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JP6103893B2 - コーヒーオイルの製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、焙煎したコーヒー豆の粉砕物のスラリーから気−液向流接触抽出法でコーヒーアロマを抽出した後の残留物である脱アロマコーヒースラリーから香味に優れるコーヒーオイルを効率的に製造する方法に関する。
コーヒーは世界中で最も消費されている飲料の一つであり、その香りが持つリラックス効果やカフェインの覚醒作用などから家庭や職場で広く愛好され、日常生活に欠かせないものとなっている。
飲料市場においては缶、ペットボトル、チルドカップなどに充填された、購入後にそのまま飲めるいわゆるRTD(Ready To Drink)コーヒーが販売されており、茶飲料、炭酸飲料とともに大きな市場を形成している。
消費者の嗜好性の多様化に伴い、様々な風味特徴のRTDコーヒー商品が開発されている。コーヒー飲料の風味の構築には、使用するコーヒー豆は言うまでもなく、その他の原材料の種類や量のバランスが重要であり、なかでも香料は飲料の風味を調整するうえで大きな役割を担っている。
一般に、香料の風味は、天然香料と合成香料を組み合わせることによって構築されることが多い。したがって広い消費者ニーズにこたえるためには多様な風味特性を有した香料素材を持ち合わせることが望ましい。
天然香料は水に対する溶解性から水溶性素材と油溶性素材に大別できる。前者を得る製法には、水蒸気蒸留法、水やエタノールなどの極性溶媒を用いて抽出する方法、気−液向流接触抽出法が一般的であり、後者には非極性溶媒を用いて抽出する方法、超臨界二酸化炭素抽出法、圧搾抽出などが知られている。
これらは、それぞれの製法によって得られる風味や物性が異なるため、求める風味や使用形態に応じて選択されるが、今日のRTDコーヒー市場にみられる多種多様な風味を表現するには必ずしも十分とは言えないのが現状である。
また油溶性のコーヒー天然香料には、難溶性の析出物が生じることが多く、香料組成物に配合する際、加温溶解や混合撹拌、濾過といった工程を加える必要があり、こうした煩雑な工程が使用の制約になる場合が多かった。
ところで、コーヒー豆は栽培に適した気候や地質条件が限られ、大規模産地は「コーヒーベルト」と呼ばれる北緯25度から南緯25度の低緯度地域に集中している。
一方で、これまで発展途上国とされてきた国々の急速な経済成長に伴い、コーヒー豆の供給量の逼迫が予想されている。
そのため、限られた天然資源の有効利用のためコーヒーの成分を可能な限り抽出し有効利用する技術が望まれており、すでにコーヒー豆から効率的に有効成分を回収する方法がいくつか知られている。
たとえば特許文献1では、粉砕コーヒー豆を水蒸気蒸留する際に、通常は排気されて利用されていないアロマガスを有機合成吸着剤に吸着させ、次いで溶媒で溶出させて回収する方法が開示されている。
また特許文献2には、粉砕コーヒー豆を熱水にて抽出して抽出液を得、別途抽出残渣から水蒸気蒸留によって香気成分を回収し、前記抽出液と合わせエキスとする製造方法が開示されている。
特許文献3では、粉砕コーヒー豆の香気をストリッピング処理してアロマ含有画分を回収し、ストリッピング処理後のスラリーを精製したものと合わせ、エキスとして利用することが開示されている。
前記特許文献3では、該ストリッピング処理後のスラリーを精製する工程で得られるコーヒーオイル含有液をコーヒーエキスに使用する旨が記載されている(第12頁第46行〜第13頁第6行)。さらに、該コーヒーオイル含有液から溶剤抽出や超臨界流体抽出法などでコーヒーオイルを抽出して用いることもできるという示唆はあるものの(第13頁第7〜9行)、具体的な抽出方法や条件等については一切言及されていなかった。
なお、本発明者らによる追試によれば、該コーヒーオイル含有液中のコーヒーオイルは強く乳化されており、コーヒーオイルを有機溶媒で抽出することは極めて困難であった。
特開2007−321017号公報 特許第2813178号公報 特許第4682143号公報 特開昭61−274705号公報
特許庁 標準技術集「香料」(平成18年度)、2-1-2-2 水蒸気蒸留 (http://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/hyoujun_gijutsu/kouryou/2-1-2.pdf)
従って、本発明の目的は、これまで有効利用することが難しかった、気−液向流接触抽出法でコーヒー豆からコーヒーアロマを抽出した後の脱アロマスラリーから経済的にコーヒーオイルを得る方法を提供することであり、またそのコーヒーオイルが持つ極めて良好な風味特徴を生かし、風味の優れた飲食品を提供することである。
本発明者らは前記の課題を解決すべく研究を行った結果、気−液向流接触抽出装置、特にスピニングコーンカラム(SCC)抽出装置にてコーヒー液をストリッピング処理に付して水蒸気でコーヒー液中のアロマ成分を抽出した後の脱アロマコーヒースラリーを遠心分離して、得られる乳化状コーヒーオイル含有液からコーヒーオイルを極めて効率的に回収する方法を見出した。
さらに回収したコーヒーオイルの効果について詳細に検討した結果、当該コーヒーオイルが従来の素材にはない風味を有するものであることを見出すに至った。また驚くべきことに、回収したコーヒーオイルを乳化物に製剤化して用いることで、さらにその風味特性が良好なものとなることを見出し、本発明を完成した。
すなわち本発明は、以下の様に構成される。
〔I〕(a)焙煎コーヒー豆粉砕物のスラリーを気−液向流接触抽出法によりストリッピング処理してコーヒーアロマと脱アロマコーヒースラリーに分離する工程、(b)工程(a)で得られた脱アロマコーヒースラリーから乳化状コーヒーオイル含有液を分離する工程、(c)工程(b)で得られた乳化状コーヒーオイル含有液を解乳化する工程、及び(d)工程(c)で得られた解乳化後のコーヒーオイル含有液からコーヒーオイルを分離する工程、を含むコーヒーオイルの製造方法、である。
そして、上記の製造方法において、
工程(a)に記載の気−液向流接触抽出法によるストリッピング処理がスピニングコーンカラム(SCC)抽出装置を用いた処理であること;
工程(b)の乳化状コーヒーオイル含有液を分離する工程が、該スラリーを分離板型遠心分離装置又は円筒型遠心分離装置のいずれかに供するものであること;
工程(c)の乳化状コーヒーオイル含有液を解乳化する方法が、該コーヒーオイル含有液を一旦凍結させその後解凍する方法であること;
工程(d)の解乳化後のコーヒーオイル含有液からコーヒーオイルを分離する方法が、前記工程(c)の解乳化後のコーヒーオイル含有液に対し、エチルメチルケトン、酢酸エチル、酢酸メチル、ジエチルエーテル、シクロヘキサン、ジクロロメタン及びヘキサンからなる群より選ばれる1つ又は2つ以上の有機溶媒を加えて撹拌抽出し、さらに有機溶媒層を減圧濃縮することにより有機溶媒を留去する方法であること;
工程(d)の解乳化後のコーヒーオイル含有液からコーヒーオイルを分離する方法が、前記工程(c)の解乳化後のコーヒーオイル含有液から水層を分離除去し、さらにオイル層に残存する水分を減圧留去する方法であること;
を特徴とする。
〔II〕本発明は、上記の製造方法で得られるコーヒーオイルと水を乳化剤及び糖アルコールと混合して乳化物としたコーヒーオイル乳化物である。
〔III〕本発明は上記の製造方法で得られるコーヒーオイル又はコーヒーオイル乳化物を含む香料組成物である。
〔IV〕上記の香料組成物を添加したことを特徴とする飲食品である。
〔V〕本発明は上記の香料組成物を飲食品に添加することを特徴とするコーヒー香味の付与又は増強方法である。
本発明によれば、穀物様のオフフレーバーの存在によりこれまで有効に活用されていなかった焙煎コーヒー豆粉砕物のスラリーに含まれるコーヒーアロマを気−液向流接触抽出法で抽出した後の脱アロマスラリーから、不快な香味が除かれ、良好な風味だけを有する、従来にないコーヒーオイルを得ることができる。さらに、このコーヒーオイルを飲食品に添加することで風味に優れた飲食品を得ることができる。
本発明におけるコーヒーオイルの製造の工程図である。
以下、本発明について詳細に説明する。
<I> コーヒーオイルの製造方法
〔1〕焙煎コーヒー豆粉砕物のスラリー
焙煎したコーヒー豆粉砕物の粒子が水等の液体に分散している懸濁液(=スラリー)を後述の気−液向流接触抽出装置に供給してストリッピング(揮発性成分の放散)処理を行う。
本発明で使用するコーヒー豆は特に制限がなく、いずれの品種、産地のものであっても使用できる。
コーヒーの代表的な品種としてアラビカ種とロブスタ種があり、代表的産地は南米のブラジルやコロンビアである。銘柄ではブラジルのサントス、コロンビアのメデリン、アラビアのモカ、スマトラのマンデリン、ジャマイカのブルーマウンテン、タンザニヤのキリマンジャロ、ハワイのコナが有名である。
また、コーヒー生豆の焙煎方法にも特に制限はなく、直火焙煎、熱風焙煎、遠赤外線焙煎、マイクロ波焙煎など、種々の焙煎方法を用いることができる。
焙煎度も自由に選択できるが、本発明においてはコーヒー由来の油分が抽出しやすくなることからL値が20以下、より好ましくは18以下の豆を用いるのが好ましい。
なお、L値での焙煎色とは、焙煎されたコーヒー豆の粉砕サンプルを、ダブルビーム方式(交照測光方式)を採用する色差計(例えば、日本電色工業株式会社製の「ZE2000」など)を用いた反射測定から算出される焙煎色を意味する。具体的には、標準白板の反射率を100とした時の試料の反射率をいう。L値が低いほど焙煎色は暗色、すなわち深煎りであることを示す。
焙煎豆の粉砕度については、特に制限はないが一般に粒度が小さい方が水や有機溶媒水溶液との接触面積が大きくなるため抽出には有利であり、好ましくは2mm以下、より好ましくは1mm以下の粉砕度のものが用いられる。
焙煎コーヒー豆の粉砕は、水等の液体中で焙煎コーヒー豆を粉砕する「湿式粉砕」が好ましい。例えば、焙煎コーヒー豆と液体とを粉砕機に同時に導入して、これらが混合した状態で連続的に粉砕する方法が好ましい。使用する粉砕機として、フィッツミル(FITZPATRICK社製)やコミトロール(アーシェル社製)を挙げることができる。
上記焙煎コーヒー豆粉砕物に液体を添加してスラリーを形成するが、その際の液体として、水道水、イオン交換水の他、エタノール等の有機溶媒水溶液を例示することができる。
焙煎コーヒー豆粉砕物と液体とを含むスラリー中の焙煎コーヒー豆粉砕物の濃度は、スラリー全重量に対して5〜25重量%の範囲内が好ましく、特に好ましくは10〜20重量%の範囲内である。
〔2〕気−液向流接触抽出法によるストリッピングを行う工程
本発明に適用する気−液向流接触抽出法は既存技術の一つであり、用いる装置としては、上記の抽出用原料である液状スラリーと水蒸気等の気体を向流的に接触させ、スラリーに含まれるコーヒー香気成分を水蒸気で気相中に放散させる(=ストリッピング)仕組みの装置であれば特に制限はない。例えば、特許文献4や非特許文献1に記載されているような水蒸気蒸留装置の一種であるスピニングコーンカラム(SCC)装置を用いて抽出する方法であれば、連続操作ができるなど作業性の面から好ましい。
当該方法を行うことができる装置の例として、オーストラリア国・フレイバーテック社製のSCC(Spinning Cone Column)などを挙げることができる。
以下にSCC装置を用いて香気成分を回収する手段を具体的に説明する。
まず、回転円錐と固定円錐が交互に組み合わせられた構造を有するSCC装置の回転円錐上に、焙煎コーヒー豆粉砕物と水とを混合した液状又はペースト状のスラリーを上部から流下させる。そして、下部から水蒸気を上昇させると、水蒸気と前記スラリーは向流的に接触し、焙煎コーヒー豆由来のアロマ成分が水蒸気に抽出される。
カラム内を上昇した水蒸気はコンデンサーで冷却され、コーヒーアロマ成分を含む水層が得られる。
一方、アロマ成分が除去されたコーヒースラリーはSCC装置の底部から装置外に排出される。
本発明におけるSCC装置の運転条件は任意に選択できるが、具体例を以下に示す。
原料供給流量:300〜800Kg/時
水蒸気供給量:6〜120Kg/時
ナチュラルフレーバー回収量:4〜100Kg/時
原料供給温度:40〜100℃
真空度:大気圧〜−93kPa
〔3〕乳化状コーヒーオイル含有液を分離する工程
前記のSCC抽出で得られる残留物の脱アロマコーヒースラリー中には、大小のコーヒー豆残渣が多く含まれている。そこで、前工程と本工程の間で固液分離処理を行ってスラリー中の粒度の大きなコーヒー豆残渣を除去しておくことが好ましい。
本工程では、脱アロマコーヒースラリーからコーヒー豆微粉とコーヒーエキス層を除去して乳化状コーヒーオイル含有液を分離する。
分離方法は、好ましくは遠心分離(遠心沈降)装置を使用して脱アロマスラリーを遠心分離することによって行う。
遠心分離装置は任意のものを選択できるが、作業効率の観点から連続操作が可能なものが望ましく、中でも、コーヒー豆微粉、コーヒーエキス層及び乳化状コーヒーオイル含有液の3層に分離が可能な円筒型遠心分離機や分離板型遠心分離機が好ましい。
一般に、円筒型は直径5〜15cmの細長い円筒を回転数10000〜20000/分で回転し、スラリーを円筒底部より供給すると上昇する間に重液は円筒壁の方へ軽液は中心部の方へ分けられ、それぞれ円筒上部の出口から溢流する構造を有し、遠心効果が大である。代表的な機種として、米国・シャープレス社で開発されたシャープレス型遠心分離機がある。
分離板型は、多数の円錐台形の分離板を数mm間隔で積み重ねて沈降面積の増大をはかり、回転数は3000〜15000/分である。スラリーは中心軸上部より供給され、底部から分離板の間に入り込む。重たい液は分離板の下方を通り円筒壁に沿って上昇し、軽い液は中心軸付近を上昇してそれぞれの出口から排出される。例えば、ドラバル型遠心分離機がこれに属する。
本工程をより具体的に説明すれば、以下の通りである。
ストリッピング処理及び高温処理を経たコーヒースラリーから固液分離により比較的大きなコーヒー豆残渣(かす)を分離除去する。分離方法は特に限定されず、粗濾過、振動ふるい、スクリュープレス、スクリューデカンタ、などを適宜使用することができるが、遠心分離により固液分離を行うのが操作上簡便である。遠心分離機としては、例えばアルファラバル社製の機種「FOODEC300」を使用することができる。
固液分離されたコーヒースラリーは豆微粉末、オイル、エキス分が含まれる混合物である。そこで、スラリーを遠心分離することで不溶性のコーヒー豆微粉(スラッジ)、乳化状コーヒーオイル含有液、コーヒーエキスの三層に分離する。遠心分離機としては、例えばアルファラバル社製の機種「CRPX918」や「AFPX407」を使用することができる。
〔4〕乳化状コーヒーオイル含有液を解乳化する工程
前記の分離工程で得られたコーヒーオイル含有液は、コーヒーオイルと水とが乳化した状態の乳化液である。静置しておいても油層と水層に分離することがないばかりか、有機溶剤でのコーヒーオイルの抽出も極めて困難である。
しかしながら、乳化液を一旦解乳化、すなわち液−液エマルジョンを破壊して相分離させることでコーヒーオイル回収率は顕著に向上する。
解乳化の手法は設備や経済性を考慮し、一般的な手法の中から適宜選択できるが、一旦凍結し解凍する方法が最も簡便である。
〔5〕コーヒーオイル含有液からコーヒーオイルを分離する工程
解乳化させることで目的のコーヒーオイルの大部分は分離浮上するが、コーヒーオイル層には解乳化されなかった原料の一部が含まれ、そのままでは使用に適さない。それらを除去し清澄なコーヒーオイルのみを得るには次のいずれかの方法で処理する必要がある。
その方法の1つは、前記の解乳化させたコーヒーオイル含有液に有機溶媒を加え、撹拌抽出することにより、コーヒーオイルを得るものである。
より詳しくは、前記の解乳化させたコーヒーオイル含有液1重量部に対し、エチルメチルケトン、酢酸エチル、酢酸メチル、ジエチルエーテル、シクロヘキサン、ジクロロメタン及びヘキサンからなる群より選ばれる1つ又は2つ以上の有機溶媒を0.5〜10重量部、より好ましくは0.5〜5重量部加え、撹拌抽出した後、静置し、清澄な有機溶媒層を得、さらにこれを減圧蒸留して有機溶媒を留去しコーヒーオイルを得る方法である。
使用する有機溶媒としては、水と混ざり合わず、コーヒーオイルを溶解するものであれば特に限定はないが、引火性や吸引時の健康への影響といった作業者の労働安全の面、並びに、わずかに残留する有機溶剤の残香による風味への影響を考慮するとヘキサンが好ましい。
前記解乳化させたコーヒーオイル含有液より清澄なコーヒーオイルを回収するもう一つの方法は、解乳化させたコーヒーオイル含有液の粗コーヒーオイル層を減圧蒸留して残存する水分を留去する方法である。こうすることでオイル層中に分散している少量の乳化物も解乳化し、コーヒーオイル層が清澄化する。
蒸留の条件には特に制約はなく一般的な条件の範囲で実施できる。また、減圧蒸留の前に水層を分離除去しておくと、留去する水分の量が少なく済み、濃縮時間の大幅な短縮につながる。
〔6〕コーヒーオイルを精製する工程
上記の方法で得られるコーヒーオイルには、前工程までに除去できなかったコーヒー豆の微粉末等が沈殿として含まれることがあるので、必要に応じて、固形物を濾別する精製処理を施すことが好ましい。
濾過の方法としては、一般的な手法を用いることができ、すなわち、濾紙や濾布、ステンレス製のメッシュを用いる方法や、珪藻土、セルロースなどに例示される濾過助剤を用いる方法が適用できる。濾過の条件については、コーヒーオイルに含まれる沈殿の大きさや量に応じて適宜選択できる。
また、コーヒーオイルの粘性が高い場合にはコーヒーオイルをアセトン、エチルメチルケトン、酢酸エチル、酢酸メチル、ジエチルエーテル、シクロヘキサン、ジクロロメタン、ヘキサンなどに例示される有機溶媒に溶解させることで濾過性が向上することもあり、作業性やコストに応じて選択し使用することもできる。
〔7〕コーヒーオイルの製剤化
上記の製造方法で得られたコーヒーオイルはそのままコーヒー風味の香料として各種飲食品に添加して使用することができる。
しかしながら、以下のようにコーヒーオイルを乳化物に製剤化することで水溶性が付与され、取扱い性が格段に向上するので好適である。
コーヒーオイル製剤は、前述のコーヒーオイルと水を以下の乳化剤及び糖アルコールと混合して乳化物にしたものである。
乳化剤は、可食性の乳化剤であれば特に限定されることはなく、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、キラヤ抽出物、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン、エンジュサポニン、オオムギ穀皮抽出物、ダイズサポニン、ステロール、スフィンゴ脂質、ステアロイル乳酸カルシウム、胆汁末、チャ種子サポニン、トマト糖脂質、ビートサポニン、ユッカフォーム抽出物などが例示される。好ましくは、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、キラヤ抽出物、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル及びレシチンからなる群より選ばれる1種又は2種以上が用いられる。特に好ましくは、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル及びキラヤ抽出物からなる群より選ばれる1種又は2種以上が用いられる。
糖アルコールは、糖のカルボニル基が還元された多価アルコールであれば特に限定されることはないが、好ましくは、マルチトール、キシリトール、ソルビトール、エリスリトール、ラクチトール、還元パラチノースが例示され、より好ましくは、マルチトール、キシリトール、ソルビトールが例示され、最も好ましくはマルチトールが挙げられる。
コーヒーオイル製剤は、必要に応じて香料成分をはじめとする付加的成分を適宜配合して常法によって混合し調製することができる。具体的には、乳化剤と糖アルコールを水に溶解して水相部を作り、これにコーヒーオイルを混合しホモミキサーによって撹拌してコーヒーオイル乳化物を得ることができる。
<II> コーヒーオイルの使用対象及び使用量
本発明のコーヒーオイル若しくは乳化物であるコーヒーオイル香料製剤又はこれらを含む香料組成物は、容器詰めのコーヒー飲料をはじめとする各種飲食品に、良好なコーヒー風味を付与又は増強するための素材、すなわち香味付与又は増強剤として適している。
香味付与の対象となる飲食品としては、例えば、コーヒー風味の、清涼飲料、乳酸菌飲料、無果汁飲料、果汁入り飲料、などの飲料類、チューハイなどの酒類、スナック類、栄養食品、アイスクリーム、シャーベット等の冷菓類、ゼリー、プリン、羊かん等のデザート類、クッキー、ケーキ、チョコレート、チューイングガム、饅頭等の菓子類、菓子パン、食パン等のパン類、ラムネ菓子、タブレット、錠菓類などを挙げることができる。
本発明のコーヒーオイルは、飲食品に対して、通常は0.005〜0.2質量%添加して用いる。添加濃度が0.005質量%未満であると、コーヒー様の香味を感じなくなる場合があり、一方、添加濃度が0.2質量%を超えると、コーヒーオイルそのものの風味が突出し風味バランスを損なう場合がある。
本発明の効果を十分に発揮するには、添加量を0.01〜0.2質量%にすることが最も望ましい。
コーヒーオイルを乳化物としたコーヒーオイル製剤の場合は、製剤中にコーヒーオイルを約40%配合するので、上記コーヒーオイル添加量の2.5倍が飲食品へ添加量として好適である。
また、コーヒーオイル又はコーヒーオイル乳化物を含む香料組成物の場合、組成物を構成する他の香味料などの種類にもよるが、おおよそ上記のコーヒーオイル添加量の1/100〜100/100倍くらいが適当である。
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例の記載に限定されるものではない。
〔実施例1〕(コーヒーオイルの製造)
L値18に焙煎したブラジル産コーヒー豆100kgに対し900kgのイオン交換水を加えた後、粉砕機に供給して、1mm以下の大きさになるように湿式粉砕し、得られたスラリーを98℃に加温した。
下記の条件にて、スラリーをフレーバーテック社製のスピニングコーンカラム(SCC)抽出装置に供給し水蒸気でストリッピング処理し、装置上部からコーヒーリカバリー50kgを回収した。
原料供給流量:500kg/時
水蒸気供給量:25kg/時
ナチュラルフレーバー回収量:25kg/時
原料供給温度:98℃
真空度:101(大気圧)kPa
SCC装置の底部から排出された脱アロマのコーヒースラリー約1000kgを、連続遠心分離機(アルファラバル社製「FOODEC300」)により遠心分離を行い、コーヒー豆残渣(かす)と粗コーヒーエキスに分離した。
次いで、粗コーヒーエキスを三層分離が可能な分離板型遠心分離装置(アルファラバル社製「CRPX918」)に供して分離処理を行って、コーヒー豆微粉とコーヒーエキスを除去した乳化状態のコーヒーオイル含有液10kgを得た。
得られたコーヒーオイル含有液を−20℃の冷凍庫にて凍結させた後、60℃の湯浴で解凍することにより解乳化させ、そのまま60℃で1時間静置することで粗コーヒーオイルを分離浮上させた。
続いて、溶媒としてヘキサン5kgを加え、非常にゆっくりとした速さで混合撹拌したのち上層を分離し、溶媒を減圧留去することで清澄なコーヒーオイル4kgを得た。
〔実施例2〕(コーヒーオイルの製造)
実施例1と同様の方法及び条件で、コーヒー豆の粉砕から解乳化までの処理を行い、そのまま60℃で1時間静置することで粗コーヒーオイルを分離浮上させ、次いで水層を分離除去した。
得られた粗コーヒーオイルに残存する水分を減圧蒸留にて留去した後、これにヘキサン5kgを加え均一に撹拌した。これを珪藻土濾過に供し固形分を濾別した。得られた濾液に含まれるヘキサンを減圧下で留去し、清澄なコーヒーオイル5kgを得た。
〔比較例1〕(コーヒーオイルの製造)
実施例1と同様の方法及び条件で、コーヒー豆の粉砕から遠心分離までの処理を行い、乳化状態のコーヒーオイル含有液10kgを得た。
これにヘキサン5kgを加え混合撹拌し、静置した後、回収したヘキサン層を減圧蒸留に供し、ヘキサンを除去することで清澄なコーヒーオイル0.2kgを得た。
〔比較例2〕(コーヒーオイルの製造)
実施例1と同様の方法及び条件で、コーヒー豆の粉砕から解乳化までの処理を行った。そのまま60℃で1時間静置し、次いで水層を分離除去することで粗コーヒーオイル1kgを得た。
〔比較例3〕(コーヒーオイルの製造)
実施例1と同じコーヒー豆粉砕物200gを超臨界二酸化炭素抽出装置に仕込み、 40℃ 、35MPaにて抽出を行い、沈殿物を有する超臨界二酸化炭素抽出コーヒーオイル16gを得た。
〔比較例4〕(コーヒーオイルの製造)
酢酸エチル300mLに、実施例1と同じコーヒー豆粉砕物30gを投入し、30分加熱還留した。珪藻土濾過により固形物を取り除いた後、エバポレーターにて酢酸エチルを減圧除去し、沈殿物を有するコーヒーオイル3.6gを得た。
表1に実施例1、実施例2、比較例1、比較例2、比較例3、比較例4のコーヒーオイルの収率とオイル中の析出物の有無を目視確認した結果をまとめた。目視確認は、コーヒーオイルを透明ガラスコップに移し替えて行った。
Figure 0006103893
表1の通り、実施例1及び実施例2は、比較例1に比べコーヒーオイルの対原料収率が20倍から25倍に改善している。このことはコーヒーオイル含有液からコーヒーオイルを効率的に回収するためには、該コーヒーオイル含有液を解乳化することが極めて重要であることを示している。
一方、比較例3及び比較例4は対原料収率は高いが、コーヒーオイル中に析出物があり、香料としては、このままでは、非常に使いにくい。また、比較例2は比較例1と比べるとやや収率は改善しているものの、得られたオイルには析出物が見られる。このことはコーヒーオイル含有液を解乳化しただけでは、析出物の除去には不十分であることを示している。すなわち、オイル中の析出物を除くには、実施例1のごとく解乳化後に有機溶剤による抽出を行うか、実施例2のごとく解乳化後に減圧蒸留による水分の留去を行うことが重要である。
〔実施例3〕(コーヒーオイル乳化物の調製)
マルチトール液(Bx.75°)170gにキラヤニン(丸善製薬社製「キラヤニンC−100」、キラヤ抽出物25%含有)20g、デカグリセリンモノミリステート(日光ケミカルズ社製「Decaglyn1-M」)30g、グリセリン270g及び水110gを混合溶解し水相部とした。
これに実施例1で製造したコーヒーオイル400gを混合し、TK−ホモミキサー(特殊機化工業社製)を用いて10000rpmで20分間撹拌し、コーヒーオイル乳化物1000gを得た。
〔実施例4〕(コーヒー飲料の製造)
アラビカ種からなるブレンド豆(L値20)52gを市販のコーヒーミルで粉砕し、90〜95℃の熱水でドリップし抽出液420gを得、室温付近まで冷却した。
得られた抽出液に対し、重曹を1.2g加えた後、牛乳120g、砂糖54gを順次加えた。これに乳化剤(太陽化学株式会社製「サンソフトV-578(商品名)」1g、イオン交換水404gを加えた。
その後、実施例1のコーヒーオイル500μLを加え、10000rpmで5分間均質化することにより、コーヒー飲料1000gを調製した。
〔実施例5〕(コーヒー飲料の製造)
添加するコーヒーオイルを実施例2のものとした以外は、実施例4と同様にしてコーヒー飲料を調製した。
〔実施例6〕(コーヒー飲料の製造)
コーヒーオイルの代わりに実施例3のコーヒーオイル乳化物を1.25g加えたこと以外は実施例4と同様にしてコーヒー飲料を調製した。
〔比較例5〕(コーヒー飲料の製造)
添加するコーヒーオイルを比較例2のものとした以外は、実施例4と同様にしてコーヒー飲料を調製した。
〔比較例6〕(コーヒー飲料の製造)
添加するコーヒーオイルを比較例3のものとした以外は、実施例4と同様にしてコーヒー飲料を調製した。
〔比較例7〕(コーヒー飲料の製造)
添加するコーヒーオイルを比較例4のものとした以外は、実施例4と同様にしてコーヒー飲料を調製した。
訓練されたパネル6名により、実施例4、実施例5、実施例6、比較例5、比較例6、比較例7のコーヒー飲料について、評点法による官能評価を行った。
評価項目は、同コーヒー飲料を用いて事前に自由記述方式による官能評価を行い、特徴的な以下の7つのキャラクターを選抜した。
[香り] カップからの香り立ち、トップノート
[味] 口に含んだ時に感じられる香味、余韻
[ロースティー] 焙煎豆の香ばしいイメージ
[スモーキー] 炭焼きの煙のイメージ
[ビター] 苦さ
[スウィート] 甘さ、カラメルの様な香り
[穀物様] 麦茶や大豆を想起させる香り(好ましくない風味)
コーヒーオイルを添加していないコーヒー飲料の各項目の香味の強度を1点とし、5点を上限として評価を行った。点数と強度の関係は以下のとおりである。
1点:ほとんど差がない
2点:差をわずかに感じる
3点:差を感じる
4点:差を強く感じる
5点:差を非常に強く感じる
以下の表2に評価者の平均点を記載した。
Figure 0006103893
通常のコーヒーオイルの製造方法で試作した比較例6および7は、いずれもコーヒーオイルの香りが非常に強いため、味を付与するために使用したいと思っても香りが強すぎて使いにくかった。
しかし、本発明の製造方法で製造したコーヒーオイルでは、表2に示す通り、実施例4、実施例5、実施例6の飲料はいずれも香りが弱く、反面、口に含んだ時感じられる味が非常に強く、これまでのコーヒーオイルとは異なる特徴を示した。
また、キャラクターとしてはスモーキー、スウィートな特徴が強く、従来の素材とは官能特性が大きく異なっていた。さらに、SCC抽出残渣から回収したコーヒーオイルを解乳化しただけの比較例5との比較では、好ましくない風味である穀物様の香味が大きく改善されていた。
従って、本発明のすべての工程を経ることがコーヒーオイルの風味上極めて重要であることが分かった。
さらに、実施例4で使用したコーヒーオイルを乳化製剤化した実施例6の結果から、乳化製剤化することで、特徴的なキャラクターであるスモーキーさ、スウィートさが更に強化されることもわかった。
本発明は、これまで有効活用されていなかったコーヒースラリーを気−液向流接触抽出に付して、得られた脱アロマコーヒースラリーから、不快な香味が除かれ、良好な風味だけを有するコーヒーオイルを製造する方法を提供するものである。
さらに、この製造方法で製造されたコーヒーオイルを飲食品に添加することで風味に優れた飲食品を得ることができる。

Claims (10)

  1. (a)焙煎コーヒー豆粉砕物のスラリーを気−液向流接触抽出法によりストリッピング処理してコーヒーアロマと脱アロマコーヒースラリーに分離する工程、
    (b)工程(a)で得られた脱アロマコーヒースラリーから乳化状コーヒーオイル含有液を分離する工程、
    (c)工程(b)で得られた乳化状コーヒーオイル含有液を解乳化する工程、及び
    (d)工程(c)で得られた解乳化後のコーヒーオイル含有液からコーヒーオイルを分離する工程、
    を含むコーヒーオイルの製造方法。
  2. 工程(a)に記載の気−液向流接触抽出法によるストリッピング処理がスピニングコーンカラム(SCC)抽出装置を用いる処理である請求項1記載のコーヒーオイルの製造方法。
  3. 工程(b)の乳化状コーヒーオイル含有液を分離する工程が、該スラリーを分離板型遠心分離装置又は円筒型遠心分離装置のいずれかに供するものである請求項1記載のコーヒーオイルの製造方法。
  4. 工程(c)の乳化状コーヒーオイル含有液を解乳化する方法が、該コーヒーオイル含有液を一旦凍結させその後解凍する方法である請求項1〜3のいずれか1項に記載のコーヒーオイルの製造方法。
  5. 工程(d)の解乳化後のコーヒーオイル含有液からコーヒーオイルを分離する方法が、解乳化後のコーヒーオイル含有液に対し、エチルメチルケトン、酢酸エチル、酢酸メチル、ジエチルエーテル、シクロヘキサン、ジクロロメタン及びヘキサンからなる群より選ばれる1つ又は2つ以上の有機溶媒を加えて撹拌抽出し、さらに有機溶媒層を減圧濃縮することにより有機溶媒を留去する方法である請求項1〜4のいずれか1項に記載されたコーヒーオイルの製造方法。
  6. 工程(d)の解乳化後のコーヒーオイル含有液からコーヒーオイルを分離する方法が、解乳化後のコーヒーオイル含有液から水層を分離除去し、さらにオイル層に残存する水分を減圧留去する方法である請求項1〜4のいずれか1項に記載されたコーヒーオイルの製造方法。
  7. 請求項1〜6のいずれか1項に記載された製造方法で得られるコーヒーオイル、水、乳化剤及び糖アルコールを含むコーヒーオイル乳化物。
  8. 請求項1〜6のいずれか1項に記載された製造方法で得られるコーヒーオイル又は請求項7のコーヒーオイル乳化物を含む香料組成物。
  9. 請求項8記載の香料組成物を添加したことを特徴とする飲食品。
  10. 請求項8記載の香料組成物を飲食品に添加することを特徴とするコーヒー香味の付与又は増強方法。
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