ)
本実施形態において、先行極のワイヤの種類及び組成は特に制限されないが、例えば、フラックス入りワイヤ又はソリッドワイヤ(以下、溶接ワイヤと称することがある。)を用いるとよい。また、裏ビードを形成させるためのアーク圧力を高めることができることから、先行極としてはソリッドワイヤを選択することがより好ましい。
なお、フラックス入りワイヤとは、筒状を呈する鋼製外皮の内側にフラックスが充填されたものであり、鋼製外皮の合わせ目を溶接した継ぎ目のないワイヤ(シームレスタイプ)と、合わせ目を溶接せずに隙間のまま残したワイヤ(シームタイプ)のいずれも構造も採用することができる。また、外皮の外側に銅メッキが施されていてもよい。
(先行極のトーチの角度:溶接進行方向に対して45°以上110°以下)
本実施形態において、先行極のトーチの角度は特に制限されないが、先行極に追従する電極と干渉しない範囲で設定することが好ましく、溶接進行方向に対して45°以上110°以下、すなわち、後退角0°以上45°以下、又は前進角0°以上20°以下とすることが好ましい。なお、先行極のトーチの角度は、85°以上95°以下であることがより好ましく、溶接進行方向に対して垂直である90°とすることがさらに好ましい。
(先行極のワイヤ径:1.0mm以上2.0mm以下)
本実施形態において、先行極として使用されるフラックス入りワイヤ又はソリッドワイヤのワイヤ径は特に制限されないが、溶接作業性の観点から、先行極のワイヤ径は1.0mm以上とすることが好ましく、1.2mm以上とすることがより好ましい。また、溶接作業性の観点から、先行極のワイヤ径は2.0mm以下とすることが好ましく、1.6mm以下とすることがより好ましい。
(先行極による溶接時のシールドガス)
本実施形態において、先行極による溶接時に用いるシールドガスは特に制限されないが、例えば、Arガス、炭酸ガス、Arガスと炭酸ガスの混合ガス、Arガスと酸素ガスの混合ガスを用いることができる。ガスの流量も特に制限されないが、例えば、15L/分以上30L/分以下とすることができる。
(先行極のワイヤ突出し長さ:15mm以上35mm以下)
本実施形態において、先行極のワイヤ突出し長さは特に制限されないが、15mm以上とすると、裏ビードの安定性が良好となり、溶け落ちも防ぐことができるため、好ましい。先行極のワイヤ突出し長さは17mm以上とすることがより好ましく、19mm以上とすることがさらに好ましい。
また、先行極のワイヤ突出し長さを35mm以下とすると、裏ビードの形成が容易となるため、好ましい。先行極のワイヤ突出し長さは33mm以下とすることがより好ましく、31mm以下とすることがさらに好ましい。
<後行極>
上述のとおり、後行極は、先行極の補助的な役割を有する。本願明細書において、片面溶接方法が3以上の電極を使用する場合であっても、先行極を除く電極の少なくとも1つを、2電極の場合と同様に、後行極という。
(後行極の平均溶接電流I(av):250A以上400A以下)
後行極の平均溶接電流I(av)を適切に制御することにより、より一層良好な表ビード形状を確保することができる。本実施形態において、後行極の平均溶接電流I(av)は特に制限されないが、良好な表ビードを確保する観点から、後行極の平均溶接電流I(av)は250A以上とすることが好ましく、280A以上とすることがより好ましい。
一方、溶接作業性をより良好とする観点から、後行極の平均溶接電流I(av)は400A以下とすることが好ましく、380A以下とすることがより好ましく、350A以下とすることがさらに好ましく、320A以下とすることが特に好ましい。
(後行極の平均アーク電圧V(av):28V以上40V以下)
本実施形態において、後行極の平均アーク電圧V(av)は特に制限されないが、アーク安定性の観点から、28V以上とすることが好ましく、30V以上とすることがより好ましい。
また、アーク安定性の観点から、後行極の平均アーク電圧V(av)は40V以下とすることが好ましく、38V以下とすることがより好ましい。
(後行極のワイヤ送給量:5.0m/分以上14.0m/分以下)
本実施形態において、後行極のワイヤ送給量も特に制限されないが、5.0m/分以上とすると、アーク力が十分となり、融合不良といった溶接欠陥が発生しない点から好ましい。後行極のワイヤ送給量は、8.0m/分以上とすることがより好ましく、12.0m/分以上とすることがさらに好ましい。
また、後行極のワイヤ送給量を14.0m/分以下とすると、アーク力が十分となって融合不良といった溶接欠陥が発生しないことに加えて、アークが安定し、スパッタの発生量も少なくできることから好ましい。後行極のワイヤ送給量は13.5m/分以下とすることがより好ましく、13.0m/分以下とすることがさらに好ましい。
(後行極のウィービング幅:0mm以上10mm以下)
上述のとおり、本実施形態において、先行極及び後行極の少なくとも一方を、溶接進行方向に対して幅方向にウィービングさせることが好ましい。先行極と同様に、後行極のウィービングは必要に応じて行えばよく、ウィービングしなくともよい。また、後行極のウィービング幅は特に制限されないが、表ビードの形成状態を向上させる観点から、0mm以上とすることが好ましい。
一方、表ビードの形成状態を向上させる観点から、後行極のウィービング幅は10mm以下とすることが好ましく、8mm以下とすることがより好ましい。
なお、後行極のウィービングは、表ビードの形状に寄与するため、少なくとも後行極をウィービングさせることが好ましい。
(後行極の極性:DCEP)
後行極の極性は、表ビード形状を良好に保つ観点から、DCEPとすることが好ましい。
(後行極のワイヤの種類:フラックス入りワイヤ)
本実施形態において、後行極のワイヤの種類及び組成は特に制限されないが、表ビードの形状を良好にすることができることから、後行極としてはフラックス入りワイヤを選択することが好ましい。
(後行極のトーチの角度:溶接進行方向に対して90°以上135°以下)
本実施形態において、後行極のトーチの角度は特に制限されないが、先行する電極と干渉しない範囲で設定することが好ましく、ビード外観を良好にする観点から、後行極は前進角があることが好ましい。したがって、後行極のトーチの角度は、溶接進行方向に対して90°以上135°以下、すなわち、前進角0°以上45°以下とすることが好ましく、90°以上110°以下であることがより好ましい。
(後行極のワイヤ径:1.0mm以上2.0mm以下)
本実施形態において、後行極として使用されるフラックス入りワイヤのワイヤ径は特に制限されないが、溶接作業性の観点から、後行極のワイヤ径は1.0mm以上とすることが好ましく、1.2mm以上とすることがより好ましい。また、溶接作業性の観点から、後行極のワイヤ径は2.0mm以下とすることが好ましく、1.6mm以下とすることがより好ましい。
(後行極による溶接時のシールドガス)
本実施形態において、後行極による溶接時に用いるシールドガスは特に制限されないが、例えば、Arガス、炭酸ガス、Arガスと炭酸ガスの混合ガス、Arガスと酸素ガスの混合ガスを用いることができる。ガスの流量も特に制限されないが、例えば、15L/分以上30L/分以下とすることができる。
(後行極のワイヤ突出し長さ:15mm以上35mm以下)
本実施形態において、後行極のワイヤ突出し長さは特に制限されないが、15mm以上とすると、アーク力が十分となり、不純物の偏析を示すゴーストラインを完全に消失することができるため、好ましい。後行極のワイヤ突出し長さは17mm以上とすることがより好ましく、19mm以上とすることがさらに好ましい。
また、後行極のワイヤ突出し長さを35mm以下とすると、アーク力が十分となってゴーストラインを完全に消失することができることに加えて、アークが安定し、スパッタの発生量も少なくできることから好ましい。後行極のワイヤ突出し長さは33mm以下とすることがより好ましく、31mm以下とすることがさらに好ましい。
<溶接条件>
(先行極と後行極との極間距離D:40mm以上65mm以下)
本実施形態において、先行極と後行極との極間距離Dは特に制限されないが、極間距離Dが最適な範囲で設定されていると、溶融池を適正な大きさに保ち、溶接金属中のひずみを低減して、高温割れの発生を防止することができる。また、極間距離Dが適正距離離れていると、表ビードに発生するスラグをより抑制することができる。溶融池の大きさを適正な範囲に保ち、優れた耐高温割れ性を得ることができる観点と表ビードのスラグ抑制の観点から、先行極と後行極との極間距離Dは40mm以上とすることが好ましく、50mm以上とすることがより好ましい。
また、先行極と後行極との極間距離Dは、優れた耐高温割れ性を得ることができる観点から65mm以下とすることが好ましく、60mm以下とすることがより好ましい。
(開先幅G:0mm以上3mm以下)
本実施形態において、ルートギャップ、すなわち開先幅Gは特に制限されないが、開先幅Gが0mm以上3mm以下の範囲であると、優れた裏ビード形状とアーク安定性が両立できるため、好ましい。
(溶接速度:400mm/分以上700mm/分以下)
本実施形態において、溶接速度は特に制限されないが、400mm/分以上700mm/分以下とするのが好ましい。溶接速度を400mm/分以上とすることで、適切な入熱量を得ることができるため、良好な裏ビード形状を得ることができ、裏当て材が剥がれる等の不具合の発生を抑制することができる。溶接速度は450mm/分以上とすることがより好ましく、500mm/分以上とすることがさらに好ましい。
また、溶接速度を700mm/分以下とすることで、溶接金属の冷却速度が速くなり過ぎず、高温割れの発生をより一層抑制することができる。溶接速度は680mm/分以下とすることがより好ましく、650mm/分以下とすることがさらに好ましい。
(板材の板厚:40mm以下)
本実施形態において、被溶接材である板材の板厚は特に制限されないが、板厚が40mm以下であると、溶接入熱による角変形の発生を抑制することができ、高温割れの発生をより一層防止することができる。したがって、板材の板厚は40mm以下とすることが好ましく、35mm以下とすることがより好ましい。
また、本実施形態においては、開先充填剤の充填高さhを設定しているため、板材の板厚は充填高さhよりも厚くすることが好ましく、充填高さの2倍以上とすることがより好ましい。
なお、本実施形態において、板材は鋼板である。
(開先形状、開先角度)
本実施形態において、一対の板材の間に形成される開先の形状は特に限定されず、V形、I形、レ形、U形、X形、H形等、様々な形状の開先に対して、本実施形態に係る片面溶接方法を使用することができる。開先形状がV形開先であると、良好な裏ビード形状を得ることができるため好ましい。また、開先角度は25°以上であると、高温割れの発生をより一層防止することができるため好ましく、35°以上であることがより好ましい。
<溶接ワイヤの組成>
本実施形態に係る溶接方法において、フラックス入りワイヤ又はソリッドワイヤの成分については特に限定されず、用途に応じて適宜調整すればよい。本実施形態に対して好適な用途は、軟鋼、高張力鋼、低温鋼又は耐候性鋼の溶接が挙げられる。よって、フラックス入りワイヤ又はソリッドワイヤの任意成分は、軟鋼、高張力鋼若しくは低温鋼用のJIS Z 3313:2009年、JIS Z 3312:2009年、又は、耐候性鋼用のJIS Z 3320:2012年に規定される溶着金属の化学成分範囲と同様の成分範囲とすることが好ましい。また、任意の用途に合わせて、軟鋼、高張力鋼若しくは低温鋼用のJIS Z 3313:2009年、JIS Z 3312:2009年、又は、耐候性鋼用のJIS Z 3320:2012年に規定されている元素以外の成分が、一般技術常識内でフラックス入りワイヤ中にさらに添加されていてもよく、これにより、機械的性能の調整や溶接作業性を改善してもよい。
なお、軟鋼用、高張力鋼用、低温鋼用、耐候性鋼用等として用いられるソリッドワイヤ及び後述するスラグ形成剤を除くフラックス入りワイヤの合金成分において、好適な組成としては、例えば、ワイヤ全質量に対する質量%で、C:0.5質量%以下、Si:2.0質量%以下、Mn:3.0質量%以下、Ni:5.0質量%以下、Mo:3.0質量%以下、W:3.0質量%以下、Nb:3.0質量%以下、V:3.0質量%以下、Cr:5.0質量%以下、Ti:3.0質量%以下、Al:3.0質量%以下、Mg:3.0質量%以下、N:0.05質量%以下、S:0.05質量%以下、P:0.05質量%以下、B:0.005質量%以下、Cu:2.0質量%以下、Ta:3.0質量%以下、REM:0.1質量%以下、及びアルカリ金属:3質量%以下とすることが好ましい。
また、これらの元素は、特に説明がない限り、0質量%も含むものとする。さらに、一般的に軟鋼用、高張力鋼用、低温鋼用、耐候性鋼用等として用いられるフラックス入りワイヤはFe基合金を外皮としている。
以下、本実施形態において使用することができるソリッドワイヤ又はフラックス入りワイヤの合金成分について、その限定理由とともにより具体的に説明する。なお、各成分の含有量は、特に規定しない限り、ソリッドワイヤ又はフラックス入りワイヤ全質量に対する質量%で表示する。また、フラックス入りワイヤにおいて、以下に規定するC、P、Sといった非金属成分及び金属成分は、フラックス入りワイヤのフープ(金属帯)及びフラックス中に含まれる金属粉、スラグ形成剤を除く化合物等に基づく。
(C:0.5質量%以下)
Cは、溶接金属の強度に影響を及ぼす成分であり、含有量が増すほど強度が高まる。軟鋼、高張力鋼、低温鋼用等のように、よく用いられる鋼種に求められる強度範囲を満足するために、ワイヤ中のCの含有量は、0.5質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以下であることがより好ましい。一方、強度を調整するため、Cの含有量は、0.001質量%以上であることが好ましい。
(Mn:3.0質量%以下)
Mnは、溶接金属の強度、靱性に影響を及ぼす成分である。軟鋼、高張力鋼、低温鋼用等のように、よく用いられる鋼種に求められる機械的性能を満足するために、ワイヤ中のMnの含有量は、3.0質量%以下であることが好ましく、2.5質量%以下であることがより好ましい。一方、Mnの含有量は、0.5質量%以上であることが好ましい。
(Si:2.0質量%以下)
Siは、溶接金属の脱酸剤として作用して、溶接金属中の酸素含有量を低減し、靱性の向上に寄与する成分である。軟鋼、高張力鋼、低温鋼用等のように、よく用いられる鋼種に求められる機械的性能を満足するために、ワイヤ中のSiの含有量は、2.0質量%以下であることが好ましく、1.2質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以下であることがさらに好ましい。一方、Siの含有量は、0.1質量%以上であることが好ましい。
(Ni:5.0質量%以下)
Niは、溶接金属のオーステナイト組織を安定化させ、低温での靱性を向上させる成分であり、また、フェライト組織の晶出量を調整できる成分である。ワイヤ中のNiの含有量は、5.0質量%以下であることが好ましく、3.0質量%以下であることがより好ましい。一方、低温鋼等の溶接に用いられる場合は、Niの含有量は、0.20質量%以上であることが好ましい。
(Mo:3.0質量%以下)
Moは、高温強度及び耐孔食性を向上させる成分である。軟鋼、高張力鋼、低温鋼用等のように、よく用いられる鋼種に求められる機械的性能を満足するために、ワイヤ中のMoの含有量は、3.0質量%以下であることが好ましく、2.0質量%以下であることがより好ましい。一方、高張力鋼や耐熱鋼等の溶接に用いられる場合は、Moの含有量は、0.10質量%以上であることが好ましい。
(W:3.0質量%以下)
Wは、高温強度及び耐孔食性を向上させる成分である。軟鋼、高張力鋼、低温鋼用等のように、よく用いられる鋼種に求められる機械的性能を満足するために、ワイヤ中のWの含有量は、3.0質量%以下であることが好ましく、2.0質量%以下であることがより好ましい。
(Nb:3.0質量%以下)
Nbは、強度等の機械的性能に影響を及ぼす成分である。軟鋼、高張力鋼、低温鋼用等のように、よく用いられる鋼種に求められる機械的性能を満足するために、ワイヤ中のNbの含有量は、3.0質量%以下であることが好ましく、2.0質量%以下であることがより好ましい。
(V:3.0質量%以下)
Vは、溶接金属の強度を向上させる効果を発揮する一方で、靱性や耐割れ性を低下させる。そのため、ワイヤ中のVの含有量は、3.0質量%以下であることが好ましく、2.0質量%以下であることがより好ましい。
(Cr:5.0質量%以下)
Crは、溶接金属の強度等、機械的性能に影響を及ぼす成分である。軟鋼、高張力鋼、低温鋼用等のように、よく用いられる鋼種に求められる機械的性能を満足するために、ワイヤ中のCrの含有量は、5.0質量%以下であることが好ましく、3.0質量%以下であることが好ましい。また、耐熱鋼等に用いられる場合は、Crの含有量は、0.10質量%以上であることが好ましい。
(Ti:3.0質量%以下)
Tiは、C、Nと結合して結晶粒の微細化に寄与し、主に溶接金属の靱性を向上させる成分となる。軟鋼、高張力鋼、低温鋼用等のように、よく用いられる鋼種において、靱性の向上を目的としてワイヤ中にTiを含有させる場合は、ワイヤ中のTiの含有量は、3.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以下であることがより好ましい。また、Tiの含有量は、0.01質量%以上であることが好ましい。
(Al:3.0質量%以下)
Alは、脱酸成分であり、溶接金属中の溶存酸素量を低下させ、気孔欠陥発生量を減少させる作用を有する。軟鋼、高張力鋼、低温鋼用等のように、よく用いられる鋼種において、靱性の向上を目的としてワイヤ中にAlを含有させる場合は、ワイヤ中のAlの含有量は、3.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。また、Alの含有量は、0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.10質量%以上であることがさらに好ましい。
(Mg:3.0質量%以下)
Mgは、Alと同様に脱酸成分であり、溶接金属中の溶存酸素量を低下させ、気孔欠陥発生量を減少させる作用を有する。
本実施形態において、ワイヤ中のMgの含有量は0質量%であってもよいが、軟鋼、高張力鋼、低温鋼用等のように、よく用いられる鋼種において、靱性の向上を目的としてワイヤ中にMgを含有させる場合は、ワイヤ中のMgの含有量は、3.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。また、Mgの含有量は、0.01質量%以上であることが好ましく、ワイヤ全質量に対して、0.10質量%以上であることが好ましく、0.20質量%以上であることがより好ましい。
(N:0.05質量%以下)
Nは、結晶構造内に侵入型固溶して強度を向上させる成分である。一方、Nは、溶接金属にブローホールやピットといった気孔欠陥を発生させる原因ともなることから、特に強度を必要とする場合以外は積極的な添加は行わない。したがって、ワイヤ中のNの含有量は、0.05質量%以下であることが好ましく、0.03質量%以下であることがより好ましい。また、Nの含有量は、0.0010質量%以上であることが好ましい。
(S:0.05質量%以下)
Sは、ワイヤが溶融した際の溶滴の粘性や表面張力を低下させ、溶滴移行を円滑にすることによって、スパッタを小粒化させ、溶接作業性を向上させる効果を発揮する一方で、耐割れ性を低下させる元素である。そのため、ワイヤ中のSの含有量は、0.05質量%以下であることが好ましく、0.03質量%以下であることがより好ましい。また、Sの含有量は、0.0005質量%以上であることが好ましい。
(P:0.05質量%以下)
Pは、耐割れ性や溶接金属の機械的性質を低下させる元素であるため、ワイヤ中のPの含有量は、0.05質量%以下に抑制することが好ましく、0.03質量%以下とすることがより好ましい。
(B:0.005質量%以下)
Bは、溶接金属中の窒素による靱性の低下を防止する一方で、耐割れ性を低下させる元素である。そのため、ワイヤ中のBの含有量は、0.005質量%以下であることが好ましく、0.003質量%以下であることがより好ましい。また、靱性の確保を目的としてワイヤ中にBを含有させる場合に、Bの含有量は、0.0005質量%以上であることが好ましい。
(Cu:2.0質量%以下)
Cuは、溶接金属の強度や耐候性の向上に寄与する元素である。軟鋼、高張力鋼、低温鋼用等のように、よく用いられる鋼種に求められる範囲で、強度及び耐候性を満足するために、ワイヤ中のCuの含有量は、2.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以下であることがより好ましい。また、溶接金属の強度や耐候性を確保することを目的として、ワイヤ中にCuを含有させる場合に、Cuの含有量は、0.01質量%以上であることが好ましい。
(Ta:3.0質量%以下)
Taは、強度等機械的性能に影響を及ぼす元素である。軟鋼、高張力鋼、低温鋼用等のように、よく用いられる鋼種に求められる機械的性能を満足するために、ワイヤ中のTaの含有量は、3.0質量%以下であることが好ましく、2.0質量%以下であることがより好ましい。
(REM合計:0.1質量%以下)
REM(Rare Earth Metals)は、希土類元素を意味し、CeやLa等が挙げられる。REMはSとの親和性が高く、Sの粒界偏析を抑制し、Sによる高温割れを抑制する効果も発揮する。一方、アーク安定性はREMの添加量が少ないほど好ましいため、求められる耐割れ性及びアーク安定性を満足するために、ワイヤ中のREMの合計の含有量は、0.1質量%以下とすることが好ましく、0.05質量%以下とすることがより好ましい。
(アルカリ金属の合計:3質量%以下)
アルカリ金属元素はアーク安定剤として作用する。本実施形態におけるアルカリ金属は、1種又は複数のアルカリ金属元素を含有する金属粉及び化合物に基づくものである。なお、アルカリ金属元素としては、K、Li、Na等が挙げられる。ワイヤ中のアルカリ金属の合計の含有量とは、アルカリ金属元素から構成される金属粉及び化合物から換算されるワイヤ中のアルカリ金属の合計の含有量を表す。ワイヤ中のアルカリ金属の合計は、ビード形状の改善に好ましい溶融物性に調整しやすくなるという観点から、ワイヤ全質量に対して、3質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましい。
(残部:Fe及び不可避的不純物)
本実施形態において、先行極又は後行極としてソリッドワイヤを使用する場合に、上記元素を除く残部は、Fe及び不可避的不純物であることが好ましい。また、先行極又は後行極としてフラックス入りワイヤを使用する場合に、上記元素とスラグ形成剤とを除く残部は、Fe及び不可避的不純物であることが好ましい。
残部となるFeの含有量は、80質量%以上であることが好ましく、また、98質量%以下であることが好ましい。不純物とは、意図的に添加しないものを意味し、上記以外の元素として、例えばSn、Co、Sb、As等が挙げられる。また、上記元素が酸化物として含まれる場合に、Oも残部に含まれることとなる。ワイヤ中の不純物の含有量は、合計で0.5質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以下であることがより好ましい。
なお、本実施形態において使用することができるフラックス入りワイヤは、外皮にフラックスが充填されたものであり、外皮は、冷間圧延鋼帯により形成されていることが入手性、経済性の観点から好ましい。冷間圧延鋼帯として、例えば、JIS G 3141:2017に記載された種類の記号SPCC、SPCD、SPCE、SPCF、SPCG等の鋼帯を使用することが好ましい。
また、本実施形態において使用することができるフラックス入りワイヤは、スラグ形成剤を、ワイヤ全質量に対して2.5質量%以上18.0質量%以下、含有することが好ましい。この範囲であれば表ビードをより良好に形成することができる。なお、スラグ形成剤は、金属酸化物及び金属フッ化物を含み、残部が不可避的不純物であることが好ましい。
スラグ形成剤の含有量は、ワイヤ全質量に対して、3.0質量%以上であることがより好ましく、3.4質量%以上であることがさらに好ましい。一方、ワイヤ全質量に対するスラグ形成剤の含有量は、15.0質量%以下であることがより好ましく、13.0質量%以下であることがさらに好ましく、10.5質量%以下であることが特に好ましい。
スラグ形成剤中に含有させることができる金属酸化物としては、TiO、SiO、ZrO、MnO、Al、NaO、KO、LiOが挙げられる。また、スラグ形成剤中に含有させることができる金属フッ化物としては、KSiF、NaF、KF、CeF、NaAlF、NaSiF、AlF、MgF、KZrF等が挙げられる。なお、これらを添加する場合は、フラックス入りワイヤ全質量に対する質量%で、TiO:1%以上10%以下、SiO:1%以上10%以下、ZrO:1%以上10%以下、Al:1%以上10%以下、NaO、KO及びLiOの合計:0.5%以下、KSiF、NaF、KF、CeF、NaAlF、NaSiF、AlF、MgF及びKZrFの合計:0.5%以下の範囲で溶融スラグの溶融物性を調整することが好ましく、これにより、良好な裏ビード形状を得ることができる。
<裏当てフラックスの組成>
本実施形態において、裏当てフラックスとしては、金属粉及びスラグ形成剤のうち、少なくとも1種を含有し、残部が不可避的不純物であるものを使用することができる。なお、裏当てフラックスは、さらに、非金属粉、及びスラグ形成剤を除く非金属化合物粉のうち、少なくとも1種を含有していてもよい。金属粉としては、Fe粉、Si粉、Fe-Si粉の他、Fe-Mn粉、Fe-Al粉やそれらの混合物等が挙げられ、非金属粉としては、グラファイト等が挙げられ、スラグ形成剤を除く非金属化合物粉としては、スラグ形成剤を除く炭化物、窒化物、硫化物が挙げられる。
裏当てフラックスとしては、裏当てフラックス全質量に対して金属粉を90質量%以上含むメタルタイプのフラックスと、裏当てフラックス全質量に対してスラグ形成剤を10質量%超含むスラグ積極添加フラックスとがあり、用途に応じて適宜使い分ければよい。なお、メタルタイプのフラックスは、溶接金属の酸素低減効果があるため、溶接金属の機械的性能を重視する場合は、メタルタイプのフラックスを選択すればよく、裏ビード形状やスラグ剥離性を重視する場合は、スラグ積極添加フラックスを選択すればよい。
以下、メタルタイプのフラックスとスラグ積極添加フラックスについて説明する
<メタルタイプのフラックス>
メタルタイプのフラックスに含まれる金属粉以外の残り10質量%未満は、任意でスラグ形成剤、非金属粉、スラグ形成剤を除く非金属化合物粉を添加すればよく、これらを除く残部は不純物とする。なお、スラグ剥離性をよくするのであれば、詳細を後述するスラグ形成剤を10質量%未満の範囲で調整すればよく、機械的性能を向上させるのであれば、非金属粉及びスラグ形成剤を除く非金属化合物粉を合計で5質量%以下の範囲で調整させればよい。言い換えれば、スラグ形成剤、非金属粉、スラグ形成剤を除く非金属化合物粉は必須ではなく、金属粉及び残部不純物としてもよい。なお、非金属粉及びスラグ形成剤を除く非金属化合物粉を構成する主な元素としては、C、N、S等が挙げられ、より好ましくは、C、N、Sの合計量が5質量%以下の範囲で調整されるとよい。
金属粉に含有される元素には、Siが含まれていると好ましく、さらにMn、Feが含まれることがより好ましく、Si、Mn、Feのみで構成されることがさらにより好ましい。次に金属粉に含まれるSi、Mn、Feについて詳細を説明する。
(裏当てフラックス中のSi:0.3質量%以上50質量%以下)
裏当てフラックス中にSiを含有させると、裏ビード形状を安定化することができ、外観が滑らかになる効果を得ることができる。裏当てフラックス中に金属粉として含有されるSi粉及びFe-Si粉に基づくSiの含有量が、裏当てフラックス全質量に対して、0.3質量%以上であると、裏ビードの外観を良好にすることができる。したがって、裏当てフラックス中のSiの含有量は、裏当てフラックス全質量に対して、0.3質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましい。
一方、裏当てフラックス中に金属粉として含有されるSi粉及びFe-Si粉に基づくSiの含有量が、裏当てフラックス全質量に対して、50質量%以下であると、裏ビードに含有されるSi量が過大になることにより発生する表面割れを低減することができる。したがって、裏当てフラックス中のSiの含有量は、裏当てフラックス全質量に対して、50質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。
(裏当てフラックス中のMn:50質量%以下)
Mnは、焼入れ性を向上させる効果があり、機械的性能の向上に有効な成分である。そこで、本実施形態に係る裏当てフラックスでは、必要に応じて、機械的性能の調整のために含有させればよく、下限は特に問わない。また、軟鋼、高張力鋼若しくは低温鋼用で適用を想定した機械的性能の調整を鑑みると、50質量%以下の範囲で調整することが好ましい。なお、Mnは、Mn単体の他、Fe-Mnなどの合金の形態でフラックスに添加できる。
(裏当てフラックス中のFe:99.5質量%以下)
Feは、フラックスの見掛密度を高くすることができるため、耐発塵性を必要とする場合は、必要に応じて添加すればよく、下限は特に問わない。また、Feは溶接金属の合金コストを低下させることもできるため、上述のSiやMnを除く残りの金属粉を、コストの観点からFeとしてもよい。上述のとおりSiが0.3質量%以上であると、裏ビードの外観を良好にすることができるため、裏ビードの外観の観点から、少なくともFeは99.7質量%以下であれば好ましいと言える。
なお、Feは、Fe単体の他、Fe-Mn、Fe-Siなどの合金の形態で裏当てフラックス中に添加できる。
また、本実施形態において、裏当てフラックスとしては、上記金属粉の他に、スラグ形成剤を含有するものでもよい。裏当てフラックスにスラグ形成剤が含有されると、裏ビードがスラグで保護され、スラグを剥離した後に、光沢のある良好な外観を得ることができる。なお、スラグ形成剤は、金属酸化物及び金属フッ化物を含み、残部が不可避的不純物であることが好ましい。
スラグ形成剤中に含有させることができる金属酸化物としては、TiO、MgO、SiO、ZrO、MnO、Al、NaO、KO、LiOが挙げられる。また、スラグ形成剤中に含有させることができる金属フッ化物としては、KSiF、NaF、KF、CeF、NaAlF、NaSiF、AlF、MgF、KZrF等が挙げられる。なお、後述するスラグ積極添加フラックスを用いる場合は、裏当てフラックス全質量に対する質量%で、TiO:2.00%以上16.00%以下、MgO:2.00%以上16%以下、MnO:0.10%以上1.00%以下、SiO:5.00%以上25.00%以下、ZrO:3.00%以上9.00%以下、Al:0.50%以上9.00%以下、NaO、KO及びLiOの合計:3.00%以下、KSiF、NaF、KF、CeF、NaAlF、NaSiF、AlF、MgF及びKZrF等の金属フッ化物の合計:35.00%以下とすることが好ましい。
<スラグ積極添加フラックス>
なお、裏当てフラックス中のスラグ形成剤の含有量は、高いほどスラグ剥離性が良好となる。したがって、裏当てフラックスとして、スラグ積極添加フラックスを採用する場合、裏当てフラックス中のスラグ形成剤の含有量は、裏当てフラックス全質量に対して、10質量%超含むことが好ましく、14.0質量%以上であることがより好ましい。また、スラグ形成剤の含有量の上限は特に問わないが、スラグ形成剤以外の成分として、必要に応じて、金属粉、非金属元素、スラグ形成剤を除く非金属化合物粉を添加すればよい。例えば、上述のとおり、金属粉に含まれるSiの含有量が、裏当てフラックス全質量に対して、0.3質量%以上であると、裏ビード形状の安定化の観点から好ましいため、スラグ剥離性と裏ビード形状の安定化の両方を望む場合は、スラグ形成剤の含有量は、99.7質量%以下としておくとよい。なお、金属粉に含まれる元素、スラグ形成剤等の詳細については、上述のメタルベースのフラックスにおいて詳細に説明したものと同様であり、その効果も同じである。
さらに、本実施形態において、裏当てフラックスが上記スラグ形成剤を含有する場合に、裏当てフラックスは、原料を水ガラスで混錬し、粒状に造形した後、焼結したものであることが好ましい。微細な粉末状の裏当てフラックスは、飛散して作業環境を劣化させるおそれがあり、また、振動によって偏析し、溶接結果に偏りをもたらすことがある。
一方、粒状に造形した後、焼結することにより得られた裏当てフラックスは、飛散し難く、偏析が起こり難いため、好適に使用することができる。
[2.溶接継手の製造方法]
本実施形態に係る溶接継手の製造方法は、上記[1.片面溶接方法]で説明した溶接方法を用いて、溶接継手を製造する方法である。
開先充填剤の充填高さh、裏当てフラックスの押当て圧力、先行極の溶接電流、及び平均溶接電流と平均アーク電圧との比のほか、使用するワイヤの種類、組成、裏当てフラックスの組成及び溶接条件等は、上記[1.片面溶接方法]で説明したとおりである。
以下、発明例及び比較例を挙げて本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[1.片面溶接]
(1-1.被溶接材、ワイヤ及び裏当てフラックスの準備)
被溶接材として、SM490A鋼板を2枚準備した。
また、先行極のワイヤとして、ワイヤ径が1.4mmであるソリッドワイヤを準備するとともに、後行極のワイヤとして、ワイヤ径が1.4mmであるフラックス入りワイヤを準備した。さらに、裏当てフラックス及び開先充填剤を準備した。先行極としてのソリッドワイヤの種類を下記表1に示し、後行極としてのフラックス入りワイヤの組成を下記表2に示す。また、裏当てフラックスの組成を下記表3に示す。なお、本実施例においては、開先充填剤として、Feを99.1質量%、Mnを0.85質量%含有し、残部が不純物等である粉末充填剤を使用した。
なお、表3において、スラグ形成剤を除く成分としては、Mn、Siの他に、Feも99.5質量%以下の範囲で含まれるが、表中には記載していない。また、裏当てフラックスの成分においては、表中に記載の成分の他に、不可避的不純物が含まれる。
表2に示すフラックス入りワイヤの外皮としては、JIS G 3141:2017に記載された種類の記号SPCG相当の鋼帯を使用した。SPCG鋼帯に含有される成分の含有量は、C:0.02質量%以下、Mn:0.25質量%以下、P:0.020質量%以下、S:0.020質量%以下である。
(1-2.片面溶接)
図1~図3に示すように、一対の鋼板1a、1bに、40°の開先角度を有するV開先を形成し、開先幅Gを0mmとして、両者を突合せて水平に配置した。次に、開先2の下側に、裏当てフラックス11を配置し、エアホース13によって押当て圧力Pで裏当てフラックス11を開先2の裏側に向けて押圧した。また、開先2に開先充填剤6を充填した。
その後、先行極としてソリッドワイヤ7a、先行極に追従させる後行極としてフラックス入りワイヤ8aを使用し、先行極及び後行極を、所定の間隔を保持した状態で、同時に溶接進行方向に移動させた。このとき、先行極及び後行極の極性を、いずれもDCEPとし、シールドガスを、100%COガスとした。また、先行極のトーチの角度を90°、ウィービング幅を1mmとし、後行極のトーチの角度を80°、ウィービング幅を5mmとした。
このようにして、開先2に溶接金属3を形成し、鋼板1aと鋼板1bとを接合した。
先行極及び後行極における条件を下記表4に示し、その他の溶接条件を下記表5に示す。なお、表5における「充填剤の散布量」とは、溶接線方向に直交する面において、開先充填剤が占める箇所の面積を表す。
[2.評価]
上記片面溶接後の継手の表面(溶接面)及び裏面を観察し、以下に示す種々の項目で継手の外観を評価した。
(2-1.裏ビード形状)
継手裏面のビード形状を目視により観察した。
評価基準としては、凸形状の裏ビードを得ることができ、被溶接材の裏面側から突出したビードの高さが0.5mm以上5mm未満であったものを「A」(優良)とし、上記ビードの高さが0mm以上0.5mm未満であったものを「B」(良好)とした。また、凸形状の裏ビードを得ることができなかったもの、及びビードの高さが5mm以上であったものを「C」(不良)とした。
(2-2.裏側の気孔欠陥)
継手裏面を目視により観察し、気孔欠陥の有無を評価した。
評価基準としては、裏側に気孔欠陥が観察されなかったものを「無」(良好)とし、気孔欠陥が観察されたものを「有」(不良)とした。なお、表5における「裏側の気孔欠陥の有無」の欄において、「-」は、裏ビードが形成されなかったため、評価できなかったことを表す。
各評価結果を下記表5に併せて示す。
Figure 0007540976000001
Figure 0007540976000002
Figure 0007540976000003
Figure 0007540976000004
Figure 0007540976000005
表4及び表5に示すように、発明例であるNo.1~9は、開先充填剤の充填高さh、裏当てフラックスの押当て圧力P、先行極の平均溶接電流、及び先行極の平均溶接電流と平均アーク電圧との比(I(av)/V(av))が、本発明において規定する数値範囲内であったため、裏ビード形状の評価結果が優良又は良好であり、気孔欠陥も観察されなかった。
特に、No.1、3及び5~9は、開先充填剤の充填高さh及び(I(av)/V(av))がいずれも本発明において規定する好ましい数値範囲内であったため、裏ビード形状の評価結果が優良となった。なお、No.1~8は、極間距離が本発明の好ましい範囲内であったため、表ビードの表面上のスラグ量が適正であった。
一方、比較例であるNo.10~20は、開先充填剤の充填高さh、裏当てフラックスの押当て圧力P、先行極の平均溶接電流、及び先行極の平均溶接電流と平均アーク電圧との比(I(av)/V(av))の少なくとも1つが、本発明において規定する範囲から外れたものである。したがって、一部については、裏ビードが形成されず、裏ビード形状の評価結果が不良となった。また、裏ビードが形成されたものについても、気孔欠陥が発生した。
このように、本発明に係る片面溶接方法、及び本発明に係る溶接継手の製造方法によれば、適切な溶着量と良好な裏ビード形状とを得ることができるとともに、裏ビードの気孔欠陥を防止できることが理解される。
1a,1b 鋼板
2 開先
3 溶接金属
4,5 スラグ
6 開先充填剤
7a ソリッドワイヤ
8a フラックス入りワイヤ
9,10 シールドガス
11 裏当てフラックス

Claims (12)

  1. 一対の鋼板を略水平に突合せて開先を構成し、前記開先の下側から裏当てフラックスを配置するとともに、前記開先に開先充填剤を充填し、溶接線方向に配した複数の電極を用いて、前記開先の上側からガスシールドアーク溶接を行う片面溶接方法であって、
    前記開先充填剤の充填高さを4mm以上6.5mm以下とし、
    前記裏当てフラックスを前記開先側に向けて押当てる押当て圧力を0.05Pa以上とし、
    最も先行する先行極の平均溶接電流を440A以上とし、
    前記先行極の平均溶接電流をI(av)と表し、前記先行極の平均アーク電圧をV(av)と表す場合に、I(av)/V(av)を12.7以上14.0以下とすることを特徴とする、片面溶接方法。
  2. 前記開先充填剤は、粉末充填剤及びカットワイヤのうち少なくとも1種であり、
    開先充填剤全質量に対して、Feを95質量%以上含有することを特徴とする、請求項1に記載の片面溶接方法。
  3. 前記押当て圧力を、0.07MPa以上0.15MPa以下とすることを特徴とする、請求項1又は2に記載の片面溶接方法。
  4. 前記先行極をソリッドワイヤとし、
    前記複数の電極のうち、前記先行極を除く電極の少なくとも1つをフラックス入りワイヤとすることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の片面溶接方法。
  5. 前記複数の電極を、前記先行極と、前記先行極に追従する後行極との2電極により構成し、
    前記先行極及び前記後行極の極性を、いずれもDCEPとすることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の片面溶接方法。
  6. 前記先行極と前記後行極との極間距離を、40mm以上65mm以下とすることを特徴とする、請求項5に記載の片面溶接方法。
  7. 前記先行極のトーチの角度を、溶接進行方向に対して45°以上110°以下とし、
    前記後行極のトーチの角度を、溶接進行方向に対して90°以上135°以下とすることを特徴とする、請求項5又は6に記載の片面溶接方法。
  8. 前記後行極の溶接電流を250A以上400A以下とし、
    前記後行極の平均アーク電圧を28V以上とすることを特徴とする、請求項5~7のいずれか1項に記載の片面溶接方法。
  9. 前記先行極及び前記後行極のうち少なくとも一方を、溶接進行方向に対して幅方向にウィービングさせることを特徴とする、請求項5~8のいずれか1項に記載の片面溶接方法。
  10. 前記裏当てフラックスは、
    金属粉及びスラグ形成剤のうち少なくとも1種を含有し、
    残部が不可避的不純物であることを特徴とする、請求項1~9のいずれか1項に記載の片面溶接方法。
  11. 前記裏当てフラックスは、さらに、
    非金属粉、及びスラグ形成剤を除く非金属化合物粉のうち少なくとも1種を含有することを特徴とする、請求項10に記載の片面溶接方法。
  12. 請求項1~11のいずれか1項に記載の片面溶接方法を用いて溶接継手を製造することを特徴とする、溶接継手の製造方法。
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