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JP7312429B2 - ゲル組成物及びゲル乾燥物 - Google Patents

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Description

特許法第30条第2項適用 平成31年2月20日 平成30年度 国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学物質創成科学研究科発行の 「修士論文等要旨集」第87および88頁にて公開
特許法第30条第2項適用 平成31年2月22日 平成30年度 国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学物質創成科学研究科修士論文等発表会にて発表
本発明は、ゲル組成物及びゲル乾燥物に関する。
フェリチンは原核生物、古細菌、植物、高等真核生物など生物界に広く存在する鉄貯蔵タンパク質である。フェリチンは1本のポリペプチド鎖から形成されるサブユニットが24個自己集合した球状タンパク質である(図1)。フェリチンの分子量は450kDaであり、その直径は約12nmである。フェリチンのサブユニットは、4本のαヘリックスを束ねた4ヘリックスバンドル構造を形成している(図1)。
R.Tsukamoto,K.Iwahori,M.Muraoka,I.Yamashita,Bull.Chem.Soc.Jpn.,2005,78,2075-2081 K.Iwahori,I.Yamashita,Nanotechnology,2008,19,495601 I.Yamashita,K.Iwahori,S.Kumagai,Biochim.Biophys.Acta,2010,1800,846-857
フェリチンは球殻状であり、通常のタンパク質に比べ高い熱安定性及びpH安定性を示す。そのため、フェリチンはドラッグデリバリーシステムの研究に利用されている。また、フェリチンは鉄以外にもクロム又はコバルトを酸化物として球殻内に取り込むことが可能である(R.Tsukamoto,K.Iwahori,M.Muraoka,I.Yamashita,Bull.Chem.Soc.Jpn.,2005,78,2075-2081(非特許文献1))。また、半導体の材料である硫化カドミウム又は硫化亜鉛をフェリチンの球殻内に合成した例が報告されている(K.Iwahori,I.Yamashita,Nanotechnology,2008,19,495601(非特許文献2)、I.Yamashita,K.Iwahori,S.Kumagai,Biochim.Biophys.Acta,2010,1800,846-857(非特許文献3))。上述のような特性からフェリチンは量子ドット又は内部メモリーへの応用も期待されている。
以上のようにフェリチンは機能性材料として様々な研究が進んでいるタンパク質の1つである。しかし、その多くはフェリチン24量体(24個のサブユニットからなるフェリチン)である。フェリチンのゲルを作製することでフェリチンの研究発展及び産業への応用が進行することが期待される。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、フェリチン様サブユニットに由来するポリペプチドを主成分とするゲル組成物及びゲル乾燥物を提供することを目的とする。
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、所定の濃度のフェリチンのサブユニットを含む溶液を酸性状態にして再び元のpHに戻すことによって、ゲル組成物が得られることを見いだし、本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]フェリチン様サブユニットのアミノ酸配列を有するポリペプチド、及び、液体物質を含むゲル組成物。
[2]上記フェリチン様サブユニットのアミノ酸配列は、
(A)配列表の配列番号1~4のいずれかに記載のアミノ酸配列、
(B)配列表の配列番号1~4のいずれかに記載のアミノ酸配列において少なくとも1個のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸配列、及び
(C)配列表の配列番号1~4のいずれかに記載のアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、
からなる群より選択されるアミノ酸配列からなる、[1]に記載のゲル組成物。
[3]Fe、Co、Ni、Cu、Pd又はPtに対する金属捕捉能を有する、[1]又は[2]に記載のゲル組成物。
[4]上記液体物質は、水、又はアルコールである、[1]~[3]のいずれかに記載のゲル組成物。
[5][1]~[4]のいずれかに記載のゲル組成物から上記液体物質が除去されている、ゲル乾燥物。
本発明によれば、フェリチン様サブユニットに由来するポリペプチドを主成分とするゲル組成物及びゲル乾燥物を提供することが可能になる。
フェリチン24量体及びフェリチンのサブユニットの構造を示す模式図である。 フェリチンのゲル化の手順を説明する写真である。 本実施形態に係るゲル組成物における吸水性の検討を示す写真である。 本実施形態に係るゲル組成物における鉄捕捉能の検討を示す写真である。 本実施形態に係るゲル組成物における金属捕捉能の検討を示す写真(金属添加前)である。 本実施形態に係るゲル組成物における金属捕捉能の検討を示す写真(金属添加後)である。 本実施形態に係るゲル組成物における金属捕捉能の検討を示す写真(水洗浄後)である。 本実施形態に係るゲル組成物における金属捕捉能の検討を示す写真(EDTA添加後)である。
以下、本発明の実施形態を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。ここで、本明細書において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
≪ゲル組成物≫
本実施形態に係るゲル組成物は、フェリチン様サブユニットのアミノ酸配列を有するポリペプチド(以下、「フェリチン様ポリペプチド」と記載する場合がある。)、及び、液体物質を含む。上記ゲル組成物は、フェリチン様ポリペプチドを含むためFe等に対する金属捕捉能を有する。「金属捕捉能」については後述する。
本実施形態において「ゲル組成物」とは、液体分散媒中に固体分散質が分散しているコロイドであって、流動性を失って固化したものをいう。
本実施形態において「フェリチン」は、公知のあらゆる生物種由来のフェリチンを意味する。このようなフェリチンとしては、例えば、ウマ由来フェリチン(配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するサブユニットから構成されるフェリチン)、ヒト由来フェリチン(配列番号3に記載のアミノ酸配列を有するサブユニットから構成されるフェリチン)、マウス由来フェリチン(配列番号4に記載のアミノ酸配列を有するサブユニットから構成されるフェリチン)等が挙げられる。
<フェリチン様サブユニットのアミノ酸配列を有するポリペプチド>
本実施形態において「フェリチン様サブユニット」は、フェリチンを構成するサブユニット及びその変異体を含む。言い換えると本実施形態において「フェリチン様サブユニット」は、野生型のフェリチンのサブユニット、及び変異型のフェリチンのサブユニットの両方が含まれる。野生型のフェリチンのサブユニットとしては、配列番号2~4のいずれかに記載のアミノ酸配列を有するサブユニットが挙げられる。変異型のフェリチンのサブユニットとしては、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するサブユニットが挙げられる。
本実施形態において「ポリペプチド」とは、2以上のアミノ酸がペプチド結合することによって形成される分子を意味する。本実施形態において上記フェリチン様ポリペプチドは、160~190アミノ酸残基のアミノ酸配列からなるポリペプチドを含むことが好ましく、165~185アミノ酸残基のアミノ酸配列からなるポリペプチドを含むことがより好ましく、168~183アミノ酸残基のアミノ酸配列からなるポリペプチドを含むことが更に好ましい。
上記フェリチン様サブユニットのアミノ酸配列は、
(A)配列表の配列番号1~4のいずれかに記載のアミノ酸配列、
(B)配列表の配列番号1~4のいずれかに記載のアミノ酸配列において少なくとも1個のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸配列、及び
(C)配列表の配列番号1~4のいずれかに記載のアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、
からなる群より選択されるアミノ酸配列からなることが好ましい。
上記(B)のアミノ酸配列について、配列表の配列番号1~4のいずれかに記載のアミノ酸配列における置換、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸残基(変異されたアミノ酸残基)の数は、少なくとも1個、好ましくは1~20個、より好ましくは1~10個、更に好ましくは1~5個である。変異されたアミノ酸配列は、天然に存在するアミノ酸配列、すなわち、自然発生による変異を有するアミノ酸配列であってもよく、人為的に所望の部位に変異を行ったアミノ酸配列であってもよい。人為的に所望の部位に変異を行う場合、自然発生による変異を有するアミノ酸配列に準じて人為的に変異を行ってもよい。
上記(C)のアミノ酸配列において、配列同一性は、参照配列(例えば、配列表の配列番号1~4に記載のアミノ酸配列)に対して、クエリー配列(評価対象のアミノ酸配列)を、適切にアラインメントし、算出された値である。具体的には、配列同一性は、CLUSTALアルゴリズムで算出することができる。
本実施形態においては、配列同一性は、高いほど好ましく、具体的には、90%以上、95%以上又は98%以上である。配列同一性の上限は特に制限されないが、例えば、100%未満である。
上記フェリチン様ポリペプチドは、その含有割合が上記ゲル組成物全体に対して、10質量%以上100質量%未満であってもよいし、20質量%以上100質量%未満であってもよいし、20質量%以上50質量%以下であってもよい。
また、上記フェリチン様ポリペプチドは、入手方法、製造方法は特に制限されないが、例えば、野生型のフェリチンに由来するポリペプチド、リコンビナントポリペプチド又は合成されたポリペプチドであってもよい。
「野生型のフェリチン」としては、例えば、上述のウマ由来フェリチン、ヒト由来フェリチン、マウス由来フェリチン等が挙げられる。これらは、上記哺乳動物の血液等から得ることができる。具体的には、上記血液から血漿成分を採取し、採取された血漿成分から公知の方法によってフェリチンを精製すればよい。
「リコンビナントポリペプチド」とは、大腸菌、酵母、培養細胞等を宿主として、遺伝子組換え技術を用いて人工的に作製したポリペプチドを意味する。リコンビナントポリペプチドの製造方法としては、従来から知られている方法を用いればよい。具体的には、例えば以下の方法が挙げられる。まず、目的のポリペプチドをコードする塩基配列を有するベクターを宿主である大腸菌に導入し、形質転換を行う。形質転換した大腸菌を所定の培地で培養することによって、当該大腸菌に目的のポリペプチドを合成させる。
「合成されたポリペプチド」とは、原料であるアミノ酸を逐次結合させていくことによって生成されるポリペプチドを意味する。アミノ酸からの合成方法としては、例えば、固相合成法と液相合成法が挙げられる。固相合成法としては、例えば、Fmoc法、Boc法等が挙げられる。本実施形態に係るポリペプチドは、いずれの方法で合成してもよい。
例えば、上記ポリペプチドは、プロリンを担体ポリスチレンに固定し、アミノ基の保護としてfluorenyl-methoxy-carbonyl基(Fmoc基)又はtert-Butyl Oxy Carbonyl基(Boc基)を使用する公知の固相合成法により合成することができる。
<液体物質>
本実施形態において「液体物質」は、上記ゲル組成物が安定に存在できる限り、特に制限は無い。上記液体物質は、水又はアルコールであることが好ましい。上記アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール及びブタノール等が挙げられる。生体適合性の観点から、上記液体物質は水であることが好ましい。
上記液体物質は、その含有割合が上記ゲル組成物全体に対して、0質量%を超えて、90質量%以下であってもよいし、0質量%を超えて、80質量%以下であってもよいし、50質量%以上80質量%以下であってもよい。
<その他の成分>
本実施形態におけるゲル組成物は、上記ゲル組成物が安定に存在できる限り、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、例えば、緩衝剤、pH調整剤、無機塩等が挙げられる。
≪ゲル組成物の物性≫
<金属捕捉能>
本実施形態に係るゲル組成物は、Fe、Co、Ni、Cu、Pd又はPtに対する金属捕捉能を有することが好ましい。ここで、「金属捕捉能」とは、金属原子又は金属イオンを上記ゲル組成物中にとどめておき、上記ゲル組成物の外へ拡散することを抑制する能力を意味する。上記ゲル組成物は、フェリチン様ポリペプチドを含むため、Fe、Coを捕捉することに特に優れている。このように上記ゲル組成物は、所定の金属に対する金属捕捉能を有することから、例えば、工業廃水から毒性のある金属を除去する際に用いることができる。
<熱安定性>
本実施形態にかかるゲル組成物は、25~60℃において安定であることが好ましい。ここで、「25~60℃において安定である」とは、25~60℃において、上記ゲル組成物が分解、変性等を起こすことなく、ゲルの状態を維持していることを意味する。
≪ゲル乾燥物及びその物性≫
本実施形態に係るゲル乾燥物は、上記ゲル組成物から上記液体物質が除去されている。本実施形態の一側面において、上記ゲル乾燥物は、上記液体物質に対する吸収能を有することが好ましい。すなわち、上記ゲル乾燥物は、例えば吸水材として好適に用いることが可能である。
≪ゲル組成物の製造方法≫
本実施形態に係るゲル組成物の製造方法は、
フェリチン様サブユニットのアミノ酸配列を有するポリペプチドを含むフェリチン溶液を準備する工程(以下、「第一工程」という場合がある。)と、
上記フェリチン溶液のpHを下げる工程(以下、「第二工程」という場合がある。)と、
上記フェリチン溶液のpHを上げる工程(以下、「第三工程」という場合がある。)と、を含む。以下各工程について説明する。
<第一工程>
第一工程では、フェリチン様サブユニットのアミノ酸配列を有するポリペプチド(フェリチン様ポリペプチド)を含むフェリチン溶液を準備する。フェリチン様ポリペプチドは、上述したように公知の方法によって製造すればよい。
上記フェリチン溶液における溶媒は、例えば、水、生理食塩水、Tris-HCl緩衝液、他の緩衝液、無機塩水等が挙げられる。なお、「Tris」はトリスヒドロキシメチルアミノメタンの略称である。
上記フェリチン様ポリペプチドの濃度(サブユニット単位の濃度)は、6mMを超えていることが好ましく、6mMを超えて24mM以下であることがより好ましい。フェリチン様ポリペプチドの濃度を上述の範囲にすることで、後工程においてゲル化が進行しやすい傾向がある。
上記フェリチン溶液のpHは、5以上であることが好ましく、7以上9以下であることがより好ましい。
<第二工程>
第二工程では、上記フェリチン溶液のpHを下げる。上記フェリチン溶液のpHを下げる方法は特に制限されないが、例えば、所定量の1M塩酸を上記フェリチン溶液に加える方法が挙げられる。pHを下げることで、上記フェリチン溶液中のフェリチン様ポリペプチドが変性して白濁する(例えば、図2の(A))。
第二工程において、上記フェリチン溶液のpHは1以下にすることが好ましく、0.5以上0.7未満にすることがより好ましく、0.5以上0.6以下にすることが更に好ましい。pHを上述の範囲まで下げることで、後工程においてゲル化が進行しやすい傾向がある。
<第三工程>
第三工程では、上記フェリチン溶液のpHを上げる。上記フェリチン溶液のpHを上げる方法は特に制限されないが、例えば、所定量の1M水酸化ナトリウム水溶液を上記フェリチン溶液に加える方法が挙げられる。pHを上げることで、上記フェリチン溶液中のフェリチン様ポリペプチドがリフォールディングして、ゲル化が進行し、ゲル組成物が得られる(例えば、図2の(B))。
第三工程において、上記フェリチン溶液のpHは5以上にすることが好ましく、7以上9以下にすることがより好ましい。pHを上述の範囲まで上げることで、ゲル化が進行しやすい傾向がある。
上述のようにして得られたゲル組成物は、そのまま目的の用途に使用してもよい。また、上記ゲル組成物を目的の液体物質に浸漬して、上記フェリチン溶液の溶媒から上記液体物質に置換した後に目的の用途に使用することもできる。
さらに、上記第三工程の後に、上記ゲル組成物を公知の方法によって乾燥させ、液体物質を除去することでゲル乾燥物を得ることができる。
以下、実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。特に明記しない限り、各種操作は、モレキュラークローニング ア ラボラトリー マニュアル(Molecular Cloning A Laboratory Manual)第2版(ザンブルーク(Sambrook, J)ら、1989年)に従って行った。
≪ウマ由来のフェリチン様ポリペプチドを含むゲル組成物の作製≫
<ウマ由来フェリチン様ポリペプチドの作製>
(LB培地の作製)
LB Broth(ナカライテスク株式会社製、商品名、50g)を水道水(2L)で溶解し、滅菌処理前のルリア-ベルターニ培地(LB培地)を得た。得られたLB培地に対してオートクレーブ処理(120℃、1.2気圧、20分間)を行うことにより滅菌処理を行った。滅菌処理後のLB培地を放冷により室温まで冷ました。その後、予め滅菌フィルター(孔径0.22μm、メルクミリポア社製)に通したアンピシリン溶液(Amp、和光純薬工業株式会社製、100μg/mL)を、当該LB培地1Lあたり1mL添加した。以上の手順により、アンピシリンを含むLB培地を作製した。
(ウマ由来フェリチン様遺伝子を含む大腸菌の作製)
公知の遺伝子工学的手法により、ウマ由来のフェリチン様サブユニットのアミノ酸配列(配列番号1)をコードする遺伝子(以下、「ウマ由来フェリチン様遺伝子」という場合がある。)を、プラスミド(pMK2)のマルチクローニングサイトに挿入して、ウマ由来フェリチン様遺伝子を有するプラスミドを構築した。その後、公知の遺伝子工学的手法により、構築したプラスミドを大腸菌(商品名:NovaBlue、メルクミリポア社製)に導入した。以上の手順により、ウマ由来フェリチン様遺伝子を有するプラスミドが導入された大腸菌を作製した。当該大腸菌は、グリセロールストックとして-80℃にて保存した。なお、配列番号1に記載のアミノ酸配列は、ウマ由来フェリチンサブユニットのアミノ酸配列(配列番号2)におけるN末端の8アミノ酸残基を欠失させたアミノ酸配列である。
(大腸菌の培養)
(1)前々培養
ウマ由来フェリチン様遺伝子を有するプラスミドが導入された大腸菌をグリセロールストックからLB培地2mLに植菌し、振盪培養した(37℃、200rpm、14時間)。
(2)前培養
前々培養した培養液2mLをLB培地300mLに添加し、振盪培養した(37℃、170rpm、5時間)。
(3)本培養
前培養した培養液50mLをLB培地2Lに加え、振盪培養した(37℃、110rpm、24時間)。以上の手順で、ウマ由来のフェリチン様サブユニットのアミノ酸配列を有するポリペプチド(フェリチン様ポリペプチド)を含む大腸菌を培養した。
(ウマ由来のフェリチン様ポリペプチドの粗生成物の作製)
(1)上述の工程で得られた大腸菌を含む培養液を遠心分離(4℃、8000rpm、6分間)することにより、上記大腸菌を沈殿物として回収した(菌体質量:約50g)。
(2)得られた菌体を液体窒素で凍結した。その後、菌体量1gに対して10mLの50mMTris-HCl緩衝液(pH8.0)を添加して菌体を懸濁させた。菌体を含む懸濁液を、4℃で10分間攪拌した。
(3)得られた懸濁液(10mL、菌体10g分)を氷上で超音波破砕した(出力40%、1秒間破砕-2秒間停止のサイクルを、合計10分間)。
(4)超音波破砕後の懸濁液を遠心分離(4℃、15000rpm、15分間)した。その後、上清を回収した。
(5)回収した上清をインキュベートし(60℃、20分間)、遠心分離(4℃、17000rpm、10分間)を行い、更に上清を回収した。以上の手順でフェリチン様ポリペプチドの粗生成物を得た。
(ウマ由来のフェリチン様ポリペプチドの精製)
(1)まず、陰イオン交換カラム担体Q-セファロース(GE Healthcare)を50mM Tris-HCl緩衝液(pH8.5)で平衡化させた。その後、抽出したフェリチン様ポリペプチドの粗生成物を、当該陰イオン交換カラム担体に吸着させた。続いて、200mM NaClを含む50mM Tris-HCl緩衝液(pH8.5)を当該陰イオン交換カラムに流した。その後300mM NaClを含む50mM Tris-HCl緩衝液(pH8.5)を当該陰イオン交換カラムに流すことでフェリチン様ポリペプチドを溶出させた。
(2)抽出したフェリチン様ポリペプチドの溶液(以下、「フェリチン溶液」という場合がある。)を50mM Tris-HCl緩衝液(pH8.5)で2倍希釈し、溶液をフィルター(孔径0.22μm、メルクミリポア社製)に通した。フィルターに通したフェリチン溶液を、FPLC(Fast Protein Liquid Chromatography)(BioLogic DuoFlowシステム、BIO-RAD社製)を用いて陰イオン交換カラムクロマトグラフィーによって精製した。FPLCの条件を以下に示す。
[FPLC条件]
カラム :HiTrap Q HP (GE Healthcare社製)
流速 :3.0 mL/min
緩衝液A :50mM Tris-HCl緩衝液(pH8.5)
緩衝液B :1.0M NaClを含む50mM Tris-HCl緩衝液(pH8.5)
グラジエント:0→50%B(80mL)
検出波長 :280nm
(3)Amicon Ultra-15(MWCO 10000、メルクミリポア社製)を用いて、精製したフェリチン溶液(約30mL)を約10mLに濃縮した。濃縮されたフェリチン溶液を、フィルターに通して沈殿物などの不純物を除いた。その後、当該フェリチン溶液を、FPLC(AKTAprime plus、GE Healthcare)を用いたゲルろ過カラムクロマトグラフィーにより精製した。FPLCの条件を以下に示す。
[FPLC条件]
カラム :HiPrep 26/60 Sephacryl S-300 HR(GE Healthcare社製)
流速 :1.0mL/分間
緩衝液 :150mM NaClを含む50mM Tris-HCl緩衝液(pH8.5)
検出波長:280nm
(4)得られたフェリチン溶液におけるフェリチンの精製度をSDS-PAGEで確認したところ、95%以上であった。
以上の手順によって、ウマ由来のフェリチン様ポリペプチドを作製した。
<フェリチン様ポリペプチドのゲル化>
(ウマ由来のフェリチン様ポリペプチドを含むゲル組成物の生成)
(1)精製したフェリチン溶液をAmicon Ultra-15(MWCO 10000、メルクミリポア社製)を用いて約12mM(サブユニット単位のモル濃度)になるまで濃縮した。
(2)濃縮した微量(約10μL)のフェリチン溶液に1.0M塩酸を10μL加え、フェリチン様ポリペプチドを白色に変性させた(pH0.5)(図2の(A))。
(3)その後、変性したフェリチン様ポリペプチドを含む溶液に1.0M水酸化ナトリウム水溶液を10μL加え当該溶液のpHを8.5に上げた。以上の手順でウマ由来フェリチン様ポリペプチドを含むゲル組成物を生成した(図2の(B))。
(ゲル化条件の検討)
(1)フェリチン溶液をそれぞれ3mM、6mM、12mM及び24mM(全てサブユニット単位のモル濃度)に調製した。
(2)10μLの各フェリチン溶液に、酸変性時のpHがそれぞれ0.5(1.0M塩酸10μL程度)、0.6(1.0M塩酸5.5μL程度)、0.7(1.0M塩酸3.5μL程度)及び0.8(1.0M塩酸2μL程度)となるように塩酸を加えた。その後、加えた塩酸と同量同濃度の水酸化ナトリウム水溶液でフェリチン溶液のpHを上げた(pH8.5)。以上の手順で、フェリチン様ポリペプチドのモル濃度及び酸変性時のpH(第二工程におけるpH)が異なる各条件においてゲル化するかどうかを検証した。結果を表1に示す。表1の結果から、第一工程におけるフェリチン溶液中のフェリチン様ポリペプチドのモル濃度が12mM以上であり、第二工程におけるpHが0.6以下である場合、ゲル化することがわかった。ゲル化には酸変性時の溶液のpHと、フェリチン様ポリペプチドのモル濃度に依存していることがわかった。
Figure 0007312429000001
≪ゲル組成物の物性≫
(溶解性)
以下の手順で、作製したゲル組成物の溶解性を検証した。まず、約1mLの純水、1.0M塩酸、1.0M水酸化ナトリウム水溶液、メタノール(Wako社製)、2-メルカプトエタノール(Wako社製)(液体)、又は43μMトリプシン(シグマアルドリッチ社製)水溶液に上記ゲル組成物を浸漬して、室温で1週間静置した。その後、上記ゲル組成物が溶解するか検証した。その結果、塩酸、水酸化ナトリウム水溶液、メタノール及び2-メルカプトエタノール溶液に対してゲル組成物は不溶でありゲルの形状を維持していた。一方、トリプシン水溶液を加えると徐々にゲル組成物が分解し、最終的に溶解した。この結果より、ゲル組成物はプロテアーゼ分解性を有していること、ゲル組成物はフェリチン様ポリペプチドで形成されていることが示唆された。
(熱安定性)
作製したゲル組成物の熱安定性の知見を得るため、20℃~100℃の純水にゲル組成物を30分間浸し、肉眼で形状観察を行った。その結果、80℃ではゲル組成物は徐々に分解していき、100℃では速やかに分解した。一方、60℃以下でインキュベートしてもゲル組成物の形状にほとんど変化は見られず安定であった。以上の結果から、上記ゲル組成物は、野生型のフェリチンと同様の熱安定性を有していることが示唆された。
(組成)
作製したゲル組成物の一部に超純水を加えボルテックスで懸濁し、懸濁液を得た。続いて、0.1%TFA/MilliQ(25μL)と、0.1%TFA/MeCN(50μL)の混合溶液に、約5mgのシナピン酸を飽和させてマトリックス溶液を作製した。得られた懸濁液(1μL)と、上記マトリックス溶液(8μL)とを混合して混合溶液を得た。得られた混合溶液を質量分析用のプレートの上に乗せてマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計(MALDI-TOF-MS)で分析した。その結果、フェリチンのサブユニットの分子量(理論値:[フェリチンのサブユニット+H]=19148Da)に対応するピークが検出された。これらの結果より、得られたゲル組成物はフェリチン様ポリペプチドで形成されていることが判明した。
(吸水性)
ゲル組成物を100℃で10分熱乾燥処理により脱水させゲル乾燥物を得た。その後得られたゲル乾燥物に超純水を加え、室温で1時間インキュベートし、再びゲル組成物とした。脱水させたゲル乾燥物(図3の(A))に純水を加えた結果、ゲル組成物は長さが約3倍、質量が約5倍膨潤した(図3の(B))。この一連の操作で質量対比により含水率を計算すると平均して約80%であることが判明した。なお、水で膨潤したゲル組成物を上記と同様の方法で熱乾燥処理したところ、再度ゲル乾燥物を得ることができた(図3の(C))。以上の結果から、ゲル乾燥物は水に対する吸収能(吸水性)を有していることが分かった。
(鉄捕捉能)
(実験1)作製したゲル組成物に30mMの硫酸アンモニウム鉄(II)(ナカライテスク社製)の水溶液を加え、室温で24時間インキュベートした。インキュベート後のゲル組成物を観察したところ、うすい黄色から赤褐色に変色していた。インキュベート後のゲル組成物を超純水で洗浄し、観察したところ、赤褐色のままであった。ゲル組成物の質量は硫酸アンモニウム鉄(II)水溶液に浸す前に比べ約30%増加していた。
(実験2)30mMの塩化鉄(III)(関東化学社製)の水溶液を用いて(実験1)と同様の操作を行った。得られたゲル組成物を観察したところ、うすい黄色(図4の(A))から赤褐色に変色していた(図4の(B))。インキュベート後のゲル組成物を超純水で洗浄し、観察したところ、赤褐色のままであった。ゲル組成物の質量は塩化鉄(III)水溶液に浸す前に比べ約20%増加していた。
(実験3)作製したゲル組成物に30mMの硫酸アンモニウム鉄(II)(ナカライテスク社製)の水溶液を加え、室温で1.5時間インキュベートした。インキュベート後のゲル組成物を観察したところ、うすい黄色から暗緑色に変化していた。インキュベート後のゲル組成物を超純水で洗浄し、室温で24時間インキュベートしたところ、ゲル組成物は赤褐色に変化した。
(実験1)~(実験3)の結果から、上記ゲル組成物は、フェリチンと同様に鉄捕捉能を保持していることがわかった。上記ゲル組成物は、2価の鉄イオン、及び3価の鉄イオンに結合し、2価で結合した鉄イオンは3価になることがわかった。また、キレート剤をゲル組成物に加えても変化はなく、鉄イオンはゲル組成物の内部にとどまっていたことが示唆された。
(その他の金属捕捉能)
鉄以外の金属に対する金属捕捉能を検討するため、上述したのと同じ手順で作製したゲル組成物を準備した(図5の(A)~(D))。作製したゲル組成物に金属塩の水溶液(30mM)を加え、室温で2時間インキュベートした。このとき用いた金属塩は塩化鉄(III)、塩化銅、塩化コバルト及び塩化ニッケルであった。インキュベート後のゲル組成物を観察したところ、うすい黄色からそれぞれの金属塩に応じた色に変色していた。具体的には、塩化鉄(III)の場合、ゲル組成物はうすい黄色から赤褐色に変色していた(図6の(A))。塩化銅の場合、ゲル組成物はうすい黄色から緑青色に変色していた(図6の(C))。塩化コバルトの場合、ゲル組成物はうすい黄色から淡紫色に変色していた(図6の(B))。塩化ニッケルの場合、ゲル組成物はうすい黄色から淡橙色に変色していた(図6の(D))。インキュベート後のゲル組成物それぞれを超純水で洗浄し(室温で18時間)、観察したところ、変色したままであった(図7の(A)~(D))。以上の結果から、上記ゲル組成物は、フェリチンと同様に鉄以外の金属に対しても金属捕捉能を保持していることがわかった。
上述の実験でゲル組成物が捕捉した金属(Fe、Ni、Co及びCu)はいずれも遷移金属であること、並びに、フェリチンはFe以外にも、Ni、Co、Cu、Pd(パラジウム)及びPt(白金)等の遷移金属を捕捉することが知られていることから、同じ遷移金属であるPd及びPtに対しても、上記ゲル組成物は金属捕捉能を有していると本発明者らは考えている。
なお、超純水で洗浄した後のゲル組成物を100mMのエチレンジアミンテトラ酢酸水溶液(EDTA水溶液)に浸漬して3時間インキュベートすると、鉄以外の金属では脱色し、ゲル組成物から当該金属が遊離することを確認した(図8の(A)~(D))。
以上のように本発明の実施形態及び実施例について説明を行なったが、上述の各実施形態及び各実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
今回開示された実施の形態及び実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態及び実施例ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。

Claims (5)

  1. フェリチン様サブユニットのアミノ酸配列を有するポリペプチド、及び、液体物質を含むゲル組成物であって、
    前記ゲル組成物は、前記ポリペプチドでゲルが形成されている、ゲル組成物。
  2. 前記フェリチン様サブユニットのアミノ酸配列は、
    (A)配列表の配列番号1~4のいずれかに記載のアミノ酸配列、
    (B)配列表の配列番号1~4のいずれかに記載のアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸配列、及び
    (C)配列表の配列番号1~4のいずれかに記載のアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、
    からなる群より選択されるアミノ酸配列である、請求項1に記載のゲル組成物。
  3. Fe、Co、Ni、Cu、Pd又はPtに対する金属捕捉能を有する、請求項1又は請求項2に記載のゲル組成物。
  4. 前記液体物質は、水、又はアルコールである、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載のゲル組成物。
  5. 請求項1~請求項4のいずれか一項に記載のゲル組成物から前記液体物質が除去されている、ゲル乾燥物。
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