以下、本発明のビーム溶接部材およびこれを備えた差動装置を各実施形態に基づいて説明する。
(第1実施形態)
図1〜図7は、本発明を適用したビーム溶接部材およびこれを備えた差動装置の第1実施形態を示し、図1は適用しようとする差動装置の概略断面図を示し、図2〜図7は第1〜4参考例及び第1、2実施例を夫々示す図である。
図1において、ビーム溶接部材およびこれを備えた差動装置1は、エンジン等からの動力が伝達される第1部材としての鋼製のデフリングギヤ2と、このデフリングギヤ2を支持してデフリングギヤ2と一体に回転する鋳鉄製のデフケース3とを備えている。デフケース3は、図示しないが、ハウジングに回転可能に支持されている。そして、ベベルギヤからなる一対のピニオンメイトギヤとこのピニオンメイトギヤと噛合いするベベルギヤからなる左右のサイドギヤとからなるディファレンシャルギヤユニットを内蔵している。
そして、変速機等から出力がデフリングギヤ2に伝達されると、このデフリングギヤ2が回転するので、デフケース3も回転する。このデフケース3の回転により、デフケース3内に内蔵されているディファレンシャルギヤユニットのピニオンメイトギヤもデフケース3と一体に回転する。すると、ピニオンメイトギヤに噛合いする左右のサイドギヤが回転する。これにより、図示しない左右のドライブシャフトが回転し、これらのドライブシャフトに連結された左右の車輪(不図示)が回転する。この構成の差動装置1は、一般的に使用されている通常のものであり、車両左右の駆動車輪間に配置されるものの他、車両前後のファイナルドライブ装置間に配置されるセンタデファレンシャル装置にも適用されている。
前記差動装置1におけるデフリングギヤ2とデフケース3との接合は、デフリングギヤ2が繰り返し荷重および衝撃荷重を受けることから、高い接合強度(耐疲労強度、耐衝撃強度)が求められる。しかし、デフリングギヤ2を構成する表面焼入された鋼材とデフケース3を構成する鋳鉄若しくは鋳鋼との高強度接合が困難である。このため、一般的には、デフリングギヤ2とデフケース3との高強度接合として、所定数のボルトによるボルト接合が使用されている。
しかし、差動装置1におけるデフリングギヤ2とデフケース3との接合として、ボルト接合を用いたのでは、差動装置1として8〜12本くらいのボルトが使用される。このため、部品点数が多くコスト高となるばかりでなく、重量が重いものとなっている。特に、これらのボルトには荷重が繰り返しかかることから、その部品機能として耐疲労強度および耐衝撃強度等の高強度が求められるため、更に一層コスト高を招いてしまう。また、デフリングギヤ2とデフケース3とを手作業でボルト仮付けを行った後、ボルト締め付け機でボルトを締めつけているため、作業工数が多くかかっている。更に、ボルトが他の部材との干渉を防止するために、ケースの狭い空間内にこれらのボルトの占有スペースが必要となっている。
そこで、本実施形態においては、デフリングギヤ2とデフケース3との接合にボルト接合を用いずに、高接合強度を得つつ、作業工数および部品点数をともに削減できるビーム溶接部材を提供するものである。更に本実施形態では、高接合強度を得つつ、占有スペースを低減して他の部材との干渉を防止して確実に動力を伝達することのできる差動装置1を提供するものである。
このために、前記デフケース3は、外周に前記デフリングギヤ2の内周面を嵌め合い支持する円筒面11を、機械加工により形成する。また、この円筒面11の端部において外周側に突出させてフランジ部12を備える。このフランジ部12の前記円筒面11側の側面は、前記デフリングギヤ2を軸方向に位置決めをすると共にデフリングギヤ2に対して溶接すべき接合部13を構成するよう機械加工している。
前記デフリングギヤ2は、リング状の鋼材により形成され、鋼材の一方の側面に形成されたテーパ状の(傘)歯車部20を備える。前記歯車部20は、車両の平面図より見て、デフケース3の軸心に対して直交する方向の軸(プロペラシャフト)から入力を受ける場合には、上記したように傘歯車となる。また、前記歯車部20は、デフケース3の軸心に対して並行する方向の軸から入力を受ける場合には、デフリングギヤ2に設ける歯車部20は平歯車が使用される。また、機械加工により、この歯車部20の内周側に形成されてデフケース3の外周の円筒面11に圧入嵌合する内周面21と、歯車部20の背面側に形成された接合部23と、を有する。前記接合部23は、デフケース3に設けたフランジ部12に軸方向から当接して軸方向の位置決めすると共にそのフランジ部12の接合部13にビーム溶接される。本実施形態におけるデフケース3とデフリングギヤ2との結合面は、デフケース3の円筒面11とデフリングギヤ2の内周面21との圧入嵌合部と、デフケース3及びデフリングギヤ2の接合部13,23同士のビーム溶接部と、よりなるL字状断面をなす。
図2は、第1参考例のビーム溶接部材の一例が適用された差動装置1におけるデフリングギヤ2とデフケース3との接合部13,23を模式的に示す。即ち、デフケース3の円筒面11にデフリングギヤ2の内周面21を圧入嵌合させ、デフリングギヤ2とデフケース3との接合部13,23同士を接触させてビーム溶接した状態を示す図である。
図2に示すように、デフリングギヤ2およびデフケース3の接合部13,23は、機械加工により、夫々外周側に形成された開先部14,24を備える。また、開先部14,24よりも内周側において開先部14,24より軸方向に夫々後退させた端面により形成された空間形成部15,25を備える。
前記ビーム溶接のための開先部14,24は、内周側において互いに当接される当接部14A,24Aと、この当接部14A,24Aの外周側においてテーパ状に切欠き形成したテーパ部14B,24Bと、を備える。
また、前記夫々の空間形成部15,25を構成する側面の内周側は、夫々隅Rおよび面取りを介して、デフケース3の円筒面11及びデフリングギヤ2の内周面21に連なっている。また、空間形成部15,25を構成する側面の外周側は、夫々隅Rを介して、夫々前記開先部14,24の当接部14A,24Aの内周端に連なるよう構成している。
従って、デフリングギヤ2とデフケース3との接合部13,23は、両者を接触させたビーム溶接前の状態では、開先部14,24の当接部14A,24A同士が接触される。そして、開先部14,24のテーパ部14B,24B同士は、内周に向けて狭まり、外周に向けて拡がるビーム溶接のための開先を形成する。また、内周側の空間形成部15,25は、溶接ビームを互いの開先部14,24を貫通させて受入れて、貫通溶接とするための貫通空間Aを形成する。この貫通空間Aは、開先部14,24の内周端からデフケース3とデフリングギヤ2との嵌合部分11,21までの範囲において、互いに接触することなく軸方向に離間している。
また、デフケース3には、前記貫通空間Aに外端が開口し内端がデフケース3内面に開口して半径方向に貫通する連通孔40を備える。この連通孔40は、例えば、φ3.0の孔で形成され、デフリングギヤ2のデフケース3への組立時にビーム溶接のための貫通空間Aと外部空間とを連通させる。前記連通孔40は、1本で形成しても複数本で形成してもよく、また、配置する円周方向位置はいずれの円周方向位置でもよい。
前記デフリングギヤ2とデフケース3との開先部14,24同士を接触させて、デフケース3とデフリングギヤ2の開先にフィラーワイヤを供給しながら、レーザビーム若しくは電子ビーム等の高エネルギビームを照射してビーム溶接する。このビーム溶接は、順次デフケース3及びデフリングギヤ2を軸心回りに回転させて、開先の全周に渡って実施する。フィラーワイヤとデフケース3とデフリングギヤ2の開先とが高エネルギビームにより溶融されて開先部14,24に溶接金属30が形成され、デフケース3とデフリングギヤ2とが開先部14,24で溶接される。同時に、溶接金属30の軸方向両側のデフケース3とデフリングギヤ2の母材部位に、夫々熱影響層31が生じる。
そして、半径方向内周側に位置する貫通空間Aは連通孔40を介して外部空間に連通しているため、高エネルギビームの照射及び溶接熱により、半径方向内周側に位置する貫通空間A内の空気は膨張する。膨張した気体は連通孔40を介して流れ出る。また、溶接後の冷却過程においては、貫通空間A内の気体の冷却に伴う収縮に応じて、外部空間から連通孔40を介して外気を導入する。このため、貫通空間A内の気体圧力は、溶接中は上昇されることがなく、また、溶接後においても、外気圧と同じに保持される。従って、貫通空間Aの内部の空気の圧力が上昇して溶融した溶接金属30を押し退けることを防止できる。
図11は、開先部14,24の内周に設ける貫通溶接のための貫通空間Aを、開先の内周端に連ねて部分的に設けた閉空間に形成した比較例のビーム溶接後の状態を示している。即ち、貫通空間Aは、半径方向外周側において開先部14,24の当接部14A,24A同士の接触により閉じられている。また、半径方向内周側においてデフケース3とデフリングギヤ2との端面同士の接触及びデフケース3とデフリングギヤ2との嵌合部分11,21の嵌り合いにより閉じられている。言い換えれば、貫通空間Aは外部空間から遮断された閉空間となっている。
このため、比較例においては、高エネルギビームの照射及び溶接熱により、貫通空間A内の空気は膨張するが、膨張した気体は高エネルギビームにより溶融した溶接金属30を外周側に押出すよう作用する。この作用は、図11に示すように、溶接金属30の内周側が抉られた状態(図中のB参照)の、所謂アンダーフィルという、溶接欠陥を生じる。また、溶接の終盤では貫通空間A内部の気体が溶接ビードを外周側に押し退けて噴出して溶接ビードの表面側に不整ビードを生じるという、溶接欠陥を発生する。
これに対して、第1参考例においては、上記したように、貫通空間A内の気体圧力は、溶接中は上昇されることがなく、また、溶接後においても、外気圧と同じに保持される。このため、貫通空間Aの内部の空気の圧力が上昇して溶融した溶接金属30を押し退ける、アンダーフィルや溶接の終盤において貫通空間A内部の気体が溶接ビードを外周側に押し退けて噴出して溶接ビードの表面側に不整ビードを生じることがない。即ち、溶接欠陥を発生することが防止できる。
また、溶接後の溶接金属30が冷えて固まる際には、溶接金属30の体積が収縮し、周囲の母材(デフケース3及びデフリングギヤ2)との間にある熱影響層31付近に引張応力が発生する。しかし、第1参考例においては、貫通空間Aが、その内周側においてデフケース3の円筒面11及びデフリングギヤ2の内周面21に拡大されている。このため、溶接金属30の凝固収縮時に撓める部分の長さは、デフケース3とデフリングギヤ2とが嵌合している部分11,21から開先部14,24外周までの長さLAとなる。また、デフケース3のフランジ部12の撓める角度をδとすると、溶接金属30の周辺の母材の変位量の期待値は積[LA*δ]と見なせる。
一方、比較例においては、溶接金属30の凝固収縮時に撓める部分の長さは、デフケース3とデフリングギヤ2の軸方向端面同士の接触部の外周部分から開先部14,24外周までの長さLBとなる。また、デフケース3のフランジ部12の撓める角度をδとすると、溶接金属30の周辺の母材の変位量の期待値は積[LB*δ]と見なせる。このため、比較例においては、溶融した母材及びフィラーワイヤよりなる溶接金属30の凝固収縮に対応して発生する剥離方向の応力が緩和されず、比較的柔軟性の低い鋳鉄部品側の熱影響層31において剥離等の溶接割れCが生じるものと推定される。
これに対して、第1参考例においては、デフケース3とデフリングギヤ2とが嵌合している部分11,21から開先部14,24外周までの長さLAは、比較例の長さLBよりも長くなる。従って、第1参考例の溶接金属30の周辺の母材の変位量の期待値である積[LA*δ]は、比較例の溶接金属30の周辺の母材の変位量の期待値である積[LB*δ]よりも大きくなる。このため、比較例に比べて第1参考例の方が、溶接金属30の周辺の母材の変位量の期待値は大きく、つまり、撓みやすいことになる。また、デフケース3の内周側の側面が軸方向に後退されていることによっても、撓みやすいことになる。
ここで、凝固収縮の体積変化が、比較例と第1参考例とで同じと仮定すると、溶接金属30の周辺の母材が大きく撓める第1参考例の方が、発生する引張応力が低くなる。従って、溶融した母材及びフィラーワイヤよりなる溶接金属30の凝固収縮に対応して発生する剥離方向の応力が緩和され、比較的柔軟性の低い鋳鉄部品側の熱影響層においても、剥離等の溶接割れを生じないものとできる。
図3に示すビーム溶接部材およびこれを備えた差動装置1の第2参考例においては、デフケース3の円筒面11に嵌合するデフリングギヤ2の内周面21に、軸方向に連通溝41を形成する。この連通溝41は、例えば、直線状に半径R1.0の溝で形成され、デフケース3への組立時にビーム溶接のための貫通空間Aと外部空間とを連通させる連通孔40を構成する。前記連通溝41は、1本で形成しても複数本で形成してもよく、また、配置する円周方向位置はいずれの円周方向位置でもよい。また、デフリングギヤ2の内周面21に設けるのでなく、デフケース3の円筒面11に設けるものであってもよい。
また、図4に示すビーム溶接部材およびこれを備えた差動装置1の第3参考例のように、デフリングギヤ2の内周面21とデフケース3の円筒面11との両者に夫々軸方向に延びる連通溝41,42を形成する。そして、両連通溝41,42の円周方向位置を一致させることで、断面積の大きい連通孔40とすることもできる。このようにすることで、連通孔40の通路面積を稼ぐことができ、設ける連通溝41,42の本数を少なくすることができる。
また、前記連通溝41,42は、デフケース3の軸心に平行に形成してもよいが、図5に示す第4参考例のように、螺旋状に形成してもよい。螺旋状に形成する場合には、デフリングギヤ2の内周面21(デフケース3の円筒面11)の機械加工時に、内面加工ツールの外周側への追い込みにより、内周面21(円筒面11)加工と同時に形成することができる。
これらの第2〜4参考例においても、半径方向内周側に位置する貫通空間Aは連通溝41,42からなる連通孔40を介して外部空間に連通している。このため、高エネルギビームの照射及び溶接熱により、貫通空間A内の空気が膨張すると、膨張した気体は連通孔40を介して流れ出る。また、溶接後の冷却過程においては、貫通空間A内の気体の冷却に伴う収縮に応じて、外部空間から連通孔40を介して外気を導入する。このため、貫通空間A内の気体圧力は、溶接中は上昇されることがなく、また、溶接後においても、外気圧と同じに保持される。従って、貫通空間Aの内部の空気の圧力が上昇して溶融した溶接金属30を押し退けることを防止できる。
このため、貫通空間Aの内部の空気の圧力が上昇して溶融した溶接金属30を押し退ける、アンダーフィルや溶接の終盤において貫通空間A内部の気体が溶接ビードを外周側に押し退けて噴出して溶接ビードの表面側に不整ビードを生じることがない。即ち、溶接欠陥を発生することが防止できる。
図6に示すビーム溶接部材およびこれを備えた差動装置1の第1実施例においては、デフリングギヤ2の接合部に円周方向に配置されている開先部の一部分を半径方向に切り欠いて半径方向の連通溝43を形成する。この連通溝43は、例えば、円周方向寸法(溝幅)0.5mm、軸方向寸法(溝深さ)0.3mmの溝を半径方向に切り欠いて形成する。
前記連通溝43は、デフリングギヤ2とデフケース3との開先部同士を接触させた組立状態において、貫通空間Aを外部空間に連通させる連通孔40となる。また、その状態からデフケース3とデフリングギヤ2の開先にフィラーワイヤを供しながら高エネルギビームを照射してビーム溶接する場合に、前記連通溝43の円周方向における一方の縁がビーム溶接の開始位置となる。次いで、高エネルギビームが前記連通溝43から離れる方向に順次デフケース3及びデフリングギヤ2を軸心回りに回転させて、連通溝43の他方の縁に到るようにする。そして、最後に連通溝43が存在する部分をビーム溶接することによって、開先の全周に渡って実施する。
従って、ビーム溶接が終了した段階では、前記連通溝43は高エネルギビームにより開先部14,24とフィラーワイヤとが溶融した溶接金属30により埋められることとなる。このため、連通溝43が開先部14,24に存在しても、ビーム溶接された部分の強度を低下させることがない。
また、この第1実施例においても、貫通空間Aは連通孔40を介して外部空間に連通しているため、高エネルギビームの照射及び溶接熱により、貫通空間A内の空気が膨張し、膨張した気体は連通孔40を介して流れ出る。このため、貫通空間A内の気体圧力は、溶接中は上昇されることがない。従って、貫通空間Aの内部の空気の圧力が上昇して溶融した溶接金属30を押し退けることを防止できる。
このため、貫通空間Aの内部の空気の圧力が上昇して溶融した溶接金属30を押し退ける、アンダーフィルや溶接の終盤において貫通空間A内部の気体が溶接ビードを外周側に押し退けて噴出して溶接ビードの表面側に不整ビードを生じることがない。即ち、溶接欠陥を発生することが防止できる。
また、前記実施例1及び参考例2〜4においても、第1参考例と同様に、溶接後の溶接金属30が冷えて固まる際には、溶接金属30の体積が収縮し、周囲の母材(デフケース3及びデフリングギヤ2)との間にある熱影響層31付近に引張応力が発生する。しかし、貫通空間Aが、その内周側においてデフケース3の円筒面11及びデフリングギヤ2の内周面21に拡大されているため、溶接金属30の凝固収縮時に撓める部分の長さを、第1参考例と同様に確保することができる。また、第1参考例と同様に、デフケース3のフランジ部12の内周側の端面が軸方向に後退されていることによっても、撓みやすいことになる。
従って、凝固収縮の体積変化が、比較例と本実施例とで同じと仮定すると、溶接金属30の周辺の母材が大きく撓めるため、発生する引張応力を低くできる。このため、溶融した母材及びフィラーワイヤよりなる溶接金属30の凝固収縮に対応して発生する剥離方向の応力が緩和され、比較的柔軟性の低い鋳鉄部品側の熱影響層31においても、剥離等の溶接割れを生じないものとできる。
図7に示すビーム溶接部材およびこれを備えた差動装置1の第2実施例においては、高エネルギビームを照射してビーム溶接する開先部14,24を、両者が圧入嵌合するデフケース3の円筒面11およびデフリングギヤ2の内周面21に設けるようにしたものである。即ち、デフケース3の円筒面11及びデフリングギヤ2の内周面21には、互いに嵌合するも、軸方向の一端部分には開先部14,24が形成されると共にその開先部14,24の奥側において、開先部14,24よりデフケース3側で外径を縮小させ且つデフリングギヤ2側で内径を拡大させた空間形成部15,25を備える。なお、前記開先部14,24は、デフケース3側とデフリングギヤ2側とが互いに接触する当接部14A,24Aとそれに連ねてテーパ状に切り欠き形成したテーパ部14B,24Bとより構成されている。また、空間形成部15,25より奥側(開先部14、24とは反対の側)のデフリングギヤ2の内周面21とデフケース3の円筒面11とは互いに圧入嵌合している。この奥側の圧入嵌合を容易にするために、奥側のデフリングギヤ2の内周面21のフランジ部12の側面に到る端部に、テーパ面が形成されることが望ましい。
そして、デフリングギヤ2の空間形成部25から奥側の内周面21と、デフケース3のフランジ部12の側面に当接しているデフリングギヤ2の端面26とに、軸方向に延びる連通溝44及び半径方向に延びる連通溝45を夫々形成している。
従って、デフリングギヤ2とデフケース3とを嵌合させて組立てたビーム溶接前の状態では、開先部14,24の当接部14A,24A同士が接触される。そして、開先部14,24のテーパ部14B,24B同士は、奥側で狭まり、外側に向けて拡がるビーム溶接のための開先を形成する。また、奥側の空間形成部15,25は、溶接ビームを互いの開先部14,24を貫通させて受入れて、貫通溶接とするための貫通空間Aを形成する。この貫通空間Aは、連通溝44,45で形成した連通孔40により外部空間に連通している。
前記デフケース3とデフリングギヤ2の開先にフィラーワイヤを供給しながら、高エネルギビームを照射し、デフケース3及びデフリングギヤ2を軸心回りに回転させつつ、順次開先の全周に渡ってビーム溶接を実施する。フィラーワイヤとデフケース3とデフリングギヤ2の開先とが高エネルギビームにより溶融されて開先部14,24に溶接金属30が形成され、デフケース3とデフリングギヤ2とが開先部14,24で溶接される。
そして、高エネルギビームの照射及び溶接熱により、軸方向奥側に位置する貫通空間A内の空気は膨張するが、貫通空間Aは連通溝44,45を介して外部空間に連通しているため、膨張した気体は連通孔40を介して流れ出る。また、溶接後の冷却過程においては、貫通空間A内の気体の冷却に伴う収縮に応じて、外部空間から連通溝44,45を介して外気を導入する。このため、貫通空間A内の気体圧力は、溶接中は上昇されることがなく、また、溶接後においても、外気圧と同じに保持される。従って、貫通空間Aの内部の空気の圧力が上昇して溶融した溶接金属30を押し退けることを防止できる。
このため、貫通空間Aの内部の空気の圧力が上昇して溶融した溶接金属30を押し退ける、アンダーフィルや溶接の終盤において貫通空間A内部の気体が溶接ビードを外周側に押し退けて噴出して溶接ビードの表面側に不整ビードを生じることがない。即ち、溶接欠陥を発生することが防止できる。
本実施形態における各参考例及び実施例においては、以下に記載する効果を奏することができる。
(ア)第1部材としての例えばデフリングギヤ2は第2部材としての例えばデフケース3の外周に内周部21を嵌合させて支持され、第1部材と第2部材とが互いに当接する環状の面の一方側において外部空間に臨む端部に形成した溶接用開先部14,24に、フィラーワイヤを供給しつつ溶接用開先部14,24を貫通させて、前記溶接用開先部14,24より奥側の第1,2部材間に設けた貫通空間Aに達する貫通溶接により接合されたビーム溶接部材である。そして、前記第1,2部材の貫通溶接のための貫通空間Aが、第1部材若しくは第2部材に設けた連通孔40を介して外部空間と連通されている。
したがって、ビーム溶接時に貫通空間A内の気体が膨張しても外部空間へ連通孔40を介して排出されて内圧が上昇することがなく、内圧上昇に伴う溶接金属30の内周側が抉られた窪んだ状態となる、所謂アンダーフィルという、溶接欠陥を防止できる。また、溶接の終盤では空間A内部の気体が溶接ビードを外周側に押し退けて噴出して、溶接金属に気孔の発生や溶接ビードの表面側に不整ビードを生じるという、溶接欠陥の発生も防止できる。
(イ)図3〜図5,図7に示す連通孔40は、前記第1,2部材間に設けた貫通空間Aから溶接用開先部とは反対側に延びて、他方側の外部空間に達するように、第1部材と第2部材とが当接する互いの面の少なくともいずれか一方に設けた溝41,42,44,45により形成されている。このため、第1、2部材が互いに当接する環状の面を機械加工する際、同時に溝加工により連通孔40を形成することができ、形成が容易である。
(ウ)図4に示す連通孔40は、前記第1部材と第2部材とが当接する互いの面に円周方向位置を合わせて夫々設けられた溝41,42により形成されている。このため、断面積の大きい連通孔40とする、即ち、連通孔40の通路面積を稼ぐことができ、設ける連通溝41,42の本数を少なくすることができる。
(エ)図5に示す連通孔40は、ビーム溶接部材の軸心回りに螺旋状に形成されている。このため、第1部材の内周面21(若しくは第2部材の円筒面11)の旋盤等による機械加工時に加工ツールを追い込みすることで、面加工と同時に形成することができる。
(オ)図6に示す第1実施例の連通孔40は、第1部材または第2部材の少なくとも一方の開先部14,24の一部分を半径方向に切り欠いて形成された溝43で構成され、環状の形成された開先部14,24の全周に対するビーム溶接の終了段階において、溶接金属30により閉じられる。このため、ビーム溶接が終了した段階では、前記溝43は高エネルギビームにより開先部14,24とフィラーワイヤとが溶融した溶接金属30により埋められることとなる。従って、溝43が開先部14,24に存在しても、ビーム溶接された部分の強度を低下させることがない。
(カ)図2に示す連通孔40は、第1部材若しくは第2部材を貫通させて形成した貫通孔により形成されている。このため、孔加工を追加するのみでよく、他の部位の孔加工と同時に加工してもよい。
(キ)少なくともデフリングギヤ2と、このデフリングギヤ2を支持しかつデフリングギヤ2と一体回転するデフケース3とを備えている差動装置1である。そして、第1部材がデフリングギヤ2であり、前記第2部材がデフケース3であるように構成して、貫通空間Aを前記効果(ア)〜(カ)のいずれかの連通孔40により外部空間に連通させた状態で前記両者をビーム溶接する。このことにより、デフリングギヤ2とデフケース3との接合部の占有スペースを小型化できる。したがって、差動装置1のハウジング内の他の構成部材に干渉するおそれがなく、動力伝達を確実に行うことができるようになる。しかも、ボルトのための占有スペースが不要となるので、ハウジング内の比較的狭い空間を効率よく使用することが可能となる。しかも、アンダーフィルや内部気孔・不整ビードのないビーム溶接により、デフリングギヤ2とデフケース3との接合強度(耐疲労強度および耐衝撃強度)を高めることができるので、デフリングギヤ2とデフケース3との接合部に繰り返しかかる荷重を確実に対応することができる。これによっても、差動装置1は動力伝達を確実に行うことができるようになる。
(第2実施形態)
図8〜図10は、本発明を適用したビーム溶接部材およびこれを備えた差動装置の第2実施形態の第1〜3実施例を夫々示すデフリングギヤとデフケースとのビーム溶接部の拡大断面図である。本実施形態においては、デフリングギヤとデフケースとの接合面が、一方と他方とで径方向に段差を持った2つの面を持つ場合及び同一径の一つの面を持つ場合の構成を第1実施形態に追加したものである。なお、第1実施形態と同一装置には同一符号を付してその説明を省略ないし簡略化する。
図8に示す第1実施例のビーム溶接部材の一例が適用された差動装置1は、デフリングギヤ2とデフケース3との接合面が、一方と他方とで径方向に段差を持った2つの面を持つ場合を示す。即ち、デフケース3においては、一方の面は円筒面11であり、他方の面はフランジ部12の外周面17となる。また、デフリングギヤ2においては、一方の面は内周面21であり、他方の面はフランジ部12の外周面に嵌合する第2の内周面27となる。そして、一方と他方との2つの面間に形成されるデフリングギヤ2の内端面28とデフケース3のフランジ部12の側面18とは互いに当接して、デフリングギヤ2のデフケース3に対する軸方向の位置決めを行うようにしている。
そして、小径に形成された一方の面(円筒面11及び内周面21)には、高エネルギビームを照射してビーム溶接する開先部14,24とその奥側において空間形成部15,25とが設けられている。また、大径に形成された他方の面を構成するフランジ部12の外周面17と第2内周面27とは互いに圧入嵌合するよう形成している。なお、前記開先部14,24は、デフケース3側とデフリングギヤ2側とが互いに接触する当接部14A,24Aとそれに連ねてテーパ状に切り欠き形成したテーパ部14B,24Bとより構成されている。また、大径に形成された他方の面を構成するデフリングギヤ2の第2内周面27の軸方向端には圧入嵌合を容易にするテーパ面を設けている。
そして、デフリングギヤ2の前記内端面28及び第2内周面27には、半径方向及び軸方向の連通溝45,46が夫々形成され、空間形成部15,25はこれら連通溝45,46により外部空間と連通可能としている。
従って、デフリングギヤ2とデフケース3とを径方向に段差を持った2つの面同士を嵌合させて組立てたビーム溶接前の状態では、開先部14,24の当接部14A,24A同士が接触される。そして、開先部14,24のテーパ部14B,24B同士は、奥側で狭まり、外側に向けて拡がるビーム溶接のための開先を形成する。また、奥側の空間形成部15,25は、溶接ビームを互いの開先部14,24を貫通させて受入れて、貫通溶接とするための貫通空間Aを形成する。この貫通空間Aは、デフリングギヤ2の前記内端面28及び第2内周面27に形成した半径方向及び軸方向の連通溝45,46により形成した連通孔40を介して外部空間に連通している。
このため、前記デフケース3とデフリングギヤ2の開先にフィラーワイヤを供給しながら、高エネルギビームを照射して、デフケース3及びデフリングギヤ2を軸心回りに回転させて、開先の全周に渡って順次ビーム溶接する。フィラーワイヤとデフケース3とデフリングギヤ2の開先とが高エネルギビームにより溶融されて開先部14,24に溶接金属30が形成され、デフケース3とデフリングギヤ2とが開先部14,24で溶接される。
そして、高エネルギビームの照射及び溶接熱により、貫通空間A内の空気は膨張するが、貫通空間Aは前記連通溝45,46を介して外部空間に連通しているため、膨張した気体は連通孔40を介して流れ出る。また、溶接後の冷却過程においては、貫通空間A内の気体の冷却に伴う収縮に応じて、外部空間から連通溝45,46を介して外気を導入する。このため、貫通空間A内の気体圧力は、溶接中は上昇されることがなく、また、溶接後においても、外気圧と同じに保持される。従って、貫通空間Aの内部の空気の圧力が上昇して溶融した溶接金属30を押し退けることを防止できる。
このため、貫通空間Aの内部の空気の圧力が上昇して溶融した溶接金属30を押し退ける、アンダーフィルや溶接の終盤において貫通空間A内部の気体が溶接ビードを外周側に押し退けて噴出して溶接ビードの表面側に不整ビードを生じることがない。即ち、溶接欠陥を発生することが防止できる。
図9に示すビーム溶接部材およびこれを備えた差動装置1の第2実施例においては、第1実施例とは逆に、小径の一方の面は互いに圧入嵌合する円筒面11及び内周面21により形成する。また、大径の他方の面は、互いに嵌合するフランジ部12の外周面17とデフリングギヤ2の第2内周面27とにより形成している。そして、大径の他方の面に、高エネルギビームを照射してビーム溶接する開先部14,24とその奥側において空間形成部15,25とを設けたものである。
そして、デフリングギヤ2の前記内端面28及び一方の面を構成する内周面21には、夫々半径方向及び軸方向の連通溝45,47が夫々形成され、空間形成部15,25はこれら連通溝45,47により外部空間と連通可能としている。その他の構成は、第1実施例と同様に形成している。
この構成においても、デフリングギヤ2とデフケース3とを径方向に段差を持った2つの面同士を嵌合させて組立てたビーム溶接前の状態では、開先部14,24の当接部14A,24A同士が接触される。そして、開先部14,24のテーパ部14B,24B同士は、奥側で狭まり、外側に向けて拡がるビーム溶接のための開先を形成する。また、奥側の空間形成部15,25は、溶接ビームを互いの開先部14,24を貫通させて受入れて、貫通溶接とするための貫通空間Aを形成する。この貫通空間Aは、デフリングギヤ2の前記内端面28及び内周面21に形成した半径方向及び軸方向の連通溝45,47により外部空間に連通している。
そして、前記デフケース3とデフリングギヤ2の開先にフィラーワイヤを供給しながら、高エネルギビームを照射し、デフケース3及びデフリングギヤ2を軸心回りに回転させて、開先の全周に渡って順次ビーム溶接する。フィラーワイヤとデフケース3とデフリングギヤ2の開先とが高エネルギビームにより溶融されて開先部14,24に溶接金属30が形成され、デフケース3とデフリングギヤ2とが開先部14,24で溶接される。
そして、高エネルギビームの照射及び溶接熱により、貫通空間A内の空気は膨張するが、貫通空間Aは前記連通溝45,47を介して外部空間に連通しているため、膨張した気体は連通孔40を介して流れ出る。また、溶接後の冷却過程においては、貫通空間A内の気体の冷却に伴う収縮に応じて、外部空間から連通溝45,47を介して外気を導入する。このため、貫通空間A内の気体圧力は、溶接中は上昇されることがなく、また、溶接後においても、外気圧と同じに保持される。従って、貫通空間Aの内部の空気の圧力が上昇して溶融した溶接金属30を押し退けることを防止できる。
このため、貫通空間Aの内部の空気の圧力が上昇して溶融した溶接金属30を押し退ける、アンダーフィルや溶接の終盤において貫通空間A内部の気体が溶接ビードを外周側に押し退けて噴出して溶接ビードの表面側に不整ビードを生じることがない。即ち、溶接欠陥を発生することが防止できる。
図10に示すビーム溶接部材およびこれを備えた差動装置1の第3実施例においては、デフリングギヤ2とデフケース3との接合面が、同一径の一つの面(円筒面及び内周面)を持つ場合を示す。そして、接合面の軸方向の一方側(第1円筒面11及び第1内周面21)には、高エネルギビームを照射してビーム溶接する開先部14,24とその奥側において空間形成部15,25とを設け、接合面の軸方向の他方側(第2円筒面19及び第2内周面29)は互いに圧入嵌合させて形成している。なお、前記開先部14,24は、デフケース3側とデフリング側とが互いに接触する当接部14A,24Aとそれに連ねてテーパ状に切り欠き形成したテーパ部14B,24Bとより構成されている。なお、デフリングギヤ2の第2内周面29の開先部24とは反対側の端面には、デフケース3の円筒面19への圧入嵌合を容易にするテーパ面を形成してもよい。
そして、軸方向の他方の接合面を構成するデフリングギヤ2の第2内周面29には、軸方向に延びる連通溝48を形成している。軸方向の他方の接合面を構成するデフケース3の第2円筒面19にも、軸方向に延びる連通溝を形成してもよい。
従って、デフリングギヤ2とデフケース3とを圧入嵌合させて組立てたビーム溶接前の状態では、開先部14,24の当接部14A,24A同士が接触される。そして、開先部14,24のテーパ部14B,24B同士は、奥側で狭まり、外側に向けて拡がるビーム溶接のための開先を形成する。また、奥側の空間形成部15,25は、溶接ビームを互いの開先部14,24を貫通させて受入れて、貫通溶接とするための貫通空間Aを形成する。この貫通空間Aは、前記連通溝48で形成した連通孔40により外部空間に連通している。
このため、前記デフケース3とデフリングギヤ2の開先にフィラーワイヤを供給しながら、高エネルギビームを照射し、デフケース3及びデフリングギヤ2を軸心回りに回転させて、開先の全周に渡って順次ビーム溶接する。フィラーワイヤとデフケース3とデフリングギヤ2の開先とが高エネルギビームにより溶融されて開先部14,24に溶接金属30が形成され、デフケース3とデフリングギヤ2とが開先部14,24で溶接される。
そして、高エネルギビームの照射及び溶接熱により、貫通空間A内の空気は膨張するが、貫通空間Aは連通溝48を介して外部空間に連通しているため、膨張した気体は連通孔40を介して流れ出る。また、溶接後の冷却過程においては、貫通空間A内の気体の冷却に伴う収縮に応じて、外部空間から連通溝48を介して外気を導入する。このため、貫通空間A内の気体圧力は、溶接中は上昇されることがなく、また、溶接後においても、外気圧と同じに保持される。従って、貫通空間Aの内部の空気の圧力が上昇して溶融した溶接金属30を押し退けることを防止できる。
このため、貫通空間Aの内部の空気の圧力が上昇して溶融した溶接金属30を押し退ける、アンダーフィルや溶接の終盤において貫通空間A内部の気体が溶接ビードを外周側に押し退けて噴出して溶接ビードの表面側に不整ビードを生じることがない。即ち、溶接欠陥を発生することが防止できる。
本実施形態においては、第1実施形態における効果(ア)〜(エ)、(キ)に加えて以下に記載した効果を奏することができる。
(ク)ビーム溶接部材は、貫通空間Aの開先部14,24とは反対側において、第1部材としての例えばデフリングギヤ2は第2部材としての例えばデフケース3の外周面11,17,19に、第2内周面21,27,29を介して圧入嵌合させて支持されている。このため、両者の結合強度を向上させることができる。
(ケ)図10に示すビーム溶接部材は、貫通空間Aを挟んで第1,2円筒面11,19及び第1,2内周面21,29が同一径に構成されているため、構造が簡単であり、低コストで提供することができる。