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JP6667030B2 - 水処理方法 - Google Patents

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Description

本発明は、被処理水中に含まれるアンモニア態窒素を生物学的に窒素ガスにまで酸化、還元する水処理方法および水処理装置に関する。
排水中に含まれる窒素成分は、湖沼や閉鎖性海域等における富栄養化の原因物質の一つであるため、特に排水中に窒素成分が高濃度で含まれる場合は、排水処理工程で除去する必要がある。一般的には、微生物活性汚泥を用いた生物学的処理が適用されることが多く、例えば、アンモニア態窒素や有機態窒素を含んだ被処理水において、好気条件においてアンモニア態窒素を亜硝酸または硝酸態窒素にまで酸化する硝化工程、無酸素条件下、水素供与体存在下で亜硝酸、硝酸態窒素を窒素ガスにまで還元する脱窒工程、という2工程により硝化脱窒処理が行われる。また、被処理水中に多量の有機物を含む場合、被処理水を脱窒槽に供給するとともに、硝化槽で生成した亜硝酸、硝酸態窒素を含む混合液を脱窒槽へと循環し、被処理水中の有機物を水素供与体として利用して脱窒する循環型硝化脱窒法により処理が行われることもある。
いずれの処理方法においても、微生物活性汚泥中の硝化菌および脱窒菌を利用するものであるが、脱窒菌は有機物を資化可能な従属栄養性細菌であるのに対し、硝化菌は無機炭素を炭素源とする独立栄養性細菌であるため、脱窒菌と比較して増殖速度が非常に遅い。微生物活性汚泥を用いた処理方法の場合、活性汚泥中に硝化菌と脱窒菌が混在しているため、増殖速度が低い独立栄養性細菌である硝化菌の汚泥中での存在割合は非常に小さいと言われている。窒素含有排水の処理に対して、硝化脱窒法を利用した場合、排水中の窒素の除去効率は、硝化工程における硝化菌の活性が律速となる。また、硝化菌は水温の影響を大きく受け、水温低下が大幅な活性低下を招く恐れがある。そのため、処理水質を悪化させないために、硝化工程における汚泥当りの硝化速度(アンモニア酸化比活性)を脱窒工程のそれよりも低くする必要がある。例えば、非特許文献1には、アンモニア酸化比活性は0.113mgN/(mgVSS・日)、亜硝酸酸化非活性は0.056mgN/(mgVSS・日)であったと報告されている。実処理においても、水温20℃の条件において、汚泥あたりの処理速度として0.05〜0.1kgN/(kgVSS・日)程度で運転するように硝化槽の容積負荷を設定することが多い。
一方で、被処理水中の窒素濃度が例えば100mgN/L以上のように、高濃度の窒素を含有する被処理水を硝化菌および脱窒菌を含む微生物活性汚泥により処理を行う場合においては、硝化工程における硝化活性が低下してしまうことがある。硝化活性が低下すると最終処理水質をも悪化させてしまうため、硝化工程の汚泥あたりの硝化速度を上記の0.05〜0.1kgN/(kgMLVSS・日)よりも低く設定しなければならず、その結果として処理速度を高く保つことが困難となる場合がある。
特開2006−272287号公報
荒木ら(1999)、FISH法を適用した生物膜内硝化細菌の菌数計測と空間分布の解析;水環境学会誌第22巻、第2号、pp.152−159 Microbiology nitrate respiration - Genes, enzymes, and environmental distribution, Journal of Biotechnology, 155(2011), pp.104-117 Molybdenum as a micronutrient for Nitrobacter, Journal of Bacteriology, 89(1965), pp.123-128 Molecular analysis of ammonia oxidation and denitrification in natural environments , FEMS Microbiology Reviews, 24(2000), pp.673-690
本発明の目的は、アンモニア態窒素および有機態窒素を含む被処理水の生物学的処理において、被処理水中の窒素濃度が高濃度であっても高い処理速度で安定して処理することができる水処理方法を提供することにある。
本発明は、アンモニア態窒素を含む被処理水を、生物学的に処理する水処理方法であって、微生物活性汚泥中に含まれる独立栄養性のアンモニア酸化菌と亜硝酸酸化菌とを含む硝化菌により、前記アンモニア態窒素を亜硝酸または硝酸態窒素にまで酸化する硝化工程を含み、前記硝化工程において、前記被処理水に対して、モリブデン濃度が0.025mgMo/gN以上となるようにモリブデン化合物を存在させ、汚泥あたりの硝化速度が、0.11[kgN/(kgVSS・日)]以上である、水処理方法である。
前記水処理方法において、前記硝化工程におけるモリブデン濃度を、前記被処理水に対して2mgMo/L以下とすることが好ましい。
前記水処理方法において、前記被処理水中の窒素濃度が、100mgN/L以上であることが好ましい。
前記水処理方法において、前記微生物活性汚泥中に含まれる脱窒菌により、前記硝化工程で生成した亜硝酸または硝酸態窒素を窒素ガスにまで還元する脱窒工程をさらに含むことが好ましい。
前記水処理方法における前記脱窒工程において、処理水の水理学的滞留時間における水素供与体の最大濃度と最小濃度との差が、50mgTOC/L以上となるように、前記水素供与体の添加量に時間変動を与えることによって、前記硝化菌と脱窒菌とを含む微生物活性汚泥をグラニュール化させることが好ましい。
前記水処理方法において、前記脱窒工程は、少なくとも第一脱窒工程と第二脱窒工程とを含み、前記脱窒工程において、前記第二脱窒工程における処理水の水理学的滞留時間における前記第一脱窒工程における水素供与体の最大濃度と前記第二脱窒工程における水素供与体の最小濃度との差が、50mgTOC/L以上となるように、少なくとも前記第一脱窒工程において水素供与体を供給することが好ましい。
本発明により、アンモニア態窒素および有機態窒素を含む被処理水の生物学的処理において、被処理水中の窒素濃度が高濃度であっても高い処理速度で安定して処理することができる。
本発明の実施形態に係る水処理装置の一例を示す概略構成図である。 本発明の実施形態に係る水処理装置の他の例を示す概略構成図である。 本発明の実施形態に係る水処理装置の他の例を示す概略構成図である。 本発明の実施形態に係る水処理装置の他の例を示す概略構成図である。 本発明の実施形態に係る水処理装置の他の例を示す概略構成図である。 実施例1および比較例1における、経過日数[day]に対する硝化槽容積負荷[kgN/(m・d)]、硝化槽のアンモニア態窒素濃度[mgN/L]を示すグラフである。 実施例1および比較例1における、経過日数[day]に対する脱窒槽容積負荷[kgN/(m・d)]、処理水の総窒素濃度[mgN/L]を示すグラフである。 比較例2における、経過日数[day]に対する硝化槽容積負荷[kgN/(m・d)]、硝化槽のアンモニア態窒素濃度[mgN/L]を示すグラフである。 比較例2における、経過日数[day]に対する脱窒槽容積負荷[kgN/(m・d)]、処理水の総窒素濃度[mgN/L]を示すグラフである。 実施例2における、経過日数[day]に対する硝化槽容積負荷[kgN/(m・d)]、硝化槽のアンモニア態窒素濃度[mgN/L]を示すグラフである。 実施例2における、経過日数[day]に対する脱窒槽容積負荷[kgN/(m・d)]、処理水の総窒素濃度[mgN/L]を示すグラフである。 実施例3における、経過日数[day]に対する硝化槽容積負荷[kgN/(m・d)]、硝化槽のアンモニア態窒素濃度[mgN/L]を示すグラフである。 実施例3における、経過日数[day]に対する脱窒槽容積負荷[kgN/(m・d)]、処理水の総窒素濃度[mgN/L]を示すグラフである。 実施例におけるモリブデン濃度(Mo/N[mg/g])に対する硝化速度[kgN/(kgVSS・d)]を示すグラフである。
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
本発明の実施形態に係る水処理装置の一例の概略を図1に示し、その構成について説明する。
水処理装置1は、アンモニア態窒素および有機態窒素を含む被処理水を、生物学的に処理する水処理装置であって、微生物活性汚泥中に含まれる独立栄養性のアンモニア酸化菌と亜硝酸酸化菌とを含む硝化菌により、アンモニア態窒素を亜硝酸または硝酸態窒素にまで酸化する硝化手段として、硝化装置10を備え、硝化装置10において、被処理水に対して、モリブデン濃度が0.025mgMo/gN以上となるようにモリブデン化合物を存在させる装置である。水処理装置1は、微生物活性汚泥中に含まれる脱窒菌により、硝化装置10で生成した亜硝酸または硝酸態窒素を窒素ガスにまで還元する脱窒手段として、脱窒装置12をさらに備えてもよい。
水処理装置1は、微生物活性汚泥から処理水を分離して処理水を得る固液分離手段として、固液分離装置14と、固液分離装置14で分離された汚泥を固液分離装置14の前段へ返送する返送手段として、汚泥返送配管24とをさらに備えてもよい。
図1の水処理装置1において、硝化装置10の入口には、配管16が接続され、硝化装置10の出口と脱窒装置12の入口とは、配管18により接続され、脱窒装置12の出口と固液分離装置14の入口とは、配管20により接続され、固液分離装置14の処理水出口には、配管22が接続され、固液分離装置14の汚泥出口と配管16とは、汚泥返送配管24により接続されている。配管16には、モリブデン化合物供給配管26が接続され、脱窒装置12には、水素供与体供給配管28が接続されている。
本実施形態に係る水処理方法および水処理装置1の動作について説明する。
アンモニア態窒素および有機態窒素を含む被処理水は、配管16を通して、硝化装置10へ送液される。硝化装置10において、微生物活性汚泥中に含まれる独立栄養性のアンモニア酸化菌と亜硝酸酸化菌とを含む硝化菌により、被処理水に含まれるアンモニア態窒素が亜硝酸または硝酸態窒素にまで酸化される(硝化工程)。ここで、配管16において、被処理水に対して、モリブデン化合物供給配管26を通してモリブデン化合物が供給され、モリブデン濃度が0.025mgMo/gN以上となるようにモリブデン化合物を存在させる(モリブデン化合物供給工程)。硝化液は、配管18を通して、脱窒装置12へ送液される。
脱窒装置12において、水素供与体供給配管28を通して水素供与体が供給され、微生物活性汚泥中に含まれる従属栄養性の脱窒菌により、硝化装置10(硝化工程)で生成した亜硝酸または硝酸態窒素が窒素ガスにまで還元される(脱窒工程)。脱窒液は、配管20を通して、固液分離装置14へ送液される。
固液分離装置14において、脱窒液の微生物活性汚泥から処理水が分離されて処理水が得られる(固液分離工程)。固液分離により得られた処理水は、配管22を通して排出される。一方、固液分離により得られた汚泥の少なくとも一部は、汚泥返送配管24を通して、配管16へ返送されて、被処理水と混合される。汚泥は、固液分離装置14(固液分離工程)の前段へ返送されればよく、例えば、硝化装置10、脱窒装置12へ返送されてもよく、配管18,20へ返送されてもよい。固液分離により得られた汚泥の少なくとも一部は、固液分離装置14から系外へ排出されてもよい。
本発明者らは、アンモニア態窒素および有機態窒素を含む窒素含有被処理水、特に被処理水中の窒素濃度が例えば100mgN/L以上のような高濃度の窒素含有被処理水を、独立栄養性のアンモニア酸化菌と亜硝酸酸化菌とを含む硝化菌を含む微生物活性汚泥を用いて処理する方法において、微生物の代謝活性が低下してしまい、処理速度が低下した場合において、被処理水に対してモリブデン濃度が0.025mgMo/gN以上となるようにモリブデン化合物を存在させることで、硝化菌の代謝活性が大幅に回復、さらには向上し、安定して高い処理速度を得ることが可能となることを見出した。また、本発明者らは、アンモニア態窒素および有機態窒素を含む窒素含有被処理水、特に被処理水中の窒素濃度が例えば100mgN/L以上のような高濃度の窒素含有被処理水を、独立栄養性のアンモニア酸化菌と亜硝酸酸化菌とを含む硝化菌および従属栄養性の脱窒菌を含む微生物活性汚泥を用いて処理する方法において、微生物の代謝活性が低下してしまい、処理速度が低下した場合において、被処理水に対してモリブデン濃度が0.025mgMo/gN以上となるようにモリブデン化合物を存在させることで、硝化菌および脱窒菌の代謝活性が大幅に回復、さらには向上し、安定して高い処理速度を得ることが可能となることを見出した。
窒素含有被処理水、特に高濃度の窒素含有被処理水の生物学的処理において、モリブデン化合物により、微生物活性汚泥中のアンモニア酸化菌および亜硝酸酸化菌を含む硝化菌の活性を向上させることにより、被処理水中の窒素濃度が高濃度であっても高い処理速度で安定して処理することができる。また、窒素含有被処理水、特に高濃度の窒素含有被処理水の生物学的処理において、モリブデン化合物により、微生物活性汚泥中の脱窒菌の活性だけでなく、アンモニア酸化菌および亜硝酸酸化菌を含む硝化菌の活性をも向上させることにより、被処理水中の窒素濃度が高濃度であっても高い処理速度で安定して処理することができる。
一般的に、排水の生物学的処理を行う場合において微生物の増殖および代謝反応を維持するために、被処理水中の栄養素バランスを保つ必要がある。細胞の構成成分としての栄養素として「生物親元素」と言われる炭素(C)、酸素(O)、窒素(N)、水素(H)、リン(P)は必須成分となる。その他、生物親元素よりは比較的要求量は少ないが、硫黄(S)、カリウム(K)、ナトリウム(Na)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、塩素(Cl)、鉄(Fe)も細胞構成要素として必要な成分であるため、被処理水中の各種元素の含有量が少ない場合、それらを添加補給することが好ましい。一方で、要求量は少ないが、微生物の酵素代謝に関与する微量元素も存在した方がよく、例えば、フッ素(F)、シリカ(Si)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ヒ素(As)、セレン(Se)、モリブデン(Mo)、ヨウ素(I)等が挙げられる。しかし、これら重金属類を含む微量元素類は、要求量が非常に微量であり、被処理水中に必要十分な量が存在していると想定されていることから、通常、外部から被処理水や処理系内に添加するようなことはない。一方で、半導体産業等の超純水を使用する工場から排出される排水を生物学的に処理する際に、上記のような微量元素類が不足していると想定される場合は、被処理水に水道水や、工業用水、井水等を混合することで補給する場合がある。しかし被処理水中の窒素濃度が比較的高い(例えば100mgN/L以上)場合、硝化速度が低下してしまうことがある。このような状態であっても、本実施形態に係る水処理方法および水処理装置では、モリブデン化合物を処理系内に所定量供給することで、処理の安定化、高速処理が可能となる。
被処理水中の窒素成分の処理に関る反応は、主に以下に分けられる。
1.NH →NO (アンモニア酸化菌)
2.NO →NO (亜硝酸酸化菌)
3.NO →N(脱窒菌)
脱窒菌による、無酸素条件下における硝酸の異化的還元反応(硝酸呼吸)に関しては、生化学的な検討が進められている。例えば、非特許文献2によれば、硝酸から窒素ガスまでの反応は、[NO →NO →NO→NO→N]に細分化され、[NO →NO ]の還元反応を触媒する酵素は、モリブデン元素が関与していることが明らかとなっている。つまり、排水処理系における脱窒反応に関して、必要量の程度は明らかとなってはいないが、モリブデン化合物を添加することでその活性が向上することが想定される。
また、亜硝酸酸化菌が亜硝酸を酸化する際にモリブデンを要求することが研究により解明されている。例えば、非特許文献3では、亜硝酸酸化菌であるNitrobacterの培養条件を検討しており、少なくとも、10−9Mのモリブデン添加により、Nitrobacterによる亜硝酸の利用および細胞増殖が11倍上昇したことが示されている。つまり、排水処理系における亜硝酸酸化反応に関しては、モリブデン化合物を添加することでその活性が向上することが想定される。
一方で、アンモニア酸化菌のアンモニア酸化代謝に関わる酵素としては、アンモニアを酸化し、ヒドロキシルアミンを生成するammonium monooxygenase (AMO)および、生成したヒドロキシルアミンからさらに亜硝酸を生成するhydroxylamine oxidoreductase(HAO)の2種類の酵素が関与しているとされているが、これらはモリブデンが関与する酵素反応であるという報告はない(非特許文献4参照)。
特許文献1には、効率的に硝化反応を進めるために、コバルトを被処理水に共存させるとともに、さらにモリブデン、カルシウム、マグネシウム成分を共存させる方法が記載されている。特許文献1の実施例で、窒素濃度として70mgN/Lという比較的低濃度の被処理水の硝化脱窒処理試験を、モリブデン濃度として1mgMo/L共存下(14.3mgMo/gN)で検証しており、硝化の汚泥負荷が2.5gN/(kgMLSS・時)[=0.06kgN/(kgMLSS・日)]の条件にて、窒素の除去率が90%になるという結果を得ているが、顕著な効果が得られたとは考えにくい。
本発明者らは、アンモニア酸化菌および亜硝酸酸化菌が共存する微生物活性汚泥を用いて、特に高濃度の窒素を含有する被処理水を処理する方法において、モリブデンを所定量供給することで、亜硝酸酸化反応のみならず、アンモニア酸化菌の活性をも大幅に向上させることができることを見出した。また、本発明者らは、アンモニア酸化菌および亜硝酸酸化菌、脱窒菌を含む様々な細菌類が共存する微生物活性汚泥を用いて、特に高濃度の窒素を含有する被処理水を処理する方法において、モリブデンを所定量供給することで、亜硝酸酸化や脱窒(硝酸還元)反応のみならず、アンモニア酸化菌の活性をも大幅に向上させることができることを見出した。アンモニア酸化菌および亜硝酸酸化菌のような独立栄養性細菌と、有機物を資化可能な脱窒菌のような従属栄養性細菌が共存した微生物活性汚泥中では、増殖速度が硝化菌よりも大きい脱窒菌を含む従属栄養性細菌が汚泥中で優占している。通常、各細菌の代謝反応は独立していると想定されるが、複数の機能微生物が存在する微生物活性汚泥中では、各細菌が共存関係にある。モリブデン化合物添加がアンモニア酸化活性を向上させる機構は明らかではないが、脱窒菌のような従属栄養性細菌の代謝活性をモリブデンの供給により、増加させることができることから、相対的にアンモニア酸化の活性向上にも繋がっていると推察される。
本実施形態において、処理対象となる被処理水は、アンモニア態窒素を含む窒素含有水であり、特に、アンモニア態窒素を高濃度に含む窒素含有水であり、さらに有機態窒素を含む。被処理水としては、例えば、電子産業排水、金属精錬工場排水、発電所排水等の産業排水や、汚泥処理過程で排出される消化脱離水を含む排水等が挙げられる。ここで、電子産業排水は、様々な薬品が含まれており、また、製造する製品によっても排水中の成分は大きく異なるが、窒素含有水としては、例えばウェハー洗浄排水等が挙げられる。この排水中には、アンモニアの他、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、過酸化水素、フッ素イオン、イソプロピルアルコール(IPA)等を含むことが多い。
被処理水中のモリブデン濃度は、例えば、0.0001mgMo/L以下である。また、被処理水中の窒素濃度が、好ましくは100mgN/L以上である場合、より好ましくは400mgN/L以上である場合に、本実施形態に係る水処理方法および水処理装置が好適に適用される。
このような窒素含有水を生物学的に処理するにあたり、過酸化水素やフッ素イオン等の阻害性物質は生物に対して阻害性を有するため、予め除去することが望ましい。これらの阻害性物質の処理方法としては、既存技術を使用することができ、例えば、過酸化水素の処理においては、酵素を添加する方法、還元剤を注入する方法、活性炭に接触させる方法等が挙げられる。また、フッ素イオンの処理においては、カルシウムを添加してフッ化カルシウムとして除去する方法、イオン交換樹脂にて処理する方法等が挙げられる。
過酸化水素やフッ素イオン等の阻害性物質を除去した窒素含有水は、生物学的処理工程による処理が行われる前に、一旦水槽に貯められ、生物学的処理工程にかかる流量や水質を安定化させるとともに、アルカリまたは酸等のpH調整剤により適切なpH(例えば、pH6.5〜8.0)に調整されることが好ましい。そして、流量、水質、pH等が調整された窒素含有水(被処理水)が生物学的処理工程に送られる。
硝化装置10における硝化工程は、硝化部(例えば硝化槽)に被処理水を供給して、被処理水中のアンモニウムイオン等のアンモニア態窒素を好気的(例えば酸素の存在下で)に亜硝酸または硝酸態窒素にまで酸化する工程である。硝化部には例えば空気導入管が接続されており、硝化部内の被処理水に空気等の酸素含有気体を供給することができる構造となっている。そして、硝化部内で、硝化菌の働きにより、被処理水中のアンモニウムイオン等のアンモニア態窒素を亜硝酸または硝酸態窒素に硝化させる。ここで硝化菌とは、アンモニウムイオン等のアンモニア態窒素を亜硝酸イオンに酸化する独立栄養性のアンモニア酸化菌と、亜硝酸イオンを硝酸イオンに酸化する独立栄養性の亜硝酸酸化菌との総称のことをいう。
被処理水中に含まれるモリブデンが不足する場合には、モリブデン化合物を外部添加すればよい。モリブデン化合物は、例えばモリブデン化合物溶液として、被処理水に対してモリブデン化合物供給配管26を通して供給されて、モリブデン化合物が被処理水に混合されることで系内に供給される。モリブデン化合物は例えば処理される窒素量に比例させて供給すればよい。モリブデン化合物を所定量供給することで、硝化菌(アンモニア酸化菌および亜硝酸酸化菌)および脱窒菌の活性を高く維持し、安定運転または高速処理が可能となる。
モリブデン化合物としては、例えば、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、モリブデン酸アンモニウム等のモリブデン酸化合物等が挙げられる。モリブデン化合物の形態としては特に限定はないが、例えば溶液の状態であれば微生物活性汚泥中の細菌が利用しやすく、例えばモリブデン酸ナトリウムやモリブデン酸カリウム等の水溶液が予め調製されて添加されることが好ましい。
モリブデン化合物の添加場所については、硝化処理が行われる前の配管16に供給されてもよいし、被処理水と微生物活性汚泥とが混合された硝化装置10に供給されてもよい。また、添加されたモリブデン化合物が返送汚泥として固液分離工程よりも前段に返送され、系内を循環することを考慮すれば、配管18や脱窒装置12にモリブデン化合物供給配管が接続されて供給されてもいい。
硝化装置10(硝化工程)において、被処理水に対して、モリブデン濃度が0.025mgMo/gN以上となるようにモリブデン化合物を存在させるが、モリブデン濃度が0.1mgMo/gN以上となるようにモリブデン化合物を存在させることが好ましい。モリブデン濃度の上限としては、特に制限はないが、例えば、0.25mgMo/gN以下である。硝化装置10(硝化工程)において、被処理水に対して、モリブデン濃度が0.025mgMo/gN未満となると、硝化菌(アンモニア酸化菌および亜硝酸酸化菌)および脱窒菌の活性維持効果が現れない場合がある。
硝化装置10(硝化工程)において、モリブデン濃度を、被処理水に対して2mgMo/L以下とすることが好ましい。モリブデン濃度を、被処理水に対して2mgMo/L超とすると、硝化反応が阻害を受ける場合がある。
硝化部内には、微生物を担持させる担体が設置されていてもよい。微生物が担持される担体としては、特に限定されるものではないが、例えば、プラスチックやポリウレタン等の樹脂製等のものを利用することが好ましい。
脱窒装置12における脱窒工程は、例えば、完全混合型の脱窒部(例えば脱窒槽)に水素供与体を供給し、硝化部にて生成された亜硝酸または硝酸態窒素を無酸素条件下にて窒素ガスにまで還元する工程である。脱窒部(例えば脱窒槽)内では、従属栄養性細菌である脱窒菌の働きにより、亜硝酸または硝酸態窒素が窒素ガスにまで還元されることとなる。脱窒部では、効率的に処理を行うために硝化液と微生物活性汚泥とを無酸素条件で混合させるための撹拌装置が設置されていることが好ましい。
脱窒部内には、微生物を担持させる担体が設置されていてもよい。微生物が担持される担体としては、特に限定されるものではないが、プラスチックやポリウレタン等の樹脂製等のものを利用することが好ましい。
本実施形態で用いられる、脱窒のための水素供与体は、例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、酢酸等の有機酸類、水素ガス、アセトン、グルコース、エチルメチルケトン、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)等のうち1つまたは複数が挙げられるが、これに限定されるものではなく、水素供与体として従来公知のもの全てを使用することができる。水素供与体として、被処理水中に含まれている有機物等を利用してもよい。
固液分離装置14における固液分離工程は、微生物活性汚泥内の硝化菌および脱窒菌により、窒素成分が、硝化および脱窒処理された脱窒液を、処理水と微生物活性汚泥とに分離し、処理水を得る工程である。
固液分離装置14としては、特に限定されるものではないが、例えば、沈降分離、加圧浮上、濾過、膜分離等の分離装置が挙げられる。固液分離工程では、処理水が得られるとともに、分離後の微生物活性汚泥も得られ、微生物活性汚泥は一部が余剰汚泥として系外に引き抜かれ、一部は例えば硝化装置10(硝化工程)へと返送されることで、系内の微生物活性汚泥量を維持することができる。
脱窒装置12にて水素供与体が添加されるが、脱窒処理後に水素供与体が残存し、処理水質が悪化することが懸念される場合には、脱窒装置12(脱窒工程)と固液分離装置14(固液分離工程)との間に水素供与体を好気的に処理するための酸化手段として酸化装置が設置されてもいい。
このような形態の水処理装置の例を図2に示す。図2の水処理装置3において、脱窒装置12(脱窒工程)と固液分離装置14(固液分離工程)との間に酸化装置30を備える。脱窒装置12の出口と酸化装置30の入口とは、配管32により接続され、酸化装置30の出口と固液分離装置14の入口とは、配管34により接続されている。
脱窒装置12(脱窒工程)で得られた脱窒液は、配管32を通して、酸化装置30へ送液される。酸化装置30における酸化工程は、酸化部(たとえば酸化槽)で水素供与体が好気的に処理される。酸化部(たとえば酸化槽)には、例えば、硝化部と同様に空気導入管が接続されており、酸化部内の被処理水に空気等の酸素含有気体を供給することができる構造となっている。
酸化装置30において酸化処理された酸化処理液は、配管34を通して固液分離装置14へ送液され、以降、図1の水処理装置1と同様にして処理が行われる。
被処理水に有機物と窒素を含む場合には、脱窒反応のための水素供与体を外部から添加することなく、被処理水中の有機物を水素供与体として脱窒反応を起こしてもいい。
このような形態の水処理装置の例を図3に示す。図3の水処理装置5において、脱窒装置12の入口には、配管36が接続され、脱窒装置12の出口と硝化装置10の入口とは、配管38により接続され、硝化装置10の出口と固液分離装置14の入口とは、配管40により接続され、固液分離装置14の処理水出口には、配管42が接続され、固液分離装置14の汚泥出口と配管36とは、汚泥返送配管44により接続されている。配管36には、モリブデン化合物供給配管26が接続されている。配管40と脱窒装置12とは、硝化液返送配管46により接続されている。
水処理装置5において、アンモニア態窒素および有機態窒素を含む被処理水は、配管36を通して、脱窒装置12へ送液される。一方、後段の硝化装置10から硝化液の少なくとも一部が硝化液返送配管46を通して脱窒装置12へ送液される。ここで、配管36において、被処理水に対して、モリブデン化合物供給配管26を通してモリブデン化合物が供給され、モリブデン濃度が0.025mgMo/gN以上となるようにモリブデン化合物を存在させる(モリブデン化合物供給工程)。
硝化装置10において、微生物活性汚泥中に含まれる独立栄養性のアンモニア酸化菌と亜硝酸酸化菌とを含む硝化菌により、被処理水に含まれるアンモニア態窒素が亜硝酸または硝酸態窒素にまで酸化される(硝化工程)。脱窒装置12において、微生物活性汚泥中に含まれる従属栄養性の脱窒菌により、硝化装置10(硝化工程)で生成した亜硝酸または硝酸態窒素が窒素ガスにまで還元される(脱窒工程)。脱窒液は、配管38を通して、硝化装置10へ送液され、硝化液の少なくとも一部は、配管40を通して、固液分離装置14へ送液される。以降、図1の水処理装置1と同様にして処理が行われる。
処理水の窒素濃度をさらに低減させる場合には、図3の水処理装置5における硝化装置10と固液分離装置14との間に、後脱窒手段として後脱窒装置と、酸化手段として酸化装置とをさらに備えてもよい。
このような形態の水処理装置の例を図4に示す。図4の水処理装置7は、後脱窒手段として後脱窒装置48と、酸化手段として酸化装置30とさらに備える。硝化装置10の出口と後脱窒装置48の入口とは、配管50により接続され、後脱窒装置48の出口と酸化装置30の入口とは、配管52により接続され、酸化装置30の出口と固液分離装置14の入口とは、配管54により接続されている。後脱窒装置48には、水素供与体供給配管28が接続されている。配管50と脱窒装置12とは、硝化液返送配管46により接続されている。
水処理装置7において、アンモニア態窒素および有機態窒素を含む被処理水は、配管36を通して、脱窒装置12へ送液される。一方、後段の硝化装置10から硝化液の少なくとも一部が硝化液返送配管46を通して脱窒装置12へ送液される。ここで、配管36において、被処理水に対して、モリブデン化合物供給配管26を通してモリブデン化合物が供給され、モリブデン濃度が0.025mgMo/gN以上となるようにモリブデン化合物を存在させる(モリブデン化合物供給工程)。
硝化装置10において、微生物活性汚泥中に含まれる独立栄養性のアンモニア酸化菌と亜硝酸酸化菌とを含む硝化菌により、被処理水に含まれるアンモニア態窒素が亜硝酸または硝酸態窒素にまで酸化される(硝化工程)。脱窒装置12において、微生物活性汚泥中に含まれる従属栄養性の脱窒菌により、硝化装置10(硝化工程)で生成した亜硝酸または硝酸態窒素が窒素ガスにまで還元される(脱窒工程)。脱窒液は、配管38を通して、硝化装置10へ送液され、硝化液の少なくとも一部は、配管50を通して、後脱窒装置48へ送液され、後脱窒装置48において、脱窒菌により、硝化装置10(硝化工程)で生成した亜硝酸または硝酸態窒素が窒素ガスにまで還元される(脱窒工程)。脱窒液は、配管52を通して、酸化装置30へ送液される。以降、図2の水処理装置3と同様にして処理が行われる。硝化液の少なくとも一部は、硝化液返送配管46を通して、脱窒装置12へ送液される。
脱窒工程において、処理水の水理学的滞留時間における水素供与体の最大濃度と最小濃度との差が、50mgTOC/L以上となるように、水素供与体の添加量に時間変動を与え、硝化菌と脱窒菌とを含む微生物活性汚泥をグラニュール化させることが好ましい。脱窒反応において添加を行う水素供与体の濃度に変動を与えることにより、脱窒菌が自己造粒したグラニュールが容易に形成可能である。
さらに、このグラニュールを硝化、脱窒を行う窒素含有水の処理システム内で循環させることにより、硝化菌等のすべての菌群をグラニュール化し、窒素含有被処理水の処理装置全体を実質的に同一のグラニュールで処理することが可能である。
また、脱窒工程における水素供与体の最大濃度と最小濃度との差を大きくし、微生物活性汚泥のグラニュール化を効率的に進行させる場合には、脱窒工程は、少なくとも第一脱窒工程と第二脱窒工程とを含む2つ以上の工程としてもよい。脱窒工程は、少なくとも第一脱窒工程と第二脱窒工程とを含み、脱窒工程において、第二脱窒工程における処理水の水理学的滞留時間における第一脱窒工程における水素供与体の最大濃度と第二脱窒工程における水素供与体の最小濃度との差が、50mgTOC/L以上となるように、少なくとも第一脱窒工程において水素供与体を供給してもよい。
このような形態の水処理装置の例を図5に示す。図5の水処理装置9は、脱窒手段として、第1脱窒装置58と第2脱窒装置60とを備える。硝化装置10の出口と第1脱窒装置58の入口とは、配管62により接続され、第1脱窒装置58の出口と第2脱窒装置60の入口とは、配管64により接続され、第2脱窒装置60の出口と酸化装置30の入口とは、配管66により接続されている。
硝化装置10で得られた硝化液は、配管62を通して第1脱窒装置58へ送液される。第1脱窒装置58において、水素供与体供給配管28を通して水素供与体が供給され、微生物活性汚泥中に含まれる従属栄養性の脱窒菌と接触された後、混合液は、配管64を通して第2脱窒装置60へ送液され、第2脱窒装置60において、脱窒菌により、硝化装置10(硝化工程)で生成した亜硝酸または硝酸態窒素が窒素ガスにまで還元される(脱窒工程)。脱窒液は、配管66を通して、酸化装置30へ送液される。以降、図2の水処理装置3と同様にして処理が行われる。
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
以下に連続通水試験機を用いた実施例および比較例を示す。なお、全て室温を20℃で制御した条件で実施した。
<実施例1>
実施例1では、図5に示す水処理装置9の構成のベンチスケール試験機を用いた。硝化菌および脱窒菌をグラニュール化させ、模擬排水の硝化脱窒処理試験を実施した。模擬排水としては、純水にアンモニア態窒素として400mgN/Lとなるように溶解させたものを用い、その他の栄養源としてリン酸および微量元素薬液を添加したものを用いた。本試験に用いた微量元素薬液にはモリブデンは含まないものを用いた。脱窒のための水素供与体はメタノールを用い、第1脱窒槽へ間欠的に添加し、第1脱窒槽内の最大メタノール濃度と、第2脱窒槽内の最小メタノール濃度との差が、50mgTOC/L以上となるようにした。硝化槽、第1脱窒槽、第2脱窒槽にはpHコントローラを設置し、塩酸または水酸化ナトリウムを用いて槽内pHを7〜7.5に調整した。固液分離槽から得られた濃縮汚泥は硝化槽へと返送した。0日目から45日目まではモリブデン添加は実施せず(比較例1)、46日目からモリブデン化合物(モリブデン酸ナトリウム)を被処理水に対して0.1mgMo/Lとなるように添加を開始した(実施例1)。モリブデン添加濃度は、被処理水の窒素濃度に対しては0.25mgMo/gNの条件である。結果を図6,7に示す。図6は、硝化槽容積負荷[kgN/(m・d)]、硝化槽のアンモニア態窒素濃度[mgN/L]の推移を示し、図7は、経過日数[day]に対する脱窒槽容積負荷[kgN/(m・d)]、処理水の総窒素濃度[mgN/L]の推移を示す。
初期の比較例1において、硝化槽における容積負荷を0.2kgN/(m・d)で通水開始したが、硝化槽においてアンモニア態窒素が5〜60mgN/L残存し、負荷を上昇させることができず、硝化速度は0.15〜0.25kgN/(m・d)で停滞した。硝化速度の停滞に伴い、脱窒速度も0.3〜0.5kgN/(m・d)で停滞した。比較例1の期間中、安定運転が可能となる汚泥当りの処理速度は、硝化で0.05kgN/(kgVSS・d)であった。
次に、被処理水へのモリブデン添加を開始したところ、処理速度の上昇が認められ、最大で1.1kgN/(m・d)の硝化速度を確認できた。なお、実施例1の期間中は硝化槽のアンモニア態窒素は常に1mgN/L以下で推移した。硝化速度の上昇に伴い、脱窒速度の上昇も認められ、最大で2.2kgN/(m・d)に達した。比較例1の期間中、汚泥活性を示す汚泥当りの処理速度は、硝化で0.24kgN/(kgVSS・d)、脱窒で0.54kgN/(kgVSS・d)での安定運転を確認できた。
<比較例2>
比較例2では、図5に示す水処理装置9の構成のベンチスケール試験機を用い、連続通水試験を行った。模擬排水としては、純水中にアンモニア態窒素として800mgN/Lとなるように調整し、その他リン酸および微量元素薬液(モリブデンを含まない)を添加したものを用いた。微量元素の補給を目的として120日目から215日目まではモリブデンを含まない井水(モリブデン濃度:0.0001mgMo/L以下(検出限界以下))を、216日目から280日目まではモリブデンを含む工水を被処理水の10%流量を添加して補給を行った。なお、工水中のモリブデン濃度は0.0006mgMo/Lであった。井水および工水中のモリブデン濃度は、ICP質量分析法(ICP−MS)を用いて測定した。
硝化槽容積負荷[kgN/(m・d)]と硝化槽の残存アンモニア態窒素濃度[mgN/L]の推移を図8、脱窒槽容積負荷[kgN/(m・d)]と処理水の総窒素濃度[mgN/L]の推移を図9に示す。図8から分かるように、硝化槽容積負荷を0.8kgN/(m・d)まで上昇させたが、169日目にはアンモニア態窒素濃度が41mgN/L残存し、171日目には130mgN/Lにまで上昇した。その後も硝化性能は安定せず、10から40mgN/Lが硝化槽内で残存することがあり、安定運転ができなかった。また、試験期間中の硝化活性は0.02〜0.075kgN/(kgVSS・d)であった。硝化の不安定性に伴い、脱窒も処理が安定せず、処理水TNは最大で150mgN/L程度にまで上昇した。
<実施例2>
比較例2と同様の条件の模擬排水、試験装置を用い、モリブデン化合物溶液の添加影響を連続通水試験で検証した。モリブデン添加濃度としては被処理水のアンモニア態窒素濃度800mgN/Lに対して、0.02mgMo/Lとし、175日目から添加を開始した。モリブデン添加濃度は、被処理水の窒素濃度に対しては0.025mgMo/gNの条件である。
硝化槽容積負荷[kgN/(m・d)]と硝化槽の残存アンモニア態窒素濃度[mgN/L]の推移を図10、脱窒槽容積負荷[kgN/(m・d)]と処理水の総窒素濃度[mgN/L]の推移を図11に示す。その結果、モリブデンを添加していない期間は、硝化槽容積負荷を上げられず、175日目に55mgN/Lのアンモニア態窒素が残存した。175日目からMo化合物の添加を開始したところ、アンモニア態窒素濃度の低下が確認され、容積負荷を0.8〜0.9kgN/(m・d)にまで上昇させても安定運転が可能であった。モリブデン添加前の硝化活性は最大で0.05kgN/(kgVSS・d)であったが、モリブデン添加開始後の硝化活性は0.11kgN/(kgVSS・d)まで上昇した。脱窒に関しても、脱窒槽容積負荷として1.4kgN/(m・d)まで上昇した。
<実施例3>
実施例2と同様の条件の模擬排水、試験装置を用い、モリブデン化合物の添加影響を連続通水試験で検証した。添加濃度としては被処理水アンモニア態窒素濃度が800mgN/Lに対して、0.1mgMo/Lとし、343日目から添加を開始した。モリブデン添加濃度は、被処理水の窒素濃度に対しては0.125mgMo/gNの条件である。
硝化槽容積負荷[kgN/(m・d)]と硝化槽の残存アンモニア態窒素濃度[mgN/L]の推移を図12、脱窒槽容積負荷[kgN/(m・d)]と処理水の総窒素濃度[mgN/L]の推移を図13に示す。その結果、モリブデンを添加していない期間は脱窒槽で70から80mg/L程度の硝酸態窒素が検出されていたため負荷を上げることができず、硝化槽容積負荷として0.25kgN/(m・d)程度で停滞していた。343日目からモリブデン溶液の添加を開始し、負荷の上昇を試みた。346日目に硝化槽でアンモニア態窒素が37mgN/L検出されたが、その後アンモニア態窒素濃度の低下が見られた。硝化槽容積負荷を0.86kgN/(m・d)まで上昇させたが、硝化槽でアンモニア態窒素が検出されることはなく、脱窒槽でも処理水TNは5mgN/L以下で推移した。モリブデン添加前の硝化活性は0.05〜0.06kgN/(kgVSS・d)で停滞していたが、モリブデン添加開始後、活性の向上が見られ、0.2kgN/(kgVSS・d)への上昇が確認された。
以上の結果のまとめを図14に示す。図14より、硝化工程において、被処理水に対して、モリブデン濃度が0.025mgMo/gN以上となるようにモリブデン化合物を存在させることが好ましいことがわかる。
このように、実施例の方法により、アンモニア態窒素および有機態窒素を含む被処理水の生物学的処理において、被処理水中の窒素濃度が高濃度であっても高い処理速度で安定して処理することができた。
以下、モリブデン化合物の添加濃度がアンモニア酸化反応および脱窒反応へ与える阻害影響を、回分試験により評価を実施した。
[脱窒へのモリブデン添加影響試験(回分試験)]
硝化脱窒汚泥を用いて、モリブデン添加が脱窒反応に与える影響を、模擬排水を用いた回分試験により検証した。実験方法の具体的な方法を下記に記す。
1.回分試験に用いる模擬排水としては、井水に硝酸態イオンが60mgN/L、リン酸態リンが1mgP/Lとなるように添加したものを用いた。なお、模擬排水中のモリブデン含有濃度は、0.0001mg/L以下であった。
2.予め水素供与体としてのメタノールで馴養された汚泥を純水で洗浄したものを模擬排水に懸濁させ、5個のビーカに分注した。
3.汚泥と模擬排水の混合液にモリブデン酸ナトリウム溶液を各ビーカに0mgMo/L、1mgMo/L、5mgMo/L、10mgMo/L、20mgMo/Lとなるように添加し、撹拌した。
4.撹拌をしながら、水素供与体としてのメタノールを各ビーカに同量ずつ添加し、硝酸の減少速度を評価した。
脱窒活性試験の結果、硝酸減少速度とビーカ内の汚泥量から算出される脱窒活性は、Moを添加しない系列では0.43gN/gSS/日、Mo濃度が1mgMo/Lとした系列では0.46、5mgMo/Lとした系列では0.45gN/gSS/日、10mgMo/Lとした系列では0.42gN/gSS/日、20mgMo/Lとした系列では0.41gN/gSS/日となり、Moを添加しない系列と比較して僅かではあるが、Mo濃度が1mgMo/Lとした系列で8%、5mgMo/Lとした系列で5%の活性向上が確認された。一方で、Mo濃度を20mgMo/Lと高濃度に添加した系列においても、最も脱窒活性が高かったMo濃度1mgMo/Lの系列と比較して約10%の活性低下しか確認されず、脱窒へのMoの顕著な阻害は確認されなかった。
[アンモニア酸化へのMo添加影響試験(回分試験)]
硝化脱窒汚泥を用いて、モリブデン添加がアンモニア酸化反応に与える影響を、模擬排水を用いた回分試験により検証した。実験方法の具体的な方法を下記に記す。
1.回分試験に用いる模擬排水としては、井水にアンモニア態イオンが60mgN/L、リン酸態リンが1mgP/Lとなるように添加したものを用いた。なお、模擬排水中のモリブデン含有濃度は、0.0001mg/L以下であった。
2.供試汚泥を純水で洗浄したものを模擬排水に懸濁させ、5個のビーカに分注した。
3.汚泥と模擬排水の混合液にモリブデン酸ナトリウム溶液を各ビーカに0mgMo/L、0.1mgMo/L、0.5mgMo/L、2mgMo/L、10mgMo/Lとなるように添加し、それぞれ曝気を開始した。
4.それぞれのアンモニア態窒素濃度の減少速度を評価した。
アンモニア酸化活性試験の結果、アンモニア減少速度とビーカ内の汚泥量から算出されるアンモニア酸化活性は、Moを添加しない系列では0.18gN/gSS/日、Mo濃度が0.1mgMo/Lとした系列では0.13gN/gSS/日、0.5mgMo/Lとした系列では0.13gN/gSS/日、2mgMo/Lとした系列では0.13gN/gSS/日、10mgMo/Lとした系列では0.10gN/gSS/日となり、Moを添加しなかった系列のアンモニア酸化活性が最も高く、10mgMo/Lとした系列のアンモニア酸化活性が最も低い結果となった。本回分試験結果より、アンモニア酸化反応へのモリブデン濃度の阻害性を抑制するためには、2mgMo/L以下とすることが好ましいと考えられた。
1,3,5,7,9 水処理装置、10 硝化装置、12 脱窒装置、14 固液分離装置、16,18,20,22,32,34,36,38,40,42,50,52,54,62,64,66 配管、24,44 汚泥返送配管、26 モリブデン化合物供給配管、28 水素供与体供給配管、30 酸化装置、46 硝化液返送配管、48 後脱窒装置、58 第1脱窒装置、60 第2脱窒装置。

Claims (6)

  1. アンモニア態窒素を含む被処理水を、生物学的に処理する水処理方法であって、
    微生物活性汚泥中に含まれる独立栄養性のアンモニア酸化菌と亜硝酸酸化菌とを含む硝化菌により、前記アンモニア態窒素を亜硝酸または硝酸態窒素にまで酸化する硝化工程を含み、
    前記硝化工程において、前記被処理水に対して、モリブデン濃度が0.025mgMo/gN以上となるようにモリブデン化合物を存在させ、
    汚泥あたりの硝化速度が、0.11[kgN/(kgVSS・日)]以上であることを特徴とする水処理方法。
  2. 請求項1に記載の水処理方法であって、
    前記硝化工程におけるモリブデン濃度を、前記被処理水に対して2mgMo/L以下とすることを特徴とする水処理方法。
  3. 請求項1または2に記載の水処理方法であって、
    前記被処理水中の窒素濃度が、100mgN/L以上であることを特徴とする水処理方法。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の水処理方法であって、
    前記微生物活性汚泥中に含まれる脱窒菌により、前記硝化工程で生成した亜硝酸または硝酸態窒素を窒素ガスにまで還元する脱窒工程をさらに含むことを特徴とする水処理方法。
  5. 請求項4に記載の水処理方法であって、
    前記脱窒工程において、処理水の水理学的滞留時間における水素供与体の最大濃度と最小濃度との差が、50mgTOC/L以上となるように、前記水素供与体の添加量に時間変動を与えることによって、前記硝化菌と脱窒菌とを含む微生物活性汚泥をグラニュール化させることを特徴とする水処理方法。
  6. 請求項5に記載の水処理方法であって、
    前記脱窒工程は、少なくとも第一脱窒工程と第二脱窒工程とを含み、
    前記脱窒工程において、前記第二脱窒工程における処理水の水理学的滞留時間における前記第一脱窒工程における水素供与体の最大濃度と前記第二脱窒工程における水素供与体の最小濃度との差が、50mgTOC/L以上となるように、少なくとも前記第一脱窒工程において水素供与体を供給することを特徴とする水処理方法
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