以下、本発明のめっき装置の一実施形態について説明する。
[両面めっき積層体]
本実施形態の両面めっき積層体は、プラスチックフィルムと、プラスチックフィルムの両面上に直接配置されたシード層と、シード層上に配置された第1金属層と、第1金属層上に配置された第2金属層と、を有することができる。
そして、本実施形態の両面めっき積層体は、IPC−TM−650、2.2.4、Method BによるMD及びTDの寸法変化率が±0.05%以内、IPC−TM−650、2.2.4、Method CによるMD及びTDの寸法変化率が、±0.05%以内とすることができる。
ここでまず、本実施形態の両面めっき積層体の構造について、図1を用いて説明する。図1は、両面めっき積層体10のプラスチックフィルム11の主表面と垂直な面における断面図を模式的に示している。
両面めっき積層体10は、プラスチックフィルム11の一方の面11a上に、プラスチックフィルム11側から、シード層12A、第1金属層13A、第2金属層14Aがその順に積層されている。また、プラスチックフィルム11の他方の面11b上にも、プラスチックフィルム11側から、シード層12B、第1金属層13B、第2金属層14Bがその順に積層されている。
すなわち、プラスチックフィルム11の両面(両主表面)上に、それぞれシード層12A、12B、第1金属層13A、13B、第2金属層14A、14Bが順に積層された構造を有している。
なお、シード層12A、12Bは、プラスチックフィルム11の両面上に直接配置されている。すなわち、接着剤等を介することなく配置されている。また、各層の間、すなわちシード層12A、12Bと、第1金属層13A、13Bとの間、第1金属層13A、13Bと、第2金属層14A、14Bとの間についても接着剤等を介することなく直接接触するように構成することができる。
各部材について、以下に詳細に説明する。
まず、プラスチックフィルムについて説明する。
プラスチックフィルムの材料としては特に限定されるものではなく、各種プラスチック材料により形成されたフィルムを用いることができる。
プラスチックフィルムの材料としては、例えばポリイミド、ポリエチレンテレフタレート等の耐熱性樹脂や、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリエチレンナフタレート系樹脂、液晶ポリマー系樹脂から選択された1種以上の樹脂を用いることができる。
なお、プラスチックフィルムの材料として2種以上の樹脂を混合した材料を用いることもできる。
プラスチックフィルムの材料としては、耐熱性や絶縁性に優れることから、ポリイミド樹脂を用いることが好ましい。すなわち、プラスチックフィルムはポリイミドフィルムであることが好ましい。
ポリイミドは、化学式(1)で表される構造を有する。化学式(1)中、R及びR´が芳香族である場合を芳香族ポリイミドと呼び、工業的に広く用いられている。芳香族ポリイミドは、一般的には、芳香族の酸無水物とジアミンとの縮重合反応によって得られる。このため、酸成分とジアミン成分との組合せにより、多様な構造のポリイミドが得られ、化学(分子)構造によって、耐熱性等の物性等に違いがみられる場合もある。ただし、本実施形態の両面めっき積層体のプラスチックフィルムの材料としてポリイミドを用いる場合、該ポリイミドの構造等は特に限定されるものではなく、各種構造のポリイミドを用いることができる。
例えば化学式(2)、および/または化学式(3)で表される構造を有するポリイミドを、プラスチックフィルムの材料として用いることができる。
化学式(2)は、酸成分のピロメリット酸二無水物(PMDA)と、ジアミン成分の4、4´−ジアミノジフェニルエーテル(別名:4、4´−オキシビスベンゼンアミン、4、4´−オキシジアニリン=ODA)を、有機溶媒中で重合することで製造できる。
化学式(3)は、酸成分としてビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)を使用しており、ベンゼン環とイミド結合のみの分子構造を有している。このBPDAを酸成分に用いることで、PMDAを用いた化学式(2)の構造を有するポリイミドと比べて、より剛直な構造になっている等、特性に違いがみられる。
化学式(3)のように、イミド結合により直接結合された芳香族環は共役構造を取るため、上述のように剛直で強固な構造をもつ。また、芳香族環が同一平面に配列して分子鎖が互いに密に充填(パッキング)され、極性の高いイミド結合が強い分子間力を有することから、分子鎖間の結合力も強固となる。
プラスチックフィルムとしてポリイミドフィルムを用いる場合、商業的に流通しているポリイミドフィルムを用いることもでき、例えば東レ・デュポン株式会社製のカプトン(登録商標)シリーズや、宇部興産株式会社製のユーピレックス(登録商標)シリーズ等を用いることもできる。
プラスチックフィルムの吸水率についても特に限定されるものではないが、例えば1.0%以上1.9%以下であることが好ましい。なお、ここでいう吸水率とは、JIS K 7209(2000)に規定されたA法により飽和するまで水に浸漬させた際の吸水量(飽和吸水量)を測定し、該吸水量を用いて算出した吸水率(飽和吸水率)を意味する。
プラスチックフィルムについては、例えば予め加熱処理を行っておき、一方の面、または両面にプラズマ照射等の表面処理を行っておいてもよい。表面処理を行っておくことにより、シード層等との密着性を高めることができる。
プラスチックフィルムの厚さについては特に限定されるものではないが、例えば5μm以上が好ましく、10μm以上であることがより好ましい。なお、プラスチックフィルムの厚さの上限値についても特に限定されないが、過度に厚くなると、両面めっき積層体の取扱い性が低下する恐れがあるため、例えば80μm以下とすることが好ましい。
次に、シード層の構成について説明する。
シード層は、例えばプラスチックフィルムと、第1金属層との密着性を高める機能を有する。
シード層の材料についても特に限定されるものではないが、第1金属層との密着性を高める観点から、例えば金属材料を用いることが好ましい。シード層の材料としては、例えば、ニッケル、クロム、モリブデン、チタン、バナジウム、スズ、金、銀、亜鉛、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、鉄、アルミニウム、鉛、炭素、鉛−スズ系はんだ合金などが挙げられ、これらの金属を1種以上含む金属、または合金であることが好ましい。特に、シード層の材料は、ニッケル、クロム、ニッケルを含む合金、クロムを含む合金、ニッケル及びクロムを含む合金から選ばれる1種であることがより好ましく、ニッケル及びクロムを含む合金、例えばNi−Cr合金であることがさらに好ましい。すなわち、シード層はNi−Cr合金からなる層とすることがさらに好ましい。なお、シード層がNi−Cr合金からなる層の場合であっても、例えば製造工程で混入する不可避成分等を含有することを排除するものではない。
シード層の厚さは特に限定されるものではないが、例えば3nm以上50nm以下であることが好ましい。これは、シード層の厚さが3nm未満の場合、配線等を形成するためパターニングを行う際、エッチング液により浸食され、シード層とプラスチックフィルムとの間にエッチング液が染み込んで、配線が浮いてしまう場合があるからである。一方、シード層の厚さが50nmを超えると、配線等を形成するためパターニングを行う際、除去すべき部分のシード層をエッチングにより完全に除去できず、残渣として配線間に残り、絶縁不良を発生させる恐れがあるからである。
次に第1金属層、及び第2金属層について説明する。
第1金属層、及び第2金属層の材料は特に限定されるものではなく、用途にあった電気伝導率を有する材料を選択できるが、例えば、第1金属層、及び第2金属層の材料は、Cuと、Ni,Mo,Ta,Ti,V,Cr,Fe,Mn,Co,Wから選択される少なくとも1種の以上の金属との銅合金、または銅を含む材料であることが好ましい。また、第1金属層、及び第2金属層は銅から構成される銅層とすることもできる。
なお、第1金属層、及び第2金属層は同じ材料から構成することもでき、異なる材料から構成することもできる。
特に銅は配線基板の材料として一般的に用いられていることから、第1金属層、及び第2金属層を銅からなる層、すなわち銅層とすることが好ましい。なお、第1金属層、及び第2金属層が銅からなる層の場合であっても、例えば製造工程で混入する不可避成分等を含有することを排除するものではない。
第1金属層、及び第2金属層の厚さは特に限定されるものではなく、例えば本実施形態の両面めっき積層体に要求される電流の供給量や、該両面めっき積層体を加工する際の条件等に応じて任意に選択することができる。例えば第1金属層の厚さと、第2金属層の厚さとの合計は、0.1μm以上20μm以下であることが好ましい。
本実施形態の両面めっき積層体を用いて配線を形成する際の方法として、サブトラクティブ法や、セミアディティブ法が挙げられる。例えばセミアディティブ法により配線を形成する場合、第1金属層、及び第2金属層を選択的に成長させて配線加工することになる。
そして、第1金属層の厚さと、第2金属層の厚さとの合計を0.1μm以上とすることで、例えば本実施形態の両面めっき積層体に配線を形成し、配線基板とした場合に、配線を構成する第1金属層と第2金属層とに十分な電流を供給することができるからである。
一方第1金属層の厚さと、第2金属層の厚さとの合計を20μm以下とすることで、エッチングにより配線加工を行う際にも十分に高い生産を維持することができ、また配線基板としての総厚も十分に抑制でき、好ましいからである。
第1金属層の厚さと、第2金属層の厚さとの合計は、0.3μm以上15μm以下であることがより好ましい。
第1金属層単独の厚さについても特に限定されるものではないが、例えば10nm以上300nm以下とすることが好ましい。第2金属層は後述するように、例えば湿式めっき法により形成することができるが、第1金属層の厚さを10nm以上とすることで、十分な給電量を確保することができ、均一な第2金属層を形成することができるからである。また、第1金属層の厚さを300nm以下とすることで、シード層、及び第1金属層が十分に水分を透過させることができるため、本実施形態の両面めっき積層体を製造する際、プラスチックフィルムに十分に吸湿させ、寸法安定性を高めることができるからである。
本実施形態の両面めっき積層体は、既述のようにIPC−TM−650、2.2.4、Method BによるMD及びTDの寸法変化率を±0.05%以内とすることができる。また、IPC−TM−650、2.2.4、Method CによるMD及びTDの寸法変化率を、±0.05%以内とすることができる。
IPC−TM−650、2.2.4、Method B、Method CによるMD、及びTDの寸法変化率とは、IPC標準規格であるIPC−TM−650の、No.2.2.4(Revision C)に開示された、Method B、Method Cの試験方法により評価したMD、TDの寸法変化率を意味する。
MDはMachine dimension(機械軸方向)を意味し、両面めっき積層体の長手方向を意味する。また、TDはtransverse dimension(横軸方向)を意味し、MDと直交する方向を意味する。
また、寸法変化率という指標では、収縮はマイナス値、伸長がプラス値で表される。
そして、上記Method Bによれば、本実施形態の両面めっき積層体のシード層、第1金属層、及び第2金属層(以下、これらの層をあわせて「金属積層体」とも記載する)をエッチングした際の寸法変化率を評価することができる。また、上記Method Cによれば、金属積層体をエッチング後、さらに150℃で30分間熱処理を行った後の寸法変化率を評価することができる。
このため、上記Method B、Method CのMD、及びTD寸法変化率がそれぞれ±0.05%以内である、本実施形態の両面めっき積層体によれば、プラスチックフィルムの表面に配置された金属積層体をエッチングし、プラスチックフィルムの一部が露出した場合でも寸法変化を安定して抑制できていることを意味する。また、金属積層体をエッチングし、プラスチックフィルムの一部が露出した状態で加熱された場合でも、寸法変化を抑制できていることを意味する。
本実施形態の両面めっき積層体は、上記Method BによるMD及びTDの寸法変化率は、±0.04%以内であることがより好ましい。また、本実施形態の両面めっき積層体は、上記Method CによるMD及びTDの寸法変化率は、±0.04%以内であることがより好ましい。
以上に説明した本実施形態の両面めっき積層体によれば、プラスチックフィルムの表面に配置された金属積層体について、配線等を形成するためにエッチングし、プラスチックフィルムの一部が露出した場合でも、寸法変化を抑制することができる。また、配線等を形成し、プラスチックフィルムの一部が露出された状態で加熱された場合においても寸法変化を抑制することができる。
このため、本実施形態の両面めっき積層体は、高密度実装の配線基板等の寸法変化を特に抑制することが求められる各種用途において好適に用いることができる。より具体的には例えば、本実施形態の両面めっき積層体は、電子部品を接合し、電気的に繋げると共に機械的な固定を行う配線基板の材料として、非常に有用である。
[両面めっき積層体の製造方法]
次に、本実施形態の両面めっき積層体の製造方法の構成例について説明する。なお、本実施形態の両面めっき積層体の製造方法により、既述の両面めっき積層体を製造することができる。このため、両面めっき積層体を説明した際に既述の事項については、一部説明を省略する。
本実施形態の両面めっき積層体の製造方法の一の構成例は、以下の工程を有することができる。
シード層と、乾式めっき法により形成された第1金属層とが、両面上にその順に直接配置されたプラスチックフィルムを、常温におけるプラスチックフィルムの吸水率の70%以上となるように吸湿させる吸湿工程。
吸湿工程の後、湿式めっき法により第2金属層を形成する第2金属層形成工程。
本発明の発明者らは、プラスチックフィルムの両面上に金属積層体を形成した両面めっき積層体において、プラスチックフィルムの表面に配置された金属積層体をエッチングし、プラスチックフィルムの一部を露出させると、大きな寸法変化が生じる場合がある原因について検討し、以下の点を見出した。
両面めっき積層体は例えば、プラスチックフィルムの両面上にそれぞれ、プラスチックフィルム側から順に、シード層、第1金属層、及び第2金属層を積層した構造を有する。そして、第1金属層は乾式めっき法により形成することができ、第2金属層は湿式めっき法により形成することができる。
乾式めっき法により第1金属層を形成する場合、プラスチックフィルムから出る水分や、他のガス成分による金属積層体の汚染を防ぐため、乾式めっき処理前あるいは乾式めっき処理と並行して、プラスチックフィルムを含む下地を、減圧下での加熱乾燥等を行うのが一般的である。係る操作により、プラスチックフィルムから水分や、その他の脱ガス成分を、除去することができる。このため、第1金属層を形成した直後は、プラスチックフィルムは水分がほぼない、例えば絶乾状態まで乾燥し、含有する水分は少なくなっており、収縮した状態にある。なお、シード層と、第1金属層とが形成されている程度では、プラスチックフィルムの寸法固定は不十分なので、プラスチックフィルムは収縮、伸長することができる。
そして、湿式めっき法により第2金属層を形成する場合、該第2金属層はめっき液内で、電解めっきや無電解めっきにより成膜されるため、下地となるプラスチックフィルムと、シード層と、第1金属層との積層体は、めっき液に浸漬される。この際、シード層の厚さと、第1金属層の厚さとの合計は例えば350nm以下と非常に薄いため、シード層と、第1金属層とが配置されていたとしても、吸湿速度は遅いものの、シード層、第1金属層を介してプラスチックフィルムは吸湿する。しかしながら、第2金属層を形成する際、シード層と、第1金属層とがプラスチックフィルムの両面上に配置されていると、プラスチックフィルムの吸湿の速度は遅くなるため、第2金属層を形成している間にプラスチックフィルムが含有する水分量は飽和状態、もしくはその近傍までには達しない。
そして、第2金属層が形成されることで、プラスチックフィルムの寸法が固定されてしまう。このため、配線等を形成するために、シード層、第1金属層、及び第2金属層の一部をエッチング等により除去し、プラスチックフィルムの表面が露出すると、該露出した部分から吸湿が進行し、大きな寸法変化が生じていた。
そこで、本実施形態の両面めっき積層体の製造方法の一構成例においては、上述のように、シード層と、乾式めっき法により形成された第1金属層とが、両面上にその順に直接配置されたプラスチックフィルムを、常温におけるプラスチックフィルムの吸水率の70%以上となるように吸湿させる吸湿工程を有することができる。
なお、ここでいう常温におけるプラスチックフィルムの吸水率とは、JIS K 7209(2000)に規定されたA法により飽和するまで水に浸漬させた際の吸水量(飽和吸水量)を測定し、該吸水量を用いて算出した吸水率(飽和吸水率)を意味する。このため、常温とは、23.0℃±2.0℃を意味する。
既述のように、シード層の厚さと、第1金属層の厚さとの合計は非常に薄いため、シード層と、第1金属層とがプラスチックフィルムの両面に配置されていたとしても、プラスチックフィルムは吸湿することができる。このように吸湿工程を実施することで、プラスチックフィルムを常温における該プラスチックフィルムの吸水率(飽和吸水率)の70%以上とする。そして、後述する第2金属層形成工程でさらにプラスチックフィルムの含有する水分量は増加することから、第2金属層形成工程を終えた段階で、プラスチックフィルムの含有する水分量は飽和状態、もしくはその近傍となる。
このため、第2金属層を形成後、シード層、第1金属層、第2金属層を含む金属積層体をエッチングして開口部を形成し、プラスチックフィルムが該開口部から露出したとしても、プラスチックフィルムはほとんど吸湿しないため、吸湿によるプラスチックフィルムの寸法変化を抑制できる。従って、両面めっき積層体の寸法変化を抑制することが可能になる。
吸湿工程において、シード層と、乾式めっき法により形成された第1金属層とが、両面上にその順に直接配置されたプラスチックフィルムを吸湿(調湿)する方法は特に限定されない。
例えば、吸湿工程において、シード層と、乾式めっき法により形成された第1金属層とが、その順に両面上に形成されたプラスチックフィルムを、湿度が60%以上100%以下の雰囲気下で、巻替搬送を行うことで、プラスチックフィルムを吸湿させることができる。吸湿工程において、シード層と、乾式めっき法により形成された第1金属層とが、その順に両面上に形成されたプラスチックフィルムを巻替搬送する際の雰囲気の湿度の上限値は上記のように例えば100%以下とすることができるが、第1金属層表面への水分の結露等を抑制することで、吸湿工程後の操作を特に容易にすることができるため、例えば80%以下とすることがより好ましい。
なお、本明細書において、湿度は相対湿度を意味する。
上述のように、吸湿工程において、シード層と、乾式めっき法により形成された第1金属層とが、その順に両面上に形成されたプラスチックフィルムを、巻替搬送する際の、雰囲気の温度は特に限定されないが、例えば23℃±2℃であることが好ましい。
吸湿工程において、シード層と、乾式めっき法により形成された第1金属層とが、その順に両面上に形成されたプラスチックフィルムを、例えばロールに巻いた状態で、上述の場合と同様に、湿度が60%以上100%以下の雰囲気下に保持することで、プラスチックフィルムを吸湿させることもできる。ただし、この場合、プラスチックフィルムについて、常温におけるプラスチックフィルムの吸水率の70%以上となるように吸湿させるためには、長時間、例えば24時間以上、上記雰囲気下に保持する必要がある。このため、上述のように所定の湿度雰囲気下で、巻替搬送を行うことが生産性の観点からは好ましい。
また、吸湿工程において、シード層と、乾式めっき法により形成された第1金属層とが、その順に両面上に形成されたプラスチックフィルムを、水中に浸漬させて吸湿させることもできる。
なお、上述のように、吸湿工程において、シード層と、乾式めっき法により形成された第1金属層とが、その順に両面上に形成されたプラスチックフィルムを水中に浸漬する際、水の温度は特に限定されないが、例えば23℃±2℃であることが好ましい。
吸湿工程において、シード層と、乾式めっき法により形成された第1金属層とが、両面上にその順に直接配置されたプラスチックフィルムを吸湿(調湿)する方法としては、1つの方法に限定されるものではない。例えば、シード層と、乾式めっき法により形成された第1金属層とが、その順に両面上に形成されたプラスチックフィルムを、湿度が60%以上100%以下の雰囲気下を巻替搬送する方法に加えて、水中に浸漬する方法を組み合わせて用いても良い。
そして、既述のように、本実施形態の両面めっき積層体の製造方法の一構成例は、上述の吸湿工程の後、湿式めっき法により第2金属層を形成する第2金属層形成工程を有することができる。
第2金属層形成工程においては、プラスチックフィルムの片面ずつ第2金属層を形成することもできる。ただし、生産性の観点から、第2金属層形成工程においては、第2金属層を、プラスチックフィルムの両面上に同時に形成することが好ましい。すなわち、プラスチックフィルムの一方の面上に形成した第1金属層上と、プラスチックフィルムの他方の面上に形成した第1金属層上とに同時に第2金属層を形成することが好ましい。
第2金属層形成工程において、湿式めっき法により第2金属層を形成する具体的な条件等は特に限定されるものではなく、第2金属層を構成する材料等に応じて選択しためっき液を用い、例えば電解めっき法や、無電解めっき法により成膜することができる。
第2金属層を、電解めっき法により形成する場合、例えば図2に示した連続電解めっき装置20を用いることができる。なお、電解めっき処理においては、既述のように片面成膜と、両面同時成膜との、どちらで行ってもよいが、ここでは両面に同時に第2金属層を成膜することができる連続電解めっき装置の構成例を示している。
図2は、連続電解めっき装置20の、両面めっき積層体前駆体F1の搬送方向と平行な面における断面図を示している。
連続電解めっき装置20は、シード層と第1金属層とがその順に両面上に配置されたプラスチックフィルムである、両面めっき積層体前駆体F1を巻出す巻出しロール21と、めっき液が満たされためっき液槽22と、めっき液槽22の内部に互いに平行に配置されたアノード(陽極)23a〜23pと、めっき液槽22の内部にあって両面めっき積層体前駆体F1の搬送方向を上下反転させる浸漬ロール24a〜24dと、めっき液槽22の外部にあって、両面めっき積層体前駆体F1に電力を給電する給電ロール25a〜25eと、両面めっき積層体前駆体F1に電気めっきを施して得られた、両面めっき積層体F2を巻取る巻取ロール26を備えている。
これら巻出しロール21、浸漬ロール24a〜24d、給電ロール25a〜25e、及び巻取ロール26により、両面めっき積層体前駆体F1の搬送手段が構成され、これによって両面めっき積層体前駆体F1を、その幅方向を水平に保ったまま、その長手方向にロールツーロール方式で搬送して、めっき液に複数回浸漬させることができる。
給電ロールと、その近傍に位置するアノードとは、電気的な対を成している。具体的には、給電ロール25aとアノード23a、23bとの間や、給電ロール25bとアノード23c〜23fとの間、給電ロール25cとアノード23g〜23jとの間、給電ロール25dとアノード23k〜23nとの間、給電ロール25eとアノード23o、23pとの間が、それぞれ対をなしている。各対は、独立した電源(図示せず)から電力を受けており、異なる対の間では、別々の電流制御がなされている。
アノード(陽極)23a〜23pについては特に限定されず、用いるめっき液等に応じて任意に選択することができ、例えば可溶性アノードや、不溶性アノードを用いることができる。めっき液槽22に入れるめっき液については、第2金属層の組成に応じて任意に選択することができ、例えば各種銅めっき液、より具体的には例えば硫酸銅めっき浴(光沢浴)等を用いることができる。
めっき液として硫酸銅めっき液を用いる場合、硫酸銅めっき液は、硫酸銅、硫酸、微量の塩素イオン及び各種添加剤等を含有することができ、その組成は目的に応じて適宜選択することができる。めっき液として硫酸銅めっき液を用いた場合、めっき液中の銅イオンを還元させ、両面めっき積層体前駆体F1のシード層の上に、容易に所望の厚みの銅層を形成することができる。
また、本実施形態の両面めっき積層体の製造方法は、上述の吸湿工程、第2金属層形成工程以外に任意の工程を有することができる。
例えば吸湿工程に供給するプラスチックフィルムの両面上に、シード層と、第1金属層とが、その順に直接配置された両面めっき積層体前駆体を製造するための以下の工程を有することもできる。
プラスチックフィルムを準備するプラスチックフィルム準備工程。
プラスチックフィルムの両面上にシード層を形成するシード層形成工程。
シード層上に第1金属層を形成する第1金属層形成工程。
プラスチックフィルム準備工程は、シード層形成工程に供給するプラスチックフィルムを準備する工程であり、具体的な操作は特に限定されない。例えばプラスチックフィルムを所望のサイズに切断したり、プラスチックについて加熱処理等を行ったり、その両面にプラズマ照射等の表面処理を行っておくこともできる。
シード層形成工程では、プラスチックフィルムの表面上にシード層を形成することができる。シード層の形成方法は特に限定されないが、例えば蒸着法やスパッタリング法等の乾式めっき法を用いることが好ましい。シード層の形成方法としては、特に膜厚の制御が容易であることから、スパッタリング法を用いることがより好ましい。シード層形成工程において、シード層を形成する際の具体的な条件は特に限定されるものではなく、シード層の材料や、シード層に要求される性能等に応じて任意に選択することができる。
シード層形成工程では、プラスチックフィルムの両面上にシード層を同時に形成することもできるが、片面ずつ形成することもできる。
第1金属層形成工程では、シード層上に第1金属層を形成することができる。第1金属層の形成方法についても特に限定されないが、蒸着法や、スパッタリング法等の乾式めっき法を用いることが好ましい。第1金属層の形成方法としては、特に膜厚の制御が容易であることから、スパッタリング法を用いることがより好ましい。
第1金属層形成工程において、第1金属層を形成する際の具体的な条件は特に限定されるものではなく、第1金属層の材料や、第1金属層に要求される性能等に応じて任意に選択することができる。
第1金属層形成工程では、プラスチックフィルムの両面上にそれぞれ形成したシード層上に第1金属層を同時に形成することもできるが、片面ずつ第1金属層を形成することもできる。
ここで、シード層や、第1金属層を成膜する際に好適に用いることができる、乾式めっき法を用いた成膜装置の構成例を、図3を用いて説明する。
図3は、成膜装置30の構成を模式的に表した図である。
図3の成膜装置30は、スパッタリング法により成膜する装置であり、スパッタリングフィルムコータとも称される装置である。なお、後述するように、マグネトロンスパッタリングカソード41a〜41dの構成等を変更することで、スパッタリング法以外の他の成膜方法を用いた、または併用した成膜装置とすることもできる。
成膜装置30は、減圧容器内において、ロールツーロール方式で連続的に搬送される被成膜物を、保持手段としてのキャンロール32の保持面、すなわち外周面に保持した状態で、該被成膜物に向けて成膜手段から放出される成膜粒子を、該被成膜物の表面に堆積させて成膜を行うことができる。
なお、キャンロール32の内部には、図示しない冷却手段を設けておくことができ、熱負荷のかかる乾式めっき法であっても、被成膜物に熱的ダメージを与えることなく、連続的に処理できる。
成膜装置30を構成する各要素、及びシード層、第1金属層等の成膜手順について具体的に説明する。
減圧容器としての真空チャンバー31内には、巻出しロール33と、巻取ロール34とが設けられており、巻出しロール33と、巻取ロール34との間でロールツーロール方式により被成膜物を搬送することができる。なお、真空チャンバー31の形状や材質については、減圧状態に耐え得るものであれば、特に限定はなく、種々のものを使用することができる。
プラスチックフィルムFの搬送経路について説明する。まず巻出しロール33から被成膜物である長尺状のプラスチックフィルムFが供給される。なお、第1金属層のみを成膜する場合には、長尺状のプラスチックフィルムFとしては、プラスチックフィルムの一方、または両方の面にはシード層を形成された物を用いることができる。
そして、巻出しロール33からキャンロール32までの被成膜物の搬送経路には、例えば、プラスチックフィルムFを案内するフリーロール35、プラスチックフィルムFの張力の測定を行う張力センサロール36、及び張力センサロール36から送り出されるプラスチックフィルムFをキャンロール32に導入する、モータ駆動のフィードロール37を、この順に配置することができる。
また、キャンロール32からプラスチックフィルムFを巻き取る、巻取ロール34までの搬送経路にも、上記の場合と同様に、モータ駆動のフィードロール38、プラスチックフィルムFの張力測定を行う張力センサロール39、及びプラスチックフィルムFを案内するフリーロール40を、この順に配置することができる。
キャンロール32の近傍に設けられた、フィードロール37及び38は、モータで回転駆動させ、キャンロール32の周速度に対する調整を行えるように構成することが好ましい。また、巻出しロール33では、パウダークラッチ等によるトルク制御を用いて、プラスチックフィルムFの張力バランスを保つように構成することができる。このように構成することで張力調整されながら巻き出されたプラスチックフィルムFは、キャンロール32に連動して回転するフィードロール37及び38によって、キャンロール32の外周面に密着した状態で冷却されながら、乾式めっき処理が施され、モータ駆動の巻取ロール34により巻き取ることができる。
キャンロール32の外周面に対向する位置には、プラスチックフィルムFの搬送経路に沿って、成膜手段である板状のマグネトロンスパッタリングカソード41a〜41dが配置されている。これにより、搬送されているプラスチックフィルムFの表面に対して、乾式めっき処理であるスパッタリング成膜処理を実施できる。
成膜装置30で施される乾式めっき処理は、上記スパッタリング法のみに限定されない。スパッタリング法と、例えばCVD(化学蒸着)、イオンプレーティング、真空蒸着などの他の真空成膜方法とを併用することもできる。また、スパッタリング法に替えて、上述の他の真空成膜方法を用いることもできる。これらの他の真空成膜方法を用いる場合は、マグネトロンスパッタリングカソード41a〜41dの一部、または全部に替えて、所定の真空成膜手段を設けることができる。
真空チャンバー31には、上述の手段以外にも、任意に図示しない各種手段を接続等することができる。例えばドライポンプ、ターボ分子ポンプ、クライオコイル等の排気手段や、真空チャンバー31内に気体を供給する気体供給手段のような種々の雰囲気制御手段を接続することができる。また、例えば巻出しロール33から供給したプラスチックフィルムの水分を除去できるように、プラスチックフィルムの搬送経路に沿って、図示しないヒーター等を設置しておくこともできる。
以上に説明した成膜装置30により、プラスチックフィルムの両面上にシード層や、第1金属層を成膜する場合には、例えばまずプラスチックフィルムの一方の面上にシード層や、第1金属層を形成することができる。そして、巻き替えを行った後、更に他方の面にも同様の処理を施すことで、プラスチックフィルムの両面上にシード層や、第1金属層を成膜してもよい。
シード層と、第1金属層とは、共に乾式めっき法により好適に形成することができる。このため、例えばシード層の成膜を行った真空室内で第1金属層を連続処理、すなわち連続形成することもできる。
上述の成膜装置30を用いて、シード層と、第1金属層とを連続形成する場合の構成例を説明する。
まず、巻出しロール33にプラスチックフィルムを装着する。
さらに、例えばマグネトロンスパッタリングカソード41aに、シード層に対応した組成を有するシード層用ターゲットを装着し、マグネトロンスパッタリングカソード41b〜41dに第1金属層に対応した組成の第1金属層用ターゲットを装着する。
次いで、真空チャンバー31内を図示しない排気手段によって排気し、真空チャンバー31内を到達圧力10−4Pa程度まで減圧した後、図示しない気体供給手段によりスパッタリングガスを導入して真空チャンバー31内を0.1Pa以上10Pa以下程度に圧力調整する。なお、スパッタリングガスとしては、アルゴンなどの不活性ガスを好適に使用することができ、目的に応じて、更に酸素などのガスが添加することもできる。
そして、巻出しロール33からプラスチックフィルムを供給しながら、マグネトロンスパッタリングカソード41a〜41dに電圧を印加することで、プラスチックフィルム上にシード層と、第1金属層とを積層することができる。
次に、本実施形態の両面めっき積層体の製造方法の他の構成例について説明する。
本実施形態の両面めっき積層体の製造方法の他の構成例は以下の工程を有することができる。
シード層と、乾式めっき法により形成された第1金属層とが、一方の面上にその順に直接配置されたプラスチックフィルムの、第1金属層上に、湿式めっき法により第2金属層を形成する第2金属層第1形成工程。
プラスチックフィルムの他方の面上に、シード層と、第1金属層とを乾式めっき法により形成するシード層・第1金属層形成工程。
シード層・第1金属層形成工程で、プラスチックフィルムの他方の面上に形成された第1金属層上に、湿式めっき法により第2金属層を形成する第2金属層第2形成工程。
本実施形態の両面めっき積層体の製造方法の他の構成例では、プラスチックフィルムの一方の面上に、シード層と、第1金属層とが予め形成されており、該第1金属層上に第2金属層を形成する(第2金属層第1形成工程)。なお、第2金属層の製造方法は、既述の両面めっき積層体の製造方法の一の構成例における第2金属層形成工程と、一方の面にのみ第2金属層を形成する点を除いては同様にして実施できる。
次いで、プラスチックフィルムの他方の面上に、シード層と、第1金属層とを乾式めっき法により形成する(シード層・第1金属層形成工程)。この際のシード層、第1金属層の製造方法は、既述の両面めっき積層体の製造方法の一の構成例において、既に説明したシード層形成工程、第1金属層形成工程と、他方の面上にのみシード層、第1金属層を形成する点を除いては同様にして実施できる。なお、シード層と、第1金属層とは、既述のように1つの真空チャンバー内で連続して形成することもできるが、それぞれ別に形成することもできる。
そして、プラスチックフィルムの他方の面上に形成された第1金属層上に湿式めっき法により第2金属層を形成する(第2金属層第2形成工程)。なお、第2金属層の製造方法は、既述の両面めっき積層体の製造方法の一の構成例における第2金属層形成工程と、他方の面上にのみ第2金属層を形成する点を除いては同様にして実施できる。
既述のように、第2金属層を形成する際、シード層と、第1金属層とがプラスチックフィルムの両面上に配置されていると、プラスチックフィルムの吸湿速度が遅くなるため、吸湿工程を実施しない場合、第2金属層を形成している間にプラスチックフィルムの含有する水分量は飽和状態、もしくはその近傍までには達しない。
そして、第2金属層が形成されることで、プラスチックフィルムの寸法が固定されてしまう。このため、配線等を形成するために、シード層、第1金属層、及び第2金属層の一部をエッチング等により除去し、プラスチックフィルムの表面が露出すると、該露出した部分から吸湿が進行し、大きな寸法変化率が生じていた。
一方、第2金属層を形成する際、プラスチックフィルムの一方の面上にのみシード層と、第1金属層とが設けられ、他方の面はプラスチックフィルムが露出している場合、湿式めっき法により第2金属層を形成する際、プラスチックフィルムが露出した面から吸湿が速やかに進行する。また、同時に、吸湿速度は遅いが、シード層、及び第1金属層を形成した面からも吸湿が進む。
このため、プラスチックフィルムの一方の面上にのみシード層と、第1金属層とを設けている場合には、両面上にシード層と、第1金属層とを設けた場合とは異なり、湿式めっき法により第2金属層を形成する際、プラスチックフィルムが飽和状態まで吸湿することができる。つまり、湿式めっき法により第2金属層を形成する際、プラスチックフィルムは、最大に膨張した状態とすることができる。
プラスチックフィルムが最大に膨張した時点で、プラスチックフィルムの一方の面上に湿式めっき処理により第2金属層を積層することで、プラスチックフィルムの寸法が固定される。なお、プラスチックフィルムの一方の面上に第2金属層を配置し、プラスチックフィルムの寸法を固定するためには、第2金属層の厚さが0.3μm以上であることが好ましい。
上述のように、プラスチックフィルムが最大に膨張した状態で、プラスチックフィルムの一方の面上に、第2金属層を形成することで、プラスチックフィルムの寸法が固定されている。このため、その後、プラスチックフィルムの他方の面上にシード層や、第1金属層を形成するために乾燥させた場合にもプラスチックフィルムの寸法は最大に膨張した状態で固定されている。また、さらに他方の面上に第2金属層を形成することで得られた両面めっき積層体について、金属積層体をエッチングすることでプラスチックフィルムを露出させ、該露出プラスチックフィルムが吸湿した場合でも、寸法変化率は十分に抑制できる。
本実施形態の両面めっき積層体の製造方法の他の構成例においても、さらに任意の工程を有することもできる。
例えば第2金属層第1形成工程に供給するプラスチックフィルムの一方の面上に、シード層と、第1金属層とが、その順に直接配置された前駆体を製造するための以下の工程を有することもできる。
プラスチックフィルムを準備するプラスチックフィルム準備工程。
プラスチックフィルムの一方の面上にシード層を形成するシード層形成工程。
上記シード層上に第1金属層を形成する第1金属層形成工程。
なお、プラスチックフィルム準備工程は、既述の両面めっき積層体の製造方法の一の構成例で説明したプラスチックフィルム準備工程と同様に構成することができるため説明を省略する。
また、シード層形成工程、及び第1金属層形成工程についても、既述の両面めっき積層体の製造方法の一の構成例で説明したシード層形成工程、第1金属層形成工程と、プラスチックフィルムの一方の面上にのみシード層、第1金属層を形成する点以外は同様に構成することができるため説明を省略する。
以上に説明した本実施形態の両面めっき積層体の製造方法によれば、プラスチックフィルムの表面に配置された金属積層体について、配線等を形成するためにエッチングし、プラスチックフィルムの一部が露出した場合でも、寸法変化を抑制した両面めっき積層体が得られる。また、配線等を形成し、プラスチックフィルムの一部が露出された状態で加熱された場合においても寸法変化を抑制した両面めっき積層体が得られる。
このため、本実施形態の両面めっき積層体の製造方法により得られる両面めっき積層体は、高密度実装の配線基板等の寸法変化を特に抑制することが求められる各種用途において好適に用いることができる。より具体的には例えば、本実施形態の両面めっき積層体の製造方法により得られる両面めっき積層体は、電子部品を接合し、電気的に繋げると共に機械的な固定を行う配線基板の材料として、非常に有用である。
本実施形態の両面めっき積層体、または本実施形態の両面めっき積層体の製造方法により得られた両面めっき積層体を用いて、配線基板を製造することもできる。このため、例えば本実施形態の両面めっき積層体に配線を形成する配線形成工程を有する配線基板の製造方法とすることもできる。
配線基板の配線は、例えばサブトラクティブ法またはセミアディティブ法で形成することができる。
サブトラクティブ法とは、シード層、第1金属層、第2金属層を含む金属積層体について、配線パターンに含まれない不要部分を化学エッチングして除去する方法である。
また、セミアディティブ法とは、選択的にめっき膜を成長させて回路形成する方法である。
サブトラクティブ法により配線を形成する場合を例に説明すると、配線形成工程は、以下のステップを有することができる。
第2金属層上に、形成する配線パターンに対応した形状を有するレジストを設けるレジスト配置ステップ。
レジストの上面からエッチング液を供給し、金属積層体の不要部分を除去する化学エッチングを行うエッチングステップ。
残存したエッチング液等を除去するため、両面めっき積層体を洗浄する洗浄ステップ。
以上のステップにより、所望の配線を備えた配線基板を形成することができる。
また、セミアディティブ法により配線を形成する場合には、以下の工程をさらに有することができる。
第1金属層形成後、第2金属層を形成する前に、第1金属層上に、形成する配線パターンに対応した形状のレジストを設けるレジスト配置工程。
第2金属層を形成後、レジストを除去するレジスト除去工程。
レジストを除去することで露出したシード層、及び第1金属層を除去するエッチング工程。
残存したエッチング液等を除去するため、両面めっき積層体を洗浄する洗浄工程。
セミアディティブ法により配線を形成する場合であって、既述の両面めっき層の製造方法の一の構成例により両面めっき層を形成する場合、既述の第2金属層形成工程の前に上記レジスト配置工程を実施することができる。特に吸湿工程の後にレジスト配置工程を実施することが好ましい。
そして、第2金属層形成工程の後に、レジスト除去工程、及びエッチング工程を実施できる。
また、セミアディティブ法により配線を形成する場合であって、既述の両面めっき層の製造方法の他の構成例により両面めっき層を形成する場合、既述の第2金属層第1形成工程、及び第2金属層第2形成工程の前にそれぞれ上記レジスト配置工程を実施することができる。
そして、第2金属層第1形成工程と、第2金属層第2形成工程との後にそれぞれレジスト除去工程、及びエッチング工程を実施できる。また、第2金属層第2形成工程の後にまとめてレジスト除去工程、及びエッチング工程を実施してもよい。
上記配線基板の製造方法によれば、既述の両面めっき積層体を用いているため、寸法安定性の高い配線基板とすることができる。また、150℃程度まで加熱した場合でも寸法変化を十分に抑制できる熱的寸法安定性に優れた配線基板とすることができる。このため、例えば高密度実装等が要求される配線基板として好適に用いることができる。
以下に具体的な実施例、比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
ここで、まず得られた両面めっき積層体の評価方法について説明する。
得られた両面めっき積層体について、IPC−TM−650、2.2.4、Method B及びMethod Cに準拠して寸法変化率を測定し、寸法安定性について評価した。
寸法変化率という指標では、収縮はマイナス値で、伸張がプラス値で表される。
金属積層体をエッチングした際の寸法変化率は、IPC−TM−650、2.2.4、Method Bに従って測定した。更に、150℃−30分の熱処理後の寸法変化率は、IPC−TM−650、2.2.4、Method Cに従って測定した。
以下、各実施例、比較例における両面めっき積層体の製造条件について説明する。
[実施例1]
プラスチックフィルムとして、幅0.5m×長さ3000mのポリイミドフィルムであるカプトン150EN−C(東レ・デュポン株式会社製)を用意した(プラスチックフィルム準備工程)。なお、用いたカプトン150EN−Cの厚さは37.5μm、吸水率(飽和吸水率)は1.7%となり、以下の実施例1〜5、比較例1、2でも同じプラスチックフィルムを用いている。
なお、上記吸水率とは、JIS K 7209(2000)に規定されたA法により飽和するまで水に浸漬させた際の吸水量(飽和吸水量)を測定し、該吸水量を用いて算出した吸水率(飽和吸水率)を意味する。以下、吸水率は同様の意味を有する。
次いで、プラスチックフィルムの両面に、スパッタリング法により、シード層として、厚さが8nmのNi−20%Cr合金層を成膜した(シード層形成工程)。なお、Ni−20%Cr合金とは、20質量%のCrと、残部、すなわち80質量%がNiとから構成されるNi−Cr合金であることを意味する。
また、プラスチックフィルムの両面に形成したシード層上に、第1金属層として、厚さが0.1μmの銅層を成膜した(第1金属層成膜工程)。
なお、シード層形成工程と、第1金属層形成工程とは、図3に示した成膜装置30を用いて、連続して実施した。成膜時には、真空チャンバー31内を一旦1×10−4Pa以下となるまで真空引きした後、アルゴンガスを導入し、真空チャンバー31内の圧力を0.3Paとした後、プラスチックフィルム一方の面上へ、シード層、及び第1金属層を連続成膜した。次いで、巻き替えを行った後、他方の面上にも同様にしてシード層、及び第1金属層を連続成膜した。成膜装置30の構成については既述のため、説明を省略する。
プラスチックフィルムの両面にシード層、及び第1金属層を成膜したものを、湿度が65%、温度が23℃の雰囲気内で、0.5m/minの速度で巻替搬送を行った(吸湿工程)。
吸湿工程を実施することで、常温(23.0℃±2.0℃)におけるプラスチックフィルムの吸水率(飽和吸水率)に対して70%まで水分を含有させることができた。なお、表1では、吸湿工程後のプラスチックフィルムが含有する水分量の、飽和吸水率に対する割合として上記値を示している。吸湿工程後のプラスチックフィルムが含有する水分量の、飽和吸水率に対する割合は、プラスチックフィルムの重量変化により算出した。
次いで、電解めっき法によって、第2金属層として、8μmの厚さの銅層を、プラスチックフィルムの両面に同時に形成した。なお、第2金属層はアノード電極や、給電ロール、浸漬ロールの数が異なる点以外は図2に示した連続電解めっき装置20と同様の構成の連続電解めっき装置を用いて成膜した。第2金属層を成膜する際、電流密度は、初期値は0.05A/dm2とし、それから0.04A/dm2刻みで少しずつ上昇させ、最終的には2A/dm2まで上昇させた。めっき液としては硫酸銅めっき液を用いた。
得られた両面積層体について、寸法安定性の評価を行った。結果を表1に示す。
[実施例2]
吸湿工程について、巻替搬送を実施せず、シード層と第1金属層とがその順に両面上に配置されたプラスチックフィルムである、両面めっき積層体前駆体をロールに巻いたまま、湿度が65%、温度が23℃の雰囲気内に72時間放置した点以外は、実施例1と同様にして両面めっき積層体を得た。
評価結果を表1に示す。
[実施例3]
吸湿工程において、シード層と第1金属層とがその順に両面上に配置されたプラスチックフィルムである、両面めっき積層体前駆体をロールに巻いたまま、吸湿用水槽内の温度が23℃の水に浸漬し、72時間保持した点以外は実施例1と同様にして両面めっき積層体を得た。
なお、水槽周辺の湿度は50%であった。
評価結果を表1に示す。
[実施例4]
プラスチックフィルムとして、実施例1と同じカプトン150EN−C(東レ・デュポン株式会社製)を用意した(プラスチックフィルム準備工程)。
次いで、プラスチックフィルムの一方の面上に、スパッタリング法により、シード層として、厚さが8nmのNi−20%Cr合金層を成膜した(シード層形成工程)。
また、プラスチックフィルムの一方の面上に形成したシード層上に、第1金属層として、厚さが0.1μmの銅層を成膜した(第1金属層形成工程)。
なお、シード層形成工程と、第1金属層形成工程とは、図3に示した成膜装置30を用いて、連続して実施した。成膜時には、真空チャンバー31内を一旦1×10−4Pa以下となるまで真空引きした後、アルゴンガスを導入し、真空チャンバー内の圧力を0.3Paとした後、プラスチックフィルムの一方の面上へ、シード層、及び第1金属層を連続成膜した。成膜装置30の構成については既述のため、説明を省略する。
プラスチックフィルムの一方の面上にシード層を介して形成した第1金属層上に、電解めっき法によって、第2金属層として8μmの厚さの銅層を形成した(第2金属層第1形成工程)。なお、第2金属層はアノード電極や、給電ロール、浸漬ロールの数が異なる点以外は図2に示した連続電解めっき装置20と同様の構成の連続電解めっき装置を用いて成膜した。第2金属層を成膜する際、電流密度は、初期値を0.05A/dm2とし、それから0.04A/dm2刻みで少しずつ上昇させ、最終的には2A/dm2まで上昇させた。めっき液としては硫酸銅めっき液を用いた。
次いで、プラスチックフィルムの他方の面上に、スパッタリング法により、プラスチックフィルム側から、シード層と、第1金属層とがその順となるように形成した(シード層・第1金属層形成工程)。
なお、シード層、及び第1金属層は、プラスチックフィルムの一方の面上に形成する場合と同様の条件で連続して形成した。
次いで、プラスチックフィルムの他方の面上に形成したシード層、及び第1金属層の、第1金属層上に第2金属層を形成した(第2金属層第2形成工程)。
なお、第2金属層は、プラスチックフィルムの一方の面上に形成する場合と同様の条件で形成した。
得られた両面積層体について、寸法安定性の評価を行った。結果を表1に示す。
[実施例5]
プラスチックフィルムを幅0.5m×長さ3000mのポリイミドフィルムであるユーピレックス 35SGA V1(以下、単に「ユーピレックスV1」と記載する)(宇部興産株式会社製)に変更した点以外は、実施例1と同様にして両面めっき積層体を得た。なお、用いたユーピレックスV1の厚さは34μm、吸水率(飽和吸水率)は1.2%となり、以下の実施例6〜8でも同じプラスチックフィルムを用いている。
評価結果を表1に示す。
[実施例6]
プラスチックフィルムを、ユーピレックスV1(宇部興産株式会社製)に変更した点以外は、実施例2と同様にして両面めっき積層体を得た。
評価結果を表1に示す。
[実施例7]
プラスチックフィルムを、ユーピレックスV1(宇部興産株式会社製)に変更した点以外は、実施例3と同様にして両面めっき積層体を得た。
評価結果を表1に示す。
[実施例8]
プラスチックフィルムをユーピレックスV1(宇部興産株式会社製)に変更した点以外は、実施例4と同様にして両面めっき積層体を得た。
評価結果を表1に示す。
[比較例1]
第1金属層形成工程を実施後、6時間大気雰囲気(湿度50%)に放置した後、吸湿工程を実施せずに第2金属層形成工程を実施した点以外は、実施例1と同様にして両面めっき積層体を得た。なお、第2金属層形成工程に供した、シード層と第1金属層とがその順に両面上に配置されたプラスチックフィルムである両面めっき積層体前駆体の、プラスチックフィルムが含有する水分量の、常温における吸水率(飽和吸水率)に対する割合は70%未満であることを確認した。
評価結果を表1に示す。
[比較例2]
吸湿工程について、巻替搬送を実施せず、両面に、シード層、及び第1金属層を形成したプラスチックフィルムをロールに巻いたまま、湿度が50%、温度が23℃の雰囲気内に72時間放置した点以外は、実施例1と同様にして両面めっき積層体を得た。
評価結果を表1に示す。
表1に示した結果から、実施例1〜実施例8においては、IPC−TM−650、2.2.4、Method B及びCの評価結果が±0.05%以内になっていることが確認できた。一方比較例1、2では、上記評価結果について±0.05%を超える場合があることを確認できた。
実施例1〜3、実施例5〜7では、シード層と第1金属層とがその順に両面上に配置されたプラスチックフィルムである、両面めっき積層体前駆体について、吸湿工程に供し、常温におけるプラスチックフィルムの吸水率(飽和吸水率)に対して70%以上となるように吸湿させている。このため、プラスチックフィルムに十分に吸湿させ、最大に膨張した状態で第2金属層が形成され、寸法が固定されているため、シード層、第1金属層、及び第2金属層の金属積層体の一部をエッチングし、プラスチックフィルムが露出することで吸湿した場合でも、寸法の変化がほとんど生じなくなっていたためと考えられる。
また、実施例4、8においては、プラスチックフィルムの一方の面上に、シード層、第1金属層、及び第2金属層を先に形成しており、第2金属層を形成する際にプラスチックフィルムが十分に吸湿し、最大に膨張した状態で第2金属層が形成され、寸法が固定されている。このため、プラスチックフィルムの他方の面上にシード層や、第1金属層を形成するために乾燥させた場合にもプラスチックフィルムの寸法は最大に膨張した状態で固定されている。また、さらに他方の面上に第2金属層を形成することで得られた両面めっき積層体について、金属積層体をエッチングすることでプラスチックフィルムを露出させ、該露出プラスチックフィルムが吸湿した場合でも、寸法変化率は十分に抑制できたと考えられる。
これに対して、比較例1では吸湿工程を実施していない。また、比較例2では吸湿工程を実施しているが、その吸湿の程度は十分ではない。
このため、第2金属層を形成した際に、プラスチックフィルムが十分に吸湿した状態ではないため、金属積層体の一部をエッチングし,プラスチックフィルムが露出することで吸湿し、寸法変化率が大きくなったものと考えられる。