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JP6335983B2 - 差動装置の製造方法及び差動装置 - Google Patents

差動装置の製造方法及び差動装置 Download PDF

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Description

本発明は、差動装置の製造方法及び差動装置に関する。
車両には、旋回時等において、エンジンから出力される駆動力を、対応する左右の駆動輪間に配分する、フロントデフやリヤデフ等の差動装置が備えられている。また、差動装置の別の態様として、エンジンから出力される駆動力を、前後の駆動輪間に分配するセンターデフも存在する。差動装置は、駆動力が伝達されるリングギヤと、リングギヤと接合されてリングギヤと一体に回転するデフケースと備える。リングギヤとデフケースとの接合方法として、溶接による接合方法が採用されている。例えば、炭素鋼からなるリングギヤと鋳鉄を用いて鋳造されたデフケースとの当接位置に対してビーム溶接を施すことによって、リングギヤとデフケースとが接合される。
かかるリングギヤとデフケースとの溶接の強度を向上させるための技術が提案されている。例えば、特許文献1には、リングギヤのギヤ側溶接面とデフケースのケース側溶接面との間に隙間が形成され、リングギヤの熱変形を吸収可能にし、かつ、溶接ビードの残留応力を低減可能にした差動装置が開示されている。かかる差動装置は、さらに、レーザ溶接時に発生する溶接ガスを放出させる空洞部を有し、溶接欠陥の発生を抑制可能になっている。
また、特許文献2には、ビーム溶接を貫通溶接とするための空洞部に一端が開口し、他端がデフケースの外面に開口して貫通する貫通穴を有し、ビーム溶接時に膨張した空洞部内の空気を外部空間に流出させて、溶接欠陥を防止し得る差動装置の溶接構造が開示されている。さらに、特許文献3には、デフケースの環状フランジの一方の側面とリングギヤの鍔部の側面とにより形成される環状の当接部より内周側の環状フランジに逃げ面が形成され、溶接ガスを逃がすことによって溶接欠陥を抑制し得る差動装置が開示されている。
特開2013−18035号公報 国際公開第2011/089706号 国際公開第2012/143986号
ここで、リングギヤとデフケースとを溶接により接合する場合、デフケースに割れが生じる場合がある。かかる割れの主な要因は、溶接時に、鋳鉄に含まれる炭素の溶出によって脆性組織が生成されることにある。鋳造時に、溶融した鋳鉄が流し込まれる湯口周辺は、他の領域よりも冷却速度が遅く、炭素当量が比較的高いパーライト組織の比率が高くなる。このため、デフケースのうち、鋳造時に湯口付近で形成された領域は、他の領域に比べて、溶接時に割れが生じやすくなっている。特に、デフケース及びリングギヤを全周に亘って溶接する場合に、溶接の基点及び終点が重なるオーバーラップ部が当該湯口付近で形成された領域に位置すると、パーライト率が高い領域への入熱量が大きくなり、組織脆化が拡大して割れやすくなる。
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、溶接のオーバーラップによる過大な入熱により生じるデフケースの割れを抑制可能な、新規かつ改良された差動装置の製造方法及び差動装置を提供することにある。
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、湯口に対して特定の位置関係を有する目印形成部を鋳型面に有する鋳型に対して、湯口を介して、溶融した鋳鉄を流し込んでデフケースを鋳造する第1工程と、リングギヤにデフケースを嵌合して、所定の軸回りの全周に亘ってデフケースとリングギヤとを溶接する第2工程と、を含み、第2工程では、第1工程において目印形成部によりデフケースに形成された目印を利用して、デフケースにおける鋳型の湯口付近で形成された部分で溶接のオーバーラップが生じないように、デフケースとリングギヤとを溶接する、差動装置の製造方法が提供される。
第2工程において、目印を利用して、鋳型の湯口付近で形成された部分が、溶接の開始位置とは異なる特定の位置に位置するようにデフケースを配置してもよい。
目印は、リングギヤに嵌合される前記デフケースの筒部の外周面の一部に設けられた切欠きであり、第2工程において、切欠きに嵌合可能な位置決め部を有する治具によりデフケースを保持して所定箇所にデフケースを配置することにより、鋳型の湯口付近で形成された部分を、溶接の開始位置とは異なる特定の位置に位置させてもよい。
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、鋳鉄を主成分とする鋳物からなるデフケースと、デフケースの筒部が嵌合された開口部を有し、所定の軸回りの全周に亘ってデフケースに溶接されたリングギヤと、を備え、デフケースは、筒部の周方向における一部の領域のパーライト率が他の領域よりも高くなっており、かつ、パーライト率が高い領域に対して特定の位置関係を有する目印を有し、溶接の基点及び終点が重なるオーバーラップ部が、パーライト率が高い領域とは異なる領域に位置する、差動装置が提供される。
目印は、筒部の外周面の一部に設けられた切欠きであってもよい。
デフケースとリングギヤとが嵌合した嵌合部と、デフケースとリングギヤとが溶接された溶接部と、の間に空間部が設けられ、空間部は、目印としての切欠きを介して外部に連通してもよい。
以上説明したように本発明によれば、デフケースとリングギヤとを溶接する際に、溶接のオーバーラップによる過大な入熱により生じるデフケースの割れを抑制することができる。
本発明の実施の形態に係る差動装置を示す断面図である。 デフケースとリングギヤとの接合部分の構成を示す断面図である。 デフケース及びリングギヤを嵌合した状態を示す説明図である。 溶接のオーバーラップ部と高パーライト領域との位置関係の一例を示す説明図である。 湯口とパーライト率との関係を示す説明図である。 鋳造工程で用いる鋳型の例を示す説明図である。 デフケースの高パーライト領域と切欠きとの位置関係の一例を示す説明図である。 デフケースの配置に用いられる治具の例を示す説明図である。 デフケース及びリングギヤを嵌合する様子を示す説明図である。
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
<1.差動装置>
(1−1.全体構成)
まず、本発明の実施の形態に係る差動装置の構成例について説明する。図1は、差動装置10の構成の一例を示す断面図である。図1には、デフケース20及びリングギヤ30の回転軸線A及びピニオンベベルギヤ50の回転軸線Bを含む断面が示されている。かかる差動装置10は、例えば、車両のトランスミッション装置に組み付けられ、内燃機関から出力される駆動力を左右の駆動輪に対して分配する装置として用いられる。
本実施形態にかかる差動装置10は、デフケース20と、リングギヤ30と、ピニオンシャフト40と、ピニオンベベルギヤ50,55と、サイドベベルギヤ60,65とを備える。デフケース20は、図示しないハウジング内に、回転軸線Aを中心に軸回転可能に支持される。デフケース20は、リングギヤ30の開口部38に嵌合される筒部21を有する。嵌合されたデフケース20とリングギヤ30とは、溶接部Wにおいて溶接されている。リングギヤ30の歯面30aは、図示しないプロペラシャフトに一体的に設けられたピニオンギヤの歯面に噛合し、内燃機関からの駆動力がプロペラシャフトを介してリングギヤ30に伝達される。これにより、内燃機関からの駆動力によって、デフケース20が回転軸線Aを中心に軸回転駆動される。
デフケース20には、回転軸線Aに直交する方向に沿う軸線Bを有するピニオンシャフト40が支持されている。ピニオンシャフト40は、デフケース20に設けられたシャフト支持孔24に挿入されている。デフケース20にはピン挿入孔22a,22bが形成され、ピニオンシャフト40にはピン挿入孔40aが形成される。これらのピン挿入孔22a,22b,40aを貫通するように、抜け止めピン80が圧入され、デフケース20からのピニオンシャフト40の抜け落ちが防止されている。抜け止めピン80として、例えば、断面がC字状の適合ピンを用いることができる。
ピニオンシャフト40には、一対のピニオンベベルギヤ50,55が、ピニオンシャフト40を中心に軸回転自在に支持されている。一対のピニオンベベルギヤ50,55は、回転軸線Aを挟んだ両側に配置されている。一対のピニオンベベルギヤ50,55は、それぞれ回転軸線Aに対して直交する回転軸線Bを中心に軸回転する。
なお、図1に示した差動装置10では、一対のピニオンベベルギヤ50,55が1本のピニオンシャフト40に支持されているが、ピニオンベベルギヤ50,55ごとにピニオンシャフトが設けられていてもよい。かかる場合には、ピニオンベベルギヤ及びピニオンシャフトは、2組以上設けられてもよい。
一対のピニオンベベルギヤ50,55の歯面50a,55aには、左右一対のサイドベベルギヤ60,65の歯面60a,65aがそれぞれ噛合している。図中左側のサイドベベルギヤ60には、左の駆動輪を回転駆動する図示しない駆動軸(アクスルドライブシャフト)がスプライン嵌合しているとともに、図中右側のサイドベベルギヤ65には、右の駆動輪を回転駆動する図示しない駆動軸(アクスルドライブシャフト)がスプライン嵌合している。左右の駆動軸は、デフケース20に設けられた駆動軸支持孔70,74に軸回転可能に支持される。
一対のサイドベベルギヤ60,65は、リングギヤ30、デフケース20及びピニオンベベルギヤ50,55を介して伝達される内燃機関の駆動力により、デフケース20と共通の回転軸線Aを中心に軸回転する。デフケース20、リングギヤ30、サイドベベルギヤ60,65、及び図示しない駆動軸(アクスルドライブシャフト)は、すべて回転軸線Aを中心に軸回転可能になっている。また、ピニオンベベルギヤ50,55は、回転軸線Bを中心に軸回転可能であるとともに、回転軸線Aを中心に公転可能になっている。デフケース20とサイドベベルギヤ60,65、ピニオンベベルギヤ50,55とサイドベベルギヤ60,65は、それぞれ相対回転可能になっている。
リングギヤ30に対して内燃機関から駆動力が伝達されると、デフケース20が回転軸線Aを中心に軸回転し、デフケース20に固定されたピニオンシャフト40によって支持された一対のピニオンベベルギヤ50,55も回転軸線Aの周りを公転する。左右の駆動輪に回転差がない場合(車両の直進時等)、差動装置10は、左右一対のサイドベベルギヤ60,65へと均等に駆動力を伝達する。このとき、左右一対のサイドベベルギヤ60,65の回転数が等しいことから、ピニオンベベルギヤ50,55は、回転軸線Bを中心に軸回転することなく、回転軸線Aを中心に公転する。
一方、左右の駆動輪に回転差がある場合(車両の旋回時等)、差動装置10は、左右一対のサイドベベルギヤ60,65へと適切に駆動力を配分する。例えば、車両が左に旋回し、左の駆動輪よりも右の駆動輪の回転数が大きくなる場合、右の駆動輪の駆動軸が嵌合されたサイドベベルギヤ65は、デフケース20よりも速く回転しようとし、左の駆動輪の駆動軸が嵌合されたサイドベベルギヤ60は、デフケース20よりも遅く回転しようとする。このとき、ピニオンベベルギヤ50,55は、回転軸線Aを中心に公転しながら回転軸線Bを中心に軸回転し、左右の駆動輪の回転数差が吸収される。
かかる差動装置10において、リングギヤ30、ピニオンベベルギヤ50,55及びサイドベベルギヤ60,65は、歯面の噛み合わせの精度を確保するために、例えば、炭素鋼により形成される。また、デフケース20は、鋳鉄を用いて鋳造により形成される。なお、差動装置10が、駆動力を前後の駆動軸に分配するセンターデフである場合、サイドベベルギヤ60,65がそれぞれ前側駆動軸又は後側駆動軸に嵌合される。
(1−2.接合部)
次に、デフケース20とリングギヤ30との接合部について詳細に説明する。図2は、デフケース20とリングギヤ30との接合部の一部を示す図であり、図1中の一点鎖線で囲まれた領域Xを拡大して示している。かかる図2において、溶接部Wには、溶接前のリングギヤ30及びデフケース20(フランジ部110)の形状が破線で示されている。デフケース20の筒部21は、リングギヤ30の開口部38に嵌合され、圧入されている。デフケース20にリングギヤ30を組み付ける際には、例えば、図2中の右側からリングギヤ30がデフケース20に嵌め込まれ、リングギヤ30はデフケース20のフランジ部110に当接される。デフケース20とリングギヤ30との嵌合部Fは、回転軸線Aの軸回りの略全周に亘って形成される。リングギヤ30の開口部38に嵌合されるデフケース20の筒部21の外周面21aの一部には、切欠き26が設けられている。
リングギヤ30は、デフケース20のフランジ部110に対向する部分に、外周側から順に、傾斜部31、当接部32、空間形成凹部33、平坦部34及び面取部35を有する。傾斜部31は、当接部32から外周側に離れるにつれてフランジ部110から離れる面として形成される。また、当接部32及び平坦部34は、例えば、同一面上に存在する面とすることができる。空間形成凹部33は、当接部32と平坦部34との間に設けられ、フランジ部110から離れる方向へと後退した溝として形成される。
また、デフケース20のフランジ部110は、リングギヤ30に対向する部分に、外周側から順に、傾斜部111、当接部112及び空間形成凹部113を有する。傾斜部111は、当接部112から外周側に離れるにつれてリングギヤ30から離れる面として形成される。また、空間形成凹部113は、当接部112よりも内周側に設けられ、リングギヤ30から離れる方向へと後退した溝として形成される。
リングギヤ30の開口部38にデフケース20の筒部21が嵌合されて圧入され、リングギヤ30の当接部32とデフケース20の当接部112とが当接した状態では、リングギヤ30及びフランジ部110にそれぞれ形成された傾斜部31,111によって開先部Gが形成される。また、かかる状態においては、リングギヤ30及びフランジ部110にそれぞれ形成された空間形成凹部33,113により貫通空間部Sが形成される。
デフケース20とリングギヤ30とが溶接される際には、かかる開先部Gにフィラーワイヤが供給されつつ、外周側からレーザや電子ビーム等の高エネルギのビームが照射される。これにより、フィラーワイヤと当接部32,112とが溶融して、リングギヤ30とデフケース20とが接合される。このとき、フィラーワイヤ及び当接部32,112が溶融して成る溶融金属が貫通空間部Sに到達するようにビームが照射され、貫通溶接とされる。デフケース20とリングギヤ30との溶接部W、及び上記の貫通空間部Sは、回転軸線Aの軸回りの全周に亘って形成される。デフケース20とリングギヤ30とを全周に亘って溶接する場合、溶接不良となる隙間が生じないように、溶接の基点と終点とが重ねられてオーバーラップ部WOLが形成される。
また、リングギヤ30の開口部38に嵌合されるデフケース20の筒部21の外周面21aのうち、図2に示した断面が位置する部分には、所定の目印としての切欠き26が設けられている。かかる切欠き26は、デフケース20ののうち、炭素当量が大きいパーライト組織の比率が高い領域(以下、「高パーライト領域」ともいう。)の位置を示す目印として形成されている。
(1−3.切欠き(目印))
次に、デフケース20に設けられた切欠き26について詳細に説明する。図3は、差動装置10を、リングギヤ30の歯面30a側から見た斜視図である。図3において、リングギヤ30の歯面30a側とは反対側に位置するデフケース20の図示が省略されている。図4は、差動装置10を、リングギヤ30の歯面30a側から回転軸線Aに沿って見た模式図である。図4中、リングギヤ30は点線で示されている。
デフケース20は、リングギヤ30に嵌合される筒部21の外周面21aの一部に切欠き26を有する。図4に示したように、本実施形態に係る差動装置10では、切欠き26は、円筒形状の筒部21の外周面21aの一部が、中心軸となる回転軸線Aの方向に後退して形成されている。
かかる切欠き26は、デフケース20における、高パーライト28の位置を示す目印としての機能を有する。つまり、切欠き26の位置から、高パーライト領域28の位置を特定可能になっている。切欠き26は、かかる高パーライト領域28に対して、あらかじめ設定された特定の位置関係を有するように設けられている。例えば、図3及び図4に示した例において、回転軸線Aを回転中心として、切欠き26と高パーライト領域28の中心部とのなす角度θ1が約180°となる位置に切欠き26が設けられている。
高パーライト領域28は、例えば、鋳鉄を用いてデフケース20を鋳造する場合に形成され得る。具体的には、デフケース20の鋳造時において、鋳型の湯口付近での鋳鉄の冷却速度が他の領域に比べて遅くなるため、当該湯口付近で形成される領域のパーライト率が高くなる。
図5は、鋳型の湯口と鋳造されるデフケース20のパーライト率との関係を示している。横軸は、デフケース20の回転軸線Aの軸回り方向において、鋳型の湯口の中心位置に対応する位置を基点とする周方向位置(位相)を示し、縦軸は、それぞれの周方向位置における溶接部される領域のパーライト面積率(%)を示している。図5に示したように、デフケース20のパーライト面積率は、湯口近傍の位置では高くなっており、湯口近傍から離れるにつれて次第に低下している。なお、図5に示した例では、湯口の中心位置からの位相が40°の位置を超えると、パーライト面積率に大きな変化は見られなくなる。
高パーライト領域28は、脆性が高い領域である。かかる高パーライト領域28は、一見して判別可能なものではないものの、高パーライト領域28に対して特定の位置関係を有する切欠き26があることで、高パーライト領域28の位置を判別することができる。切欠き26により高パーライト領域28の位置を判別することを目的とする場合、切欠き26の形態や大きさは特に限定されない。また、切欠き26により貫通空間部Sを外部に連通させることを目的とする場合、切欠き26は、少なくとも筒部21の軸方向に沿って所定の長さを有していればよい。
ただし、本実施形態に係る差動装置10は、デフケース20とリングギヤ30とを溶接する際に、切欠き26に嵌合可能な位置決め部を有する治具によりデフケース20を保持して、所定箇所にデフケース20を配置する過程を含む。したがって、切欠き26の有無によって、治具に対するデフケース20の嵌合の可否が区別され得る程度に、切欠き26の寸法が設定される。
また、本実施形態に係る差動装置10のデフケース20に設けられた切欠き26は、溶接部Wと嵌合部Fとによって区画された貫通空間部Sを外部に連通させている。差動装置10の製造時において、デフケース20とリングギヤ30とを接合する際に上述した貫通溶接を施す場合、供給される熱、あるいは、発生する熱によって、貫通空間部S内のガスが膨張する。貫通空間部Sが外部に開放されていない場合には、貫通空間部S内のガスの膨張によって、貫通空間部S内の圧力が上昇し、溶接部Wの溶融金属の一部からガスが噴き出して、溶融部Wに穴が開く欠陥が生じ得る。
これに対して、本実施形態に係る差動装置10は、切欠き26を介して、貫通空間部Sが外部に開放されている。したがって、貫通空間部S内で膨張するガスは、切欠き26を介して、デフケース20の外部に逃がされる。これにより、貫通空間部S内の圧力の上昇が抑制されて、溶融部Wに穴が開くような欠陥を防ぐことができる。
また、上述したように、デフケース20とリングギヤ30との溶接部Wは、回転軸線Aの軸回りに全周に亘って設けられており、溶接の基点と終点とが重なり合うオーバーラップ部WOLを有している。かかるオーバーラップ部WOLは、高パーライト領域28とは異なる領域に位置している。例えば、図4に示した例において、回転軸線Aを回転中心として、オーバーラップ部WOLと高パーライト領域28の中心部とのなす角度θ2が約90°となる位置にオーバーラップ部WOLが形成されている。後述するように、かかるオーバーラップ部WOLは、切欠き26を利用して、高パーライト領域28に重ならないように形成される。このため、ビーム溶接による、相対的に高い脆性を有する高パーライト領域28に対する入熱量が抑制され、高パーライト領域28からの組織脆化の拡大が抑制されている。したがって、デフケース20の割れを抑制することができる。
切欠き26と高パーライト領域28との位置関係は、本実施形態による差動装置10の例に限られない。あらかじめ位置関係が設定されている限り、切欠き26と高パーライト領域28の中心部とのなす角度θ1は、180°とは異なる適宜の角度に設定されてよい。高パーライト領域28に切欠き26が形成されてもよい。また、オーバーラップ部WOLと高パーライト領域28との位置関係についても、本実施形態による差動装置10の例に限られない。互いに異なる位置である限り、オーバーラップ部WOLと高パーライト領域28の中心部とのなす角度θ2は、90°とは異なる適宜の角度に設定されてよい。
<2.差動装置の製造方法>
ここまで、本実施形態に係る差動装置10の構成例について説明した。次に、本実施形態に係る差動装置10の製造方法について説明する。本実施形態に係る差動装置10の製造方法は、所定の目印形成部を鋳型面に有する鋳型に対して、湯口を介して、溶融した鋳鉄を流し込んでデフケースを鋳造する第1工程と、リングギヤにデフケースを嵌合して、所定の軸回りの全周に亘ってデフケースとリングギヤとを溶接する第2工程とを含む。そして、第2工程では、第1工程においてデフケースに形成された目印を利用して、デフケースにおける鋳型の湯口付近で形成された部分で溶接のオーバーラップが生じないように、デフケースとリングギヤとを溶接する。以下、各工程について詳細に説明する。
(2−1.鋳造工程(第1工程))
鋳造工程では、湯口に対して特定の位置関係を有する目印形成部を鋳型面に有する鋳型に対して、湯口を介して、溶融した鋳鉄が流し込まれ、デフケース素材が鋳造される。図6は、鋳造工程で用いられ得る鋳型100を説明するための模式図である。図6に示した鋳型100は、同時に12個のデフケース素材120を鋳造可能な鋳型100の例である。
鋳型100の種類は、特に限定されるものではなく、砂型又は金型等の、従来公知の鋳型であってよい。図6に示した鋳型100は、溶融した鋳鉄が流し込まれる12個の成型領域101を有する。成型領域101の数は12個に限られない。各成型領域101は、デフケース20の外形に対応する形状の鋳型面を有する。各成型領域101には、溶融した鋳鉄を流し込むための湯口103が設けられている。各成型領域101の鋳型面は、各成型領域101で鋳造されるデフケース素材120に対して同じ位置に湯口103が位置するように形成されている。
また、各成型領域101には、鋳造されるデフケース素材120に目印を形成するための目印形成部107が設けられている。各成型領域101において、湯口103と目印形成部107とは常に特定の位置関係を有する。図6に示した鋳型100の例では、成型領域101の中心部を中心とする、湯口103と目印形成部107との回転位相が180°に設計されている。
本実施形態に係る差動装置10では、デフケース20の筒部21の外周面21aに、目印としての切欠き26が形成されるため、鋳型100の各成型領域101の鋳型面のうち、筒部21に対応する筒形状の部分の内周面の一部を、筒形状の中心方向に迫り出させることにより目印形成部107が設けられている。ここで、本実施形態に係る差動装置10の製造方法の溶接工程では、切欠き26に嵌合可能な位置決め部を有する治具によりデフケース20の筒部21を保持して、所定箇所にデフケース20を配置する過程を含む。したがって、切欠き26の有無によって、治具に対するデフケース20の嵌合の可否が区別され得る程度に、目印形成部107の寸法(迫り出し量)が設定される。
かかる鋳型100の各成型領域101に対して、湯口103を介して溶融した鋳鉄を流し込み、鋳鉄を冷却して固めることによって、目印としての切欠き26を有するデフケース素材120が作製される。なお、鋳造時においては、適宜の中子が用いられてもよい。
図7は、鋳造工程で作製され得るデフケース素材120を示す説明図であり、デフケース素材120を筒部21側から軸方向に見た図である。デフケース素材120が鋳造される場合、湯口103付近では、溶融した鋳鉄が次々と流し込まれるために、鋳鉄の冷却速度が他の領域よりも遅くなる。このため、デフケース素材120のうち、湯口103付近で形成された部分は、パーライト率が高い高パーライト領域28となっている。また、デフケース素材120において、切欠き26は、高パーライト領域28に対して、回転軸線Aを中心に180°の回転位相の位置に形成されている。なお、鋳型100の各成型領域101で鋳造されるすべてのデフケース素材120には、高パーライト領域28に対して同一の位置関係を有する切欠き26が形成される。
デフケース素材120が鋳造された後、適宜の追加工が行われることで、所望のデフケース20が得られる。例えば、図7に示したデフケース素材120には、ピニオンシャフト40の抜け止め機能を有する抜け止めピン80が挿入されるピン挿入孔22aが形成されていないため、追加工により当該ピン挿入孔22aが形成される。
(2−2.溶接工程(第2工程))
溶接工程では、リングギヤ30にデフケース20を嵌合して、回転軸線Aの軸回りの全周に亘ってデフケース20とリングギヤ30とが溶接される。このとき、鋳型100の目印形成部107によりデフケース20に形成された目印としての切欠き26を利用して、デフケース20における鋳型100の湯口103付近で形成された部分(高パーライト領域28)で溶接のオーバーラップが生じないように、デフケース20とリングギヤ30とが溶接される。
溶接工程では、切欠き26の配置位置を管理しながら、デフケース20が所定箇所に配置される。かかるデフケース20の筒部21に対してリングギヤ30を嵌合させた後、高パーライト領域28に重ならない位置を開始位置として、デフケース20及びリングギヤ30の外周部の全周に亘ってビーム溶接が行われる。つまり、デフケース20の切欠き26の配置位置が把握されていれば、切欠き26に対して特定の位置関係を有する高パーライト領域28とは異なる位置からビーム溶接を開始させることができる。これにより、高パーライト領域28で溶接のオーバーラップが生じないようにすることができる。
図8は、切欠き26の配置位置を管理しながらデフケース20を所定箇所に配置し得る治具130の一例を示す模式図である。図8に示すように、デフケース20の筒部21の外形に対応する形状の開口部133を有する治具130によってデフケース20を保持し、所定箇所にデフケース20を配置することによって、切欠き26の配置位置を管理することができる。具体的に、治具130の開口部133の一部には、デフケース20の筒部21の切欠き26に嵌合可能な位置決め部131が設けられている。このため、切欠き26と位置決め部131とが同じ回転位相の状態でなければ、デフケース20を治具130に保持させることができない。
したがって、デフケース20が、治具130に対して適切に保持され、所定箇所に配置されるときには、位置決め部131の位置によって、切欠き26の位置、すなわち、高パーライト領域28の位置が管理され得る。つまり、ビーム溶接時にデフケース20を支持させる支持部に対してデフケース20を設置する際に、常に治具130の位置決め部131が同じ位置に位置するようにデフケース20を保持しながら設置することで、高パーライト領域28を常に同じ位置に位置させることができる。このとき、高パーライト領域28が、ビーム溶接の開始位置とは異なる位置に位置するようにデフケース20が配置される。
次いで、図9に示すように、デフケース20の筒部21を、リングギヤ30の開口部38に対して嵌合させ、リングギヤ30がデフケース20のフランジ部110に突き当てられるまで圧入する。その後、デフケース20の高パーライト領域28と重ならない位置を開始位置として、リングギヤ30とデフケース20のフランジ部110との当接位置の外周部を全周に亘ってビーム溶接する(図4を参照。)。このとき、切欠き26の位置に応じてデフケース20の高パーライト領域28の位置があらかじめ把握されているため、高パーライト領域28が、ビーム溶接の開始位置とは異なる位置にあらかじめ設定され得る。
これらの一連の過程、すなわち、デフケース20を治具130により保持して、所定箇所に設定する過程、デフケース20とリングギヤ30とを嵌合させる過程、及び、デフケース20とリングギヤ30とをビーム溶接する過程は、あらかじめプログラムされた装置を用いて実行されてもよい。かかる装置を用いて溶接工程が行われることでデフケース20の高パーライト領域28と、デフケース20及びリングギヤ30の溶接のオーバーラップ部WOLとが重ならないように、効率的に溶接工程を実施することができる。
その後、図示しないものの、デフケース20に、ピニオンベベルギヤ、サイドベベルギヤ、ピニオンシャフト、及び抜け止めピン等を組み付けることにより、差動装置10が製造される。
以上説明したように本実施形態に係る差動装置10の製造方法では、デフケース20の外観からは判別しづらい高パーライト領域28に対して特定の位置関係を有する目印としての切欠き26が鋳造工程で形成される。したがって、追加の工程を設けることなく、高パーライト領域28の位置を把握し得る目印が形成される。また、本実施形態に係る差動装置10の製造方法では、溶接工程において、切欠き26を利用して、高パーライト領域28とは異なる位置を開始位置としてビーム溶接が行われる。したがって、脆性が高い高パーライト領域28と溶接のオーバーラップ部WOLとが重なることがなく、高パーライト領域28への入熱量を抑制することができる。これにより、差動装置10におけるデフケース20の割れを抑制することができる。
また、本実施形態に係る差動装置10の製造方法では、溶接工程において、デフケース20の筒部21の外周面21aに設けた切欠き26に嵌合可能な位置決め部131を有する治具130を用いてデフケース20が保持され、所定箇所にデフケース20が設置される。このとき、切欠き26の位置、つまり、デフケース20の高パーライト領域28の位置があらかじめ設定された位置となるようにデフケース20が設置されるとともに、高パーライト領域28とは異なる位置にビーム溶接の開始位置があらかじめ設定され得る。このため、溶接のオーバーラップ部WOLと高パーライト領域28とが重ならないように溶接工程が効率的に実施され、差動装置10を効率的に製造することができる。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
例えば、上記実施形態では、デフケース20の筒部21の外周面21aに、目印としての切欠き26が設けられていたが、本発明は係る例に限定されない。例えば、溶融部Wと嵌合部Fとによって区画された貫通空間部Sを外部に連通させる通路が切欠き以外に確保されている場合には、目印は、外周面21aに設けられる切欠きでなくてもよい。例えば、目印は、突部やマーキングであってもよい。ただし、目印として突部を形成する場合には、溶接部Wや嵌合部Fを構成し得る位置以外に目印が形成されることが好ましい。
10 差動装置
20 デフケース
21 筒部
21a 外周面
26 切欠き(目印)
28 高パーライト領域
30 リングギヤ
38 開口部
100 鋳型
101 成型領域
103 湯口
107 目印形成部
120 デフケース素材
130 治具
131 位置決め部
133 開口部
F 嵌合部
S 貫通空間部
W 溶接部

Claims (6)

  1. 湯口に対して特定の位置関係を有する目印形成部を鋳型面に有する鋳型に対して、前記湯口を介して、溶融した鋳鉄を流し込んでデフケースを鋳造する第1工程と、
    リングギヤに前記デフケースを嵌合して、所定の軸回りの全周に亘って前記デフケースと前記リングギヤとを溶接する第2工程と、を含み、
    前記第2工程では、前記第1工程において前記目印形成部により前記デフケースに形成された目印を利用して、前記デフケースにおける前記鋳型の湯口付近で形成された部分で溶接のオーバーラップが生じないように、前記デフケースと前記リングギヤとを溶接する、差動装置の製造方法。
  2. 前記第2工程において、前記目印を利用して、前記鋳型の湯口付近で形成された部分が、前記溶接の開始位置とは異なる特定の位置に位置するように前記デフケースを配置する、請求項1に記載の差動装置の製造方法。
  3. 前記目印は、前記リングギヤに嵌合される前記デフケースの筒部の外周面の一部に設けられた切欠きであり、
    前記第2工程において、前記切欠きに嵌合可能な位置決め部を有する治具により前記デフケースを保持して所定箇所に前記デフケースを配置することにより、前記鋳型の湯口付近で形成された部分を、前記溶接の開始位置とは異なる特定の位置に位置させる、請求項2に記載の差動装置の製造方法。
  4. 鋳鉄を主成分とする鋳物からなるデフケースと、
    前記デフケースの筒部が嵌合された開口部を有し、所定の軸回りの全周に亘って前記デフケースに溶接されたリングギヤと、を備え、
    前記デフケースは、前記筒部の周方向における一部の領域のパーライト率が他の領域よりも高くなっており、かつ、前記パーライト率が高い領域に対して特定の位置関係を有する目印を有し、
    前記溶接の基点及び終点が重なるオーバーラップ部が、前記パーライト率が高い領域とは異なる領域に位置する、差動装置。
  5. 前記目印は、前記筒部の外周面の一部に設けられた切欠きである、請求項4に記載の差動装置。
  6. 前記デフケースと前記リングギヤとが嵌合した嵌合部と、前記デフケースと前記リングギヤとが溶接された溶接部と、の間に空間部が設けられ、
    前記空間部は、前記目印としての切欠きを介して外部に連通する、請求項5に記載の差動装置。
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