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JP6356436B2 - 電解質膜・電極構造体 - Google Patents

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JP6356436B2 JP2014038054A JP2014038054A JP6356436B2 JP 6356436 B2 JP6356436 B2 JP 6356436B2 JP 2014038054 A JP2014038054 A JP 2014038054A JP 2014038054 A JP2014038054 A JP 2014038054A JP 6356436 B2 JP6356436 B2 JP 6356436B2
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Description

本発明は、固体高分子電解質膜の両側にそれぞれ、電極触媒層及びガス拡散層を有する電極を備え、且つ電極触媒層とガス拡散層の間に多孔質層が介在する電解質膜・電極構造体に関する。
固体高分子型の燃料電池の単位セルは、電解質膜・電極構造体を一組のセパレータによって挟持することで構成される。電解質膜・電極構造体は、高分子イオン交換膜からなる電解質膜と、該電解質膜の一方の面に臨むアノード電極及び他方の面に臨むカソード電極とを備える。
これらアノード電極及びカソード電極の各々は、電解質膜に臨み電極反応の反応場となる電極触媒層と、該電極触媒層に反応ガスを拡散して供給するガス拡散層とを備えている。一般的に、ガス拡散層はカーボンペーパ等から構成される。このため、ガス拡散層の繊維が電解質膜に突き刺さること等によって、電解質膜が物理的に変形してしまう懸念がある。この場合、電解質膜の劣化が促進されたり、反応ガスに対するガスバリア性が低下したりする可能性があるため、電解質膜の物理的な変形を抑制する必要がある。
そこで、例えば、特許文献1には、ガス拡散層の繊維が電極触媒層越しに電解質膜に突き刺さること等を防止するため、電極触媒層の積層方向に不連続な電解質高比率部を設け、これによって、電極触媒層の面方向の結合状態を強固にすることが提案されている。
また、一般的に、電解質膜・電極構造体では、電極触媒層の外形寸法(表面積)が電解質膜の外形寸法に比して小さい。すなわち、電解質膜の外周縁部は、電極触媒層の外周から外部に露呈している。このため、例えば、電解質膜・電極構造体の製造時に、電解質膜にガス拡散層を熱圧着する際、ガス拡散層の繊維が電解質膜の外周縁部に突き刺さることが問題となる。
この問題に対処するべく、例えば、特許文献2では、ガス拡散層の周縁部が直接電解質膜に接することを防止するための補強材料が提案されている。具体的には、電解質膜の対向する2辺のみを電極触媒層の外周から外部に露出させる形状とし、該2辺側に、拡散層の繊維が通過することを阻止可能な補強材料を配置することが示されている。
しかしながら、特許文献1、2のいずれに示す技術も、上記の通り、電極触媒層や電解質膜を特別な構成とする必要があること等から、電解質膜・電極構造体の構成が複雑となる。このため、電解質膜・電極構造体の生産性の低下や、製造コストの増加等が問題となる。そこで、このような不都合を回避するべく、例えば、特許文献3に示されるように、電解質膜と電極触媒層との間に、ガス拡散層の繊維が電解質膜に突き刺さることを防止するための補強層を介在させることが想起される。
特開2010−40377号公報 特開2010−146769号公報 特開2005−332672号公報
しかしながら、特許文献3に記載されるように、電解質膜と電極触媒層との間に補強層を介在させた場合、電解質膜・電極構造体の保水性能(排水性能)が変化する可能性がある。例えば、保水性能が過度に低下すると、電解質膜が乾燥してプロトン伝導性が低下する。これとは逆に、保水性能が過度に上昇すると、いわゆるフラッディングが発生する。いずれの場合も、燃料電池の発電特性が低下する一因となる。
すなわち、特許文献1〜3においては、余分な層を設けてもなお、燃料電池の発電特性を維持することについて、十分な考慮がされていない。
本発明は、この種の問題を解決するものであり、電解質膜の物理的な変形を簡易な構成で適切に抑制可能であり、且つ優れた発電性能を示す電解質膜・電極構造体を提供することを目的とする。
前記の目的を達成するために、本発明は、固体高分子膜からなる電解質膜をアノード電極とカソード電極で挟持して構成される電解質膜・電極構造体であって、
前記アノード電極は、前記電解質膜に臨む第1電極触媒層と、第1ガス拡散層と、前記第1電極触媒層及び前記第1ガス拡散層の間に介在して該第1ガス拡散層に直接接触する第1多孔質層とを有し、
前記カソード電極は、前記電解質膜に臨む第2電極触媒層と、第2ガス拡散層と、前記第2電極触媒層及び前記第2ガス拡散層の間に介在して該第2ガス拡散層に直接接触する第2多孔質層とを有し、
前記第1ガス拡散層と前記第1多孔質層とを重畳した第1重畳体は、前記第2ガス拡散層と前記第2多孔質層とを重畳した第2重畳体に比して、透水圧が大きく、
前記第1多孔質層は、前記第2多孔質層に比して気孔率が小さく緻密に形成され、
前記第1重畳体の透水圧が25〜120kPaであり、前記第2重畳体の透水圧が5〜25kPaであることを特徴とする。
本発明に係る電解質膜・電極構造体では、アノード電極及びカソード電極のそれぞれにおいて、電極触媒層とガス拡散層との間に多孔質層を介在させている。そして、この多孔質層とガス拡散層とを重畳した重畳体の透水圧について、アノード電極の第1重畳体が、カソード電極の第2重畳体に比して大きくなるように、それぞれの値を上記の範囲内で設定している。これによって、電解質膜にガス拡散層の繊維が接触することを適切に回避して、電解質膜が物理的に変形することを抑制できる。また、アノード電極及びカソード電極から余剰の水を排出して反応ガスを迅速に拡散させつつ、電解質膜の湿潤状態を維持して良好なプロトン伝導性を発現させることができる。すなわち、発電反応を促して、発電性能を良好に向上させることができる。
ところで、カソード電極側の活性化過電圧は、アノード側の活性化過電圧に比して大きい。このため、カソード電極では、活性化過電圧を低減させるべく、アノード電極に比して触媒量を多くしている。すなわち、一般的に、アノード電極の電極触媒層は、カソード電極に比して薄く形成されている。従って、電解質膜は、カソード電極側に比して、アノード電極側のガス拡散層のうねり等の影響を受け易い。
本発明に係る電解質膜・電極構造体では、上記の通り、カソード電極の第2重畳体に比して、アノード電極の第1重畳体の透水圧が高くなるように設定されている。すなわち、例えば、第1重畳体の第1多孔質層は、第2重畳体の第2多孔質層に比して気孔率が小さく緻密に形成されている。このため、電解質膜が、アノード電極側のガス拡散層から上記の影響を受けることを適切に抑制できる。
一方で、発電反応によって水が生成するカソード電極では、第2多孔質層を設けることで、フラッディングを抑制して反応ガスのガス拡散性を維持することができ、且つ生成水が第2ガス拡散層へ過度に透過して電解質膜が乾燥してしまうことを抑制できる。
すなわち、第1重畳体及び第2重畳体について、上記の通り透水圧を設定することによって、電解質膜に物理的な変形が生じることを簡易な構成で効果的に抑制することができる。さらに、アノード電極及びカソード電極間の保水性及び排水性の均衡を適切化して、発電性能を向上させることができる。
上記の電解質膜・電極構造体において、前記第1多孔質層の厚みは、前記第2多孔質層の厚み以上であることが好ましい。この場合、上記の通りアノード電極の電極触媒層が、カソード電極に比して薄く形成されていても、電解質膜がアノード電極側のガス拡散層のうねり等の影響を受けることを効果的に抑制できる。また、カソード電極でフラッディングが生じること、及び生成水が第2ガス拡散層へ過度に透過して電解質膜が乾燥してしまうことを適切に抑制できる。
本発明によれば、多孔質層とガス拡散層とを重畳した重畳体の透水圧について、アノード電極側及びカソード電極側のそれぞれの値を適切に設定することによって、電解質膜の物理的な変形を簡易な構成で効果的に抑制することができ、且つ優れた発電性能を示す電解質膜・電極構造体を得ることができる。
本発明の実施の形態に係る電解質膜・電極構造体が組み込まれる燃料電池の要部概略縦断面図である。 実施例1〜3及び比較例1〜5の電解質膜・電極構造体について、第1多孔質層及び第2多孔質層それぞれの作製条件と、第1重畳体及び第2重畳体それぞれの透水圧と、電解質膜の膜厚分散とを示す図表である。 実施例1〜7及び比較例6〜8の電解質膜・電極構造体について、第1多孔質層及び第2多孔質層それぞれの作製条件と、第1重畳体及び第2重畳体それぞれの透水圧と、ガス圧100kPaのセル電圧と、セル電圧差ΔVとを示す図表である。
以下、本発明に係る電解質膜・電極構造体につき好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
図1は、固体高分子型の燃料電池10の要部概略縦断面図である。この燃料電池10は、本実施形態に係る電解質膜・電極構造体12が組み込まれて構成される。
先ず、燃料電池10の構成につき説明する。この燃料電池10では、電解質膜・電極構造体12と、アノード側セパレータ14と、カソード側セパレータ16とが、例えば、立位姿勢で積層される。この積層方向(図1の矢印A方向)に、燃料電池10が複数積層されることにより、例えば、車載用燃料電池スタック(不図示)が構成される。なお、アノード側セパレータ14及びカソード側セパレータ16としては、例えば、カーボンセパレータが使用されるが、これに代えて金属セパレータを用いてもよい。
アノード側セパレータ14の電解質膜・電極構造体12に臨む面14aには、水素含有ガス等の燃料ガスを供給するための燃料ガス入口連通孔(不図示)と、該燃料ガスを排出するための燃料ガス出口連通孔(不図示)とに連通する燃料ガス流路18が、水平方向(図1の紙面に直交する方向。以下、便宜的にB方向という)に延在して設けられる。
同様に、カソード側セパレータ16の電解質膜・電極構造体12に臨む面16aには、酸素含有ガス等の酸化剤ガスを供給するための酸化剤ガス入口連通孔(不図示)と、該酸化剤ガスを排出するための酸化剤ガス出口連通孔(不図示)とに連通する酸化剤ガス流路20が水平方向(前記B方向)に延在して設けられる。なお、燃料ガス流路18中の燃料ガスと、酸化剤ガス流路20中の酸化剤ガスとは、互いに対向する向きに流通する。
燃料電池10を複数積層した際にアノード側セパレータ14とカソード側セパレータ16とが互いに対向する面同士の間には、冷却媒体を供給するための冷却媒体入口連通孔(不図示)と、冷却媒体を排出するための冷却媒体出口連通孔(不図示)とに連通する冷却媒体流路22が一体的に形成されている。
電解質膜・電極構造体12は、固体高分子膜からなる電解質膜24と、該電解質膜24を挟持するアノード電極26及びカソード電極28とを備える。電解質膜24の外形寸法(表面積)は、アノード電極26及びカソード電極28の外形寸法よりも大きく設定される。これによって、アノード電極26及びカソード電極28の一方の電極に供給された反応ガスが電解質膜24を通過して他方の電極に移動することを防止できる。また、電解質膜・電極構造体12からその外部へ反応ガスが漏れること(アウトリーク)を防止できる。
電解質膜24は、例えば、陽イオン交換樹脂に属してプロトン伝導性を備えるポリマーを、フィルム状に形成したものを用いることができる。陽イオン交換樹脂としては、例えば、ポリスチレンスルホン酸等のビニル系ポリマーのスルホン化物や、パーフルオロアルキルスルホン酸ポリマー、パーフルオロアルキルカルボン酸ポリマー、ポリベンズイミダゾール、ポリエーテルエーテルケトン等の耐熱性高分子にスルホン酸基又はリン酸基を導入したポリマーや、フェニレン連鎖からなる芳香族化合物を重合して得られる剛直ポリフェニレンを主成分として、これにスルホン酸基を導入したポリマー等が挙げられる。
アノード電極26及びカソード電極28は、電解質膜24を挟持するように設けられる。そして、アノード電極26は、第1電極触媒層30と、第1ガス拡散層32と、第1多孔質層34とを有している。また、第1多孔質層34と第1ガス拡散層32とが重畳されて第1重畳体35が構成されている。
一方、カソード電極28は、第2電極触媒層38と、第2ガス拡散層40と、第2多孔質層42とを有している。また、第2多孔質層42と第2ガス拡散層40とが重畳されて第2重畳体43が構成されている。
第1電極触媒層30及び第2電極触媒層38は、カーボンブラック等の触媒担体に白金等の触媒金属を担持してなる触媒粒子と、イオン伝導性高分子バインダとを含んで構成されている。なお、前記触媒粒子に代替し、触媒金属の粒子のみからなり、触媒担体を含まない触媒粒子(例えば、白金黒等)を採用するようにしてもよい。また、第1電極触媒層30及び第2電極触媒層38のそれぞれは、組成の異なる2層以上の触媒層から構成されていてもよい。第1電極触媒層30が第2電極触媒層38よりも薄く形成されていてもよく、第1電極触媒層30と第2電極触媒層38の外形寸法が互いに異なっていてもよい。
第1電極触媒層30及び第2電極触媒層38は、電解質膜24に接合して設けられ、外形寸法が該電解質膜24に比して小さく設定される。なお、第1電極触媒層30又は第2電極触媒層38と、電解質膜24とを略同等の外形寸法に設定することも可能である。
第1ガス拡散層32及び第2ガス拡散層40は、例えば、多数の繊維状カーボンがセルロース質に含有されることで構成されたカーボンペーパを基材とする。この基材に、例えば、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)等からなる撥水性樹脂を含有させた構成としてもよい。第1ガス拡散層32及び第2ガス拡散層40の外形寸法は、第1電極触媒層30及び第2電極触媒層38に比して大きく設定される。なお、第1ガス拡散層32及び第2ガス拡散層40と、第1電極触媒層30及び第2電極触媒層38とを略同等の外形寸法に設定することも可能である。
第1多孔質層34及び第2多孔質層42は、電子伝導性物質と撥水性樹脂とを含む多孔質性の層であり、該電子伝導性物質に基づいて導電性を示す。この電子伝導性物質の好適な例としては、ファーネスブラック(ケチェン・ブラック社製「ケチェンブラックEC」及び「ケチェンブラックEC−600JD」、Carbot社製「バルカンXC−72」、東海カーボン社製「トーカブラック」、旭カーボン社製「旭AX」等;いずれも商品名)、アセチレンブラック(電気化学工業社製「デンカブラック」等;商品名)、グラッシーカーボンの粉砕品、気相法炭素繊維(昭和電工社製「VGCF」及び「VGCF−H」等;いずれも商品名)、カーボンナノチューブ、及びこれらを黒鉛化処理した粉末を単独又は2種以上混合したものが挙げられる。
一方の撥水性樹脂の素材としては、ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、PVF(ポリフッ化ビニル)、ECTFE(クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)をはじめとする結晶性フッ素樹脂や、旭硝子社製の「ルミフロン」及び「サイトップ」(いずれも商品名)等の非晶質フッ素樹脂、及びシリコーン樹脂等が例示され、これらを単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
上記したように、互いに略同等の外径寸法に設定された第1多孔質層34と第1ガス拡散層32とが重畳されて第1重畳体35が構成されている。同様に、互いに略同等の外径寸法に設定された第2多孔質層42と第2ガス拡散層40とが重畳されて第2重畳体43が構成されている。
この第1重畳体35は、第2重畳体43に比して透水圧が大きく、且つ第1重畳体35の透水圧が25〜120kPaとなり、第2重畳体43の透水圧が5〜25kPaとなるように設定されている。第1重畳体35及び第2重畳体43は、各々の最大細孔径、平均細孔径、細孔径分布、気孔率、厚み、第1多孔質層34及び第2多孔質層42中の電子伝導性物質及び撥水性樹脂の種類や量(固形分濃度)等が適宜調整されることによって、上記の通り透水圧を設定することができる。
上記の気孔率は10〜80%の範囲内で調整されることが好ましく、20〜50%の範囲内で調整されることが一層好ましい。また、上記の厚みは、10〜50μmの範囲内で調整されることが好ましい。これらの場合、第1重畳体35及び第2重畳体43の透水圧を一層適切に設定することが可能になる。
第1電極触媒層30及び第2電極触媒層38は、上記の通り、電解質膜24、第1ガス拡散層32及び第2ガス拡散層40に比して外形寸法が小さく設定されている。このため、電解質膜24の外周縁部は、第1電極触媒層30及び第2電極触媒層38の外周から外部に露呈する。この露呈部分と、第1ガス拡散層32及び第2ガス拡散層40との間には、それぞれ第1多孔質層34及び第2多孔質層42が介在する。
すなわち、第1多孔質層34は、第1電極触媒層30と第1ガス拡散層32との間、及び電解質膜24と第1ガス拡散層32との間に介在する。また、第2多孔質層42は、第2電極触媒層38と第2ガス拡散層40との間、及び電解質膜24と第2ガス拡散層40との間に介在する。これによって、第1ガス拡散層32及び第2ガス拡散層40を構成する繊維が、電解質膜24(特に電解質膜24の外周縁部)に突き刺さることを回避できる。また、電解質膜24が物理的に変形することを抑制できる。
また、電解質膜24の外周縁部のうち、さらに第1重畳体35及び第2重畳体43の外周から外部に露呈する部分のアノード側セパレータ14に臨む側の面には、額縁形状をなす第1絶縁シート36が当接するように設けられる。同様に、前記露呈する部分のカソード側セパレータ16に臨む側の面には、額縁形状をなす第2絶縁シート44が当接するように設けられる。
第1絶縁シート36及び第2絶縁シート44は、ガス不透過性を有し、例えば、PEN(ポリエチレンナフタレート)製の略平坦なフィルム等で構成される。また、第1絶縁シート36の厚みと第1重畳体35の厚みは略同等であるため、第1絶縁シート36及び第1重畳体35(第1ガス拡散層32)の面同士が面一の状態で、アノード側セパレータ14に当接している。同様に、第2絶縁シート44及び第2重畳体43(第2ガス拡散層40)の面同士が面一の状態で、カソード側セパレータ16に当接している。
このように、第1絶縁シート36及び第2絶縁シート44を設けることによって、アノード電極26とカソード電極28との間で反応ガスが移動して混在してしまうことや、アウトリークが起こることを効果的に回避できる。
アノード側セパレータ14及びカソード側セパレータ16には、それぞれ、第1ガス拡散層32、第2ガス拡散層40の縁部を囲繞するようにしてシール部材46、48が設けられる。これらシール部材46、48により、アウトリークを有効に防止することができる。
以降の説明では、第1電極触媒層30と第2電極触媒層38とを特に区別しないとき、これらを総称して電極触媒層ともいう。同様に、第1ガス拡散層32と第2ガス拡散層40についてガス拡散層、第1多孔質層34と第2多孔質層42について多孔質層、第1重畳体35と第2重畳体43について重畳体ともいう。
次に、上記した電解質膜・電極構造体12を作製する方法について説明する。
電解質膜・電極構造体12を作製するに際しては、はじめに、前述した陽イオン交換樹脂に属してプロトン伝導性を備えるポリマーから選択したポリマーを長方形のシート形状として電解質膜24を作製する。
そして、この電解質膜24の一方の面に第1電極触媒層30を形成し、且つ他方の面に第2電極触媒層38を形成する。具体的には、先ず、電解質膜24に用いたポリマーと同種のポリマーの溶液(高分子電解質)中に、前記触媒粒子及び有機溶媒を添加、混合することにより触媒ペーストを調製する。
次に、この触媒ペーストを、PTFE等から形成したフィルムの一方の面上に所定量塗布する。そして、前記フィルムにおける触媒ペーストを塗布した面を電解質膜24の一方の面に対して熱圧着する。その後、フィルムを剥離すれば、触媒ペーストが電解質膜24の一方の面に転写される。これによって、第1電極触媒層30を形成することができる。また、電解質膜24の他方の面に対しても同様にして、前記触媒ペーストを転写することで、第2電極触媒層38を形成することができる。
これとは別に、第1ガス拡散層32上に第1多孔質層34を形成して第1重畳体35を得るとともに、第2ガス拡散層40上に第2多孔質層42を形成して第2重畳体43を得る。
具体的には、例えば、前記電子伝導性物質と、前記撥水性樹脂とを、エタノール、プロパノール、エチレングリコール等の有機溶媒中で混合することにより多孔質層用ペーストを調製する。そして、この多孔質層用ペーストの所定量を、第1ガス拡散層32上に塗布した後、熱処理することで第1多孔質層34を形成する。これによって、第1重畳体35を得ることができる。
同様に、前記多孔質層用ペーストの所定量を、第2ガス拡散層40上に塗布した後、熱処理することで第2多孔質層42を形成する。これによって、第2重畳体43を得ることができる。なお、第1重畳体35と第2重畳体43とは、互いに組成が異なるように調整された多孔質層用ペーストから形成されてもよい。
ここで、例えば、第1ガス拡散層32及び第2ガス拡散層40上に塗布する多孔質層用ペーストの塗布量(厚み)及び塗布方法や、該多孔質層用ペーストの有機溶媒に対する電子伝導性物質及び撥水性樹脂の濃度(固形分濃度)等を調整することにより、第1重畳体35及び第2重畳体43の透水圧をそれぞれ上記の範囲内となるように調整することができる。上記の塗布方法としては、スクリーン印刷による方法や、ブレード塗工器を利用する方法等を例示することができる。なお、スクリーン印刷を行って多孔質層を得た場合、ブレード塗工器を用いて得た多孔質層に比べて、気孔率が大きくなる。従って、設定する気孔率に応じて、これらの塗布方法を使い分ければよい。
さらには、第1重畳体35及び第2重畳体43の物性値を調整するべく、第1ガス拡散層32及び第2ガス拡散層40を構成する基材の物性値や、該基材に含浸させる撥水性樹脂の濃度等を調整してもよい。この場合、上記の基材の物性値として、透水圧を2〜20kPaとすることで、第1重畳体35及び第2重畳体43の透水圧等を一層適切に設定することが可能になる。
また、第1多孔質層34及び第2多孔質層42を、シート状成形体として得るようにしてもよい。この場合、有機溶媒に対する電子伝導性物質及び撥水性樹脂の濃度(固形分濃度)が高くなるように前記多孔質層用ペーストを調製した後、溶媒を抽出して延伸処理等を行うことによって、第1多孔質層34及び第2多孔質層42をシート状成形体として形成する。なお、複数のシート状成形体を積層して第1多孔質層34及び第2多孔質層42の各々を構成してもよい。
そして、シート状成形体として得られた第1多孔質層34及び第2多孔質層42を、第1ガス拡散層32、第2ガス拡散層40の各々に重畳する。この状態で、加圧及び加熱(ホットプレス)することにより、第1ガス拡散層32と第1多孔質層34とを熱圧着して第1重畳体35を得ることができ、第2ガス拡散層40と第2多孔質層42とを熱圧着して第2重畳体43を得ることができる。
以上のようにして得られた、第1重畳体35及び第2重畳体43を、第1多孔質層34、第2多孔質層42の各々が第1電極触媒層30、第2電極触媒層38に対向するように重畳して熱圧着等により一体化する。これにより、電解質膜・電極構造体12が得られるに至る。
この際、上記した通り、第1多孔質層34が、第1ガス拡散層32と第1電極触媒層30の間、第1ガス拡散層32と電解質膜24との間に介在する。これによって、第1重畳体35及び第2重畳体43に熱圧着による荷重が付加されても、第1ガス拡散層32の繊維が電解質膜24に突き刺さることを回避でき、電解質膜24が物理的に変形することを抑制できる。
そして、アノード側セパレータ14とカソード側セパレータ16で電解質膜・電極構造体12を挟持することにより、燃料電池10が構成される。
本実施形態に係る電解質膜・電極構造体12を組み込んだ燃料電池10は、基本的には以上のように構成されるものであり、次に、その作用効果につき説明する。
燃料電池10を発電させるに際しては、酸化剤ガス入口連通孔に酸素含有ガス等の酸化剤ガスが供給されるとともに、燃料ガス入口連通孔に水素含有ガス等の燃料ガスが供給される。さらに、冷却媒体入口連通孔に純水やエチレングリコール等の冷却媒体が供給される。
冷却媒体入口連通孔に供給された冷却媒体は、アノード側セパレータ14及びカソード側セパレータ16間に形成された冷却媒体流路22に導入される。この冷却媒体流路22では、冷却媒体が重力方向(図1中矢印C方向)に移動する。従って、冷却媒体は、電解質膜・電極構造体12の発電面全面にわたって冷却した後、冷却媒体出口連通孔に排出される。
酸化剤ガスは、酸化剤ガス入口連通孔からカソード側セパレータ16の酸化剤ガス流路20に導入される。酸化剤ガスは、酸化剤ガス流路20に沿って矢印B方向に流通し、電解質膜・電極構造体12のカソード電極28に沿って移動する。
一方、燃料ガスは、燃料ガス入口連通孔からアノード側セパレータ14の燃料ガス流路18に導入される。この燃料ガス流路18では、燃料ガスが矢印B方向に流通することにより、電解質膜・電極構造体12のアノード電極26に沿って移動する。
従って、電解質膜・電極構造体12では、アノード電極26に供給されて第1ガス拡散層32、第1多孔質層34を通過した燃料ガスと、カソード電極28に供給されて第2ガス拡散層40、第2多孔質層42を通過した酸化剤ガスとが、第1電極触媒層30及び第2電極触媒層38内で電気化学反応(電極反応)によりそれぞれ消費され、発電が行われる。
一層詳細には、燃料ガス流路18を介して、アノード電極26に供給された燃料ガスが第1ガス拡散層32及び第1多孔質層34を通過した後、該燃料ガス中の水素ガスが第1電極触媒層30で電離し、プロトン(H+)と電子が生成される。電子は、燃料電池10に電気的に接続された外部負荷(図示せず)を付勢するための電気エネルギとして取り出され、一方、プロトンは、電解質膜・電極構造体12を構成する電解質膜24を介してカソード電極28に到達する。なお、プロトンは、電解質膜24に含まれる水を伴って、アノード電極26側からカソード電極28側へ移動する。
カソード電極28の第2電極触媒層38では、前記プロトンと、外部負荷を付勢した後に該カソード電極28に到達した電子と、該カソード電極28に供給されて第2ガス拡散層40及び第2多孔質層42を通過した酸化剤ガス中の酸素ガスとが結合する。この結果、水が生成される。以下、この水を生成水ともいう。
以上の電極反応の最中、電解質膜24に良好なプロトン伝導性を発現させるためには、該電解質膜24を湿潤状態に維持する必要がある。その一方で、生成水等が第1電極触媒層30及び第2電極触媒層38や、第1ガス拡散層32及び第2ガス拡散層40の細孔内に滞留すると、反応ガスの流路が閉塞されてフラッディングが生じ、電極反応の進行が阻害される懸念がある。このため、アノード電極26及びカソード電極28には、電解質膜24を湿潤状態に保つための保水性と、反応ガスを迅速に拡散させるための排水性という、互いに相反する特性が適切に均衡していることが求められる。
電解質膜・電極構造体12においては、上記したように電解質膜24と第1ガス拡散層32との間に第1多孔質層34が介在し、電解質膜24と第2ガス拡散層40との間に第2多孔質層42が介在している。これによって形成される第1重畳体35及び第2重畳体43はそれぞれ、透水圧の値が上記の範囲となるように設定されている。このため、第1電極触媒層30と第1重畳体35との間、及び第2電極触媒層38と第2重畳体43との間における前記生成水の透水性を調整することができる。
従って、アノード電極26及びカソード電極28の間で、保水性と排水性との均衡を適切に図ることができるため、電解質膜24に良好なプロトン伝導性を発現させることができるとともに、反応ガスの拡散性を向上させて電極反応を促すことができる。ひいては、電解質膜・電極構造体12を備える燃料電池10の発電特性を高めることができる。
以上から、電解質膜・電極構造体12では、上記のように透水圧が設定された重畳体を備えることによって、電解質膜24にガス拡散層の繊維が接触することを適切に回避して、電解質膜24が物理的に変形することを容易に抑制できる。また、アノード電極26及びカソード電極28の各々での発電反応を促して、燃料電池10の発電性能を良好に向上させることができる。
また、電解質膜・電極構造体12では、カソード電極28で生じる発電反応(酸素還元反応)の活性化過電圧を低減させるべく、第1電極触媒層30が、第2電極触媒層38に比して薄く形成されている場合であっても、上記の効果を好適に得ることができる。
第1重畳体35の透水圧は第2重畳体43に比して大きいため、第1多孔質層34は第2多孔質層42に比して気孔率が小さく緻密に形成されている。このため、第1電極触媒層30の厚みが薄い場合であっても、第1ガス拡散層32の繊維等が、第1電極触媒層30を突き抜けて電解質膜24に接触すること等を適切に回避することができる。すなわち、電解質膜24の物理的な変形を効果的に抑制することができる。
一方で、生成水が生じるカソード電極28側では、第2多孔質層42の気孔率が大きく形成されている。このため、フラッディングを抑制して反応ガスのガス拡散性を維持しながら、生成水が第2ガス拡散層40へ過度に透過して電解質膜24が乾燥することを抑制できる。
従って、電解質膜24に物理的な変形が生じることを簡易な構成で効果的に抑制しつつ、アノード電極26及びカソード電極28間の保水性及び排水性の均衡を適切に図って、発電性能を向上させることができる。
なお、本発明は、上記した実施の形態に特に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
[実施例1]
(1) 第1ガス拡散層及び第2ガス拡散層は、互いに同一の構成となるように、それぞれ同様に作製した。具体的には、嵩密度が0.31g/m2、厚みが190μmのカーボンペーパに、三井・デュポンフロロケミカル社製のテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)の分散液「FEP 120−JRB Dispersion」(商品名)を含浸させ、120℃で30分間乾燥させた。この際、カーボンペーパは、該カーボンペーパに対するFEPの乾燥重量が、2.4重量%となるように分散液に含浸させた。
(2) 多孔質層用ペーストAは、昭和電工社製の気相成長カーボン「VGCF」(商品名)を3〜20gと、三井・デュポンフロロケミカル社製のFEP分散液(固形分濃度54%)「FEP120JRB」(商品名)を5〜50gと、エチレングリコールを200gとをボールミルで撹拌して混合することにより調製した。
(3) 前記(1)で作製した第1ガス拡散層上に、前記(2)で調製した多孔質層用ペーストAを、第1多孔質層の厚みが18μmとなるようにブレード塗工器を利用して塗布した。そして、380℃で30分間の熱処理を行うことによって第1多孔質層を形成し、第1重畳体を得た。
(4) 前記(1)で作製した第2ガス拡散層上に、前記(2)で調製した多孔質層用ペーストAをインクとして、第2多孔質層の厚みが18μmとなるようにスクリーン印刷を行った。そして、380℃で30分間の熱処理を行うことによって第2多孔質層を形成し、第2重畳体を得た。
(5) 触媒ペーストは、デュポン社製のイオン伝導性ポリマー溶液「DE2020CS」(商品名)に対し、BASF社製の白金触媒「LSA」(商品名)の重量比が0.1となるように添加し、さらに、ボールミルで撹拌して混合することにより調製した。
(6) PTFEシート上に、前記(5)で調製した触媒ペーストを白金の重量が0.7mg/cm2となるように塗布した後、120℃で60分間の熱処理を行うことにより、第1電極触媒層を電解質膜の一方の面に転写するためのシートを作製した。
(7) PTFEシート上に、前記(5)で調製した触媒ペーストを白金の重量が0.1mg/cm2となるように塗布した後、120℃で60分間の熱処理を行うことにより、第2電極触媒層を電解質膜の他方の面に転写するためのシートを作製した。
(8) 前記(6)及び(7)で作製したシートの触媒ペースト塗布側を、厚み24μm、イオン交換容量1.05meq/gとしたフッ素系の電解質膜の面に熱圧着させた後、PTFEシートを剥離した。すなわち、デカール法により、電解質膜の一方の面に第1電極触媒層を形成するとともに、他方の面に第2電極触媒層を形成した。
(9) 前記(8)で作製した電解質膜に形成された第1及び第2電極触媒層にそれぞれ、前記(3)で作製した第1重畳体の第1多孔質層及び前記(4)で作製した第2重畳体の第2多孔質層を120℃で面圧30kgf/cm2の条件で熱圧着させた。これによって、電解質膜・電極構造体を作製した。これを実施例1とする。
[実施例2]
前記(3)の工程に代えて、前記(1)で作製した第1ガス拡散層上に、前記(2)で調製した多孔質層用ペーストAを、第1多孔質層の厚みが30μmとなるようにブレード塗工器を利用して塗布した。それ以外は実施例1と同様にして、電解質膜・電極構造体を得た。これを実施例2とする。
[実施例3]
前記(4)の工程に代えて、前記(1)で作製した第2ガス拡散層上に、前記(2)で調製した多孔質層用ペーストAをインクとして、第2多孔質層の厚みが30μmとなるようにスクリーン印刷を行った。それ以外は実施例1と同様にして、電解質膜・電極構造体を得た。これを実施例3とする。
[実施例4]
前記(3)の工程に代えて、前記(1)で作製した第1ガス拡散層上に、前記(2)で調製した多孔質層用ペーストAを、第1多孔質層の厚みが20μmとなるようにブレード塗工器を利用して塗布した。また、前記(4)の工程に代えて、前記(1)で作製した第2ガス拡散層上に、前記(2)で調製した多孔質層用ペーストAを、第2多孔質層の厚みが5μmとなるようにブレード塗工器を利用して塗布した。それ以外は実施例1と同様にして、電解質膜・電極構造体を得た。これを実施例4とする。
[実施例5]
前記(3)の工程に代えて、前記(1)で作製した第1ガス拡散層上に、前記(2)で調製した多孔質層用ペーストAを、第1多孔質層の厚みが20μmとなるようにブレード塗工器を利用して塗布した。また、前記(4)の工程に代えて、前記(1)で作製した第2ガス拡散層上に、前記(2)で調製した多孔質層用ペーストAを、第2多孔質層の厚みが17μmとなるようにブレード塗工器を利用して塗布した。それ以外は実施例1と同様にして、電解質膜・電極構造体を得た。これを実施例5とする。
[実施例6]
前記(3)の工程に代えて、前記(1)で作製した第1ガス拡散層上に、前記(2)で調製した多孔質層用ペーストAを、第1多孔質層の厚みが35μmとなるようにブレード塗工器を利用して塗布した。それ以外は実施例1と同様にして、電解質膜・電極構造体を得た。これを実施例6とする。
[実施例7]
前記(3)の工程に代えて、前記(1)で作製した第1ガス拡散層上に、前記(2)で調製した多孔質層用ペーストAを、第1多孔質層の厚みが40μmとなるようにブレード塗工器を利用して塗布した。それ以外は実施例1と同様にして、電解質膜・電極構造体を得た。これを実施例7とする。
[比較例1]
前記(3)の工程に代えて、前記(1)で作製した第1ガス拡散層上に、前記(2)で調製した多孔質層用ペーストAをインクとして、第1多孔質層の厚みが18μmとなるようにスクリーン印刷を行った。それ以外は実施例1と同様にして、電解質膜・電極構造体を得た。これを比較例1とする。
[比較例2]
前記(3)の工程に代えて、前記(1)で作製した第1ガス拡散層上に、前記(2)で調製した多孔質層用ペーストAを、第1多孔質層の厚みが15μmとなるようにブレード塗工器を利用して塗布した。それ以外は実施例1と同様にして、電解質膜・電極構造体を得た。これを比較例2とする。
[比較例3]
前記(3)の工程に代えて、前記(1)で作製した第1ガス拡散層上に、前記(2)で調製した多孔質層用ペーストAを、第1多孔質層の厚みが17μmとなるようにブレード塗工器を利用して塗布した。それ以外は実施例1と同様にして、電解質膜・電極構造体を得た。これを比較例3とする。
[比較例4]
前記(3)の工程に代えて、前記(1)で作製した第1ガス拡散層上に、前記(2)で調製した多孔質層用ペーストAを、第1多孔質層の厚みが17μmとなるようにブレード塗工器を利用して塗布した。また、前記(4)の工程に代えて、前記(1)で作製したガス拡散層上に、前記(2)で調製した多孔質層用ペーストAをインクとして、第2多孔質層の厚みが30μmとなるようにスクリーン印刷を行った。それ以外は実施例1と同様にして、電解質膜・電極構造体を得た。これを比較例4とする。
[比較例5]
前記(2)の工程に代えて、多孔質層用ペーストBを、Cabot社製のカーボン「Vulcan XC72R」(商品名)を12gと、三井・デュポンフロロケミカル社製のFEP分散液(固形分濃度54%)「FEP120JRB」(商品名)を20gと、エチレングリコールを155gとをボールミルで撹拌して混合することにより調製した。
また、前記(3)の工程に代えて、前記多孔質層用ペーストBをインクとして、前記(1)で作製した第1ガス拡散層上に、厚みが20μmとなるようにスクリーン印刷を行った。それ以外は実施例1と同様にして、電解質膜・電極構造体を得た。これを比較例5とする。
[比較例6]
前記(3)の工程に代えて、前記(1)で作製した第1ガス拡散層上に、前記(2)で調製した多孔質層用ペーストAを、第1多孔質層の厚みが20μmとなるようにブレード塗工器を利用して塗布した。また、前記(4)の工程に代えて、前記(1)で作製した第2ガス拡散層上に第2多孔質層を形成しなかった。それ以外は実施例1と同様にして、電解質膜・電極構造体を得た。これを比較例6とする。すなわち、比較例6の電解質膜・電極構造体におけるカソード電極は、第2重畳体の代わりに第2ガス拡散層を備える。
[比較例7]
前記(3)の工程に代えて、前記(1)で作製した第1ガス拡散層上に、前記(2)で調製した多孔質層用ペーストAを、第1多孔質層の厚みが20μmとなるようにブレード塗工器を利用して塗布した。また、前記(4)の工程に代えて、前記(1)で作製した第2ガス拡散層上に、前記(2)で調製した多孔質層用ペーストAを、第2多孔質層の厚みが20μmとなるようにブレード塗工器を利用して塗布した。それ以外は実施例1と同様にして、電解質膜・電極構造体を得た。これを比較例7とする。
[比較例8]
前記(3)の工程に代えて、前記(1)で作製した第1ガス拡散層上に、前記(2)で調製した多孔質層用ペーストAを、第1多孔質層の厚みが45μmとなるようにブレード塗工器を利用して塗布した。それ以外は実施例1と同様にして、電解質膜・電極構造体を得た。これを比較例8とする。
上記の実施例1〜7及び比較例1〜8の電解質膜・電極構造体について、第1重畳体及び第2重畳体の透水圧[kPa]を求めた。また上記の実施例1〜3及び比較例1〜5の電解質膜・電極構造体について、電解質膜の厚みの分散(膜厚分散)を求めた。このうち、実施例1〜3及び比較例1〜5の電解質膜・電極構造体の結果について、上記の多孔質層の作製条件とともに図2に示す。
重畳体の透水圧は、PMI社(Porous Material,Inc)製のパームポロメータを用いて求めた。具体的には、先ず、重畳体を直径1インチの円形状に打ち抜いて測定試料を作製する。この測定試料の多孔質層上に、純水を滴下することによって水膜を形成し、パームポロメータにより、この水膜に対して徐々に空気圧を付加する。そして、純水が測定試料を透過し始めるのに必要な最低圧力を測定することで、重畳体の透水圧が算出される。
電解質膜の膜厚分散は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて求めた。具体的には、電解質膜について、5mmの直線範囲を測定区間とし、この測定区間内で膜厚を10μm間隔で500点測定した。そして、この測定結果から、次式(1)によって、電解質膜の膜厚分散Q(X)を算出した。
ただし、E(X)は500点の膜厚測定値の平均の関数(期待値)であり、E(X2)は500点の膜厚測定値の2乗平均の関数(期待値)である。なお、Q(X)の単位はμm2である。
Q(X)=E(X2)−(E(X))2 ……(1)
図2から、第1重畳体の透水圧が25kPa以上であるとき、電解質膜の膜厚分散を1.0より小さく抑制できることが分かる。すなわち、上記の通り、第1電極触媒層が薄く、電解質膜に物理的変形を与えやすいアノード電極側について、第1重畳体の透水圧を25kPa以上とすることで、電解質膜の厚みのバラツキを適切に低減できる。つまり、電解質膜の物理変形を効果的に抑制できる。
また、実施例1〜7及び比較例6〜8の電解質膜・電極構造体を用いてセルを作製し、該セルの燃料ガス及び酸化剤ガスのガス圧をともに100kPaとした際のセル電圧V100(V)と、前記ガス圧を200kPaとした際のセル電圧V200(V)とをそれぞれ求めた。さらに、セル電圧V200とセル電圧V100との差からセル電圧差ΔV(V200−V100)を求めた。
具体的な発電条件は、発電温度;50℃、相対湿度(RH);燃料ガス50%及び酸化剤ガス100%、ガス利用率;燃料ガス70%及び酸化剤ガス60%、出力電流密度;1.0A/cm2とした。また、前記セル電圧V100及びセル電圧V200は、それぞれ上記のガス圧を10分間保持した際の、最終の1分間の平均値である。
このようにして求めた、ガス圧100kPaのセル電圧(V100)及びセル電圧差ΔVを上記の多孔質層の作成条件及び透水圧とともに図3に示す。
図3から、第1重畳体の透水圧が120kPa以下であり、且つ第2重畳体の透水圧が5〜25kPaであるとき、セル電圧V100を0.70V以上とすることができ、良好な発電性能が得られることが分かる。さらに、重畳体の透水圧が上記の範囲内であるとき、ガス圧を上昇させることに伴って、セル電圧も上昇することが諒解される。すなわち、重畳体の透水圧を上記の範囲内とすることで、ガス圧を上昇させても、フラッディングを生じさせず、発電反応を促進することができる。
以上の結果から、第2重畳体に比して第1重畳体の透水圧を大きく、且つ第1重畳体の透水圧が25〜120kPaとなり、第2重畳体の透水圧が5〜25kPaとなるように設定することで、電解質膜の膜厚分散を小さく、換言すれば、電解質膜の物理変形を抑制し得る。これによって、アノード電極及びカソード電極間の物質移動が円滑に行われることとなり、電極反応を効率的に進行させることができるため、燃料電池の発電特性を向上させることができる。また、電解質膜の劣化を抑制することや、反応ガスに対するガスバリア性を向上させることができ、電解質膜・電極構造体の耐久性を向上させることができる。
また、生成水が電極触媒層からガス拡散層に過剰に透過してしまうことや電極触媒層及びガス拡散層付近に滞留してしまうことを抑制できる。すなわち、アノード電極及びカソード電極間の保水性及び排水性の均衡を適切に図って、発電性能を向上させることができる。
10…燃料電池 12…電解質膜・電極構造体
14…アノード側セパレータ 14a、16a…面
16…カソード側セパレータ 18…燃料ガス流路
20…酸化剤ガス流路 22…冷却媒体流路
24…電解質膜 26…アノード電極
28…カソード電極 30…第1電極触媒層
32…第1ガス拡散層 34…第1多孔質層
35…第1重畳体 36…第1絶縁シート
38…第2電極触媒層 40…第2ガス拡散層
42…第2多孔質層 43…第2重畳体
44…第2絶縁シート 46、48…シール部材

Claims (2)

  1. 固体高分子膜からなる電解質膜をアノード電極とカソード電極で挟持して構成される電解質膜・電極構造体であって、
    前記アノード電極は、前記電解質膜に臨む第1電極触媒層と、第1ガス拡散層と、前記第1電極触媒層及び前記第1ガス拡散層の間に介在して該第1ガス拡散層に直接接触する第1多孔質層とを有し、
    前記カソード電極は、前記電解質膜に臨む第2電極触媒層と、第2ガス拡散層と、前記第2電極触媒層及び前記第2ガス拡散層の間に介在して該第2ガス拡散層に直接接触する第2多孔質層とを有し、
    前記第1ガス拡散層と前記第1多孔質層とを重畳した第1重畳体は、前記第2ガス拡散層と前記第2多孔質層とを重畳した第2重畳体に比して、透水圧が大きく、
    前記第1多孔質層は、前記第2多孔質層に比して気孔率が小さく緻密に形成され、
    前記第1重畳体の透水圧が25〜120kPaであり、前記第2重畳体の透水圧が5〜25kPaであることを特徴とする電解質膜・電極構造体。
  2. 請求項1記載の電解質膜・電極構造体において、前記第1多孔質層の厚みが、前記第2多孔質層の厚み以上であることを特徴とする電解質膜・電極構造体。
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