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JP6489891B2 - 昇華再結晶法に用いるSiC原料の製造方法 - Google Patents

昇華再結晶法に用いるSiC原料の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、昇華再結晶法に用いるSiC原料の製造方法、及び昇華再結晶法用のSiC原料に関するものである。
SiC(炭化珪素)は、2.2〜3.3eVの広い禁制帯幅を有するワイドバンドギャップ半導体であり、その優れた物理的、化学的特性から半導体材料としての研究開発が以前から行われてきている。特に近年は、青色から紫外にかけての短波長光デバイス、高周波電子デバイス、高耐圧・高出力電子デバイス向けの材料として、より実用的な段階でSiCが注目されている。ところが、SiCは、良質な大口径単結晶の製造が難しくこれがSiCデバイスの実用化を妨げる一つの要因であった。
従来、研究室程度の規模では、例えば昇華再結晶法(レーリー法)で半導体素子の作製が可能なサイズのSiC単結晶を得ていた。しかしながら、この方法では得られる単結晶の面積が小さく、その寸法、形状、さらには結晶多形(ポリタイプ)や不純物キャリア濃度の制御も容易ではない。一方、化学気相成長(Chemical Vapor Deposition:CVD)を用いて珪素(Si)等の異種基板上にヘテロエピタキシャル成長させることにより、立方晶のSiC単結晶を成長させることも行われている。この方法では大面積の単結晶は得られるが、SiCとSiの格子不整合が約20%もあることなどから、多くの欠陥(〜107/cm2)を含むSiC単結晶しか成長させることができず、高品質のSiC単結晶は得られていない。
そこで、これらの問題点を解決するために、SiC単結晶基板を種結晶として用いて昇華再結晶を行う改良型のレーリー法が提案されている(非特許文献1参照)。この改良レーリー法を用いれば、SiC単結晶の結晶多形(6H型、4H型、15R型等)や、形状、キャリア型、及び濃度を制御しながらSiC単結晶を成長させることができる。尚、SiCには200以上の結晶多形(ポリタイプ)が存在するが、結晶の生産性と電子デバイス性能の点で4Hポリタイプが最も優れているとされており、商業生産されるSiC単結晶は4Hであることが多い。また、導電性は、ドーパントとして窒素が扱いやすい点で、単結晶インゴットはn型導電性で育成される場合がほとんどである。ただし、通信デバイス用途では、ドーパント元素を殆ど含まない、抵抗率の高い結晶も製造されている。
現在、改良レーリー法で作製したSiC単結晶から、口径51mm(2インチ)から100mmのSiC単結晶ウェハが切り出され、電力エレクトロニクス分野等のデバイス作製に供されている。更には150mmウェハの上市も開始されており(非特許文献2参照)、100mm又は150mmウェハを用いたデバイスの本格的な実用化が期待されている。こうした状況にあって、ウェハコストの低下に繋がる、SiCインゴットの生産性や結晶成長歩留まりの向上技術は、その重要性が益々高まってきている。
SiC単結晶インゴットの主たる製造方法は、前述した通り改良レーリー法である。溶液成長(非特許文献3参照)や高温CVD法(非特許文献4参照)なども研究レベルでは行われているが、生産性(インゴットあたりのウェハの取れ枚数や、良質インゴットの成長成功率)や品質の点で改良レーリー法に及ぶものではない。しかし、改良レーリー法は2000℃以上の超高温で行われるプロセスであり、さらに気相による原料供給であるなど、成長条件の制御には技術的な難しさがある。SiCウェハメーカー各社の正確な数値は公表されていないが、インゴットあたりのウェハの取れ枚数や、良質インゴットの成長成功率は、Siなどの完成度の高い産業には及ばないと言われており、商業的利益の追求という観点で、SiC単結晶の生産性には更なる向上が求められているのが現状である。
上述した目的のために、昇華再結晶法によるSiC単結晶インゴットの製造条件に関して盛んに研究開発が行われている。一方、昇華再結晶法用のSiC原料(以下、単に原料という場合がある。)がSiC単結晶の生産性や品質に与える影響も大きい。非特許文献5では、SiC原料を坩堝に充填した原料充填部での通気性が昇華量(昇華ガスの発生量)に与える影響について報告している。非特許文献6では、成長プロセス中に原料粉末の温度勾配によって、原料が充填された空間の内部で昇華と再結晶が発生(所謂、原料の再配置として知られる現象)し、それが成長速度に影響を与えるとことが報告されている。また、非特許文献7では、原料の再配置によって成長中の結晶へ供給されるガス組成が変化することが指摘されている。
上述の視点に基づいて、内容は様々だが昇華再結晶法における原料に関する技術開発が進んでおり、いくつかの報告例がある。例えば、特許文献1には、ホットプレスしたSiC焼結体を原料として用いる方法が開示されている。この方法は、原料の高密度化による空間効率の向上、原料の高熱伝導化によるエネルギー効率の向上などを意図したものである。
特許文献2には、SiCを含む粉末を加圧成形したのち仮焼して、所定の硬度を有する原料を製造し、この原料を坩堝内の上部に、種結晶を坩堝内の下部に配置して単結晶成長を行う方法が開示されている。この方法は、種結晶の支持部材を用いないことで、支持部材による品質劣化を回避することを目的としている。
特許文献3には、SiC単結晶の製造法において、単結晶製造容器下部内に原料を収容するに際し、上記容器内空間に接する表面部に配置される上記原料粉末の粒子径が、低部に配置される上記原料粉末の粒子径より大径であり、これら大径の粒子間の間隙が、低部側で発生する昇華ガスの通路となるようにすることで、原料を効率良く昇華させる方法が開示されている。
特許文献4には、平均粒子径が5μm以上200μm以下の一次粒子を焼結させ、平均粒径100μm以上700μm以下であり、かつ比表面積が0.05m/g以上0.30m/g以下とした二次粒子をSiC単結晶製造用のSiC粉体として用いて、高くかつ安定した昇華速度(加熱時間あたり原料減少量)を実現する方法が開示されている。
特許文献5には、原料であるSiC粉末を充填した坩堝の内部を還元雰囲気下で500℃以上、2000℃以下に加熱することにより、坩堝や原料表面の窒素の化学結合を切断し、高純度なSiC単結晶を作る方法が開示されている。
特許文献6には、SiC粉末の質量の2%以上を予め昇華させて得られる原料を用いて、単結晶への介在物の混入を抑制し、高品質なSiC単結晶を得る方法が開示されている。
特許第4619567号公報 特開2012−36035号公報 特許第4048606号公報 特開2012−101996号公報 特許第5336307号公報 特開2013−95632号公報
Yu. M. Tairov and V. F. Tsvetkov, Journal of Crystal Growth, vols.52 (1981) pp.146-150 A.A.Burk et al.,Mater.Sci.Forum,717-720,(2012) pp75-80 K. Kusunoki1 et al.,Mater.Sci.Forum,778-780,(2014) pp79-82 Y.Tokuda et al.,Mater.Sci.Forum,778-780,(2014) pp51-54 X.wang et al.,Journal of Crystal Growth, vols.305 (207) pp.122-132 A.V.Kulik et al.,Mater.Sci.Forum,457-460,(2004) pp67-70 T.Fujimoto et al.,Mater.Sci.Forum,457-460,(2004) pp67-70
上述した通り、SiCはその優れた特性から高性能、省エネルギーデバイスの材料であることは自明であるものの、その単結晶製造の難しさ故に生産性や品質に問題があり、実用化展開の障害となっていた。
ここで、昇華再結晶法で用いるSiC原料の点で言えば、例えば、上記した特許文献1では、ホットプレス焼結体の嵩密度には言及されていないものの、固体・気体間の伝熱がないと記述されていることから(段落0017等参照)、極めて気孔が少なく、表面積の小さい、緻密な焼結体であることが分かる。この様な材料を原料として用いれば、坩堝内部の空間利用効率は向上し、また、高い熱伝導率により、原料の再配置も抑制されると推察される。しかしながら、表面積が極端に小さいために昇華速度が低下し、工業生産に必要なレベルの成長速度を得るのは困難であり、また、焼結助剤としてp型ドーパントである硼素などが用いられていることから、得られる単結晶の汚染や電気特性の劣化の問題も避けられない。
また、特許文献2には、SiC粉末を加圧成形の後に熱処理する技術が開示されているが、昇華再結晶用原料の熱処理条件や空隙率などの記述はされていない。該発明の目的である、原料の坩堝上部での保持のためには、昇華用の原料は空隙率が小さく強固なほど有利と推察できる。そのため、この技術においても成長速度や品質の向上を十分考慮したものではないと言える。
また、特許文献3のような原料の配置にしたり、特許文献4のようなSiC粉体を原料とすることで、SiC単結晶成長の初期段階においては効率の良い、高い昇華速度を実現できる可能性があるが、成長プロセス中に生じる昇華と再結晶による原料の再配置を減少させることについて考慮した方法ではないため、成長後半の時間帯では成長速度の低下が予想され、更には成長結晶の品質劣化が懸念される。
特許文献5及び6は原料粉体をSiC単結晶成長に先立って熱処理するという内容であるが、その目的は原料の高純度化であって、昇華条件の改善を意図したものではない。
本発明は、上記の問題を鑑みて為されたものであり、昇華再結晶法に用いるSiC原料として、従来にない新規の昇華用原料を用いることで、SiC単結晶製造の生産性を向上させ、更に、高品質のSiC単結晶が得られるようにすることを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、原料の空隙率を適度な値(適度に高い嵩密度)にすることで、限られた坩堝内のスペース(原料充填室)に十分な量の原料を充填でき、良好な通気性、表面積による十分な昇華速度、及び成長速度を確保し、しかも、適度に高い熱伝導率を有することで、原料の再配置を軽減し、昇華ガス組成の変動を防ぐと共に、その通気性や表面積の変化を低減させて、昇華速度の時間変化を抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明の要旨は、以下の構成より成るものである。
(1)原料であるSiCを昇華させて、種結晶上にSiC単結晶を成長させる昇華再結晶法に用いるSiC原料の製造方法であって、
SiC粉体を圧力1.33×104Pa以上の不活性ガス雰囲気中、1500℃以上2200℃以下の温度で熱処理して、空隙率が20%以上50%以下、かつ、1000℃大気圧での有効熱伝導率が0.5W/mK以上のSiC多孔質焼結体からなるSiC原料を得ることを特徴とする昇華再結晶法に用いるSiC原料の製造方法。
(2)前記SiC粉体が、体積基準による粒度の累積分布で、累積20%の粒径にあたる粒径D20が200μm以下であると共に、該粒径D20が累積50%の粒径にあたる粒径D50の0.2倍未満の粒度分布を有するものであることを特徴とする(1)に記載の昇華再結晶法に用いるSiC原料の製造方法。
(3)前記SiC粉体が、平均粒径の小さい細粒SiC粉体と平均粒径の大きい粗粒SiC粉体との混合粉からなり、細粒SiC粉体の平均粒径aが30μm以上200μm以下、粗粒SiC粉体の平均粒径bが210μm以上2000μm以下であって、かつ、これらの平均粒径が7a≦bの関係を満たすことを特徴とする(1)に記載の昇華再結晶法に用いるSiC原料の製造方法。
(4)前記細粒SiC粉体が、混合粉中に30質量%以上50質量%以下の割合で混合されていることを特徴とする(3)に記載の昇華再結晶法に用いるSiC原料の製造方法。
(5)原料であるSiCを昇華させて、種結晶上にSiC単結晶を成長させる昇華再結晶法に用いるSiC原料であって、空隙率が20%以上50%以下であり、かつ、1000℃大気圧での有効熱伝導率が0.5W/mK以上のSiC多孔質焼結体からなることを特徴とする昇華再結晶法用のSiC原料。
本発明によれば、得られたSiC原料を用いて、昇華再結晶法で単結晶を成長させることで、成長時間の全体に亘って適度な昇華速度が維持され、昇華ガス組成の変動も小さいので、結晶成長の成功率が高く、品質の高いSiC単結晶を製造することができるようになる。
図1は、本発明の実施例で用いられた結晶成長装置を示す模式図である。 図2は、本発明に係るSiC原料を得るための熱処理や結晶製造一環プロセスの概要を示す模式図である。
以下、本発明について詳しく説明する。
先ず、本発明において、昇華再結晶法に用いる原料はSiCで構成されており、SiC多孔質焼結体としたときの空隙率が20%以上50%以下である。空隙率が20%未満では、昇華ガスが通過する通路である気孔の面積が過小であり、昇華再結晶法における昇華ガスの発生界面である原料の表面積が小さくなり、昇華速度が著しく低下し、その結果成長速度も低下することから、単結晶の生産性が悪化する。一方、空隙率が50%超となると、坩堝内での原料充填量が低下し、得られる単結晶インゴットの高さは必然的に低くなり、やはり生産性が悪化する。加えて、固体部分の熱伝導寄与が低下することにより、多孔質焼結体の熱伝導率が低下し、成長プロセス中のSiC多孔質焼結体の温度勾配が大きくなってしまい、このような原料の温度勾配が大きいほど、発生した昇華ガスがその発生箇所近傍の低温箇所で再結晶化する、所謂、原料の再配置現象が促進されてしまう。このようにSiC原料が再配置し易い条件化では、成長結晶に届く昇華ガス量が減少すると共に、反応後の昇華ガスはSiリッチ化し、ガスの組成も変動するので、単結晶インゴットの生産性、品質の両面で望ましくない。なお、本発明におけるSiC原料の空隙率は、SiC粉体、SiC多孔質焼結体の場合ともに、下記の式(1)より求めたものである。
空隙率[%]=〔(SiC原料体積[cm3])−(SiC原料質量[g]/3.215[g/cm3])〕/SiC原料体積[cm3]×100 …(1)
(但し、3.215はSiCの理論密度[g/cm3]を表す)
また、本発明に係るSiC原料の有効熱伝導率は、原則として高い方が好ましく、大気圧、1000℃の条件にて、0.5W/mK以上である必要があり、望ましくは1.0W/mK以上、さらに望ましくは1.5W/mK以上である。なお、熱伝導率の測定方法として、本発明では非定常熱線法を採用し、JISR2616に準拠した測定を行った。また、焼結による収縮が著しく、SiC多孔質焼結体が小さくなってしまう場合のように、試験片のサイズに制約のある場合には、JISR1611-1997に準拠したレーザーフラッシュ法を用いた。
ここで、得られたSiC多孔質焼結体の有効熱伝導率に上限は設定しないが、10W/mKを超える有効熱伝導率を得るためには、原料を緻密体として個体の熱伝導の効果を大きくする必要があるが、過剰に緻密化した原料はSiC単結晶インゴットの生産性や品質の点で好ましくないことから、SiC多孔質焼結体の有効熱伝導率は10W/mK以下であるのが望ましい。一方で、SiC多孔質焼結体を得るための原料粉(すなわちSiC粉体)を坩堝に充填しただけでは、本発明の物性値を得るのは難しい。例えば、GC研磨材や化学合成した市販のSiC粉末原料を坩堝に充填しただけでは、有効熱伝導率が0.5W/mK以上となることはない。充填した粉体は微小な個体(粉体粒子)と微小な空間(粉体粒子の間にある気孔)とから構成されており、熱エネルギーは格子振動のエネルギーと光エネルギー間で頻繁に変換を繰り返すことになり、伝導抵抗が大きくなることがその理由である。有効熱伝導率を増加させるためには、充填した粉体に適当な条件で熱処理を施し、焼結体とすることが有効である。本発明に係るSiC多孔質焼結体は、SiC粉体の粒成長とネックグロースとによってネットワーク状の構造が形成されており、一方で、充填した粉体が焼結体に至るまでに体積変化はないので、一つの気孔のサイズは大きくなっている。このような構造体では、ネットワーク構造による熱伝導と、サイズの大きくなった気孔を伝わる輻射伝導とによって、熱エネルギーは効果的に伝わるため、有効熱伝導率が向上する。
そこで、SiC多孔質焼結体を得るための熱処理は、SiC粉体を圧力1.33×104Pa以上の不活性ガス雰囲気で行う必要がある。何故なら、1.33×104Pa未満の圧力では焼結反応よりも昇華反応が優先的に起きてしまうからである。また、SiC粉体の表面の酸化を防ぐため、雰囲気は不活性でなければならない。熱処理時の最高温度は1500℃以上、2200℃以下である。1500℃未満では十分な焼結反応は得られず、反対に2200℃超では、たとえ前述の圧力範囲であっても昇華反応が起きてしまい、目的とするSiC多孔質焼結体(単に焼結体という場合がある。)が生成されないためである。なお、熱処理の際の圧力はSiC粉体が昇華せずに焼結反応を進めることができればよく、その上限は特に制限されないが、作業性や熱処理に用いる装置の仕様等を考慮すれば圧力は1.33×10Pa以下にするのが望ましい。
こうして得られる焼結体は、自立するほどの強度を有することから、手で取り扱って焼結体をSiC単結晶成長用の坩堝に収納し、結晶成長プロセスに供することができる。そのため、SiC多孔質焼結体を得る際には、不活性ガス雰囲気下で上記のような圧力及び温度でSiC粉体を熱処理することができる熱処理装置であれば特に制限はないが、一般的に昇華再結晶法でSiC単結晶を製造する炉(結晶成長装置)を用いても上記条件の熱処理を行うことができることから、SiC原料の移設等の手間を省くことができるなどの観点から、好ましくは、SiC単結晶の製造プロセスの前段として原料粉末焼結プロセスを組み込んで、SiC単結晶の製造と連続した一環プロセスとしてSiC粉体の熱処理を実施するのがよい。
一方で、一般的なSiC粉体に対して上記の熱処理を行っても、本発明のようなSiC多孔質焼結体を形成させることは難しい。適度な焼結反応を発生させるためには、第1の実施形態として、好ましくは、SiC粉体の体積基準による粒度の累積分布の20%にあたる粒径D20が200μm以下であり、なおかつ同50%にあたる粒径D50の0.2倍よりも粒径D20が小さいことが必要である。ここで、本発明において、SiC粉体の粒径は、レーザー回折法を用いて測定した。
ここで、熱処理する対象のSiC粉体の粒径D20が200μmを超えると、本発明で目的とするような焼結反応が進まない。一方、単に粒径D20が200μm以下であるような、小さい粒子だけで構成された粉体は、短時間で急激な焼結反応を起こすために制御が困難である。そのため、粒径D20が粒径D50の0.2倍未満となるように、ブロードな粒度分布を有する粉体であれば、焼結反応の緩やかな粗粒が含まれることになるため、熱処理による焼結の反応速度が適度に低下し、焼結体の嵩密度の過剰な上昇を抑えることができる。また、GC研磨剤などに使用される一般的なSiC粉体は、本発明のSiC粉体と比較して粒径のヒストグラムがシャープに立っており、粒径D20は粒径D50の0.2倍よりもはるかに大きいことから、単に坩堝に収容しただけでは空隙率が50%を超えてしまう。そのため、仮に、本発明で規定したような空隙率が20%以上50%以下のSiC多孔質焼結体を得るには、通常は圧縮成形等の手法を取る必要があるが、本発明に係る粒度分布を有したSiC粉体であれば、粗粒の隙間に細粒が入りこむ構造を取ることから、特に圧縮成形等を行わなくても本発明で規定の空隙率を有するSiC多孔質焼結体を得ることができる。
本発明に係るSiC粉体の粒径D20については、例えば原料を坩堝に充填する際の作業性等を考慮すると、下限は30μmであるのがよい。同様に、粒径D50については、充填密度を高めるためには、D20がD50の0.2倍未満である必要があり、また、適度な焼結反応性も必要であることなどから、好ましくは粒径D50が150μm以上2000μm以下であるのがよい。
また、上記のようなSiC多孔質焼結体を製造するためのSiC粉体を得るにあたり、第2の実施形態として、平均粒径の異なる2種類以上の粉体の混合粉を使用することも効果的である。その場合、好ましくは、平均粒径が最小であるSiC粉体Aの平均粒径aと、平均粒径が最大であるSiC粉体Bの平均粒径bとが、7a≦bの関係となるように配合すると共に、30μm≦a≦200μm、及び、210μm≦b≦2000μmである粒子の組み合わせを選択するのがよい。より具体的には平均粒径の異なる2種類の粉体の混合粉を使用し、平均粒径の小さい細粒SiC粉体の平均粒径aが30μm≦a≦200μm、平均粒径の大きい粗粒SiC粉体の平均粒径bが210μm≦b≦2000μmであって、これらが7a≦bの関係を満たすのがよい。
ここで、本発明におけるSiC多孔質焼結体を得るにあたり、焼結反応に寄与するのはSiC粉体のうち、第1の実施形態における粒径D20以下の粒子もしくは第2の実施形態における平均粒径aの細粒SiC粉体である。この粒径D20又は細粒SiC粉体の平均粒径aが30μm未満では焼結反応が急峻であり、焼結体物性値の制御が困難となるので好ましくない。また、この粒径D20又は平均粒径aが200μmを超える場合は焼結反応が起こり難いのでやはり好ましくない。一方、第1の実施形態におけるSiC粉体の粒径D20を粒径D50の0.2倍未満とする、又は、第2の実施形態における平均粒径bの粗粒SiC粉体を細粒SiC粉体の平均粒径aの7倍以上とすることで、SiC粉体の充填率を高め、最適な嵩密度とすることができる。
このような観点から、先に示した第2の実施形態における平均粒径bの下限値は平均粒径aの下限値の7倍である210μmである。同様に平均粒径bの上限値は2000μmである。2000μmを超える粗大粒子は、焼結反応を著しく低下させてしまうので好ましくない。なお、SiC粉体A及びBの平均粒径は先に述べた測定方法により求められるものである。
また、SiC粉体A及びBを含む混合粉の場合、好ましくは、細粒のSiC粉体であるSiC粉体Aは、混合粉全体の質量において30%以上50%以下の質量比で混合されるのがよい。細粒のSiC粉体の質量比がこれより少ない場合は焼結反応が過小となり、多い場合は焼結反応が過大となるので好ましくない。
本発明によって得られたSiC多孔質焼結体は、昇華再結晶法による公知の結晶成長装置を用いて、種結晶上にSiC単結晶を成長させることができる。このようなSiC多孔質焼結体をSiC原料とすることで、成長時間の全体に亘って適度な昇華速度が維持され、昇華ガス組成の変動も小さく、結晶成長の成功率を高めて、良好な品質のSiC単結晶を製造することができるようになる。
以下、実施例及び比較例に基づき、本発明を具体的に説明する。
図1は、本発明の実施例、及び比較例に係るSiC単結晶インゴットの製造に用いた、改良型レーリー法による単結晶成長の装置である。結晶成長は、昇華原料(SiC原料)3を誘導加熱により昇華させ、種結晶1上に再結晶させることにより行われる。種結晶1は、坩堝蓋体6の内面に取り付けられており、昇華原料3は黒鉛坩堝4の内部に充填される。この黒鉛坩堝4、及び坩堝蓋体6は、熱シールドのために断熱材5で被膜され、二重石英管8内部の黒鉛支持台座7の上に設置される。石英管8の内部を、真空排気装置及び圧力制御装置12を用いて1.0×10−4Pa未満まで真空排気した後、純度99.9999%以上の高純度Arガスを、配管10を介してマスフローコントローラ11で制御しながら流入させ、真空排気装置及び圧力制御装置12を用いて石英管内圧力を80kPaに保ちながら、ワークコイル9に高周波電流を流し、黒鉛坩堝下部を目標温度である2400℃まで上昇させる。予め行うSiC原料の焼結と、結晶成長とを一環して行うプロセスの場合は、この段階の圧力と温度が異なるので後述する。窒素ガス(N)も同様に、配管10を介してマスフローコントローラ11で制御しながら流入させ、雰囲気ガス中の窒素分圧を制御して、SiC結晶中に取り込まれる窒素元素の濃度を調整した。坩堝温度の計測は、坩堝上部及び下部の断熱材5に直径2〜15mmの光路を設けて放射温度計13a及び13bにより行う。坩堝上部温度を種結晶温度、坩堝下部温度を原料温度とした。その後、石英管内圧力を成長圧力である0.8kPa〜3.9kPaまで約15分かけて減圧し、この状態を所定の時間維持して結晶成長を実施した。
(実施例1〜3)
先ず、1つの実施例につき、ブロードな粒度分布を有する第1の実施形態に係るSiC粉体を1種用意した。各SiC粉体の粒径D50、粒径D20、空隙率及び有効熱伝導率を表1に示す。種結晶上へのSiC単結晶の結晶成長に先だって、SiC粉体の熱処理を行った。それぞれのSiC粉体を、成長で用いる100mm結晶製造用坩堝と同じサイズの黒鉛製の熱処理用坩堝に充填した。その際、熱処理後に得られるSiC多孔質焼結体と坩堝との剥離を容易にするために、SiC粉体と熱処理用坩堝との間に厚さ1mmの高純度黒鉛のシートを挿入した。次に、黒鉛製ヒーターを有する市販の抵抗加熱炉にSiC粉体を充填した坩堝を入れて熱処理を行った。熱処理前に抵抗加熱炉内を1.0×10−4Pa未満まで真空排気した後、不活性雰囲気ガスであるArを導入して所定の圧力に制御しながら、4時間かけて室温から所定の熱処理温度まで加熱し、所定温度で6時間維持して熱処理を行った。その後、炉冷を行い、室温付近まで冷却された後に坩堝を取出した。熱処理の圧力と温度は表1に示す。
また、各実施例で用いたSiC粉体とその熱処理条件に関して、事前に84mm×200mm×65mmのSiC多孔質焼結体を作製して、その物性値を測定した。有効熱伝導率、及びSiC多孔質焼結体の体積と質量から算出された空隙率を表1に示す。焼結体は手で持ち上げられるほどの強度を有していたが、粉体から焼結体に至る過程で体積変化はないので、算出される空隙率は熱処理前のSiC粉体と同一であった。ここで、SiC粉体の粒径D20及び粒径D50は、レーザー回折法を用いて、粒径を測定し、換算した粒子体積からヒストグラムを作成して求めたものである。また、有効熱伝導率の測定は、SiC粉体、SiC多孔質焼結体ともに、非定常熱線法を用いて、大気雰囲気にて検体を加熱して測定を行った。更に、空隙率は、SiC粉体、SiC多孔質焼結体ともに、先の式(1)を使って算出した。ここで、SiC原料の体積は原料寸法の直接測定、もしくは黒鉛坩堝の中の原料が充填されている部分の内容積から求めた(下記の実施例、比較例についても同様)。
次に、上記で得られたSiC多孔質焼結体を用いて、図1に示したような結晶成長装置により、1つの実施例につきSiC単結晶の製造をそれぞれ3回行った。単結晶製造の条件について説明する。実施例1〜3で用いた黒鉛坩堝4、及び坩堝蓋体6は、100mmインゴット製造用のサイズと構造を有している。種結晶1として、(0001)面を主面とし、<0001>軸が<11−20>方向に4°傾いた、口径101mmの4Hの単一ポリタイプで構成されたSiC単結晶基板を使用した。種結晶のマイクロパイプ密度は1個/cm2以下である。昇華原料3として、前述のSiC多孔質焼結体を使用した。成長圧力は1.33kPaであり、窒素ガスの分圧は180Paから90Paである。窒素分圧は得られるインゴット全体で最適な導電性を維持するために変化させた。そして、ワークコイル9に高周波電流を流し、黒鉛坩堝下部を目標温度2400℃にしてSiC単結晶を成長させた。
上記の製造方法にて得られたSiC単結晶インゴットは、口径がいずれも約105mmであり、高さは条件によって異なり、表1に示したとおりであった。外観観察では、得られたインゴットに結晶欠陥の発生は認められなかった。また、成長完了後の坩堝を解体し、原料の状態を観察したところ、昇華後に残る炭素残留物は昇華前の焼結体のネットワーク状構造を大部分で維持しており、原料の再配置に起因する緻密なSiC多結晶体又は緻密な炭素は、原料の中心部に僅かに残るだけであった。
そして、得られたインゴットは公知の加工技術により、種結晶と同じく、オフ角度4°の(0001)面を有する厚さ0.4mmの鏡面ウェハに加工し、透過光観察を行い、更にマイクロパイプをCandela社製のCS10 Optical Surface Analyzerを用いてカウントした。観察結果を表1に示す。得られた結晶の品質はすべて種結晶と同等以上の良質なものであった。
Figure 0006489891
(実施例4〜6)
実施例4〜6の結晶成長は、SiC粉体の焼結プロセスを組み込んだ、結晶製造と連続した一環プロセスとして実施した。用意したSiC粉体は、第2の実施形態に係る細粒と粗粒の混合粉であり、1つの実施例につき、細粒と粗粒の混合粉からなるSiC粉体をそれぞれ1種用意した。用いた細粒のSiC粉体と粗粒のSiC粉体の平均粒径とこれらの混合比のほか、空隙率、及び有効熱伝導率を表2に示す。
それぞれの実施例について、細粒と粗粒の混合粉からなるSiC粉体を結晶成長用坩堝内の原料充填室に充填し、下記のような各3回のSiC単結晶インゴットの製造実験を行った。ここで、SiC粉体の坩堝への充填方法としては、予め粉体をロッキングミキサー等で十分に混合した後に坩堝に充填する方法や、先に粗粒を所定量充填し、その後、篩い振とう器などで坩堝を所定の振動数で揺らしながら、所定量の細粒を粗粒の上に投入していく方法などがある。本発明はSiC粉体の充填の方法に限定されるものではなく、また、坩堝内に粒度の分布を作ることを意図してはいない。
次に、図1に示したような結晶成長装置を用いたSiC粉体の熱処理と単結晶製造の一環プロセスについて説明する。実施例4〜6で用いた黒鉛坩堝4、及び坩堝蓋体6は、150mmインゴット製造用のサイズと構造を有している。種結晶1は、口径152mmを有し、<0001>軸が<11−20>方向に4°傾いた(0001)面を主面とし、4Hの単一ポリタイプで構成されたSiC単結晶基板を使用した。種結晶のマイクロパイプ密度は1個/cm2以下である。SiC粉体と種結晶が装填された坩堝を、結晶成長炉の石英管内に設置し、通常の成長と同様に真空排気した後、純度99.9999%以上の高純度Arガスを、配管10を介してマスフローコントローラ11で制御しながら流入させ、真空排気装置及び圧力制御装置12を用いて石英管内圧力を熱処理の所定圧力に保ちながら、ワークコイル9に高周波電流を流し、SiC粉体が所定の温度に達するまで加熱するようにした。その際の熱処理温度は、坩堝上下の放射温度計測定値を元に、数値計算によって求めた値である。熱処理の圧力と温度は表2に示す。そして、所定の温度を保持したまま、SiC粉体を均一に焼結させるために、ワークコイル9を黒鉛坩堝4に対して上下に駆動させた。その際、結晶成長時に設定するコイル位置を中心に、黒鉛坩堝の原料充填室の高さ程度に相当する幅でワークコイル9を上下方向に駆動させ、1時間に1mm〜10mm程度の速度で位置を変更しながら、12時間の熱処理を行った。
上記のようにして各実施例に係るSiC多孔質焼結体を得た後、ワークコイル9をSiC単結晶の成長で使用する位置に移動させて、坩堝下部を目標温度である2400℃まで上昇させ、石英管内の圧力を、熱処理の圧力から成長圧力である1.33kPaまで約15分かけて減圧し、SiC単結晶の成長を開始した。窒素ガスの分圧は180Paから90Paである。窒素分圧はインゴット全体で最適な導電性を維持するために変化させた。上述した一環プロセスの運転条件の概略は図2に示す。
ここで、SiC多孔質焼結体の物性については、上記と同じ熱処理過程を経たSiC多孔質焼結体から84mm×200mm×65mmの試験片を加工し、各物性値を測定した。熱伝導率、及び先の式(1)から算出された空隙率を表2に示す。実施例1〜3と同様に、SiC粉体から焼結体に至る過程で体積変化はなく、空隙率は粉体と同一であった。
上記の製造方法にて得られたSiC単結晶インゴットは、いずれも口径が約155mmであり、高さは条件によって異なり、表2に示したとおりであった。外観観察では、得られたインゴットに結晶欠陥の発生は認められなかった。成長完了後の原料の状態を観察したところ、実施例1〜3同様に、昇華後に残る炭素残留物は昇華前の焼結体のネットワーク状構造を大部分で維持しており、原料の再配置に起因する緻密なSiC多結晶体又は緻密な炭素は、原料の中心部に僅かに残るだけであった。
得られたインゴットは実施例1〜3と同様に、オフ角度4°の(0001)面を有する厚さ0.4mmの鏡面ウェハに加工し、透過光観察とマイクロパイプのカウントを行った。観察結果を表2に示す。得られた結晶の品質はすべて種結晶と同等以上の良質なものであった。
Figure 0006489891
(比較例1〜2)
次に、比較例の単結晶製造について説明する。比較例1及び2では、粒径D20が13μm及び粒径D50が32μmの市販のSiC粉体(比較例1)、粒径D20が568μm及び粒径D50が710μmの市販のSiC粉体(比較例2)をそれぞれ用いて成長を行った。SiC原料は粉体の状態で坩堝内に充填し、焼結体を得るための熱処理はせずに、それ以外は実施例1〜3と同様にしてSiC単結晶の成長を開始した。実施例1〜3と同様に、SiC粉体の物性値測定を行っている。その結果は表3に示す。坩堝構造と結晶成長プロセスは実施例1〜3と同一である。これらの比較例1及び2についてもそれぞれ同一の条件にてインゴット製造を3回行った。得られたSiC単結晶インゴットの外観観察では、明らかに結晶欠陥が発生したことが確認できるインゴットもあった。結晶の評価結果も表3に示す。インゴットの高さは実施例と比較して低い。これは、比較例1及び2で充填された粉体の空隙率は実施例よりも高いものの、成長プロセス中に大規模な再配置が発生し、再配置後の空隙率、表面積はむしろ実施例よりも低くなっており、それ以降の昇華反応が進み難くなったことによるものと考えられる。また、マイクロパイプ密度は種結晶のそれよりも増加しているが、これは、再配置の際に誘発されるガス組成の変動、ガス供給量の変動によって、SiC単結晶の成長面にSi粒や炭素粒などの異物相が形成されたことや、更には異物相を起点として異種ポリタイプも発生したことによるものと考えられる。
また、成長完了後の坩堝を解体し、原料の状態の観察を行った。昇華後に残る炭素残留物について、昇華前の粉体の形態を維持していた部分は原料体積の半分以下であり、原料の再配置に起因する緻密なSiC多結晶体又は緻密な炭素が原料の中心部に柱状に大きな体積で存在していた。
Figure 0006489891
(比較例3〜4)
比較例3〜4について説明する。比較例3〜4では比較例1〜2と同じ市販のSiC粉体を用いて、予めSiC粉体を熱処理した上でSiC単結晶の成長を行った。比較例3〜4で用いた黒鉛坩堝は、実施例1〜3で用いた坩堝と同じ100mm結晶製造用坩堝であり、種結晶1は実施例1〜3と同様である。結晶成長はSiC粉体の熱処理と結晶製造の連続した一環プロセスとして成長を実施した。比較例3〜4の一環プロセスの条件を以下で説明する。
SiC粉体と種結晶が装填された坩堝を、結晶成長炉の石英管内に設置し、通常の成長と同様に真空排気した後、純度99.9999%以上の高純度Arガスを、配管10を介してマスフローコントローラ11で制御しながら流入させ、真空排気装置及び圧力制御装置12を用いて石英管内圧力を所定の圧力に保ちながら、ワークコイル9に高周波電流を流し、SiC粉体が所定の温度に達するまで加熱した。その際、この比較例3〜4においても実施例4〜6と同様の設定でコイルの上下動を行った。所定の移動が完了した後に熱処理を完了とした。熱処理条件は表4に示す。
上記のようにしてSiC粉体の熱処理を行った後、ワークコイル9をSiC単結晶の成長で使用する位置に移動させて、坩堝下部を目標温度である2400℃まで上昇させ、石英管内の圧力を、9kPaから成長圧力である1.33kPaまで約15分かけて減圧し、成長を開始した。窒素ガスの分圧は180Paから90Paである。窒素分圧はインゴット全体で最適な導電性を維持するために変化させた。
ここで、この比較例3〜4で用いたSiC粉体について、それぞれ上記と同じ条件にて事前に熱処理実験を行い、熱処理後の粉体の物性を評価した。比較例3〜4の熱処理条件は本発明の範囲内ながら、空隙率が高いために粉体は焼結しておらず、熱処理前との物性変化は誤差の範囲内であった。上記の通り、焼結の効果が得られていないため、比較例3〜4にて得られたインゴットの高さは、比較例1〜2と同等である。従って、成長完了後の原料の状態や結晶品質も比較例1〜2と同等と言えるものであった。
Figure 0006489891
(比較例5〜7)
比較例5〜7は、SiC粉体の焼結プロセスを組み込んだ、結晶製造と連続した一環プロセスとして実施した。熱処理の工程は実施例4〜6と同様である。1つの比較例につき、SiC粉体を1種用意した。各SiC粉体の粒径D50、D20、空隙率、有効熱伝導率、及び熱処理の処理圧力と最高温度を表5に示す。
それぞれの比較例について、SiC粉体を結晶成長用坩堝内の原料充填室に充填し、各3回のSiC単結晶インゴットの製造実験を行った。これらの比較例5〜7で用いた黒鉛坩堝4、坩堝蓋体6の構造、種結晶の口径と仕様、及び一環プロセスの条件も実施例4〜6と同様である。
ここで、この比較例5〜7で用いたSiC粉体について、それぞれ上記と同じ条件にて事前に熱処理を施し、焼結性を調査した。比較例5の粉体は粒径D50とD20の比率と熱処理条件は本発明範囲内ながら、粒径D20が大きいために焼結性が低い。比較例6は粒径D50とD20、比率とも本発明の範囲内ながら、熱処理温度が低い。そのため、比較例5〜6では焼結体は得られず、熱処理後も粉体充填体の形態であった。また、熱処理後の粉体に対してあらためて有効熱伝導率の測定を行ったが、熱処理前との差異は誤差範囲であった。熱処理後のSiC粉体の有効熱伝導率、及び先の式(1)から算出された空隙率を表5に示す。熱処理過程で体積変化はなく、算出される空隙率は熱処理前後で変化無かった。
一方、比較例7は、第1の実施形態の範囲のSiC粉体であるが、熱処理温度が非常に高い。このため、坩堝内に投入されたSiC粉体はその内部で昇華と再結晶を発生させ、また焼成収縮により著しく体積が減少しており、空隙率は低下していた。なお、収縮のため84mm×200mm×65mmの試験片を作製することができなかったことから、別途φ10mm×5mmの試験片を加工し、レーザーフラッシュ法にて有効熱伝導率を測定した。すなわち、Ndガラスレーザを用いて、試料の片面に入熱し、反対側の面の温度変化を赤外線センサで捉えたデータを解析することによりφ10mm×5mmの試験片の有効熱伝導率を測定した。
上記のような各SiC原料を用いて実施例4〜6と同様にしてSiC単結晶の成長を行った。得られた比較例5〜7のインゴットの高さは、同じ結晶口径である実施例4〜6のインゴット高さと比較して低い。特に比較例7のインゴットの高さが低く、インゴットの外観観察でも、得られたインゴットには異種ポリタイプの混在やマイクロパイル(MP)の存在を反映した、放射状の筋模様やディンプルが多数見られた。成長完了後の坩堝を解体し、原料の状態の観察を行ったところ、原料の再配置に起因する緻密なSiC多結晶体又は緻密な炭素が原料の中心部に柱状に大きな体積で存在していた。比較例5及び6の原料は焼結させていないため、原料の極所的な加熱や再配置などの現象が発生し、結晶成長条件が不安定になったと推察された。一方、比較例7の原料は、成長前の熱処理により原料充填室の内部で昇華、再結晶と焼成収縮を起し、成長開始前に著しく空隙率が低下していた。このため、成長中の再配置はほとんど発生しないものの、成長開始時点から最後まで昇華量の極端に少ない条件であったと推察できる。得られたインゴットは実施例と同様に鏡面ウェハに加工し、透過光観察とマイクロパイプのカウントを行った。観察結果を表5に示す。全てのウェハで種結晶よりもMP密度が増加していた。
Figure 0006489891
(比較例8〜10)
比較例8〜10では、実施例1〜3と同様の方法で、成長に先だってSiC粉体を焼結させる熱処理を行った。1つの実施例につき、細粒のSiC粉体と粗粒のSiC粉体とからなる混合粉を1種用意し、SiC単結晶の成長で用いる100mm結晶製造用坩堝と同じサイズの黒鉛製の熱処理用坩堝に充填し、所定の圧力と温度にて熱処理を行った。用いた細粒のSiC粉体と粗粒のSiC粉体の平均粒径とこれらの混合比のほか、その混合粉からなるSiC粉体の粒径D50と粒径D20、熱処理の条件を表6に示す。各比較例について、細粒SiC粉体と粗粒SiC粉体とを結晶成長用坩堝内の原料充填室に充填し、熱処理を行い、その後、各3回のSiC単結晶インゴットの製造実験を行った。熱処理の条件、熱処理前後の原料の有効熱伝導率、先の式(1)から算出された空隙率を表6に示す。
比較例8の細粒SiC粉体の粒径、細粒SiC粉体と粗粒SiC粉体の平均粒径の関係(7a≦b)は第2の実施形態で示した範囲内であるが、混合粉における細粒の割合が非常に多い。このため、熱処理条件は本発明の範囲内ながら、高い焼結反応性のために著しく収縮し、熱処理後の原料の体積は大幅に減少していた。比較例8の熱処理後のSiC粉体の有効熱伝導率は、比較例7と同様にレーザーフラッシュ法にて測定した。比較例9も細粒SiC粉体の粒径、細粒SiC粉体と粗粒SiC粉体との平均粒径の関係(7a≦b)は第2の実施形態で示した範囲内であるが、混合粉における細粒の比率が小さい。このために、本発明範囲の条件で熱処理を行っても焼結体は得られず、熱処理の前後で粉体の物性値に有意差は見られなかった。比較例10のSiC粉体は、細粒SiC粉体と粗粒SiC粉体との混合比は第2の実施形態で示した範囲内である。しかしながら、細粒SiC粉体の平均粒径が過大であるために、焼結反応性が低下しており、本発明範囲の条件で熱処理を行っても焼結体は得られず、熱処理の前後で粉体の物性値に有意差は見られなかった。
これらのSiC原料を用いて実施例1〜3と同様の方法でSiC単結晶の成長を行ったところ、比較例8〜10にて得られたSiC単結晶インゴットは、口径は約105mmと実施例1〜3と同等であったが、インゴットの高さは実施例よりも低く、結晶性は大きく劣っていた。インゴットの高さと結晶品質について表6に示す。
また、成長完了後の原料の状態の観察も行った。比較例9〜10の原料については、原料の再配置に起因する緻密なSiC多結晶体又は緻密な炭素は原料の中心部に柱状に大きな体積で存在していた。成長プロセス中の再配置によって原料が中心部に移動した結果である。比較例8は、熱処理で形成された緻密な焼結体の形態をほぼ保っており、成長プロセス前後の変化は小さかった。
Figure 0006489891
1:種結晶(SiC単結晶)
2:SiC単結晶インゴット
3:昇華原料(SiC原料)
4:黒鉛坩堝
5:断熱材
6:坩堝蓋体
7:黒鉛支持台座(坩堝支持台および軸)
8:二重石英管
9:ワークコイル
10:配管
11:マスフローコントローラ
12:真空排気装置及び圧力制御装置
13a:放射温度計(坩堝上部用)
13b:放射温度計(坩堝下部用)

Claims (3)

  1. 原料であるSiCを昇華させて、種結晶上にSiC単結晶を成長させる昇華再結晶法に用いるSiC原料の製造方法であって、
    SiC粉体を圧力1.33×104Pa以上の不活性ガス雰囲気中、1500℃以上2200℃以下の温度で熱処理して、空隙率が20%以上50%以下、かつ、1000℃大気圧での有効熱伝導率が0.5W/mK以上のSiC多孔質焼結体からなるSiC原料を得ること、および、
    前記SiC粉体が、体積基準による粒度の累積分布で、累積20%の粒径にあたる粒径D 20 が200μm以下であると共に、該粒径D 20 が累積50%の粒径にあたる粒径D 50 の0.2倍未満の粒度分布を有するものであることを特徴とする昇華再結晶法に用いるSiC原料の製造方法。
  2. 前記SiC粉体が、平均粒径の小さい細粒SiC粉体と平均粒径の大きい粗粒SiC粉体との混合粉からなり、細粒SiC粉体の平均粒径aが30μm以上200μm以下、粗粒SiC粉体の平均粒径bが210μm以上2000μm以下であって、かつ、これらの平均粒径が7a≦bの関係を満たすことを特徴とする請求項1に記載の昇華再結晶法に用いるSiC原料の製造方法。
  3. 前記細粒SiC粉体が、混合粉中に30質量%以上50質量%以下の割合で混合されていることを特徴とする請求項に記載の昇華再結晶法に用いるSiC原料の製造方法。
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