以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
図1には、空気入りタイヤ2が示されている。図1において、上下方向がタイヤ2の半径方向であり、左右方向がタイヤ2の軸方向であり、紙面との垂直方向がタイヤ2の周方向である。図1において、一点鎖線CLはタイヤ2の赤道面を表わす。このタイヤ2の形状は、トレッドパターンを除き、赤道面に対して対称である。
図1において、タイヤ2はリムRに組み込まれている。このリムRは、正規リムである。このタイヤ2には、空気が充填されている。これにより、このタイヤ2の内圧は正規内圧に調整されている。
タイヤ2の各部材の寸法及び角度は、特に言及のない限り、タイヤ2が正規リムに組み込まれ、正規内圧となるようにタイヤ2に空気が充填された状態で測定される。測定時には、タイヤ2には荷重がかけられない。タイヤ2が乗用車用である場合は、内圧が180kPaの状態で、寸法及び角度が測定される。
本明細書において正規リムとは、タイヤ2が依拠する規格において定められたリムを意味する。JATMA規格における「標準リム」、TRA規格における「Design Rim」、及びETRTO規格における「Measuring Rim」は、正規リムである。
本明細書において正規内圧とは、タイヤ2が依拠する規格において定められた内圧を意味する。JATMA規格における「最高空気圧」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「INFLATION PRESSURE」は、正規内圧である。
本明細書において正規荷重とは、タイヤ2が依拠する規格において定められた荷重を意味する。JATMA規格における「最高負荷能力」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「LOAD CAPACITY」は、正規荷重である。
図1において、実線BBLはビードベースラインである。このビードベースラインは、タイヤ2が装着されるリムRのリム径(JATMA参照)を規定する線である。このビードベースラインは、軸方向に延びる。
図1において、符号PWはタイヤ2の外面上の特定の位置を表している。このタイヤ2は、この位置PWにおいて最大の軸方向幅を示す。この位置PWは、このタイヤ2が最大幅を示す位置である。このタイヤ2の外面に、溝、ディンプル等の凹凸が設けられている場合には、この凹凸がないと仮定して得られる仮想外面、すなわち、プロファイルに基づいて、前述の位置PWは決められる。本発明においては、タイヤ2をリムRに組み込み、正規内圧となるようにこのタイヤ2に空気を充填し、このタイヤ2に荷重がかけられない状態での、このタイヤ2の外面が、プロファイルのベースとされる。
このタイヤ2は、トレッド4、一対のサイドウォール6、一対のクリンチ8、一対のビード10、カーカス12、一対の荷重支持層14、ベルト16、バンド18、インナーライナー20、一対のチェーファー22及び一対の緩衝層24を備えている。このタイヤ2は、チューブレスタイプである。このタイヤ2は、乗用車に装着される。
トレッド4は、半径方向外向きに凸な形状を呈している。トレッド4は、路面と接地するトレッド面26を形成する。トレッド4には、溝28が刻まれている。この溝28により、トレッドパターンが形成されている。トレッド4は、ベース層30とキャップ層32とを有している。キャップ層32は、ベース層30の半径方向外側に位置している。キャップ層32は、ベース層30に積層されている。ベース層30は、接着性に優れた架橋ゴムからなる。ベース層30の典型的な基材ゴムは、天然ゴムである。キャップ層32は、耐摩耗性、耐熱性及びグリップ性に優れた架橋ゴムからなる。
それぞれのサイドウォール6は、トレッド4の端から半径方向略内向きに延びている。このサイドウォール6の半径方向外側部分は、トレッド4と接合されている。このサイドウォール6の半径方向内側部分は、クリンチ8と接合されている。このサイドウォール6は、耐カット性及び耐候性に優れた架橋ゴムからなる。このサイドウォール6は、カーカス12の損傷を防止する。
それぞれのクリンチ8は、サイドウォール6の端から半径方向略内向きに延びている。クリンチ8は、軸方向において、ビード10及びカーカス12よりも外側に位置している。クリンチ8は、耐摩耗性に優れた架橋ゴムからなる。クリンチ8は、リムRのフランジFと当接する。
このタイヤ2では、クリンチ8の硬さHcは60以上85以下が好ましい。この硬さHcが60以上に設定されることにより、クリンチ8が剛性に寄与する。このタイヤ2では、ビード10の部分の変形が抑えられる。この観点から、この硬さHcは65以上がより好ましい。この硬さHcが85以下に設定されることにより、クリンチ8による剛性への影響が抑えられる。このタイヤ2は、乗り心地に優れる。この観点から、この硬さHcは80以下がより好ましい。本発明においては、70℃の温度下で測定された硬さが「硬さ」として表されている。
本発明において、硬さは、「JIS K6253」の規定に準じ、タイプAのデュロメータによって測定される。図1に示された断面にこのデュロメータが押し付けられ、硬度が測定される。測定は、70℃の温度下でなされる。
このタイヤ2では、クリンチ8の損失正接(tanδ)Tcは0.08以下が好ましい。これにより、タイヤ2が繰り返し変形することによる、クリンチ8の発熱が抑えられる。このクリンチ8は、タイヤ2の耐久性に寄与する。この観点から、この損失正接Tcは0.07以下がより好ましく、0.06以下がより好ましい。損失正接Tcは小さいほど好ましいので、この損失正接Tcの好ましい下限は設定されない。本発明においては、70℃の温度下で測定された損失正接が「損失正接」として表されている。
本発明において、損失正接は、「JIS K 6394」の規定に準拠して測定される。測定条件は、以下の通りである。
粘弾性スペクトロメーター:岩本製作所の「VESF−3」
初期歪み:10%
動歪み:±1%
周波数:10Hz
変形モード:引張
測定温度:70℃
それぞれのビード10は、軸方向においてクリンチ8よりも内側に位置している。ビード10は、コア34と、エイペックス36とを備えている。コア34はリング状であり、巻回された非伸縮性ワイヤーを含む。ワイヤーの典型的な材質は、スチールである。エイペックス36は、半径方向において、コア34の外側に位置している。このエイペックス36は、コア34から半径方向略外向きに延在している。このエイペックス36は、半径方向外向きに先細りである。エイペックス36は、高硬度な架橋ゴムからなる。エイペックス36は、ビード10の部分の剛性に寄与する。
図1において、符号PAはエイペックス36の半径方向外側端を表している。符号PBは、エイペックス36の底の軸方向中心を表している。両矢印LAは、外側端PAと中心PBとを結ぶ線分の長さを表している。長さLAは、エイペックス36の長さである。
このタイヤ2では、エイペックス36の長さLAは20mm以下である。従来のタイヤでは、エイペックスは40mmから50mmの長さを有している。このエイペックス36は、従来のエイペックスよりも小さい。過小なエイペックス36では、ビード10の部分の剛性が不足し、操縦安定性が損なわれる恐れがある。この観点から、この長さLAは5mm以上が好ましい。
カーカス12は、第一プライ38及び第二プライ40からなる。第一プライ38及び第二プライ40は、両側のビード10の間に架け渡されており、トレッド4及びサイドウォール6に沿っている。第一プライ38は、コア34の周りにて、軸方向内側から外側に向かって折り返されている。この折り返しにより、第一プライ38には、主部38aと一対の折り返し部38bとが形成されている。第一プライ38は、主部38aと一対の折り返し部38bとを備えている。第二プライ40は、コア34の周りにて、軸方向内側から外側に向かって折り返されている。この折り返しにより、第二プライ40には、主部40aと一対の折り返し部40bとが形成されている。第二プライ40は、主部40aと一対の折り返し部40bとを備えている。第一プライ38の折り返し部38bの端は、半径方向において、第二プライ40の折り返し部40bの端よりも外側に位置している。第一プライ38の折り返し部38bの端は、半径方向において、位置PWの近く、詳細には、この位置PWの外側に位置している。このカーカス12は、いわゆる「ハイターンアップ(HTU)構造」を有する。
第一プライ38及び第二プライ40のそれぞれは、並列された多数のコードとトッピングゴムとからなる。それぞれのコードが赤道面に対してなす角度の絶対値は、75°から90°である。換言すれば、このカーカス12はラジアル構造を有する。コードは、有機繊維からなる。好ましい有機繊維として、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、レーヨン繊維、ポリエチレンナフタレート繊維及びアラミド繊維が例示される。カーカス12が、1枚のプライから形成されてもよい。
荷重支持層14は、軸方向においてサイドウォール6の内側に位置している。この支持層14は、カーカス12よりも軸方向内側に位置している。この支持層14は、カーカス12とインナーライナー20とに挟まれている。支持層14は、半径方向において、内向きに先細りであり外向きにも先細りである。この支持層14は、三日月に類似の形状を有する。支持層14は、架橋ゴムからなる。タイヤ2がパンクしたとき、この支持層14が荷重を支える。この支持層14により、パンク状態であっても、タイヤ2はある程度の距離を走行しうる。このタイヤ2は、ランフラットタイヤ2とも称されている。このタイヤ2は、サイド補強タイプである。このタイヤ2が、図1に示された支持層14の形状とは異なる形状を有する支持層14を備えてもよい。
カーカス12のうち、支持層14とオーバーラップしている部分は、インナーライナー20と離れている。換言すれば、支持層14の存在により、カーカス12は湾曲させられている。パンク状態のとき、支持層14には圧縮荷重がかかり、カーカス12のうち支持層14と近接している領域には引張り荷重がかかる。支持層14はゴム塊なので、圧縮荷重に十分に耐えうる。カーカス12のコードは、引張り荷重に十分に耐えうる。支持層14とカーカス12のコードとにより、パンク状態でのタイヤ2の縦撓みが抑制される。縦撓みが抑制されたタイヤ2は、パンク状態での操縦安定性に優れる。
パンク状態での縦撓みの抑制の観点から、支持層14の硬さHiは60以上が好ましく、65以上がより好ましい。内圧が維持された状態、すなわち通常状態の乗り心地性の観点から、硬さHiは80以下が好ましく、75以下がより好ましい。この支持層14の硬さHiは、前述されたクリンチ8の硬さHcと同様にして測定される。
このタイヤ2では、支持層14の損失正接Tiは0.06以下が好ましい。これにより、タイヤ2が繰り返し変形することによる、支持層14の発熱が抑えられる。この支持層14は、タイヤ2の耐久性に寄与する。この観点から、この損失正接Tiは0.05以下がより好ましく、0.04以下がより好ましい。損失正接Tiは小さいほど好ましいので、この損失正接Tiの好ましい下限は設定されない。この損失正接Tiは、前述されたクリンチ8の損失正接Tcと同様にして測定される。
ベルト16は、トレッド4の半径方向内側に位置している。ベルト16は、カーカス12と積層されている。ベルト16は、カーカス12を補強する。ベルト16は、内側層42及び外側層44からなる。図1から明らかなように、軸方向において、内側層42の幅は外側層44の幅よりも若干大きい。図示されていないが、内側層42及び外側層44のそれぞれは、並列された多数のコードとトッピングゴムとからなる。それぞれのコードは、赤道面に対して傾斜している。傾斜角度の一般的な絶対値は、10°以上35°以下である。内側層42のコードの赤道面に対する傾斜方向は、外側層44のコードの赤道面に対する傾斜方向とは逆である。コードの好ましい材質は、スチールである。コードに、有機繊維が用いられてもよい。ベルト16の軸方向幅は、タイヤ2の最大幅の0.7倍以上が好ましい。ベルト16が、3以上の層を備えてもよい。
バンド18は、ベルト16の半径方向外側に位置している。軸方向において、バンド18の幅はベルト16の幅よりも大きい。図示されていないが、このバンド18は、コードとトッピングゴムとからなる。コードは、螺旋状に巻かれている。このバンド18は、いわゆるジョイントレス構造を有する。コードは、実質的に周方向に延びている。周方向に対するコードの角度は、5°以下、さらには2°以下である。このコードによりベルト16が拘束されるので、ベルト16のリフティングが抑制される。コードは、有機繊維からなる。好ましい有機繊維として、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、レーヨン繊維、ポリエチレンナフタレート繊維及びアラミド繊維が例示される。
ベルト16及びバンド18は、補強層を構成している。ベルト16のみから、補強層が構成されてもよい。バンド18のみから、補強層が構成されてもよい。
インナーライナー20は、カーカス12の内側に位置している。トレッド4の半径方向内側において、インナーライナー20は、カーカス12の内面に接合されている。サイドウォール6の軸方向内側において、インナーライナー20は、支持層14の内面に接合されている。インナーライナー20は、空気遮蔽性に優れた架橋ゴムからなる。インナーライナー20の典型的な基材ゴムは、ブチルゴム又はハロゲン化ブチルゴムである。インナーライナー20は、タイヤ2の内圧を保持する。
それぞれのチェーファー22は、ビード10の近傍に位置している。タイヤ2がリムに組み込まれると、このチェーファー22がリムと当接する。この当接により、ビード10の近傍が保護される。この実施形態では、チェーファー22は、クリンチ8と一体である。従って、チェーファー22の材質はクリンチ8の材質と同じである。チェーファー22が、布とこの布に含浸したゴムとからなってもよい。
それぞれの緩衝層24は、軸方向においてカーカス12とクリンチ8との間に位置している。図1から明らかなように、この緩衝層24は、コア34の近くからカーカス12に沿って半径方向略外向きに延在している。
このタイヤ2では、クリンチ8の硬さHc及び損失正接Tcに対して、次のように整えられた硬さHk及び損失正接Tkを有する架橋ゴムが、緩衝層24に採用されている。なお、この硬さHkは前述されたクリンチ8の硬さHcと同様にして測定される。この損失正接Tkは、前述されたクリンチ8の損失正接Tcと同様にして測定される。
このタイヤ2では、緩衝層24の損失正接Tkはクリンチ8の損失正接Tcよりも低い。この緩衝層24の硬さHkは、このクリンチ8の硬さHcよりも低い。この緩衝層24は、軟質で、しかも、発熱しにくい架橋ゴムからなる。
図2には、図1に示されたタイヤ2のビード10の部分が示されている。図2において、上下方向がタイヤ2の半径方向であり、左右方向がタイヤ2の軸方向であり、紙面との垂直方向がタイヤ2の周方向である。
図2において、符号P1はタイヤ2の外面上の特定の位置を表している。このタイヤ2では、ビードベースラインからこの位置P1までの半径方向高さは14mmである。この位置P1は、ビードベースラインからの半径方向高さが14mmである、タイヤ2の外面上の位置である。本発明においては、この位置P1は第一地点と称される。符号P2は、位置P1と同様、タイヤ2の外面上の特定の位置を表している。このタイヤ2では、ビードベースラインからこの位置P2までの半径方向高さは20mmである。この位置P2は、ビードベースラインからの半径方向高さが20mmである、タイヤ2の外面上の位置である。本発明においては、この位置P2は第二地点と称される。符号P3は、位置P1及び位置P2と同様、タイヤ2の外面上の特定の位置を表している。このタイヤ2では、ビードベースラインからこの位置P3までの半径方向高さは17mmである。この位置P3は、ビードベースラインからの半径方向高さが17mmである、タイヤ2の外面上の位置である。本発明においては、この位置P3は第三地点と称される。
本発明においては、第一地点P1、第二地点P2及び第三地点P3は、タイヤ2をリムRに組み込み、正規内圧となるようにこのタイヤ2に空気を充填し、このタイヤ2に荷重がかけられない状態で得られるこのタイヤ2の外面をベースとする、プロファイルによって決められる。
図2において、実線L1は第一地点P1を通り半径方向に延在する直線である。実線L2は、第二地点P2を通り半径方向に延在する直線である。実線L3は、第三地点P3を通り半径方向に延在する直線である。
このタイヤ2では、緩衝層24は半径方向において第一地点P1及び第二地点P2のそれぞれと重複している。この緩衝層24はさらに、半径方向において第三地点P3とも重複している。この緩衝層24は、半径方向において、第一地点P1から第二地点P2までのゾーンと重複している。この緩衝層24は、直線L1から直線L2までの領域に含まれている。
このタイヤ2は、リムRに嵌め合わされて使用される。この使用状態においては、タイヤ2のビード10の部分はリムRと接触する。これにより、タイヤ2とリムRとの間には接触面が形成される。
このタイヤ2では、その第一地点P1から第二地点P2までのゾーンは、接触面の半径方向外側部分に対応している。この部分よりも半径方向内側では、タイヤ2はリムRに強固に固定されている。この部分よりも半径方向外側では、タイヤ2はリムRから解放されている。このため、この部分の近くにおいては、歪みが集中しやすい。タイヤ2がパンクし内圧が低下すると、タイヤ2それ自体が車重を支える。このとき、タイヤ2には大きな荷重が掛けられる。このため、タイヤ2がパンクし内圧が低下した状態で走行する場合においては、つまり、ランフラット走行では、タイヤ2のビード10の部分には大きな荷重が掛かり歪みが特に集中しやすい傾向にある。
このタイヤ2では、小さなエイペックス36が採用されている。これにより、パンクによって内圧が低下した状態で歪みが集中する領域に、エイペックス36が干渉することが防止されている。このタイヤ2では、ランフラット走行の状態において、エイペックス36の変形が効果的に抑えられる。小さなエイペックス36は、ランフラット走行時における耐久性に寄与する。
このタイヤ2では、カーカス12とクリンチ8との間に、緩衝層24が設けられている。この緩衝層24は、カーカス12、特に、第一プライ38の折り返し部38b及び第二プライ40の折り返し部40bを、この緩衝層24が設けられていない従来のタイヤにおける折り返し部よりもタイヤ2の内面に近い位置に配置させる。より詳細には、この緩衝層24の採用により、第一プライ38の折り返し部38bは、図2に示されているように、直線L1から直線L2までの領域において、このタイヤ2のビード10の部分の略中央に配置される。このタイヤ2では、第一プライ38の折り返し部38b及び第二プライ40の折り返し部40bのそれぞれに、圧縮方向又引張方向の力が作用することが防止されている。このタイヤ2では、カーカス12に損傷は生じにくい。
このタイヤ2では、緩衝層24は、クリンチ8の損失正接Tcよりも低い損失正接Tkを有し、このクリンチ8の硬さHcよりも低い硬さHkを有する架橋ゴムからなる。この緩衝層24は、クリンチ8に比して低い損失正接Tkと、低い硬さHkとを有している。この緩衝層24は軟質であるから、ビード10の部分の変形に順応してこの緩衝層24は変形する。この緩衝層24は変形するものの、発熱しにくいので、この緩衝層24を含むビード10の部分における発熱はかなり抑えられる。この緩衝層24は、ビード10の部分の変形による、発熱の抑制に寄与する。
さらにこのタイヤ2では、緩衝層24は、このタイヤ2がリムRに組み合わされた状態において、タイヤ2とリムRとが接触している部分を覆うように配置されている。ランフラット走行時において、特に、歪みが集中しやすい部分に緩衝層24が設けられているので、この緩衝層24による発熱抑制効果が十分に発揮される。
さらにこのタイヤ2では、緩衝層24の半径方向内側端46は、半径方向において、コア34の半径方向外側端48よりも内側に位置している。このタイヤ2がリムRに嵌め合わされたとき、この緩衝層24の一部がコア34とフランジFとの間に挟まれる。緩衝層24の半径方向内側部分が十分に固定されるので、緩衝層24の、ビード10の部分の変形への順応性が一層高められている。ビード10の部分においてこの緩衝層24が主に変形するので、このビード10の部分における発熱が一層抑えられる。
さらにこのタイヤ2では、緩衝層24の半径方向外側端50は半径方向において位置PWよりも内側に位置している。これにより、緩衝層24がサイドウォール6より硬く発熱しやすいにもかかわらず、緩衝層24の外側端50への歪みの集中が抑えられ、緩衝層24の外側端50の部分での発熱が効果的に抑えられる。
このようにこのタイヤ2では、低い損失正接Tkと低い硬さHkとを有する緩衝層24が、ランフラット走行において、歪みが集中する領域を考慮し、適切な位置に適切な大きさで配置されている。
このタイヤ2では、ビード10の部分の変形による発熱が効果的に抑えられる。特にこのタイヤ2では、リムRとの接触面と、カーカス12との間における発熱が抑えられる。このタイヤ2では、ビード10の部分での損傷が防止される。このタイヤ2では、パンクによって内圧が低下した状態でも十分な走行距離が確保される。
本発明によれば、パンクによって内圧が低下した状態での耐久性の向上が達成された空気入りタイヤ2が得られる。
このタイヤ2では、緩衝層24の損失正接Tkとクリンチ8の損失正接Tcとの差(Tk−Tc)は、−0.01以下が好ましい。これにより、ビード10の部分の変形による発熱の抑制に緩衝層24が効果的に寄与する。このタイヤ2は、ランフラット走行での耐久性に優れる。この観点から、この差は−0.02以下がより好ましい。なお、損失正接Tkはクリンチ8の損失正接Tcに対して小さいほど好ましいので、この差の下限は設定されない。
このタイヤ2では、緩衝層24の硬さHkとクリンチ8の硬さHcとの差(Hk−Hc)は、−5以下が好ましい。これにより、ビード10の部分の変形に順応して緩衝層24が変形する。このタイヤ2では、ビード10の部分の変形よる発熱の抑制に、緩衝層24が効果的に寄与する。このタイヤ2は、ランフラット走行での耐久性に優れる。この観点から、この差は−10以下がより好ましい。緩衝層24とクリンチ8との剛性差による歪みの集中を防止するとの観点から、この差は−20以上が好ましい。
このタイヤ2では、好ましくは、緩衝層24の損失正接Tkは荷重支持層14の損失正接Tiと同等であるか、この荷重支持層14の損失正接Tiよりも低い。言い換えれば、この緩衝層24の損失正接Tkと荷重支持層14の損失正接Tiとの差(Tk−Ti)は0.00以下が好ましい。これにより、緩衝層24による発熱抑制効果が一層高められる。このタイヤ2は、ランフラット走行での耐久性に一層優れる。この観点から、この差は−0.01以下がより好ましい。なお、この場合、損失正接Tkは支持層14の損失正接Tiに対して小さいほど好ましいので、この差の下限は設定されない。
このタイヤ2では、好ましくは、緩衝層24の硬さHkは荷重支持層14の硬さHiと同等であるか、この荷重支持層14の硬さHiよりも低い。言い換えれば、この緩衝層24の硬さHkと荷重支持層14の硬さHiとの差(Hk−Hi)は0以下が好ましい。これにより、緩衝層24による発熱抑制効果が一層高められる。このタイヤ2は、ランフラット走行での耐久性に一層優れる。この観点から、この差は−5以下がより好ましい。緩衝層24と支持層14との剛性差による歪みの集中を防止するとの観点から、この差は−20以上が好ましい。
図2において、実線LTはこのタイヤ2の外面の法線である。この法線LTは、第二基準点P2を通る。本発明においては、この第二基準点P2における、このタイヤ2の外面の法線LTは、基準法線と称される。
この図2において、両矢印tはタイヤ2の外面からカーカス12までの長さを表している。この長さtは、第二基準点P2における、このタイヤ2のカーカス12の外側部分の厚さである。両矢印tkは、第二基準点P2における、緩衝層24の厚さである。両矢印tcは、第二基準点P2における、クリンチ8の厚さである。厚さt、厚さtk及び厚さtcは、基準法線LTに沿って計測される。この厚さtは、厚さtk及び厚さtcの和(tk+tc)に等しい。この厚さtは、基準法線LTに沿って計測される、緩衝層24の厚さtkとクリンチ8の厚さtcとの合計厚さである。両矢印tLは、この基準法線LTに沿って計測される荷重支持層14の厚さを表している。
このタイヤ2では、緩衝層24の厚さtkは1mm以上6mm以下が好ましい。この厚さtkが1mm以上に設定されることにより、ビード10の部分における発熱の抑制に緩衝層24が効果的に寄与する。この観点から、この厚さtkは2mm以上がより好ましい。この厚さtkが6mm以下に設定されることにより、ビード10の部分の剛性への緩衝層24の影響が抑えられる。このタイヤ2では、ビード10の部分の剛性が適切に維持される。この観点から、この厚さtkは5mm以下がより好ましい。
このタイヤ2では、厚さtに対する厚さtkの比率は10%以上70%以下が好ましい。この比率が10%以上に設定されることにより、ビード10の部分における発熱の抑制に緩衝層24が効果的に寄与する。この比率が70%以下に設定されることにより、ビード10の部分の剛性への緩衝層24の影響が抑えられる。このタイヤ2では、ビード10の部分の剛性が適切に維持される。
このタイヤ2では、合計厚さtの、厚さtLに対する比率は80%以上120%以下が好ましい。この比率が80%以上に設定されることにより、カーカス12の外側部分の厚さと荷重支持層14の厚さとのバランスが整えられ、第一プライ38の折り返し部38b及び第二プライ40の折り返し部40bのそれぞれに、圧縮方向の力が作用することが防止される。カーカス12の損傷が防止されるので、このタイヤ2は耐久性に優れる。この観点から、この比率は90%以上がより好ましい。この比率が120%以下に設定されることにより、カーカス12の外側部分の厚さと支持層14の厚さとのバランスが整えられ、第一プライ38の折り返し部38b及び第二プライ40の折り返し部40bのそれぞれに、引張方向の力が作用することが防止される。この場合においても、カーカス12の損傷が防止されるので、このタイヤ2は耐久性に優れる。この観点から、この比率は110%以上がより好ましい。
図2において、両矢印tiは荷重支持層14の厚さを表している。この厚さtiは、位置PWを通り、軸方向に延びる直線に沿って計測される。本発明において、この厚さtiはタイヤ2の最大幅位置における支持層14の厚さである。
このタイヤ2では、タイヤ2がパンクしたとき、荷重支持層14が荷重の支持に寄与するとの観点から、この支持層14の厚さtiは6mm以上が好ましい。通常状態の乗り心地性の観点から、この支持層14の厚さtiは15mm以下が好ましい。
図1において、両矢印HWはビードベースラインから位置PWまでの半径方向高さを表している。両矢印HKsは、このビードベースラインから緩衝層24の外側端50までの半径方向高さを表している。両矢印HKuは、このビードベースラインから緩衝層24の内側端46までの半径方向高さを表している。両矢印Hbcは、このビードベースラインからコア34の外側端48までの半径方向高さを表している。両矢印HCは、このビードベースラインからクリンチ8の外側端までの半径方向高さを表している。
このタイヤ2では、高さHWに対する高さHKsの比率は95%以下が好ましい。これにより、これにより、緩衝層24がサイドウォール6より硬く発熱しやすいにもかかわらず、緩衝層24の外側端50への歪みの集中が抑えられ、緩衝層24の外側端50の部分での発熱が効果的に抑えられる。この観点から、この比率は90%以下がより好ましい。前述したように、緩衝層24は第二基準点と半径方向において重複する。この観点から、この比率は55%以上が好ましく、60%以上がより好ましい。
このタイヤ2では、高さHbcに対する高さHKuの比率は90%以下が好ましい。これにより、これにより、緩衝層24の一部がコア34とフランジFとの間に挟まれ、緩衝層24の半径方向内側部分が十分に固定される。このタイヤ2では、緩衝層24の、ビード10の部分の変形への順応性が一層高められる。ビード10の部分においてこの緩衝層24が主に変形するので、このビード10の部分における発熱が一層抑えられる。この観点から、この比率は50%以下がより好ましい。緩衝層24のボリュームが適切に維持され、生産コストへの影響が抑えられるとの観点から、この比率は10%以上が好ましく、30%以上がより好ましい。
このタイヤ2では、高さHCは30mm以上が好ましい。この高さHCが30mm以上に設定されることにより、サイドウォール6がフランジFと接触することが防止される。このタイヤ2では、フランジFと擦れて、ビード10の部分のボリュームが低減するという損傷(リムチェーフィングとも称される。)が防止される。
このタイヤ2では、高さHWに対する高さHCの比率は85%以下が好ましい。これにより、位置PWよりも内側の部分の剛性が適切に維持される。このタイヤ2が全体としてしなやかに撓むので、良好な操縦安定性が維持される。
このタイヤ2の製造では、複数のゴム部材がアッセンブリーされて、ローカバー(未加硫タイヤ2)が得られる。このローカバーが、モールドに投入される。ローカバーの外面は、モールドのキャビティ面と当接する。ローカバーの内面は、ブラダー又は中子に当接する。ローカバーは、モールド内で加圧及び加熱される。加圧及び加熱により、ローカバーのゴム組成物が流動する。加熱によりゴムが架橋反応を起こし、タイヤ2が得られる。
このタイヤ2の製造では、緩衝層24は、この緩衝層24のためのゴム組成物からなるシートを用いて形成されてもよい。この緩衝層24が、ゴム組成物からなるストリップを螺旋状に巻回して、形成されてもよい。ゴム組成物を押し出して断面形状を整えた成形物を準備し、この成形物からこの緩衝層24が形成されてもよい。緩衝層24の大きさ、形状等が考慮され、最適な方法で、この緩衝層24は形成される。
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
[実施例1]
図1−2に示されたタイヤを製作した。このタイヤのサイズは、245/45RF19である。この実施例1の諸元は、下記の表1の通りである。
緩衝層は、半径方向において、第一地点P1から第二地点P2までのゾーンと重複するように配置されている。このことが、表の第一地点(14mm)、第三地点(17mm)及び第二地点(20mm)の欄に「Y」で表されている。
この表1における、緩衝層の損失正接Tk及び硬さHkは、70℃の温度下で計測されている。なお、70℃の温度下で計測されたクリンチの損失正接Tcは、0.06であった。70℃の温度下で計測されたクリンチの硬さHcは、75であった。70℃の温度下で計測された荷重支持層の損失正接Tiは、0.04であった。70℃の温度下で計測された荷重支持層の硬さHiは、70であった。
[比較例1]
比較例1は、従来のタイヤである。この比較例1には、緩衝層は設けられていない。
[比較例2]
エイペックスの長さLAを下記の表1の通りとした他は実施例1と同様にして、比較例2のタイヤを得た。
[実施例2及び比較例3]
比率(HKu/Hbc)を下記の表1の通りとした他は実施例1と同様にして、実施例2及び比較例3のタイヤを得た。
[実施例3−5及び比較例4−6]
比率(HKs/HW)を下記の表2の通りとした他は実施例1と同様にして、実施例3−5及び比較例4−6のタイヤを得た。比較例4の緩衝層は、半径方向において、第一地点P1から第二地点P2までのゾーンと重複していなかった。このことが、表の第一地点(14mm)、第三地点(17mm)及び第二地点(20mm)の欄に「N」で表されている。比較例5の緩衝層は、半径方向において、第一地点P1から第三地点P3までのゾーンと重複していたが、第二地点P2とは重複していなかった。このことが、表の第一地点(14mm)及び第三地点(17mm)の欄に「Y」で、第二地点(20mm)の欄に「N」で表されている。
[実施例6−7及び比較例7−8]
緩衝層の損失正接Tkを変えて、損失正接Tkと損失正接Tcとの差(Tk−Tc)及び損失正接Tkと損失正接Tiとの差(Tk−Ti)を下記の表3の通りとした他は実施例1と同様にして、実施例6−7及び比較例7−8のタイヤを得た。
[実施例8及び比較例9−10]
緩衝層の硬さHkを変えて、硬さHkと硬さHcとの差(Hk−Hc)及び硬さHkと硬さHiとの差(Hk−Hi)を下記の表4の通りとした他は実施例1と同様にして、実施例8及び比較例9−10のタイヤを得た。
[実施例9−14]
比率(t/ti)を下記の表5の通りとした他は実施例1と同様にして、実施例9−14のタイヤを得た。
[実施例15−20]
厚さtkを下記の表6の通りとした他は実施例1と同様にして、実施例15−20のタイヤを得た。
[耐久性(ランフラット)]
タイヤをリム(サイズ=19×8J)に組み込み、このタイヤに空気を充填して内圧を180kPaとした。このタイヤをドラム式走行試験機に装着し、このタイヤの最大負荷荷重の80%に相当する縦荷重をタイヤに負荷した。このタイヤの内圧を常圧(計測圧としては、0kPa)としてパンク状態を再現し、このタイヤを80km/hの速度で、半径が1.7mであるドラムの上を走行させた。タイヤが破壊するまでの走行距離を、測定した。この結果が、下記の表1から6に示されている。数値が大きいほど、好ましい。
表1−6に示されるように、実施例のタイヤでは、比較例のタイヤに比べて評価が高い。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。