JP7335540B1 - 接合構造 - Google Patents
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Abstract
Description
本願は、2022年2月28日に、日本に出願された特願2022-029521号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
半剛接合は、倉庫や工場、空港ターミナル等、都市の郊外に立地する1階当たりの床面積の大きな物件に適していた。一方で、都心に立地するビルディングでは、以下のような架構形式となることが多い。すなわち、比較的小さな平面の中央に、RC造のコア壁(以下では、単にRCコア壁とも言う。壁、梁等についても同様である)を配置している。そして、RC壁と外周フレームのRC大梁との間に、単スパンの合成梁を配置している。この種のビルディングでは、連続梁を用いることが少ない。
この接合部をさらにモーメント伝達可能な半剛接合とするために、合成梁の床スラブの鉄筋をRC壁に折曲げ定着する。
RC壁と合成梁との接合部においても、折曲げ定着筋の引張力によるRC壁の破壊が問題となる。
(1)本発明の態様1は、RC造の壁と合成梁の端部とが接合される接合部の接合構造であって、前記壁は、壁コンクリートを有し、前記合成梁は、床スラブと、前記床スラブを下方から支持する鉄骨梁と、を有し、前記床スラブは、床コンクリートと、前記床コンクリート及び前記壁コンクリートに埋設される複数の鉄筋と、を有し、前記複数の鉄筋のそれぞれは、前記床コンクリート及び前記壁コンクリート内で前記鉄骨梁の長手方向に延びる鉄筋本体と、前記壁コンクリートに埋設され、自身における前記鉄筋本体の径方向の長さが、前記鉄筋本体の径よりも長い拡径部と、を有し、前記鉄骨梁は、シアコネクタによって前記長手方向に離散的又は連続的に前記床スラブに接合され、前記複数の鉄筋の断面積比RArが(1)式を満たし、投影定着長さ比(Lh/dr)が(2)式を満たす、接合構造である。
ここで、iは前記床コンクリート内で配筋される前記複数の鉄筋の層の数、ar,iは上方からi番目の前記層である第i層における、前記複数の鉄筋の一本当たりの前記複数の鉄筋の前記長手方向に直交する断面積(mm2)、piは前記第i層の前記複数の鉄筋同士の前記床スラブの幅方向におけるピッチ(mm)、σry,iは前記第i層の前記複数の鉄筋の降伏応力(N/mm2)、σcは前記壁コンクリートの圧縮強度(N/mm2)、Lh,iは前記第i層において前記複数の鉄筋のうち前記壁コンクリートに定着される部分の前記長手方向の長さである投影定着長さ(mm)、dr,iは前記第i層の前記複数の鉄筋の一本当たりの径(mm)である。
従って、断面積比RArが(1)式を満たし投影定着長さ比(Lh/dr)が(2)式を満たすことにより、接合構造において、3つの破壊形式によるRC造の壁の破壊を抑制することができる。
ここで、前記複数の鉄筋の径比Rdrは、前記幅方向の単位長さ当たりの前記複数の鉄筋の径(-)である。
このため、複数の鉄筋の径比Rdrが(3)式を満たすことにより、接合構造において、合成梁のたわみを抑制することができる。
この開示では、壁は、一般的なRC造の柱に比べて幅方向に有効幅以上に長くなる。このため、接合構造において、接合部の剛性と耐力に寄与する有効幅内の最外縁まで複数の鉄筋を壁コンクリートに定着しながら、RC造の柱との接合構造で生じる可能性がある破壊、すなわち壁コンクリートにおける定着筋(鉄筋)の側方(のかぶり部分の)コンクリートが、幅方向の外側に向かって割れるのを、抑制することができる。
この開示では、前記鉄筋に機械式定着のための特殊な加工を施すことなく、曲げ加工のみで前記壁に適切に定着することができ、低コストで施工性が良い接合構造とすることができる。
従って、壁コンクリートに対してボルトが移動しても、ボルト孔とボルト軸が支圧状態にならない。このため、シアプレートを壁に接合するアンカー鉄筋や頭付きスタッドに作用する、ボルトの支圧力による引き抜きを抑制し、壁コンクリートの破壊を防止することができる。
特に、何らかのアクシデントにより設計で想定する以上の外的な力が建物に作用した場合、接合部には過大な回転が生じる恐れがある。このような場合にも、壁コンクリートに複合的な引張力が作用するのを防止し、壁コンクリートの破壊を防止することができる。
この開示では、前記高さ方向におけるボルト孔の平均位置(重心)が鉄骨梁における前記高さ方向の中心に一致している場合に比べてボルトが全体的に回転中心である下フランジに近くなるため、合成梁が曲げモーメントを受けてシアプレートに対して鉄骨梁が相対的に移動したときに、壁コンクリートに対してボルトが移動し難くなる。
従って、壁コンクリートに対してボルトが移動しても、ボルト孔とボルト軸が支圧状態にならず、シアプレートを壁に接合するアンカー鉄筋や頭付きスタッドに作用する、ボルトの支圧力による引き抜きを抑制し、壁コンクリートの破壊を防止することができる。
図1及び図2に示すように、この建築物1は、コア壁10と、複数の柱20と、合成梁25と、を備える。なお、図1では、合成梁25(後述する床スラブ28)を二点鎖線で示す。
コア壁10は、角筒状である。コア壁10は、一対の第1壁(壁)11と、一対の第2壁(壁)12と、を有する。第1壁11及び第2壁12は、それぞれ支持部材である。一対の第1壁11及び一対の第2壁12は、それぞれRC(Reinforced Concrete)造である。
壁コンクリート14は、自身の厚さ方向に見たときに矩形となる板状である。壁コンクリート14は、自身の厚さ方向が水平面に沿うとともに、上下方向Zに延びた状態に配置されている。本明細書で言う部材がA方向に延びるとは、部材が延びる方向とA方向とがなす角度が30度以下であることを意味する。この角度は、15度以下であることがより好ましい。
図2に示すように、複数の頭付きスタッド17は、ベースプレート16の主面16aに固定されている。主面16aは、壁コンクリート14の内側を向く面である。複数の頭付きスタッド17は、ベースプレート16から壁コンクリート14の内側に向かって突出している。複数の頭付きスタッド17は、壁コンクリート14に埋設されている。
図1に示すように、一対の第1壁11は、水平面に沿う方向に対向している。
シアプレート18には、図4に示すボルト孔18aが形成されている。ボルト孔18aは、シアプレート18の厚さ方向に見たときに、後述する第2鉄骨梁27の長手方向Xに延びた長孔形状である。本実施形態では、長手方向Xは、水平面に沿う方向である。しかし、長手方向Xは、水平面に対して傾斜する方向であってもよい。
シアプレート18には、ボルト孔18aが複数形成されている。複数のボルト孔18aは、互いに上下方向Zに離間した状態で並べて配置されている。
なお、シアプレート18に形成されるボルト孔18aの数は、1つでもよい。
第2壁12は、自身の厚さ方向が水平面に沿うとともに、上下方向Zに延びた状態に配置されている。一対の第2壁12は、水平面に沿う方向に対向している。一対の第2壁12は、各第1壁11の幅方向の端部同士を連結している。
コア壁10内の空間には、図示しないエレベータのシャフトや、階段室等が配置される。
例えば、第1鉄骨梁26及び第2鉄骨梁27は、それぞれ鋼製のH形鋼である。なお、第1鉄骨梁26及び第2鉄骨梁27は、H形鋼でなくてもよく、例えばT形鋼等でもよい。
以下では、長手方向Xのうち、合成梁25に対する第1壁11側を、第1側X1と言う。長手方向Xのうち、第1壁11に対する合成梁25側を、第2側X2と言う。
第1鉄骨梁26及び第2鉄骨梁27の構成は、互いに同等であるため、以下では第2鉄骨梁27を例にとって説明する。
第1フランジ31は、第2フランジ32よりも上方に配置されている。
ウェブ33は、第1フランジ31と第2フランジ32との間に配置されている。ウェブ33は、第1フランジ31の幅方向の中心及び第2フランジ32の幅方向の中心を互いに接合している。
図4に示すように、ウェブ33の長手方向Xの各端部には、複数のボルト孔33aが形成されている(図4中には、1つのボルト孔33aのみを示す)。例えば、ボルト孔33aは、ウェブ33の厚さ方向に見たときに円形状である。複数のボルト孔33aは、互いに上下方向Zに離間した状態で並べて配置されている。
なお、ウェブ33に形成されるボルト孔33aの数は、1つでもよい。
デッキプレート36は、鋼板を折り曲げること等により形成されている。デッキプレート36は、第2鉄骨梁27の第1フランジ31上に配置されている。
床コンクリート37は、平板状に形成され、デッキプレート36上に配置されている。複数の床鉄筋38は、複数の第1床鉄筋42と、複数の第2床鉄筋43と、を有する。
例えば、鉄筋本体42aは、円柱状に形成されている。鉄筋本体42aは、床コンクリート37及び壁コンクリート14内で長手方向Xに延びている。
ここで、鉄筋本体42aの径(径方向の長さ)は、鉄筋本体42aの公称径を意味する。公称径とは、例えばJIS G 3112 鉄筋コンクリート用棒鋼の異形棒鋼D10、D13、D16の場合、それぞれ順に10mm、13mm、16mmである。
折れ部42bを上下方向Zに投影した寸法(折れ部42bの鉄筋本体42aの径方向の長さ)Lvは、鉄筋本体42aの径よりも大きい。寸法Lvは、折れ部42bの鉄筋本体42aの径方向の最大長さであることが好ましい。折れ部42bを上下方向Zに投影した寸法Lvは、鉄筋本体42aの径の12倍以上であることが好ましい。
第1床鉄筋42は、長手方向X及び上下方向Zにそれぞれ平行な基準面(XZ平面)内で、折り曲げられている。この場合、第1床鉄筋42において、鉄筋本体42aに対して折れ部42bが折り曲げられる角度は、約90°である。
鉄筋本体43aは、長手方向Xに延びている。鉄筋本体43aは、鉄筋本体42aよりも下方に配置されている。
折れ部43bは、鉄筋本体43aの第1側X1の端部から下方に向かって延びている。折れ部43bは、壁コンクリート14に埋設されている。
折れ部43bを上下方向Zに投影した寸法は、折れ部42bの寸法Lvと同様に規定され、鉄筋本体43aの径よりも大きい。なお、折れ部43bの下端、及び折れ部42bの下端は、上下方向Zにおいて互いに異なる位置に配置されてもよい。
このように、複数の第1床鉄筋42の鉄筋本体42aは、上方から1番目の床鉄筋38の層381を構成する。複数の第2床鉄筋43の鉄筋本体43aは、上方から2番目の床鉄筋38の層382を構成する。本実施形態では、床コンクリート37内で配筋される床鉄筋38の層の数は、2である。なお、床コンクリート37内で配筋される床鉄筋38の層の数は、限定されない。
複数の連結鉄筋39の残部である連結鉄筋392は、複数の第2床鉄筋43の鉄筋本体43aに接している。
なお、連結鉄筋391は鉄筋本体42aに接していればよく、連結鉄筋392は鉄筋本体43aに接していればよい。
以上のように、第2鉄骨梁27は、複数の頭付きスタッド46によって長手方向Xに離散的に床スラブ28に接合される。
なお、シアコネクタは、第2鉄骨梁27の第1フランジ31とデッキプレート36とを長手方向Xに連続的に溶接する溶接部であってもよい。この場合、第2鉄骨梁27は、溶接部によって長手方向Xに連続的に床スラブ28に接合される。
複数の床鉄筋38は、第1壁11と合成梁25の端部とが接合される接合部51において、幅方向Yで有効幅(図3中に、Beffとして示す)以上の領域にわたって壁コンクリート14に定着されている。ここで言う有効幅は、下記の非特許文献1、非特許文献2等に規定される。
非特許文献1:“Eurocode 4: Design of composite steel and concrete structures - Part 1-1: General rules and rules for buildings”, December 2004, Authority: The European Union Per Regulation 305/2011, Directive 98/34/EC, Directive 2004/18/EC
非特許文献2:日本建築学会編、「各種合成構造設計指針・同解説」、2010年11月
シアコネクタが頭付きスタッド以外の場合にも同様に、前記幅方向におけるシアコネクタの重心を基準に同様の手順で有効幅を得ることができる。
beff,iは、合成梁25の床スラブ28の片側あたりの有効幅である。片側とは、第1フランジ31の幅方向において第2鉄骨梁27の軸を境に両側に分割したうちの片側を意味する。両側スラブ(床スラブ28が両側に延びる)の場合、i=2、片側スラブ(床スラブ28が片側のみに延びる)の場合、i=1となる。
長さL等の単位には、SI単位等が用いられる。
なお、シアプレート18のボルト孔18a及びウェブ33のボルト孔33aのうち、ボルト孔18aが長孔形状であるとした。しかし、ボルト孔33aのみが長孔形状であるとしてもよいし、ボルト孔18a及びボルト孔33aが長孔形状であるとしてもよい。
なお、一般的に、第1壁11の幅方向Yの長さは、柱の幅方向Yの長さよりも長い。
図1に示すように、第2壁12についても第1壁11と同様に、第2壁12と合成梁25の端部とが接合される接合部54の接合構造55が構成される。
なお、床スラブ28は、屋根に用いられるスラブ(屋根スラブ)でもよい。
また、第1壁11の上端は、合成梁25の上端よりも上方に延びていることが好ましい。第1壁11が合成梁25よりも上方に延びる長さは、投影定着長さ(Lh)以上であることが好ましい。
このとき、床鉄筋38には、第2鉄骨梁27の長手方向Xに引張り力が作用する。第2鉄骨梁27の第2フランジ32は、コンタクトプレート47を介してベースプレート16を圧縮する。
図5に示すように、第1床鉄筋65は、鉄筋本体66と、拡径部67と、を有してもよい。拡径部67は、環状に形成され、鉄筋本体66の第1側X1の端部に設けられている。拡径部67は、第1壁11の壁コンクリート14に定着されている。鉄筋本体66は、長手方向Xに延びる直状部66aの外面に、環状の第2拡径部66bが設けられて構成されている。なお、拡径部67は、壁コンクリート14に定着されていれば、鉄筋本体66の端部に設けられず、鉄筋本体66の中間部等に設けられてもよい。
例えば、第1床鉄筋65は、異形鉄筋により構成される。拡径部67は、鉄筋本体66に軸方向の圧縮力を加えた状態で高周波誘導加熱する方法や転造等により形成される。
第1床鉄筋65,70,75でも、本実施形態の第1床鉄筋42と同様の効果を奏することができる。
なお、角度θによらず、折れ部42cの内側の半径は、折り曲げられる床鉄筋の直径の3倍以上とすることが好ましい。折れ部42cのうちの直線部の長さは、角度θが180°の場合は床鉄筋の直径の4倍以上、角度θが135°以上180°未満の場合は床鉄筋の直径の6倍以上、角度θが90°以上135°未満の場合は床鉄筋の直径の8倍以上とすることが好ましい。
まず、掻出し定着破壊、側方割裂破壊及び支圧破壊について、図8から図11を用いて説明する。なお、図8から図11では、構成を簡略化するとともに、一部の表示を省略して示している。
図8及び図9に示すように、掻出し定着破壊は、壁コンクリート14が合成梁25側にコーン形状の塊R10のように掻出され、全床鉄筋38が耐力を失う破壊のことを意味する。
柱61は、第1壁11に比べて幅方向Yの長さが短いため、第1床鉄筋42が第2鉄骨梁27の長手方向Xに引張られる際に、壁コンクリート14のうち、第1床鉄筋42の側方かぶりとなる領域R4の部分が、柱61の側方(幅方向Y)に向かって引き裂かれる、側方割裂破壊が生じうる。しかし、本実施形態の接合構造52の第1壁11は、柱61に比べて幅方向Yの長さが長いため、側方かぶりとなる壁コンクリート14が引き裂かれ難く、側方割裂破壊が生じない。
〔3.1.ケーススタディの条件〕
発明者等は、接合構造の仕様を変えて、表1から表3に示すサンプルNo.1から30のケーススタディ(事例研究法)を行った。サンプルNo.1から30における床鉄筋38の層の数は、2である。
第1壁11の厚さは、400mmである。壁コンクリート14の設計強度σcは、30N/mm2(ニュートン・パー・平方ミリメートル)である。床鉄筋38の設計降伏強度σry,iは、550N/mm2である。第1壁11の横筋15bにおいて、直径は、13mmである。上下方向Zのピッチは、200mmである。
第2床鉄筋43において、直径は、10mmである。幅方向Yのピッチは、200mmである。投影定着長さは、折れ部42b及び43bから壁11の表面まで50mmのかぶり厚を確保し、350mmである。曲げ部の内側の半径は、60mmである。
第1床鉄筋42及び第2床鉄筋43の設計降伏強度は、550N/mm2であり、設計引張強度は、650N/mm2である。
非特許文献3:日本建築学会編、「鉄筋コンクリート造建物の靭性保証型耐震設計指針・同解説」、2001年9月
非特許文献4:藤井ら、「90°折り曲げ鉄筋の定着耐力の再評価」、日本建築学会構造系論文報告集、第429号、1991年11月
非特許文献5:日本建築学会編、「建築工事標準仕様書・同解説 JASS5 鉄筋コンクリート工事」、2018年7月
各サンプルNo.1から30に対して、様々なパラメータを検討した。以下では、その結果について説明する。
(6)式によって求められる床鉄筋の断面積比RAr、及び、(7)式によって求められる投影定着長さ比(Lh/dr)について検討を行った。なお、床鉄筋の断面積比RArは、床鉄筋と壁コンクリートの強度比で重みづけした床スラブ28の幅方向Yの単位長さ当たりの床鉄筋38の断面積比である。
ar,iは、上方からi番目の層である第i層38iにおける、床鉄筋38の一本当たりの床鉄筋38の長手方向Xに直交する断面積(mm2)である。第i層38iが断面積の異なる複数の種類の床鉄筋38を有する場合には、この断面積は、第i層38iの各床鉄筋38の断面積の平均値である。
pi(p1,p2について、図3参照)は、第i層38iの床鉄筋38同士の床スラブ28の幅方向Yのピッチ(mm)である。σry,iは、第i層38iの床鉄筋38の設計降伏応力(N/mm2)である。σcは、壁コンクリート14の圧縮強度(N/mm2)である。σry,iは、550N/mm2である。
合成梁25が複数の層を有する場合には、投影定着長さ比(Lh/dr)は、各層の投影定着長さ比(Lh,i/dr,i)の最小値である。
図12において、横軸は、床鉄筋の断面積比RAr(mm2/mm)を表す。縦軸は、投影定着長さ比(Lh/dr)の値を表す。
図12において、掻出し定着破壊が生じないと判定したサンプルを、「OK」として○(白抜きの丸)印で表す。図12において、掻出し定着破壊が生じると判定したサンプルを、「NG」として●(塗り潰した丸)印で表す。
図12から、床鉄筋の断面積比RArが30.70よりも小さく、(Lh/dr)の値が15.600よりも大きければ、掻出し定着破壊が生じないと判定できることが分かる。すなわち、床鉄筋の断面積比RArが、(8)式を満たし、かつ、投影定着長さ比(Lh/dr)が(9)式を満たせば、接合構造52において、掻出し定着破壊を抑制できることが分かった。
(12)式によって求められる床鉄筋の径比Rdrについて検討を行った。
図13及び図14、表4に、試算結果を示す。ここでは、サンプルNo.1から30のうち、壁の厚さ400mmの試算結果を抽出して示す。
壁の厚さを一定にしているのは、壁の厚さが変わると、投影定着長さ比(Lh/dr)が変わるためである。
軸剛性krは、非特許文献1に従い、(13-1)式、(13-2)式で計算できる。
例えば、表4に示すように、サンプルNo.1において、床鉄筋の径比Rdrは、2.872mm/mm、軸剛性krは585.8(kN/mm)である。
図13及び図14において、柱梁接合部を対象とする非特許文献4に基づくと図11に示すような支圧破壊が生じないと判定したサンプルを○印で表す。図13及び図14において、柱梁接合部を対象とする非特許文献4に基づくと図11に示すような支圧破壊が生じると判定したサンプルを、●印で表す。図13及び図14において、非特許文献3に基づくと図8及び図9に示すような掻出し定着破壊が生じると判定したサンプルを、×印で表す。
図11の側方割裂破壊は、図10に示すように第1床鉄筋42が引張られて二点鎖線L1で示すように移動することで、第1床鉄筋42の側方かぶりとなる領域R4の部分が柱61の側方(幅方向Y)に向かって引き裂かれて生じる。ところが、側方かぶりとなる領域R4の部分が十分に大きい場合、第1床鉄筋42が領域R4のコンクリートによって拘束されるため、二点鎖線L1で示すような移動が生じにくいことを、実験により知見した。
一方で、図13に示すように、壁コンクリート14に定着する合成梁25の床鉄筋38の量を多くするほど、言い換えればRdrを大きくするほど、接合部51及び接合構造52の回転に対して抵抗する鉄筋の剛性は向上し、合成梁25のたわみは抑制される。床鉄筋の径比Rdrが1.570以上の場合、軸剛性krが400kN/mm以上となる。軸剛性krは接合部51の回転剛性と比例する。回転剛性が増大すると、合成梁25のたわみが低減される。
この条件によると、合成梁25の梁中央のたわみδの、両端がピン接合で支持される合成梁25のたわみδpinに対する比率は、軸剛性krが400kN/mmでおおよそδ/δpin=2/3=66.7%まで低減できる。
言い換えると、圧延H形鋼は断面寸法の選択肢が限られるため、軸剛性krが400kN/mmを下回る場合に第1鉄骨梁26または第2鉄骨梁27を軽量化すると、たわみの低減効果を上回る断面の軽量化となってしまい、軽量化によりたわみが大きくなってしまう。
一方で、床鉄筋38の量を多くするほど、図14に示すように、前述の掻出し定着破壊は生じやすくなる。
なお、図14において、領域R11は、柱梁接合部の場合に支圧破壊、側方割裂破壊及び掻出し定着破壊が生じない領域である。領域R12は、柱梁接合部の場合に支圧破壊及び側方割裂破壊が生じ、壁梁接合部の場合は破壊しない領域である。領域R13は、掻出し定着破壊が生じる領域である。
一般的に、床鉄筋の断面積比RArが大きくなるのに従い、床鉄筋の軸剛性krも大きくなる。床鉄筋の断面積比RArが13.0以上であると、軸剛性krが400kN/mmを超える。従って、前述の通り、半剛接合としての効果が高まり、梁のたわみを有効に抑制できる。
以上説明したように、本実施形態の接合構造52では、発明者等は、多数のケーススタディを行う検討の結果、RC造の第1壁11と合成梁25の端部とが接合される接合部51の接合構造52において、掻出し定着破壊を抑制できる条件を検討した。その結果、第1壁11が壁コンクリート14を有し、合成梁25が、床コンクリート37及び床鉄筋38を有する床スラブ28と、第2鉄骨梁27と、を有する場合に、以下の条件を見出した。すなわち、鉄筋の断面積比RArが(8)式を満たし、鉄筋の投影定着長さ比(Lh/dr)が(9)式を満たすという条件である。
従って、断面積比RArが(8)式を満たし投影定着長さ比(Lh/dr)が(9)式を満たすことにより、接合構造52において、掻出し定着破壊、側方割裂破壊、及び局所支圧破壊という3つの破壊形式によるRC造の第1壁11の破壊を抑制することができる。
このため、鉄筋の径比Rdrが(14)式を満たすことにより、接合構造52において、合成梁25のたわみを抑制することができる。具体的には、鉄筋の径比Rdrが(14)式を満たすことにより、軸剛性krが400kN/mmを超える。従って、前述の通り、半剛接合としての効果が高まり、合成梁25のたわみを有効に抑制できる。
従って、壁コンクリート14に対してボルト48が移動しても、ボルト孔18aとボルト48の軸部48aが支圧状態にならず、ボルト48からシアプレート18に支圧力が作用しないため、シアプレート18のアンカー鉄筋や頭付きスタッド17の引き抜きを抑制し、壁コンクリート14の破壊を防止することができる。
このように構成することにより、複数のボルト孔18aの前記高さ方向の平均位置が第2鉄骨梁27の前記高さ方向の中心に一致している場合に比べて、合成梁25が曲げモーメントを受けてシアプレート18に対して第2鉄骨梁27が相対的に移動したときに、壁コンクリート14に対してボルト48が移動し難くなる。
従って、壁コンクリート14に対してボルト48が移動する量が抑えられ、ボルト48が壁コンクリート14に与える支圧を抑制することができる。
例えば、前記実施形態では、床鉄筋の径比Rdrは(14)式を満たさなくてもよい。シアプレート18のボルト孔18aは、シアプレート18の厚さ方向に見たときに円形状であってもよい。床鉄筋38(42,43)及び連結鉄筋39は丸鋼でもよく、異形鉄筋でもよい。
12 第2壁(壁)
14 壁コンクリート
18 シアプレート
18a ボルト孔
20 柱
25 合成梁
26 第1鉄骨梁(鉄骨梁)
27 第2鉄骨梁(鉄骨梁)
28 床スラブ
37 床コンクリート
38 床鉄筋(鉄筋)
381,382 層
46 頭付きスタッド(シアコネクタ)
48 ボルト
42,65,70,75 第1床鉄筋(鉄筋)
42a,66 鉄筋本体
42b,42c 折れ部(拡径部)
43 第2床鉄筋(鉄筋)
51,54 接合部
52,55 接合構造
67,71 拡径部
X 長手方向
Claims (6)
- RC造の壁と合成梁の端部とが接合される接合部の接合構造であって、
前記壁は、壁コンクリートを有し、
前記合成梁は、床スラブと、前記床スラブを下方から支持する鉄骨梁と、を有し、
前記床スラブは、床コンクリートと、前記床コンクリート及び前記壁コンクリートに埋設される複数の鉄筋と、を有し、
前記複数の鉄筋のそれぞれは、
前記床コンクリート及び前記壁コンクリート内で前記鉄骨梁の長手方向に延びる鉄筋本体と、
前記壁コンクリートに埋設され、自身における前記鉄筋本体の径方向の長さが、前記鉄筋本体の径よりも長い拡径部と、を有し、
前記鉄骨梁は、シアコネクタによって前記長手方向に離散的又は連続的に前記床スラブに接合され、
前記複数の鉄筋の断面積比RArが(1)式を満たし、
投影定着長さ比(Lh/dr)が(2)式を満たす、接合構造。
ここで、iは前記床コンクリート内で配筋される前記複数の鉄筋の層の数、ar,iは上方からi番目の前記層である第i層における、前記複数の鉄筋の一本当たりの前記複数の鉄筋の前記長手方向に直交する断面積(mm2)、piは前記第i層の前記複数の鉄筋同士の前記床スラブの幅方向におけるピッチ(mm)、σry,iは前記第i層の前記複数の鉄筋の降伏応力(N/mm2)、σcは前記壁コンクリートの圧縮強度(N/mm2)、Lh,iは前記第i層において前記複数の鉄筋のうち前記壁コンクリートに定着される部分の前記長手方向の長さである投影定着長さ(mm)、dr,iは前記第i層の前記複数の鉄筋の一本当たりの径(mm)である。
- 前記複数の鉄筋が、前記床スラブの前記接合部における有効幅以上の領域にわたって前記壁コンクリートに定着されている、請求項1又は2に記載の接合構造。
- 前記拡径部は、前記鉄筋本体における、前記合成梁に対する前記壁側の端部から下方に向かって延びている、請求項1又は2に記載の接合構造。
- 前記壁に接合されたシアプレートと、
H形鋼である前記鉄骨梁のウェブ及び前記シアプレートをそれぞれ接合するボルトと、
を備え、
前記ウェブ及び前記シアプレートの少なくとも一方に形成され、前記ボルトが通されるボルト孔は、前記長手方向に延びた長孔形状である、請求項1又は2に記載の接合構造。 - 前記壁に接合されたシアプレートと、
H形鋼である前記鉄骨梁のウェブ及び前記シアプレートをそれぞれ接合するボルトと、
を備え、
前記ウェブ及び前記シアプレートの少なくとも一方には、前記ボルトが通されるボルト孔が形成され、
前記ボルト孔における前記鉄骨梁の高さ方向における平均位置は、前記鉄骨梁における前記高さ方向の中心よりも下方に位置する、請求項1又は2に記載の接合構造。
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