以下の実施の形態では、同一の部品には同一の参照番号を付してある。それらの名称及び機能も同一である。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
(第1の実施の形態)
(検出装置の構成)
図2を参照して、本発明の第1の実施の形態に係る検出装置100は、複数の磁場検出素子102と、磁場検出素子102に照射するレーザー光を生成するレーザー光源104と、マイクロ波を生成するマイクロ波源106と、マイクロ波源106から供給されるマイクロ波を磁場検出素子102に照射するマイクロ波照射部108と、磁場検出素子102から放射される蛍光を検出する受光素子110と、各部を制御する制御部112とを含む。マイクロ波照射部108は、複数の磁場検出素子102のそれぞれに対応させて、同数配置されている。受光素子110も、複数の磁場検出素子102のそれぞれに対応させて、同数配置されている。
複数の磁場検出素子102、マイクロ波照射部108及び受光素子110は、図3を参照して、電力機器200の外部に配置されている。図3において、楕円形の破線は、磁場検出素子102、マイクロ波照射部108及び受光素子110が1組として配置されている位置を示している。即ち、磁場検出素子102は、略直方体の筐体212の平行な鉛直方向の4辺のそれぞれの近傍に、上下方向に2個、合計8個配置されている。マイクロ波照射部108及び受光素子110に関しても同様に、それぞれ合計8個配置されている。
図3では、電力機器200の筐体212の内部にトランス210が配置されている。トランス210には、外部の電源202から、電力供給ライン204及び206を介して電力が供給される。筐体212は接地されており、電力供給ライン204及び206は、絶縁性を確保するために碍子208を介して、筐体212内部に導入されている。
図2に示す磁場検出素子102は、ダイヤモンドのNV中心を用いたセンサ(以下、NVセンサという)である。NV中心は、ダイヤモンド結晶中の炭素(C)原子1個が窒素(N)原子1個と置換され、その隣が空孔(V)である構造を有する。NV中心は、電子を1個捕獲した状態(NV-)では、磁気量子数msが-1、0、+1のスピン3重項状態を形成し、ms=±1の状態のエネルギーレベルは外部磁場の強度に比例して分離する(ゼーマン分離)。本願において、NV中心とはNV-中心を意味する。NV中心は、波長が約490~560nmの緑色のレーザー光(例えば532nm)により基底状態から励起状態に遷移し、波長が約630~800nmの赤色の蛍光(例えば637nm)を放射して、基底状態に戻る。また、約2.87GHzのマイクロ波をNV中心に照射すると、電子スピン共鳴によりms=0の状態はms=±1の状態に遷移する。そして、ms=±1の状態のNV中心(基底状態)が、緑色レーザーにより励起された後、基底状態に戻るときの遷移には蛍光を発しない遷移が含まれるので、観測される蛍光強度は低下する。これはESR(Electron Spin Resonance)スペクトルの谷として観測され得る。
これらのNV中心の特性を利用して、NV中心をNVセンサとして使用し、磁場ベクトルを測定できることが知られている(特許文献4~6、並びに、非特許文献3~6参照)。NVセンサを用いて磁場を測定するには、通常、レーザー光によりスピン状態を所定の初期状態にし、マイクロ波を所定のパルスシーケンス(単に所定の時間マイクロ波を照射する場合を含む)で照射し、レーザー光を照射して放射される蛍光を観測する。
レーザー光源104は、磁場検出素子102のNV中心を基底状態から励起状態にするためのレーザー光を発生する。レーザー光は、光ファイバ等の所定の伝送経路を介して伝送され、磁場検出素子102に照射される。
マイクロ波源106は、ms=0のレベルからms=±1のレベルに遷移させるための磁気共鳴周波数のマイクロ波を発生する。マイクロ波は、所定の伝送経路を介してマイクロ波照射部108に供給され、マイクロ波照射部108により磁場検出素子102に照射される。マイクロ波源106は、例えば、マグネトロン、エサキダイオード又はガンダイオードを用いた発振回路等、公知のマイクロ波発振器を用いることができる。マイクロ波照射部108は、例えば導電部材で形成されたコイルである。
受光素子110は、励起されたNV中心が基底状態に戻るときの蛍光を検出し、対応する電気信号を出力する。受光素子110は、フォトダイオード、CCD等の光電変換素子である。電気信号は、伝送経路を介して制御部112に入力される。
制御部112は、CPU(Central Processing Unit)と、記憶部とを備えている。制御部112は、レーザー光源104、マイクロ波源106を制御する。図4に制御のタイミングを示す。制御部112は、所定のタイミングで所定の時間(図4の期間T1)レーザー光を出力するようにレーザー光源104を制御し、所定のタイミングでマイクロ波を出力するようにマイクロ波源106を制御する(図4の期間T2)。図4の期間T2における、パルスシーケンスは後述するように、使用するNVセンサに応じて、適切なものが使用される。また、制御部112は、入力される受光素子110の出力信号を所定のタイミングで取込み(図4の期間T3)、記憶部に記憶する。これらの処理は、記憶部に予め記憶されたプログラムをCPUが読出して実行することにより実現される。
図2には示していないが、検出装置100は、レーザー光源104、マイクロ波源106及び制御部112を作動させるための電力を供給するための電源を備えている。また、検出装置100は、磁場検出素子102にレーザー光を導き、磁場検出素子102の所定部分に照射するため光学系(レンズ、ミラー等)、及び、磁場検出素子102から放射される蛍光を受光素子110に導くための光学系を備えていてもよい。
1つのNV中心を用いて蛍光を測定することができ、NVセンサとして、1つのNV中心を採用することができる。また、S/N比のよい信号が得られるように、複数のNV中心でNVセンサを構成し、複数のNV中心を測定の対象として使用して、即ち、複数のNV中心にレーザー光及びマイクロ波を照射して、測定を行なうこともできる。NV中心においては、Vを基準として、Nは4種類の位置を取得る。したがって、NV中心の方位(NV軸)として4種類の方位が考えられる。通常のダイヤモンド結晶中のNV中心は、4種類のNV軸のものが混在している。一方、非特許文献3には、NV軸を揃えることが可能であることが開示されている。例えば、ダイヤモンドの(111)基板上へのエピタキシャル成長により、NV軸を99%以上[111]軸方向に揃えることができることが開示されている。
複数のNV中心を測定の対象として使用する場合には、測定対象のNV中心のNV軸が揃っているものを使用する場合と、揃っていないものを使用する場合とが考えられる。何れを使用するかにより、磁場を求めるための測定で使用するマイクロ波のパルスシーケンスは異なるが、図4に示したように、レーザー光とマイクロ波とを照射して蛍光を観測することは同じである。使用するNVセンサに応じた測定方法を用いて、磁場ベクトルを求めればよい。
使用するパルスシーケンスにより得られるスペクトルは異なる。例えば、ESRスペクトルに現れる2つの谷の間隔(周波数差)から磁場の大きさを求めることができる。蛍光強度のESRスペクトルは、磁場=0であれば1つの谷を有するが、磁場が存在すると周波数方向に異なる2つの谷が現れる。谷の位置(周波数)は磁場の大きさに依存する。NV中心の方位が異なるNV中心を複数含む場合、各NV中心の方位毎に、スペクトルの谷から磁場の大きさを求めると、異なる方向の磁場成分を求めることができ、磁場ベクトルを求めることができる。この方法は、例えば、非特許文献4に開示されている。
非特許文献4に開示されている測定方法では、NV中心にレーザー光を照射し、マイクロ波の周波数を走査してNV中心から放射される蛍光を測定する(ESRスペクトルの測定)。例えば、磁場ベクトルの成分(Bx,By,Bz)は、次式により求められる。
ここで、座標軸(X,Y,Z)は、図5のように設定されている。5つの円で示す位置250~258は、ダイヤモンド結晶における原子の位置を示す。位置250、256及び258は、ダイヤモンドの結晶面(110)面である平面270上に位置し、位置250、252及び254は、それと異なる平面272に位置する。位置250と、その周囲の4つの位置252~258のうちの何れか1つとに、V及びNが位置しNV中心が構成され、それ以外の位置にはCが配置される。したがって、上記したように、NV中心は、4種類の配位の何れかになる。
係数βは、β=(h/2gμB)(hはプランク定数、gはg因子、μBはボーア磁子)であり、何れも定数である。ΔNVi(i=1~3)は、ESRスペクトルにおける2つの谷の分離幅である(図6参照)。Vが位置250に位置するとして、Nの対応する位置は、i=1は位置256に対応し、i=2及びi=3は位置252及び254に対応する。したがって、配位(NV軸)260~264の3方向のNV中心のESRスペクトルを測定し、ΔNVi(i=1~3)を求めれば、上記の式により、磁場ベクトルを求めることができる。
また、磁場に応じて谷の位置がシフトすることにより、谷の傾斜が急峻な位置の蛍光強度が変化する。したがって、これを用いて磁場の大きさを求めてもよい(特許文献6参照)。
また、パルスESRと同様のパルスシーケンスを用いて、π/2パルス、πパルス及び2πパルス等を印加してスピン状態を変化させた後、レーザー光による励起及び蛍光測定により、スピン状態を測定して、スピンの緩和時間による蛍光強度の変化を得ることができる。スピンの緩和時間は磁場に依存するので、これによっても磁場を求めることができる(特許文献4及び5、並びに非特許文献5及び6参照)。
例えば、非特許文献6に開示された方法では、NV中心を用いて、NV中心の軸方向の磁場成分を、電子ゼーマン効果により、NV中心の軸に直交する方向の磁場成分を、NV中心を構成する窒素の核スピン共鳴により得る。電子ゼーマン効果による測定方法では、NVセンサにレーザー光を照射した後、NV中心にマイクロ波を照射し、その後、NVセンサにレーザー光を照射しながらNVセンサから放射される蛍光を測定する処理を、マイクロ波の周波数を走査して行ない、ESRスペクトルを得る。窒素の核スピン共鳴による測定方法では、NVセンサにレーザー光を照射した後、NVセンサに所定のパルスシーケンスでマイクロ波を照射し、その後、NVセンサにレーザー光を照射しながらNVセンサから放射される蛍光を測定する、という一連の処理を繰返す。パルスシーケンスは、所定の時間間隔τで2回πパルスを照射するシーケンスを使用する。得られる蛍光強度は、所定の周波数(ラーモア周波数ωL)で振動し、ωLからNV軸と直交する面内の磁場成分を得ることができる。さらに、NV中心の軸に平行でもなく、直交してもいない磁場を印加して測定することにより、磁場ベクトルを特定することができる。
(部分放電の検出処理)
以下に、図7を参照して、検出装置100により、電力機器200を構成するトランス210において発生する部分放電を検出する処理に関して説明する。図7のプログラムは、図2に示す制御部112のCPUにより実行される。即ち、以下において、制御部112が実行する処理は、CPUが実行することを意味する。
ステップ300において、制御部112は、記憶部から予め設定されたパラメータを読出し、必要な初期設定を行なう。パラメータは、例えば、測定時のパルスシーケンスを特定するための情報(レーザー光及びマイクロ波を供給するパルスの幅及び強度、パルスを供給するタイミング、測定を繰返す時間(又は回数)等)、各磁場検出素子102の位置情報(3次元座標)、マイクロ波の走査周波数を特定するための情報(上限周波数、下限周波数、増減値)等である。また、制御部112は、測定を繰返すためのパラメータを初期値にセットする。後述するように、例えば、シーケンスの測定回数が定められていれば、カウンタNcに上限値(nmax)をセットする。
ステップ302において、制御部112は、ステップ300で読出したパルスシーケンスにしたがって、レーザー光源104を制御してレーザー光を各磁場検出素子102に照射し、マイクロ波源106を制御してマイクロ波を各磁場検出素子102に照射し、再度レーザー光源104を制御してレーザー光を各磁場検出素子102に照射し、各受光素子110から出力される信号(磁場検出素子102から放射される蛍光の検出信号)を取得する。制御部112は、取得した信号を、各受光素子110、即ち各磁場検出素子102との対応が分かるように、記憶部に記憶する。また、制御部112は、カウンタNcを“1”減少させる。
上記したように、磁場検出素子102のNVセンサがどのようなNV中心で構成されているかに応じて、磁場ベクトルを得るための適切なパルスシーケンスを採用して、蛍光を測定すればよい。
ステップ304において、測定を完了したか否かを判定する。具体的には、制御部112は、カウンタNcが“0”になったか否かを判定する。測定を完了したと判定された場合、制御はステップ306に移行する。そうでなければ、制御はステップ302に戻り、制御部112は再度測定を実行する。
ここでの繰返し測定は、マイクロ波の周波数を変更して測定することと、S/Nを改善するためのアベレージングとの両方の意味を含む。ESRスペクトルを取得するためには、マイクロ波の周波数を変更しながら、蛍光の測定を繰返すことが必要である。例えば、ESRスペクトルを測定する場合には、マイクロ波の周波数の増減値をカウンタNcに応じて決定することができる。また、カウンタNcを、アベレージング回数のカウンタとして使用することもできる。なお、マイクロ波の周波数を変更して測定することと、アベレージングとの両方を実行する場合には、それぞれに対応させた2つのカウンタを使用すればよい。
測定が完了すると、ステップ306において、制御部112は、ステップ302で各磁場検出素子102に対応させて記憶したデータ(蛍光強度)から、各磁場検出素子102の位置での磁場ベクトルを算出する。NVセンサにより検出された信号から磁場ベクトルを算出する方法は、パルスシーケンスに応じて公知の方法を用いればよい。
例えば、非特許文献4の測定方法を採用する場合には、ステップ302において、各NVセンサにレーザー光を照射した後、各NVセンサにマイクロ波を照射し、その後、各NVセンサにレーザー光を照射しながらNV中心から放射される蛍光を測定する。この測定を、マイクロ波の周波数を走査して行なうことにより、ESRスペクトルを得る。このとき、NVセンサ中の特定方位のNV中心が使用されるように、レーザー光を絞り、NVセンサの局所部分にレーザー光を照射する。さらに、照射位置を走査して、各配位のNV中心に関してESRスペクトルを得る。ステップ306においては、制御部112は、ESRスペクトルからΔNVi(i=1~3)を求め、上記の式により、磁場ベクトルを算出する。
ステップ308において、制御部112は、部分放電を検出したか否かを判定する。例えば、ステップ306で得られた磁場の大きさが所定の値よりも大きければ、部分放電による磁場が検出されたとする。部分放電が検出されたと判定された場合、制御はステップ310に移行する。そうでなければ、制御部112はカウンタNcに初期値(上限値)をセットし、制御はステップ302に戻る。
ステップ310において、ステップ306で得られた磁場ベクトルから部分放電位置を特定する。NVセンサを使用する測定のメリットとして、測定時間が短い(ナノ秒のオーダ)ことがある。したがって、測定時間に対して放電時間は十分に長く、放電により形成される磁場は、測定時間中は静磁場と考えることができる。即ち、局所的に一定の電流が一定方向に流れると仮定することができ、ビオ・サバールの法則により各NVセンサ位置に形成される磁場の向きから、放電位置を特定することができる。
図8を参照して、電流ベクトルdIにより、位置ベクトルr1で示されている位置P1に形成される磁場ベクトルB1は、電流ベクトルdI及び位置ベクトルr1の外積(dI×r1)に比例する。即ち、磁場ベクトルB1の方向は、ベクトルdI及び位置ベクトルr1に直交する方向であり、磁場ベクトルB1に直交する平面(図8では符号400で表す)内に電流ベクトルdIが存在する。位置ベクトルr2で示されている位置P2における磁場ベクトルB2に関しても同様に、B2∝dI×r2である。したがって、異なる複数の点における磁場方向のそれぞれに直交する複数の平面の交線(図8では符号402で表す)として、電流ベクトルdIの方向及び位置を限定することができる。そして、異なる複数の点における磁場強度から、交線上の放電位置を特定することができる。電力機器200には8個の磁場検出素子102が配置されているので、8点で磁場ベクトルを得ることができる。したがって、例えば、8つの磁場ベクトルの中から、平行でも反平行でもない方向を有する磁場ベクトルを選択し、それらを用いて放電位置を算出することができる。
ステップ312において、制御部112は、ステップ310で特定された放電位置が適切であるか否かを判定する。例えば、制御部112は、ステップ310で特定された放電位置に局所的な電流が存在するとして、それにより形成される磁場を、部分放電位置の特定に使用しなかった磁場検出素子102の位置でシミュレーションし、実測された磁場とどの程度一致するかを評価する。違いが所定の範囲内であれば、制御部112は、放電位置が適切に特定されたと判定し、制御はステップ314に移行する。そうでなければ、制御部112は、特定された放電位置は正しくないと判定し、制御はステップ316に移行する。
ステップ314において、制御部112は、部分放電が検出されたこと、及び、ステップ310で特定された部分放電位置を提示する。提示方法は、例えば、出力装置(ディスプレイ、プリンタ等)により、テキスト又は画像として表示すればよい。
ステップ316において、制御部112は、部分放電を検出したが、放電位置を特定できなかった旨を提示する。提示方法は、ステップ314と同様に行なうことができる。
ステップ318において、制御部112は、本プログラムの実行を終了する指示を受けたか否かを判定する。終了の指示は、例えば検出装置100の電源をOFFすることにより成される。終了の指示を受けたと判定された場合、本プログラムは終了する。そうでなければ、制御部112はカウンタNcをリセットし、制御はステップ302に戻る。
以上により、検出装置100は、NVセンサを用いた磁場検出素子102による測定及び磁場の算出を繰返し、部分放電の発生を検出することができる。そして、検出装置100は、部分放電による磁場を検出すると、算出された磁場ベクトルを用いて部分放電の位置を特定し、その結果を提示することができる。上記特許文献3のように、微妙な時間差から距離を特定する方法よりも、精度よく部分放電の位置を特定することができ、検出装置を安価に構成できる。特定された部分放電の位置は、特定に使用しなかった測定磁場によりその正しさが検証されるので、部分放電の位置をより高い信頼度で特定することができる。
また、多くのNVセンサを用いて測定する場合には、測定データの一部を用いて部分放電の位置を特定することができるので、上記のシミュレーション結果により、部分放電位置の特定に使用する測定データを選別し、部分放電位置を再計算することができる。
上記では、8組の磁場検出素子102、マイクロ波照射部108及び受光素子110を全て電力機器200の外部に配置する場合を説明したが、これに限定されない。例えば、8組の磁場検出素子102、マイクロ波照射部108及び受光素子110を全て電力機器200の内部に配置してもよい。磁場検出素子102としてダイヤモンドのNV中心を使用することにより、電力機器内部で放電によりフッ素系ガスが発生しても、それによる腐食を受けない。また、一部の磁場検出素子102、マイクロ波照射部108及び受光素子110の組を、電力機器200の内部に配置しても、受光素子110のみを電力機器200の外部に配置してもよい。それ以外の配置であってもよい。受光素子110のみを電力機器200の外部に配置する場合には、磁場検出素子102から放射される蛍光がさえぎられないように、受光素子110から磁場検出素子102が見通せる位置に、受光素子110を配置すればよい。
また、3次元的に部分放電の位置を特定するには、少なくとも3組の磁場検出素子102、マイクロ波照射部108及び受光素子110を異なる位置に配置すればよい。
また、図6に示したESRスペクトルの2つの谷は、磁場が“0”のときのマイクロ波周波数を中心として対称な位置に現れるので、2つの谷の中心から一方に関してのみ周波数を走査して、1つの谷を検出してもよい。これにより測定時間を短縮することができる。特定のNV軸に関して、ΔNViの1/2の値が得られるので、得られた値を2倍してΔNViを求めることができる。3つの異なるNV軸に関して、この走査方法を適用すれば、部分放電の磁場ベクトルを求めることができる。
また、複数のNV中心を微小空間に分布させて配置し、各NV中心に予め異なる磁場を印加しておけば、マイクロ波の周波数を走査せずに、部分放電による磁場を測定することが可能である。例えば、NV軸の方向が揃った複数のNV中心を、微小長さの直線上に等間隔に配置し、NV中心が配置された領域全体に、時間的に変化しない静的な勾配磁場を予め形成しておく。勾配磁場は、NV軸の方向の磁場成分が、複数のNV中心を配置した直線上で、線形に変化するように形成する。勾配磁場は、磁化させた磁性体を配置して形成しても、コイルにより形成してもよい。コイル形状には、例えば、MRI(Magnetic Resonance Imaging)等で使用される勾配磁場を形成するコイルパターンを採用することができる。
このようにすれば、複数のNV中心に対して同時に特定周波数のマイクロ波を照射した場合、ms=0の状態からms=+1又はms=-1の状態に励起されるNV中心は限定されるので、励起されたその特定のNV中心(以下、基準NV中心という)からの蛍光強度は弱くなる。基準NV中心の位置に形成されている磁場の大きさ(NV軸方向の磁場強度)は、勾配磁場の傾きから特定することができる。
この測定を繰返し行なっている間に部分放電が発生すると、各NV中心の位置には、予め形成されている勾配磁場と部分放電による磁場とが合成された磁場が形成される(複数のNV中心を配置した領域は微小であるので、その領域に形成される、部分放電による磁場は一定ベクトルの磁場と考えられる)。このとき、蛍光強度が低下したNV中心は、基準NV中心とは異なる。即ち、予め線形に変化する勾配磁場が形成されているので、基準NV中心から、部分放電による磁場に相当する距離だけずれた位置に在るNV中心からの蛍光強度が低下する。よって、予め基準NV中心を特定しておけば、それと異なるNV中心からの蛍光強度が低下すると、部分放電が発生したことが分かり、その蛍光強度が低下したNV中心と基準NV中心との距離に対応する勾配磁場の差として、部分放電により発生した磁場のNV軸方向の成分を求めることができる。3つの異なるNV軸に関して、上記を適用すれば、マイクロ波周波数を走査することなく、部分放電の磁場ベクトルを求めることができ、測定時間をさらに短縮することができる。
なお、複数のNV中心を分布させて配置した微小空間に予め形成する勾配磁場は、線形に変化していなくてもよい。異なるNV中心に同じ強度の磁場が形成されないようにし、各NV中心の位置における磁場強度が特定されていればよい。例えば、NV中心の位置と、その位置での勾配磁場強度とを対応させたテーブルを記憶しておいてもよい。
(環境磁場の除去方法)
電力機器内部で部分放電が発生していない状態でも、電力機器が設置されている環境には、種々の原因による磁場が発生しており、電力機器の通常の作動状態で、電力機器自体が発生している磁場も存在する。即ち、部分放電の検出に影響する磁場として、地磁気による常磁場、放送電磁波による磁場、及び、電力機器への商用電力の供給による磁場等がある。したがって、部分放電が原因の磁場の検出においては、それらの磁場(以下、環境磁場という)を取り除くことが好ましい。
そのためには、環境磁場を測定するためのNVセンサを電力機器の近傍に設けて、環境磁場を測定し、磁場検出素子102を用いた測定で得られた磁場ベクトルに対して補正(環境磁場を減算)をかけ、磁場ベクトルを補正すればよい。環境磁場が静磁場(地磁気)であれば、予め環境磁場を測定しておき、磁場ベクトルの補正に使用すればよい。変動する磁場(放送電波等)であれば、磁場検出素子102を用いた測定と同じタイミングで環境磁場を測定して補正をかければよい。
環境磁場が、各磁場検出素子102を配置した位置で同じである場合には、1つのNVセンサで環境磁場を測定すればよい。環境磁場が同じとは、静的な場合に限らず、同じ周期で時間的に変動する場合等をも意味する。また、上記の8個の磁場検出素子102のうちの1つを環境磁場の測定用に用いてもよい。
各磁場検出素子102を配置した位置での環境磁場が異なる場合には、各磁場検出素子102の近傍に環境磁場測定用のNVセンサを設け、予め測定しておいた環境磁場を、対応する磁場検出素子102により得られた磁場に対して補正をかければよい。
また、環境磁場が一定である場合、又は、環境磁場の変化周期が比較的長い場合には、環境磁場測定用のNVセンサを設けなくてもよい。部分放電を測定するNVセンサで部分放電が検出された後、所定時間(例えば、部分放電の影響が消えるまでの時間)経過後に、同じNVセンサで磁場を測定し、それを環境磁場として用いてもよい。また、部分放電を測定するNVセンサにより、部分放電が検出されていない状態で測定された磁場(例えば、図7のステップ308でNOと判定された磁場)を記憶しておき、部分放電が検出されたときに、その直前に記憶された磁場を環境磁場としてもよい。
NVセンサで環境磁場を測定する代わりに、直交させて配置したアンテナを用いて、環境磁場を測定し、上記と同様に補正をかけてもよい。
電力機器への商用電力の供給による磁場をキャンセルするには、電流測定用CTを用いて、電力機器への電力供給ケーブルの電流変化を常時測定しておけば、部分放電が検出されたときの電流測定用CTによる測定電流値から得られる環境磁場で補正をかけることができる。電力機器に所定電流が供給されるときに発生する磁場分布を予め求めておけば、任意の電流値における環境磁場を得ることができる。
また、電子顕微鏡等で使用される公知の磁場キャンセラー(磁場キャンセル装置)を用いて、部分放電が発生していない状態において、電力機器内部又はNVセンタを含む領域の環境磁場をキャンセルしてもよい。コイルに電流を流すことにより、所定領域内の環境磁場をなくすアクティブ磁場キャンセラーが知られている。
また、環境磁場をキャンセルする機能を有するNVセンサを使用してもよい。キャンセル機能を有するNVセンサは、そのNV中心における環境磁場をキャンセルするための機構を備えている。例えば、NVセンサのNV中心の位置に、相互に直交する磁場成分を形成するコイル又はコイル群(例えば、直交配置され、同方向に通電される3対のヘルムホルツコイルで構成される)を配置する。通電する電流値を調整することより、任意の強度及び任意の方向の磁場を発生させることができ、環境磁場をキャンセルすることができる。なお、コイル又はコイル群は、直交する磁場を生成する必要はなく、異なる3方向(反平行の場合を除く)の磁場を生成できるコイルであればよい。異なる3方向の磁場の重ね合わせで、直交する3方向の磁場を形成できる。キャンセルコイルは、環境磁場を全てゼロにできなく、特定の磁場をキャンセルできるものであってもよい。例えば、静磁場のみ、特定の周波数の交流磁場のみ、又は所定の周波数範囲(例えば、所定周波数以下)の磁場をキャンセルできるものであってもよい。また、発生する交流のキャンセル磁場の周波数を変更できるものであってもよい。
なお、上記した環境磁場をキャンセルする方法は、単一で適用される場合に限らず、そのうちの幾つかが同時に適用されてもよい。即ち、1つのキャンセル方法だけで、十分に環境磁場をキャンセルできない場合には、残存する環境磁場に対して、別のキャンセル方法を適用してもよい。
(変形例1)
上記では、連続的に磁場を検出する場合を説明したが、部分放電は、電力機器に供給される商用電力(例えば、50Hz又は60Hzの交流)の電圧が高くなるときに発生する可能性が高いので、電圧が高くなるタイミングに合わせて、磁場を測定することが効率的である。例えば、外部から電力機器に供給される電圧をモニターし、ピーク付近になったときに、磁場測定(図7のステップ302)を実行することができる。また、電圧の周期は一定(1/60秒又は1/50秒)であるので、最初の磁場測定のタイミングのみを、外部から電力機器に供給される電圧をモニターして決定し、その後はタイマにより経過時間を監視し、1周期のn倍(nは正の整数)毎に、磁場測定を実行してもよい。
(変形例2)
図9に示すように、複数のNVセンサを平面上に配置すれば、電力機器に電力を供給するためのケーブル等において発生する部分放電を検出することができる。図9は、4つのNVセンサ502を配置した平板状の検出装置500を示している。検出装置500では、各NVセンサ502の近傍に、図2と同様に、マイクロ波照射部及び受光素子が配置されている。また、図9には図示していないが、図2と同様に、NVセンサにレーザー光を供給するレーザー光源、マイクロ波照射部にマイクロ波を供給するマイクロ波源、及び、それらを制御し、受光素子の出力信号を受信する制御部を備えている。そして、図7と同様の処理を実行することにより、ケーブル504内部での部分放電を検出し、部分放電の位置を特定することができる。
なお、NVセンサが配置された平面上において、部分放電位置に対応する位置を特定することができればよい場合には、少なくとも3つのNVセンサ(三角形の頂点位置に配置)を使用して磁場ベクトルを得ればよい。そして、2つの磁場ベクトルの、NVセンサが配置された平面内の成分(2次元ベクトル)のそれぞれに直交する2本の直線の交点として、部分放電位置に対応する平面上の位置を求めることができる。
この場合、NVセンサのNV軸が、NVセンサが配置された平面内に位置するようにNVセンサを配置すれば、磁場ベクトルのNV軸(Z軸)方向と極角(θ)とを求めて、NVセンサが配置された平面内における磁場ベクトル成分を求めることができる。したがって、測定方法(パルスシーケンス)は、NV軸(Z軸)方向と極角(θ)とを求めることができるものであればよい。
(変形例3)
図10に示すように、電力機器に使用されるボルト510の内部に、NVセンサを組込んでもよい。例えば、このボルト510は電力機器の絶縁部を固定するためのものであり、樹脂、セラミック等の非導電性材料で形成されている。ボルト510内部に形成された貫通孔に、NVセンサ512とマイクロ波照射部514とが配置されている。マイクロ波照射部514は、例えば、中空のコイルであり、レーザー光は、貫通孔のボルト頭部側の開口516を介してNVセンサ512に照射され、NVセンサ512から放射される蛍光は、開口516から放出される。レーザー光及び蛍光は、光ファイバを用いて伝送されてもよい。ボルト510を、電力機器の構成部材を固定するボルトの一部に使用すれば、上記と同様に、電力機器内部で発生した部分放電を検出し、放電位置を特定することができる。
(変形例4)
電力機器を構成する部材の一部に、NVセンサを組込んでもよい。例えば、図11に示すように、電力機器の壁面等に設けられたのぞき窓520にNVセンサ522を配置してもよい。図11において、のぞき窓520は、環状の枠部528に複数設けられた貫通孔526を介して、ボルト等により電力機器の壁面に取付けられる。NVセンサ522は電力機器内部に配置され、マイクロ波照射部524は電力機器外部に配置される。NVセンサ522へのレーザー光及びマイクロ波の照射、並びに、NVセンサ522から放射される蛍光の観測は、のぞき窓520を介して行なわれる。
(変形例5)
スペーサ又はフランジと一体にNVセンサを形成してもよい。図12に、NVセンサ532が配置された環状の絶縁スペーサ530を示す。図12では、絶縁スペーサ530の内壁(内径部分)にNVセンサ532が配置されている。絶縁スペーサ530は、複数設けられた貫通孔536を介して、ボルト等により電力機器を構成する別の部材に取付けられる。絶縁スペーサ530内部には、誘電体スラブ導波路543が埋め込まれている。誘電体スラブ導波路534は、コアをクラッドで挟んだ公知の構造をしており、マイク波を伝搬させることができる。コア及びクラッドの形状は、伝搬させるマイクロ波に応じて適宜設計されていればよい。絶縁スペーサ530の外部のマイクロ波源から出力されたマイクロ波は、誘電体スラブ導波路534により伝搬され(マイクロ波源から絶縁スペーサ530に至るマイクロ波の伝搬経路も誘電体スラブ導波路で構成されている場合を含む)、NVセンサ532に照射される。絶縁スペーサ530内部には、光ファイバ(図示せず)も配置されており、NVセンサ532へのレーザー光の照射、及び、NVセンサ532から放射される蛍光の観測は、光ファイバを介して行なわれる。
(変形例6)
電力機器に使用される碍子と一体にNVセンサを形成してもよい。図13を参照して、NVセンサ542は、碍子の内壁(内径部分)に配置されている。碍子540は、複数設けられた貫通孔546を介して、ボルト等により電力機器を構成する別の部材に取付けられる。マイクロ波照射部544は、NVセンサ542の近傍であって、碍子540の外周部に配置されている。碍子540の壁面のうち、NVセンサ542に対向する部分は、レーザー光をNVセンサ542に照射し、NVセンサ542から放射される蛍光を観測できるように、切り欠かれている。
(第2の実施の形態)
上記では、複数のNVセンサを使用して、部分放電の位置を精度よく特定する場合を説明したが、本発明に係る第2の実施の形態では、NVセンサを使用して、電圧電流の検出を効率よく且つ安全に行なう。
(検出装置の構成)
図14を参照して、本実施の形態に係る検出装置600は、NVセンサ602、マイクロ波生成部604、レーザー光生成部606、受光部608、分波フィルタ614、光学素子616、及び励起光反射フィルタ622を含む測定プローブ630と、本体装置634と、それらを相互に接続するケーブル632とを備える。
NVセンサ602は、上記したダイヤモンドのNVセンサである。マイクロ波生成部604は、NVセンサ602のNV中心のスピンを、ms=0のレベルからms=±1のレベルに遷移させるための磁気共鳴周波数のマイクロ波を生成して、NVセンサ602に照射する。マイクロ波生成部604は、例えば、導電部材で形成されたコイルを含む共振回路である。生成するマイクロ波の波長は約2.87GHzである。
レーザー光生成部606は、発光素子610及び光学素子612を備える。発光素子610は、本体装置634から電力の供給を受け、所定の波長のレーザー光を発生する。このレーザー光は、NVセンサ602のNV中心を基底状態から励起状態にするために使用される。即ち、発光素子610から出力されたレーザー光は、光学素子612により平行光になり、分波フィルタ614を通過した後、光学素子616により集光されて、NVセンサ602に照射される。発光素子610が生成するレーザー光は緑色であり、その波長は約490~560nmである。光学素子612は、1つ又は複数のレンズにより構成され得る。光学素子612は、発光素子610との距離及び形成する平行光の広がり等に応じて、設計されることが好ましい。
受光部608は、受光素子618及び光学素子620を備える。上記したように、NVセンサ602にマイクロ波及びレーザー光を照射すると、NVセンサ602は、基底状態から励起状態に遷移し、赤色の蛍光(波長約630~800nm)を放射して、基底状態に戻る。放射された蛍光は、光学素子616により平行光になり、分波フィルタ614により反射され、励起光反射フィルタ622を通過した後、光学素子620により集光されて、受光素子618により検出される。
分波フィルタ614は、特定の波長の光を通過させ、それと異なる波長の光を反射する光学素子であり、例えばダイクロイックミラーである。即ち、分波フィルタ614は、発光素子610から出力されるレーザー光を通過させ、NVセンサ602から放射される蛍光を反射するように形成されている。受光素子618は、フォトダイオード、CCD等の光電変換素子である。受光素子618が検出した蛍光強度に応じて受光素子618から出力される電気信号は、ケーブル632を介して、本体装置634に伝送される。なお、励起光反射フィルタ622は、発光素子610から出力されるレーザー光が受光部608に入射することを防止するためのものである。
本体装置634は、第1の実施の形態の制御部112と同様に、CPUと記憶部とを備えている。本体装置634は、マイクロ波生成部604及び発光素子610を、図4と同様のタイミングで制御し(電力を供給し)、それぞれマイクロ波及びレーザー光を生成させる。本体装置634は、入力される受光部608の出力信号を所定のタイミングで取込み(図4の期間T3)、記憶部に記憶する。これらの処理は、記憶部に予め記憶されたプログラムをCPUが読出して実行することにより実現される。
第1の実施の形態では、NVセンサで磁場ベクトルを測定することが必要であり、使用されるパルスシーケンスもそれに適したものが使用される。それに対して、本実施の形態では、NVセンサにより磁場強度が測定できればよいので、使用されるパルスシーケンスもそれに適したものであればよい。
図15に、図14の検出装置600を用いて、高圧送配電線の電圧位相及び電流位相を測定するための構成を示す。図15には、高圧送配電線640から負荷642に電力を供給する電力系統を示す。測定プローブ644及び測定プローブ646は、図14の測定プローブ630と同様に構成され、本体装置648及び本体装置650は、図14の本体装置634と同様に構成されている。
測定プローブ644は、高圧送配電線640に並列に接続されたコイルが形成された鉄心652の近傍に配置される。高圧送配電線640から負荷642に電力(交流電圧)が供給されると、鉄心652に形成されたコイルにより磁場が発生する。コイルにより発生する磁場は、鉄心652により増大され、その磁束は鉄心652内に集中するが、鉄心652の端部から漏れるので、測定プローブ644内のNVセンサの位置に形成された磁場の強度を、上記したように、測定プローブ644及び本体装置648により測定することができる。特定の位置において、鉄心652に形成されたコイルにより形成される磁場は、コイルに流れる電流(即ち、コイル両端の電圧)に比例するので、本体装置648により測定される磁場強度の変化は、コイル両端の電圧変化を表す。したがって、本体装置648により、測定プローブ644のNVセンサにレーザー光及びマイクロ波を照射し、NVセンサから出力される蛍光を測定する処理を、所定の時間間隔で繰返すことにより、高圧送配電線640の電圧変化(電圧位相)を測定することができる。
測定プローブ646は、高圧送配電線640に直列に接続されたコイルが形成された鉄心654の近傍に配置される。高圧送配電線640から負荷642に電力が供給されると、鉄心652に形成されたコイルにより磁場が発生する。したがって、上記と同様に、測定プローブ646内のNVセンサの位置に形成された磁場の強度を、測定プローブ646及び本体装置650により測定することができる。測定される磁場強度は、鉄心654に形成されたコイルに流れる電流に比例するので、本体装置650により、測定プローブ646のNVセンサにレーザー光及びマイクロ波を照射し、NVセンサから出力される蛍光を測定する処理を、所定の時間間隔で繰返すことにより、高圧送配電線640に流れる電流変化(電流位相)を測定することができる。
したがって、本体装置648により測定された電圧位相の変化と、本体装置650により測定された電流位相の変化を、従来と同様に評価することができる。くわえて、異常(部分放電を含む)の発生を検出することができる。
上記のように、測定プローブ644及び646により、それぞれ電圧の位相及び電流の位相を検出できることを示したが、測定プローブ644により電圧値を測定し、測定プローブ646により電流値を測定することも可能である。特定の位置において、鉄心652に形成されたコイルにより形成される磁場は、コイルに流れる電流(即ち、コイル両端の電圧)に比例するので、例えば、送配電線640に予め一定の電圧を加えたときの測定プローブ644により検出される磁場強度を測定しておけば、それを用いて、送配電線640に交流電圧を加えた場合の測定プローブ644により検出される磁場強度を、電圧値に換算することができる。同様にして、測定プローブ646により検出される磁場強度を、電流値に換算することができる。
図14に示した測定プローブ630は、構成要素として小型のデバイスを採用し、それらを基板上に配置することによりモジュール化してコンパクトに形成することができる。したがって、図15に示したように、小さいモジュールの測定プローブ644及び測定プローブ646のみを測定対象の近傍に配置し、本体装置648及び本体装置650を測定対象から離隔して配置することができ、従来よりも、効率的に電力系統の各部において、部分放電の検出を行なうことができる。検出装置の測定プローブ644及び測定プローブ646は、測定対象とは機械的に分離されており、測定対象に対して非接触で配置され得るので、検出装置のメンテナンスが容易である。また、電力系統の電力供給を停止することなく、安全に検出装置のメンテナンスを行なうことができる。
図16では、測定プローブ644及び測定プローブ646のそれぞれに対応させて本体装置648及び本体装置650を設ける場合を説明したが、これに限定されない。本体装置648及び本体装置650を1台の装置として構成してもよく、1台の本体装置で、3つ以上の測定プローブ630を制御可能にしてもよい。
図15では、棒状の鉄心の端部から漏れる磁束を、NVセンサにより測定する場合を説明したがこれに限定されない。例えば、図16に示すように、従来と同様の環状の鉄心を使用してもよい。図16では、環状の鉄心654の一部にギャップ658を形成し、ギャップ658に測定プローブ644を配置している。鉄心656に形成されたコイルにより発生する磁束は鉄心656内に集中するが、ギャップ658において、鉄心656の端部から磁束は空気中に漏れる。したがって、測定プローブ644により、鉄心656に形成されたコイルにより発生する磁場強度を測定することができる。
環状の鉄心を使用する場合、図16のように完全にギャップを形成しなくてもよい。環状の鉄心から磁束が漏れるようになっていればよく、環状の鉄心の一部を切り欠き、そこから漏れる磁束を、NVセンサにより測定してもよい。
鉄心は、コイルにより発生する磁場強度を増大させるためのものであり、使用する検出装置600の検出感度がよければ、鉄心は無くてもよい。鉄心が無い場合、測定プローブ630は、送配電線に並列又は直列に接続されたコイルの端部又はコイルの内部に配置され得る。
上記では、高圧送配電線の電圧及び電流位相を測定すること、及び、異常(部分放電を含む)を検出することを説明したが、これに限定されない。検出装置600は、電力機器において発生する部分放電の検出にも使用され得る。その場合、例えば電力機器の高電圧が発生する部分に、NVセンサを配置すればよい。
(第3の実施の形態)
上記の変形例4~6では、マイクロ波源をNVセンサから少し離隔して配置する場合を説明した。例えば、図11に示した変形例4では、マイクロ波照射部524から出力されるマイクロ波は、のぞき窓520を介してNVセンサ522に照射される。本発明に係る第3の実施の形態では、マイクロ波源をNVセンサからさらに離隔して配置する。これにより、第2の実施の形態よりも効率よく且つ安全に電圧、電流及び部分放電の検出を行なう。
(検出装置の構成)
図17を参照して、本実施の形態に係る検出装置700は、NVセンサ702と、マイクロ波生成部704、レーザー光生成部706、受光部708及び制御部710を含む本体装置714とを備える。NVセンサ702の近傍には、光学素子712が配置されている。
NVセンサ702は、上記したダイヤモンドのNVセンサである。マイクロ波生成部704は、制御部710から電力の供給を受け、NVセンサ702のNV中心のスピンを、ms=0のレベルからms=±1のレベルに遷移させるための磁気共鳴周波数のマイクロ波を生成し、NVセンサ702に照射する。マイクロ波生成部704は、例えば、導電部材で形成されたコイルを含む共振回路である。生成するマイクロ波の波長は、第1の実施の形態と同様であり、約2.87GHzである。ここでは、第2の実施の形態とは異なり、マイクロ波生成部704はNVセンサ702から離隔して(例えば、数m~十数m)配置されており、生成されたマイクロ波をNVセンサ702の方向に放射するために、指向性アンテナ(例えば、ホーンアンテナ、パラボラアンテナ等)を含む。
レーザー光生成部706は、発光素子及び光学素子(レンズ等)を含む。レーザー光生成部706は、制御部710から電力の供給を受け、発光素子により所定の波長のレーザー光を生成する。生成されたレーザー光は、光学素子により平行光として出力され、NVセンサ702に照射される。このレーザー光は、NVセンサ702のNV中心を基底状態から励起状態にするために使用される。レーザー光は緑色であり、その波長は、約490~560nmである。レーザー光生成部706には、例えば、公知のレーザーポインタを使用することができる。
上記したように、NVセンサ702にレーザー光及びマイクロ波を照射すると、NVセンサ702は、基底状態から励起状態に遷移し、赤色の蛍光(波長約630~800nm)を放射して、基底状態に戻る。放射された蛍光は、718により平行光になり、受光部708に入射される。
受光部708は、受光素子及び光学素子(レンズ等)を含む。受光部708に入射された蛍光は、光学素子により集光されて受光素子に入射される。受光素子は、フォトダイオード、CCD等の光電変換素子である。受光素子は、検出した蛍光強度に応じた電気信号を出力し、その信号は制御部710に伝送される。
制御部710は、第1の実施の形態の制御部112と同様に、CPUと記憶部とを備えている。制御部710は、マイクロ波生成部704及びレーザー光生成部706を、図4と同様のタイミングで制御し(電力を供給し)、それぞれマイクロ波及びレーザー光を生成させる。制御部710は、入力される受光部708の出力信号を所定のタイミングで取込み(図4の期間T3)、記憶部に記憶する。これらの処理は、記憶部に予め記憶されたプログラムをCPUが読出して実行することにより実現される。
第1の実施の形態では、NVセンサで磁場ベクトルを測定することが必要であり、使用されるパルスシーケンスもそれに適したものが使用される。それに対して、本実施の形態では、NVセンサにより磁場強度が測定できればよいので、使用されるパルスシーケンスもそれに適したものであればよい。
図18に、図17の検出装置700を用いて、高圧送配電線の電圧位相及び電流位相を測定するための構成を示す。図18には、高圧送配電線740から負荷742に電力を供給する電力系統を示す。NVセンサ748及びNVセンサ750はそれぞれ、図17のNVセンサ702に対応し、本体装置752及び本体装置754はそれぞれ、図17の本体装置714に対応する。NVセンサ748と本体装置752との距離、及びNVセンサ750と本体装置754との間は距離Lだけ離隔されている。Lは、例えば数m~十数mである。
フェライトコア744は、ギャップを備え、高圧送配電線740に並列に接続されたコイルが形成されている。NVセンサ748は、フェライトコア744のギャップ内、又はその近傍に配置される。高圧送配電線740から負荷742に電力(交流電圧)が供給されると、フェライトコア744に形成されたコイルにより磁場が発生する。コイルにより発生する磁場は、フェライトコア744により増大され、その磁束はフェライトコア744内に集中するが、フェライトコア744の端部(ギャップ)から漏れるので、NVセンサ748の位置に形成された磁場の強度を、上記したように、NVセンサ748及び本体装置752により測定することができる。特定の位置において、フェライトコア744に形成されたコイルにより形成される磁場は、コイルに流れる電流(即ち、コイル両端の電圧)に比例するので、本体装置752により測定される磁場強度の変化は、コイル両端の電圧変化を表す。したがって、本体装置752により、NVセンサ748にレーザー光及びマイクロ波を照射し、NVセンサ748から出力される蛍光を測定する処理を、所定の時間間隔で繰返すことにより、高圧送配電線740の電圧変化(電圧位相)を測定することができる。
フェライトコア746は、フェライトコア744と同様にギャップを備え、高圧送配電線740に直列に接続されたコイルが形成されている。NVセンサ750は、フェライトコア746のギャップ内、又はその近傍に配置される。高圧送配電線740から負荷742に電力が供給されると、フェライトコア746に形成されたコイルにより磁場が発生する。したがって、上記と同様に、NVセンサ750の位置に形成された磁場の強度を、NVセンサ750及び本体装置754により測定することができる。測定される磁場強度は、フェライトコア746に形成されたコイルに流れる電流に比例するので、本体装置754により、NVセンサ750にレーザー光及びマイクロ波を照射し、NVセンサから出力される蛍光を測定する処理を、所定の時間間隔で繰返すことにより、高圧送配電線740に流れる電流変化(電流位相)を測定することができる。
さらには、本体装置752により測定された電圧位相の変化と、本体装置754により測定された電流位相の変化を、従来と同様に評価することにより、異常(部分放電を含む)の発生を検出することができる。
測定対象である高圧送配電線740の近くには、NVセンサのみを配置し、それ以外の要素は、測定対象から離隔して配置することができるので、従来よりも、効率的に電力系統の各部において、異常(部分放電を含む)の検出を行なうことができる。検出装置のNVセンサ748及びNVセンサ750は、測定対象とは機械的に分離されており、測定対象に対して非接触で配置され得るので、検出装置のメンテナンスが容易である。また、電力系統の電力供給を停止することなく、安全に検出装置のメンテナンスを行なうことができる。
上記では、レーザー光生成部706から出力されるレーザー光、及び、NVセンサ702から出力される蛍光を共に、平行光として空中を伝搬させる場合を説明したが、これに限定されない。例えば、レーザー光生成部706から出力されるレーザー光を、光ファイバによりNVセンサ702まで伝送してもよい。また、NVセンサ702から出力される蛍光を、光ファイバにより受光部708まで伝送してもよい。
(第4の実施の形態)
第4の実施の形態では、1対のNVセンサを使用して量子テレポーテーションにより、第3の実施の形態よりも効率よく且つ安全に電圧、電流及び部分放電の検出を行なう。
(検出装置の構成)
図19を参照して、本実施の形態に係る検出装置800は、第1NVセンサ802と、第2NVセンサ804、第1レーザー光生成部806、第2レーザー光生成部808、マイクロ波生成部810、受光部812及び制御部814を含む本体装置816とを備える。
第1NVセンサ802及び第2NVセンサ804は、上記したダイヤモンドのNVセンサである。第1NVセンサ802は測定対象の近傍に配置され、第2NVセンサ804は第1NVセンサ802から離隔して配置される。
第1レーザー光生成部806は、発光素子及び光学素子(レンズ等)を含む。第1レーザー光生成部806は、制御部814から電力の供給を受け、発光素子により所定の波長のレーザー光を生成する。生成されたレーザー光は、光学素子により平行光として出力され、第1NVセンサ802に照射される。このレーザー光は、第1NVセンサ802のNV中心を基底状態から励起状態にするために使用される。レーザー光は緑色であり、その波長は約490~560nmである。第1レーザー光生成部806には、例えば、公知のレーザーポインタを使用することができる。
第1NVセンサ802は、レーザー光が照射されると、基底状態から励起状態に遷移し、赤色の蛍光(波長約630~800nm)を放射して、基底状態に戻る。第1NVセンサ802から放射される蛍光は、第2NVセンサ804の近傍まで伝送され、第2NVセンサ804に入射される。第1NVセンサ802から放射される蛍光を第2NVセンサ804の近傍まで伝送するには、例えば、第1NVセンサ802の近傍に光学素子を配置し、第1NVセンサ802から放射される蛍光を、第2NVセンサ804方向に平行光として出力する。第1NVセンサ802から放射される蛍光を、光ファイバにより第2NVセンサ804まで伝送してもよい。
第2レーザー光生成部808は、発光素子を含む。第2レーザー光生成部808は、制御部814から電力の供給を受け、発光素子により所定の波長のレーザー光を生成する。生成されたレーザー光は第2NVセンサ804に照射される。このレーザー光は、第2NVセンサ804のNV中心を基底状態から励起状態にするために使用される。レーザー光は緑色であり、その波長は約490~560nmである。
マイクロ波生成部810は、制御部814から電力の供給を受け、第2NVセンサ804のNV中心のスピンを、ms=0のレベルからms=±1のレベルに遷移させるための磁気共鳴周波数のマイクロ波を生成し、第2NVセンサ804に照射する。マイクロ波生成部810は、例えば、導電部材で形成されたコイルを含む共振回路である。生成するマイクロ波の波長は約2.87GHzである。マイクロ波生成部810は、第2NVセンサ804の近傍に配置されている。
第2NVセンサ804は、レーザー光及びマイクロ波が照射されると、基底状態から励起状態に遷移し、赤色の蛍光(波長約630~800nm)を放射して、基底状態に戻る。受光部812は、受光素子を含み、第2NVセンサ804から放射される蛍光を受光素子により検出する。受光素子は、フォトダイオード、CCD等の光電変換素子であり、蛍光強度に応じた電気信号を制御部814に出力する。
制御部814は、第1の実施の形態の制御部112と同様に、CPUと記憶部とを備えている。制御部814は、第1レーザー光生成部806に電力を供給し、第1レーザー光生成部806にレーザー光を生成させる。上記のように、生成されたレーザー光は第1NVセンサ802に照射され、これにより、第1NVセンサ802から蛍光が放射され、放射された蛍光は第2NVセンサ804に入射される。
また、制御部814は、第2レーザー光生成部808及びマイクロ波生成部810に電力を供給し、それぞれレーザー光及びマイクロ波を生成させる。上記のように、生成されたレーザー光及びマイクロ波は、第2NVセンサ804に照射され、第2NVセンサ804から蛍光が出力される。制御部814は、蛍光が受光部812に入力されることにより受光部812から出力される信号を所定のタイミングで取込み、記憶部に記憶する。これらの処理は、記憶部に予め記憶されたプログラムをCPUが読出して実行することにより実現される。
第1レーザー光生成部806からの第1NVセンサ802へのレーザー光の照射、第2レーザー光生成部808から第2NVセンサ804へのレーザー光の照射、マイクロ波生成部810から第2NVセンサ804へのマイクロ波の照射、及び、受光部812の出力信号の取込は、第1NVセンサ802及び第2NVセンサ804に量子もつれ状態が形成され、量子テレポーテーションにより、第1NVセンサ802のNV中心の量子情報が第2NVセンサ804のNV中心に移されるように行なわれる。これにより、本体装置816内に配置した第2NVセンサ804について測定することにより、第1NVセンサ802の位置における磁場を求めることができる。例えば、非特許文献7~12に開示されている、離隔して配置された2つのNV中心間の量子もつれ状態の形成、及び、量子状態の転写(即ち、量子テレポーテーション)を実現する方法を用いることができる。非特許文献10及び11には、NVセンタの電子スピンは、放射される光子と量子もつれ状態になることが開示されている。非特許文献8及び9には、2つの離隔したNV中心間で量子もつれ状態及び量子トランスポーテーションを実現する方法が開示されている。非特許文献7には、光子を介して量子状態を転写する方法が開示されている。
非特許文献12には、光子を用いて量子もつれを生成する方法として、発光方式、吸収方式、発光及び吸収方式、並びに、散乱方式の4種類の方法が開示されている。例えば、発光及び吸収方式を使用する場合、初期化後、測定対象の近傍に配置した第1NVセンサ802にレーザー光を照射して蛍光を放射させ、その蛍光を伝送して第2NVセンサ804に吸収させることで、量子もつれを生成することができる。第2NVセンタ804に関する測定は、NVセンタ(NV-)のスピン(電子によるスピン)と核(窒素又は炭素)のスピンとの間に量子もつれを生成していない場合には、マイクロ波を照射して上記したように測定を行なう。NVセンタのスピンと核スピンとの間に量子もつれを生成している場合には、ラジオ波(核磁気共鳴の周波数帯域)を照射して核磁気共鳴により測定を行なえばよい。
また、吸収方式を使用する場合には、第1NVセンサ802及び第2NVセンサ804に照射するレーザー光を量子もつれ状態にする。例えば、図19において、第2NVセンサ804に照射するレーザー光には、第2レーザー光生成部808の出力光に代えて、第1レーザー光生成部806から出力されるレーザー光をビームスプリッタにより分離して得られるレーザー光を使用する。量子もつれ状態にあるレーザー光を吸収することにより、第1NVセンサ802及び第2NVセンサ804の間に量子もつれが生成される。
図20に、図19の検出装置800を用いて、高圧送配電線の電圧位相及び電流位相を測定するための構成を示す。図20には、高圧送配電線840から負荷842に電力を供給する電力系統を示す。第1NVセンサ848及び第1NVセンサ850はそれぞれ、図19の第1NVセンサ802に対応し、本体装置852及び本体装置854はそれぞれ、図19の本体装置816に対応する。第1NVセンサ848と本体装置852との距離、及び第1NVセンサ850と本体装置854との間は距離Lだけ離隔されている。Lは、例えば数m~十数mである。
フェライトコア844は、ギャップを備え、高圧送配電線840に並列に接続されたコイルが形成されている。第1NVセンサ848は、フェライトコア844のギャップ内、又はその近傍に配置される。高圧送配電線840から負荷842に電力(交流電圧)が供給されると、フェライトコア844に形成されたコイルにより磁場が発生する。コイルにより発生する磁場は、フェライトコア844により増大され、その磁束はフェライトコア844内に集中するが、フェライトコア844の端部(ギャップ)から漏れるので、第1NVセンサ848の位置に形成された磁場の強度を、上記したように、第1NVセンサ848及び本体装置852により測定することができる。特定の位置において、フェライトコア844に形成されたコイルにより形成される磁場は、コイルに流れる電流(即ち、コイル両端の電圧)に比例するので、本体装置852により測定される磁場強度の変化は、コイル両端の電圧変化を表す。したがって、本体装置852により、第1NVセンサ848にレーザー光を照射し、本体装置852内部のNVセンサから出力される蛍光を測定する処理を、所定の時間間隔で繰返すことにより、高圧送配電線840の電圧変化(電圧位相)を測定することができる。
フェライトコア846は、フェライトコア844と同様にギャップを備え、高圧送配電線840に直列に接続されたコイルが形成されている。第1NVセンサ850は、フェライトコア846のギャップ内、又はその近傍に配置される。高圧送配電線840から負荷842に電力が供給されると、フェライトコア846に形成されたコイルにより磁場が発生する。したがって、上記と同様に、第1NVセンサ850の位置に形成された磁場の強度を、第1NVセンサ850及び本体装置854により測定することができる。測定される磁場強度は、フェライトコア846に形成されたコイルに流れる電流に比例するので、本体装置854により、第1NVセンサ850にレーザー光を照射し、本体装置854内部のNVセンサから出力される蛍光を測定する処理を、所定の時間間隔で繰返すことにより、高圧送配電線840に流れる電流変化(電流位相)を測定することができる。
さらには、本体装置852により測定された電圧位相の変化と、本体装置854により測定された電流位相の変化を、従来と同様に評価することにより、部分放電の発生を検出することができる。
測定対象である高圧送配電線840の近くには、1対のNVセンサの一方のみを配置し、それ以外の要素は、測定対象から離隔して配置することができるので、従来よりも、効率的に電力系統の各部において、部分放電の検出を行なうことができる。検出装置の第1NVセンサ848及び850は、測定対象とは機械的に分離されており、測定対象に対して非接触で配置され得るので、検出装置のメンテナンスが容易である。また、電力系統の電力供給を停止することなく、安全に検出装置のメンテナンスを行なうことができる。
上記では、第1レーザー光生成部806から出力されるレーザー光を、平行光として空中を伝搬させる場合を説明したが、これに限定されない。例えば、図21に示すように、第1レーザー光生成部806から出力されるレーザー光を、光ファイバ820により第1NVセンサ802まで伝送してもよい。
上記の量子テレポーテーションを使用する構成を、第1の実施の形態に適用することができる。例えば、図3では、電力機器200における楕円形の破線で示した位置に、磁場検出素子102、マイクロ波照射部108及び受光素子110が1組として配置されているとしたが、量子テレポーテーションを使用する構成では、楕円形の破線で示した位置には、NVセンサのみを配置する。そして、電力機器に配置した複数のNVセンサのそれぞれに1対1に対応させたNVセンサを、電力機器から離隔して配置した本体装置に備える。
本体装置側の構成は、例えば、電力機器に配置した複数のNVセンサのそれぞれに1対1に対応させて、図19に示した本体装置816を設ける。この場合、電力機器に配置した複数のNVセンサの位置での磁場を、量子テレポーテーションを行なうことにより、それぞれ独立に測定することができる。なお、部分放電の位置を特定するためには、測定の同時性、即ちほぼ同時に測定された値が必要であり、複数の本体装置の制御を同期させることが好ましい。
また、本体装置側に設けた複数のNVセンサを、1つにまとめて、例えばアレイ状に配置してもよい。アレイを構成するNVセンサに対して順次、レーザー光及びマイクロ波の照射と蛍光の測定とを行なう形態、即ち、アレイを順次走査する形態で測定を行なうことができる。
また、ダイヤモンド結晶に複数のNV中心を形成して複数のNVセンサを形成し、これを本体装置に配置してもよい。電力機器に配置されたNVセンサを、ダイヤモンド結晶に形成されたNVセンサと1対1に対応させ、上記と同様に、ダイヤモンド結晶に形成されたNVセンサを順次走査する形態で測定を行なうことができる。
上記では、フェライトコア746(図18)及びフェライトコア846(図20)に高圧送配電線を巻回する場合を説明したが、これに限定されない。高圧送配電線に大電流が流れる場合、図22に示すように、高圧送配電線824を直線状としたまま、その周りにフェライトコア822を配置してもよい。高圧送配電線824を流れる電流により、高圧送配電線824の周りに高圧送配電線824を軸として同心円状に形成される磁場は、フェライトコア822に集束され、ギャップから漏れる。したがって、フェライトコア822のギャップ又はその近傍にNVセンサを配置して、高圧送配電線824を流れる電流により形成される磁場を測定することができ、高圧送配電線824を流れる電流変化を磁場変化として測定することができる。
上記では、コイルが形成されたフェライトコアにギャップを形成し、その近傍にNVセンサを配置する場合を説明したが、これに限定されない。フェライトコアに完全なギャップを形成しなくてもよい。環状のフェライトコアから、コイルにより形成された磁束が漏れるようになっていればよく、環状のフェライトコアの一部を切り欠き、そこから漏れる磁束を、NVセンサにより測定してもよい。また、2つのフェライトコアで、NVセンサを挟む構成であってもよい。
第3及び第4の実施の形態では、フェライトコアを使用する場合を説明したがこれに限定されず、磁性材料を含む部材であればよい。例えば、フェライトコアの代わりに、鉄心(強磁性材料)を使用してもよい。フェライトコア又は鉄心は、コイルにより発生する磁場強度を増大させるためのものであり、使用する検出装置700又は800の検出感度がよければ、フェライトコア又は鉄心は無くてもよい。フェライトコアが無い場合、NVセンサ702又は802は、送配電線に並列又は直列に接続されたコイルの端部又はコイルの内部に配置され得る。
また、第3及び第4の実施の形態では、高圧送配電線の電圧位相及び電流位相を測定することにより、電圧、電流及び部分放電を検出する場合を説明したが、これに限定されない。検出装置700又は800は、電力機器において発生する部分放電の検出にも使用され得る。その場合、例えば電力機器の高電圧が発生する部分に、NVセンサを配置すればよい。
上記では、2本の高圧送配電線により2相の交流電力を供給する場合を説明したが、これに限定されない。3本の高圧送配電線を用いて3相の交流電力を供給する場合にも、3本の高圧送配電線の内の任意の2本に関して、上記と同様にして、電圧位相及び電流位相を測定することができ、部分放電を検出することができる。
上記では、磁場検出素子が、ダイヤモンドのNV中心を用いたNVセンサである場合を説明したが、これに限定されない。ダイヤモンド結晶中の炭素(C)原子が置換され得る原子は窒素(N)に限定されず、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)等の原子も置換原子となり得る。そして、置換された原子と、その隣に空孔(V)が存在する構造も知られており、それらはNVセンタと同様に発光する。したがって、上記した磁場検出素子は、SiVセンタ、GeVセンタ、SnVセンタ等の置換原子空孔センタを用いたセンサであってもよい。なお、使用する置換原子空孔センタに応じて、励起光(レーザ光)及びマイクロ波の波長を適切に設定すればよく、励起状態からの遷移による発光の波長は、NVセンタの場合とは異なる。
<実施例>
以下に、実験結果を示す。
(センサ用サンプル準備)
まずは、次のような単結晶ダイヤモンドのサンプルA~Dを準備した。
(1)サンプルA
ダイヤモンド中に含有している置換型窒素が0.1ppm以下の単結晶ダイヤモンドを高温高圧法で作製し、サンプルAとした。作製において、溶媒中に窒素ゲッターの役割の金属を添加することで、窒素の少ないサンプルを得た。
(2)サンプルB
ダイヤモンド中に含有している置換型窒素が60ppmに制御した単結晶ダイヤモンドを高温高圧法で作製し、サンプルBとした。作製において、溶媒中に自然に混入する窒素を排除し、溶媒中に窒化物(FeNなど)を添加する方法で窒素濃度を制御することで、不純物均一性が±25%以内の均一なサンプルを得た。
(3)サンプルC
(1)の単結晶ダイヤモンドのサンプルAを種基板として、CVD法によってエピタキシャル成長によって、含有窒素が20ppb以下で置換型窒素が1ppb以下のCVD単結晶ダイヤモンドを作製し、サンプルCとした。作製において、窒素不純物及びその他の不純物を低減する方法としては、高純度の種基板を使用する他に、酸素原子を適量添加する、ホルダの周り+30mmの範囲内には高純度のダイヤモンド板材を敷き詰めるなどの不純物低減の工夫をした。
(4)サンプルD1及びD2
上記のサンプルA、B及びCは、同位体炭素が天然存在比で含まれるダイヤモンドであるが、13Cの存在比が5%であり、置換型窒素が50ppm及び100ppmの単結晶ダイヤモンドを高温高圧法で作製し、それぞれサンプルD1及びD2とした。不純物均一性は±25%以内の均一なサンプルであった。
単結晶ダイヤモンドのサンプルA、B、C、D1及びD2は、その含有窒素濃度をSIMS分析によって評価した結果、置換型窒素濃度はほぼ含有窒素に一致した。単結晶ダイヤモンドのサンプルCの置換型窒素濃度は、NVの発光センタの密度、NV0の発光センタの密度の合計で代用した。窒素濃度が少なく、空孔を十分導入したので、桁で違うことはないと推定できる。サンプルA、B及びCのいずれもが測定部分の濃度である。空孔(V)は電子線照射(照射条件は、エネルギー4MeV、放射線量20MGy)によって導入し、その後のアニール(1600℃で3時間)によって置換型窒素と結合した。NVセンタが形成できていることは、フォトルミネッセンスによって確認した。サンプルA及びCに関しては、NVセンタを単体で観測できた。サンプルB、D1及びD2に関しては、数えられないくらいの複数のNVセンタの集まりが観測できた。
図23に示す構成の実験装置を作製し、ダイヤモンドのサンプルA及びCのそれぞれを用いて実験を行なった。測定系として、励起光となる緑色レーザー光(波長520nm)を出力するGaN系の半導体レーザー(レーザー光源412)とマイクロ波発生器と半導体受光素子414とを準備した。レーザー光及び観測する蛍光は、光学レンズ系416(顕微鏡レンズ418、三角プリズム420及び反射鏡422を含む)を用いて伝送した。マイクロ波発生器は周波数2.87GHz付近が掃引できるようになっており、ソレノイドコイル状のアンテナ(マイクロ波コイル424)を試作し、サンプル(ダイヤモンド410)から約5mm離して設置し、マイクロ波を照射できるようにした。
サンプルA及びCのそれぞれに関して、レンズで各サンプルの表面像を拡大して単一の蛍光の点を探した。サンプル(ダイヤモンド410)に一番近いものは、対物レンズであり、その距離は約1mmであった。
次に模擬磁場波形を発生する装置を準備した。0.8mmφの銅線X426を用意し、交流電流源432で銅線X426に流す交流電流を制御した。交流は60Hzとし、電流値は適宜設定した。また、銅線X426に近接させて銅線X426に平行に0.1mmφの銅線Y428を配置し、パルス電源434によりパルス電流を流せるようにした。パルス電流はパルス間隔60Hz、パルス幅1msecとした。銅線X426及び銅線Y428は、センシングするダイヤモンドのサンプルA及びCのそれぞれから最近接で0.5cmのところに配置した。交流電流源432及びパルス電源434は、検知対象として模擬的なシグナルを発生するための模擬回路を構成する。
予備測定として、以下のような実験を行なった。銅線X426に一定の直流電流を流した状態で、ダイヤモンドのサンプルA、Cに、マイクロ波を照射しつつ、波長520nmの半導体レーザー光を照射すると、波長約638nmの赤い蛍光が検出された。マイクロ波の周波数を2.87GHzの付近で掃引すると蛍光は、異なる周波数で2つの極小値(谷)を示した(図6参照)。銅線X426の電流値を変化させると、二つの極小値の周波数間隔が変化した。周波数間隔は、銅線X426に流れる電流値にほぼ比例した。2つの極小値は対称的に変化したので、一方の極小値の周波数の時間変化パターンを知ることで、全体の変化(磁場の時間変化パターン)に換算できることが確認できた。
次に、本測定を行なった。銅線X426に60Hzの交流電流(最大電流1.2A)を流した。銅線Y428の電流はゼロである。なお、地磁気の影響のない箱の中で実験を行なった。ダイヤモンドを上記の半導体レーザーで励起し且つマイクロ波を照射し、波長約638nmの赤い蛍光強度を測定しつつ、マイクロ波の周波数を掃引した。マイクロ波周波数の掃引を短時間(掃引周期1msec以下)で行なって、得られた蛍光強度の波形から極小値を検出し、それに対応する周波数をストレージできるようにした。これにより、極小値に対応する周波数の時間変化パターンを得た。これは磁場の時間変化パターンに変換することができた。即ち、この部分は極小値に対応したマイクロ波周波数の時間変化データを取得でき、それを磁場時間変化パターンに変換する装置によって行なった。
磁場を形成する銅線X426に流した交流電流の波形を図24に示す。得られた蛍光強度のプロフィールを図25に示す。図25では、図24のt1~t5を付したタイミングで測定されたプロフィールを、対応する符号を付して縦方向に並べて示している。各プロフィールの縦方向が蛍光強度の軸であるが、蛍光強度の軸は共通ではなく、各プロフィールにおけるフラット部分がほぼ同じ蛍光強度になっている。図25ではプロフィールを実線で示しているが、実際には1msecの間隔でのデータの集まりである。この時間変化パターンにおいて、極小値の間隔Δf1~Δf5は60Hzの交流電流と同じ周期と位相で変化したので、磁場強度の変化の周期及び位相を情報として得ることができた。
また、銅線X426に上記の交流電流を流しつつ、銅線Y428に上記したパルス電流(最大電流値が10msec)を流した。銅線X426に流した交流電流と銅線Y428に流したパルス電流の合成波形を模式的に図26に示す。一点鎖線で囲んだ部分が、銅線Y428に流したパルス電流によるものである。その他は上記と同じ条件で測定を行なった。得られた蛍光強度のプロフィールを図27に示す。図27では、図25と同様に、図26のt1~t5を付したタイミングで測定されたプロフィールを、対応する符号を付して縦方向に並べて示している。図27ではプロフィールを実線で示しているが、実際には1msecの間隔でのデータの集まりである。即ち、上記と同様に時間変化パターンが得られ、交流電流の磁場パターン及びパルス電流の磁場パターンの測定結果を得ることができた。
図25と図27とを比較すると、t1及びt3~t5のプロフィールの極小値の間隔(Δf1及びΔf3~Δf5)は、それぞれ図25と図27とで同じ大きさであるが、t2のプロフィールの極小値の間隔Δf2は、図27のものが図25よりも大きくなっている。これは、t2のタイミングでパルス電流が流れたためである(図26参照)。したがって、極小値の間隔の変化から、交流磁場中に発生したパルス磁場を検出することができる。このように、マイクロ波周波数の掃引周期を1msecと小さく設定できたことで、大きな交流磁場が存在する環境においても小さなパルス磁場を検出でき、時間変化パターンの解析により、パルス電流は交流電流からの差を取ることで容易に確認できた。時間変化パターンの解析は、銅線X426からの大信号(交流信号)を差し引く単純な差で結果が出るが、時間変化パターンの周波数解析を行ない、銅線X426からの大信号の周波数をカットすることでも得られた。即ち、データ処理にハイパスフィルタを組込む回路構成としてもよい。ここでは、70Hzより低い周波数をカットし(銅線X426に流した交流電流の周波数である60Hzを取り除くため)、それ以上の周波数(1kHz)を残すことで成功した。
従来のダイヤモンド磁気センサでは、感度が高いことを(非常に小さい磁場を検知することを)主眼としているため、ベース磁界が少しある時点で計測する前にオーバーレンジとなってしまい、時間変化パターンを検知して、磁場の原因となる電流波形を知ることができなかった。本発明の一態様では周波数の掃引速度を上げて、時間変化パターンとしてデータを解釈するために、測定可能な磁場のレンジが格段に大きくなり、しかもその中で微小な磁場の変化をも確認することができるようになった。
本方法により、周波数成分がより高いパルス電流を検出する場合には、周波数の掃引をより高速に、細かく行なう必要があるが、掃引する周波数の幅が大きくなる場合には、一つの極小値の谷のみを追いかけ、時間によって予測される極小値の周波数付近を掃引することが効率的であることもわかった。
図28に示す構成の実験装置を作製し、ダイヤモンドのサンプルB、D1及びD2のそれぞれを用いて実験を行なった。励起光の半導体レーザー(520nm)(レーザー光源412)とマイクロ波発生器と半導体受光素子414は実施例1と同じものを用意した。マイクロ波の照射は、実施例1と同様にソレノイドコイル状のアンテナ(マイクロ波コイル424)を試作し、実施例1とは異なり、マイクロ波コイル424をサンプル(ダイヤモンド410)から約1cm離して設置した。
サンプルB、D1及びD2のそれぞれに関して、レンズなどの光学系を通さずに、半導体レーザー光をサンプル中央部に照射し、倍率50倍の望遠顕微鏡(長焦点レンズ436)を用いて、サンプル中央部から放射される赤い蛍光を受光素子で検出した。受光素子にレーザー光が入射することを防止するために、緑の光をカットするフィルタを用いた。サンプル(ダイヤモンド素材)にいちばん近いものは約1cm離したマイクロ波のアンテナであった。
次に、実施例1と同様に、模擬磁場波形を発生する装置(交流電流源432及びパルス電源434)を準備した。銅線X426及び銅線Y428は、センシングするダイヤモンドのサンプルから最近接で0.5cmのところに配置した。
まず、以下のような準備測定を行なった。ダイヤモンドのサンプルに、マイクロ波を照射しつつ、波長520nmの半導体レーザー光を照射すると、波長638nm付近の赤い蛍光が検出された。マイクロ波の周波数を2.87GHzの付近で掃引すると蛍光は、異なる周波数で2つの極小値(谷)を示した。ただし、実施例1とは違って、ブロードな谷であり、2つの谷は重なっていたが、極小値は2つあることが確認できた。これは、サンプルB、D1及びD2では、いろいろな状態のNVセンタ(13C及び14N等の核磁気を持つ原子がNVセンタの近くに配置されている)が存在することに依る。これらの濃度が高いと分布の幅が大きくなり、ブロードになる。
次に、以下のように本測定を行なった。銅線X426に直流電流を定電流電源で流し、電流が流れていると、近くにあるダイヤモンドのサンプルにおいて、2つの極小値の周波数間隔が変化することを確認した。本実験で使用したサンプルB、D1及びD2は、磁場の変化に対して、蛍光強度の変化は比較的緩やかで、広い磁場レンジを蛍光の強度で確認することができた。
次に、以下のような測定をした。レーザー光を、10msec(100Hz)及び0.1msec(10kHz)のそれぞれの周期で、デューティ50%(パルス幅は周期の半分)のパルス光とし、サンプルに照射し、赤い蛍光を観察した。その結果、レーザー光が照射されている間、100Hz及び10kHzのそれぞれの周期で発光していることを確認した。
レーザー光のパルス間隔(周期)を10msec(100Hz)とし、且つ、蛍光強度の2つの極小値の一方に対応する周波数のマイクロ波を照射し、蛍光強度を極小値とした状態で、銅線X426への定電流(1A)の供給をオン(通電)、又はオフ(非通電)した。その時に観測された蛍光の強度の時間変化パターンを、図29に示す。また、銅線X426に定電流(1A)をオンし、且つ蛍光強度が極小値となる周波数のマイクロ波を照射した状態で、銅線X426への電流の供給をオフしたり、再度オンしたりした。その時に観測された蛍光強度の時間変化パターンを、図30に示す。図29及び図30は実線で示されているが、実際には10msec(100Hz)の間隔でのデータの集まりである。このように、励起レーザー光のパルス照射とそれに対する応答として蛍光強度の時間変化パターンを知ることで、測定された蛍光強度の時間変化パターンが、銅線X426を流れる電流のパターンと正確に一致する(パターンが整合する)ことを、非接触で、少し離れたところで確認することができた。
次に、レーザー光のパルス間隔(周期)を0.1msec(10kHz)とし、且つ銅線X426に1Aの電流を流した状態で、蛍光強度の2つの極小値の一方に対応する周波数のマイクロ波を照射し、蛍光強度を極小値とした状態で、銅線X426に周波数60Hz、最大値1.2Aの交流電流を流した。このとき測定された蛍光強度を、銅線X426の電流波形と共に図31に示す。任意単位(a.u.)で表した蛍光強度は電流値が1Aとなるたびに極小値を示した。図31は実線で示しているが、実際には0.1msecの間隔でのデータの集まりである。この蛍光強度の時間変化パターンを解析して、磁場の時間変化パターンを求めることができ、銅線X426に流した電流の時間変化を知ることができた。ここで、蛍光強度と磁場との関係はダイヤモンドサンプル毎に異なるために、対応関係を予め調査しておき、データベースとしておく必要がある。サンプルB、D1、D2の順で磁場検出感度が緩やかになり、後者程、測定する磁場範囲を大きく取れた。また、データ(蛍光強度)は正弦波の全ての部分で得られるわけではないが、部分的にではあっても単純な正弦波であることが分かっているので、このような条件のもとで解析すると、銅線X426に流れる電流パターンと一致することを確認できた。得られた蛍光強度のパターンから交流電流の位相も検知することができた。このような条件の仮定は、現実的にも行なわれており、データの有効な処理方法である。
次に銅線X426と銅線Y428とを使用し、銅線X426に60Hz、最大値1.05Aの交流電流を流し、銅線Y428にパルス間隔(周期)60Hz、パルス幅1msec、最大電流値1mAのパルス電流を流した。このとき測定された蛍光強度を、銅線X426及び銅線Y428に流した電流の合成波形と共に図32に示す。蛍光強度は交流電流とパルス電流の合計が1Aになるたびに極小値を示した。図32は実線で示しているが、実際には0.1msec間隔でのデータの集まりである。この蛍光強度の時間変化パターンを蓄積する機能を有する装置と、蓄積されたデータを解析する装置を設けた。蛍光強度の時間変化パターンは、サンプルのデータベースにより、磁場の時間変化パターンに変換することができる。これら時間変化パターンのデータでは周波数解析によってもパルス電流を確認することができた。即ち、抽出したデータからハイパスフィルタにより70Hz以下の成分をカットし(銅線X426に流した交流電流の周波数60Hzを取り除くため)、それ以上の成分を分析すると、パルス電流の1kHzの成分が検出された。
また、図33に示す構成の実験装置を作製して実験を行なった。即ち、銅線X426と銅線Z430とを、直接接続したコンデンサ438及び抵抗440を介して並列に接続し、コンデンサ438及び抵抗440の接続ノードに交流電流源432から所定周波数の交流電流を供給する構成とした。抵抗440の抵抗値は、銅線X426及び銅線Z430に比べて無視できるほど小さい値とし、コンデンサ438の容量は、そのインピーダンスが銅線X426及び銅線Z430のインピーダンスに比べて無視できるほど大容量とした。これにより、銅線X426の電圧及び電流の位相と銅線Z430の電圧及び電流の位相との間には90°の位相差が生じる。また、銅線X426に近接させて配置したダイヤモンド410とは別に、銅線Z430に近接させてダイヤモンド446を配置した。レーザー光源412、マイクロ波コイル424、長焦点レンズ436及び半導体受光素子414により、ダイヤモンド410に対する測定系442を構成し、ダイヤモンド446に対する測定系444を、測定系442と同様に構成した。測定系444において、マイクロ波コイル及び長焦点レンズは図示していない。1対のサンプルは同じ方法で作製したサンプルであり、サンプルB、D1及びD2のそれぞれを使用した。いずれのサンプルを使用した場合にも、交流電流と同じ値の位相差を検知できた。
交流電流源432から銅線X426及び銅線Z430に電流を供給した状態で、測定系442を用いて、銅線X426に近接させたダイヤモンド410にレーザー光及びマイクロ波を照射して、放射される蛍光強度を測定した。それと同様に、測定系444を用いて、銅線Z430に近接させたダイヤモンド446にレーザー光及びマイクロ波を照射して、放射される蛍光強度を測定した。得られた結果を上記のように解析することにより、90°の位相差を検知することができた。
以上、実施の形態を説明することにより本発明を説明したが、上記した実施の形態は例示であって、本発明は上記した実施の形態のみに制限されるわけではない。本発明の範囲は、発明の詳細な説明の記載を参酌した上で、特許請求の範囲の各請求項によって示され、そこに記載された文言と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含む。