添付図面を参照して、本発明の一態様に係る実施形態について説明する。本実施形態に係る加工装置は、直動機構を備える加工装置である。以下、本実施形態では、板状の被加工物を切削する切削装置を例に挙げて説明するが、本発明の加工装置は、直動機構を備える研削装置やレーザ加工装置等でも良い。図1は、本実施形態に係る切削装置(加工装置)の構成例を模式的に示す斜視図である。
図1に示すように、切削装置(加工装置)2は、各構成要素を収容するための筐体4を備えている。説明の便宜のために、図1では、筐体4の輪郭を破線で示し、筐体4の内部の構造物を実線で示す。筐体4の内部には、基台6が収容されている。基台6の上面には、X軸移動機構(直動機構)8が設けられている。X軸移動機構8は、X軸方向(加工送り方向、前後方向)に平行な一対のX軸ガイドレール10を備えており、X軸ガイドレール10には、X軸移動テーブル(スライダ)12がスライド可能に取り付けられている。
X軸移動テーブル12の下面(裏面)側には、ナット(不図示)が設けられており、このナットには、X軸ガイドレール10に平行なX軸ボールねじ(ボールねじ)14が螺合されている。X軸ボールねじ14の一端部には、X軸パルスモータ(サーボモータ)16が連結されている。X軸パルスモータ16でX軸ボールねじ14を回転させることで、X軸移動テーブル12は、X軸ガイドレール10に沿ってX軸方向に移動する。
X軸移動テーブル12の上面側(表面側)には、テーブルベース18が設けられている。テーブルベース18の上部には、被加工物を保持するためのチャックテーブル20が配置されている。チャックテーブル20の周囲には、被加工物を支持する環状のフレームを四方から固定する4個のクランプ20aが設置されている。
被加工物1(図2参照)は、例えば、シリコン等の半導体でなる円形のウェーハであり、その上面(表面)側は、中央のデバイス領域と、デバイス領域を囲む外周余剰領域とに分けられている。デバイス領域は、格子状に配列された分割予定ライン(ストリート)でさらに複数の領域に区画されており、各領域には、IC、LSI等のデバイスが形成されている。
被加工物1の下面(裏面)側には、被加工物1より径の大きいテープ(不図示)が貼り付けられている。テープの外周部分は、環状のフレーム(不図示)に固定されている。すなわち、被加工物1は、テープを介してフレームに支持されている。なお、被加工物1の材質、形状等に制限はない。例えば、セラミックス、樹脂、金属等の材料でなる任意の形状の基板を被加工物1として用いることもできる。
チャックテーブル20は、モータ等の回転駆動源(不図示)に連結されており、Z軸方向(鉛直方向、高さ方向)に概ね平行な回転軸の周りに回転する。また、上述したX軸移動機構8でX軸移動テーブル12をX軸方向に移動させれば、チャックテーブル20はX軸方向に加工送りされる。
チャックテーブル20の上面は、被加工物1を保持する保持面20bとなっている。この保持面20bは、X軸方向及びY軸方向に対して概ね平行に形成されており、チャックテーブル20やテーブルベース18の内部に形成された流路(不図示)等を通じて吸引源(不図示)に接続されている。なお、この吸引源の負圧は、テーブルベース18に対してチャックテーブル20を固定する際にも利用される。
チャックテーブル20に近接する位置には、被加工物1をチャックテーブル20へと搬送する搬送機構(不図示)が設けられている。また、X軸移動テーブル12の近傍には、切削時(加工時)に使用された純水等の切削液(加工液)の廃液を一時的に貯留するウォーターケース22が設けられている。ウォーターケース22内に貯留された廃液は、ドレーン(不図示)等を通じて切削装置2の外部に排出される。
基台6の上面には、X軸移動機構8を跨ぐ門型の支持構造24が配置されている。支持構造24の前面上部には、2組の切削ユニット移動機構(直動機構)26が設けられている。各切削ユニット移動機構26は、支持構造24の前面に配置されY軸方向(割り出し送り方向、左右方向)に概ね平行な一対のY軸ガイドレール28を共通に備えている。Y軸ガイドレール28には、各切削ユニット移動機構26を構成するY軸移動プレート(スライダ)30がスライド可能に取り付けられている。
各Y軸移動プレート30の裏面側には、ナット(不図示)が設けられており、このナット部には、Y軸ガイドレール28に平行なY軸ボールねじ(ボールねじ)32がそれぞれ螺合されている。各Y軸ボールねじ32の一端部には、Y軸パルスモータ(サーボモータ)34が連結されている。Y軸パルスモータ34でY軸ボールねじ32を回転させれば、Y軸移動プレート30は、Y軸ガイドレール28に沿ってY軸方向に移動する。
各Y軸移動プレート30の前面(表面)には、Z軸方向に概ね平行な一対のZ軸ガイドレール36が設けられている。Z軸ガイドレール36には、Z軸移動プレート(スライダ)38がスライド可能に取り付けられている。
各Z軸移動プレート38の裏面側には、ナット(不図示)が設けられており、このナットには、Z軸ガイドレール36に平行なZ軸ボールねじ(ボールねじ)40がそれぞれ螺合されている。各Z軸ボールねじ40の一端部には、Z軸パルスモータ(サーボモータ)42が連結されている。Z軸パルスモータ42でZ軸ボールねじ40を回転させれば、Z軸移動プレート38は、Z軸ガイドレール36に沿ってZ軸方向に移動する。
各Z軸移動プレート38の下部には、被加工物1を切削(加工)するための切削ユニット(加工ユニット)44が設けられている。また、切削ユニット44に隣接する位置には、被加工物1を撮像するためのカメラ(撮像ユニット)46が設置されている。各切削ユニット移動機構26で、Y軸移動プレート30をY軸方向に移動させれば、切削ユニット44及びカメラ46は割り出し送りされ、Z軸移動プレート38をZ軸方向に移動させれば、切削ユニット44及びカメラ46は昇降する。
切削ユニット44は、Y軸方向に概ね平行な回転軸を構成するスピンドル(不図示)の一端側に装着された円環状の切削ブレード48(図2参照)を備えている。スピンドルの他端側にはモータ等の回転駆動源(不図示)が連結されており、切削ブレード48は、スピンドルを介して伝達される回転駆動源の回転力によって回転する。
図2は、X軸移動機構(直動機構)8と、切削ユニット(加工ユニット)44と、チャックテーブル20に保持された被加工物1と、を模式的に示す側面図である。図2に示す通り、被加工物1を切削する際は、切削ユニット44を所定の高さ位置に位置づけ、切削ユニット44が備える円環状の切削ブレード48を回転させる。そして、X軸移動機構8を作動させてチャックテーブル20をX軸方向に移動させ、回転する切削ブレード48を被加工物1に接触させる。
基台6上には、X軸移動機構8のX軸ガイドレール10と、X軸ボールねじ(ボールねじ)14と、に沿ったスケール50が設けられている。また、X軸移動テーブル(スライダ)12の下面の該スケール50と対面する位置には、該スケール50を読み取る読み取りユニット52が固定されている。X軸移動テーブル(スライダ)12を移動または停止させる際、読み取りユニット52によりスケール50を読み取ることで、X軸移動テーブル(スライダ)12の位置に関する情報が得られる。
同様に、切削装置(加工装置)2は、切削ユニット移動機構26のY軸ボールねじ32に沿ったスケールを備えてもよく、Y軸移動プレート30の裏面の該スケールと対面する位置には、該スケールを読み取る読み取りユニットが固定されてもよい。さらに、切削装置(加工装置)2は、切削ユニット移動機構26のZ軸ボールねじ40に沿ったスケールを備えてもよく、Z軸移動プレート38の裏面の該スケールと対面する位置には、該スケールを読み取る読み取りユニットが固定されてもよい。
筐体4の上面には、切削装置(加工装置)2の異常の有無をランプで報知する警報ランプ54を備える。該警報ランプ54は、例えば、赤色ランプと、緑色ランプと、を有し、切削装置2に異常がない場合に該緑色ランプが点灯し、切削装置2に何らかの異常が生じた際に該赤色ランプが点灯する。
また、筐体4の前面には、表示部56が設けられる。表示部56は、例えば、タッチパネル式のディスプレイパネルであり、切削装置(加工装置)2の操作者は該表示部56により切削装置2に指令を入力できる。また、表示部56は、切削装置2の異常の有無を表示できる。警報ランプ54と、表示部56は、後述の劣化検出ユニットが備える判定部による判定結果を報知する判定報知部として機能できる。
切削装置(加工装置)2が備えるX軸移動機構8、チャックテーブル20、搬送機構、切削ユニット移動機構26、切削ユニット44、カメラ46、読み取りユニット52等の構成要素は、それぞれ、制御ユニット58に接続されている。この制御ユニット58は、被加工物1の加工条件等に合わせて上述した各構成要素を制御して被加工物1の加工を実施する。
X軸移動機構8及び切削ユニット移動機構26等の直動機構が備えるサーボモータは、スライダの位置や速度に基づいてフィードバック制御される。すなわち、ある時間において予定されたスライダの位置や速度と、実際のスライダの位置や速度と、に差が生じると、この差を小さくするようにサーボモータの回転速度等が調整される。例えば、スライダを所定の速度で移動させる際の、又は所定の位置に位置付ける際のサーボモータの回転速度は、所定の応答速度(頻度)で制御される。
応答速度をより大きくするとスライダの指定位置や指定速度に対する追従性が向上するが、大きすぎると該指定位置や該指定速度を過ぎてスライダが移動するオーバーシュートが生じる。そのため、例えば、切削ユニット(加工ユニット)44による被加工物1の加工時には、該応答速度はオーバーシュートが生じにくい適度な大きさに設定される。
ところで、ボールねじと、ナットと、の間に加工屑等の異物が侵入すると、この異物によって摩耗が進行し、ボールねじと、ナットと、の隙間や、ナット内の溝と、ボールと、の隙間等が拡大し易くなる。この隙間が拡大するとオーバーシュートが生じやすくなり、スライダ(ナット)が発振(振動)してしまう。
図3(A)は、X軸移動機構(直動機構)8によりX軸移動テーブル(スライダ)12のナット62を初期位置62aから指定位置62bに移動させる際、指定位置62bに到達するナット62がオーバーシュートし、発振する場合が示されている。図3(B)には、X軸移動テーブル(スライダ)12のナット62を初期位置62aから指定位置62bに移動させる際、移動の途中の位置62cでナット62が発振する場合が示されている。
X軸移動テーブル12、Y軸移動プレート30及びZ軸移動プレート38等のスライダが発振する程に直動機構の劣化が進行していると、切削ユニット(加工ユニット)44によるウェーハ等の被加工物1の切削(加工)を適切に実施できない。そこで、本実施形態に係る加工装置は、X軸移動機構8や切削ユニット移動機構26等の直動機構の劣化を検出するための劣化検出ユニット60を制御ユニット58に備える。
劣化検出ユニット60は、該スライダが発振する程に直動機構の劣化が進行する前に、直動機構の発振の予兆を検出して直動機構の劣化を検出する。直動機構の発振の予兆を検出した段階で直動機構をメンテナンスすることにより、直動機構の発振を予防できる。次に、劣化検出ユニット60の構成について詳述する。劣化検出ユニット60は、測定部60aと、閾値設定部60bと、応答速度設定部60cと、判定部60dと、を備える。
応答速度設定部60cは、該スライダを所定の速度で移動させる際の、又は所定の位置に位置付ける際のX軸パルスモータ16、Y軸パルスモータ34、又はZ軸パルスモータ42等のサーボモータの回転速度の制御量である応答速度を設定する。また、劣化検出ユニット60により直動機構の劣化を検出する際には、応答速度設定部60cは、切削ユニット(加工ユニット)44による被加工物1の加工時において設定される通常の応答速度より高い検査用応答速度を応答速度として設定する。
該直動機構の劣化が十分に小さく、サーボモータをしばらく稼働させてもスライダが発振しない場合、応答速度を検査用応答速度としてもスライダはやはり発振しない。その一方で、該直動機構がある程度劣化している場合、通常の応答速度ではスライダの発振が生じないものの、検査用応答速度では所定の量のオーバーシュートが生じてスライダが発振するようになる。そのため、被加工物1の加工時にスライダが発振する程度に直動機構が劣化する前に、スライダに発振が生じる予兆を検出して該直動機構の劣化を検出できる。
測定部60aは、該サーボモータを作動させることにより移動する該スライダのオーバーシュート量を測定する。測定部60aは、例えば、それぞれの該スライダに固定された読み取りユニット52等を用いて該スケール50等を読み取り、該スライダの位置を検出する。そして、例えば、スライダを所定の位置に移動させる際に、該スライダが該所定の位置を過ぎて移動した量をオーバーシュート量として該読み取りユニット52を用いて測定する。
または、測定部60aは、読み取りユニット52等を用いて該スケール50等を読み取り、該スライダの位置から該スライダの速度を測定する。そして、例えば、スライダを所定の速度で移動させる際に、該スライダが該所定の速度を過ぎて変化した量をオーバーシュート量として該読み取りユニット52を用いて測定する。
閾値設定部60bは、測定部60aで測定されるオーバーシュート量に閾値を設定する。閾値設定部60bが設定する閾値は、サーボモータの応答速度を検査用応答速度に上げてスライダを移動させる際に、オーバーシュート量が該閾値を超えた値となる場合に直動機構に劣化が生じていると判定できる値である。
そして、判定部60dは、該直動機構に劣化が生じているか否かを判定する。判定時には、応答速度設定部60cによりサーボモータの応答速度を検査用応答速度に設定し、該検査用応答速度で該サーボモータを制御する。この際に、測定部60aで測定される該スライダのオーバーシュート量が該閾値設定部60bにより設定された該閾値を超えた場合に、判定部60dは該直動機構に劣化が生じていると判定する。
なお、劣化検出ユニット60は、直動機構の劣化をサーボモータが出力するトルクから判定してもよい。直動機構が劣化してボールねじと、ナットと、の隙間や、ナット内の溝と、ボールと、の隙間等が拡大している場合、ボールねじを回転させる際のボールねじと、ナットと、の摩擦が小さくなる。そのため、直動機構が劣化していない場合と比較してサーボモータの負荷も小さくなり、該サーボモータが出力するトルクも小さくなる。
すなわち、直動機構が劣化してスライダのオーバーシュート量が許容される範囲を超える場合、サーボモータが出力するトルクは通常時に予定される範囲よりも小さくなる傾向にある。そのため、スライダを所定の速度で移動させる際の、又は所定の位置に位置付ける際のサーボモータが出力したトルクを基にしてスライダのオーバーシュート量を評価できる。
この場合、閾値設定部60bは、オーバーシュート量の閾値として、サーボモータが出力するトルクに相当する値を使用する。測定部60aは、スライダのオーバーシュート量を表す値として、該サーボモータが出力するトルクを測定する。そして、判定部60dは、測定部60aが測定する該サーボモータのトルクが閾値設定部60bで設定された該値よりも小さくなり、スライダのオーバーシュート量が閾値を超えると判断できる状況において、直動機構に劣化が生じていると判定する。
換言すると、測定部60aは、該サーボモータが出力するトルクを測定するトルク測定部として機能してもよく、閾値設定部60bは、該トルクに閾値を設定するトルク閾値設定部として機能してもよい。この場合においても、直動機構の劣化を検出する際には、判定部60dは、応答速度設定部60cにより該サーボモータの応答得度を検査用応答速度に設定する。
そして、判定部60dは、該トルク測定部として機能する測定部60aで測定したトルクが該トルク閾値設定部として機能する閾値設定部60bで設定した該閾値によって規定される範囲を外れた場合に、該直動機構に劣化が生じていると判定する。
判定部60dにより劣化が生じていると判定される程に劣化の進んだ該直動機構を使用して被加工物1の加工を継続すると、近い将来に直動機構の劣化がさらに進行したときに、サーボモータの応答速度が通常の応答速度であってもスライダが発振するようになる。本実施形態に係る加工装置では、サーボモータの応答速度を通常の応答速度よりも高い検査用応答速度にすることによりスライダの発振が生じる予兆を観測する。
劣化検出ユニット60の判定部60dにより直動機構の劣化が検出された場合、警報ランプ54や表示部56等の判定報知部により該劣化が検出されたことを報知する。判定報知部により直動機構の劣化が検出されたことを知った切削装置(加工装置)2の使用者は、直動機構のメンテナンス等を実施することにより被加工物1の通常の加工時におけるスライダの発振を未然に防止できる。
なお、メンテナンス等は、直動機構の劣化が検出された後に直ちに実施する必要はない。判定部60dにより直動機構の劣化が検出された場合においても、被加工物1の通常の加工時における応答速度でサーボモータを制御する際にスライダの発振が生じない場合、スライダの発振が生じるまでにメンテナンスが実施されればよい。例えば、加工装置の他の機構に対してメンテナンスを実施するタイミングに該直動機構のメンテナンスを同時に実施すると、加工装置の稼働を停止させる時間が少なくなり効率がよい。
次に、本実施形態に係る加工装置において直動機構の劣化を検出する方法について詳述する。ここでは、図1等に示す切削装置(加工装置)2においてX軸移動機構8のX軸ボールねじ14又は該X軸ボールねじ14に螺合されたX軸移動テーブル(スライダ)12のナットの劣化を検出する場合を例に該方法について説明する。図4は、該方法の各ステップの流れを説明するフローチャートである。
該方法では、まず、スライダを初期位置に移動させる準備ステップS1を実施する。該準備ステップS1では、例えば、該直動機構の劣化を検出する際にスライダの移動が開始される初期位置62a(例えば、図3(A)参照)に該スライダのナット62(図3(A)参照)を移動させる。該初期位置62aを定めておくと、該直動機構の劣化を安定的に検出できる。
次に、サーボモータの回転速度の制御量である応答速度を切削ユニット(加工ユニット)44による被加工物1の加工時において設定される応答速度より高い検査用応答速度に設定する応答速度設定ステップS2を実施する。該検査用応答速度は、被加工物1の加工時に発振が生じる程には劣化していないものの、そのままスライダの移動を繰り返すと近い将来に発振が生じる程に劣化している直動機構の劣化を検出できる応答速度である。検出したい直動機構の劣化の程度に応じて適切な値が設定される。
次に、スライダのオーバーシュート量に閾値を設定する閾値設定ステップS3を実施する。該閾値は、サーボモータの応答速度を検査用応答速度に上げてスライダを移動させる際に、オーバーシュート量が該閾値を超えた値となる場合に直動機構に劣化が生じていると判定できる値である。後述する判定ステップS7では、この閾値が参照されて該直動機構の劣化の有無が判定される。
該準備ステップS1、該応答速度設定ステップS2及び該閾値設定ステップS3は、順番が入れ替わって実施されてもよく、このうち2つが、又はすべてが同時に実施されてもよい。本実施形態に係る加工装置において直動機構の劣化を検出する方法では、該準備ステップS1、該応答速度設定ステップS2及び該閾値設定ステップS3の後に、該スライダを所定の速度で移動させる移動ステップS4と、該移動ステップS4の後、該スライダを指定位置に停止させる停止ステップS5と、を実施する。
該移動ステップS4では、まず、初期位置62a(図3(A)及び図3(B)参照)に位置するスライダを所定の速度になるまで加速させる。また、該停止ステップS5では、所定の速度のスライダを減速し、指定位置62b(図3(A)及び図3(B)参照)に停止させる。
このとき、サーボモータは該検査用応答速度でフィードバック制御される。すなわち、ある時間において予定されたスライダ(ナット)の速度又は位置と、実際のスライダ(ナット)の速度又は位置と、の間に差がある場合、該差を小さくするようにサーボモータを制御する。
そして、本実施形態に係る加工装置において直動機構の劣化を検出する方法では、該移動ステップS4または停止ステップS5において、スライダのオーバーシュート量を検出する検出ステップS6を実施する。次に、該検出ステップS6で検出されたオーバーシュート量が閾値設定ステップS3で設定した閾値を超えた場合に、該直動機構に劣化が生じていると判定する判定ステップS7を実施する。
また、直動機構の劣化の有無は、サーボモータのトルクの変化を観測することにより判定できる。サーボモータのトルクの変化を観測して直動機構の劣化の有無を判定する場合、閾値設定ステップS3では、スライダのオーバーシュート量に代えて、サーボモータが出力するトルクの値に閾値を設定する。そして、検出ステップS6では、サーボモータが出力するトルクを検出する。
そして、判定ステップS7では、該検出ステップS6で検出された該サーボモータのトルクが該閾値設定ステップS3で設定した該閾値によって規定される範囲を外れた場合に、該直動機構に劣化が生じていると判定する。以下、サーボモータのトルクを検出して直動機構の劣化の有無を判定する方法の例を説明する。
図5(A)は、スライダが発振する予兆のない直動機構のサーボモータのトルク(トルク比)の時間変化の例を示すグラフである。図5(A)は、被加工物1の加工を実施する際に設定される応答速度でサーボモータを駆動する場合におけるトルクの時間変化の例が示されている。図5(B)は、応答速度が検査用応答速度に引き上げられた該直動機構のサーボモータのトルク(トルク比)の時間変化の例を示すグラフである。
また、図6(A)は、スライダが発振する予兆のある直動機構のサーボモータのトルク(トルク比)の時間変化の例を示すグラフである。図6(A)は、被加工物1の加工を実施する際に設定される応答速度でサーボモータを駆動する場合におけるトルクの時間変化の例が示されている。図6(B)は、応答速度が検査用応答速度に引き上げられた該直動機構のサーボモータのトルク(トルク比)の時間変化の例を示すグラフである。
検出ステップS6では、例えば、図5(A)、図5(B)、図6(A)及び図6(B)に示すグラフが劣化検出ユニット60の測定部60aにより得られる。それぞれのグラフにおいて横軸は時間の経過を示し、縦軸はサーボモータのトルク比(測定されたサーボモータのトルクを、該サーボモータの定格トルクで割った値)を示す。
なお、各グラフでは、トルク比がマイナスで記載されている。これは、指定位置62bから初期位置62aに向かう方向にスライダを移動させる際のサーボモータの回転方向が正方向とされたためである。そして、各グラフでは、縦軸の上方となるほどトルクの絶対値が小さくサーボモータの出力が小さくなることを意味し、縦軸の下方となるほどトルクの絶対値が大きくサーボモータの出力が大きくなることを意味する。
それぞれのグラフにおいて、スライダの加速を開始した時間は約0.2sであり、その後スライダを所定の速度まで増速し等速直線運動をさせた。そして、スライダを減速してスライダを停止させた時間は約1.3sである。各グラフにおいて、主に等速直線運動をしている間のサーボモータのトルクを測定し、スライダの発振の予兆が観測される程に直動機構が劣化しているか否かを評価する。
閾値設定ステップS3では、例えば、トルク比-10%が閾値として設定される。そして、判定ステップS7では、各グラフにおいサーボモータのトルク(トルク比)が該閾値により規定される-10%よりも下方の範囲内であれば、サーボモータにかかる負荷が適正であるため、直動機構に劣化が生じていないと判定できる。
その一方で、各グラフにおいサーボモータのトルク(トルク比)が該閾値により規定される-10%よりも下方の該範囲を外れて上方となる場合、スライダが発振する予兆があり、直動機構に劣化が生じていると判定する。直動機構に劣化が生じていると、ボールねじ及びナットの間の隙間が拡大され摩擦が小さくなる。そのため、サーボモータにかかる負荷が小さくなりサーボモータの出力が予定された範囲を外れて小さくなるためである。この場合、スライダの発振が観測される。
劣化が十分に小さくスライダが発振する予兆のない直動機構では、図5(A)及び図5(B)に示す通り、通常の応答速度でサーボモータを駆動する場合だけでなく検査用応答速度でサーボモータを駆動する場合においても、トルク(トルク比)は該閾値で規定される範囲を外れない。そのため、判定ステップS7では、該直動機構に劣化が生じていないと判定される。
一方、劣化がある程度進行しており近い将来にスライダに発振が生じる直動機構においても、図6(A)に示す通り、通常の応答読度ではサーボモータが出力するトルク(トルク比)が該閾値で規定される範囲を外れないため、直動機構の劣化を検出できない。これに対して、応答速度を検査用応答速度に引き上げた場合、図6(B)に示す通り、サーボモータが出力するトルク(トルク比)が該閾値で規定される範囲から外れる。そのため、判定ステップS7では、該直動機構の劣化が生じていると判定される。
このように、サーボモータの応答速度を被加工物1の加工時よりも高い検査用応答速度にすることにより、直動機構を作動させた際に発振の予兆を検出できる。そして、該判定ステップS7において該直動機構に劣化が生じていると判定された場合に該判定ステップS7の判定結果を報知する報知ステップS8を実施する。
報知ステップS8では、例えば、警報ランプ54や表示部56等の判定報知部により該劣化が検出されたことを報知する。判定報知部により直動機構の劣化が検出されたことを知った切削装置(加工装置)2の使用者は、直動機構のメンテナンス等を実施することにより被加工物1の通常の加工時におけるスライダの発振を予防できる。
サーボモータは、一般的にスライダの発振を防止するために、発振が生じにくい応答速度が設定され制御される。これに対して、本実施形態に係る加工装置では、あえて応答速度を上昇させた状態でサーボモータを作動させることにより、スライダが発振する予兆を検出できる。そのため、通常の応答速度ではスライダが発振しない直動機構において、スライダが発振する程に劣化が進行する前に該直動機構の劣化を検出でき、メンテナンスが必要であると判定できる。
なお、上記実施形態では、サーボモータが出力するトルク(トルク比)に特定の閾値を設定し、該トルク(トルク比)が該閾値で規定される範囲から外れたときに直動機構の劣化を検出する場合について説明したが、本発明の一態様はこれに限定されない。
例えば、図6(A)及び図6(B)を比較すると理解される通り、サーボモータの応答速度を検査用応答速度に上げるとスライダに発振傾向が観測される直動機構では、サーボモータが出力するトルク(トルク比)の変動が比較的激しくなる。そこで、判定部60dは、該トルクの変動の大きさから直動機構の劣化の有無を判定してもよい。
この場合、例えば、閾値設定部60bで設定される閾値は、プラス(正方向)のトルクを測定対象とする場合、検出対象期間のトルク(トルク比)の平均値(算術平均値)aから、当該期間のトルク(トルク比)の標準偏差σを引いた値a-σを閾値に設定する。また、マイナス(負方向)のトルクを測定対象とする場合、検出対象期間のトルク(トルク比)の平均値(算術平均値)aに、当該期間のトルク(トルク比)の標準偏差σを加えた値a+σを閾値に設定する。
または、サーボモータの応答速度を検査用応答速度に上げてスライダを移動させる際に、検出津体調期間のトルク(トルク比)の標準偏差そのものを評価してもよい。この場合、閾値設定部60bは該標準偏差に対して閾値を設定し、判定部60dは該標準偏差が該閾値を超えた場合に直動機構に劣化が生じていると判定する。
また、上記実施形態では、加工装置が切削装置2である場合を例に説明したが、本発明の一態様はこれに限定されない。本発明の一態様に係る加工装置は、被加工物を研削する研削装置や、被加工物を研磨する研磨装置、被加工物をレーザ加工するレーザ加工装置等でもよい。すなわち、本発明の一態様に係る加工装置は、直動機構を備える様々な加工装置である。
また、本発明の一態様に係る加工装置では、劣化検出ユニット60は、所定のタイミングで自動的に直動機構の劣化の有無が検出されてもよい。例えば、加工装置の起動時の立ち上げ動作の一環として劣化検出ユニット60が直動機構の検査を実施してもよく、また、所定の量の加工を実施する毎に直動機構の検査を実施してもよい。また、加工装置のオペレータが任意のタイミングで該加工装置を操作し劣化検出ユニット60に直動機構の検査をさせてもよい。
その他、上記実施形態に係る構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。