以下、本発明に係る実施形態を添付図面に従って説明する。なお、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物、あるいは、その用途を制限することを意図するものではない。また、図面は模式的なものであり、各距離の比率等は現実のものとは相違している。
図1は、本発明の一実施形態に係る潤滑構造が適用された手動変速機1の縦断面図である。手動変速機1は、変速軸の軸線が車両前後方向に向くように車両に縦置きで配置されるようになっている。以下の説明において、手動変速機1の前後、左右、上下方向は、手動変速機1が搭載された車両の前後、左右、上下方向にそれぞれ対応するものとする。
手動変速機1は、変速機ケース2と、変速機ケース2内に収容されたギヤトレイン10とを有している。変速機ケース2は、不図示の動力源(例えばエンジン)の後面に連結されるクラッチハウジング3とこの後側に連結されたギヤケース4とを含む。ギヤケース4の内側後部よりに、ギヤケース4とは別体に形成されており前後方向に直交する方向に延びるベアリングハウジング60が固定されている。
ギヤトレイン10は、変速軸としての、メインシャフト11及びこの略直下において平行に配設されたカウンタ軸14とを備えている。メインシャフト11及びカウンタ軸14は前後方向に延びており、変速機ケース2に回転自在に支持されている。メインシャフト11は、動力源の出力軸(不図示)に断接可能に連結された入力軸12と、この後側において同一軸線上に配置された出力軸13とを備えている。
入力軸12は、前部がクラッチハウジング3に対して第1軸受21を介して回転自在に支持されている。出力軸13は、前部がベアリングハウジング60に対して第2軸受22を介して回転自在に支持されており、後部がギヤケース4の軸受支持壁70に対して第3軸受23を介して回転自在に支持されている。入力軸12の後部は、出力軸13の前端部に穿設された嵌合孔に例えばニードルベアリングを介して回転自在に支持されている。本実施形態の第3軸受23は、グリス又は潤滑油が封入されたシール付き軸受である。
カウンタ軸14は、前部がクラッチハウジング3に対して第4軸受24を介して回転自在に支持されており、後部がギヤケース4の軸受支持壁70に対して第5軸受25を介して回転自在支持されており、前部及び後部の間の後側よりに位置する中間部がベアリングハウジング60に対して第6軸受26を介して回転自在に支持されている。
入力軸12には、前から順に、後退速用ドライブギヤ37、及び第1~第5ドライブギヤ31~35を含む、複数の入力ギヤ30が設けられている。カウンタ軸14には、前から順に、後退速用ドリブンギヤ47、第1~第5ドリブンギヤ41~45、及び減速用ドライブギヤ48を含む、複数の変速ギヤ40が設けられている。出力軸13には、減速用ドリブンギヤ38が設けられている。
減速用ドライブギヤ48と減速用ドリブンギヤ38とは、斜歯歯車である。減速用ドライブギヤ48及び減速用ドリブンギヤ38の幅(前後方向の寸法)は、第1~第5ドライブギヤ31~35及び第1~第5ドリブンギヤ41~45の幅(前後方向の寸法)よりも大きい。本実施形態に係る減速用ドライブギヤ48は、本発明に係る潤滑対象部材の一例である。
入力軸12とカウンタ軸14との間には、複数の入力ギヤ30と複数の変速ギヤ40(減速用ドライブギヤ48を除く)とによって、常時噛み合い式の変速段用ギヤ列G1、G2,G3,G4,G5及びGRが構成されている。出力軸13とカウンタ軸14との間には、減速用ドリブンギヤ38と減速用ドライブギヤ48とによって、常時噛み合い式の減速用ギヤ列G0が構成されている。
具体的に、入力軸12とカウンタ軸14との間に、後退速用ギヤ列GR、第1変速段用ギヤ列G1、第2変速段用ギヤ列G2、第3変速段用ギヤ列G3、第4変速段用ギヤ列G4、及び第5変速段用ギヤ列G5が、前から順に設けられている。なお、ギヤトレイン10は、第6変速段が、動力源からの回転がそのままの回転数で入力軸12から出力軸13に伝達される直結段として構成されている。
第1及び第2変速段用ギヤ列G1,G2は、入力軸12の外周部に一体的に形成された第1及び第2ドライブギヤ31,32と、カウンタ軸14の外周部に遊嵌された第1及び第2ドリブンギヤ41,42とにより構成されている。第3~第5変速段用ギヤ列G3~G5は、入力軸12の外周部に遊嵌された第3~第5ドライブギヤ33~35と、カウンタ軸14の外周部にスプライン嵌合された第3~第5ドリブンギヤ43~45とにより構成されている。
減速用ギヤ列G0は、カウンタ軸14の外周部にスプライン嵌合された減速用ドライブギヤ48と、出力軸13の外周部にスプライン嵌合された減速用ドリブンギヤ38とを備えている。減速用ドライブギヤ48の外径は、減速用ドリブンギヤ38の外径よりも小さく、したがって、カウンタ軸14に伝達された回転は、減速用ギヤ列G0により所定の変速比で減速されて出力軸13に伝達される。
また、入力軸12及びカウンタ軸14には、これらに遊嵌されたドライブギヤ又はドリブンギヤをそれぞれの軸に動力伝達可能に連結する同期装置16~19が設けられている。具体的には、入力軸12には、第3及び第4ドライブギヤ33,34の軸方向間に第3-4速用同期装置17が設けられ、第5ドライブギヤ35と出力軸13との軸方向間に第5-6速用同期装置18が設けられている。
カウンタ軸14には、ここに遊嵌された後退速用ドリブンギヤ47の前側に隣接して後退速用同期装置19が設けられており、第1及び第2ドリブンギヤ41,42の軸方向間に第1-2速用同期装置16が設けられている。
すなわち、直結段である第6変速段を除いて、入力軸12に動力源から入力された駆動トルクが、同期装置16~19のいずれか1つにより動力伝達可能とされた第1~第5変速段用ギヤ列G1~G5又は後退速用ギヤ列GRのいずれか1つを介して所定の変速比で変速されてカウンタ軸14に伝達され、最終的にカウンタ軸14から減速用ギヤ列G0を介して減速されて出力軸13に伝達されるようになっている。すなわち、ギヤトレイン10は、出力軸13側で減速される、いわゆるアウトプットリダクションタイプとして構成されている。
図1に示されるように、ギヤケース4の内側に画定される空間Sは、ベアリングハウジング60を含みこの前側に画定される第1空間S1と、この後方において、前後方向に直交する段落ち面4aを介して上下方向及び左右方向に一段縮小された第2空間S2とを含んでいる。また、ギヤケース4の内側に画定される空間Sは、第3軸受23の後側に画定される第3空間S3を含んでいる。具体的には、第3空間S3は、第3軸受23と第5軸受25とが圧入されるギヤケース4の軸受支持壁70によって画定される。
変速機ケース2の内側下部には、オイル貯留部7が構成されており、ここに貯留されたオイルが二点鎖線でハッチングを付して示されている。オイル貯留部7には、ギヤトレイン10の各部を潤滑するためのオイルが貯留されている。オイル貯留部7のオイルレベルLは、カウンタ軸14に設けられた複数の変速ギヤ40(第5ドリブンギヤ45と減速用ドライブギヤ48とを除く)の下端部よりも上方に位置している。したがって、複数の変速ギヤ40(第5ドリブンギヤ45と減速用ドライブギヤ48とを除く)は、下部においてオイル貯留部7に浸かっている。一方で、本実施形態のオイル貯留部7のオイルレベルLは、減速用ドライブギヤ48の下端部よりも下方に位置している。したがって、減速用ドライブギヤ48は、下部において、オイル貯留部7に浸かっていない。
第3~第5ドリブンギヤ43~45の下方には、オイルセパレータ51が設けられている。オイルセパレータ51は、第3~第5ドリブンギヤ43~45の略下半分を下方から間隔を空けて覆うように上方に開口した半円状の断面を有しており、第3ドリブンギヤ43の下方からベアリングハウジング60の前端面まで後方へ延びている。オイルセパレータ51によれば、第3~第5ドリブンギヤ43~45により攪拌されるオイル量が低減されるので、これにより変速ギヤ40による攪拌抵抗の低減が図られている。
また、第1及び第2ドリブンギヤ41,42の側部には、オイルバッフル53が設けられている。図2は図1のII-IIに沿った断面図であり、第2変速段用ギヤ列G2及びオイルバッフル53の断面を示している。図2を併せて参照して、オイルバッフル53は、第1及び第2ドリブンギヤ41,42を側部から覆うように構成されており、回転する第1~第2ドリブンギヤ41,42の外周歯部によりオイル貯留部7から掻き上げられたオイルを上方へ案内するように構成されている。
具体的には、図2において、第2ドライブギヤ32は時計回り(回転方向R1)で回転しており、これに噛み合う第2ドリブンギヤ42は反対方向の反時計回り(回転方向R2)で回転しており、軸芯から左側の領域(前方から見た図2において右側)において外周歯部が下方から上方へ移動する。オイルバッフル53は、第2ドリブンギヤ42の左側部を左方から間隔を空けて覆うように構成されており、下部が第2ドリブンギヤ42の外周部に沿った円弧状に形成されており、上部が上方へ延びており上端部において上方に開口している。
入力軸12の上方には、この軸線方向に延びるオイルパス55が設けられている。オイルパス55は、上方に位置する第1通路56と、この左端部から左斜め下方へ延びる縦壁部57を介して一段下がった位置において第1通路56よりも左側に位置する第2通路58とを有している。
図1に示されるように、第1通路56は、第2ドライブギヤ32の上方からベアリングハウジング60の前端面まで前後方向に延びている。図2を併せて参照して、第1通路56は、L字状断面に形成されており、複数の変速ギヤ40、特に第1及び第2ドリブンギヤ41,42により掻き上げられてオイルバッフル53により上方に案内されたオイルを、受け止めて、入力軸12の軸芯方向に沿って後方へ案内するように構成されている。第1通路56には、上下方向に貫通するオイル孔56aが複数穿設されており、複数のオイル孔56aを介して、入力軸12の潤滑が必要な部位(例えば、同期装置等)にオイルが供給されるようになっている。
図2に示されるように、第2通路58は、上方が開いた樋状(U字状断面)に構成されており、第1通路56から縦壁部57を介して案内されたオイル、又は複数の変速ギヤ40によって掻き上げられたオイルが直接に案内されるようになっている。図1において二点鎖線で示すように、第2通路58は、入力軸12の左側部をこの軸芯方向に沿って後方へ延び、ベアリングハウジング60の左側部を通って第3軸受23の側部に至っている。
図3は、減速用ドライブギヤ48及び減速用ドリブンギヤ38の周辺を示す断面斜視図である。図3を参照すると、前述したように、第2通路58は、第3軸受23の側部に至っている。具体的には、第2通路58は、ギヤケース4の軸受支持壁70に形成された挿通孔71に挿通されている。挿通孔71は、第3軸受23の側方に設けられており、ギヤケース4内の第2空間S2と第3空間S3(図1に示す)とを連通している。これにより、第2通路58を介して、第3空間S3にオイルが供給されるようになっている。したがって、挿通孔71は、減速用ドライブギヤ48と減速用ドリブンギヤ38とが配置された変速機ケース2内の第2空間S2と、第2通路58から供給されたオイルが貯留される変速機ケース2内の第3空間S3とを連通する。
図3に示すように、変速機ケース2の第2空間S2には、オイルを減速用ドライブギヤ48に供給するためのオイル供給部材80が設けられている。本実施形態のオイル供給部材80は、ギヤケース4の内面を伝うオイルを回収し、回収したオイルを減速用ドライブギヤ48に供給する。オイル供給部材80は、ベアリングハウジング60と、軸受支持壁70との間に配置されている。
図4は、オイル供給部材80周辺を前方から見た図である。図4では、減速用ドリブンギヤ38、減速用ドライブギヤ48、第3軸受23、及び第5軸受25の図示を省略している。図3及び図4を参照すると、ギヤケース4の軸受支持壁70には、オイル供給部材80にオイルを誘導するための誘導部72が形成されている。誘導部72は、軸受支持壁70の挿通孔71からオイル供給部材80に至るように設けられている。誘導部72は、前方が開いた溝状(U字状断面)に構成されている。具体的には、誘導部72は、軸受支持壁70の後端面70aと、後端面70aから前方に突出して上下方向に延びる一対の側面70b,70cとによって形成されている。また、側面70bには、後端面70aよりも前方に位置する頂面70dが連なるように設けられている。
図5は、本実施形態のオイル供給部材80単体の斜視図である。図6は、本実施形態に係るオイル供給部材80の上面図である。また、図7は、図6のVII-VII線における断面図である。図8は、図6のVIII-VIII線における断面図である。なお、図6及び図8では、前進時の減速用ドライブギヤ48の回転方向を示している。
図5及び図6を参照すると、オイル供給部材80は、本体部81と、本体部81から前方に向けて突出した2つの前側取付部80aと、本体部81から後方に向けて突出した後側取付部80bとを備える。
オイル供給部材80の本体部81は、オイル回収部82と、前後方向に延びる第1流路部分83と、左右方向に延びる第2流路部分84と、第2流路部分84の下方に設けられた第2供給部85とを備える。
オイル回収部82は、変速機ケース2(ギヤケース4)の内面と、第1流路部分83とを接続している。これにより、オイル回収部82は、変速機ケース2(ギヤケース4)の内面を伝うオイルを回収して第1流路部分83に流入させるように構成されている。オイル回収部82は、前面視略円形状の第1端面82aと、第1端面82aに連なって前方に設けられた略半円筒状の底面82bと、第1端面82aに対し前側に対向し、底面82bと連なって設けられた第2端面82cとを備える。また、第2端面82cの一部は、底面82bの上端よりも上方に延びている。
図7に示すように、本実施形態では、オイル回収部82の第1端面82aは、軸受支持壁70の後端面70aよりも前後方向の後方側に配置されている。言い換えれば、オイル回収部82の第1端面82aは、軸受支持壁70よりも変速機ケース2(ギヤケース4)の外側に位置している。また、オイル回収部82の第1端面82aは、後側取付部80bと一体に形成されている。
オイル回収部82の第2端面82cは、第1端面82aよりもオイル回収部82の前後方向の前方側に配置されている。
図5に示すように、第1流路部分83は、上方が開いた樋状(U字状断面)に構成されている。図6に示すように、第1流路部分83は、オイル回収部82に接続されており、オイル回収部82によって回収されたオイルを後側から前側に案内するように構成されている。また、図7を併せて参照すると、オイル供給部材80が変速機ケース2(図1に示す)に取り付けられた状態で、第1流路部分83は、後側から前側に向けて斜め下方に傾斜している。
図5に示すように、第2流路部分84は、上方が開いた樋状(U字状断面)に構成されている。第2流路部分84は、第1流路部分83の前側の端部に接続されている。図6に示すように、第2流路部分84は、第1流路部分83によって後側から前側に案内されたオイルを、左側から右側に向けて案内するように構成されている。また、図8を参照すると、第2流路部分84は、左側から右側に向けて斜め下方に傾斜している。
図5に示すように、第2流路部分84の左右方向における第1流路部分83と反対側(右側)の端部には、第1供給部84aが設けられている。図6を併せて参照すると、第1供給部84aは、減速用ドライブギヤ48と対向するように設けられている。また、第1供給部84aは、減速用ドライブギヤ48の軸方向(本実施形態では前後方向)の中心線CLに対して偏心した位置に設けられている。言い換えれば、第1供給部84aは、減速用ドライブギヤ48の前後方向における中心線CLからずれて配置されている。具体的には、第1供給部84aは、前後方向において、減速用ドライブギヤ48の軸方向の中心線CLより前側に配置されている。
図6に示すように、上面視において、第1供給部84aは、減速用ドライブギヤ48と重複するように配置されている。すなわち、図8に示すように、第1供給部84aは、減速用ドライブギヤ48の上方に位置している。これにより、第1供給部84aから吐出されたオイルは、減速用ドライブギヤ48に上方から供給される。
図5に示すように、第2流路部分84の左右方向における第1流路部分83と反対側(右側)の端部には、下方に延びる板状の下方延在部84bが設けられている。言い換えれば、下方延在部84bは、第1供給部84aから下方に延びるように設けられている。また、図6に示すように、上面視において、下方延在部84bは、減速用ドライブギヤ48と重複するように配置されている。
本実施形態では、第1流路部分83と第2流路部分84とによってオイル供給部材80のオイル経路が構成されている。また、オイル回収部82は、変速機ケース2(ギヤケース4)の内面と、オイル経路とを接続している。これにより、オイル供給部材80のオイル回収部82によって回収されたオイルは、オイル経路に流入し、オイル経路(第1流路部分83及び第2流路部分84)によって案内されて、第1供給部84aから減速用ドライブギヤ48に向けて吐出される。
本実施形態のオイル経路は、絞り流路である。言い換えれば、図6に示すように、オイル供給部材80のオイル経路の幅(オイルの流れ方向に直交する方向の寸法)は、第1流路部分83の上流側よりも第2流路部分84の下流側の方が小さくなっている。具体的には、オイル供給部材80の第1供給部84aにおけるオイル経路の幅W1は、オイル供給部材80の第1流路部分83の上流側のオイル経路の幅W2よりも小さい。また、オイル供給部材80の第1供給部84aにおけるオイル経路の幅W1は、減速用ドライブギヤ48の軸方向(前後方向)における寸法Aよりも小さい。
図5に示すように、第2供給部85は、第1供給部84aの下部に設けられており、下方に延びる板状の部材である。本実施形態の第2供給部85は、左右方向において、第1供給部84aよりも左側に配置されている。また、図6を参照すると、上面視において、第2供給部85は、減速用ドライブギヤ48と重複するように配置されている。また、図6及び図8に示すように、第2供給部85は、第1供給部84aよりも減速用ドライブギヤ48の径方向の外側に配置されている。第2供給部85は、減速用ドライブギヤ48の前側よりに配置されている。
第2供給部85の前後方向の寸法Bは、減速用ドライブギヤ48の軸方向(前後方向)における寸法Aよりも小さい。また、第2供給部85の前後方向の寸法Bは、第1供給部84aにおけるオイル経路の幅W1よりも大きい。第1供給部84aは、第2供給部85の前後方向の前側よりに配置されている。
図9は、オイル供給部材80のギヤケース4への取付構造を説明するための断面斜視図である。図9を参照すると、ベアリングハウジング60には、オイル供給部材80の2つの前側取付部80aのそれぞれが挿入できるように構成された2つの取付穴61が設けられている。また、ギヤケース4の軸受支持壁70には、オイル供給部材80の後側取付部80bが挿入できるように構成された取付凹部74が設けられている。オイル供給部材80は、前側取付部80aがベアリングハウジング60の取付穴61に差し込まれ、後側取付部80bが軸受支持壁70の取付凹部74に差し込まれることで、ベアリングハウジング60と軸受支持壁70との間に配置されている。
本実施形態のオイル供給部材80は、オイル回収部82の第1端面82aが、軸受支持壁70の後端面70aよりも前後方向の後方側に配置されるように、ギヤケース4に取り付けられている。また、本実施形態のオイル供給部材80は、本実施形態のオイル回収部82の第2端面82cと、側面70bと連なる頂面70dとが実質的に面一になるように、ギヤケース4に取り付けられている。
本実施形態では、オイル回収部82の第1端面82aと第2端面82cとの間の距離と、側面70bの前後方向の寸法とは概略同じである。
(オイルの流れ)
上記説明した手動変速機1の内側における、オイルの流れについて説明する。
まず、図1及び図2の矢印F1~F3で示されるように、オイル貯留部7に貯留されたオイルが、カウンタ軸14に設けられた変速ギヤ40の回転方向R2への回転によって上方へ掻き上げられる。特に、第1及び第2ドリブンギヤ41,42の外周歯部により掻き上げられたオイルが、オイルバッフル53により案内されて効率的に上方へ掻き上げられる。
次に、図2において矢印F4,F5で示されるように、掻き上げられたオイルがオイルパス55で受け止められる。図1及び図2において矢印F6で示されるように、オイルパス55において上方に位置する第1通路56上を後方へ案内されるオイルは、複数のオイル孔56aを介して、下方の入力軸12上の入力ギヤ30に供給される。入力ギヤ30に供給されたオイルは、下方のカウンタ軸14上の各部を潤滑しつつ又は直接にオイル貯留部7に至る。
また、図2において矢印F7で示されるように、オイルパス55において下方に位置する第2通路58上を後方へ案内されるオイルは、第3空間S3に供給される。第3空間S3に供給されたオイルの一部は、第3空間S3に貯留されるとともに、出力軸13内に導入され、入力軸12上の各部又は出力軸13上の各部を潤滑しつつオイル貯留部7に至る。
次いで、図3及び図4において矢印F8で示されるように、第3空間S3に貯留されたオイルのうちの一部は、ギヤケース4の軸受支持壁70に形成された挿通孔71を介して、第2空間S2に流れ出る。第2空間S2に流れ出たオイルは、ギヤケース4の内面を伝って、下方に流れる。このオイルは、誘導部72によって、オイル供給部材80のオイル回収部82に誘導される。
このとき、手動変速機1(又は手動変速機1が搭載された車両)が前側に傾いたとしても、図9において矢印F81で示されるように、第2空間S2に流れ出たオイルは、鉛直に落下して、オイル供給部材80のオイル回収部82に回収され得る。一方で、手動変速機1(又は手動変速機1が搭載された車両)が後側に傾いたとしても、図9において矢印F8で示されるように、第2空間S2に流れ出たオイルは、誘導部72を形成する後端面70aに沿って流れることで、オイル供給部材80のオイル回収部82に回収される。
また、手動変速機1(又は手動変速機1が搭載された車両)が右側に傾いたとしても、図4において矢印F82で示されるように、第2空間S2に流れ出たオイルは、誘導部72を形成する側面70bに沿って流れることで、オイル供給部材80のオイル回収部82に回収される。同様に、手動変速機1(又は手動変速機1が搭載された車両)が左側に傾いたとしても、図4において矢印F82で示されるように、第2空間S2に流れ出たオイルは、誘導部72を形成する側面70cに沿って流れることで、オイル供給部材80のオイル回収部82に回収される。
図5及び図6において矢印F9で示されるように、オイル供給部材80に回収されたオイルは、第1流路部分83及び第2流路部分84を流れ、第1供給部84aから減速用ドライブギヤ48に向けて吐出される。
図8において矢印F10で示されるように、減速用ドライブギヤ48に向けて吐出されたオイルは、減速用ドライブギヤ48を潤滑する。また、減速用ドライブギヤ48に向けて吐出されたオイルの一部は、減速用ドライブギヤ48の回転によって、弾き飛ばされて飛散する。
図8において矢印F11で示されるように、減速用ドライブギヤ48の回転により飛散したオイルの一部は、オイル供給部材80の下方延在部84bに付着し、下方延在部84bを伝って下方に流れ、下方延在部84bの下端から、減速用ドライブギヤ48に滴下される。
また、図8において矢印F12で示されるように、減速用ドライブギヤ48の回転により飛散したオイルの一部は、オイル供給部材80の第2供給部85に付着し、第2供給部85を伝って下方に流れ、第2供給部85の下端から、減速用ドライブギヤ48に滴下される。
また、図6に示すように、本実施形態では、減速用ドライブギヤ48は、斜歯歯車であり、前進時に、第1供給部84aから吐出されたオイルを減速用ドライブギヤ48の軸方向の一方側(前後方向の後方側)に飛散させるように構成されている。このため、第1供給部84aから吐出されたオイルの一部は、図6において矢印F13で示されるように、減速用ドライブギヤ48によって、オイル供給部材80に向かって斜め後方に飛散する。このオイルは、第2供給部85に付着し、第2供給部85を伝って流れ、第1供給部84aよりも後方において、第2供給部85の下端から減速用ドライブギヤ48に滴下される。
これにより、オイル供給部材80の第1供給部84aから吐出され、減速用ドライブギヤ48によって飛散され減速用ドライブギヤ48の潤滑に寄与しなかったオイルの一部が、下方延在部84b又は第2供給部85から減速用ドライブギヤ48に再度供給される。
上記実施形態に係る変速機の潤滑構造によれば、以下の作用効果を奏する。
(1)変速機ケース2の内面を伝うオイルは、オイル供給部材80のオイル回収部82によって回収されて、減速用ドライブギヤ48に供給される。言い換えれば、変速機ケース2の内面を伝うオイルが減速用ドライブギヤ48の潤滑に利用される。その結果、少量のオイルで減速用ドライブギヤ48が効率的に潤滑されるので、変速機ケース2内のオイルレベルLを低下できる。また、変速機ケース2内のオイルレベルLが低下されると、減速用ドライブギヤ48を含む変速ギヤ40の回転により攪拌されるオイル量が低減されるので、攪拌抵抗が低減し、燃費の向上が図れる。これにより、減速用ドライブギヤ48を効率的に潤滑することで、減速用ドライブギヤ48を十分に潤滑しつつ、攪拌抵抗を低減して、燃費の向上が図れる。
(2)軸受支持壁70にオイル供給部材80のオイル回収部82にオイルを誘導する誘導部72が形成されているので、軸受支持壁70の内面を伝うオイルをオイル回収部82によって効率的に回収できる。
(3)オイル回収部82の第1端面82aが、軸受支持壁70の後端面70aよりも前後方向の前方側に配置されていると、後端面70aを伝って流れるオイルをオイル回収部82の第1端面82aによって回収できないことがある。これに対して、本実施形態によれは、オイル回収部82の第1端面82aが、軸受支持壁70の後端面70aよりも前後方向の後方側に配置されているので、後端面70aを伝うオイルを確実に回収できる。また、オイル回収部82の第1端面82aと軸受支持壁70の後端面70aとが面一になる程度に、オイル供給部材80が前方にずれたとしても、オイル回収部82は、後端面70aを伝うオイルを確実に回収できる。言い換えれば、この構成によれば、オイル供給部材80の前後方向の位置のずれを許容できる。
(4)減速用ドライブギヤ48は、減速用ドライブギヤ48以外の変速ギヤ40と比較して小径であるので、燃費の向上を図るためにオイルレベルを低下した場合に、オイル貯留部7に溜められたオイルに浸かりにくい。本実施形態に係る変速機の潤滑構造によれば、オイル供給部材80によって、減速用ドライブギヤ48へオイルが効率的に供給されるので、減速用ドライブギヤ48へのオイルの供給量を確保しつつ、燃費の向上を図れる。
特許請求の範囲に記載された本発明の精神および範囲から逸脱することなく、各種変形及び変更を行うことも可能である。
例えば、上記実施形態では、オイル供給部材80は、減速用ドライブギヤ48の潤滑のために設けられていたが、これに限定されず、潤滑が必要な他の構成要素を潤滑するために設けられていてもよい。