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JP7203187B2 - ワイヤグリッド偏光素子、ワイヤグリッド偏光素子の製造方法、投影表示装置及び車両 - Google Patents

ワイヤグリッド偏光素子、ワイヤグリッド偏光素子の製造方法、投影表示装置及び車両 Download PDF

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JP7203187B2 JP2021211457A JP2021211457A JP7203187B2 JP 7203187 B2 JP7203187 B2 JP 7203187B2 JP 2021211457 A JP2021211457 A JP 2021211457A JP 2021211457 A JP2021211457 A JP 2021211457A JP 7203187 B2 JP7203187 B2 JP 7203187B2
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Description

本発明は、良好な偏光特性を有し、放熱性や製造時のコストの悪化を招くことがなく、斜めからの入射光及び広範囲な入射角度の入射光に対する透過性に優れたワイヤグリッド偏光素子及びワイヤグリッド偏光素子の製造方法、並びに、偏光特性及び耐熱性に優れた投影表示装置及び該投影表示装置を備えた車両に関するものである。
投影表示装置の1つとして、近年、車両のフロントガラスやコンバイナ等の半透過板(以下、総称して「表示面」という。)に、映像を表示する、車両用ヘッドアップディスプレイ装置が多く開発されている。車両用ヘッドアップディスプレイ装置は、例えば、車両のダッシュボードに配設され、映像光をフロントガラスに投影し、運転情報を虚像として表示する映像表示装置である。運転者は、虚像を、フロントガラスを通した風景と同時に視認することができるため、フロントガラスの範囲外に設置される従来の液晶ディスプレイ等の表示装置と比較して、運転者の視線の移動が少ないという利点がある。
ただし、上述したヘッドアップディスプレイ装置は、表示画像を下方からフロントガラス面(上方)へ向けて出射するものであるため、表示画像の出射方向と逆向きに太陽光が入り込み、表示素子へ入射することがあった。ヘッドアップディスプレイ装置では、小型化の要求や表示画像の拡大を目的として、表示画像を反射、拡大するための反射器が設けられている場合が多い。このような場合には、ヘッドアップディスプレイ装置に入射した太陽光が表示素子近傍で集光することになり、熱によって表示素子の劣化や故障を引き起こすおそれがあった。
そのため、表示素子への太陽光の入射を防ぐことを目的として、ヘッドアップディスプレイ装置中に、反射型偏光素子を設ける技術が開発されている。例えば、特許文献1には、反射器と表示素子との間に、反射型偏光素子(ワイヤグリッド偏光板)を設けたヘッドアップディスプレイ装置が開示されている。
ここで、上述したようなヘッドアップディスプレイ装置に設けられる偏光素子としては、例えば、複屈折性樹脂からなる偏光素子や、透明基板上に複数の導電体(金属細線)が平行に延在したワイヤグリッド型偏光素子、コレステリック相液晶からなる偏光素子等が挙げられる。これらの中でも、偏光特性に優れるワイヤグリッド型偏光素子が多く用いられている。ワイヤグリッド型偏光素子では、金属等で構成された導電体線が特定のピッチで格子状に配列されたワイヤグリッドが形成されている。該ワイヤグリッドの配列ピッチを、入射光(例えば、可視光)の波長に比べて小さいピッチ(例えば、2分の1以下)とすることで、導電体線に対して平行に振動する電場ベクトル成分の光をほとんど反射させ、導電体線に対して垂直な電場ベクトル成分の光をほとんど透過させることができる。この結果、ワイヤグリッド型偏光素子は、単一偏光を作り出す偏光素子として使用でき、透過しない光を反射させて再利用することができるため、光の有効利用の観点からも望ましい。なお、ここでいう偏光素子とは、入射光をS偏光とP偏光に分離する偏光ビームスプリッタとして使用可能な偏光素子を含む。
このようなワイヤグリッド型偏光素子として、例えば特許文献2には、格子状凸部を有する樹脂基材と、樹脂基材の格子状凸部を覆うように設けられた誘電体層と、誘電体層上に設けられた金属ワイヤと、を備えたワイヤグリッド偏光板が開示されている。
また、特許文献3には、樹脂等からなり、表面に特定方向に延在する凹凸構造が設けられた基材と、凹凸構造の凸部の一方の側面に偏在するように設けられた導電体とを有するワイヤグリッド偏光板が開示されている。当該ワイヤグリッド偏光板では、凹凸構造の延在方向に対して垂直方向の断面視において、隣接する2つの凸部の間隔であるピッチ及び凸部の高さが調整されている。
さらに、特許文献4には、反射型液晶表示素子と、反射型ワイヤグリッド偏光板を偏光ビームスプリッタとして用いた投射型映像表示装置が開示されている。当該特許文献4に記載の反射型液晶表示素子を用いた投射型映像表示装置では、光源からの出射光の光軸に対し反射型ワイヤグリッド偏光板が斜め45°程度に配置される。光源からの出射光は、反射型ワイヤグリッドに対して斜め45°程度の入射角度で入光することで、第1の偏光(反射光)と第2の偏光(透過光)に分離される。次いで、反射型ワイヤグリッド偏光板で反射された第1の偏光は、反射型液晶表示素子により変調及び反射されて、第2の偏光となり、当該第2の偏光が反射型ワイヤグリッド偏光板を透過して、投影表示される。
また、特許文献5には、反射型ワイヤグリッド偏光板を偏光ビームスプリッタとして用いた車両用前照灯が開示されている。特許文献5に記載の車両用前照灯でも、光源からの出射光の光軸に対し反射型ワイヤグリッド偏光板が斜め45°程度に配置されている。光源からの出射光が反射型ワイヤグリッドに斜め45°程度の入射角度で入光することで、第1の偏光(反射光)と第2の偏光(透過光)に分離される。
上記の特許文献4に記載の投射型映像表示装置及び特許文献5に記載の車両用前照灯など、光源からの出射光に対し反射型ワイヤグリッド偏光板が斜め45°程度に配置される場合、入射光は、反射型ワイヤグリッド偏光板に対して45°という単一の入射角度で入射するだけでなく、45°±15°程度の範囲の入射角度で入射する。
また、特許文献6には、全体が銀又はアルミニウムからなる複数のグリッドが基板上に突出形成されたワイヤグリッド偏光ビームスプリッタが開示されている。
また、特許文献7には、光透過性基板と、下地層と、金属細線とを有するワイヤグリッド型偏光子が開示されている。この特許文献7のワイヤグリッド型偏光子において、光透過性基板は、表面に複数の凸条が互いに平行にかつ所定のピッチで形成されている。下地層は、凸条の少なくとも頂部に存在する金属酸化物からなり、金属細線は、下地層の表面上でかつ凸条の少なくとも頂部に存在する金属層からなる。
特開2018-72507号公報 特開2008-83657号公報 特開2017-173832号公報 特開2004-184889号公報 特開2019-50134号公報 特表2003-508813号公報 国際公開第2010/005059号
ところで、一般的に車両で使用される機器に求められる温度環境は-40~105℃であるが、特に夏場の車内のダッシュボードに搭載されたヘッドアップディスプレイ等のように、高温環境下で使用されることを考えた場合、高い耐熱性及び放熱性が必要となる。この点、特許文献1~3に記載のワイヤグリッド偏光板では、耐熱性及び放熱性の面でさらなる改善の要求があった。また、特許文献5に記載の車両用前照灯で夜道を明るく照らすためには、車両用前照灯の高輝度化が必須である。このため、特許文献5に記載のワイヤグリッド偏光板には、光源からの熱に対する高い耐熱性及び放熱性が要求される。
さらに、従来のワイヤグリッド偏光素子は、その表面の凹凸形状が、一般的にフォトリソグラフィ技術やエッチング技術によって形成されることから、製造コストの高騰や大量生産に向かないという課題もあった。
そして、ヘッドアップディスプレイ装置等の投影表示装置において、反射型ワイヤグリッド偏光素子を偏光ビームスプリッタとして用いて、第1の偏光(S偏光)と第2の偏光(P偏光)に分離する場合、第1の偏光の反射率及び第2の偏光の透過率の双方が高いことが求められる。ここで、第1の偏光(S偏光)の反射軸反射率(Rs)と、第2の偏光(P偏光)の透過軸透過率(Tp)との積(Tp×Rs)を、偏光分離特性の指標として用いる場合、このTp×Rsの値が高い方が好ましい。ただし、偏光ビームスプリッタが適用される投影表示装置の種類によって、偏光ビームスプリッタにおける偏光の扱いが異なり、第1の偏光(S偏光)が透過光となり、第2の偏光(P偏光)は反射光となる場合もある。
また、偏光ビームスプリッタに対する入射光の入射角度は、45°という単一の角度だけでなく、45°を中心とした45°±15°程度の範囲に広がっており、幅広い入射角度の光が偏光ビームスプリッタに入射される。このため、斜め方向から入射される入射光(以下、斜入射光という。)の入射角度に依存せずに、斜入射光に対して良好な偏光分離特性を発揮できることも、偏光ビームスプリッタに求められる。
しかしながら、従来の反射型ワイヤグリッド偏光素子の構造の場合、斜入射光の入射角度が大きくなるにつれ、第2の偏光(P偏光)の透過軸透過率(Tp)が低下してしまい、斜入射光に対する偏光分離特性が低下するという問題があった。例えば、特許文献6に記載のようにグリッドの凸部全体を導電体で構成する場合や、特許文献3に記載のようにワイヤグリッドの凸部の一方の側面全体に偏在する導電体(反射膜)を設ける場合を考える。これらの場合、斜入射光の入射角度が大きくなるにつれ、第2の偏光(P偏光)の透過軸透過率(Tp)が低下し、上記Tp×Rsが低下してしまう。このため、光の利用効率が悪化し、輝度ムラなどの画質低下が問題となっていた。したがって、特許文献3、6等に記載の従来の反射型ワイヤグリッド偏光素子の構造では、大きくかつ広範囲の入射角度の斜入射光に対する偏光分離特性に改善の余地があった。
また、特許文献7には、金属層(反射膜)による凸条の側面の被覆率が、50%以上、70%以上であることが好ましく、100%であることが特に好ましいことが記載されている。さらに、特許文献7には、当該凸条の側面を被覆する金属層の面積が広くなると、ワイヤグリッド型偏光子の裏面側から入射する光に対してさらに低いS偏光反射率を実現でき、表面側から入射するS偏光を効率よく反射でき、ワイヤグリッド型偏光子が高い偏光分離能を発揮することが記載されている。
しかしながら、特許文献7に記載のようにワイヤグリッドの凸条の側面を被覆している金属層の面積が広い場合、斜入射光の入射角度が大きいとき、特に45~60°であるときに、第2の偏光(P偏光)の透過軸透過率(Tp)が大幅に低下し、上記Tp×Rsも大幅に低下してしまう。このため、光の利用効率が悪化し、輝度ムラなどの画質低下が問題となっていた。したがって、特許文献7に記載のワイヤグリッド型偏光子の構造でも、大きくかつ広範囲の入射角度の斜入射光に対する偏光分離特性に改善の余地があった。
上記のように、大きくかつ広範囲の入射角度の斜入射光に対して、優れた偏光分離特性を有することが望まれているところ、従来の反射型ワイヤグリッド偏光素子では、広い範囲の入射角度、特に、45°以上の大きな入射角度の光に対して十分な透過性を確保できておらず、斜入射光に対する透過性と偏光分離特性にさらなる改良が望まれていた。
そこで、本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、放熱性に優れるとともに、広範囲な入射角度の斜入射光に対する透過性及び偏光分離特性に優れたワイヤグリッド偏光素子、当該偏光素子の製造方法、及び当該偏光素子を備えた投影表示装置及び車両を提供することを目的とする。
本発明者は、上記の課題を解決するべく鋭意研究を重ねた結果、以下の知見を見出した。まず、ワイヤグリッド偏光素子の基板を透明な無機材料で形成するとともに、当該基板上に設けられるグリッド構造体を透明な有機材料で一体形成する。これによって、ワイヤグリッド偏光素子を有機材料と無機材料からなるハイブリッド型の構造にすることができる。この結果、ワイヤグリッド偏光素子の放熱性を大幅に改善することができる。
さらに、上記グリッド構造体として、基板の表面に沿って設けられるベース部と、当該ベース部から突出する複数の凸条部とが一体形成されたグリッド構造体を用いる。これにより、当該グリッド構造体は、ナノインプリント等の技術によって形成可能であるため、フォトリソグラフィ技術やエッチング技術を用いる場合に比べて、グリッド構造体の製造コストを低減でき、大量生産も可能となる。
さらに、グリッド構造体の凸条部上に、光を反射する反射膜、もしくは光を吸収する吸収膜などの機能膜を設ける際、当該機能膜による凸条部の被覆範囲と被覆形態を好適に調整する。即ち、凸条部の先端及び片側又は両側の側面の上部側を、機能膜で包み込むように被覆し、一方、凸条部の側面の下部側やベース部の表面を、機能膜で被覆せずに、開放する。そして、機能膜は、丸みを帯びて、凸条部の幅方向に膨出するような形状で、凸条部の先端及び側面の上部側を覆い包むようにする。さらに、凸条部と、当該凸条部を覆い包む機能膜とを合わせたグリッドの最大幅(WMAX)が、凸条部の底部の幅(W)以上になるように、凸条部と機能膜の形状及び大きさを調整する。さらに、機能膜が凸条部の側面を被覆する範囲を、当該側面の上部側の特定範囲(例えば、凸条部の高さ(H)の25%以上、80%以下の範囲)に限定することが好ましい。
これにより、大きく広い範囲の入射角度の斜入射光がワイヤグリッド偏光素子に入射される場合であっても、ワイヤグリッド偏光素子における第2の偏光(P偏光)の透過率(Tp)が、入射角度に依存して低下することを抑制できる。したがって、ワイヤグリッド偏光素子における第1の偏光(S偏光)の反射軸反射率(Rs)と、第2の偏光(P偏光)の透過軸透過率(Tp)との積(Tp×Rs)を、高い値に維持することができる。よって、ワイヤグリッド偏光素子を例えば偏光ビームスプリッタとして用いた場合に、入射角度が大きくかつ広い範囲の斜入射光に対しても、十分な透過性及び偏光分離特性を得ることができる。
本発明者は、上記の知見に基づき、以下の発明に想到した。
上記課題を解決するため、本発明のある観点によれば、
無機材料と有機材料とからなるハイブリッド型のワイヤグリッド偏光素子であって、
前記無機材料からなる基板と、
前記有機材料からなり、前記基板上に設けられるベース部と、前記ベース部から突出する複数の凸条部とが一体形成されたグリッド構造体と、
金属材料からなり、前記凸条部の一部を被覆する機能膜と、
を備え、
前記凸条部は、前記ベース部から離れるにつれて幅が狭くなる先細り形状を有し、
前記機能膜は、前記凸条部の先端及び少なくとも一方の側面の上部側を覆い包み、かつ、前記凸条部の両側面の下部側及び前記ベース部を被覆しておらず、
前記凸条部を覆い包む前記機能膜の表面は、丸みを有して前記凸条部の幅方向に膨出しており、前記凸条部を覆い包む前記機能膜の最大幅(WMAX)は、前記凸条部の底部から前記凸条部の高さの20%上部の位置において前記機能膜により被覆されていない部分の前記凸条部の幅(W)以上であり、
前記機能膜による前記凸条部の側面の被覆率(Rc)が、前記凸条部の高さ(H)に対する、前記凸条部の側面のうち前記機能膜により被覆された部分の高さ(Hx)の割合であるとき、
前記被覆率(Rc)は、30%以上、70%以下である、ワイヤグリッド偏光素子が提供される。
前記ワイヤグリッド偏光素子に対する入射角度が45°である入射光の透過軸透過率(Tp)と反射軸反射率(Rs)との積(Tp×Rs)は、70%以上であるようにしてもよい。
前記凸条部の高さ(H)は、160nm以上であるようにしてもよい。
前記凸条部の先端を覆う前記機能膜の厚さ(Dt)は、5nm以上であるようにしてもよい。
前記凸条部の側面を覆う前記機能膜の厚さ(Ds)は、10nm以上、30nm以下であるようにしてもよい。
前記ベース部の厚さ(TB)が、1nm以上であるようにしてもよい。
前記ワイヤグリッド偏光素子の反射軸方向に直交する断面における前記凸条部の断面形状が、前記ベース部から離れるにつれて幅が狭くなる台形、三角形、釣鐘型又は楕円形であるようにしてもよい。
少なくとも前記機能膜の表面を覆うように形成された保護膜を、さらに備えるようにしてもよい。
前記保護膜は、撥水性コーティング又は撥油性コーティングを含むようにしてもよい。
前記機能膜が、誘電体膜をさらに有するようにしてもよい。
θが30°以上、60°以下である場合、
前記ワイヤグリッド偏光素子に対する入射角度が+θである入射光の透過軸透過率(Tp(+))と、入射角度が-θである入射光の透過軸透過率(Tp(-))との差が、3%以内であるようにしてもよい。
前記機能膜は、入射光を反射する反射膜であるようにしてもよい。
前記ワイヤグリッド偏光素子は、斜入射光を第1の偏光と第2の偏光に分離する偏光ビームスプリッタであるようにしてもよい。
上記課題を解決するため、本発明の別の観点によれば、
無機材料と有機材料とからなるハイブリッド型のワイヤグリッド偏光素子の製造方法であって、
前記無機材料からなる基板上に、前記有機材料からなるグリッド構造体材料を形成する工程と、
前記グリッド構造体材料にナノインプリントを施すことによって、前記基板上に設けられるベース部と、前記ベース部から突出する複数の凸条部とが一体形成されたグリッド構造体を形成する工程と、
金属材料を用いて前記凸条部の一部を被覆する機能膜を形成する工程と、
を含み、
前記グリッド構造体を形成する工程では、前記ベース部から離れるにつれて幅が狭くなる先細り形状を有する前記凸条部を形成し、
前記機能膜を形成する工程では、
前記機能膜が、前記凸条部の先端及び少なくとも一方の側面の上部側を覆い包み、かつ、前記凸条部の両側面の下部側及び前記ベース部を被覆せず、前記凸条部を覆い包む前記機能膜の表面が、丸みを有して前記凸条部の幅方向に膨出し、前記凸条部を覆い包む前記機能膜の最大幅(WMAX)が、前記凸条部の底部から前記凸条部の高さの20%上部の位置において前記機能膜により被覆されていない部分の前記凸条部の幅(W)以上になり、前記機能膜による前記凸条部の側面の被覆率(Rc)が、前記凸条部の高さ(H)に対する、前記凸条部の側面のうち前記機能膜により被覆された部分の高さ(Hx)の割合であるとき、前記被覆率(Rc)が30%以上、70%以下であるように、前記機能膜を形成する、ワイヤグリッド偏光素子の製造方法が提供される。
前記機能膜を形成する工程では、スパッタリング又は蒸着法によって、前記凸条部に対して複数の方向から交互に成膜を行うようにしてもよい。
上記課題を解決するため、本発明の別の観点によれば、
光源と、
前記光源からの入射光が45°を含む所定範囲の入射角度で入射するように配置され、前記入射光を第1の偏光と第2の偏光とに分離する偏光ビームスプリッタと、
前記偏光ビームスプリッタで反射した前記第1の偏光、又は、前記偏光ビームスプリッタを透過した前記第2の偏光が入射されるように配置され、入射された前記第1の偏光又は前記第2の偏光を反射及び変調する反射型液晶表示素子と、
前記反射型液晶表示素子で反射及び変調された前記第1の偏光又は前記第2の偏光が、前記偏光ビームスプリッタを通じて入射されるように配置されたレンズと、
を備え、
前記偏光ビームスプリッタは、前記ワイヤグリッド偏光素子で構成される、投影表示装置が提供される。
前記所定範囲の入射角度は、30°以上、60°以下であるようにしてもよい。
前記ワイヤグリッド偏光素子の周囲に、放熱部材が設けられているようにしてもよい。
上記課題を解決するため、本発明の別の観点によれば、前記投影表示装置を備える、車両が提供される。
本発明によれば、放熱性に優れるとともに、広範囲な入射角度の斜入射光に対して優れた偏光分離特性を有するワイヤグリッド偏光素子を提供できる。
本発明の一実施形態に係るワイヤグリッド偏光素子を模式的に示す断面図である。 同実施形態に係るワイヤグリッド偏光素子を模式的に示す平面図である。 同実施形態に係るグリッド構造体の凸条部の先細り形状の具体例を模式的に示す断面図である。 同実施形態に係るグリッド構造体の凹部の形状の具体例を模式的に示す断面図である。 同実施形態に係るワイヤグリッド偏光素子を模式的に示す断面図である。 同実施形態に係る反射膜の形状の具体例を模式的に示す断面図である。 同実施形態に係る保護膜で覆われた偏光素子を模式的に示す断面図である。 同実施形態に係る保護膜で覆われた偏光素子の変更例を模式的に示す断面図である。 同実施形態に係る放熱部材を備えた偏光素子を模式的に示す斜視図である。 同実施形態に係る実際のグリッド構造体と反射膜を示す写真である。 同実施形態に係るワイヤグリッド偏光素子の製造方法を示す工程図である。 従来のワイヤグリッド偏光素子の製造方法を示す工程図である。 同実施形態に係る原盤の製造方法を示す工程図である。 同実施形態に係る投影表示装置の一例であるヘッドアップディスプレイ装置を示す模式図である。 同実施形態に係る投影表示装置の第1具体例を示す模式図である。 同実施形態に係る投影表示装置の第2具体例を示す模式図である。 同実施形態に係る投影表示装置の第3具体例を示す模式図である。 従来例1に係る偏光素子について説明するための図である。 従来例2に係る偏光素子について説明するための図である。 従来例3に係る偏光素子について説明するための図である。 実施例1に係る偏光素子について説明するための図である。 実施例1と従来例2の比較結果について説明するための図である。 実施例2に係る偏光素子について説明するための図である。 実施例3に係る偏光素子について説明するための図である。 実施例4に係る偏光素子について説明するための図である。 実施例5に係る偏光素子について説明するための図である。 実施例6に係る偏光素子について説明するための図である。 実施例7に係る偏光素子について説明するための図である。 実施例8に係る偏光素子について説明するための図である。 実施例9と従来例4の比較結果について説明するための図である。 実施例9と従来例4の比較結果について説明するための図である。
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。なお、説明の便宜のため、以下の各図中で開示した各部材の状態は、実際とは異なる縮尺及び形状で模式的に表されているものもある。
<1.ワイヤグリッド偏光素子の概要>
まず、図1及び図2等を参照して、本発明の一実施形態に係るワイヤグリッド偏光素子1の概要について説明する。図1は、本実施形態に係るワイヤグリッド偏光素子1を模式的に示す断面図である。図2は、本実施形態に係るワイヤグリッド偏光素子1を模式的に示す平面図である。
本実施形態に係るワイヤグリッド偏光素子1は、反射型の偏光素子であり、かつワイヤグリッド型の偏光素子である。ワイヤグリッド偏光素子1は、例えば、板状のワイヤグリッド偏光板であってよい。ワイヤグリッド偏光板は、板形状を有するワイヤグリッド型の偏光板である。ワイヤグリッド偏光板は、例えば、平板状であってもよいし、湾曲した板状であってもよい。つまり、ワイヤグリッド偏光素子1の表面(光が入射する面)は、平面であってもよいし、曲面であってもよい。以下では、本実施形態に係るワイヤグリッド偏光素子1が、平板状のワイヤグリッド偏光板である例について説明するが、本発明のワイヤグリッド偏光素子は、かかる例に限定されず、その用途及び機能等に応じて、任意の形状を有することができる。
なお、本発明のワイヤグリッド偏光素子は、例えば、特定の一つの方向に振動する光だけを透過させる偏光子として用いられてもよいし、あるいは、入射光を第1の偏光(S偏光)と第2の偏光(P偏光)に分離する偏光ビームスプリッタとして用いられてもよい。以下では、本実施形態に係るワイヤグリッド偏光素子1が、偏光ビームスプリッタとして用いられる例について主に説明する。
図1及び図2に示すように、ワイヤグリッド偏光素子1(以下、「偏光素子1」と略称する場合もある。)は、透明な基板10と、透明なグリッド構造体20と、不透明な機能膜(例えば反射膜30)とを備える。
なお、本明細書において「透明」とは、使用帯域(例えば、可視光の帯域、赤外光の帯域、又は、可視光及び赤外光の帯域など)に属する波長λの光の透過率が高いことを意味し、例えば、当該光の透過率が70%以上であることを意味する。可視光の波長帯域は、例えば、360nm以上、830nm以下である。赤外光(赤外線)の波長帯域は、可視光の波長帯域よりも大きく、例えば、830nm以上である。表示画像として投影される可視光の好適な波長範囲の観点から、本実施形態に係る偏光素子1における使用帯域の波長λは、例えば、400nm以上、800nm以下であることが好ましく、420nm以上、680nm以下であることがより好ましい。本実施形態に係る偏光素子1は、使用帯域の光に対して透明な材料で形成されているため、偏光素子1の偏光特性や、光の透過性等に悪影響を与えることがない。
基板10は、ガラス等の透明な無機材料からなる。基板10は、所定の厚さTSを有する平板状の基板である。
グリッド構造体20は、透明な有機材料、例えば、耐熱性に優れた紫外線硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂などの有機樹脂材料からなる。グリッド構造体20は、偏光素子1の偏光機能を実現するための凹凸構造を有する。具体的には、グリッド構造体20は、基板10の表面に沿って設けられるベース部21と、ベース部21から格子状に突出する複数の凸条部22とを有する。グリッド構造体20のベース部21と複数の凸条部22は、同一の有機材料を用いて、一体形成されている。
ベース部21は、所定の厚さTBを有する薄膜であり、基板10の主面(図1及び図2に示すXY平面)上の全体に亘って積層される。ベース部21の厚さTBは、基板10の主面全体に亘って実質的に同一な厚さであることが好ましいが、正確に同一な厚さでなくてもよく、TBの基準の厚さに対してある程度の誤差で変動してもよい。例えば、TBは、基準の厚さ6μmに対して、±3μm程度で変動してもよい。このように、インプリント等によりベース部21を成形するときの成形誤差を許容して、ベース部21の厚さTBが決定される。
複数の凸条部22は、ベース部21上に、X方向に所定のピッチPで等間隔に配列される。なお、ピッチPは、偏光素子1のX方向に配列される複数の凸条部22の形成間隔である。複数の凸条部22は、相互に平行にY方向に延びるように格子状に配置される。X方向に相互に隣接する2つの凸条部22の間には、所定の隙間が形成されている。この隙間は、入射光の進入経路となる。各々の凸条部22は、所定方向(図1及び図2に示すY方向)に細長く延びるように突出形成された壁状の凸部である。複数の凸条部22のZ方向の高さ(H)及びX方向の幅(W、W)は、相互に実質的に同一である。凸条部22の長手方向(Y方向)が、偏光素子1の反射軸の方向であり、凸条部22の幅方向(X方向)が、偏光素子1の透過軸の方向である。
機能膜は、偏光素子1のグリッド構造体20に対して、所定の機能を付与するための膜である。機能膜は、例えば、不透明な金属材料からなり、グリッド構造体20の凸条部22の一部を覆うように設けられる。機能膜は、例えば、偏光素子1に入射される入射光を反射する機能を有する反射膜30であってもよいし、又は、当該入射光を吸収する機能を有する吸収膜(図示せず。)であってもよいし、その他の機能を有する膜であってもよい。本実施形態では、機能膜が反射膜30である例について説明するが、本発明の機能膜は、反射膜30の例に限定されない。
反射膜30は、例えば、アルミニウム又は銀などの金属材料(金属又は金属酸化物など)からなる薄膜である。反射膜30は、凸条部22の少なくとも頂部を覆うように形成される。反射膜30は、ワイヤグリッドの金属細線として機能する金属膜で構成されてもよい。反射膜30は、グリッド構造体20に入射する入射光を反射する機能を有する。
グリッド構造体20の凸条部22と反射膜30は、ワイヤグリッド偏光素子1のグリッドを構成する。グリッド構造体20における複数の凸条部22のX方向のピッチP(即ち、グリッドの配列ピッチ)は、入射光(例えば、可視光)の波長λと比べて小さいピッチ(例えば、2分の1以下)に設定される。これにより、偏光素子1は、Y方向に延びる反射膜30(導電体線)に対して平行な方向(反射軸方向:Y方向)に振動する電場ベクトル成分の光(S偏光)をほとんど反射させ、反射膜30(導電体線)に対して垂直な方向(透過軸方向:X方向)に振動する電場ベクトル成分の光(P偏光)をほとんど透過させることができる。
以上のように、本実施形態に係るワイヤグリッド偏光素子1は、微細凹凸構造を有するグリッド構造体20と、グリッド構造体20の凸条部22に対して選択的に付加される機能膜(例えば反射膜30)との組合せにより、偏光機能を実現する。そして、ワイヤグリッド偏光素子1の基板10は、耐熱性に非常に優れたガラス等の無機材料からなり、グリッド構造体20は、耐熱性を有する有機樹脂材料からなる。このように、本実施形態に係るワイヤグリッド偏光素子1は、有機材料と無機材料とを組み合わせたハイブリッド型の偏光素子である。したがって、熱抵抗R[m・K/W]が小さいグリッド構造体20から基板10へ効率的に熱を逃がすことができるので、放熱性に優れる。したがって、本実施形態に係るハイブリッド型のワイヤグリッド偏光素子1は、有機材料のみからなる従来のフィルムタイプの偏光素子(耐熱性:100℃程度)と比べて、耐熱性及び放熱性に優れており、例えば200℃程度までの高温環境下における耐熱性を有する。よって、優れた偏光特性を実現しつつ、良好な放熱効果を維持できる。
さらに、本実施形態に係るワイヤグリッド偏光素子1は、グリッド構造体20の表面を覆う保護膜40(図7、図8参照。)を備えてもよい。保護膜40は、無機材料、例えば、SiOなどの誘電体材料からなる。この保護膜40は、グリッド構造体20のベース部21、凸条部22及び反射膜30の全ての表面を覆うように、ワイヤグリッド偏光素子1の表面全体に積層されてもよい(図7参照。)。かかる保護膜40を設けることにより、偏光素子1の熱抵抗Rをより低減できるという有利な効果が得られるので、優れた偏光特性を実現しつつ、より良好な放熱効果を維持できる。
また、上述したように、ベース部21と凸条部22とが一体構成されたグリッド構造体20は、ナノインプリント等の印刷技術を用いて製造することができので、シンプルな製造プロセスで微細凹凸構造を実現できる。したがって、フォトリソグラフィ技術やエッチング技術を用いて製造する場合と比べて、グリッド構造体20の製造に要するコストや手間を低減できる。よって、本実施形態に係るハイブリッド型の偏光素子1は、従来の無機材料のみからなる偏光素子と比べて、製造コストを大幅に削減でき、ワイヤグリッド偏光素子1の製品単価を安価にできるという利点がある。
一方、従来のフィルムタイプの有機偏光板は、有機材料を多く用いており、基板(ベースフィルム)や両面テープ(OCA:Optically Clear Adhesive)、グリッド構造体の厚さが大きくなるので、本実施形態に係るハイブリッド型の偏光素子1と比べて、放熱性や耐熱性が劣ると考えられる。
また、本実施形態に係るワイヤグリッド偏光素子1は、グリッド構造体20の凸条部22と反射膜30とからなるグリッドが、図1等に示すような特殊な樹木形状(詳細は後述する。)を有している。これにより、偏光素子1に対して、幅広い範囲の大きな入射角度θ(例えば30~60°)で、斜め方向から光が入射する場合であっても、偏光素子1を透過する第2の偏光(P偏光)の透過率(即ち、透過軸透過率Tp)が、斜入射光の入射角度θに依存して低下することを抑制できる。したがって、ワイヤグリッド偏光素子1で反射する第1の偏光(S偏光)の反射率(即ち、反射軸反射率Rs)と、透過軸透過率Tpとの積(Tp×Rs)を、例えば70%以上の高い値に維持できる。したがって、本実施形態に係る偏光素子1は、当該Tp×Rsで表される偏光分離特性に優れており、斜入射光を偏光して、S偏光(反射光)とP偏光(透過光)とに好適に分離できる。よって、本実施形態に係る偏光素子1は、入射角度θが大きくかつ広い範囲の斜入射光に対しても、十分な透過性及び偏光分離特性を得ることができる。
以上のように、本実施形態に係るワイヤグリッド偏光素子1は、耐熱性及び放熱性に優れ、製造コストも低減でき、かつ、幅広い範囲の大きな入射角度θの斜入射光に対する透過性及び偏光分離特性にも優れる。よって、本実施形態に係るワイヤグリッド偏光素子1は、多様な製品の多様な部品として好適に適用できる。例えば、偏光素子1は、スマートディスプレイに設置される偏光ビームスプリッタなどに適用できる。また、偏光素子1は、ヘッドアップディスプレイ(HUD)に設置される、太陽光からの熱に対策した偏光素子、LED光源からの熱に対策した偏光素子、偏光反射ミラーなどに適用できる。さらに偏光素子1は、配光可変ヘッドランプ(ADB)などのヘッドライトに設置される偏光ビームスプリッタなどにも適用できる。また、偏光素子1は、拡張現実(AR)又は仮想現実(VR)用の各種装置に設置されるレンズ一体型位相差素子、レンズ一体型偏光素子などにも適用できる。
<2.ワイヤグリッド偏光素子の構成要素>
次に、図1及び図2等を参照して、本実施形態に係るワイヤグリッド偏光素子1の構成要素について詳細に説明する。
<2.1.基板>
図1に示すように、本実施形態に係るワイヤグリッド偏光素子1は、透明な基板10を備える。基板10は、透明であり、ある程度の強度を有する無機材料からなる。
基板10の材料としては、より優れた放熱性及び耐熱性が得られる観点から、例えば、各種ガラス、石英、水晶、サファイア等の無機材料であることが好ましく、熱伝導率が1.0W/m・K以上である無機材料がより好ましく、8.0W/m・K以上である無機材料がさらに好ましい。
また、基板10の形状は、特に限定されず、偏光素子1に要求される性能等に応じて適宜選択することができる。例えば、板状や曲面を有するように構成することができる。また、偏光素子1の偏光特性に影響を与えない観点からは、基板10の表面を平坦面とすることができる。さらに、基板10の厚さTSについても、特に限定されず、例えば0.02~10.0mmの範囲とすることができる。
<2.2.グリッド構造体>
図1及び図2に示すように、本実施形態に係る偏光素子1は、基板10上に、上記ベース部21及び格子状の凸条部22を有するグリッド構造体20を備える。グリッド構造体20は、凸条部22上に、後述する反射膜30が設けられることによって、所望の偏光特性を得ることができる。
偏光素子1に対してグリッド構造体20が形成された表面側から光が入射するとき、反射膜30により入射光の一部が反射される。反射膜30に入射した光のうち凸条部22の長手方向(即ち、凸条部22の延在方向=反射軸方向:Y方向)に直交する方向(即ち、凸条部22の幅方向=透過軸方向:X方向)に電界成分をもつ光は、高い透過率で偏光素子1を透過する。一方、反射膜30に入射した光のうち凸条部22の長手方向(即ち、凸条部22の延在方向=反射軸方向:Y方向)に平行な方向に電界成分をもつ光は、その大部分が反射膜30で反射される。そのため、本実施形態では、反射膜30により部分的に被覆されたグリッド構造体20を備えることで、単一偏光を作り出すことができる。なお、基板10の裏面側から入射した光に対しても、同様の偏光効果が得られる。
グリッド構造体20は、図1に示すように、ベース部21を有する。ベース部21は、基板10の表面に沿って設けられる薄膜であり、凸条部22を支持するための部分である。グリッド構造体20の凹凸構造(凸条部22)をナノインプリント等によって形成した場合に、ベース部21は必然的に形成される。ベース部21と凸条部22は、同一材料で一体形成されている。また、グリッド構造体20がベース部21を有することによって、凸条部22が基板10上に直に形成される場合と比べて、凸条部22の強度を高くできる。このため、グリッド構造体20の耐久性を高めることができる。さらに、ベース部21が面全体で基板10と密着しているため、グリッド構造体20の耐剥離性を高めることができる。
なお、ベース部21の厚さTBは、特に限定されないが、凸条部22をより確実に支持できる観点や、インプリント成形を容易に行う観点から、1nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましい。また、良好な放熱性を確保する観点からは、ベース部21の厚さTBは、50μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましい。
さらに、グリッド構造体20は、図1及び図2に示すように、ベース部21から突出した複数の凸条部22を有する。凸条部22は、本実施形態に係る偏光素子1の反射軸方向(Y方向)を長手方向として延在している。複数の凸条部22がX方向に所定のピッチで配列され、かつ、相互に所定の間隔を空けて配列されることで、格子状の凹凸構造が形成されている。
ここで、図1に示すように、偏光素子1の反射軸方向(Y方向)に直交する縦断面(XZ断面)において、凸条部22の透過軸方向(X方向)のピッチPが、使用帯域の光の波長よりも短いことを要する。この理由は、上述した偏光作用を得るためである。より具体的には、凸条部22のピッチPは、凸条部22の製造容易性と偏光特性との両立の観点から、50~300nmであることが好ましく、100~200nmであることがより好ましく、100~150nmであることが特に好ましい。
また、図1及び図2に示すように、上記縦断面(XZ断面)における凸条部22の底部の幅Wは、特に限定されないが、製造容易性と偏光特性との両立の観点から、10~150nm程度であることが好ましく、10~100nm程度であることがより好ましい。また、凸条部22の頂部の幅Wは、特に限定されないが、製造容易性と偏光特性との両立の観点から、5~60nm程度であることが好ましく、10~30nm程度であることがより好ましい。
なお、凸条部22の底部の幅W及び頂部の幅Wは、走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡で観察することにより測定することができる。例えば、走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡を用いて偏光素子1の吸収軸方向又は反射軸方向に直交する断面(XZ断面)を観察し、任意の4箇所の凸条部22について、凸条部22の底部から凸条部22の高さHの20%上部の高さ位置における凸条部22の幅を測定し、それらの算術平均値を凸条部22の底部の幅Wとすることができる。また、当該任意の4箇所の凸条部22について、凸条部22の先端22aから凸条部22の高さHの20%下部の高さ位置における凸条部22の幅を測定し、それらの算術平均値を凸条部22の頂部の幅Wとすることができる。
また、図1に示すように、上記縦断面(XZ断面)における凸条部22の高さHは、特に限定されないが、製造容易性と偏光特性との両立の観点から、50~350nm程度であることが好ましく、100~300nm程度であることがより好ましい。なお、凸条部22の高さHは、走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡で観察することにより測定することができる。例えば、走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡を用いて偏光素子1の吸収軸方向又は反射軸方向に直交する断面を観察し、任意の4箇所における凸条部22について、凸条部22の幅方向の中心位置における凸条部22の高さを測定し、それらの算術平均値を凸条部22の高さHとすることができる。
グリッド構造体20の凸条部22の形状は、斜入射光に対する良好な偏光分離特性を得るため、先細り形状であることが好ましい。ここで、先細り形状とは、ベース部21から離れるにつれて凸条部22の幅W(XZ断面におけるX方向の幅)が徐々に狭くなるような形状であり、換言すると、凸条部22の底部から頂部に向かうにつれて凸条部22の幅Wが徐々に狭くなるような形状である。したがって、凸条部22が先細り形状を有する場合、凸条部22の頂部の幅Wは、凸条部22の底部の幅Wより小さくなる(W<W)。
図3は、本実施形態に係る凸条部22の先細り形状の具体例を示す。図3に示すように、上記縦断面(XZ断面)における凸条部22の断面形状は、上記の先細り形状であれば、ベース部21から離れるにつれて幅Wが狭くなる台形、三角形、釣鐘型、楕円形、又は、丸みを帯びた楔型など、多様な形状であってよい。例えば、図3に示す凸条部22Aの断面形状は台形(テーパ形状)であり、凸条部22Bの断面形状は三角形であり、凸条部22Cの断面形状は釣鐘型であり、凸条部22Dの断面形状は、頂部と底部が丸みを帯びた楔型である。このように、凸条部22が先細り形状を有することで、凸条部22の先端22a及び側面22bの一部を覆う反射膜30を形成しやすく、偏光素子1に偏光特性を付与できるとともに、当該先細り形状はナノインプリントによっても形成可能であるため、製造容易性の点でも有利である。
また、凸条部22がテーパー形状などの先細り形状を有することにより、グリッド構造体20の屈折率が徐々に変化する。したがって、モスアイ構造と同様に、グリッド構造体20の物理的な屈折率の変化による入射光の反射防止効果が得られる。よって、グリッド構造体20の凸条部22の表面における反射率を低減でき、グリッド構造体20の透過性を向上できるという効果も期待できる。
また、図4は、相互に隣接する凸条部22、22間に形成された凹部24の形状の具体例を示す。凹部24は、凸条部22の長手方向(Y方向)に延びる溝である。図4に示すように、上記縦断面(XZ断面)における凹部24の断面形状は、凹部24の底に向かうにつれ幅が狭くなる形状であれば、多様な形状であってよい。例えば、図4に示す凹部24Aの断面形状は台形(テーパ形状)であり、凹部24Bの断面形状は三角形(V字型)であり、凹部24Cの断面形状は、底部が平坦な略矩形状であり、凹部24Dの断面形状は、底部が丸みを帯びたU字型である。これらの凹部24の形状としては、ナノインプリント形成時の離型性など生産性を考慮して、適宜最適な形状を選択することができる。
また、グリッド構造体20を構成する材料は、透明な有機材料であれば特に限定されず、公知の有機材料を用いることができる。例えば、透明性を確保でき、製造容易性に優れる点からは、各種の熱硬化性樹脂、各種の紫外線硬化性樹脂等を、グリッド構造体20の材料として用いることが好ましい。
さらに、製造容易性の点や製造コストの点からは、グリッド構造体20を構成する材料は、基板10と異なる材料を用いることが好ましい。加えて、グリッド構造体20と基板10の材料が異なる場合、両者の屈折率が異なることになる。このため、偏光素子1全体の屈折率に影響がある場合は適宜、グリッド構造体20と基板10の間に屈折率調整層を設けてもよい。
例えば、グリッド構造体20を構成する材料として、エポキシ重合性化合物、アクリル重合性化合物等の硬化性樹脂を用いることができる。エポキシ重合性化合物は、分子内に1つ又は2つ以上のエポキシ基を有するモノマー、オリゴマー、又はプレポリマーである。エポキシ重合性化合物としては、各種ビスフェノール型エポキシ樹脂(ビスフェノールA型、F型等)、ノボラック型エポキシ樹脂、ゴム、ウレタン等の各種変性エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、これらのプレポリマー等が挙げられる。
アクリル重合性化合物は、分子内に1つ又は2つ以上のアクリル基を有するモノマー、オリゴマー、又はプレポリマーである。ここで、モノマーは、さらに分子内にアクリル基を1つ有する単官能モノマー、分子内にアクリル基を2つ有する二官能モノマー、分子内にアクリル基を3つ以上有する多官能モノマーに分類される。
「単官能モノマー」としては、例えば、カルボン酸類(アクリル酸等)、ヒドロキシ類(2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート)、アルキル又は脂環類のモノマー(イソブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、イソボニルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート)、その他機能性モノマー(2-メトキシエチルアクリレート、メトキシエチレングリコールアクリレート、2-エトキシエチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、ベンジルアクリレート、エチルカルビトールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、N,N-ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N-イソプロピルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、2-(パーフルオロオクチル)エチルアクリレート、3-パーフルオロヘキシル-2-ヒドロキシプロピルアクリレート、3-パーフルオロオクチル-2-ヒドロキシプロピル-アクリレート、2-(パーフルオロデシル)エチル-アクリレート、2-(パーフルオロ-3-メチルブチル)エチルアクリレート)、2,4,6-トリブロモフェノールアクリレート、2,4,6-トリブロモフェノールメタクリレート、2-(2,4,6-トリブロモフェノキシ)エチルアクリレート)、2-エチルヘキシルアクリレート等が挙げられる。
「二官能モノマー」としては、例えば、トリ(プロピレングリコール)ジアクリレート、トリメチロールプロパン-ジアリルエーテル、ウレタンジアクリレートなどが挙げられる。
「多官能モノマー」としては、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ及びヘキサアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレートなどが挙げられる。
上記で列挙したアクリル重合性化合物以外の例としては、アクリルモルフォリン、グリセロールアクリレート、ポリエーテル系アクリレート、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルカプロラクタム、エトキシジエチレングリコールアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、EO変性ビスフェノールAジアクリレート、脂肪族ウレタンオリゴマー、ポリエステルオリゴマー等が挙げられる。
また、上述した硬化性樹脂の硬化開始剤としては、例えば、熱硬化開始剤、光硬化開始剤等が挙げられる。硬化開始剤は、熱、光以外の何らかのエネルギー線(例えば電子線)等によって硬化するものであってもよい。硬化開始剤が熱硬化開始剤である場合、硬化性樹脂は熱硬化性樹脂であり、硬化開始剤が光硬化開始剤であり場合、硬化性樹脂は光硬化性樹脂である。
これらの中でも、硬化開始剤として、紫外線硬化開始剤を用いることが好ましい。紫外線硬化開始剤は、光硬化開始剤の一種である。紫外線硬化開始剤としては、例えば、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オンなどが挙げられる。したがって、硬化性樹脂は、紫外線硬化性樹脂であることが好ましい。また、透明性の観点から、硬化性樹脂は、紫外線硬化性アクリル樹脂であることがより好ましい。
なお、グリッド構造体20を形成する方法は、上述したベース部21及び凸条部22を形成できる方法であれば特に限定されない。例えば、フォトリソグラフィ、又はインプリントなどによる凹凸形成方法を用いることができる。これらの中でも、短時間且つ容易に凹凸パターンを形成でき、さらに、ベース部21を確実に形成できる観点からは、インプリントによって、グリッド構造体20のベース部21及び凸条部22を形成することが好ましい。
ナノインプリントによって、グリッド構造体20のベース部21及び凸条部22を形成する場合、例えば、基板10上に、グリッド構造体20を形成するための材料(グリッド構造体材料)を塗布した後、凹凸が形成された原盤をグリッド構造体材料に押し当て、その状態で紫外線の照射や熱の付与を行い、グリッド構造体材料を硬化させることができる。これによって、ベース部21及び凸条部22を有するグリッド構造体20を形成できる。
<2.3.反射膜(機能膜)>
本実施形態に係る偏光素子1は、図1及び図2に示すように、グリッド構造体20の凸条部22上に形成された反射膜30を備える。
図1に示すように、反射膜30は、グリッド構造体20の凸条部22の先端22a及び側面22bの一部を覆い包むように形成される。そして、図1に示すように、反射膜30は、グリッド構造体20の凸条部22の長手方向(Y方向)に沿って延びるように形成される。これにより、反射膜30は、偏光素子1に入射した光のうち凸条部22の長手方向に平行な方向(反射軸方向:Y方向)に電界成分をもつ光を反射することができる。
反射膜30を構成する材料は、使用帯域の光に対して反射性を有する材料であれば特に限定されない。例えば、Al、Ag、Cu、Mo、Cr、Ti、Ni、W、Fe、Si、Ge、Te等の金属元素単体や、これら元素の1種以上を含む合金等の金属材料が挙げられる。
なお、反射膜30は、上記金属からなる単層膜でもあってもよいし、複数の金属膜からなる複層膜であってもよい。また、反射膜30は、反射機能を有していれば、必要に応じて、誘電体膜等の他の層を含むことも可能である。誘電体膜は誘電体からなる薄膜である。誘電体膜の材料は、SiO、Al、MgF、TiO等の一般的な材料を用いることができる。また、誘電体膜の屈折率は、1.0より大きく2.5以下とすることが好ましい。なお、反射膜30の光学特性は、周囲の屈折率によっても影響を受けるため、誘電体膜の材料により偏光特性を制御してもよい。
<2.4.凸条部と反射膜の特殊形状>
ここで、本実施形態に係る偏光素子1における、グリッド構造体20の凸条部22と反射膜30の特殊な形状について詳述する。
本実施形態に係る偏光素子1では、図1及び図5に示すように、反射膜30は、グリッド構造体20の凸条部22の先端22a及び少なくとも一方の側面22bの上部側を覆い包み、かつ、凸条部22の両側面22bの下部側及びベース部21を被覆しないように形成されている。なお、図1及び図5の例では、反射膜30は、凸条部22の両方の側面22bの上部側を覆っているが、凸条部22の一方の側面22bのみの上部側を覆ってもよい。
ここで、「反射膜30が、グリッド構造体20の凸条部22の先端22a及び少なくとも一方の側面22bの上部側を覆い包む状態」とは、例えば図1及び図5に示すように、「凸条部22の先端22a」、及び、「凸条部22の先端22aとベース部21とをつなぐ側面22bの上部側」の双方を、反射膜30により連続的に被覆しつつ、「当該側面22bの下部側」及び「ベース部21」を反射膜30により被覆せずに露出させる状態である。この状態では、反射膜30は、凸条部22の側面22bの全部(凸条部22の先端22aからベース部21までのすべての側面22b)を覆ってはいない。
さらに、凸条部22の先端22a及び少なくとも一方の側面22bの上部側(以下、「凸条部22の頂部」と称する場合もある。)を覆い包む反射膜30の表面は、丸みを有して湾曲した形状(例えば、縦長の略楕円状)を有し、凸条部22の幅方向(X方向)に膨出している。このように、反射膜30の表面は、丸く滑らかに湾曲した曲面形状となっており、角張ったコーナー部や段差部を有していない。このように凸条部22の頂部を覆い包む反射膜30の最大幅WMAXは、凸条部22の底部の幅W以上である。さらに、WMAXは、Wよりも大きいことが好ましい。
ここで、凸条部22を覆い包む反射膜30の最大幅WMAXは、凸条部22の幅方向(X方向)における反射膜30の両側の最外表面の水平幅のうち、最大となる水平幅である。図1及び図5等に示すように、凸条部22を覆い包む反射膜30の両側の最外表面の水平幅(X方向の幅)は、当該反射膜30の高さ位置(Z方向の高さ)によって異なるが、これら水平幅のうちの最大値が、最大幅WMAXである。換言すると、最大幅WMAXは、反射膜30の両側の厚みDs×2と、凸条部22の水平幅Wとの合計幅の最大値である。例えば、グリッド構造体20に対して正面方向(Z方向)から光が入射する場合(入射角度θ=0°の場合)、WMAXは、反射膜30の実効的なグリッド幅に相当する。
凸条部22の底部の幅Wは、図1及び図3に示すように、凸条部22の最下部(ベース部21の上面)から凸条部22の高さHの20%上部の高さ位置(Z方向の高さ)における凸条部22の水平幅(X方向の幅)である。つまり、凸条部22の底部の幅Wは、ベース部21の上面から上方に0.2×Hの高さの位置における、凸条部22の水平幅である。
また、凸条部22の頂部の幅Wは、図1及び図3に示すように、凸条部22の先端22aから凸条部22の高さHの20%下部の高さ位置(Z方向の高さ)における凸条部22の水平幅(X方向の幅)である。つまり、凸条部22の頂部の幅Wは、ベース部21の上面から上方に0.8×Hの高さの位置(即ち、凸条部22の先端22aから下方に0.2×Hの高さの位置)における、凸条部22の水平幅である。
なお、以下の説明では、凸条部22と反射膜30を合わせた凸構造体を「グリッド」と称し、凸条部22と反射膜30を合わせた凸構造体(即ち、グリッド)の高さを「グリッド高さ」と称する場合もある。また、凸条部22を覆い包む反射膜30の最大幅WMAXを「グリッド最大幅WMAX」と称し、凸条部22の底部の幅Wを「グリッド底部幅W」と称する場合もある。また、凸条部22の頂部の幅Wを「凸条部頂部幅W」と称し、凸条部22の高さ方向の中央位置の幅を「凸条部中央幅」と称する場合もある。
このように、本実施形態では、凸条部22の底部の幅Wとして、凸条部22の最下部(底部)から20%上部の高さ位置における凸条部22の水平幅を用い、凸条部22の頂部の幅Wとして、凸条部22の先端22aから20%下部の高さ位置における凸条部22の水平幅を用いる。この理由は、ベース部21の上面における凸条部22の最下部の幅や、凸条部22の先端22aの幅は、グリッド構造体20の製造条件等により大きくばらつくので、これらの幅を緻密に測定することが困難だからである。
以上説明したように、本実施形態に係るグリッド構造体20では、先細り形状の凸条部22と、当該凸条部22の先端22a及び側面22bの上部側のみを覆い包む反射膜30とが形成されている。そして、凸条部22の側面22bの下部側は反射膜30で被覆されておらず、開放されている。
この結果、湾曲した反射膜30で覆い包まれた凸条部22の断面形状(つまり、グリッドの断面形状)は、次のような特殊な断面形状を有する。即ち、図1及び図5等に示すように、反射膜30が存在する凸条部22の上部側の部分の水平幅(例えば、グリッド最大幅WMAX)が大きく、反射膜30で覆われておらず露出した凸条部22の中央部から底部側にかけての部分の水平幅(例えば、露出した凸条部22の底部の幅W)が小さくなっている。そして、凸条部22と反射膜30とで構成される凸構造体全体(即ち、「グリッド」)の断面形状は、湾曲した反射膜30の下端部の直下の位置で、内側にくびれており、X方向の幅が狭くなったくびれ部を有する。このようなグリッドの特殊な断面形状は、樹木の形状に例えることができる。具体的には、丸く大きく広がった樹木の葉の部分が、凸条部22の頂部を覆い包む反射膜30の部分に相当し、当該樹木の幹の部分が、反射膜30で覆われていない凸条部22の下部側部分に相当し、当該樹木が生えている大地の部分がベース部21に相当する。そこで、以下の説明では、上記のようなグリッド構造体20の凸条部22と反射膜30とで構成されるグリッドの特殊な断面形状を、「特殊な樹木形状」と称する。
本実施形態に係る偏光素子1のグリッド構造体20のグリッドは、上記のような特殊な樹木形状を有する。これにより、例えば、後述する図31に示すように、偏光素子1に対して斜め方向から入射光が入射した場合、実効的なグリッド幅Wが小さくなり、ギャップ幅Wが大きくなる。ここで、実効的なグリッド幅Wは、斜入射光に対して垂直な方向の反射膜30の幅である。ギャップ幅Wは、相隣接する2つのグリッドの反射膜30、30間の隙間であって、斜入射光に対して垂直な方向の隙間の幅である。実効的なグリッド幅Wが大きいほど、斜入射光は、反射膜30で反射されやすく、透明な凸条部22やベース部21に到達しにくい。したがって、偏光素子1において斜入射光の透過率は低下する。一方、ギャップ幅Wが大きいほど、斜入射光は、相隣接する2つの反射膜30、30の間をすり抜けて、透明な凸条部22やベース部21に到達しやすい。よって、斜入射光に対する透過率を上昇させることができる。
ゆえに、本実施形態に係る偏光素子1のグリッドは、上記の特殊な樹木形状を有するので、斜入射光に対するギャップ幅Wが大きくなり、斜入射光が丸い反射膜30、30の隙間をすり抜けて、透明なグリッド構造体20に到達して、透過しやすい。したがって、斜入射光の透過軸透過率Tpが高いので、斜入射光に対する透過性と、偏光分離特性(Tp×Rs特性)が非常に優れる。さらに、反射膜30による斜入射光の反射機能と、グリッド構造体20による斜入射光の透過機能とをバランスよく実現でき、斜入射光に対する偏光分離特性をより一層向上できる。
<2.5.反射膜の形成方法と具体例>
ここで、図5を参照して、反射膜30を形成する方法について説明する。
反射膜30がグリッド構造体20の凸条部22の先端22a及び両側面22bの一部を覆うように、反射膜30を形成する方法としては、図5に示すように、グリッド構造体20の凸条部22に対して斜め方向(成膜入射角度φ)から交互にスパッタリング又は蒸着を行うことで、反射膜30を形成することが好ましい。これによって、反射膜30を凸条部22の先端22a及び両側面22bの上部側を覆い包むように形成することができる。なお、スパッタリング又は蒸着により反射膜30を形成するための成膜入射角度φは、特に限定されないが、例えば、基板10の表面に対して5~70°程度とすることができる。
このように、本実施形態では、透明材料からなるグリッド構造体20を形成した後に、金属材料からなる反射膜30をスパッタリング又は蒸着法により形成する。これにより、反射膜30の成膜条件や材料、膜厚を、容易に変更することができる。また、反射膜30が多層膜からなる場合にも、容易に対応することができる。このため、金属や半導体、誘電体を組み合わせることで干渉効果を利用した膜設計が可能となり、従来技術のようにエッチングによる反射膜30を形成する際、エッチングできる材料構成などを考慮する必要がない。それにより、グリッド構造体20に平行な偏光波の反射率を調整することや、グリッドに対して垂直な方向の偏光の透過率(透過量)を調整することも容易になる。加えて、グリッド構造体20を形成した後で、反射膜30を成膜することより、真空Dryエッチング装置等の設備も必要なく、複雑なプロセスやエッチング材料に合わせたガスや除害装置などの安全装置などを揃える必要もない。よって、設備投資や保守などのランニングコストを削減でき、コストメリットも得ることができる。
なお、図5に示す凸条部22の先端22aを覆う反射膜30の厚さDtや、凸条部22の側面22bを覆う反射膜30の厚さDsは、特に限定されず、グリッド構造体20の凸条部22の形状や、反射膜30に要求される性能等に応じて適宜変更できる。例えば、より優れた反射性能を得る観点から、反射膜30の厚さDt、Dsを、2~200nmとすることが好ましく、5~150nmとすることがより好ましく、10~100nmとすることがさらに好ましく、15~80nmとすることが特に好ましい。なお、反射膜30の厚さDsは、図5に示すように、凸条部22の側面22bを覆う反射膜30のうち最も厚い部分の厚さである。
また、反射膜30の形状は、上述した特殊な樹木形状を形成可能な形状であれば、特に限定されず、反射膜30を形成するための装置の条件や、反射膜30に要求される性能に応じて適宜選択できる。
図6は、反射膜30の形状の具体例を模式的に示す断面図である。図6に示すように、反射膜30は、凸条部22の頂部(先端22a及び側面22bの上部側)を包み込むように湾曲した形状であれば、種々の形状を有してよい。
例えば、図6に示す反射膜30Aは、各種の断面形状の凸条部22A、22B、22Cの頂部を、丸く包み込むように被覆しており、凸条部22の幅方向に大きく膨出した略楕円形を有する。また、反射膜30Bは、略楔状の凸条部22Dの頂部を包み込むように覆う湾曲形状を有する。また、反射膜30Cは、台形状の凸条部22Aの頂部を包み込むように覆う湾曲形状を有する。これら反射膜30B、30Cによる凸条部22の一方の側面22bの被覆率Rcと、他方の側面22bの被覆率Rcは、概ね同一である。
また、反射膜30Dは、略楔状の凸条部22Dの頂部を包み込むように覆っているが、凸条部22の一方の側面22b(図6に示す左側の側面22b)側に偏在している。具体的には、反射膜30Dは、凸条部22の左側の側面22bの広い範囲を被覆しており、その被覆率Rcは80%程度である。一方、反射膜30Dは、右側の側面22bのうち上部側の狭い範囲しか被覆しておらず、その被覆率Rcは25%程度である。このように、凸条部22の一方の側面22bと他方の側面22bとの間で、反射膜30Dによる被覆率Rcが相違してもよい。
<2.6.反射膜による凸条部の被覆率Rcの好適な範囲>
次に、本実施形態に係る反射膜30による凸条部22の側面22bの被覆率Rcの好適な範囲について説明する。
被覆率Rcは、25%以上、80%以下であることが好ましい。ここで、被覆率Rcは、図1及び図5に示す凸条部22の高さ(H)に対する、凸条部22の側面22bのうち反射膜30により被覆された部分の高さ(Hx)の割合である。被覆率Rcは、以下の式(1)で表される。
Rc[%]=(Hx/H)×100 ・・・(1)
H :凸条部22のZ方向の高さ
Hx:凸条部22の側面22bのうち反射膜30により被覆された部分のZ方向の高さ
また、開放率Rrは、図1及び図5に示す凸条部22の高さ(H)に対する、凸条部22の側面22bのうち反射膜30により被覆されていない部分の高さ(H-Hx)の割合である。開放率Rrは、以下の式(2)で表される。
Rr[%]=((H-Hx)/H)×100 ・・・(2)
以上の定義からすると、Rr=100-Rcである。よって、反射膜30による凸条部22の側面22bの被覆率Rcが、25%以上、80%以下である場合、反射膜30による凸条部22の側面22bの開放率Rrは、20%以上、75%以下になる。
以上のように、本実施形態に係る偏光素子1では、反射膜30による凸条部22の側面22bの被覆率Rcが25%以上、80%以下(つまり、開放率Rrが20%以上、75%以下)であることが好ましい。詳細には、本実施形態では、反射膜30が、凸条部22の先端22a及び両側面22bの上部側を被覆し、両側面22bの下部側を被覆せずに開放するように形成される。そして、被覆率Rcは、25%以上、80%以下であることが好ましく、30%以上、70%以下であることがより好ましく、40%以上、50%以下であることがより一層好ましい。
かかる構成により、本実施形態に係る偏光素子1は、大きな入射角度θ(例えば45~60°)の斜入射光に対しても、十分な透過性を発揮することができる。例えば、偏光素子1により斜入射光をS偏光(反射光)とP偏光(透過光)に分離するとき、斜入射光の入射角度θに関わらず、偏光素子1を透過するP偏光(透過光)の透過率Tpを高い値に維持することができる。また、被覆率Rcを25%以上、80%以下にすることにより、透過軸反射率(Ts)に対する透過軸透過率(Tp)の比であるコントラスト(CR=Tp/Ts)を良好なレベルで維持しつつ、入射角度θに依存することなく、上述した反射膜30による反射作用をより確実に発揮できる。したがって、斜入射光の入射角度θに関わらず、透過光の高い透過性を確保し、偏光分離特性を向上することができる。
これに対し、比較例として、反射膜30が、グリッド構造体20の凸条部22の先端22aのみを覆うように形成される場合や、凸条部22の先端22a及び片側の側面22bの全体を覆うように形成される場合(例えば図18参照。)には、斜入射光の入射角度θに依存して透過率Tpのバラツキが大きくなり、大きな入射角度θの斜入射光に対しても十分な透過性を得ることができないと考えられる。また、比較例として、反射膜30が、グリッド構造体20の凸条部22の先端22a及び両側面22bの全てを覆う場合(被覆率Rcが100%である場合)には、斜入射光の入射角度θが大きくなると、透過性が大幅に低下する。
よって、斜入射光の入射角度θに依存せずに、透過光の透過性や偏光分離特性を向上する観点からは、本実施形態に係る偏光素子1のように、反射膜30により凸条部22の先端22a及び少なくとも一方の側面22bの一部(側面22bの上部側)を被覆することが好ましい。
さらに、偏光ビームスプリッタ(PBS)として要求されるTp×Rs特性の観点から、本実施形態に係る偏光素子1において、反射膜30による凸条部22の側面22bの被覆率Rcが、25%以上、80%以下であることが好ましい(例えば図27参照。)。
被覆率Rcが25%未満である場合には、偏光素子1を透過するP偏光の透過軸透過率Tpが低下し、入射角度θに依存して透過率Tpにバラツキが生じ、十分に高いTp×Rsの値も得られない。このため、大きな入射角度θの斜入射光に対して、透過光の十分な透過性と、Tp×Rsで表される偏光分離特性を得ることができない。一方、被覆率Rcが80%超である場合(例えば図20参照。)には、グリッド構造体20の凸条部22の先端22a及び両側面22bの全てを覆う場合と同様に、斜入射光の入射角度θが大きくなるほど(例えば45~60°)、透過軸透過率Tpが低下するため、入射角度θに依存して透過率Tpにバラツキが大きくなってしまう。
したがって、反射膜30による凸条部22の側面22bの被覆率Rcは、25%以上、80%以下であることが好ましい(例えば図27参照。)。これにより、偏光素子1に対して、例えば45°の入射角度θで斜め方向から光が入射する場合に、偏光素子1を透過する第2の偏光(P偏光)の透過軸透過率Tpを75%以上にすることができる。この結果、Tp×Rsを70%以上にすることができる。よって、大きな入射角度θで広い範囲の斜入射光が入射する場合でも、偏光素子1の透過軸方向の第2の偏光(P偏光)の透過性を高めて、偏光素子1の偏光分離特性を向上でき、偏光素子1により斜入射光を第1の偏光(S偏光)と第2の偏光(P偏光)とに好適に分離できる。
同様の観点から、被覆率Rcは、30%以上、70%以下(つまり、開放率Rrは30%以上、70%以下)であることがより好ましい。これにより、上記の斜入射条件の場合で、80%以上の高い透過率Tpが得られ、72%以上の高いTp×Rsを得ることができる。また、被覆率Rcは、30%以上、60%以下(つまり、開放率Rrは40%以上、70%以下)であることがより好ましい。これにより、上記の斜入射条件の場合で、83%以上の高い透過率Tpが得られ、75%以上の高いTp×Rsを得ることができる。さらに、被覆率Rcは、40%以上、50%以下(つまり、開放率Rrは50%以上、60%以下)であることが、より一層好ましい。これにより、上記の斜入射条件の場合で、85%以上の非常に高い透過率Tpが得られ、77%以上の非常に高いTp×Rsを得ることができる。
また、反射軸反射率Rsに関しては、被覆率Rcが20%以上であることが好ましい。これにより、上記の斜入射条件の場合で、85%以上の高い反射率Rsが得られる。
また、透過光のコントラストCR(CR=Tp/Ts)に関しては、被覆率Rcが20%以上であれば、十分なコントラストCRが得られる。被覆率Rcが高いほど、高いコントラストCRが得られる。
<2.7.Tp×Rsの好適な範囲>
次に、本実施形態に係るワイヤグリッド偏光素子1の偏光分離特性を表す指標である「Tp×Rs」の好適な範囲について説明する。
Tp×Rs[%]は、透過軸透過率(Tp)と反射軸反射率(Rs)との積を百分率で表したものである。このTp×Rsは、ワイヤグリッド偏光素子1の偏光分離特性を表す指標となる。
Tp×Rs[%]=(Tp[%]/100)×(Rs[%]/100)×100
なお、上述したように、透過軸透過率(Tp)は、偏光素子1の透過軸(X方向)に平行な電界成分を有する第2の偏光(P偏光)の透過率である。反射軸反射率(Rs)は、偏光素子1の反射軸(Y方向)に平行な電界成分を有する第1の偏光(S偏光)の反射率である。
本実施形態に係るワイヤグリッド偏光素子1を偏光ビームスプリッタとして使用して、入射光をS偏光とP偏光に分離する場合(図15~図17参照。)、偏光素子1は、光源からの入射光に対して所定の角度(例えば45°)だけ傾斜して配置される。例えば、光源からの入射光が偏光素子1に対して斜め45°程度の入射角度θで入射すると、当該入射光は、偏光素子1により第1の偏光(S偏光:反射光)と第2の偏光(P偏光:透過光)とに分離される。S偏光は、入射光のうち、グリッド構造体20の凸条部22の長手方向(図2に示す反射軸方向:Y方向)に対して平行な方向の電界成分を有する光である。一方、P偏光は、入射光のうち、グリッド構造体20の凸条部22の幅方向(図2に示す透過軸方向:X方向)に対して平行な方向の電界成分を有する光である。
反射軸方向のS偏光は主に、偏光素子1の反射膜30により反射する反射光となる。このときのS偏光の反射率[%]が、反射軸反射率(Rs)である。反射軸反射率(Rs)は、偏光素子1に入射するS偏光のうち、偏光素子1で反射するS偏光の割合を表す。なお、反射軸透過率(Rp)は、偏光素子1に入射するS偏光のうち、偏光素子1を透過するS偏光の割合を表す。
一方、透過軸方向のP偏光は主に、偏光素子1の透明なグリッド構造体20及び基板10を透過する透過光となる。このときのP偏光の透過率[%]が、透過軸透過率(Tp)である。透過軸透過率(Tp)は、偏光素子1に入射するP偏光のうち、偏光素子1を透過するP偏光の割合を表す。なお、透過軸反射率(Ts)は、偏光素子1に入射するP偏光のうち、偏光素子1で反射するP偏光の割合を表す。
したがって、透過軸透過率Tpが高い方が、透過軸方向のP偏光を効率的に透過できることを意味する。また、反射軸反射率Rsが高い方が、反射軸方向のS偏光を効率的に反射できることを意味する。よって、TpとRsの積であるTp×Rs値が高い方が、P偏光(透過光)の透過性及びS偏光(反射光)の反射性の双方が高く、偏光ビームスプリッタとしての偏光分離特性に優れることになる。
ここで、本実施形態に係るTp×Rsの値の好適な範囲について説明する。本実施形態に係る偏光素子1に対して、所定の入射角度θ(例えば45°)で斜め方向から、所定範囲の波長(例えば430~680nm)の光を入射し、P偏光(透過光)とS偏光(反射光)に分離する場合を考える。このような斜入射条件の場合、偏光素子1の良好な偏光分離特性の観点からは、Tp×Rsは、70%以上であることが好ましい。
Tp×Rsが70%未満であると、偏光素子が適用される表示デバイスにおいて、光の利用効率が悪く、表示画像の明るさが不足し、視認性が劣る。これに対し、Tp×Rsが70%以上であれば、偏光素子1が適用される表示デバイスにおいて光の利用効率を高めて、表示画像の十分な明るさを確保でき、視認性を向上できる。
さらに、Tp×Rsが、72%以上であることがより好ましく、75%以上であることがより一層好ましく、80%以上であることが特に好ましい。これにより、上記のような光の利用効率と、表示画像の明るさと視認性をさらに向上できる。
<2.8.凸条部の高さHの好適な範囲>
本実施形態に係る偏光素子1に対して、比較的大きい入射角度θ(例えば45°)で入射光が入射される場合、グリッド構造体20の凸条部22の高さH(図1、図3等参照)は、160nm以上であることが好ましく、180nm以上であることがより好ましく、220nm以上であることが特に好ましい(図24参照。)。これにより、高い透過軸透過率Tpと、優れたTp×Rs特性と、透過光の高いコントラストCRが得られる。
具体的には、透過率に関しては、凸条部22の高さHが160nm以上であれば、斜入射光の透過軸透過率Tpが80%以上になり、高い透過率が得られる。さらに、Hが180nm以上であれば、85%以上のTpが得られるので、より好ましい。加えて、Hが220nm以上であれば、87%以上のTpが得られるので、特に好ましい。
また、偏光ビームスプリッタ(PBS)として要求されるTp×Rs特性に関しては、凸条部22の高さHが160nm以上であれば、70%以上の優れたTp×Rsが得られる。さらに、Hが180nm以上であれば、75%以上のTp×Rsが得られるので、より好ましい。加えて、Hが220nm以上であれば、77%以上のTp×Rsが得られるので、特に好ましい。
また、透過光のコントラストCR(CR=Tp/Ts)に関しては、凸条部22の高さHは100nm以上であればよいが、Hが160nm以上であれば、150以上の優れたコントラストCRが得られる。さらに、Hが180nm以上であれば、250以上の優れたCRが得られるので、より好ましい。加えて、Hが220nm以上であれば、500以上の優れたCRが得られるので、特に好ましい。
以上のように、偏光素子1の各種の特性(Tp、Tp×Rs、CR)、特にTpを良好にするためには、凸条部22の高さHは、より大きい方が好ましいことが分かる。この理由は、次のとおりであると考えられる。即ち、スパッタリング又は蒸着等により凸条部22上に反射膜30を成膜するときの成膜入射角度φ(図5参照。)が同一である場合、凸条部22の高さHが低くなるほど、反射膜30による被覆率Rcが大きくなる。被覆率Rcが大きくなると、反射膜30により被覆される凸条部22の範囲が広くなるため、P偏光がグリッド構造体20を透過しにくくなり、透過率Tpが低下する。したがって、成膜入射角度φが同一であるという条件下では、凸条部22の高さHをより大きくすることによって、被覆率Rcを小さくして、透過率Tpを上昇させることが好ましいといえる。
<2.9.機能膜(反射膜)の先端厚さDtの好適な範囲>
本実施形態に係る偏光素子1に対して、比較的大きい入射角度θ(例えば45°)で入射光が入射される場合、グリッド構造体20の凸条部22の先端22aを覆う反射膜30の厚さDt(反射膜30の先端厚さDt:図5参照。)は、5nm以上であることが好ましく、15nm以上であることがより好ましい(例えば図25参照。)。
反射膜30の先端厚さDtが5nm以上であれば、斜入射光の反射軸反射率Rs及び透過軸透過率Tpの双方が85%以上になり、高い透過率が得られる。さらに、Tp特性、及び偏光ビームスプリッタとして求められるTp×Rs特性を考慮した場合、Dtは15nm以上であることがより好ましい。
<2.10.機能膜(反射膜)の側面厚さDsの好適な範囲>
また、グリッド構造体20の凸条部22の側面22bを覆う反射膜30の厚さDs(反射膜30の側面厚さDs:図5参照。)は、10nm以上、30nm以下であることが好ましく、12.5nm以上、25nm以下であることがより好ましく、15nm以上、25nm以下であることが特に好ましい(例えば図26参照。)。これにより、高い透過軸透過率Tpと、優れたTp×Rs特性と、透過光の高いコントラストCRが得られる。
具体的には、透過率に関しては、反射膜30の側面厚さDsが10nm以上、30nm以下であれば、斜入射光の透過軸透過率Tpが80%以上になり、高い透過率が得られる。さらに、Dsが12.5nm以上、25nm以下であれば、85%以上のTpが得られるので、より好ましい。
また、反射率に関しては、反射膜30の側面厚さDsが10nm以上であれば、斜入射光の反射軸反射率Rsが80%以上になり、高い反射率が得られる。さらに、Dsが12.5nm以上であれば、85%以上のRsが得られるので、より好ましい。
また、偏光ビームスプリッタ(PBS)として要求されるTp×Rs特性に関しては、反射膜30の側面厚さDsが12.5nm以上、30nm以下であれば、70%以上の優れたTp×Rsが得られる。さらに、Dsが15nm以上、25nm以下であれば、76%以上のTp×Rsが得られるので、より好ましい。
また、透過光のコントラストCR(CR=Tp/Ts)に関しては、反射膜30の側面厚さDsは10nm以上であればよいが、Dsが12.5nm以上であれば、50以上の優れたコントラストCRが得られる。さらに、Dsが15nm以上であれば、100以上のCRが得られるので、より好ましい。
<2.11.反射膜の偏在>
また、本実施形態に係る偏光素子1では、凸条部22を覆う反射膜30を、凸条部22の片側に偏在させて、凸条部22の幅方向(X方向)に左右非対称な形状にしてもよい(例えば図29参照。)。具体的には、凸条部22の一方の側面22bと他方の側面22bとの間で、反射膜30の側面厚さDsや被覆率Rcなどを変えて、反射膜30を凸条部22の一方の側面22bに偏在させてもよい。つまり、反射膜30は、凸条部22の一方の側面22bを厚く、広く被覆し、他方の側面22bを薄く、狭く被覆するようにしてもよい。
このように反射膜30を凸条部22の片側に偏在させる場合、偏光素子1に対する入射角度が+θ(+30°~+60°)である入射光の透過軸透過率Tp(+)と、入射角度が-θ(-30°~-60°)である入射光の透過軸透過率Tp(-)との差が、3%以内であることが好ましい。そして、当該Tp(+)とTp(-)との差が3%以内となるように、凸条部22の一方の側面22bと他方の側面22bをそれぞれ被覆する反射膜30の厚さDsや被覆率Rcを調整して、反射膜30を凸条部22の片側に適切に偏在させることが好ましい。
なお、入射角度が+θであるとは、凸条部22に対してX方向(凸条部22の幅方向)の一側に傾斜した方向から斜入射光を入射することを意味する。一方、入射角度が-θであるとは、凸条部22に対してX方向の他側に傾斜した方向から斜入射光を入射することを意味する(例えば図29参照。)。
以上のように、反射膜30を凸条部22の片側に偏在させる場合、Tp(+)とTp(-)との差を3%以内にすることが好ましい。これにより、反射膜30を凸条部22の片側に偏在させる場合であっても、高い透過軸透過率Tpと、優れたTp×Rs特性と、透過光の高いコントラストCRが得られる。
具体的には、透過率に関しては、反射膜30を片側に偏在させる場合であっても、入射角度θが+45°及び-45°の斜入射光の透過軸透過率Tpが85%以上になり、高い透過率が得られる。
また、反射率に関しては、反射膜30を片側に偏在させる場合であっても、入射角度θが+45°及び-45°の斜入射光の反射軸反射率Rsが85%以上になり、高い反射率が得られる。
また、偏光ビームスプリッタ(PBS)として要求されるTp×Rs特性に関しては、反射膜30を片側に偏在させる場合であっても、入射角度θが45°の斜入射光のTp×Rsが75%以上となり、優れたTp×Rs特性が得られる。
また、透過光のコントラストCR(CR=Tp/Ts)に関しては、反射膜30を片側に偏在させる場合であっても、優れたコントラストCRが得られる。さらに、コントラストを向上させる観点からは、凸条部22の一方の側面22bと他方の側面22bをそれぞれ覆う反射膜30の厚さDsのうち、薄い方の厚さDsが5nm以上(その被覆率Rcが22%以上)であることが好ましく、当該薄い方の反射膜30の厚さDsが10nm以上(その被覆率Rcが33%以上)であることがより好ましい。
<2.12.その他の構成要素>
本実施形態に係る偏光素子1は、上述した基板10、グリッド構造体20及び反射膜30以外の構成要素を、さらに備えることもできる。
例えば、図7に示すように、偏光素子1は、少なくとも反射膜30の表面を覆うように形成された保護膜40をさらに備えることが好ましい。詳細には、図7に示すように、保護膜40は、グリッド構造体20の表面全体を覆うことがより好ましい。すなわち、保護膜40は、グリッド構造体20の凸条部22の側面22b及びベース部21の表面と、反射膜30の表面とを全て覆うように形成されることがより好ましい。かかる保護膜40を形成することで、偏光素子1の耐擦傷性や防汚性、防水性をより高めることができる。
また、保護膜40は、さらに、撥水性コーティング又は撥油性コーティングを含むことがより好ましい。これにより、偏光素子1の防汚性及び防水性をより高めることができる。
保護膜40を構成する材料は、偏光素子1の耐擦傷性や防汚性、防水性を高めることができるものであれば、特に限定されない。保護膜40を構成する材料としては、例えば、誘電材料からなる膜が挙げられ、より具体的には、無機酸化物、シラン系撥水材料等が挙げられる。無機酸化物としては、Si酸化物、Hf酸化物等が挙げられる。シラン系撥水材料は、パーフルオロデシルトリエトキシシラン(FDTS)等のフッ素系シラン化合物を含有するものであってもよく、オクタデシルトリクロロシラン(OTS)等の非フッ素系シラン化合物を含有するものであってもよい。
これらの材料の中でも、無機酸化物及びフッ素系撥水材料の少なくとも一方を含むことがより好ましい。保護膜40が、無機酸化物を含むことで、偏光素子の耐疵付き性をより高めることができ、フッ素系撥水材料を含むことで、偏光素子の防汚性及び防水性をより高めることができる。
なお、保護膜40は、少なくとも反射膜30の表面を覆うように形成されればよいが、図7に示すように、グリッド構造体20及び反射膜30の表面全体を覆うように形成されることがより好ましい。この場合、例えば、図7の上側の図に示すように、保護膜40は、グリッド構造体20の端面(ベース部21の端面)を覆ってもよいし、あるいは、図7の下側の図に示すように、保護膜40は、グリッド構造体20の端面(ベース部21の端面)を覆わなくてもよい。また、図8に示すように、保護膜40は、グリッド構造体20及び反射膜30の表面に加えて、基板10の表面も含めて、偏光素子1の全体を覆うように形成されることもできる。このように、グリッド構造体20又は偏光素子1の最外表面を無機酸化物からなる保護膜40で覆うことにより、偏光素子1全体の熱抵抗Rをさらに低減できるので、偏光素子1の放熱性がさらに向上する。
さらに、本実施形態に係る偏光素子1は、図9に示すように、基板10の周囲を取り囲むように、放熱部材50が設けられることが好ましい。この放熱部材50により、基板10から伝達される熱を、より効率的に放出することができる。ここで、放熱部材50は、放熱効果が高い部材であれば、特に限定されない。放熱部材50は、例えば、放熱器、ヒートシンク、ヒートスプレッダ、ダイパッド、ヒートパイプ、金属カバー又は筐体等であってよい。
<2.13.実際のグリッド構造体の画像>
次に、図10を参照して、本実施形態に係る偏光素子1を実際に作製し、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて拡大撮影した例について説明する。図10Aは、反射膜30により被覆される前のグリッド構造体20を、斜め方向から見たSEM画像である。図10Bは、反射膜30により被覆される前のグリッド構造体20の凸条部22の断面を示すSEM画像である。図10Cは、反射膜30により被覆されたグリッド構造体20の凸条部22の断面を示すSEM画像である。
図10A及び図10Bに示すように、グリッド構造体20には、基板10の表面に沿って設けられたベース部21と、ベース部21から突出した凸条部22が形成されている。複数の凸条部22は、ほぼ等しいピッチPで配列されている。各々の凸条部22は、ベース部21から離れるにつれて幅が細くなる先細り形状を有している。凸条部22の頂部の幅Wは、凸条部22の底部の幅Wよりも狭い。ピッチPは、凸条部22の底部の幅Wよりも十分に大きい。凸条部22の高さHは、ピッチPよりも大きい。図10の例では、P=140nm、W=10nm、W=30nm、H=220nmである。また、図10Cに示すように、凸条部22の先端22a及び両側面22bを覆い包むように反射膜30が形成されている。反射膜30の外側表面は、丸みを有して湾曲しており、凸条部22の幅方向に膨出している。
<3.偏光素子の製造方法>
次に、図11を参照して、本実施形態に係るワイヤグリッド偏光素子1の製造方法について説明する。図11は、本実施形態に係るワイヤグリッド偏光素子1の製造方法を示す工程図である。
上述したように、本実施形態に係る偏光素子1は、無機材料(基板10)と有機材料(グリッド構造体20)とからなるハイブリッド型のワイヤグリッド偏光素子1である。以下では、当該ハイブリッド型のワイヤグリッド偏光素子1の製造方法について説明する。
図11に示すように、本実施形態に係るワイヤグリッド偏光素子1の製造方法は、グリッド構造体材料形成工程(S10)と、ナノインプリント工程(S12)と、グリッド構造体形成工程(S14)と、反射膜形成工程(S16)とを含む。
グリッド構造体材料形成工程(S10)
まず、S10では、透明な無機材料(例えばガラス)からなる基板10上に、透明な有機材料(例えば、紫外線硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂)からなるグリッド構造体材料23を、塗布等により積層する。なお、基板10の無機材料としては、上述した各種の材料を用いることができる。また、グリッド構造体20の有機材料としては、上述した各種の材料を用いることができる。さらに、グリッド構造体材料23の膜厚は、S20のナノインプリントによって形成されるグリッド構造体20のベース部21及び凸条部22の寸法に応じて適宜調整すればよい。
ナノインプリント工程(S12)及びグリッド構造体形成工程(S14)
次いで、S12にて、グリッド構造体材料23にナノインプリントを施すことによって、S14にて、基板10上にグリッド構造体20を形成する。グリッド構造体20は、基板10上に設けられるベース部21と、ベース部21から突出する複数の凸条部22とが一体形成された微細凹凸構造体である。微細凹凸構造体は、例えば数nm~数十nmオーダーの微細な凸部と凹部を有する構造体である。
S12のナノインプリント工程では、当該グリッド構造体20の微細凹凸形状の反転形状が形成された原盤60を用いて、グリッド構造体材料23の表面に当該原盤60の微細凹凸形状を転写する(S12)。これにより、グリッド構造体材料23に、上記ベース部21、凸条部22及び凹部24からなる凹凸パターンが形成される。さらに、ナノインプリント工程では、上記凹凸パターンの転写とともに、グリッド構造体材料23に対して、エネルギー線を照射することによって、凹凸パターンが転写されたグリッド構造体材料23を硬化させて、グリッド構造体20を形成する(S14)。例えば、グリッド構造体材料23が紫外線硬化性樹脂からなる場合は、紫外線照射装置66を用いて、グリッド構造体材料23に対して紫外線を照射することによって、凹凸パターンが転写された紫外線硬化性樹脂を硬化させてもよい。あるいは、グリッド構造体材料23が熱硬化性樹脂からなる場合は、ヒーター等の加熱装置68を用いて、グリッド構造体材料23を加熱することによって、凹凸パターンが転写された熱硬化性樹脂を硬化させてもよい
上記の工程S12及びS14では、グリッド構造体20の凸条部22として、ベース部21から離れるにつれて幅が狭くなる先細り形状を有する凸条部22を形成する。図11の例の凸条部22は、台形状(テーパー形状)であるが、図3に示したように他の各種の先細り形状であってもよい。
このように、本実施形態では、ナノインプリント工程S12にて、先細り形状を有する凸条部22をインプリントするため、原盤60をグリッド構造体材料23から容易に剥離することができ、型抜け性に優れる。また、グリッド構造体20の凸条部22を、型崩れさせることなく、所望形状に正確に成形できる。
反射膜形成工程(S16)
次いで、S16では、Al、Agなどの金属材料を用いて、グリッド構造体20の凸条部22の一部を被覆する反射膜30を形成する。反射膜30は、偏光素子1に所定の機能を付与する機能膜の一例である。反射膜30は、偏光素子1のグリッド構造体20に入射される入射光を反射するための金属薄膜(金属細線のグリッド)である。
この反射膜形成工程S16では、次のように反射膜30を形成する。即ち、反射膜30が、凸条部22の先端22a及び少なくとも一方の側面22bの上部側を覆い包み、かつ、凸条部22の両側面22bの下部側及びベース部21を被覆しないように、反射膜30を形成する。さらに、凸条部22を覆い包む反射膜30の表面が、丸みを有して凸条部22の幅方向に膨出するように、反射膜30を形成する。加えて、凸条部22を覆い包む反射膜30の最大幅WMAX(グリッド最大幅WMAX)が、前述の凸条部の底部の幅W(グリッド底部幅W)以上になるように、反射膜30を形成する。
このような反射膜30の形成方法としては、例えば、図5に示したように、スパッタリング又は蒸着法を用いることができる。グリッド構造体20の凸条部22に対して斜めの方向から交互に、金属材料をスパッタリング又は蒸着して、反射膜30を成膜する。これにより、凸条部22の頂部を丸く覆い包むように、所望形状の反射膜30を好適に形成することができる。
このようにして反射膜30を形成することにより、グリッド構造体20の凸条部22と反射膜30は、上述した特殊な樹木形状を有するようになる。これにより、前述したように、比較的大きくかつ広い範囲の入射角度θ(例えば30~60°)で、光が偏光素子1に斜め方向から入射する場合であっても、当該斜入射光に含まれるP偏光の透過軸透過率Tpを高い値に維持でき、P偏光(透過光)の透過性を確保できる。よって、Tp×Rsの値を高い値(例えば70%以上)に維持できるので、斜入射光に対する偏光素子1の偏光分離特性を向上できる。
なお、本実施形態に係る偏光素子1の製造方法は、図11に示す反射膜形成工程S16の後に、必要に応じて、偏光素子1の表面を被覆する保護膜40を形成する工程(保護膜形成工程)を含んでもよい。保護膜40は、グリッド構造体20及び反射膜30の表面全体を覆うように形成することが好ましい。保護膜40の材料としては、上述した各種の材料を用いることができる。
以上、本実施形態に係る偏光素子1の製造方法について説明した。上述した工程を経ることによって、偏光素子1の製造コストの高騰や製造の煩雑さを招くことなく、偏光特性及び放熱性に優れた偏光素子1を製造できる。
ここで、本実施形態に係る製造方法と比較するために、図12を参照して、従来のワイヤグリッド偏光素子の製造方法について簡単に説明する。
図12に示すように、従来のワイヤグリッド偏光素子の製造方法では、まず、凸グリット形状を作製するために、基板10上に金属膜80を成膜する(S20)。このS20では、ガラス等の無機材料からなる基板10に、使用帯域の光を反射する材料等からなる反射膜、例えばアルミニウム等の金属膜80をスパッタ又は蒸着などを使用して成膜する。
次いで、フォトリソグラフィ技術を用い、金属膜80上にレジストマスク70をパターニングする(S22)。その後、真空ドライエッチング装置等によって、金属膜80にエッチングを施すことで、金属膜80からなる凸形状を形成する(S24)。例えばこの時に、レジストマスク70と金属膜80とのエッチング選択比が取れない場合には、金属膜80上にSiO等の酸化膜をスパッタなどでさらに成膜し、この上にフォトリソグラフィ技術によってレジストマスク70を形成する。その後、レジストマスク70を金属膜880から剥離した後(S26)、SiO膜等からなる保護膜40を、CVD等によって成膜し、必要に応じて撥水・撥油コート処理も行う(S28)。
なお、上記従来の製造方法の工程S20~S28では、基本的な構成の反射型ワイヤグリッド偏光素子を作製するプロセスを示したが、金属膜80が多層膜である場合を考えると、さらに複雑なプロセスを要する。そのため、図12のS20~S28に示すようなプロセスで作製される従来のワイヤグリッド偏光素子は、製造コストが高額になり、製造に要する時間も大きくなることが推測される。また、偏光素子を量産する場合は、光の波長よりも小さい微細凸形状を形成するために、精度の良い高額なエッチング装置やフォトリソグラフィ装置を、生産量に合わせ複数台準備することが必要となり、設備投資もより高額になることが予測される。
これに対し、本実施形態に係る偏光素子1の製造方法(図11参照。)は、ナノインプリントなどのインプリント技術を用いて、グリッド構造体20を成形するので、上記従来の製造方法(図12参照。)と比べて、製造コストや製造時間、設備投資を大幅に低減することができる。
本実施形態に係る偏光素子1の製造方法では、グリッド構造体材料23にナノインプリントを施す(図11のS12)が、ナノインプリントの条件は、特に限定されない。例えば、図11のS12に示すように、原盤60としてレプリカ原盤(本型原盤でも良い)を用い、ナノインプリントを行いつつ、グリッド構造体材料23に対してUV照射又は加熱等を行い、凹凸パターンがインプリントされた状態でグリッド構造体材料23を硬化させる。その後、硬化したグリッド構造体材料23から原盤60を離型する。これにより、ベース部21及び凸条部22が形成されたグリッド構造体20を、転写により成形することができる。
なお、本実施形態に係る偏光素子1の製造方法におけるナノインプリント工程S12(図11)で用いる原盤60は、例えば、図13に示すように、フォトリソグラフィ技術によって作製することができる。図13は、本実施形態に係る原盤60の製造方法を示す工程図である。
図13に示すように、まず、原盤用基材61上に、原盤用金属膜62を成膜した後(S30)、原盤用金属膜62上にレジストマスク70を形成する(S32)。次いで、レジストマスク70を用いて原盤用金属膜62をエッチングし、当該エッチングされた原盤用金属膜62に、上記グリッド構造体20の凸条部22に対応する凹溝65を形成する(S34)。
その後、原盤用金属膜62からレジストマスク70を剥離することによって、原盤60が得られる(S36)。原盤60は、原盤用基材61上に成形された複数の凸部63及び凹溝65からなる微細凹凸構造を有する。原盤60の表面の微細凹凸構造は、上記偏光素子1のグリッド構造体20の表面の微細凹凸構造の反転形状を有する。原盤60の凹溝65は、グリッド構造体20の凸条部22の反転形状を有し、原盤60の凸部63は、グリッド構造体20の凸条部22、22間の凹部24の反転形状を有する。
さらに、本実施形態に係る製造方法は、必要に応じて、原盤60の微細凹凸構造の表面に、離型膜コート64を形成する工程(S38)を含んでもよい。原盤60の表面に離型膜コート64を設けることにより、上記図11に示したナノインプリント工程(S12)でグリッド構造体材料23にナノインプリントを施した後に、原盤60をグリッド構造体材料23から容易に剥離することができ、離型性をさらに向上できる。
<4.投影表示装置>
次に、図14を参照して、本実施形態に係るワイヤグリッド偏光素子1が適用される投影表示装置について説明する。
本実施形態に係る投影表示装置は、上述した本実施形態に係るワイヤグリッド偏光素子1を備える。本実施形態に係る投影表示装置が偏光素子1を備えることによって、優れた偏光特性と、偏光素子1の耐熱性及び放熱性などを実現できる。
ここで、投影表示装置は、対象物に向けて光を投影し、当該投影した光(投影光)を、対象物の被表示面(投影面)に照射することで、画像や映像等の虚像を表示させる装置である。投影表示装置の種類としては、例えば、ヘッドアップディスプレイ装置(HUD)、プロジェクタ装置等が挙げられる。
<4.1.ヘッドアップディスプレイ装置>
ます、図14を参照して、本実施形態に係るワイヤグリッド偏光素子1を備えたヘッドアップディスプレイ装置100について説明する。図14は、本実施形態に係るヘッドアップディスプレイ装置100の一例を示す模式図である。
図14に示すように、本実施形態に係るヘッドアップディスプレイ装置100は、上述した本実施形態に係るワイヤグリッド偏光素子1を備える。ヘッドアップディスプレイ装置100が偏光素子1を備えることによって、偏光特性、耐熱性及び放熱性を向上させることができる。従来の偏光素子を組み込んだヘッドアップディスプレイは、放熱性に劣るため、長期間の使用や、今後の高輝度化・拡大表示に対応することを考えると、耐熱性が十分でないと考えられる。
図14に示すように、ヘッドアップディスプレイ装置100は、光源2と、表示画像を出射する表示素子3と、表示画像を表示面5へ反射させる反射器4と、ハウジング7の開口に設けられるカバー部6と、を備える。ヘッドアップディスプレイ装置100において、偏光素子1の配置は、特に限定されない。例えば、図14に示すように、偏光素子1を、表示素子3と反射器4との間に配置することができる。
ここで、ヘッドアップディスプレイ装置100は、車両に設けられる車両用ヘッドアップディスプレイ装置であってもよい。車両用ヘッドアップディスプレイ装置は、車両のフロントガラスやコンバイナ等の半透過板(「表示面5」に相当する。)に、映像を表示する。車両用ヘッドアップディスプレイ装置は、例えば、車両のダッシュボードに配設され、映像光をフロントガラス(表示面5)に投影し、運転情報を虚像として表示する映像表示装置である。
ヘッドアップディスプレイ装置100は、表示画像を下方からフロントガラス面(表示面5)に向けて出射する構成である。このため、表示画像の出射方向と逆向きに太陽光が入り込み、表示素子3へ入射することがある。本実施形態に係るヘッドアップディスプレイ装置100では、小型化の要求や表示画像の拡大を目的として、表示画像を反射及び拡大するための反射器4が設けられている。このような場合、従来のヘッドアップディスプレイ装置では、外部から反射器に入射した太陽光が表示素子の近傍で集光することになり、熱によって表示素子の劣化や故障を引き起こすおそれがあった。
これに対し、本実施形態に係るヘッドアップディスプレイ装置100では、表示素子3への太陽光の入射を防ぐことを目的として、上述したとおり放熱性及び耐熱性に優れるハイブリッド型の偏光素子1が設けられている。この偏光素子1は、例えば200℃程度の高温であっても安定的に偏光機能を発揮できる。したがって、例えば、夏場の車内などの高温環境下であっても、外部から反射器4に入射した太陽光を偏光素子1により遮蔽して、表示素子3に到達することを防止できるので、表示素子3の劣化や故障を抑制できる。
なお、図14に示したヘッドアップディスプレイ装置100の構成要素は、基本的な構成要素の例であり、投影表示装置の構成要素は、図14の例に限定されるものではなく、要求される性能等に応じて、適宜他の構成要素を備えることができる。
また、偏光素子1を、表示素子3の前に配置されるプレ偏光板として用いることによって、偏光素子1は、表示素子3から出射された表示画像を透過させつつ、太陽光が表示素子3へ入射するのを抑制できる。したがって、ヘッドアップディスプレイ装置100の耐熱性及び耐久性をより高めることができる。
加えて、投影表示装置におけるワイヤグリッド偏光素子の配置は、図14に示すヘッドアップディスプレイ装置100における偏光素子1の配置の例に限定されず、投影表示装置の構成や、要求される性能などに応じて、適宜選択及び変更することができる。例えば、図示はしていないが、偏光素子1を、表示素子3と光源2との間に配置することができる。また、図示はしていないが、偏光素子1を、反射器4の中に組み込むこともできる。さらに、図14に示すヘッドアップディスプレイ装置100に設けられたカバー部6を、偏光素子1で構成することもできる。
また、図示はしないが、ヘッドアップディスプレイ装置100内に設置される偏光素子1の周囲に放熱部材50(図9参照。)を設けてもよい。この放熱部材50により、偏光素子1の放熱性をさらに向上させることができるので、偏光素子1の偏光特性及び耐熱性をさらに向上させることができる。
<4.2.偏光ビームスプリッタを備える投影表示装置>
次に、図15~図17を参照して、本実施形態に係る反射型ワイヤグリッド偏光素子1を偏光ビームスプリッタ230として用いた投影表示装置について説明する。以下では、まず、図15~図17に示す投影表示装置200A、200B、200C(以下、「投影表示装置200」と総称する場合もある。)の3つの具体例に共通する事項について包括的に説明する。その後に、図15~図17に示す各具体例について個別に説明する。
図15~図17に示すように、投影表示装置200は、光源210と、PSコンバータ220と、偏光ビームスプリッタ230と、反射型液晶表示素子240と、レンズ250とを備える。なお、偏光ビームスプリッタ230と反射型液晶表示素子240との間に、位相差補償板(図示せず。)を設置してもよい。
光源210は、1つの発光部を有する点光源であってもよいし、LEDなどの複数の発光部を有する光源であってもよい。また、光源210から出射される光は、平行光であってもよいし、拡散光であってもよい。したがって、光源210の光は、例えば、45°を中心とした所定範囲(例えば、45°±15°の範囲)の入射角度θで、偏光ビームスプリッタ230(反射型ワイヤグリッド偏光板)に対して入射される場合がある。
PSコンバータ220は、光源210からの光を特定の偏光(例えば、P偏光又はS偏光)に変換するための偏光変換素子である。PSコンバータ220は、光源210からの光をP偏光に変換してもよいし、S偏光に変換してもよい。
偏光ビームスプリッタ230は、反射型ワイヤグリッド偏光板で構成される。反射型ワイヤグリッド偏光板は、本実施形態に係るワイヤグリッド偏光素子1の一例である。偏光ビームスプリッタ230は、光源210からの光が45°を含む所定範囲の入射角度θで入射するように配置される。この所定範囲の入射角度θは、例えば、上述した45°±15°、即ち、30°以上、60°以下である。
例えば、図15~図17では、光源210からの入射光が偏光ビームスプリッタ230に対して主に45°の入射角度θで入射されるように、偏光ビームスプリッタ230は、当該入射光の入射方向に対して45°傾斜して配置されている。また、反射型液晶表示素子240からの入射光が偏光ビームスプリッタ230に対して主に45°の入射角度θで入射されるように、偏光ビームスプリッタ230は、反射型液晶表示素子240に対して45°傾斜して配置されている。
偏光ビームスプリッタ230は、入射光を第1の偏光(S偏光)と第2の偏光(P偏光)とに分離する。例えば、偏光ビームスプリッタ230は、入射光のうち第1の偏光(S偏光)を反射させ、第2の偏光(P偏光)を透過させることにより、S偏光とP偏光を分離してもよい。これとは逆に、偏光ビームスプリッタ230は、入射光のうち第2の偏光(P偏光)を反射させ、第1の偏光(S偏光)を透過させることにより、S偏光とP偏光を分離してもよい。
偏光ビームスプリッタ230により所望の偏光を反射させる場合、偏光ビームスプリッタ230の表面(即ち、偏光素子1のグリッド構造体20が形成された側の凹凸面)に、当該反射対象の偏光を含む光が入射されるように、偏光ビームスプリッタ230が配置される。例えば、図15に示すように、偏光ビームスプリッタ230により、PSコンバータ220から入射されるS偏光を反射する場合、偏光ビームスプリッタ230の表面を、S偏光を出射するPSコンバータ220側に向ければよい。一方、図16に示すように、偏光ビームスプリッタ230により、反射型液晶表示素子240から入射されるS偏光を反射する場合、偏光ビームスプリッタ230の表面を、S偏光を出射する反射型液晶表示素子240側に向ければよい
反射型液晶表示素子240は、入射光を反射させて、表示画像を表す光を出射する表示素子である。図15及び図17に示すように、偏光ビームスプリッタ230で反射した第1の偏光(S偏光)が反射型液晶表示素子240の表面に入射されるように、反射型液晶表示素子240が配置されてもよい。あるいは、図16に示すように、偏光ビームスプリッタ230を透過した第2の偏光(P偏光)が反射型液晶表示素子240の表面に入射されるように、反射型液晶表示素子240が配置されてもよい。
また、反射型液晶表示素子240は、図15及び図17に示すように、入射された第1の偏光(S偏光)を反射及び変調して、表示画像を表す第2の偏光(P偏光)を出射する。しかし、かかる例に限定されず、図16に示すように、反射型液晶表示素子240は、入射された第2の偏光(P偏光)を反射及び変調して、表示画像を表す第1の偏光(S偏光)を出射するようにしてもよい。
レンズ250は、反射型液晶表示素子240から出射された表示画像を表す光を拡大して、外部に出力する。反射型液晶表示素子240から出射された表示画像を表す光が、偏光ビームスプリッタ230を通じて入射されるように、レンズ250が配置される。例えば、図15及び図17に示すように、反射型液晶表示素子240で反射及び変調された第2の偏光(P偏光)が、偏光ビームスプリッタ230を透過してレンズ250に入射されるように、レンズ250が配置されてもよい。あるいは、図16に示すように、反射型液晶表示素子240で反射及び変調された第1の偏光(S偏光)が、偏光ビームスプリッタ230で反射してレンズ250に入射されるように、レンズ250が配置されてもよい。
以上のように、本実施形態に係る投影表示装置200では、偏光ビームスプリッタ230として、前述した本実施形態に係るワイヤグリッド偏光素子1を用いている。したがって、偏光ビームスプリッタ230は、比較的大きくかつ広い範囲の入射角度θ(例えば、30~60°)の斜入射光に対して、S偏光の反射性と、P偏光の透過性と、Tp×Rs特性に優れており、斜入射光をP偏光とS偏光に分離する特性に優れる。
次に、図15~図17に示す投影表示装置200A、200B、200Cの各具体例について個別に説明する。
図15に示すように、本実施形態の第1具体例に係る投影表示装置200Aは、光源210と、PSコンバータ220と、偏光ビームスプリッタ230と、反射型液晶表示素子240と、レンズ250とを備える。
光源210から出射される光は、非偏光であり、当該光は、P偏光成分とS偏光成分を同じ割合で含む。このため、偏光素子1からなる偏光ビームスプリッタ230により、一方の偏光のみを選択して抽出すると、光量が約半分に減少してしまう。そこで、PSコンバータ220により、光源210から出射される光を、第1の偏光(S偏光)又は第2の偏光(P偏光)のいずれかに変換する。これにより、偏光ビームスプリッタ230で抽出される偏光の光量の減少を抑制して、光利用効率を向上することができる。例えば、図15に示すPSコンバータ220は、光源210からの光を、第1の偏光(S偏光)に変換する。
PSコンバータ220によりS偏光に変換された光は、斜め45°程度に傾斜配置された偏光ビームスプリッタ230に入射される。偏光ビームスプリッタ230は、第1の偏光(S偏光)を反射し、45°の出射角度で反射型液晶表示素子240に向けて出射する。反射型液晶表示素子240は、第1の偏光(S偏光)を変調及び反射して、表示画像を表す第2の偏光(P偏光)を生成し、当該第2の偏光(P偏光)を偏光ビームスプリッタ230に向けて出射する。当該第2の偏光(P偏光)は、偏光ビームスプリッタ230を透過して、レンズ250により拡大された後に、不図示の表示面に投影されて、表示画像が表示される。
以上の構成を有する投影表示装置200Aは、偏光ビームスプリッタ230として、本実施形態に係るワイヤグリッド偏光素子1からなる反射型ワイヤグリッド偏光板を備える。これによって、斜めからの入射光及び広い入射角度θの入射光に対して、偏光ビームスプリッタ230の偏光分離特性を向上できるとともに、偏光ビームスプリッタ230及び投影表示装置200Aの放熱性と耐熱性を向上することができる。
これに対し、偏光ビームスプリッタとして従来の偏光素子を備える投影表示装置(図示せず。)は、偏光素子の放熱性に劣る。このため、長期間の使用や高輝度化、拡大表示に対応する観点からは、耐熱性が十分でないと考えられる。また、偏光ビームスプリッタに入射する光の入射角度θは、45°だけでなく、45°を中心とした所定範囲(例えば45°±15°程度)内のあらゆる角度となる。このように、大きくかつ広い範囲の入射角度θの斜入射光が偏光ビームスプリッタに入射される場合であっても、偏光ビームスプリッタは、入射角度θに関わらず、斜入射光をS偏光とP偏光に好適に分離可能な性能が求められる。しかし、従来の偏光素子を用いた偏光ビームスプリッタでは、上記斜入射光に対する偏光分離特性が悪いため、光の利用効率が悪化するとともに、輝度ムラなどの表示画像の画質への悪影響が問題となっていた。
この点、本実施形態の第1具体例に係る投影表示装置200Aの偏光ビームスプリッタ230は、上記のように大きくかつ広い範囲の入射角度θの斜入射光に対する偏光分離特性に優れている。したがって、投影表示装置200Aにおいて光の利用効率を向上できるとともに、輝度ムラなどを低減して、表示画像の画質を向上することができる。
また、投影表示装置は、上記図15に示した投影表示装置200Aの例に限定されず、例えば、図16に示す投影表示装置200B、又は、図17に示す投影表示装置200Cなどのように、投影表示装置の構成要素や配置を適宜変更可能である。
図16に示すように、本実施形態の第2具体例に係る投影表示装置200Bは、光源210と、PSコンバータ220と、偏光ビームスプリッタ230と、反射型液晶表示素子240と、レンズ250とを備える。
投影表示装置200Bにおいて、PSコンバータ220は、光源210からの光を、第2の偏光(P偏光)に変換する。PSコンバータ220によりP偏光に変換された光は、斜め45°程度に傾斜配置された偏光ビームスプリッタ230を透過して、反射型液晶表示素子240に入射される。反射型液晶表示素子240は、第2の偏光(P偏光)を変調及び反射して、表示画像を表す第1の偏光(S偏光)を生成し、当該第1の偏光(S偏光)を偏光ビームスプリッタ230に向けて出射する。偏光ビームスプリッタ230は、第1の偏光(S偏光)を反射し、45°の出射角度でレンズ25に向けて出射する。当該第1の偏光(S偏光)は、レンズ250により拡大された後に、不図示の表示面に投影されて、表示画像が表示される。
以上の構成を有する投影表示装置200Bは、上述した投影表示装置200A(図15参照。)と同様に、斜入射光に対する偏光分離特性に優れ、光の利用効率を向上できるとともに、輝度ムラなどを低減して、表示画像の画質を向上することができる。
また、図17に示すように、本実施形態の第3具体例に係る投影表示装置200Cは、光源210と、偏光ビームスプリッタ230と、反射型液晶表示素子240と、レンズ250と、光吸収体260とを備えているが、上記のPSコンバータ220を備えていない。
投影表示装置200Cでは、光源210から出射される非偏光の光は、斜め45°程度に傾斜配置された偏光ビームスプリッタ230に直接的に入射される。偏光ビームスプリッタ230は、非偏光の光のうち、第1の偏光(S偏光)の成分を反射し、45°の出射角度で反射型液晶表示素子240に向けて出射する。一方、偏光ビームスプリッタ230に入射される非偏光の光のうち、第2の偏光(P偏光)の成分は、偏光ビームスプリッタ230を透過して、光吸収体260に入射される。この第2の偏光(P偏光)の成分のほとんどは、光吸収体260に吸収されるので、投影表示装置200C内の他の光学系に、不要な第2の偏光(P偏光)が入射されてしまうことを抑制できる。
反射型液晶表示素子240は、偏光ビームスプリッタ230から入射された第1の偏光(S偏光)の成分を変調及び反射して、表示画像を表す第2の偏光(P偏光)を生成し、当該第2の偏光(P偏光)を偏光ビームスプリッタ230に向けて出射する。当該第2の偏光(P偏光)は、偏光ビームスプリッタ230を透過して、レンズ250により拡大された後に、不図示の表示面に投影されて、表示画像が表示される。
以上の構成を有する投影表示装置200Cでは、PSコンバータ220を設置しないため、光源210から出射される非偏光の光のうち、第2の偏光(P偏光)の成分を、光吸収体260で吸収し、表示画像の表示に利用しない。このため、表示画像の光量が約半分に低減されてしまう。しかし、PSコンバータ220に要するコストと設置スペースを削減でき、投影表示装置200Cの部品点数を削減できるので、投影表示装置200Cのコストを低減できるとともに、投影表示装置200Cを小型化できるという利点がある。
以上、本実施形態に係る反射型ワイヤグリッド偏光素子1を偏光ビームスプリッタ230として用いた投影表示装置200の具体例について説明した。なお、投影表示装置は、図15~図17に示した投影表示装置200の具体例に限定されず、要求される性能等に応じて、投影表示装置の構成要素や配置を適宜変更したり、他の構成要素を適宜設けたりしてもよい。
<5.車両>
次に、本実施形態に係る映像表示装置を備えた車両について説明する。
本実施形態に係る車両(図示せず。)は、上述した本実施形態に係るワイヤグリッド偏光素子1を有する投影表示装置を備える。なお、車両は、投影表示装置を設置可能な車両であれば、例えば、普通乗用車、軽自動車、バス、トラック、レーシングカー、建設工事用車両、その他の大型車両などの各種の自動車であってもよいし、これら以外にも、自動二輪車、電車、リニアモーターカー、アトラクション用乗り物など、各種の乗り物であってもよい。
本実施形態に係る車両は、上記偏光素子1及び投影表示装置によって、車両に設けられる表示面(例えば図14に示した表示面5)に表示画像を投影表示できる。表示面は、例えば、車両のフロントガラス、サイドガラス、リアガラス又はコンバイナ等の半透過板であることが好ましい。しかし、表示面は、かかる例に限定されず、表示画像を投影可能な対象物の表面であれば、車両に設けられる各種の部品、部材、車載機器などの表面であってもよい。
本実施形態に係る車両に設けられる投影表示装置は、例えば、図14に示したヘッドアップディスプレイ装置100、又は、図15~図17に示した偏光ビームスプリッタ130を有する投影表示装置200などである。しかし、かかる例に限定されず、投影表示装置は、画像を投影又は表示可能な装置であれば、車両に搭載されるプロジェクタ、カーナビゲーション装置、画像表示機能を有する端末装置など、各種の画像表示装置であってもよい。
上述したように、ヘッドアップディスプレイ装置100では、図14に示したように、太陽光が、車両の外部からフロントガラス(表示面5)を透過してヘッドアップディスプレイ装置100内に入り込む場合がある。この太陽光の熱などによって、表示素子3の劣化や故障を引き起こすおそれがある。このため、表示素子3への太陽光の入射を防ぐことを目的として、ヘッドアップディスプレイ装置100中に、上述したハイブリッド型のワイヤグリッド偏光素子1が設けられている。この偏光素子1は、熱伝導率が高いハイブリッド構造を有しているので、放熱性及び耐熱性に優れている。したがって、偏光素子1により、外部からヘッドアップディスプレイ装置100内に入射した太陽光を遮蔽して、表示素子3に到達することを防止できるので、表示素子3の故障や破損を防止できる。さらに、偏光素子1は、放熱性や耐熱性に優れるため、偏光素子1自身の破損も防止できる。
同様に、図15~図17に示す投影表示装置200が車両に設置される場合でも、偏光ビームスプリッタ230として用いられる偏光素子1は、外部からの太陽光を遮断できるので、反射型液晶表示素子240などの他の部品の故障や破損を防止できる。さらに、放熱性や耐熱性に優れる偏光素子1自身の破損も防止できる。
以上のように本実施形態に係る車両に設けられる投影表示装置は、偏光素子1により優れた偏光特性(太陽光の遮断性能や、偏光分離特性など)が得られるとともに、投影表示装置の優れた耐熱性及び耐久性も実現できる。
なお、車両は、上述した投影表示装置および偏光素子を備えるものであれば、特に限定されず、その他の条件は、車両に要求される性能に応じて適宜設定及び変更することが可能である。
次に、本発明の実施例について説明する。ただし、以下に説明する実施例は、上述した本実施形態に係る偏光素子1の構成や効果等を説明するために例示される具体例であり、本発明が、以下の実施例に限定されるものではない。
本発明の実施例として、上述した本実施形態に係るワイヤグリッド偏光素子1のモデルを作製し、その各種の特性をシミュレーションすることで、ワイヤグリッド偏光素子1を評価した。また、本発明の実施例と比較するために、従来例に係るワイヤグリッド偏光素子のモデルも作成し、同様にシミュレーション及び評価した。なお、以下では、説明の便宜上、実施例及び従来例ともに、偏光素子の構成要素(基板10、グリッド構造体20、ベース部21、凸条部22、反射膜30など)を表す参照符号や、これら構成要素の各種の寸法を表す記号については、同一の参照符号と記号を付している。
なお、以下の説明で用いる偏光素子1の各種寸法等を表す記号を説明すると、次のとおりである。
P :凸条部22のピッチ
:凸条部22の頂部の幅(凸条部頂部幅)
:凸条部22の高さ方向の中央位置の幅(凸条部中央幅)
:凸条部22の底部の幅(グリッド底部幅)
MAX:凸条部22を覆い包む反射膜30の最大幅(グリッド最大幅)
H :凸条部22の高さ
Hx :凸条部22の側面22bのうち反射膜30により被覆された部分の高さ
Dt :凸条部22の先端22aを覆う反射膜30の厚さ(反射膜30の先端厚さ)
Ds :凸条部22の側面22bを覆う反射膜30の厚さ(反射膜30の側面厚さ)
Rc :反射膜30による凸条部22の側面22bの被覆率
Rr :反射膜30による凸条部22の側面22bの開放率
θ :入射光の入射角度
λ :入射光の波長
(従来例1)
まず、図18を参照して、従来例1について説明する。
図18(a)に示すように、従来例1に係る偏光素子1のモデルを作製した。従来例1に係る偏光素子1は、ガラス製の基板10と、紫外線硬化性樹脂(アクリル系樹脂)製のグリッド構造体20とを備える。グリッド構造体20は、基板10の表面に沿って設けられたベース部21と、該ベース部21から格子状に突出形成された複数の凸条部22とを有する。凸条部22の断面形状は、矩形状であり、先細り形状ではない。凸条部22を覆う反射膜30は、Al膜である。反射膜30は、凸条部22の先端22a及び一方の側面22bの全体と、ベース部21の一部とを覆うように形成されている。ただし、反射膜30は、凸条部22の他方の側面22bを全く覆っていない。このように、従来例1の反射膜30は、凸条部22の一側にのみ偏在して形成されており、凸条部22の他側は反射膜30で覆われておらず、開放されている。
従来例1に係る偏光素子1のモデルの各部の寸法及び形状は、次のとおりである。
P :144nm
:32.5nm
:32.5nm
MAX:55nm
H :220nm
Hx :220nm(一側)、0nm(他側)
Dt :35nm
Ds :22.5nm(最大値)
Rc :100%(一側)、0%(他側)
Rr :0%(一側)、100%(他側)
θ :0°~+60°
λ :430~680nm
その後、上記のように作製した従来例1に係る偏光素子1のモデルについて、入射角度θを変更してシミュレーションを行い、透過軸透過率(Tp)、反射軸反射率(Rs)、及び偏光ビームスプリッタ(PBS)として要求されるTp×Rsをそれぞれ算出した。入射角度θは、0°~+60°とした。なお、Tp、Rsの値としては、入射光の波長λを430~680nmの範囲で変化させ、それぞれの波長λの入射光に対して算出された複数のTp、Rsの値の平均値を用いた。上記のようにして算出されたTp、Rs、Tp×Rsと、θとの関係を、図18(b)~(d)のグラフに示す。
図18に示すように、従来例1では、反射膜30が凸条部22の一側に偏在し、当該一側の被覆率Rcが100%である。このため、入射角度θが大きくなるほど、Rsが徐々に上昇する反面、Tpが顕著に低下するため、Tp×Rsも顕著に低下した。例えば、θ>45°の範囲では、Tpは76%以下に低下し、Tp×Rsは68%以下に低下した。従って、従来例1に係る偏光素子1を偏光ビームスプリッタとして使用する場合、特に、45°以上の大きな入射角度θの斜入射光に対して、偏光分離特性(Tp×Rs特性)が悪く、偏光ビームスプリッタで要求されるTp×Rs特性が得られないという問題があることが分かる。
(従来例2)
次に、図19を参照して、従来例2について説明する。
図19(a)に示すように、従来例2に係る偏光素子1のモデルを作製した。従来例2のモデルは、上記の従来例1のモデルと同様である。ただし、従来例2では、入射角度θとして、凸条部22の一側に対して斜め方向から入射される+方向の入射角度(θ=0°~+60°)と、凸条部22の他側に対して斜め方向から入射される-方向の入射角度(θ=0°~-60°)の2方向を用いた。
従来例2に係る偏光素子1のモデルの各部の寸法及び形状は、次のとおりである。
P :144nm
:32.5nm
:32.5nm
MAX:55nm
H :220nm
Hx :220nm(一側)、0nm(他側)
Dt :35nm
Ds :22.5nm(最大値)
Rc :100%(一側)、0%(他側)
Rr :0%(一側)、100%(他側)
θ :0°~+60°、0°~-60°
λ :430~680nm
その後、上記のように作製した従来例2に係る偏光素子1のモデルについて、入射角度θを変更してシミュレーションを行い、透過軸透過率(Tp)、反射軸反射率(Rs)、及び偏光ビームスプリッタ(PBS)として要求されるTp×Rsをそれぞれ算出した。この際、入射角度θが+方向である場合と、-方向である場合のそれぞれについて、Tp、Rs、Tp×Rsを算出した。なお、Tp、Rsの値としては、入射光の波長λを430~680nmの範囲で変化させ、それぞれの波長の入射光に対して算出された複数のTp、Rsの値の平均値を用いた。上記のようにして算出されたTp、Rs、Tp×Rsと、θとの関係を、図19(b)~(d)のグラフに示す。
図19に示すように、従来例2では、上記従来例1と同様に、反射膜30が凸条部22の一側に偏在し、当該一側の被覆率Rcが100%である。この結果、図19(b)に示すように、従来例2では、上記従来例1と同様に、+方向からの斜入射光の入射に関し、入射角度θが大きくなるほど、Tp(+)が顕著に低下した。さらに、従来例2では、-方向からの斜入射光の入射に関しても、マイナスの入射角度θの絶対値が大きくなるほど、Tp(-)が低下しているが、Tp(-)の低下度合いは、Tp(+)の低下度合いより小さいことが確認できる。
具体的には、従来例2では、θの絶対値が30°~60°の範囲において、Tp(+)とTp(-)との差分は、5%以上であり、Tp×Rs(+)とTp×Rs(-)との差分は、4%以上である。この結果から、従来例2では、斜入射光の入射方向が+方向であるか、-方向であるかによって、偏光素子1の偏光特性に左右非対称性が存在することが確認された。
以上の従来例2のように、斜入射光の入射方向の相違(例えば、+45°と-45°の相違)によるTpの差が大きくなると、観察者は、表示画像の明るさの違いを認識できてしまい、また、映像状態としても不適切となるという問題があることが分かる。また、従来例2に係る偏光素子1を偏光ビームスプリッタとして使用する場合、特に、45°以上の大きな入射角度θの斜入射光に対して、偏光分離特性(Tp×Rs特性)が悪く、偏光ビームスプリッタで要求されるTp×Rs特性が得られないという問題もあることが分かる。
(従来例3)
次に、図20を参照して、従来例3について説明する。
図20(a)に示すように、従来例3に係る偏光素子1のモデルを作製した。従来例3に係る偏光素子1は、ガラス製の基板10と、紫外線硬化性樹脂(アクリル系樹脂)製のグリッド構造体20とを備える。グリッド構造体20は、基板10の表面に沿って設けられたベース部21と、該ベース部21から格子状に突出形成された複数の凸条部22とを有する。凸条部22の断面形状は、矩形状であり、先細り形状ではない。凸条部22を覆う反射膜30は、Al膜である。反射膜30は、凸条部22の先端22a及び両側の側面22bの大部分(約85%)を覆うように形成されている。このように、従来例3の反射膜30は、凸条部22の先端22a及び両側面22bの大部分を被覆している。また、従来例3の反射膜30は、角型であり、反射膜30の頂部の左右両端に角張った2つのコーナー部を有しており、上述した本実施形態に係る偏光素子1の反射膜30のような丸みを帯びた膨出形状とは相違する。
従来例3に係る偏光素子1のモデルの各部の寸法及び形状は、次のとおりである。
P :140nm
:35nm
:35nm
MAX:65nm
H :230nm
Hx :196nm
Dt :30nm
Ds :15nm(最大値)
Rc :85%
Rr :15%
θ :0°~+60°
λ :430~680nm
その後、上記のように作製した従来例3に係る偏光素子1のモデルについて、上記の従来例1と同様に、入射角度θを変更してシミュレーションを行い、Tp、Rs、Tp×Rsをそれぞれ算出した。入射角度θは、0°~+60°とした。このようにして算出されたTp、Rs、Tp×Rsと、θとの関係を、図20(b)~(d)のグラフに示す。
図20に示すように、従来例3では、上記従来例1と比べて被覆態様が異なるが、反射膜30が凸条部22の両方の側面22bの大部分を被覆し、その被覆率Rcが85%と大きい。このため、従来例3では、上記従来例1と同様に、入射角度θが大きくなるほど、Rsが徐々に上昇する反面、Tpが顕著に低下するため、Tp×Rsも顕著に低下した。例えば、θ>45°の範囲では、Tpは73%以下に低下し、Tp×Rsは65%以下に低下した。従って、従来例3に係る偏光素子1を偏光ビームスプリッタとして使用する場合、特に、45°以上の大きな入射角度θの斜入射光に対して、偏光分離特性(Tp×Rs特性)が悪く、偏光ビームスプリッタで要求されるTp×Rs特性が得られないという問題があることが分かる。
(実施例1)
次に、図21及び図22を参照して、本発明の実施例1について説明する。
図21(a)に示すように、実施例1に係る偏光素子1のモデルを作製した。実施例1に係る偏光素子1は、ガラス製の基板10と、紫外線硬化性樹脂(アクリル系樹脂)製のグリッド構造体20とを備える。グリッド構造体20は、基板10の表面に沿って設けられたベース部21と、該ベース部21から格子状に突出形成された複数の凸条部22とを有する。凸条部22の断面形状は、台形状であり、凸条部22の先端22aに向かうほど細くなる先細り形状である。
実施例1の凸条部22を覆う反射膜30は、Al膜である。反射膜30は、凸条部22の先端22a及び両方の側面22bの上部側を覆うように形成されている。ただし、反射膜30は、凸条部22の両方の側面22bの下部側と、ベース部21を覆っていない。反射膜30による凸条部22の両方の側面22bの被覆率Rcは40%である。このように、実施例1の反射膜30は、凸条部22の頂部(先端22a及び側面22bの上部側)を、丸く覆い包んでいる。当該反射膜30の表面は、外側に膨らむような丸みを有する略楕円状であり、凸条部22の幅方向(X方向)に膨出している。
この結果、実施例1に係るグリッド(凸条部22と反射膜30を合わせた構造体)は、上述した特殊な樹木形状を有している。当該特殊な樹木形状のグリッド最大幅WMAX(反射膜30が最も膨出した部分におけるグリッドの幅)は、凸条部22の底部の幅W(凸条部22の底部から20%上部の高さ位置における凸条部22の幅)以上である。
実施例1に係る偏光素子1のモデルの各部の寸法及び形状は、次のとおりである。
P :144nm
:19nm
:32.5nm
:46nm
MAX:55nm
H :220nm
Hx :99nm
Dt :35nm(最大値)
Ds :22.5nm(最大値)
Rc :40%
Rr :60%
θ :0°~+60°
λ :430~680nm
その後、上記のように作製した実施例1に係る偏光素子1のモデルについて、入射角度θを変更してシミュレーションを行い、透過軸透過率(Tp)、透過軸反射率(Ts)、反射軸透過率(Rp)、反射軸反射率(Rs)、及び偏光ビームスプリッタ(PBS)として要求されるTp×Rsをそれぞれ算出した。入射角度θは、0°~+60°とした。なお、Tp、Rs、Ts、Rpの値としては、入射光の波長λを430~680nmの範囲で変化させ、それぞれの波長λの入射光に対して算出された複数のTp、Ts、Rp、Rsの値の平均値を用いた。また、透過軸透過率(Tp)を透過軸反射率(Ts)で除算することにより、透過光のコントラスト(CR)も算出した(CR=Tp/Ts)。
上記のようにして算出されたTp、Rs、Ts、Rp、CR、Tp×Rsと、λとの関係を、図21(b)の表と、図21(c)~(d)のグラフに示す。また、上記のようにして算出されたTp、Rs、Tp×Rsと、θとの関係を、図22(a)~(c)のグラフに示す。
なお、図21(b)の表では、入射光の複数の波長帯域(430~510nm、520~590nm、600~680nm)と、当該入射光の波長帯域全体(430~680nm)とに分けて、それぞれの特性値(Tp、Rs、Ts、Rp、CR、Tp×Rs)の平均値を示してある。図21(c)~(d)のグラフと、図22(a)~(c)のグラフでは、当該入射光の波長帯域全体(430~680nm)における各特性値(Tp、Rs、Ts、Rp、CR、Tp×Rs)の平均値を示してある。また、図22(a)~(c)のグラフでは、実施例1と比較するために、上述した従来例2の特性値(Tp(+)、Tp(-)、Rs(+)、Rs(-)、Tp×Rs(+)、Tp×Rs(-))も示してある。
図21(a)に示すように、実施例1の偏光素子1のモデルでは、反射膜30が凸条部22の頂部を覆い、凸条部22の底部を開放しており、被覆率Rcは40%である。このため、実施例1のグリッド(凸条部22と反射膜30を合わせた構造体)は、上述した特殊な樹木形状を有している。かかる実施例1の特殊な樹木構造を有するグリッドは、大きくかつ幅広い範囲の入射角度θの斜入射光に対して、透過性と偏光分離特性に優れる。
したがって、図21に示すように、実施例1では、波長λに関わらず、Tpが80%以上、及びRsが90%以上であり、高いTp及びRsが得られることが分かる。この結果、Tp×Rsも72%以上となり、優れたTp×Rs特性が得られることが分かる。また、コントラストCRも、波長λに関わらず、100以上の優れたコントラストが得られることが分かる。したがって、実施例1は、斜入射光に対して、上述した従来例1、2と比較して良好な偏光特性が得られることが分かる。
さらに、図22に示すように、実施例1では、入射角度θが0°~60°の広い範囲において、78%以上の非常に高い値のTpを確保している。この結果、大きくかつ広い範囲(30°~60°)の入射角度θの斜入射光に対して、73%以上の高いTp×Rsを確保でき、優れた偏光分離特性(Tp×Rs特性)を有することが分かる。特に、θ=45°の場合は、Tpは、87%と非常に高い値であり、Tp×Rsの値も、78%と非常に高い値である。よって、実施例1の偏光素子1は、45°及びその周辺の入射角度θの斜入射光に対して、顕著に優れた透過性及び偏光分離特性を発揮できることが分かる。
さらに、図22に示す実施例1と従来例2との比較結果から分かるように、従来例2では、入射角度θが大きくなるにつれ、Tp、及びTp×Rsが低下しており、特に、θ>45°の範囲では、Tp、及びTp×Rsが急激に低下している。これに対し、実施例1では、θが大きくなっても、Tp及びTp×Rsの低下は抑制されており、高い値を維持できている。特に、θ=45°の場合には、実施例1は、従来例2の+方向の入射の場合よりも、6%以上も高いTpとTp×Rsを得ることができ、従来例2の-方向の入射の場合よりも、10%以上も高いTpとTp×Rsを得ることができる。このように、実施例1では、θ=45°の場合に、最も高い透過性(透過率Tp)とTp×Rs特性が得られる。
また、反射軸反射率Rsに関しては、実施例1は、従来例1、2と比較して、有意差のない高反射率が得られる。
また、偏光ビームスプリッタ(PBS)として要求されるTp×Rs特性に関しては、実施例1は、従来例1、2よりも優れており、入射角度θ=45°の場合に、最も高いTp×Rs特性が得られる。また、入射角度θ=30°~60°の範囲においても、実施例1は、従来例1、2よりも良好な特性を得ることができ、大きくかつ幅広い範囲の入射角度θの斜入射光に対して、従来例1、2より、Tp×Rs特性が優れている。さらに、実施例1では、45°±15°の範囲の入射角度θの斜入射光に対して、Tp×Rs特性のバランスが良い。このため、実施例1に係る偏光素子1を偏光ビームスプリッタとして用いて、画像を投影した場合、観察者から見て、表示画像の明るさのバランスが良好であり、映像状態としても良好になる。
このように、実施例1に係る偏光素子1を偏光ビームスプリッタとして使用する場合、30°~60°の大きくかつ広い範囲の入射角度θの斜入射光、特に、45°の斜入射光に対して、P偏光の透過性(透過率Tp)と偏光分離特性(Tp×Rs特性)が顕著に優れていることが分かる。よって、斜入射光に対して、偏光ビームスプリッタで要求される偏光分離特性を十分に満足できるといえる。
また、透過光のコントラストCR(CR=Tp/Ts)に関しては、実施例1では、100以上の優れたコントラストCRが得られることが分かる。
(実施例2)
次に、図23を参照して、本発明の実施例2について説明する。
図23(a)に示すように、実施例2に係る偏光素子1のモデルを作製した。実施例2のモデルは、上記の実施例1のモデルと比べて、凸条部22の形状と、反射膜30による被覆態様とが相違する。実施例2の凸条部22の断面形状は、三角形であり、凸条部22の先端22aに向かうほど細くなる先細り形状である。
実施例2の凸条部22を覆う反射膜30は、Al膜である。反射膜30は、凸条部22の先端22a及び両方の側面22bの上部側を覆うように形成されている。ただし、反射膜30は、凸条部22の両方の側面22bの下部側と、ベース部21を覆っていない。反射膜30による凸条部22の両方の側面22bの被覆率Rcは45%である。このように、実施例2の反射膜30は、凸条部22の頂部(先端22a及び側面22bの上部側)を、丸く覆い包んでいる。当該反射膜30の表面は、外側に膨らむような丸みを有する略楕円状であり、凸条部22の幅方向(X方向)に膨出している。このように、実施例2に係るグリッド(凸条部22と反射膜30を合わせた構造体)は、実施例1と同様に、上述した特殊な樹木形状を有している。
実施例2に係る偏光素子1のモデルの各部の寸法及び形状は、次のとおりである。
P :140nm
:10nm
:40nm
MAX:41nm
H :230nm
Hx :103.5nm
Dt :50nm(最大値)
Ds :17nm(最大値)
Rc :45%
Rr :55%
θ :0°~+60°
λ :430~680nm
その後、上記のように作製した実施例2に係る偏光素子1のモデルについて、入射角度θを変更してシミュレーションを行い、透過軸透過率(Tp)、反射軸反射率(Rs)、及び偏光ビームスプリッタ(PBS)として要求されるTp×Rsをそれぞれ算出した。なお、Tp、Rsの値としては、入射光の波長λを430~680nmの範囲で変化させ、それぞれの波長の入射光に対して算出された複数のTp、Rsの値の平均値を用いた。上記のようにして算出されたTp、Rs、Tp×Rsと、θとの関係を、図23(b)~(d)のグラフに示す。
図23(a)に示すように、実施例2のグリッド(凸条部22と反射膜30を合わせた構造体)は、実施例1と同様に、上述した特殊な樹木形状を有しているので、大きくかつ幅広い範囲の入射角度θの斜入射光に対して、透過性と偏光分離特性に優れる。
したがって、図23に示すように、実施例2では、入射角度θが0°~45°の広い範囲において、74%以上の高い値のTpを確保している。特に、θ=30°、45°である場合に、88%以上の高いTpを確保でき、74%以上の高いTp×Rsを確保でき、優れた偏光分離特性(Tp×Rs特性)を有することが分かる。よって、実施例2の偏光素子1は、30°~45°の入射角度θの斜入射光に対して、顕著に優れた透過性及び偏光分離特性を発揮できることが分かる。
以上説明した実施例2のように、グリッド構造体20の凸条部22の形状が実施例1と異なる場合でも、従来例1~3と比べて、良好な透過性と偏光分離特性が得られることが分かる。ただし、入射角度θが60°である場合には、実施例2よりも実施例1の方が、Tp及びTp×Rs特性に優れる。
(実施例3)
次に、図24を参照して、本発明の実施例3について説明する。実施例3では、凸条部22の高さHと、偏光素子1の偏光特性との関係について検証した。
図24(a)に示すように、実施例3に係る偏光素子1のモデルを作製した。実施例3のモデルは、上記の実施例1のモデルと同様である。凸条部22の断面形状は、台形状であり、凸条部22の先端22aに向かうほど細くなる先細り形状である。実施例3のグリッド(凸条部22と反射膜30を合わせた構造体)は、実施例1と同様に、上述した特殊な樹木形状を有している。実施例3では、被覆率Rcを45%に維持しつつ、凸条部22の高さHを、100~220nmの範囲で段階的に変更した。
実施例3に係る偏光素子1のモデルの各部の寸法及び形状は、次のとおりである。
P :144nm
:19nm
:32.5nm
:46nm
MAX:55nm
H :100~220nm
Hx :45~99nm
Dt :35nm(最大値)
Ds :22.5nm(最大値)
Rc :45%
Rr :55%
θ :+45°
λ :430~680nm
その後、上記のように作製した実施例3に係る偏光素子1のモデルについて、凸条部22の高さHを変更してシミュレーションを行い、Tp、Rs、Tp×Rsをそれぞれ算出した。入射角度θは、+45°とした。なお、Tp、Rsの値としては、入射光の波長λを430~680nmの範囲で変化させ、それぞれの波長λの入射光に対して算出された複数のTp、Rsの値の平均値を用いた。また、TpをTsで除算することにより、透過光のコントラストCRも算出した。
上記のようにして算出されたTp、Rs、Tp×Rs、CRと、Hとの関係を、図24(b)~(e)のグラフに示す。
図24に示すように、45°の斜入射光に対する偏光素子1の各種の特性(Tp、Tp×Rs、CR)を良好にするためには、凸条部22の高さHは、160nm以上であることが好ましく、180nm以上であることがより好ましく、220nm以上であることが特に好ましいことが分かる。
具体的には、Tpに関しては、図24(b)に示すように、Hが160nm以上であれば、Tpが80%以上になり、高い透過率が得られるので、好ましい。さらに、Hが180nm以上であれば、85%以上のTpが得られるので、より好ましい。加えて、Hが220nm以上であれば、87%以上のTpが得られるので、特に好ましい。
また、Tp×Rs特性に関しては、図24(d)に示すように、Hが160nm以上であれば、70%以上の優れたTp×Rsが得られるので、好ましい。さらに、Hが180nm以上であれば、75%以上のTp×Rsが得られるので、より好ましい。加えて、Hが220nm以上であれば、77%以上のTp×Rsが得られるので、特に好ましい。
また、コントラストCRに関しては、図24(e)に示すように、Hが100nm以上であればよく、これにより、40以上のCRが得られる。Hが160nm以上であれば、150以上の優れたCRが得られるので、好ましい。さらに、Hが180nm以上であれば、250以上の優れたCRが得られるので、より好ましい。加えて、Hが220nm以上であれば、500以上の優れたCRが得られるので、特に好ましい。
(実施例4)
次に、図25を参照して、本発明の実施例4について説明する。実施例4では、凸条部22の先端22aを覆う反射膜30の厚さDt(反射膜30の先端厚さDt)と、偏光素子1の偏光特性との関係について検証した。
図25(a)に示すように、実施例4に係る偏光素子1のモデルを作製した。実施例4のモデルは、上記の実施例1のモデルと同様である。凸条部22の断面形状は、台形状であり、凸条部22の先端22aに向かうほど細くなる先細り形状である。実施例4のグリッド(凸条部22と反射膜30を合わせた構造体)は、実施例1と同様に、上述した特殊な樹木形状を有している。実施例4では、反射膜30の先端厚さDtを、5~35nmの範囲で段階的に変更した。
実施例4に係る偏光素子1のモデルの各部の寸法及び形状は、次のとおりである。
P :144nm
:19nm
:32.5nm
:46nm
MAX:55nm
H :220nm
Hx :99nm
Dt :5~35nm(最大値)
Ds :22.5nm(最大値)
Rc :45%
Rr :55%
θ :+45°
λ :430~680nm
その後、上記のように作製した実施例4に係る偏光素子1のモデルについて、反射膜30の先端厚さDtを変更してシミュレーションを行い、Tp、Rs、Tp×Rs、CRをそれぞれ算出した。入射角度θは、+45°とした。上記のようにして算出されたTp、Rs、Tp×Rs、CRと、Dtとの関係を、図25(b)~(e)のグラフに示す。
図25に示すように、45°の斜入射光に対する偏光素子1の各種の特性(Tp、Tp×Rs、CR)を良好にするためには、反射膜30の先端厚さDtは、5nm以上であることが好ましく、15nm以上であることがより好ましいことが分かる。
具体的には、Tpに関しては、図25(b)に示すように、Dtが5nm以上であれば、Tpが85%以上になり、高い透過率が得られるので、好ましい。また、Rsに関しては、図25(c)に示すように、Dtが5nm以上であれば、Rsが85%以上になり、高い反射率が得られるので、好ましい。
また、Tp×Rs特性に関しては、図25(d)に示すように、Dtが15nm以上であれば、78%以上の優れたTp×Rsが得られるので、より好ましい。
また、コントラストCRに関しては、図25(e)に示すように、Dtが5nm以上であれば、100以上の優れたCRが得られるので、好ましい。さらに、Dtが15nm以上であれば、250以上の優れたCRが得られるので、より好ましい。
(実施例5)
次に、図26を参照して、本発明の実施例5について説明する。実施例5では、凸条部22の側面22bを覆う反射膜30の厚さDs(反射膜30の側面厚さDs)と、偏光素子1の偏光特性との関係について検証した。
図26(a)に示すように、実施例5に係る偏光素子1のモデルを作製した。実施例5のモデルは、上記の実施例1のモデルと同様である。凸条部22の断面形状は、台形状であり、凸条部22の先端22aに向かうほど細くなる先細り形状である。実施例5のグリッド(凸条部22と反射膜30を合わせた構造体)は、実施例1と同様に、上述した特殊な樹木形状を有している。実施例5では、反射膜30の側面厚さDsを、5~35nmの範囲で段階的に変更した。
実施例5に係る偏光素子1のモデルの各部の寸法及び形状は、次のとおりである。
P :144nm
:19nm
:32.5nm
:46nm
MAX:20~80nm
H :220nm
Hx :99nm
Dt :35nm(最大値)
Ds :5~35nm(最大値)
Rc :45%
Rr :55%
θ :+45°
λ :430~680nm
その後、上記のように作製した実施例5に係る偏光素子1のモデルについて、反射膜30の側面厚さDsを変更してシミュレーションを行い、Tp、Rs、Tp×Rs、CRをそれぞれ算出した。入射角度θは、+45°とした。上記のようにして算出されたTp、Rs、Tp×Rs、CRと、Dtとの関係を、図26(b)~(e)のグラフに示す。
図26に示すように、45°の斜入射光に対する偏光素子1の各種の特性(Tp、Tp×Rs、CR)を良好にするためには、反射膜30の側面厚さDsは、10nm以上、30nm以下であることが好ましく、12.5nm以上、25nm以下であることがより好ましく、15nm以上、25nm以下であることが特に好ましいことが分かる。
具体的には、Tpに関しては、図26(b)に示すように、Dsが10nm以上、30nm以下であれば、Tpが80%以上になり、高い透過率が得られるので、好ましい。さらに、Dsが12.5nm以上、25nm以下であれば、Tpが85%以上になり、より高い透過率が得られるので、より好ましい。さらに、Dsが15nm以上、20nm以下であれば、Tpが87%以上になり、より高い透過率が得られるので、特に好ましい。
また、Rsに関しては、図26(c)に示すように、Dsが10nm以上であれば、Rsが80%以上になり、高い反射率が得られるので、好ましい。さらに、Dsが12.5nm以上であれば、Rsが85%以上になり、より高い反射率が得られるので、より好ましい。さらに、Dsが15nm以上であれば、Rsが87%以上になり、より高い反射率が得られるので、特に好ましい。
また、Tp×Rs特性に関しては、図26(d)に示すように、Dsが12.5nm以上、30nm以下であれば、70%以上の優れたTp×Rsが得られるので、好ましい。さらに、Dsが15nm以上、25nm以下であれば、76%以上の優れたTp×Rsが得られるので、より好ましい。
また、コントラストCRに関しては、図26(e)に示すように、Dsは10nm以上であればよいが、Dsが12.5nm以上であれば、50以上の優れたCRが得られるので、好ましい。さらに、Dsが15nm以上であれば、100以上の優れたCRが得られるので、より好ましい。
(実施例6)
次に、図27を参照して、本発明の実施例6について説明する。実施例6では、反射膜30による凸条部22の側面22bの被覆率Rcと、偏光素子1の偏光特性との関係について検証した。
図27(a)に示すように、実施例6に係る偏光素子1のモデルを作製した。実施例6のモデルは、上記の実施例1のモデルと同様である。凸条部22の断面形状は、台形状であり、凸条部22の先端22aに向かうほど細くなる先細り形状である。実施例6のグリッド(凸条部22と反射膜30を合わせた構造体)は、実施例1と同様に、上述した特殊な樹木形状を有している。実施例6では、反射膜30により凸条部22の側面22bを被覆する範囲の高さHxを変更することにより、その被覆率Rcを、20~90%の範囲で段階的に変更した。
実施例6に係る偏光素子1のモデルの各部の寸法及び形状は、次のとおりである。
P :144nm
:19nm
:32.5nm
:46nm
MAX:55nm
H :220nm
Hx :44~198nm
Dt :35nm(最大値)
Ds :22.5nm(最大値)
Rc :20~90%
Rr :80~10%
θ :+45°
λ :430~680nm
その後、上記のように作製した実施例6に係る偏光素子1のモデルについて、被覆率Rcを変更してシミュレーションを行い、Tp、Rs、Tp×Rs、CRをそれぞれ算出した。入射角度θは、+45°とした。上記のようにして算出されたTp、Rs、Tp×Rs、CRと、Dtとの関係を、図27(b)~(e)のグラフに示す。
図27に示すように、45°の斜入射光に対する偏光素子1の各種の特性(Tp、Tp×Rs、CR)を良好にするためには、被覆率Rcは、25%以上、80%以下であることが好ましく、30%以上、70%以下であることがより好ましく、30%以上、60%以下であることがより好ましく、40%以上、50%以下であることが特に好ましいことが分かる。
具体的には、Tpに関しては、図27(b)に示すように、Rcが25%以上、80%以下であれば、Tpが75%以上になり、高い透過率が得られるので、好ましい。さらに、Rcが30%以上、70%以下であれば、Tpが80%以上になり、より高い透過率が得られるので、より好ましい。さらに、Rcが40%以上、50%以下であれば、Tpが85%以上になり、より高い透過率が得られるので、特に好ましい。
また、Rsに関しては、図27(c)に示すように、Rcが20%以上であれば、Rsが85%以上になり、高い反射率が得られるので、好ましい。
また、Tp×Rs特性に関しては、図27(d)に示すように、Rcが25%以上、80%以下であれば、Tp×Rsが70%以上になり、優れたTp×Rs特性が得られるので、好ましい。さらに、Rcが30%以上、70%以下であれば、Tp×Rsが72%以上になり、Rcが30%以上、60%以下であれば、Tp×Rsが75%以上になり、より優れたTp×Rs特性が得られるので、より好ましい。さらに、Rcが40%以上、50%以下であれば、Tp×Rsが77%以上になり、より優れたTp×Rs特性が得られるので、特に好ましい。
また、コントラストCRに関しては、図27(e)に示すように、Rcは20%以上であればよいが、Rcが30%以上であれば、100以上の優れたCRが得られるので、好ましい。さらに、Rcが40%以上であれば、200以上の優れたCRが得られるので、より好ましい。
(実施例7)
次に、図28を参照して、本発明の実施例7について説明する。実施例7では、凸条部22の側面22bを覆う反射膜30の厚さDs(反射膜30の側面厚さDs)と、入射角度θと、偏光素子1の偏光特性との関係について検証した。
図28(a)に示すように、実施例7に係る偏光素子1のモデルを作製した。実施例7のモデルは、上記の実施例1のモデルと同様である。凸条部22の断面形状は、台形状であり、凸条部22の先端22aに向かうほど細くなる先細り形状である。実施例7のグリッド(凸条部22と反射膜30を合わせた構造体)は、実施例1と同様に、上述した特殊な樹木形状を有している。実施例7では、反射膜30の側面厚さDsを、17.5~25nmの範囲で段階的に変更しつつ、入射角度θを0~60°の範囲で段階的に変更した。
実施例7に係る偏光素子1のモデルの各部の寸法及び形状は、次のとおりである。
P :144nm
:19nm
:32.5nm
:46nm
MAX:45nm、55nm、60nm
H :220nm
Hx :99nm
Dt :35nm(最大値)
Ds :17.5nm、22.5nm、25nm(最大値)
Rc :45%
Rr :55%
θ :0~+60°
λ :430~680nm
その後、上記のように作製した実施例7に係る偏光素子1のモデルについて、反射膜30の側面厚さDsと入射角度θを変更してシミュレーションを行い、Tp、Rs、Tp×Rsをそれぞれ算出した。入射角度θは、0~+60°の範囲で15°ごとに段階的に変更した。上記のようにして算出されたTp、Rs、Tp×Rsと、Dtとの関係を、図28(b)~(d)のグラフに示す。
図28に示すように、反射膜30の側面厚さDsを、17.5~25nmの範囲で段階的に変化させた場合でも、0°~+60°の幅広い入射角度θの斜入射光に対して、偏光素子1は、良好な偏光特性(Tp、Rs、Tp×Rs)を有することが分かる。特に、+45°の入射角度θの斜入射光に対して、非常に優れた偏光特性を発揮することが分かる。
具体的には、Tpに関しては、図28(b)に示すように、Dsが17.5~25nmの範囲で変化しても、θが+30°~+60°の範囲であれば、Tpが75%以上になり、高い透過率が得られるので、好ましい。さらに、θが+45°であれば、Tpが85%以上になり、最も高い透過率が得られるので、より好ましい。
また、Rsに関しては、図28(c)に示すように、0°~+60°の幅広い入射角度θの範囲で、Rsが85%以上になり、高い反射率が得られるので、好ましい。
また、Tp×Rs特性に関しては、図28(d)に示すように、Dsが17.5~25nmの範囲で変化しても、θが+30°~+60°の範囲であれば、Tp×Rsが70%以上になり、優れたTp×Rs特性が得られるので、好ましい。さらに、θが+45°であれば、Tp×Rsが76%以上になり、最も優れたTp×Rs特性が得られるので、より好ましい。また、45°±15°の範囲の入射角度θの斜入射光に対して、Tp×Rs特性のバランスが良い。このため、実施例7に係る偏光素子1を偏光ビームスプリッタとして用いて、画像を投影した場合、観察者から見て、表示画像の明るさのバランスが良好であり、映像状態としても良好になる。
(実施例8)
次に、図29を参照して、本発明の実施例8について説明する。実施例8では、凸条部22を覆う反射膜30を片側に偏在させたときの偏在比率と、偏光素子1の偏光特性との関係について検証した。
図29(a)に示すように、実施例8に係る偏光素子1のモデルを作製した。実施例8のモデルは、反射膜30を凸条部22の片側に偏在させる点を除いては、上記の実施例1のモデルと同様である。凸条部22の断面形状は、台形状であり、凸条部22の先端22aに向かうほど細くなる先細り形状である。実施例8のグリッド(凸条部22と反射膜30を合わせた構造体)は、実施例1と同様に、上述した特殊な樹木形状を有している。
実施例8では、凸条部22の左側の側面22bに関し、当該側面22bを覆う反射膜30の側面厚さDs(左側)を、22.5nmに固定し、被覆範囲の高さHx(左側)を、99nmに固定し、被覆率Rc(左側)を、45%に固定した。一方、凸条部22の右側の側面22bを覆う反射膜30の側面厚さDs(右側)を、0~22.5nmの範囲で段階的に変更した。これに合わせて、凸条部22の右側の側面22bに関し、当該右側の側面22bの被覆範囲の高さHx(右側)を、0~99nmの範囲で段階的に変更し、被覆率Rc(右側)を、0~45%の範囲で段階的に変更した。この結果、グリッド最大幅WMAXは、32.5~55nmの範囲で段階的に変化した。
また、実施例8では、入射角度θとして、凸条部22の左側に対して斜め方向から入射される+方向の入射角度(θ=0°~+60°)と、凸条部22の右側に対して斜め方向から入射される-方向の入射角度(θ=0°~-60°)の2方向を用いた。
実施例8に係る偏光素子1のモデルの各部の寸法及び形状は、次のとおりである。
P :144nm
:19nm
:32.5nm
:46nm
MAX:32.5nm、37.5nm、47.5nm、55nm
H :220nm
Hx(左側):99nm
Hx(右側):0~99nm
Dt :35nm(最大値)
Ds(左側):22.5nm(最大値)
Ds(右側):0nm、5nm、10nm、22.5nm(最大値)
Rc(左側) :45%
Rc(右側) :0%、22%、33%、45%、
Rr(左側) :55%
Rc(右側) :100%、78%、67%、55%
θ(左側) :0~+60°
θ(右側) :0~-60°
λ :430~680nm
その後、上記のように作製した実施例8に係る偏光素子1のモデルについて、反射膜30の左側の側面22bに関するDs(右側)、Rc(右側)を変更してシミュレーションを行い、Tp、Rs、Tp×Rs、CRをそれぞれ算出した。入射角度θは、0~+60°の範囲で15°ごとに段階的に変更した。上記のようにして算出されたTp、Rs、Tp×Rs、CRと、Dtとの関係を、図29(b)~(e)のグラフに示す。
図29に示すように、反射膜30を凸条部22の片側に偏在させた場合、即ち、グリッドが左右非対称である場合であっても、偏光素子1は、良好な偏光特性(Tp、Rs、Tp×Rs、CR)を有することが分かる。
具体的には、Tpに関しては、図29(b)に示すように、反射膜30が偏在したグリッドに対して、+方向又は-方向のいずれの方向から斜入射光を入射させた場合であっても、Tp(+)及びTp(-)の双方とも、85%以上になり、グリッドの両側で高い透過率が得られた。この場合、Tp(+)とTp(-)の差は、3%以下であり、斜入射光の入射方向により、Tp(+)とTp(-)の間に有意差が生じないことが確認された。
また、Rsに関しても、図29(c)に示すように、反射膜30が偏在したグリッドに対して、+方向又は-方向のいずれの方向から斜入射光を入射させた場合であっても、Rs(+)及びRs(-)の双方とも、85%以上になり、グリッドの両側で高い反射率が得られた。
また、Tp×Rs特性に関しても、図29(d)に示すように、反射膜30が偏在したグリッドに対して、+方向又は-方向のいずれの方向から斜入射光を入射させた場合であっても、Tp×Rsが75%以上になり、優れたTp×Rs特性が得られた。
また、コントラストCRに関しても、図29(e)に示すように、反射膜30が偏在したグリッドに対して、+方向又は-方向のいずれの方向から斜入射光を入射させた場合であっても、優れたCRが得られた。さらに、Ds(右側)が5nm以上であり、被覆率(左側)が22%以上であることが好ましく、これにより、100以上の優れたCRが得られた。加えて、Ds(右側)が10nm以上であり、被覆率(左側)が33%以上であることがより好ましく、これにより、150以上のより優れたCRが得られた。
(反射膜の形状の検証結果:実施例9、従来例4)
次に、図30及び図31を参照して、本発明の実施例9(反射膜30が丸型)と従来例4(反射膜30が角型)とを比較し、凸条部22を覆う反射膜30の形状と、偏光素子1の偏光特性との関係を検証した結果について説明する。
図30及び図31に示すように、実施例9に係る偏光素子1のモデルと、従来例4に係る偏光素子1のモデルを作製した。
実施例9に係る偏光素子1のモデルは、上述した実施例1のモデルと同様に、特殊な樹木形状を有している(図21等を参照。)。実施例9に係る偏光素子1のグリッドは、ベース部21と、台形状の断面形状を有する凸条部22と、当該凸条部22の頂部(先端22a及び側面22bの上部側)を被覆する反射膜30とを有している。ただし、実施例9に係る偏光素子1のモデルは、上述した実施例1のモデルと比べて、反射膜30による凸条部22の両方の側面22bの被覆率Rcが相違しており、実施例9の被覆率Rcは45%である。実施例9の反射膜30は、凸条部22の頂部を丸く覆い包む形状を有する。実施例9の反射膜30の表面は、外側に膨らむような丸みを有する略楕円状であり、凸条部22の幅方向(X方向)に膨出している。かかる実施例9の反射膜30の表面は、丸く滑らかに湾曲した曲面形状となっており、角張ったコーナー部や段差部を有していない。以下では、実施例9の反射膜30を、丸型の反射膜と称する。
一方、従来例4に係る偏光素子1のモデルは、実施例9のモデルと比べて、反射膜30の形状が相違する。従来例4の反射膜30は、角型形状であり、反射膜30の頂部の左右両端に角張った2つのコーナー部を有しており、上記の実施例9の反射膜30のような丸みを帯びた膨出形状(丸型の反射膜)とは相違する。以下では、比較例4の反射膜30を、角型の反射膜と称する。なお、この従来例4の偏光素子1のモデルは、上述した特許文献7に開示されたワイヤグリッド型偏光子に相当する。
このように、従来例4は、実施例9と比べて、反射膜30の形状が相違するが、それ以外の要件については、実施例9と同一である。
実施例9と従来例4の偏光素子1のモデルで共通する各部の寸法は、次のとおりである。
P :144nm
:19nm
:32.5nm
:46nm
MAX:55nm
H :220nm
Hx :99nm
Dt :35nm(最大値)
Ds :22.5nm(最大値)
Rc :45%
Rr :55%
θ :0°~+60°
λ :430~680nm
上記のように作製した実施例9と従来例4に係る偏光素子1のモデルについて、入射角度θを変更してシミュレーションを行い、Tp、Rs、及びTp×Rsをそれぞれ算出した。入射角度θは、0°~+60°とした。
上記のようにして算出されたTp、Rs、Tp×Rsと、θとの関係を、図30(b)~(d)のグラフに示す。
図30に示すように、実施例9では、入射角度θが0°~60°の広い範囲において、78%以上の非常に高い値のTpを確保している。この結果、大きくかつ広い範囲(30°~60°)の入射角度θの斜入射光に対して、73%以上の高いTp×Rsを確保でき、優れた偏光分離特性(Tp×Rs特性)を有することが分かる。特に、θ=45°の場合は、Tpは、87%と非常に高い値であり、Tp×Rsの値も、78%と非常に高い値である。よって、実施例9の偏光素子1は、45°及びその周辺の入射角度θの斜入射光に対して、顕著に優れた透過性及び偏光分離特性を発揮できることが分かる。
さらに、図30に示す実施例9と従来例4との比較結果から分かるように、従来例4では、θ>30°の範囲では、入射角度θが大きくなるにつれ、Tp、及びTp×Rsが低下しており、特に、θ>45°の範囲では、Tp、及びTp×Rsが急激に低下している。
これに対し、実施例9では、0°≦θ≦45°の範囲では、θが大きくなるにつれ、Tp及びTp×Rsはむしろ上昇しており、Tp及びTp×Rsの高い値を維持できている。さらに、実施例9では、45°<θ≦60°の範囲では、θが大きくなっても、Tp及びTp×Rsの低下の度合いは、従来例4と比べて大幅に抑制されており、Tp及びTp×Rsの高い値を維持できている。特に、θ=45°の場合には、実施例9は、従来例4の場合よりも、5%以上も高いTpとTp×Rsを得ることができる。また、θ=60°の場合には、実施例9は、従来例4の場合よりも、7%以上も高いTpとTp×Rsを得ることができる。このように、実施例9では、大きくかつ幅広い入射角度θの範囲(30°~60°、特に、45°~60°)において、顕著に優れた透過性(透過率Tp)とTp×Rs特性が得られる。
また、Rsに関しては、実施例9は、従来例4と比較して、有意差のない高反射率が得られる。
また、偏光ビームスプリッタ(PBS)として要求されるTp×Rs特性に関しては、実施例9は、従来例4よりも優れており、入射角度θ=45°の場合に、最も高いTp×Rs特性が得られる。また、入射角度θ=30°~60°の範囲においても、実施例9は、従来例4よりも良好な特性を得ることができ、大きくかつ幅広い範囲の入射角度θの斜入射光に対して、従来例4より、Tp×Rs特性が優れている。さらに、実施例9では、45°±15°の範囲の入射角度θの斜入射光に対して、Tp×Rs特性のバランスが良い。このため、実施例9に係る偏光素子1を偏光ビームスプリッタとして用いて、画像を投影した場合、観察者から見て、表示画像の明るさのバランスが良好であり、映像状態としても良好になる。
このように、偏光素子1を偏光ビームスプリッタとして使用する場合、実施例9は、従来例4と比べて、30°~60°の大きくかつ広い範囲の入射角度θの斜入射光、特に、45°の斜入射光に対して、P偏光の透過性(透過率Tp)と偏光分離特性(Tp×Rs特性)が顕著に優れていることが分かる。よって、斜入射光に対して、偏光ビームスプリッタで要求される偏光分離特性を十分に満足できるといえる。
以上のように、丸型の反射膜30を有する実施例9は、角型の反射膜30を有する従来例4と比べて、斜入射光の入射角度θに対する依存性が低く、斜入射光の透過性と、偏光ビームスプリッタとしての偏光分離特性(Tp×Rs特性)に優れる。この理由について、図31を参照して以下に説明する。
図31に示すように、ワイヤグリッド偏光素子1における入射光の透過率は、基本的には、実効的なグリッド幅Wとギャップ幅Wとの比(W/W)によって決まる。グリッド幅Wは、入射光の進行方向に対して垂直な方向における1つの反射膜30の幅であり、ギャップ幅Wは、入射光の進行方向に対して垂直な方向における相隣接する2つの反射膜30の隙間の幅である。グリッド構造体20の1ピッチに占める反射膜30の幅(金属グリッド部の幅)が小さいほど、当該小さい幅の反射膜30で反射する入射光が減るので、入射光の透過率は大きくなる。
ここで、図31に示すように、入射光が偏光素子1の斜め方向から入射する場合(即ち、θ>0°の場合)を考える。この場合、反射膜30が丸型である実施例9では、反射膜30が角型である従来例4と比べて、斜め方向から見た実効的なグリッド幅Wが小さくなり、斜め方向から見たギャップ幅Wが大きくなる。したがって、偏光素子1に対して斜入射光が入射する場合、実施例9の透過率Tpは、従来例4の透過率Tpよりも高くなる。この結果、実施例9のTp×Rs特性は、従来例4よりも優れることになる。例えば、斜入射光の入射角度θが45°である場合、実施例9の透過率TpとTp×Rsはそれぞれ、従来例4よりも約5%高くなり、θが60°である場合、実施例9の透過率TpとTp×Rsはそれぞれ、従来例4よりも約7%高くなることが分かる(図30(b)(d)参照)。
以上の理由から、丸型の反射膜30を有する実施例9は、角型の反射膜30を有する従来例4と比べて、斜入射光の入射角度θに対する依存性が低く、斜入射光の透過性と、偏光ビームスプリッタとしての偏光分離特性(Tp×Rs特性)に優れるといえる。
(放熱性の検証結果)
次に、本発明の実施例に係る無機材料と有機材料からなるハイブリッド型のワイヤグリッド偏光素子1と、従来例に係る有機材料からなるフィルムタイプのワイヤグリッド偏光素子とを比較し、偏光素子1の放熱性を検証した結果について説明する。
上述したように、上記の本実施形態に係るワイヤグリッド偏光素子1によれば、基板10は、耐熱性に非常に優れたガラス等の無機材料からなる。さらに、基板10上に設けられるグリッド構造体20のベース部21と複数の凸条部22が、耐熱性を有する有機材料で一体形成されている。このように、本実施形態に係るワイヤグリッド偏光素子1は、有機材料と無機材料とを組み合わせたハイブリッド型の偏光素子である。したがって、偏光素子1全体の熱抵抗R[m・K/W]が小さく、グリッド構造体20から基板10へ効率的に熱を逃がすことができるので、放熱性に優れると考えられる。
一方、従来例のフィルムタイプのワイヤグリッド偏光素子は、主に有機材料からなるため、耐熱性(100℃程度)が低い。また、基板(ベースフィルム)や両面テープ(OCA)、及びグリッド構造体からなる有機材料層の総厚が大きくなるので、その有機材料層の熱抵抗Rも大きくなってしまうと考えられる。
したがって、本実施形態に係るハイブリッド型のワイヤグリッド偏光素子1は、有機材料からなる従来のフィルムタイプの偏光素子(耐熱性:100℃程度)と比べて、耐熱性及び放熱性に優れており、例えば200℃程度までの高温環境下における耐熱性を有する。よって、本実施形態に係るハイブリッド型のワイヤグリッド偏光素子1は、優れた偏光特性を実現しつつ、良好な放熱特性を発揮できると考えられる。
そこで、本発明のハイブリッド型のワイヤグリッド偏光素子の実施例と、従来例のフィルムタイプのワイヤグリッド偏光素子を実際に作製し、それらの熱抵抗Rや放熱性を検証した。
表1に、一般的な基材材料の種類と、熱伝導率λ[W/m・K]を示す。表2に、本発明の実施例に係るハイブリッド型のワイヤグリッド偏光素子1と、従来例に係るフィルムタイプのワイヤグリッド偏光素子について、有機材料(PMMA)からなる各層の厚さや、有機材料(PMMA)からなる複数層全体の厚さ(総厚DALL)、熱抵抗R[m・K/W]を示す。
Figure 0007203187000001
Figure 0007203187000002
表2に示すように実施例に係るハイブリッド型の偏光素子1では、グリッド構造体20を構成するベース部21及び凸条部22が有機材料で形成されており、基板は無機材料で形成される。一方、従来例に係るフィルムタイプの偏光素子では、基板と、グリッド構造体を構成するベース部と、当該ベース部と基板を接着するための両面テープの全てが、有機材料で形成される。ここで、有機材料としては、PMMA(Poly Methyl Methacrylate)を用いた。この結果、実施例に係るハイブリッド型の偏光素子1のPMMA材の総厚DALLは、30200[nm]となる。一方、従来例に係るフィルムタイプの偏光素子のPMMA材の総厚DALLは、255000[nm]となり、実施例のDALLと比べて大幅に大きい。
表1に示すように、PMMAの熱伝導率λは、0.21[W/m・K]である。熱抵抗Rは、「材料の厚みDALL」を「熱伝導率λ」で除算して得られる(R=DALL/λ)。よって、実施例に係るハイブリッド型の偏光素子1のグリッド構造体20の熱抵抗Rは、0.000144[m・K/W]となる。一方、従来例に係るフィルムタイプの偏光素子の熱抵抗Rは、0.001214[m・K/W]となる。
したがって、本発明の実施例に係るハイブリッド型の偏光素子1を用いることにより、従来例に係るフィルムタイプの偏光素子と比べて、PMMA材からなるグリッド構造体20の熱抵抗Rの値を、約1/8.4にまで低減することができる。よって、本発明の実施例に係るハイブリッド型の偏光素子1によれば、有機材料(例えばPMMA)からなるグリッド構造体20の熱を、無機材料よりも耐熱性と放熱性に優れた無機材料からなる基板10を介して、外部に効率的に逃がして、放熱することができる。ゆえに、本発明の実施例に係るハイブリッド型の偏光素子1は、従来例と比べて、非常に優れた耐熱性と放熱性を有する。
なお、上記の実施例では、グリッド構造体20の材料としてPMMAを用いたが、かかる例に限定されず、本発明のグリッド構造体の材料として、PMMA以外の各種の有機材料を用いてもよい。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
本実施形態によれば、良好な偏光特性を有し、放熱性や製造時のコストの悪化を招くことがなく、広範囲な入射角度の光に対する透過性に優れた偏光素子及び偏光素子の製造方法を提供することが可能となる。また、本実施形態によれば、偏光特性及び耐熱性に優れた投影表示装置及び該投影表示装置を備えた車両を提供することが可能となる。
1 ワイヤグリッド偏光素子
2 光源
3 表示素子
4 反射器
5 表示面
6 カバー部
10 基板
20 グリッド構造体
21 ベース部
22 凸条部
23 グリッド構造体材料
24 凹部
30 反射膜
40 保護膜
50 放熱部材
60 原盤
61 原盤用基材
62 原盤用金属膜
63 凸部
64 離型膜コート
65 凹溝
70 レジストマスク
80 金属膜
100 ヘッドアップディスプレイ装置
200 投影表示装置
210 光源
220 PSコンバータ
230 偏光ビームスプリッタ
240 反射型液晶表示素子
250 レンズ
260 光吸収体
TS 基板の厚さ
TB ベース部の厚さ
P 凸条部のピッチ
H 凸条部の高さ
Hx 反射膜が凸条部の側面を覆う高さ範囲
Ds 反射膜の側面厚さ
Dt 反射膜の先端厚さ
MAX 凸条部を覆い包む反射膜の最大幅(グリッド最大幅)
凸条部の底部の幅(グリッド底部幅)
凸条部の頂部の幅(凸条部頂部幅)
実効的なグリッド幅
ギャップ幅

Claims (19)

  1. 無機材料と有機材料とからなるハイブリッド型のワイヤグリッド偏光素子であって、
    前記無機材料からなる基板と、
    前記有機材料からなり、前記基板上に設けられるベース部と、前記ベース部から突出する複数の凸条部とが一体形成されたグリッド構造体と、
    金属材料からなり、前記凸条部の一部を被覆する機能膜と、
    を備え、
    前記凸条部は、前記ベース部から離れるにつれて幅が狭くなる先細り形状を有し、
    前記機能膜は、前記凸条部の先端及び少なくとも一方の側面の上部側を覆い包み、かつ、前記凸条部の両側面の下部側及び前記ベース部を被覆しておらず、
    前記凸条部を覆い包む前記機能膜の表面は、丸みを有して前記凸条部の幅方向に膨出しており、前記凸条部を覆い包む前記機能膜の最大幅(WMAX)は、前記凸条部の底部から前記凸条部の高さの20%上部の位置において前記機能膜により被覆されていない部分の前記凸条部の幅(W)以上であり、
    前記機能膜による前記凸条部の側面の被覆率(Rc)が、前記凸条部の高さ(H)に対する、前記凸条部の側面のうち前記機能膜により被覆された部分の高さ(Hx)の割合であるとき、
    前記被覆率(Rc)は、30%以上、70%以下である、ワイヤグリッド偏光素子。
  2. 前記ワイヤグリッド偏光素子に対する入射角度が45°である入射光の透過軸透過率(Tp)と反射軸反射率(Rs)との積(Tp×Rs)は、70%以上である、請求項に記載のワイヤグリッド偏光素子。
  3. 前記凸条部の高さ(H)は、160nm以上である、請求項1又は2に記載のワイヤグリッド偏光素子。
  4. 前記凸条部の先端を覆う前記機能膜の厚さ(Dt)は、5nm以上である、請求項1~のいずれか1項に記載のワイヤグリッド偏光素子。
  5. 前記凸条部の側面を覆う前記機能膜の厚さ(Ds)は、10nm以上、30nm以下である、請求項1~のいずれか1項に記載のワイヤグリッド偏光素子。
  6. 前記ベース部の厚さ(TB)が、1nm以上である、請求項1~のいずれか1項に記載のワイヤグリッド偏光素子。
  7. 前記ワイヤグリッド偏光素子の反射軸方向に直交する断面における前記凸条部の断面形状が、前記ベース部から離れるにつれて幅が狭くなる台形、三角形、釣鐘型又は楕円形である、請求項1~のいずれか1項に記載のワイヤグリッド偏光素子。
  8. 少なくとも前記機能膜の表面を覆うように形成された保護膜を、さらに備える、請求項1~のいずれか1項に記載のワイヤグリッド偏光素子。
  9. 前記保護膜は、撥水性コーティング又は撥油性コーティングを含む、請求項に記載のワイヤグリッド偏光素子。
  10. 前記機能膜が、誘電体膜をさらに有する、請求項1~のいずれか1項に記載のワイヤグリッド偏光素子。
  11. θが30°以上、60°以下である場合、
    前記ワイヤグリッド偏光素子に対する入射角度が+θである入射光の透過軸透過率(Tp(+))と、入射角度が-θである入射光の透過軸透過率(Tp(-))との差が、3%以内である、請求項1~10のいずれか1項に記載のワイヤグリッド偏光素子。
  12. 前記機能膜は、入射光を反射する反射膜である、請求項1~11のいずれか1項に記載のワイヤグリッド偏光素子。
  13. 前記ワイヤグリッド偏光素子は、斜入射光を第1の偏光と第2の偏光に分離する偏光ビームスプリッタである、請求項1~12のいずれか1項に記載のワイヤグリッド偏光素子。
  14. 無機材料と有機材料とからなるハイブリッド型のワイヤグリッド偏光素子の製造方法であって、
    前記無機材料からなる基板上に、前記有機材料からなるグリッド構造体材料を形成する工程と、
    前記グリッド構造体材料にナノインプリントを施すことによって、前記基板上に設けられるベース部と、前記ベース部から突出する複数の凸条部とが一体形成されたグリッド構造体を形成する工程と、
    金属材料を用いて前記凸条部の一部を被覆する機能膜を形成する工程と、
    を含み、
    前記グリッド構造体を形成する工程では、前記ベース部から離れるにつれて幅が狭くなる先細り形状を有する前記凸条部を形成し、
    前記機能膜を形成する工程では、
    前記機能膜が、前記凸条部の先端及び少なくとも一方の側面の上部側を覆い包み、かつ、前記凸条部の両側面の下部側及び前記ベース部を被覆せず、前記凸条部を覆い包む前記機能膜の表面が、丸みを有して前記凸条部の幅方向に膨出し、前記凸条部を覆い包む前記機能膜の最大幅(WMAX)が、前記凸条部の底部から前記凸条部の高さの20%上部の位置において前記機能膜により被覆されていない部分の前記凸条部の幅(W)以上になり、前記機能膜による前記凸条部の側面の被覆率(Rc)が、前記凸条部の高さ(H)に対する、前記凸条部の側面のうち前記機能膜により被覆された部分の高さ(Hx)の割合であるとき、前記被覆率(Rc)が30%以上、70%以下であるように、前記機能膜を形成する、ワイヤグリッド偏光素子の製造方法。
  15. 前記機能膜を形成する工程では、スパッタリング又は蒸着法によって、前記凸条部に対して複数の方向から交互に成膜を行う、請求項14に記載のワイヤグリッド偏光素子の製造方法。
  16. 光源と、
    前記光源からの入射光が45°を含む所定範囲の入射角度で入射するように配置され、前記入射光を第1の偏光と第2の偏光とに分離する偏光ビームスプリッタと、
    前記偏光ビームスプリッタで反射した前記第1の偏光、又は、前記偏光ビームスプリッタを透過した前記第2の偏光が入射されるように配置され、入射された前記第1の偏光又は前記第2の偏光を反射及び変調する反射型液晶表示素子と、
    前記反射型液晶表示素子で反射及び変調された前記第1の偏光又は前記第2の偏光が、前記偏光ビームスプリッタを通じて入射されるように配置されたレンズと、
    を備え、
    前記偏光ビームスプリッタは、請求項1~13のいずれか1項に記載のワイヤグリッド偏光素子で構成される、投影表示装置。
  17. 前記所定範囲の入射角度は、30°以上、60°以下である、請求項16に記載の投影表示装置。
  18. 前記ワイヤグリッド偏光素子の周囲に、放熱部材が設けられている、請求項16又は17に記載の投影表示装置。
  19. 請求項1618のいずれか1項に記載の投影表示装置を備える、車両。
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