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JP6102288B2 - インクジェット捺染用インクセット、インクジェット捺染方法 - Google Patents

インクジェット捺染用インクセット、インクジェット捺染方法 Download PDF

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Description

本発明は、インクジェット捺染用インクセットおよびこれを用いるインクジェット捺染方法に関する。
従来から、織物、編物および不織布等の布帛に対して、画像を記録する捺染方法が知られている。捺染方法としては、スクリーン捺染方法が広く用いられているが、近年、捺染に用いるインクを効率良く使用できるという観点などから、インクジェット記録方式の利用が検討されている。具体的には、インクジェット記録方式を利用した捺染方法(以下、「インクジェット捺染方法」ともいう。)では、ヘッドのノズルから液滴状にしたインクを吐出して布帛に付着させることにより、布帛に画像を形成する。
このようなインクジェット捺染方法に用いるインクは、例えば、顔料や染料などの色材、分散剤(界面活性剤)および溶媒(水、有機溶剤等)などからなる。具体的には、特許文献1には、水、水溶性溶媒、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等の分散剤、分散染料、アセチレンジオールおよびアセチレングリコールを含有するインクジェット捺染用のインクが開示されている。
しかしながら、色材に染料を用いると、記録される画像の耐光性等の特性に優れない傾向にあるため、染料に代えて顔料を用いる場合がある。そこで、例えば、着色顔料、高分子分散剤、結着成分である樹脂エマルジョン、水性媒体等を含有するインクジェット捺染用インクとすることが考えられる。
しかし、色材として顔料を用いた場合には、顔料を布帛に定着させるために、インクに定着用の樹脂を添加する必要がある。特に、インクジェット捺染方法により画像が記録(印捺)された布帛は、衣類や寝具等の頻繁に洗濯が行われる用途に使用されることが多い。そのため、布帛に記録された画像の定着性(耐擦性)を向上させるために、インク中の樹脂量を多くする必要がある。
特開2011−174007号公報
しかしながら、色材として顔料を用いたインクジェット用捺染インクは、インク中に含まれる樹脂量が多いため、樹脂に由来する凝集物が発生しやすく、とりわけインクジェット記録装置のノズル付近やインク供給経路における気液界面が生じる箇所において、凝集物が顕著に発生する傾向にある。
また、捺染により画像が印捺された布帛は伸縮しやすい性質を持つことから、記録した画像を布帛に追随させるために、ガラス転移温度の低い柔らかい樹脂をインクに添加する場合がある。このような樹脂は皮膜化しやすいため、樹脂に起因する凝集物の発生が一層顕著になることがある。
本発明に係る幾つかの態様は、上述の課題の少なくとも一部を解決することで、凝集物の発生を抑制できつつ、耐擦性に優れた画像を記録することができるインクジェット捺染用インクセット、およびこれを用いたインクジェット捺染方法を提供することにある。
本発明は前述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することができる。
[適用例1]
本発明に係るインクジェット捺染用インクセットの一態様は、
顔料と、樹脂と、を含有する第1インクと、
顔料と、樹脂と、乳化剤と、を含有する第2インクと、
を含み、
前記乳化剤は、下記一般式(1)で表されるアニオン性乳化剤、および、HLB値が12以上の下記一般式(2)で表されるノニオン性乳化剤から選択される少なくとも1種を含む。
−O−(CH−CH−O)−A ・・・(1)
(一般式(1)中、Rは、置換もしくは非置換の炭素数18以上の炭化水素基を表し、Aは、−SOM、−POHMまたは−CHCOOMを表し、Mは、アルカリ金属、アンモニウムまたはアルカノールアミンを表し、nは、2以上20以下の整数を表す。)
−O−(CH−CH−O)−H ・・・(2)
(一般式(2)中、Rは、置換もしくは非置換の炭素数16以上の炭化水素基を表し、mは、2以上20以下の整数を表す。)
[適用例2]
適用例1において、
前記第1インクは、前記乳化剤の含有量が0.03質量%未満であることができる。
[適用例3]
適用例1または適用例2において、
前記第2インクに含まれる前記乳化剤の含有量が、0.03質量%以上0.3質量%以下であることができる。
[適用例4]
適用例1ないし適用例3のいずれか1例において、
前記第1インクは、布帛上に前記第2インクを付着させるための下地層を形成するために用いられることができる。
[適用例5]
適用例1ないし適用例4のいずれか1例において、
前記第1インクに含まれる顔料は、白色系の顔料であり、
前記第2インクに含まれる顔料は、前記白色系の顔料以外の顔料であることができる。
[適用例6]
適用例5において、
前記白色系の顔料は、酸化チタンであることができる。
[適用例7]
適用例1ないし適用例6のいずれか1例において、
前記第1インクに含まれる前記樹脂の皮膜伸度、および前記第2インクに含まれる前記樹脂の皮膜伸度は、400%以上1200%以下であることができる。
[適用例8]
適用例1ないし適用例7のいずれか1例において、
前記第1インクに含まれる前記樹脂、および前記第2インクに含まれる前記樹脂は、いずれも、ウレタン系樹脂およびアクリル系樹脂から選択される少なくとも1種を含むことができる。
[適用例9]
本発明に係るインクジェット捺染方法の一態様は、
適用例1ないし適用例8のいずれか1例に記載のインクジェット捺染用インクセットを用いたインクジェット捺染方法であって、
前記第1インクを前記布帛に付着させて、該第1インクからなる第1画像を形成する第1画像形成工程と、
前記第2インクを前記第1画像に付着させて、前記第2インクからなる第2画像を形成する第2画像形成工程と、
を含む。
[適用例10]
適用例9において、
前記第2画像形成工程は、前記第1画像の形成に用いた第1インクに含まれる揮発成分の重量を100%とした場合に、該揮発成分の残存率が30%以上であるときに行われてもよい。
[適用例11]
適用例9または適用例10において、
前記第1画像が形成される前記布帛の領域に、前記第1インクに含まれる成分と反応する凝集剤が付与されていてもよい。
[適用例12]
適用例9ないし適用例11のいずれか1例において、
前記第1画像記録工程において、前記布帛に付着させた前記第1インクの付着量が180mg/inch以上であることができる。
以下に本発明の好適な実施の形態について説明する。以下に説明する実施の形態は、本発明の一例を説明するものである。また、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含む。
1.インクジェット捺染用インクセット
本発明の一実施形態に係るインクジェット捺染用インクセットは、顔料と、樹脂と、を含有する第1インクと、顔料と、樹脂と、乳化剤と、を含有する第2インクと、を含み、前記乳化剤は、後述する一般式(1)で表されるアニオン性乳化剤、およびHLB値が12以上の後述する一般式(2)で表されるノニオン性乳化剤から選択される少なくとも一種を含むことを特徴とする。
以下、インク毎に詳細に説明する。
1.1.第1インク
本実施形態に係るインクジェット捺染用インクセットに含まれる第1インクは、顔料と、樹脂と、を含有する。
本実施形態に係る第1インクは、第2インクを付着させるための下地層を形成するために用いる。例えば、第2インクと布帛の色相が近い場合や、明度の低い布帛(例えば黒色や濃紺の布帛)を用いる場合には、第2インクからなる画像を布帛に形成しても、画像が認識しにくい場合がある。このような場合に、第2インクと色相の異なる第1インクを用いて、布帛に第1インクからなる下地層を形成することで、下地層の上に形成される第2インクからなる画像の視認性を向上できる。上記の点で、第1インクと第2インクは、互いに色相あるいは明度が異なるインクが好ましい。例えば、第2インクとして、カラー顔料を含有するカラーインク(イエローインク、マゼンタインク、シアンインク等)や、ブラック顔料を含有するブラックインクを使用する場合、布帛が黒色であると、第2インクからなる画像が認識しにくくなる。そうした場合に、例えば、白色顔料を含む第1インクからなる画像(下地層)を布帛に形成しておくことで、第2インクからなる画像の視認性を高めることができる。
あるいは、下地層は、第2インクからなる画像の密着性や発色性などを向上させるために形成するものであってもよい。このとき、下地層の形成に用いられる第1インクは、色材を含まないか少量(インクの0.1質量%以下)しか含まず、クリアインクと呼ばれるものであってもよく、この場合、第1インクと第2インクとがお互いに色相あるいは明度が異なるインクでなくてもよい。
本発明において、「色相が異なる」とは、CIELAB色空間において定義される色相角h°が30°以上である場合をいう。
また、「明度の低い布帛」とは、CIELAB色空間において定義されるL値(明度)が50以下である布帛のことをいう。なお、L値は、例えばGretag Macbeth Spectrolino(商品名、X−RITE社製)等に準ずる測色機を用いて測定できる。
具体的には、インク同士の色相あるいは明度が異なるとは、白色記録媒体(エプソン社製写真用紙<光沢>)にDuty100%でインクを記録したパターン(記録媒体の地が全てインクで覆われているパターン)を上記方法で測定した場合の色相あるいは明度を言う。また、インクの色名が異なる場合も、インク同士の色相あるいは明度が異なる場合に相当する。
ここで、CIELAB色空間とは、国際照明委員会(Commission Internationale de l’Eclairage:略称CIE)が1976年に推奨した近似的な均等色空間のことであり、同委員会では、これをCIE1976(L)と呼ぶものである。
以下、第1インクに含まれる成分について、詳細に説明する。
1.1.1.顔料
第1インクに含まれる顔料は、有機顔料および無機顔料のいずれも使用することができる。第1インクに含まれる顔料は、上述した第2インクと色相が異なるように選択されるのであれば、白色系の顔料、白色系の顔料以外の顔料のいずれの色の顔料も用いることができる。
このように、第1インクには、いずれの色の顔料を使用してもよいが、本実施形態に係るインクジェット捺染用インクセットが明度の低い布帛に対する記録に使用される場合には、第1インクには白色系の顔料を用いることが好ましい。これにより、第1インクにより記録される画像上に形成される第2インクからなる画像の視認性が高くなるためである。
白色系の顔料としては、以下に限定されないが、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、酸化アンチモン、及び酸化ジルコニウム等の白色無機顔料が挙げられる。当該白色無機顔料以外に、白色の中空樹脂粒子及び高分子粒子などの白色有機顔料を使用することもできる。
白色系の顔料のカラーインデックス(C.I.)としては、以下に限定されないが、例えば、C.I.Pigment White 1(塩基性炭酸鉛)、4(酸化亜鉛)、5(硫化亜鉛と硫酸バリウムの混合物)、6(酸化チタン)、6:1(他の金属酸化物を含有する酸化チタン)、7(硫化亜鉛)、18(炭酸カルシウム)、19(クレー)、20(雲母チタン)、21(硫酸バリウム)、22(天然硫酸バリウム)、23(グロスホワイト)、24(アルミナホワイト)、25(石膏)、26(酸化マグネシウム・酸化ケイ素)、27(シリカ)、28(無水ケイ酸カルシウム)などが挙げられる。これらの中でも、発色性、隠蔽性、及び視認性(明度)に優れ、かつ、良好な分散粒径が得られるため、酸化チタンが好ましい。
上記酸化チタンの中でも、白色系の顔料として一般的なルチル型の酸化チタンが好ましい。このルチル型の酸化チタンは、自ら製造したものであってもよく、市販されているものであってもよい。ルチル型の酸化チタン(粉末状)を自ら製造する場合の工業的製造方法として、従来公知の硫酸法及び塩素法が挙げられる。ルチル型の酸化チタンの市販品としては、例えば、Tipaque(登録商標) CR−60−2、CR−67、R−980、R−780、R−850、R−980、R−630、R−670、PF−736等のルチル型(以上、石原産業社製、商品名)が挙げられる。
酸化チタンの50%平均粒子径(以下、「D50」ともいう。)は、50nm以上500nm以下であることが好ましく、150nm以上350nm以下であることがより好ましい。D50が上記の範囲内にあると、インクの耐擦性に優れ、また、記録された画像の視認性を優れたものとすることも可能であるので、高画質の画像を形成することができる。
ここで、本明細書における「酸化チタンの50%平均粒子径」は、インクを調製する前における酸化チタンのD50でなく、インク中に存在する酸化チタンのD50を意味する。また、本明細書における「50%平均粒子径」とは、動的光散乱法による球換算50%平均粒子径を意味し、以下のようにして得られる値である。
分散媒中の粒子に光を照射し、この分散媒の前方・側方・後方に配置された検出器によって、発生する回折散乱光を測定する。得られた測定値を利用して、本来は不定形である粒子を、球形であると仮定し、当該粒子の体積と等しい球に換算された粒子集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その際の累積値が50%となる点を、「動的光散乱法による球換算50%平均粒子径(D50)」とする。
白色系の顔料として酸化チタンを使用する場合は、光触媒作用を抑制するために、アルミナシリカで表面処理されたものが好ましい。その際の表面処理量(アルミナシリカの量)は、表面処理された白色顔料の総質量(100質量%)に対して、5〜20質量%程度であるとよい。
白色系の顔料以外の顔料とは、上述した白色系の顔料を除く顔料のことをいう。白色系の顔料以外の顔料としては、以下に限定されないが、例えば、アゾ系、フタロシアニン系、染料系、縮合多環系、ニトロ系、及びニトロソ系などの有機顔料(ブリリアントカーミン6B、レーキレッドC、ウォッチングレッド、ジスアゾイエロー、ハンザイエロー、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、アルカリブルー、アニリンブラック等)、コバルト、鉄、クロム、銅、亜鉛、鉛、チタン、バナジウム、マンガン、及びニッケル等の金属類、金属酸化物及び硫化物、並びにファーネスカーボンブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、及びチャンネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、さらには黄土、群青、及び紺青等の無機顔料を用いることができる。
更に詳しくは、ブラック系の顔料として使用できるカーボンブラックとしては、例えば、MCF88、No.2300、2200B、900、33、40、45、52、MA7、8、100等(以上、三菱化学社製、商品名)、Raven 5750、5250、5000、3500、1255、700等(以上、コロンビアカーボン社製、商品名)、Rega1 400R、330R、660R、Mogul L、Monarch 700、800、880、900、1000、1100、1300、1400等(以上、キャボット社製、商品名)、Color Black FW1、FW2、FW2V、FW18、FW200、S150、S160、S170、Printex 35、U、V、140U、Special Black 6、5、4A、4等(以上、デグッサ社製、商品名)等が挙げられる。
イエロー系の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー 1、2、3、4、5、6、7、10、11、12、13、14、16、17、24、34、35、37、53、55、65、73、74、75、81、83、93、94、95、97、98、99、108、109、110、113、114、117、120、124、128、129、133、138、139、147、151、153、154、167、172、180等が挙げられる。
マゼンタ系の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド 1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38、40、41、42、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、88、112、114、122、123、144、146、149、150、166、168、170、171、175、176、177、178、179、184、185、187、202、209、219、224、245、C.I.ピグメントバイオレット 19、23、32、33、36、38、43、50等が挙げられる。
シアン系の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー 1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:34、15:4、16、18、22、25、60、65、66等が挙げられる。
マゼンタ、シアン、及びイエロー以外の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントグリーン 7、10、C.I.ピグメント ブラウン 3、5、25、26、C.I.ピグメント オレンジ 1、2、5、7、13、14、15、16、24、34、36、38、40、43、63等が挙げられる。
以上述べた顔料は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
第1インクに含まれる顔料の含有量は、使用する顔料種により異なるものの良好な発色性を確保することなどから、第1インクの全質量に対して、1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、5質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上12質量%以下がさらに好ましい。中でも、第1インクに含まれる顔料として酸化チタンを用いる場合には、酸化チタンの含有量は、沈降し難いとともに、(特に明度の低い布帛上での)隠蔽性及び色再現性に優れるため、第1インクの全質量に対して、3質量%以上25質量%以下であることが好ましく、5質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。
顔料は、インク中での分散性を高めるという観点から、表面処理を施した顔料であってもよいし、分散剤等を利用した顔料であってもよい。
表面処理を施した顔料とは、物理的処理または化学的処理によって顔料表面に親水性基(カルボキシル基、スルホン酸基等)を、直接または間接的に結合させて水性溶媒中に分散可能としたものである(以下、「自己分散型の顔料」ともいう。)。
また、分散剤を利用した顔料とは、界面活性剤や樹脂により顔料を分散させたものであり(以下、「ポリマー分散型顔料」ともいう。)、界面活性剤や樹脂としてはいずれも公知の物質を使用することが可能である。また、「ポリマー分散型顔料」の中には、樹脂により被覆された顔料も含まれる。樹脂により被覆された顔料は、酸析法、転相乳化法、及びミニエマルション重合法などにより得ることができる。
1.1.2.樹脂
第1インクは、樹脂を含有する。樹脂を含有することにより、第1インクと布帛の密着性を向上できるので、第1インクにより形成される画像の耐擦性を向上できる。
本実施形態に係るインクジェット捺染インクセットは、布帛のような伸縮しやすい記録媒体に対する記録に用いられることが多いことから、記録される画像(すなわちインクにより形成されるインク膜)が伸縮しやすい(伸張しやすい)ものであることが好ましい。すなわち、インク膜が布帛の伸縮に追随して伸縮できる伸度を有することにより、インク膜の破断、ひび割れを防ぎ、洗濯・摩擦堅牢度を確保することができる。こうした観点から、第1インクに含まれる樹脂の皮膜伸度は、400%以上1200%以下であることが好ましく、500%以上1200%以下であることがより好ましく、600%以上1200%以下であることがさらに好ましく、700%以上1200%以下であることが特に好ましい。樹脂の皮膜伸度が上記範囲内、とりわけ下限を下回らずにあることで、布帛の伸縮に対して追従性の良好な画像を形成できる。また、樹脂の皮膜伸度が上記範囲内、とりわけ上限を超えずにあることで、インク膜の粘性を適度な範囲に保ち、布帛に対するアンカー効果の低下を抑制できるので、定着性の低下を抑制しつつ、洗濯・摩擦堅牢度(耐擦性)にも良好な画像を形成できる。
ここで、樹脂の皮膜伸度は、次のようにして測定したものである。まず、乾燥後の膜厚が500μmになるように、ポリテトラフルオロエチレンシート上に樹脂を塗布し、常温(20℃)・常圧(65%RH)で15時間乾燥し、さらに80℃で6時間、および120℃で20分の乾燥を行った後、シートから剥離して、樹脂フィルムを作成する。そして、引っ張り試験機を用いて、測定温度20℃、測定スピード200mm/minの条件で、得られた樹脂フィルムの皮膜伸度を測定する。皮膜伸度の測定は、樹脂フィルムを伸長させて樹脂フィルムが破断するまでに伸長する長さを測定し、その割合をパーセントで皮膜伸度として表す。なお、引っ張り試験機としては、例えば、テンシロン万能試験機RTC−1225A(商品名、(株)オリエンテック製)や、これに準ずるものを使用できる。
また、第1インクに含まれる樹脂は、インク膜の破断、ひび割れを防ぎ、洗濯・摩擦堅牢度を確保することができる点で、ガラス転移点(Tg)が、0℃以下が好ましく、−10℃以下がより好ましい。また、ガラス転移点(Tg)の下限は、−80℃以上が好ましい。また、第1インクに含まれる樹脂は、インク膜の破断、ひび割れを防ぎ、洗濯・摩擦堅牢度を確保することができる点で、最低像膜温度(MFT)が、0℃以下が好ましく、−10℃以下がより好ましい。また、最低像膜温度の下限は、−80℃以上が好ましい。
第1インクに含まれる樹脂は、皮膜の耐擦性、密着性、第1インクの保存安定性を向上できる等の観点から、エマルジョンであることが好ましい。第1インクに含まれる樹脂は、水に安定に分散させるために必要な親水成分が導入された自己乳化型のものでもよいし、外部乳化剤の使用により水分散性となるものでもよいが、後述する前処理液と第1インクとの反応を阻害しにくくするという観点から、乳化剤を含まない自己乳化型分散体(自己乳化型のエマルジョン)であることが好ましい。
樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、スチレンアクリル系樹脂、フルオレン系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ロジン変性樹脂、テルペン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、エチレン酢酸ビニル系樹脂等を用いることができる。これらの樹脂は、1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。これらの中でも、設計の自由度が高く、それゆえ所望の皮膜物性(上記の皮膜伸度)を得やすいことから、ウレタン系樹脂およびアクリル系樹脂から選択される少なくとも1種を用いることが好ましく、ウレタン系樹脂を用いることがより好ましい。
ウレタン系樹脂としては、ウレタン骨格を有し水分散性を有するものであれば特に限定はされず、例えば、スーパーフレックス 460、460s、840(商品名、第一工業製薬株式会社製)、レザミン D−1060、D−2020、D−4080、D−4200、D−6300、D−6455(商品名、大日精化工業株式会社製)、タケラック WS−6021、W−512−A−6(商品名、三井化学ポリウレタン株式会社製)、サンキュアー2710(商品名、LUBRIZOL社製)、などの市販品を用いてもよい。
また、ウレタン系樹脂は、インクジェットヘッドへの材質適合性の観点や、後述する前処理剤に多価金属化合物を含む場合にこれとの反応性を向上させるという観点から、カルボキシ基、スルホ基、ヒドロキシ基等のアニオン性の官能基を有する、アニオン性のウレタン系樹脂であることが好ましい。上述の市販品のうち、アニオン性のウレタン樹脂としては、第一工業製薬(株)製のスーパーフレックス460、460s、840等;三井化学ポリウレタン(株)製のタケラックWS−6021、W−512−A−6等が挙げられる。
また、ウレタン樹脂としては、ウレタン結合以外に、主鎖にエーテル結合を含むポリエーテル型ウレタン樹脂、主鎖にエステル結合を含むポリエステル型ウレタン樹脂、主鎖にカーボネート結合を含むポリカーボネート型ウレタン樹脂、などを使用でき好ましい。これらのウレタン樹脂は、複数種を組み合わせて使用することができる。
アクリル系樹脂としては、アクリル酸、アクリル酸エステルなどのアクリル系単量体の重合体や、アクリル系単量体と他の単量体との共重合体などが使用可能であり、他の単量体としてはスチレンなどのビニル系単量体があげられる。アクリル系樹脂としては、市販品を用いてもよく、例えばモビニール702、7502、7525、7320(日本合成化学株式会社製)などがあげられる。
第1インク中における樹脂の含有量は、第1インクの全質量に対して、固形分換算で、1質量%以上15質量%以下であることが好ましく、5質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、8質量%以上15質量%以下であることがさらに好ましい。第1インク中における樹脂の含有量が上記範囲内、とりわけ下限を下回らずにあることで、樹脂がインクの定着性を向上させる効果を十分に発揮できるので、記録される画像の耐擦性が向上する。また、上限を超えずにあることで、樹脂に起因する凝集物の発生が抑制できるので、インクの保存安定性や吐出安定性が優れたものとなる。
1.1.3.その他の成分
第1インクは、水、有機溶剤、界面活性剤、pH調製剤、防腐剤・防かび剤等を含有してもよい。
<水>
水は、インクの主となる媒体であり、乾燥により蒸発飛散する成分である。水としては、例えば、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、及び蒸留水等の純水、並びに超純水のような、イオン性不純物を極力除去したものが挙げられる。また、紫外線照射又は過酸化水素の添加などによって滅菌した水を用いると、インクを長期保存する場合にカビやバクテリアの発生を防止することができる。第1インクに含まれる水の含有量としては、特に限定されるものではないが、第1インクの全質量に対して、例えば50質量%以上であることができ、さらには50質量%以上95質量%以下であることができる。
<有機溶剤>
有機溶剤としては、例えば、1,2−アルカンジオール類、多価アルコール類、グリコールエーテル類等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上併用してもよい。
1,2−アルカンジオール類としては、例えば、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオール等が挙げられる。1,2−アルカンジオール類は、布帛等の記録媒体に対するインクの濡れ性を高めて均一に濡らす作用に優れているため、滲みの少ない画像を記録できる。1,2−アルカンジオール類を含有する場合には、その含有量は、第1インクの全質量に対して、1質量%以上20質量%以下であることができる。
多価アルコール類としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,3−ペンタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,3−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、トリメチロールプロパン、グリセリン等が挙げられる。多価アルコール類は、ヘッドのノズル面におけるインクの乾燥固化を抑制して目詰まりや吐出不良等を低減できるという観点から好ましく用いることができる。多価アルコール類を含有する場合には、その含有量が、第1インクの全質量に対して、2質量%以上20質量%以下であることができる。
グリコールエーテル類としては、例えば、アルキレングリコールモノエーテルや、アルキレングリコールジエーテル等が挙げられる。
アルキレングリコールモノエーテルとしては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチエレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル等が挙げられる。
アルキレングリコールジエーテルとしては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。
グリコールエーテル類は、記録媒体に対するインクの濡れ性や浸透速度を制御できるため、鮮明な画像を記録することができる。グリコールエーテル類を含有する場合には、第1インク全質量に対して、0.05質量%以上6質量%以下であることができる。
<界面活性剤>
界面活性剤は、表面張力を低下させ記録媒体との濡れ性を向上させる機能を備える。界面活性剤の中でも、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、およびフッ素系界面活性剤を好ましく用いることができる。
アセチレングリコール系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、サーフィノール104、104E、104H、104A、104BC、104DPM、104PA、104PG−50、104S、420、440、465、485、SE、SE−F、504、61、DF37、CT111、CT121、CT131、CT136、TG、GA、DF110D(以上全て商品名、Air Products and Chemicals. Inc.社製)、オルフィンB、Y、P、A、STG、SPC、E1004、E1010、PD−001、PD−002W、PD−003、PD−004、EXP.4001、EXP.4036、EXP.4051、AF−103、AF−104、AK−02、SK−14、AE−3(以上全て商品名、日信化学工業社製)、アセチレノールE00、E00P、E40、E100(以上全て商品名、川研ファインケミカル社製)が挙げられる。
シリコーン系界面活性剤としては、特に限定されないが、ポリシロキサン系化合物が好ましく挙げられる。当該ポリシロキサン系化合物としては、特に限定されないが、例えばポリエーテル変性オルガノシロキサンが挙げられる。当該ポリエーテル変性オルガノシロキサンの市販品としては、例えば、BYK−306、BYK−307、BYK−333、BYK−341、BYK−345、BYK−346、BYK−348(以上商品名、BYK社製)、KF−351A、KF−352A、KF−353、KF−354L、KF−355A、KF−615A、KF−945、KF−640、KF−642、KF−643、KF−6020、X−22−4515、KF−6011、KF−6012、KF−6015、KF−6017(以上商品名、信越化学工業社製)が挙げられる。
フッ素系界面活性剤としては、フッ素変性ポリマーを用いることが好ましく、具体例としては、BYK−340(ビックケミー・ジャパン社製)が挙げられる。
<pH調整剤>
pH調整剤としては、例えば、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、アンモニア、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。
<防腐剤・防かび剤>
防腐剤・防かび剤としては、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2−ジベンジンチアゾリン−3−オン(ICI社のプロキセルCRL、プロキセルBND、プロキセルGXL、プロキセルXL−2、プロキセルTN)等が挙げられる。
<その他>
後述するように、第1インクを用いて下地層である第1画像を形成する前に、第1画像を形成する布帛の領域に、多価金属化合物を含有する前処理剤を付与する場合がある。このように前処理剤を付与しておくと、第1インクを布帛に付着させた際に、前処理剤に含まれる多価金属化合物と第1インクに含まれる樹脂や顔料が反応することで、第1インクに含まれるこれら成分を凝集させ凝集体とすることができる。これにより、第1インクからなる第1画像(下地層)の記録媒体上での発色性が向上して、布帛を良好に隠蔽することができる。
一方、後述する第2インクに含まれる特定の乳化剤(一般式(1)で表されるアニオン性乳化剤、および、HLB値が12以上の一般式(2)で表されるノニオン性乳化剤)が第1インクに所定量以上含まれていると、これらの乳化剤が前処理剤に含まれる多価金属化合物と第1インクに含まれる樹脂や顔料との反応を阻害してしまうことがある。その結果、凝集体の生成が阻害され布帛に顔料が浸透してしまい布帛の隠蔽性が著しく低下する傾向にある。
このような観点から、第1インクには、第2インクに含まれる特定の乳化剤(一般式(1)で表されるアニオン性乳化剤、および、HLB値が12以上の一般式(2)で表されるノニオン性乳化剤)の含有量が所定量未満であることが好ましい。
なお、特定の乳化剤の含有量が所定量未満とは、上記の不具合を生じさせない範囲で特定の乳化剤を含有しないという意味であり、具体的には、0.03質量%以上含有しないこと、言い換えると、特定の乳化剤の含有量が0.03質量%未満であること(0質量%も含む)をいい、特定の乳化剤を実質的に含有しないともいう。
なお、第1インクに含まれる顔料が酸化チタンなどの白色顔料であると、インクジェット記録装置のインク流路において、白色顔料が沈降しやすい。そのため、顔料の沈降物を解消することを目的として、第1インクをノズルへ供給するインク流路や第1インクを吐出するためのノズルを定期的に洗浄することが行われたり、沈降を防止するためにインクを循環させる機構が設けたりすることが多い。この場合、インク流路の洗浄に伴い樹脂に由来する凝集物が除去されたり、インクの循環中に樹脂に起因する凝集物が再溶解して減少することにより、白色顔料以外の顔料を用いる場合に比べて、凝集物が問題にならないことがある。したがって、第1インクに含まれる顔料が白色顔料である場合には、第1インクは特定の乳化剤を実質的に含有しなくてもよい。
1.2.第2インク
本実施形態に係るインクジェット捺染用インクセットに含まれる第2インクは、顔料と、樹脂と、乳化剤と、を含有する。
第2インクは、第1インクにより形成された画像上に付着させて用いられるため、上述したように、視認性に優れた画像を形成できる。
以下、第2インクに含まれる成分について、詳細に説明する。
1.2.1.顔料
第2インクに含まれる顔料は、有機顔料および無機顔料のいずれも使用することができる。第2インクに含まれる顔料は、上述した第1インクと色相が異なるように選択されるのであれば、上述した白色系の顔料(白色顔料)、および白色系の顔料以外の顔料のいずれの色の顔料も用いることができる。
このように第2インクには、いずれの顔料も用いることができるが、本実施形態に係るインクジェット捺染用インクセットが明度の低い布帛に対する記録に使用される場合には、第1インクには白色系の顔料を用い、第2インクには白色系の顔料以外の顔料を用いることが好ましい。こうすることで、明度の低い布帛を用いた場合であっても、第2インクより形成される画像の視認性を向上できる。
第2インクに使用可能な顔料の具体例は、第1インクで例示したものと同様であるので、その説明を省略する。第2インクに含む顔料は、カラー顔料、例えばカラー有機顔料や、ブラック顔料、例えばカーボンブラック顔料が好ましい。
第2インクに含まれる顔料の含有量は、使用する顔料種により異なるものの良好な発色性を確保することなどから、第2インクの全質量に対して、0.1質量%以上15質量%以下であることが好ましく、1質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、1質量%以上10質量%以下であることがさらに好ましい。
1.2.2.樹脂
第2インクは、樹脂を含有する。樹脂を含有することにより、第2インクと布帛の密着性を向上できるので、第2インクにより形成される画像の耐擦性を向上できる。
第2インクに含まれる樹脂の種類、その特性および効果等については、上記「1.1.2.樹脂」で説明した第1インクに含まれる樹脂と同様であるので、その説明を省略する。
第2インクに含まれる樹脂の含有量は、第2インクの全質量に対して、固形分換算で、1質量%以上15質量%以下であることが好ましく、3質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上10質量%以下であることがさらに好ましい。第2インク中における樹脂の含有量が上記範囲内、とりわけ下限を下回らずにあることで、樹脂がインクの定着性を向上させる効果を十分に発揮できるので、記録される画像の耐擦性が向上する。また、上限を超えずにあることで、樹脂に起因する凝集物(異物)の発生が抑制できるので、インクの保存安定性や吐出安定性が優れたものとなる。
1.2.3.乳化剤
第2インクは、下記一般式(1)で表されるアニオン性乳化剤(以下、「乳化剤A」ともいう。)、および、HLB値が12以上の後述する一般式(2)で表されるノニオン性乳化剤(以下、「乳化剤B」ともいう。)から選択される少なくとも一種の乳化剤を含有する。
乳化剤Aおよび乳化剤Bはいずれも、樹脂に起因する凝集物の発生を抑制するという機能を有する。詳細なメカニズムは未だ明らかになっていないが、乳化剤Aおよび乳化剤Bが樹脂に吸着することで、凝集物の発生の原因となる樹脂の皮膜化(特に気液界面における樹脂の皮膜化)を遅延させて、樹脂に起因する凝集物(異物)の発生を抑制できると推測される。
第2インクに含まれる乳化剤の含有量は、インクの全質量に対して、0.03質量%以上0.3質量%以下であることが好ましく、0.04質量%以上0.29質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以上0.29質量%以下であることがさらに好ましい。第2インクに含まれる乳化剤の含有量が上記範囲内、とりわけ下限を下回らずにあることで、樹脂に起因する凝集物の発生を十分に抑制できる。また、上限を超えずにあることで、第1インクからなる画像に対する第2インクの浸透力を抑えることができるので、滲みの少ない画像を得ることができる。
<乳化剤A>
乳化剤Aは、下記一般式(1)で表される構造のアニオン性乳化剤である。
−O−(CH−CH−O)−A ・・・(1)
一般式(1)中、Rは、置換もしくは非置換の炭素数18以上の炭化水素基を表し、Aは、−SOM基、−POHM基または−CHCOOM基を表し、Mは、アルカリ金属、アンモニウムまたはアルカノールアミンを表し、nは、2以上20以下の整数を表す。
一般式(1)において、Rを表す炭化水素基の炭素数は、18以上であり、好ましくは18以上30以下であり、さらに好ましくは炭素数18以上25以下である。Rの炭素数が18以上であると、樹脂に起因する凝集物の発生を十分に抑制することができる。また、Rが30以下であると、インクの粘度を適正な範囲に保つことができ、インクの吐出安定性を良好にできる。一方、Rの炭素数が18未満であると、樹脂に起因する凝集物の発生を抑制できず、インクの吐出安定性が低下する傾向にある。
を表す炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基等の飽和もしくは不飽和の炭化水素基が挙げられる。これらの中でも、不飽和の炭化水素基であることが、凝集物の発生の抑制の点で好ましい。
また、Rを表す炭化水素基は、水素原子の一部が置換基で置換されていてもよく、置換基としては、例えば、エーテル基、エステル基、芳香族炭化水素基等が挙げられる。
Aは、−SOM基、−POHM基または−CHCOOM基を表すが、インクの保存安定性等の観点から、−SOM基であることが好ましい。
Mを表すアルカリ金属の具体例としては、Na、K等が挙げられ、Mを表すアルカノールアミンの具体例としては、トリエタノールアミン等が挙げられる。
nは、2以上20以下の整数であり、好ましくは2以上15以下の整数であり、さらに好ましくは2以上10以下の整数である。nが上記範囲内にあることで、第2インクの保存安定性等の低下を抑制できる傾向にある。一方、nが20を超えると、親水性が高まることで、発泡しやすくなったり、破泡性が低下したりする等の不具合が生じることがある。
乳化剤Aとしては、市販品を用いることができ、例えば、ラテムル WX、レベノール WX(以上商品名、花王株式会社製)等が挙げられる。
<乳化剤B>
乳化剤Bは、HLB値が12以上であり、かつ、一般式(2)で表される化学構造のノニオン性乳化剤である。
−O−(CH−CH−O)−H ・・・(2)
一般式(2)中、Rは、置換もしくは非置換の炭素数16以上の炭化水素基を表し、mは、2以上20以下の整数を表す。
一般式(2)において、Rを表す炭化水素基の炭素数は、16以上であり、好ましくは16以上30以下であり、さらに好ましくは18以上25以下である。Rの炭素数が16以上であると、樹脂に起因する凝集物の発生を十分に抑制することができる。また、Rが30以下であると、インクの粘度を適正な範囲に保つことができ、インクの吐出安定性を良好にできる。一方、Rの炭素数が16未満であると、樹脂に起因する凝集物の発生を抑制できず、インクの吐出安定性が低下する傾向にある。
を表す炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基等の飽和もしくは不飽和の炭化水素基が挙げられる。これらの中でも、凝集物の発生の抑制の点で不飽和の炭化水素基であることが好ましい。
また、Rを表す炭化水素基は、水素原子の一部が置換基で置換されていてもよく、置換基としては、例えば、エーテル基、エステル基、芳香族炭化水素基等が挙げられる。
mは、2以上20以下の整数であり、より好ましくは2以上15以下の整数であり、さらに好ましくは2以上10以下の整数である。mが上記範囲内にあることで、第2インクの保存安定性等の低下を抑制できる傾向にある。一方、mが20を超えると、親水性が高まることで、発泡しやすくなったり、破泡性が低下したりする等の不具合が生じることがある。
乳化剤Bは、上記の化学構造を備えつつ、HLB値が12以上であり、好ましくは12以上18以下、より好ましくは12以上17以下である。HLB値が12以上であることで、樹脂に起因する凝集物の発生を十分に抑制することができる。また、Rが18以下であることで、インク中での乳化剤の分散性が良好になり、保存安定性の良好なインクが得られる。一方、HLB値が12未満であると、樹脂に起因する凝集物の発生を抑制できず、インクの吐出安定性が低下する傾向にある。
なお、本明細書におけるHLB値とは、有機概念図における無極性値(I)と有機性値(O)との比(以下、単に「I/O値」ともいう)から下記式(3)により算出された値である。
HLB値=(無極性値(I)/有機性値(O))×10 ・・・(3)
具体的には、I/O値は、藤田穆著、「系統的有機定性分析混合物編」、風間書房、1974年;黒木宣彦著、「染色理論化学」、槙書店、1966年;井上博夫著、「有機化合物分離法」、裳華房、1990年、の各文献に基づいて算出することができる。
乳化剤Bとしては、市販品を用いることができ、例えば、ニューコール1860、ニューコール1210(以上商品名、日本乳化剤株式会社製)等が挙げられる。
1.2.4.その他の成分
第2インクは、水、有機溶剤、界面活性剤、pH調製剤、防腐剤・防かび剤等の成分を含有することができる。これらの成分は、上記「1.1.3.その他の成分」で例示した成分を用いることができ、含有量も同様の範囲とすることができるので、その説明を省略する。
1.3.調製方法
本実施形態に係るインクジェット捺染用インクセットに含まれる各インク(第1インクおよび第2インク)は、前述した成分を任意な順序で混合し、必要に応じて濾過等をして不純物を除去することにより得られる。各成分の混合方法としては、メカニカルスターラー、マグネチックスターラー等の撹拌装置を備えた容器に順次材料を添加して撹拌混合する方法が好適に用いられる。濾過方法としては、遠心濾過、フィルター濾過等を必要に応じて行なうことができる。
1.4.物性
本実施形態に係るインクジェット捺染用インクセットに含まれる各インクは、画像品質とインクジェット捺染用インクとしての信頼性とのバランスの観点から、20℃における表面張力が20mN/m以上40mN/mであることが好ましく、25mN/m以上35mN/m以下であることがより好ましい。なお、表面張力の測定は、例えば、自動表面張力計CBVP−Z(商品名、協和界面科学株式会社製)を用いて、20℃の環境下で白金プレートをインクで濡らしたときの表面張力を確認することにより測定することができる。
また、同様の観点から、本実施形態に係るインクジェット捺染用インクセットに含まれる各インクの20℃における粘度は、3mPa・s以上10mPa・s以下であることが好ましく、3mPa・s以上8mPa・s以下であることがより好ましい。なお、粘度の測定は、例えば、粘弾性試験機MCR−300(商品名、Pysica社製)を用いて、20℃の環境下での粘度を測定することができる。
2.インクジェット捺染方法
本発明の一実施形態に係るインクジェット捺染方法は、上述のインクジェット捺染用インクセットを用いて行われ、前記第1インクを前記布帛に付着させて、該第1インクからなる第1画像を形成する第1画像形成工程と、前記第2インクを前記第1画像に付着させて、前記第2インクからなる第2画像を形成する第2画像形成工程と、を含むことを特徴とする。
より具体的には、本実施形態に係るインクジェット捺染方法は、前記第1画像形成工程の前に、前記第1画像が形成される前記布帛の領域に、多価金属化合物を含有する前処理剤を付与する前処理工程を含んでいてもよい。
上述した通り、インクジェット捺染用インクセットは、凝集物の発生を抑制でき、かつ、記録される画像の定着性を優れたものにすることができる。そのため、当該インクセットを用いる本実施形態に係るインクジェット捺染方法は、インクの吐出安定性に優れ、かつ、耐擦性に優れた画像を形成することができる。
本実施形態に係るインクジェット捺染方法に用いられる布帛としては、以下に限定されないが、例えば、絹、綿、羊毛等の天然繊維や、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン、レーヨン等の合成繊維等を原料とする、織物、編み物、不織布等が挙げられる。
インクジェット捺染方法では、上記インクセットを構成する各インクを、インクジェット記録装置に装填して使用する。当該インクジェット記録装置としては、特に限定されないが、例えばドロップオンデマンド型のインクジェット記録装置が挙げられる。このドロップオンデマンド型のインクジェット記録装置には、記録ヘッドに配設された圧電素子を用いて記録を行う圧電素子記録方法を採用した装置、及び記録ヘッドに配設された発熱抵抗素子のヒーター等による熱エネルギーを用いて記録を行う熱ジェット記録方法を採用した装置などがあり、いずれの記録方法を採用したものでもよい。
以下、各工程について詳細に説明する。
2.1.前処理工程
本実施形態に係るインクジェット捺染方法は、前処理工程を含むことが好ましい。前処理工程は、第1画像形成工程の前に、第1画像が形成される布帛の領域に、インクの成分と反応する凝集剤を含有する前処理剤を付与する工程である。凝集剤と反応するインクに含まれる成分としては前述の顔料や樹脂があげられる。
凝集剤は、第1インクに含まれる樹脂と反応することで、第1インクに含まれる顔料を凝集させるという機能を有する。これにより、第1インクからなる第1画像の発色性が向上して、布帛を良好に隠蔽することができる。凝集剤としては多価金属塩が好ましいが限られるものではない。
前処理工程は、前処理剤中に布帛を浸漬させる手段や、前処理剤を塗布または噴霧する手段等が挙げられる。
また、本実施形態に係るインクジェット捺染方法は、前処理工程の後であって第1画像形成工程の前に、布帛に付与した前処理剤を乾燥させる工程を含んでいてもよい。前処理剤を乾燥させる乾燥手段としては、特に限定されず、公知の手段を用いればよい。
多価金属化合物は、2価以上の多価金属イオンとアニオンから構成される化合物である。2価以上の多価金属イオンとしては、例えば、Ca2+、Mg2+、Cu2+、Ni2+、Zn2+、Ba2+等が挙げられる。アニオンとしては、例えば、Cl、NO 、CHCOO、I、Br、ClO 等が挙げられる。これらの中でも、上述の凝集効果が一層高まるという観点から、マグネシウム塩、カルシウム塩およびアルミニウム塩を好ましく用いることができる。凝集剤としては他に、有機酸、ポリアリルアミン、ポリアリルアミン誘導体を用いることができる。
前処理剤は、樹脂を含有してもよい。樹脂としては、特に限定されず、例えばアクリル系樹脂、スチレンアクリル系樹脂、フルオレン系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、エチレン酢酸ビニル系樹脂等の公知の樹脂を用いることができる。
前処理剤は、界面活性剤、糊剤(例えば、デンプン物質、セルロース系物質、多糖類、タンパク質、水溶性高分子等)、有機酸、水、pH調製剤、防腐剤・防かび剤等の成分を含有してもよい。
なお、本実施形態に係るインクジェット捺染方法において前処理工程を行わない場合には、予め記録面に凝集剤を付与した布帛を用いてもよい。
2.2.第1画像形成工程
第1画像形成工程は、上述の第1インクを前記布帛に付着させて、第1インクからなる第1画像を形成する工程である。第1画像は第2画像の下地層(背景画像)として用いられるが、第1画像上には第2画像が形成されない領域があってもよい。
第1画像形成工程では、第1インクの付着量が100mg/inch以上、より好ましくは150mg/inch以上、さらに好ましくは180mg/inch以上となるように布帛に付着させることが好ましい。第1インクの付着量が100mg/inch以上であると、隠蔽性に優れた画像を形成できる。なお、第1インクの付着量が300mg/inch以下とすることで遮蔽性を十分とし、第1インクの使用量の節約を図ることができる。
第1インクの付着量は、第1画像を形成するために使用した第1インクの総吐出量(mg)を、第1画像の面積(inch)で除することで求められる。
2.3.第2画像形成工程
第2画像形成工程は、上述の第2インクを前記第1画像に付着させて、第2インクからなる第2画像を形成する工程である。これにより、第2画像の視認性を向上することができる。
第2画像形成工程は、第1画像の記録に用いた第1インクに含まれる揮発成分の質量を100%とした場合に、該揮発成分の一部が揮発して、第1画像中に残存する揮発成分の質量(残存率)が30%以上、より好ましくは30%以上90%以下、さらに好ましくは40%以上80%以下となったときに行われることが好ましい。第1画像に含まれる揮発成分の重量が上記範囲内にあるときに行われると、第1画像と第2画像の密着性を向上できたり、第1画像と第2画像の混色を抑制でき、滲みの少ない鮮明な画像を得ることができるうえに、第2画像形成工程を早く始められ印刷速度を向上することができる。その際、第1インクの成分と前処理剤との反応による凝集体が第1画像中に形成されていることで、第2インクの滲みを抑え発色性をよくできる。なお、揮発成分とは、上述した水および有機溶媒を指す。
第1画像に含まれる揮発成分の重量は、第1画像を形成するために使用した第1インクの総吐出量(mg)に基づいて算出することができる。つまり、第1画像を形成するために使用した第1インクの総吐出量から第1画像を乾燥させて揮発成分を完全に揮発させた後の第1画像の質量を引いたものを、第1画像の記録に用いた第1インクに含まれる揮発成分の質量(質量A)とし、次に、第2画像形成工程の開始時の第1画像の質量から第1画像を乾燥させて揮発成分を完全に揮発させた後の第1画像の質量を引いたものを、第2画像形成工程の開始時の第1画像に残存する揮発成分の残存量(質量B)とし、質量Aに対する質量Bの比を百分率で表したものが、第2画像形成工程の開始時における、第1画像の記録に用いた第1インクに含まれる揮発成分の残存率である。
第1画像の重量を上記範囲にするためには、第1画像の形成後、所定の乾燥工程を行えばよい。所定の乾燥工程は自然乾燥で行ってもよいし、公知の乾燥手段により行ってもよく、乾燥温度や乾燥時間を調整して行えばよい。第2画像形成工程の開始時の第1画像に残存する揮発成分の残存量(質量B)を測定する際は、第1画像形成工程後、所定の乾燥工程を行い、実際の第2画像形成工程の開始時と同じ乾燥状態にした時点の、第1画像の質量を測定すればよい。
2.4.加熱工程
本実施形態に係るインクジェット捺染方法は、前記第2画像形成工程の後に行われ、前記布帛を加熱する加熱工程を含んでいてもよい。すなわち、加熱工程は、布帛に形成された第1画像および第2画像を乾燥させる工程である。これにより、各インクに含まれる樹脂が十分に皮膜化するので、耐擦性に優れた画像が得られる。
加熱工程に用いる加熱方法としては、特に限定されないが、例えば、ヒートプレス法、常圧スチーム法、高圧スチーム法、及びサーモフィックス法が挙げられる。また、加熱の熱源としては、以下に限定されないが、例えば赤外線(ランプ)が挙げられる。また、加熱処理時の温度は、各インクに含まれる樹脂を融着し、かつ、水分を蒸発させることができればよく、例えば150〜200℃程度とすることができる。
上記加熱工程後は、印捺物を水洗し、乾燥してもよい。このとき、必要に応じてソーピング処理、即ち未固着の顔料を熱石鹸液などで洗い落とす処理を行ってもよい。
3.実施例
以下、本発明の実施形態を実施例によってさらに具体的に説明するが、本実施形態はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
3.1.インクの調製
3.1.1.第1インク(白色系インク)の調製
第1インクは、白色系顔料を含有する白色系インクであり、顔料分散液を用いて調製した。
第1インクに用いる顔料分散液は、次のようにして調製した。白色系顔料(商品名「R62N」、堺化学工業株式会社製、酸化チタン)250g、顔料分散剤として「デモールEP」(花王株式会社製)10g(有効成分として2.5g)を用い、これらをイオン交換水740gと混合し、ビーズミル(シンマルエンタープライゼス社製、DYNO−MILL KDL A型)を用いて、0.5mmφのジルコニアビーズを充填率80%、滞留時間2分で分散し、第1インク用の顔料分散液(顔料分25%)を得た。
そして、第1インク用の顔料分散液を用いて、表1の組成となるように各成分を容器に入れ、マグネチックスターラーで2時間撹拌混合した後、孔径5μmのメンブランフィルターにて濾過した。このようにして、第1インクAおよび第1インクBを得た。なお、表1中の数値は、全て質量%を示し、イオン交換水はインクの全質量が100質量%となるように添加した。
Figure 0006102288
3.1.2.第2インクの調製
第2インクは、マゼンタ顔料を含有するカラーインクであり、顔料分散液を用いて調製した。
第2インクに用いる顔料分散液は、次のようにして調製した。30%アンモニア水溶液(中和剤)1.5質量部を溶解させたイオン交換水76質量部に、樹脂分散剤としてアクリル酸−アクリル酸エステル共重合体(重量平均分子量:25,000、酸価:180)7.5質量部を加えて溶解させた。そこに、マゼンタ顔料(C.I.ピグメントレッド122)を15質量部加えてジルコニアビーズによるボールミルにて10時間分散処理を行って、第2インク用の顔料分散液(顔料分15%)を得た。
そして、第2インク用の顔料分散液を用いて、表2および表3の組成となるように各成分を容器に入れ、マグネチックスターラーで2時間撹拌混合した後、孔径5μmのメンブランフィルターにて濾過した。このようにして、第2インクA〜第2インクTを得た。なお、表2および表3中の数値は、全て質量%を示し、イオン交換水はインクの全質量が100質量%となるように添加した。
Figure 0006102288
Figure 0006102288
表1〜表3において、化合物名以外で記載した成分は、次の通りである。
<顔料>
・白色系顔料(商品名「R62N」、堺化学工業株式会社製、酸化チタン)
・マゼンタ顔料(C.I.ピグメントレッド122)
<樹脂>
・タケラック WS−6021(商品名、三井化学ポリウレタン株式会社製、アニオン性のエーテル系ウレタン樹脂エマルジョン、自己乳化タイプ、固形分30%、皮膜伸度750%)
・スーパーフレックス 150(商品名、第一工業製薬株式会社製、アニオン性のエステル・エーテル型ウレタン樹脂水分散体、自己乳化タイプ、固形分30%、皮膜伸度330%)
・スーパーフレックス 126(商品名、第一工業製薬株式会社製、アニオン性のエステル・エーテル型ウレタン樹脂水分散体、自己乳化タイプ、固形分30%、皮膜伸度87%)
<乳化剤>
・ニューコール1860(商品名、日本乳化剤株式会社製、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、HLB値:18.1、ノニオン性乳化剤)
・ニューコール1210(商品名、日本乳化剤株式会社製、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、HLB値:12.4、ノニオン性乳化剤)
・ニューコール1204(商品名、日本乳化剤株式会社製、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、HLB値:7.9、ノニオン性乳化剤)
・ニューコール1006(商品名、日本乳化剤株式会社製、ポリオキシエチレン2−エチルヘキシルエーテル、HLB値:13.4、ノニオン性乳化剤)
・ニューコール1020(商品名、日本乳化剤株式会社製、ポリオキシエチレン2−エチルヘキシルエーテル、HLB値:17.4、ノニオン性乳化剤)
・ラテムル WX(商品名、花王株式会社製、ポリオキシエチレンオレイルエーテル硫酸ナトリウム、アニオン性乳化剤)
・レベノール WX(商品名、花王株式会社製、ポリオキシエチレンオレイルエーテル硫酸ナトリウム、アニオン性乳化剤)
・ラテムル E−150(商品名、花王株式会社製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、アニオン性乳化剤)
<その他>
BYK−348(商品名、BYK社製、シリコーン系界面活性剤)
なお、樹脂の皮膜伸度は、上述の方法により、テンシロン万能試験機RTC−1225A(商品名、(株)オリエンテック製)を用いて得られた。
3.2.前処理剤の調製
前処理剤は、次のようにして調製した。15質量%の塩化カルシウムと、0.1質量%の界面活性剤(商品名「BYK−348」、BYK社製)と、モビニール966A(商品名、日本合成化学株式会社製)10質量%と、イオン交換水(残部)とを、総量が100質量%になるよう混合して、前処理剤を得た。なお、各成分の配合量は、固形分換算したものである。
3.3.評価試験
3.3.1.気液界面での凝集物
上記のようにして得られた第2インクA〜Tを10ccずつ量り取って、20ccのガラス瓶に封入し、40℃で3日間保存した。その後、封入した各インクを孔径10μmのフィルターでろ過して、樹脂由来の凝集物を目視にて観察した。評価基準は次の通りであり、評価結果を表4〜表5に示す。
◎:樹脂由来の凝集物なし
○:樹脂由来の凝集物が1個以上20個未満
△:樹脂由来の凝集物が20個以上50個未満
×:樹脂由来の凝集物が50個以上
3.3.2.耐擦性
<印捺物の作製>
耐擦性の試験にあたって、印捺物を作製した。まず、布帛として綿100%のTシャツ(HANES社製のへービーウェイト、綿100%の黒色生地)を用い、これに上記で調製した各前処理剤を、A4サイズ当たり20gになるようにローラーを用いて均一に塗布した後、ヒートプレス機を用いて160℃で1分間加熱処理を行った(前処理工程)。
次に、インクジェット記録装置(セイコーエプソン株式会社製、商品名「EPSON MJ−3000C」)を用いて、上記の各インクを布帛に付着させた。具体的には、布帛をインクジェット記録装置内に搬入した後、第1インクを布帛上に付着させて、第1インクからなる第1画像(白色の下地層)を印捺した(第1画像形成工程)。そして、第1画像が形成された布帛を再度インクジェット記録装置内に搬入して、第2インクを第1画像上の一部の領域に付着させて、第2画像を印捺した(第2画像形成工程)。
その後、ヒートプレス機を用いて160℃で1分間の加熱処理を行うことにより、印捺物を得た(加熱工程)。
印捺条件としては、記録解像度を1440dpi×1440dpiとした。また、第1画像は、ベタパターン画像を4層重ね塗りして、第1インクの付着量を160〜220mg/inchとした。第2画像は、第2インクの付着量を20mg/inchとして形成した。本明細書における「ベタパターン画像」とは、記録解像度で規定される最小記録単位領域である画素の全ての画素に対してドットを記録した画像を意味する。
なお、各実施例および各比較例おける第1インクおよび第2インクの組み合わせ(インクセット)は、表4および表5に記載の通りである。また、実施例18では、前処理工程を行わなかった。
<耐擦性の評価試験>
上記のようにして得られた印捺物を水洗した後、印刷物を十分に乾燥させて、テスター産業社製の学振式摩擦堅牢性試験機AB−301Sを用いて荷重200gで150回擦る摩擦堅牢試験を行った。インクの剥がれ具合を確認する日本工業規格(JIS)JIS L0849に準拠して乾燥(Dry)の水準にて評価した。評価基準は以下の通りであり、評価結果を表4および表5に示す。
◎:摩擦堅牢度が3級以上
×:摩擦堅牢度が3級未満
3.3.3.滲み
上記の「3.3.2.耐擦性 <印捺物の作製>」と同様にして得られた印捺物を用いて、第1画像と第2画像の境界部分を目視にて観察し、第2画像の滲みの状態を評価した。評価基準は次の通りであり、評価結果を表4および表5に示す。
◎:滲みが確認できない
○:僅かに滲みが確認できる
×:はっきりと滲みが確認できる
3.3.4.OD値
上記の「3.3.2.耐擦性 <印捺物の作製>」と同様にして得られた印捺物を用いて、第2画像のOD値を測色器(商品名「Gretag Macbeth Spectrolino」、X−RITE社製)により測定した。評価基準は次の通りであり、評価結果を表4および表5に示す。
◎:OD値が1.2以上
○:OD値が1.0以上1.2未満
△:OD値が1.0未満
3.3.5.隠蔽性
上記の「3.3.2.耐擦性 <印捺物の作製>」と同様にして得られた印捺物を用いて、隠蔽性の評価を行った。隠蔽性の評価は、第2画像の形成されていない第1画像の領域を、測色器(商品名「Gretag Macbeth Spectrolino」、X−RITE社製)によりL値を測定し、得られたL値を基に行った。評価基準は次の通りであり、評価結果を表4および表5に示す。
A:L値が94以上
B:L値が90以上94未満
C:L値が90未満
3.3.6.引っ張り試験
インクに含まれる樹脂の皮膜伸度が及ぼす影響を検討するために、以下の引っ張り試験を行った。
<印捺物の作製>
インクジェット記録装置(セイコーエプソン株式会社製、商品名「EPSON MJ−3000C」)を用いて、第2インクA、第2インクF、第2インクGのそれぞれを、布帛(HANES社製のへービーウェイト、綿100%の青色生地)の20cm×20cmの領域に付着させて、画像を形成した。その後、ヒートプレス機を用いて160℃で1分間の加熱処理を行うことにより、印捺物を得た。印捺条件としては、記録解像度を1440dpi×1440dpiとし、ベタパターン画像を4層重ね塗りし、200mg/inchのインクを付着させた。
<引っ張り試験>
得られた印捺物の画像において、対向する2辺の中央を反対方向に引っ張り、布帛の長さを1.5倍に引き伸ばした。その後、画像表面を目視にて観察することで、画像のひび割れの発生状態を確認した。評価基準は次の通りであり、評価結果を表6に示す。
A:ひび割れが発生しない
B:若干のひび割れが発生した
C:ひび割れが顕著に発生した
3.3.7.評価結果
以上の評価試験の結果を表4〜表6に示す。
Figure 0006102288
Figure 0006102288
Figure 0006102288
表4および表5の評価結果によれば、実施例に係るインクセットは、樹脂および特定の乳化剤を含有するインクを含むので、気液界面での凝集物の発生を抑制でき、耐擦性に優れた画像を得られることが示された。
一方、比較例1〜4、6、7に係るインクセットは、特定の乳化剤を含有するインクを含まないため、気液界面での凝集物の発生を抑制できなかった。
また、比較例5に係るインクセットでは、樹脂を含有しない第2インクを用いたため、第2画像の耐擦性が著しく低下することが示された。
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。

Claims (11)

  1. 顔料と、樹脂と、を含有する第1インクと、
    顔料と、樹脂と、乳化剤と、を含有する第2インクと、
    を含み、
    前記乳化剤は、下記一般式(1)で表されるアニオン性乳化剤、および、HLB値が1
    2以上の下記一般式(2)で表されるノニオン性乳化剤から選択される少なくとも1種を
    み、
    前記第1インクは、前記乳化剤の含有量が0.03質量%未満である、
    インクジェット捺染用インクセット。
    −O−(CH−CH−O)−A ・・・(1)
    (一般式(1)中、Rは、置換もしくは非置換の炭素数18以上の炭化水素基を表し、
    Aは、−SOM、−POHMまたは−CHCOOMを表し、Mは、アルカリ金属、
    アンモニウムまたはアルカノールアミンを表し、nは、2以上20以下の整数を表す。)
    −O−(CH−CH−O)−H ・・・(2)
    (一般式(2)中、Rは、置換もしくは非置換の炭素数16以上の炭化水素基を表し、
    mは、2以上20以下の整数を表す。)
  2. 請求項1において、
    前記第2インクに含まれる前記乳化剤の含有量が、0.03質量%以上0.3質量%以
    下である、インクジェット捺染用インクセット。
  3. 請求項1または請求項2において、
    前記第1インクは、布帛上に前記第2インクを付着させるための下地層を形成するため
    に用いられる、インクジェット捺染用インクセット。
  4. 請求項1ないし請求項のいずれか1項において、
    前記第1インクに含まれる顔料は、白色系の顔料であり、
    前記第2インクに含まれる顔料は、前記白色系の顔料以外の顔料である、インクジェッ
    ト捺染用インクセット。
  5. 請求項において、
    前記白色系の顔料は、酸化チタンである、インクジェット捺染用インクセット。
  6. 請求項1ないし請求項のいずれか1項において、
    前記第1インクに含まれる前記樹脂の皮膜伸度、および前記第2インクに含まれる前記
    樹脂の皮膜伸度は、400%以上1200%以下である、インクジェット捺染用インクセ
    ット。
  7. 請求項1ないし請求項のいずれか1項において、
    前記第1インクに含まれる前記樹脂、および前記第2インクに含まれる前記樹脂は、い
    ずれも、ウレタン系樹脂およびアクリル系樹脂から選択される少なくとも1種を含む、イ
    ンクジェット捺染用インクセット。
  8. 請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載のインクジェット捺染用インクセットを
    用いたインクジェット捺染方法であって、
    前記第1インクを前記布帛に付着させて、該第1インクからなる第1画像を形成する第
    1画像形成工程と、
    前記第2インクを前記第1画像に付着させて、前記第2インクからなる第2画像を形成
    する第2画像形成工程と、
    を含む、インクジェット捺染方法。
  9. 請求項において、
    前記第2画像形成工程は、前記第1画像の形成に用いた第1インクに含まれる揮発成分
    の重量を100%とした場合に、該揮発成分の残存率が30%以上であるときに行われる
    、インクジェット捺染方法。
  10. 請求項または請求項において、
    前記第1画像が形成される前記布帛の領域に、前記第1インクに含まれる成分と反応す
    る凝集剤が付与されている、インクジェット捺染方法。
  11. 請求項ないし請求項10のいずれか1項において、
    前記第1画像記録工程において、前記布帛に付着させた前記第1インクの付着量が18
    0mg/inch以上である、インクジェット捺染方法。
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