JP6094123B2 - 水圧転写フィルム、加飾成形品及び加飾成形品の製造方法 - Google Patents
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Description
こうした装飾方法として、水圧を利用した水圧転写法が知られている。この水圧転写法は、水溶性あるいは水膨潤性の水溶性フィルムに、所望の装飾層を印刷した転写フィルムを用意し、該転写フィルムの装飾層に、有機溶剤からなる活性剤組成物を塗布して、該装飾層を膨潤、粘着化させる(これを活性化という)。その前又は後に、前記転写フィルムを転写用の装飾層(印刷層)面を上面にして、水面上に浮遊させ、次いで、該転写フィルム上に被転写体となる物品を押圧して、水圧によって転写フィルムを被転写体の装飾処理をすべき被転写面に密着させた後、水溶性フィルムを除去して装飾層を転写する(例えば、特許文献1及び2参照)。
かかる水圧転写法は、クリア塗装感等の「深み」や、立体面への適応性及び高品質な柄表現ができる等の点で、優れた曲面加飾法であるが、これに更に質感を加えて、より優れた高級感を付与する方法が求められている。
すなわち、本発明は、
[1]水溶性フィルム上に意匠層を有する水圧転写フィルムであって、該意匠層が、少なくとも部分的に設けられた低艶層を有し、該低艶層を構成する樹脂組成物がバインダー樹脂と艶消し剤とを含み、該艶消し剤のJIS K 5101−13−1:2004に準拠して測定した吸油量が180mL/100g以上である水圧転写フィルム、
[2]上記[1]に記載の水圧転写フィルムの意匠層を被転写体に転写した加飾成形品、及び
[3]上記[1]に記載の水圧転写フィルムを用い、かつ、下記の工程(a)〜(d)を含むことを特徴とする加飾成形品の製造方法、
工程(a):水圧転写フィルムを水溶性フィルム側が水面側に向くように水面に浮遊させる工程。
工程(b):水圧転写フィルムの意匠層側に活性剤組成物を塗布する工程。
工程(c):該工程(a)及び(b)を経た水圧転写フィルム上に被転写体を押圧し、水圧によって意匠層を被転写体の被転写面に密着させる工程。
工程(d):該被転写体の被転写面上より水溶性フィルムを除去する脱膜工程、
を提供するものである。
本発明の水圧転写フィルムは、水溶性フィルム1上に意匠層2を有し、該意匠層は、少なくとも部分的に設けられた低艶層2aを有する。また、意匠層2は低艶層2aの他に絵柄層2bを有していてもよく、意匠層2が水溶性フィルム1側から低艶層2a及び絵柄層2bをこの順に有していることが好ましい。
通常は、図1に示す水圧転写フィルム10のように、パターン状に形成された低艶層2aと、該低艶層2aを被覆すると共に水溶性フィルム1上の低艶層2aが設けられていない領域をも被覆するように形成された絵柄層2bとによって構成される。このように絵柄層2bが形成された構成は、水圧転写フィルム全体の過度の展伸を抑制することができる点で好ましい。
しかしながら、通常、露出した意匠層2の上に、耐汚染性及び耐擦傷性を付与するためにトップコート層を設けるため、上述のグロスマット意匠が損なわれる。これに対して、本発明の水圧転写フィルムは、低艶層2aを構成する樹脂組成物の改良により、トップコート層を設けた後であっても、良好なグロスマット意匠を維持することができる。その上、トップコート層と低艶層との相互作用によって、低艶層の直上部及びその近傍に視覚的に凹部として認識される低光沢領域が形成され、さらに高級感のあるグロスマット意匠が形成される
通常は、図2に示す水圧転写フィルム20のように、パターン状に形成された低艶層2aと、該低艶層2aを被覆すると共に水溶性フィルム1上の低艶層2aが設けられていない領域をも被覆するように形成された高艶層2cと、該高艶層上に形成された絵柄層2bとによって構成される。このように高艶層2cが形成された構成は、水圧転写フィルム全体の過度の展伸を抑制することができる点で好ましい。
本発明における水溶性フィルム1としては、水溶性又は水膨潤性を有するものであれば良く、従来水圧転写フィルムにおいて一般に使用されている水溶性フィルムの中から、適宜選択して用いることができる。
水溶性フィルム1を構成する樹脂としては、例えばポリビニルアルコール樹脂、デキストリン、ゼラチン、にかわ、カゼイン、セラック、アラビアゴム、澱粉、蛋白質、ポリアクリル酸アミド、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルメチルエーテル、メチルビニルエーテルと無水マレイン酸との共重合体、酢酸ビニルとイタコン酸との共重合体、ポリビニルピロリドン、アセチルセルロース、アセチルブチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アルギン酸ナトリウム等の各種水溶性ポリマーが挙げられる。これらの樹脂は、単独で用いられてもよいし、2種以上が混合されて用いられてもよい。なお、水溶性フィルム1には、マンナン、キサンタンガム、グアーガム等のゴム成分が添加されていてもよい。
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、ポリビニルアルコールの重合度、ケン化度、及び澱粉やゴム等の添加剤の配合量等を変えることにより、水溶性フィルムに対して転写用の印刷層を形成する際に必要な機械的強度、取り扱い中の耐湿性、水面に浮かべてからの吸水による柔軟化の速度、水中での延展又は拡散に要する時間、転写工程での変形のし易さ等を適宜調節することができる。
また、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは水溶性ではあるが、水に溶解する前段階では水に膨潤して軟化しつつもフィルムとして存続することが好ましい。フィルムとして存続している状態にあるときに水圧転写を行なうことにより、水圧転写時の転写用の各層の過度の流動、変形を防止することができるからである。
本発明の水圧転写フィルムは、上述のように、水溶性フィルム1上に意匠層2を有し、該意匠層2の水溶性フィルム側の端面内に低艶層2aが存在する。また、図1のように該意匠層2が水溶性フィルム1側から低艶層2a及び絵柄層2bをこの順に有する態様においては、該意匠層2の水溶性フィルム側の端面内に低艶層2a及び絵柄層2bが存在し、図2のように該意匠層2が水溶性フィルム1側から低艶層2a、高艶層2c及び絵柄層2bをこの順に有する態様においては、該意匠層2の水溶性フィルム側の端面内に低艶層2a及び高艶層2cが存在する。
低艶層2aは、以下に説明するバインダー樹脂と艶消し剤とを含む。
(バインダー樹脂)
低艶層2aに含まれるバインダー樹脂としては、熱可塑性樹脂が挙げられ、具体例としては、アクリル樹脂、アルキッドなどのポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂(例えばポリエステルウレタン系樹脂)、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラールなどのポリビニルアセタール(ブチラール系樹脂)、硝化綿などのニトロセルロース系樹脂が挙げられる。必要に応じて、低艶領域の発現の程度、低艶領域とその他の領域との艶差のコントラストを調整するため、これらの樹脂を1種類以上混合してもよいし、上記に限定されるものではない。
低艶層2aは、例えば後述する絵柄層2bによって木目模様を表現しようとする場合には、木目の導管部分に同調させることで、艶差により導管部分が視覚的に凹部となった模様が得られる。
艶消し剤の具体例としては、シリカ、クレー、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、沈降性硫酸バリウム、ケイ酸カルシウム、合成ケイ酸塩、及びケイ酸微粉末から選択される無機フィラーや、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ナイロン樹脂、ポリプロピレン樹脂、又は尿素系樹脂から選択される有機フィラーが挙げられ、いずれか1種を用いてもよいし、2種以上を組合わせて用いることもできる。これらのうち、吸油度、粒径、細孔容積等の材料設計の自由度が高く、意匠性、白さ、インキとしての塗工安定性に優れた材料であるシリカが好ましく、特に微粉末のシリカが好ましい。
当該吸油量の上限値については、本発明の効果を奏する範囲であれば特に制限はないが、適度なチキソ性を維持して、塗工適性を損なわないとの観点から、400mL/100g以下であることが好ましい。上記艶消剤としての効果と塗工適性のバランスから、艶消し剤の吸油量は250〜300mL/100gであることがより好ましい。
なお、ここで言う体積平均粒径は、レーザー回折−散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径である。
本発明においては、所望により、高艶層2cを低艶層2a上に設けることができる。高艶層2cは、低艶層2aとの艶差を大きくすることで意匠の立体感を高める観点から、アクリルポリマーポリオールを含む樹脂組成物又はその硬化物を用いることが好ましい。当該硬化物は完全硬化されたものであってもよいが、転写加工性等を考慮すると半硬化状態であることが好ましい。また、アクリルポリマーポリオールを含む樹脂組成物と該樹脂組成物の硬化物が混合された状態のものも好ましい態様である。
また、高艶層2cを形成する樹脂組成物には、アクリルポリマーポリオールに加えて、さらにイソシアネートを含有させることもできる。イソシアネートはアクリルポリマーポリオールの硬化剤であって、イソシアネートを含有させることで、当該樹脂組成物の少なくとも一部を硬化状態又は半硬化状態とする。このことにより、加飾成形品の製造時における水圧転写フィルムを水面に浮遊させる工程で、水圧転写フィルムが溶解乃至膨潤することで発生しやすくなる過度の展伸を抑制することができる。
上記アクリルポリマーポリオールは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により求められる、標準ポリスチレンで換算された重量平均分子量が1,000〜100,000であることが好ましく、5,000〜80,000であることがより好ましく、20,000〜50,000であることが特に好ましい。アクリルポリマーポリオールの分子量が1,000以上であると、耐溶剤性が改善し、絵柄層2bを形成した際に高艶層2cが溶解する等の不具合が起こりにくくなり、100,000以下であるとインキ化した際に粘度が低下したり、ゲル化しにくくなるため作業性が向上する。
イソシアネートとしては、分子中に2個以上のイソシアネート基を有する多価イソシアネートであればよく、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート(TDI)、キシレンジイソシアネート(XDI)、ナフタレンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネートなどの芳香族イソシアネート、或いは、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、メチレンジイソシアネート(MDI)、水素添加トリレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネートなどの脂肪族(乃至は脂環式)イソシアネートなどのポリイソシアネートが用いられる。
ブロックイソシアネートを使用することにより、高艶層2cにより高い成形性を付与することができ、所望形状に成形した後に成形品を加熱処理し、イソシアネート基を再生、ポリオールと反応、硬化することにより、低艶層2a、絵柄層2bと良好な密着性を発現できる。
これらのうち、特にウレタン樹脂はアクリルポリマーポリオールとの相溶性が高く、好ましい。
また、上記高艶層2cには、本発明の効果を阻害しない範囲内で着色剤を添加してもよい。着色剤としては、後述する絵柄層で用いられるものと同様のものを用いることができる。
ウレタン樹脂としては、非架橋型のもの、すなわち、3次元架橋して網目状の立体的分子構造を持ったものではなく、線状の分子構造を持った熱可塑性樹脂となったものを選択することが好ましい。このような非架橋型のウレタン樹脂としては、ポリオール成分として、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリオールを主剤とし、イソシアネートと反応させてなる非架橋型ウレタン樹脂を使用でき、成形性、耐熱性、耐候性、低艶層2aとの密着性等の観点から、ポリエステルポリオールと、ヘキサメチレンジイソシアネート等のイソシアネートとの組合せにより合成されるものが特に好ましい。通常ポリオール1分子中の水酸基数及びイソシアネート1分子中のイソシアネート基はそれぞれ平均2である。
また、ウレタン樹脂としては、ポリオール成分、ポリアミン成分及びイソシアネートの組合せより合成されるウレタンウレア樹脂が好ましく用いられ、ポリオール成分やイソシアネートとしては、上述したものを用いることができる。
本発明においては、所望により、絵柄層2bを低艶層2a上又は高艶層2c上に設けることができる。絵柄層2bは、通常、バインダー樹脂と着色剤とを含有する。絵柄層2bのバインダー樹脂としては、低艶層2aで用いられるバインダー樹脂と同様のものが挙げられる。
着色剤としては、カーボンブラック(墨)、鉄黒、チタン白、アンチモン白、黄鉛、チタン黄、弁柄、カドミウム赤、群青、コバルトブルーなどの無機顔料、キナクリドンレッド、イソインドリノンイエロー、フタロシアニンブルーなどの有機顔料又は染料、アルミニウム、真鍮などの鱗片状箔片からなる金属顔料、二酸化チタン被覆雲母、塩基性炭酸鉛などの鱗片状箔片からなる真珠光沢(パール)顔料などが用いられる。
図1に示す本発明の水圧転写フィルム10は、例えば、水溶性フィルム1の上に低艶層2aをパターン状に形成する工程(A)と、低艶層2aを被覆すると共に水溶性フィルム1上の低艶層2aが設けられていない領域をも被覆するように絵柄層2bを形成して意匠層2とする工程(B)により製造することができる。
工程(A)において、低艶層2aは公知の印刷方法によりパターン状に形成することができ、例えば、バインダー樹脂及び艶消し剤を含むインキ及び柱状凹部のセル形状を有するグラビア版材を用いて、グラビア印刷、好ましくはグラビアオフセット印刷を施して形成することができる。
工程(B)において、絵柄層2bは公知の塗布方法又は印刷方法によって形成したり、あるいは樹脂フィルムを低艶層2a上にラミネートすることにより形成することができる。当該塗布方法としては、グラビアコート、リバースコート等が挙げられ、印刷方法としては、グラビア印刷等が挙げられる。また、絵柄層2bは、全面ベタ印刷であってもよい。
また、図2に示す本発明の水圧転写フィルム20を製造する場合は、上記の工程(B)において絵柄層2bを形成するに先立ち、高艶層2cを公知の塗布方法又は印刷方法によって形成すればよい。
本発明の水圧転写フィルム10及び20を用いて、下記の工程(a)〜(d)により加飾成形品を製造することができる。
工程(a):水圧転写フィルム10又は20を水溶性フィルム1側が水面側に向くように水面に浮遊させる工程。
工程(b):水圧転写フィルム10又は20の意匠層2側に活性剤組成物を塗布する工程。
工程(c):該工程(a)及び(b)を経た水圧転写フィルム10又は20上に被転写体を押圧し、水圧によって意匠層2を被転写体の被転写面に密着させる工程。
工程(d):該被転写体の被転写面上より水溶性フィルム1を除去する脱膜工程。
また、上記の工程(d)に次いで下記の工程(e)を備えていてもよい。
工程(e):被転写体の被転写面上にトップコート層を形成する工程。
工程(a)は、工程(b)の前又は後に行うことができる。水圧転写フィルム10及び20は、水溶性フィルム1側が水面側に向くように水面上に浮遊させる。水圧転写フィルム10及び20を水面に浮遊させるには、枚葉の印刷物を1枚ずつ浮遊させてもよく、また水を一方向に流し、その水面上に連続帯状の水圧転写フィルム10又は20を、連続的に供給して浮遊させてもよい。
工程(b)は、工程(a)の前又は後に行うことができ、意匠層2側に活性剤組成物を塗布する工程である。この工程で活性剤組成物を塗布することにより、意匠層2の少なくとも一部が溶解乃至膨潤して軟化し(活性化し)、被転写体と密着しやすくなる。
活性剤組成物は、意匠層2や絵柄層2bを活性化して、被転写体の被転写面に転写させる機能を有する組成物であれば特に制限はなく、また、被転写体の被転写面に各層を転写させるまで蒸発しないような性状を有することが好ましい。このような活性剤組成物としては、例えばエステル類、アセチレングリコール類、エーテル類、及び樹脂を含む組成物が好ましく挙げられる。
エステル類としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸tert−ブチル、シュウ酸ジブチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソオクチルなどが好ましく挙げられる。
アセチレングリコール類としては、メトキシブチルアセテート、エトキシブチルアセテート、エチルカルビトールアセテート、プロピルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテートなどが好ましく挙げられる。
エーテル類としては、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、イソアミルセロソルブなどが好ましく挙げられる。
また、樹脂としては、アクリレート系単量体の単独又は共重合体などの熱可塑性樹脂や、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、フタル酸アルキッド樹脂、フタル酸ジアリル樹脂、アルキッド樹脂、ポリウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂などが好ましく挙げられ、なかでも熱硬化性樹脂が好ましい。
本発明で用いられる活性剤組成物の好ましい各組成の含有量は、エステル類では5〜40質量%、アセチレングリコール類では40〜80質量%、エーテル類では5〜30質量%、及び樹脂では1〜20質量%程度である。
工程(c)は、工程(a)及び工程(b)を経た水圧転写フィルム10及び20上に被転写体を押圧し、水圧によって少なくとも意匠層2を被転写体の被転写面に密着させる工程である。
水圧転写フィルム10及び20を浮かべ水圧を印加するための水は、該水圧転写フィルム10及び20の水溶性フィルム1の種類などに応じ、適宣水温を調整するのがよく、好ましくは25〜50℃程度、より好ましくは25〜35℃である。
また、本発明の水圧転写フィルム10及び20と被転写体との転写時間は、20〜120秒程度が好ましく、より好ましくは30〜60秒程度である。
被転写体としては、例えば、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリカーボネート樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、繊維系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの樹脂、あるいはこれらを混合した樹脂のほか、鉄、アルミニウム、銅などの金属、陶磁器、ガラス、琺瑯などのセラミックス、木材などの材料からなる構造体を使用することができる。
また、被転写面の形状は、平面形状である二次元形状であってもよいし、凹凸形状や曲面形状などの三次元形状であってもよい。これらの中で、通常、樹脂製構造体が多用される。この樹脂製構造体は、成型時において離型剤が付着するとともに、ゴミや脂分なども付着することがあり、水圧転写フィルムの各層を密着性よく転写させるために、予め脱脂液により被転写面を清浄化しておくことが好ましい。
脱膜工程(d)は、工程(c)の後に行われ、被転写体の被転写面上より水溶性フィルム1を除去する工程である。
被転写体の被転写面上に付着している水溶性フィルム1の除去は、例えば、水を用いてシャワー洗浄することで行うことができる。なお、シャワー洗浄の条件は、水溶性フィルム1を形成する材料などにより異なるが、通常は水温15〜60℃程度、洗浄時間10秒〜5分程度が好ましい。そして、工程(d)の後、被転写体を十分乾燥し水分を蒸発させれば、被転写体の被転写面に転写された低艶層2aとその他の部分との艶差によって、グロスマット意匠が付与された樹脂成形品が得られる。
工程(e)は、被転写体の被転写面上に、トップコート層を形成する工程である。
当該工程(e)においては、前記工程(d)にて被転写体の被転写面に転写された意匠層に対し、表面強度の向上、表面保護、表面の艶調整などのために必要に応じ塗装を施し、透明ないし半透明のトップコート層を形成する。
このトップコート層を形成する材料としては、例えば熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂などが選択され、具体的にはウレタン系樹脂、エポキシ樹脂、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂、ケイ素系樹脂などが用いられる。トップコート層の形成は、上記の樹脂を公知の有機溶剤に溶解して得た塗料を用いて、スプレー塗装、静電塗装、刷毛塗り、浸漬塗装、など公知の塗装方法により行うことができる。また、トップコート層の厚みは、好ましくは1〜25μmであり、より好ましくは1〜10μmである。
なお、各例で得られた水圧転写フィルムを使用した加飾成形品について以下に示す性能評価を行った。
(1)意匠性(グロスマット効果)
表面の意匠性を目視にて評価した。評価基準は以下のとおりである。
A :導管部が凹部として認識され、本目に近く、意匠性が極めて高かった。
B :導管部が凹部として認識され、意匠性が高かった。
C :意匠性に若干劣るが、実用上問題ない。
D :意匠が平面的で、意匠性に極めて劣るものであった。
加飾成形品の表面状態を目視により観察し下記の基準で評価した。
(評価基準)
A:伸展性がよく、複雑形状部位への追従性が良好であった。
B:複雑形状部位への追従性は不十分であったが、それ以外の部位への追従性は良好であった。
C:転写した際にわずかにクラックの発生が見られたが、実用上問題ない。
D:転写した際にクラックが多数発生し、意匠性を損なうものであった。
(水圧転写フィルムの製造)
水溶性フィルムとして、PVAフィルム(厚み40μm)を用い、その片面の一部に、後述の木目柄の導管部と同調するパターンの低艶層をグラビア印刷により形成した。低艶層の形成には、バインダー樹脂である硝化綿とアルキッド樹脂との混合樹脂(硝化綿とアルキッドの質量比5:2)を使用し、これに艶消し剤であるシリカ(体積平均粒径:3μm、吸油量:200mL/100g)を質量比1:1で含むインキを使用した。低艶層の厚みは1μmとした。
次に、低艶層上に、該低艶部分の木目柄の導管部と同調するように、木目模様の絵柄層をグラビア印刷により形成し、水圧転写フィルムを得た。絵柄層は、バインダー樹脂として、硝化綿とアルキッド樹脂との混合樹脂(硝化綿とアルキッドの質量比5:2)を使用し、着色剤に弁柄及びカーボンブラックを所定の配合比率で使用した着色インキを用いた。
上述のようにして得た水圧転写フィルムの絵柄層表面に、下記組成の活性剤組成物を3g/m2塗布し、水溶性フィルム側が水面側を向くように水面に浮遊させた後、水圧転写フィルム上に被転写体を押圧し、水圧によって低艶層及び絵柄層からなる意匠層を被転写体の被転写面に密着させる転写工程を経て、該被転写体の被転写面上より水溶性フィルムを除去する脱膜工程を行った。このようにして得られた加飾成形品は、最表面に低艶層と絵柄層からなる意匠層が露出したものとなった。
該意匠層上に、ウレタン系の2液硬化型樹脂を用いてトップコート層を形成した。トップコート層の厚みは10μmとした。得られた加飾成形品の意匠性及び転写加工性を上記の方法で評価した。結果を第1表に示す。
(活性剤組成物の組成)
フタル酸系アルキッド樹脂 6質量部
マイクロシリカ(顔料) 2質量部
フタル酸ジブチル 17質量部
溶剤(ブチルカルビトールアセテート) 60質量部
溶剤(ブチルセロソルブ) 15質量部
実施例1において、艶消し剤として吸油量が250mL/100gのシリカ(体積平均粒径:3μm)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして水圧転写フィルムを製造し、該水圧転写フィルムを用いて、加飾成形品を得、意匠性及び転写加工性を実施例1と同様に評価した。結果を第1表に示す。
実施例2において、艶消し剤であるシリカの粒径を5μmとしたこと以外は、実施例2と同様にして水圧転写フィルムを製造し、該水圧転写フィルムを用いて、加飾成形品を得た。意匠性及び転写加工性を実施例1と同様に評価した結果を第1表に示す。
実施例2において、艶消し剤であるシリカの粒径を10μmとしたこと以外は、実施例2と同様にして水圧転写フィルムを製造し、該水圧転写フィルムを用いて、加飾成形品を得た。意匠性及び転写加工性を実施例1と同様に評価した結果を第1表に示す。
実施例2において、艶消し剤であるシリカの粒径を15μmとしたこと以外は、実施例2と同様にして水圧転写フィルムを製造し、該水圧転写フィルムを用いて、加飾成形品を得た。意匠性及び転写加工性を実施例1と同様に評価した結果を第1表に示す。
実施例1において、艶消し剤を配合しなかったこと以外は、実施例1と同様にして水圧転写フィルムを製造し、該水圧転写フィルムを用いて、加飾成形品を得た。意匠性及び転写加工性を実施例1と同様に評価した結果を第1表に示す。
比較例1において、顔料として酸化チタンを配合したこと以外は比較例1と同様にして水圧転写フィルムを製造し、該水圧転写フィルムを用いて、加飾成形品を得た。意匠性及び転写加工性を実施例1と同様に評価した結果を第1表に示す。
実施例1において、艶消し剤として、吸油量150mL/100gのシリカを用いたこと以外は実施例1と同様にして水圧転写フィルムを製造し、該水圧転写フィルムを用いて、加飾成形品を得た。意匠性及び転写加工性を実施例1と同様に評価した結果を第1表に示す。
2 意匠層
2a 低艶層
2b 絵柄層
2c 高艶層
10 水圧転写フィルム
20 水圧転写フィルム
Claims (10)
- 水溶性フィルム上に意匠層を有する水圧転写フィルムであって、該意匠層が、少なくとも部分的に設けられた低艶層を有し、該低艶層を構成する樹脂組成物がバインダー樹脂と艶消し剤とを含み、該艶消し剤のJIS K 5101−13−1:2004に準拠して測定した吸油量が230mL/100g以上である水圧転写フィルム。
- 前記艶消し剤がシリカである請求項1に記載の水圧転写フィルム。
- 前記艶消し剤の粒径が1〜8μmである請求項1又は2に記載の水圧転写フィルム。
- 前記低艶層を構成する樹脂組成物中の前記艶消し剤の配合量が0.5〜80質量%である請求項1〜3のいずれかに記載の水圧転写フィルム。
- 前記低艶層を構成する樹脂組成物中のバインダー樹脂が、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラール樹脂、及び硝化綿から選択される少なくとも1種である請求項1〜4のいずれかに記載の水圧転写フィルム。
- 前記意匠層が、水溶性フィルム側から低艶層及び絵柄層をこの順に有する請求項1〜5のいずれかに記載の水圧転写フィルム。
- 請求項1〜6のいずれかに記載の水圧転写フィルムの意匠層を被転写体に転写した加飾成形品。
- 前記転写により得られた転写層上にさらにトップコート層を有する請求項7に記載の加飾成形品。
- 請求項1〜6のいずれかに記載の水圧転写フィルムを用い、かつ、下記の工程(a)〜(d)を含むことを特徴とする加飾成形品の製造方法。
工程(a):水圧転写フィルムを水溶性フィルム側が水面側に向くように水面に浮遊させる工程。
工程(b):水圧転写フィルムの意匠層側に活性剤組成物を塗布する工程。
工程(c):該工程(a)及び(b)を経た水圧転写フィルム上に被転写体を押圧し、水圧によって意匠層を被転写体の被転写面に密着させる工程。
工程(d):該被転写体の被転写面上より水溶性フィルムを除去する脱膜工程。 - 前記工程(d)の後に、さらに工程(e)を有する請求項9に記載の加飾成形品の製造方法。
工程(e):被転写体の被転写面上にトップコート層を形成する工程。
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