以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、全図を通じて同一の構成については同一の符号を付し、重複説明を省略する。
<第1実施形態>
図1〜図3に基づいて、第1実施形態に係る鉱山用ダンプトラックの構成について説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る鉱山用ダンプトラックの側面図である。図2は、図1に示す鉱山用ダンプトラックのキャブ内を示す説明図である。図3は、図1に示す鉱山用ダンプトラックの全体構成図である。
図1に示すように、本実施形態に係る鉱山用ダンプトラック(以下「ダンプトラック」と略記する)100は、車体フレーム60、一対の前輪7,8、一対の後輪3,6、及び荷台61を備えている。一対の前輪7,8は、車体フレーム60の前部の左右両端に回転可能に取り付けられている。一対の後輪3,6は、車体フレーム60の後部の左右両端に回転可能に取り付けられている。さらに、荷台61は、土砂や砕石等の運搬対象物を積載する部分であって、車体フレーム60に起伏可能に取り付けられている。
また、車体フレーム60の左側の前輪7の上方には、オペレータが乗車する運転室であるキャブ62が設けられる。更に車体フレーム60の前部には、図示を省略するものの、エンジンや油圧機器等が収容されたパワーユニットが設けられている。
図2に示すように、キャブ62内には、オペレータが着座する座席90が備えられ、これに着座したオペレータの前方にステアリングハンドル91が備えられる。ステアリングハンドル91の根元のオペレータから見て右側には、通常ブレーキペダル92、及びアクセルペダル93が配置される。また、ステアリングハンドル91の根元のオペレータから見て左側には、緊急ブレーキペダル94が備えられる。
通常ブレーキペダル92は、通常制動時に使用され、本発明の「通常ブレーキ装置」を構成する要素である。この通常ブレーキペダル92を使用した通常ブレーキ動作では、主に電気ブレーキにより車両が減速し、停止直前に機械ブレーキ24,25,26,27(図3参照)と協働して車両を停止する。
即ち、オペレータが、通常ブレーキペダル92を踏むと、後述する電動機1、4(図3参照)を発電機として機能させ、回生した電気を電力消費装置(リターダ)56(図3参照)で消費してブレーキ動作を行い、減速する。そして、停止直前の速度、例えば、0.5km/h以下で機械ブレーキも作動してダンプトラック100が停止する。
緊急ブレーキペダル94は、緊急制動時に使用され、本発明の「緊急ブレーキ装置」を構成する要素である。この緊急ブレーキペダル94を使用した緊急ブレーキ動作では、ブレーキディスクを含む機械ブレーキ24,25,26,27(図3参照)と、電気ブレーキとを同時に作動させて車両を減速・停止させる。
即ち、オペレータが緊急ブレーキペダル94を踏むと、電気ブレーキ及び機械ブレーキが同時にフル作動する。これにより、通常ブレーキよりもより大きな制動力により車速を減速し、より短時間で車体を停止させることができる。
通常ブレーキペダル92を踏んで作動させる通常ブレーキ装置の制動力と、緊急ブレーキペダル94を踏んで作動させる緊急ブレーキ装置の制動力とは、同一環境下で作動させた場合に、緊急ブレーキ装置の制動力の方が、通常ブレーキ装置の制動力よりも大きい。
なお、本実施形態では、通常ブレーキペダル92と緊急ブレーキペダル94とを別体に構成したが、これらを一つのブレーキペダルにより構成し、踏み込み量が閾値未満であれば通常ブレーキを、閾値以上であれば緊急ブレーキを作動させるように構成してもよい。
ステアリングハンドル91の前方には、計器類や、ダンプトラック100の周囲を撮影した画像を表示するカメラモニタなどを含むフロントパネル95が備えられる。
次に、ダンプトラック100の全体構成を説明する。図3に示すように、ダンプトラック100は、電動機1がギア2を介して後輪3を駆動し、電動機4がギア5を介して後輪6を駆動することで前進または後進する。即ち、本実施形態では、後輪3,6が駆動輪であり、前輪7,8は従動輪である。
また、図示は省略しているが、ダンプトラック100は、動力源としてのエンジンと、エンジンの動力を電気エネルギーに変換する発電機と、を搭載する。そして、発電された電力が電力変換器13に供給される。電動機1及び電動機4は電動機制御器29によって制御され、電力変換器13は電動機1と電動機4を駆動する。電流検出器14は電力変換器13と電動機1の間に接続されており、それらの間に流れる電流を検出する。電流検出器15は電力変換器13と電動機4の間に接続されており、それらの間に流れる電流を検出する。そして、電流検出器14,15で検出された電流値はトルク制御器16に出力される。
速度検出器9は電動機1に接続されており、電動機1の回転速度を検出する。速度検出器10は電動機4に接続されており、電動機4の回転速度を検出する。速度検出器11は前輪7の軸に接続されており、前輪7の回転速度を検出する。速度検出器12は前輪8の軸に接続されており、前輪8の回転速度を検出する。そして、速度検出器9,10,11,12で検出された回転速度値は衝突可能性判定器30に出力される。また、速度検出器9,10で検出された回転速度値はトルク制御器16にも出力される。
アクセル開度検出器19は、オペレータのアクセル操作に応じたアクセルペダル93の開度を検出し、ブレーキ開度検出器20はオペレータの通常ブレーキ操作に応じた通常ブレーキペダル92の開度を検出し、ステアリング角度検出器21はオペレータのステアリング操作に応じたステアリングハンドル91の角度を検出する。そして、各検出値はトルク指令演算器17に出力される。
緊急ブレーキ操作検出器22は、緊急ブレーキペダルの操作を検出し、緊急ブレーキ操作検出値を緊急ブレーキ制御器23に出力する。緊急ブレーキ制御器23は緊急ブレーキ操作検出器22の出力する緊急ブレーキ操作検出値の入力をトリガとして、その入力された緊急ブレーキ操作検出値をトルク指令演算器17に出力すると共に、各機械ブレーキ24,25,26,27へ動作指令を出力する。また、緊急ブレーキ操作検出器22の検出値は、緊急ブレーキ制御器23を介して衝突可能性判定器30にも出力される。
トルク指令演算器17は、アクセル開度検出器19の出力するアクセル開度検出値、ブレーキ開度検出器20の出力するブレーキ開度検出値、ステアリング角度検出器21の出力するステアリング角度検出値を入力として、電動機1へのトルク指令及び電動機4へのトルク指令を演算し、それらのトルク指令をトルク制御器16に出力する。
ここで、緊急ブレーキ操作検出器22が緊急ブレーキ操作検出値を出力した場合は、トルク指令演算器17は、アクセル開度検出器19の出力するアクセル開度検出値及びブレーキ開度検出器20の出力するブレーキ開度検出値に関係なく、フルに通常ブレーキペダル92を踏み込んだ時と同じトルク低減指令をトルク制御器16に出力する。
トルク制御器16は、トルク指令演算器17の出力する電動機1へのトルク指令、電流検出器14の出力する電流検出値、及び速度検出器9の出力する回転速度検出値から、電動機1の出力するトルクが電動機1へのトルク指令に従うように、PWM(Pulse Width Modulation)制御により電力変換器13へゲートパルス信号を出力する。
また同様に、トルク制御器16は、トルク指令演算器17の出力する電動機4へのトルク指令、電流検出器15の出力する電流検出値、及び速度検出器10の出力する回転速度検出値から、電動機4の出力するトルクが電動機4へのトルク指令に従うように、PWM制御により電力変換器13へゲートパルス信号を出力する。
電力変換器13は、これらのゲートパルス信号を受け、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等のスイッチング素子が高速にスイッチングを行うことで、高応答なトルク制御を実現する。
電力消費装置56は、車両が減速する時に電動機1及び電動機4が回生する電力を消費する機能を有する。
衝突可能性判定器(衝突可能性判定部)30は、ミリ波センサやイメージングセンサ等の障害物検出センサ(障害物検出装置)28からの入力を受け付け、詳しくは後述する危険度を判定し、ブレーキ制御部33にブレーキ介入指令を出力する。ブレーキ制御部33において、符号31は通常ブレーキの作動を制御する通常ブレーキ作動部、符号32は緊急ブレーキの作動を制御する緊急ブレーキ作動部である。
なお、上記衝突可能性判定器30、トルク指令演算器17、及び緊急ブレーキ制御器23は、特定の用途向け集積回路(ASIC:Application Specific Integrated Circuit)の他、MPU(Micro-Processing Unit)、CPU(Central Processing Unit)などのハードウェアに衝突可能性判定器30、トルク指令演算器17、及び緊急ブレーキ制御器23のそれぞれの機能を実現するためのソフトウェアを実行させて形成してもよい。また、図3では、衝突可能性判定器30、トルク指令演算器17、及び緊急ブレーキ制御器23を別部材として図示しているが、MPUやCPU、記憶装置、及び出入力装置を含む一つの制御装置に、各機能を実現するためのソフトウェアを実行させて構成してもよい。
次に衝突可能性判定器30の詳細について説明する。図4は、衝突可能性判定器30の詳細を示すブロック図である。図4に示すように、障害物情報認識部54は、障害物検出センサ28から出力される情報を入力として、障害物の位置及び障害物と自車両との相対速度をTTC演算部(衝突予測時間演算部)55に出力する。TTC演算部55は、障害物の位置情報及び障害物と自車両との相対速度情報を入力として、TTC(Time To Collision:衝突予測時間)を演算する。そして、演算したTTCは危険度判定部73に出力する。ここで、TTCは、自車両と障害物間の距離Xr、相対速度Vrから次式で表わされる。
通常衝突回避判定部71は、速度検出器9,10,11,12から出力される車輪速情報、障害物情報認識部54から出力される相対速度、及び通常ブレーキ動作による通常ブレーキ制動力80を入力として、所定の相対速度V1で走行している時に通常ブレーキを用いた場合に、自車両が障害物との衝突を回避できるか否かを判定するための基準となる第1の制動回避限界閾値t1(秒)を演算し、その演算結果を危険度判定部73に出力する。この第1の制動回避限界閾値t1は、危険度判定部73において、通常ブレーキを用いた場合にダンプトラック100が障害物との衝突を避けることのできる限界時間として設定される。
また、緊急衝突回避判定部72は、速度検出器9,10,11,12から出力される車輪速情報、障害物情報認識部54から出力される相対速度、及び緊急ブレーキ動作による緊急ブレーキ制動力81を入力として、所定の相対速度V1で走行している時に緊急ブレーキを用いた場合に、自車両が障害物との衝突を回避できるか否かを判定するための基準となる第2の制動回避限界閾値t2(秒)を演算し、その演算結果を危険度判定部73に出力する。この第2の制動回避限界閾値t2は、危険度判定部73において、緊急ブレーキを用いた場合にダンプトラック100が障害物との衝突を避けることのできる限界時間として設定される。
危険度判定部73では、制動回避限界閾値t1、t2を入力として、衝突を回避するためにブレーキ制動が必要であるか否かを判定すると共に、ブレーキ制動が必要であると判定した場合に通常ブレーキと緊急ブレーキのどちらのブレーキを作動させるかを決定する。
第1の制動回避限界閾値(第1閾値)t1の決め方について述べる。相対速度を簡略化するために前方の障害物が静止物である場合を考える。障害物との距離をX1、自車両の速度(障害物との相対速度)をV1とすると、TTCはX1/V1となる。速度が同じと仮定すると、距離X1が増加するにつれてTTCは大きくなる。ここで、自車両が速度V1で走行している時に通常ブレーキを作動させた場合の自車両の停止距離と停止時間は算出可能である。
この場合の停止距離をX1’、停止時間をt1とすると、通常ブレーキを行った場合、車両が停止するのに時間t1を要し、その間に車両が距離X1’だけ進むことになる。ここで、距離X1と距離X1’とが等しい場合、時間t1未満では、たとえ通常ブレーキを作動させても自車両が障害物と衝突するのを回避できない。即ち、この時間t1が、通常ブレーキを用いた場合において自車両が障害物と衝突するか否かを判定するための基準となる第1の制動回避限界閾値である。
次に、第2の制動回避限界閾値(第2閾値)t2の決め方について述べる。相対速度を簡略化するために前方の障害物が静止物である場合を考える。障害物との距離をX2、自車両の速度(障害物との相対速度)をV2とすると、TTCはX2/V2となる。速度が同じと仮定すると、距離X2が増加するにつれてTTCは大きくなる。ここで、自車両が速度V2で走行している時に緊急ブレーキを作動させた場合の自車両の停止距離と停止時間は算出可能である。
この場合の停止距離をX2’、停止時間をt2とすると、緊急ブレーキを行った場合、車両が停止するのに時間t2を要し、その間に車両が距離X2’だけ進むことになる。ここで、距離X2と距離X2’とが等しい場合、時間t2未満では、たとえ緊急ブレーキを作動させても自車両が障害物と衝突するのを回避できない。即ち、この時間t2が、緊急ブレーキを用いた場合において自車両が障害物と衝突するか否かを判定するための基準となる第2の制動回避限界閾値である。
図5に第1実施形態における危険度判定部73の判定方法の模式図を示す。通常ブレーキはモータ駆動による電気ブレーキであり、速度に応じて出力可能な制動力はモータの制動特性で決まるため、速度毎の通常ブレーキによる制動限界ラインが分かる。また、緊急ブレーキは電気ブレーキと機械ブレーキとの協働によるブレーキであり、機械ブレーキの制動力についてもカタログ等で分かるため、速度毎の緊急ブレーキによる制動限界ラインがわかる。したがって、図5において、TTCが通常ブレーキによる制動限界ラインよりも大きい領域(すなわち通常ブレーキを作動させることで衝突を回避できる領域)が領域(1)、TTCが緊急ブレーキによる制動回避ラインよりも大きく、通常ブレーキによる制動限界ラインよりも小さい領域(すなわち緊急ブレーキを作動させることで衝突を回避できる領域)が領域(2)、TTCが緊急ブレーキによる制動限界ラインよりも小さい領域(すなわち衝突を回避できない領域)が領域(3)である。
次に、危険度判定部73が行う処理について、図6を用いて説明する。図6は、第1実施形態における危険度判定部73の処理手順を示すフローチャートである。危険度判定部73は、図6に示す処理を周期的(例えば500ミリ秒毎)に実行している。なお、図6に示す危険度判定部73の処理は、ダンプトラック100が障害物に対して相対速度V1で走行している場合を想定している。
図6に示すように、危険度判定部73は、TTC演算部55が演算したTTC、通常衝突回避判定部71が演算した第1の制動回避限界閾値t1、及び緊急衝突回避判定部72が演算した第2の制動回避限界閾値t2を入力として、ステップS101において、危険度判定を行う。即ち、危険度判定部73は、TTCが上記領域(1)〜(3)の何れに属するかを判定する(S101)。
TTCが領域(1)に属する場合(S102/Yes)、危険度判定部73は、TTCと閾値t1とを比較し(S103)、TTCが閾値t1より大であれば(S104/Yes)、通常ブレーキを作動させなくても衝突の危険性が低いため、処理は終了する。一方、TTCが閾値t1と等しい場合(S104/No)、危険度判定部73は、ダンプトラック100がこのまま走行すると障害物と衝突する危険性が高い状況(第1危険度)であるとみなして、通常ブレーキを自動的に作動させるための指令(通常ブレーキ自動介入指令)をブレーキ制御部33の通常ブレーキ作動部31に出力する(S105)。
また、TTCが領域(1)に属さないとの判定がなされた場合(S102/No)、ステップS106に進む。TTCが領域(2)に属すると判定された場合(S106/Yes)、危険度判定部73は、TTCと閾値t2とを比較し(S107)、TTCが閾値t2より大(即ち、t2<TTC<t1)であれば(S108/Yes)、緊急ブレーキを作動させればいつでも衝突を回避できるため、この時点では緊急ブレーキを作動させる処理を行わずに処理は終了する。一方、TTCが閾値t2と等しい場合(S108/No)、危険度判定部73は、ダンプトラック100がこのまま走行すると障害物と衝突する危険性が高い状況(第2危険度)であるとみなして、緊急ブレーキを自動的に作動させるための指令(緊急ブレーキ自動介入指令)をブレーキ制御部33の緊急ブレーキ作動部32に出力する(S109)。
なお、ステップS106でNoの場合(即ち、TTC<t2の場合)は、TTCが領域(3)に属することになり、緊急ブレーキを作動しても衝突を回避できない状況にある。よって、ステップS106でNoの場合は、危険度判定部73は、直ちにステップS109に進んで緊急ブレーキ自動介入指令をブレーキ制御部33の緊急ブレーキ作動部32に出力する。
以上のような構成にすることにより、通常ブレーキと緊急ブレーキの2種類の異なるブレーキを有する車両に対して、衝突を回避するために、適切なタイミングに適切なブレーキを用いて自動的にダンプトラック100を制動することができる。また、不要なタイミングでの機械ブレーキによるブレーキをなくすことで、タイヤや機械ブレーキのディスクの磨耗を抑制し、部品の交換頻度を下げることができる。
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について述べる。図7は、第2実施形態に係るダンプトラック200の全体構成図である。図7に示すように、第2実施形態に係るダンプトラック200では、通常ブレーキペダル92を操作するようオペレータに報知するためのスピーカ(第1報知部)131、及び緊急ブレーキペダル94を操作するようオペレータに報知するための警告灯(第2報知部)132を備えている点に特徴がある。なお、図示しないが、スピーカ131はフロントパネル95(図2参照)の右側に、警告灯132はフロントパネル95の左側に、それぞれ設けられている。
本実施形態では、通常ブレーキペダル92の操作は音声情報を用いて報知し、緊急ブレーキペダル94の操作は、視覚情報を用いて報知するが、第1報知部及び第2報知部の報知態様はこれに限定されない。第2報知部が緊急ブレーキペダル94の操作を促す状況では、衝突回避までの時間が短い(緊急度が高い)ので、第1報知部の報知態様よりも緊急性が高い報知態様を用いることが好ましい。例えば、第1報知部及び第2報知部を共に音声情報を用いて報知する場合には、第1報知部の音量よりも及び第2報知部の音量を大きくする。また、第2報知部は、警告灯による視覚情報と音声情報とを併用して報知してもよい。さらに、第1報知部及び第2報知部のそれぞれから出力される音声情報の周波数を変えてもよい。さらに、第2報知部は、座席90に備えた振動装置として構成し、オペレータに振動を用いて緊急ブレーキの操作を促してもよい。
図8は第2実施形態に係る衝突可能性判定器30Aの詳細を示す図であり、図9は第2実施形態における危険度の判定方法を説明するための図である。図8に示すように、通常衝突回避判定部71では、第1実施形態で述べた第1の制動回避限界閾値t1の演算手段に加えて、通常ブレーキを行うようにオペレータに促す第1の警報閾値t1’を演算するための手段を更に有している。第1の警報閾値t1’は、第1の制動回避限界閾値t1にマージン(例えば1〜3秒程度)を付けた値とすることで、スピーカ131から警報が鳴ってから1〜3秒間は通常ブレーキペダル92の操作のみで障害物との衝突を回避できる(図9の通常ブレーキ報知ライン)。
ここで、マージンとは障害物検出センサ28が障害物の位置とダンプトラック200の速度(障害物とダンプトラック200との相対速度)を検出するためのフィルタリング処理にかかる時間やオペレータが警報を受けてから回避動作をするまでにかかる空走時間や警報が鳴ってもすぐには気付かない場合を想定した空走時間を示している。
緊急衝突回避判定部72では、第1実施形態で述べた第2の制動回避限界閾値t2の演算手段に加えて、緊急ブレーキを行うようにオペレータに促す第2の警報閾値t2’を演算するための手段を更に有している。第2の警報閾値t2’は第2の制動回避限界閾値t2に、上記と同様のマージン(例えば1〜3秒程度)を付けた値とすることで、警告灯132が点灯してから1〜3秒間は緊急ブレーキペダル94を操作することで障害物との衝突を回避できる(図9の緊急ブレーキ報知ライン)。
次に、第2実施形態における危険度判定部73が行う処理について、図10を用いて説明する。図10は、第2実施形態における危険度判定部73の処理手順を示すフローチャートである。危険度判定部73は、図10に示す処理を周期的(例えば500ミリ秒毎)に実行している。なお、図10に示す危険度判定部73の処理は、ダンプトラック200が障害物に対して相対速度V1で走行している場合を想定している。
図10に示すように、危険度判定部73は、TTC演算部55が演算したTTC、通常衝突回避判定部71が演算した第1の制動回避限界閾値t1及び第1の警報閾値t1’と、緊急衝突回避判定部72が演算した第2の制動回避限界閾値t2及び第2の警報閾値t2’とを入力として、ステップS201において、危険度判定を行う。即ち、危険度判定部73は、TTCが図9に示す領域(1)〜(3)の何れに属するかを判定する(S201)。
TTCが領域(1)に属する場合(S202/Yes)、危険度判定部73は、TTCと警報閾値t1’とを比較し(S203)、TTCが警報閾値t1’より大であれば(S204/Yes)、通常ブレーキを作動させなくても衝突の危険性が低いため、処理は終了する。
一方、TTCが警報閾値t1’以下の場合(S204/No)、危険度判定部73は、TTCと閾値t1とを比較し(S205)、TTCが閾値t1より大きい場合、即ち、TTCが閾値t1より大きく、かつ警報閾値t1’以下の場合(S206/Yes)、ダンプトラック200がこのまま走行すると障害物と衝突する可能性が高いため、オペレータに通常ブレーキを促すために通常警報指令(第1報知指令)をスピーカ131に対して出力する(S207)。オペレータは警報を聞いて通常ブレーキペダル92を踏むことにより、手動で衝突を回避できる。
一方、ステップS206でYesの場合、即ち、TTCが閾値t1と等しい場合、危険度判定部73は、ダンプトラック200がこのまま走行すると障害物と衝突する危険性が高い状況(第1危険度)であるとみなして、通常ブレーキを自動的に作動させるための指令(通常ブレーキ自動介入指令)をブレーキ制御部33の通常ブレーキ作動部31に出力する(S208)。
また、TTCが領域(1)に属さないとの判定がなされた場合(S202/No)、ステップS209に進む。TTCが領域(2)に属すると判定された場合(S209/Yes)、危険度判定部73は、TTCと警報閾値t2’とを比較し(S210)、TTCが警報閾値t2’より大であれば(S211/Yes)、緊急ブレーキを作動させればいつでも衝突を回避できるため、この時点では緊急ブレーキを作動させる処理を行わずに処理は終了する。
一方、TTCが警報閾値t2’以下の場合(S211/No)、危険度判定部73は、TTCと閾値t2とを比較し(S212)、TTCが閾値t2より大きい場合、即ち、TTCが閾値t2より大きく、かつ警報閾値t2’以下の場合(S213/Yes)、ダンプトラック200がこのまま走行すると障害物と衝突する可能性が高いため、オペレータに緊急ブレーキを促すために緊急警報指令(第2報知指令)を警告灯132に対して出力する(S207)。オペレータは警告灯の点灯を見て緊急ブレーキペダル94を踏むことにより、手動で衝突を回避できる。
一方、ステップS213でNoの場合、即ち、TTCが閾値t2と等しい場合、危険度判定部73は、ダンプトラック200がこのまま走行すると障害物と衝突する危険性が高い状況(第2危険度)であるとみなして、緊急ブレーキを自動的に作動させるための指令(緊急ブレーキ自動介入指令)をブレーキ制御部33の緊急ブレーキ作動部32に出力する(S215)。
なお、ステップS209でNoの場合(即ち、TTC<t2の場合)は、TTCが領域(3)に属することになり、緊急ブレーキを作動しても衝突を回避できない状況にある。よって、ステップS209でNoの場合は、危険度判定部73は、直ちにステップS215に進んで緊急ブレーキ自動介入指令をブレーキ制御部33の緊急ブレーキ作動部32に出力する。
以上のような構成にすることにより、通常ブレーキと緊急ブレーキの2種類の異なるブレーキを有する車両に対して、衝突を回避するために、適切なタイミングに適切なブレーキを用いて自動的にダンプトラック200を制動することができる。警報を更に加えることで、自動的に通常ブレーキあるいは緊急ブレーキを作動させる前に、オペレータにブレーキ操作を行うよう促すことができる。よって、オペレータの技量を生かしてダンプトラック200を制動することができる。また、不要なタイミングでの機械ブレーキによるブレーキをなくすことで、タイヤや機械ブレーキのディスクの磨耗を抑制し、部品の交換頻度を下げることができる。
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態について述べる。図11は、第3実施形態に係るダンプトラック300の全体構成図である。図11に示すように、第3実施形態に係るダンプトラック300では、オペレータに操舵により障害物との衝突を回避する旨を報知するためのブザー(第3報知部)140を備えている点に特徴がある。なお、図示しないが、ブザー140はフロントパネル95(図2参照)の左側に設けられている。
図12は第3実施形態に係る衝突可能性判定器30Bの詳細を示す図であり、図13は第3実施形態における危険度の判定方法を説明するための図である。図12に示すように、通常衝突回避判定部71及び緊急衝突回避判定部72では、第1実施形態で述べた制動回避限界閾値t1及びt2の演算手段に加えて、操舵回避限界閾値tst(秒)を設定する手段を備えている。操舵回避限界閾値tstはオペレータが操舵により衝突を回避できる最小時間のことであり、車両の大きさに応じて所定のパラメータが用いられる。
図13に示すように、相対速度の大きさに応じて操舵回避限界閾値tstと制動回避限界閾値t1、t2との大小関係に差が出る。これは相対速度が大きい時(V1)にはブレーキをかけてから停止するまで時間がかかる(t1、t2の値が大きくなる)ため、これらの大小関係はtst<t2<t1となる(図13(a)参照)。
相対速度が小さくなり、相対速度がV2(<V1)になると、大小関係はt2<tst<t1となる(図13(b)参照)。この状態においては、通常ブレーキによる回避ができない領域であっても操舵を行うことで緊急ブレーキを作動させなくても衝突を回避できるフェーズが存在する。このフェーズは、t2<tst<TTCの範囲で存在する。
更に相対速度が小さくなり、相対速度がV3(<V2)になると、大小関係はt2<t1<tstとなる(図13(c)参照)。この状態においては、緊急ブレーキだけでなく、通常ブレーキを作動させる前に操舵を行うことで通常ブレーキを作動させなくても衝突を回避できるフェーズが存在する。
次に、第3実施形態における危険度判定部73が行う処理について、図14を用いて説明する。図14は、第3実施形態における危険度判定部73の処理手順を示すフローチャートである。危険度判定部73は、図14に示す処理を周期的(例えば500ミリ秒毎)に実行している。
図14に示すように、危険度判定部73は、TTC演算部55が演算したTTC、通常衝突回避判定部71が演算した第1の制動回避限界閾値t1、緊急衝突回避判定部72が演算した第2の制動回避限界閾値t2、及び設定された操舵回避限界閾値tstを入力として、ステップS301において、危険度判定を行う。即ち、危険度判定部73は、TTCが図13に示す領域(1)〜(3)の何れに属するかを判定する(S301)。
TTCが領域(1)に属する場合(S302/Yes)、危険度判定部73は、TTCと操舵閾値tstとを比較し(S303)、TTCが操舵閾値tstより大であれば(S304/Yes)、通常ブレーキを作動させなくても操舵により衝突を回避できるため、操舵報知指令(第3報知指令)をブザー140に出力する(S308)。オペレータは、ブザー140が鳴っているのを聞いて、ステアリングハンドル91を操作すれば、通常ブレーキを操作しなくても衝突を回避できる。
なお、ダンプトラック300が相対速度V3で走行している場合、TTCの値によってはステップS304でYesとなり、操舵報知指令が出力される場合がある。
一方、TTCが操舵閾値tst以下の場合(S304/No)、危険度判定部73は、TTCと閾値t1とを比較し(S305)、TTCが閾値t1より大きい場合(S306/Yes)、通常ブレーキを作動させなくても衝突の危険性が低いため、処理は終了する。
一方、ステップS306でYesの場合、即ち、TTCが閾値t1と等しい場合、危険度判定部73は、ダンプトラック300がこのまま走行すると障害物と衝突する危険性が高い状況(第1危険度)であるとみなして、通常ブレーキを自動的に作動させるための指令(通常ブレーキ自動介入指令)をブレーキ制御部33の通常ブレーキ作動部31に出力する(S307)。
また、TTCが領域(1)に属さないとの判定がなされた場合(S302/No)、ステップS309に進む。TTCが領域(2)に属する場合(S309/Yes)、危険度判定部73は、TTCと操舵閾値tstとを比較し(S310)、TTCが操舵閾値tstより大であれば(S311/Yes)、緊急ブレーキを作動させなくても操舵により衝突を回避できるため、操舵報知指令をブザー140に出力する(S308)。オペレータは、ブザー140が鳴っているのを聞いて、ステアリングハンドル91による操舵を行えば、緊急ブレーキを操作しなくても衝突を回避できる(この状況では通常ブレーキの操作は必要となる)。
なお、ダンプトラック300が相対速度V2で走行している場合、TTCの値によってはステップS311でYesとなり、操舵報知指令が出力される場合がある。
一方、TTCが操舵閾値tst以下の場合(S311/No)、危険度判定部73は、TTCと閾値t2とを比較し(S312)、TTCが閾値t2より大きい場合(S313/Yes)、緊急ブレーキを作動させればいつでも衝突を回避できるため、この時点では緊急ブレーキを作動させる処理を行わずに処理は終了する。
一方、ステップS313でYesの場合、即ち、TTCが閾値t2と等しい場合、危険度判定部73は、ダンプトラック300がこのまま走行すると障害物と衝突する危険性が高い状況(第2危険度)であるとみなして、緊急ブレーキを自動的に作動させるための指令(緊急ブレーキ自動介入指令)をブレーキ制御部33の緊急ブレーキ作動部32に出力する(S314)。
なお、ステップS309でNoの場合(即ち、TTC<t2の場合)は、TTCが領域(3)に属することになり、緊急ブレーキを作動しても衝突を回避できない状況にある。よって、ステップS309でNoの場合は、危険度判定部73は、直ちにステップS314に進んで緊急ブレーキ自動介入指令をブレーキ制御部33の緊急ブレーキ作動部32に出力する。
以上のような構成にすることにより、通常ブレーキと緊急ブレーキの2種類の異なるブレーキを有する車両に対して、衝突を回避するために、適切なタイミングに適切なブレーキを用いて自動的にダンプトラック300を制動することができる。また、ステアリングハンドル91を操作して衝突を回避することのできる限界を考慮して、緊急ブレーキを作動させなくても操舵による回避が可能な場合は操舵を促す報知を行うことにより、機械ブレーキの使用頻度を低くすることができる。よって、タイヤや機械ブレーキのディスクの磨耗を抑制し、部品の交換頻度を下げることができる。
なお、TTCが閾値t1より大きい場合には、障害物と衝突する可能性は低い。そのため、TTCが領域(1)に属する場合には、図14におけるステップS303及びS304の処理は省略しても良い。即ち、通常ブレーキを作動すれば衝突を回避できる場合には、ステアリングハンドル91による操舵を促す報知をしなくても良い。
<第4実施形態>
次に、本発明の第4実施形態について述べる。図15は、第4実施形態に係るダンプトラック400の全体構成図である。図15に示すように、第4実施形態に係るダンプトラック400では、通常ブレーキペダル92を操作するようオペレータに報知するためのスピーカ(第1報知部)131、緊急ブレーキペダル94を操作するようオペレータに報知するための警告灯(第2報知部)132、及びオペレータに操舵により障害物との衝突を回避する旨を報知するためのブザー(第3報知部)140を備えている点に特徴がある。即ち、第2実施形態と第3実施形態を組み合わせたものが本発明の第4実施形態に係るダンプトラック400である。なお、図示しないが、スピーカ131はフロントパネル95(図2参照)の右側に、警告灯132及びブザー140はフロントパネル95の左側に、それぞれ設けられている。
図16は第4実施形態に係る衝突可能性判定器30Cの詳細を示す図であり、図17〜図19は第4実施形態における危険度の判定方法を説明するための図である。図16に示すように、通常衝突回避判定部71は、第1の制動回避限界閾値t1及び第1の警報閾値t1’を演算するための手段と、操舵回避限界閾値tst(秒)を設定する手段とを有している。また、緊急衝突回避判定部72は、第2の制動回避限界閾値t2及び第2の警報閾値t2’を演算するための手段と、操舵回避限界閾値tst(秒)を設定する手段とを有している。
図17〜図19に示すように、相対速度の大きさに応じて操舵回避限界閾値tstと制動回避限界閾値t2と警報閾値t2’との大小関係に差が出る。これは相対速度が大きい時(V1)にはブレーキをかけてから停止するまで時間がかかる(t2、t2’の値が大きくなる)ため、これらの大小関係はtst<t2<t2’となる(図17参照)。
相対速度が小さくなり、相対速度がV2(<V1)になると、大小関係はt2<tst<t2’となる(図18参照)。この状態においては、通常ブレーキによる回避ができない領域であっても操舵を行うことで緊急ブレーキを作動させなくても衝突を回避できるフェーズが存在する。このフェーズは、t2<tst<TTCの範囲で存在する。
ここで、tst<TTC<t2’の状態では、操舵回避限界閾値を無視すればTTC<t2’となったときに緊急ブレーキを促す警報を鳴らす(警告灯132を点灯させる)ようにすれば良い。しかし、これは操舵により衝突回避できる可能性をなくすことになるため、本実施形態ではまず操舵を促す旨の報知を行う。その後、t2<TTC<tstの状態になると操舵による回避は不可能になるので、TTCと警報閾値t2’との関係に応じて緊急ブレーキを促す警報を鳴らす構成としている。
更に相対速度が小さくなり、相対速度がV3(<V2)になると、大小関係はt2<t2’<tstとなる(図19参照)。この状態においても、図18の場合と同様に、tst<TTCを満たすとき操舵を促す警報を鳴らし、t2<TTC<tstでは、緊急ブレーキを促す警報を鳴らす。
次に、第4実施形態における危険度判定部73が行う処理について、図20及び図21を用いて説明する。図20及び図21は、第4実施形態における危険度判定部73の処理手順を示すフローチャートである。危険度判定部73は、図20及び図21に示す処理を周期的(例えば500ミリ秒毎)に実行している。
図20に示すように、危険度判定部73は、TTC演算部55が演算したTTC、通常衝突回避判定部71が演算した第1の制動回避限界閾値t1及び第1の警報閾値t1’と、緊急衝突回避判定部72が演算した第2の制動回避限界閾値t2及び第2の警報閾値t2’と、操舵回避限界閾値tstとを入力として、ステップS401において、危険度判定を行う。即ち、危険度判定部73は、TTCが図17〜図19に示す領域(1)〜(3)の何れに属するかを判定する(S401)。
TTCが領域(1)に属する場合(S402/Yes)、危険度判定部73は、TTCと警報閾値t1’とを比較し(S403)、TTCが警報閾値t1’より大であれば(S404/Yes)、通常ブレーキを作動させなくても衝突の危険性が低いため、処理は終了する。
一方、TTCが警報閾値t1’以下の場合(S404/No)、危険度判定部73は、TTCと閾値t1とを比較し(S405)、TTCが閾値t1より大きい場合、即ち、TTCが閾値t1より大きく、かつ警報閾値t1’以下の場合(S406/Yes)、ダンプトラック400がこのまま走行すると障害物と衝突する可能性が高いため、オペレータに通常ブレーキを促すために通常警報指令をスピーカ131に対して出力する(S407)。オペレータは警報を聞いて通常ブレーキペダル92を踏むことにより、手動で衝突を回避できる。
一方、ステップS406でYesの場合、即ち、TTCが閾値t1と等しい場合、危険度判定部73は、ダンプトラック400がこのまま走行すると障害物と衝突する危険性が高い状況(第1危険度)であるとみなして、通常ブレーキを自動的に作動させるための指令(通常ブレーキ自動介入指令)をブレーキ制御部33の通常ブレーキ作動部31に出力する(S408)。
また、TTCが領域(1)に属さないとの判定がなされた場合(S402/No)、図21のステップS409に進む。TTCが領域(2)に属する場合(S409/Yes)、危険度判定部73は、TTCと操舵閾値tstと警報閾値t2’を比較し(S410)、TTC>tst>t2’の関係を満たす場合(S411/Yes)、緊急ブレーキを作動させなくても操舵により衝突を回避できるため、操舵報知指令をブザー140に出力する(S412)。
オペレータは、ブザー140が鳴っているのを聞いて、ステアリングハンドル91による操舵を行えば、緊急ブレーキを操作しなくても衝突を回避できる(この状況では通常ブレーキの操作は必要となる)。なお、図19に示すように、ダンプトラック400が相対速度V3で走行している場合、TTCの値によってはステップS411でYesとなり、操舵報知指令が出力される場合がある。
一方、tst≧TTC>t2’を満たす場合(S413/No)、操舵による衝突の回避はできないが、緊急ブレーキを作動させればいつでも衝突を回避できるため、この時点では緊急ブレーキを作動させる処理を行わずに処理は終了する。
また、TTCが警報閾値t2’以下の場合(S413/No)、危険度判定部73は、TTCと閾値t2とを比較し(S414)、TTCが閾値t2より大きい場合、即ち、TTCが閾値t2より大きく、かつ警報閾値t2’以下の場合(S415/Yes)、ダンプトラック400がこのまま走行すると障害物と衝突する可能性が高いため、オペレータに緊急ブレーキを促すために緊急警報指令を警告灯132に対して出力する(S416)。オペレータは警告灯の点灯を見て緊急ブレーキペダル94を踏むことにより、手動で衝突を回避できる。
なお、図18に示すように、ダンプトラック400が相対速度V2で走行している場合において、TTCが操舵閾値tst<TTC≦警報閾値t2’の関係を満たすときに、操舵により衝突の回避ができるときでも、緊急ブレーキを操作する旨の警報が鳴る場合がある。
一方、ステップS415でNoの場合、即ち、TTCが閾値t2と等しい場合、危険度判定部73は、ダンプトラック400がこのまま走行すると障害物と衝突する危険性が高い状況(第2危険度)であるとみなして、緊急ブレーキを自動的に作動させるための指令(緊急ブレーキ自動介入指令)をブレーキ制御部33の緊急ブレーキ作動部32に出力する(S417)。
なお、ステップS409でNoの場合(即ち、TTC<t2の場合)は、TTCが領域(3)に属することになり、緊急ブレーキを作動しても衝突を回避できない状況にある。よって、ステップS409でNoの場合は、危険度判定部73は、直ちにステップS417に進んで緊急ブレーキ自動介入指令をブレーキ制御部33の緊急ブレーキ作動部32に出力する。
以上のような構成にすることにより、通常ブレーキと緊急ブレーキの2種類の異なるブレーキを有する車両に対して、衝突を回避するために、適切なタイミングに適切なブレーキを用いて自動的にダンプトラック400を制動することができる。自動的に通常ブレーキあるいは緊急ブレーキを作動させる前に、オペレータにブレーキ操作を行う旨の報知を行うことで、オペレータの技量を生かしてダンプトラック400を制動することができる。また、ステアリングハンドル91を操作して衝突を回避することができる旨を報知することにより、機械ブレーキの使用頻度を低くすることができる。よって、タイヤや機械ブレーキのディスクの磨耗を抑制し、部品の交換頻度を下げることができる。
<第5実施形態>
次に、本発明の第5実施形態について述べる。図22は第5実施形態に係るダンプトラック500の全体構成図、図23は第5実施形態に係る衝突可能性判定器30Dの詳細を示す図である。図22に示すように、第4実施形態に係るダンプトラック500では、荷台61の積荷の有無を検出するための荷重センサ(荷重検出器)50、及び路面の傾斜を検出するための傾斜センサ(傾斜検出器)51を備えている。
また、図23に示すように、衝突可能性判定器30Dは、速度検出器9,10,11,12からの検出値に基づいて、路面の状態(摩擦係数)を推定する路面状態推定演算部52を有している。そして、第5実施形態では、荷台61に積載される積荷の有無、路面の傾斜の有無、及び路面の状態に応じて、制動回避限界閾値t1、t2が変化する構成としている点に特徴がある。以下、制動回避限界閾値がどのように変化するかについて説明する。
まず、荷重の違いによる、第1の制動回避限界閾値の変化について図24を参照しながら述べる。図24は、積荷の有無と危険度との関係を示す図である。なお、第1実施形態と同様に相対速度を簡略化するために前方の障害物が静止物である場合を考える。
車両が積荷を積んでない空荷状態の時の障害物との距離をX1(空荷)、自車両の速度をV1とすると、TTC(衝突予測時間)はX1(空荷)/V1となる。ここで、自車両がV1で走行している時に通常ブレーキを作動させた場合の制動距離X1’(空荷)は算出可能である。この制動距離X1’(空荷)を自車両の速度V1で除した値(空荷走行時の通常ブレーキの衝突回避限界)をt1(空荷)とすると、TTCがt1(空荷)以下の場合、通常ブレーキだけでは障害物との衝突を回避できない。
次に車両が積荷を積んでいる状態の時の障害物との距離をX1(積荷)、自車両の速度をV1とすると、TTCはX1(積荷)/V1となる。ここで、自車両がV1で走行している時に通常ブレーキを行った時の制動距離X1’(積荷)は算出可能である。この制動距離X1’(積荷)を自車両の速度V1で除した値(積荷走行時の通常ブレーキの衝突回避限界)をt1(積荷)とすると、TTCがt1(積荷)以下の場合、通常ブレーキだけでは障害物との衝突を回避できない。
ここで、運動方程式から車両の加減速度は質量に反比例するため、同じ速度V1で走行した場合、X1’(積荷)>X1’(空荷)、t1(積荷)>t1(空荷)が成立する。これは、積荷を積んでいる時にはX1’(積荷)以上離れていないと、通常ブレーキだけでは障害物との衝突を回避できないことを示している。したがって、積荷を積んでいる時には第1の制動回避限界閾値t1(積荷)を空荷の時の第1の制動回避限界閾値t1(空荷)に比べて大きくすることで、積荷状態であっても適切なタイミングで通常ブレーキが作動し、障害物との衝突を回避できる。
第2の制動回避限界閾値の変化についても、第1の制動回避限界閾値同様に、積荷を積んでいる時には第2の制動回避限界閾値t2(積荷)を空荷の時の第2の制動回避限界閾値t2(空荷)に比べて大きくすることで、積荷状態であっても適切なタイミングで緊急ブレーキが作動し、障害物との衝突を回避できる。
次に、傾斜の違いによる第1の制動限界閾値の変化について図25を参照しながら述べる。図25は、路面の傾斜と危険度との関係を示す図である。平坦路を走行する場合と傾斜θ[deg]の下り坂を走行する場合を比較する。車両が平坦路を走行中の障害物との距離をX1(平)、自車両の速度をV1(平)とすると、TTCはX1(平)/V1(平)となる。ここで、自車両V1(平)で走行している時に通常ブレーキを行った時の停止距離と停止時間は算出可能である。この停止距離をX1’(平)、停止時間をt1(平)とする。これは通常ブレーキを行った場合、車両を停止させるのにt1(平)を要し、その間にX1’(平)だけ車両が進むことを示している。
次に車両が下り坂を走行中の障害物との距離をX1(下)、自車両の速度をV1(下)とすると、TTCはX1(下)/V1(下)となる。ここで、自車両V1(下)で走行している時に通常ブレーキを行った時の停止距離と停止時間は算出可能である。この停止距離をX1’(下)、停止時間をt1(下)とする。これは通常ブレーキを行った場合、車両を停止するのにt1(下)を要し、その間にX1’(下)だけ車両が進むことを示している。ここで、先に述べた障害物との距離X1(下)とX1’(下)が等しいと仮定すると、TTCがt1(下)以下の場合には、通常ブレーキのみでは障害物と衝突することを意味する。
車両が下り坂を走行する場合、重力に起因した路面に平行なMgsinθの力が車両に働くため、質量Mを除したgsinθ分だけ車両に加速度が加わる。したがって、gsinθ分だけ車両が停止し難くなる。V1(平)とV1(下)が等しい時、X1’(下)>X1’(平)、t1(下)>t1(平)が成立する。
これは、車両が下り坂を走行中において、車両と障害物との距離がX1’(下)以上離れている時には、通常ブレーキだけで障害物との衝突を回避できることを示している。したがって、下り坂を走行している時には第1の制動回避限界閾値t1(下)を平坦の時の第1の制動回避限界閾値t1(平)に比べて大きくすることで、下り坂であっても適切なタイミングで通常ブレーキが作動し、障害物との衝突を回避できる。
一方、車両が登り坂を走行する時には、下り坂と逆でgsinθの加速度分だけ車両が停止しやすくなるため、下り坂の時と同様にV1(平)とV1(登)が等しい時、X1’(登)<X1’(平)、t1(登)<t1(平)が成立する。したがって、車両が下り坂を走行している時には、第1の制動回避限界閾値t1(登)を空荷の時の第1の制動回避限界閾値t1(平)に比べて小さくすることで、登り坂であっても適切なタイミングで通常ブレーキが作動し、障害物との衝突を回避できる。
第2の制動限界閾値の変化についても、第1の制動限界閾値同様に、下り坂を走行中は第2の制動限界閾値を、平坦路を走行中の第2の制動限界閾値に比べて大きくし、上り坂を走行中はその反対に小さくすることで、路面の傾斜に対応した適切なタイミングで緊急ブレーキが作動し、障害物との衝突を回避できる。
次に路面状態の違いによる第1の制動限界閾値の変化について図26を参照しながら述べる。図26は路面状態と危険度との関係を示す図である。摩擦力の大きい高μ路を走行する場合と摩擦力の小さい低μ路を走行する場合を比較する。車両が高μ路を走行する時の障害物との距離をX1(高μ)、自車両の速度をV1(高μ)とすると、TTCはX1(高μ)/V1(高μ)となる。ここで、自車両V1(高μ)で走行している時に通常ブレーキを行った時の停止距離と停止時間は算出可能である。この停止距離をX1’(高μ)、停止時間をt1(高μ)とする。これは通常ブレーキを行った場合、車両を停止するのにt1(高μ)を要し、その間に車両がX1’(高μ)だけ進むことを示している。
次に車両が低μ路を走行する時の障害物との距離をX1(低μ)、自車両の速度をV1(低μ)とすると、TTCはX1(低μ)/V1(低μ)となる。ここで、自車両V1(低μ)で走行している時に通常ブレーキを行った時の停止距離と停止時間は算出可能である。この停止距離をX1’(低μ)、停止時間をt1(低μ)とする。これは通常ブレーキを行った場合、車両を停止するのにt1(低μ)を要し、その間に車両がX1’(低μ)だけ進むことを示している。ここで、先に述べた障害物との距離X1(低μ)とX1’(低μ)が等しいと仮定すると、TTCがt1(低μ)以下の場合、通常ブレーキのみでは障害物との衝突を回避できないことを意味する。
ここで、タイヤが地面から受ける摩擦力は各輪3,6,7,8が地面から受ける垂直抗力Nと摩擦係数μの掛け算で表わされるため、摩擦係数μの大きさは制動力に比例する。したがって、V1(高μ)とV1(低μ)が等しい時、X1’(低μ)>X1’(高μ)、t1(低μ)>t1(高μ)が成立する。
これは、低μ路を走行する時は、車両が障害物とX1’(低μ)以上離れていれば、通常ブレーキだけで障害物との衝突を回避できることを示している。したがって、低μ路を走行している時の第1の制動回避限界閾値t1(低μ)を、高μ路を走行している時の第1の制動回避限界閾値t1(高μ)に比べて大きくすることで、路面状態に応じた適切なタイミングで通常ブレーキを作動させて障害物との衝突を回避できる。
第2の制動限界閾値の変化についても、第1の制動限界閾値同様に、低μ路を走行する時は第2の制動限界閾値を、高μ路を走行中の第2の制動限界閾値に比べて大きくすることで、路面状態に応じた適切なタイミングで緊急ブレーキを作動させて障害物との衝突を回避できる。
なお、第5実施形態においては、上記した積荷、路面傾斜、路面状態のうち少なくとも一つを用いて第1の制動限界閾値及び第2の制動限界閾値を決めるようにすれば良い。
以上のような構成にすることにより、通常ブレーキと緊急ブレーキの2種類の異なるブレーキを有する車両に対して、衝突を回避するために、積荷の有無、路面の傾斜、あるいは路面状態に応じた適切なタイミングに適切なブレーキを用いて自動的にダンプトラック500を制動することができる。また、不要なブレーキをなくすことでタイヤや機械ブレーキのディスクの磨耗を抑制し、部品の交換頻度を下げることができる。
<第6実施形態>
次に、本発明の第6実施形態について述べる。なお、第6実施形態に係るダンプトラックは、障害物が移動体であること以外の構成は第1実施形態と同じである。
障害物を移動体と考えた時の、第1の制動回避限界閾値の変化について図27を参照しながら述べる。図27は、移動体の移動方向と危険度との関係を示す図である。
相対速度Vrを次式で定義する。
V1は自車速度、Vobsは障害物の速度である。速度の符号は自車の進行方向を正とする。
障害物が静止していても動いていても自車速度V1の時の制動距離X1’は変わらない。したがって,この制動距離X1’を相対速度Vrで除した値(通常ブレーキの衝突回避限界)をt1(静止)で表わすことができる。ここで、障害物が自車両と同じ方向に運動する(Vobs>0)時の通常ブレーキでの制動回避限界をt1(同方向)、逆方向に運動する(Vobs<0)時の通常ブレーキでの制動回避限界をt1(逆方向)とする。
次に障害物が停止している時の制動回避限界t1(静止)との大小関係について述べる。図27に示すように、同方向に運動している時はVrが小さくなるので、t1(同方向)はt1(静止)より大きくなり、逆方向に運動している時はVrが大きくなるので、t1(逆方向)はt1(静止)より小さくなる。
具体的な数値を用いて説明する。例えば、自車速度が30km/h(8.3m/s)の時の制動距離が50mとした場合、障害物が停止している時のt1(静止)=50/8.3=6.0sとなる。ここで、障害物が同方向に10km/h(2.8m/s)で走行していた場合、相対速度を同じにするためには自車速度が40km/h(11.1m/s)になり、この時の制動距離は70mのためt1(同方向)=70/8.3=8.4sとなる。
次に、障害物が逆方向に10km/hで走行していた場合、相対速度を同じにするためには自車速度が20km/h(5.6m/s)になり、この時の制動距離は30mのためt1(同方向)=30/8.3=3.6sとなる。
したがって、障害物が同方向に運動している時には第1の制動回避限界閾値t1(同方向)を障害物が停止している時の第1の制動回避限界閾値t1(静止)に比べて大きくし、障害物が逆方向に運動している時には第1の制動回避限界閾値t1(逆方向)を障害物が停止している時の第1の制動回避限界閾値t1(静止)に比べて小さくすることで、移動している障害物との相対速度を考慮した適切なタイミングで通常ブレーキを作動させることがでる。よって、障害物が自車両と同方向に移動している場合及び逆方向に移動している場合においても、障害物との衝突を回避することができる。
第2の制動回避限界閾値の変化についても、第1の制動回避限界閾値同様に、障害物が同方向に運動している時には第2の制動回避限界閾値t2(同方向)を障害物が停止している時の第2の制動回避限界閾値t2(静止)に比べて大きくし、障害物が逆方向に運動している時には第2の制動回避限界閾値t2(逆方向)を障害物が停止している時の第2の制動回避限界閾値t2(静止)に比べて小さくすることで、移動している障害物であっても適切なタイミングで緊急ブレーキを作動させて障害物との衝突を回避することができる。
以上説明したように、上記した各実施形態に係るダンプトラックによれば、通常ブレーキと緊急ブレーキを適切なタイミングで作動させて、障害物との衝突を回避できる。また、不要な緊急ブレーキの作動を防止できるため、ブレーキディスクやタイヤの磨耗を防ぐことができる。よって、メンテナンスの負担を軽減できる。
なお、上記した実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明の範囲を上記実施形態に限定する趣旨ではない。当業者は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、他の様々な態様で本発明を実施することができる。
例えば、本発明は、鉱山で作業を行う運搬車両であって、制動力が異なる複数のブレーキ装置を搭載した車両全般に広く利用することができる。
また、オペレータが搭乗する有人ダンプトラックの実施形態について説明したが、本発明は自律走行する無人ダンプトラックにも適用することができる。また、無人ダンプトラックが複数台走行する鉱山においては、ブレーキ装置の作動情報を管制局に無線または有線で送信し、その情報に基づき管制局から他の無人ダンプトラックの走行を制御することもできる。