以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
以下、上記式(1)で示されるフタロシアニン化合物を、単に「フタロシアニン化合物」あるいは「本発明のフタロシアニン化合物」とも称する。なお、上記Z1〜Z16のうちに含まれる置換基の数が例えば3.9個と小数でありうるのは、以下の理由による。すなわち、本発明の「フタロシアニン誘導体」を製造するための原料(フタロニトリル誘導体)を所望の割合において混合する。この際、製造された「フタロシアニン誘導体」は、様々な構造を有する混合物のような形態となっている。つまり、置換基(a)もしくは置換基(b)、「水素原子」、または残部のハロゲン原子の数も小数でありうる。
本発明のフタロシアニン化合物は、上記したように、特定数の置換基(a)、置換基(b)、水素原子およびハロゲン原子がフタロシアニン骨格に導入されることを特徴とする。このような構造を有するフタロシアニン化合物は、コントラストに優れ、青味の強いシアン色を有する。ここで、フタロシアニン化合物の青味の程度は、630nmにおける高い吸収及び460nmにおける高い透過率で表すことができる。詳細には、代表的な赤色光である630nmの光を吸収するほど、よりシアン色が強くなり、また、代表的な青色光である460nmの光を透過するほど、鮮やかなシアン色を呈する。具体的に、460nmの吸光度{Abs(460nm)}に対する630nmの吸光度{Abs(630nm)}の割合{Abs(630nm)/Abs(460nm)}で青味の程度を表すことができ、その割合の値が大きいほど、青味が強いシアン色になることを意味する。また、460nmの吸光度の値が小さいほど、すなわち460nmにおける透過率{%T(460nm)}の値が大きいほど、より鮮やかなシアン色になることを意味する。より具体的には、本発明のフタロシアニン化合物の、460nmの吸光度に対する630nmの吸光度の割合{Abs(630nm)/Abs(460nm)}は、通常40を超え、より好ましくは50以上であり、特に好ましくは60以上である。なお、Abs(630nm)/Abs(460nm)は、高いほど好ましいため、その上限は特に限定されない。好ましくは、上限は、100であり、80であることがより好ましい。また、本発明のフタロシアニン化合物の460nmにおける透過率の値は、通常90%を超え、好ましくは94%以上であり、100%に近付けば近付くほど、理想的である。
さらに、本発明のフタロシアニン化合物は、各種溶剤に対して優れた溶解性を示す。ここで、「溶剤」とは、特に制限されないが、インクジェット用インクに一般的に使用される溶剤でありうる。具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール等のケトン系溶剤;メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec−アミルアルコール、n−ヘキサノール等のアルコール系溶剤;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノt−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)等のグリコール系溶剤;トルエン、キシレン等の炭化水素系溶剤;乳酸エチル、3−エトキシプロピロオン酸エチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤などが挙げられる。これらのうち、本発明のフタロシアニン化合物は、グリコール系溶剤、ケトン系溶剤、またはアルコール系溶剤への溶解性に優れることが好ましく、グリコール系溶剤またはケトン系溶剤への溶解に優れることがより好ましく、グリコール系溶剤、特にPGMEAへの溶解性に優れることが特に好ましい。
上記利点に加えて、本発明のフタロシアニン化合物は、樹脂との相溶性、耐熱性、耐光性および耐候性の少なくとも1つの特性に優れる。また、本発明のフタロシアニン化合物は、置換基(a)および(b)の総置換数が少ないため、グラム当たりの吸光係数(以下、グラム吸光係数とする)が高い。したがって、本発明のフタロシアニン化合物は、シアン色染料としての機能(コントラスト、青味の強さ、鮮やかさ等)、種々の溶剤への溶解性、耐久性(耐熱性、耐光性、耐候性)、グラム当りの吸光度のバランスに優れ、シアン色インクジェット用インクに好適に使用できる。なお、本明細書において、630nmにおける吸光度{Abs(630nm)}および460nmにおける吸光度{Abs(460nm)}は、下記実施例で用いる測定の方法に従って測定された値であり、460nmにおける透過率{%T(460nm)}は、当該測定された460nmにおける吸光度{Abs(460nm)}に基づき、計算された値である。
本発明のフタロシアニン化合物は、Z1〜Z16のうち、1〜3.9個は置換基(a)または置換基(b)であり、3〜12個は水素原子であり、かつ残部はハロゲン原子であり、1〜3.9個の置換基(a)または置換基(b)のうち、少なくとも1個以上は、置換基(a)である。このような構造を有するフタロシアニン化合物は、以下のような利点がある:(i)630nmにおける高い吸収及び460nmにおける高い透過率を有する。すなわち、460nmの吸光度に対する630nmの吸光度の割合が高い。かつ、460nmにおける透過率の値が大きい。460nmの吸光度に対する630nmの吸光度の割合の値が大きいゆえに、本発明のフタロシアニン化合物はより青味の強いシアン色を有する。また、460nmにおける透過率の値が大きいゆえに、本発明のフタロシアニン化合物はより鮮やかなシアン色を有する;(ii)グリコール系溶剤をはじめ、ケトン系、またはアルコール系などの各種溶剤への溶解性を有する;(iii)樹脂との相溶性に優れる。このうち、上記(i)を有するおかげで、本発明のフタロシアニン化合物は、シアン色インクジェット用インクに好適に使用できる。また、上記(ii)および(iii)のおかげで、グリコール系溶剤等の溶剤への溶解性が高い樹脂と色素とを組み合わせて用いることができ、また、使用する溶剤以外の溶剤には溶けてしまうプラスチックを用いる場合であっても、該プラスチック上に色素を塗布することができる。
また、本発明のフタロシアニン化合物は、置換基(a)または(b)として、酸素原子を含む置換基(−OE;この際、Eは、任意の置換基を表す)あるいは硫黄原子を含む置換基(−SE;この際、Eは、任意の置換基を表す)がフタロシアニン骨格に導入される。ここで、フタロシアニン化合物の特性は、一般的に、置換基の種類、導入個数および導入箇所(α位、β位)などにより変化する。溶解性を付与する為には、置換基の導入は必須であるが、例えば、置換基の種類としては、窒素原子を含む置換基(−NE;この際、Eは、任意の置換基を表す)、硫黄原子を含む置換基(−SE)、酸素原子を含む置換基(−OE)の順に、フタロシアニン化合物の吸収波長はより長波長側にシフトする。また、フタロシアニン骨格に導入される置換基の数が多いほど、吸収波長はより長波長側にシフトする。ゆえに、本発明のフタロシアニン化合物は、吸収波長と溶解性のバランスを考慮し、酸素原子を含む置換基(−OE)あるいは硫黄原子を含む置換基(−SE)を適当数導入することで、630nmでの高い吸収性及び460nmでの高い透過性という選択吸収/透過能を高めることができる。なお、β位に酸素原子を含む置換基(−OE)あるいは硫黄原子を含む置換基(−SE)が導入されたフタロシアニン化合物は、α位にこれらの置換基が導入された場合に比べて、最大吸収波長がより短波長側にシフトしうる。
また、本発明のフタロシアニン化合物は、上記式(1)における、Z2、Z3、Z6、Z7、Z10、Z11、Z14及びZ15(本明細書中では、単に「β位の置換基」または「β位」とも称する)およびZ1、Z4、Z5、Z8、Z9、Z12、Z13及びZ16(本明細書中では、単に「α位の置換基」または「α位」とも称する)に置換基(a)および置換基(b)を置換基数及び置換基種を適切に選択して導入することで、鮮やかで青味の強いシアン色を有する。また、このような配置のフタロシアニン化合物は、様々な溶剤への溶解性(本明細書では、単に「溶媒溶解性」とも称する)をも有しうる(特に、グリコール系溶剤に可溶性である)。さらに、このような配置のフタロシアニン化合物は、樹脂との相溶性、耐熱性、耐光性および耐候性の少なくとも1つの特性に優れる。
以下、本発明における好ましい実施の形態を説明する。
本発明において、上記式(1)の置換基Z1〜Z16のうち、1〜3.9個は置換基(a)または置換基(b)であり、3〜12個は水素原子であり、かつ残部はハロゲン原子である。この際、置換基(a)と置換基(b)は異なる置換基である。これらのうち、630nmにおける高い吸収及び460nmにおける高い透過率、グラム吸光係数を考慮すると、置換基(a)または置換基(b)の合計導入数が少ないことが好ましく、上記式(1)の置換基Z1〜Z16のうち、1.1〜3.7個が置換基(a)または置換基(b)であり、3〜12個が水素原子であり、かつ残部はハロゲン原子であることが好ましく、1.2〜3.5が置換基(a)または置換基(b)であり、3〜12個が水素原子であり、かつ残部はハロゲン原子であることがより好ましく、1.2〜3個が置換基(a)または置換基(b)であり、3〜11個が水素原子であり、かつ残部はハロゲン原子であることがさらに好ましく、1.2〜2.8個が置換基(a)または置換基(b)であり、3.5〜9個が水素原子であり、かつ残部はハロゲン原子であることがもっとも好ましい。
ここで、Z1〜Z16のうち、置換基(a)および置換基(b)の総置換数が1個未満であると、置換基(a)または(b)をフタロシアニン骨格に導入することによる効果、特に溶剤への溶解性が低下し、インクジェット用インクへの使用に適さない。
また、1〜3.9個の置換基(a)または置換基(b)のフタロシアニン骨格での導入位置は、全置換数が上記範囲であれば特に制限されない。このため、下記のように、Z1〜Z4、Z5〜Z8、Z9〜Z12、Z13〜Z16を含む各構成単位を、それぞれ構成単位A、B、C、Dとすると、置換基(a)または置換基(b)が、構成単位A〜D中、ほぼ均一に導入されても不均一に導入されてもよい。好ましくは、置換基(a)または(b)は、構成単位A〜D中、不均一に導入される。このように置換基が混在することは、630nmにおける高い吸収及び460nmにおける高い透過率、種々溶剤への溶解性、波長制御、耐久性(耐光性、耐熱性)、グラム当りの吸光度のバランスを図る点で好ましい。また、詳細なメカニズムは不明であるが、置換基(a)および置換基(b)が適当数不均一に存在することで、630nmにおける高い吸収及び460nmにおける高い透過率と溶剤への溶解性を両立させることができるものと考えられる。なお、複数種の置換基(a)または(b)が存在する場合には、これらの置換基(a)および(b)は、それぞれ、同一であってもあるいは異なるものであってもよい。
また、1〜3.9個の置換基(a)または置換基(b)のうち、少なくとも1個以上は、置換基(a)である。ここで、1〜3.9個の置換基(a)または置換基(b)のうち、少なくとも1個以上は、置換基(a)であればよく、置換基(b)は存在しても、あるいは置換基(b)は存在しなくてもよい。置換基(a)および置換基(b)が共存する場合が好ましく、その場合1〜3.9個の置換基(a)または置換基(b)のうち、0.1〜2.9個が置換基(b)であることが好ましく、0.1〜2.5個が置換基(b)であることがより好ましい。このような割合で置換基(a)のみが存在するまたは置換基(a)および置換基(b)が共存することで、得られるフタロシアニン化合物は、460nmの吸光度に対する630nmの吸光度の割合及び460nmにおける透過率が高く、また、各種溶剤へも可溶であり得る。また、各置換基(a)、(b)の導入位置の組み合わせは、特に限定されず、いずれの組み合わせも適用できる。
本発明において、上記式(1)の置換基Z1〜Z16のうち、置換基(a)および置換基(b)の他に、3〜12個は水素原子である。水素原子の数がこの範囲である場合、他の置換基との組み合わせにもよるが、得られるフタロシアニン化合物は、短波長側へシフトし、630nm付近における吸収が高くなり、すなわち460nmの吸光度に対する630nmの吸光度の割合が大きくなる。また、得られるフタロシアニン化合物は、溶剤、特にPGMEAへの溶解性が良くなる。さらに、置換基Z1〜Z16を前記のようにそれぞれ構成単位A〜Dにする場合には、前記構成単位Aが全て水素原子である、前記構成単位Bが全て水素原子である、前記構成単位Cが全て水素原子である、および前記構成単位Dが全て水素原子である時の前記構成単位A〜Dの合計数が、0個を超えてかつ2.4個未満であることが好ましく、0.5〜2.0個であることがより好ましい。このような構成にすることにより、フタロシアニン化合物は、短波長側へシフトし、青味の強いシアン色を有する。
本発明において、上記式(1)の置換基Z1〜Z16のうち、置換基(a)もしくは置換基(b)、または水素原子が導入されない残部はハロゲン原子である。詳細なメカニズムは不明であるが、このように残部にハロゲン原子を適当数で配置することによって、得られるフタロシアニン化合物の耐久性(耐光性、耐熱性)、または溶解性が向上するものと考えられる。ここで、ハロゲン原子としては、特に制限されず、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子のいずれでもよい。好ましくは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子であり、塩素原子、臭素原子がより好ましい。上記したようなハロゲン原子を残部に配置することによって、耐久性(耐光性、耐熱性)や溶解性をより向上できる。また、残部に導入されるハロゲン原子は、同一であってもよく、異なっていてもよい。
本発明において、置換基(a)は、上記式(2)で表わされる。なお、上記式から明らかなように、置換基(a)は、1個の置換基R1および必要であれば1〜4個のR2を有するフェノキシ基である。
上記式(2)において、R1は、2位に置換されているハロゲン原子または炭素数1〜4のアルキル基である。2位に置換基を有することにより、溶媒への溶解性が高くなる。
また、上記式(2)において、R2は、R1と同じであっても、異なっていてもよく、ハロゲン原子または炭素数1〜4のアルキル基である。好ましくは、R2とR1が同じである。
ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等がある。これらのうち、溶媒溶解性、耐熱性などの上記特性を考慮すると、R1は、フッ素、塩素であることが好ましく、塩素であることがより好ましい。
炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基がある。これらのうち、溶媒溶解性、耐熱性などの上記特性を考慮すると、R1は、メチル基、エチル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。
また、上記式中、mは0〜4の製数であり、置換基R2の個数である。630nmにおける高い吸収、460nmにおける高い透過率、溶媒溶解性、耐熱性などの上記特性を考慮するとmは1〜4が好ましく、1〜2がより好ましく、1がさらに好ましい。mが1である場合には、R2は、フェノキシ基の3,4,5及び6位のいずれの位置に導入されてもよい。この際、630nmにおける高い吸収、460nmにおける高い透過率、溶媒溶解性、耐熱性などの上記特性を考慮すると、5位または6位が好ましい。置換基(a)の好ましい式を、具体的に下記化学式(4)または(5)で表す。
上記式(4)および(5)中、R1およびR2は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基である。
また、本発明において、置換基(b)は、下記式(3):
で表される。
本発明において、上記式(3)中、Xは、酸素原子(−O−)または硫黄原子(−S−)であり、好ましくは酸素原子である。Xが酸素原子であると、得られるフタロシアニン化合物の最大吸収波長を短波長側にシフトできるため、得られるフタロシアニン化合物は、630nmにおける高い吸収及び460nmにおける高い透過率を有する。この際、置換基(b)は置換基(a)とは異なる置換基である。また、Xが硫黄原子であると、得られるフタロシアニン化合物は、高い溶媒溶解性をもつという利点がある。
また、上記式(3)中、Arは、R3で置換されてもよいフェニル基またはナフチル基であり、好ましくはフェニル基である。ここで、ArがR3で置換されてもよいフェニル基である場合には、Arは、下記式で表わされる基である。
上記式中、X及びR3は、上記式(3)での定義と同様であり、nは、0〜5の整数である。
上記式(3)および式(6)中、R3は、フェニル基またはナフチル基に導入されてもよい置換基であり、シアノ基(−CN)、ニトロ基(−NO2)、OY、ハロゲン原子、アリール基、またはハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜8のアルキル基である。R3が複数個存在する場合には、これらの複数のR3は、同一であっても異なるものであってもよい。上記R3のうち、R3がOYである場合の、Yは、炭素数1〜8のアルキル基である。ここで、炭素数1〜8のアルキル基としては、特に制限されず、炭素数1〜8の直鎖、分岐または環状のアルキル基が挙げられ、より具体的には、炭素数1〜8のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基等の直鎖、分岐又は環状のアルキル基が挙げられる。これらのうち、溶媒溶解性、耐熱性などの上記特性を考慮すると、炭素数1〜5の直鎖または分岐のアルキル基が特に好ましい。
また、上記R3がハロゲン原子である場合の、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子が挙げられる。これらのうち、630nmにおける高い吸収、460nmにおける高い透過率、溶媒溶解性、耐熱性などの上記特性を考慮すると、フッ素原子、塩素原子、臭素原子が好ましい。また、R3がフッ素原子、塩素原子である場合には、色素の分子量が小さくなり、グラムあたりの吸光度が高くなりうる。
また、上記R3がアリール基である場合の、アリール基としては、フェニル基、p−メトキシフェニル基、p−t−ブチルフェニル基、p−クロロフェニル基、等のアリール基が挙げられる。中でも、色素の分子量が小さくなり、グラムあたりの吸光度が高くなるため、フェニル基が好ましい。
また、上記R3がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜8のアルキル基である場合の、置換されていてもよい炭素数1〜8のアルキル基としては、特に制限されず、炭素数1〜8の直鎖、分岐または環状のアルキル基が挙げられ、より具体的な例は、上記Yと同じである。これらのうち、溶媒溶解性、耐熱性などの上記特性などを考慮すると、炭素数1〜5の直鎖または分岐のアルキル基が、特に好ましい。また、場合によっては存在する、アルキル基の置換基であるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子が挙げられる。これらの中でも、フッ素原子または塩素原子がより好ましい。アルキル基の置換基であるハロゲン原子は複数個存在していてもよく、複数個存在する場合には同一若しくは異なっていてもよい。アルキル基の置換基の数は特に限定されるものではないが、1〜3個であることが好ましい。
上記式(6)中、Ar中の置換基R3の数nは、特に制限されず、所望の効果(630nmにおける高い吸収、460nmにおける高い透過率、溶媒溶解性、グラム吸光係数、耐熱性など)によって適宜選択できる。例えば、ArがR3で置換されてもよいフェニル基である場合に、nは、1〜5の整数、より好ましくは1〜3の整数である。
上記式(3)および式(6)の置換基(b)において、置換基R3のベンゼン環への結合位置は、特に制限されない。好ましくはメタ位(3位)およびパラ位(4位)である。ここで、置換基R3をメタ位(3位)およびパラ位(4位)に配置すると、得られるフタロシアニン化合物は、630nmにおける高い吸収及び460nmにおける高い透過率を得られるため、特に好ましい。また、置換基R3をオルト位(2位)に配置すると、得られるフタロシアニン化合物は、溶媒溶解性を向上できる。
また、nが2である場合には、2個の置換基R3は、ベンゼン環のいずれの位置に導入されてもよい。この際、630nmにおける高い吸収、460nmにおける高い透過率、溶媒溶解性、耐熱性などの上記特性を考慮すると、2,4位、3,4位、3,5位などが好ましく、2,4位、3,4位がより好ましい。また、溶媒溶解性を考慮すると、2,3位、2,5位、2,6位が好ましく、2,6位が特に好ましい。nが3である場合には、3個の置換基R3は、ベンゼン環のいずれの位置に導入されてもよい。この際、630nmにおける高い吸収、460nmにおける高い透過率、溶媒溶解性、耐熱性などの上記特性などを考慮すると、2,4,6位、2,5,6位などが好ましく、2,4,6位がより好ましい。
また、上記式(3)中、ArがR3で置換されてもよいナフチル基である場合にも、Ar中の置換基R3の数nは、特に制限されず、所望の効果(630nmにおける高い吸収、460nmにおける高い透過率、溶媒溶解性、耐熱性、グラム吸光係数など)によって適宜選択できる。例えば、ArがR3で置換されてもよいナフチル基である場合に、nは、1〜7の整数、好ましくは1〜5の整数を示し、より好ましくは1〜3であり、特に好ましくは1または2である。また、置換基R3のナフタレン環への結合位置は、特に制限されず、所望の効果によって適宜選択できる。例えば、nが1で、Arが1−ナフチル基である場合には、R3のナフタレン環への結合位置は、いずれでもよいが、630nmにおける高い吸収、460nmにおける高い透過率、溶媒溶解性、耐熱性などの上記特性を考慮すると、好ましくは2位、3位、4位が好ましく、2位がより好ましい。また、Arが2−ナフチル基である場合には、R3のナフタレン環への結合位置は、いずれでもよいが、好ましくは1位、3位、6位が好ましく、630nmにおける高い吸収、460nmにおける高い透過率、溶媒溶解性、耐熱性などの上記特性を考慮すると、3位、6位がより好ましい。
上記式(1)において、Mは、無金属、金属、金属酸化物または金属ハロゲン化物を表わすものである。ここで、無金属とは、金属以外の原子、例えば、2個の水素原子であることを意味する。また、金属としては、鉄、マグネシウム、ニッケル、コバルト、銅、パラジウム、亜鉛、バナジウム、チタン、アルミニウム、ゲルマニウム、インジウム、錫等が挙げられる。金属酸化物としては、チタニル、バナジル等が挙げられる。金属ハロゲン化物としては、塩化アルミニウム、塩化インジウム、塩化ゲルマニウム、塩化錫(II)、塩化錫(IV)等が挙げられる。好ましくは、金属、金属酸化物または金属ハロゲン化物であり、より好ましくはコバルト、銅、及び亜鉛であり、さらに好ましくは亜鉛、銅であり、特に好ましくは亜鉛である。中心金属が亜鉛であると、吸収波長をシアン色に制御しやすく、溶剤や樹脂に対する溶解性に優れるため、特に好ましい。
なお、本明細書において、式(1)における、Z1、Z4、Z5、Z8、Z9、Z12、Z13及びZ16は、フタロシアニン核の8箇所のα位に置換する置換基を表わすため、これらの置換基をα位の置換基とも称する。また、同様にして、式(1)における、Z2、Z3、Z6、Z7、Z10、Z11、Z14及びZ15は、フタロシアニン核の8箇所のβ位に置換する置換基を表わすため、これらの置換基をβ位の置換基とも称する。β位の置換基は耐熱性の向上に、α位の置換基は溶媒溶解性の向上に、それぞれ、効果があるので、両者をバランスよく配合することが好ましい。
さらに、本発明のフタロシアニン化合物は、種々溶剤に対して良好な溶解性を持つ。例えば、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、グリコール系溶剤、またはエステル系溶剤などに対して高い可溶性を有する。ここで、アルコール系溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec−アミルアルコール、n−ヘキサノールなどが挙げられる。ケトン系溶剤としては、分岐または直鎖状ケトン及び環状ケトンが有効に用いられる。具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコールなどが挙げられる。これらのうち、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、シクロヘキサノンが、インクジェット用インクでは使用されることが多い。グリコール系溶媒としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノt−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)などが挙げられる。エステル系溶剤としては、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶剤;乳酸エチル、3−エトキシプロピロオン酸エチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどが挙げられる。これらの溶剤のうち、グリコール系溶剤、特にPGMEAに対して、一般的なフタロシアニン化合物は難溶であるが、本発明のフタロシアニン化合物は高い溶解性を持つ。本発明のフタロシアニン化合物は、上記溶剤への溶解度が、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましい。溶解度の上限は特に限定されるものではないが、通常は30質量%以下程度である。特に溶剤がPGMEAのようなグリコール系溶剤である場合には、本発明のフタロシアニン化合物は、5wt%濃度となるように所望の溶剤に溶かして溶液を調製し、この溶液をマグネチックスターラーにより1時間攪拌した後、全量を注射器にて採取し、メンブレンフィルター(φ=0.45μm)を用いてろ過した際に、溶液がメンブレンフィルターにより目詰まりせず通過できる程度であることが好ましい。より具体的には、本発明のフタロシアニン化合物のグリコール系溶剤への溶解度が、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましい。溶解度の上限は特に限定されるものではないが、通常は30質量%以下程度である。
加えて、本発明のフタロシアニン化合物は、樹脂との相溶性、耐熱性、耐光性および耐候性の少なくとも1つの特性に優れる。
上記したような特性は、フタロシアニン核に置換されている置換基(a)や置換基(b)の存在ならびにその置換数に起因する。そして、置換基の種類、数、中心金属の選択により、種々の吸収波長のフタロシアニン化合物を得ることができる。
したがって、本発明のフタロシアニン化合物は、シアン色のインクジェット用インクに好適に使用できる。
本発明のフタロシアニン化合物の製造方法は、特に制限されるものではなく、従来公知の方法を適当に利用することができるが、好ましくは溶融状態または有機溶媒中で、フタロニトリル化合物と金属塩とを環化反応する方法が特に好ましく使用できる。以下、本発明のフタロシアニン化合物について、製造方法の特に好ましい実施形態を記載する。しかしながら、本発明は、下記好ましい実施形態に制限されるものではない。
すなわち、下記式(I):
で示されるフタロニトリル化合物(1)、下記式(II):
で示されるフタロニトリル化合物(2)、下記式(III):
で示されるフタロニトリル化合物(3)、および下記式(IV):
で示されるフタロニトリル化合物(4)を、金属、金属酸化物、金属カルボニル、金属ハロゲン化物及び有機酸金属(本明細書中では、一括して「金属化合物」とも称する)からなる群から選ばれる一種と環化反応させることによって、本発明のフタロシアニン化合物が製造できる。または、上記反応中、下記式(V)のフタロニトリル誘導体(特に、テトラフルオロフタロニトリル、テトラクロロフタロニトリルまたはテトラブロモフタロニトリル)を、上記式(1)〜(4)のフタロニトリル化合物のいずれかと置換して、反応を行なってもよい。このようなフタロニトリル誘導体を反応に使用することによって、フタロシアニン骨格中に導入されるフッ素原子、塩素原子または臭素原子の数を適切に調節して、置換基(a)および/または置換基(b)を適切な置換基数及び置換基種で導入したフタロシアニン化合物を製造できる。上記反応において、式(1)のフタロシアニン化合物の構造に合わせて、フタロニトリル化合物(1)〜(4)を記載したが、目的とするフタロシアニン化合物の構造によっては、フタロニトリル化合物が1〜3種類となることもある。このため、例えば、Z1〜Z4、Z5〜Z8、Z9〜Z12、Z13〜Z16を含む構成単位A〜Dが同じ場合には、原料として使用されるフタロニトリル化合物は1種類となる。
なお、上記式(I)〜(IV)中、Z1〜Z16は、所望のフタロシアニン化合物の構造によって規定される。具体的には、上記式(I)〜(IV)中、Z1〜Z16は、それぞれ、上記式(1)中のZ1〜Z16の定義と同様であるため、ここでは説明を省略する。
上記態様において、出発原料である式(I)〜(IV)のフタロニトリル化合物は、特開昭64−45474号公報に開示されている方法などの、従来既知の方法により合成でき、また、市販品を用いることもできるが、好ましくは、下記式(V):
で示されるフタロニトリル誘導体(本明細書中では、単に「フタロニトリル誘導体」とも称する)を、下記式(2a):
で表される置換基(a)含有前駆体(本明細書中では、単に「置換基(a)含有前駆体」とも称する)、および/または下記式(3a):
で表される置換基(b)含有前駆体(本明細書中では、単に「置換基(b)含有前駆体」とも称する)と反応させることによって得られる。なお、下記において、置換基(a)含有前駆体および置換基(b)含有前駆体を一括して「前駆体」とも称する。
なお、上記式(2a)、中、R1、R2およびmは、それぞれ、上記式(2)中のR1、R2およびmの定義と同様であるため、ここでは説明を省略する。同様にして、上記式(3a)中、X、Ar、およびR3は、それぞれ、上記式(3)中のX、Ar、およびR3の定義と同様であるため、ここでは説明を省略する。
上記反応では、式(V)のフタロニトリル誘導体を、出発原料として使用する。上記式(V)中、X1、X2、X3及びX4は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子またはニトロ基を表わす。ここで、X1、X2、X3及びX4は、同一であってもあるいは異なるものであってもよい。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子が挙げられる。これらのうち、X1、X2、X3及びX4は、フッ素原子、塩素原子または臭素原子を表わすことが特に好ましい。特にテトラフルオロフタロニトリル(以下、TFPNと略す)、テトラクロロフタロニトリル(以下、TCPNと略す)またはテトラブロモフタロニトリル(以下、TBPNと略す)を出発原料として使用する場合には、置換基(a)含有前駆体または置換基(b)含有前駆体が、当該TFPN、TCPNまたはTBPNの3〜6位のフッ素原子、塩素原子または臭素原子とランダムに反応する。このため、TFPN、TCPNまたはTBPNを出発原料として使用することにより、置換基(a)、(b)が、フタロシアニン骨格のα位およびβ位にランダムに導入できる。このため、TFPN、TCPNまたはTBPNをフタロニトリル誘導体の出発原料として使用する場合には、フタロニトリル誘導体は、TFPN、TCPNまたはTBPNの4個のフッ素原子、塩素原子または臭素原子が任意に前駆体で置換された混合物の形態で得られる。また、3−ニトロフタロニトリルまたは4−ニトロフタロニトリルを出発原料として使用することもできる。この場合には、置換基(a)含有前駆体または置換基(b)含有前駆体が、ニトロ基と優先的に反応する。このため、3−ニトロフタロニトリルまたは4−ニトロフタロニトリルを出発原料として使用することにより、置換基(a)、(b)が、フタロシアニン骨格のα位またはβ位に選択的に導入できる。ここで、上述したように、630nmにおける高い吸収及び460nmにおける高い透過率、種々溶剤への溶解性、波長制御、耐久性(耐光性、耐熱性)、グラム当りの吸光度、特に630nmにおける高い吸収及び460nmにおける高い透過率を考慮すると、置換基(a)または(b)は、Z1〜Z4、Z5〜Z8、Z9〜Z12、Z13〜Z16を含む各構成単位A〜D中に、不均一に導入されることが好ましい。このため、TFPN、TCPNまたはTBPNを出発原料として使用することが特に好ましい。
また、上記フタロニトリル誘導体と置換基(a)含有前駆体または置換基(b)含有前駆体との反応において、前記前駆体の割合は、目的とするフタロニトリル化合物の構造によって適宜選択されうる。また、前記前駆体の合計使用量は、特に制限されず、所望のフタロニトリル化合物の構造によって適宜選択されうる。なお、本発明に係るフタロシアニン骨格において、3〜12個は水素原子である。このため、TFPN、TCPNまたはTBPNを置換基(a)含有前駆体または置換基(b)含有前駆体と反応させて、フタロニトリル化合物を製造する場合には、このフタロニトリル化合物を、上記式(V)中、X1、X2、X3及びX4が全て水素原子であるフタロニトリルを、金属化合物との環化反応に使用することによって、フタロシアニン骨格中に水素原子を導入する。しかし、上述したように、Z1〜Z4が全て水素原子である構成単位A、Z5〜Z8が全て水素原子である構成単位B、Z9〜Z12が全て水素原子である構成単位C、およびZ13〜Z16が全て水素原子である構成単位Dの合計数が、0個を超えてかつ2.4個未満であることが好ましい。このため、上記環化反応を行う場合の、フタロニトリルの添加量は、全フタロニトリル化合物に対して、0モル%を超えて60モル%未満であることが好ましく、20〜50モル%であることがより好ましい。これにより、全構成単位A〜D中に、全て水素原子である構成単位A〜Dが占める割合を、上記したような範囲に調節することができる。
上記フタロニトリル誘導体と前駆体との反応は、無溶媒下であるいは有機溶媒中で行われてもよいが、好ましくは有機溶媒中で行なわれる。この際使用できる有機溶媒としては、アセトニトリル及びベンゾニトリル等のニトリル;アセトン及び2−ブタノン等の極性溶媒などが挙げられる。これらのうち、好ましくは、アセトニトリル、ベンゾニトリル及びアセトンである。溶媒を使用する際の有機溶媒の使用量は、フタロニトリル誘導体の濃度が、通常、2〜50質量%、好ましくは10〜40質量%となるような量である。また、このフタロニトリル誘導体と前駆体との反応は、反応中に発生するハロゲン化水素(例えば、塩化水素やフッ化水素)等を除去するために、これらのトラップ剤を使用することが好ましい。トラップ剤を使用する際の具体的なトラップ剤の例としては、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、塩化マグネシウム及び炭酸マグネシウムなどが挙げられ、これらのうち、炭酸カリウム、炭酸カルシウム及び水酸化カルシウムが好ましい。また、トラップ剤を使用する際のトラップ剤の使用量は、反応中に発生するハロゲン化水素等を効率良く除去できる量であれば特に制限されないが、前駆体1モルに対して、通常1〜4モル、好ましくは1〜2モルである。
また、上記フタロニトリル誘導体と前駆体との反応条件は、両者の反応が進行して所望のフタロニトリル化合物を得られる条件であれば特に制限されない。具体的には、反応温度は、通常、20〜150℃、好ましくは40〜120℃である。また、反応時間は、通常、0.5〜60時間、好ましくは1〜50時間である。
上記反応により、上記式(I)〜(IV)のフタロニトリル化合物(1)〜(4)が得られるが、反応後は、従来公知の方法に従って、晶析、ろ過、洗浄、乾燥を行なってもよい。このような操作により、フタロニトリル化合物を効率よく、しかも高純度で得ることができる。
次に、環化反応は、式(I)〜(IV)のフタロニトリル化合物(1)〜(4)と金属、金属酸化物、金属カルボニル、金属ハロゲン化物及び有機酸金属からなる群から選ばれる一種を溶融状態または有機溶媒中で反応させることが好ましい。この際使用できる金属、金属酸化物、金属カルボニル、金属ハロゲン化物及び有機酸金属としては、反応後に得られる式(1)のフタロシアニン化合物のMに相当するものが得られるものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、上記式(1)におけるMの項で列挙された鉄、マグネシウム、ニッケル、コバルト、銅、パラジウム、亜鉛、バナジウム、チタン、アルミニウム、ゲルマニウム、インジウム及びスズ等の金属、当該金属の、塩化物、臭化物、ヨウ化物等の金属ハロゲン化合物、酸化バナジウム、酸化チタニル及び酸化銅等の金属酸化物、酢酸塩等の有機酸金属、ならびにアセチルアセトナート等の錯体化合物及びカルボニル鉄等の金属カルボニル等が挙げられる。具体的には、塩化バナジウム、塩化チタン、塩化銅、塩化亜鉛、塩化コバルト、塩化ニッケル、塩化鉄、塩化インジウム、塩化アルミニウム、塩化錫、塩化ゲルマニウム、塩化マグネシウム、ヨウ化銅、ヨウ化亜鉛、ヨウ化コバルト、ヨウ化インジウム、ヨウ化アルミニウム、臭化銅、臭化亜鉛、臭化コバルト、臭化アルミニウム、等の金属ハロゲン化物;一酸化バナジウム、三酸化バナジウム、四酸化バナジウム、五酸化バナジウム、二酸化チタン、一酸化鉄、三二酸化鉄、四三酸化鉄、酸化マンガン、一酸化ニッケル、一酸化コバルト、三二酸化コバルト、二酸化コバルト、酸化第一銅、酸化第二銅、三二酸化銅、酸化パラジウム及び酸化亜鉛、等の金属酸化物;酢酸銅、酢酸亜鉛、酢酸コバルト、安息香酸銅、安息香酸亜鉛等の有機酸金属;ならびにアセチルアセトナート等の錯体化合物及びコバルトカルボニル、鉄カルボニル、ニッケルカルボニル等の金属カルボニルなどが挙げられる。これらのうち、好ましくは金属、金属酸化物及び金属ハロゲン化物であり、より好ましくは金属ハロゲン化物であり、さらに好ましくは、塩化コバルト、塩化銅およびヨウ化亜鉛であり、より好ましくは、塩化銅およびヨウ化亜鉛であり、特に好ましくはヨウ化亜鉛である。ヨウ化亜鉛を用いる場合、中心金属は、亜鉛ということになる。金属ハロゲン化物のうち、ヨウ化物を用いることが好適な理由は、溶剤や樹脂に対する溶解性に優れ、得られるフタロシアニン化合物のスペクトルがシャープであり、所望の波長に収まりやすいためである。環化反応の際にヨウ化物を用いた場合にスペクトルがシャープになる詳細なメカニズムは不明であるが、ヨウ化物を用いた場合、反応後にフタロシアニン化合物中に残存するヨウ素が、フタロシアニン化合物と何らかの相互作用を起こして、フタロシアニン化合物の層間にヨウ素が存在するようになるためであると推定される。しかしながら、上記メカニズムに限定されるものではない。環化反応に金属ヨウ化物を用いた場合と同様の効果を得るために、得られたフタロシアニン化合物をヨウ素で処理してもよい。
また、上記態様において、また、環化反応は、無溶媒中でも行なえるが、有機溶媒を使用して行なうのが好ましい。有機溶媒は、出発原料としてのフタロニトリル化合物との反応性の低い、好ましくは反応性を示さない不活性な溶媒であればいずれでもよく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ニトロベンゼン、モノクロロベンゼン、o−クロロトルエン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、1−クロロナフタレン、1−メチルナフタレン、エチレングリコール、およびベンゾニトリル等の不活性溶媒;メタノール、エタノール、1−プロパノ−ル、2−プロパノ−ル、1−ブタノール、1−ヘキサノール、1−ペンタノール、1−オクタノール等のアルコール;ならびにピリジン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリジノン、N,N−ジメチルアセトフェノン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。これらのうち、好ましくは、1−クロロナフタレン、1−メチルナフタレン、1−オクタノール、ジクロロベンゼンおよびベンゾニトリルが、より好ましくは、1−オクタノール、ジクロロベンゼンおよびベンゾニトリルが使用される。これらの溶媒は1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
上記態様における式(I)〜(IV)のフタロニトリル化合物(1)〜(4)と金属化合物との反応条件は、当該反応が進行する条件であれば特に制限されるものではないが、例えば、有機溶媒100質量部に対して、上記フタロニトリル化合物(1)〜(4)を1〜500質量部、好ましくは10〜350質量部の範囲の合計量で、かつ金属化合物を該フタロニトリル化合物4モルに対して、好ましくは1〜2モル、より好ましくは1〜1.5モルの範囲で仕込む。環化の際は、特に限定されるものではないが、好ましくは反応温度30〜250℃、より好ましくは80〜200℃の範囲で反応させる。反応時間は、特に限定されるものではないが、好ましくは3〜48時間である。また、上記反応は、大気雰囲気中で行なってもよいが、不活性ガス雰囲気(例えば、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガスなどの流通下)で、行なわれることが好ましい。
上記環化反応後は、従来公知の方法に従って、晶析、ろ過、洗浄、乾燥を行なってもよい。このような操作により、フタロシアニン化合物を効率よく、しかも高純度で得ることができる。
本発明のフタロシアニン化合物は、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、グリコール系溶剤、エステル系溶剤等の様々な溶剤、特にグリコール系溶剤に対して優れた溶解性を発揮するため、種々の用途に用いることができる。
本発明のフタロシアニン化合物は、熱線を遮蔽する目的の熱線遮蔽材、自動車用の熱線吸収合わせガラス、熱線遮蔽フィルムまたは熱線遮蔽樹脂ガラス、プラズマディスプレー用フィルター、フラッシュ定着などの非接触定着トナー用の近赤外線吸収剤として、また、保温蓄熱繊維用の近赤外線吸収剤、赤外線による偵察に対し偽装性能(カモフラージュ性能)を有する繊維用の赤外吸収剤、半導体レーザーを使う光記録媒体、液晶ディスプレイ用フィルター、有機ELディスプレイ用フィルター、光学文字読取機等における書き込みあるいは読み取りの為の近赤外線吸収色素、近赤外光増感剤、感熱転写・感熱孔版等の光熱交換剤、レーザービームを使用して樹脂を熱融着させるレーザー融着用の光熱交換剤、近赤外線吸収フィルター、眼精疲労防止剤あるいは光導電材料等、さらに組織透過性の良い長波長域の光に吸収を持つ腫瘍治療用感光性色素、カラートナー、インクジェット用インク、改ざん偽造防止用インク、改ざん偽造防止用バーコード用インク、近赤外吸収インク、写真やフィルムの位置決め用マーキング剤、およびゴーグルのレンズや遮蔽板、プラスチックリサイクルの際の仕分け用染色剤、ならびにPETボトルの成形加工時のプレヒーティング助剤などに用いる際に優れた効果を発揮するものである。
上記したような特定の構造を有するフタロシアニン化合物は、460nm付近の青色系統の光を効率よく透過し、630nm付近の赤色系統の光を効率よく吸収するため、青味の強い、鮮やかな濃いシアン色を呈する。このため、本発明のフタロシアニン化合物は、少量で濃いシアン色を呈しうる。また、本発明のフタロシアニン化合物は、優れた樹脂との相溶性、耐熱性、耐光性および耐候性をも有する。加えて、本発明のフタロシアニン化合物は、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、グリコール系溶剤、エステル系溶剤等の様々な溶剤、特にグリコール系溶剤に対して優れた溶解性を発揮する。
上記した特性を考慮すると、本発明のフタロシアニン化合物は、シアン色のインクジェット用インクに好適に使用できる。したがって、本発明は、本発明のフタロシアニン化合物を含む、シアン色のインクジェット用インクをも提供する。
本発明のインクジェット用インクは、本発明のフタロシアニン化合物を色素として含む以外は、特開2010−195904号公報、特開2009−132812号公報及び特開平11−106693号公報など、従来と同様のインクジェット用インクでありうる。
本発明のインクジェット用インクの組成は、本発明のフタロシアニン化合物を色素として含む以外は公知の組成と同様でありうる。例えば、本発明のインクジェット用インクは、色素、樹脂および溶剤を含む。
本発明のインクジェット用インクは、本発明のフタロシアニン化合物を色素として含有することが必須である。ここで、本発明のフタロシアニン化合物の配合量は特に制限されないが、インクの総重量に対して、5〜30重量%が好ましく、10〜25重量%がより好ましい。このような範囲であれば、充分な濃度の印字面が得られ、インキ中での安定した溶解しうる。なお、本発明のフタロシアニン化合物は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
また、本発明のインクジェット用インクは、本発明のフタロシアニン化合物を色素として含有することが必須であるが、他の青色系顔料または染料を使用してもよい。他の青色系顔料または染料は、青色を呈する(好ましくは、600〜750nmに最大吸収波長(λmax)を有する)ものであれば特に制限されず、公知の青色系顔料または染料が使用できる。具体的には、ブロムクレゾールグリーン、ブロムフェノールブルー、1−エチル−2−[3−クロロ−5−(1−エチル−2(1H)−キノリニリデン)−1,3−ペンタジエニル]キノリウムブロミド(λmax=694.4nm)、1,3,3−トリメチル−2−[5−(1,3,3−トリメチル−2(1H)−ベンズ[e]インドリニリデン)−1,3−ペンタジエニル]−3H−ベンズ[e]インドリニウムパークロレート(λmax=675.6nm)、3−エチル−2−[5−(3−エチル−2−ベンゾチアゾリニリデン)−1,3−ペンタジエニル]ベンゾチアゾリウムヨージド(λmax=651.6nm)等のシアニン系色素などが挙げられる。なお、上記において、括弧内に、最大吸収波長(λmax)を示す。ここで、上記他の顔料または染料の配合量は、特に制限されないが、インクの総重量に対して、1〜20重量%が好ましい。なお、上記他の顔料または染料は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
本発明のインクジェット用インクに使用さ−れる樹脂は特に制限されず、インクジェット用インクに使用される公知の樹脂が使用できる。また、樹脂は、粘度や密着性等の特性を考慮して適宜選択できる。具体的には、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、セルロース誘導体(例えば、エチルセルロース、酢酸セルロース、ニトロセルロース)、ビニルアセタール樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ブタジエン−アクリルニトリル共重合体、スチレン−アクリル系樹脂、スチレン−マレイン酸系樹脂、ロジン系樹脂、ロジンエステル系樹脂、エチレン−酢ビ系樹脂、石油樹脂、クマロンインデン系樹脂、テルペンフェノール系樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、エポキシ系樹脂、塩酢ビ系樹脂、キシレン樹脂、アルキッド樹脂、脂肪族炭化水素樹脂、ブチラール樹脂、シリコーン樹脂、マレイン酸樹脂、フマル酸樹脂、アミド樹脂などが挙げられる。上記樹脂の重量平均分子量は特に制限されず、所望のインク粘度などを考慮して適宜選択できる。具体的には、上記樹脂の重量平均分子量は、1000〜30000が好ましい。このような範囲であれば、インクの粘度を適切な程度に調節できる。また、上記樹脂の配合量(インキの樹脂分)は、特に制限されないが、インクの総重量に対して、1〜60重量%が好ましく、5〜60重量%がより好ましい。このような範囲であれば、適度なインク粘度が得られるため、インクを、液滴吐出や方向乱れを起こすことなく、安定して吐出でき、印字面から剥がれることなく被印刷体への密着性に優れ、色素が良好に保持されうる。なお、上記樹脂は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。または、粘度および密着性等の特性をさらに向上することを目的として、より高分子量の樹脂を併用してもよい。
本発明のインクジェット用インクに使用される溶剤は、他の成分(色素や樹脂など)を溶解できるものであれば特に制限されないが。具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール等のケトン系溶剤;メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、nブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert?ブチルアルコール、n?アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec?アミルアルコール、n?ヘキサノール等のアルコール系溶剤;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノt−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)等のグリコール系溶剤;トルエン、キシレン等の炭化水素系溶剤;乳酸エチル、3−エトキシプロピロオン酸エチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤などが挙げられる。これらのうち、ケトン系溶剤、グリコール系溶剤が好ましく、グリコール系溶剤がより好ましく、PGMEAが特に好ましい。また、上記溶剤の配合量は、特に制限されないが、インクの総重量に対して、30〜90重量%が好ましく、40〜80重量%がより好ましい。このような範囲であれば、他の成分(色素や樹脂など)を効率よく溶解できる。なお、上記溶剤は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
本発明のインクジェット用インクは、他の添加剤を含んでもよい。ここで、他の添加剤としては、特に制限されず、インクジェット用インクに使用される添加剤が同様にして使用できる。例えば、電導度調整剤、アミン、分散剤、重合禁止剤、印刷適性や印刷物耐性を高めるために表面調整剤、レベリング剤、紫外線吸収剤、および酸化防止剤などが挙げられる。
これらのうち、電導度調整剤は、特に本発明のインクをコンティニュアスタイプのインクジェットプリンタによる高速の印字に使用する場合に特に有効である。ここで、電導度調整剤としては、特に制限されず、公知の電導度調整剤が使用できる。具体的には、ヨウ化カリウム、チオシアン酸アンモニウム、チオシアン酸カリウム、硝酸リチウム等が挙げられる。これらの電導度調整剤は、印字面での残留により、温熱による変色を示さないため、好ましい。また、上記電導度調整剤の配合量は、特に制限されないが、インクの総重量に対して、0.1〜2重量%が好ましい。このような範囲であれば、十分な電導度が得られるため、適度な荷電偏向が得られ、また、変色を誘発しない。なお、上記電導度調整剤は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
また、アミンは、より鮮やかに青を発色させることを目的として添加されうる。ここで、アミンとしては特に制限されないが、例えば、トリエタノールアミン、セチルアミン、ペンタデシルアミン、テトラデシルアミン、トリデシルアミンドデシルアミンオクチルアミン、ジアミルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリアリルアミン、シクロヘキシルアミン、ジベンジルアミン、ナフチルアミン、ベンジルアミンなどが挙げられる。上記アミンは、青をより良好に発色させることができ、また、これらのアミンは温熱の履歴により印字面より消失するため、プリンタ内での遅乾燥性の成分としても作用できる。上記アミンの配合量は、特に制限されず、印字面の色素の発色、濃度および温熱の安定経過時間などを考慮して適宜設定できる。具体的には、アミンの配合量は、インクの総重量に対して、0.5〜15重量%が好ましい。このような範囲であれば、変色を誘発せず、非浸透性の被印刷体であってもすばやく乾燥でき、また、印字面の耐水性を適度に確保できる。なお、上記アミンは、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
分散剤は、色素の分散性およびインク組成物の保存安定性を向上させることを目的として添加されうる。ここで、分散剤としては、特に制限されず、公知の分散剤が使用できる。具体的には、水酸基含有カルボン酸エステル、長鎖ポリアミノアマイドと高分子量酸エステルの塩、高分子量ポリカルボン酸の塩、長鎖ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、高分子量不飽和酸エステル、高分子共重合物、変性ポリウレタン、変性ポリアクリレート、ポリエーテルエステル型アニオン系活性剤、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物塩、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ステアリルアミンアセテートなどが挙げられる。より具体的には、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、これらの塩;スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、これらの塩;スチレン−マレイン酸ハーフエステル共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸−マレイン酸ハーフエステル共重合体、これらの塩;ベンジルメタクリレート−メタクリル酸共重合体、これらの塩などが挙げられる。また、分散剤は、市販品を使用してもよく、この際、BYK Chemie社製「Anti−Terra−U(ポリアミノアマイド燐酸塩)」、「Anti−Terra−203/204(高分子量ポリカルボン酸塩)」、「Disperbyk−101(ポリアミノアマイド燐酸塩と酸エステル)、107(水酸基含有カルボン酸エステル)、110、111(酸基を含む共重合物)、130(ポリアマイド)、161、162、163、164、165、166、170(高分子共重合物)」、「400」、「Bykumen」(高分子量不飽和酸エステル)、「BYK−P104、P105(高分子量不飽和酸ポリカルボン酸)」、「P104S、240S(高分子量不飽和酸ポリカルボン酸とシリコーン系)」、「Lactimon(長鎖アミンと不飽和酸ポリカルボン酸とシリコーン)」;Efka CHEMICALS社製「エフカ44、46、47、48、49、54、63、64、65、66、71、701、764、766」、「エフカポリマー100(変性ポリアクリレート)、150(脂肪族系変性ポリマー)、400、401、402、403、450、451、452、453(変性ポリアクリレート)、745(銅フタロシアニン系)」、共栄社化学社製「フローレン TG−710(ウレタンオリゴマー)、「フローノンSH−290、SP−1000」、「ポリフローNo.50E、No.300(アクリル系共重合物)」、楠本化成社製「ディスパロン KS−860、873SN、874(高分子分散剤)、#2150(脂肪族多価カルボン酸)、#7004(ポリエーテルエステル型)」;花王社製「デモールRN、N(ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩)、MS、C、SN−B(芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩)、EP」、「ホモゲノールL−18(ポリカルボン酸型高分子)、「エマルゲン920、930、931、935、950、985(ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル)、「アセタミン24(ココナッツアミンアセテート)、86(ステアリルアミンアセテート)」、ルーブリゾール社製「ソルスパース5000(フタロシアニンアンモニウム塩系)、13940(ポリエステルアミン系)、17000(脂肪酸アミン系)、24000GR、32000、33000、39000、41000、53000」、日光ケミカル社製「ニッコール T106(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート)、MYS−IEX(ポリオキシエチレンモノステアレート)、Hexagline 4−0(ヘキサグリセリルテトラオレート)」、味の素ファインテクノ社製「アジスパーPB821、822、824、827、711」、テゴケミサービス社製「TEGODisper685」などの市販品が使用できる。上記分散剤の配合量は、特に制限されず、所望の分散性などを考慮して適宜設定できる。具体的には、分散剤の配合量は、インクの総重量に対して、0.01〜10重量%が好ましい。このような範囲であれば、色素などの成分が良好に分散できる。なお、上記分散剤は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
重合禁止剤は、インクの保存安定性や、記録装置内での安定性を高めることを目的として添加されうる。ここで、重合禁止剤としては、特に制限されず、公知の重合禁止剤が使用できる。具体的には、ハイドロキノン、p−メトキシフェノール、t−ブチルカテコール、ジ−t−ブチルヒドロキシトルエンなどが挙げられる。上記重合禁止剤の配合量は、特に制限されず、所望の特性などを考慮して適宜設定できる。具体的には、重合禁止剤の配合量は、インクの総重量に対して、0.01〜5重量%が好ましい。このような範囲であれば、硬化性を維持し、インクの保存安定性を高めることができる。なお、上記重合禁止剤は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
本発明のインクジェット用インクは、公知の方法によって製造できる。例えば、本発明のインクジェット用インクは、樹脂を溶剤に添加、攪拌して溶解した後、色素ならびに必要であれば他の添加剤を加えて、充分溶解させることによって、調製できる。なお、必要であれば、このようにして得られた混合液を、孔径3μm以下さらには、1μ以下のフィルターで濾過してもよい。
または、本発明のインクジェット用インクは、活性エネルギー線硬化型インクジェット印刷に使用されるインクであってもよい。この場合には、インクジェット用インクは、色素、重合性モノマー、重合開始剤を含む。
ここで、色素は、上記したのと同様である。
また、上記形態のインクジェット用インクに使用される重合性モノマーは、特に制限されず、特開2009−132812号公報に記載の式(1)の活性エネルギー線重合性物質、特開2010−195904号公報に記載の1個のトリアジン環および2個以上の重合性基を有する重合性モノマー(A)[例えば、ビス(アクリロキシエチル)ヒドロキシエチルイソシアヌレート、トリス(メタクリロキシエチル)イソシアヌレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、カプロラクトン変性トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート等]、ベンジル(メタ)アクリレート、(エトキシ(またはプロポキシ)化)2−フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(オキシエチル)(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、β−カルボキシルエチル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンフォルマル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジメタノール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルホリン、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタルイミド等の単官能モノマー、ジメチロールートリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、(エトキシ(またはプロポキシ)化)ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(エトキシ(またはプロポキシ)化)1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、(エトキシ(またはプロポキシ)化)ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(またはテトラ)(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(またはテトラ)(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(またはテトラ)(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の多官能モノマーなど、公知のモノマーを使用できる。上記重合性モノマーは、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
上記形態のインクジェット用インクに使用される重合開始剤は、特に制限されず、硬化速度、硬化塗膜物性、着色材料などを考慮して適宜選択することができる。具体的には、特開2009−132812号公報に記載の式(8)及び(10)〜(13)で表わされる化合物;ベンゾインイソブチルエーテル、2,4−ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、ベンジル、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン、ビス(2,4,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシド、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン、オリゴ(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−(4−(1−メチルビニル)フェニル)プロパノン)、1,2−オクタンジオン、1−(4−(フェニルチオ)−2,2−(O−ベンゾイルオキシム))等の光ラジカル重合開始剤;1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、および1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン等の分子開裂型重合開始剤;ベンゾフェノン、4−フェニルベンゾフェノン、イソフタルフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチル−ジフェニルスルフィド等の水素引抜型重合開始剤などが挙げられる。上記重合開始剤の配合量は、特に制限されないが、重合性モノマーに対して、2〜25重量%であることが好ましい。このような範囲であれば、適度な硬化速度(重合性モノマーを効率よく重合)が達成でき、また、適度なインク粘度が得られるため、インクを、液滴吐出や方向乱れを起こすことなく、安定して吐出でき、印字面から剥がれることなく被印刷体への密着性に優れ、色素が良好に保持されうる。なお、上記重合開始剤は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。なお、上記式(8)及び(10)〜(13)で表わされる化合物を重合開始剤として使用する場合には、トリエタノールアミンやモノエタノールアミンなどの水素供与剤を重合性物質と併用してもよい。これにより、重合開始剤のラジカル発生効率を向上できる。
上記水素供与剤に加えてまたは上記水素供与剤に代えて、増感剤を併用してもよい。増感剤としては、特に制限されないが、例えば、トリメチルアミン、メチルジメタノールアミン、トリエタノールアミン、p−ジエチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノ安息香酸エチル、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、N,N−ジメチルベンジルアミンおよび4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン等の、前記重合性モノマーと付加反応を起こさないアミンなどが挙げられる。
また、上記形態のインクジェット用インクは、有機溶剤を含んでもよい。有機溶剤は、他の成分(色素、重合性モノマー、重合開始剤など)を溶解できるものであれば特に制限されないが。具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール等のケトン系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、エチレングリコールモノエチルエーテルプロピオネート、エチレングリコールモノブチルエーテルプロピオネート、ジエチルジグリコール、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、テトラエチレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルプロピオネート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルプロピオネート、プロピレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、エチレングリコールモノメチルエーテルブチレート、エチレングリコールモノエチルエーテルブチレート、エチレングリコールモノブチルエーテルブチレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルブチレート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルブチレート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルブチレート、プロピレングリコールモノメチルエーテルブチレート等のグリコールモノアセテート系溶剤;エチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジアセテート、エチレングリコールアセテートプロピオネート、エチレングリコールアセテートブチレート、エチレングリコールプロピオネートブチレート、エチレングリコールジプロピオネート、エチレングリコールアセテートジブチレート、ジエチレングリコールアセテートプロピオネート、ジエチレングリコールアセテートブチレート、ジエチレングリコールプロピオネートブチレート、ジエチレングリコールジプロピオネート、ジエチレングリコールアセテートジブチレート、プロピレングリコールアセテートプロピオネート、プロピレングリコールアセテートブチレート、プロピレングリコールプロピオネートブチレート、プロピレングリコールジプロピオネート、プロピレングリコールアセテートジブチレート等のグリコールジアセテート系溶剤;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール系溶剤;エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールn−プロピルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤;乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸プロピル、乳酸ブチル、3−エトキシプロピオン酸エチル等のエステル系溶剤などが挙げられる。これらのうち、ケトン系溶剤、グリコール系溶剤が好ましく、グリコール系溶剤がより好ましく、PGMEAが特に好ましい。また、上記溶剤の配合量は、特に制限されないが、インクの総重量に対して、30〜90重量%が好ましく、40〜80重量%がより好ましい。このような範囲であれば、他の成分(色素、重合性モノマー、重合開始剤など)を効率よく溶解できる。なお、上記溶剤は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
また、上記形態のインクジェット用インクは、他の添加剤を含んでもよい。ここで、他の添加剤としては、特に制限されず、インクジェット用インクに使用される添加剤が同様にして使用できる。例えば、電導度調整剤、アミン、分散剤、重合禁止剤、印刷適性や印刷物耐性を高めるために表面調整剤、レベリング剤、紫外線吸収剤、および酸化防止剤などが挙げられる。なお、これらの他の添加剤は上記と同様であるため、ここでは説明を省略する。
上記形態のインクジェット用インクは、公知の方法によって製造できる。例えば、色素、重合性モノマー、重合開始剤、および必要であれば他の添加剤を、サンドミル等の通常の分散機を用いてよく分散することによって、調製できる。この際、色素の高濃度の濃縮液を予め作製した後、重合性モノマーで希釈してもよい。なお、必要であれば、このようにして得られた分散液を、孔径3μm以下さらには、1μm以下のフィルターで濾過してもよい。
本発明のインクジェット用インクの使用形態は、特に制限されず、公知のインクジェットによる印刷方法が適用できる。例えば、本発明のインクジェット用インクをインクジェット記録方式用プリンタのプリンタヘッドに供給し、このプリンタヘッドから被印刷体上に吐出した後、紫外線、電子線等の活性エネルギー線を照射する。これにより被印刷体上のインクは速やかに硬化する。なお、活性エネルギー線の光源として紫外線を照射する場合、例えば高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、低圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、紫外線レーザーやLED、および太陽光を使用することができる。上記光源は、用いる重合開始剤の感度に合わせて適切に選択することが好ましい。本発明のインクの硬化に使用し得る紫外線強度は、硬化に有効な波長領域において、500〜5,000mW/cm2であることが好ましい。このような照射強度であれば、記録媒体にダメージを与えることなく、また色材の退色を誘発しない。
以下、実施例および比較例を説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、下記化合物の名称において、Pcはフタロシアニン核を、PNはフタロニトリルを表す。また、下記化合物の名称において、「α−(置換基A)a,β−(置換基A)x−aPN(0<a<x)」あるいは「α−(置換基A)a,β−(置換基A)x−aPc(0<a<x)」と、記載されるのは、得られるフタロニトリル化合物あるいはフタロシアニン化合物は、α位に平均a個およびβ位に平均x−a個の置換基Aが導入されていることを意味し、即ち、α位及びβ位に合計x個の置換基Aが導入されていることを意味する。
実施例1:[ZnPc−{α−(2,5−Cl2)C6H4O}x,{β−(2,5−Cl2)C6H4O}1.5−x{α−(4−CN)C6H4O}y,{β−(4−CN)C6H4O}0.9−yCl9.6H4.0](0≦x<1.5)(0≦y<0.9)の合成
100mlフラスコに、テトラクロロフタロニトリル(以下、TCPNと略す)5.98gと2,5−ジクロロフェノール1.83g、4−シアノフェノール0.80g、ベンゾニトリル(以下、BNと略す)23.2gを投入し、マグネチックスターラーを用いて、内温が100℃に安定するまで約30分攪拌した後、炭酸カリウム2.74gを投入して約4時間反応させることで、所望のフタロニトリル化合物を含む反応液を得た。冷却後、吸引ろ過して得た溶液にフタロニトリル(以下、PNと略す)0.96gを加え、液中のニトリル化合物の合計濃度が40wt%となるよう調製した。次に上述で得られた反応液を、窒素流通下(10ml/min)、マグネチックスターラーを用いて内温160℃に安定するまで約1時間攪拌した後、塩化亜鉛1.12gを投入して約24時間反応させた。冷却後、反応液を得られるフタロシアニン化合物重量の和の30倍に相当するメタノール(302.3g)中に滴下し、30分攪拌した。その後、フタロシアニン化合物重量の和の10倍量に相当する蒸留水(100.8g)を30分かけて滴下し、滴下終了後、さらに30分攪拌して結晶を析出させた。得られた結晶を吸引ろ過した後、晶析時と同量のメタノールと蒸留水を加えて40℃に加温した状態で30分攪拌することで、洗浄および精製を行った。吸引ろ過後、取り出した結晶を約90℃で一晩真空乾燥し、約9.17g(収率97.4モル%)が得られた。
(Abs(630nm)/Abs(460nm)、%T(460nm)および熱変化特性(ΔE)の評価)
得られたフタロシアニン化合物0.073gに(株)日本触媒社製バインダーポリマー0.475gおよびプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(以下、PGMEAと略す)1.03g、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート0.113g、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)社製(IRGACURE369)0.01gを加え、溶解、混合して、レジスト塗料液を調製した。得られた塗料液をスピンコーター(ミカサ(株)社製:1H−D7)を用いて、ガラス板に乾燥膜中の色素濃度20wt%、乾燥膜厚が2μmとなるよう塗布し、100℃にて3分間乾燥させた。このようにして得られたコーティングガラス板の吸収スペクトルを分光光度計(日立製作所(株)社製:U−2910)にて測定し、これを加熱前スペクトルとした。次に、加熱前スペクトルを測定した塗膜ガラス板を180℃にて20分間、加熱処理した。この加熱処理したコーティングガラス板の吸収スペクトルを分光光度計にて測定し、これを加熱後スペクトルとした。
このように測定した加熱前スペクトルにおいて、630nmにおける吸光度(Abs(630nm))と460nmにおける吸光度(Abs(460nm))の割合(Abs(630nm)/Abs(460nm))を算出した。また、加熱前スペクトルにおける460nmにおける透過性(%T(460nm))を算出した。さらに、加熱前、加熱後の各スペクトルにおいて380nm〜900nmまでの吸光度を積分し、加熱前と加熱後でその吸光度の差を測定した。また、加熱前スペクトルをE1、加熱後スペクトルをE2、測定した吸光度の差をΔEとしたとき、ΔEを以下の式で計算した。
(塗料液への溶解性の評価)
上述の評価に用いたレジスト塗料液と全く同組成の調製液を注射器にて採取し、メンブレンフィルター(φ=0.45μm)を用いてろ過した。調製液がメンブレンフィルターにより目詰まりせず通過できる場合、調製液に色素が溶解していると判断するろ過テストを実施し、全て問題なくろ過できた場合を○、フィルターの目詰まりを起こした場合を×として溶解性の評価とした。このようにして測定した結果を以下の表1にまとめる。
実施例2:[ZnPc−{α−(2,6−Cl2)C6H4O}x,{β−(2,5−Cl2)C6H4O}1.0−x{α−(4−NO2)C6H4O}y,{β−(4−NO2)C6H4O}0.2−yCl10.8H4.0](0≦x<1.0)(0≦y<0.2)の合成
実施例1において、2,5−ジクロロフェノール1.83gを2,6−ジクロロフェノール1.22gに、4−シアノフェノール0.80gを4−ニトロフェノール0.21gに変えた以外は、実施例1と同様に操作し、所望のフタロニトリル化合物を含む反応液を得た。次にPN0.96gを加え、実施例1と全く同じ操作を行い約24時間反応させた。冷却後、実施例1と全く同様の操作を行い約8.23g(収率96.4モル%)が得られた。その後、実施例1と全く同じ操作により塗料液への溶解性、Abs(630nm)/Abs(460nm)、%T(460nm)および熱変化特性を測定し、その結果を表1にまとめた。
実施例3:[ZnPc−{α−(2,5−Cl2)C6H4O}x,{β−(2,5−Cl2)C6H4O}1.5−x{α−C6H5O}y,{β−C6H5O}0.9−yCl9.6H4.0](0≦x<1.5)(0≦y<0.9)の合成
実施例1において、4−シアノフェノールをフェノール0.64gに変えた以外は、実施例1と同様に操作し、所望のフタロニトリル化合物を含む反応液を得た。次にPN0.96gを加え、塩化亜鉛をよう化亜鉛2.63gに変えた以外は実施例1と全く同じ操作を行い約24時間反応させた。冷却後、実施例1と全く同様の操作を行い約9.17g(収率97.4モル%)が得られた。その後、実施例1と全く同じ操作により塗料液への溶解性、Abs(630nm)/Abs(460nm)、%T(460nm)および熱変化特性を測定し、その結果を表1にまとめた。
実施例4:[ZnPc−{α−(2,5−(CH3) 2)C6H4O}x,{β−(2,5−(CH3) 2)C6H4O}1.0−x{α−C6H5O}y,{β−C6H5O}0.9−y{α−(2,6−(CH3) 2)C6H4O}z,{β−(2,6−(CH3) 2)C6H4O}0.5−zCl7.6H6.0](0≦x<1.0)(0≦y<0.9)(0≦z<0.5)の合成
実施例1において、2,5−ジクロロフェノールを2,5−ジメチルフェノール0.92gと2,6−ジメチルフェノール0.46gに、4−シアノフェノールをフェノール0.64gに変えた以外は、実施例1と同様に操作し、所望のフタロニトリル化合物を含む反応液を得た。次に加えるPNの添加量を1.44gに変えた以外は、実施例1と全く同じ操作を行い約24時間反応させた。冷却後、実施例1と全く同様の操作を行い約7.92g(収率95.8モル%)が得られた。その後、実施例1と全く同じ操作により塗料液への溶解性、Abs(630nm)/Abs(460nm)、%T(460nm)および熱変化特性を測定し、その結果を表1にまとめた。
比較例1
特開2012−153813号公報の実施例9に記載のあるフタロシアニン化合物[ZnPc−{α−(4−CN)C6H4O}x,{β−(4−CN)C6H4O}2.4−xCl13.6](0≦x<2.4)を、実施例1と全く同じ操作により、塗料液への溶解性、Abs(630nm)/Abs(460nm)、%T(460nm)および熱変化特性を測定し、その結果を表1にまとめた。
実施例1〜4で合成したフタロシアニン化合物は、比較例1と比較して、樹脂との相溶性が向上し、曇りのない優れた透過率を有することが示された。また、比較例1と比較して、耐熱性は同等程度の優れた値を示し、耐熱性に優れることが示された。さらに、代表的な赤色光波長である630nmにおける吸光度(Abs(630nm))と、代表的な青色光波長である460nmにおける吸光度(Abs(460nm))の割合(Abs(630nm)/Abs(460nm))は大きく向上し、より鮮やかなシアン色を呈することが示された。また、%T(460nm)についても、比較例1と比較して優れた値を示し、効率良く青色輝線を透過することが示された。
以上のことから、本発明のフタロシアニン染料は、高輝度で鮮やかなシアン色を呈し、加えて樹脂との高い相溶性を有し、さらには優れた耐熱性を有するため、シアン色のインクジェット用インクとして好適であることが示された。