ところで、従来、ダイオードを作るには、拡散ウエハが良く用いられていた。他方、近年の電気自動車の普及に伴い、インバータの改良が進み、IGBTなどのトランジスタ素子とダイオードを一つのチップ上に形成する半導体デバイスの開発が検討されている。インバータには、トランジスタとダイオードの逆並列回路が多用されるからである。一つのチップに、IGBTとダイオードの逆並列回路を形成したデバイスは、逆導通型IGBT(RCIGBT: Reverse Conducted Insulated Gate Bipolar Transistor)と呼ばれる。
IGBTなどのトランジスタとダイオードを形成するためのウエハとしては、IGBTを作るのに適したウエハを用いるのがよい。IGBTを作るには、FZ法(Floating Zone 法)やMCZ法(Magnetic CZ法)によって作られたウエハが適している。即ち、ダイオードを形成するのに適したウエハと、IGBTを形成するのに適したウエハは異なっていた。
本願の発明者は、RCIGBTにおいてもダイオードのライフタイム特性を改善すべく、元来IGBTに使われていたウエハに荷電粒子を均一に照射した。そうすると、ウエハの順電圧Vfが、ウエハ平面視における位置に依存したばらつきを生じることを発見した。具体的には、ウエハを平面視したときの中央領域における順電圧Vfが、周縁領域における順電圧Vfよりも高くなる。なお、順電圧Vfとは、ダイオードに、徐々に大きくなる順方向の電圧を加えたときに、電流が急激に大きくなる境界の電圧を意味する。従来のダイオードに使われていたウエハ(拡散ウエハなど)では、順電圧Vfの面内ばらつきは見られなかった(見られたとしても極僅かであった)。しかし、IGBTに使われていたウエハに荷電粒子を照射すると、面内の位置に依存した順電圧Vfのばらつきが生じる。一つのウエハから複数の半導体デバイスを作ることができるため、順電圧Vfのばらつきは好ましくない。本明細書は、P層とN層が積層したウエハの順電圧Vfのばらつきを低減する方法を開示する。
荷電粒子を一様に照射しているにも関わらず、半導体ウエハが順電圧Vfのばらつきを有する原因を追及したところ、次の知見が得られた。ダイオードに使われていたウエハ(拡散ウエハ、CZ法によるウエハ)とIGBTに使われていたウエハ(FZ法やMCZ法によるウエハ)では、欠陥安定化不純物の含有密度(濃度)が大きく異なっていた。ダイオードによく使われるウエハでは、欠陥安定化不純物の含有密度が、概ね、4.0xE+17[atom/cm3]よりも大きい。他方、IGBTによく使われるウエハでは、欠陥安定化不純物の含有密度は、概ね、4.0xE+17[atom/cm3]よりも小さい。この相違は、ウエハの製造方法に起因するものと推測される。以後、欠陥安定化不純物の含有密度が、概ね、4.0xE+17[atom/cm3]よりも大きいウエハを不純物高密度ウエハと称し、4.0xE+17[atom/cm3]よりも小さいウエハを不純物低密度ウエハと称することにする。
さらに、発明者の検討によると、荷電粒子を照射して欠陥を生成する場合、不純物高密度ウエハでは、点欠陥の密度(これは、即ち、照射する荷電粒子の密度に等価である)が複合欠陥の密度を決める支配的要因であり、他方、不純物低密度ウエハの場合は、欠陥安定化不純物の密度が、複合欠陥の密度を決める支配的要因であること判明した。そして、不純物低密度ウエハでは、欠陥安定化不純物の密度が面内でばらついており、それゆえ、荷電粒子を均一に照射しても、欠陥安定化不純物の含有密度のばらつきに起因して、複合欠陥の密度にばらつきが生じ、その結果、順電圧Vfにばらつきが生じるものと推測される。
なお、不純物高密度ウエハの場合は、仮に欠陥安定化不純物の分布にばらつきが存在したとしても、ばらつきの分布は、生成される複合欠陥の密度には大きく影響しない。このことは、欠陥安定化不純物の密度が全体に高ければ、ばらつきが存在したとしても、荷電粒子の照射で生じるほぼ全ての点欠陥と相互作用して複合欠陥を生成するのに十分な欠陥安定化不純物が存在するからであると考えられる。従って、ダイオードによく用いられていたウエハでは、欠陥安定化不純物のウエハ面内のばらつきの影響は顕著ではなく、荷電粒子をウエハ表面に均一に照射すれば、ウエハの全面でほぼ均一な順電圧Vfが得られた。
ところが、IGBT用の不純物低密度ウエハの場合は、荷電粒子を均一に照射しても、欠陥安定化不純物の面内のばらつきが顕著に影響し、順電圧Vfが面内でばらつくことになる。前述したように、FZ法あるいはMCZ法で作られたウエハでは、ウエハの面内において中央領域が周辺領域よりも欠陥安定化不純物の密度が高く、それゆえ、中央領域の順電圧Vfが周縁領域の順電圧Vfよりも高くなる。
上記の知見に基づき、本明細書は、ウエハ面内の順電圧Vfのばらつきを低減する方法を提供する。その方法は、ウエハのN層に荷電粒子を打ち込んで結晶欠陥(点欠陥)を生成するのに際して、ウエハの中央領域に照射する荷電粒子の照射密度が、周縁領域に照射する荷電粒子の照射密度よりも低くなるように荷電粒子を照射する。逆に言えば、周縁領域に照射する荷電粒子の照射密度が、中央領域に照射する荷電粒子の照射密度よりも高くなるように荷電粒子を照射する。即ち、欠陥安定化不純物の密度が低い周縁領域では、照射する荷電粒子の密度を高くして、多くの複合欠陥が生成されるようにする。そうすることで、中央領域で生成される複合欠陥の密度が周縁領域の複合欠陥の密度とバランスし、順電圧Vfが面内で均一化される。つまり、荷電粒子照射によって、複合欠陥のばらつきが小さくなり、その結果、順電圧Vfの均一化される。ここで、「照射密度」は、ウエハの単位面積当たりに照射する荷電粒子の量を意味する。
また、前述したように、N層とP層が積層したウエハにおいては、順電圧Vfは、N層に生成される複合欠陥の位置のP層からの距離に依存することが知られている。即ち、N層に生成される複合欠陥の位置がP層から遠いほど、Vfは高くなる。生成される複合欠陥の位置(深さ)は、打ち込む荷電粒子の深さ方向の到達位置にほぼ等価である。そこで、ウエハの中央領域に照射する荷電粒子の到達位置が、ウエハの周縁領域に照射する荷電粒子の到達位置よりもP層に近くなるように荷電粒子を照射することでも、順電圧Vfを均一化することができる。
本明細書が開示する技術は、欠陥安定化不純物の密度のばらつきが上記したタイプと異なるばらつきを有するウエハにも適用することができる。例えば、欠陥安定化不純物の密度が、ウエハ平面視において中央領域で低く、周縁領域で高い場合は、荷電粒子の照射密度が周縁領域よりも中央領域で高くなるように照射すればよい。あるいは、照射する荷電粒子のウエハ深さ方向の到達位置が、周縁領域よりも中央領域においてP層から遠くなるように荷電粒子を照射すればよい。本明細書が開示する技術を、欠陥安定化不純物のばらつきを一般化して表現すれば、次のとおりである。本明細書は、半導体ウエハの平面視においてN型半導体層に含まれている欠陥安定化不純物の密度がばらついている半導体ウエハの順電圧Vfのばらつきを低減する方法を開示する。そのばらつき低減方法は、欠陥安定化不純物の密度に応じて深さ方向の到達位置あるいは照射密度が異なるように荷電粒子を照射する、と表現できる。もう少し具体的には、本明細書が開示する順電圧Vfのばらつき低減方法は、ウエハの平面視においてN層に欠陥安定化不純物を第1密度で含む第1領域に照射する荷電粒子のウエハ深さ方向の到達位置が、欠陥安定化不純物を第1密度よりも低い第2密度で含む第2領域に照射する荷電粒子の到達位置よりもP層に近くなるように荷電粒子を照射する、と表現できる。あるいは、本明細書が開示する方法は、第1領域に照射する荷電粒子の照射密度が、第2領域に照射する荷電粒子の照射密度よりも低くなるように荷電粒子を照射してもよい。
荷電粒子の到達深さは「飛程」と呼ばれることがある。飛程は、荷電粒子に与えるエネルギに依存する。即ち、与えるエネルギ(加速エネルギ)が小さければ、飛程は短くなる。そこで、面内の領域に応じて飛程を変えるには、与えるエネルギを変えながら荷電粒子を照射すればよい。あるいは、一定のエネルギの荷電粒子を、ウエハ面内の位置に対応して厚みが異なる金属板を通過させてウエハに照射すればよい。金属の厚みが大きいほど荷電粒子のエネルギが減少するので、照射される荷電粒子の飛程をウエハの位置に応じて制御することができる。そのような金属板は、アブソーバと呼ばれる。例えば、欠陥安定化不純物の密度が周縁領域よりも中央領域で高い場合には、中央領域に対向する領域の厚みが周縁領域に対向する領域よりも薄いアブソーバを通じてN層側から荷電粒子を照射すればよい。あるいは、中央領域に対向する領域の厚みが周縁領域に対向する領域よりも厚いアブソーバを通じてP層側からイオン又は電子を照射しても、同じ効果を得られる。
なお、荷電粒子の照射は、ウエハ全面に行う必要はない。IGBTとダイオードを同一ウエハに生成する場合、ダイオード形成予定領域に荷電粒子を照射し、IGBT形成予定領域には荷電粒子を照射しないという態様でもよい。そのような場合でも、ウエハ全面に分散している複数のダイオード形成予定領域のうち、N層に不純物を第1密度で含む第1予定領域に照射する荷電粒子の到達位置が、不純物を第1密度よりも低い第2密度で含む第2予定領域に照射する荷電粒子の到達位置よりもP層に近くなるように荷電粒子を照射すればよい。あるいは、第1予定領域に照射する荷電粒子の照射密度が、第2予定領域に照射する荷電粒子の照射密度よりも低くなるように荷電粒子を照射すればよい。
上記の技術を使って順電圧Vfの面内ばらつきが低減されたウエハを用いると、順電圧が均一な複数の半導体デバイスを製造することができることも本明細書が開示する技術の一つである。本明細書が開示する技術の詳細とさらなる改良は、実施例にて説明する。
図面を参照して本明細書が開示する半導体ウエハの順電圧のばらつき低減方法を説明する。
(第1実施例)図1Aは、IGBTとダイオードを逆並列に接続した逆導通型IGBT(RCIGBT:Reverse Conducted Insulated Gate Bipolar Transistor)を製造するためのウエハ2(半導体ウエハ)の模式的平面図である。ウエハ2は、例えば、FZ法(Floating Zone 法)、あるいは、MCZ法(Magnetic CZ法)で製造されており、N層(N型半導体層)に含有される欠陥安定化不純物の密度は、4.0xE+17[atom/cm3]よりも小さい。ここで、欠陥安定化不純物は、具体的には酸素分子あるいは炭素分子である。欠陥安定化不純物の密度が、4.0xE+17[atom/cm3]よりも小さいウエハ2を、不純物低密度ウエハと称する。
ウエハ2は、平面視したときの中央領域R1と、周縁領域R3と、それらの中間の領域R2では、欠陥安定化不純物の密度が異なっている。欠陥安定化不純物の密度は、中央領域R1で最も高く、次に中間領域R2が高く、周縁領域R3が最も低い。別言すれば、欠陥安定化不純物の密度は、周縁領域R3よりも中央領域R1で高い。欠陥安定化不純物の密度が、4.0xE+17[atom/cm3]以下でばらつきを有すると、一様な荷電粒子をウエハ全面に照射した場合でも、順電圧Vfがばらついてしまう。欠陥安定化不純物の密度が、4.0xE+17[atom/cm3]以下では、欠陥安定化不純物の密度が低いほど順電圧Vfが低くなる。一例では、荷電粒子としてヘリウムイオンをウエハ全面に一様に照射すると、中央領域R1における順電圧Vfが約0.15[ボルト]であり、中間領域R2における順電圧Vfが約0.10[ボルト]であり、周縁領域R3における順電圧Vfは約0.05[ボルト]以下となる。
第1実施例の順電圧のばらつき低減方法を、図1Bを使って説明する。図1Bは、図1Aのウエハ2を1B−1B線における断面を模式的に示したものである。ただし、図1Bでは、断面を表すハッチングは図示を省略している。ウエハ2は、P層3(P型半導体層)と、N層4、5(N型半導体層)が積層している。なお、N層は、N型不純物を多く含むN+層5と、N+層5よりもN型不純物の含有量が少ないN−層4とで構成される。N−層4はN+層5よりも電気抵抗が高く、図1Bの構成のダイオードはPINダイオードと呼ばれる。本明細書では、N−層4とN+層5を合わせて「N層」と総称する。P層3、N層4及び5の生成方法は、よく知られているので説明は省略する。
第1実施例の順電圧のばらつき低減方法では、N層側表面Bからヘリウムイオン(He+)81aをウエハ2の全面に照射する。ヘリウムイオンの照射強度(加速エネルギ)は、荷電粒子の到達深さがP層3のすぐ手前まで到達する大きさに調整されている。本実施例では、凹型のアブソーバ9を介してヘリウムイオンを照射する。アブソーバ9の前ではヘリウムイオン照射81aは、均一な強さを有している。アブソーバ9は、ウエハ2の中央領域R1に対向する領域の厚みが周縁領域R3に対向する領域よりも薄い凹型形状を有している。そのようなアブソーバ9を通過した後のヘリウムイオン照射81bは、中央領域R1ではエネルギが高く、周縁領域R3ではエネルギが低くなる。その結果、中央領域R1ではヘリウムイオンの飛程は長くなり、周縁領域R3では飛程が短くなる。別言すれば、第1実施例の順電圧のばらつき低減方法では、ウエハ2の平面視において、中央領域R1に照射するヘリウムイオンの深さ方向の到達位置が、周縁領域R3に照射するヘリウムイオンの到達位置よりもP層3(P層とN層との境界)に近くなるように荷電粒子を照射する。図1Bの符号Eが、ヘリウムイオンの到達位置を示している。ヘリウムイオンの到達位置でシリコン原子がはじき出され、点欠陥が生じるので、符号Eが示すX印は、ヘリウムイオン照射により発生する点欠陥を示している。図1Bに示すように、生成される点欠陥Eは、中央領域R1でP層3に近く、周縁に向かうにつれてP層3から離れる。なお、生成される点欠陥Eは、深さ方向に分布を有するが、ヘリウムイオン到達位置の深さ方向の分布幅は極めて小さく(例えば1.0ミクロン程度である)、ピークの位置を、ヘリウムイオンの到達位置とみなしてよい。
前述したように、点欠陥は安定ではなく、付近に存在する欠陥安定不純物と結び付いて安定化する。点欠陥と欠陥安定化不純物が結びついた欠陥は複合欠陥と呼ばれる。ヘリウムイオン照射によって形成された点欠陥は全てが複合欠陥となるわけではない。特に、ウエハ2の場合、領域に依存して欠陥安定化不純物の密度が異なり、密度の高い中央領域R1では高い比率で複合欠陥が生成され、密度が低い周縁領域R3では複合欠陥が生成される確率は低い。図中の「欠陥E」は、ヘリウムイオン照射直後は点欠陥を意味するが、点欠陥の一部は欠陥安定化不純物と結び付くので複合欠陥を意味することとなる。
他方、ヘリウムイオンの到達位置とP層との距離に依存して順電圧Vfが異なる。図2に、ヘリウムイオンの到達位置のP層からの距離と、順電圧Vfとの関係の一例を示す。図2のグラフは、複合欠陥の生成確立が欠陥安定化不純物の密度に依存しない、不純物高密度ウエハに一様にヘリウムイオンを照射した実験結果に基づくものである。この例では、イオン粒子の到達位置がP層から5ミクロン以下では順電圧Vfはほぼゼロであり、P層からの距離が17.5ミクロンでは順電圧Vfは0.05ボルトとなり、P層からの距離が30ミクロンでは順電圧Vfは0.10ボルトとなる。
先に述べたように、ウエハ2にヘリウムイオンを一様に照射した場合、順電圧Vfは、中央領域R1では約0.15ボルトとなり、中間領域では約0.10ボルトとなり、周縁領域R3では約0.05ボルトとなる。それゆえ、ヘリウムイオン到達位置とP層との距離dが、中央領域R1ではd1=0.05ミクロン以下となり、中間領域R2ではd2=0.10ミクロンとなり、周縁領域R3ではd3=0.30ミクロンとなるようにアブソーバ9の厚みを調整すれば、イオン照射後の順電圧Vfは、ウエハ全面で概ね一定となる。図1Bでは、ヘリウムイオンEの到達位置とP層との距離dが、中央領域R1で最も短く、次いで中間領域R2で次に長く、周縁領域R3で最も長くなっていることを示されている。なお、ヘリウムイオンの照射強さは、ウエハの周方向には一定であり、照射されるヘリウムイオンの分布は、P層側に向かって中央が突出する凸状となる。
次に、図3を参照して、第1実施例の変形例を説明する。第1実施例では、ヘリウムイオンを、ウエハ2のN層側から照射した。その際には、中央領域R1に対向する領域の厚みが周縁領域R3に対向する領域よりも薄いアブソーバ9を通じてN層側表面Bからヘリウムイオンを照射した。一様なヘリウムイオン照射81aは、アブソーバ9を通過した後の照射81bは、中央領域に照射されるヘリウムイオンのエネルギが周縁領域に照射されるヘリウムイオンのエネルギよりも高くなってウエハ2に到達する。その結果、中央領域R1ではP層に近く、周縁領域R3ではP層から遠くなっている欠陥Eの分布を得ることができる。同じ効果は、中央領域R1に対向する領域の厚みが周縁領域R3に対向する領域よりも厚いアブソーバ39を通じてP層側表面Fからヘリウムイオンを照射しても得られる(図3参照)。一様なヘリウムイオン照射81aは、中央領域R1に照射されるヘリウムイオンのエネルギが周縁領域R3に照射されるヘリウムイオンのエネルギよりも低くなってウエハ2に到達する(照射81c)。その結果、中央領域R1ではP層に近く、周縁領域R3ではP層から遠くなっている欠陥Eの分布を得ることができる。図3は、中央領域R1におけるヘリウムイオン到達位置とP層との距離d1が、周縁領域R3におけるヘリウムイオン到達位置とP層との距離d3よりも短いことを示している。
(第2実施例)次に、図4Aと図4Bを参照して第2実施例の順電圧のばらつき低減方法を説明する。この実施例では、N層(特にN型不純物を高密度に含むN+層5)の厚みが、欠陥安定化不純物密度の低い中央領域で薄く、欠陥安定化不純物密度の高い周縁領域で厚いウエハ42を準備する。そのウエハ42のN層側表面Bからウエハ全面にエネルギが一様なヘリウムイオン81aを照射する(図4A参照)。ヘリウムイオンのエネルギは一定なので、ヘリウムイオンの飛程は、N層表面Bから一定の深さとなる。ただし、N層の厚みが中央領域で薄く、周縁領域で厚いので、ヘリウムイオンの到達位置とP層(P層とN層の境界)との間の距離は、中央領域で短く、周縁領域で長くなる。即ち、ヘリウムイオンの照射によって生成される欠陥Eは、中央領域でP層3に近く、周縁にいくほどP層から遠くなる分布を有することになる。
次に、図4Bに示すように、N層側の表面を平坦に削り取る。図4Bにおいて、符号RVが示す破線部分が、削り取る部分を示している。N層側表面を削り取ると、第1実施例と同様に、順電圧Vfのばらつきが抑制されたウエハが得られる。
(第3実施例)次に、図5Aから図5Cを参照して、第3実施例のばらつき低減方法を説明する。ウエハ2は、図1Aに示したウエハと同じタイプであり、N層において、中央領域で欠陥安定化不純物の密度が高く、周縁領域では低い。この実施例では、欠陥安定化不純物の密度が高い中央領域ではヘリウムイオンの照射密度を低く、欠陥安定化不純物の密度が低い周縁領域にはヘリウムイオンの照射密度を高くする。なお、照射密度は、ウエハ単位面積当たりに照射するヘリウムイオンの量を意味する。照射密度と順電圧Vfの関係の一例を図6に例示する。
照射するヘリウムイオンのエネルギはウエハ全面で一定でよい。欠陥安定化不純物密度の低い周縁領域に高密度のヘリウムイオンを照射することで、複合欠陥が生成される可能性を高くして、中央領域で生成される複合欠陥の密度とのバランスをとる。
ウエハの面内でヘリウムイオンの密度を異ならしめる方法を、図5A〜図5Cを使って説明する。この例では、エネルギが一定のヘリウムイオンを3回照射する。第1回目は、エネルギが一定のヘリウムイオン82aをウエハの全面に照射する。その結果、ウエハの全領域R11で打ち込まれるイオンの面密度は一定となる(図5A)。
次に、ウエハ2の中央領域のみを覆う小径の第1遮蔽板59aを通じてエネルギが一定のヘリウムイオン82bを照射する。第1遮蔽板59aは、ヘリウムイオンを通さない。それゆえ、第1遮蔽板59aで覆われた範囲ではヘリウムイオンがウエハ2に届かず、打ち込まれたヘリウムイオンの密度は第1回目の照射時のままである。他方、第1遮蔽板59aで覆われていない領域には、第2回目のヘリウムイオン照射82bが到達するので、打ち込まれるヘリウムイオンの密度が高まる(図5B)。図5Bにおいて、中央領域R21におけるヘリウムイオン密度よりも、その周囲の領域R22におけるヘリウムイオン密度が高くなる。
次に、第1遮蔽板59aよりも径が大きい第2遮蔽板59bを通じてエネルギが一定のヘリウムイオン82cを照射する。第2遮蔽板59bもヘリウムイオンを通さず、それゆえ、第2遮蔽板59bで覆われた範囲ではヘリウムイオンがウエハ2に届かず、打ち込まれたヘリウムイオンの密度は第2回目の照射時のままである。他方、第2遮蔽板59bで覆われていない領域には、第3回目のヘリウムイオン照射82cが到達するので、打ち込まれるヘリウムイオンの密度がさらに高まる(図5C)。結局、中央領域R31では打ち込まれるヘリウムイオンの密度がもっとも低く、中央領域R31の周囲の中間領域R32では、打ち込まれるヘリウムイオンの密度が中央領域R31に次に高く、中間領域R32の周囲の周縁領域R33では、打ち込まれるヘリウムイオンの密度が最も高くなる(図5C参照)。こうして、中央領域で打ち込まれるヘリウムイオンの密度が最も低く、周縁にいくほど密度が高くなる分布を実現できる。前述したように、ヘリウムイオンの到達位置には点欠陥Eが生成される。周縁領域では中央領域と比較して欠陥安定化不純物の密度は低いが点欠陥の密度が中央領域と比較して高くなるため、結果として生成される複合欠陥の密度は中央領域と周縁領域で均一化される。その結果、面内での順電圧Vfのばらつきを抑制することができる。
(第4実施例)次に、順電圧のばらつき低減方法の第4実施例を説明する。第4実施例は、第1実施例から第3実施例で用いたウエハとは欠陥安定化不純物の分布が異なるウエハに対して本技術を適用したものである。図7Aに示すウエハ62は、平面図において、N層における欠陥安定化不純物の密度が、中央領域R4で最も低く、中間領域R5で次に高く、周縁領域R6で最も高い。それゆえ、このウエハ62の全面にエネルギが一定のヘリウムイオンを照射すると、中央領域R4での順電圧Vfが低くなり、周縁に向かうにつれて順電圧Vfが高くなるばらつきが生じる。そこで、この実施例では、中央領域R4に対向する領域の厚みが周縁領域R6に対向する領域よりも厚いアブソーバ69を通じてN層表面Bの側から一様なヘリウムイオン83aを照射する(図7B)。なお、図7Bは、図7Aのウエハ2を7B−7B線における断面を模式的に示したものである。ただし、図7Bでは、断面を表すハッチングは図示を省略している。
アブソーバ69を通過した後のヘリウムイオン照射83cは、中央領域でエネルギが低く、周縁領域でエネルギが高い分布を有する。このヘリウムイオンが照射されると、ウエハ62では、ヘリウムイオンの到達位置が、中央領域R4でP層3(P層とN層との境界)から最も遠く、周縁に近づくにつれてP層3に近づく分布となる。ヘリウムイオンの到達位置は、結合欠陥の位置と等価である。このウエハ62では、中央領域R4では、複合欠陥Eの密度は低いがその位置はP層3から遠く、周縁領域R6ではその逆に複合欠陥Eの密度は高いがその位置はP層3に近い。複合欠陥Eの位置がP層3から遠いことは、順電圧Vfを高める傾向がある。それゆえ、欠陥安定化不純物の密度が中央領域R4で低く、周縁領域R6で高いことと、P層からヘリウムイオンの到達位置までの距離が中央領域R4で遠く、周縁領域R6で近いことは、順電圧Vfへの寄与が相殺し、その結果、順電圧Vfの面内ばらつきが抑制される。
第1〜第3実施例で使用したウエハ2と、第4実施例で使用したウエハ62は、ともに不純物低密度ウエハであるが、N層に含まれる欠陥安定化不純物の面内分布が異なる。しかし、本明細書が開示する技術は、欠陥安定化不純物の分布のばらつきが異なるいずれのウエハに対しても適用可能である。即ち、本明細書が開示する技術は、N層における欠陥安定化不純物の分布が面内でばらついているウエハの順電圧Vfのばらつきを低減する方法を提供する。例えば、欠陥安定化不純物の密度が、ウエハ平面視において中央領域で低く、周縁領域で高い場合は、荷電粒子の照射密度が周縁領域よりも中央領域で高くなるように照射すればよい。あるいは、照射する荷電粒子のウエハ深さ方向の到達位置が、周縁領域よりも中央領域においてP層から遠くなるように荷電粒子を照射すればよい。本明細書が開示する技術を、欠陥安定化不純物のばらつきを一般化して表現すれば、次のとおりである。この明細書が開示する技術は、ウエハの面内の順電圧Vfのばらつきを低減する方法である。より具体的には、P型半導体層とN型半導体層が積層している半導体ウエハに荷電粒子を照射してN型半導体層に欠陥を生じさせて順電圧のばらつきを低減する方法である。この明細書が開示する技術は、特に、N層に含まれる欠陥安定化不純物の密度が、4.0xE+17[atom/cm3]よりも小さいウエハに適している。その方法では、半導体ウエハの平面視において、不純物の密度に応じて深さ方向の到達位置あるいは照射密度が異なるように荷電粒子を照射する。より具体的には、本明細書が開示する方法では、半導体ウエハの平面視において、N層に不純物を第1密度で含む第1領域に照射するイオン(荷電粒子)のウエハ深さ方向の到達位置が、不純物を第1密度よりも低い第2密度で含む第2領域に照射するイオンの到達位置よりもP層に近くなるようにイオンを照射する。あるいは、第1領域に照射するイオンの照射密度が、第2領域に照射するイオンの照射密度よりも低くなるようにイオンを照射する。上記の表現は、第1〜第4実施例を含む。第1〜第3実施例では、中央領域が第1領域の一例に相当し、周縁領域が第2領域の一例に相当する。また、第4実施例では、周縁領域が第1領域の一例に相当し、中央領域が第2領域の一例に相当する。
(第5実施例)さらに、本明細書が開示する技術の別の実施例を、図8を参照して説明する。本明細書が開示する技術は、照射するヘリウムイオンのエネルギ、あるいは、密度を、ウエハ面内の各領域における欠陥安定化不純物の密度に応じて変更する。その方法は、ヘリウムイオンビームを照射するビームガン71を、ウエハ面内でスキャンすることのできる装置で実現できる。図8のビームガン71は、ウエハ上をスキャンしながらウエハ72のN層側表面72bからヘリウムイオンビームを照射することができる。スキャンスピードを遅くすれば、イオンの密度(即ち、生成される点欠陥の密度)が高くなる。ビームのエネルギを強めれば、飛程が大きくなり、生成される点欠陥の位置がP層に近くなる。従って、ビームガン71を用いることで、第1実施例から第4実施例と同じ結果を得ることができる。
実施例で説明した技術に関する留意点を述べる。実施例では、不純物低密度ウエハのN層にヘリウムイオンを照射し、点欠陥を生成する。照射する荷電粒子はヘリウムイオンに限られない。照射する荷電粒子は、プロトンや電子であってもよい。
荷電粒子の照射は、ウエハの全面に行わなくともよい。RCIGBTを作成する際にダイオードを生成する領域に対して離散的に荷電粒子を生成してもよい。その場合であっても、欠陥安定化不純物の含有密度が高い領域には、低い領域と比較して高い密度で荷電粒子を照射する。あるいは、欠陥安定化不純物の含有密度が高い領域には、低い領域と比較してP層に近い位置まで達するように荷電粒子を照射する。
上記したいずれかの実施例で順電圧Vfの面内ばらつきを抑制したウエハを使えば、一つのウエハから作られる複数のRCIGBTの順電圧特性のばらつきを小さくすることができる。
基礎的データとして、不純物の一つである酸素を例に、不純物の含有密度と順方向電圧Vfの関係の具体例を紹介する。図9は、酸素の含有密度が2.0xE+17[atom/cm3]の半導体ウエハと、4.0xE+17[atom/cm3]のウエハについて、順電圧Vfと逆回復損失Qrrを計測した結果である。なお、図9の結果は、幾つかの計測値の平均を示している。図9から理解されるように、酸素の含有密度が高いと順方向電圧が高くなる傾向がある。一例では、酸素含有密度に2倍の差があると、順方向電圧で1.0[V]の差が生じる。発明者らの測定では、一サンプルの半導体ウエハに、酸素濃度が2.0xE+17[atom/cm3]の領域と4.0xE+17[atom/cm3]の領域の双方が観測された。
また、図9に示すように、酸素含有密度と逆回復損失の間にも特定の関係がある。酸素の含有密度が高いと逆回復損失が小さくなる傾向がある。
本発明の代表的かつ非限定的な具体例について、図面を参照して詳細に説明した。この詳細な説明は、本発明の好ましい例を実施するための詳細を当業者に示すことを単純に意図しており、本発明の範囲を限定することを意図したものではない。また、開示された追加的な特徴ならびに発明は、さらに改善された順電圧のばらつき低減方法を提供するために、他の特徴や発明とは別に、又は共に用いることができる。
また、上記の詳細な説明で開示された特徴や工程の組み合わせは、最も広い意味において本発明を実施する際に必須のものではなく、特に本発明の代表的な具体例を説明するためにのみ記載されるものである。さらに、上記の代表的な具体例の様々な特徴、ならびに、独立及び従属請求項に記載されるものの様々な特徴は、本発明の追加的かつ有用な実施形態を提供するにあたって、ここに記載される具体例のとおりに、あるいは列挙された順番のとおりに組合せなければならないものではない。
本明細書及び/又は請求の範囲に記載された全ての特徴は、実施例及び/又は請求の範囲に記載された特徴の構成とは別に、出願当初の開示ならびに請求の範囲に記載された特定事項に対する限定として、個別に、かつ互いに独立して開示されることを意図するものである。さらに、全ての数値範囲及びグループ又は集団に関する記載は、出願当初の開示ならびに請求の範囲に記載された特定事項に対する限定として、それらの中間の構成を開示する意図を持ってなされている。
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。