(実施形態1)
(1.1)概要
本実施形態の電磁継電器1は、図1に示すように、接点装置2と、電磁石装置3と、ト
リップ装置4とを備えている。
電磁石装置3は、第1の励磁コイル31と、固定子32と、第1可動子331と、第2可動子332と、永久磁石37とを有している。電磁石装置3は、永久磁石37により第1可動子331に第2可動子332を吸着した状態で、第1の励磁コイル31で生じる磁束によって固定子32に第1可動子331を吸引して、第1可動子331と共に第2可動子332を定常位置から吸引位置へ移動させる。
接点装置2は、固定接点22および可動接点21を有している。接点装置2は、第2可動子332の移動に伴って可動接点21が移動することにより、可動接点21が固定接点22に接触する閉状態と可動接点21が固定接点22から離れた開状態とが切り替わるように構成されている。接点装置2は、第2可動子332が吸引位置にあれば閉状態となる。
トリップ装置4は、第2の励磁コイル41およびばね42を有している。励磁コイル41は、接点装置2と直列に接続されている。ばね42は、第2可動子332に対して第1可動子331から離れる向きの力を作用させる。トリップ装置4は、第2可動子332が吸引位置にあるときに規定値以上の異常電流が第2の励磁コイル41に流れると、第2の励磁コイル41で生じる磁束によって永久磁石37による第2可動子332の吸着を解除する。第2可動子332の吸着が解除されると、トリップ装置4は、ばね42により第2可動子332を移動させて接点装置2を開状態とする。
なお、ここでいう「吸着」とは吸いつくことを意味しており、直接的に吸いつくことだけでなく、間接的に吸いつくことも含んでいる。つまり、第1可動子331に第2可動子332が吸着された状態には、第1可動子331に第2可動子332が接する状態だけでなく、たとえば永久磁石37を挟んで第1可動子331に第2可動子332が吸いついた状態も含む。
要するに、本実施形態の電磁継電器1は、接点装置2に異常電流が流れていない通常時には、永久磁石37により第1可動子331に第2可動子332が吸着され、第1可動子331と第2可動子332とが一体化された状態にある。この状態で、第1の励磁コイル31に通電されることで固定子32に第1可動子331が吸引されると、第1可動子331と一緒に第2可動子332も移動し、第2可動子332が定常位置から吸引位置へ移動するため、接点装置2が閉状態となる。
そして、第2可動子332が吸引位置にあるときに閉状態の接点装置2に異常電流が流れると、トリップ装置4が作動して、第2の励磁コイル41で生じる磁束によって永久磁石37による第2可動子332の吸着が解除される。これにより、ばね42にて第2可動子332が第1可動子331から離れる向きに移動し、接点装置2が開状態となる。つまり、異常電流が流れた場合、トリップ装置4は、第1可動子331から第2可動子332を分離させ、第2可動子332を移動させることで接点装置2を強制的に開状態とする。トリップ装置4が作動した後は、第2可動子332にばね42からの力が作用することで、第2可動子332が第1可動子331から分離した状態が維持される。
したがって、本実施形態の電磁継電器1によれば、トリップ装置4が作動して接点装置2が強制的に開状態となった後は、第2の励磁コイル41の駆動力が失われても、第2可動子332は第1可動子331から分離した状態を維持する。その結果、第1の励磁コイル31で生じる磁束によって固定子32に第1可動子331が吸引されたとしても、第2可動子332は吸引位置には戻らず、接点装置2は開状態を維持することが可能である。よって、電磁継電器1は、接点装置2に異常電流が流れた際に、接点装置2を開状態に維
持することが可能になる、という利点がある。
(1.2)電磁継電器の基本構成
以下、本実施形態の電磁継電器1について詳しく説明する。ただし、以下に説明する電磁継電器1は、本発明の一例に過ぎず、本発明は、下記実施形態に限定されることはなく、この実施形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。
本実施形態においては、電磁継電器1が、電気自動車(EV)に搭載され、図2に示すように走行用のバッテリ101から負荷(たとえばインバータ)102への直流電力の供給路上に接点装置2を挿入するように接続されて用いられる場合を例とする。この電磁継電器1の第1の励磁コイル31は、電気自動車のECU(電子制御ユニット)103からの制御信号に応じてオンとオフとが切り替わるスイッチング素子104を介して、励磁用電源105に接続されている。これにより、電磁継電器1は、ECU103からの制御信号に応じて接点装置2が開閉し、走行用のバッテリ101から負荷102への直流電力の供給状態を切り替えることができる。
本実施形態では、接点装置2は、図1に示すように、一対の固定接点22と、一対の可動接点21と、各固定接点22を支持する一対の接点台11,12と、両可動接点21を支持する可動接触子13と、接圧を確保するための接圧ばね14とを有している。接点装置2の構成について詳しくは後述するが、接点装置2は、固定接点22および可動接点21を一対ずつ備えることにより、接点装置2が閉じた状態で一対の接点台11,12間が可動接触子13を介して短絡する。したがって、接点装置2は、走行用のバッテリ101(図2参照)からの直流電力が、一対の接点台11,12および可動接触子13を通して負荷102(図2参照)へ供給されるように、バッテリ101と負荷102との間に挿入される。なお、接点装置2は、バッテリ101の出力端間において負荷102と直列に接続されていればよく、バッテリ101の負極(マイナス極)と負荷102との間に挿入されていてもよい。
本実施形態に係る電磁継電器1は、図1に示すように、上述した接点装置2、電磁石装置3、トリップ装置4に加えて、シャフト15と、ケース16と、連結体17とを備えている。さらに、電磁継電器1は、走行用のバッテリ101(図2参照)から負荷102(図2参照)への直流電力の供給路上に挿入される一対の出力端子51,52と、励磁用電源105に接続される一対の入力端子53,54(図2参照)とを備えている。
電磁石装置3は、第1の励磁コイル31、固定子32、第1可動子331、第2可動子332、および永久磁石37の他に、第1の継鉄34と、復帰ばね35と、筒体36とをさらに有している。以下では、永久磁石37にて吸着され一体化された状態の第1可動子331および第2可動子332を、まとめて「可動子ブロック33」とも呼ぶ。つまり、「可動ブロック33」という場合には、とくに断りがなくても、第1可動子331および第2可動子332は一体化された状態にあることとする。なお、電磁石装置3は、合成樹脂製であって第1の励磁コイル31が巻き付けられるコイルボビンを有していてもよい。
第1の継鉄34は、固定子32および可動子ブロック33と共に、第1の励磁コイル31の通電時に生じる磁束が通る磁路を形成する。そのため、第1の継鉄34と固定子32と可動子ブロック(つまり第1可動子331および第2可動子332)33とはいずれも磁性材料から形成されている。
本実施形態においては、第1の継鉄34は、第1の励磁コイル31の中心軸方向の両側に設けられて互いに対向する継鉄上板341および継鉄下板342を具備している。以下
では、第1の励磁コイル31の中心軸方向を上下方向とし、第1の励磁コイル31から見て継鉄上板341側を上方、継鉄下板342側を下方として説明するが、電磁継電器1の使用形態を限定する趣旨ではない。
第1の継鉄34は、継鉄上板341と継鉄下板342との周縁部同士を連結する継鉄側板343と、継鉄下板342の上面の中央部から上方に突出する形の円筒状に形成されたブッシュ344とをさらに具備している。ここでは、継鉄上板341および継鉄下板342はそれぞれ矩形板状に形成されている。継鉄側板343は、継鉄上板341の下面において互いに対向する一対の辺と、継鉄下板342の上面における互いに対向する一対の辺とを連結するように、一対設けられている。これらの継鉄側板343と継鉄下板342とは1枚の板から連続一体に形成されている。継鉄下板342の中央部には保持孔が形成されており、ブッシュ344は、その下端部が継鉄下板342の保持孔に嵌合している。
第1の励磁コイル31は、これら継鉄上板341と継鉄下板342と継鉄側板343とで囲まれた空間に配置されており、その内側にブッシュ344と固定子32と第1可動子331とが配置されている。第1の励磁コイル31は、その両端が一対の入力端子53,54(図2参照)に接続されている。
固定子32は、継鉄上板341の下面の中央部から下方に突出する形の円筒状に形成された固定鉄芯であって、その上端部が第1の継鉄(継鉄上板341)34に固定されている。具体的には、継鉄上板341の中央部には嵌合孔が形成されており、固定子32は、その上端部が継鉄上板341の嵌合孔に嵌合している。固定子32の外径は、ブッシュ344の内径よりも小さく形成されている。さらに、固定子32の下端面とブッシュ344の上端面との間には、上下方向(縦方向)においてギャップ(隙間)が確保されている。
第1可動子331は、円筒状に形成された可動鉄芯であって、固定子32の下方において、その上端面を固定子32の下端面に対向させるように配置されている。第1可動子331の外径は固定子32の外径と略同一に(つまりブッシュ344の内径よりも小さく)形成されている。
第2可動子332は、円盤状に形成された可動鉄芯であって、第1可動子331の下方において、その上端面を第1可動子331の下端面に対向させるように配置されている。第2可動子332の外径は第1可動子331の外径と略同一に形成されている。
ここで、第2可動子332は、永久磁石37で生じる磁束が通る磁路を第1可動子331と共に形成する。そのため、永久磁石37で生じる磁束が第1可動子331および第2可動子332を通ることにより、第2可動子332が第1可動子331に吸引された状態で、第2可動子332が第1可動子331に保持される。つまり、第2可動子332は、永久磁石37により第1可動子331に吸着され、第1可動子331と一体化されて可動ブロック33を構成する。
可動子ブロック33は、ブッシュ344の内側をブッシュ344の内周面に沿って上下方向(縦方向)に移動する。言い換えれば、可動子ブロック33は、第1可動子331の上端面が固定子32の下端面に接触した第1の位置と、第1可動子331の上端面が固定子32の下端面から離れた第2の位置との間で移動可能に構成されている。可動子ブロック33が第1の位置にあるときの第2可動子332の位置が「吸引位置」に相当し、可動子ブロック33が第2の位置にあるときの第2可動子332の位置が「定常位置」に相当する。本実施形態では、可動子ブロック33のうちの第2可動子332については、定常位置よりもさらに下方の限界位置まで移動可能であるが、この点については後述する。
また、第1可動子331の内側にはトリップ装置4のばね42が配置されている。具体的には、第1可動子331の内径が第1可動子331における上端部以外の部位で上端部より大きくなるように、第1可動子331が形成されている。このように形成された第1可動子331の上端部以外の内側は、ばね42を収納するための収納空間333を構成している。これにより、第2可動子332が第1可動子331に吸着された状態では、ばね42は圧縮された状態で収納空間333に収まる。そのため、第2可動子332が第1可動子331と一体化された状態で、ばね42により、第2可動子332には第1可動子331から離れる向き(下向き)の力が作用する。
ここにおいて、第2可動子332が第1可動子331と一体化された状態で、ばね42から第2可動子332に作用する力は、永久磁石37により第2可動子332を第1可動子331に吸着する力よりも小さく設定されている。したがって、ばね42から第2可動子332に力が作用するものの、第2可動子332が第1可動子331に吸着された状態、つまり第2可動子332が第1可動子331と一体化された状態が維持されることになる。
本実施形態では、永久磁石37は、第1可動子331に設けられている。図1の例では、永久磁石37は第1可動子331の下端面に取り付けられている。ここで、第1可動子331には磁路形成部334が設けられている。磁路形成部334は、第1可動子331および第2可動子332と共に、永久磁石37で生じる磁束を通す閉磁路を形成する。磁路形成部334は、円環状に形成されており、第1可動子331の下端面における収納空間333の開口周縁から下方に突出する。永久磁石37は、磁路形成部334と同心円状の円環状に形成されており、磁路形成部334の外側に配置されている。言い換えれば、磁路形成部334が永久磁石37の中空部(永久磁石37の内周面で囲まれた空間)に嵌り込むことによって、永久磁石37が第1可動子331に取り付けられている。
永久磁石37は、縦方向における両面に、互いに異極性の第1磁極面371(図5A参照)および第2磁極面372(図5A参照)を有している。したがって、図1に示すように第2可動子332が第1可動子331と一体化された状態では、永久磁石37で生じる磁束は、第1可動子331、磁路形成部334、および第2可動子332を通ることになる。本実施形態では一例として、第1磁極面371を「N極」、第2磁極面372を「S極」として説明するが、この構成に限らず、N極とS極とは反対の関係であってもよい。
ここで、永久磁石37と磁路形成部334との間には、非磁性体からなる短絡防止部38(図5A参照)が設けられている。短絡防止部38は、永久磁石37の内周面または磁路形成部334の外周面に形成されためっき層にて実現される。これにより、永久磁石37と磁路形成部334とが直接接触することを防止できる。その結果、磁路形成部334における永久磁石37との接触面を通して、第1磁極面371と第2磁極面372との間で磁束の短絡が生じることが防止される。
復帰ばね35は、固定子32の内側に配置されており、可動子ブロック33を下方(第2の位置)へ付勢するコイルばねである。具体的には、固定子32の内径が固定子32における上端部以外の部位で上端部より大きくなるように、固定子32が形成されている。このように形成された固定子32の上端部以外の内側は、復帰ばね35を収納するための収納空間321を構成している。これにより、復帰ばね35は、可動子ブロック33が固定子32に吸引されて第2の位置から第1の位置へと移動する際、圧縮されながら収納空間321に収まるため、可動子ブロック33(第1可動子331)は固定子32に接触可能である。
筒体36は、可動子ブロック33および固定子32を収納する。筒体36は、筒状に形
成された筒状部361と、筒状部361の一方の開口を塞ぐ底板362とを有している。可動子ブロック33および固定子32は、可動子ブロック33が底板362側となるように縦方向(一方向)に並んで筒状部361の内側に配置されている。つまり、固定子32、第1可動子331、および第2可動子332は、上から順に固定子32、第1可動子331、第2可動子332の順で縦方向(一方向)に並んでいる。
さらに詳しく説明すると、本実施形態では筒体36は非磁性材料から形成されている。この筒体36は、円筒状の筒状部361と円形状の底板362とで、全体として上面が開口した有底円筒状に形成されており、固定子32および可動子ブロック33を収納する。筒体36は、上端部(開口周部)が継鉄上板341に固定され、下部がブッシュ344の内側に嵌合する。筒体36は、底板362から固定子32の下端面までの距離が可動子ブロック33の上下方向の寸法よりも十分に大きくなるように、その深さ寸法が設定されている。とくに、本実施形態では、可動子ブロック33が固定子32から離れた第2の位置にある状態でさらに可動子ブロック33の下端面と底板362との間に隙間が生じるように、筒体36はその深さ寸法が設定されている。言い換えれば、第2可動子332が定常位置にある状態で、第2可動子332の下端面と底板362との間には隙間が確保される。
これにより、第2可動子332は、筒体36内において、吸引位置から、定常位置を通って限界位置まで移動可能となる。ここで、筒体36は、可動子ブロック33の移動方向を上下方向(縦方向)に制限し、かつ第2可動子332の限界位置を規定する機能を有している。
なお、電磁石装置3は、第1の励磁コイル31とブッシュ344と固定子32と可動子ブロック33とが全て上下方向に沿った同一直線上に中心軸を有するように構成されている。
上述した構成により、可動子ブロック33は、第1の励磁コイル31に通電されていないとき(非通電時)には、固定子32との間に磁気吸引力が生じないため、復帰ばね35のばね力によって第2の位置に位置することになる。一方、第1の励磁コイル31に通電されると、可動子ブロック33は、固定子32との間に磁気吸引力が生じるため、復帰ばね35のばね力に抗して上方に引き寄せられ第1の位置に移動する。
言い換えれば、電磁石装置3は、第1の励磁コイル31の通電時には第1の励磁コイル31に磁束を生じるので、第1の継鉄34と固定子32と可動子ブロック33とで形成される磁気回路の磁気抵抗が小さくなるように可動子ブロック33を移動させる。具体的には、電磁石装置3は、第1の励磁コイル31の通電時、磁気回路のうち固定子32の下端面とブッシュ344の上端面との間のギャップを可動子ブロック33で埋めるように、可動子ブロック33を第2の位置から第1の位置へ移動させる。このとき、第2可動子332は、第1可動子331と共に移動することで、定常位置から吸引位置へ移動することになる。
一方、第1の励磁コイル31への通電が停止すると、電磁石装置3は、復帰ばね35のばね力によって、可動子ブロック33を第1の位置から第2の位置へ移動させる。このとき、第2可動子332は、第1可動子331と共に移動することで、吸引位置から定常位置へ移動することになる。
要するに、電磁石装置3は、第1の励磁コイル31への通電時に第1の励磁コイル31で生じる磁束によって固定子32に第1可動子331を吸引し、第2可動子332を定常位置から吸引位置へ移動させる。そして、第1の励磁コイル31への通電が継続している
間、電磁石装置3は、固定子32と第1可動子331との間に吸引力を生じ続けるので、第2可動子332が第1可動子331に吸着されている限り、第2可動子332を吸引位置へ保持する。
このように、電磁石装置3は、第1の励磁コイル31の通電状態の切り替えにより可動子ブロック33に作用する吸引力を制御し、第2可動子332を上下方向に移動させることにより、接点装置2の開状態と閉状態とを切り替えるための駆動力を発生する。
ここにおいて、第1の励磁コイル31の非通電時に、第2可動子332が移動範囲の下端となる限界位置ではなく、移動範囲の中間位置である定常位置に位置するのは、復帰ばね35のばね力と接圧ばね14のばね力との力のつり合いによる。すなわち、可動子ブロック33には、復帰ばね35のばね力が下向きに作用し、接圧ばね14のばね力が後述するように可動接触子13およびシャフト15を介して上向きに作用する。そのため、第1の励磁コイル31の非通電時には、復帰ばね35から可動子ブロック33に作用する力と、接圧ばね14から可動子ブロック33に作用する力とがつり合ったところ(第2の位置)で、可動子ブロック33は止まることになる。これにより、第2可動子332は定常位置で止まることになる。
接点装置2における一対の接点台11,12は、電磁石装置3の上方において上下方向に直交する平面内の一方向に並ぶように配置されており、各々、当該平面内での断面形状が円形状となる円柱状に形成されている。これら一対の接点台11,12は、電磁石装置3の第1の継鉄34や固定子32との位置関係が固定されている。
具体的には、一対の接点台11,12は、第1の継鉄34に接合されたケース16に対して固定されている。ケース16は、下面が開口した箱状に形成されており、継鉄上板341との間に固定接点22および可動接点21を収納する。ケース16は、たとえばセラミックなどの耐熱性材料より形成されており、その開口周部が継鉄上板341の上面の周縁部に対して、連結体17を介して接合されている。一対の接点台11,12は、このケース16の底板(上壁)161に形成された丸孔に挿通された形でケース16に接合されている。
なお、ケース16と連結体17と継鉄上板341と筒体36とは、内部に気密空間を形成する気密容器を形成することが望ましく、この場合、気密容器内には水素を主体とする消弧ガスが封入されていることが望ましい。これにより、気密容器内に収納されている固定接点22および可動接点21において開極する際にアークが発生したとしても、アークは消弧ガスによって急速に冷却され迅速に消弧可能になる。ただし、固定接点22および可動接点21は気密容器に収納される構造に限らない。
一対の接点台11,12は、導電性材料から形成されており、各々の下端部には固定接点22が設けられている。一対の接点台11,12の各々は、その外径が各接点台11,12における上端部以外の部位に比べて上端部で大きくなるように形成されている。一対の接点台11,12のうち第1の接点台11は、その上端部に第1の出力端子51が第2の励磁コイル41を介して接続されている。一方、一対の接点台11,12のうち第2の接点台12は、その上端部に第2の出力端子52が接続されている。つまり、トリップ装置4の第2の励磁コイル41は、第1の接点台11と第1の出力端子51との間に挿入されている。言い換えれば、第2の励磁コイル41は、図2に示すように一対の出力端子51,52間において接点装置2と直列に接続されている。
可動接触子13は、導電性材料から矩形板状に形成されており、その長手方向の両端部を一対の接点台11,12の下端部に対向させるように一対の接点台11,12の下方に
配置されている。可動接触子13のうち、各接点台11,12に設けられている固定接点22に対向する各部位には、可動接点21がそれぞれ設けられている。
可動接触子13は、電磁石装置3によって上下方向に駆動される。これにより、可動接触子13に設けられている各可動接点21は、それぞれ対応する固定接点22に接触する閉位置と、固定接点22から離れた開位置との間で移動することになる。可動接点21が閉位置にあるとき、つまり接点装置2が閉じた状態では、第1の接点台11と第2の接点台12とは可動接触子13を介して短絡する。したがって、接点装置2が閉じた状態では、第1の出力端子51と第2の出力端子52との間は第2の励磁コイル41を介して導通し、走行用のバッテリ101から負荷102へ第2の励磁コイル41を介して直流電力が供給されることになる。
接圧ばね14は、固定子32と可動接触子13との間に配置されており、可動接触子13を上方へ付勢するコイルばねである。接圧ばね14のばね力は復帰ばね35のばね力よりも小さく設定されている。
シャフト15は、非磁性材料にて上下方向に延びた丸棒状に形成されており、電磁石装置3で発生した駆動力を、電磁石装置3の上方に設けられている接点装置2へ伝達する。シャフト15は、その上端部に、シャフト15における上端部以外の部位に比べて外径の大きな鍔部151が形成されている。可動接触子13の中央部にはシャフト15の鍔部151の外径よりも小径の透孔が形成されており、シャフト15は、鍔部151を可動接触子13の上面における透孔の周辺に接触させるように可動接触子13の透孔に挿通される。さらに、シャフト15は、接圧ばね14と固定子32と復帰ばね35と第1可動子331とばね42との内側を通って、その下端部が第2可動子332に固定されている。
これにより、電磁石装置3で発生した駆動力はシャフト15にて可動接触子13へと伝達され、第2可動子332が上下方向に移動するのに伴い可動接触子13が上下方向に移動する。
(1.3)電磁継電器の基本動作
次に、上述した構成の電磁継電器1の基本的な動作について図1および図3を参照して簡単に説明する。ここでは、接点装置2に異常電流が流れていない通常時、つまりトリップ装置4が作動しておらず、第1可動子331と第2可動子332とが一体化された状態にある場合の電磁継電器1の動作を説明する。
図3は、第1の励磁コイル31の非通電時における電磁継電器1の状態(以下、「オフ状態」という)を示している。オフ状態では、電磁石装置3の可動子ブロック33が第2の位置に位置し、第2可動子332は定常位置に位置する。そのため、シャフト15は、電磁石装置3によって下方に引き下げられている。このとき、シャフト15は、その上端部に設けられている鍔部151にて可動接触子13を下方に押し下げることになる。そのため、可動接触子13は、シャフト15の鍔部151によって上方への移動が規制され、一対の可動接点21を一対の固定接点22から離れた開位置に位置させる。よって、オフ状態では、接点装置2は開いた状態にあるので、一対の接点台11,12間は非導通であり、一対の出力端子51,52間が非導通となる。
なお、詳しくは後述するが、図4に示すようにトリップ装置4が作動して、第2可動子332が第1可動子331から分離した場合も、オフ状態と同様に、シャフト15は、電磁石装置3によって下方に引き下げられる。そのため、可動接触子13は、一対の可動接点21を一対の固定接点22から離れた開位置に位置させ、接点装置2は開いた状態となる。
一方、図1は第1の励磁コイル31の通電時における電磁継電器1の状態(以下、「オン状態」という)を示している。オン状態では、電磁石装置3の可動子ブロック33が第1の位置に位置し、第2可動子332は吸引位置に位置する。そのため、シャフト15は、電磁石装置3によって上方に押し上げられている。このとき、シャフト15は、その上端部に設けられている鍔部151を上方へ移動させることになる。そのため、可動接触子13は、鍔部151による上方への移動規制が解除され、接圧ばね14のばね力によって上方に押し上げられ、一対の可動接点21を一対の固定接点22に接触する閉位置に位置させる。
このとき、シャフト15は、可動接点21が固定接点22に接触した後さらに押し上げられており、適当なオーバトラベルが設定されている。可動接触子13は、接圧ばね14によって上方へ付勢されているので、一対の可動接点21と一対の固定接点22との間の接圧(接触圧)を確保することができる。よってオン状態では、接点装置2は閉じた状態にあるので、一対の接点台11,12間は導通し、一対の出力端子51,52間が導通する。
(1.4)トリップ装置の説明
次に、トリップ装置4の構成について図1および図4を参照して説明する。
トリップ装置4は、第2の励磁コイル41およびばね42を有している。励磁コイル41は、接点装置2と直列に接続されている。ばね42は、第2可動子332に対して第1可動子331から離れる向きの力を作用させる。トリップ装置4は、第2可動子332が吸引位置にあるときに、規定値以上の異常電流が第2の励磁コイル41に流れると、第2の励磁コイル41で生じる磁束によって永久磁石37による第2可動子332の吸着を解除する。第2可動子332の吸着が解除されると、トリップ装置4は、図4に示すように、ばね42により第2可動子332を移動させて接点装置2を開状態とする。
すなわち、可動子ブロック33が第1の位置にあるとき、つまり第2可動子332が吸引位置にあるときに、接点装置2は閉状態にあるから、接点装置2を通して第2の励磁コイル41に電流が流れることになる。接点装置2を通して第2の励磁コイル41に流れる電流が規定値以上の異常電流であれば、トリップ装置4が作動する。トリップ装置4が作動すると、第2の励磁コイル41で生じる磁束によって永久磁石37による第2可動子332の吸着が解除される。そのため、ばね42から第2可動子332に作用する力(下向きの力)によって、第2可動子332が第1可動子331から離れる向きに移動し、第2可動子332が第1可動子331から分離する。このとき、第2可動子332が第1可動子331から離れる向きの移動に伴って、シャフト15は下方に引き下げられる。したがって、可動接触子13は、一対の可動接点21を一対の固定接点22から離れた開位置に位置させ、接点装置2は開状態となる。
このように、トリップ装置4は、第2の励磁コイル41で生じる磁束によって第2可動子332の吸着を解除し、ばね42にて第2可動子332を移動させることにより、接点装置2を強制的に開状態とする。以下では、トリップ装置4が強制的に接点装置2を開状態にする動作を「トリップ」という。
ところで、本実施形態では、トリップ装置4は、第2の励磁コイル41およびばね42の他、電磁石装置3の第1の継鉄34に対応する第2の継鉄44をさらに有している。
第2の継鉄44は、可動子ブロック33と共に、第2の励磁コイル41の通電時に生じる磁束が通る磁路を形成する。そのため、第2の継鉄44は磁性材料から形成されている
。
本実施形態においては、第1の継鉄34の継鉄下板342およびブッシュ344が第2の継鉄44の上板として兼用されている。第2の継鉄44は、第2の励磁コイル41の下方に設けられて第1の継鉄34の継鉄下板342に対向する下板442を具備している。以下では、第2の継鉄44の上板として兼用される継鉄下板342およびブッシュ344については、第1の継鉄34の一部としてだけでなく、第2の継鉄44の一部を構成する部材として説明する。
第2の継鉄44は、継鉄下板342と下板442との周縁部同士を連結する側板443をさらに具備している。ここでは、継鉄下板342および下板442はそれぞれ矩形板状に形成されているので、側板443は、継鉄下板342の下面において互いに対向する一対の辺と、下板442の上面における互いに対向する一対の辺とを連結するように、一対設けられている。これらの側板443と下板442とは1枚の板から連続一体に形成されている。
第2の継鉄44は、下板442に固定された鉄芯444をさらに具備している。鉄芯444は、下板442の上面の中央部から上方に突出する形の円柱状に形成された固定鉄芯であって、その下端部が下板442の中央部に形成された保持孔に嵌合することにより、下板442に固定されている。鉄芯444の外径は、固定子32の外径と略同一に形成されている。
第2の励磁コイル41は、第2の継鉄(継鉄下板342とブッシュ344と下板442と側板443と鉄芯444)44で囲まれた空間に配置されている。さらに、第2の励磁コイル41の内側には筒体36の下端部が配置されている。つまり、筒体36は、第1の継鉄34の継鉄下板342を貫通しており、その下端部が第2の励磁コイル41内側まで延びている。ここで、可動子ブロック33と第2の励磁コイル41と鉄芯444とは、上下方向(縦方向)に沿って同一直線上に中心軸を有している。
次に、上述した構成のトリップ装置4の動作について図5Aおよび図5Bを参照して説明する。なお、図5Aおよび図5Bでは、筒体36内における可動子ブロック33の様子を表しており、筒体36および筒体36外にある構成要素の図示を省略している。
接点装置2に異常電流が流れていない通常時、つまりトリップ装置4が作動していない状態では、図5Aに示すように、永久磁石37の磁束φ1により第1可動子331と第2可動子332とが一体化されている。つまり、この状態では、永久磁石37で生じる磁束φ1は、第1磁極面371から出て、第1可動子331、磁路形成部334、および第2可動子332を順に通って第2磁極面372に戻るように、ループを形成する。これにより、第1可動子331に第2可動子332が吸着されることになり、第1可動子331および第2可動子332が一体化されて可動子ブロック33を構成する。
一方、接点装置2に異常電流が流れてトリップ装置4が作動すると、図5Bに示すように、第2の励磁コイル41で生じる磁束φ2によって永久磁石37による第2可動子332の吸着が解除される。つまり、第2の励磁コイル41が生じる磁束φ2は、永久磁石37で生じる磁束φ1を減少させるように作用し、永久磁石37による第1可動子331と第2可動子332との間の磁気吸引力を低下させる。本実施形態では、図5Bに示すように、永久磁石37内において、第2の励磁コイル41で生じる磁束φ2と、永久磁石37で生じる磁束φ1とが同じ向きになるように、永久磁石37の磁極性(つまり、磁極面の向き)が設定されている。そのため、磁路形成部334においては、第2の励磁コイル41で生じる磁束φ2と、永久磁石37で生じる磁束φ1とが逆向きになり、磁束φ2が磁
束φ1を相殺することで磁束φ1が減少または消滅する。
この状態で、第2可動子332には図5Bに示すような力F1〜F3が作用することになる。すなわち、第2可動子332には、第1可動子331との間の磁気吸引力である第1の力F1、および接圧ばね14のばね力である第2の力F2が上向きに作用し、ばね42のばね力である第3の力F3が下向きに作用する。
第1の力F1は、永久磁石37の磁束φ1により第1可動子331から第2可動子332に作用する吸引力である。第2の力F2は、接圧ばね14が可動接触子13を介してシャフト15を上方に押し上げる力、つまり接圧ばね14から可動接触子13およびシャフト15を介して第2可動子332に作用するばね力である。ただし、接点装置2が閉状態にあれば、シャフト15は、可動接点21が固定接点22に接触した後さらに押し上げられた状態にあり、適当なオーバトラベルが設定されている。そのため、オーバトラベルが生じる接点装置2の閉状態においては、接圧ばね14から第2可動子332に作用する第2の力F2はゼロである。第3の力F3は、ばね42から第2可動子332に対して、第1可動子331から離れる向き(下向き)に作用するばね力である。
電磁継電器1は、上述した力F1〜F3の関係がF1+F2<F3の条件を満たしたときに、第2可動子332の吸着が解除されて、第2可動子332が第1可動子331から離れる向き(下向き)に移動し、接点装置2が強制的に開状態となる(トリップする)。ここで、接点装置2が閉状態にあれば、上述のように第2の力F2はゼロであるから、第2可動子332の吸着が解除される条件は、F1<F3と言い換えられる。要するに、上向きに作用する第1の力F1が、下向きに作用する第3の力F3以上である間は、第2可動子332は第1可動子331と一体化された状態にある。そして、第3の力F3が第1の力F1を上回ると、第2可動子332は吸着が解除されて第1可動子331から分離される。
第1可動子331から分離した第2可動子332に対しては、永久磁石37による第1可動子331との間の吸引力(第1の力F1)は殆ど作用しない。そのため、第2可動子332が第1可動子331から分離した状態では、ばね42から第2可動子332に作用する力F3と、接圧ばね14から第2可動子332に作用する力F2とがつり合ったところで、第2可動子332は止まることになる。本実施形態では一例として、第2可動子332が第1可動子331から分離したときの第2可動子332の位置(以下、「トリップ位置」という)は、通常時におけるオフ状態での第2可動子332の位置(定常位置)と同じである。ただし、第2可動子332のトリップ位置は、定常位置と同じでなくてもよく、吸引位置と限界位置との間に適宜設定される。
ここで、トリップ装置4は、単に第2の励磁コイル41に電流が流れるだけでトリップするのではなく、永久磁石37により第2可動子332に作用する吸引力である第1の力F1が上記の条件(F1<F3)を満たして初めてトリップすることになる。第3の力F3はばね設計により決まる。永久磁石37により第2可動子332に作用する吸引力は、第2の励磁コイル41で生じる磁束φ2によって変化(低下)する。そして、磁束φ2は、第2の励磁コイル41を流れる電流(負荷電流)の大きさに応じて変化する。そこで、トリップ装置4は、第2の励磁コイル41を流れる電流が、規定値以上の異常電流となったときに、永久磁石37により第2可動子332に作用する吸引力である第1の力F1が上記の条件(F1<F3)を満たすように構成される。
すなわち、トリップ装置4は、過電流や短絡電流等のように、規定値以上の異常電流が接点装置2を流れたときに作動し、第2可動子332の吸着を解除して第2可動子332を移動させるように構成されている。具体的には、トリップ装置4は、規定値以上の電流
が第2の励磁コイル41を流れたときに、第1の力F1が上記の条件を満たすこととなるように、第2の励磁コイル41の巻き数などが設定される。ここで、トリップ装置4が動作を開始する規定値は、たとえば電磁継電器1の定格電流に対して十分に大きな過電流となる値、あるいは短絡電流となる値に設定される。ここでいう過電流は、たとえば定格電流の5倍から10倍程度の大きさの電流であって、短絡電流は、たとえば定格電流の数十倍程度の大きさの電流である。
これにより、電磁継電器1は、過電流や短絡電流等の異常電流が接点装置2を通して流れた場合、第2可動子332の吸着を解除し、ばね42にて接点装置2を強制的に開状態とすることができる。その結果、電磁継電器1は、異常電流が流れた際に生じる磁束を利用して第2可動子332の吸着を解除して第2可動子332強制的に移動させるので、異常電流の発生を速やかに検出して電路(接点装置2)を迅速に遮断できる。
また、短絡電流のように、とくに大きな異常電流が接点装置2を流れた場合には、トリップ装置4の作動時に、第2の励磁コイル41で生じる磁束φ2が増大し、増大した磁束φ2によって、可動子ブロック33と鉄芯444との間に吸引力が作用することがある。つまり、トリップ装置4は、第2の励磁コイル41で生じる磁束φ2によって、第2可動子332を第1可動子331と共に下向きに移動させる磁気吸引力を発生することが可能である。この場合、第2可動子332は定常位置を通り過ぎて、限界位置まで移動することになる。そして、第2可動子332が第1可動子331ごと移動している状態で第2可動子332の吸着が解除されることで、第1可動子331が静止している場合に比べて、固定子32から見た第2可動子332の移動速度が高速になる。その結果、トリップする際に接点装置2が開く速度が速くなり、電磁継電器1は、異常電流が流れた場合に生じる磁束φ2を利用して、電路(接点装置2)をより迅速に遮断できる。
また、上述したように、第2の励磁コイル41で生じる磁束φ2と、永久磁石37で生じる磁束φ1とが永久磁石37内において同じ向きになる構成では、第2の励磁コイル41が生じた磁束φ2は、永久磁石37に対しては磁束φ1を強めるように作用する。そのため、トリップ装置4のトリップ時に、第2の励磁コイル41で非常に大きな磁束φ2が生じることがあっても、この磁束φ2が永久磁石37に対して永久磁石37を減磁(または消磁)する向きに作用することを回避できる。
ところで、第2の励磁コイル41は、上述したように一対の出力端子51,52間において接点装置2と直列に接続されている。そのため、第2の励磁コイル41は、接点装置2が閉じた状態で、走行用のバッテリ101から負荷102へ供給される負荷電流の経路の一部を形成し、この負荷電流によって励磁される。そこで、第2の励磁コイル41以外の経路でも負荷電流を流すことができるように、第2の励磁コイル41には、電気的に並列にバイパス経路6(図2参照)が接続されていてもよい。バイパス経路6を設けることで、電磁継電器1は、走行用のバッテリ101から負荷102へ供給される負荷電流の一部をバイパス経路6に流すことができ、第2の励磁コイル41での損失を抑えることができる。
なお、トリップ装置4は、第2の励磁コイル41で生じる磁束φ2によって永久磁石37による第2可動子332の吸着を解除する構成であればよく、第2の継鉄44はトリップ装置4に必須の構成ではない。そのため、第2の継鉄44は省略されていてもよい。
(1.5)異常電流発生時の動作
次に、電磁継電器1が上述したようなトリップ装置4を備えることにより、接点装置2の閉状態から異常電流に応答して電路を速やかに遮断できる点について、図6を参照して簡単に説明する。図6では、横軸を時間、縦軸を電流として、バッテリ101と負荷10
2との間の電路(接点装置2)を流れる負荷電流を表している。ここでは、時刻t0において負荷102で短絡が発生した場合を想定しており、「X1」がトリップ装置4を備えた本実施形態の電磁継電器1を用いた場合、「X2」がトリップ装置4のない電磁継電器を用いた場合の負荷電流を表している。
まず、トリップ装置4を備えていない電磁継電器(以下、「第1の比較例」とする)の動作について説明する。第1の比較例では、電磁継電器は、時刻t0で短絡が発生し、負荷電流X2が上昇して短絡電流Ipに達しても、すぐには接点装置2を開状態とすることはできない。この場合、負荷電流X2は、ECU103が保護機能により異常電流の発生を検知し制御信号によってスイッチング素子104をオフし、第1の励磁コイル31の通電が停止された時刻t3から低下し始める。固定接点22−可動接点21間のアークが消弧され、負荷電流X2が遮断されるまでにはさらに遮断時間T2を要するため、負荷電流X2は、時刻t0から時間T20が経過した時刻t4で遮断されることになる。
次に、可動子ブロック33が分離しないように第1可動子331と第2可動子332とが強固に結合された構成の電磁継電器(以下、「第2の比較例」とする)の動作について説明する。第2の比較例では、トリップ装置4の作動時に、第2の励磁コイル41で生じる磁束φ2によって、可動子ブロック33と鉄芯444との間に吸引力が作用し、可動子ブロック33が下向きに移動して接点装置2が開状態となる。第2の比較例では、電磁継電器は、時刻t0で短絡が発生し、負荷電流X1が上昇して規定値I1に達すると、電磁継電器自身でトリップ装置4により接点装置2を開状態とする。そのため、この場合、負荷電流X1は、規定値I1に達した直後の時刻t1から低下し始める。固定接点22−可動接点21間のアークが消弧され、負荷電流X1が遮断されるまでにはさらに遮断時間T1を要するが、負荷電流X1は、時刻t0から時間T10(<T20)が経過した時刻t2で遮断されることになる。
ただし、第2の比較例の電磁継電器は、負荷電流を利用してトリップ装置4がトリップするので、負荷電流が遮断されると、第2の励磁コイル41への通電が停止することになる。そのため、第1の励磁コイル31の通電が停止される時刻t3までは、負荷電流が遮断された後で再び接点装置2が閉状態となり、チャタリングを生じることがある。このチャタリングによる負荷電流を図6では「X3」で示している。つまり、第2の比較例の構成では、異常電流が発生した場合に、接点装置2が開状態となった後で、再び接点装置2が閉状態となり、以降、接点装置2が開閉を繰り返すチャタリングを生じることがある。
次に、本実施形態の電磁継電器1の動作について説明する。本実施形態の電磁継電器1によれば、第2の比較例と同様に、電磁継電器1自身でトリップ装置4により接点装置2を開状態とするため、負荷電流X1は、規定値に達した直後の時刻t1から低下し始める。そして、本実施形態の構成によれば、トリップ装置4が作動すると、第2の励磁コイル41で生じる磁束によって永久磁石37による第2可動子332の吸着が解除される。そのため、トリップ装置4が作動した後は、第2可動子332にばね42からの力が作用することで、第2可動子332が第1可動子331から分離した状態が維持される。そのため、時刻t1から遮断時間T1が経過した時刻t2において、負荷電流X1が遮断されて第2の励磁コイル41の通電が停止しても、接点装置2は開状態を維持する。
したがって、本実施形態の電磁継電器1によれば、トリップ装置4がトリップして負荷電流が遮断された後で再び接点装置2が閉状態となるチャタリングの発生が抑制される。その結果、本実施形態の電磁継電器1によれば、負荷電流が遮断されるまでに要する時間を、第2の比較例の場合に比べて時間T30(時刻t2〜t3)だけ短縮することができる。
また、本実施形態の電磁継電器1は、トリップ装置4を備えることで負荷電流の上昇を抑えることができるという利点もある。つまり、第1の比較例のようにトリップ装置4がなければ、負荷電流X2が過電流(過負荷電流)に達してもすぐには接点装置2が開かないので、負荷電流X2が上昇し続けて短絡電流(>過電流)Ipまで達する可能性がある。これに対して、トリップ装置4を備えた本実施形態の電磁継電器1は、負荷電流X1が過電流に達するとすぐに接点装置2が開くので、短絡電流まで上昇する前に負荷電流X1を遮断可能となる。なお、ここでいう過電流は、たとえば定格電流の5倍から10倍程度の大きさの電流であって、短絡電流は、たとえば定格電流の数十倍程度の大きさの電流である。
なお、図6で示す負荷電流X1は概念的な波形であって、実際には、トリップ装置4が作動するまでに負荷電流X1にオーバーシュートが生じることもあり、本実施形態の電磁継電器1で得られる波形は図6に示す通りの波形に限らない。
(1.6)効果
以上説明した本実施形態の電磁継電器1によれば、接点装置2に異常電流が流れると、トリップ装置4が作動して、第2の励磁コイル41で生じる磁束によって永久磁石37による第2可動子332の吸着が解除される。これにより、ばね42にて第2可動子332が第1可動子331から離れる向きに移動し、接点装置2が開状態となる。つまり、異常電流が流れた場合、トリップ装置4は、第1可動子331から第2可動子332を分離させ、第2可動子332を移動させることで接点装置2を強制的に開状態とする。トリップ装置4が作動した後は、第2可動子332にばね42からの力が作用することで、第2可動子332が第1可動子331から分離した状態が維持される。
したがって、本実施形態の電磁継電器1によれば、トリップ装置4が作動して接点装置2が強制的に開状態となった後は、第2の励磁コイル41の駆動力が失われても、第2可動子332は第1可動子331から分離した状態を維持する。その結果、第1の励磁コイル31で生じる磁束によって固定子32に第1可動子331が吸引されたとしても、第2可動子332は吸引位置には戻らず、接点装置2は開状態を維持することが可能である。よって、電磁継電器1は、接点装置2に異常電流が流れた際に、接点装置2を開状態に維持することが可能になる、という利点がある。
また、本実施形態のように、永久磁石37は第1可動子331に設けられていることが好ましい。この構成によれば、永久磁石37と第1可動子331とを一部品として扱うことができるので、永久磁石37が第1可動子331と別体である場合に比べて、電磁継電器1の部品点数を少なく抑えることができる。しかも、第2可動子332に永久磁石37が設けられる場合に比べて、第2可動子332の小型化および軽量化を図ることができ、トリップ装置4の作動時における第2可動子332の移動速度の高速化につながる。
また、本実施形態のように、電磁石装置3は、磁路形成部334をさらに有することが好ましい。磁路形成部334は、永久磁石37により第1可動子331に第2可動子332が吸着された状態で、第1可動子331および第2可動子332と共に、永久磁石37で生じる磁束を通す閉磁路を形成する。この構成によれば、永久磁石37で生じる磁束が開磁路を通る場合に比べて、永久磁石37により第1可動子331と第2可動子332との間に作用する吸引力が増大し、通常時における第2可動子332の吸着力が増大する。ただし、磁路形成部334は電磁継電器1に必須の構成ではなく、適宜省略可能である。
また、本実施形態のように、磁路形成部334は第1可動子331に設けられていることが好ましい。この構成によれば、第1可動子331と磁路形成部334とを一部品として扱うことができるので、磁路形成部334が第1可動子331と別体である場合に比べ
て、電磁継電器1の部品点数を少なく抑えることができる。
また、本実施形態のように、永久磁石37と磁路形成部334との間には、非磁性体からなる短絡防止部38が設けられていることが好ましい。この構成によれば、磁路形成部334における永久磁石37との接触面を通して、永久磁石37の生じる磁束の短絡が生じることを防止できる。ただし、短絡防止部38は電磁継電器1に必須の構成ではなく、適宜省略可能である。
(1.7)変形例
以下、実施形態1の変形例について説明する。
(1.7.1)変形例1
実施形態1の変形例1に係る電磁継電器1について、図7Aおよび図7Bを参照して説明する。なお、図7Aおよび図7Bでは、筒体36内における可動子ブロック33の様子を表しており、筒体36および筒体36外にある構成要素の図示を省略している。
本変形例では、永久磁石37内において、第2の励磁コイル41で生じる磁束φ2と、永久磁石37で生じる磁束φ1とが逆向きになるように、永久磁石37の磁極性(つまり、磁極面の向き)が設定されている。つまり、本変形例では、実施形態1とは永久磁石37の着磁方向が反対であって、第1磁極面371が「S極」、第2磁極面372が「N極」である。
本変形例においても、接点装置2に異常電流が流れていない通常時、つまりトリップ装置4が作動していない状態では、図7Aに示すように、永久磁石37の磁束φ1により第1可動子331と第2可動子332とが一体化されている。つまり、この状態では、永久磁石37で生じる磁束φ1は、第2磁極面372から出て、第2可動子332、磁路形成部334、および第1可動子331を順に通って第1磁極面371に戻るように、ループを形成する。
一方、接点装置2に異常電流が流れてトリップ装置4が作動すると、図7Bに示すように、第2の励磁コイル41で生じる磁束φ2によって永久磁石37による第2可動子332の吸着が解除される。つまり、第2の励磁コイル41が生じる磁束φ2は、永久磁石37で生じる磁束φ1を減少させるように作用し、永久磁石37による第1可動子331と第2可動子332との間の磁気吸引力を低下させる。本変形例では、図7Bに示すように、永久磁石37内において、第2の励磁コイル41で生じる磁束φ2と、永久磁石37で生じる磁束φ1とが逆向きになる。そのため、永久磁石37から出る磁束φ1を磁束φ2が相殺することで、磁束φ1が減少または消滅する。これにより、第2可動子332は吸着が解除されて第1可動子331から分離される。
(1.7.2)変形例2
実施形態1の変形例2として、永久磁石37の形状や配置が実施形態1とは異なる電磁継電器1を例示する。すなわち、永久磁石37の形状や配置は実施形態1の例に限らず、たとえば図8A〜図8Cに示すように、適宜変更可能である。なお、図8A〜図8Cでは、筒体36内における可動子ブロック33の様子を表しており、筒体36および筒体36外にある構成要素の図示を省略している。
図8Aの例では、磁路形成部334が省略され、永久磁石37は第1可動子331の下端面の全面を覆うように第1可動子331に取り付けられている。永久磁石37は、縦方向における両面に、互いに異極性の第1磁極面371および第2磁極面372を有している。この構成であっても、接点装置2に異常電流が流れていない通常時、つまりトリップ
装置4が作動していない状態では、永久磁石37の生じる磁束φ1によって、第2可動子332が第1可動子331に吸着される。一方、接点装置2に異常電流が流れてトリップ装置4が作動すると、実施形態1の変形例1と同様に、永久磁石37内において永久磁石37の磁束φ1とは逆向きになる磁束φ2が、第2の励磁コイル41で生じる。これにより、第2可動子332は吸着が解除されて第1可動子331から分離される。
図8Bの例では、永久磁石37は第2可動子332に設けられている。ここでは、磁路形成部334が省略され、永久磁石37は第2可動子332の下端面の全面を覆うように第2可動子332に取り付けられている。永久磁石37は、縦方向における両面に、互いに異極性の第1磁極面371および第2磁極面372を有している。この構成であっても、接点装置2に異常電流が流れていない通常時、つまりトリップ装置4が作動していない状態では、永久磁石37の生じる磁束φ1によって、第2可動子332が第1可動子331に吸着される。一方、接点装置2に異常電流が流れてトリップ装置4が作動すると、実施形態1の変形例1と同様に、永久磁石37内において永久磁石37の磁束φ1とは逆向きになる磁束φ2が、第2の励磁コイル41で生じる。これにより、第2可動子332は吸着が解除されて第1可動子331から分離される。
図8Cの例では、永久磁石37が第2可動子332に設けられ、さらに磁路形成部334が第2可動子332に設けられている。ここでは、永久磁石37は、第2可動子332の上端面に取り付けられている。磁路形成部334は、円環状に形成されており、第2可動子332の上端面におけるシャフト15の外周縁から上方に突出する。永久磁石37は、磁路形成部334と同心円状の円環状に形成されており、磁路形成部334の外側に配置されている。言い換えれば、磁路形成部334が永久磁石37の中空部に嵌り込むことによって、永久磁石37が第2可動子332に取り付けられている。
図8Cの例において、永久磁石37は、縦方向における両面に、互いに異極性の第1磁極面371および第2磁極面372を有している。この構成であっても、接点装置2に異常電流が流れていない通常時、つまりトリップ装置4が作動していない状態では、永久磁石37の生じる磁束φ1によって、第2可動子332が第1可動子331に吸着される。一方、接点装置2に異常電流が流れてトリップ装置4が作動すると、実施形態1と同様に、磁路形成部334において永久磁石37の磁束φ1と逆向きとなる磁束φ2が、第2の励磁コイル41で生じる。これにより、第2可動子332は吸着が解除されて第1可動子331から分離される。なお、図8Cの例でも、永久磁石37と磁路形成部334との間には、非磁性体からなる短絡防止部38が設けられている。
図8Bおよび図8Cのように、永久磁石37が第2可動子332に設けられた構成によれば、永久磁石37と第2可動子332とを一部品として扱うことができる。そのため、永久磁石37が第2可動子332と別体である場合に比べて、電磁継電器1の部品点数を少なく抑えることができる。
また、図8Cのように、磁路形成部334が第2可動子332に設けられた構成によれば、第2可動子332と磁路形成部334とを一部品として扱うことができる。そのため、磁路形成部334が第2可動子332と別体である場合に比べて、電磁継電器1の部品点数を少なく抑えることができる。
なお、永久磁石37の形状や配置は図8A〜図8Cの例に限らない。たとえば、実施形態1では、永久磁石37は磁路形成部334の外側に配置されているが、磁路形成部334の内側に配置されていてもよい。また、永久磁石37と磁路形成部334とは、第1可動子331と第2可動子332とに分かれて設けられてもよく、たとえば第1可動子331には永久磁石37が設けられ、第2可動子332には磁路形成部334が設けられても
よい。さらに、永久磁石37は円環状に限らず第1可動子331の周方向の一部にのみ設けられていてもよい。
(1.7.3)変形例3
実施形態1の変形例3に係る電磁継電器1について、図9を参照して説明する。本変形例では、第2可動子332は、固定子32と第1可動子331とが並ぶ一方向(縦方向)において、第1可動子331に対して固定子32とは反対側に配置されている。そして、第1可動子331および第2可動子332は、第1の励磁コイル31で生じる磁束によって縦方向に沿って移動する。トリップ装置4は、縦方向に直交する平面に沿って第2の励磁コイルで生じる磁束を通す磁路の一部を形成する継鉄(継鉄下板342)を有している。ここまでの構成は、実施形態1と同様である。
さらに、本変形例では、継鉄下板(継鉄)342は、吸引位置にあるときの第2可動子332における第1可動子331との対向面より、縦方向において固定子32とは反対側(下向き)に突出するように構成されている。図9では、吸引位置にあるときの第2可動子332における第1可動子331との対向面が含まれる平面を第1平面S1とし、継鉄下板342の下面が含まれる平面を第2平面S2としている。言い換えれば、接点装置2が閉状態にあるときの第2可動子332における第1可動子331との境界面(第1平面S1)は、継鉄下板342の下面(第2平面S2)よりも上方(縦方向において固定子32側)に位置している。図9の例では、第1平面S1は縦方向において継鉄下板342の厚み内に位置する。
この構成によれば、トリップ装置4の作動時に第2の励磁コイル41で生じる磁束φ2において、吸引位置にあるときの第2可動子332と第1可動子331との境界面を通過する割合を低下させることができる。すなわち、第2の励磁コイル41で生じる磁束φ2が通る磁路は、図9に示すように、継鉄下板342を含む磁路と、第1可動子331を含む磁路とに分かれることになる。ここで、第1平面S1が第2平面S2よりも上方に位置することで、磁束φ2が第1可動子331を通過する割合は低下し、磁束φ2が継鉄下板342を通過する割合が高くなる。そのため、第2の励磁コイル41の生じる磁束φ2により第1可動子331と第2可動子332との間に作用する吸引力が小さくなり、第2の励磁コイル41の生じる磁束φ2により第2可動子332と鉄芯444との間に作用する吸引力が大きくなる。したがって、トリップ装置4は、トリップする電流値(規定値)が同じであれば第2の励磁コイル41の巻き数を少なく抑えることができ、第2の励磁コイル41の巻き数が同じであればトリップする電流値を小さくできる。
(1.7.4)変形例4
実施形態1の変形例4に係る電磁継電器1について、図10を参照して説明する。本変形例では、トリップ装置4は、第2の励磁コイル41で生じる磁束を通す磁路の一部を形成する継鉄ブロックを有している。ここでいう「継鉄ブロック」は、第2の継鉄44にて実現されている。ここまでの構成は、実施形態1と同様である。
さらに、本変形例では、第2の励磁コイル41は、第2の継鉄(継鉄ブロック)44の一部に巻かれている。図10の例では、第2の継鉄44における一対の側板443のうち一方の側板443に対して、第2の励磁コイル41が巻かれている。言い換えれば、第2の継鉄44の一部(ここでは側板443)が、第2の励磁コイル41の中空部(第2の励磁コイル41の内周面で囲まれた空間)を貫通している。
この構成によれば、トリップ装置4の作動時に第2の励磁コイル41で生じる磁束により、第2の継鉄44で磁気飽和が生じやすくなる。つまり、第2の励磁コイル41で生じる磁束は、第2の励磁コイル41が巻かれた第2の継鉄44の一部(ここでは側板443
)に集中し、磁気飽和が生じやすくなる。これにより、短絡電流のように、とくに大きな異常電流が接点装置2を流れた場合でも、第2の励磁コイル41で生じる磁束により第1可動子331と第2可動子332との間に作用する吸引力が小さく抑えることができる。したがって、トリップ装置4の作動の確実性が向上する。
(実施形態2)
(2.1)概要
本実施形態の電磁継電器1は、図11Aに示すように保持磁石71をさらに備える点で、実施形態1の電磁継電器1と相違する。以下、実施形態1と同様の構成については、共通の符号を付して適宜説明を省略する。
本実施形態では、第2可動子332は、固定子32と第1可動子331とが並ぶ一方向(縦方向)において、第1可動子331に対して固定子32とは反対側に配置されている。この点については実施形態1と同様である。保持磁石71は、縦方向において、第2可動子332に対して第1可動子331と反対側に設けられている。保持磁石71は、ばね42の生じるばね力により第2可動子332が第1可動子331から離れる向きに移動したときに、第2可動子332を吸引して第2可動子332を保持する。
以下、保持磁石71についてさらに詳しく説明する。保持磁石71は、鉄芯444と筒体36の底板362との間に配置されている。保持磁石71は、円盤状の永久磁石からなり、厚み方向(縦方向)における両面に、互いに異極性の第1磁極面711および第2磁極面712を有している。本実施形態では一例として、第1磁極面711を「N極」、第2磁極面712を「S極」として説明するが、この構成に限らず、N極とS極とは反対の関係であってもよい。保持磁石71の外径は、鉄芯444の外径と略同一に形成されている。
保持磁石71は、上下方向(縦方向)において、固定子32、第1可動子331、および第2可動子332と一直線上に並びつつ、第2可動子332の下方となる位置に配置されている。ここで、保持磁石71は、その上面である第1磁極面711を筒体36の底板362に接触させるように配置されている。さらに、保持磁石71は、その下面である第2磁極面712を鉄芯444に接触させるように配置されている。これにより、保持磁石71は、鉄芯444と底板362との間に挟まれることになる。
保持磁石71は、トリップ装置4が作動して第2可動子332が第1可動子331から離れる向きに移動したときに、第2可動子332を吸引して、図11Bに示すように第2可動子332を限界位置に保持する機能を有している。すなわち、本実施形態の電磁継電器1は、トリップ装置4が第1可動子331から第2可動子332を分離させた後、保持磁石71で生じる磁気吸引力により、第2可動子332を限界位置に保持するように構成されている。言い換えれば、一旦、トリップ装置4がトリップして第2可動子332が限界位置へ移動すると、第2可動子332は保持磁石71によって限界位置に保持(ラッチ)されることになる。
以上説明した本実施形態の電磁継電器1によれば、トリップ装置4が作動した場合に、保持磁石71で生じる磁束によって第2可動子332を第1可動子331から離れた位置(ここでは限界位置)に保持することができる。したがって、トリップ装置4が作動して第2可動子332が第1可動子331から離れる向きに移動した後、第2可動子332が跳ね返る「リバウンド」の発生を防止することができる。その結果、接点装置2に過電流、短絡電流等の異常電流が流れた際に、より確実に接点装置2を開状態に維持することが可能になる。
(2.2)変形例
実施形態2の変形例として、保持磁石71の形状や配置が実施形態2とは異なる電磁継電器1を例示する。すなわち、保持磁石71の形状や配置は実施形態2の例に限らず、たとえば図12A〜図12Cに示すように、適宜変更可能である。
(2.2.1)変形例1
実施形態2の変形例1に係る電磁継電器1は、図12Aに示すように、縦方向において保持磁石71と並ぶように配置され保持磁石71によって磁化される磁性体部材72をさらに有している。ここで、実施形態1と同様、電磁石装置3は、第1可動子331と第2可動子332とを収納する筒体36を有し、筒体36は、筒状に形成された筒状部361と、筒状部361の一方の開口を塞ぐ底板362とを有している。第1可動子331および第2可動子332は、第2可動子332が底板362側となるように縦方向に並んで筒状部361の内側に配置されている。ここにおいて、磁性体部材72は、筒状部361の内側における第2可動子332と底板362との間に配置されている。図12Aの例では、磁性体部材72は磁性材料にて円盤状に形成されている。磁性体部材72の外径は、保持磁石71の外径と略同一に形成されている。磁性体部材72は、その下面を筒体36の底板362に接触させるように配置されている。
本変形例によれば、磁性体部材72がない場合に比べて、同等の吸引力を生じさせるために必要な保持磁石71のサイズをさらに小さくすることができる。さらに、磁性体部材72が、保持磁石71と第2可動子332との間に配置されていることで、保持磁石71と第2可動子332との間において、磁性体部材72によって磁束が整列され、保持磁石71からの吸引力が第2可動子332に効率的に作用する。しかも、磁性体部材72と第2可動子332との間に他部材が介在しないため、保持磁石71からの吸引力が第2可動子332により効率的に作用する。また、この構成では、保持磁石71は底板362を挟んで磁性体部材72と対向する形になるため、保持磁石71と磁性体部材72との間に生じる磁気吸引力によって、筒体36に対して保持磁石71が仮保持されることになる。したがって、電磁継電器1の組み立て性の向上に寄与する。
(2.2.2)変形例2
実施形態2の変形例2に係る電磁継電器1は、図12Bに示すように、磁性体部材が底板362の少なくとも一部からなる点で、実施形態2の変形例1と相違する。図12Bの例では、磁性体部材は底板362の全体からなる。
本変形例によれば、電磁石装置3を構成する筒体36の一部が磁性体部材に兼用されるので、磁性体部材を別途設ける場合に比べて、部品点数を削減できる。さらに、磁性体部材(底板362)と第2可動子332との間に他部材が介在しないため、保持磁石71からの吸引力が第2可動子332に効率的に作用する。とくに、磁性体部材が底板362の全体からなることで、保持磁石71と第2可動子332との間に非磁性材料が介在しないため、保持磁石71からの吸引力が第2可動子332に効率的に作用する。
また、磁性体部材は、底板362の少なくとも一部であればよく、底板362の全体が磁性材料で形成されていることは必須ではない。つまり、底板362の一部は非磁性材料で形成されていてもよい。あるいは、筒体36は、底板362だけでなく筒状部361の一部または全部も、磁性材料で形成されていてもよい。
(2.2.3)変形例3
実施形態2の変形例3に係る電磁継電器1は、図12Cに示すように、保持磁石71が筒状部361の内側における第2可動子332と底板362との間に配置されている点で、実施形態2の変形例1と相違する。また、本変形例では、磁性体部材72は省略されて
いる。
すなわち、本変形例では、保持磁石71は、第2可動子332と共に筒体36内に収納されている。保持磁石71は、その下面である第2磁極面712を底板362に接触させるように配置されている。
この構成によれば、保持磁石71と第2可動子332との間に他部材が介在しないため、保持磁石71からの吸引力が第2可動子332に効率的に作用する。そのため、保持磁石71の小型化が可能である。
なお、本実施形態で説明した構成(変形例を含む)は、実施形態1(変形例を含む)で説明した各構成と適宜組み合わせて適用可能である。
(実施形態3)
本実施形態の電磁継電器1は、図13Aおよび図13Bに示すように、接点装置2が固定接点22と可動接点21とを1つずつ備えた一点切りの構成である点で、実施形態1の電磁継電器1と相違する。すなわち、接点装置2は、実施形態1では一対の固定接点22と一対の可動接点21とを備えた二点切りの構成であるのに対し、本実施形態では一点切りの構成である。以下、実施形態1と同様の構成については、共通の符号を付して適宜説明を省略する。
本実施形態では、ケース16内において、一対の接点台11,12のうち第1の接点台11の下端部には、端子板18が電気的かつ機械的に接合されている。端子板18は、編組線19によって可動接触子13と電気的に接続されている。
これにより、接点装置2に異常電流が流れていない通常時、つまりトリップ装置4が作動していない状態における電磁継電器1のオン状態では、図13Aに示すように、可動接点21は固定接点22に接触する閉位置に位置する。オン状態では、シャフト15は、電磁石装置3によって上方に押し上げられているため、可動接触子13は、接圧ばね14のばね力によって上方に押し上げられて可動接点21を閉位置に位置させる。このとき、接点装置2は閉状態にあるので、一対の接点台11,12間は、端子板18、編組線19、および可動接触子13を介して導通し、一対の出力端子51,52間が導通する。
一方、接点装置2に異常電流が流れていない通常時、つまりトリップ装置4が作動していない状態における電磁継電器1のオフ状態では、図13Bに示すように、可動接点21は固定接点22から離れた開位置に位置する。オフ状態では、シャフト15は、電磁石装置3によって下方に引き下げられていため、可動接触子13は、シャフト15の鍔部151によって上方への移動が規制され、可動接点21を固定接点22から離れた開位置に位置させる。このとき、接点装置2は開状態にあるので、一対の接点台11,12間は非導通であり、一対の出力端子51,52間が非導通となる。
また、接点装置2に異常電流が流れてトリップ装置4が作動した状態では、上記通常時におけるオフ状態と同様に、図13Bに示すように接点装置2は開状態となる。
なお、本実施形態で説明した構成(変形例を含む)は、実施形態1(変形例を含む)で説明した各構成、および実施形態2(変形例を含む)で説明した各構成と適宜組み合わせて適用可能である。