以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態におけるインクジェット記録装置の要部の概略斜視図である。
記録媒体Pは、記録動作時に、搬送経路上に配置された搬送ローラ1と、これに従動するピンチローラ2と、の間に挟まれ、搬送ローラ1の回転に応じて、プラテン3上に支持されながら矢印Yの副走査方向に搬送される。搬送ローラ1に対して、ピンチローラ2が不図示のバネ等の押圧手段により付勢されている。プラテン3は、インクジェット方式の記録ヘッドHの吐出口が形成された面(吐出口形成面)と対向する記録位置に設けられている。プラテン3は、記録媒体Pの裏面を支持することにより、記録媒体Pの表面と、記録ヘッドHの吐出口形成面と、の間の距離を所定の距離に維持する。プラテン3上において記録された記録媒体Pは、回転する排出ローラ5と、これに従動する回転体である拍車6と、の間に挟まれて矢印Y方向に搬送されて、排出トレイ7上に排出される。
記録ヘッドHは、その吐出口形成面がプラテン3と対向するように、キャリッジ8に着脱可能に搭載される。キャリッジ8は、移動機構により記録ヘッドHと共に往復移動される。すなわち、キャリッジ8は、キャリッジモータ等の駆動力により、ガイドレール9,10にガイドされつつ、副走査方向と交差(本例の場合は、直交)する矢印Xの主走査方向(第1の方向)に沿って、矢印X1,X2方向に往復移動される。記録ヘッドHがキャリッジ8と共に矢印X1の往方向または矢印X2の復方向に移動しつつインクを吐出する記録走査と、記録媒体Pを副走査方向(第2の方向)に所定量搬送する搬送動作と、を交互に繰り返すことにより、記録媒体P上に画像が順次記録される。
このようなシリアルスキャン方式の記録装置においては、記録ヘッドHにおけるノズルのばらつきなどの影響を抑えて記録画像の画質を向上させるために、いわゆるマルチパス記録を実行することが可能である。マルチパス記録においては、記録媒体P上の所定領域に対する記録画像は、記録ヘッドHを複数回移動させる記録走査によって完成される。マルチパス記録時において、所定領域に対する記録ヘッドHの走査回数(パス数)は、記録モードおよびその他の条件に応じて設定される。
本例の記録ヘッドHには、シアンC、マゼンタM、イエローYのカラーインク、および金属光沢性を発現する粒子を含む機能性インク(金属粒子含有インク)である銀ナノインクSのそれぞれを吐出するためのノズルが設けられている。これらのインク(カラーインクおよび金属粒子含有インク)は、不図示のインクタンクから記録ヘッドHに供給され、記録データに基づいて、記録ヘッドHに設けられた複数のノズルから選択的に吐出される。記録ヘッドHは、電気熱変換素子(ヒータ)またはピエゾ素子などの吐出エネルギー発生素子を用いて、これらのインクをノズルに対応する吐出口から吐出する。複数のノズルは、主走査方向と交差(本例の場合は、直交)する方向に延在するノズル列を形成するように配列される。
図2は、記録装置の制御系を説明するためのブロック図である。
制御部(制御基板)3000の画像処理ASIC(専用カスタムLSI)3001およびCPU3002は、後述する各種制御処理、画像データ(RGB)からインクデータ(CMY)への変換、スケーリング、ガンマ変換、量子化等の画像処理等を担当する。さらに、これらは、機能性インク(Sインク)用の入力画像データから、機能性インクデータへの変換を実施する。メモリ3003は、CPU3002の制御プログラムを記憶するプログラムメモリ3003a、および実行時のプログラムを記憶するRAMエリア、画像データなどを記憶するワークメモリとして機能するメモリエリアを含む。また、メモリ3003のメモリエリアは、後述するマスク使用履歴を記憶する不揮発性メモリも含む。
本例においては、プリンタエンジン3004として、複数色のカラーインクを用いてカラー画像を記録するインクジェット方式のプリンタエンジンが搭載されている。USBコネクタ1012は、デジタルカメラ(DSC)3012を接続するためのポートである。メモリカード3011は、カードスロット1009を介して接続される。コネクタ3006には、ビューワ1011が接続される。USBハブ(USB HUB)3008は、PC3010から受信した画像データを画像処理ASIC3001に渡す。
記録装置1000は、画像処理ASIC3001によって各種画像処理が施された画像データに基づいて、画像を記録する。PC3010からの画像処理済みの記録データに基づいて記録装置1000が記録を行う際、PC3010からのデータは、そのままUSB3021を介してプリンタエンジン3004に入力される。これにより、記録装置1000に接続されているPC3010は、プリンタエンジン3004との間において、直接、データおよび信号を送受信して記録を実行させることができる。Wi-Fiデバイス3015は、スマートフォン3013およびタブレット端末3014と無線接続され、それらのスマートフォン3013およびタブレット端末3014から画像データを受信して、画像処理ASIC3001に渡す。その画像処理ASIC3001によって各種画像処理が施された画像データに基づいて、記録装置1000が画像を記録する。スマートフォン3013およびタブレット端末3014からの画像処理済みの記録データに基づいて記録を行う際には、それらのデータは、そのままUSB3021を介してプリンタエンジン3004に入力される。これにより、記録装置1000に接続されているスマートフォン3013およびタブレット端末3014は、プリンタエンジン3004との間において、直接、データおよび信号を送受信して記録を実行させることができる。
電源コネクタ3009は、電源3019によって商用ACから変換された直流電圧を入力する。また、制御部3000とプリンタエンジン3004との間の信号の送受信は、前述したUSB3021またはIEEE1284バス3022を介して行われる。
(プリンタエンジンの制御系)
図3は、プリンタエンジン3004の内部構成を説明するためのブロック図である。
プリンタエンジン3004のメイン基板E0014に備わるエンジン部ASIC E1102は、制御バスE1014を通してROM E1004に接続され、そのROM E1004に格納されたプログラムにしたがって各種制御を行う。例えば、各種センサに関連するセンサ信号E0104、およびマルチセンサE3000に関連するマルチセンサ信号E4003を送受信する。その他、エンコーダ信号E1020、フロントパネル上の電源キーE0018、リジュームキーE0019およびフラットパスキーE3004の状態を検出する。さらに、ホストI/F E0017、およびフロントパネル上のデバイスI/Fの接続状態およびデータ入力状態に応じて、各種論理演算および条件判断等を行うことにより、各構成要素を制御して記録装置1000の駆動制御を司る。
ドライバ・リセット回路E1103は、エンジン部ASIC E1102からのモータ制御信号E1106にしたがって、駆動信号E1037、E1035E4001、およびE4002を生成する。これらの駆動信号E1037、E1035E4001、およびE4002に基づいて、それらに対応するCRモータE0001、LFモータE0002、APモータE3005、およびPRモータE3006が駆動される。また、ドライバ・リセット回路E1103は電源回路を有しており、メイン基板E0014、キャリッジ基板、およびフロントパネルなど各部に必要な電力を供給する。さらに、ドライバ・リセット回路E1103は電源電圧の低下を検出して、リセット信号E1015の発生および初期化を行う。
電源制御回路E1010は、エンジン部ASIC E1102からの電源制御信号E1024にしたがって、発光素子を有する各センサ等への電力供給を制御する。ホストI/F E0017は、外部に接続されるホストI/FケーブルE1029に、エンジン部ASIC E1102からのホストI/F信号E1028を伝達し、また、このケーブルE1029からの信号をエンジン部ASIC E1102に伝達する。ホストI/F信号E1028は、図2中の制御部3000の画像処理ASIC3001およびUSB HUB3008を介してPC3010に伝達される。
電源ユニットE0015から供給される電力は、必要に応じて電圧変換されてから、メイン基板E0014の内外の各部へ供給される。また、エンジン部ASIC E1102からの電源ユニット制御信号E4000に基づいて、電源ユニットE0015が記録装置本体の低消費電力モード等を制御する。電源ユニットE0015は、図2中の電源コネクタ3009に接続される。
本例のエンジン部ASIC E1102は、1チップの演算処理装置内蔵の半導体集積回路であり、前述したモータ制御信号E1106、電源制御信号E1024、および電源ユニット制御信号E4000等を出力する。また、このエンジン部ASIC E1102は、ホストI/F E0017を通して外部との信号の授受を行うと共に、パネル信号E0107によって、フロントパネル上のデバイスI/F E0100との信号の授受を行う。また、エンジン部ASIC E1102は、センサ信号E0104に基づいて、PEセンサ、ASFセンサ等の各センサ類の状態を検知する。さらに、エンジン部ASIC E1102は、マルチセンサ信号E4003に基づいてマルチセンサE3000を制御すると共に、その状態を検知する。また、エンジン部ASIC E1102は、パネル信号E0107の状態を検知して、フロントパネルを制御して、フロントパネル上のLED E0020を点滅させる。
また、エンジン部ASIC E1102は、エンコーダ信号(ENC)E1020に基づいてタイミング信号を生成し、ヘッド制御信号E1021によって、記録ヘッドHとのインターフェースをとって、記録動作を制御する。エンコーダ信号(ENC)E1020は、エンコーダセンサの出力信号であり、フレキシブルフラットケーブルを通して入力される。ヘッド制御信号E1021は、フレキシブルフラットケーブルを通してキャリッジ基板に入力され、ヘッド駆動電圧変調回路およびヘッドコネクタを経て記録ヘッドHに供給される。また、ヘッドコネクタを通して、記録ヘッドHからの各種情報がASIC E1102に伝達される。記録ヘッドHにおけるインクの吐出部毎のヘッド温度情報の信号は、メイン基板E0014のヘッド温度検出回路E3002によって増幅された後、エンジン部ASIC E1102に入力されることにより各種の制御に用いられる。
DRAM E3007は、記録用のデータバッファ、および図2の制御部3000の画像処理ASIC3001などの種々のデバイスからの受信データバッファ等として使用される。そのデバイスとは、PC3010、メモリカード3011、DSC3012、スマートフォン3013、およびタブレット端末3014等である。またDRAM E3007は、各種の制御に必要なワーク領域としても使用される。
(画像処理)
図4は、ASIC3001またはCPU3002において実行される画像処理を説明するためのブロック図である。本例においては、ASIC3001において画像処理が実行されるものとして説明する。
まず、PC3010、メモリカード3011、DSC3012、スマートフォン3013、およびタブレット端末3014等から入力された画像データに基づいて、記録装置1000に搭載されるC,M,Yインクを用いて記録する場合について説明する。入力された画像データは、RGBの多値データ(8ビット)とする。
画像処理部601に入力されたRGBデータは、入力色変換部602により、記録装置1000における再現可能な色再現領域のR’G’B’の多値データ(8ビット)に変換される。具体的には、マトリクス演算処理または三次元ルックアップテーブル(3DLUT)処理等の既知の手法によって、データが変換される。3DLUTは、入力のRGBデータと、変換後のR’G’B’データと、の組み合わせを保持するテーブルである。例えば、R,G,Bのインク色のそれぞれを、0~255の多値のうちの0、17、34、・・・、221、238、255の16段階でテーブルに保持する場合は、16×16×16=4096の組み合わせとなる。このような組み合わせ通りのRGBデータが入力された場合は、テーブル上において対応するR’G’B’データが出力される。このような組み合わせ以外のRGBデータが入力された場合は、その近傍の4つの組み合わせを用いる既知の四面体補間の演算によって、R’G’B’データを算出する。色分解部603は、このようなR’G’B’データをCMYのデータに分解して、CMYの多値データ(8ビット)とする。このように、マトリクス演算処理または3DLUT処理等の既知の手法によって、データを変換する。
ガンマ補正部604は、記録装置1000による記録画像の明度がCMYデータに対してリニアに変化するようにCMYデータを補正して、C’M’Y’の多値データ(12ビット)とする。本例においては、一次元ルックアップテーブル(1DLUT)を用いて補正する。以上の色変換は、それぞれ色に対応するルックアップテーブルを用いて実施する。
量子化部605は、C’M’Y’データを量子化して量子化データとする。その量子化には、既知のディザ法または誤差拡散法を用いる。量子化データは、本例の場合、C、M、Yのインク毎に1ビットデータの2値に量子化される。各色1ビットの量子化データが「0」の場合、それに対応する記録ヘッドHのノズルからはインクが吐出されず(非吐出)、それが「1」の場合は、それに対応するノズルからインクが吐出される。このような量子化データに応じて記録ヘッドHがインクを吐出することにより、記録媒体Pにカラー画像が記録される。
次に、金属粒子含有インクとして銀ナノインク(Sインク)に関する入力画像データを量子化データに変換する処理について説明する。
本例の場合は、PC3010、メモリカード3011、DSC3012、スマートフォン3013、およびタブレット端末3014等から、銀色の多値データ(8ビット)としてSデータが入力される。Sデータは、RGBデータとは区別された多値データである。画像処理部601に入力されたSデータは、入力色変換部602および色分解部603においては処理されず、ガンマ補正部604に入力される。ガンマ補正部604は、記録装置1000の記録画像の明度または光沢度がSデータに対してリニアに変化するようにSデータを補正して、多値のS’データ(12ビット)とする。量子化部605は、そのS’データを量子化して量子化データとする。その量子化には、既知のディザ法または誤差拡散法を用いる。量子化データは、本例の場合、Sインク用の1ビットデータとして2値に量子化される。Sインク用の1ビットの量子化データが「0」の場合、それに対応する記録ヘッドHのノズルからは銀ナノインク(Sインク)が吐出されず(非吐出)、それが「1」の場合は、それに対応するノズルから銀ナノインクが吐出される。このような量子化データに応じて記録ヘッドHが銀ナノインクを吐出することにより、記録媒体Pに銀画像が記録される。
(マルチパス記録)
図5は、マルチパス記録の一例の説明図である。本例のマルチパス記録は、C,M,Y,Sインクのそれぞれについて、600dpiの解像度に対応する256ノズルが設けられた記録ヘッドHを用いて、記録媒体Pの所定領域(記録領域)に、記録ヘッドHの4回の走査によって画像を完成する4パス記録である。図5には、記録ヘッドHにおけるSインク用のノズルNのみを示す。記録ヘッドHには、同様に、C、M、Yインク用のノズルも設けられており、それぞれのC,M,Y,Sインク毎のノズル数は256である。
図5(a)は、記録媒体P上の領域Aに対する1パス目の記録動作の説明図である。記録ヘッドHのX1方向の記録走査(主走査)によって、全256ノズルの1/4の64ノズルのノズル領域H1を使用して、領域Aに1パス目の記録を行い、その記録後に、記録媒体PがY方向に64ノズル分の距離だけ搬送される。
図5(b)は、領域Aに対する2パス目の記録動作の説明図である。記録ヘッドHのX2方向の記録走査(主走査)によって、ノズル領域H1からY方向にずれた64ノズルのノズル領域H2を使用して、領域Aに2パス目の記録が行われる。このとき、ノズル領域H1を使用して、記録媒体P上の領域Bに1パス目の記録が行われる。このような記録後に、記録媒体PがY方向に64ノズル分の距離だけ搬送される。
図5(c)は、領域Aに対する3パス目の記録動作の説明図である。記録ヘッドHのX1方向の記録走査によって、ノズル領域H2からY方向にずれた64ノズルのノズル領域H3を使用して、領域Aに3パス目の記録がなされる。このとき、ノズル領域H2を使用して、記録媒体P上の領域Bに2パス目の記録が行われ、ノズル領域H1を使用して、記録媒体P上の領域Cに1パス目の記録が行われる。このような記録後に、記録媒体PがY方向に64ノズル分の距離だけ搬送される。
図5(d)は、領域Aに対する4パス目の記録動作の説明図である。記録ヘッドHのX2方向の記録走査によって、ノズル領域H3からY方向にずれた64ノズルのノズル領域H4を使用して、領域Aに4パス目の記録が行われる。このとき、ノズル領域H3を使用して、記録媒体P上の領域Bに3パス目の記録が行われ、ノズル領域H2を使用して、記録媒体P上の領域Cに2パス目の記録が行われ、ノズル領域H1を使用して、記録媒体P上の領域Dに1パス目の記録が行われる。このような記録後に、記録媒体PがY方向に64ノズル分の距離だけ搬送される。
このようにして、領域Aの記録画像が4パスによって完成される。同様の動作を繰り返すことにより、その他の領域に対しても4パスによって順次画像が記録される。
次に、このような4パス記録に対応する量子化データの振り分け方法について説明する。図6は、マルチパス記録用のパスマスクの説明図である。本例は、図5の場合と同様に、256ノズルを使用する4パス記録の例である。
図6のパスマスクMは、矢印Xの主走査方向に512画素、矢印Yの副走査方向に256画素の大きさをもち、それぞれの画素は1ビットで構成される。図6においては、値が「0」の画素を白によって表し、値が「1」の画素を黒によって表す。パスマスクMにおいて、マスク領域M1は1パス目に対応し、マスク領域M2は2パス目に対応する。同様に、マスク領域M3は3パス目に対応し、マスク領域M4は4パス目に対応する。
マスク領域M1,M2,M3,M4において、値「1」の画素の割合は、それぞれ約10%、約20%、約30%、約40%である。以下、それぞれのマスク領域において、全画素数に対する値「1」の画素数の割合を「記録比率」という。マスク領域M1,M2,M3,M4を重ね合わせたとき、値「1」の画素は、それぞれのマスク領域間において排他的に位置する。それらのマスク領域を重ね合わせたときに、主走査方向が512画素、および副走査方向が64画素の全領域(100%)は、値「1」の画素となる。
以下、あるインク(以下、「対象インク」ともいう)について、記録媒体Pの領域Aに対応する量子化データが全て「1」の場合、つまり、対象インクを領域Aの全域に対して吐出する場合について説明する。
図5(a)のようにノズル領域H1を使用して領域Aを記録する場合には、図6のマスク領域M1を用いる。領域Aの図5(a)中の左上端の画素と、マスク領域M1の図6中の左上端の画素と、を対応させて、前者の画素の量子化データの値と後者の値との論理積をとる。その論理積の結果が「1」のときは、その画素は対象インクが吐出される画素とし、それが「0」のときは、その画素は対象インクを吐出しない画素とする。図中の左上端の画素以外の画素に関しても同様に、互いに対応する領域Aの画素値と領域M1の画素値との論理積をとり、その論理積の結果に応じて、対象インクを吐出する画素であるか否かを決定する。領域Aの主走査方向における量子化データの画素数に対して、マスク領域M1の主走査方向における画素数が不足する場合には、マスク領域M1の画素数が不足する領域Aの画素位置に、マスク領域M1の図6中の左上端の画素を再び対応させる。このような対応付けを繰り返すことにより、領域Aのそれぞれの画素位置に対して、対象インクを吐出するか否かを決定することができる。
図5(b)のようにノズル領域H2を使用して領域Aを記録する場合には、図6のマスク領域M2を用いる。前述した場合と同様に、領域Aの画素とマスク領域M2の画素とを対応させ、それらの画素の値の論理積の結果に応じて、対象インクを吐出する画素であるか否かを決定する。図5(c)のようにノズル領域H3を使用して領域Aを記録する場合には、図6のマスク領域M3を用いる。前述した場合と同様に、領域Aの画素とマスク領域M3の画素とを対応させ、それらの画素の値の論理積の結果に応じて、対象インクを吐出する画素であるか否かを決定する。図5(d)のようにノズル領域H4を使用して領域Aを記録する場合には、図6のマスク領域M4を用いる。前述した場合と同様に、領域Aの画素とマスク領域M4の画素とを対応させ、それらの画素の値の論理積の結果に応じて、対象インクを吐出する画素であるか否かを決定する。
このようなデータ処理により、領域Aに4パスによって画像を記録することができる。領域B、C、Dについても同様に、それらの領域の画素とマスク領域との画素を対応させ、それらの画素の値の論理積の結果に応じて、対象インクを吐出する画素であるか否かを決定する。
(金属粒子含有インクの金属粒子)
金属粒子含有インク中の金属粒子の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上かつ30.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上かつ15.0質量%以下であることがさらに好ましい。
金属粒子は特に限定されず、例えば、金、銀、銅、白金、アルミニウム、チタン、クロム、鉄、ニッケル、亜鉛、ジルコニウム、錫等の粒子を挙げることができる。これらの金属粒子は、単体または合金でもよく、それらを組み合わせて使用することも可能である。また、金属粒子は、金属粒子の保存安定性、および形成される画像の光沢性の観点から、金、銀、銅粒子を用いることが好ましく、銀粒子であることが特に好ましい。銀粒子は、それによって形成される画像の高い光沢性と無彩色性のため、有色インクとの組み合わせにより、幅広いメタリックカラーを表現することが可能である。
本例において用いられる銀粒子の平均粒子径は、インクの保存安定性、および銀粒子により形成される画像の光沢性の観点から、1nm以上かつ200nm以下であることが好ましく、10nm以上かつ100nm以下であることがさらに好ましい。具体的な平均粒子径の測定方法としては、レーザー光の散乱を利用した、FPAR-1000(大塚電子製、キュムラント法解析)、ナノトラックUPA150EX(日機装社製、体積平均粒径の50%の積算値を採用)等を使用することができる。
(金属粒子含有インクの分散剤)
金属粒子の分散方式は特に限定されない。例えば、分散樹脂により分散させた樹脂分散金属粒子、または界面活性剤により分散させた金属粒子などを用いることができる。勿論、分散方式の異なる金属粒子を組み合わせて使用することも可能である。
分散樹脂は、水溶性もしくは水分散性を有する樹脂を用いることができる。特に、分散樹脂の重量平均分子量が1,000以上かつ100,000以下、さらには3,000以上かつ50,000以下のものが好ましい。分散樹脂としては、例えば、以下のものを用いることができる。スチレン、ビニルナフタレン、α,β-エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族アルコールエステル、アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、フマール酸、酢酸ビニル、ビニルピロリドン、アクリルアミド、または、これらの誘導体等を単量体とするポリマー。なお、ポリマーを構成する単量体のうちの1つ以上は、親水性単量体であることが好ましく、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体、または、これらの塩等を用いてもよい。または、ロジン、シェラック、デンプン等の天然樹脂を用いることもできる。これらの樹脂は、塩基を溶解した水溶液に可溶なアルカリ可溶型であることが好ましい。
界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、及び両性界面活性剤等の界面活性剤を用いることができる。具体的には、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノール類、アセチレングリコール化合物、アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物等を用いることができる。また、インクの表面張力を調整することを目的として、上記の界面活性剤をされに加えてもよい。
(金属粒子含有インクの水性媒体)
本例において用いられる金属粒子含有インクには、水および水溶性有機溶剤を含有する水性媒体を用いることが好ましい。インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.0質量%以上かつ50.0質量%以下とすることが好ましい。また、インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.0質量%以上かつ95.0質量%以下とすることが好ましい。
水溶性有機溶剤としては、例えば、以下のものを用いることができる。メタノール、エタノール、プロパノール、プロパンジオール、ブタノール、ブタンジオール、ペンタノール、ペンタンジオール、ヘキサノール、ヘキサンジオール、等のアルキルアルコール類。ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類。アセトン、ジアセトンアルコール等のケトンまたはケトアルコール類。テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類。ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の平均分子量200、300、400、600、および1,000等のポリアルキレングリコール類。エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6-ヘキサントリオール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール等の炭素数2~6のアルキレン基を持つアルキレングリコール類。ポリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の低級アルキルエーテルアセテート。グリセリン。エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールメチル(またはエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(またはエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類。また、水は、脱イオン水(イオン交換水)を用いることが好ましい。
(金属粒子含有インクのその他の成分)
本例において用いられる金属粒子含有インクは、必要に応じて、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、および蒸発促進剤等の種々の添加剤を含有してもよい。
以下、金属粒子含有インクとして、ナノオーダの平均粒径の銀粒子が分散されたインクを用いる例について説明する。
(本実施形態におけるパスマスク)
図7は、本実施形態において用いるC,M,Yインク用のパスマスクの説明図である。
インクジェット記録装置において、記録ヘッドHの端部付近(ノズル列の端部付近)のノズルから吐出されたインクは、その吐出方向が記録ヘッドHの中央部(ノズル列の中央部)に向かってずれる傾向にある。空気中におけるインクの飛翔により発生する気流の影響によって、インクの吐出領域における気圧が低くなる現象が起きるからである。例えば、記録ヘッドHの全ノズルが同じ吐出数のインクを吐出している場合、ノズル領域H1に対応するインクの吐出領域において、ノズル領域H2に近い領域の気圧が低くなる。そのため、ノズル領域H1におけるノズル領域H2から遠い領域のノズルから吐出されたインクは、その吐出方向がノズル領域H2寄りの方向にずれ、その結果、記録媒体上におけるインクの着弾位置が所望の位置からずれて画像品位の低下を招くおそれがある。同様に、ノズル領域H4のノズル領域H3から遠い領域のノズルから吐出されたインクは、ノズル領域H3寄りの方向にずれる。
本実施形態においては、このような現象を考慮して、図7(a)のように、記録ヘッドHの端部に位置するノズル領域H1,H4に対応するマスク領域M1,M4は、その記録比率を低く設定する。具体的には、マスク領域M1,M4のそれぞれの記録比率を約15%、マスク領域M2,M3のそれぞれの記録比率を約35%とする。これにより、図7(a)中の端部のノズルから吐出されるインクに関して、その飛翔方向にずれる吐出数を抑えることができる。
また、図7(a)におけるノズル領域H1,H2の境界付近、およびノズル領域H3,H4の境界付近は、記録比率の差が約20%となり、その記録比率の差によってインクの吐出方向にずれが生じるおそれがある。このような場合には、図7(b)のように、記録比率が滑らかに変化するパスマスクを用いることにより、インクの吐出方向のずれを抑えて、より高品位なか画像を記録することができる。図7(b)のの例の場合、マスク領域M1の記録比率は0~25%、マスク領域M2の記録比率は25~50%、マスク領域M3の記録比率は50~25%、マスク領域M4の記録比率は25~0%に滑らかに変化する。
(Sインクの定着メカニズム)
図8は、記録媒体Pに対するSインクの定着メカニズムの説明図である。
図8(a)は、記録媒体Pに対して、記録比率25%で吐出されたSインク101が着弾した際の模式図である。このときのSインク101は、銀粒子102(図中の黒丸)が水性媒体103に分散した状態にある。図8(b)は、図8(a)のSインク101における水性媒体103が記録媒体Pに浸透し、その水性媒体103に分散していた銀粒子102が記録媒体Pに定着して、銀層104(図中の黒層)が形成された状態の模式図である。記録媒体Pに水性媒体103が浸透する過程において、ナノオーダの銀粒子102は、互いに接触して銀層(銀膜)104を記録媒体P上に形成する。この形成された銀層104は、記録媒体P上において無彩色な金属光沢を発現する。
図8(c)は、記録媒体Pに対して、記録比率100%で吐出されたSインク101が着弾した際の模式図である。このときのSインク101は、図8(a)の場合と同様に、銀粒子102が水性媒体103に分散した状態にある。しかし、図8(a)の場合に比して、記録媒体Pの表面に多量にSインク101が着弾する。この状態から水性媒体103が記録媒体Pに浸透する際には、図8(a)の場合に比して、水性媒体103が浸透し終わるまでに長い時間が掛かる。そのため、多量の銀粒子102が記録媒体P上に定着するまでの時間が長くなり、その分、それらの銀粒子102同士が接触する機会が多くなる。その結果、金属光沢を発現する銀層104が増える。図8(d)は、図8(c)のSインク101における水性媒体103が記録媒体Pに浸透し、その水性媒体103に分散していた銀粒子102が記録媒体Pに定着して、銀層104(図中の黒層)が形成された状態の模式図である。
図8(b)の記録媒体Pに対して、図8(a)の場合と同量のSインク101を、着弾位置を変えてさらに3回繰り返し着弾させて、その繰り返しを計4回とすることにより、図8(c)と同等の多量のSインク101を着弾させることができる。この場合、各回におけるSインク101の着弾量は少量であるため、各回における水性媒体103の浸透時間は、図8(a)の状態から図8(b)の状態となるまでの時間である。その時間は、図8(c)の状態から図8(d)の状態までの水性媒体103の浸透時間に比べて短いため、その分、銀粒子102同士が接触する機会が少なくなり、それらが互いに接触する効率が低い。
したがって、インクジェット記録装置においてSインク101を用いて記録する場合には、1回の走査において、高い記録比率を割り当てることが金属光沢の発現性において好ましい。また、記録ヘッドHにおける複数のノズルの製造時の公差による画質劣化を低減するためには、マルチパス記録方式を採用することが好ましい。
(本実施形態のマルチパス記録)
本実施形態のマルチパス記録においては、金属光沢の発現を主目的とするパスと、製造公差による画質劣化の低減を主目的とするパスと、を設定する。具体的には、図9(a)のパスマスクMを用いた4パス記録を実施する。図9(a)において、マスク領域M1の記録比率は約70%、マスク領域M2,M3,M4の記録比率はそれぞれ約10%である。マスク領域M1に対応するノズル領域H1のノズルの使用比率は、ノズル領域H2,H3,H4のノズルに比べて極めて高い約7倍となる。そのため、ノズル領域H1のノズルの寿命は極端に短くなる。このようなノズルの寿命の観点からは、図9(a),(b),(c),(d)のように、記録比率が高い領域を順次変更することが望ましい。これらの図において、記録比率が高いマスク領域の記録比率はいずれも約70%である。
図10は、記録比率が高いパスと低いパスの前後関係に応じて異なるSインクの定着状態を模式的に示す。
図10(a)は、図9(a)のパスマスクMを用いて、記録比率が高いパスによる記録を先行させ、その後に記録比率が低いパスによる記録を実行した場合の模式図である。一方、図10(b)は、図19(d)のパスマスクMを用いて、記録比率が低いパスによる記録を先行させ、その後に記録比率が高いパスによる記録を実行した場合の模式図である。図10(a),(b)のように、Sインクが定着した銀層の表面には凹凸が発生する。
図10(a)の場合には、記録比率が高いパスによって形成された平坦な銀層121(図中の白層)の上に、記録比率が低いパスによって銀層122(図中の黒層)が形成される。図10(b)の場合には、記録比率が低いパスによって形成された銀層123(図中の白層)の上に、その銀層123を覆うように、記録比率が高い低いパスによって銀層124(図中の黒層)が形成される。一般に、それぞれのパスにおいて排他的な位置に記録される画素のサイズに対して、着弾するインクによって形成されるドットのサイズは大きい。そのため、図10(b)のように先行するドットによって形成される銀層123は、その後のドットによって形成される銀層124によって覆われることになる。図10(b)の場合、先行して形成される銀層123の表面の凹凸が発生し、その後の記録比率が高いパスによって、銀層123の表面の凹凸をならすように銀層124が形成される。
一方、図10(a)の場合は、記録比率が高いパスによって凹凸の少ない銀層121が形成された後に、記録比率が低いパスによって、銀層121の表面の凹凸の程度を大きくするように銀層122が形成される。そのため、図10(a)の場合は、銀層の表面の凹凸の程度が図10(b)の場合よりも大きくなり、図10(b)の場合に比べて光沢性が低下する。したがって、図9(a)~(d)のように、記録比率は変更せずに、記録比率が高いパスの順番だけを変更した場合には、ノズルの使用比率の差を抑える効果はあるものの、記録された銀画像の光沢性に差が生じる。つまり、記録比率が高いパスの順番が早いときの記録領域と、その順番が遅いときの記録領域と、の間において、記録画像の表面の凹凸の程度に差が生じ、その凹凸の程度の差が記録画像の光沢性の差として現れる。
図11は、本実施形態において用いる4パス用のパスマスクMA,MB,MC,MDの説明図である。
これらのパスマスクMA~MDは、いずれも記録比率が高いパスに対応するマスク領域を含み、その記録比率が高いパスの順番に応じて、その記録比率が高いパスの記録比率が互いに異なる。すなわち、図11(a)のパスマスクMAは、1パス目に対応するマスク領域M1の記録比率(高記録比率)が約70%であり、その他のパスに対応するマスク領域の記録比率は約10%である。図11(b)のパスマスクMBは、2パス目に対応するマスク領域M2の記録比率(高記録比率)が約67%であり、その他のパスに対応するマスク領域の記録比率は約11%である。図11(c)のパスマスクMCは、3パス目に対応するマスク領域M3の記録比率(高記録比率)が約64%であり、その他のパスに対応するマスク領域の記録比率は約12%である。図11(d)のパスマスクMDは、4パス目に対応するマスク領域M4の記録比率(高記録比率)が約61%であり、その他のパスに対応するマスク領域の記録比率は約13%である。
このように、高記録比率のパスの順番が1パス目のように早い場合には、高記録比率のパスの順番が4パス目のように遅い場合よりも、その高記録比率を高くする。つまり、高記録比率のパスの順番が早いほど、その高記録比率を高くする。具体的には、図11のように、高記録比率のパスが1パス目にある場合の高記録比率は約70%であり、それが2パス目の場合は約67%、それが3パス目の場合は約64%、それが4パス目の場合は約61%となる。このように、高記録比率のパスの順番が遅くなる程、その高記録比率を小さくする。結果的に、図10(a)のように、高記録比率のパスの順番が早いときの記録領域と、図10(b)のように、その順番が遅いときの記録領域と、の間において、記録画像の表面の凹凸の程度に差が小さく抑えられることになる。したがって、記録画像における光沢性の差を小さく抑えることができる。本実施形態においては、図11の記録比率を設定することによって、光沢性の差を小さく抑えることができた。記録比率は、使用するSインクと記録媒体の種類に応じて、光沢性の差を小さく抑える効果をより高めることができるように適宜調整することが好ましい。
このように、高記録比率のパスの順序を変更すると共に、高記録比率のパスの順番が早い程、その高記録比率を高くすることにより、ノズルの使用比率の差を抑えつつ、記録した銀画像の部分的な光沢性の差を低減することができる。
(記録動作)
図12は、本実施形態における記録動作を説明するためのフローチャートである。
まず、マスク設定履歴を入力する(ステップS1)。本実施形態においては、銀画像を記録する場合に、記録ジョブ毎にパスマスクを変更する。記録ジョブは、記録媒体が同じ、かつ設定される記録品位が同じである1ページ、または複数ページに対応する記録命令のセットである。例えば、記録ジョブ毎に、図11の(a)~(d)の何れかのパスマスクを用いて記録が行われる。マスク設定履歴には、今回の記録において何れのパスマスクを用いるかが記されており、図2のメモリ3003のメモリエリアに含まれる不揮発性メモリから読み出される。CPU3002は、後述するステップS8において、マスク設定履歴に対応する処理を実行する。
次のステップS2において、記録ジョブ中における1ページ分の画像データを入力する。その画像データはメモリ3003に入力され、その後の処理以降において、ASIC3001およびCPU3002により参照される。次にCPU3002は、メモリ3003に入力された画像データを参照して、入力した画像データに銀画像(Sデータ)が含まれるか否かを判定する(ステップS3)。Sデータは後述するステップS6にて処理され、SデータでないRGBデータはステップS4にて処理される。ステップS4における処理は、前述した図4の入力色変換部602による処理であり、RGBデータがR’G’B’データに変換される。ASIC3001に実装された入力色変換部602は、メモリ3003に入力された画像データのうちのRGBデータを処理する。
次のステップS5においては、前述したASIC3001に実装された図4の色分解部603によって、R’G’B’データがCMYデータのインク色のデータに分解される。次のステップS6における処理はガンマ補正処理であり、前述したように、ASIC3001に実装された図4のガンマ補正部604によって、CMYデータがC’M’Y’データに補正され、SデータがS’データに補正される。ステップS7の処理は量子化処理であり、前述したように、ASIC3001に実装された図4の量子化部605によって、C’M’Y’データおよびS’データがディザ法によって2値に量子化される。
次のステップS8の処理は、マスクの設定処理である。CPU3002は、図2のプログラムメモリ3003aから、先のステップS1において入力されたマスク設定履歴に記載された図11の(a)~(d)の何れかのパスマスクを読み出して、Sインクの量子化データと対応付ける。また、C,M,Yインクの量子化データに対しては、図7(b)のパスマスクMと対応付ける。次のステップは、マルチパス記録処理である。ステップS7にて処理された量子化データと、ステップS8において量子化データに対応付けられたパスマスクと、が図2のプリンタエンジン3004に送られる。プリンタエンジン3004は、前述したように、画素の位置毎に、量子化データとパスマスクのデータとの論理積をとる。論理積の結果が「1」である画素の位置に対しては、その位置に対応するノズルからインクを吐出する。このような処理を1ページのデータに対して繰り返し実施して、1ページ分の画像を記録する。
次のステップS10において、CPU3002は、記録ジョブの全ページ分の記録が終了したか否かを判定する。全ページ分の記録が終了していなければステップS2に戻って、次の1ページ分の画像データを入力する。全ページ分の記録が終了した場合は、ステップS11に移行する。
ステップS11の処理はマスク設定履歴の更新処理であり、CPU3002は、今回の記録ジョブにおいて図11(a)のパスマスクMAを用いた場合には、次回の記録ジョブにおいて用いるパスマスクとして、図11(b)のパスマスクMBを設定する。このように、記録ジョブ毎に、用いるパスマスクをパスマスクMA,MB,MC,MD,MA・・・の順に繰り返すように設定する。また、他の方法として、記録ジョブ毎に、パスマスクMA,MB,MC,MDをランダムに設定してもよい。また、他の方法として、パスマスクMA,MB,MC,MDのそれぞれの使用回数を累積しておいて、その使用回数が最も少ないパスマスクを記録ジョブ毎に設定してもよい。その使用回数は、パスマスクを使用した記録ジョブの数、ページ数、および走査回数などである。マスク設定履歴の更新後、マスク設定履歴を図2のメモリ3003のメモリエリアに含まれる不揮発性メモリに記憶して、図12の一連の処理を終了する。
(つなぎスジ)
次に、高記録比率のパスの順序と、つなぎスジと、の関係について説明する。つなぎスジは、パスとパスとの境界部におけるインクの着弾位置のズレによって、記録画像内において発生するスジ状の欠陥である。例えば、前述したように記録比率が高い場合、ノズル列の端部付近のノズルから吐出されるインクは、その飛翔中に方向が変化して着弾位置にズレが生じやすい。
図13は、記録媒体Pに対してSインクを4パスで記録した場合の模式図である。矢印Yは記録媒体Pの搬送方向であり、Wは、1パス当たりの主走査方向における記録幅である。図13(a),(b),(c),(d)は、それぞれ、図9(a),(b),(c),(d)のパスマスクを用いて記録した場合の説明図である。図13において、記録媒体P上に形成されている黒の層は、記録比率が高いパスによって形成された銀の層である。図13(a)の場合には、1パス目に、記録比率が高い図9(a)のノズル領域H1によって銀の層L(H1)が形成され、2,3,4パス目に、記録比率が低いノズル領域H2,H3,H4によって銀の層L(H2),L(H3),L(H4)が形成される。図13(b)の場合には、2パス目に、図9(b)の記録比率が高いノズル領域H2によって銀の層L(H2)が形成され、他の1,3,4パス目に、記録比率が低いノズル領域H1,H3,H4によって銀の層L(H1),L(H3),L(H4)が形成される。図13(c),(d)の場合も同様である。図13(c)の場合には、3パス目に、記録比率が高い図9(c)のノズル領域H3によって銀の層L(H3)が形成され、図13(d)の場合には、4パス目に、記録比率が高い図9(d)のノズル領域H4によって銀の層L(H4)が形成される。
つなぎスジが目立つ順は、以下の理由により、図13(d),(c),(b),(a)の順となる。
図13(d)の場合には、図9(d)のノズル領域H4によって、4パス目に記録比率が高い銀の層L(H4)が形成されるため、そのノズル領域H4における図9(d)中の下側領域のノズルから吐出されるインクは、ノズル領域H3寄りの方向によれる。その結果、図13(d)のように、記録比率が高い銀の層L(H4)には、記録媒体Pの搬送方向の下流側(同図中の右側)に、インクの着弾数が少ない領域が発生し、その領域がスジ状の欠陥として現れる。
一方、図13(a)の場合には、図9(a)のノズル領域H1によって、1パス目に記録比率が高い銀の層L(H1)が形成されるため、そのノズル領域H1における図9(a)中の上側領域のノズルから吐出されるインクは、ノズル領域H2寄りの方向によれる。その結果、図13(a)のように、記録比率が高い銀の層L(H1)には、記録媒体Pの搬送方向の上流側(同図中の左側)に、インクの着弾数が少ない領域が発生する。しかし、層L(H1)は、その後に形成される層L(H2),L(H3),L(H4)によって覆われるため、スジ状の欠陥は目立ちにくくなる。高記録比率の層の上を覆う層を形成するパス数は、図13(a)の場合は3パス、図13(b)の場合は2パス、図13(c)の場合は1パス、図13(d)の場合は0パスとなるため、つなぎスジが目立つ順は、図13(d),(c),(b),(a)の順となる。
次に、具体的に、図11(a),(b),(c),(d)のパスマスクを用いて、4パスにより銀画像を記録する例について説明する。
図11(a)のパスマスクMAを用いた場合には、それが図9(a)と同じパスマスクであるため、銀の層は図13(a)のように形成される。図11(b)のパスマスクMBを用いた場合には、図9(b)のパスマスクを用いた場合に比して、図13(b)の層L(H2)の記録比率が低くなり、他の層の記録比率が高くなる。この結果、層L(H2)のつなぎスジに対応する部分が他の層によって埋められて、つなぎスジが目立たなくなる。図11(c)のパスマスクMCを用いた場合には、図9(c)のパスマスクを用いた場合に比して、図13(c)の層L(H3)の記録比率が低くなり、他の層の記録比率が高くなる。この結果、層L(H3)のつなぎスジに対応する部分が他の層によって埋められて、つなぎスジが目立たなくなる。図11(d)のパスマスクMDを用いた場合には、図9(d)のパスマスクを用いた場合に比して、図13(d)の層L(H4)の記録比率が低くなる。そのため、その層L(H4)の厚みが小さくなり、インクの着弾位置のズレも小さくなってつなぎスジが目立たなくなる。本実施形態では、図11の記録比率を設定することによって、つなぎスジを目立たなくする効果があった。しかし、使用するSインクと記録媒体の種類に応じて、その効果をより高めることができるように、記録比率を適宜調整することが好ましい。
以上のように、本実施形態においては、高記録比率のパスの順番を変更すると共に、高記録比率のパスの順番が早い程、その高記録比率を高くすることにより、ノズルの使用比率の差を抑えつつ、銀画像のつなぎスジを目立たなくすることができる。また、光沢性の差を低減させることと、つなぎスジを目立たなくすること、との両方の観点から、良好な画像を記録するように記録比率に調整することが望ましい。
(第2の実施形態)
本発明の第2実施形態においては、つなぎスジをさらに目立たなくする。図14は、そのための方法の説明図である。
図14(a)は、図14(b)のパスマスクMEを用いて銀画像を4パスで記録した場合に、記録媒体P上に形成される銀の層の模式図である。記録比率が高い図14(b)のマスク領域M4を用いて、図14(a)の銀の層L(M4)が形成される。図14(c)は、図14(d)のパスマスクMFを用いて銀画像を4パスで記録した場合に、記録媒体P上に形成される銀の層の模式図である。記録比率が高い図14(d)のマスク領域M4を用いて、図14(c)の銀の層L(M4)が形成される。パスマスクME,MFのそれぞれにおいて、マスク領域M1,M2,M3の記録比率は約13%であり、マスク領域M4の記録比率は約61%である。但し、図14(d)のパスマスクMFにおいて、マスク領域のM1,M2,M3における同図中下側の8画素の領域に関しては、その領域の記録比率を同図中下側方向に向かって約12%~5%にまで下げるように記録画素が間引かれる。
図14(b)のパスマスクMEを用いて記録する場合には、記録ヘッドHの主走査方向の移動を伴って1回の記録走査を実施した後、記録媒体Pを副走査方向に64ノズル分だけ搬送してから、次の記録走査を実施する。以降、このような動作を繰り返すことにより、画像を4パスにより記録する。
一方、図14(d)のパスマスクMFを用いて記録する場合には、記録ヘッドHの主走査方向の移動を伴って1回の記録走査を実施した後、記録媒体Pを副走査方向に56ノズル分だけ搬送してから、次の記録走査を実施する。以降、このような動作を繰り返すことにより、画像を4パスにより記録する。このように、図14(d)のパスマスクMFを用いる場合には、記録媒体Pの副走査方向への搬送量をマスク領域の副走査画素数(64ノズル分)よりも少ない56ノズル分とする。これにより、図14(c)のように、副走査方向において隣接するパス毎の記録領域の境界部は、8画素分重なる。このように重なる画素数は、図14(a)において発生するつなぎスジの副走査方向の幅に応じて、適宜設定する。
このように、記録領域に重なり領域を設けることにより、図14(a)のようにノズル領域H4の端部に対応する層L(M4)のつなぎスジは、図14(c)のように埋めて目立たなくすることができる。仮に、図14(b)の記録比率のままのパスマスクMEを用いる記録領域に、重なり領域を設けた場合には、その重なり領域の記録比率が高くなる。その場合には、図14(a)のようにドットの形成数が少ないつなぎスジではなく、ドットの形成数が多いつなぎスジが発生することになる。そのために、図14(c),(d)のように、重なり領域に対応する部分の記録比率を下げることが有効であり、その記録比率の下げ量は、つなぎスジがより目立たなくなるように設定する。例えば、高記録比率のパスが2パス目と3パス目の場合には、4パス目が高記録比率の場合に比してつなぎスジが目立たないため、重なり領域は8画素よりも少なく設定する。また、重なり領域は同じ8画素として、記録比率の下げ量をより大きくしてもよい。このように、重なり領域を変更すること、および記録比率の下げ量を変更することは、つなぎスジを目立たなくする処理を変更することである。高記録比率のパスの順番が早いほど程、つなぎスジを目立たなくする処理の程度を小さく設定すること、つまり重なり領域の画素を少なくし、かつ記録比率の下げ量を小さく設定することが好ましい。このように、隣接する記録領域の境界部に対する記録条件を変更することにより、記録される銀画像のつなぎスジを目立たなくすることができる。
以上のように、高記録比率のパスの順番を変更すると共に、高記録比率のパスの順番が早い程、つなぎスジ処理の程度を小さくすることにより、ノズルの使用比率の差を抑えつつ、記録される銀画像のつなぎスジを目立たなくすることができる。
(第3の実施形態)
前述した第1の実施形態では、高記録比率のパスの順番を変更すると共に、高記録比率のパスの順番が早い程、その高記録比率を高くする。これにより、ノズルの使用比率の差を抑えつつ、記録される銀画像の光沢性の差を低減させると共に、つなぎスジを目立たなくすることができる。第3の実施形態では、高記録比率のパスの順番を変更することなく、ノズルの使用比率の差を抑える。
図15は、本実施形態におけるパスマスクの説明図である。本実施形態では、記録ヘッドHのSインク用の全256ノズルのうちの一部のノズルを用いて、4パス記録を実施する。本例においては、その一部のノズルの数を128ノズルとする。4パス記録において、1パス当たりのマスク領域の幅は32画素であり、それぞれのマスク領域に対応するノズル領域のノズル数は32である。
図15(a)の場合には、記録ヘッドHのSインク用の全256ノズルのうち、同図中上側の128ノズルを用いる。ノズル領域H1~H4は、それぞれマスク領域M1~M4に対応する。マスク領域M1,M2,M3の記録比率は約13%であり、記録領域M4の記録比率は約61%である。1つの記録ジョブにおいては、図12の処理にしたがって、図15(a)のパスマスクMGを用い、ノズル領域H1~H4によって4パス記録を実施する。その記録ジョブにおける全ページの記録が終了したときに、図12のステップS11において、マスク設定履歴を図15(b)のパスマスクMHに更新する。
図15(b)の場合、記録に用いるノズル領域H1~H4は、図15(a)の場合よりも副走査方向(図15(b)中の下方向)に32ノズル分だけシフトされる。同様に、図15(c),(d),(e)の場合には、記録に用いるノズル領域H1~H4が32ノズル分ずつシフトされる。図15(a)~(e)のパスマスクMG,MH,MI,MJ,MKを記録ジョブが終了する毎に、パスマスクMG,MH,MI,MJ,MK,MG,MH,・・・のように順次繰り返して変更する。あるいは、別の方法として、記録ジョブ毎に、パスマスクMG~MKをランダムに設定してもよい。さらに、別の方法として、パスマスクMG~MKの使用回数を累積しておいて、その使用回数が最も少ないパスマスクを記録ジョブ毎に設定してもよい。このような方法によって、記録ヘッドHのSインク用の全256ノズルのうち、図15中下側の160ノズルの使用比率の差を抑えることができる。また、パスマスクMG~MKにおいては、高記録比率のパスの順番が同じであるため、ノズルの使用領域を図15(a)~(e)のように変更しても画質の変化は抑えられる。
しかし、ノズルの使用領域を図15(a)~(e)のように変更した場合には、図15中上側の96ノズルの使用比率は低くなる。そこで、図16(a)~(e)のように、記録比率が高いパスが先行するパスマスクML,MM,MN,MO,MPも用いることにより、使用比率が低い96ノズルの使用比率を高くすることができる。パスマスクML~MPにおいて、マスク領域M1の記録比率は約70%であり、マスク領域M2,M3,M4の記録比率は約10%である。図15のパスマスクの高記録比率68%に対して、高記録比率パスが先行する図16では、高記録比率を70%と高く設定している。この結果、高記録比率のパスの順番の偏りに起因する画質の差を小さく抑えることができる。記録ジョブ毎に、図15のパスマスクMG~MKと図16のパスマスクML~MPを順次変更して用いることができる。例えば、パスマスクMG~MK,ML~MP,MG~MK,・・・のように順次繰り返して変更する。また、別の方法として、記録ジョブ毎に、パスマスクMG~MK,およびML~MPをランダムに設定してもよい。さらに、別の方法として、パスマスクMG~MK,およびML~MPの使用回数を累積しておいて、その使用回数が最も少ないパスマスクを記録ジョブ毎に設定してもよい。使用回数は、パスマスクを使用した記録ジョブの数、ページ数、および走査回数などである。
一方、図15のパスマスクMG~MKと図16のパスマスクML~MPを全て順次用いた場合には、記録ヘッドHの中央に位置する64ノズルの使用比率が高くなる。そこで、例えば、図15(a)~(e)のパスマスクMG~MKと、図16(a)~(c)のパスマスクML,MM,MNと、を用いることにより、ノズルの使用比率の差を抑えることができる。図15(b)~(e)のパスマスクMH~MKと、図16(a)~(d)のパスマスクML~NOと、を用いた場合、あるいは、図15(c)~(e)のパスマスクMI~MKと、図16(a)~(e)のパスマスクML~NPと、を用いた場合も同様である。
本実施形態では、記録ヘッドHのSインク用のノズル256ノズルのうちの一部の使用領域を変更する際に、その使用領域を128ノズルの領域とした。しかし、その使用領域は、128ノズル分より小さくてもよく、また、大きくてもよい。但し、それが小さくなる程、記録に要する時間が増大することになる。また本実施形態では、32ノズルを1ブロックとして、256ノズル中の8ブロックのうちの連続する4ブロック(128ノズル)を使用したが、これに限定されない。例えば、1ノズルを1ブロックとして、256ノズル中の256ブロックのうちの連続する128ブロック(128ノズル)を使用してもよい。また128ノズルを1ブロックとして、256ノズル中の2ブロックのうちのいずれかの1ブロックを使用してもよい。
(他の実施形態)
前述した第1~第3の実施形態では、Sインクによる4パス記録について説明した。しかし、パス数は限定されず、例えば、8パス記録を採用して、高記録比率のパスが1パス目の場合には、その高記録比率を約72%とし、その他のパスの記録比率を約4%とする。また、8パス記録において、高記録比率のパスが8パス目の場合には、その高記録比率を約65%にし、その他のパスの記録比率を約5%とする。高記録比率のパスは、金属光沢の発現を主目的としたパスであるため、パス数を4から8に増やしても、その高記録比率は同等程度であることが好ましい。また、上述した実施形態においては記録ヘッドのノズル数が256であるため、8パス記録の場合には、それぞれのパスに対応するノズル数を32とすればよい。さらに、パス数を増やすことも可能である。金属光沢の発現を主目的としたパスに好ましい高記録比率を特定のパスに割り当てて、その他のパスに残りの記録比率を分散すればよい。
また、高記録比率のパスの順番に応じて光沢性に差が生じるため、高記録比率のパスの順番が早い程、その高記録比率を高くすることにより、光沢性の差を小さく抑えることができる。一方、パス数を減らして2パスとすることも可能である。しかし、ノズルの製造公差による画質劣化を低減する上においては、3パス以上とすることが好ましい。上述した実施形態においては記録ヘッドのノズル数が256であるため、3パス記録の場合には、256ノズルのうちの1ノズルを不使用ノズルとして、それぞれのパスに対応するノズル数を85とすればよい。
同一の記録媒体を用いて同一の記録品位の記録をする場合に、高記録比率のパスの順番が最も早いときの、その高記録比率は、マルチパス記録のためのパス数に拘わらず、その高記録比率のパスが他の順番にあるときの、その高記録比率よりも同等以上とする。また、記録媒体上のある領域に対して、その領域における記録媒体の表面が見えないようにSインクで覆って記録をする場合、その領域を高記録比率のパスによって覆うことは、その表面の凸凹を低減する上において好ましい。つまり、高記録比率のパスによって記録された銀の層の面積は、記録対象の画素領域の面積に対して同等以上であるとことが好ましい。
例えば、600dpiの解像度に対応するように配列された記録ヘッドHのノズルから、11.5plのインクが吐出され、そのインクが記録媒体Pに着弾することにより形成される1ドットの半径30.8μmの円形である場合を想定する。この場合、記録対象の画素領域の面積は、その1辺が600dpiの解像度に対応する約42.3μmの正方形となる。この正方形の面積は、約1789.29μm2である。1ドットの円形の画像面積は、約2978.73μm2である。この場合には、インクよって画素領域を覆うように、高記録比率は、約60%(=1789.29/2978.73×100)以上とすることが好ましい。
また、銀画像の表面の凹凸性は、図10(a),(b)のように、記高録比率のパスの順番によって異なる他、記録媒体の種類によっても異なる場合がある。その理由の1つは、記録媒体の種類によって、その表面の凹凸性が異なるからである。そのため、記録媒体の種類に応じて、高記録比率のパスの順番、および、その高記録比率を設定することにより、光沢性を低減し、かつつなぎスジを目立たなくすることができる。具体的には、図2のプログラムメモリ3003a内に、3DLUT、1DLUT、量子化テーブル(ディザ閾値テーブルおよび誤差拡散閾値テーブル)、およびパスマスクパターンを記録媒体の種類と対応付けて記憶しておく。そして、図12のステップS4~S9において、記録対象の記録媒体の種類に応じて、3DLUT、1DLUT、量子化テーブル、およびパスマスクパターンをプログラムメモリ3003aから読み出して設定する。
また、第1~第3の実施形態では、記録ジョブ毎に、パスマスクを変更可能とした。しかし、その変更タイミングは限定されず、所定の記録領域毎(例えば、記録ジョブのページ間、または記録ジョブのページ内)において変更してもよい。
図17は、記録ジョブのページ間において、パスマスクを変更する場合の処理を説明するためのフローチャートである。
ステップS1~S9は、図12のステップS1~S9と同じ処理であるため説明は省略する。ステップS21は、マスク設定履歴の更新処理であり、CPU3002は、1ページの記録が終了した後に、次のページの記録に用いるパスマスクを設定して更新する。例えば、記録が終了した1ページの記録において、図11(a)のパスマスクMAを用いた場合には、次のページの記録に用いるパスマスクとして、図11(b)のパスマスクMBを設定する。このように、1ページ毎に、使用するパスマスクをパスマスクMA,MB,MC,MD,MA・・・の順に繰り返すように設定する。また、他の方法として、1ページ毎に、パスマスクMA,MB,MC,MDをランダムに設定してもよい。また、他の方法として、パスマスクMA,MB,MC,MDのそれぞれの使用回数を累積しておいて、その使用回数が最も少ないパスマスクを1ページ毎に設定してもよい。その使用回数は、パスマスクを使用したページ数、および走査回数などである。また、複数ページ毎にパスマスクを変更してもよい。
次のステップS22において、CPU3002は、記録ジョブの全ページ分の記録が終了したか否かを判定する。全ページ分の記録が終了していなければステップS2に戻って、次の1ページ分の画像データを入力する。全ページ分の記録が終了した場合は、マスク設定履歴を図2のメモリ3003のメモリエリアが有する不揮発性メモリに記憶して、図17の一連の処理を終了する。
図18は、記録ジョブのページ内においてパスマスクを変更する場合の処理を説明するためのフローチャートである。
ステップS1~S7は、図12のステップS1~S7と同じ処理であるため説明は省略する。ステップS31の処理は、マスクの設定処理である。CPU3002は、先のステップS1において入力されたマスク設定履歴に記載された図11(a)~(d)の何れかのパスマスクを図2のプログラムメモリ3003aから読み出して、Sインクの量子化データと対応付ける(初期設定)。また、C,M,Yインクの量子化データに対しては、図7(b)のパスマスクと対応付ける。次のステップは、マルチパス記録処理である。画素の位置毎に、ステップS7にて処理された量子化データと、ステップS31において量子化データに対応付けられたパスマスクのデータと、の論理積をとる。論理積の結果が「1」である画素の位置に対しては、その位置に対応するノズルからインクを吐出する。このような処理を1ページのデータに対して繰り返し実施して、1ページ分の画像を記録する。ただし、ステップS31においては、後述するように、Sインクに対して初期設定したパスマスクをページ内において変更する。
次のステップS33において、CPU3002は、記録ジョブの全ページ分の記録が終了したか否かを判定する。全ページ分の記録が終了していなければステップS2に戻って、次の1ページ分の画像データを入力する。全ページ分の記録が終了した場合は、ステップS34のマスク設定履歴の更新処理に移行する。ステップS34において、CPU3002は、図11のパスマスクMA~MDのそれぞれの使用回数の累積しておいて、その使用回数が最も少ないパスマスクを次回のステップS31における初期設定用のパスマスクとして設定(マスク設定履歴を更新)する。その後、マスク設定履歴を図2のメモリ3003のメモリエリアが有する不揮発性メモリに記憶して、図18の一連の処理を終了する。
次に、図5および図11を用いて、ページ内においてパスマスクを変更する方法について説明する。
まず、図18のステップS31において、Sインク用のパスマスクとして図11(a)のパスマスクMAが初期設定された場合を想定する。この場合、図5(a)の領域Aに対する1パス目の記録には、図5(a)のノズル領域H1と、パスマスクMAのマスク領域M1と、が用いられる。領域Aの2パス目の記録には、図5(b)のノズル領域H2と、パスマスクMAのマスク領域M2と、が用いられる。領域Aの3パス目の記録には、図5(c)のノズル領域H3と、パスマスクMAのマスク領域M3と、が用いられる。領域Aの4パス目の記録には、図5(d)のノズル領域H4と、パスマスクMAのマスク領域M4と、が用いられる。このようにして、領域Aに対する4パス記録が終了する。
このような領域Aと同じページ内に位置する図5の領域Bに関しては、Sインク用のパスマスクとして図11(b)のパスマスクMBを用いる。すなわち領域Bに対する記録において、1パス目では、ノズル領域H1とパスマスクMBのマスク領域M1とが用いられ、2パス目では、ノズル領域H2とパスマスクMBのマスク領域M2とが用いられる。同様に、3パス目では、ノズル領域H3とパスマスクMBのマスク領域M3とが用いられ、4パス目では、ノズル領域H4とパスマスクMBのマスク領域M4とが用いられる。図5の領域Cに対しては、図11(c)のパスマスクMCを用いて4パス記録を行い、図5の領域Dに対して、図11(d)のパスマスクMDを用いて4パス記録を行う。このように、1ページ内の1パス分の領域毎にパスマスクを変更して記録を行う。パスマスクは、本例のようにパスマスクMA,MB,MC,MD,MA,MB,・・・の順に繰り返して設定する他、それらのパスマスクをランダムに設定してもよい。また、複数パス分の領域毎にパスマスクを変更してもよい。
図19は、マスク設定履歴を説明するための図である。
記録媒体の種類毎に、複数の記録品位とパスマスクの種類とが対応付けられており、そのパスマスクの種類毎に、パスマスクの使用回数が記憶される。また、パスマスクの種類毎に、後述するフラグを記憶することができる。パスマスクA,Bは、記録媒体と記録品位との組み合わせに応じて適宜設計される。記憶される使用回数は、パスマスクが使用されたページ数の累積数の他、上述したように、パスマスクが使用された記録ジョブの数あるいは走査回数であってもよい。フラグは、図12、図17、および図18のマスク設定履歴の更新処理において、次回に使用するパスマスクを指定する。図19における記録媒体Aと記録品位Aとの組み合わせの場合には、パスマスクCの使用回数が最も少ないため、フラグによって、そのパスマスクCが次回使用するパスマスクとして指定される。また、図19における記録媒体Aと記録品位Bとの組み合わせの場合には、パスマスクAの使用回数が最も少ないため、フラグによって、そのパスマスクAが次回使用するパスマスクとして指定される。同様に、記録媒体Bと記録品位Aとの組み合わせの場合には、使用回数が最少のパスマスクDが指定され、記録媒体Bと記録品位Bとの組み合わせの場合には、使用回数が最少のパスマスクBが指定される。
記録媒体Aと記録品位Bとの組み合わせの場合には、パスマスクA~Dのみの使用回数がカウントされている。その理由は、その組み合わせにおいて用意されているパスマスクが4種類であるからである。同様に、記録媒体Bと記録品位Aとの組み合わせ、および記録媒体と記録品位Bとの組み合わせにおけるパスマスクは、それぞれ4種類および3種類である。また、次に使用するパスマスクは、使用回数に応じてフラグにより設定する他、前述したように、順次繰り返して設定してもよく、あるいはランダムに設定してもよい。図12、図17、図18においては、入力された図19のようなマスク設定履歴に基づき、指定された記録媒体と記録品位とを参照して、フラグが付されたパスマスクを次に使用するパスマスクとして設定する。
本発明は、このようなパスマスクを用いるマルチパス記録の他、他のマルチパス記録にも適用することができる。
例えば、図4の量子化部605において量子化されたデータをパス数分の画像にランダムに分配する。1パス目の記録比率を高くする場合には、量子化データから、全画素に対して70%の画素数をランダムな画素位置から選択して、それを1パス目の量子化データとする。その他のパスのそれぞれに関しては、まだ選択されていない画素位置から10%の画素数をランダムに選択して、それを、その他のパスのそれぞれの量子化データとする。
また、図4のガンマ補正部604において補正されたS’データに、12ビットの最小値と最大値のみが含まれる場合には、そのS’データをパス数分の画像にランダムに分配する。1パス目の記録比率を高くする場合には、S’データから、全画素に対して70%の画素数をランダムな画素位置から選択して、1パス目のS’データとする。その他のパスのそれぞれに関しては、まだ選択されていない画素位置から10%の画素数をランダムに選択して、それを、その他のパスのそれぞれのS’データとする。その後、各パス用のS’データを量子化部605にて量子化して、各パス用の量子化データを生成する。画素選択のランダム性を実現するために、ホワイトノイズ、ブルーノイズ、またはグリーンノイズなどを使用する。また、この場合はパス毎の量子化データが生成されるため、前述した実施形態におけるパスマスクは使用せずに、パス毎の量子化データの「1」に対応する画素位置に対して、記録ヘッドからインクを吐出すればよい。
また、以上の実施形態においては、ナノオーダの平均粒径である金属粒子としての銀粒子が分散されたインクを用い、それをインクジェット方式の記録装置によって記録ヘッドから吐出する。しかし、ナノオーダの平均粒径をもつ他の金属粒子が分散されたインクを用いてもよい。また、カラーインクとして、C、M、Yの3色のインクの他、他のカラーインクを用いてもよい。例えば、ブラック(Bk)、ブルー(Bl)、グリーン(Gr)、レッド(Re)、オレンジ(Or)、バイオレット(Vi)等のカラーインクを用いることができる。さらに、それらのC、M、Y、Bk、Bl、Gr、Re、Or、Viの色相に近い淡いフォトインクを用いてもよい。また、記録ヘッドは、600dpiの解像度に対応する256ノズルが設けられた構成に限定されず、例えば、1200dpi等の解像度に対応する構成であってもよい。また、ノズル数も限定されず、例えば、ノズル数が512などであってもよい。記録品位に対応するマルチパス数、および記録ヘッドに設けられたノズルの数に応じて、各パスに割り当てるノズル数を設定すればよい。
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサーがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。