JP6585863B1 - アルミニウム部材及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
特許文献2は、アルミニウム成形体の表面に細孔を有する陽極酸化皮膜を形成する工程と、得られたアルミニウム成形体を金属塩水溶液に浸漬し、その水溶液中にて交流電流を通電して、形成された細孔内にて顔料を析出・充填するアルミニウム成形体表面を着色する工程とを有する、アルミニウム部材の着色方法を開示する。
また、特定組成の電解液を用いてアルミニウム部材の陽極酸化処理を行うことにより、簡便な一次処理で、白色度の高いアルミニウム部材を得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
[1]アルミニウム又はアルミニウム合金からなる母材と、
前記母材の表面上にバリア層と、前記バリア層上にポーラス層と、を有する陽極酸化皮膜と、
を有するアルミニウム部材であって、
前記陽極酸化皮膜は100μm以下の厚さを有し、
前記ポーラス層は、SおよびPを含有し、
X線光電子分光法により測定した前記ポーラス層中のSの濃度CSおよびPの濃度CPが、CS>CPである、アルミニウム部材。
[2]前記陽極酸化皮膜の表面から母材に向かう深さ方向において、前記ポーラス層の表面から深さが500nmを超える領域をS1、前記ポーラス層の表面から深さが500nmまでの領域をS2としたとき、
前記領域S1においてX線光電子分光法により測定された2p軌道電子に基づく硫化物の存在量S1(2p)と、前記領域S2においてX線光電子分光法により測定された2p軌道電子に基づく硫化物の存在量S2(2p)とは、
S1(2p)/S2(2p)=0.5〜100
の関係を満たす、上記[1]に記載のアルミニウム部材。
[3]結合エネルギーが155〜165eVにおける、X線光電子分光法により測定されたSの2p軌道電子に基づくスペクトルのピークは、前記陽極酸化皮膜の表面から母材に向かう深さ方向において、前記ポーラス層の表面から、深さが0.50〜100μmまでの範囲のポーラス層内に存在する、上記[1]または[2]に記載のアルミニウム部材。
[4]アルミニウム又はアルミニウム合金からなる母材を準備する工程と、
前記母材に対して、(a)Sを含む第1の酸又は第1の酸の塩と、(b)二リン酸、三リン酸及びポリリン酸からなる群から選択された少なくとも一種の第2の酸又は第2の酸の塩と、を含む電解液中で、陽極酸化処理を行う工程と、
を有する、上記[1]から[3]までの何れか1項に記載のアルミニウム部材の製造方法。
[5]前記陽極酸化処理を行う工程において、
前記電解液中の第1の酸又は第1の酸の塩の濃度が0.01〜2.0mol・dm−3であり、
前記電解液中の第2の酸又は第2の酸の塩の濃度が0.01〜5.0mol・dm−3である、上記[4]に記載のアルミニウム部材の製造方法。
[6]前記陽極酸化処理を行う工程において、
電流密度が5〜30mA・cm−2および電解時間が10〜600分の条件で陽極酸化処理を行う、上記[4]または[5]に記載のアルミニウム部材の製造方法。
アルミニウム部材は、母材と、母材の表面上に陽極酸化皮膜とを有し、該陽極酸化皮膜は、母材の表面上にバリア層と、バリア層上にポーラス層とを有する。陽極酸化皮膜は、母材の表面から陽極酸化皮膜の表面に向かって順に、バリア層およびポーラス層を有する。以下では、一実施形態に係るアルミニウム部材を構成する各部を説明する。
母材は、アルミニウムから構成されていてもよく、アルミニウム合金から構成されていてもよい。母材の材質は、アルミニウム部材の用途に応じて適宜、選択することができる。例えば、アルミニウム部材の強度を高くする観点からは、5000系アルミニウム合金または6000系アルミニウム合金を母材とすることが好ましい。また、陽極酸化処理後の白色度をより高くする観点からは、陽極酸化処理による着色が起こりにくい1000系アルミニウム合金または6000系アルミニウム合金を母材とすることが好ましい。
陽極酸化皮膜は、母材の表面上に形成されたバリア層と、バリア層上に形成されたポーラス層とを有する。ポーラス層は、P(リン原子)およびS(硫黄原子)を含有し、かつ陽極酸化皮膜は100μm以下の厚さを有する。また、ポーラス層中のSの濃度CSおよびPの濃度CPは、陽極酸化皮膜の表面から母材に向かう深さ方向の全体にわたってCS>CPとなっている。なお、このS、PはX線光電子分光法(X−ray Photoelectron Spectroscopy;XPS)によって測定されるものである。このXPSは、ESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)と呼ばれることもある。XPSでは、試料表面にX線を照射した際に試料表面から放出される光電子の運動エネルギーを計測することで試料表面を構成する元素の組成、化学結合状態を分析することができる。XPSはH、Heを除く全ての元素を検出できる上、深さ分解能が10nm程度の陽極酸化皮膜の最表面の情報を得ることができる。また、アルゴン等のスパッタリングとXPSによる分析技術を組み合わせることで深さ方向に沿った元素の組成、化学結合状態の分析を行うこともできる。
S1(2p)/S2(2p)=0.5〜100
の関係を満たすことが好ましい。S1(2p)およびS2(2p)は、ナロースキャン分析時に得られるピークの中から、162eV付近に現れる硫化物のスペクトル強度で表される。XPSでは放出される光電子のエネルギースペクトルを解析することで元素の同定ができ、ピーク位置のシフトから化学状態の違いを分析できる。装置(アルバック・ファイ株式会社製のPHI5000 VersaProbeIII)付属のデータベースを用いて結合エネルギーが162eV付近に現れるピークは硫化物に由来するものと判断できる。なお、この場合の硫化物とは、価数が2である硫黄化合物を表す。S1(2p)/S2(2p)=0.5〜100であることにより、ポーラス層において表面からの深さが500nmを超える領域S1の硫化物の存在量は、該表面から深さが500nmまでの領域S2の硫化物の存在量と同等程度か又はそれ以上となる。この結果、ポーラス層のバリア層側に母材の表面に対して略垂直方向に延びる第1の孔をより規則的に形成させることを可能とし、白色ムラを低減させることができる。
なお、2p軌道電子に基づく硫化物の存在量はXPSにおける155〜175eVのエネルギー範囲でのナロースキャン分析を用いることで分析する。上記のようなエネルギー範囲でのナロースキャン分析では、ポーラス層における2p軌道電子に基づくSとしてSO4と硫化物が検出され、結合エネルギーが162eV付近に現れるピークは硫化物に由来するものと判断できる。上式で表されるように領域S1とS2とでは硫化物の存在量に特定の関係が存在する場合がある。S1(2p)/S2(2p)=0.75〜90の関係を満たすことがより好ましく、S1(2p)/S2(2p)=1.0〜80の関係を満たすことがさらに好ましい。
一実施形態のアルミニウム部材の製造方法は、母材を準備する工程、及び母材に対して陽極酸化処理を行う工程を有する。従来は、陽極酸化処理を行うために、一次処理と、該一次処理とは異なる電解液を用いた二次処理を行う必要があった。また、場合によってはさらに、異なる電解液を用いた三次以上の処理を行う必要があった。これに対して、一実施形態のアルミニウム部材の製造方法では、X線光電子分光法により測定したポーラス層中のSの濃度CSおよびPの濃度CPが、陽極酸化皮膜の表面から母材に向かう深さ方向にわたってCS>CPであるアルミニウム部材を提供することができる。この結果、従来よりも簡便な一次処理で白色度の高いアルミニウム部材を提供することができる。以下では、各工程について、詳細に説明する。
最初に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる母材を準備する。アルミニウム合金としては特に限定されないが、1000系アルミニウム合金、5000系アルミニウム合金、または6000系アルミニウム合金を挙げることができる。
陽極酸化処理の条件は、母材の表面上にバリア層と、バリア層上にポーラス層とを有する、100μm以下の厚さの陽極酸化皮膜が形成される条件に設定する。なお、この工程において形成される陽極酸化皮膜は、X線光電子分光法により測定したポーラス層のSの濃度CSおよびPの濃度CPが、陽極酸化皮膜の表面から母材に向かう深さ方向にわたってCS>CPとなるものである。この際、一実施形態のアルミニウム部材の製造方法では、ポーラス層中に第1および第2の孔、あるいは第2の孔が形成される。第1の孔は、バリア層側に位置し、ポーラス層の厚さ方向に伸びる孔である。また、第2の孔は、ポーラス層の表面側に位置し、ポーラス層の厚さ方向をポーラス層の表面に向かって放射状に分岐して伸びる孔である。
一実施形態のアルミニウム部材の製造方法では、第1の酸又はその塩、並びに第2の酸又は第2の酸を含む電解液を用いることにより、これらの物質が相乗的に作用し、結果的にCS>CPを満たす組成分布が形成されるものと考えられる。このため、第1及び第2の孔、あるいは第2の孔を有するポーラス層が形成されるものと考えられる。
第2の酸である無水酸とその塩として、規則的な形状の第2の孔を安定的に形成できることから、二リン酸、三リン酸、ポリリン酸、及びこれらの塩からなる群から選択された少なくとも一種の物質を用いることが好ましい。
電解液中の第2の酸又は第2の酸の塩の濃度は0.01〜5.0mol・dm−3が好ましく、より好ましくは0.1〜2.5mol・dm−3である。第2の酸又は第2の酸の塩の濃度が、0.01mol・dm−3以上であることによりポーラス層内に有効に第2の孔を形成することができ、5.0mol・dm−3以下であると第2の孔を周期的に形成することができ、有効な厚さのポーラス層を形成することができる。このため、第2の酸又は第2の酸の塩の濃度を0.01〜5.0mol・dm−3とすることにより、ポーラス層を一定の膜厚まで十分に成長させると共にポーラス層上に周期的に第2の孔を形成することができ、アルミニウム部材の白色度を向上させることができる。
JIS Z8781−4:2013規定の国際照明委員会(CIE)で規格化されたL*a*b*を測色計(カラーメーターCC−iS:スガ試験機株式会社製)で測定し、下記式によりハンター白色度に換算したものを用いて評価した。
ハンター白色度=100−{(100−L*)2+a*2+b*2}1/2
陽極酸化処理後のサンプルを目視で外観観察し、均一に陽極酸化されているものを「◎」、ムラの程度が中程度のものを「○」、ムラの程度が低いものを「△」、多くの白色ムラが発生したもの又は陽極酸化されていないもの「×」とした。
ポーラス層中に第1の孔および第2の孔が存在するかどうか、についてはFE−SEM(SU−8230:株式会社日立製作所製)を使用して、陽極酸化皮膜の表面及び断面の観察を行った結果を利用して測定した。断面の観察には、陽極酸化処理後のサンプルをV字曲げすることで生じた皮膜の割れに対して傾斜をつけて観察した。この際、母材の表面に対して孔の壁面が傾斜しており、該壁面の傾斜角度が85°以下の孔を「第2の孔」と判定し、母材の表面に対して略垂直に伸びる孔を「第1の孔」と判定した。
アルミニウム部材のポーラス層中のSおよびPの濃度、S1(2p)/S2(2p)、およびS 2p軌道電子のスペクトルピークの陽極酸化皮膜表面からの深さは、X線光電子分光分析法(XPS)を用いて行った。分析用の機種にはアルバック・ファイ株式会社製のPHI5000 VersaProbeIIIを用い、X線源に淡色化AlKα、到達真空度圧力7.0×10−8Paで測定した。
ポーラス層中のSおよびPの濃度を測定するためのワイドスキャン分析時にはX線ビーム径100μmφ、分析面積1400μm×300μm、信号の取り出し角45度、パスエネルギー280eV、測定レンジ1100eV、ステップサイズ1.0eV、積算回数20cycleで測定した。
S1(2p)/S2(2p)を測定するためのナロースキャン分析時にはX線ビーム径20μmφ、分析面積20μmφ、信号の取り出し角45度、ステップサイズ0.2eV、測定レンジ183〜199eVの16eVのエネルギー範囲(P分析時)、155〜175eVの20eVのエネルギー範囲(S分析時)、積算回数80cycle(P分析時)、20cycle(S分析時)、スパッタリング時のビームエネルギー4kV、スパッタリングレートが72.5nm/min、スパッタリング時間262分で測定した。また、S 2p軌道電子のスペクトルピークの陽極酸化皮膜表面からの深さはまず、上記スパッタリングを開始してから、Sの2p軌道電子のスペクトルにおいて結合エネルギーが155〜165eVに位置するスペクトルピークが消失するまでの時間として測定した。次いで、このスペクトルピークが消失するまでの時間から、S 2p軌道電子のスペクトルピークの陽極酸化皮膜表面からの深さを算出した。
同様に、比較例2では、電解液が硫酸(第1の酸又は第1の酸の塩)を含有しないため、皮膜中にSおよびPをともに含有するポーラス層が形成されず、Sの濃度CSおよびPの濃度CPを算出することができなかった。また、形成される陽極酸化皮膜は多くの白色ムラが存在していたため、白色ムラが「×」でありハンター白色度も低かった。
比較例3では、電解液が二リン酸(第2の酸又は第2の酸の塩)を含有しないため、皮膜中にはSのみが含有し、SおよびPをともに含有するポーラス皮膜が形成されなかった。そのため、ポーラス層中に第2の孔が形成されず、白色ムラは「◎」であったものの低いハンター白色度となった。
2 陽極酸化被膜
3 バリア層
4 ポーラス層
5 第2の孔
6 第1の孔
Claims (5)
- アルミニウム又はアルミニウム合金からなる母材と、
前記母材の表面上にバリア層と、前記バリア層上にポーラス層と、を有する陽極酸化皮膜と、
を有するアルミニウム部材であって、
前記陽極酸化皮膜は100μm以下の厚さを有し、
前記ポーラス層は、SおよびPを含有し、
X線光電子分光法により測定した前記ポーラス層中のSの濃度CSおよびPの濃度CPが、CS>CPであり、
前記ポーラス層のバリア層側に、バリア層の表面に対して垂直な方向に伸びる第1の孔が位置し、
前記ポーラス層の表面側に、ポーラス層の厚さ方向をポーラス層の表面に向かって放射状に分岐して伸びる第2の孔が位置し、
前記第2の孔は前記第1の孔に連通する、アルミニウム部材。 - 前記陽極酸化皮膜の表面から母材に向かう深さ方向において、前記ポーラス層の表面から深さが500nmを超える領域をS1、前記ポーラス層の表面から深さが500nmまでの領域をS2としたとき、
前記領域S1においてX線光電子分光法により測定された2p軌道電子に基づく硫化物の存在量S1(2p)と、前記領域S2においてX線光電子分光法により測定された2p軌道電子に基づく硫化物の存在量S2(2p)とは、
S1(2p)/S2(2p)=0.5〜100
の関係を満たす、請求項1に記載のアルミニウム部材。 - 結合エネルギーが155〜165eVにおける、X線光電子分光法により測定されたSの2p軌道電子に基づくスペクトルのピークは、前記陽極酸化皮膜の表面から母材に向かう深さ方向において、前記ポーラス層の表面から、深さが0.50〜100μmまでの範囲のポーラス層内に存在する、請求項1または2に記載のアルミニウム部材。
- アルミニウム又はアルミニウム合金からなる母材を準備する工程と、
前記母材に対して、(a)Sを含む第1の酸又は第1の酸の塩と、(b)二リン酸、三リン酸及びポリリン酸からなる群から選択された少なくとも一種の第2の酸又は第2の酸の塩と、を含む電解液中で、陽極酸化処理を行う工程と、
を有し、
前記陽極酸化処理を行う工程において、
前記電解液中の第1の酸又は第1の酸の塩の濃度が0.01〜2.0mol・dm −3 であり、
前記電解液中の第2の酸又は第2の酸の塩の濃度が0.01〜5.0mol・dm −3 である、請求項1から3までの何れか1項に記載のアルミニウム部材の製造方法。 - 前記陽極酸化処理を行う工程において、
電流密度が5〜30mA・cm−2および電解時間が10〜600分の条件で陽極酸化処理を行う、請求項4に記載のアルミニウム部材の製造方法。
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