以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。なお、図面においては、各構成をわかりやすくするために、一部を強調して、あるいは一部を簡略化して表している部分があり、実際の構造又は形状、縮尺等と異なっている場合がある。
<積層体処理システム>
図1は、実施形態に関する積層体処理システム1の一例を機能ブロックで示す図である。図1に示す積層体処理システム1は、積層体50、50A、50B(図2参照)を処理する。積層体処理システム1は、支持体剥離装置3と、洗浄装置4と、除去装置5、搬送装置6とを備えている。積層体処理システム1は、例えば、積層体形成装置2で形成された積層体50、50A、50Bが供給される。なお、積層体処理システム1は、積層体形成装置2を含んで構成されてもよい。
<積層体>
図2は、積層体処理システム1における処理対象となる積層体の例を示す図である。図2(A)は接着層30を含む積層体50の図、図2(B)は接着層30を含まない積層体50Aの図、図2(C)は積層体の他の例を示す図である。本実施形態において、積層体に備えられる中間層は、典型的には接着層及び/又は反応層を備えるものであり、図2(A)に示す積層体50は、支持体10と、反応層20と、接着層30と、基板40とを備える。また、図2(B)に示す積層体50Aは、支持体10と、反応層20と、基板40とを備える。図2(C)に示す積層体50Bは、支持体10と、反応層20と、接着層30と、基板140とを備える。なお、積層体50Bにおいて、接着層30はなくてもよい。以下では上記した積層体50、50A、50Bの各部で用いられる要素について説明する。
(支持体)
支持体10は、例えば、厚さが400~1500μmの円形状又はほぼ円形状のガラス板などが用いられる。ガラス板の厚さは任意である。また、支持体10は、ガラス板に代えて、例えば、厚さが500~775μmのシリコンウェハなどが用いられてもよい。支持体10は、円形状又はほぼ円形状であることに限定されず、例えば、矩形状、楕円形状、多角形状など、他の形状であってもよい。
(反応層)
反応層20は、中間層の1つ又は全部である。反応層20は、例えば光を吸収することによって変質する材料から形成される。本実施形態において、反応層20が変質するとは、反応層20がわずかな外力を受けて破壊され得る状態、又は反応層20と接する層との接着力が低下した状態にさせることをいう。反応層20は、光を吸収して変質することにより、変質する前に比べて、強度又は支持体10に対する接着性が低下する。このため、変質後の反応層20は、わずかな外力を加える(例えば、支持体10を持ち上げるなど)こと等により、破壊され又は支持体10から剥離する。
反応層20の変質は、吸収した光のエネルギーによる(発熱性又は非発熱性の)分解、架橋、立体配置の変化又は官能基の解離(そして、これらにともなう反応層20の硬化、脱ガス、収縮又は膨張)等であり得る。反応層20の変質は、反応層20を構成する材料による光の吸収の結果として生じる。よって、反応層20の変質の種類は、反応層20を構成する材料の種類に応じて変化し得る。また、反応層20は、光を吸収することによって変質する材料に限定されない。例えば、光によらずに与えられた熱を吸収することによって変質する材料、あるいは、他の溶剤等によって変質する材料であってもよい。
反応層20の厚さは、例えば、0.05~50μmであることがより好ましく、0.3~1μmであることがさらに好ましい。反応層20の厚さが0.05~50μmの範囲内に収まっていれば、短時間の光の照射及び低エネルギーの光の照射、あるいは短時間の加熱、溶剤への短時間の浸漬などによって、反応層20に所望の変質を生じさせることができる。また、反応層20の厚さは、生産性の観点から1μm以下の範囲内に収まっていることが特に好ましい。
以下、吸収した光のエネルギーにより変質する反応層20について説明する。反応層20は、光を吸収する構造を有する材料のみから形成されていることが好ましいが、本質的な特性を損なわない範囲において、光を吸収する構造を有していない材料を添加して、反応層20を形成してもよい。また、反応層20における接着層30に対向する側の面が平坦である(凹凸が形成されていない)ことが好ましく、この構成により、接着層30の形成が容易に行なえ、かつ貼り付け時においても均一に貼り付けることが可能となる。
反応層20は、レーザから照射される光を吸収することによって変質するものであってもよい。すなわち、反応層20を変質させるために反応層20に照射される光(後述する光照射ユニットの照射装置から出射する光)は、レーザから照射されたものであってもよい。反応層20に照射する光を発射するレーザの例としては、YAGレーザ、ルビーレーザ、ガラスレーザ、YVO4レーザ、LDレーザ、ファイバーレーザ等の固体レーザ、色素レーザ等の液体レーザ、CO2レーザ、エキシマレーザ、Arレーザ、He-Neレーザ等の気体レーザ、半導体レーザ、自由電子レーザ等のレーザ光、又は、非レーザ光等が挙げられる。反応層20に照射する光を発射するレーザは、反応層20を構成している材料に応じて適宜選択することが可能であり、反応層20を構成する材料を変質させ得る波長の光を照射するレーザを選択すればよい。
(フルオロカーボン)
反応層20は、フルオロカーボンからなっていてもよい。反応層20は、フルオロカーボンによって構成されることにより、光を吸収することによって変質するようになっており、その結果として、光の照射を受ける前の強度又は接着性を失う。よって、わずかな外力を加える(例えば、支持体10を持ち上げる等)ことによって、反応層20が破壊されて、支持体10と基板40とを分離し易くすることができる。反応層20を構成するフルオロカーボンは、プラズマCVD(化学気相堆積)法によって好適に成膜することができる。
フルオロカーボンは、その種類によって固有の範囲の波長を有する光を吸収する。反応層20に用いたフルオロカーボンが吸収する範囲の波長の光を光照射ユニットにおいて反応層20に照射することにより、フルオロカーボンを好適に変質させ得る。なお、反応層20における光の吸収率は80%以上であることが好ましい。
反応層20に照射する光としては、フルオロカーボンが吸収可能な波長に応じて、例えば、YAGレーザ、ルビーレーザ、ガラスレーザ、YVO4レーザ、LDレーザ、ファイバーレーザ等の固体レーザ、色素レーザ等の液体レーザ、CO2レーザ、エキシマレーザ、Arレーザ、He-Neレーザ等の気体レーザ、半導体レーザ、自由電子レーザ等のレーザ光、又は、非レーザ光を適宜用いればよい。フルオロカーボンを変質させ得る波長としては、これに限定されるものではないが、例えば、波長が600nm以下の範囲のものを用いることができる。
(光吸収性を有している構造をその繰り返し単位に含んでいる重合体)
反応層20は、光吸収性を有している構造をその繰り返し単位に含んでいる重合体を含有していてもよい。該重合体は、光照射ユニットにおいて光の照射を受けて変質する。該重合体の変質は、上記構造が照射された光を吸収することによって生じる。反応層20は、重合体の変質の結果として、光の照射を受ける前の強度又は接着性を失っている。よって、わずかな外力を加える(例えば、支持体10を持ち上げる等)ことによって、反応層20が破壊されて、支持体10と基板40とを分離し易くすることができる。
光吸収性を有している上記構造は、光を吸収して、繰り返し単位として該構造を含んでいる重合体を変質させる化学構造である。該構造は、例えば、置換若しくは非置換のベンゼン環、縮合環又は複素環からなる共役π電子系を含んでいる原子団である。より詳細には、該構造は、カルド構造、又は上記重合体の側鎖に存在するベンゾフェノン構造、ジフェニルスルフォキシド構造、ジフェニルスルホン構造(ビスフェニルスルホン構造)、ジフェニル構造若しくはジフェニルアミン構造であり得る。
上記構造が上記重合体の側鎖に存在する場合、該構造は以下の式によって表され得る。
(式中、Rはそれぞれ独立して、アルキル基、アリール基、ハロゲン、水酸基、ケトン基、スルホキシド基、スルホン基又はN(R1)(R2)基であり(ここで、R1及びR2はそれぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基である)、Zは、存在しないか、又は-CO-、-SO2-、-SO-若しくは-NH-であり、nは0又は1~5の整数である。)
また、上記重合体は、例えば、以下の式のうち、(a)~(d)の何れかによって表される繰り返し単位を含んでいるか、(e)によって表されるか、又は(f)の構造をその主鎖に含んでいる。
(式中、lは1以上の整数であり、mは0又は1~2の整数であり、Xは、(a)~(e)において上記の化学式[化1]に示した式のいずれかであり、(f)において上記の[化1]に示した式のいずれかであるか、又は存在せず、Y1及びY2はそれぞれ独立して、-CO-又は-SO2-である。lは好ましくは10以下の整数である。)
上記の化学式[化1]に示されるベンゼン環、縮合環及び複素環の例としては、フェニル、置換フェニル、ベンジル、置換ベンジル、ナフタレン、置換ナフタレン、アントラセン、置換アントラセン、アントラキノン、置換アントラキノン、アクリジン、置換アクリジン、アゾベンゼン、置換アゾベンゼン、フルオレン、置換フルオレン、フルオレノン、置換フルオリレノン、カルバゾール、置換カルバゾール、N-アルキルカルバゾール、ジベンゾフラン、置換ジベンゾフラン、フェナンスレン、置換フェナンスレン、ピレン及び置換ピレンが挙げられる。例示した置換基がさらに置換基を有している場合、その置換基は、例えば、アルキル、アリール、ハロゲン原子、アルコキシ、ニトロ、アルデヒド、シアノ、アミド、ジアルキルアミノ、スルホンアミド、イミド、カルボン酸、カルボン酸エステル、スルホン酸、スルホン酸エステル、アルキルアミノ及びアリールアミノから選択される。
上記の化学式[化1]に示される置換基のうち、フェニル基を2つ有している5番目の置換基であって、Zが-SO2-である場合の例としては、ビス(2、4‐ジヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3、4‐ジヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3、5‐ジヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3、6‐ジヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4‐ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3‐ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(2‐ヒドロキシフェニル)スルホン、及びビス(3、5‐ジメチル‐4‐ヒドロキシフェニル)スルホン等が挙げられる。
上記の化学式[化1]に示される置換基のうち、フェニル基を2つ有している5番目の置換基であって、Zが-SO-である場合の例としては、ビス(2、3‐ジヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(5‐クロロ‐2、3‐ジヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(2、4‐ジヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(2、4‐ジヒドロキシ‐6‐メチルフェニル)スルホキシド、ビス(5‐クロロ‐2、4‐ジヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(2、5‐ジヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(3、4‐ジヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(3、5‐ジヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(2、3、4‐トリヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(2、3、4‐トリヒドロキシ‐6‐メチルフェニル)‐スルホキシド、ビス(5‐クロロ‐2、3、4‐トリヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(2、4、6‐トリヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(5‐クロロ‐2、4、6‐トリヒドロキシフェニル)スルホキシド等が挙げられる。
上記の化学式[化1]に示される置換基のうち、フェニル基を2つ有している5番目の置換基であって、Zが-C(=O)-である場合の例としては、2、4‐ジヒドロキシベンゾフェノン、2、3、4‐トリヒドロキシベンゾフェノン、2、2’、4、4’‐テトラヒドロキシベンゾフェノン、2、2’、5、6’‐テトラヒドロキシベンゾフェノン、2‐ヒドロキシ‐4‐メトキシベンゾフェノン、2‐ヒドロキシ‐4‐オクトキシベンゾフェノン、2‐ヒドロキシ‐4‐ドデシルオキシベンゾフェノン、2、2’‐ジヒドロキシ‐4‐メトキシベンゾフェノン、2、6‐ジヒドロキシ‐4‐メトキシベンゾフェノン、2、2’‐ジヒドロキシ‐4、4’‐ジメトキシベンゾフェノン、4‐アミノ‐2’‐ヒドロキシベンゾフェノン、4‐ジメチルアミノ‐2’‐ヒドロキシベンゾフェノン、4‐ジエチルアミノ‐2’‐ヒドロキシベンゾフェノン、4‐ジメチルアミノ‐4’‐メトキシ‐2’‐ヒドロキシベンゾフェノン、4‐ジメチルアミノ‐2’、4’‐ジヒドロキシベンゾフェノン、及び4‐ジメチルアミノ‐3’、4’‐ジヒドロキシベンゾフェノン等が挙げられる。
上記構造が上記重合体の側鎖に存在している場合、上記構造を含んでいる繰り返し単位の、上記重合体に占める割合は、反応層20の光の透過率が0.001%以上、10%以下になる範囲内にある。該割合がこのような範囲に収まるように重合体が調製されていれば、反応層20が十分に光を吸収して、確実かつ迅速に変質し得る。すなわち、積層体50からの支持体10の除去(あるいは分離、剥離)が容易であり、該除去に必要な光の照射時間を短縮させることができる。
上記構造は、その種類の選択によって、所望の範囲の波長を有している光を吸収することができる。例えば、上記構造が吸収可能な光の波長は、100nm以上、2、000nm以下の範囲内であることがより好ましい。この範囲内のうち、上記構造が吸収可能な光の波長は、より短波長側であり、例えば、100nm以上、500nm以下の範囲内である。例えば、上記構造は、好ましくはおよそ300nm以上、370nm以下の範囲内の波長を有している紫外光を吸収することによって、該構造を含んでいる重合体を変質させ得る。
上記構造が吸収可能な光は、例えば、高圧水銀ランプ(波長:254nm以上、436nm以下)、KrFエキシマレーザ(波長:248nm)、ArFエキシマレーザ(波長:193nm)、F2エキシマレーザ(波長:157nm)、XeClレーザ(波長:308nm)、XeFレーザ(波長:351nm)若しくは固体UVレーザ(波長:355nm)から発せられる光、又はg線(波長:436nm)、h線(波長:405nm)若しくはi線(波長:365nm)等である。
上述した反応層20は、繰り返し単位として上記構造を含んでいる重合体を含有しているが、反応層20はさらに、上記重合体以外の成分を含み得る。該成分としては、フィラー、可塑剤、及び支持体10の剥離性を向上し得る成分等が挙げられる。これらの成分は、上記構造による光の吸収、及び重合体の変質を妨げないか、又は促進する、従来公知の物質又は材料から適宜選択される。
(無機物)
反応層20は、無機物からなっていてもよい。反応層20は、無機物によって構成されることにより、光を吸収することによって変質するようになっており、その結果として、光の照射を受ける前の強度又は接着性を失う。よって、わずかな外力を加える(例えば、支持体10を持ち上げる等)ことによって、反応層20が破壊されて、支持体10と基板40とを分離し易くすることができる。
上記無機物は、光を吸収することによって変質する構成であればよく、例えば、金属、金属化合物及びカーボンからなる群より選択される1種類以上の無機物を好適に用いることができる。金属化合物とは、金属原子を含む化合物を指し、例えば、金属酸化物、金属窒化物であり得る。このような無機物の例示としては、これに限定されるものではないが、金、銀、銅、鉄、ニッケル、アルミニウム、チタン、クロム、SiO2、SiN、Si3N4、TiN、及びカーボンからなる群より選ばれる1種類以上の無機物が挙げられる。なお、カーボンとは炭素の同素体も含まれ得る概念であり、例えば、ダイヤモンド、フラーレン、ダイヤモンドライクカーボン、カーボンナノチューブ等であり得る。
上記無機物は、その種類によって固有の範囲の波長を有する光を吸収する。反応層20に用いた無機物が吸収する範囲の波長の光を分離層に照射することにより、上記無機物を好適に変質させ得る。
光照射ユニットにおいて、無機物からなる反応層20に照射する光としては、上記無機物が吸収可能な波長に応じて、例えば、YAGレーザ、ルビーレーザ、ガラスレーザ、YVO4レーザ、LDレーザ、ファイバーレーザ等の固体レーザ、色素レーザ等の液体レーザ、CO2レーザ、エキシマレーザ、Arレーザ、He-Neレーザ等の気体レーザ、半導体レーザ、自由電子レーザ等のレーザ光、又は、非レーザ光を適宜用いればよい。
無機物からなる反応層20は、例えばスパッタ、化学蒸着(CVD)、メッキ、プラズマCVD、スピンコート等の公知の技術により、支持体10上に形成され得る。無機物からなる反応層20の厚さは特に限定されず、使用する光を十分に吸収し得る膜厚であればよいが、例えば、0.05μm以上、10μm以下の範囲内の膜厚とすることがより好ましい。また、反応層20を構成する無機物からなる無機膜(例えば、金属膜)の両面又は片面に予め接着剤を塗布し、支持体10及び基板40に貼り付けてもよい。
なお、反応層20として金属膜を使用する場合には、反応層20の膜質、レーザ光源の種類、レーザ出力等の条件によっては、レーザの反射あるいは膜への帯電等が起こり得る。そのため、反射防止膜及び帯電防止膜の一方又は双方を反応層20の上下又はどちらか一方に設けることで、それらの対策を図ることが好ましい。
(赤外線吸収性の構造を有する化合物)
反応層20は、赤外線吸収性の構造を有する化合物によって形成されていてもよい。該化合物は、赤外線を吸収することにより変質する。反応層20は、化合物の変質の結果として、赤外線の照射を受ける前の強度又は接着性を失っている。よって、わずかな外力を加える(例えば、支持体を持ち上げる等)ことによって、反応層20が破壊されて、支持体10と基板40とを分離し易くすることができる。
赤外線吸収性を有している構造、又は赤外線吸収性を有している構造を含む化合物としては、例えば、アルカン、アルケン(ビニル、トランス、シス、ビニリデン、三置換、四置換、共役、クムレン、環式)、アルキン(一置換、二置換)、単環式芳香族(ベンゼン、一置換、二置換、三置換)、アルコール及びフェノール類(自由OH、分子内水素結合、分子間水素結合、飽和第二級、飽和第三級、不飽和第二級、不飽和第三級)、アセタール、ケタール、脂肪族エーテル、芳香族エーテル、ビニルエーテル、オキシラン環エーテル、過酸化物エーテル、ケトン、ジアルキルカルボニル、芳香族カルボニル、1、3-ジケトンのエノール、o-ヒドロキシアリールケトン、ジアルキルアルデヒド、芳香族アルデヒド、カルボン酸(二量体、カルボン酸アニオン)、ギ酸エステル、酢酸エステル、共役エステル、非共役エステル、芳香族エステル、ラクトン(β-、γ-、δ-)、脂肪族酸塩化物、芳香族酸塩化物、酸無水物(共役、非共役、環式、非環式)、第一級アミド、第二級アミド、ラクタム、第一級アミン(脂肪族、芳香族)、第二級アミン(脂肪族、芳香族)、第三級アミン(脂肪族、芳香族)、第一級アミン塩、第二級アミン塩、第三級アミン塩、アンモニウムイオン、脂肪族ニトリル、芳香族ニトリル、カルボジイミド、脂肪族イソニトリル、芳香族イソニトリル、イソシアン酸エステル、チオシアン酸エステル、脂肪族イソチオシアン酸エステル、芳香族イソチオシアン酸エステル、脂肪族ニトロ化合物、芳香族ニトロ化合物、ニトロアミン、ニトロソアミン、硝酸エステル、亜硝酸エステル、ニトロソ結合(脂肪族、芳香族、単量体、二量体)、メルカプタン及びチオフェノール及びチオール酸等の硫黄化合物、チオカルボニル基、スルホキシド、スルホン、塩化スルホニル、第一級スルホンアミド、第二級スルホンアミド、硫酸エステル、炭素-ハロゲン結合、Si-A1結合(A1は、H、C、O又はハロゲン)、P-A2結合(A2は、H、C又はO)、又はTi-O結合であり得る。
上記炭素-ハロゲン結合を含む構造としては、例えば、-CH2Cl、-CH2Br、-CH2I、-CF2-、-CF3、-CH=CF2、-CF=CF2、フッ化アリール、及び塩化アリール等が挙げられる。
上記Si-A1結合を含む構造としては、SiH、SiH2、SiH3、Si-CH3、Si-CH2-、Si-C6H5、SiO-脂肪族、Si-OCH3、Si-OCH2CH3、Si-OC6H5、Si-O-Si、Si-OH、SiF、SiF2、及びSiF3等が挙げられる。Si-A1結合を含む構造としては、特に、シロキサン骨格及びシルセスキオキサン骨格を形成していることが好ましい。
上記P-A2結合を含む構造としては、PH、PH2、P-CH3、P-CH2-、P-C6H5、A3
3-P-O(A3は脂肪族又は芳香族)、(A4O)3-P-O(A4はアルキル)、P-OCH3、P-OCH2CH3、P-OC6H5、P-O-P、P-OH、及びO=P-OH等が挙げられる。
上記構造は、その種類の選択によって、所望の範囲の波長を有している赤外線を吸収することができる。具体的には、上記構造が吸収可能な赤外線の波長は、例えば1μm以上、20μm以下の範囲内であり、2μm以上、15μm以下の範囲内をより好適に吸収することができる。さらに、上記構造がSi-O結合、Si-C結合及びTi-O結合である場合には、9μm以上、11μm以下の範囲内であり得る。なお、各構造が吸収できる赤外線の波長は当業者であれば容易に理解することができる。例えば、各構造における吸収帯として、非特許文献:SILVERSTEIN・BASSLER・MORRILL著「有機化合物のスペクトルによる同定法(第5版)-MS、IR、NMR、UVの併用-」(1992年発行)第146頁~第151頁の記載を参照することができる。
反応層20の形成に用いられる、赤外線吸収性の構造を有する化合物としては、上述のような構造を有している化合物のうち、塗布のために溶媒に溶解することができ、固化されて固層を形成することができるものであれば、特に限定されるものではない。しかしながら、反応層20における化合物を効果的に変質させ、支持体10と基板40との分離を容易にするには、反応層20における赤外線の吸収が大きいこと、すなわち、光照射ユニットにより反応層20に赤外線を照射したときの赤外線の透過率が低いことが好ましい。具体的には、反応層20における赤外線の透過率が90%より低いことが好ましく、赤外線の透過率が80%より低いことがより好ましい。
一例を挙げて説明すれば、シロキサン骨格を有する化合物としては、例えば、下記の化学式[化3]で表される繰り返し単位及び下記の化学式[化4]で表される繰り返し単位の共重合体である樹脂、あるいは下記の化学式[化4]で表される繰り返し単位及びアクリル系化合物由来の繰り返し単位の共重合体である樹脂を用いることができる。
(上記の化学式[化4]中、R3は、水素、炭素数10以下のアルキル基、又は炭素数10以下のアルコキシ基である。)
中でも、シロキサン骨格を有する化合物としては、上記の化学式[化3]で表される繰り返し単位及び下記の化学式[化5]で表される繰り返し単位の共重合体であるt-ブチルスチレン(TBST)-ジメチルシロキサン共重合体がより好ましく、上記の化学式[化3]で表される繰り返し単位及び下記の化学式[化5]で表される繰り返し単位を1:1で含む、TBST-ジメチルシロキサン共重合体がさらに好ましい。
また、シルセスキオキサン骨格を有する化合物としては、例えば、下記の化学式[化6]で表される繰り返し単位及び下記の化学式[化7]で表される繰り返し単位の共重合体である樹脂を用いることができる。
(上記の化学式[化6]中、R4は、水素又は炭素数1以上、10以下のアルキル基であり、上記の化学式[化7]中、R5は、炭素数1以上、10以下のアルキル基、又はフェニル基である。)
シルセスキオキサン骨格を有する化合物としては、このほかにも、特開2007-258663号公報(2007年10月4日公開)、特開2010-120901号公報(2010年6月3日公開)、特開2009-263316号公報(2009年11月12日公開)及び特開2009-263596号公報(2009年11月12日公開)において開示されている各シルセスキオキサン樹脂を好適に利用することができる。
中でも、シルセスキオキサン骨格を有する化合物としては、下記の化学式[化8]で表される繰り返し単位及び下記の化学式[化9]で表される繰り返し単位の共重合体がより好ましく、下記の化学式[化8]で表される繰り返し単位及び下記の化学式[化9]で表される繰り返し単位を5:5~9:1の範囲で含む共重合体がさらに好ましい。
シルセスキオキサン骨格を有する重合体としては、ランダム構造、ラダー構造、及び籠型構造があり得るが、何れの構造であってもよい。
また、Ti-O結合を含む化合物としては、例えば、(i)テトラ-i-プロポキシチタン、テトラ-n-ブトキシチタン、テトラキス(2-エチルヘキシルオキシ)チタン、及びチタニウム-i-プロポキシオクチレングリコレート等のアルコキシチタン;(ii)ジ-i-プロポキシ・ビス(アセチルアセトナト)チタン、及びプロパンジオキシチタンビス(エチルアセトアセテート)等のキレートチタン;(iii)i-C3H7O-[-Ti(O-i-C3H7)2-O-]n-i-C3H7、及びn-C4H9O-[-Ti(O-n-C4H9)2-O-]n-n-C4H9等のチタンポリマー;(iv)トリ-n-ブトキシチタンモノステアレート、チタニウムステアレート、ジ-i-プロポキシチタンジイソステアレート、及び(2-n-ブトキシカルボニルベンゾイルオキシ)トリブトキシチタン等のアシレートチタン;(v)ジ-n-ブトキシ・ビス(トリエタノールアミナト)チタン等の水溶性チタン化合物等が挙げられる。
中でも、Ti-O結合を含む化合物としては、ジ-n-ブトキシ・ビス(トリエタノールアミナト)チタン(Ti(OC4H9)2[OC2H4N(C2H4OH)2]2)が好ましい。
上述した反応層20は、赤外線吸収性の構造を有する化合物を含有しているが、反応層20はさらに、上記化合物以外の成分を含み得る。該成分としては、フィラー、可塑剤、及び支持体10の剥離性を向上し得る成分等が挙げられる。これらの成分は、上記構造による赤外線の吸収、及び化合物の変質を妨げないか、又は促進する、従来公知の物質又は材料から適宜選択される。
(赤外線吸収物質)
反応層20は、赤外線吸収物質を含有していてもよい。反応層20は、赤外線吸収物質を含有して構成されることにより、光を吸収することによって変質するようになっており、その結果として、光の照射を受ける前の強度又は接着性を失う。よって、わずかな外力を加える(例えば、支持体10を持ち上げる等)ことによって、反応層20が破壊されて、支持体10と基板40とを分離し易くすることができる。
赤外線吸収物質は、赤外線を吸収することによって変質する構成であればよく、例えば、カーボンブラック、鉄粒子、又はアルミニウム粒子を好適に用いることができる。赤外線吸収物質は、その種類によって固有の範囲の波長を有する光を吸収する。反応層20に用いた赤外線吸収物質が吸収する範囲の波長の光を光照射ユニットにおいて反応層20に照射することにより、赤外線吸収物質を好適に変質させ得る。
反応層20は、上記の材料を含む液状体を支持体10のうち一方の面(反応層形成面)110に配置させることで形成させる。例えば、支持体10を塗布装置などのステージ上に載置して、液状体を吐出するスリットノズルと支持体10とを相対的に移動させつつ、スリットノズルから液状体を反応層形成面10aに吐出させる。その結果、支持体10の反応層形成面10aの全面に反応層20が形成される。なお、反応層20の塗布方法としては、上記のようなスリットノズル法に限定されず、例えば、スピンコート法、ディッピング法、ローラーブレード法、ドクターブレード法、スプレー法による塗布法等で行ってもよい。
(接着層)
接着層30は、中間層の1つ又は全部である。接着層30に含有される樹脂としては、接着性を備えたものであればよく、例えば、炭化水素樹脂、アクリル-スチレン系樹脂、マレイミド系樹脂、エラストマー樹脂等、又はこれらを組み合わせたもの等が挙げられる。
接着剤のガラス転移温度(Tg)は、上記樹脂の種類や分子量、及び接着剤への可塑剤等の配合物によって変化する。上記接着剤に含有される樹脂の種類や分子量は、基板及び支持体の種類に応じて適宜選択することができるが、接着剤に使用する樹脂のTgは-60℃以上、200℃以下の範囲内が好ましく、-25℃以上、150℃以下の範囲内がより好ましい。接着剤に使用する樹脂のTgが-60℃以上、200℃以下の範囲内であることによって、冷却に過剰なエネルギーを要することなく、好適に接着層30の接着力を低下させることができる。また、接着層30のTgは、適宜、可塑剤や低重合度の樹脂等を配合することによって調整してもよい。ガラス転移温度(Tg)は、例えば、公知の示差走査熱量測定装置(DSC)を用いて測定することができる。
(炭化水素樹脂)
炭化水素樹脂は、炭化水素骨格を有し、単量体組成物を重合してなる樹脂である。炭化水素樹脂として、シクロオレフィン系ポリマー(以下、「樹脂(A)」ということがある)、並びに、テルペン樹脂、ロジン系樹脂及び石油樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂(以下、「樹脂(B)」ということがある)等が挙げられるが、これに限定されない。
樹脂(A)としては、シクロオレフィン系モノマーを含む単量体成分を重合してなる樹脂であってもよい。具体的には、シクロオレフィン系モノマーを含む単量体成分の開環(共)重合体、シクロオレフィン系モノマーを含む単量体成分を付加(共)重合させた樹脂等が挙げられる。
樹脂(A)を構成する単量体成分に含まれる前記シクロオレフィン系モノマーとしては、例えば、ノルボルネン、ノルボルナジエン等の二環体、ジシクロペンタジエン、ジヒドロキシペンタジエン等の三環体、テトラシクロドデセン等の四環体、シクロペンタジエン三量体等の五環体、テトラシクロペンタジエン等の七環体、又はこれら多環体のアルキル(メチル、エチル、プロピル、ブチル等)置換体、アルケニル(ビニル等)置換体、アルキリデン(エチリデン等)置換体、アリール(フェニル、トリル、ナフチル等)置換体等が挙げられる。これらの中でも特に、ノルボルネン、テトラシクロドデセン、又はこれらのアルキル置換体からなる群より選ばれるノルボルネン系モノマーが好ましい。
樹脂(A)を構成する単量体成分は、上述したシクロオレフィン系モノマーと共重合可能な他のモノマーを含有していてもよく、例えば、アルケンモノマーを含有することが好ましい。アルケンモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブテン、1-ヘキセン、α-オレフィン等が挙げられる。アルケンモノマーは、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよい。
また、樹脂(A)を構成する単量体成分として、シクロオレフィンモノマーを含有することが、高耐熱性(低い熱分解、熱重量減少性)の観点から好ましい。樹脂(A)を構成する単量体成分全体に対するシクロオレフィンモノマーの割合は、5モル%以上であることが好ましく、10モル%以上であることがより好ましく、20モル%以上であることがさらに好ましい。また、樹脂(A)を構成する単量体成分全体に対するシクロオレフィンモノマーの割合は、特に限定されないが、溶解性及び溶液での経時安定性の観点からは80モル%以下であることが好ましく、70モル%以下であることがより好ましい。
また、樹脂(A)を構成する単量体成分として、直鎖状又は分岐鎖状のアルケンモノマーを含有してもよい。樹脂(A)を構成する単量体成分全体に対するアルケンモノマーの割合は、溶解性及び柔軟性の観点からは10~90モル%であることが好ましく、20~85モル%であることがより好ましく、30~80モル%であることがさらに好ましい。
なお、樹脂(A)は、例えば、シクロオレフィン系モノマーとアルケンモノマーとからなる単量体成分を重合させてなる樹脂のように、極性基を有していない樹脂であることが、高温下でのガスの発生を抑制する上で好ましい。
単量体成分を重合するときの重合方法や重合条件等については、特に制限はなく、常法に従い適宜設定すればよい。
樹脂(A)として用いることのできる市販品としては、例えば、ポリプラスチックス株式会社製の「TOPAS」、三井化学株式会社製の「APEL」、日本ゼオン株式会社製の「ZEONOR」及び「ZEONEX」、JSR株式会社製の「ARTON」等が挙げられる。
樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)は、60℃以上であることが好ましく、70℃以上であることが特に好ましい。樹脂(A)のガラス転移温度が60℃以上であると、積層体が高温環境に曝されたときに接着層30の軟化をさらに抑制することができる。
樹脂(B)は、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂及び石油樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂である。具体的には、テルペン系樹脂としては、例えば、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、変性テルペン樹脂、水添テルペン樹脂、水添テルペンフェノール樹脂等が挙げられる。ロジン系樹脂としては、例えば、ロジン、ロジンエステル、水添ロジン、水添ロジンエステル、重合ロジン、重合ロジンエステル、変性ロジン等が挙げられる。石油樹脂としては、例えば、脂肪族又は芳香族石油樹脂、水添石油樹脂、変性石油樹脂、脂環族石油樹脂、クマロン・インデン石油樹脂等が挙げられる。これらの中でも、水添テルペン樹脂、水添石油樹脂がより好ましい。
樹脂(B)の軟化点は特に限定されないが、80~160℃であることが好ましい。樹脂(B)の軟化点が80℃以上であると、積層体が高温環境に曝されたときに軟化することを抑制することができ、接着不良を生じない。一方、樹脂(B)の軟化点が160℃以下であると、積層体を剥離するときの剥離速度が良好なものとなる。
樹脂(B)の重量平均分子量は特に限定されないが、300~3、000であることが好ましい。樹脂(B)の重量平均分子量が300以上であると、耐熱性が充分なものとなり、高温環境下において脱ガス量が少なくなる。一方、樹脂(B)の重量平均分子量が3、000以下であると、積層体を剥離するときの剥離速度が良好なものとなる。なお、本実施形態における樹脂(B)の重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)で測定されるポリスチレン換算の分子量を意味するものである。
なお、樹脂として、樹脂(A)と樹脂(B)とを混合したものを用いてもよい。混合することにより、耐熱性及び剥離速度が良好なものとなる。例えば、樹脂(A)と樹脂(B)との混合割合としては、(A):(B)=80:20~55:45(質量比)であることが、剥離速度、高温環境時の熱耐性、及び柔軟性に優れるので好ましい。
(アクリル-スチレン系樹脂)
アクリル-スチレン系樹脂としては、例えば、スチレン又はスチレンの誘導体と、(メタ)アクリル酸エステル等とを単量体として用いて重合した樹脂が挙げられる。
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、鎖式構造からなる(メタ)アクリル酸アルキルエステル、脂肪族環を有する(メタ)アクリル酸エステル、芳香族環を有する(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。鎖式構造からなる(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、炭素数15~20のアルキル基を有するアクリル系長鎖アルキルエステル、炭素数1~14のアルキル基を有するアクリル系アルキルエステル等が挙げられる。アクリル系長鎖アルキルエステルとしては、アルキル基がn-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-エイコシル基等であるアクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステルが挙げられる。なお、当該アルキル基は、分岐状であってもよい。
炭素数1~14のアルキル基を有するアクリル系アルキルエステルとしては、既存のアクリル系接着剤に用いられている公知のアクリル系アルキルエステルが挙げられる。例えば、アルキル基が、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、2-エチルヘキシル基、イソオクチル基、イソノニル基、イソデシル基、ドデシル基、ラウリル基、トリデシル基等からなるアクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステルが挙げられる。
脂肪族環を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、1-アダマンチル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、テトラシクロドデカニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート等が挙げられるが、イソボルニルメタアクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレートがより好ましい。
芳香族環を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、特に限定されるものではないが、芳香族環としては、例えばフェニル基、ベンジル基、トリル基、キシリル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェノキシメチル基、フェノキシエチル基等が挙げられる。また、芳香族環は、炭素数1~5の鎖状又は分岐状のアルキル基を有していてもよい。具体的には、フェノキシエチルアクリレートが好ましい。
(マレイミド系樹脂)
マレイミド系樹脂としては、例えば、単量体として、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-n-プロピルマレイミド、N-イソプロピルマレイミド、N-n-ブチルマレイミド、N-イソブチルマレイミド、N-sec-ブチルマレイミド、N-tert-ブチルマレイミド、N-n-ペンチルマレイミド、N-n-ヘキシルマレイミド、N-n-へプチルマレイミド、N-n-オクチルマレイミド、N-ラウリルマレイミド、N-ステアリルマレイミド等のアルキル基を有するマレイミド、N-シクロプロピルマレイミド、N-シクロブチルマレイミド、N-シクロペンチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-シクロヘプチルマレイミド、N-シクロオクチルマレイミド等の脂肪族炭化水素基を有するマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-m-メチルフェニルマレイミド、N-o-メチルフェニルマレイミド、N-p-メチルフェニルマレイミド等のアリール基を有する芳香族マレイミド等を重合して得られた樹脂が挙げられる。
例えば、下記の化学式[化10]で表される繰り返し単位及び下記の化学式[化11]で表される繰り返し単位の共重合体であるシクロオレフィンコポリマーを接着成分の樹脂として用いることができる。
(上記の化学式[化11]中、nは0又は1~3の整数である。)
このようなシクロオレフィンコポリマーとしては、APL 8008T、APL 8009T、及びAPL 6013T(全て三井化学株式会社製)等を使用することができる。
(エラストマー)
エラストマーは、主鎖の構成単位としてスチレン単位を含んでいることが好ましく、当該「スチレン単位」は置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、炭素数1~5のアルコキシアルキル基、アセトキシ基、カルボキシル基等が挙げられる。また、当該スチレン単位の含有量が14重量%以上、50重量%以下の範囲内であることがより好ましい。さらに、エラストマーは、重量平均分子量が10、000以上、200、000以下の範囲内であることが好ましい。
スチレン単位の含有量が14重量%以上、50重量%以下の範囲内であり、エラストマーの重量平均分子量が10、000以上、200、000以下の範囲内であれば、後述する炭化水素系の溶剤に容易に溶解するので、より容易かつ迅速に接着層30を除去することができる。また、スチレン単位の含有量及び重量平均分子量が上記の範囲内であることにより、ウエハがレジストリソグラフィー工程に供されるときに曝されるレジスト溶剤(例えばPGMEA、PGME等)、酸(フッ化水素酸等)、アルカリ(TMAH等)に対して優れた耐性を発揮する。
なお、エラストマーには、上述した(メタ)アクリル酸エステルをさらに混合してもよい。
また、スチレン単位の含有量は、より好ましくは17重量%以上であり、また、より好ましくは40重量%以下である。
重量平均分子量のより好ましい範囲は20、000以上であり、また、より好ましい範囲は150、000以下である。
エラストマーとしては、スチレン単位の含有量が14重量%以上、50重量%以下の範囲内であり、エラストマーの重量平均分子量が10、000以上、200、000以下の範囲内であれば、種々のエラストマーを用いることができる。例えば、ポリスチレン-ポリ(エチレン/プロピレン)ブロックコポリマー(SEP)、スチレン-イソプレン-スチレンブロックコポリマー(SIS)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロックコポリマー(SBS)、スチレン-ブタジエン-ブチレン-スチレンブロックコポリマー(SBBS)、及び、これらの水添物、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロックコポリマー(SEBS)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロックコポリマー(スチレン-イソプレン-スチレンブロックコポリマー)(SEPS)、スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロックコポリマー(SEEPS)、スチレンブロックが反応架橋型のスチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロックコポリマー(SeptonV9461(株式会社クラレ製))、スチレンブロックが反応架橋型のスチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロックコポリマー(反応性のポリスチレン系ハードブロックを有する、SeptonV9827(株式会社クラレ製))等であって、スチレン単位の含有量及び重量平均分子量が上述の範囲内であるものを用いることができる。
また、エラストマーの中でも水添物がより好ましい。水添物であれば熱に対する安定性が向上し、分解や重合等の変質が起こりにくい。また、炭化水素系溶剤への溶解性及びレジスト溶剤への耐性の観点からもより好ましい。
また、エラストマーの中でも両端がスチレンのブロック重合体であるものがより好ましい。熱安定性の高いスチレンを両末端にブロックすることでより高い耐熱性を示すからである。
より具体的には、エラストマーは、スチレン及び共役ジエンのブロックコポリマーの水添物であることがより好ましい。熱に対する安定性が向上し、分解や重合等の変質が起こりにくい。また、熱安定性の高いスチレンを両末端にブロックすることでより高い耐熱性を示す。さらに、炭化水素系溶剤への溶解性及びレジスト溶剤への耐性の観点からもより好ましい。
接着層30を構成する接着剤に含まれるエラストマーとして用いられ得る市販品としては、例えば、株式会社クラレ製「セプトン(商品名)」、株式会社クラレ製「ハイブラー(商品名)」、旭化成株式会社製「タフテック(商品名)」、JSR株式会社製「ダイナロン(商品名)」等が挙げられる。
接着層30を構成する接着剤に含まれるエラストマーの含有量としては、例えば、接着剤組成物全量を100重量部として、50重量部以上、99重量部以下の範囲内が好ましく、60重量部以上、99重量部以下の範囲内がより好ましく、70重量部以上、95重量部以下の範囲内が最も好ましい。これら範囲内にすることにより、耐熱性を維持しつつ、ウエハと支持体とを好適に貼り合わせることができる。
また、エラストマーは、複数の種類を混合してもよい。つまり、接着層30を構成する接着剤は複数の種類のエラストマーを含んでいてもよい。複数の種類のエラストマーのうち少なくとも一つが、主鎖の構成単位としてスチレン単位を含んでいればよい。また、複数の種類のエラストマーのうち少なくとも一つが、スチレン単位の含有量が14重量%以上、50重量%以下の範囲内である、又は、重量平均分子量が10、000以上、200、000以下の範囲内であれば、本発明の範疇である。また、接着層30を構成する接着剤において、複数の種類のエラストマーを含む場合、混合した結果、スチレン単位の含有量が上記の範囲内となるように調整してもよい。例えば、スチレン単位の含有量が30重量%である株式会社クラレ製のセプトン(商品名)のSepton4033と、スチレン単位の含有量が13重量%であるセプトン(商品名)のSepton2063とを重量比1対1で混合すると、接着剤に含まれるエラストマー全体に対するスチレン含有量は21~22重量%となり、従って14重量%以上となる。また、例えば、スチレン単位が10重量%のものと60重量%のものとを重量比1対1で混合すると35重量%となり、上記の範囲内となる。本発明はこのような形態でもよい。また、接着層30を構成する接着剤に含まれる複数の種類のエラストマーは、全て上記の範囲内でスチレン単位を含み、かつ、上記の範囲内の重量平均分子量であることが最も好ましい。
なお、光硬化性樹脂(例えば、UV硬化性樹脂)以外の樹脂を用いて接着層30を形成することが好ましい。光硬化性樹脂以外の樹脂を用いることで、接着層30の剥離又は除去の後に、基板40の微小な凹凸の周辺に残渣が残ることを防ぐことができる。特に、接着層30を構成する接着剤としては、あらゆる溶剤に溶解するものではなく、特定の溶剤に溶解するものが好ましい。これは、基板40に物理的な力を加えることなく、接着層30を溶剤に溶解させることによって除去可能なためである。接着層30の除去に際して、強度が低下した基板40からでさえ、基板40を破損させたり、変形させたりせずに、容易に接着層30を除去することができる。
(希釈溶剤)
接着層30を形成するときに使用する希釈溶剤としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、メチルオクタン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン等の直鎖状の炭化水素、炭素数4から15の分岐状の炭化水素、例えば、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、ナフタレン、デカヒドロナフタレン、テトラヒドロナフタレン等の環状炭化水素、p-メンタン、o-メンタン、m-メンタン、ジフェニルメンタン、1、4-テルピン、1、8-テルピン、ボルナン、ノルボルナン、ピナン、ツジャン、カラン、ロンギホレン、ゲラニオール、ネロール、リナロール、シトラール、シトロネロール、メントール、イソメントール、ネオメントール、α-テルピネオール、β-テルピネオール、γ-テルピネオール、テルピネン-1-オール、テルピネン-4-オール、ジヒドロターピニルアセテート、1、4-シネオール、1、8-シネオール、ボルネオール、カルボン、ヨノン、ツヨン、カンファー、d-リモネン、l-リモネン、ジペンテン等のテルペン系溶剤;γ-ブチロラクトン等のラクトン類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン(CH)、メチル-n-ペンチルケトン、メチルイソペンチルケトン、2-ヘプタノン等のケトン類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等の多価アルコール類;エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノアセテート、又はジプロピレングリコールモノアセテート等のエステル結合を有する化合物、前記多価アルコール類又は前記エステル結合を有する化合物のモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテル、モノブチルエーテル等のモノアルキルエーテル又はモノフェニルエーテル等のエーテル結合を有する化合物等の多価アルコール類の誘導体(これらの中では、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)が好ましい);ジオキサンのような環式エーテル類や、乳酸メチル、乳酸エチル(EL)、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、メトキシブチルアセテート、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル等のエステル類;アニソール、エチルベンジルエーテル、クレジルメチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、フェネトール、ブチルフェニルエーテル等の芳香族系有機溶剤等を挙げることができる。
(その他の成分)
接着層30を構成する接着剤は、本質的な特性を損なわない範囲において、混和性のある他の物質をさらに含んでいてもよい。例えば、接着剤の性能を改良するための付加的樹脂、可塑剤、接着補助剤、安定剤、着色剤、熱重合禁止剤及び界面活性剤等、慣用されている各種添加剤をさらに用いることができる。
接着層30は、上記の材料を含む液状体を反応層20上に配置させることで形成させる。例えば、支持体10を塗布装置などのステージ上に載置して、液状体を吐出するスリットノズルと支持体10とを相対的に移動させつつ、スリットノズルから液状体を反応層20上に吐出させる。その結果、反応層20上の全面に接着層30が形成される。なお、接着層30の塗布方法としては、上記のようなスリットノズル法に限定されず、例えば、スピンコート法、ディッピング法、ローラーブレード法、ドクターブレード法、スプレー法による塗布法等で行ってもよい。また、接着層30を反応層20上に塗布した後、加熱等により乾燥させてもよい。
(基板)
積層体50、50Aの基板40は、例えば、1枚又は複数枚が積層された半導体基板を用いて複数の電子部品が形成されている。また、積層体50Bの基板140は、電子部品141と、モールド142とを有する。電子部品141は、例えば、半導体等を用いて形成されたチップ等を含む。図2(A)に示す積層体50では、基板40は、接着層30上に配置される。また、図2(B)に示す積層体50Aでは、基板40は、反応層20上に配置される。積層体50、50Aの基板40は、電子部品形成層41を備える。電子部品形成層41には、例えば、シリコンウェハ等の基板40に形成されたトランジスタなどの活性素子(電子素子、機能素子)、貫通電極(TSV:Through Silicon Via)、配線、層間絶縁膜などを含む。
また、図2(C)に示す積層体50Bでは、電子部品141は、接着層30上に配置される。積層体50Bにおいて、モールド142は、電子部品141を保持する。モールド142は、電子部品141を含む接着層30の基板形成面30aの全面を覆うように形成される。モールド142により、電子部品141がモールド142に埋まった状態で保持される。なお、基板140は、電子部品141を備えなくてもよい。電子部品141を備えない場合、例えば、接着層30上には単にモールド142が形成されてもよいし、このモールド142に再配線された電子回路が形成されてもよい。
図2(A)及び図2(B)に示す基板40は、トランジスタ等の形成プロセス、貫通電極の形成プロセス、配線の形成プロセスなどが適用されて、電子部品形成層41において複数の電子部品が形成される。なお、電子部品形成層41における電子部品の形成プロセスは任意である。例えば、トランジスタ等の形成前(例えば、ゲート酸化やトランジスタの拡散層の活性化アニール前)に貫通電極を形成するプロセス(Via Firstプロセス)が適用されてもよいし、トランジスタ等の形成後から配線を形成する前、あるいは配線形成を行っている際に貫通電極を形成するプロセス(Via Middleプロセス)が適用されてもよいし、配線の形成後に貫通電極を形成するプロセス(Via Lastプロセス)が適用されてもよい。また、複数の基板40が積層される場合、上下に積層された基板40の電子部品間を、基板40に形成された貫通電極により電気的に接続する形態が適用されてもよい。なお、図2(A)及び図2(B)に示す例では、電子部品形成層41を上面とした状態で、中間層(反応層20、接着層30)を介して支持体10と積層されているが、この形態に代えて、電子部品形成層41が中間層(反応層20又は接着層30)に接触した状態で支持体10と積層されてもよい。この場合、例えば、中間層(反応層20又は接着層30)に配線の形成プロセスが適用された後に、トランジスタ等が形成された基板40が積層されてもよい。
また、図2(C)に示す基板140を製造する場合、まず、接着層30上に複数の電子部品141が配置される。電子部品141の配置数は任意である。電子部品141は、接着層30により接着されて固定される。その後、電子部品141を含む接着層30の全面を覆うようにモールド142を形成する。
なお、電子部品141がモールド142に埋まった状態からモールド142の一部を研削等により除去することにより、電子部品141の一部(例えば上面)を露出させることができる。また、基板140は、電子部品141を配置する単一の層であることに限定されない。例えば、電子部品141を配置するモールド142上に、さらに電子部品141を配置してモールド142を形成してもよい。このような電子部品141を配置する層が2以上積層されてもよい。また、積層された電子部品141間は、パターニング手法等により形成された配線等により電気的に接続されてもよい。
<保持具>
図3は、上記のように構成された積層体50、50A、50B(又は基板40、140)を保持する保持具の一例を示し、図3(A)は積層体50を保持した保持具の斜視図、図3(B)は図3(A)のA-A線に沿った断面図である。図3においては、保持具60が積層体50を保持する場合の例として示しており、積層体50A、50Bであっても同様である。また、保持具60は、積層体50、50A、50Bから支持体10を剥離した基板40、140が保持される。なお、保持具60が基板40を保持する形態については、図11(B)等において示されている。
保持具60は、後述する支持体剥離装置3の剥離ユニットにおいて、基板40側を貼り付けた状態で積層体50を保持し、剥離ユニットでの処理により、積層体50から支持体10を剥離した後の基板40を保持する。保持具60は、剥離ユニット以降の基板40の処理及び搬送において用いられる。保持具60は、図3(A)及び図3(B)に示すように、保持膜61と、リング62とを有する。保持膜61は、積層体50よりも広く、かつ弾性を有する。保持膜61は、例えば樹脂等の弾性変形可能な材料を用いて形成される。保持膜61は、例えばリング62の外周形状に合わせるように円板状に形成される。
リング62は、円環状であり、樹脂、金属等の剛性の高い材料を用いて形成される。リング62は、保持膜61の面61aに接着剤等により貼り付けられた状態で固定され、保持膜61から容易に外れないようにしている。また、積層体50は、保持膜61の面61aのうち、リング62で囲まれた領域のほぼ中央に接着剤等により貼り付けられた状態で保持される。積層体50は、基板40側が保持膜61の面61aに貼り付けられる。ここで使用される接着剤は、例えば、保持膜61から基板40を剥離可能な接着力を持つものが適用される。
積層体50から支持体10を剥離した後の基板40は、積層体50と比べて薄くなり、かつ、支持体10の剛性がなくなっているので、各種処理中あるいは搬送中に割れ等の破損が生じる可能性がある。従って、積層体50から支持体10を剥離する支持体剥離装置3において、支持体10の剥離前に予め積層体50を保持具60に保持させ、この状態で支持体10を基板40から剥離することにより、基板40を保持具60に保持させ、基板40の破損等を防止することができる。基板40は、剛性が高い保持具60のリング62に囲まれ、さらに、弾性変形可能な保持膜61に支持されるので、その後の処理又は搬送において衝撃又は振動などが緩和され、破損等が生じるのを回避できる。また、各種処理又は搬送では、保持具60を把持等すればよいので、搬送装置6等のロボットアーム等が基板40に直接接触することを回避できる。
<支持体剥離装置>
支持体剥離装置3は、積層体50に対して光を照射して反応層20を変質させ、基板40を支持体10から剥離させる。支持体剥離装置3は、光照射ユニット及び剥離ユニットを有する。光照射ユニットは、積層体50に対して、光を照射することで反応層20を変質させる。光照射ユニットは、例えば、積層体50を載置する載置台と、反応層20を変質させることが可能な波長の光を照射する照射装置とを有する。この照射装置からの光は、積層体50の支持体10側から照射される。照射装置に備える光源、及びこの光源から出射する光の詳細については後述する。また、照射装置からの光の照射は、スポット光を走査する手法、あるいは積層体50の全面に光を照射する手法、積層体50の一部に光を照射しつつ光の照射部分をステップしてずらしていく手法のいずれであってもよい。
光照射ユニットは、積層体処理システム1内において、例えば、光照射ユニット専用のチャンバ内に収容されて配置されている。このチャンバにより、照射装置から出射した光が積層体処理システム1内においてチャンバ外に漏れるのを防止できる。
剥離ユニットは、基板40を支持体10から剥離させる。剥離ユニットには、上記した光照射ユニットにより反応層20が変質した状態の積層体50が搬入される。剥離ユニットは、例えば、積層体50を固定する不図示の固定台と、支持体10を吸着する不図示の吸着装置とを有する。剥離ユニットは、支持体10を上側として積層体50を固定台に固定し、その状態で例えば吸着装置を支持体10に吸着させて引き上げること、あるいは固定台を下降させることで、支持体10を基板40から剥離する。
<洗浄装置>
洗浄装置4は、支持体10から剥離された基板40を液体により洗浄する。洗浄装置4は、液体洗浄装置である。洗浄装置4は、例えば、基板40を載置する不図示の載置台と、この載置台に載置された基板40に対して液体を供給する不図示の液体供給装置と、基板40を洗浄した液体を排出する不図示の排出部とを有する。洗浄装置4は、支持体10から剥離された基板40に付着している接着層30を液体により除去する。洗浄装置4の詳細については後述する。
洗浄装置4において用いられる液体は、積層体50における基板40に積層された接着層30及び/又はその残渣を洗浄する洗浄液である。液体は、炭化水素系有機溶媒、含窒素系有機溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒から選ばれる1種以上を含む。炭化水素系溶媒とは、炭素原子と水素原子とから構成される化合物(炭化水素)からなる溶媒である。炭化水素系溶媒は、特に限定されないが、例えば、テルペン系の炭化水素系溶媒、アルカン系の炭化水素系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒等が挙げられる。
テルペン系の炭化水素系溶媒としては、例えば、p-メンタン、o-メンタン、m-メンタン、ジフェニルメンタン、ボルナン、ノルボルナン、ピナン、ツジャン、カラン、ロンギホレン、ツヨン、d-リモネン、l-リモネン、ジペンテン、フェンカン、α-テルピネン、β-テルピネン、γ-テルピネン、α-ピネン、β-ピネン、アビエタン等が挙げられる。これらの中でも、テルペン系溶媒としては、p-メンタン、d-リモネン、l-リモネン、ジペンテン及びピナンを用いることが好ましく、p-メンタン及びd-リモネンを用いることがより好ましい。特に、接着剤が、水添スチレン系エラストマーを含む場合には、テルペン系溶媒として、p-メンタン、リモネン、ジペンテン及びピナンを用いることが好ましい。それらのテルペン系溶媒を用いることにより、水添スチレン系エラストマーを含む接着剤を迅速に溶解することができる剥離用組成物を得ることができる。また、テルペン系溶媒として、p-メンタンを用いれば、水添スチレン系エラストマーを含む接着剤をより迅速に溶解することができる剥離用組成物を得ることができる。
テルペン系溶媒として、p-メンタンを用いる場合、p-メンタンのシス体及びトランス体の比率を調整してもよい。これによって、水添スチレン系エラストマーを含む接着剤の溶解速度を調節することができる。例えば、p-メンタンのトランス体の比率をシス体の比率より高くすることにより、p-メンタンによる水添スチレン系エラストマーを含む接着剤の溶解速度をより速くすることができる。したがって、水添スチレン系エラストマーを含む接着剤に対するp-メンタンによる洗浄性をより高くすることができる。
アルカン系の炭化水素系溶媒は、直鎖状、分岐鎖状、及び環状のいずれであってもよい。直鎖状又は分岐鎖状アルカンの炭化水素系溶媒としては、例えば、炭素数4~20の直鎖状若しくは分岐鎖状アルカンが挙げられ、例えば、ブタン、ペンタン、2-メチルブタン、3-メチルペンタン、ヘキサン、2,2-ジメチルブタン、2,3-ジメチルブタン、ヘプタン、オクタン、2,2,4-トリメチルペンタン、2,2,3-トリメチルヘキサン、ノナン、イソノナン、メチルオクタン、デカン、ウンデカン、ドデカン、2,2,4,6,6-ペンタメチルヘプタン、トリデカン、ペンタデカン、テトラデカン、ヘキサデカン等が挙げられる。環状アルカンの炭化水素系溶媒としては、例えば、炭素数4~20の環状アルカンが挙げられ、例えば、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタンなどのモノシクロアルカン;デカリンなどのビシクロアルカン等が挙げられる。これらの中でも、アルカン系の炭化水素系溶媒としては、エチルシクロヘキサン及びデカリンが好ましい。
芳香族炭化水素系としては、例えば、ベンゼン、ナフタレン、テトラヒドロナフタレン等が挙げられる。
また、洗浄装置4において用いられる液体は、エステル結合、エーテル結合、ケトン基、アミド結合、及びヒドロキシ基からなる群より選択される少なくとも1種の構造を含む溶剤であってもよい。具体例としては、1,4-テルピン、1,8-テルピン、ゲラニオール、ネロール、リナロール、シトラール、シトロネロール、メントール、イソメントール、ネオメントール、α-テルピネオール、β-テルピネオール、γ-テルピネオール、テルピネン-1-オール、テルピネン-4-オール、ジヒドロターピニルアセテート、1,4-シネオール、1,8-シネオール、ボルネオール、カルボン、ヨノン、カンファー等のテルペン系溶剤;γ-ブチロラクトン等のラクトン類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン(CH)、メチル-n-ペンチルケトン、メチルイソペンチルケトン、2-ヘプタノン等のケトン類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等の多価アルコール類;エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノアセテート、又はジプロピレングリコールモノアセテート等のエステル結合を有する化合物、前記多価アルコール類又は前記エステル結合を有する化合物のモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテル、モノブチルエーテル等のモノアルキルエーテル又はモノフェニルエーテル等のエーテル結合を有する化合物等の多価アルコール類の誘導体(これらの中では、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)が好ましい);ジオキサンのような環式エーテル類や、乳酸メチル、乳酸エチル(EL)、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、メトキシブチルアセテート、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル等のエステル類;アニソール、エチルベンジルエーテル、クレジルメチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、フェネトール、ブチルフェニルエーテル等の芳香族系有機溶剤;N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶剤等が挙げられる。中でも、エステル結合、エーテル結合及びケトン基からなる群より選択される構造を少なくとも1個含む溶剤が好ましく、酢酸ブチル、PGMEA、及び2-ヘプタノン等が好ましく例示される。
その他、入手容易性の高い溶媒としては、東京応化工業株式会社製TZNR(登録商標)-HCシンナー等を用いることができる。
洗浄装置4は、積層体処理システム1内において、例えば、洗浄装置4専用のチャンバ内に収容されて配置されている。このチャンバにより、液体供給装置から供給された液体が積層体処理システム1内においてチャンバ外に漏れるのを防止できる。
<除去装置>
除去装置5は、洗浄装置4で洗浄された基板40及び保持膜61に付着又は浸透している液体を除去する。図4は、本実施形態に係る除去装置5の一例を示す図であり、図5から図7は、本実施形態に係る除去装置5の他の例を示す図である。図4に示す除去装置5Aは、チャンバCAと、支持部SAと、ヒータHAと、ファンFAと、吸気口IAと、排気口EAとを有する。チャンバCAは、複数の基板40及び保持膜61を収容可能である。チャンバCAの側面には、基板40及び保持膜61を搬入及び搬出するための不図示の開口部が設けられており、この開口部を開閉可能なシャッタが設けられてもよい。
支持部SAは、チャンバCA内において、上下方向に間隔を空けて多段に配置される。各支持部SAは、基板40及び保持膜61を支持する複数の(例えば3本の)支持ピンPAを有する。支持ピンPAは、保持具60のリング62の下面に当接するように配置されている。支持ピンPAは、上下方向に移動可能であってもよい。支持ピンPAにより、基板40及び保持膜61を上下方向に間隔を空けて基板40及び保持膜61を支持することができる。
ヒータHAは、チャンバCAに収容された基板40及び保持膜61を加熱する加熱部である。ヒータHAは、面ヒータが用いられてもよいし、棒状のヒータが平行に複数並べて配置されてもよい。ヒータHAは、チャンバCAの底部に配置される。従って、ヒータHAは、複数の支持部SAの下方に配置される。ファンFAは、例えば上下方向において最も下側の支持部SAとヒータHAとの間に配置される。ファンFAは、ヒータHAの熱を上方に向けて送り出す。その結果、ファンFAは、ヒータHAの熱をチャンバCA内において撹拌又は循環させ、チャンバCA内の温度勾配が生じないようにしている。
吸気口IAは、外部の空気をチャンバCAの内部に吸入するために設けられる。吸気口IAは、チャンバCAの下部に配置される。本実施形態において、吸気口IAは、例えばチャンバCAの側面の下側と、底面との2か所に配置される。排気口EAは、チャンバCAの内部の空気を外部に排出する。排気口EAは、例えばチャンバCAの天井部のほぼ中央に配置される。排気口EAからはチャンバCA内の暖められた空気が出ていき、これに伴って吸気口IAから外部の空気がチャンバCA内に導入される。なお、排気口EAに吸引ポンプを接続してチャンバCA内の空気を吸引してもよいし、吸気口IAに給気ポンプを接続してチャンバCAに外気を送り込むようにしてもよい。チャンバCA内には、不図示の温度センサが配置され、この温度センサの出力を用いてヒータHA及びファンFAの駆動を制御している。
除去装置5Aでは、ヒータHA及びファンFAを駆動することで、ヒータHAの熱がチャンバCAに拡散する。この熱により基板40及び保持膜61が加熱されることにより、基板40及び保持膜61に付着又は浸透している液体が気化してチャンバCA内に放出されることにより液体が除去される。チャンバCA内に放出された液体は、排気口EAを介してチャンバCAの外部に排出される。
なお、除去装置5の構成については、図4に示す構成に限定されず、他の構成としてもよい。例えば、図5に示す除去装置5Bは、チャンバCBと、支持部SBと、ヒータHBと、吸気口IBと、排気口EBとを有する。チャンバCB及び支持部SBの構成については、除去装置5AのチャンバCA及び支持部SAとほぼ同様である。
また、支持部SBは複数の支持ピンPBを備える。支持ピンPBは、上下方向に移動可能であってもよい。ヒータHBは、支持部SBに配置された複数の基板40及び保持膜61に対して上方及び下方の両側に配置される。ヒータHBは、チャンバCBに収容された基板40及び保持膜61を加熱する加熱部である。ヒータHBは、面ヒータが用いられてもよいし、棒状のヒータが平行に複数並べて配置されてもよい。支持部SBの支持ピンPBに支持された複数の基板40及び保持膜61は、上方のヒータHB及び下方のヒータHBに挟まれた状態で加熱される。各ヒータHBの温度は適宜制御されており、上下のヒータHBが同一温度に設定されてもよいし、異なる温度に設定されてもよい。例えば、下方のヒータHBが上方のヒータHBより温度を高く設定されてもよい。
除去装置5Bでは、各ヒータHBを加熱させることで、チャンバCB内において熱の対流により高温となり、支持部SBに配置された基板40及び保持膜61が加熱され、基板40及び保持膜61に付着又は浸透している液体が気化してチャンバCB内に放出される。チャンバCB内に放出された液体は、除去装置5Aと同様に、排気口EBを介してチャンバCAの外部に排出される。
図6に示す除去装置5Cは、チャンバCCと、ホットプレートHCと、吸気口ICと、排気口ECとを有する。チャンバCCの構成については、除去装置5AのチャンバCAとほぼ同様である。
ホットプレートHCは、チャンバCC内において上下方向に多段に配置される。ホットプレートHCは、チャンバCCに収容された基板40及び保持膜61を加熱する加熱部である。各ホットプレートHCは、基板40及び保持膜61を支持する複数の(例えば3本の)支持ピンPCを有する。支持ピンPCは、保持具60のリング62の下面に当接するように配置されている。支持ピンPCは、上下方向に移動可能であってもよい。支持ピンPBで基板40及び保持膜61を支持することにより、基板40及び保持膜61がホットプレートHCにより直接接触することを防止できる。各ホットプレートHCの温度は適宜制御されており、複数のホットプレートHCが同一温度に設定されてもよいし、異なる温度に設定されてもよい。
除去装置5Cでは、ホットプレートHCの熱により各基板40及び保持膜61が加熱され、基板40及び保持膜61に付着又は浸透している液体が気化してチャンバCC内に放出される。チャンバCC内に放出された液体は、除去装置5Aと同様に、排気口ECを介してチャンバCCの外部に排出される。
図7に示す除去装置5Dは、チャンバCDと、支持部SDと、減圧部RDとを有する。除去装置5Dは、除去装置5Aから5Cが備える加熱部に代えて減圧部RDが設けられた構成である。チャンバCDには、吸気部が設けられておらず、底部に排気口EDが設けられる。チャンバCDの側面には、基板40及び保持膜61を搬入及び搬出するための不図示の開口部が設けられており、この開口部を開閉可能なシャッタが設けられてもよい。
チャンバCD内には、複数の支持部SDが上下方向に多段に設けられている。支持部SDは、基板40及び保持膜61を支持する複数の支持ピンPDを有する。支持ピンPDは、保持具60のリング62の下面に当接するように配置されている。支持ピンPDは、上下方向に移動可能であってもよい。支持ピンPDで基板40及び保持膜61を支持することにより、複数の基板40及び保持膜61を上下方向に多段に支持する。
減圧部RDは、基板40及び保持膜61が配置されるチャンバCD内を減圧する。減圧部RDは、排気口EDに接続される配管RDaと、配管RDaに接続される吸引ポンプRDbとを有する。減圧部RDは、吸引ポンプRDbを駆動することにより、チャンバCD内の空気を吸引し、その結果、チャンバCD内が減圧される。チャンバCD内を減圧することにより、基板40及び保持膜61に付着又は浸透している液体が気化してチャンバCD内に放出される。チャンバCD内に放出された液体は、排気口ED及び配管PDaを介してチャンバCDの外部に排出される。
<搬送装置>
図1に戻り、積層体処理システム1は、搬送装置6を備える。搬送装置6は、積層体処理システム1内において、支持体剥離装置3と洗浄装置4との間、及び洗浄装置4と除去装置5との間で積層体50、50A、50Bを搬送する。搬送装置6は、例えば、ガイドあるいはレールに沿って移動する本体部と、この本体部に設けられたロボットアームあるいはマニュピレータ等とを備える。搬送装置6は、ロボットアーム等により保持具60のリング62を把持あるいは吸着した状態で基板40及び保持膜61を搬送する。なお、搬送装置6の構成は任意であり、上記した構成に限定されない。また、搬送装置6は、積層体形成装置2で形成された積層体50、50A、50Bを、支持体剥離装置3に搬送する。
なお、上記した各装置の動作については、後述する積層体処理方法においても説明している。
<積層体処理方法>
次に、本実施形態に係る積層体処理方法について説明する。図8は、実施形態に関する積層体処理方法の一例を示すフローチャートである。この積層体処理方法は、上記した積層体処理システム1を用いて行うことができる。図8に示すように、積層体処理方法は、支持体剥離工程S01と、洗浄工程S02と、乾燥工程S03と、除去工程S04と、冷却工程S05と、を含む。以下の例では、接着層30を含む積層体50(図2(A)参照)を例に挙げて説明するが、接着層30を含まない積層体50A、他の例に係る積層体50Bにおいても同様の説明が可能である。なお、支持体剥離工程S01に先立って、積層体形成工程S11が行われる。積層体形成工程S11では、例えば、積層体形成装置2(図1参照)により上記した積層体50等が形成される。
(支持体剥離工程)
支持体剥離工程S01は、積層体50に対して、光を照射することで反応層20を変質させる光照射工程と、反応層20を変質させた状態で基板40を支持体10から剥離させる剥離工程とを含む。光照射工程は、支持体剥離装置3の光照射ユニット3A、3Bにおいて行う。図9は、光照射ユニット及び光照射工程の一例を示し、図9(A)は、積層体50の全面に光を照射する場合の図、図9(B)は積層体50に対して光を走査する場合の図である。なお、光照射ユニット3A、3Bへの積層体50の搬送は、搬送装置6により行う。積層体50は、予め光照射ユニット3Aの載置台2aに載置された保持具60上に搬送装置6により搬送され、搬送装置6によって保持具60に載置されることにより保持膜61に貼り付けられる。光照射ユニット3Aは、載置台2a上の保持具60を真空吸着等により固定する。保持具60には積層体50が貼り付けられているため、積層体50は、載置台2aに保持された状態となる。
図9(A)に示すように、光照射ユニット3Aは、載置台2aに保持された積層体50に対して、基板40と反対側から、つまり支持体10の底面10bから反応層20に対して、照射装置2bにより光Lを照射する。照射装置2bは、上記したように、反応層20を変質させることが可能な波長の光Lを照射する。光照射工程により、反応層20が変質して変質層(あるいは変質部)20bが形成される(図10(A)等参照)。変質層20bは、強度又は支持体10に対する接着力が反応層20と比べて低下している。なお、図9(A)に示すように、変質層20bは、深さ方向の全体にわたって形成される必要はなく、反応層20のうち少なくとも支持体10に接している領域に形成されていればよい。図9(A)では、反応層20のうち支持体10に接する一部の領域に変質層20bが形成される場合の例を示している。
照射装置2bは、積層体50の全面に光Lを照射するように、不図示の光学素子を備えている。照射装置2bは、反応層20の全面に対して光Lを照射可能な構成とすることができるが、この構成に限定されない。例えば、照射装置2bは、積層体50の全面ではなく、積層体50の全面に対して数分の1などの面積に光Lを照射し、光Lの照射位置をステップさせて積層体50の全面に光Lを照射する手法が用いられてもよい。また、図9(B)に示す光照射ユニット3Bように、例えば、積層体50の表面に光Lとしてスポット光を照射可能な照射装置2cが用いられてもよい。照射装置2cは、スポット光である光Lと積層体50とを相対的に移動させることにより、反応層20の全面にわたって光Lを走査して照射することができる。図9(B)では、照射装置2cからの光Lを揺動させることにより光Lを走査する構成を例に挙げているが、この構成に限定されない。例えば、照射装置2cは、光Lをスライドさせて走査する構成であってもよいし、ガルバノミラー等の光学素子を用いることにより光Lを走査する構成であってもよい。
光照射工程を行った後、反応層20に変質層20bが形成された積層体50に対して、剥離ユニット3Cにより剥離工程を行う。剥離工程は、光照射工程後に積層体50を搬送せずに、同一のチャンバ内において基板40を支持体10から剥離させる。図10は、剥離ユニット3C及び剥離工程の一例を示し、図10(A)は支持体10を剥離する前の図、図10(B)は支持体10を剥離した後の図である。
剥離工程では、載置台2aに保持具60を固定した状態で、図10(A)に示すように、支持体10のうち反応層形成面10aとは反対側の底面10bを吸着装置70により真空吸着する。この状態で吸着装置70を上方に移動させることにより、図10(B)に示すように、反応層20を分離面として、基板40から支持体10が持ち上げられる。反応層20内の変質層20bは、光Lの照射により強度が低下しており、あるいは接着力が低下しており、吸着装置70の上方への移動により、容易に破壊され、あるいは接着面が容易に剥がれることになる。その結果、支持体10は、基板40から容易に剥離される。剥離工程により、支持体10が積層体50の反応層20から剥離される。
剥離工程を行った後、支持体10が剥離された基板40は、保持具60に保持されたまま、搬送装置6により、剥離ユニット3Cから洗浄装置4に搬送する搬送工程を行う。なお、光照射ユニット3A、3Bと剥離ユニット3Cとは別のユニットであってもよい。すなわち、光照射工程後、搬送装置6により光照射ユニット3A、3Bから剥離ユニット3Cに積層体50が搬送されて、剥離ユニット3Cにより剥離工程が行われてもよい。
(洗浄工程)
洗浄工程S02は、支持体10から剥離された基板40を液体により洗浄する。図11は、洗浄装置4及び洗浄工程S02の一例を示し、図11(A)は液体により基板40及び保持膜61を洗浄している状態の図、図11(B)は洗浄工程S02後の基板40及び保持膜61を示す図である。
図11(A)に示すように、洗浄工程S02では、まず、基板40よりも面積が大きな支持台4aにより基板40の下面側を、保持膜61を介して吸着する。なお、支持台4aで基板40を吸着した後、保持具60のリング62の上面を支持部4bで押さえつつ、支持台4aを持ち上げることにより、リング62に対して基板40が上方に突出した状態としてもよい。この場合、保持膜61が弾性変形して延びるため、基板40を容易にリング62の上方に突出させることができ、保持膜61上に滞留する洗浄液R1、R2を容易にリング62の下方に排出できる。
続いて、基板40を吸着した状態で、洗浄液ノズル4cから洗浄液R1を反応層20に対して吐出する。洗浄液R1は、上記したように、例えば、反応層20を剥離させる液体である。洗浄液ノズル4cから吐出された洗浄液R1は、反応層20を剥離しながら保持膜61側に流れ、リング62から落下する。リング62から落下した洗浄液R1は、不図示の回収部により回収されて処理される。
洗浄液R1により、接着層30上の反応層20が除去される。また、反応層20のうちの変質層20bは、洗浄液R1によって流されて大半が基板40上から除去される。続いて、洗浄液ノズル4cを切り替えて、又は別の洗浄装置4に基板40を搬送して、洗浄液ノズル4cから洗浄液R2を接着層30に対して吐出する。洗浄液R2は、上記したように、例えば、接着層30を溶解させる液体である。洗浄液ノズル4cから吐出された洗浄液R2は、接着層30を溶解しながら保持膜61側に流れ、リング62から落下する。リング62から落下した洗浄液R2は、不図示の回収部により回収されて処理される。この場合、洗浄液R2の流れによって、接着層30に残留していた変質層20bの一部は、洗浄液R2の流れによって基板40上から除去される。また、洗浄装置4において、接着層30を溶解させる洗浄液R2のみを洗浄液ノズル4cから吐出させてもよい。この場合、接着層30が洗浄液R2により溶解されることで、接着層30上の反応層20(変質層20bを含む)も洗浄液R2の流れによって基板40上から除去される。
(乾燥工程)
洗浄工程S02を行った後には、図11(B)に示すように、基板40及び保持膜61に洗浄液R1が付着又は浸透する場合がある。そこで、基板40及び保持膜61に付着又は浸透した洗浄液R1を除去するため、洗浄工程S02を行った後、基板40及び保持膜61を乾燥させる乾燥工程S03を行う。乾燥工程S03は、洗浄装置4内において吸着部4aを回転させて、保持具60を回転させることにより行う。保持具60の回転により基板40及び保持膜61はスピン乾燥される。この場合、洗浄装置4内を排気しながら(外気を導入しながら)乾燥工程S03を行ってもよい。また、基板40を洗浄装置4から除去装置5に搬送する搬送工程において、基板40及び保持膜61を乾燥させる乾燥工程S03を行ってもよい。例えば、搬送装置6により基板40及び保持膜61を搬送する過程において、基板40及び保持膜61を自然乾燥させてもよい。なお、乾燥工程S03は、なくてもよい。
(除去工程)
洗浄工程S02又は乾燥工程S03の後、除去工程S04を行う。除去工程S04は、基板40及び保持膜61に付着又は浸透している洗浄液R1、R2を除去する。図12は、除去装置5及び除去工程S04の一例を示す。以下の説明では、除去装置5として、図4に示す除去装置5Aを例に挙げているが、図5、図6、図7にそれぞれ示す除去装置5B、5C、5Dを用いても同様の説明が可能である。図12では、除去装置5Aにおいて、複数の支持部SAのうちの1つについて示している。図12(A)は基板40及び保持膜61を支持ピンPB上に載置する状態の図、図12(B)は基板40及び保持膜61を加熱している状態を示す図である。
図12(A)に示すように、除去工程S04では、まず、搬送装置6により、基板40及び保持膜61がチャンバCA内の支持ピンPA上に載置される。基板40及び保持膜61の搬入時には、チャンバCAの側面に備えるシャッタが開いている。また、基板40及び保持膜61の搬入時に支持ピンPAを予め下げた状態としてもよい。支持ピンPAが下がっているので、基板40及び保持膜61を搬送装置6により搬入する際に、基板40又は保持膜61が支持ピンPAと干渉するのを防止できる。この場合、下がった支持ピンPAを基板40及び保持膜61の搬入後に上昇させ、基板40及び保持膜61に当接した後に、搬送装置6による基板40及び保持膜61の保持を解放させてもよい。
搬送装置6は、チャンバCA内の上下方向に多段に配置される支持部SAにおいて、順次、支持ピンPA上に基板40及び保持膜61を載置する。なお、支持部SAの全て又は一部に基板40及び保持膜61が載置される前からヒータHA及びファンFA(図4参照)は駆動されており、チャンバCA内を所望の温度に維持している。ヒータHAによりチャンバCA内が高温となっているので、図12(B)に示すように、基板40及び保持膜61が加熱される。なお、チャンバCA内の温度は、例えば基板40及び保持膜61の耐熱温度以下に設定される。基板40及び保持膜61が加熱されることにより、基板40及び保持膜61に付着又は浸透していた洗浄液R1、R2が気化してチャンバCA内に放出される。その結果、基板40及び保持膜61から洗浄液R1、R2が除去される。チャンバCA内に放出された洗浄液R1、R2は、例えば排気口EA(図4参照)からチャンバCBの外部に排出される。
除去工程S04において基板40及び保持膜61に付着又は浸透している洗浄液R1、R2を除去するので、保持膜61に洗浄液R1、R2が浸透して膨潤することを抑制し、保持膜61が延びて基板40が下方に突出することを防止できる。その結果、例えば、除去工程S04の基板40及び保持膜61を保管用又は搬送用のカセット等の容器に収容する場合、下方に突出した基板40がカセット等に接触して破損するのを回避できる。
(冷却工程)
除去工程S04を行った後、基板40及び保持膜61を冷却するため、搬送装置6により、除去装置5から積層体処理システム1に設けられる冷却装置7(図14等参照)に、基板40及び保持膜61が搬送される。冷却工程S05は、除去工程S04で加熱された基板40及び保持膜61を冷却する。冷却工程S05は、積層体処理システム1に設けられる冷却装置7(図14等参照)において行う。冷却装置7は、例えばチャンバ内において、複数の基板40及び保持膜61を上下方向に多段に配置した状態で冷却を行う。冷却装置7のチャンバ内は、例えば室温に設定されるが、室温以下であってもよいし、室温以上であってもよい。さらに、冷却装置7のチャンバ内で空気が循環又は外部と流通するようにファンが設けられてもよい。
冷却工程S05を行った後、基板40及び保持具60は、搬送装置6により積層体処理システム1の回収カセット等に搬送される。回収カセット等に搬送された基板40及び保持具60は、一例として、以下に示す切断工程S12、分離工程S13が行われる。図13(A)は、切断工程S12の一例を示し、切断装置80により基板40を切断する状態を示す図である。
図13(A)に示すように、例えば、切断工程S12では、切断装置80を用いて、支持台81に載置された基板40を、例えばワイヤーソーなどのダイシングソー82により所定のダイシングラインDLに沿って基板40を切断する。ダイシングラインDLは、基板40における複数の電子部品に対応して予め設定されている。また、ダイシングソー82は、保持膜61を切断しないように切断高さが調整される。その結果、基板40が切断されて、保持膜61に保持された状態で複数の電子装置100が形成される。なお、図2(C)に示す基板140においては、電子部品141ごとに切断されて複数の電子装置100が形成される。
切断工程S12を行った後、保持膜61に保持された電子装置100を保持膜61から分離する分離工程S13を行う。分離工程S13は、切断装置80を含むユニットにより行ってもよいし、切断装置80と異なるユニットで行ってもよい。図13(B)に示すように、分離工程S13では、保持具60のリング62を保持しながら支持台81を上昇させ、保持膜61を拡げて電子装置100同士の間隔が拡げる。この状態で、不図示のピックアップ装置等により1つ又は複数の電子装置100を把持して持ち上げることにより、電子装置100を保持膜61から引き剥がすことができる。その結果、個々の電子装置100が得られる。
以上のように、本実施形態に係る積層体処理システム1及び積層体処理方法によれば、洗浄工程S02後において基板40及び保持膜61に付着又は浸透している洗浄液R1、R2を、除去装置5による除去工程S04において除去することにより、保持膜61に洗浄液R1、R2が浸透して膨潤することを抑制できる。その結果、保持膜61が延びて基板40が下方に突出することを防止し、搬送装置6により基板40及び保持膜61を搬送する際に基板40が他と接触することを防止できる。また、基板40及び保持膜61から洗浄液R1、R2を除去することで、洗浄液R1、R2に起因する臭気等が抑制されるため、基板40及び保持膜61の搬送領域などを含む周辺環境の汚損を抑制できる。
<積層体処理システムのユニットの配置>
図14は、積層体処理システム1の各ユニットの配置の一例を示す図である。図14では、XYZ座標系を用いて図中の方向を説明する。このXYZ座標系において、鉛直方向をZ方向とし、水平方向をX方向及びY方向とする。また、X、Y、Z方向の各方向について、矢印が指す方向を+方向(例えば、+X方向)と称し、その反対方向を-方向(例えば、-X方向)と称する。図14に示す積層体処理システム1は、接着層30を含む積層体50(図2(A)参照)を処理対象としているが、接着層30を含まない積層体50A(図2(B)参照)を処理対象とする場合も同様である。積層体処理システム1は、上述した支持体剥離装置3と、洗浄装置4と、除去装置5と、搬送装置6と、冷却装置7とを有する。また、積層体処理システム1は、複数の積層体50又は基板40を収容する容器(例えば、ダイシングフレームカセットなど)を載置するロードポート9と、剥離した支持体10を搬出入又は一時保管するロードポート8とを有する。
積層体処理システム1は、その全体が平面視において一方向(Y方向)に長い長方形状の範囲に収められている。積層体処理システム1内において、+X側には、+Y方向に向けて、支持体剥離装置3(1ユニットとしての光照射ユニット3A(3B)及び剥離ユニット3C)、及び洗浄装置4の洗浄装置4Bが配置される。洗浄装置4Bは、基板40上の接着層30の除去を行う。また、積層体処理システム1内において、-X側には、+Y方向に向けて、制御基盤等が収容される制御装置CON、及び2台の洗浄装置4としての洗浄装置4A、4Bが配置される。洗浄装置4Aは、基板40上の反応層20の除去を行う。また、制御装置CONの-X側には、除去装置5が配置される。
支持体剥離装置3(光照射ユニット3A及び剥離ユニット3C)は、積層体処理システム1内の+X側において、平面視で洗浄装置4Bよりロードポート8側に配置される。洗浄装置4は、積層体処理システム1内の+X側に洗浄装置4Bが1台配置され、-X側に洗浄装置4A、4Bがそれぞれ1台配置される。この場合、上記した洗浄工程S02において接着層30の除去に時間がかかるので、2台の洗浄装置4Bを交互に用いることにより、処理効率を向上できる。また、2台の洗浄装置4Bのうちの1台をメインとして用い、残りをメインの故障時等に用いるサブとして用いてもよい。
積層体処理システム1において、-Y側には、ロードポート8、9が配置されている。ロードポート8、9は、積層体処理システム1の-Y側において、X方向に並んで配置されている。搬送装置6は、積層体50又は基板40を搬送する搬送機構6aと、搬送機構6aの移動経路である搬送路6bとを有する。搬送機構6aは、搬送路6bに設けられた不図示のレール等により、各ユニットの間、又はロードポート8、9と各ユニットとの間を移動可能となっている。搬送機構6aは、積層体50又は基板40を保持可能な不図示のロボットアーム等を有する。搬送路6bは、積層体処理システム1内において、-Y側でX方向に設けられ、+X側のユニットの列と-X側のユニットの列との間でY方向に設けられている。搬送路6bは、L型に形成されている。搬送機構6aは、搬送路6bを移動して、各ユニットの間、又はロードポート8、9と各ユニットとの間で積層体50又は基板40の受け渡しを行う。なお、搬送路6bの+X側には、冷却装置7が配置される。
このように構成された積層体処理システム1によれば、搬送装置6により積層体50(基板40及び保持膜61)を各ユニットに効率よく搬送するので、上記した支持体剥離工程S01、洗浄工程S02、乾燥工程S03、除去工程S04、及び冷却工程S05の各工程を効率よく行うことができる。
上記した実施形態に係る積層体処理方法により、基板40及び保持膜61に付着又は浸透した洗浄液R1(R2)を除去した後、基板40及び保持膜61における洗浄液R1(R2)の臭気を測定した。洗浄工程S02で用いる洗浄液R1(R2)として、上記したHCシンナーを用いた。まず、上記の除去装置5Cにおいて上から2段目のホットプレートHCの支持ピンPCに基板40及び保持膜61を支持させて加熱を行った。ホットプレートHCの加熱温度は、60℃とした。その結果、洗浄工程S02前の状態を0とすると、洗浄液R1(R2)を除去する前には臭気が453(単位は相対値)であったのに対して、洗浄液R1(R2)を除去した後には臭気が26(相対値)まで低減した。
次に、上記の除去装置5Cにおいて、上から4段目のホットプレートHCの支持ピンPCには、洗浄工程S02を行わない基板40を載置した。また、上から2段目及び3段目のホットプレートHCの支持ピンPCには、洗浄工程S02を行った後の基板40及び保持膜61を配置した。この状態で、ホットプレートHCの加熱温度を60℃として加熱を行った。その後、洗浄工程S02を行わない基板40の臭気を測定した結果、この基板40の臭気の値は0(相対値)であった。従って、除去装置5Cにおいて洗浄工程S02を行った後の基板40及び保持膜61を複数配置した場合、複数の基板40及び保持膜61同士の間で臭気の影響は認められなかった。
次に、上記実施形態における除去装置5Aと除去装置5Cとにおいて、複数の基板40及び保持膜61を、ヒータHA及びホットプレートHCの加熱温度を60℃として加熱し、15分経過時、25分経過時、30分経過時の臭気をそれぞれ測定した。その結果、洗浄工程S02前の状態を0とすると、除去装置5Aについては、加熱前の臭気が431(相対値)、15分経過時の臭気が190(相対値)、25分経過時の臭気が106(相対値)、30分経過時の臭気が56(相対値)であった。また、除去装置5Cについては、加熱前の臭気が407(相対値)、15分経過時の臭気が188(相対値)、25分経過時の臭気が153(相対値)、30分経過時の臭気が107(相対値)であった。従って、除去装置5A及び除去装置5Cのいずれを用いた場合でも、臭気が低減することが確認された。
以上、実施形態及び実施例について説明したが、本発明は、上述した説明に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。例えば、切断工程S12及び分離工程S13を行う切断装置80を上記した積層体処理システム1が含んでいてもよいし、切断装置80が積層体処理システム1に接続されて配置されていてもよい。