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JP7087740B2 - 炭素繊維束の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、炭素繊維束の製造方法に関する。
従来、炭素繊維束の製造方法として、アクリル繊維などからなる炭素繊維前駆体アクリル繊維束(以下、「前駆体繊維束」とも表記する。)を200℃以上400℃以下の酸化性雰囲気下で加熱処理することにより耐炎化繊維束に転換する工程(以下、「耐炎化工程」とも表記する。)、引き続いて1000℃以上の不活性雰囲気下で炭素化処理する工程(以下「炭素化工程」とも表記する。また「耐炎化工程」と「炭素化工程」を併せて焼成工程とも表記する。)を経て、炭素繊維束を得る方法が知られている。
前駆体繊維束から炭素繊維束を製造する際、耐炎化工程ではシート状に並べた多数本の繊維束が、ロールを介して折り返され、走行方向を180度変更しながら耐炎化炉内を複数段で通過する。この走行方向の変更時に、フィラメントのロールへの巻き付きや隣接する繊維束同士の干渉等により、最終的に得られる炭素繊維束の機械的特性及び品質の低下を引き起こす場合がある。かかるフィラメントのロールへの巻付きや隣接する繊維束同士の干渉を防止するため、多数本のフィラメントにより構成される一本の繊維束がばらけることなくまとまった状態であることが必要であり、このまとまった状態を維持するための様々な検討がこれまでなされてきた。
前駆体繊維束をまとまった状態とする手段として、従来から交絡処理(前駆体繊維束を構成するフィラメント同士を該繊維束内で絡み合わせる処理)を行い、該繊維束がまとまった状態を維持する手段が提案されている。例えば特許文献1では1段、或いは多段で配置したエアを噴出する扁平矩形断面形状の交絡器に前駆体繊維束を連続的に走行させて該繊維束に交絡処理を施し、該繊維束をまとまった状態で維持する手段が提案されている。
上述の方法で得られた前駆体繊維束を焼成工程に通して得られた炭素繊維束は、優れた機械的特性を有することにより、特に複合材料、例えばシートモールディングコンパウンド(以下、SMCという。)用の強化繊維として工業的に広く利用されている。SMCとは、金型内で加熱加圧されると、補強繊維と樹脂組成物とが一体として流動してキャビティを充填するので、部分的に肉厚の異なるもの、リブ・ボスを有するものなど各種形状の成形品を得るのに有利な中間材料である。一方、SMC中の炭素繊維束は繊維長が短く、その配向がランダムであることから、機械的強度を高くできないという難点があった。さらに、機械的強度は場所によるむらが大きいという難点があった。また、非特許文献1には、炭素繊維束のフィラメント数が増えるほど、SMC成形品の強度と弾性率が低下することが示されている。
そこで、太物繊維束を細かく分割して使用する検討がなされている。特許文献2には、フィラメント数が48000(48K)の炭素繊維束を、ふくらみ(crown)のある拡幅棒(spreading bar)と溝(groove)付きの分割棒(splitting bar)を通過させることで、フィラメント数が数千単位の細い炭素繊維束(split tow)に分割する装置が開示されている。
また、特許文献3には、連続した炭素繊維束に張力をかけながら連続走行させ走行途中に配した拡幅冶具で該炭素繊維束を拡幅すると同時に、または、拡幅した後、拡幅状態の炭素繊維束を、該繊維束の走行方向と平行に回転する切断刃により一部の炭素繊維フィラメントを切断しながら炭素繊維束を分割する炭素繊維束の分割方法が開示されている。
しかし、特許文献1のような交絡処理を行って得られた炭素繊維束は、該繊維束を構成するフィラメント同士の絡み合いが強く、特許文献2に記載のように太物繊維束を細かく分割することが出来ず、また特許文献3に記載のように該繊維束を拡幅することも出来ず、結果として高性能なSMC成形品を得ることは困難であった。また、大きな外力を作用させて該繊維束を分割、或いは拡幅しようとすると、絡み合うフィラメントが切断され毛羽となりSMC成形品の品位が低下した。
特開2002-294517号公報 米国特許第6385828号公報 特開2006-219780号公報
N. Tsuchiyama, "The Mechanical Properties of Carbon Fiber SMC", Proceedings of the Fourth International Conference on Composite Materials (ICCM-IV), 1982, p.497-503
本発明は、これら従来技術の課題に鑑み、高性能なSMCを得るのに好適な、すなわち20~50mmの長さに切断することによってフィラメント数が1万本以下の細かい炭素繊維束(分割繊維束)に分割される、炭素繊維束の製造方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明は、以下の特徴有する。
[1] 撚りのない状態で測定したフックドロップ値が15cm以上であるアクリル繊維束を焼成工程に供給して炭素繊維束を製造する炭素繊維束の製造方法であって、前記アクリル繊維束に1ターン/m以上10ターン/m以下の撚りを加えてから焼成工程に供給する炭素繊維束の製造方法。
[2]前記アクリル繊維束に1ターン/m以上10ターン/m以下の撚りを加える方法が、撚りのない状態で前記炭素繊維前駆体アクリル繊維束を梱包パッケージに収納し、その梱包パッケージから引き出しながら前記梱包パッケージを回転させて前記炭素繊維前駆体アクリル繊維束に1ターン/m以上10ターン/m以下の撚りを加える、[1]に記載の炭素繊維束の製造方法。
[3]前記アクリル繊維束の梱包パッケージがボビン巻であり、撚りのない状態でアクリル繊維束をボビンに巻き付けられた前記アクリル繊維束を前記ボビン巻から解舒しながら前記ボビン巻を回転させて前記アクリル繊維束に1ターン/m以上10ターン/m以下の撚りを加える、[1]に記載の炭素繊維の製造方法。
本発明によれば、アクリル繊維束に撚りを加えることで、フィラメント同士の絡み合いが少なくても繊維束がまとまった状態で安定的に焼成工程を通過することが出来る。加えて、本発明の製造方法で得られた炭素繊維束は、SMC製造工程において炭素繊維束の拡幅、分割が極めて容易であり、高性能なSMC成形品を安定的に製造することができる。
本発明によって製造される炭素繊維束をSMCに加工する装置の一例である。 本発明によって製造される炭素繊維束をSMCに加工する際に炭素繊維束を短く切断するために用いるローピンクカッターの一例である。
以下、本発明の望ましい実施の形態を説明する。
(前駆体繊維束)
本発明の一態様において用いる前駆体繊維束としては、公知技術により紡糸されたアクリル繊維束を用いることができる。具体的には、アクリロニトリル系重合体を紡糸して得られるアクリル繊維束が挙げられる。
アクリロニトリル系重合体は、アクリロニトリルを主な単量体とし、これを重合して得られる重合体である。アクリロニトリル系重合体は、アクリロニトリルのみから得られるホモポリマーであってもよく、主成分であるアクリロニトリルに加えて他の単量体を併用したアクリロニトリル系共重合体であってもよい。
アクリロニトリル系共重合体におけるアクリロニトリル単位の含有量は、96.0質量%以上98.5質量%以下であることが焼成工程での繊維の熱融着防止、共重合体の耐熱性、紡糸原液の安定性、および炭素繊維にした際の品質の観点でより好ましい。アクリロニトリル単位が96.0質量%以上の場合は、炭素繊維に転換する際の焼成工程で繊維の熱融着を招くことなく、炭素繊維の優れた品質および性能を維持できるので好ましい。また、共重合体自体の耐熱性が低くなることもなく、前駆体繊維を紡糸する際、繊維の乾燥あるいは加熱ローラーや加圧水蒸気による延伸のような工程において、単繊維間の接着を回避できる。一方、アクリロニトリル単位が98.5質量%以下の場合には、溶剤への溶解性が低下することもなく、紡糸原液の安定性を維持できると共に共重合体の析出凝固性が高くならず、前駆体繊維の安定した製造が可能となるので好ましい。
共重合体を用いる場合のアクリロニトリル以外の単量体としては、アクリロニトリルと共重合可能なビニル系単量体から適宣選択することができ、耐炎化反応を促進する作用を有するアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、または、これらのアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩、アクリルアミド等の単量体から選択すると、耐炎化を促進できるので好ましい。
アクリロニトリルと共重合可能なビニル系単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸等のカルボキシル基含有ビニル系単量体がより好ましい。アクリロニトリル系共重合体におけるカルボキシル基含有ビニル系単量体単位の含有量は0.5質量%以上2.0質量%以下が好ましい。これらビニル系単量体は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
紡糸の際には、アクリロニトリル系重合体を溶剤に溶解し、紡糸原液とする。このときの溶剤には、ジメチルアセトアミドあるいはジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等の有機溶剤、または塩化亜鉛やチオシアン酸ナトリウム等の無機化合物水溶液等、公知のものから適宜選択して使用することができる。これらの中でも、生産性向上の観点から凝固速度が早いジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドおよびジメチルホルムアミドが好ましく、ジメチルアセトアミドがより好ましい。
また、緻密な凝固糸を得るためには、紡糸原液の重合体濃度がある程度以上になるように紡糸原液を調製することが好ましい。具体的には、紡糸原液中の重合体濃度が17質量%以上になるように調製することが好ましく、より好ましくは19質量%以上である。なお、紡糸原液は適正な粘度・流動性を必要とするため、重合体濃度は25質量%を超えない範囲が好ましい。
紡糸方法は、上述した紡糸原液を直接凝固浴中に紡出する湿式紡糸法、空気中で凝固する乾式紡糸法、および一旦空気中に紡出した後に浴中凝固させる乾湿式紡糸法など公知の紡糸方法を適宜採用できるが、より高い性能を有する炭素繊維束を得るには湿式紡糸法または乾湿式紡糸法が好ましい。
湿式紡糸法または乾湿式紡糸法による紡糸賦形は、紡糸原液を円形断面の孔を有するノズルより凝固浴中に紡出することで行うことができる。凝固浴としては、紡糸原液に用いられる溶剤を含む水溶液を用いるのが溶剤回収の容易さの観点から好ましい。
紡糸方法は、上述した紡糸原液を直接凝固浴中に紡出する湿式紡糸法、空気中で凝固する乾式紡糸法、および一旦空気中に紡出した後に浴中凝固させる乾湿式紡糸法など公知の紡糸方法を適宜採用できるが、より高い性能を有する炭素繊維束を得るには湿式紡糸法または乾湿式紡糸法が好ましい。
湿式紡糸法または乾湿式紡糸法による紡糸賦形は、紡糸原液を円形断面の孔を有するノズルより凝固浴中に紡出することで行うことができる。凝固浴としては、紡糸原液に用いられる溶剤を含む水溶液を用いるのが溶剤回収の容易さの観点から好ましい。
凝固浴として溶剤を含む水溶液を用いる場合、水溶液中の溶剤濃度は、ボイドがなく緻密な構造を形成させ高性能な炭素繊維束を得られ、かつ延伸性が確保でき生産性に優れる等の理由から、50質量%以上85質量%以下、凝固浴の温度は10℃以上60℃以下が好ましい。
重合体あるいは共重合体を溶剤に溶解し、紡糸原液として凝固浴中に吐出して繊維化して得た凝固糸には、凝固浴中または延伸浴中で延伸する浴中延伸を行うことができる。あるいは、一部空中延伸した後に、浴中延伸してもよく、延伸の前後あるいは延伸と同時に水洗を行って水膨潤状態の前駆体繊維束を得ることができる。
浴中延伸は、通常50℃以上98℃以下の水浴中で1回あるいは2回以上の多段に分割するなどして行い、空中延伸と浴中延伸の合計倍率が2倍以上10倍以下になるように凝固糸を延伸するのが、得られる炭素繊維束の性能の点から好ましい。
浴中延伸した凝固糸(水膨潤状態の前駆体繊維束)への油剤の付与には、油剤を含有する油剤組成物が水中に分散している、炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤処理液(以下、単に「油剤処理液」とも表記する。)を用いるのが好ましい。分散している油剤組成物の平均粒子径は、0.01μm以上0.3μm以下が好ましい。
分散している油剤組成物の平均粒子径が上記範囲内であれば、前駆体繊維束の表面に油剤をより均一に付与できる。
油剤が付与された水膨潤状態の前駆体繊維束は、続く乾燥工程で乾燥緻密化される。
乾燥緻密化は、乾燥緻密化する繊維束のガラス転移温度を超えた温度で行う必要があるが、乾燥緻密化する繊維束が含水状態の場合と乾燥状態の場合とではガラス転移温度が異なる。例えば温度が100℃以上200℃以下の加熱ローラーによる方法にて緻密乾燥化するのが好ましい。このとき加熱ローラーの個数は、1個でもよく、複数個でもよい。
緻密乾燥化した繊維束には、加圧水蒸気延伸処理を施すのが好ましい。該加圧水蒸気延伸処理により、得られる前駆体繊維束の緻密性や配向度をさらに高めることができる。
ここで、加圧水蒸気延伸処理とは、加圧水蒸気雰囲気中で行う繊維束の延伸である。加圧水蒸気延伸処理は、高倍率の延伸が可能であることから、より高速で安定な紡糸が行えると同時に、得られる繊維の緻密性や配向度向上にも寄与する。
加圧水蒸気延伸処理においては、加圧水蒸気延伸装置直前の加熱ローラーの温度を120℃以上190℃以下、加圧水蒸気延伸における水蒸気圧力の変動率を0.5%以下に制御することが好ましい。このように加熱ローラーの温度および水蒸気圧力の変動率を制御することにより、微小区間における延伸倍率の変動、およびそれによって発生する微小区間における繊維束総繊度の変動を抑制することができる。加熱ローラーの温度が120℃未満では加圧水蒸気延伸処理を行う繊維束の温度が十分に上がらず延伸性が低下しやすくなる。
乾燥緻密化して得られた前駆体繊維束、または乾燥緻密化の後に加圧水蒸気延伸処理をして得られた前駆体繊維束には交絡処理を施すことが好ましい。交絡処理では、前駆体繊維束を溝ガイドもしくは、溝付きロールに導き幅を一定にして、空気を噴出する扁平矩形断面形状の交絡装置に撚りのない状態で通して、交絡が付与される。
溝ガイド、溝付きロール、交絡装置の材質は特に限定はされないが、耐久性およびコストを考慮すれば、ステンレス、チタン、セラミック等が好ましい。更に、溝付きロールと前駆体繊維束との擦過による性能低下を軽減するために、メッキ加工を施したものが好ましい。
交絡が付与された前駆体繊維束はワインダーでボビンに巻き取られる、あるいはケンスに振込まれて収納される。
本発明に用いるアクリル繊維束の、撚りのない状態で測定したフックドロップ値は15cm以上であることが好ましい。フックドロップ値が15cm以上であれば最終的なSMC成形品において十分な機械的特性が得られ、より好ましくは20cm以上、更に好ましくは25cm以上であることがよい。
本発明に用いるアクリル繊維束は、炭素繊維束に転換する際の生産性の観点から、総繊度が10000dtex以上、100000dtex以下であることが好ましく、SMC製造工程での生産性の観点から30000dtex以上100000dtex以下であることがより好ましく、50000dtex以上100000dtex以下であることが更に好ましい。
またアクリル繊維束の梱包パッケージとしては特に限定するものではないが、生産性の観点からボビンにアクリル繊維束を撚りのない状態で巻きつけた形態、或いは開口部を有する容器にアクリル繊維束を撚りのない状態で投入した形態であることが好ましい。一つの梱包パッケージに梱包されたアクリル繊維束は1束であってもよく、2束以上であってもよい。
本発明の一態様においてアクリル繊維束は、梱包パッケージから引き出され、焼成工程へと移され、耐炎化処理、炭素化処理、必要に応じて黒鉛化処理、表面処理、サイジング処理を施し、炭素繊維束となる。
撚りのない状態のアクリル繊維束を梱包パッケージから引き出し、焼成工程へ供給する際、1ターン/m以上10ターン/m以下の撚りを加えることが好ましく、更に好ましくは2ターン/m以上5ターン/m以下であることが好ましい。1ターン/m以上の撚りであれば、繊維束がばらけることなくまとまった状態で焼成工程を通過することが出来、品位の高い炭素繊維束が得られる。また、10ターン/m以下の撚りであれば、耐炎化工程における酸化処理を斑なく行うことが出来、得られる炭素繊維束の機械的特性が良好なものとなる。
本発明に用いるアクリル繊維束の梱包パッケージとしては特に限定するものではないが、アクリル繊維束をケンスに収納した形態やボビンに巻き取った形態であることが生産上好ましい。
本発明においてアクリル繊維束に撚りを加える方法としては、アクリル繊維束を梱包パッケージから引き出す際に、梱包パッケージを回転させながらアクリル繊維束を引き出すことで行うのが、生産上好ましい。また前記梱包パッケージがボビン巻である場合は、ボビン巻から前駆体繊維束を縦取りして引き出すのが好ましい。
本発明の炭素繊維の製造方法において、耐炎化工程は、前駆体繊維束を酸化性雰囲気下で加熱処理して耐炎化繊維束に転換する工程である。
耐炎化工程の条件としては、酸化性雰囲気中の緊張下において、密度が好ましくは1.28g/cm以上1.42g/cm以下、より好ましくは1.29g/cm以上1.40g/cm以下になるまで200℃以上300℃以下に加熱するのがよい。密度が1.28g/cm以上であると、次の工程である炭素化工程の際に単繊維間が接着するのを防ぐことができ、炭素化工程でトラブルなく生産することができる。また、密度が1.42g/cm以下であると、耐炎化工程が長くなりすぎず、経済的である。酸化性雰囲気は、空気、酸素、二酸化窒素など公知の酸化性雰囲気を採用できるが、経済性の面から空気が好ましい。
耐炎化繊維束は連続して炭素化工程に導かれる。炭素化工程では、耐炎化繊維束を不活性雰囲気下で炭素化して炭素繊維束を得る。炭素化は最高温度が1000℃以上の不活性雰囲気で行う。不活性雰囲気としては、窒素、アルゴン、ヘリウムなどのいずれのでも差し支えないが、経済面から窒素を用いることが好ましい。
炭素化工程の初期の段階、すなわち処理温度300℃以上400℃以下では、繊維の成分である耐炎化されたポリアクリロニトリル共重合体の切断および架橋反応が起きる。この温度領域においては300℃/分以下の昇温速度で緩やかに繊維の温度を上げることが、最終的に得られる炭素繊維束の機械的特性を良好なものとするために好ましい。また、処理温度が400℃以上900℃以下においては、次第にグラファイト構造が構築される。この炭素構造を構築する段階においては、炭素構造の規則配向を促すため、緊張下で延伸をかけながら処理するのが好ましい。900℃以下における温度勾配や延伸(張力)をコントロールするために、最終的な炭素化工程とは別に前工程(前炭素化工程)を設置することがより好ましい。
処理温度900℃以上においては、残存していた窒素原子が脱離し、グラファイト構造が発達することにより繊維全体としては収縮する。このような高温域での熱処理においても、最終的な炭素繊維の良好な機械的物性を発現させるためには、緊張下で処理することが好ましい。
このようにして得られた炭素繊維束には、必要に応じて黒鉛化処理を施してもよい。黒鉛化処理することで、炭素繊維束の弾性率がより高まる。
黒鉛化の条件としては、最高温度が2000℃以上の不活性雰囲気中、伸長率3%以上15%以下の範囲で伸長しながら行うことが好ましい。伸長率が3%以上であると、十分な機械的物性を有する高弾性の炭素繊維束(黒鉛化繊維束)が得られる。これは、所定の弾性率を有する炭素繊維束を得ようとする場合に、伸長率の低い条件ほどより高い処理温度が必要であるためである。一方、伸長率が15%以下であると、表層と内部において、伸長による炭素構造の成長促進効果の差が小さく、均一な炭素繊維束を形成し、高品質の炭素繊維が得られる。
上記の焼成工程後の炭素繊維束には、最終用途に適合するように表面処理を施すのが好ましい。
表面処理の方法に制限はないが、電解質溶液中で電解酸化する方法が好ましい。電解酸化は、炭素繊維束の表面で酸素を発生させることで表面に含酸素官能基を導入し、表面改質処理をするものである。
電解質としては、硫酸、塩酸、硝酸などの酸やそれらの塩類を用いることができる。
電解酸化の条件として、電解液の温度は室温以下、電解質濃度は1質量%以上15質量%以下、電気量は100クーロン/g以下が好ましい。
このようにして得られた炭素繊維束は、炭素繊維用サイジング剤を適宜付与してもよい。炭素繊維用サイジング剤が付着した炭素繊維束におけるサイジング剤の付着量は、炭素繊維束とサイジング剤の合計質量に対して0.6質量%以上2質量%以下であることが好ましく、1質量%以上1.6質量%以下であることがより好ましい。サイズ剤の付着量が0.6質量%以上であれば、SMCを成形して炭素繊維強化複合材料としたときに、靭性等の機能発現性を存分に発揮させることができる。一方、サイズ剤の付着量が2質量%以下であれば、炭素繊維束が硬くなることを抑制できる。
また、サイズ剤の付着量が上記範囲内であれば、炭素繊維束の集束性や耐擦過性が優れたものになる。
本発明によって得られる炭素繊維束は、優れた機械的物性を有し、尚且つ繊維束の拡幅、分割が極めて容易である為、特に高性能なSMC成形品の製造に好適である。
本発明によって得られる炭素繊維束に好適に使用可能なSMCの製造装置の一例を図1により説明する。SMCの製造装置は、ボビン巻にした複数の炭素繊維束を回転自在に保持するクリール(図示していない)、引き出されたそれぞれの炭素繊維束1を所望の繊維長に切断するロービングカッター31、上下フィルムを巻きだす巻き出し機21、樹脂組成物11を所望の厚みでフィルム上に塗布するドターブレイド12、樹脂組成物を炭素繊維束に含浸するために押圧を加えるローラー群24、含浸途中のSMCを移送するメッシュベルト22、および、含浸が完了した)SMCを巻き取る巻取り機25からなる。
図1及び図2に示すように、ロービングカッター31は、ゴムローラー32とカッターローラー33とからなる。さらにカッターローラーには、その周面に所望のカット長だけ離して刃34が設けられている。
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれらによって限定されるものではない。本実施例に用いた各種測定方法、及び各評価方法は以下の通りである。
[実施例1]
<アクリル繊維束のフックドロップ評価>
1kgの錘を掛けて垂直に垂らした炭素繊維前駆体アクリル繊維束に50gの錘の付いたフックを前記繊維束に引っ掛けて手を放して降下させる。フックを引っ掛けた箇所からフックが停止した箇所までの長さ(降下距離)を測定する。この操作をアクリル束の長さ方向1m毎に100回繰り返し、降下距離の平均値を求めてアクリル繊維束のフックドロップ値(HD値)とする。フックドロップ値の測定は、前駆体繊維束の交絡のレベルを確認するものであり、その値が高ければ高いほど、即ちアクリル繊維束に引っ掛けたフックの降下距離が長ければ長いほどアクリル繊維束に交絡が掛かっていないことを示すものである。
<炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造>
アクリル繊維束は、次の方法で調製したものを用いる。アクリロニトリル系共重合体(組成比:アクリロニトリル/アクリルアミド/メタクリル酸=96.5/2.7/0.8(質量比))を21質量%の割合でジメチルアセトアミドに分散し、加熱溶解して紡糸原液を調製し、濃度67質量%のジメチルアセトアミド水溶液を満たす38℃の凝固浴中に孔径(直径)45μm、孔数24000の紡糸ノズルより吐出し凝固糸とする。凝固糸は、水洗槽中で脱溶媒するとともに3倍に延伸して水膨潤状態の前駆体繊維束とする。
油剤処理液を満たす油剤処理槽に水膨潤状態の前駆体繊維束を導き、油剤を付与する。
その後、油剤が付与された前駆体繊維束を表面温度150℃のローラーにて乾燥緻密化する後に、圧力0.3MPaの水蒸気中で5倍延伸を施し、炭素繊維前駆体アクリル繊維束を得る。得られるアクリル繊維束のフィラメント数は24000本、単繊維繊度は1.0dTexである。
その後、アクリル繊維束は交絡処理を施すことなく、撚りのない状態でボビンに巻き付けた形態で採取する。
<炭素繊維束の製造>
アクリル繊維束を、1ターン/mの撚りが入るようにボビン巻のまま回転させ、焼成工程に供給する。撚りの入ったアクリル繊維束を220℃から260℃の範囲で温度勾配を有する耐炎化炉に70分かけて通して耐炎化し、耐炎化繊維束とする。引き続き、前記耐炎化繊維束を窒素雰囲気中で400℃から1400℃の範囲で温度勾配を有する炭素化炉を3分間かけて通過させて焼成し、炭素繊維束とする。
<焼成工程の通過性の判定>
アクリル繊維束を焼成工程に供給して炭素繊維束が得られる場合「可」とし、炭素繊維が得られない場合「否」とする。
<炭素繊維束の分割性の判定>
前述の通り得られる炭素繊維束を図1に示すSMC製造工程に供給し、図2に示すロービングカッターを用いて切断した後、一万本以下のフィラメントからなる細かい繊維束に分割される場合「可」とし、分割されない場合「否」とする。
総繊度、交絡処理、HD値、梱包パッケージ、撚り付与方法、撚り数、焼成工程の通過性、および炭素繊維の分割性を表1にまとめて示す。
[実施例2~20]
アクリル繊維束の総繊度、交絡処理、梱包パッケージ、撚り付与方法、撚り数を表1に示すように変更する以外は、実施例1と同様にしてアクリル繊維束、及び炭素繊維束を得て、更にはSMC製造工程に通して各測定及び評価を実施する。
総繊度、交絡処理、HD値、梱包パッケージ、撚り付与方法、撚り数、焼成工程の通過性、および炭素繊維の分割性を表1にまとめて示す。
Figure 0007087740000001
各実施例から明らかなように、適当な撚りを付与したアクリル繊維束は、フィラメント同士の絡み合いが弱くても焼成工程でトラブルを発生させることなく、炭素繊維が得られる。また、前記炭素繊維束はSMC製造工程で切断すると極めて細かい繊維束に分割される。
[比較例1~20]
アクリル繊維束の総繊度、交絡処理、梱包パッケージ、撚り付与方法、撚り数を表1に示すように変更する以外は、実施例1と同様にしてアクリル繊維束、及び炭素繊維束を得て、更にはSMC製造工程に通して各測定及び評価を実施する。
総繊度、交絡処理、HD値、梱包パッケージ、撚り付与方法、撚り数、焼成工程の通過性、および炭素繊維の分割性を表1にまとめて示す。
比較例1、2、4、5、7、8、10、11から明らかなように、撚りがない、又は撚り数が少ない炭素繊維前駆体アクリル繊維束でフィラメント同士の絡み合いが弱い場合、焼成工程でロールにフィラメントが取られ、最終的に繊維束が巻き付くトラブルが発生し、炭素繊維は得られない。
また、比較例3、6、9、12、16、20から明らかなように、撚りが入りすぎると炭素繊維前駆体アクリル繊維束が極めて密な状態で焼成工程に供給される為、耐炎化工程で前記炭素繊維前駆体アクリル繊維束が蓄熱、切断するトラブルが発生し、炭素繊維は得られない。
また、比較例13、14、15、17、18、19から明らかなように、適当な撚りを付与した炭素繊維前駆体アクリル繊維束でフィラメントの絡み合いが強い場合、焼成工程でトラブルを発生させることなく、炭素繊維が得られる。しかし、前記炭素繊維束はSMC製造工程で切断すると細かいフィラメントに分割することが出来ない。
本発明に係る炭素繊維の製造方法は従来技術では達成できなかった、高性能なSMCを得るのに好適な、すなわち炭素繊維束を切断した際に炭素繊維束を数千本単位の細かいフィラメントに分割可能な炭素繊維が得られる。
1 炭素繊維束
4 短く切断された炭素繊維束
11 樹脂組成物
12 ドクターブレイド
21 巻き出し機
22 メッシュベルト
24 ローラー群
25 巻き取り機
31 ロービングカッター
32 ゴムローラー
33 カッターローラー
34 刃

Claims (3)

  1. 撚りのない状態で測定したフックドロップ値が15cm以上であるアクリル繊維束を焼成工程に供給して炭素繊維束を製造する炭素繊維束の製造方法であって、前記アクリル繊維束に1ターン/m以上10ターン/m以下の撚りを加えてから焼成工程に供給する炭素繊維束の製造方法。
  2. 前記アクリル繊維束に1ターン/m以上10ターン/m以下の撚りを加える方法が、撚りのない状態で前記アクリル繊維束を梱包パッケージに収納し、その梱包パッケージから引き出しながら前記梱包パッケージを回転させて前記アクリル繊維束に1ターン/m以上10ターン/m以下の撚りを加える、請求項1に記載の炭素繊維束の製造方法。
  3. 前記アクリル繊維束の梱包パッケージがボビン巻であり、撚りのない状態で前記アクリル繊維束をボビンに巻き付けられた前記アクリル繊維束を前記ボビン巻から解舒しながら前記ボビン巻を回転させて前記アクリル繊維束に1ターン/m以上10ターン/m以下の撚りを加える、請求項1に記載の炭素繊維束の製造方法。
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