以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態の説明を行う。
本発明のチョクラスキー法を用いた結晶育成装置は、大気中または不活性ガス雰囲気中で育成されるニオブ酸リチウムLiNbO3(以下LN)、タンタル酸リチウムLiTaO3(以下LT)、イットリウムアルミニウムガーネットY3Al5O12(以下YAG)などの酸化物単結晶の製造に用いる結晶育成装置である。チョクラルスキー法は、ある結晶方位に従って切り出された種と呼ばれる、通常は断面の一辺が数mm程度の直方体単結晶の先端を、同一組成の融液に浸潤し、回転しながら徐々に引上げることによって、種結晶の性質を伝播しながら大口径化して単結晶を製造する方法である。
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る結晶育成装置の一例を示した概要図である。図1に示されるように、第1の実施形態に係る結晶育成装置は、ルツボ10と、ルツボ台20と、リフレクタ30と、アフター・ヒーター40と、断熱材50、51と、耐火物60と、引き上げ軸70と、誘導コイル80と、底部補助発熱体90と、側面円筒補助発熱体91と、電源100と、制御部110とを備える。なお、加熱手段は、ルツボ10と、アフター・ヒーター40と、底部補助発熱体90と、側面円筒補助発熱体91とを加熱する誘導コイル80である。また、電源100は、誘導コイル80に高周波電力を供給するために設けられている。
本実施形態に係る結晶育成装置において、ルツボ10はルツボ台20の上に載置される。ルツボ10の上方には、リフレクタ30を介して、アフター・ヒーター40が設置されている。ルツボ10を取り囲むように断熱材50が設置されている。更に、アフター・ヒーター40を取り囲むように断熱材51が設けられている。また、断熱材50、51の外側には耐火物60が設けられ、ルツボ10の周囲全体を覆っている。耐火物60の側面の外側には、誘導コイル80が配置されている。
ルツボ台20の一部には、底部補助発熱体90が設置されている。また、底部補助発熱体90の上方であって、ルツボ10の底面よりも下方の範囲の高さ位置のルツボ台20の側面に、円筒形状を有してルツボ台20の側面を帯状に覆う側面円筒補助発熱体91が設けられている。
なお、誘導コイル80が外側に設けられた耐火物60は、図示しない支持台の上に載置される。また、誘導コイル80の周囲を、図示しないチャンバーが覆う。
ルツボ10及びその周囲に設けられた断熱材50は、ホットゾーン部を構成する。また、ルツボ10の上方には、引き上げ軸70が設けられている。引き上げ軸70は、下端に種結晶保持部71を有し、引き上げ軸駆動部72により昇降可能に構成されている。更に、上述の図示しないチャンバーの周辺の外部に、電源100及び制御手段110が設けられる。
また、図1において、関連構成要素として、種結晶150と、結晶原料160と、引き上げられた単結晶(結晶体とも呼ぶ)170とが示されている。
次に、個々の構成要素について説明する。
ルツボ10は、結晶原料160を貯留保持し、単結晶170を育成するための容器である。結晶原料160は、結晶化する金属等が溶融した融液の状態で保持される。ルツボの材質は、結晶原料160にもよるが耐熱性のある白金やイリジウム等で作製される。
育成される単結晶170は、単結晶170の引き上げが進むにつれてルツボ10から遠ざかって行く為、単結晶170の温度分布が大きくなり単結晶170の割れ等の不具合が発生する場合がある。これを改善するため、ルツボ10の上方にアフター・ヒーター40を設置して適切な温度分布を維持する。アフター・ヒーター40の形状は、内径が得ようとする酸化物単結晶170の直径より大きく、ルツボ10の直径より小さい円筒形状である。全長は、例えば、得ようとする酸化物単結晶170の全長の半分よりも長く、二倍よりも短く設定する。ルツボ10の材質としては、例えば、白金やイリジウム等の金属が用いられる。
底部補助発熱体90はルツボ台20の一部に設置される。また、側面円筒補助発熱体91は、底部補助発熱体90の上方であって、ルツボ10の底面の下方の高さ範囲の所定位置に、内径が底部補助発熱体90の外径と同等又は底部補助発熱体90の外径よりも大きくなるように設置されている。なお、底部補助発熱体90及び側面円筒補助発熱体91の詳細については、後述する。
誘導コイル80は、ルツボ10、アフター・ヒーター40、底部補助発熱体90及び側面円筒補助発熱体91を加熱するための手段であり、ルツボ10、アフター・ヒーター40、底部補助発熱体90及び側面円筒補助発熱体91を囲むように配置される。誘導コイル80は、ルツボ10やアフター・ヒーター40等を誘導加熱できれば形態は問わないが、例えば、高周波加熱コイルからなる高周波誘導加熱装置として構成される。この場合には、電源100は、誘導コイル80に高周波電力を供給する高周波電源として構成される。
また、電源100は、誘導コイル80のみならず、結晶育成装置全体に電源供給を行う。
図示しないチャンバーは、ルツボ10及び誘導コイル80の高熱を遮断するとともに、これらを収容する機能を有する。
また、図示しない支持台は、耐火物60全体を支持するための支持台である。
引き上げ軸70は、種結晶150を保持し、ルツボ10に保持された結晶原料(融液)160の表面に種結晶150を接触させ、回転しながら単結晶170を引き上げるための手段である。引き上げ軸70は、種結晶150を保持する種結晶保持部71を下端部に有するとともに、回転機構であるモーターを備えた引き上げ軸駆動機構72を有する。なお、モーターは、結晶の引き上げの際、結晶を回転させながら引き上げる動作を行うための回転駆動機構である。
制御部110は、結晶育成装置全体の制御を行うための手段であり、結晶育成プロセスを含めて結晶育成装置全体の動作を制御する。制御部110は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、中央処理装置、及びROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等のメモリを備え、プログラムにより動作するマイクロコンピュータから構成されてもよいし、特定の用途のために開発されたASIC(Application Specified Integra Circuit)等の電子回路から構成されてもよい。
本実施形態に係る結晶育成装置は、種々の結晶原料160に適用することができ、結晶原料160の種類は問わないが、例えば、タンタル酸リチウム原料を用いてもよい。その他、種々の酸化物単結晶を育成するための結晶原料160を用いることができる。
次に、図2を用いて、本発明の特徴である底部補助発熱体90及び側面円筒補助発熱体91について説明する。図2は、本発明の実施形態に係る結晶育成装置の一例の底部補助発熱体90及び側面円筒補助発熱体91を示した図である。
図2に示される通り、本発明の第1の実施形態に係る結晶育成装置の補助発熱体は、底部補助発熱体90と側面円筒補助発熱体91との2種類がある。底部補助発熱体90は、ルツボ台20の一部に設置されている。また、側面円筒補助発熱体91は、底部補助発熱体90の上方であって、ルツボ10の底面の下方の範囲の所定の高さ位置に配置されている。また、側面円筒補助発熱体91の内径が底部補助発熱体90の外径以上となるように設定されている。底部補助発熱体90及び側面円筒補助発熱体91は、誘導コイル80からの電磁誘導作用により加熱される。
チョクラルスキー法による単結晶育成では、ルツボ10内の融解した結晶原料160に種結晶150を接触させ、上方に引き上げることで結晶体170を冷却して結晶を成長させている。結晶長が長くなるに従い、結晶体170は冷却され、炉内上部の温度は低下していく。ルツボ10内の原料融液160も減少して発熱量も低下し、誘導コイル80から一番離れているルツボ底部の中央部から原料固化が開始する。これを防止するため、本実施形態に係る結晶育成装置では、ルツボ底部の下側にあるルツボ台20の一部に底部補助発熱体90を配置する。
図2に示すように、底部補助発熱体90は、ルツボ10の下側にあるルツボ台20の一部をなすように、ルツボ台20の所定高さ位置に配置される。ルツボ台20は複数の耐熱材21から構成されている。底部補助発熱体90は、積載された複数の耐熱材21同士の間に設置する。つまり、円筒状のブロックをなすように構成された複数の耐熱材21が積載されてルツボ台20が構成されるが、これらの複数の耐熱材21の間の所定箇所に挿入されるようにして底部補助発熱体90が配置される。このため底部補助発熱体90が所定の高さになるように耐熱材21の厚さを調整することが好ましい。また、ルツボ台20の一部を側面円筒補助発熱体91の外径より大きく設定して円板状突出部22として構成し、側面円筒補助発熱体91は、円板状突出部22の上に所定の高さとなるように設置する。
底部補助発熱体90は、円形又は円盤状の平板形状を有する。底部補助発熱体90の外径は、ルツボ底面より小さい面積とする。例えば、ルツボ外径よりも40mm〜100mm小さい外径の補助発熱体とする。ルツボ10の下方に底部補助発熱体90を設置した場合、誘導コイル80の磁場は、一般的に誘導コイル80に近い外形端部に集中し易い。しかし、誘導コイル80からこの位置が離れれば、当然発熱量は小さくなる。本実施形態では、誘導コイル80から一番離れているルツボ底部の中央部を発熱させる必要があり、この両方を満足する最適な位置は、ルツボ外径よりも40mm〜100mm小さい外径の位置である。なお、底部補助発熱体90をルツボ外形より大きくすることも可能であるが、この場合、底部補助発熱体90の外形端部はルツボ外径より大きくなるため、この部分がルツボ10の底面の端部より高温になり、ルツボ10内の融液全体が高温になり、底部補助発熱体90が無い場合の従来のプロセス条件から条件を大幅に変更する必要がある。そうすると、新たなプロセス条件の確立に多大な時間を要する。このため、本発明では、底部補助発熱体90の外形をルツボ10の底面の外形よりも小さく構成する。これにより、従来の条件とほぼ同様の条件で結晶育成が可能となる。例えば、ルツボ径がφ200mmであれば、底部補助発熱体90の大きさはφ100mm〜φ160mmが好ましく、例えば、φ130mmに設定されてもよい。
底部補助発熱体90の厚みは、0.5mm〜3mmの範囲内であることが好ましい。本実施形態に係る結晶育成装置の加熱方法は、誘導コイル80を使用し、誘導コイル80に高周波電流を流して磁場を発生させ、磁場中の加熱体に渦電流を発生させることで加熱体を加熱する方式である。表皮効果により加熱体の面積に大きく依存するが、加熱体の厚みの依存性は小さい。このため、底部補助発熱体90の厚みに制限はないが、取り扱いの容易性等の観点から、少なくとも0.5mm以上の厚さが必要である。また、底部補助発熱体90の材質は、結晶原料160にもよるが、耐熱性のある白金やイリジウム等で作製される。このため、コストを考慮すると厚みは、薄い方が低コストで底部補助発熱体90を製作することが可能である。よって、底部補助発熱体90の厚さは、3mm以下が好ましく、1mm〜2mmの範囲内にあることが更に好ましい。
底部補助発熱体90は、ルツボ10の底面の下方において、誘導コイル80により生成される磁場の強度が最も強い高さ位置よりも上方に配置する。上述したように、本実施形態に係る結晶育成装置は、誘導コイル80を使用し、誘導コイル80に高周波電流を流して発熱体である底部補助発熱体90及び側面円筒補助発熱体91に渦電流を発生させることで加熱している。かかる渦電流は、誘導コイル80により生成される磁場の最も高い領域に発熱体を配置すると最も高くなり、加熱温度も最も高くなる。しかしながら、目的とする最終的な加熱対象はルツボ10の底面の中央付近であり、この位置から底部補助発熱体90及び側面補助発熱体91が離れると、補助発熱体90、91が高温になっても、目的とするルツボ10の底面の中央付近を効率的に加熱できない場合がある。よって、底部補助発熱体90及び側面補助発熱体91は、誘導コイル80の磁場の強度と、ルツボ10の底面との距離とのバランスを考慮して設定することが好ましい。
図3は、補助発熱体を使用しない時のルツボ10付近の磁場の分布をシミュレーションした結果である。図3において、ルツボ下方で、誘導コイル80により生成される磁界の最も強い高さ位置が最大磁場高さ位置Maxとして破線で示されている。図3から判るように誘導コイル80に対向して配置され、誘導コイルと距離的に近い所が磁場の密度が高く、発熱が大きくなる。ルツボ底面の磁場は、ルツボ底面に遮蔽されるため弱くなる。ルツボ底面より下方にある程度距離を置くことにより、磁場は大きくなる。しかしながら、ルツボ底面からの距離が大きくなると、底部補助発熱体10の発熱量は増えるが、ルツボ台20等で伝熱率が下がるため、両者の最適値の位置に底面補助発熱体90を配置することが好ましい。例えば、磁場の最も強い最大磁場高さ位置Maxよりも上方で、かつルツボ10の底面よりも下方に底面補助発熱体90を配置すれば、磁場の強度も高く、ルツボ10の底面からの距離も近いので、加熱効率が高くなる。よって、底部補助発熱体90は、誘導コイル80により生成される磁場が最も強くなる最大磁場高さ位置Maxよりも高く、ルツボ10の底面の下方の所定高さ位置に設けることが好ましい。例えば、ルツボ径がφ200mmの場合、磁場の最も強い最大磁場高さ位置Maxはルツボ底面より80〜100mmであり、底面補助発熱体90の位置は、最大磁場高さ位置Maxより20mm〜30mm上方に配置する。よって、底部補助発熱体90は、ルツボ底面から50mm〜80mm下方の位置である。また、ルツボ10の底面より60mm〜70mm下方の位置であることがより好ましい。
なお、図2においては、補助発熱体として、底部補助発熱体90と、側面円筒補助発熱体91の双方が設けられている例を挙げて説明しているが、図3のように、底部補助発熱体90の設置位置を誘導コイル80により生成される誘導磁界との関係から適切に定めれば、底部補助発熱体90のみを設けた場合であっても、相当の加熱効果が得られる。よって、底部補助発熱体90のみを設けた構成としてもよい。
図2に示されるように、本発明の第1の実施形態に係る結晶育成装置では、底部補助発熱体90とルツボ底面下側の範囲に側面補助発熱板91を配置している。これは、ルツボ底部の下方に設置した底部補助発熱体90とルツボ10の底面との間に、底部補助発熱体90の外径以上の内径を有する側面円筒補助発熱体91を設置することにより、底部補助発熱体90とルツボ10の底面との間で横方向に熱が逃げるのを防止するためである。底部補助発熱体90のみ設けた場合、底部補助発熱体90とルツボ底部との間に設置したルツボ台20の側面から周囲に熱が移動し、ルツボ底部を効率よく暖めることができない場合がある。前述したように磁場の分布等の制約から、ルツボ底部を暖めるべく底部補助発熱体90の発熱量をさらに飛躍的に上げることは難しい。そこで、この底部補助発熱体90の周囲に側面円筒補助発熱体91を追加して熱の壁を作ることにより、ルツボ底部の底部補助発熱体90の熱を周囲に逃がすことなくルツボ底部に伝熱させることができる。
側面円筒補助発熱体91の形状は円筒形状であるため、底部補助発熱体90からの熱を効率的に囲み保温することができる。但し、上述のように底部補助発熱体90の周囲に側面補助発熱板91を追加して熱の壁を作ることにより、ルツボ底部の底部補助発熱体90の熱を周囲に逃がすことなくルツボ底部に伝熱させることができれば、種々の形状であってもよい。この点については、第2の実施形態において、別の態様の補助発熱体について後述することとする。
以下、側面円筒補助発熱体91について更に説明する。側面円筒補助発熱体91の内径は、底部補助発熱体90の外径と同等か底部補助発熱体90の外径より大きい。好ましくは、側面円筒補助発熱体91の内径は、底部補助発熱体90の外径と同等以上であって、外径+40mm以内の範囲である。側面円筒補助発熱体91の内径がこれ以上大きい場合には、ルツボ台20との隙間から熱が逃げ、伝熱効率が悪くなる。側面円筒補助発熱体91の内径がこれより小さい場合には、底部補助発熱体90の発熱が最も大きい箇所である外径端部の熱を確保できない。また、側面円筒補助発熱体91の内径は、底部補助発熱体の外径+10から外径+20mmの範囲内であることがより好ましい。側面円筒補助発熱体91の円筒形の高さは限定しないが、底部補助発熱体90と側面円筒補助発熱体91との高さの差は、20mm以内であることが好ましい。また、ルツボ底部と側面円筒補助発熱体91との高さの差も、20mm以内であることが好ましい。これらの高さの差、つまり両者の隙間が大きい場合、この隙間部分から熱の逃げが大きくなり、伝熱効率が悪くなる。また、底部補助発熱体90と側面円筒補助発熱体91とを一体加工しても同様の効果は得られるが、この場合、発熱が両者の接続部分である角部に集中し、補助発熱体90、91の損傷が激しくなり、補助発熱体90、91の寿命が短くなる、また、部品の加工も一体加工となり加工が難しくなる。このため、底部補助発熱体90と側面円筒補助発熱体91とは各々別個に配置し、両者の距離を10mm〜20mmに設定して互いに離間して配置することが好ましい。
側面円筒補助発熱体91の厚み及び材質は、用途により種々の設定としてよいが、例えば、底部補助発熱体90と同等であってもよい。厚みは0.5mm〜3mmの範囲に設定することが好ましい。また、厚さを1mm〜2mmの範囲に設定することがより好ましい。材質は、結晶原料160の種類にもよるが、耐熱性のある白金やイリジウム等で作製されることが好ましい。
図4は、本発明の第1の実施形態に係る結晶育成装置の一例の育成終盤のルツボ付近の温度分布をシミュレーションした結果である。なおルツボ径はφ200mmとし、底部補助発熱体90は、ルツボ10底部より60mm下側に外形φ130mm、内径φ20mm、厚み0.5mmとした。また、側面円筒補助発熱板91は、ルツボ10底部より上端が10mmの位置に外径φ140mm、高さが40mm、板厚0.5mmの円筒形状とした。図4(a)は、いずれの補助発熱体も配置しなかった時の炉内の温度分布をシミュレーションした結果である。図4(b)は、底部補助発熱体90のみを配置した時の炉内の温度分布をシミュレーションした結果である。図4(c)は、底部補助発熱体90と円筒状の側面円筒補助発熱体91を配置した時の炉内の温度分布をシミュレーションした結果である。図4(a)〜(c)において、最も温度の高い領域から順に、領域A、B、C、D、E、F、G、H、I、Jを定めて表示した。
図4(b)の底部補助発熱体90のみを配置した時の炉内の温度分布は、図4(a)の補助発熱体が無い時に比べ底部補助発熱体の全体の部分が高温になりルツボ底面全体を均等に暖めていることが判る。より詳細には、図4(b)のルツボ10の底面の下方の領域において、領域B〜Eの領域が図4(a)よりも増加している。これに対して、図4(c)は、側面円筒補助発熱体91が底部補助発熱体90の外径と同等の内径を有し、かつ、ルツボ底面と底部補助発熱体の高さ方向の間に円筒形に配置した時の結果である。図4(c)に示される通り、側面円筒補助発熱体91の円筒部全体が発熱しており、領域B〜Dの部分がルツボ台20の側面に沿って下方に延びていることが示されている。また、側面円筒補助発熱体91と底部補助発熱体90との間に囲まれている空間の温度の変化は図4(b)に比べ小さく、保温された状態であることが判る。
このように、図4(a)と図4(b)との比較から、底部補助発熱体90を設けたことにより、ルツボ10の底面の下方が加熱され、加熱された領域が増加していることが分かる。更に、図4(b)と図4(c)との比較から、底部補助発熱体90に加えて側面円筒補助発熱体91を更に設けたことにより、底部補助発熱体90の熱がルツボ台20の側面から外側に逃げていかなくなり、ルツボ台20付近に熱を保温することができ、ルツボ10底面の下方を更に加熱できていることが分かる。
図5は、ルツボ内の原料融液の温度分布を示した図であり、ルツボ中央部の温度分布をルツボ底面から上方方向にシミュレーションした時の温度分布のグラフである。図5において、曲線Kが補助発熱体を何ら設けなかった場合のシミュレーション結果を示し、曲線Lが底部補助発熱体90のみを設けた場合のシミュレーション結果を示している。また、曲線Mが、底部補助発熱体90及び円筒形の側面円筒補助発熱体91を設けた場合のシミュレーション結果を示している。
縦軸がゼロの点におけるルツボ底部での温度は、補助発熱体なしでは、曲線Kに示される通り1642℃であり、底部補助発熱体90のみでは、曲線Lに示される通り1650℃である。よって、底部補助発熱体90のみを設けた場合でも、ルツボ10の底部の温度は高くなって改善されている。また、底部補助発熱体90及び側面円筒補助発熱体91の双方を設けた場合は、曲線Mに示される通り、1660℃と10°改善されている。本発明の第1の実施形態に係る結晶育成装置で想定している原料融液160はタンタル酸リチウム(TL)であり、融点は1650℃である。よって、曲線Lに示される通り、底部補助発熱体90のみを設けた場合でも原料固化は発生しないことが分かる。更に、曲線Mに示される通り、底部補助発熱体90に加えて側面円筒補助発熱体91を更に設けることで、ルツボ底面の温度をタンタル酸リチウム(TL)の融点である1650℃を大幅に上回る1660℃とすることができ、余裕を持つことができる。また、図5のグラフから判るように、両者の温度分布は、ルツボ底面の温度は違うものの、ルツボ底面から15mm以上の高い位置ではほぼ同一である。これは、側面円筒補助発熱体91を設けたとしても、従来の結晶育成の条件と変更する必要が無いことを意味する。なお、側面円筒補助発熱体91は、ルツボ底部を加熱することが目的ではなく、底部補助発熱体90の加熱した熱がルツボ10に伝導する途中でルツボ台20の側面から外側に逃げることを防止し、効率よくルツボ底面を加熱することを目的とする。このように、底部補助発熱体90と側面円筒補助発熱体91との協働により、ルツボ10内の原料融液160の温度分布を大きく変化させること無く底部補助発熱体90の発熱を効率良くルツボ10の底部に伝達することができる。
このように、第1の実施形態に係る結晶育成装置によれば、ルツボ10の下方に底部補助発熱体90を設けたことにより、ルツボ10の底面の温度の低下を抑制し、高温に保つことができる。また、底部補助発熱体90をルツボ台20の一部に設けることにより、省スペースで効率的にルツボ10の底面を加熱することができる。更に、側面円筒補助発熱体91をルツボ台20の側面に設けることにより、底部補助発熱体90からルツボ10の底面に伝達する熱がルツボ台20の側面から放出され、逃げてしまうことを防止することができる。
[第2の実施形態]
図6は、本発明の第2の実施形態に係る結晶育成装置の一例を示した図である。第2の実施形態に係る結晶育成装置は、側面円筒補助発熱体91の代わりに、円環状の側部円環補助発熱体92がルツボ台20aに設けられている点で、第1の実施形態に係る結晶育成装置と異なっている。他の構成要素については、第1の実施形態に係る結晶育成装置と同様であるので、その説明を省略する。また、第1の実施形態に対応する構成要素には、同一の参照符号を付してその説明を省略する。
円環状の側部円環補助発熱体92は、側面円筒補助発熱体91と同様に、その内径は底部補助発熱体90の外径と同等かそれより大きい形状を有する。より詳細には、側部円環補助発熱体92の内径は、底部補助発熱体90の外径と同等以上であって、外径+40mm以内の範囲内であることが好ましい。側部円環補助発熱体92の内径が底部補助発熱体90の外径+40mmよりも大きい場合には、ルツボ台20aの側面との隙間から熱が逃げ、熱伝達効率が悪くなる。側部円環補助発熱体92の内径が底部補助発熱体90の外径よりも小さい場合には、底部補助発熱体90の発熱の大きい箇所である外径端部の熱を確保できない。更に、側部円環補助発熱体92の内径は、底部補助発熱体90の外径+10から外径+20mmの範囲内にあることがより好ましい。側部円環補助発熱体92の外形は、ルツボ径と同等もしくは、ルツボ径よりも小さくすることが好ましい。円環状である側部円環補助発熱体92の外径端部は誘導コイル80と距離が近くなるため、局部的に高温になりやすく、ルツボ径より大きくなるとルツボ10の発熱より高くなる可能性が高い。よって、側部円環補助発熱体92の外形は、ルツボ径より20mm〜30mm小さくすることが好ましい。側部円環補助発熱体92を配置する高さは限定しないが、ルツボ底面と底部補助発熱体90と中間点、又は中間点よりも底面補助発熱体90側の20mm以内に配置することが好ましい。後述するが、側部円環補助発熱体92は、発熱体が高温に発熱するため、中間点より底部補助発熱体90側に接近させて配置することで、底部補助発熱体90の熱を逃がさずに保温することが可能となる。側部円環補助発熱体92の板厚と材質は、円筒状の側面円筒補助発熱体91と同様である。
側部円環補助発熱体92は、図6に示されるように、ルツボ台20aの円板状突出部22aの円環状の平板上に載置して設けてもよい。円板状突出部22a上に載置すればよいので、設置及び交換は極めて容易である。なお、図6に示されるルツボ台20aの円板状突出部22aは、図2に示した円板状突出部22よりも厚い形状となっているが、これは、側部円環補助発熱体92をルツボ10の底面と底部補助発熱体90との略中間地点に配置するためである。即ち、図2に示した側面円筒補助発熱体91は、鉛直方向に延びているため、ルツボ10の底面と底部補助発熱体90との略中間地点に側面円筒補助発熱体91を配置するためには、側面円筒補助発熱体91の高さを考慮して円板状突出部22の厚さを薄くする必要がある。一方、側部円環補助発熱体92は平板状であるため、側部円環補助発熱体92を上方に配置するため、円板状突出部22aの厚さを厚く構成する必要があるためである。
次に、側面補助発熱体が円盤状のシミュレーション結果について説明する。
図7は、本発明の第2の実施形態に係る結晶育成装置の一例のルツボ付近の温度分布をシミュレーションした結果である。図7(a)は、底部補助発熱体90のみを配置した時の炉内の温度分布をシミュレーションした結果である。図7(b)は、は底部補助発熱体90及び側面円筒補助発熱体91を配置した時の炉内の温度分布をシミュレーションした結果である。図7(c)は、底部補助発熱体90及び側部円環補助発熱体92を配置した時の炉内の温度分布をシミュレーションした結果である。なお、図7(a)〜(c)において、温度の高い順に、領域A〜Jを用いて温度分布が示されている。
また、側部円環補助発熱体92は、内径が130mm、外径が185mm、厚さは0.5mmに設定した。側部円環補助発熱体92の外径は、ルツボ10の外径よりも15mm内側となるように設定した。また、側部円環補助発熱体92は、ルツボ底面と底部補助発熱体と中間の位置に設定した。
図7(b)は、側面円筒補助発熱体91の内径が底部補助発熱体90の外径と同等以上の大きさであり、かつ、高さ方向において側面円筒補助発熱体91をルツボ底面と底部補助発熱体90との間に配置した時の結果である。図7(b)においては、側面円筒補助発熱体91の円筒部全体が発熱しており、側面円筒補助発熱体91と底部補助発熱体90との間に囲まれた空間の温度の変化は図7(a)に比較して小さく、保温された状態であることが判る。即ち、高温領域である領域B、Cが、側面円筒補助発熱体91に沿ってルツボ10の底面の下方に延びている。
これに対して、図7(c)は、側部円環補助発熱体92を設置したシミュレーション結果である。図7(c)から判るように、高温領域A,Bが、ルツボ10の底面から下方に拡大しており、側部円環補助発熱体92のある箇所は、最も高温の領域Aとなっている。このように、図7(c)から、側部円環補助発熱体92は、円環状の外径端部が誘導コイル80と近いため、発熱量が大きく高温になることがわかる。このため、側面円筒補助発熱体91に比べ、底面補助発熱体90を囲んではいないものの、発熱量が大きいため、ルツボ底面の中央部付近の温度勾配は、側面円筒補助発熱体91と同じ効果がある。
また、図8は、ルツボ内の原料融液160の温度分布を示した図であり、ルツボ中央部の温度分布をルツボ底面から上方方向にシミュレーションした時の温度分布のグラフである。図8において、横軸は融液温度(℃)、縦軸はルツボ底からの距離(mm)を示している。また、底部補助発熱体90を含めていずれの補助発熱体を有しない場合の温度特性を曲線K、底部補助発熱体90のみを設けた場合の温度特性を曲線L、底部補助発熱体90及び側面円筒補助発熱体91を設けた場合の温度特性を曲線Mで示している。更に、底部補助発熱体90及び側部円環補助発熱体92を設けた場合の温度特性を曲線Nで示している。
図8において、縦軸がゼロの場合のルツボ底部での温度は、底部補助発熱体90のみでは、曲線Lに示されるように1650℃であるが、底部補助発熱体90及び側面円筒補助発熱体91を設けた場合は曲線Mに示されるように1660℃であり、10℃改善されている。更に、底部補助発熱体90及び側部円環補助発熱体92を設けた場合は、1663℃であり、底部補助発熱体90のみを設けた場合よりも13℃改善されている。円環状の側部円環補助発熱体92を設けた場合も、側面円筒補助発熱体91を設けた場合とルツボ底面中央部の温度上昇させる効果は同一にある。但し、図7(c)から判るように、円環状の側部円環補助発熱体92は、円環形状の外径端部が誘導コイル80と接近しているため、発熱量が大きく高温になる。このため、側部円環補助発熱体92を設置した箇所に相当するルツボ底面(外側の部分)は、局所的に高温になっていることがわかる。このため、ルツボ10内の温度分布は、従来条件に対し変更する必要がある。また、円環形状の外径端部が局所的に高温になるため、側部円環補助発熱体92の損傷が大きくなる場合がある。
よって、図7及び図8のシミュレーション結果から総合的に判断すると、底部補助発熱体90と側面円筒補助発熱体91との組み合わせが最も好ましい組み合わせと考えられるが、側部円環補助発熱体92の方が温度をより高温に出来ること、設置がルツボ台20aに設けられた円板状突出部22a上に載置するだけで良く、設置及び交換が極めて容易であるという利点もあるため、用途に応じて適宜適切な組み合わせとすることができる。
また、上述のように、底部補助発熱体90のみを設ける場合も加熱の効果は得られるので、底部補助発熱体90を設けるだけで十分な場合には、底部補助発熱体90のみを設ける構成としてもよい。
このように、本発明の第2の実施形態に係る結晶育成装置によれば、ルツボ10の底面を効率的に加熱することができるとともに、側部円環補助発熱体92の設置を極めて容易に行うことができる。
以上説明したように、本発明の実施形態に係る結晶育成装置によれば、ルツボ10の底面の下方に底部補助発熱体90を設けることにより、ルツボ10の底面の保温効果を高めることができる。更に、必要に応じて側面円筒補助発熱体91又は側部円環補助発熱体92を設けることにより、底部補助発熱体90からの熱がルツボ台20の側面から逃げることを防止し、更に保温効果を高めることができる。また、いずれの補助発熱体90〜92も交換可能な単独部品であるため、容易に交換が可能であり、部品の劣化が発生した場合も容易に対処可能である。
以上、本発明の好ましい実施形態について詳説したが、本発明は、上述した実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施形態に種々の変形及び置換を加えることができる。