以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による車両の制御方法及び車両システムについて説明する。
<車両の構成>
まず、図1及び図2を参照して、本発明の実施形態による車両の制御方法及び車両システムが適用された車両について説明する。図1は、本発明の実施形態による車両の全体構成を概略的に示すブロック図であり、図2は、本発明の実施形態による車両の電気的構成を示すブロック図である。
図1に示すように、車両1の車体前部には、左右の後輪2を駆動する原動機として、エンジン4が搭載されている。この車両1は、所謂FR車として構成されている。車両1の各車輪2は、弾性部材(典型的にはスプリング)やサスペンションアームなどを含むサスペンション70を介して、車体に懸架されている。
エンジン4は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃エンジンであり、本実施形態では点火プラグ14(図2参照)を有するガソリンエンジンである。エンジン4は、変速機6を介して後輪2との間で力が伝達され、また、コントローラ8により制御される。エンジン4は、吸入空気量を調整するスロットルバルブ10と、燃料を噴射するインジェクタ12と、点火プラグ14と、吸排気弁の開閉時期を変化させる可変動弁機構16と、エンジン4の回転数を検出するエンジン回転数センサ18と、を有する(図2参照)。エンジン回転数センサ18は、その検出値をコントローラ8に出力する。
また、図1に示すように、車両1には、後輪2を駆動する機能(つまり原動機としての機能)と、後輪2により駆動されて回生発電を行う機能(つまり発電機としての機能)と、を有するモータジェネレータ20(回転電気機械)が搭載されている。モータジェネレータ20は、変速機6を介して後輪2との間で力が伝達され、また、インバータ22を介してコントローラ8により制御される。さらに、モータジェネレータ20は、バッテリ24に接続されており、駆動力を発生するときにはバッテリ24から電力が供給され、回生したときにはバッテリ24に電力を供給してバッテリ24を充電する。
このように、車両1は、エンジン4及びモータジェネレータ20を動力源とするハイブリッド車両として構成されている。なお、本実施形態では、モータジェネレータ20には比較的小型(言い換えると低出力)のものが適用され、また、バッテリ24には低電圧(例えば48V程度)のものが適用される。これにより、ハイブリッド車両を簡易且つ低コストにて構成することができる。
また、車両1においては、エンジン4、モータジェネレータ20及び後輪2が直列に連結されている。特に、エンジン4の出力軸とモータジェネレータ20の回転軸とは、断続可能な第1クラッチ61を介して連結され、モータジェネレータ20の回転軸と変速機6の回転軸とは、断続可能な第2クラッチ62を介して連結されている。なお、一般的には、エンジン4と変速機6との間にはトルクコンバータが設けられるが、本実施形態では、そのようなトルクコンバータが設けられておらず、その代わりにモータジェネレータ20、第1及び第2クラッチ61、62が設けられている。例えば、第1クラッチ61は、変速機6の油圧を利用して、締結と解放の切り替えが制御される。
車両1は、ステアリングホイール28(以下では単に「ステアリング」とも表記する。)やステアリングコラム30などを含む操舵装置26と、ステアリングコラム30の回転角度やステアリングラック32の位置から操舵装置26における操舵角を検出する操舵角センサ34と、アクセルペダルの開度に相当するアクセルペダル踏込量を検出するアクセル開度センサ36と、ブレーキペダルの踏込量を検出するブレーキ踏込量センサ38と、車速を検出する車速センサ40と、ヨーレートを検出するヨーレートセンサ42と、加速度を検出する加速度センサ44と、を有する。これらの各センサは、それぞれの検出値をコントローラ8に出力する。このコントローラ8は、例えばPCM(Power-train Control Module)などを含んで構成される。なお、アクセル開度センサ36や車速センサ40などは、車両1の運転状態を検出する運転状態センサに相当する。
また、車両1は、各車輪に設けられたブレーキ装置(制動装置)46のホイールシリンダやブレーキキャリパにブレーキ液圧を供給するブレーキ制御システム48を備えている。ブレーキ制御システム48は、各車輪に設けられたブレーキ装置46において制動力を発生させるために必要なブレーキ液圧を生成する液圧ポンプ50を備えている。液圧ポンプ50は、例えばバッテリ24から供給される電力で駆動され、ブレーキペダルが踏み込まれていないときであっても、各ブレーキ装置46において制動力を発生させるために必要なブレーキ液圧を生成することが可能となっている。また、ブレーキ制御システム48は、各車輪のブレーキ装置46への液圧供給ラインに設けられた、液圧ポンプ50から各車輪のブレーキ装置46へ供給される液圧を制御するためのバルブユニット52(具体的にはソレノイド弁)を備えている。例えば、バッテリ24からバルブユニット52への電力供給量を調整することによりバルブユニット52の開度が変更される。また、ブレーキ制御システム48は、液圧ポンプ50から各車輪のブレーキ装置46へ供給される液圧を検出する液圧センサ54を備えている。液圧センサ54は、例えば各バルブユニット52とその下流側の液圧供給ラインとの接続部に配置され、各バルブユニット52の下流側の液圧を検出し、検出値をコントローラ8に出力する。
ブレーキ制御システム48は、コントローラ8から入力された制動力指令値や液圧センサ54の検出値に基づき、各車輪のホイールシリンダやブレーキキャリパのそれぞれに独立して供給する液圧を算出し、それらの液圧に応じて液圧ポンプ50の回転数やバルブユニット52の開度を制御する。
図2に示すように、本実施形態によるコントローラ8は、上述したセンサ18、34、36、38、40、42、44、54の検出信号の他、車両1の運転状態を検出する各種の運転状態センサが出力した検出信号に基づいて、エンジン4の各部(例えば、スロットルバルブ10、インジェクタ12、点火プラグ14、可変動弁機構16のほか、ターボ過給機やEGR装置等)、モータジェネレータ20、第1及び第2クラッチ61、62、及び、ブレーキ制御システム48の液圧ポンプ50及びバルブユニット52に対する制御を行うべく、制御信号を出力する。
コントローラ8(ブレーキ制御システム48も含めてよい)は、それぞれ、1つ以上のプロセッサ、当該プロセッサ上で解釈実行される各種のプログラム(OSなどの基本制御プログラムや、OS上で起動され特定機能を実現するアプリケーションプログラムを含む)、及びプログラムや各種のデータを記憶するためのROMやRAMの如き内部メモリを備えるコンピュータにより構成される。
なお、コントローラ8は、本発明における制御器に相当する。また、エンジン4、モータジェネレータ20、操舵角センサ34、アクセル開度センサ36、車速センサ40、及びコントローラ8を含むシステムは、本発明における車両システムに相当する。
<運転領域>
次に、図3を参照して、本発明の実施形態による車両1(ハイブリッド車両)の運転領域について説明する。図3は、車速(横軸)及び加減速度(縦軸)に基づき規定された運転領域のマップを示している。
図3において、領域R1は、エンジン4が発生したトルクのみを用いて車両1を走行させるエンジン走行領域であり、領域R2は、モータジェネレータ20が発生したトルクのみを用いて車両1を走行させるEV走行領域である。エンジン走行領域R1では、第1クラッチ61が締結されてエンジン4が繋がれ、EV走行領域R2では、第1クラッチ61が解放されてエンジン4が切り離される。また、領域R3は、モータジェネレータ20の回生のみによって車両1を制動させる領域であり、領域R4は、モータジェネレータ20の回生とブレーキ装置46によって車両1を制動させる領域である。領域R3、R4の両方とも、第1クラッチ61が解放されてエンジン4が切り離される。モータジェネレータ20が回生するときにエンジン4が繋がれていると、エンジン4の従動により無駄なエネルギー消費が生じるため、第1クラッチ61を解放してエンジン4を切り離すようにしている。
なお、以下では、領域R3を「第1エンジン切り離し回生領域」と呼び、領域R4を「第2エンジン切り離し回生領域」と呼ぶ。これら第1及び第2エンジン切り離し回生領域R3、R4を区別しない場合には単に「エンジン切り離し回生領域」と呼ぶ。また、領域R2~R4をまとめて「モータジェネレータ使用領域」と呼ぶ。
図3に示すように、本実施形態による運転領域のマップでは、EV走行領域R2がエンジン走行領域R1と比較して狭くなっている。これは、上述したように、本実施形態では比較的小型(低出力)のモータジェネレータ20を適用したからである。同様の理由から、第1エンジン切り離し回生領域R3も第2エンジン切り離し回生領域R4と比較して狭くなっている。なお、一般的には、モータジェネレータによるEV走行を運転領域のほぼ全域において行おうとした場合、50kW程度の出力のモータジェネレータが適用されるが、本実施形態では、そのようなモータジェネレータの出力の例えば1/5程度、具体的には10~15kW程度の低出力のモータジェネレータ20を適用している。
<車両姿勢制御>
次に、車両システムが実行する具体的な制御内容を説明する。まず、図4により、本発明の実施形態において車両システムが行う車両姿勢制御処理の全体的な流れを説明する。図4は、本発明の実施形態による車両姿勢制御処理のフローチャートである。
図4の車両姿勢制御処理は、車両1のイグニッションがオンにされ、車両システムに電源が投入された場合に起動され、所定周期(例えば50ms)で繰り返し実行される。
車両姿勢制御処理が開始されると、図4に示すように、ステップS101において、コントローラ8は、車両1の運転状態に関する各種センサ情報を取得する。具体的には、コントローラ8は、操舵角センサ34が検出した操舵角、アクセル開度センサ36が検出したアクセル開度、ブレーキ踏込量センサ38が検出したブレーキペダル踏込量、車速センサ40が検出した車速、ヨーレートセンサ42が検出したヨーレート、加速度センサ44が検出した加速度、エンジン回転数センサ18が検出したエンジン回転数、液圧センサ54が検出した液圧、車両1の変速機6に現在設定されているギヤ段等を含む、上述した各種センサが出力した検出信号を運転状態に関する情報として取得する。
次に、ステップS102において、コントローラ8は、ステップS101において取得された車両1の運転状態に基づき、目標加速度(正の加速度だけでなく、負の加速度(減速度)も含むものとする。以下同様とする。)を設定する。典型的には、コントローラ8は、アクセルペダルが操作されている場合には、正の目標加速度を設定する。この場合、コントローラ8は、種々の車速及び種々のギヤ段について規定された加速度特性マップ(予め作成されてメモリなどに記憶されている)の中から、現在の車速及びギヤ段に対応する加速度特性マップを選択し、選択した加速度特性マップを参照して現在のアクセル開度に対応する正の目標加速度を設定する。他方で、コントローラ8は、典型的にはブレーキペダルが操作されている場合には、負の目標加速度を設定する。例えば、コントローラ8は、ブレーキペダル踏込量に基づき負の目標加速度を設定する。この場合、ブレーキペダル踏込量が大きくなるほど、目標加速度(絶対値)が大きくなる。
次に、ステップS103において、コントローラ8は、ステップS102において設定した目標加速度を実現するために原動機(即ちエンジン4及びモータジェネレータ20)が発生すべき基本トルクを決定する。この場合、コントローラ8は、現在の車速、ギヤ段、路面勾配、路面μなどに基づき、エンジン4及びモータジェネレータ20が出力可能なトルクの範囲内で、基本トルクを決定する。この基本トルクは、車両1を駆動するためのエンジン4又はモータジェネレータ20の駆動トルク(正のトルク)と、車両1を制動させるためのモータジェネレータ20の回生トルク(負のトルク)と、を含む。ステップS102において正の目標加速度が設定された場合には、エンジン4又はモータジェネレータ20の駆動トルクが基本トルクとして設定される。これに対して、ステップS102において負の目標加速度(減速度)が設定された場合には、モータジェネレータ20の回生トルクが基本トルクとして設定される。
次に、ステップS104において、コントローラ8は、図3のマップを参照して、現在の車速及び目標加速度(正の加速度及び負の加速度(減速度)を含む)に基づき、車両1の運転領域を設定する。具体的には、コントローラ8は、エンジン走行領域R1、EV走行領域R2、第1エンジン切り離し回生領域R3、及び第2エンジン切り離し回生領域R4のいずれかを決定する。
また、ステップS102~S104の処理と並行して、ステップS105において、コントローラ8は、ステアリング操作に基づき車両1に加速度を付加するためのトルク(加速トルク)を設定する加速トルク設定処理を実行する。このステップS105においては、コントローラ8は、操舵装置26の操舵角の増加に応じて、つまりステアリングの切り込み操作に応じて、基本トルクを増加させるための加速トルクを設定する。本実施形態では、コントローラ8は、ステアリングが切り込み操作されたときに、トルクを一時的に増加させて車両1に加速度を付加することにより、車両姿勢を制御するようにする。以下では、このようなステアリングの切り込み時に実施される車両姿勢制御を適宜「第1車両姿勢制御」と呼ぶ。なお、加速トルク設定処理については、図5及び図6を参照して後述する。
次に、ステップS106において、コントローラ8は、ステアリング操作に基づき車両1に減速度を付加するためのトルク(減速トルク)を設定する減速トルク設定処理を実行する。このステップS106においては、コントローラ8は、操舵装置26の操舵角の減少に応じて、つまりステアリングの切り戻しに応じて、基本トルクを低減させるための減速トルクを設定する。本実施形態では、コントローラ8は、ステアリングが切り戻し操作されたときに、トルクを一時的に低減させて車両1に減速度を付加することにより、車両姿勢を制御するようにする。以下では、このようなステアリングの切り戻し時において実施される車両姿勢制御を適宜「第2車両姿勢制御」と呼ぶ。典型的には、この第2車両姿勢制御は、上述した第1車両姿勢制御の後に実施される傾向にある。なお、減速トルク設定処理については、図7及び図8を参照して後述する。
ステップS102~S106を実行した後、ステップS107において、コントローラ8は、ステップS103において設定した基本トルクと、ステップS105において設定した加速トルク及びステップS106において設定した減速トルクとに基づき、最終目標トルクを設定する。基本的には、コントローラ8は、基本トルクに対して加速トルクを加算するか、或いは基本トルクから減速トルクを減算することにより、最終目標トルクを算出する。
次に、ステップS108において、コントローラ8は、ステップS104で設定された運転領域がエンジン走行領域R1であるか否かを判定する。このように運転領域がエンジン走行領域R1であるか否かを判定することは、エンジン4がトルクを発生しているか否かを判定することと同義である。すなわち、運転領域がエンジン走行領域R1である場合には、エンジン4はトルクを発生しており、他方で、運転領域がエンジン走行領域R1でない場合、つまりモータジェネレータ使用領域である場合には、エンジン4はトルクを発生していない。ステップS108の判定の結果、運転領域がエンジン走行領域R1であると判定された場合(ステップS108:Yes)、コントローラ8は、ステップS109に進む。
ステップS109では、コントローラ8は、運転領域がエンジン走行領域R1であるので、エンジン4を繋ぐために、第1クラッチ61を締結する(当然ながら、第1クラッチ61が既に締結状態にある場合には、第1クラッチ61の締結状態を維持する)。そして、コントローラ8は、ステップS110に進み、ステップS107において設定した最終目標トルクに基づき、最終目標トルクを実現するために必要となる各種状態量を決定し、それらの状態量に基づき、エンジン4の各構成要素を駆動する各アクチュエータの制御量を設定する。この場合、コントローラ8は、状態量に応じた制限値や制限範囲を設定し、状態値が制限値や制限範囲による制限を遵守するような各アクチュエータの制御量を設定する。次いで、コントローラ8は、ステップS113に進み、ステップS110において設定した制御量に基づきエンジン4の各アクチュエータへ制御指令を出力する。
具体的には、ステップS113では、コントローラ8は、ステップS107において基本トルクに加速トルクを加算することにより最終目標トルクが設定された場合、点火プラグ14の点火時期を、基本トルクを発生させるための点火時期よりも進角させる。また、点火時期の進角に代えて、あるいはそれと共に、コントローラ8は、スロットル開度を大きくしたり、下死点後に設定されている吸気弁の閉時期を進角させたりすることによって、吸入空気量を増加させる。この場合、コントローラ8は、所定の空燃比が維持されるように、吸入空気量の増加に対応して、インジェクタ12による燃料噴射量を増加させる。
他方で、ステップS107において基本トルクから減速トルクを減算することにより最終目標トルクが設定された場合、コントローラ8は、点火プラグ14の点火時期を、基本トルクを発生させるための点火時期よりも遅角させる(リタードする)。また、点火時期の遅角に代えて、あるいはそれと共に、コントローラ8は、スロットル開度を小さくしたり、下死点後に設定されている吸気弁の閉時期を遅角させたりすることによって、吸入空気量を減少させる。この場合、コントローラ8は、所定の空燃比が維持されるように、吸入空気量の増加に対応して、インジェクタ12による燃料噴射量を減少させる。
なお、上記ではエンジン4がガソリンエンジンである場合について述べたが、エンジン4がディーゼルエンジンである場合には、コントローラ8は、ステップS107において基本トルクに加速トルクを加算することにより最終目標トルクが設定された場合、インジェクタ12による燃料噴射量を、基本トルクを発生させるための燃料噴射量よりも増加させる。他方で、ステップS107において基本トルクから減速トルクを減算することにより最終目標トルクが設定された場合、コントローラ8は、インジェクタ12による燃料噴射量を、基本トルクを発生させるための燃料噴射量よりも減少させる。
他方で、ステップS108の判定の結果、運転領域がエンジン走行領域R1でないと判定された場合(ステップS108:No)、つまり運転領域がモータジェネレータ使用領域である場合、コントローラ8は、ステップS111に進む。ステップS111では、コントローラ8は、運転領域がエンジン走行領域R1でないので、エンジン4を切り離すために、第1クラッチ61を解放する(当然ながら、第1クラッチ61が既に解放状態にある場合には、第1クラッチ61の解放状態を維持する)。そして、コントローラ8は、ステップS112に進み、ステップS107において設定した最終目標トルクに基づき、最終目標トルクを実現するために必要となる各種状態量を決定し、それらの状態量に基づき、モータジェネレータ20の構成要素を駆動するアクチュエータの制御量を設定する。この場合、コントローラ8は、状態量に応じた制限値や制限範囲を設定し、状態値が制限値や制限範囲による制限を遵守するようなアクチュエータの制御量を設定する。次いで、コントローラ8は、ステップS113に進み、ステップS112において設定した制御量に基づきアクチュエータへ制御指令を出力する。
具体的には、ステップS113では、コントローラ8は、ステップS107において設定した最終目標トルクを実現するためにモータジェネレータ20を制御する。詳しくは、コントローラ8は、ステップS107において基本トルクに加速トルクを加算することにより最終目標トルクが設定された場合、モータジェネレータ20が発生するトルクを増加させるように、インバータ指令値(制御信号)を設定し、インバータ22に出力する。他方で、ステップS107において基本トルクから減速トルクを減算することにより設定された最終目標トルクが負値である場合、コントローラ8は、モータジェネレータ20により回生発電を行わせることで回生トルクが発生するように、インバータ指令値(制御信号)を設定し、インバータ22に出力する。
このようなステップS113の後、コントローラ8は、車両姿勢制御処理を終了する。
次に、図5及び図6を参照して、本発明の実施形態における加速トルク設定処理について説明する。
図5は、本発明の実施形態による加速トルク設定処理のフローチャートであり、図6は、本発明の実施形態による付加加速度と操舵速度との関係を示したマップである。
加速トルク設定処理が開始されると、ステップS11において、コントローラ8は、操舵装置26の操舵角(絶対値)が増加している(即ちステアリングホイール28の切り込み操作中)か否かを判定する。その結果、操舵角が増加している場合(ステップS11:Yes)、ステップS12に進み、コントローラ8は、操舵速度が所定の閾値S1以上か否かを判定する。即ち、コントローラ8は、図4のステップS101において操舵角センサ34から取得した操舵角に基づき操舵速度を算出し、その値が閾値S1以上か否かを判定する。
その結果、操舵速度が閾値S1以上である場合(ステップS12:Yes)、ステップS13に進み、コントローラ8は、操舵速度に基づき付加加速度を設定する。この付加加速度は、ドライバの意図に沿って車両姿勢を制御するために、ステアリング操作に応じて車両1に付加すべき加速度である。
具体的には、コントローラ8は、図6のマップに示す付加加速度と操舵速度との関係に基づき、ステップS12において算出した操舵速度に対応する付加加速度を設定する。図6における横軸は操舵速度を示し、縦軸は付加加速度を示す。図6に示すように、操舵速度が閾値S1以下である場合、対応する付加加速度は0である。即ち、操舵速度が閾値S1以下である場合、コントローラ8は、ステアリング操作に基づき車両1に加速度を付加するための制御を実行しない。
一方、操舵速度が閾値S1を超えている場合には、操舵速度が増大するに従って、この操舵速度に対応する付加加速度は、所定の上限値Amaxに漸近する。即ち、操舵速度が増大するほど付加加速度は増大し、且つ、その増大量の増加割合は小さくなる。この上限値Amaxは、ステアリング操作に応じて車両1に加速度を付加しても、制御介入があったとドライバが感じない程度の加速度に設定される(例えば0.5m/s2≒0.05G)。さらに、操舵速度が閾値S1よりも大きい閾値S2以上の場合には、付加加速度は上限値Amaxに維持される。
次に、ステップS14において、コントローラ8は、ステップS13で設定した付加加速度に基づき、加速トルクを設定する。具体的には、コントローラ8は、基本トルクの増加により付加加速度を実現するために必要となる加速トルクを、図4のステップS101において取得された現在の車速、ギヤ段、路面勾配等に基づき決定する。ステップS14の後、コントローラ8は加速トルク設定処理を終了し、メインルーチンに戻る。
また、ステップS11において操舵角が増加していない場合(ステップS11:No)、又は、ステップS12において操舵速度が閾値S1未満である場合(ステップS12:No)、コントローラ8は、加速トルクの設定を行うことなく加速トルク設定処理を終了し、図4のメインルーチンに戻る。この場合、加速トルクは0となる。
次に、図7乃至図8を参照して、本発明の実施形態における減速トルク設定処理について説明する。
図7は、本発明の実施形態による減速トルク設定処理のフローチャートであり、図8は、本発明の実施形態による付加減速度と操舵速度との関係を示したマップである。
減速トルク設定処理が開始されると、ステップS21において、コントローラ8は、操舵装置26の操舵角(絶対値)が減少している(即ちステアリングホイール28の切り戻し操作中)か否かを判定する。その結果、操舵角が減少中である場合(ステップS21:Yes)、ステップS22に進み、コントローラ8は、操舵速度が所定の閾値S1以上か否かを判定する。即ち、コントローラ8は、図4のステップS101において操舵角センサ34から取得した操舵角に基づき操舵速度を算出し、その値が閾値S1以上か否かを判定する。
その結果、操舵速度が閾値S1以上である場合(ステップS22:Yes)、ステップS23に進み、コントローラ8は、操舵速度に基づき付加減速度を設定する。この付加減速度は、ドライバの意図に沿って車両姿勢を制御するために、ステアリング操作に応じて車両1に付加すべき減速度である。
具体的には、コントローラ8は、図8のマップに示す付加減速度と操舵速度との関係に基づき、ステップS22において算出した操舵速度に対応する付加減速度を設定する。図8における横軸は操舵速度を示し、縦軸は付加減速度を示す。図8に示すように、操舵速度が閾値S1以下である場合、対応する付加減速度は0である。即ち、操舵速度が閾値S1以下である場合、コントローラ8は、ステアリング操作に基づき車両1に減速度を付加するための制御を実行しない。
一方、操舵速度が閾値S1を超えている場合には、操舵速度が増大するに従って、この操舵速度に対応する付加減速度は、所定の上限値Dmaxに漸近する。即ち、操舵速度が増大するほど付加減速度は増大し、且つ、その増大量の増加割合は小さくなる。この上限値Dmaxは、ステアリング操作に応じて車両1に減速度を付加しても、制御介入があったとドライバが感じない程度の減速度に設定される(例えば0.5m/s2≒0.05G)。さらに、操舵速度が閾値S1よりも大きい閾値S2以上の場合には、付加減速度は上限値Dmaxに維持される。
次に、ステップS24において、コントローラ8は、ステップS23で設定した付加減速度に基づき、減速トルクを設定する。具体的には、コントローラ8は、基本トルクの低減により付加減速度を実現するために必要となる減速トルクを、ステップS101において取得された現在の車速、ギヤ段、路面勾配等に基づき決定する。ステップS24の後、コントローラ8は減速トルク設定処理を終了し、図4のメインルーチンに戻る。
また、ステップS21において操舵角が減少していない場合(ステップS21:No)、又は、ステップS22において操舵速度が閾値S1未満である場合(ステップS22:No)、コントローラ8は、減速トルクの設定を行うことなく減速トルク設定処理を終了し、図4のメインルーチンに戻る。この場合、減速トルクは0となる。
<作用及び効果>
次に、図9乃至図11のタイムチャートを参照して、本発明の実施形態による車両の制御方法及び車両システムの作用について説明する。図9は、エンジン走行領域R1において車両姿勢制御を行った場合の各パラメータの時間変化を示したタイムチャートであり、図10は、EV走行領域R2において車両姿勢制御を行った場合の各パラメータの時間変化を示したタイムチャートであり、図11は、エンジン切り離し回生領域R3、R4において車両姿勢制御を行った場合の各パラメータの時間変化を示したタイムチャートである。
図9~図11のタイムチャートは、上から順に、第1クラッチ61の状態(締結/解放)、操舵装置26の操舵角、操舵速度、付加加減速度、最終目標トルク、エンジン4の点火プラグ14の点火時期、モータジェネレータ20が発生するトルク(駆動トルク/回生トルク)を示している。
まず、図9に示す例では、車両1の運転領域がエンジン走行領域R1であるため、エンジン4を繋ぐべく、第1クラッチ61が締結される(図4のステップS109)。また、図9に示すように、時刻t11までは、車両1のドライバは操舵を行っておらず、操舵角は0(中立位置)で、操舵速度も0となっている。この状態では、図5の加速トルク設定処理及び図7の減速トルク設定処理において加速トルク及び減速トルクの設定は行われない(付加加速度=0、加速トルク=0、付加減速度=0、減速トルク=0)。このため、時刻t11までは、基本トルクが最終目標トルクとして決定される。
次に、時刻t11において、ドライバがステアリングホイール28の切り込み操作を開始すると、操舵角及び操舵速度(の絶対値)が増加する。操舵速度がS1以上になると、図5の加速トルク設定処理においては、ステップS11からS14の処理が繰り返され、付加加速度及び加速トルクの設定が行われる。即ち、図5のステップS13において図6に示すマップを使用して操舵速度に基づき付加加速度が設定され、ステップS14において、設定された付加加速度を実現するために必要な加速トルクが設定され、図4のステップS107において基本トルクから加速トルクを加算した値が最終目標トルクとして設定される。
図9に示す例では、操舵角の増加が開始したタイミングにおいて、車両1の運転領域がエンジン走行領域R1である。詳しくは、第1車両姿勢制御の開始条件が成立したタイミング、すなわち操舵角が増加し且つ操舵速度が閾値S1以上になったタイミングにおいて、車両1の運転領域がエンジン走行領域R1であると判断される。その結果、時刻t11以降(時刻t11~t12)において加速トルクにより基本トルクを増加したトルクが発生するように、エンジン4のみが制御される。この場合、モータジェネレータ20は制御されない。1つの例では、図4のステップS110、S113において、図9に示すように、点火プラグ14の点火時期が、基本トルクを発生させるための点火時期よりも進角される。なお、点火時期の進角に代えて、あるいはそれと共に、吸入空気量を増加させるために、基本トルクを発生させる場合よりもスロットル開度が大きくされてもよいし、あるいは、下死点後に設定されている吸気弁の閉時期が進角されてもよい。これらの場合、所定の空燃比が維持されるように、吸入空気量の増加に対応して、インジェクタ12による燃料噴射量も増加される。
このように時刻t11~t12間において加速トルクにより基本トルクを増加したトルクが発生すると、増加されたトルクは駆動輪である後輪2に伝達され、後輪2を車両前方へ推進させる力となる。この力が前輪2からサスペンション70を介して車両1の車体に伝達されるときに、車体後部を上向きに持ち上げる力が瞬間的に作用し、車体を前傾させる方向のモーメントが働くことにより、車体前部を下向きに沈み込ませる力が作用し、車体前部が沈み込んで前輪荷重が増大する。これにより、ステアリングの切り込み操作に対する車両1の応答性又はリニア感を向上させることができる。即ち、後輪駆動車において、後輪2の駆動トルクを増加させて加速度を付与すると、車体を後傾させる慣性力と、車体を前傾させる瞬間的な力が発生するが、ステアリングの切り込み操作に対する車両応答性やリニア感に対しては加速トルクによる瞬間的な車体を前傾させる力が支配的に寄与しているものと考えられる。
次いで、時刻t12において保舵に移行すると、操舵角が一定値となる。この状態では、図5の加速トルク設定処理及び図7の減速トルク設定処理において加速トルク及び減速トルクの設定は行われない(付加加速度=0、加速トルク=0、付加減速度=0、減速トルク=0)。このため、時刻t12~t13においては、基本トルクが最終目標トルクとして決定される。
さらに、時刻t13においてドライバがステアリングホイール28の切り戻し操作を開始すると、操舵角が減少し、操舵速度(の絶対値)が増加する。操舵速度(の絶対値)がS1以上になると、図7の減速トルク設定処理においては、ステップS21からS24の処理が繰り返され、付加減速度及び減速トルクの設定が行われる。即ち、図7のステップS23において図8に示すマップを使用して操舵速度に基づき付加減速度が設定され、ステップS24において、設定された付加減速度を実現するために必要な減速トルクが設定され、図4のステップS107において基本トルクから減速トルクを減算した値が最終目標トルクとして設定される。
図9に示す例では、操舵角の減少が開始したタイミングにおいて、車両1の運転領域がエンジン走行領域R1である。詳しくは、第2車両姿勢制御の開始条件が成立したタイミング、すなわち操舵角が減少し且つ操舵速度(絶対値)が閾値S1以上になったタイミングにおいて、車両1の運転領域がエンジン走行領域R1であると判断される。その結果、時刻t13以降(時刻t13~t14)において減速トルクにより基本トルクを低減したトルクが発生するように、エンジン4のみが制御される。この場合、モータジェネレータ20は制御されない。1つの例では、図4のステップS110、S113において、図9に示すように、点火プラグ14の点火時期が、基本トルクを発生させるための点火時期よりも遅角される。なお、点火時期の遅角に代えて、あるいはそれと共に、吸入空気量を低減させるために、基本トルクを発生させる場合よりもスロットル開度が小さくされてもよいし、あるいは、吸気弁の閉時期が遅角されてもよい。これらの場合、所定の空燃比が維持されるように、吸入空気量の低減に対応して、インジェクタ12による燃料噴射量も低減される。
このように時刻t13~t14間において減速トルクにより基本トルクを低減したトルクが発生すると、低減されたトルクは駆動輪である後輪2に伝達され、後輪2を車両後方へ引っ張る力となる。この力が後輪2からサスペンション70を介して車両1の車体に伝達されるときに、車体後部を下向きに沈み込ませる力が瞬間的に作用し、車体を後傾させる方向のモーメントが働くことにより、車体前部を上向きに持ち上げる力が作用し、車体前部が浮き上がって前輪荷重が減少する。これにより、ステアリングの切り戻し操作に対する車両応答性やリニア感を向上させることができる。即ち、後輪駆動車において、後輪2の駆動トルクを減少させて減速度を付与すると、車体を前傾させる慣性力と、車体を後傾させる瞬間的な力が発生するが、ステアリングの切り戻し操作に対する車両応答性やリニア感に対しては減速トルクによる瞬間的な車体を後傾させる力が支配的に寄与しているものと考えられる。
次いで、時刻t14において操舵角が0に戻り保舵される(操舵速度=0)と、操舵速度が0となることにより、付加加速度及び付加減速度の値も0となり、基本トルクの値が最終目標トルクとして決定される。
次に、図10を参照して、EV走行領域R2において車両姿勢制御を行った場合について説明する。ここでは、主に、図9と異なる部分のみを説明する。図10に示す例では、車両1の運転領域がEV走行領域R2であるため、図4のステップS111において、エンジン4を切り離すべく、第1クラッチ61が解放される。また、時刻t21~t22において(ステアリングの切り込み時)、加速トルクにより基本トルクを増加したトルクが発生するように、モータジェネレータ20のみが制御される(エンジン4は制御されない)。具体的には、図4のステップS112、S113において、モータジェネレータ20が発生するトルクを増加させるようにインバータ指令値が設定される。次いで、時刻t23~t24において(ステアリングの切り戻し時)、減速トルクにより基本トルクを低減したトルクが発生するように、モータジェネレータ20のみが制御される(エンジン4は制御されない)。具体的には、図4のステップS112、S113において、モータジェネレータ20が発生するトルクを低減させるようにインバータ指令値が設定される。
次に、図11を参照して、エンジン切り離し回生領域(R3又はR4)において車両姿勢制御を行った場合について説明する。ここでは、主に、図9と異なる部分のみを説明する。図11に示す例では、車両1の運転領域がエンジン切り離し回生領域であるため、図4のステップS111において、エンジン4を切り離すべく、第1クラッチ61が解放される。また、時刻t31~t32において(ステアリングの切り込み時)、加速トルクにより基本トルクを増加したトルクが発生するように、モータジェネレータ20のみが制御される(エンジン4は制御されない)。具体的には、図4のステップS112、S113において、モータジェネレータ20が発生する回生トルク(絶対値)を低減させるようにインバータ指令値が設定される。次いで、時刻t33~t34において(ステアリングの切り戻し時)、減速トルクにより基本トルクを低減したトルクが発生するように、モータジェネレータ20のみが制御される(エンジン4は制御されない)。具体的には、図4のステップS112、S113において、モータジェネレータ20が発生する回生トルク(絶対値)を増加させるようにインバータ指令値が設定される。
なお、図9乃至図11に示す例において、基本トルクの値は一定値とされているが、ドライバのアクセルペダル等の操作により基本トルクが変化した場合には、その基本トルクに対して加速トルクが加算され、又は減速トルクが減算される。しかしながら、ドライバによるステアリングホイール28の切り込みから、保舵、切り戻しに至るまでの時間は、一般に比較的短時間(通常は1~2sec未満)であるため、この間の基本トルクは一定であるとみなすこともできる。
次に、上述した本発明の実施形態による作用及び効果について説明する。
本実施形態によれば、コントローラ8は、エンジン4及びモータジェネレータ20により後輪2が駆動されるハイブリッド車両に関して、ステアリングの切り戻し時に車両姿勢制御(具体的には第2車両姿勢制御)を行うに当たって、エンジン4がトルクを発生している場合には、第2車両姿勢制御による減速トルクに応じたトルクが発生するようにエンジン4を制御する一方で、エンジン4がトルクを発生していない場合には、第2車両姿勢制御による減速トルクに応じたトルクが発生するようにモータジェネレータ20を制御する。
こうする理由は以下の通りである。通常、ハイブリッド車両において車両姿勢制御を行うことを考えた場合、制御性(応答性など)が優れたモータジェネレータ20のみを用いて、車両姿勢制御のためのトルク制御を行うことが想定される。しかしながら、本実施形態のようにモータジェネレータ20が比較的小型(低出力)に構成されている場合には、当該モータジェネレータ20のみを用いて車両姿勢制御を行おうとすると、モータジェネレータ20の出力不足等により、車両姿勢制御のための十分なトルク変化を実現できない可能性がある。
したがって、本実施形態では、コントローラ8は、エンジン4がトルクを発生している場合には、モータジェネレータ20ではなく、エンジン4からのトルクによって第2車両姿勢制御を実現するようにする。一方で、コントローラ8は、エンジン4がトルクを発生していない場合、つまりモータジェネレータ20がトルクを発生している場合には、モータジェネレータ20からのトルクによって第2車両姿勢制御を実現するようにする。つまり、コントローラ8は、モータジェネレータ20がトルクを発生している場合に限って、モータジェネレータ20によって第2車両姿勢制御を実現するようにする。換言すると、本実施形態では、コントローラ8は、設定された減速トルクがエンジン4により実現できる場合には(これは減速トルクがモータジェネレータ20により実現できない場合に相当する)、第2車両姿勢制御をエンジン4により実施するようにする一方で、設定された減速トルクがエンジン4により実現できない場合には(これは減速トルクがモータジェネレータ20により実現できる場合に相当する)、第2車両姿勢制御をモータジェネレータ20により実施するようにする。
以上述べた本実施形態によれば、比較的小型のモータジェネレータ20を搭載したハイブリッド車両においても、ステアリングの切り戻し時に第2車両姿勢制御を適切に実行することができる。よって、ステアリングの切り戻し操作に対する旋回性能(車両応答性やリニア感)の改善効果を適切に確保することができる。
また、本実施形態によれば、コントローラ8は、操舵角の減少が開始したときに、より具体的には第2車両姿勢制御の開始条件が成立したタイミングで、エンジン4がトルクを発生しているか否かを判定して、この判定結果に応じて、エンジン4の制御及びモータジェネレータ20の制御のいずれによって第2車両姿勢制御を実現するかを決定する。これにより、比較的小型のモータジェネレータ20を搭載したハイブリッド車両においても、適切な第2車両姿勢制御をより確実に実行することができる。
<変形例>
以下では、上述した実施形態の変形例について説明する。なお、以下では、上述した実施形態と同一の構成や処理については、その説明を適宜省略する。つまり、ここで特に説明しない構成や処理は、上記した実施形態と同様である。
(変形例1)
上述した実施形態では、ステアリングの切り込み時において、第1車両姿勢制御として、車両1に加速度を生じさせるように加速トルクを付加する制御を行っていた。他の例では、この制御の代わりに、ステアリングの切り込み時において、第1車両姿勢制御として、車両1に発生しているヨーレートと同じ回転方向のヨーモーメントを付加する制御を行ってもよい。この場合、当該ヨーモーメントを車両1に付加するようにブレーキ装置46を制御すればよい(典型的にはブレーキ装置46により旋回内輪に制動力を付与すればよい)。
まず、図12により、本発明の実施形態の変形例において車両システムが行う車両姿勢制御処理の全体的な流れを説明する。図12は、本発明の実施形態の変形例による車両姿勢制御処理のフローチャートである。
図12のステップS201~S204及びS206の処理内容は、図4のステップS101~S104及びS106と同様である。本変形例は、図12のステップS205において、上述した加速トルク設定処理の代わりに(図4のステップS105)、ヨーモーメント指令値設定処理を実行する点で、上述した実施形態と異なる。即ち、ステップS205においては、操舵装置26の操舵角の増加に基づいて、車両1に発生しているヨーレートと同じ回りのヨーモーメント指令値を設定するヨーモーメント指令値設定処理が実行される。このヨーモーメント指令値設定処理については、図13を参照して後述する。
また、ステップS207~S213の処理内容は、図4のステップS107~S113と同様である。本変形例では、ステップS213の後にステップS214において、ブレーキ制御システム48が、ステップS205において設定されたヨーモーメント指令値に基づきブレーキ装置46を制御する。基本的には、ブレーキ制御システム48は、車両1に発生しているヨーレートと同じ回転方向のヨーモーメントを付加すべく、旋回内輪に制動力を付与するようにブレーキ装置46を制御する。
具体的には、ブレーキ制御システム48は、ヨーモーメント指令値と液圧ポンプ50の回転数との関係を規定したマップを予め記憶しており、このマップを参照することにより、ステップS205において設定されたヨーモーメント指令値に対応する回転数で液圧ポンプ50を作動させる(例えば、液圧ポンプ50への供給電力を上昇させることにより、指令値に対応する回転数まで液圧ポンプ50の回転数を上昇させる)。また、ブレーキ制御システム48は、例えば、ヨーモーメント指令値とバルブユニット52の開度との関係を規定したマップを予め記憶しており、このマップを参照することにより、ヨーモーメント指令値に対応する開度となるようにバルブユニット52を個々に制御し(例えば、ソレノイド弁への供給電力を上昇させることにより、指令値に対応する開度までソレノイド弁の開度を増大させる)、各車輪の制動力を調整する。
このようなステップS214の後、コントローラ8は、車両姿勢制御処理を終了する。
次に、図13により、ヨーモーメント指令値設定処理について説明する。図13は、本発明の実施形態の変形例によるヨーモーメント指令値設定処理のフローチャートである。
図13に示すように、ヨーモーメント指令値設定処理が開始されると、ステップS31において、コントローラ8は、ステアリングの切り込み操作中(即ち操舵角が増加中)であり、且つ、操舵速度が所定の閾値以上であるか否かを判定する。その結果、ステアリングの切り込み操作中で且つ操舵速度が所定の閾値以上であると判定された場合(ステップS31:Yes)、ステップS32に進む。
ステップS32において、コントローラ8は、操舵速度及び車速に基づき目標横ジャークを算出し、この目標横ジャークに基づき、車両1の実ヨーレートと同じ回転方向のヨーモーメントを目標ヨーモーメントとして設定する。具体的には、コントローラ8は、所定の正の係数を目標横ジャークに乗ずることにより、目標ヨーモーメントの大きさを算出する。このとき、ステアリングの切り込み操作中であるので、目標横ジャークは車両1の旋回方向と同じ方向の値になる。したがって、この目標横ジャークに正の係数を乗じた目標ヨーモーメントも、車両1の実ヨーレートと同じ回転方向のヨーモーメントになる。
次に、ステップS33において、コントローラ8は、ステップS32で設定した目標ヨーモーメントをヨーモーメント指令値に設定する。
他方で、ステップS31において、ステアリングの切り込み操作中でない、又は操舵速度が所定の閾値以上でないと判定された場合(ステップS31:No)、処理は終了する。この場合には、ヨーモーメント指令値は設定されない。
次に、図14のタイムチャートを参照して、本発明の実施形態の変形例による車両の制御方法及び車両システムの作用を説明する。図14は、本発明の実施形態の変形例において、エンジン走行領域R1において車両姿勢制御を行った場合の各パラメータの時間変化を示したタイムチャートである。
図14のタイムチャートは、上から順に、第1クラッチ61の状態(締結/解放)、操舵装置26の操舵角、操舵速度、付加加減速度、最終目標トルク、エンジン4の点火プラグ14の点火時期、モータジェネレータ20が発生するトルク(駆動トルク/回生トルク)、ヨーモーメント指令値、液圧ポンプ・バルブユニット制御量を示している。ここでは、主に、図9と異なる部分のみを説明する。
時刻t41において、ドライバがステアリングの切り込み操作を開始すると、操舵角及び操舵速度(の絶対値)が増加する。この場合、図13のヨーモーメント指令値設定処理においては、ステップS31~S33の処理が繰り返され、ヨーモーメント指令値の設定が行われる。そして、図12のステップS214において、ヨーモーメント指令値に基づき車両1にヨーモーメントを付与する制御が実行される。
具体的には、時刻t41において、ステアリング操作が切り込み操作であり、且つ、操舵速度が閾値以上であるという条件が成立して(図13のステップS31:Yes)、コントローラ8が操舵速度に比例する目標横ジャークに基づき目標ヨーモーメントを設定し(図13のステップS32)、この目標ヨーモーメントをヨーモーメント指令値に設定する(図13のステップS33)。そして、ブレーキ制御システム48が、時刻t41~t42において、ヨーモーメント指令値に基づき液圧ポンプ50及びバルブユニット52を制御する(図12のステップS214)。このとき、図14に示すように、ブレーキ制御システム48は、時刻t41においてヨーモーメント指令値が0から増加し始めた後、所定の立ち上がり時間が経過するまでの間は、ヨーモーメント指令値に所定のオフセット値を加算した値に基づき液圧ポンプ50及びバルブユニット52を制御する。これにより、ステアリングの切り込み操作が開始されたときに制動力を迅速に立ち上げることができ、所望のヨーモーメントを迅速に車両1に付与して車両応答性やリニア感を向上させることができる。
なお、図14では、運転領域がエンジン走行領域R1である場合のタイムチャートを示したが、時刻t41~t42において行われる制御は、運転領域がEV走行領域R2又はエンジン切り離し回生領域R3、R4である場合も同様のものとなる。
このような本実施形態の変形例によれば、コントローラ8は、操舵装置26の操舵角の増加に基づいて、車両1に発生しているヨーレートと同じ回転方向のヨーモーメント指令値を設定し、このヨーモーメント指令値に基づきブレーキ装置46を制御する。これにより、操舵装置26の切り込み操作が行われたときに、車両1の旋回を促進する方向のヨーモーメントを発生させることができ、ステアリングの切り込み操作に対する車両応答性やリニア感を向上させることができる。
(変形例2)
上述した実施形態では、エンジン4の制御及びモータジェネレータ20の制御のいずれによって車両姿勢制御を実現するかを、車両1の運転領域に基づき決定していた。すなわち、エンジン走行領域R1では、エンジン4の制御によって車両姿勢制御を実現するようにし、モータジェネレータ使用領域(領域R2~R4)では、モータジェネレータ20の制御によって車両姿勢制御を実現するようにしていた。他の例では、第1クラッチ61の状態に基づき、エンジン4の制御及びモータジェネレータ20の制御のいずれによって車両姿勢制御を実現するかを決定してもよい。すなわち、第1クラッチ61が締結しているときには、エンジン4の制御によって車両姿勢制御を実現するようにし、第1クラッチ61が解放しているときには、モータジェネレータ20の制御によって車両姿勢制御を実現するようにしてもよい。このような他の例でも、比較的小型のモータジェネレータ20を搭載したハイブリッド車両において、車両姿勢制御を適切に実行することができる。
(変形例3)
上述した実施形態では、操舵角及び操舵速度に基づき車両姿勢制御を実行していたが、他の例では、操舵角及び操舵速度の代わりに、ヨーレートや横加速度やヨー加速度や横ジャークに基づき車両姿勢制御を実行してもよい。