本発明が適用される車両の実施例として、図1に示すトラクタ1について、図2の油圧回路図を参照しつつ説明する。トラクタ1は、車体フレーム2の後部にて左右後輪3を支持し、車体フレーム2の前部にて左右前輪4を支持している。車体フレーム2の前部上方にはボンネット5が搭載されており、該ボンネット5内にエンジン10(図2参照)が配設されている。該ボンネット5の後方にて、車体フレーム2の後部上方にはキャビン6を搭載しており、該キャビン6の内部を運転室としている。車体フレーム2の後端からは、ロータリ耕耘装置等の作業装置を装着可能なリンク機構8が後方に延設されている。
キャビン6にて構成される運転室内には、図1に示すように、座席9が配設され、その前方に立設されるフロントコラム6aの上部よりステアリングハンドル7が延設され、ステアリングハンドル7の近傍に、前後進切換(リバーサ)レバー18が配置されている。フロントコラム6aから下方にクラッチペダル19が延設され、また、フロントコラム6aの足元となる床面にはアクセルペダル56や、図示されない左右一対のブレーキペダル等が設けられている。座席9の左右近傍には、主変速レバー16、副変速レバー17、クリープ(超低速)レバー20、PTO変速レバー57の他、作業機昇降操作用スイッチ、PTOクラッチスイッチ、PTO変速レバー、逆転PTOレバー等が設けられている。また、運転室の前部に設けられるフロントコラム6aの上部には、ステアリングハンドル7の近傍にて、図6に示すような駆動・旋回モード設定スイッチ47等が配設されている。
図1、図2及び図3により、トラクタ1の動力系統について説明する。前記キャビン6の下方において、前記車体フレーム2に、図示されないミッションケースが支持されている。該ミッションケースには、このトラクタ1の主変速装置である油圧機械式無段変速装置(I−HMT)12(図2参照。以下、「無段変速装置12」)と、該無段変速装置12の出力の回転方向及び回転速度を選択するものである副変速装置13(図2参照)が収容されている。
該ミッションケース(または該ミッションケースに連設されるアクスルケース)に、左右後輪3の車軸同士を連結する差動機構(図示せず)が配設されている。エンジン10の動力は、主変速装置としての無段変速装置12及び副変速装置13を介して、この差動機構に伝達されることで、左右後輪3に伝達される。また、トラクタ1には、駆動モード設定クラッチ14が設けられており、該駆動モード設定クラッチ14を四輪駆動設定状態(後記の前輪増速状態を含む)にしている場合に、副変速装置13の出力は、後輪3に加えて、左右前輪4にも伝達される。該駆動モード設定クラッチ14を二輪駆動設定状態にしている場合、副変速装置13の出力は、左右前輪4には伝達されず、後輪3のみに伝達される。
無段変速装置12は、アキシャルピストン型の油圧ポンプ12Pと、該油圧ポンプ12Pからの作動油の供給を受けて駆動するアキシャルピストン型の油圧モータ12Mとを有する。無段変速装置12は、エンジン10にて駆動される入力軸12aを有し、該油圧ポンプ12P及び油圧モータ12Mを該入力軸12a上にて同一軸心上に配している。また、無段変速装置12には、該油圧ポンプ12Pの容積を設定する可動斜板であるポンプ斜板12bと、該油圧モータ12Mの容積を画する固定斜板であるモータ斜板12cが設けられている。モータ斜板12cは、無段変速装置12の出力部材でもある。さらに、ポンプ斜板12bの制御用サーボ機構60としての油圧シリンダ61及び該油圧シリンダ61を制御する比例電磁バルブ62を備えており、主変速レバー16の操作に基づき電磁バルブ62のソレノイドが制御されることで、油圧シリンダ61を作動し、ポンプ斜板12bを傾動するものとなっている。
ポンプ斜板12bは、傾倒角0の位置(入力軸12aに対し垂直に配置されている状態)から、減速用傾倒方向に傾動可能であり、また、該傾倒角0の位置から、該減速用傾倒方向とは反対側の増速用傾倒方向に傾動可能である。無段変速装置12の出力部材であるモータ斜板12cの回転方向は、ポンプ斜板12bの傾倒角及び方向にかかわらず、入力軸12aと同じ方向である。ポンプ斜板12bの傾倒角が0のときには、油圧モータ12Mの出力速度が0なので、モータ斜板12cが入力軸12aと同じ速度で回転する。ポンプ斜板12bを傾倒角0の位置から減速用傾倒方向に傾動するにつれ、油圧モータ12Mの出力が、減速側に作用し、モータ斜板12cの回転速度が低くなり、減速用傾倒方向で最大傾倒角に到達すると、モータ斜板12cの回転速度は0となる。一方、ポンプ斜板12bを傾倒角0の位置から増速用傾倒方向に傾動するにつれ、油圧モータ12Mの出力が、増速側に作用し、モータ斜板12cの回転速度が高くなり、増速用傾倒方向で最大傾倒角に到達すると、モータ斜板12cの回転速度は、最大(例えば入力軸12aの回転速度の二倍)となる。
ポンプ斜板12bの傾倒角及び方向は、主変速レバー16の操作量に応じて変更される。主変速レバー16が速度0の位置である場合、ポンプ斜板12bは、減速用傾倒方向における最大傾倒角位置に傾倒されて、エンジン10の回転にかかわらず、モータ斜板12cの回転速度を0としている。主変速レバー16を最大速度位置まで回動するにつれ、前記油圧シリンダ61が主変速レバー16の操作量に比例して作動することにより、ポンプ斜板12bは、減速用傾動方向にて最大傾倒角位置から傾倒角0位置へと傾倒角度を減少させ、やがて、傾倒角0の位置から増速用傾倒方向に傾動して傾倒角度を増大させ、主変速レバー16が最大速度位置に達すると、増速用傾倒方向における最大傾倒角位置に達する。なお、前述のアクセルペダル56を踏み込むにつれ、エンジン回転数が増大するが、これに伴って、ポンプ斜板12bの傾倒方向及び傾倒角度も調整されるものとしている。
副変速装置13は、無段変速装置12の出力部材としてのモータ斜板12cの回転力を、前記差動機構へと伝達するための駆動列として、図示されない前進低速ギア列、前進高速ギア列、後進ギア列、及び前進超低速(クリープ)ギア列の4つの変速ギア列を有しており、さらに、これら変速ギア列用に、3つの油圧式変速クラッチよりなる変速クラッチ群、すなわち、前進低速ギア列用の前進低速クラッチ13a、前進高速ギア列用の前進高速クラッチ13b、及び後進ギア列用の後進クラッチ13cを具備している。変速クラッチ群のうち一つの油圧式変速クラッチが選択されて係合することで、その該当のギア列を介して、モータ斜板12cから差動機構へと動力が伝達される。なお、択一係合された油圧式変速クラッチを、以後、係合クラッチ13Dと称するものとする。
係合クラッチ13Dの選択は、副変速レバー17及び前後進切換レバー18の操作により行われるものである。副変速レバー17は、前進走行速度の高低2段変速用のレバーであって、図示されない低速位置及び高速位置のうちのいずかに設定されるものである。副変速レバー17を低速位置に設定すると、前進低速クラッチ13aが係合する。このとき、クリープレバー20がクリープ位置に設定されていなければ、係合された前進低速クラッチ13a及び前進低速ギア列を介して、モータ斜板12cから差動機構への動力伝達がなされ、クリープレバー20がクリープ位置に設定されていると、係合された前進低速クラッチ13a及び前進超低速ギア列を介して、モータ斜板12cから差動機構への動力伝達がなされる。副変速レバー17を高速位置に設定すると、前進高速クラッチ13bが係合し、前進高速ギア列を介しての動力伝達がなされる。なお、クリープレバー20がクリープ位置にあるときは、牽制機構が働いて、副変速レバー17が高速位置に切り換えられないようになっている。
前後進切換レバー18は、前進位置、中立位置、後進位置の3位置のいずれかに設定可能となっている。前述の副変速レバー17の低速位置・高速位置間の切換は、前後進切換レバー18が前進位置に設定されているときになされるものとなっている。なお、副変速レバー17の設定位置にかかわらず、前後進切換レバー18を前進位置にすると、主変速レバー16の操作量に応じて前進低速クラッチ13a・前進高速クラッチ13bのいずれかが係合されるものとしてもよい。前後進切換レバー18を後進位置に設定すると、後進クラッチ13cが係合し、後進ギア列を介しての動力伝達がなされる。また、前後進切換レバー18を中立位置に設定すると、全ての油圧式変速クラッチ13a・13b・13cが離間する。
トラクタ1には、前述の無段変速装置12における油圧ポンプ12P及び油圧モータ12M、副変速装置13における変速クラッチ群、駆動モード設定クラッチ14の他、前輪4の操舵用のパワーステアリングシリンダ11、PTO軸への動力伝達の断接を行う油圧式PTOクラッチ15、左右後輪3のブレーキを各別に作動させるために設けられている一対の自動ブレーキシリンダ70L・70R、リンク機構8に装着された作業機の姿勢を制御(左右傾斜を修正)するための姿勢制御用シリンダ71、リンク機構8に装着された作業機(ロータリ耕耘機等)の昇降用シリンダ72等の様々な油圧装置(油圧アクチュエータ)が装備されている。また、リンク機構8に装着される作業機以外に、トラクタ1に、外部油圧駆動装置(フロントローダ等)が外部装着される場合には、その油圧アクチュエータ73が、トラクタ1に乗車するオペレータにて操作される油圧装置とされる。これらの油圧装置駆動用の油圧系統について、図2の油圧回路図をもとに説明する。
トラクタ1は、これら油圧機器への作動油や潤滑油の供給源として、エンジン10にて駆動される第1油圧ポンプ21a、第2油圧ポンプ21b、潤滑油ポンプ22を有している。第1・第2油圧ポンプ21a・21bはタンデムポンプユニット21を構成している。トラクタ1の走行駆動用の第1油圧ポンプ21aの吐出油は、まず、その全量が、パワーステアリング用調整バルブ機構23に供給され、その一部がパワーステアリングシリンダ11を制御するためのパワーステアリング用制御バルブ機構24、さらには、該制御バルブ機構24を介して、パワーステアリングシリンダ11へと供給される。制御バルブ機構24及びパワーステアリングシリンダ11に供給された油は、調整バルブ機構23へと戻され、第1油圧ポンプ21aからの吐出油のうちの制御バルブ機構24に供給されなかった残り分と合流して、調整バルブ機構23のタンクポートから排出される。
該パワーステアリング用調整バルブ機構23のタンクポートからの排出油は、優先バルブ機構25にて、駆動モード設定クラッチ14用の制御バルブ機構26等への第1油流F1と、無段変速装置12における油圧ポンプ12P・油圧モータ12M間の閉回路への第2油流F2とに分流される。なお、駆動モード設定用クラッチ14の焼き付き防止のため、第2油流F2よりも第1油流F1が優先される。
第1油流F1は、無段変速装置12におけるポンプ斜板12b制御用の油圧サーボ機構60への油流F1aと、駆動モード設定クラッチ14用の制御バルブ機構26及びPTOクラッチ15用の制御バルブ機構27への油流F1bと、自動ブレーキ用制御バルブ機構29及び変速クラッチ用制御バルブ機構30への油流F1cとに分流する。
油流F1aの油は、油圧サーボ機構60において、比例電磁バルブ62を介して、油圧シリンダ61に対し給排され、ポンプ斜板12bの傾動制御に用いられる。油流F1bの油は、後に図6を用いて詳述するように、駆動モード設定クラッチ用制御バルブ機構26における二つの電磁バルブ45・46を用いて、駆動モード設定クラッチ14の油室14b・14c・14dに対し給排され、トラクタ1の二輪駆動・四輪駆動・前輪増速等の駆動モードの切換に用いられる。さらに油流F1bの油は、PTOクラッチ用制御バルブ機構27における電磁バルブ27a及び切換バルブ27bを介して、PTOクラッチシリンダ15に対し給排され、PTOクラッチの入り切りに用いられる。
そして、油流F1cの油は、自動ブレーキ用制御バルブ機構29において、電磁バルブ29aを介して左の後輪3用のブレーキシリンダ70Lに対し給排され、電磁バルブ29bを介して右の後輪3用のブレーキシリンダ70Rに対し給排される。後に図6を用いて詳述するように、駆動・旋回モード設定スイッチ47を自動ブレーキ設定にすることで、ステアリングハンドル7を左に切るとブレーキシリンダ70Lが作動して旋回内側の左後輪3が制動され、ステアリングハンドル7を右に切るとブレーキシリンダ70Rが作動して旋回内側の左後輪3が制動される構造となっている。さらに、油流F1cの油は、図3等を用いて後に詳述するように、油圧式変速クラッチ用制御バルブ機構30において、マスターバルブ31及び各クラッチバルブ32を介して、前述の各油圧式変速クラッチ13a・13b・13cに対し給排され、トラクタ1の副変速及び前後進切換に用いられる。
トラクタ1に装着される作業機用の第2油圧ポンプ21bの吐出油は、外部油圧駆動装置制御用の制御バルブ群37を介して、外部油圧装置としての油圧アクチュエータ73に対し給排され、制御バルブ機構35にて姿勢制御用シリンダ71に対し給排され、さらに、制御用バルブ機構36にて昇降用シリンダ72に対し給排される。潤滑油ポンプ22からの吐出油は、調量バルブ34を介して潤滑油としてPTOクラッチ15に供給され、無段変速装置12の入力軸12aの軸受の潤滑油として無段変速装置12に供給され、各調量弁33を介して潤滑油として各油圧式変速クラッチ13a・13b・13cへと供給される。
次に、図2及び図3により、変速クラッチ用制御バルブ機構30の構成について説明する。制御バルブ機構30を構成するハウジング(前述のミッションケースの一部としてもよい)には、自動ブレーキ用制御バルブ機構29への分流後の油流F1cを受けるポンプポート30a、前進低速クラッチ13aのクラッチ作動油室に連通される前進低速クラッチポート30b、前進高速クラッチ13bのクラッチ作動油室に連通される前進高速クラッチポート30c、後進クラッチ13cのクラッチ作動油室に連通される後進クラッチポート30dが設けられている。
バルブ機構30の該ハウジング内には、マスターバルブ31及びクラッチバルブ群32が設けられている。クラッチバルブ群32は、前進低速クラッチ13a用の前進低速クラッチバルブ32a、前進高速クラッチ13b用の前進高速クラッチバルブ32b、後進クラッチ13c用の後進クラッチバルブ32cが設けられている。マスターバルブ31及びクラッチバルブ32a・32b・32cは、各々、ポンプポートPP、タンクポートTP、油給排ポートVPの3ポートを有する電磁バルブである。
各電磁バルブ31・32a・32b・32cは、ソレノイドが励磁されるON位置では、油給排ポートVPをポンプポートPPに接続して、ポンプポートPPからクラッチ側の油給排ポートVPへと油を供給する方向に油の流れを設定する。このソレノイドON位置をクラッチ油供給位置P1とする。一方、各電磁バルブ31・32a・32b・32cは、ソレノイドが解磁されるOFF位置では、油給排ポートVPをタンクポートTPに接続して、クラッチ側の油給排ポートVPからタンクポートTPへと油を排出する方向に油の流れを設定する。このソレノイドOFF位置をクラッチ油排出位置P2とする。
マスターバルブ31のポンプポートPPは、前記ハウジングのポンプポート30aに接続されている。クラッチバルブ32a・32b・32cの油給排ポートVPは、クラッチポート30b・30c・30dに、各々、接続されている。マスターバルブ31の油給排ポートVPは、全てのクラッチバルブ32a・32b・32cのポンプポートPPに接続されている。
次に、図2、図3、図4、図5より、変速クラッチ用制御バルブ機構30の制御システムについて説明する。図3に示すように、トラクタ1にはコントローラ50が設けられており、また、主変速レバー16(あるいはアクセルペダル56)の操作位置(速度0位置からの操作量)検出手段としての位置センサ51、副変速レバー17の操作位置検出手段としての位置センサ52、前後進切換レバー18の操作位置検出手段としての位置センサ53、クラッチペダル19の操作位置(踏込量)検出手段としての位置センサ54、及び、キースイッチ等の、エンジン10の入り切り操作用のエンジンスイッチ55が設けられ、位置センサ51・52・53・54・55の検出信号がコントローラ50に入力されるものとしている。コントローラ50は、これらの位置センサ51・52・53・54・55からの検出信号をもとに、マスターバルブ31及びクラッチバルブ32a・32b・32cのソレノイド制御を行う。
主変速レバー16の位置センサ51の検出信号をSmとし、副変速レバー17の位置センサ52の検出信号をSsとし、前後進切換レバー18の位置センサ53の検出信号をSrとする。また、副変速レバー17を前記前進低速位置にしたときの検出信号SsをSsLとし、前後進切換レバー18を前記後進位置にしたときの検出信号SrをSrRとし、前後進切換レバー18を前記中立位置にしたときの検出信号SrをSrNとする。また、位置センサ54の検出により認識されるクラッチペダル19の踏込量をDとする。クラッチペダル19を踏んでいないときの踏込量Dは0であり、最大踏込量をD2とし、クラッチペダル19を踏み込むにつれ、踏込量Dが0から最大踏込量D2まで増大するものとする。
以上の如き検出信号Sm、Ss、Sr及び踏込量Dの定義を前提として、図4及び図5に示すクラッチペダル(クラッチ操作具)19の操作に関連しての無段変速装置(主変速装置)12及び副変速装置13の制御について説明する。クラッチペダル19の踏込量Dが0である場合(ステップS01、YES)、油圧式変速クラッチ制御用バルブ機構30におけるマスターバルブ31をクラッチ油供給位置P1(ソレノイドON位置)に設定する(ステップS02)。したがって、全クラッチバルブ32a・32b・32cのポンプポートPPには、油圧ポンプ21aからの吐出油が供給されている状態であり、位置センサ52・53の検出信号Ss・Srがどのようであるか、すなわち、副変速レバー17及び前後進切換レバー18がどのように設定されているのか(ステップS03、S04、S05)に基づいて、クラッチバルブ32a・32b・32cの全てをクラッチ油排出位置P2(ソレノイドOFF位置)とする(ステップS031)か、または、クラッチバルブ32a・32b・32cのうち、該当の一つのクラッチバルブをクラッチ油供給位置P1(ソレノイドON位置)とし、他の二つのクラッチバルブをクラッチ油排出位置P2(ソレノイドOFF位置)とする(ステップS041、S051、S06)。これにより、クラッチ供給位置P1に設定されたクラッチバルブ32は、そのポンプポートPPからバルブポートVPを介して、油圧式変速クラッチ13a・13b・13cのうち該当する油圧式変速クラッチの作動油室に油を供給して、このクラッチを係合する(すなわち、係合クラッチ13Dとする)。
具体的には、クラッチペダル19を踏み込んでおらず(ステップS01、YES)、マスターバルブ31がクラッチ油供給位置P1にある状態(ステップS02)において、位置センサ53の検出信号SrがSrNのとき(ステップS03、YES)、すなわち、前後進切換レバー18を中立位置にしているときは、クラッチバルブ32a・32b・32cの全てをクラッチ油排出位置P2(ソレノイドOFF位置)とし(ステップS031)、全ての油圧式変速クラッチ13a・13b・13cを離間する。位置センサ53の検出信号SrがSrRのとき(ステップS04、YES)、すなわち、前後進切換レバー18を後進位置にしているときは、クラッチバルブ32cをクラッチ油供給位置P1(ソレノイドON位置)とし、クラッチバルブ32a・32bをクラッチ油排出位置P2(ソレノイドOFF位置)として(ステップS041)、後進クラッチ13cを係合クラッチ13Dとする。位置センサ53の検出信号SrがSrN、SrRのいずれでもないとき(ステップS04、NO)、すなわち、前後進切換レバー18が前進位置にあるときであって、位置センサ52の検出信号SsがSsLであるとき(ステップS05、YES)、すなわち、副変速レバー17を低速位置にしているときは、クラッチバルブ32aをクラッチ油供給位置P1(ソレノイドON位置)とし、クラッチバルブ32b・32cをクラッチ油排出位置P2(ソレノイドOFF位置)として(ステップS051)、前進低速クラッチ13aを係合クラッチ13Dとする。前後進切換レバー18が前進位置にあるときであって、位置センサ52の検出信号SsがSsLでないとき(ステップS05、NO)、すなわち、副変速レバー17を高速位置にしているときは、クラッチバルブ32bをクラッチ油供給位置P1(ソレノイドON位置)とし、クラッチバルブ32a・32cをクラッチ油排出位置P2(ソレノイドOFF位置)とし(ステップS06)、前進高速クラッチ13bを係合クラッチ13Dとする。
以上のように、クラッチペダル19を踏み込んでいないときに、変速クラッチ用制御バルブ機構30において、マスターバルブ31と、クラッチバルブ32a・32b・32cのうちからの択一のクラッチバルブとを、クラッチ油供給位置P1(ソレノイドON位置)にする(以後、クラッチ油供給位置P1に設定されるよう択一されたクラッチバルブを「択一クラッチバルブ32D」と称することとする)ことで、副変速装置13における前進低速ギア列、前進高速ギア列、後進ギア列のうちのいずれか一つを介して、無段変速装置12の出力部材としてのモータ斜板12cから前記差動機構への動力伝達がなされるものとしている。このように副変速装置13における動力伝達用のギア列を選択した上で、無段変速装置12のポンプ斜板12bの傾倒位置(傾倒角度及び傾倒方向)Tが、主変速レバー16の操作量についての検出信号Smに対応する任意の傾倒位置Tnに設定される(ステップS07)。
クラッチペダル19の踏込量Dに関しては、クラッチ切換用踏込量D1を既定している。クラッチペダル19を踏み込んで、踏込量Dが0を超える(ステップS01、NO)と、該踏込量DがD1未満の範囲にある間(ステップS08、YES)に、主変速レバー16の速度0位置からの操作量(検出信号Sm)にかかわらず、ポンプ斜板12bの傾倒位置Tが、無段変速装置12の出力速度(モータ斜板12cの回転速度)を0に近い極めて低い速度とする傾倒位置T1へと移動する(ステップS09)。一方、マスターバルブ31も択一クラッチバルブ32Dも、クラッチ油供給位置P1(ソレノイドON位置)に保持されており、副変速装置13における係合クラッチ13Dの係合状態は保持される(ステップS09)。つまり、副変速装置13による無段変速装置12から差動機構への動力伝達は保持されたまま、無段変速装置12の出力回転速度が0に近い低速出力(低トルク伝達)状態に保持される、所謂、半クラッチ状態が現出される。なお、主変速レバー16を完全に速度0位置に戻せば、ポンプ斜板12bの傾倒位置Tは、前記減速用傾倒方向における最大傾倒角位置となり、無段変速装置12の出力回転速度は0となる。
クラッチペダル19の踏込量Dがクラッチ切換用踏込量D1以上になると(ステップS08、NO)、マスターバルブ31をクラッチ油排出位置P2(ソレノイドOFF位置)へとシフトする。これにより、係合クラッチ13Dから油が排出され、該係合クラッチ13Dが離間する。さらに、択一クラッチバルブ32Dも、クラッチ油供給位置P1からクラッチ油排出位置P2(ソレノイドOFF位置)へとシフトされる。すなわち、全クラッチバルブ32a・32b・32cがクラッチ油排出位置P2となる(ステップS10)。クラッチペダル19の踏込量DがD1以上で最大踏込量D2以下の範囲内にある限りは、マスターバルブ31及びクラッチバルブ群32の全てがクラッチ油排出位置P2に保持され、変速クラッチ群13の全変速クラッチ13a・13b・13cの離間状態が保持される。
なお、図4の相関図は、マスターバルブ31のクラッチ油供給位置P1からクラッチ油排出位置P2へのシフトと、択一クラッチバルブ32Dのクラッチ油供給位置P1からクラッチ油排出位置P2へのシフトとが同時に行われることを前提としているが、両バルブ31・32Dのクラッチ油排出位置P2へのシフトの間にタイムラグを設けてもよく、例えば、マスターバルブ31がクラッチ油排出位置P2にシフトしてから係合クラッチバルブ32Dをクラッチ油排出位置P2へとシフトするものとしてもよい。
前述の如く、係合クラッチ13Dを離間させること自体は、マスターバルブ31をOFF位置にシフトするだけでも実現される。係合クラッチ13Dの油を、クラッチ油供給位置P1にある択一クラッチバルブ32Dの油給排ポートVPからポンプポートPPへと逆流させて、マスターバルブ31の油給排ポートVPへと流すことができるからである。それにもかかわらず、マスターバルブ31のクラッチ油排出位置P2へのシフトに加えて、選択クラッチバルブ32Dをクラッチ油排出位置P2へとシフトするのは、安全スイッチの機能を奏するためである。すなわち、マスターバルブ31がクラッチ油供給位置P1(ソレノイドON位置)にある状態で、万一、故障して、ソレノイドを解磁してもクラッチ油排出位置P2(ソレノイドOFF位置)へと戻らないようになっても、クラッチペダル19を、踏込量Dがクラッチ切換用踏込量D1以上となるまで踏み込めば、択一クラッチバルブ32Dがクラッチ油排出位置P2(ソレノイドOFF位置)へとシフトし、係合クラッチ13Dより、クラッチ油排出位置P2にある択一クラッチバルブ32Dを介して、油が抜け、係合クラッチ13Dを離間することができるのである。逆に、択一クラッチバルブ32Dが故障で、ソレノイドを解磁してもクラッチ油排出位置P2(ソレノイドOFF位置)に戻らなくなっても、クラッチペダル19を踏めば、マスターバルブ31がクラッチ油排出位置P2へとシフトされて、係合クラッチ13Dを離間することができる。
また、逆に、踏み込んでいたクラッチペダル19を、踏込量Dがクラッチ切換用踏込量D1未満の範囲内になるまで戻すと、マスターバルブ31及び択一クラッチバルブ32Dが、クラッチ油排出位置P2からクラッチ油供給位置P1へとシフトされ、係合クラッチ13Dの係合状態が戻る(ステップS09)が、踏込量0の位置までクラッチペダル19を戻さずに、いくらか踏み込んだ状態でとどめることで、無段変速装置12のポンプ斜板12aは傾倒位置T1にて保持され(ステップS09)、半クラッチ状態として、急激な発進を回避することができるのである。
さらに、前述の如く、エンジンスイッチ55の入り切り検出に基づき、コントローラ50にて、変速クラッチ用制御バルブ機構30の電磁バルブ31・32のソレノイド制御を行うものとしている。これについて詳述すると、エンジンスイッチ55が切られたのを検出すると、コントローラ50は、マスターバルブ31及び選択クラッチバルブ32Dのソレノイドを解磁し、これらをOFF位置にシフトして、副変速装置13の全変速クラッチ13a・13b・13cを離間する。次にエンジンスイッチ55を入れたときに、係合クラッチ13Dが係合されたままであると、エンジン動力が副変速装置13の係合クラッチ13Dを介して差動機構まで伝達され、急発進してしまう可能性があるが、エンジンスイッチ55を切ったときに上記の如く全変速クラッチ13a・13b・13cを離間しておくことで、次にエンジンスイッチ55を入れた直後においては、エンジン動力が副変速装置13で遮断され、差動機構まで伝達されないので、このような不測の発進を防止することができる。
次に、図6及び図7により、駆動モード設定クラッチ14及びその制御バルブ機構26について説明する。図6に示すように、駆動モード設定クラッチ14は、四輪駆動ギア列41と前輪増速ギア列42とに共有されるクラッチ軸40上に設けられており、クラッチ軸40を四輪駆動ギア列41に接続するための油圧式の四輪駆動クラッチ43と、クラッチ軸40を前端増速ギア列42に接続するための油圧式の前輪増速クラッチ44とを組み合わせてなるものである。
駆動モード設定クラッチ14において、隔壁14aが設けられ、隔壁14aより四輪駆動用ギア列41側には、四輪駆動クラッチ43の収容される湿室が構成されており、隔壁14aより前輪増速ギア列42側には、前輪増速クラッチ44を収容する湿室が構成されている。四輪駆動クラッチ43は、摩擦板群43a、ピストン43b、及び、ピストン43bを摩擦板群43aへと付勢するバネ43cを有し、四輪駆動クラッチ43を収容する湿室は、ピストン43bによって、二輪駆動用作動油室14bと、四輪駆動用作動油室14cとに区分される。
二輪駆動用作動油室14bに油が供給されると、バネ43cに抗してピストン43bが摩擦板群43aから遠ざかり、該摩擦板群43aの摩擦板同士が離間し、これにより、四輪駆動クラッチ43は切れて、クラッチ軸40と四輪駆動ギア列41との間の動力伝達を遮断した状態となる。一方、四輪駆動用作動油室14cに油が供給されると、ピストン43bが摩擦板群43aへと摺動し、該摩擦板群43aの摩擦板同士を圧接し、これにより、四輪駆動クラッチ43が入り、クラッチ軸40と四輪駆動ギア列41との間で動力伝達可能な状態となる。なお、二輪駆動用作動油室14bの油圧と四輪駆動用作動油室14cの油圧とは互いに背圧になる関係であり、二輪駆動用作動油室14bに油が供給されるときは四輪駆動用作動油室14cから油が排出され、四輪駆動用作動油室14cに油が供給されるときは二輪駆動用作動油室14bから油が排出される。
前輪増速クラッチ44は、摩擦板群44aを有し、前輪増速クラッチ44を収容する湿室には、前輪増速用作動油室14dが構成されている。前輪増速用作動油室14dに油が供給されると、その油圧にて、摩擦板群44aの摩擦板同士が圧接し、これにより、前輪増速クラッチ44が入り、クラッチ軸40と前輪増速ギア列42との間で動力伝達可能な状態となる。前輪増速用作動油室14dから油が抜かれると、摩擦板群44aの摩擦板同士が離間し、これにより、前輪増速クラッチ44が切れ、クラッチ軸40と前輪増速ギア列42との間の動力伝達が遮断される。
制御バルブ機構26は、これら駆動モード設定クラッチ14における三つの作動油室14b・14c・14dに対しての作動油の給排制御を行うべく、第1バルブ45及び第2バルブ46の、二つの電磁バルブを備えている。各制御バルブ45・46は、ポンプポートPP、タンクポートTP、第1油給排ポートVP1、第2油給排ポートVP2の、四つのポートを有しており、ソレノイドが解磁されてOFF位置にあるときに、ポンプポートPPを第1油給排ポートVP1に、タンクポートTPを第2油給排ポートVP2に接続するものであり、ソレノイドが励磁されるON位置にあるときに、ポンプポートPPを第2油給排ポートVP2に、タンクポートTPを第1油給排ポートVP1に接続するものである。このように、第1バルブ45及び第2バルブ46の各々については、簡単な構成であって、一般に普及されているような簡単な構成の電磁バルブを適用することができる。これにより、三つの作動油室14b・14c・14dに対して一つの電磁バルブで作動油の給排制御を行うことで電磁バルブの構造を複雑なものにしてしまう場合に比べ、低コスト化を実現できる。
第1バルブ45は、ポンプポートPPに前述の油流F1cからの分流を受けるものとしており、第1油給排ポートVP1を四輪駆動用作動油室14cに連通し、第2油給排ポートVP2を二輪駆動用作動油室14bに連通している。また、該第2油給排ポートVP2から二輪駆動作動油室14bへの油路からの分岐路を、第2バルブ46のポンプポートPPに接続している。第2バルブ46の第1油給排ポートVP1は閉鎖、または、駆動モード設定クラッチ14及び制御バルブ機構26以外の箇所へと連通される。第2バルブ46の第2油給排ポートVP2は前輪増速用作動油室14dに連通されている。すなわち、第2バルブ46は、ON位置になると、前輪増速用作動油室14dに油を供給し、OFF位置になると、前輪増速用作動油室14dより油を排出するバルブである。
以上のような駆動モード設定クラッチ14及び制御バルブ機構26の構成を前提として、図7には、二つの制御バルブ45・46のON・OFF位置制御と、駆動モード設定クラッチ14の状態との関係が表示されている。まず、第1バルブ45をOFF位置とすることで、第1バルブ45ではポンプポートPPが第1油給排ポートVP1に接続されるので、前記油流F1bから制御バルブ機構26への分流は、第1バルブ45のポンプポートPP及び第1油給排ポートVP1を介して、四輪駆動用作動油室14cに供給される。同時に、第1バルブ45は、第2油給排ポートVP2をタンクポートTPに接続しているので、二輪駆動用作動油室14bから第1バルブ45の第2油給排ポートVP2及びタンクポートTPを介して油が抜かれる。このように四輪駆動用作動油室14cに油が供給され、二輪駆動用作動油室14bから油が抜かれることにより、前述の如く四輪駆動クラッチ43が係合する。
四輪駆動クラッチ43の係合により四輪駆動モードが実現するには、前輪増速クラッチ44が切れていなければならない。すなわち、前輪増速用作動油室14dから油が抜かれていなければならない。ここで、第1バルブ45がOFF位置である場合には、第2バルブ46がOFF位置のときのみならず、ON位置であっても、前輪増速用作動油室14dからは油が抜かれる。第2バルブ46がON位置にあるときは、ポンプポートPPを、前輪増速用作動油室14dに連通される第2油給排ポートVP2に接続するが、このときに第1バルブ45がOFF位置にあると、第2バルブ46のポンプポートPPが第1バルブ45の第2給排ポートVP2を介して第1バルブ45のタンクポートTPに連通するので、前輪増速用作動油室14d内の油は、第2バルブ46を通過し、第1バルブ45のタンクポートTPへと排出されるからである。
したがって、第1バルブ45をON位置にすれば、トラクタ1は四輪駆動モードとなる。すなわち、エンジン10の動力が、無断変速装置12、副変速装置13、前記差動機構を介して、後輪4に伝達される一方、副変速装置13からの出力は、係合した四輪駆動クラッチ43及び四輪駆動ギア列41を介して、前輪4へと伝達される。
第1バルブ45をON位置にすると、四輪駆動用作動油室14cから第1バルブ45における第1油給排ポートVP1を介してタンクポートTPへと油が抜かれる。一方、第1バルブ45において、ポンプポートPPが第2油給排ポートVP2に接続され、該第1バルブ45の第2油給排ポートVP2から二輪駆動用作動油室14bへと油が供給されるので、四輪駆動クラッチ43が離間する。ただし、該第1バルブ45の第2油給排ポートVP2から二輪駆動用作動油室14bへの油流の途中から、油の一部が、第2バルブ46のポンプポートPPへと分流されるので、二輪駆動用作動油室14bへの油の供給量が抑えられ、バネ43cの付勢力により四輪駆動クラッチ43の摩擦板群43aの摩擦板同士は弱く接した状態、すなわち、半クラッチ状態となっている。
このように、第1バルブ45をON位置にして四輪駆動クラッチ43が半クラッチ状態になっている中で、第2バルブ46がOFF位置にあるときは、前輪増速用作動油室14dからは油が抜かれていて、前輪増速クラッチ44が離間しているので、トラクタ1の駆動モードは、二輪駆動モード、すなわち、後輪3がエンジン10の動力にて駆動され、前輪4には、半クラッチ状態の四輪駆動クラッチ43及び四輪駆動ギア列41を介して、わずかにエンジン10の動力が伝達される状態となる。
一方、第1バルブ45をON位置にした状態で、第2バルブ46をON位置にすると、前記油流F1cからの分流油が、第1バルブ45及び第2バルブ46を介して前輪増速用作動油室14dへと供給され、前輪増速クラッチ44が係合する。前輪増速クラッチ44の係合力は、半クラッチ状態の四輪駆動クラッチ43の係合力に勝るため、エンジン10の動力は、後輪3へと伝達される一方で、前輪増速クラッチ44及び前輪増速ギア列42を介して、前輪4へと伝達され、前輪4が増速状態で駆動される。すなわち、トラクタ1が前輪増速モードに設定される。
図6に示すように、トラクタ1には、駆動・旋回モード設定スイッチ47が設けられている。該スイッチ47は、押釦やタッチパネル等の構造で、押すごとにモードの設定が切り替わる。本実施例においては、四輪駆動モード47a、前輪増速モード47b、二輪駆動モード47c、オートブレーキモード47d、旋回二輪駆動モード47eの5モードが設定可能となっており、スイッチ47の設定モードがコントローラ50に入力される。また、第1バルブ45・第2バルブ46の制御に関連して、ステアリングハンドル7の旋回角を検出する旋回角センサ48からの検出信号、及び、副変速レバー17の操作位置を検出する位置センサ52からの検出信号が、コントローラ50に入力されるものとなっている。コントローラ50は、駆動・旋回モード設定スイッチ47の設定と、旋回角センサ48及び位置センサ52の検出信号に基づき、第1バルブ45・第2バルブ46のソレノイドのON・OFF制御を行う。
駆動・旋回モード設定スイッチ47が四輪駆動モード47aに設定されているときは、第1バルブ45をOFF位置にすることで、四輪駆動クラッチ43を係合するとともに前輪増速クラッチ44を離間し、この状態を、トラクタ1の旋回・非旋回(ステアリングハンドル7を旋回操作するか否か)にかかわらず保持する。また、駆動・旋回モード設定スイッチ47が二輪駆動モード47cに設定されているときは、第1バルブ45をON位置、第2バルブ46をOFF位置にし、四輪駆動クラッチ43及び前輪増速クラッチ44を離間し、この状態を、トラクタ1の旋回・非旋回(ステアリングハンドル7を旋回操作するか否か)にかかわらず保持する。
駆動・旋回モード設定スイッチ47を前輪増速モード47bに設定しているときは、トラクタ1の旋回・非旋回(ステアリングハンドル7を旋回操作するか否か)にかかわらず、第2バルブ46をON位置に固定する。直進(非旋回走行)時は、第1バルブ45がOFF位置となっており、したがって、四輪駆動クラッチ43が係合しており、また、前述の如き駆動モード設定クラッチ14の構造により、四輪駆動クラッチ43が係合しているときは、前輪増速クラッチ44が離間するので、エンジン動力は四輪駆動クラッチ43及び四輪駆動ギア列41を介して、前輪4に伝達されている。旋回角センサ48の検出により、ステアリングハンドル7が旋回操作されたことが検知されると、第1バルブ45がON位置に切り替わり、四輪駆動クラッチ43は半クラッチ状態になる一方、前輪増速クラッチ44が係合して、前輪増速ギア列42を介しての前輪4への動力伝達がなされ、これにより、トラクタ1は、旋回時に前輪4が増速された状態で、小旋回することができる。
一方、駆動・旋回モード設定スイッチ47を旋回二輪駆動モード47eに設定しているときは、トラクタ1の旋回・非旋回(ステアリングハンドル7を旋回操作するか否か)にかかわらず、第2バルブ46をOFF位置に固定し、前輪増速クラッチ44を離間する状態を保持する。直進(非旋回走行)時は、第1バルブ45がOFF位置となっており、したがって、エンジン動力は四輪駆動クラッチ43及び四輪駆動ギア列41を介して、前輪4に伝達されている。旋回角センサ48の検出により、ステアリングハンドル7が旋回操作されたことが検知されると、第1バルブ45がON位置に切り替わって、四輪駆動クラッチ43が半クラッチ状態となり、半クラッチ状態の四輪駆動クラッチ43及び四輪駆動ギア列41を介して前輪4への動力伝達がなされ、これにより、トラクタ1は、旋回時に前輪4がほとんど非駆動の状態となり、円滑に旋回することができる。
このように、本実施例のトラクタ1においては、駆動モード設定クラッチ用制御バルブ機構26として、二つの電磁切換弁(第1バルブ45及び第2バルブ46)を用いることで、前輪増速モード設定の場合にも旋回二輪駆動モード設定の場合にも、旋回時における反応性の高い駆動モードの切換が得られる。すなわち、従来は一つのバルブに多くのポートが設けられていて、駆動モード切換の反応が鈍く、旋回半径が不当に大きくなるような事態が生じていたが、本実施例のモード設定クラッチ用制御バルブ機構26においては、ポートの少ない簡単な構造の二つのバルブ45・46を用いるものであり、前輪増速モード設定時、旋回二輪駆動モード設定時それぞれにおいて、第2バルブ46は、直線走行時でも旋回時でも常時同じ位置(すなわち、待ち受け状態)に固定され、直線走行時か旋回時かで切り換えるバルブを、第1バルブ45のみとすることで、反応性が高く、思うような小さな旋回半径の旋回も可能である。
なお、駆動・旋回モード設定スイッチ47を自動ブレーキモード47dに設定すると、自動ブレーキ用制御バルブ機構29の制御により、ステアリングハンドル7が旋回操作されたときに、旋回内側の車輪にブレーキがかかって、ブレーキターンをすることができる。
また、副変速レバー17が前記前進高速位置にセットされている状態で、駆動・旋回モード設定スイッチ47を前輪増速モード47bに設定した場合は、ステアリングハンドル7が旋回操作されたことを旋回角センサ48が検出しても、すなわち、トラクタ1が直進状態から旋回状態に移行しても、第1バルブ45をOFF位置からON位置に切り換えない。すなわち、ステアリングハンドル7が旋回操作されたか否かにかかわらず、常時、第1バルブ45がOFF位置、第2バルブ46がON位置に固定され、四輪駆動モードに維持される。これにより、副変速装置13が前進高速設定となっている上に旋回時に前輪4が増速されてしまうという不安定な状態が回避される。
すなわち、二つの電磁切換弁45・46を有する駆動モード設定クラッチ用制御バルブ機構26においては、駆動・旋回モード設定スイッチ47を前輪増速モード47bに設定して第2バルブ46をON位置にセットした状態にしていても、第1バルブ45がON位置に切り換えられない限りは前輪増速クラッチ44が係合することはない。これを利用して、副変速装置13が前進高速設定となっているときに、ステアリングハンドル7の回動状態の如何にかかわらず、第1バルブ45をOFFに固定しておけば、前輪増速状態を生じない。このように、二つの簡単な電磁切換弁45・46のON・OFFの組み合わせパターンをかえるだけで、安全性の高い走行・旋回状態を現出できるのである。