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JP7499029B2 - 全固体ナトリウムイオン二次電池 - Google Patents

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Description

本発明は、ナトリウムイオン伝導性酸化物からなる固体電解質層を備える、全固体ナトリウムイオン二次電池に関する。
リチウムイオン二次電池は、モバイル機器や電気自動車等の分野において、高容量で軽量な電池として用いられている。しかしながら、リチウムイオン二次電池においては、電解質として、可燃性の有機系電解液が主に用いられている。有機系電解液は、高いイオン伝導性を示すものの、液体であり可燃性であることから、蓄電デバイスに用いた場合に、発火や漏液等の安全性上の問題がある。このような安全性の問題を解決するために、有機系電解液に代えて固体電解質を使用した全固体リチウムイオン二次電池の開発が進められている(特許文献1)。
ところで、全固体リチウムイオン二次電池に用いられるリチウムは、世界的な原材料の高騰や枯渇問題等が懸念されている。そこで、リチウムイオンの代替として、ナトリウムイオンが注目されており、全固体ナトリウムイオン二次電池の開発も進められている(特許文献2)。
特許文献2の全固体ナトリウムイオン二次電池では、ナトリウムイオン伝導性を有する固体電解質層の両面に、それぞれ、電極合材(正極合材又は負極合材)からなる電極層が設けられている。上記電極層は、活物質結晶前駆体粉末(正極活物質結晶前駆体粉末又は負極活物質結晶前駆体粉末)及びナトリウムイオン伝導性結晶粉末を含有するスラリーを固体電解質層の主面上に塗布し乾燥させた後、焼成することにより形成されている。
特開平5-205741号公報 国際公開第2015/087734号
しかしながら、特許文献2のような全固体ナトリウムイオン二次電池では、電極層の形成時や、繰り返しの充放電時に、固体電解質層から電極層が剥離することがあった。そのため、特許文献2のような全固体ナトリウムイオン二次電池では、充放電容量が低下し、サイクル特性が劣化することがあった。
本発明の目的は、固体電解質層から電極層が剥離し難く、サイクル特性に優れる、全固体ナトリウムイオン二次電池を提供することにある。
本発明の全固体ナトリウムイオン二次電池は、互いに対向している第1の主面及び第2の主面を有し、ナトリウムイオン伝導性酸化物からなる、固体電解質層と、前記固体電解質層の前記第1の主面上に設けられている、正極層と、前記固体電解質層の前記第2の主面上に設けられている、負極層と、を備え、前記第1の主面及び前記第2の主面のうち、少なくとも一方の主面における算術平均粗さRaが、0.05μm以上であることを特徴としている。
本発明の全固体ナトリウムイオン二次電池は、前記第1の主面及び前記第2の主面のうち、双方の主面における算術平均粗さRaが、0.05μm以上であることが好ましい。
本発明の全固体ナトリウムイオン二次電池は、前記固体電解質層の厚みが、10μm以上、500μm以下であることが好ましい。
本発明の全固体ナトリウムイオン二次電池は、前記固体電解質層が、β-アルミナ、β”-アルミナ、及びNASICON型結晶からなる群から選択された少なくとも1種の固体電解質を含むことが好ましい。
本発明によれば、固体電解質層から電極層が剥離し難く、サイクル特性に優れる、全固体ナトリウムイオン二次電池を提供することができる。
図1は、本発明の一実施形態に係る全固体ナトリウムイオン二次電池を示す模式的断面図である。 図2は、実施例1,2及び比較例1で作製した試験電池の初回充放電曲線を示す図である。
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、各図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照する場合がある。
図1は、本発明の一実施形態に係る全固体ナトリウムイオン二次電池を示す模式的断面図である。図1に示すように、本実施形態の全固体ナトリウムイオン二次電池1は、固体電解質層2、正極層3、負極層4、第1の集電体層5及び第2の集電体層6を備える。
固体電解質層2は、ナトリウムイオン伝導性酸化物からなる。また、固体電解質層2は、互いに対向している第1の主面2a及び第2の主面2bを有する。
固体電解質層2の第1の主面2a上に、正極層3が設けられている。正極層3は、ナトリウムを吸蔵・放出可能な正極活物質を含んでいる。正極層3の固体電解質層2とは反対側の主面上に、第1の集電体層5が設けられている。なお、本発明において、第1の集電体層5は設けられていなくともよい。
一方、固体電解質層2の第2の主面2b上には、負極層4が設けられている。負極層4は、ナトリウムを吸蔵・放出可能な負極活物質を含んでいる。負極層4の固体電解質層2とは反対側の主面上に、第2の集電体層6が設けられている。なお、本発明において、第2の集電体層6は設けられていなくてもよい。
本実施形態においては、第1の主面2a及び第2の主面2bのうち、双方の主面における算術平均粗さRaが、0.05μm以上である。もっとも、本発明においては、第1の主面2a及び第2の主面2bのうち、少なくとも一方の算術平均粗さRaが、0.05μm以上であればよい。なお、算術平均粗さRaは、JIS B 0633-2001に準拠して測定することができる。
このように、本実施形態の全固体ナトリウムイオン二次電池1においては、第1の主面2a及び第2の主面2bのうち、少なくとも一方の算術平均粗さRaが、0.05μm以上であるため、アンカー効果により固体電解質層2と電極層(正極層3又は負極層4)との界面における密着性を高めることができる。そのため、全固体ナトリウムイオン二次電池1によれば、電極形成時や、繰り返しの充放電時に、固体電解質層2から電極層が剥離し難く、充放電容量が低下し難い。従って、全固体ナトリウムイオン二次電池1においては、サイクル特性が高められている。
また、全固体ナトリウムイオン二次電池1においては、第1の主面2a及び第2の主面2bのうち少なくとも一方の算術平均粗さRaが、0.05μm以上であるため、固体電解質2と電極層との双方における比表面積が大きい。そのため、活物質(正極活物質又は負極活物質)からのナトリウムイオンの拡散性を高めることができ、急速充放電特性を高めることができる。
さらに、全固体ナトリウムイオン二次電池1においては、高エネルギー密度化を図ることもできる。なお、この理由については、以下のように説明することができる。
まず、従来の全固体ナトリウムイオン二次電池においては、高エネルギー密度化を目的として、電極層の厚みを厚くした場合、後述する電極層の形成時における焼結や乾燥により、電極層の収縮が大きくなる。電極層の収縮が大きくなると、固体電解質層の端部から電極層が剥離し易い。また、酸化物系の活物質は、ナトリウムイオン伝導性、ナトリウムイオン拡散性、及び電子伝導性が低い。そのため、高エネルギー密度化を目的として、電極層の厚みを厚くした場合、上記のような活物質を多く含むこととなり、電極層の抵抗が大きくなることがある。それによって、急速充放電特性が低下することがある。
これに対して、本実施形態の全固体ナトリウムイオン二次電池1では、上述したようにアンカー効果により固体電解質層2と電極層(正極層3又は負極層4)との界面における密着性が高められている。そのため、電極層の厚みを厚くした場合においても、固体電解質層2から電極層が剥離し難い。また、本実施形態の全固体ナトリウムイオン二次電池1では、固体電解質層2と電極層との双方における比表面積が大きく、活物質(正極活物質又は負極活物質)からのナトリウムイオンの拡散性を高めることができる。そのため、電極層の厚みを厚くした場合においても、急速充放電特性を高めることができる。このように、本実施形態の全固体ナトリウムイオン二次電池1では、固体電解質層から電極層が剥離し難く、急速充放電特性を高めることができるので、電極層の厚膜化を図ることができる。それによって、全固体ナトリウムイオン二次電池1の高エネルギー密度化を図ることができる。
本発明において、第1の主面2a及び第2の主面2bのうち、少なくとも一方の算術平均粗さRaは、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.5μm以上、さらに好ましくは0.8μm以上、好ましくは5.5μm以下、より好ましくは2μm以下、さらに好ましくは1.7μm以下である。算術平均粗さRaが上記下限以上である場合、固体電解質層2から電極層がより一層剥離し難く、充放電容量をより一層高めることができる。また、算術平均粗さRaが上記上限以下である場合、固体電解質層2と電極層との間に空隙が生じ難く、充放電容量をより一層高めることができる。
本発明において、固体電解質層2の厚みは、好ましくは10μm以上、より好ましくは50μm以上、さらに好ましくは150μm以上、好ましくは2000μm以下、より好ましくは500μm以下、さらに好ましくは200μm以下である。固体電解質層2の厚みが薄すぎると、機械的強度が低下して破損しやすくなり、また内部短絡が起こりやすくなる。固体電解質層2の厚みが厚すぎると、充放電に伴うナトリウムイオン伝導距離が長くなるため内部抵抗が高くなり、放電容量及び作動電圧が低下しやすくなる。また、全固体ナトリウムイオン二次電池1の単位体積当たりのエネルギー密度も低下する傾向にある。
以下、全固体ナトリウムイオン二次電池1に用いられる固体電解質層2、正極層3、負極層4、第1の集電体層5、及び第2の集電体層6の詳細について説明する。
(固体電解質層)
固体電解質層2を構成する固体電解質は、ナトリウムイオン伝導性酸化物から形成されている。ナトリウムイオン伝導性酸化物としては、Al、Y、Zr、Si及びPから選ばれる少なくとも1種、Na、並びにOを含有する化合物が挙げられる。その具体例としては、β-アルミナ、β”-アルミナ、又はNASICON型結晶が挙げられる。好ましくは、ナトリウムイオン伝導性酸化物が、β-アルミナ又はβ”-アルミナである。これらは、ナトリウムイオン伝導性により一層優れている。
β-アルミナやβ”-アルミナを含有する酸化物材料としては、モル%で、Al 65%~98%、NaO 2%~20%、MgO+LiO 0.3%~15%を含有するものが挙げられる。組成をこのように限定した理由を以下に説明する。なお、以下の説明において、特に断りのない限り、「%」は「モル%」を意味する。また、「○+○+・・・」は該当する各成分の合量を意味する。
Alは、β-アルミナ及びβ”-アルミナを構成する主成分である。Alの含有量は、好ましくは65%~98%、より好ましくは70%~95%である。Alが少なすぎると、ナトリウムイオン伝導性が低下しやすくなる。一方、Alが多すぎると、ナトリウムイオン伝導性を有さないα-アルミナが残存し、ナトリウムイオン伝導性が低下しやすくなる。
NaOは、固体電解質にナトリウムイオン伝導性を付与する成分である。NaOの含有量は、好ましくは2%~20%、より好ましくは3%~18%、さらに好ましくは4%~16%である。NaOが少なすぎると、上記効果が得られにくくなる。一方、NaOが多すぎると、余剰のナトリウムがNaAlO等のナトリウムイオン伝導性に寄与しない化合物を形成するため、ナトリウムイオン伝導性が低下しやすくなる。
MgO及びLiOは、β-アルミナ及びβ”-アルミナの構造を安定化させる成分(安定化剤)である。MgO+LiOの含有量は、好ましくは0.3%~15%、より好ましくは0.5%~10%、さらに好ましくは0.8%~8%である。MgO+LiOが少なすぎると、固体電解質中にα-アルミナが残存してナトリウムイオン伝導性が低下しやすくなる。一方、MgO+LiOが多すぎると、安定化剤として機能しなかったMgO又はLiOが固体電解質中に残存して、ナトリウムイオン伝導性が低下しやすくなる。
固体電解質は、上記成分以外にも、ZrOやYを含有することが好ましい。ZrO及びYは、原料を焼成して固体電解質を作製する際のβ-アルミナ及び/またはβ”-アルミナの異常粒成長を抑制し、β-アルミナ及び/またはβ”-アルミナの各粒子の密着性をより一層向上させる効果がある。ZrOの含有量は、好ましくは0%~15%、より好ましくは1%~13%、さらに好ましくは2%~10%である。また、Yの含有量は、好ましくは0%~5%、より好ましくは0.01%~4%、さらに好ましくは0.02%~3%である。ZrO又はYが多すぎると、β-アルミナ及び/またはβ”-アルミナの生成量が低下して、ナトリウムイオン伝導性が低下しやすくなる。
NASICON型結晶としては、一般式NaA1A2(A1はAl、Y、Yb、Nd、Nb、Ti、Hf及びZrから選択される少なくとも1種、A2はSi及びPから選択される少なくとも1種、s=1.4~5.2、t=1~2.9、u=2.8~4.1、v=9~14)で表される結晶を含有するものが挙げられる。なお、上記結晶の好ましい形態としては、A1はY、Nb、Ti及びZrから選択される少なくとも1種、s=2.5~3.5、t=1~2.5、u=2.8~4、v=9.5~12である。この場合、ナトリウムイオン伝導性により一層優れた結晶を得ることができる。特に、単斜晶系又は三方晶系のNASICON型結晶であれば、ナトリウムイオン伝導性にさらに一層優れるため好ましい。
上記一般式NaA1A2で表される結晶の具体例としては、NaZrSiPO12、Na3.2Zr1.3Si2.20.810.5、NaZr1.6Ti0.4SiPO12、NaHfSiPO12、Na3.4Zr0.9Hf1.4Al0.6Si1.21.812、NaZr1.7Nb0.24SiPO12、Na3.6Ti0.20.8Si2.8、NaZr1.880.12SiPO12、Na3.12Zr1.880.12SiPO12、Na3.6Zr0.13Yb1.67Si0.112.912等が挙げられる。
(正極層)
正極層3は、ナトリウムを吸蔵・放出可能な正極活物質を含み、正極層として機能するものであれば特に限定されない。正極活物質は、例えば、ガラス粉末等の正極活物質前駆体粉末を焼成して形成してもよい。正極活物質前駆体粉末を焼成することにより、正極活物質結晶が析出し、この正極活物質結晶が正極活物質として作用する。
正極活物質として作用する正極活物質結晶としては、Na、M(MはCr、Fe、Mn、Co、V及びNiからから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素)、P及びOを含むナトリウム遷移金属リン酸塩結晶が挙げられる。具体例としては、NaFeP、NaFePO、Na(PO、NaNiP、Na3.64Ni2.18(P、NaNi(PO(P)等が挙げられる。当該ナトリウム遷移金属リン酸塩結晶は、高容量で化学的安定性に優れるため好ましい。なかでも空間群P1またはP-1に属する三斜晶系結晶、特に一般式Na(1.2≦x≦2.8、0.95≦y≦1.6、6.5≦z≦8)で表される結晶がサイクル特性に優れるため好ましい。その他に正極活物質として作用する正極活物質結晶としては、NaCrO、Na0.7MnO、NaFe0.2Mn0.4Ni0.4等の層状ナトリウム遷移金属酸化物結晶が挙げられる。
正極活物質前駆体粉末としては、(i)Cr、Fe、Mn、Co、Ni、Ti及びNbから選択される少なくとも1種の遷移金属元素、(ii)P、Si及びBから選択される少なくとも1種の元素、並びに(iii)Oを含むものが挙げられる。
正極活物質前駆体粉末としては、特に酸化物換算のモル%で、NaO 8%~55%、CrO+FeO+MnO+CoO+NiO 10%~70%、P+SiO+B 15%~70%を含有するものが挙げられる。各成分をこのように限定した理由を以下に説明する。なお、以下の各成分の含有量に関する説明において、特に断りのない限り、「%」は「モル%」を意味する。また、「○+○+・・・」は該当する各成分の合量を意味する。
NaOは、充放電の際に正極活物質と負極活物質との間を移動するナトリウムイオンの供給源となる。NaOの含有量は、好ましくは8%~55%、より好ましくは15%~45%、さらに好ましくは25%~35%である。NaOが少なすぎると、吸蔵及び放出に寄与するナトリウムイオンが少なくなるため、放電容量が低下する傾向にある。一方、NaOが多すぎると、NaPO等の充放電に寄与しない異種結晶が析出しやすくなるため、放電容量が低下する傾向にある。
CrO、FeO、MnO、CoO、NiOは、充放電の際に各遷移元素の価数が変化してレドックス反応を起こすことにより、ナトリウムイオンの吸蔵及び放出の駆動力として作用する成分である。なかでも、NiO及びMnOは酸化還元電位を高める効果が大きい。また、FeOは充放電において特に構造を安定化させやすく、サイクル特性を向上させやすい。CrO+FeO+MnO+CoO+NiOの含有量は、好ましくは10~70%、より好ましくは15%~60%、さらに好ましくは20%~55%、さらに好ましくは23%~50%、特に好ましくは25%~40%、最も好ましくは26%~36%である。CrO+FeO+MnO+CoO+NiOが少なすぎると、充放電に伴うレドックス反応が起こりにくくなり、吸蔵及び放出されるナトリウムイオンが少なくなるため放電容量が低下する傾向にある。一方、CrO+FeO+MnO+CoO+NiOが多すぎると、異種結晶が析出して放電容量が低下する傾向にある。
、SiO及びBは3次元網目構造を形成するため、正極活物質の構造を安定化させる効果を有する。特に、P、SiOがナトリウムイオン伝導性に優れるために好ましく、Pがより好ましい。P+SiO+Bの含有量は、好ましくは15%~70%、より好ましくは20%~60%、さらに好ましくは25%~45%である。P+SiO+Bが少なすぎると、繰り返し充放電した際に放電容量が低下しやすくなる傾向にある。一方、P+SiO+Bが多すぎると、P等の充放電に寄与しない異種結晶が析出する傾向にある。なお、P、SiO及びBの各成分の含有量は各々好ましくは0%~70%、より好ましくは15%~70%、さらに好ましくは20%~60%、特に好ましくは25%~45%である。
また、正極活物質としての効果を損なわない範囲で、上記成分に加えて種々の成分を含有させることでガラス化を容易にすることができる。このような成分としては、酸化物表記でMgO、CaO、SrO、BaO、ZnO、CuO、Al、GeO、Nb、TiO、ZrO、V、Sbが挙げられ、特に網目形成酸化物として働くAlや活物質成分となるVが好ましい。上記成分の含有量は、合量で、好ましくは0%~30%、より好ましくは0.1%~20%、さらに好ましくは0.5%~10%である。
正極活物質前駆体粉末は、焼成により、正極活物質結晶とともに非晶質相が形成されるものであることが好ましい。非晶質相が形成されることにより、正極層3内及び正極層3と固体電解質層2との界面におけるナトリウムイオン伝導性を向上させることができる。
正極活物質前駆体粉末の平均粒子径は、好ましくは0.01μm~15μm、より好ましくは0.05μm~12μm、さらに好ましくは0.1μm~10μmである。正極活物質前駆体粉末の平均粒子径が小さすぎると、正極活物質前駆体粉末同士の凝集力が強くなり、ペースト化した際に分散性に劣る傾向がある。その結果、電池の内部抵抗が高くなり作動電圧が低下しやすくなる。また、電極密度が低下して電池の単位体積あたりの容量が低下する傾向がある。一方、活物質前駆体粉末の平均粒子径が大きすぎると、ナトリウムイオンが拡散しにくくなるとともに、内部抵抗が大きくなる傾向がある。また、電極の表面平滑性に劣る傾向がある。
なお、本発明において、平均粒子径は、D50(体積基準の平均粒子径)を意味し、レーザー回折散乱法により測定された値を指すものとする。
正極層3の厚みは、3μm~300μmの範囲であることが好ましく、10μm~150μmの範囲であることがより好ましい。正極層3の厚みが薄すぎると、全固体ナトリウムイオン二次電池1自体の容量が小さくなることから、エネルギー密度が低下する場合がある。正極層3の厚みが厚すぎると、電子伝導に対する抵抗が大きくなるため放電容量及び作動電圧が低下する傾向にある。
正極層3には、必要に応じて、固体電解質粉末が含まれていてもよい。従って、正極層3は、正極活物質と、固体電解質粉末との合材である正極合材であってもよい。固体電解質粉末としては、上述の固体電解質層2と同様の材料の粉末を用いることができる。固体電解質粉末を含むことにより、正極層3内及び正極層3と固体電解質層2との界面におけるナトリウムイオン伝導性を向上させることができる。固体電解質粉末の平均粒子径は、好ましくは0.01μm~15μm、より好ましくは0.05μm~10μm、さらに好ましくは0.1μm~5μmである。
固体電解質粉末の平均粒子径が大きすぎると、ナトリウムイオン伝導に要する距離が長くなりナトリウムイオン伝導性が低下する傾向がある。また、正極活物質粉末と固体電解質粉末との間のナトリウムイオン伝導パスが減少する傾向がある。結果として、放電容量が低下しやすくなる。一方、固体電解質粉末の平均粒子径が小さすぎると、ナトリウムイオンの溶出や炭酸ガスとの反応による劣化が起こってナトリウムイオン伝導性が低下しやすくなる。また、空隙が形成されやすくなるため電極密度も低下しやすくなる。結果として、放電容量が低下する傾向がある。
正極活物質前駆体粉末と固体電解質粉末の体積比は、好ましくは20:80~95:5、より好ましくは30:70~90:10、さらに好ましくは35:65~88:12である。
また、正極層3には、必要に応じて、カーボン粉末等の導電助剤やバインダーが含まれていてもよい。導電助剤が含まれることにより、正極層3の内部抵抗を低減することができる。導電助剤は、正極層3中に0質量%~20質量%で含有させることが好ましく、1質量%~10質量%の割合で含有させることがより好ましい。
バインダーとしては、不活性雰囲気で低温分解するポリプロピレンカーボネート(PPC)が好ましい。また、ナトリウムイオン伝導性に優れるカルボキシメチルセルロース(CMC)が好ましい。
(負極層)
負極層4は、ナトリウムを吸蔵・放出可能な負極活物質を含み、負極層として機能するものであれば特に限定されない。負極活物質は、例えば、ガラス粉末等の負極活物質前駆体粉末を焼成して形成してもよい。負極活物質前駆体粉末を焼成することにより、負極活物質結晶が析出し、この負極活物質結晶が負極活物質として作用する。
負極活物質として作用する負極活物質結晶としては、例えば、Nb及びTiから選ばれる少なくとも1種及びOを含む結晶、Sn、Bi及びSbから選ばれる少なくとも1種の金属結晶、またはSn、Bi及びSbから選ばれる少なくとも1種を含む合金結晶を挙げることができる。
Nb及びTiから選ばれる少なくとも1種及びOを含む結晶は、サイクル特性に優れるため好ましい。さらに、Nb及びTiから選ばれる少なくとも1種及びOを含む結晶が、Na及び/又はLiを含むと、充放電効率(充電容量に対する放電容量の比率)が高まり、高い充放電容量を維持することができるため好ましい。なかでも、Nb及びTiから選ばれる少なくとも1種及びOを含む結晶が、斜方晶系結晶、六方晶系結晶、立方晶系結晶又は単斜晶系結晶、特に空間群P2/mに属する単斜晶系結晶であれば、大電流で充放電しても容量の低下が起こりにくいため、より好ましい。
斜方晶系結晶としては、NaTi等が挙げられる。六方晶系結晶としては、NaTiO、NaTi13、NaTiO、LiNbO、LiNbO、LiNbO、LiTi等が挙げられる。立方晶系結晶としては、NaTiO、NaNbO、LiTi12、LiNbO等が挙げられる。単斜晶系結晶としては、NaTi13、NaTi、NaTiO、NaTi12、NaTi、NaTi19、NaTi、NaTi、Li1.7Nb、Li1.9Nb、Li12Nb1333、LiNb等が挙げられる。空間群P2/mに属する単斜晶系結晶としては、NaTi等が挙げられる。
Nb及びTiから選ばれる少なくとも1種及びOを含む結晶は、さらに、B、Si、P及びGeから選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。これらの成分は、負極活物質結晶とともに非晶質相を形成させやすくし、ナトリウムイオン伝導性をより一層向上させる効果を有する。
その他に、Sn、Bi及びSbから選ばれる少なくとも1種の金属結晶や、Sn、Bi及びSbから選ばれる少なくとも1種を含む合金結晶(例えばSn-Cu合金、Bi-Cu合金、Bi-Zn合金)、Sn、Bi及びSbから選ばれる少なくとも1種を含有するガラスを用いることができる。これらは、高容量であり、大電流で充放電しても容量の低下が起こりにくいため好ましい。
負極活物質前駆体粉末としては、酸化物換算のモル%で、SnO 0%~90%、Bi 0%~90%、TiO 0%~90%、Fe 0%~90%、Nb 0%~90%、SiO+B+P 5%~75%、NaO 0%~80%を含有することが好ましい。上記構成にすることにより、負極活物質成分であるSnイオン、Biイオン、Tiイオン、Feイオン又はNbイオンが、Si、B又はPを含有する酸化物マトリクス中により均一に分散した構造が形成される。また、NaOを含有することにより、ナトリウムイオン伝導性により一層優れた材料となる。結果として、ナトリウムイオンを吸蔵及び放出する際の体積変化を抑制でき、サイクル特性により一層優れた負極活物質を得ることが可能となる。
負極活物質前駆体粉末の組成を上記の通り限定した理由を以下に説明する。なお、以下の説明において、特に断りのない限り、「%」は「モル%」を意味する。また、「○+○+・・・」は該当する各成分の合量を意味する。
SnO、Bi、TiO、Fe及びNbは、アルカリイオンを吸蔵及び放出するサイトとなる負極活物質成分である。これらの成分を含有させることにより、負極活物質の単位質量当たりの放電容量がより大きくなり、かつ、初回充放電時の充放電効率(充電容量に対する放電容量の比率)がより向上しやすくなる。但し、これらの成分の含有量が多すぎると、充放電時のナトリウムイオンの吸蔵及び放出に伴う体積変化を緩和できずに、サイクル特性が低下する傾向がある。以上に鑑み、各成分の含有量範囲は以下の通りとすることが好ましい。
SnOの含有量は、好ましくは0%~90%、より好ましくは45%~85%、さらに好ましくは55%~75%、特に好ましくは60%~72%である。
Biの含有量は、好ましくは0%~90%、より好ましくは10%~70%、さらに好ましくは15%~65%、特に好ましくは25%~55%である。
TiOの含有量は、好ましくは0%~90%、より好ましくは5%~72%、さらに好ましくは10%~68%、さらに好ましくは12%~58%、特に好ましくは15%~49%、最も好ましくは15%~39%である。
Feの含有量は、好ましくは0%~90%、より好ましくは15%~85%、さらに好ましくは20%~80%、特に好ましくは25%~75%である。
Nbの含有量は、好ましくは0%~90%、より好ましくは7%~79%、さらに好ましくは9%~69%、さらに好ましくは11%~59%、特に好ましくは13%~49%、最も好ましくは15%~39%である。なお、SnO+Bi+TiO+Fe+Nbは、好ましくは0%~90%、より好ましくは5%~85%、さらに好ましくは10%~80%である。
また、SiO、B及びPは、網目形成酸化物であり、上記負活物質成分におけるナトリウムイオンの吸蔵及び放出サイトを取り囲み、サイクル特性をより一層向上させる作用がある。なかでも、SiO及びPは、サイクル特性をより一層向上させるだけでなく、ナトリウムイオン伝導性に優れるため、レート特性をより一層向上させる効果がある。
SiO+B+Pは、好ましくは5%~85%、より好ましくは6%~79%、さらに好ましくは7%~69%、さらに好ましくは8%~59%、特に好ましくは9%~49%、最も好ましくは10%~39%である。SiO+B+Pが少なすぎると、充放電時のナトリウムイオンの吸蔵及び放出に伴う負極活物質成分の体積変化を緩和できず構造破壊を起こすため、サイクル特性が低下しやすくなる。一方、SiO+B+Pが多すぎると、相対的に負極活物質成分の含有量が少なくなり、負極活物質の単位質量当たりの充放電容量が小さくなる傾向がある。
なお、SiO、B及びPの各々の含有量の好ましい範囲は以下の通りである。
SiOの含有量は、好ましくは0%~75%、より好ましくは5%~75%、さらに好ましくは7%~60%、さらに好ましくは10%~50%、特に好ましくは12%~40%、最も好ましくは20%~35%である。SiOの含有量が多すぎると、放電容量が低下しやすくなる。
の含有量は、好ましくは5%~75%、より好ましくは7%~60%、さらに好ましくは10%~50%、特に好ましくは12%~40%、最も好ましくは20%~35%である。Pの含有量が少なすぎると、上記の効果が得られにくくなる。一方、Pの含有量が多すぎると、放電容量が低下しやすくなるとともに、耐水性が低下しやすくなる。また、水系電極ペーストを作製した際に、望まない異種結晶が生じてPネットワークが切断されるため、サイクル特性が低下しやすくなる。
の含有量は、好ましくは0%~75%、より好ましくは5%~75%、さらに好ましくは7%~60%、さらに好ましくは10%~50%、特に好ましくは12%~40%、最も好ましくは20%~35%である。Bの含有量が多すぎると、放電容量が低下しやすくなるとともに、化学的耐久性が低下しやすくなる。
負極活物質前駆体粉末は、焼成により、負極活物質結晶とともに非晶質相が形成されるものであることが好ましい。非晶質相が形成されることにより、負極層4内及び負極層4と固体電解質層2との界面におけるナトリウムイオン伝導性を向上させることができる。
負極活物質前駆体粉末の平均粒子径は、好ましくは0.01μm~15μm、より好ましくは0.05μm~12μm、さらに好ましくは0.1μm~10μmである。負極活物質前駆体粉末の平均粒子径が小さすぎると、負極活物質前駆体粉末同士の凝集力が強くなり、ペースト化した際に分散性に劣る傾向がある。その結果、電池の内部抵抗が高くなり作動電圧が低下しやすくなる。また、電極密度が低下して電池の単位体積あたりの容量が低下する傾向がある。一方、負極活物質前駆体粉末の平均粒子径が大きすぎると、ナトリウムイオンが拡散しにくくなるとともに、内部抵抗が大きくなる傾向がある。また、電極の表面平滑性に劣る傾向がある。
なお、本発明において、平均粒子径は、D50(体積基準の平均粒子径)を意味し、レーザー回折散乱法により測定された値を指すものとする。
負極層4の厚みは、0.3μm~300μmの範囲であることが好ましく、3μm~150μmの範囲であることがより好ましい。負極層4の厚みが薄すぎると、負極の絶対容量(mAh)が低下する傾向にある。負極層4の厚みが厚すぎると、抵抗が大きくなるため容量(mAh/g)が低下する傾向にある。
負極層4には、固体電解質粉末、導電助剤、バインダー等が含有されていてもよい。固体電解質粉末を含有させ負極合材とすることにより、負極活物質と固体電解質粉末の接触界面が増加し、充放電に伴うナトリウムイオンの吸蔵・放出が行いやすくなり、その結果レート特性をより一層向上させることができる。
固体電解質粉末としては、上述の固体電解質層2と同様の材料の粉末を用いることができる。固体電解質粉末の平均粒子径は、好ましくは0.01μm~15μm、より好ましくは0.05μm~10μm、さらに好ましくは0.1μm~5μmである。
固体電解質粉末の平均粒子径が大きすぎると、ナトリウムイオン伝導に要する距離が長くなりナトリウムイオン伝導性が低下する傾向がある。また、負極活物質粉末と固体電解質粉末との間のナトリウムイオン伝導パスが減少する傾向がある。結果として、放電容量が低下しやすくなる。一方、固体電解質粉末の平均粒子径が小さすぎると、ナトリウムイオンの溶出や炭酸ガスとの反応による劣化が起こってナトリウムイオン伝導性が低下しやすくなる。また、空隙が形成されやすくなるため電極密度も低下しやすくなる。結果として、放電容量が低下する傾向がある。
負極活物質前駆体粉末と固体電解質粉末の体積比は、好ましくは20:80~95:5、より好ましくは30:70~90:10、さらに好ましくは35:65~88:12である。
導電助剤としては、例えば、カーボン粉末等が挙げられる。導電助剤が含まれることにより、負極層4の内部抵抗を低減することができる。導電助剤は、負極層4中に0質量%~20質量%で含有させることが好ましく、1質量%~10質量%の割合で含有させることがより好ましい。
バインダーとしては、不活性雰囲気で低温分解するポリプロピレンカーボネート(PPC)が好ましい。また、イオン伝導性に優れるカルボキシメチルセルロース(CMC)が好ましい。
(第1の集電体層及び第2の集電体層)
第1の集電体層5及び第2の集電体層6の材料としては、例えば、アルミニウム、チタン、銀、銅、ステンレス鋼、金、又はこれらの合金が挙げられる。また、第1の集電体層5及び第2の集電体層6の厚みは、それぞれ、好ましくは0.01μm以上、好ましくは10μm以下である。第1の集電体層5及び第2の集電体層6の厚みが、上記下限以上である場合、導電性の低下により電池の内部抵抗が増加して放電容量が低下すること、及び、それに起因する重量エネルギー密度及び体積エネルギー密度の低下をより一層抑制することができる。第1の集電体層5及び第2の集電体層6の厚みが、上記上限以下である場合、全固体ナトリウムイオン二次電池1のエネルギー密度をより一層高めることができる。
なお、本実施形態のように、第1の集電体層5及び第2の集電体層6の双方が設けられていることが望ましいが、第1の集電体層5及び第2の集電体層6のうち一方のみが設けられていてもよく、第1の集電体層5及び第2の集電体層6の双方が設けられていなくともよい。
以下、全固体ナトリウムイオン二次電池1の製造方法の一例について説明する。
(全固体ナトリウムイオン二次電池の製造方法)
図1に示す全固体ナトリウムイオン二次電池1の製造方法は、特に限定されないが、例えば、以下の製造方法により製造することができる。
まず、固体電解質層2を用意する。固体電解質層2は、上述した原料粉末を混合し、混合した原料粉末を成形した後、焼成することにより製造することができる。例えば、原料粉末をスラリー化してグリーンシートを作製した後、グリーンシートを焼成することにより製造することができる。また、ゾルゲル法により製造してもよい。
次に、用意した固体電解質層2の第1の主面2a及び第2の主面2bを、算術平均粗さRaが0.05μm以上となるように研磨する。なお、研磨方法としては、特に限定されないが、水や研磨液を用いない乾式研磨やサンドブラストにより研磨することが好ましい。この場合、水分等との反応によるナトリウムイオンの伝導性の低下をより一層抑制することができる。なお、乾式研磨やサンドブラストにおける研磨剤としては、例えば、SiC、ダイヤモンド、cBN(立方晶窒化硼素)を用いることができる。研磨剤の粒度は、例えば、5μm~500μmとすることができる。
次に、固体電解質層2の第1の主面2a上に、正極層3を形成する。正極層3は、活物質前駆体粉末、必要に応じて、上述の割合で固体電解質粉末及び/または導電助剤を含むスラリーを用いて作製することができる。スラリーには、必要に応じて、バインダー、可塑剤、溶剤等が添加される。正極層3は、例えば、固体電解質層2の第1の主面2a上に、上述のスラリーを塗布した後、乾燥し、これを焼成することにより作製することができる。
次に、固体電解質層2の第2の主面2b上に、負極層4を形成する。負極層4は、負極活物質前駆体粉末、必要に応じて、上述の割合で固体電解質粉末及び/または導電助剤を含むスラリーを用いて作製することができる。スラリーには、必要に応じて、バインダー、可塑剤、溶剤等が添加される。負極層4は、例えば、固体電解質層2の第2の主面2b上に、スラリーを塗布した後、乾燥し、これを焼成することにより作製することができる。なお、正極層3及び負極層4の形成順序は、特に限定されない。従って、負極層4を先に形成した後、正極層3を形成してもよい。また、正極層3及び負極層4は同時に焼成して形成してもよい。
また、全固体ナトリウムイオン二次電池1は、負極層形成用グリーンシートと固体電解質層形成用グリーンシートと正極層形成用グリーンシートとをこの順に積層し、これらのグリーンシートを焼成することにより形成してもよい。なお、各グリーンシートは、例えば、スラリーをPET(ポリエチレンテレフタレート)等の基材の上に塗布した後、乾燥させることにより製造することができる。
次に、必要に応じて、第1の集電体層5及び第2の集電体層6を形成する。第1の集電体層5及び第2の集電体層6の形成方法としては、特に限定されず、例えば、蒸着又はスパッタリング等の物理的気相法や、熱CVD、MOCVD、プラズマCVD等の化学的気相法が挙げられる。第1の集電体層5及び第2の集電体層6のその他の形成方法として、メッキ、ゾルゲル法、スピンコートによる液相成膜法が挙げられる。もっとも、第1の集電体層5及び第2の集電体層6は、正極層3又は負極層4上にスパッタリング法により形成することが、密着性に優れるため好ましい。第1の集電体層5及び第2の集電体層6は、固体電解質層2上に正極層3及び負極層4を形成した後にそれぞれ形成してもよい。また、予め、正極層3上に第1の集電体層5を作製し、負極層4上に第2の集電体層6を作製した後に、組み合わせて全固体ナトリウムイオン二次電池1を得てもよい。
上記のようにして得られた全固体ナトリウムイオン二次電池1においては、第1の主面2a及び第2の主面2bのうち、少なくとも一方の算術平均粗さRaが、0.05μm以上であるため、アンカー効果により固体電解質層2と電極層(正極層3又は負極層4)との界面における密着性を高めることができる。従って、上述した電極層の形成時における焼結や乾燥により、電極層となる塗膜の収縮が生じても、固体電解質層2の端部などから電極層が剥離し難い。また、繰り返しの充放電によっても、固体電解質層2から電極層が剥離し難い。よって、上記のようにして得られた全固体ナトリウムイオン二次電池1は、サイクル特性に優れている。
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
(1)正極活物質前駆体粉末の作製
メタリン酸ソーダ(NaPO)、酸化ニッケル(NiO)、炭酸ソーダ(NaCO)及びオルトリン酸(HPO)を原料とし、モル%で、NaO:30.3%、NiO:36.3%、及びP:33.3%の組成となるように原料粉末を調合し、1250℃で45分間、大気雰囲気中にて溶融を行った。次いで、溶融ガラスを一対の回転ローラー間に流し出し、急冷しながら成形し、厚み0.1mm~1mmのフィルム状のガラス体を得た。得られたフィルム状のガラス体について、φ20mmのZrO玉石を使用したボールミル粉砕を10時間行ない、目開き120μmの樹脂製篩に通過させ、平均粒子径7μmのガラス粗粉末を得た。次いで、このガラス粗粉末に対し、粉砕助剤としてエタノールを用い、φ3mmのZrO玉石を使用したボールミル粉砕を80時間行なうことで、平均粒子径0.6μmのガラス粉末(正極活物質前駆体粉末)を得た。得られたガラス粉末のX線回折スペクトルを測定した結果、ガラス粉末は非晶質であることが確認された。
(2)固体電解質層及び固体電解質粉末の作製
組成式Na1.6Li0.34Al10.6617で表される、厚み350μmのシート状のLiO安定化β”-アルミナを用い、このシート状のLiO安定化β”-アルミナにおける正極層を形成する側の表面を、三和研磨工業社製、「ダイヤセラミカ乾式用 粒度♯100」を用いて乾式研磨することにより、固体電解質層を形成した。また、バルク状のLiO安定化β”-アルミナを遊星ボールミルを用いて粉砕し、目開き10μmの篩に通過させることで、別途、固体電解質粉末(平均粒子径D50=1.5μm)を作製した。なお、上記の操作は全て露点-50℃以下の環境で行なった。
(3)算術平均粗さRaの測定
固体電解質層の表面における算術平均粗さRaは、接触式表面形状測定器(小坂研究所製、品番「ET4000A」)を用いて、JIS B 0633-2001(ISO 4288-1966)における表面性状評価の方式及び手順に記載されている方法で測定することにより求めた。なお、実施例1おいて、固体電解質層の表面における算術平均粗さRaは、0.87μmであった。
(4)試験電池の作製
上記のようにして得られた正極活物質前駆体粉末、固体電解質粉末、導電助剤としてのアセチレンブラック(Timcal社製、品番「Super C65」)をそれぞれ72:25:3の割合で秤量し、メノウ乳鉢及び乳棒を用いて30分間混合した。得られた混合粉末100質量部に対し、10質量部のポリプロピレンカーボネートを添加し、さらにN-メチルピロリドン30質量部を添加して、自転・公転ミキサーを用いて十分に撹拌し、スラリー化した。得られたスラリーを、固体電解質層の乾式研磨した表面に、1cmの面積、100μmの厚さで塗布し、70℃で3時間乾燥させた。次に、カーボン容器に入れて、窒素ガス雰囲気中625℃にて30分間焼成することにより、正極活物質前駆体粉末を結晶化させながら正極層を形成した。なお、上記の操作は、全て露点-50℃以下の環境で行った。次に、正極層の表面にスパッタ装置(サンユー電子社製、品番「SC-701AT」)を用いて厚み300nmの金電極からなる集電体を形成した。さらに、露点-70℃以下のアルゴン雰囲気中にて、対極となる金属ナトリウムを固体電解質層における正極層が形成された表面と反対側の表面に圧着した。得られた積層体をコインセルの下蓋の上に載置した後、上蓋を被せてCR2032型試験電池を作製した。
(実施例2)
上記(2)における固体電解質層の作製に際し、シート状のLiO安定化β”-アルミナにおける正極層を形成する側の表面を、三和研磨工業社製、「ダイヤセラミカ乾式用 粒度♯200」を用いて乾式研磨したこと以外は、実施例1と同様にしてCR2032型試験電池を作製した。なお、実施例2おいて、固体電解質層の表面における算術平均粗さRaは、0.76μmであった。
(実施例3)
上記(2)における固体電解質層の作製に際し、シート状のLiO安定化β”-アルミナにおける正極層を形成する側の表面を、三和研磨工業社製、「ダイヤセラミカ乾式用 粒度♯50」を用いて乾式研磨したこと以外は、実施例1と同様にしてCR2032型試験電池を作製した。なお、実施例3おいて、固体電解質層の表面における算術平均粗さRaは、1.8μmであった。
(実施例4)
上記(2)における固体電解質層の作製に際し、シート状のLiO安定化β”-アルミナにおける正極層を形成する側の表面を、サンドブラスト装置(不二製作所社製ニューマブラスター)により、SiC研磨剤(粒度#100)を用いてサンドブラストにより研磨したこと以外は、実施例1と同様にしてCR2032型試験電池を作製した。なお、実施例4おいて、固体電解質層の表面における算術平均粗さRaは、3.2μmであった。
(実施例5)
上記(2)における固体電解質層の作製に際し、シート状のLiO安定化β”-アルミナにおける正極層を形成する側の表面を、サンドブラスト装置(不二製作所社製ニューマブラスター)により、SiC研磨剤(粒度#50)を用いてサンドブラストにより研磨したこと以外は、実施例1と同様にしてCR2032型試験電池を作製した。なお、実施例5おいて、固体電解質層の表面における算術平均粗さRaは、5.3μmであった。
(比較例1)
上記(2)における固体電解質層の作製に際し、シート状のLiO安定化β”-アルミナにおける正極層を形成する側の表面を、三和研磨工業社製、「ダイヤセラミカ乾式用 粒度♯1500」を用いて研磨したこと以外は、実施例1と同様にしてCR2032型試験電池を作製した。なお、比較例1において、固体電解質層の表面における算術平均粗さRaは、0.042μmであった。
(実施例6)
上記(4)における試験電池の作製において、正極層を形成する代わりにBi-Zn合金(Bi25原子%、Zn75原子%)をマグネトロンスパッタリング法により成膜したこと以外は、実施例1と同様にしてCR2032型試験電池を作製した。なお、本実施例ではBi-Zn合金は負極活物質として機能する(実施例7,8、比較例2においても同様)。
(実施例7)
上記(2)における固体電解質層の作製に際し、シート状のLiO安定化β”-アルミナにおける正極層を形成する側の表面を、三和研磨工業社製、「ダイヤセラミカ乾式用 粒度♯300」を用いて乾式研磨し、かつ、上記(4)試験電池の作製において、正極層を形成する代わりに負極層としてBi-Zn合金(Bi25原子%、Zn75原子%)をマグネトロンスパッタリング法により成膜したこと以外は、実施例1と同様にしてCR2032型試験電池を作製した。なお、実施例7おいて、固体電解質層の表面における算術平均粗さRaは、0.47μmであった。
(実施例8)
上記(4)における試験電池の作製において、正極層を形成する代わりにBi-Zn合金(Bi25原子%、Zn75原子%)をマグネトロンスパッタリング法により成膜したこと以外は、実施例4と同様にしてCR2032型試験電池を作製した。
(比較例2)
上記(4)における試験電池の作製において、正極層を形成する代わりに負極層として機能するBi-Zn合金(Bi25原子%、Zn75原子%)をマグネトロンスパッタリング法により成膜したこと以外は、比較例1と同様にしてCR2032型試験電池を作製した。
<充放電試験>
実施例1~5、比較例1で作製したCR2032型試験電池について、60℃で開回路電圧から5.2VまでのCC(定電流)充電(正極活物質からのナトリウムイオンの放出)を行ない、単位質量当たりの正極活物質へ充電された電気量(初回充電容量)を求めた。次に、5.2Vから2VまでのCC放電を行ない、単位質量当たりの正極活物質から放電された電気量(初回放電容量)を求めた。図2に、実施例1,2及び比較例1で作製した試験電池の初回充放電曲線を示す。また、表1に、実施例1~5及び比較例1で作製した試験電池の放電容量、放電容量維持率及び急速充放電特性の結果を示す。
実施例6~8、比較例2で作製したCR2032型試験電池について、60℃で開回路電圧から0.2VまでのCC(定電流)充電(負極活物質へのナトリウムイオンの吸蔵)を行ない、単位質量当たりの負極活物質へ充電された電気量(初回充電容量)を求めた。次に、0.2Vから1.5VまでのCC放電を行ない、単位質量当たりの負極活物質から放電された電気量(初回放電容量)を求めた。表2に、実施例6~8及び比較例2で作製した試験電池の放電容量、放電容量維持率及び急速充放電特性の結果を示す。
Figure 0007499029000001
Figure 0007499029000002
なお、表1中の放電容量は、Cレート0.01Cで評価した初回放電容量を、放電容量維持率は、0.01Cで評価した初回放電容量に対する5サイクル目の放電容量維持率((5サイクル目/初回)×100(%))を、急速充放電特性は、Cレート0.01Cの初回放電容量に対する0.1Cの初回放電容量の割合((0.1C/0.01C)×100(%))をそれぞれ示している。表1に示すように、放電容量については、実施例1~5では37mAh/g以上であったのに対し、比較例1では10mAh/gと劣っていた。また、放電容量維持率については、実施例1~5では48.6%以上であったのに対し、比較例1では4.8%と劣っていた。さらに、急速充放電特性については、実施例1~5では48.6%以上であったのに対し、比較例1では11.0%と劣っていた。
また、表2中の放電容量は、Cレート0.1Cで評価した初回放電容量を、放電容量維持率は、0.1Cで評価した初回放電容量に対する5サイクル目の放電容量維持率((5サイクル目/初回)×100(%))を、急速充放電特性は、Cレート0.1Cの初回放電容量に対する1Cの初回放電容量の割合((1C/0.1C)×100(%))をそれぞれ示している。表2に示すように、放電容量については、実施例6~8では212mAh/g以上であったのに対し、比較例2では181mAh/gと劣っていた。また、放電容量維持率については、実施例6~8では86.1%以上であったのに対し、比較例2では72.0%と劣っていた。さらに、急速充放電特性については、実施例6~8では61.2%以上であったのに対し、比較例2では52.1%と劣っていた。
1…全固体ナトリウムイオン二次電池
2…固体電解質層
2a,2b…第1,第2の主面
3…正極層
4…負極層
5,6…第1,第2の集電体層

Claims (4)

  1. 互いに対向している第1の主面及び第2の主面を有し、ナトリウムイオン伝導性酸化物からなる、固体電解質層と、
    前記固体電解質層の前記第1の主面上に設けられており、正極活物質と、ナトリウムイオン伝導性酸化物からなる固体電解質とを含む、正極層と、
    前記固体電解質層の前記第2の主面上に設けられている、負極層と、
    を備え、
    前記第1の主面における算術平均粗さRaが、1.8μm以上、3.2μm以下であり、
    前記正極層の厚みが、10μm~150μmである、全固体ナトリウムイオン二次電池。
  2. 記第2の主面の算術平均粗さRaが、0.05μm以上である、請求項1に記載の全固体ナトリウムイオン二次電池。
  3. 前記固体電解質層の厚みが、10μm以上、500μm以下である、請求項1又は2に記載の全固体ナトリウムイオン二次電池。
  4. 前記固体電解質層が、β-アルミナ、β”-アルミナ、及びNASICON型結晶からなる群から選択された少なくとも1種の固体電解質を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の全固体ナトリウムイオン二次電池。
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