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JP6585863B1 - アルミニウム部材及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】簡便な一次処理で、白色度の高いアルミニウム部材を提供すること。【解決手段】アルミニウム又はアルミニウム合金からなる母材と、母材の表面上にバリア層とバリア層上にポーラス層とを有する陽極酸化皮膜と、を有するアルミニウム部材であって、陽極酸化皮膜は100μm以下の厚さを有し、ポーラス層はSおよびPを含有し、X線光電子分光法により測定したポーラス層のSの濃度CSおよびPの濃度CPが、陽極酸化皮膜の表面から母材に向かう深さ方向にわたってCS>CPである、アルミニウム部材。【選択図】図3

Description

本発明は、アルミニウム部材及びその製造方法に関する。
従来から、建材や電子機器の筐体等の用途において、優れた意匠性を有するように不透明白色を有するアルミニウム部材が望まれている。しかし、不透明白色は、アルミニウム部材の陽極酸化処理において使用される一般的な染色および着色方法によっては達成することが困難な色調である。そこで、不透明白色を有するアルミニウム部材の製造方法が提案されている。
特許文献1は、温度・濃度条件を所定の範囲に制御したリン酸溶液または硫酸溶液に浸漬し、水洗後に電着塗装を行い、乳白色を有するアルミニウム部材を製造する方法を開示する。
特許文献2は、アルミニウム成形体の表面に細孔を有する陽極酸化皮膜を形成する工程と、得られたアルミニウム成形体を金属塩水溶液に浸漬し、その水溶液中にて交流電流を通電して、形成された細孔内にて顔料を析出・充填するアルミニウム成形体表面を着色する工程とを有する、アルミニウム部材の着色方法を開示する。
特開2000−226694号公報 特開2017−25384号公報
しかし、従来の不透明白色を有するアルミニウム部材を製造する方法は、二次処理以上の処理工程が必要であるなど複雑な電解工程が必要である場合があった。また、従来のアルミニウム部材の製造方法では、いまだ十分な白色度のアルミニウム部材が得られていなかった。
本発明者は、上記問題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ポーラス層が硫黄(S)およびリン(P)を含有し、陽極酸化皮膜の深さ方向において、X線光電子分光法により測定したポーラス層中のSの濃度CおよびPの濃度Cが、C>Cであることにより、アルミニウム部材の白色度を高くできることを見出し、本発明を完成させるに至った。
また、特定組成の電解液を用いてアルミニウム部材の陽極酸化処理を行うことにより、簡便な一次処理で、白色度の高いアルミニウム部材を得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
上記課題を解決するため、本願発明は以下の各実施態様を有する。
[1]アルミニウム又はアルミニウム合金からなる母材と、
前記母材の表面上にバリア層と、前記バリア層上にポーラス層と、を有する陽極酸化皮膜と、
を有するアルミニウム部材であって、
前記陽極酸化皮膜は100μm以下の厚さを有し、
前記ポーラス層は、SおよびPを含有し、
X線光電子分光法により測定した前記ポーラス層中のSの濃度CおよびPの濃度Cが、C>Cである、アルミニウム部材。
[2]前記陽極酸化皮膜の表面から母材に向かう深さ方向において、前記ポーラス層の表面から深さが500nmを超える領域をS1、前記ポーラス層の表面から深さが500nmまでの領域をS2としたとき、
前記領域S1においてX線光電子分光法により測定された2p軌道電子に基づく硫化物の存在量S1(2p)と、前記領域S2においてX線光電子分光法により測定された2p軌道電子に基づく硫化物の存在量S2(2p)とは、
S1(2p)/S2(2p)=0.5〜100
の関係を満たす、上記[1]に記載のアルミニウム部材。
[3]結合エネルギーが155〜165eVにおける、X線光電子分光法により測定されたSの2p軌道電子に基づくスペクトルのピークは、前記陽極酸化皮膜の表面から母材に向かう深さ方向において、前記ポーラス層の表面から、深さが0.50〜100μmまでの範囲のポーラス層内に存在する、上記[1]または[2]に記載のアルミニウム部材。
[4]アルミニウム又はアルミニウム合金からなる母材を準備する工程と、
前記母材に対して、(a)Sを含む第1の酸又は第1の酸の塩と、(b)二リン酸、三リン酸及びポリリン酸からなる群から選択された少なくとも一種の第2の酸又は第2の酸の塩と、を含む電解液中で、陽極酸化処理を行う工程と、
を有する、上記[1]から[3]までの何れか1項に記載のアルミニウム部材の製造方法。
[5]前記陽極酸化処理を行う工程において、
前記電解液中の第1の酸又は第1の酸の塩の濃度が0.01〜2.0mol・dm−3であり、
前記電解液中の第2の酸又は第2の酸の塩の濃度が0.01〜5.0mol・dm−3である、上記[4]に記載のアルミニウム部材の製造方法。
[6]前記陽極酸化処理を行う工程において、
電流密度が5〜30mA・cm−2および電解時間が10〜600分の条件で陽極酸化処理を行う、上記[4]または[5]に記載のアルミニウム部材の製造方法。
簡便な一次処理により、白色度の高いアルミニウム部材を提供することができる。
一実施形態のアルミニウム部材を模式的に表す図である。 実施例3における、陽極酸化皮膜の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影した写真である。 実施例3における、アルミニウム部材をその表面から深さ方向に、ナロースキャン分析(X線光電子分光分析法/XPS)でSの2p軌道電子の存在量を分析した結果を表す図である。
1.アルミニウム部材
アルミニウム部材は、母材と、母材の表面上に陽極酸化皮膜とを有し、該陽極酸化皮膜は、母材の表面上にバリア層と、バリア層上にポーラス層とを有する。陽極酸化皮膜は、母材の表面から陽極酸化皮膜の表面に向かって順に、バリア層およびポーラス層を有する。以下では、一実施形態に係るアルミニウム部材を構成する各部を説明する。
(母材)
母材は、アルミニウムから構成されていてもよく、アルミニウム合金から構成されていてもよい。母材の材質は、アルミニウム部材の用途に応じて適宜、選択することができる。例えば、アルミニウム部材の強度を高くする観点からは、5000系アルミニウム合金または6000系アルミニウム合金を母材とすることが好ましい。また、陽極酸化処理後の白色度をより高くする観点からは、陽極酸化処理による着色が起こりにくい1000系アルミニウム合金または6000系アルミニウム合金を母材とすることが好ましい。
(陽極酸化皮膜)
陽極酸化皮膜は、母材の表面上に形成されたバリア層と、バリア層上に形成されたポーラス層とを有する。ポーラス層は、P(リン原子)およびS(硫黄原子)を含有し、かつ陽極酸化皮膜は100μm以下の厚さを有する。また、ポーラス層中のSの濃度CおよびPの濃度Cは、陽極酸化皮膜の表面から母材に向かう深さ方向の全体にわたってC>Cとなっている。なお、このS、PはX線光電子分光法(X−ray Photoelectron Spectroscopy;XPS)によって測定されるものである。このXPSは、ESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)と呼ばれることもある。XPSでは、試料表面にX線を照射した際に試料表面から放出される光電子の運動エネルギーを計測することで試料表面を構成する元素の組成、化学結合状態を分析することができる。XPSはH、Heを除く全ての元素を検出できる上、深さ分解能が10nm程度の陽極酸化皮膜の最表面の情報を得ることができる。また、アルゴン等のスパッタリングとXPSによる分析技術を組み合わせることで深さ方向に沿った元素の組成、化学結合状態の分析を行うこともできる。
より具体的には、試料表面を構成する元素の組成分析には、ワイドスキャン分析と呼ばれる、全エネルギー範囲を走査して高感度に元素の検出を行う手法を用いて定性分析と定量分析が可能である。ワイドスキャン分析によりCおよびCを測定することができる。また、化学結合状態の分析には、ナロースキャン分析と呼ばれる、高エネルギー分解能で狭いエネルギー範囲を走査する手法を用いて、電子の結合エネルギーのピーク位置とピーク形状から化学結合状態を特定することが可能である。該化学結合状態は、S等の特定の原子が他の原子と化学結合を形成することにより生じる結合エネルギーのシフト(化学シフト)により特定することができる。ナロースキャン分析では元素の種類に応じて走査するエネルギー範囲を設定することができるが、特に、Sの2p軌道電子に基づく存在量を分析する際には好ましくは145〜185eV、より好ましくは150〜180eV、さらに好ましくは155〜175eVのエネルギー範囲を走査するのがよい。Pの2s軌道電子に基づく存在量を分析する際には好ましくは170〜210eV、より好ましくは175〜205eV、さらに好ましくは180〜200eVのエネルギー範囲を走査するのがよい。ナロースキャン分析により、S1(2p)、S2(2p)、および、結合エネルギーが155〜165eVにおけるSの2p軌道電子に基づくスペクトルのピークを測定することができる。
一実施形態では、ポーラス層の形成時に、S(硫黄原子)は母材表面に対して垂直方向の壁面を形成する作用を有し、P(リン原子)は母材表面に略平行な方向に壁面を形成する作用を有するものと考えられる。一実施形態のポーラス層はSおよびPを含有し、かつC>Cの関係を満たすため、SおよびPの相乗作用により結果的に母材表面に対して鋭角の角度をなす壁面を有する孔が形成されるものと考えられる。以下では、ポーラス層中において、母材表面に対して鋭角の角度をなす壁面を有する孔を「第2の孔」と呼び、母材表面に対して略垂直な方向の壁面を有する孔を「第1の孔」と呼ぶことがある。このようにポーラス層中に第2の孔を有するアルミニウム部材は、ポーラス層内に入射した光の乱反射による光の拡散が起こり、アルミニウム部材の白色度を高くすることができる。一方、アルミニウム部材が第2の孔を有さない場合、光を乱反射する皮膜構造が得られず、アルミニウム部材の白色度が低下し、所望の白色度が得られない。一方、C≦Cの関係になると母材表面に略平行な方向に壁面を形成する作用が大きくなるため、母材表面に対して垂直方向の膜厚が厚くならず、ポーラス層内に可視光を乱反射する逆樹枝層が形成されにくくなるものと考えられる。このため、第1の孔に連通するように第2の孔を有するのが好ましい。
陽極酸化皮膜の厚さが100μmを超えると、陽極酸化皮膜形成のための電解時間が長くなり生産性の低下を招く上に、不均一成長に伴うムラが発生して外観不良となる。陽極酸化皮膜の厚さは6〜100μmが好ましい。陽極酸化皮膜の厚さがこれらの範囲内であることによって、アルミニウム部材にはムラなく均一な陽極酸化皮膜が得られ、優れた意匠性を有することができる。ポーラス層の厚さは6μm以上100μm未満が好ましく、8〜75μmがより好ましく、10〜50μmがさらに好ましい。ポーラス層の厚さがこれらの範囲内であることによって、アルミニウム部材は好適な不透明白色を有し、優れた意匠性を有することができる。バリア層の厚さは10〜150nmが好ましい。バリア層がこれらの厚さを有することにより、干渉による着色を抑制し、白色度を高くすることができる。
図1は、一実施形態のアルミニウム部材を表す概略図である。図1に示すように、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる母材1の表面上に、陽極酸化皮膜2が形成されている。陽極酸化皮膜2は、母材1の表面上のバリア層3と、バリア層3上のポーラス層4とを有しており、母材1、バリア層3、ポーラス層4の順に形成された積層構造から構成されている。なお、図1は概略図であり、図1ではポーラス層4の孔構造は模式的に示している。従って、図1のポーラス層4中には第2の孔が存在するが、図1では該第2の孔の構造を詳細に示していない。また、製造条件によっては、ポーラス層4はバリア層3側にバリア層の表面に対して垂直な方向に伸びる第1の孔を有していてもよい。この場合、ポーラス層は、バリア層側からポーラス層の表面側に向かって順に第1の孔、第2の孔を有する。
図2は、後述する実施例3における、陽極酸化皮膜の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影した写真である。図2に示されるように、ポーラス層4のバリア層側には、バリア層3の表面に対して垂直に伸びる第1の孔6が位置する。また、ポーラス層4の表面側には、図示しない母材の表面に対して鋭角の方向に伸びる第2の孔5が位置する。なお、第1の孔6のそれぞれに連通するように第2の孔5が存在する。第2の孔5は、放射状に広がって伸びる逆樹枝状の形態となっている。
アルミニウム部材を陽極酸化皮膜の表面側から測定した時のハンター白色度は60〜90であることが好ましく、75〜90であることがより好ましく、80〜90であることがさらに好ましい。なお、ハンター白色度とは、JIS P8123に準拠して得られる数値を意味する。ハンター白色度が大きいほど、白色性が高くなる。アルミニウム部材のハンター白色度が60〜90であることにより、アルミニウム部材は好適な不透明白色を有し、優れた意匠性を有することができる。
陽極酸化皮膜の表面から母材に向かう深さ方向において、ポーラス層の表面からの深さが500nmを超える領域をS1(深さが、500nm超えからバリア層の表面と接する面までの領域)、ポーラス層の表面から深さが500nmまでの領域をS2としたとき、領域S1においてX線光電子分光法により測定された2p軌道電子に基づく硫化物の存在量S1(2p)と、領域S2においてX線光電子分光法により測定された2p軌道電子に基づく硫化物の存在量S2(2p)とは、
S1(2p)/S2(2p)=0.5〜100
の関係を満たすことが好ましい。S1(2p)およびS2(2p)は、ナロースキャン分析時に得られるピークの中から、162eV付近に現れる硫化物のスペクトル強度で表される。XPSでは放出される光電子のエネルギースペクトルを解析することで元素の同定ができ、ピーク位置のシフトから化学状態の違いを分析できる。装置(アルバック・ファイ株式会社製のPHI5000 VersaProbeIII)付属のデータベースを用いて結合エネルギーが162eV付近に現れるピークは硫化物に由来するものと判断できる。なお、この場合の硫化物とは、価数が2である硫黄化合物を表す。S1(2p)/S2(2p)=0.5〜100であることにより、ポーラス層において表面からの深さが500nmを超える領域S1の硫化物の存在量は、該表面から深さが500nmまでの領域S2の硫化物の存在量と同等程度か又はそれ以上となる。この結果、ポーラス層のバリア層側に母材の表面に対して略垂直方向に延びる第1の孔をより規則的に形成させることを可能とし、白色ムラを低減させることができる。
なお、2p軌道電子に基づく硫化物の存在量はXPSにおける155〜175eVのエネルギー範囲でのナロースキャン分析を用いることで分析する。上記のようなエネルギー範囲でのナロースキャン分析では、ポーラス層における2p軌道電子に基づくSとしてSOと硫化物が検出され、結合エネルギーが162eV付近に現れるピークは硫化物に由来するものと判断できる。上式で表されるように領域S1とS2とでは硫化物の存在量に特定の関係が存在する場合がある。S1(2p)/S2(2p)=0.75〜90の関係を満たすことがより好ましく、S1(2p)/S2(2p)=1.0〜80の関係を満たすことがさらに好ましい。
結合エネルギーが155〜165eVにおける、X線光電子分光法のナロースキャン分析により測定されたSの2p軌道電子に基づくスペクトルのピークは、ポーラス層の表面から、深さ方向の深さが0.50〜100μmまでの範囲のポーラス層内に存在することが好ましく、0.75〜90μmの範囲のポーラス層内に存在することがより好ましく、1.0〜80μmの範囲のポーラス層内に存在することがさらに好ましい。スペクトルのピークの深さが上記範囲内にあることによって、第2の孔の下部に垂直方向に延びる第1の孔を、可視光を乱反射させるのに十分な厚さまで形成することができ、アルミニウム部材の白色度を向上させることができる。
2.アルミニウム部材の製造方法
一実施形態のアルミニウム部材の製造方法は、母材を準備する工程、及び母材に対して陽極酸化処理を行う工程を有する。従来は、陽極酸化処理を行うために、一次処理と、該一次処理とは異なる電解液を用いた二次処理を行う必要があった。また、場合によってはさらに、異なる電解液を用いた三次以上の処理を行う必要があった。これに対して、一実施形態のアルミニウム部材の製造方法では、X線光電子分光法により測定したポーラス層中のSの濃度CおよびPの濃度Cが、陽極酸化皮膜の表面から母材に向かう深さ方向にわたってC>Cであるアルミニウム部材を提供することができる。この結果、従来よりも簡便な一次処理で白色度の高いアルミニウム部材を提供することができる。以下では、各工程について、詳細に説明する。
(母材を準備する工程)
最初に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる母材を準備する。アルミニウム合金としては特に限定されないが、1000系アルミニウム合金、5000系アルミニウム合金、または6000系アルミニウム合金を挙げることができる。
(母材に対して陽極酸化処理を行う工程)
陽極酸化処理の条件は、母材の表面上にバリア層と、バリア層上にポーラス層とを有する、100μm以下の厚さの陽極酸化皮膜が形成される条件に設定する。なお、この工程において形成される陽極酸化皮膜は、X線光電子分光法により測定したポーラス層のSの濃度CおよびPの濃度Cが、陽極酸化皮膜の表面から母材に向かう深さ方向にわたってC>Cとなるものである。この際、一実施形態のアルミニウム部材の製造方法では、ポーラス層中に第1および第2の孔、あるいは第2の孔が形成される。第1の孔は、バリア層側に位置し、ポーラス層の厚さ方向に伸びる孔である。また、第2の孔は、ポーラス層の表面側に位置し、ポーラス層の厚さ方向をポーラス層の表面に向かって放射状に分岐して伸びる孔である。
陽極酸化処理を行う前に、必要に応じて、母材に対して脱脂処理や研磨処理等の下地処理を行ってもよい。例えば、下地処理としてアルカリ脱脂処理を行うことにより、陽極酸化皮膜のグロス値を低くし、艶のない白色を呈するアルミニウム部材を得ることができる。また、下地処理として化学研磨、機械研磨及び電解研磨等の研磨処理を行うことにより、陽極酸化処理のグロス値を高くし、艶のある白色を呈するアルミニウム部材を得ることができる。アルミニウム部材の白色度及びグロス値をより高くする観点からは、陽極酸化処理を行う前に、母材に電解研磨処理を行うことが好ましい。
上記のような陽極酸化皮膜を得るための陽極酸化処理時には、Sを含む第1の酸又は第1の酸の塩と、二リン酸、三リン酸及びポリリン酸からなる群から選択された少なくとも一種の第2の酸又は第2の酸の塩と、を含む電解液を用いることが好ましい。また、第1の酸は、無機酸であることがより好ましい。第1の酸又は第1の酸の塩は、バリア層表面の凹部上で皮膜の形成と溶解を行い、皮膜の厚み方向に垂直に伸びる孔を形成する作用を有する。このように、アルミニウム素地が溶解しながら皮膜が成長していくため、第1の酸に含まれるSが陽極酸化皮膜内に取り込まれつつ陽極酸化皮膜が成長する。従って、ポーラス層中の化学成分を分析するとSが検出される。
一方で、二リン酸、三リン酸及びポリリン酸からなる群から選択された第2の酸又は第2の酸の塩は、凹部の壁面をエッチングすることで、繊維状に伸びる構造を形成する作用を有する。このように、陽極酸化皮膜の壁面がエッチングされながら皮膜が成長していくため、第2の酸に含まれるPが陽極酸化皮膜内に取り込まれつつ陽極酸化皮膜が成長する。従って、ポーラス層中の化学成分を分析するとPが検出される。
一実施形態のアルミニウム部材の製造方法では、第1の酸又はその塩、並びに第2の酸又は第2の酸を含む電解液を用いることにより、これらの物質が相乗的に作用し、結果的にC>Cを満たす組成分布が形成されるものと考えられる。このため、第1及び第2の孔、あるいは第2の孔を有するポーラス層が形成されるものと考えられる。
Sを含む第1の酸である無機酸及びその塩としては特に限定されないが、亜硫酸、硫酸、チオ硫酸及び二硫酸等の無機酸及びその塩、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、チオ硫酸ナトリウム等の硫酸塩からなる群より選択された少なくとも一種の物質を挙げることができる。
第2の酸である無水酸とその塩として、規則的な形状の第2の孔を安定的に形成できることから、二リン酸、三リン酸、ポリリン酸、及びこれらの塩からなる群から選択された少なくとも一種の物質を用いることが好ましい。
電解液中の第1の酸又は第1の酸の塩の濃度は0.01〜2.0mol・dm−3が好ましく、より好ましくは0.05〜1.5mol・dm−3である。第1の酸又は第1の酸の塩の濃度が0.01mol・dm−3以上であると母材の陽極酸化処理を有効に行うことができ、2.0mol・dm−3以下であると電解液の溶解力が高くならず、ポーラス層を効果的に成長させることができる。
電解液中の第2の酸又は第2の酸の塩の濃度は0.01〜5.0mol・dm−3が好ましく、より好ましくは0.1〜2.5mol・dm−3である。第2の酸又は第2の酸の塩の濃度が、0.01mol・dm−3以上であることによりポーラス層内に有効に第2の孔を形成することができ、5.0mol・dm−3以下であると第2の孔を周期的に形成することができ、有効な厚さのポーラス層を形成することができる。このため、第2の酸又は第2の酸の塩の濃度を0.01〜5.0mol・dm−3とすることにより、ポーラス層を一定の膜厚まで十分に成長させると共にポーラス層上に周期的に第2の孔を形成することができ、アルミニウム部材の白色度を向上させることができる。
陽極酸化処理時の電流密度は5〜30mA・cm−2が好ましく、より好ましくは5〜20mA・cm−2であり、さらに好ましくは10〜20mA・cm−2である。電流密度を5mA・cm−2以上とすることにより、ポーラス層の成膜速度を早くして十分な膜厚を得ることができる。また、電流密度を30mA・cm−2以下とすることにより、陽極酸化反応が均一に起こるため、焼けや白色ムラの発生を防止できる。
陽極酸化処理時の電解液の温度は0〜80℃が好ましく、より好ましくは20℃〜60℃である。電解液の温度が、0℃以上であることにより母材表面に対して好適な鋭角を有する第2の孔を形成しやすくなり、80℃以下であるとポーラス層が適度な速度で溶解するため膜厚が厚くなり、アルミニウム部材の白色度を向上させることができる。
また、陽極酸化処理時の電解時間は10〜600分が好ましく、より好ましくは30〜300分であり、30〜120分がさらに好ましい。電解時間が10分以上であると陽極酸化皮膜を100μm以下の有効な厚さとすることができ、600分以下であると、生産効率が高くなる。なお、母材に対して陽極酸化処理を行った後、必要に応じて封孔処理等の後処理を行ってもよい。
以下では、本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜、その構成を変更することができる。
下記表1に示す条件で、アルミニウム合金からなる母材を準備した後、陽極酸化処理を行い、実施例1〜32及び比較例1〜3のアルミニウム部材を作成した。下記表1にアルミニウム部材の作成条件を示す。
この後、実施例1〜32及び比較例1〜3のアルミニウム部材について、各種測定を行った後、測定結果の評価を行った。これらの測定および評価結果を表2に示す。なお、ハンター白色度、白色ムラ、第1および第2の孔の確認、アルミニウム部材のポーラス層中のSおよびPの濃度、S1(2p)/S2(2p)、およびS 2p軌道電子のスペクトルピークの陽極酸化皮膜表面からの深さは、以下のように測定した。また、表2の「判定」については、第2の孔が存在し、かつ白色ムラが「△」かつハンター白色度が60以上のものを「△」、第2の孔が存在し、かつ白色ムラが「○」かつハンター白色度が60以上のものを「○」、第2の孔が存在し、かつ白色ムラが「◎」かつハンター白色度が60以上のものを「◎」とし、それ以外のものを「×」とした。
<ハンター白色度>
JIS Z8781−4:2013規定の国際照明委員会(CIE)で規格化されたLを測色計(カラーメーターCC−iS:スガ試験機株式会社製)で測定し、下記式によりハンター白色度に換算したものを用いて評価した。
ハンター白色度=100−{(100−L+a*2+b*21/2
<白色ムラ>
陽極酸化処理後のサンプルを目視で外観観察し、均一に陽極酸化されているものを「◎」、ムラの程度が中程度のものを「○」、ムラの程度が低いものを「△」、多くの白色ムラが発生したもの又は陽極酸化されていないもの「×」とした。
<第1および第2の孔の確認>
ポーラス層中に第1の孔および第2の孔が存在するかどうか、についてはFE−SEM(SU−8230:株式会社日立製作所製)を使用して、陽極酸化皮膜の表面及び断面の観察を行った結果を利用して測定した。断面の観察には、陽極酸化処理後のサンプルをV字曲げすることで生じた皮膜の割れに対して傾斜をつけて観察した。この際、母材の表面に対して孔の壁面が傾斜しており、該壁面の傾斜角度が85°以下の孔を「第2の孔」と判定し、母材の表面に対して略垂直に伸びる孔を「第1の孔」と判定した。
<アルミニウム部材のポーラス層中のSおよびPの濃度、S1(2p)/S2(2p)、およびS 2p軌道電子のスペクトルピークの陽極酸化皮膜表面からの深さ>
アルミニウム部材のポーラス層中のSおよびPの濃度、S1(2p)/S2(2p)、およびS 2p軌道電子のスペクトルピークの陽極酸化皮膜表面からの深さは、X線光電子分光分析法(XPS)を用いて行った。分析用の機種にはアルバック・ファイ株式会社製のPHI5000 VersaProbeIIIを用い、X線源に淡色化AlKα、到達真空度圧力7.0×10−8Paで測定した。
ポーラス層中のSおよびPの濃度を測定するためのワイドスキャン分析時にはX線ビーム径100μmφ、分析面積1400μm×300μm、信号の取り出し角45度、パスエネルギー280eV、測定レンジ1100eV、ステップサイズ1.0eV、積算回数20cycleで測定した。
S1(2p)/S2(2p)を測定するためのナロースキャン分析時にはX線ビーム径20μmφ、分析面積20μmφ、信号の取り出し角45度、ステップサイズ0.2eV、測定レンジ183〜199eVの16eVのエネルギー範囲(P分析時)、155〜175eVの20eVのエネルギー範囲(S分析時)、積算回数80cycle(P分析時)、20cycle(S分析時)、スパッタリング時のビームエネルギー4kV、スパッタリングレートが72.5nm/min、スパッタリング時間262分で測定した。また、S 2p軌道電子のスペクトルピークの陽極酸化皮膜表面からの深さはまず、上記スパッタリングを開始してから、Sの2p軌道電子のスペクトルにおいて結合エネルギーが155〜165eVに位置するスペクトルピークが消失するまでの時間として測定した。次いで、このスペクトルピークが消失するまでの時間から、S 2p軌道電子のスペクトルピークの陽極酸化皮膜表面からの深さを算出した。
ワイドスキャン分析によって得られる化学成分の中で、第1の酸又は第1の酸の塩に由来するSと、第2の酸又は第2の酸の塩に由来するPの濃度の差分C−Cを算出した。ただし、この濃度の差分の算出にあたっては、SおよびPのどちらか一方またはどちらも分析によって検出されないときは、「算出不可」とした。
図3は実施例3における、アルミニウム部材を表面から深さ方向に、ナロースキャン分析(X線光電子分光分析法/XPS)でS 2p軌道電子を分析した結果を表す図である。硫化物を示すピークのうち、ポーラス層の表面(表面から深さ0〜500nmの領域S2)とポーラス層の内部(500nm超の領域S1)のスペクトルピーク値をそれぞれ測定し、S1(2p)/S2(2p)を算出した。
実施例1〜32では、アルミニウム合金からなる母材と、母材の表面上に100μm以下の厚さの陽極酸化皮膜とを有するアルミニウム部材を作成した。実施例1〜32の陽極酸化皮膜は、母材の表面上に形成されたバリア層と、バリア層上に形成されたポーラス層を有し、ポーラス層は第1及び第2の孔を有していた。また、実施例1〜32のアルミニウム部材のワイドスキャン分析を用いた元素分析によってポーラス層はS(硫黄)およびP(リン)を含有していることが確認され、Sの濃度CおよびPの濃度Cは、陽極酸化皮膜の表面から母材に向かう深さ方向にわたってポーラス層内でC−C>0(すなわち、C>C)の関係を満たしていた。また、実施例1〜32では、準備したアルミニウム合金からなる母材に対して、Sを含む第1の酸又は第1の酸の塩と、二リン酸、三リン酸およびポリリン酸からなる群から選択された第2の酸又は第2の酸の塩と、を含む電解液中で、陽極酸化処理を行うことにより、本発明のアルミニウム部材を作成することができた。このため、実施例1〜32のアルミニウム部材は、SとPがポーラス層内に存在し、白色ムラについても「△」「○」、または「◎」であり、かつ高いハンター白色度を有することから外観特性に優れたアルミニウム部材を得ることができた。
これに対して、比較例1では、母材に対して、硫酸および二リン酸の電解液中において陽極酸化処理を行わなかったため皮膜中にSおよびPを含有するポーラス層が形成されず、Sの濃度CおよびPの濃度Cを算出することができなかった。また、陽極酸化皮膜が形成されていないため、白色ムラが「×」でありハンター白色度も低かった。
同様に、比較例2では、電解液が硫酸(第1の酸又は第1の酸の塩)を含有しないため、皮膜中にSおよびPをともに含有するポーラス層が形成されず、Sの濃度CおよびPの濃度Cを算出することができなかった。また、形成される陽極酸化皮膜は多くの白色ムラが存在していたため、白色ムラが「×」でありハンター白色度も低かった。
比較例3では、電解液が二リン酸(第2の酸又は第2の酸の塩)を含有しないため、皮膜中にはSのみが含有し、SおよびPをともに含有するポーラス皮膜が形成されなかった。そのため、ポーラス層中に第2の孔が形成されず、白色ムラは「◎」であったものの低いハンター白色度となった。
1 母材
2 陽極酸化被膜
3 バリア層
4 ポーラス層
5 第2の孔
6 第1の孔

Claims (5)

  1. アルミニウム又はアルミニウム合金からなる母材と、
    前記母材の表面上にバリア層と、前記バリア層上にポーラス層と、を有する陽極酸化皮膜と、
    を有するアルミニウム部材であって、
    前記陽極酸化皮膜は100μm以下の厚さを有し、
    前記ポーラス層は、SおよびPを含有し、
    X線光電子分光法により測定した前記ポーラス層中のSの濃度CおよびPの濃度Cが、C>Cであり、
    前記ポーラス層のバリア層側に、バリア層の表面に対して垂直な方向に伸びる第1の孔が位置し、
    前記ポーラス層の表面側に、ポーラス層の厚さ方向をポーラス層の表面に向かって放射状に分岐して伸びる第2の孔が位置し、
    前記第2の孔は前記第1の孔に連通する、アルミニウム部材。
  2. 前記陽極酸化皮膜の表面から母材に向かう深さ方向において、前記ポーラス層の表面から深さが500nmを超える領域をS1、前記ポーラス層の表面から深さが500nmまでの領域をS2としたとき、
    前記領域S1においてX線光電子分光法により測定された2p軌道電子に基づく硫化物の存在量S1(2p)と、前記領域S2においてX線光電子分光法により測定された2p軌道電子に基づく硫化物の存在量S2(2p)とは、
    S1(2p)/S2(2p)=0.5〜100
    の関係を満たす、請求項1に記載のアルミニウム部材。
  3. 結合エネルギーが155〜165eVにおける、X線光電子分光法により測定されたSの2p軌道電子に基づくスペクトルのピークは、前記陽極酸化皮膜の表面から母材に向かう深さ方向において、前記ポーラス層の表面から、深さが0.50〜100μmまでの範囲のポーラス層内に存在する、請求項1または2に記載のアルミニウム部材。
  4. アルミニウム又はアルミニウム合金からなる母材を準備する工程と、
    前記母材に対して、(a)Sを含む第1の酸又は第1の酸の塩と、(b)二リン酸、三リン酸及びポリリン酸からなる群から選択された少なくとも一種の第2の酸又は第2の酸の塩と、を含む電解液中で、陽極酸化処理を行う工程と、
    を有し、
    前記陽極酸化処理を行う工程において、
    前記電解液中の第1の酸又は第1の酸の塩の濃度が0.01〜2.0mol・dm −3 であり、
    前記電解液中の第2の酸又は第2の酸の塩の濃度が0.01〜5.0mol・dm −3 である、請求項1から3までの何れか1項に記載のアルミニウム部材の製造方法。
  5. 前記陽極酸化処理を行う工程において、
    電流密度が5〜30mA・cm−2および電解時間が10〜600分の条件で陽極酸化処理を行う、請求項に記載のアルミニウム部材の製造方法。
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