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JP7272319B2 - 燃料電池用の積層体 - Google Patents

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JP7272319B2 JP2020089879A JP2020089879A JP7272319B2 JP 7272319 B2 JP7272319 B2 JP 7272319B2 JP 2020089879 A JP2020089879 A JP 2020089879A JP 2020089879 A JP2020089879 A JP 2020089879A JP 7272319 B2 JP7272319 B2 JP 7272319B2
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Description

本発明は、燃料電池用の積層体に関する。
水素等のアノードガスと、酸素等のカソードガスとを、化学反応させることによって発電を行う、燃料電池が知られている。
燃料電池は、電気的に接続された2つの電極に、それぞれ、水素等のアノードガス(燃料ガス)と酸素等のカソードガス(酸化剤ガス)を供給し、電気化学的に燃料の酸化を起こさせることで、化学エネルギーを電気エネルギーに直接変換する。
アノードガスとして水素が供給されたアノード(燃料極)では、下記式(a)の反応が進行する。
→ 2H + 2e ・・・(a)
上記式(1)で生じる電子(e)は、外部回路を経由し、外部の負荷で仕事をした後に、カソード(酸化剤極)に到達する。他方で、上記式(a)で生じたプロトン(H)は、水と水和した状態で、電気浸透により、アノードとカソードとに挟まれた電解質膜内を、アノード側からカソード側に移動する。
一方、カソードでは、電解質膜を通過した上記式(a)で生じたプロトン(H)と、カソードガスとして供給された酸素と、外部回路を経由した上記式(a)で生じた電子(e)とが、下記式(b)の反応を進行させる。
2H + 1/2O + 2e → HO ・・・(b)
したがって、電池全体では下記式(c)に示す化学反応が進行し、起電力が生じて、外部負荷に対して電気的仕事がなされる。
+ 1/2O → HO ・・・(c)
このような燃料電池は、通常、電解質膜を一対の電極で挟持した膜電極接合体を基本構造とする単セルを、複数積層して構成されている。中でも、電解質膜として固体高分子電解質膜を用いた固体高分子電解質型燃料電池は、小型化が容易であること、低い温度で作動すること、等の利点を有することから、特にモバイル機器等の携帯用、あるいは電気自動車等の移動体用の電源として期待されている。
ここで、固体高分子電解質型燃料電池の単セルの構成としては、例えば、アノード側セパレーター、アノード側ガス拡散層、アノード側触媒層、電解質膜、カソード側触媒層、カソード側ガス拡散層、及びカソード側セパレーターが、この順に積層された積層体が知られている。
ここで、燃料電池は、高温低加湿の状況においては、アノードが乾燥しやすくなる。乾燥が進むと、抵抗分極が増大してセル性能が低下する。また、高温時の出力低下は避けられない。これに対して、カソードで生成した水をアノード側に送って利用することが提案されている(特許文献1参照)。
特許文献1においては、積層体を構成する層のうち、カソード側触媒層の厚みをアノード側触媒層の厚みよりも大きくし、アノード側ガス拡散層の厚みをカソード側ガス拡散層の厚みよりも大きくし、更に、積層体を構成するそれぞれの層の厚みを特定の関係とすることで、カソード側からアノード側への水の移動を促進する技術が提案されている。
特開2016-081581号公報
しかしながら、本発明者は、カソード側触媒層の厚みをアノード側触媒層の厚みよりも大きくすると、熱容量が増加して昇温速度が遅くなり、氷点下における電池の始動性が悪くなる場合があるとの知見を得た。具体的には、カソード側触媒層の厚みが増加することにより熱容量が増加し、このため、昇温のために必要となる熱量が大きくなり、結果的に電池を構成する積層体の昇温速度が遅くなり、氷点下における始動性が悪くなる。
本発明は、上記の背景に鑑みてなされたものであり、カソード側からアノード側への水の移動を促進しつつ、氷点下における始動性を確保することのできる、燃料電池用の積層体を提供することを目的とする。
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を行った。そして、燃料電池用の膜電極接合体を構成する、アノード側触媒層、電解質膜、及びカソード側触媒層のそれぞれの厚みが特定の関係にあれば、カソード側触媒層の厚みをアノード側触媒層の厚みよりも大きくした場合であっても、氷点下における始動性を確保できることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、以下のとおりである。
アノード側触媒層、電解質膜、及びカソード側触媒層が、この順に積層されている燃料電池用の積層体であって、
前記アノード側触媒層の厚みをD1、前記電解質膜の厚みをD2、前記カソード側触媒層の厚みをD3としたときに、下記式(1)、及び下記式(2)を満足する、
燃料電池用の積層体。
D3>3.0×D1 ・・・(1)
D1>1/3×D2 ・・・(2)
本発明の燃料電池用の積層体によれば、カソード側触媒層の厚みをアノード側触媒層の厚みよりも大きくした場合であっても、、氷点下における始動性を確保することができ、その結果、アノード側への水の移動を促進しつつ、氷点下始動性が確保された燃料電池を実現することができる。
一実施形態に係る本発明の燃料電池用の積層体の断面図である。 電解質膜の厚みに対するアノード側触媒層の厚みの比と始動時セル含水量との関係を示すグラフである。 アノード側触媒層の厚みに対するカソード側触媒層の厚みの比と許容含水量との関係を示すグラフである。
以下、本発明の実施の形態について詳述する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるのではなく、種々変形して実施することができる。
《燃料電池用の積層体》
本発明の燃料電池用の積層体は、燃料電池セルを構成する積層体の少なくとも一部であり、アノード側触媒層、電解質膜、及びカソード側触媒層が、この順に積層されている、積層体である。そして、アノード側触媒層、電解質膜、及びカソード側触媒層のそれぞれの厚みが、特定の関係を有する。
本発明の燃料電池用の積層体は、アノード側触媒層、電解質膜、及びカソード側触媒層のそれぞれの厚みが、特定の関係を有することにより、カソード側触媒層の厚みをアノード側触媒層の厚みよりも大きくした場合であっても、氷点下における始動性を確保することのできる、燃料電池を実現することができる。
本発明の燃料電池用の積層体は、アノード側触媒層、電解質膜、及びカソード側触媒層を、必須の構成要素としていれば、その他の層が存在していてもよい。すなわち、本発明の燃料電池用の積層体の最小単位の構成体は、所謂膜電極接合体となる。その他の層としては、例えば、ガス拡散層やセパレーター等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
一般的な燃料電池セルに格納される積層体の構成としては、例えば、アノード側セパレーター、アノード側ガス拡散層、アノード側触媒層、電解質膜、カソード側触媒層、カソード側ガス拡散層、及びカソード側セパレーターが、この順に積層された積層体が挙げられる。
図1は、一実施形態に係る本発明の燃料電池用の積層体の断面図である。図1において、膜電極接合体100は、本発明に係る燃料電池の積層体の最小単位の一実施形態となる。膜電極接合体100を含む積層体200は、アノード側多孔質基材層41及びアノード側マイクロポーラス層42が積層されたアノード側ガス拡散層40、アノード側触媒層10、電解質膜30、カソード側触媒層20、並びに、カソード側多孔質基材層51及びカソード側マイクロポーラス層52が積層されたカソード側ガス拡散層50が、この順に積層された積層体である。
図1において、D1はアノード側触媒層の厚みであり、D2は電解質膜の厚みであり、D3はカソード側触媒層の厚みである。
本発明の燃料電池用の積層体は、アノード側触媒層、電解質膜、及びカソード側触媒層のそれぞれの厚みが、特定の関係を有する。すなわち、図1に示される膜電極接合体100においては、アノード側触媒層の厚みD1、電解質膜の厚みD2、及びカソード側触媒層の厚みD3が、特定の関係を有する。
<触媒層>
触媒層は、本発明の燃料電池用の積層体において、必須の構成層である。本発明の燃料電池用の積層体は、触媒層として、アノード側触媒層とカソード側触媒層とを含み、これらの間に電解質膜が配置される。
アノード側触媒層は、反応ガスである水素(H)を、プロトン(H)と電子(e)に分解する機能を有する。一方で、カソード側触媒層は、プロトン(H)と電子(e)と酸素(O)から、水(HO)を生成する機能を有する。
アノード側及びカソード側の触媒層は、同様の材料で形成することができる。例えば、白金や白金合金等の触媒を担持した導電性の担体が用いられ、更に具体的には、例えば、導電性物質として機能するカーボンブラック等の炭素粒子に触媒が担持された、触媒担持炭素粒子と、上記した電解質膜の構成成分である、イオン交換基によりプロトン伝導性を発現する電解質成分と、から構成される層が挙げられる。触媒担持炭素粒子が、プロトン伝導性を有するアイオノマー等の電解質成分により被覆されて形成された層であってもよい。
本発明の燃料電池用の積層体において、カソード側触媒層の厚みは、アノード側触媒層の厚みの3倍より大きい。すなわち、アノード側触媒層の厚みをD1とし、カソード側触媒層の厚みをD3としたときに、本発明の燃料電池用の積層体は、下記式(1)を満足する。
D3>3.0×D1 ・・・(1)
上記式(1)を満足することにより、カソード側からアノード側への水の移動を促進することができる。
アノード側触媒層の厚みD1と、カソード側触媒層の厚みD3とは、下記式(1a)の関係であってもよく、下記式(1b)の関係であってもよい。
D3>3.5×D1 ・・・(1a)
D3>4.0×D1 ・・・(1b)
また、本発明の燃料電池用の積層体において、アノード側触媒層の厚みD1と、カソード側触媒層の厚みD3とは、下記式(1c)の関係であってもよく、下記式(1d)の関係であってもよい。
D3<6.0×D1 ・・・(1c)
D3<5.0×D1 ・・・(1d)
本発明の燃料電池用の積層体において、アノード側触媒層及びカソード側触媒層の厚みは、上記の関係を満足できる状態であれば、特に限定されるものではない。用途に応じて、適宜設定することができる。
なお、本発明におけるアノード側触媒層及びカソード側触媒層の厚みは、それぞれの層の任意の10箇所を測定した平均値であってよい。
<電解質膜>
電解質膜は、本発明の燃料電池用の積層体において、必須の構成層である。電解質膜は、電子及びガスの流通を阻止するとともに、アノードで発生したプロトン(H)を、アノード側触媒層からカソード側触媒層に移動させる機能を有する。
本発明の燃料電池用の積層体において、アノード側触媒層の厚みは、電解質膜の厚みの1/3より大きい。すなわち、アノード側触媒層の厚みをD1とし、電解質膜の厚みをD2としたときに、本発明の燃料電池用の積層体は、下記式(2)を満足する。
D1>1/3×D2 ・・・(2)
上記式(2)を満足することにより、上記式(1)を満足する場合であっても、積層体の熱容量を低減することができる。その結果、カソード側からアノード側への水の移動を促進しつつ、氷点下における始動性を確保することができる。
アノード側触媒層の厚みD1と、電解質膜の厚みD2とは、下記式(2a)の関係であってもよく、下記式(2b)の関係であってもよい。
D1>2/5×D2 ・・・(2a)
D1>2/3×D2 ・・・(2b)
また、本発明の燃料電池用の積層体において、電解質膜の厚みは、アノード側触媒層の厚みよりも大きいことが好ましい。すなわち、アノード側触媒層の厚みD1と、電解質膜の厚みD2とは、下記式(2c)の関係であることが好ましく、下記式(2d)の関係であってもよい。
D1<1×D2 ・・・(2c)
D1<5/6×D2 ・・・(2d)
また、本発明の燃料電池用の積層体において、電解質膜の厚みは、カソード側触媒層の厚みよりも小さいことが好ましい。すなわち、電解質膜の厚みD2と、カソード側触媒層の厚みD3と、は、下記式(3a)の関係であることが好ましく、下記式(3b)の関係であってもよい。
D2<1.0×D3 ・・・(3a)
D2<4/5×D3 ・・・(3b)
本発明の燃料電池用の積層体において、電解質膜の厚みは、上記の関係を満足できる状態であれば、特に限定されるものではない。用途に応じて、適宜設定することができる。電解質膜の厚みは、例えば、10μm以下であってもよい。
なお、本発明における電解質膜の厚みは、電解質膜の任意の10箇所を測定した平均値であってよい。
電解質膜としては、特に限定されるものではなく、燃料電池に用いられる電解質膜として公知の膜を用いることができる。電解質膜として固体高分子電解質膜を用いる固体高分子電解質型燃料電池の場合には、例えば、パーフルオロスルホン酸(PFSA)アイオノマー等のスルホン酸基を含む高分子電解質樹脂で形成された、イオン伝導性を有するイオン交換膜が挙げらる。なお、スルホン酸基に限定されるものではなく、例えば、リン酸基やカルボン酸基等、他のイオン交換基(電解質成分)を含む膜であってもよい。
本発明においては、市販されているイオン交換膜を適用してもよく、パーフルオロスルホン酸(PFSA)アイオノマーなどの固体高分子材料である高分子電解質樹脂で形成されており、イオン伝導性を有する高分子膜を電解質とするイオン交換膜からなる。スルホン酸基を含むフッ素樹脂系イオン交換膜の市販品としては、例えば、デュポン社のナフィオン(登録商標)、旭化成(株)のアシプレックス(登録商標)、旭硝子(株)のフレミオン(登録商標)等が挙げられる。
<ガス拡散層>
ガス拡散層は、本発明の燃料電池用の積層体において、任意の層となる層である。ガス拡散層は、アノード側触媒層及びカソード側触媒層に隣接するように配置され、供給される反応ガスを拡散させて均一にし、隣接する触媒層にガスを行き渡らせる機能を有する。
一般的にガス拡散層は、多孔質基材層、及びマイクロポーラス層が、積層された積層体となっている。そして、マイクロポーラス層が、隣接する触媒層に面する。
(多孔質基材層)
ガス拡散層における多孔質基材層は、隣接する触媒層に、反応ガスを供給する多孔質の層である。多孔質基材層は、ガス透過性を有するとともに、導電性を有する材料で構成されることが好ましい。
本発明においては、多孔質基材層として一般的に用いられる材料であれば、特に限定されることなく用いることができ、例えば、カーボンペーパー若しくはカーボンクロス等のカーボン多孔質体、又は金属メッシュ若しくは発泡金属等の金属多孔質体等を挙げることができる。なお、カーボンペーパー若しくはカーボンクロス等のカーボン多孔質体は、例えば、炭素繊維と、焼成により炭化する樹脂等のバインダー等から形成されていてもよい。
ガス拡散層を構成する多孔質基材層の細孔径、密度、厚み等は、特に限定されるものではなく、形成される燃料電池の要求性能に応じて、適宜設定することができる。
(マイクロポーラス層(MPL))
ガス拡散層におけるマイクロポーラス層は、多孔質基材層の上に存在し、触媒層と隣接する層である。燃料電池用の積層体を構成するガス拡散層にMPLが形成されることにより、燃料電池セルにおけるガス拡散性が向上する。
マイクロポーラス層(MPL)の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、多孔質基材層の表面に、MPL形成用スラリーをダイコータ等によって塗工し、あるいは、MPL形成用ペーストを塗工ヘッドから吐出して塗工し、その後、乾燥及び焼成する方法が挙げられる。
MPL形成用スラリー、又はMPL形成用ペーストは、特に限定されるものではないが、一般に、炭素粒子と撥水性樹脂とを、主成分として含む組成物である。したがって、MPLは、これらを主成分とする層となる。
炭素粒子としては、例えば、カーボンブラック、グラフェン、又は黒鉛等の粒子等を挙げることができる。
炭素粒子の平均一次粒子径は、25nm~70nmであってよい。炭素粒子の平均一次粒子径は、25nm以上、45nm以上、又は65nm以上であってよく、70nm以下、60nm以下、又は50nm以下であってよい。
なお、炭素粒子の平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)や走査型電子顕微鏡(SEM)等の電子顕微鏡を用いて、無作為に選択した100個以上の粒子について定方向径(Feret径)を測定し、得られた測定値を算術平均した値である。
撥水性樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体等のフッ素系の高分子材料や、ポリプロピレン、ポリエチレン等を挙げることができる。
ガス拡散層を構成するマイクロポーラス層(MPL)の厚みは、特に限定されるものではなく、形成される燃料電池の要求性能に応じて、適宜設定することができる。例えば、20μm以上であってもよい。
以下、実験結果を示して、本発明を更に詳細に説明する。
実験例においては、電解質膜の厚みを固定し、アノード側触媒層の厚み(実験例1)、更にカソード側触媒層の厚み(実験例2)を変化させて、合計で12の燃料電池を作製した。実験例1で作製した燃料電池の6つについては、始動時セル含水量を評価し、実験例2で作製した燃料電池の6つについては、容含水量を評価した。
なお、始動時セル含水量とは、発電後に氷点下始動を想定した掃気・排水処理をした後に、残水している水の量であり、氷点下における燃料電池の始動性に関する指標となる。始動時セル含水量が少ないほど、氷点下における燃料電池の始動性は良好となるが、始動時セル含水量が少なすぎると、燃料電池が発電できなくなり始動困難となる。
また、許容含水量とは、氷点下始動時の総電流量を生成水量に換算したものであり、氷点下における燃料電池の始動性に関する指標となる。燃料電池の許容含水量が十分に高ければ、燃料電池が十分に反応を進めていることとなり、氷点下における燃料電池の始動性が良好であることを意味する。
したがって、一般的に、始動時セル含水量と許容含水量との間には相関関係があり、始動時セル含水量が低下すると、許容含水量は増加する関係となる。
《実験例1》電解質膜の厚み(D2)に対するアノード側触媒層の厚み(D1)の比と、始動時セル含水量との関係
実験例1においては、電解質膜の厚み(D2)は固定し、アノード側触媒層の厚み(D1)を変化させて、6つの燃料電池を作製した。得られた6つの燃料電池について、始動時セル含水量を評価した。
<燃料電池の作製>
(ガス拡散層の作製)
多孔質基材として、カーボンペーパーを12枚準備した。それぞれのカーボンペーパーの表面に、炭素粒子とポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含むマイクロポーラス層(MPL)形成用スラリーを、ダイコータによって塗工し、乾燥の後に焼成することで、多孔質基材層にマイクロポーラス層(MPL)が積層されたガス拡散層を作製した。
(膜電極接合体(MEA)の作製)
電解質膜として、厚みが9μmのフッ素系プロトン導電性ポリマーを含む膜を、6枚準備した。
電解質膜の片面に、白金合金が担持された炭素粒子とアイオノマーとを含むカソード側触媒層形成インクを塗工し、乾燥することで、カソード側触媒層を形成した。
続いて、アノード側触媒層形成インクとして、白金が担持された炭素粒子とアイオノマーとを含む組成物を準備した。カソード側触媒層が形成されていない電解質膜の面に、アノード側触媒層形成インクを塗工し、乾燥することで、アノード側触媒層を形成し、膜電極接合体(MEA)を作製した。なお、作製した膜電極接合体の6枚は、アノード側触媒層の厚み(D1)が異なるものとした。
(燃料電池の作製)
上記で作製したガス拡散層のうち2枚と、上記で作製した膜電極接合体(MEA)のうち1枚とを用いて、アノード側ガス拡散層/アノード側触媒層/電解質膜/カソード側触媒層/カソード側ガス拡散層、の順となるよう積層し、一対のセパレータで挟み込むことで、アノード側触媒層の厚み(D1)が互いに異なる6つの燃料電池を作製した。
なお、アノード側触媒層及びカソード側触媒層には、それぞれに隣接するガス拡散層のマイクロポーラス層(MPL)が面するように配置した。
<始動時セル含水量の評価>
作製した6種類の燃料電池について、始動時セル含水量を評価した。始動時セル含水量は、セルの乾燥重量を予め測っておき、発電後に氷点下始動を想定した掃気・排水処理をした後のセルの重量から、乾燥重量を差し引くことにより求めた。
それぞれの電池について、電解質膜の厚み(D2)に対するアノード側触媒層の厚み(D1)の比を求め、得られた始動時セル含水量の逆数と組み合わせて、図2にプロットした。グラフの横軸は、電解質膜の厚み(D2)に対するアノード側触媒層の厚み(D1)の比であり、グラフの縦軸は、得られた燃料電池セルの始動時セル含水量の逆数の相対値を示す。
図2より、アノード側触媒層の厚み(D1)が、電解質膜の厚み(D2)の1/3よりも大きい範囲であれば、適量となる始動時セル含水量となることから、氷点下における始動性が良好となることが判る。
《実験例2》アノード側触媒層の厚み(D1)に対するカソード側触媒層の厚み(D2)の比と許容含水量との関係
実験例2においては、電解質膜の厚み(D2)は固定し、アノード側触媒層の厚み(D1)及びカソード側触媒層の厚み(D3)を変化させて、6つの燃料電池を作製した。得られた6つの燃料電池について、許容含水量を評価した。
<燃料電池の作製>
(膜電極接合体(MEA)の作製)
電解質膜として、厚みが9μmのフッ素系プロトン導電性ポリマーを含む膜を、6枚準備した。
電解質膜の片面に、白金合金が担持された炭素粒子とアイオノマーとを含むカソード側触媒層形成インクを塗工し、乾燥することで、カソード側触媒層を形成した。なお、作製したカソード側触媒層は、互いに厚みが異なるものとした。
続いて、アノード側触媒層形成インクとして、白金が担持された炭素粒子とアイオノマーとを含む組成物を準備した。カソード側触媒層が形成されていない電解質膜の面に、アノード側触媒層形成インクを塗工し、乾燥することで、アノード側触媒層を形成し、膜電極接合体(MEA)を作製した。なお、作製したアノード側触媒層は、互いに厚みが異なるものとした。
(ガス拡散層の作製)
多孔質基材として、カーボンペーパーを12枚準備した。実験例1と同様にして、それぞれのカーボンペーパーの表面にマイクロポーラス層(MPL)を形成し、多孔質基材層にマイクロポーラス層(MPL)が積層されたガス拡散層を作製した。
(燃料電池の作製)
上記で作製したガス拡散層のうち2枚と、上記で作製した膜電極接合体(MEA)のうち1枚とを用いて、アノード側ガス拡散層/アノード側触媒層/電解質膜/カソード側触媒層/カソード側ガス拡散層、の順となるよう積層し、一対のセパレータで挟み込むことで、アノード側触媒層の厚み(D1)及びカソード側触媒層の厚み(D3)がそれぞれ異なる6つの燃料電池を作製した。
アノード側触媒層及びカソード側触媒層には、それぞれに隣接するガス拡散層のマイクロポーラス層(MPL)が面するように配置した。
<電池の評価>
(許容含水量)
作製した6種類の燃料電池について、許容含水量を評価した。なお、許容含水量は、以下の操作により求めた。
氷点下でセルの温度を維持したまま、電池を始動をする。始動後しばらくは、電流を掃引できるが、生成水が凍り始めると次第に掃引できる電流量が減少し、ある時点で電流は掃引できなくなる。始動から掃引した電流量の合計(総電流量)をクーロン換算し、燃料電池が始動してから生成した水量として算出し、これを許容含水量とした。
それぞれの電池について、アノード側触媒層の厚み(D1)に対するカソード側触媒層の厚み(D3)の比を求め、得られた許容含水量と組み合わせて、図3にプロットした。グラフの横軸は、アノード側触媒層の厚み(D1)に対するカソード側触媒層の厚み(D3)の比であり、グラフの縦軸は、得られた燃料電池セルの許容含水量の相対値を示す。
図3より、カソード側触媒層の厚み(D)が、アノード側触媒層の厚み(D1)の3倍よりも大きい範囲であれば、十分に大きい許容含水量を有することから、氷点下における始動性を確保できることが判る。
100 膜電極接合体
200 積層体
10 アノード側触媒層
20 カソード側触媒層
30 電解質膜
40 アノード側ガス拡散層
41 アノード側多孔質基材層
42 アノード側マイクロポーラス層
50 カソード側ガス拡散層
51 カソード側多孔質基材層
52 カソード側マイクロポーラス層
D1 アノード側触媒層の厚み
D2 電解質膜の厚み
D3 カソード側触媒層の厚み

Claims (1)

  1. アノード側触媒層、電解質膜、及びカソード側触媒層が、この順に積層されている燃料電池用の積層体であって、
    前記アノード側触媒層の厚みをD1、前記電解質膜の厚みをD2、前記カソード側触媒層の厚みをD3としたときに、下記式(1)、及び下記式(2)を満足する、
    燃料電池用の積層体。
    D3>3.0×D1 ・・・(1)
    D1>1/3×D2 ・・・(2)
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