[実施の形態]
図1は四輪駆動車の概略を示す。図1に示すように、四輪駆動車200は、駆動力伝達系201,エンジン(主駆動源)202,トランスミッション203,主駆動輪としての前輪204L,204R及び補助駆動輪としての後輪205L,205Rを備えている。
駆動力伝達系201は、四輪駆動車200におけるトランスミッション203側から後輪205L,205R側に至る駆動力伝達経路にフロントディファレンシャル206及びリヤディファレンシャル207と共に配置され、かつ四輪駆動車200の車体(図示せず)に搭載されている。
そして、駆動力伝達系201は、駆動力伝達装置1,プロペラシャフト2及び駆動力断続装置3を有し、四輪駆動車200の四輪駆動状態を二輪駆動状態に、また二輪駆動状態を四輪駆動状態にそれぞれ切り替え可能に構成されている。駆動力伝達装置1の詳細については後述する。
フロントディファレンシャル206は、前輪側のアクスルシャフト208L,208Rに連結されたサイドギヤ209L,209R、サイドギヤ209L,209Rにギヤ軸を直交させて噛合する一対のピニオンギヤ210、一対のピニオンギヤ210を支持するギヤ支持部材211、及びギヤ支持部材211,一対のピニオンギヤ210,サイドギヤ209L・209Rを収容するフロントデフケース212を有し、トランスミッション203と駆動力断続装置3との間に配置されている。
リヤディファレンシャル207は、後輪側のアクスルシャフト213L,213Rに連結されたサイドギヤ214L,214R、サイドギヤ214L,214Rにギヤ軸を直交させて噛合する一対のピニオンギヤ215、一対のピニオンギヤ215を支持するギヤ支持部材216、及びギヤ支持部材216,一対のピニオンギヤ215,サイドギヤ214L・214Rを収容するリヤデフケース217を有し、プロペラシャフト2と駆動力伝達装置1との間に配置されている。
エンジン202は、トランスミッション203及びフロントディファレンシャル206を介して前輪側のアクスルシャフト208L,208Rに駆動力を出力することにより前輪204L,204Rを駆動する。
また、エンジン202は、トランスミッション203,駆動力断続装置3,プロペラシャフト2及びリヤディファレンシャル207を介して一方の後輪側のアクスルシャフト213Lに駆動力を出力することにより一方の後輪205Lを、トランスミッション203,駆動力断続装置3,プロペラシャフト2,リヤディファレンシャル207及び駆動力伝達装置1を介して他方の後輪側のアクスルシャフト213Rに駆動力を出力することにより他方の後輪205Rをそれぞれ駆動する。
プロペラシャフト2は、駆動力断続装置3とリヤディファレンシャル207との間に配置されている。そして、プロペラシャフト2は、エンジン202の駆動力をフロントデフケース212から受けて前輪204L,204R側から後輪205L,205R側に伝達するように構成されている。
プロペラシャフト2の前輪側端部には、互いに噛合するドライブピニオン60及びリングギヤ61からなる前輪側の歯車機構6が配置されている。プロペラシャフト2の後輪側端部には、互いに噛合するドライブピニオン70及びリングギヤ71からなる後輪側の歯車機構7が配置されている。
駆動力断続装置3は、フロントデフケース212に対して回転不能な第1のスプライン歯部3a、リングギヤ61に対して回転不能な第2のスプライン歯部3b、及び第1のスプライン歯部3a,第2のスプライン歯部3bにスプライン嵌合可能なスリーブ3cを有する例えばドグクラッチからなり、四輪駆動車200の前輪204L,204R側に配置され、かつアクチュエータ(図示せず)を介して車両用のECU(Electronic Control Unit:図示せず)に接続されている。そして、駆動力断続装置3は、プロペラシャフト2とフロントデフケース212とを断続可能に連結するように構成されている。
(駆動力伝達装置1の全体構成)
図2及び図3は駆動力伝達装置の全体を示す。図4は駆動力伝達装置の要部を示す。図2及び図3に示すように、駆動力伝達装置1は、メインクラッチ(多板クラッチ)8,電磁クラッチ9,パイロットクラッチ10,ハウジング12,インナシャフト13,第1のカム機構15及び第2のカム機構16を有し、四輪駆動車200(図1に示す)の後輪205R側に配置され、かつ装置ケース4内に収容されている。
そして、駆動力伝達装置1は、プロペラシャフト2(図1に示す)と後輪側のアクスルシャフト213R(図1に示す)とを断続可能に連結するように構成されている。すなわち、後輪側のアクスルシャフト213Rとプロペラシャフト2とは駆動力伝達装置1を介在させて連結されている。後輪側のアクスルシャフト213Lとプロペラシャフト2とは駆動力伝達装置1を介在させることなく連結されている。
これにより、駆動力伝達装置1による連結時には、一方の後輪側のアクスルシャフト213Lとプロペラシャフト2とが歯車機構7及びリヤディファレンシャル207(いずれも図1に示す)を介して、また他方の後輪側のアクスルシャフト213Rとプロペラシャフト2とが歯車機構7及びリヤディファレンシャル207を介してそれぞれトルク伝達可能に連結される。一方、駆動力伝達装置1による連結の解除時には、一方の後輪側のアクスルシャフト213Lとプロペラシャフト2とが歯車機構7及びリヤディファレンシャル207を介して連結されたままであるが、他方の後輪側のアクスルシャフト213Rとプロペラシャフト2との連結が遮断される。
装置ケース4は、回転軸線O片側(図3の右側)に開口するケース本体40、及びケース本体40の開口部を閉塞するケース蓋体41からなり、四輪駆動車200(図1に示す)の車体に配置されている。
装置ケース4内には、ハウジング12及びインナシャフト13等を収容し、かつハウジング12(リヤハウジング19)の収容空間19aに連通して潤滑油を貯溜する第1の収容室4aが設けられている。第1の収容室4aはケース本体40側に配置されている。
また、装置ケース4内には、連結器55及び歯車伝達機構56等を収容し、かつ第1の収容室4aに密閉部材(摺動部材)43を介して隣接する第2の収容室4bが設けられている。第2の収容室4bはケース本体40及びケース蓋体41に跨って配置されている。
密閉部材43は、基部43a及びシール部43bを有し、ケース本体40内に回転軸線Oに沿って摺動可能に配置され、全体が第1の収容室4aを密閉するための円環状の密閉部材によって形成されている。そして、密閉部材43は、エンジン202(図1に示す)と異なる副駆動源としてのカム作動用の駆動源5から第2のカム機構16における出力用のカム部材161(後述)と共に移動力を受けて円筒部44の内周面との間で摺動し、第1の収容室4aの内容積を可変するように構成されている。これにより、四輪駆動車200(図1に示す)の二輪駆動による走行時には、密閉部材43がメインクラッチ8から最も離間する部位に配置され、第1の収容室4aの内容積が四輪駆動車200の四輪駆動による走行時の場合と比べて大きくなる。また、四輪駆動車200の四輪駆動による走行時には、密閉部材43がメインクラッチ8に最も接近する部位に配置され、第1の収容室4aの内容積が四輪駆動車200の二輪駆動による走行時の場合と比べて小さくなる。カム作動用の駆動源5としては例えば回転モータが用いられる。
図4に示すように、基部43aは、密閉部材43の内周側に配置され、かつ出力用のカム部材161(図3に示す)の外周面に例えば溶接によって取り付けられ、全体が例えば鋳鉄等の鉄合金からなる円環部材によって形成されている。基部43aの材料としては、鉄合金に代えて例えばアルミニウム合金など他の金属材料を用いてもよい。基部43aには、その外周面に開口する円環状の凹溝430aが設けられている。
なお、基部43aの出力用のカム部材161に対する取り付けが溶接によって行われる場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、出力用のカム部材161に基部43aを一体に形成してもよい。
シール部43bは、密閉部材43の外周側に配置され、かつ凹溝430a内に取り付けられ、全体が例えばシリコーンゴム等の合成ゴムからなるOリングによって形成されている。そして、シール部43bは、密閉部材43の摺動部として機能するように構成されている。シール部43bの材料としては、シリコーンゴムに代えて例えばフッ素ゴムなど他の合成ゴムを用いてもよく、合成ゴムに代えて天然ゴムを用いてもよい。また、本実施の形態ではシール部43bがOリングである場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、Oリングに代えてUリングやXリングを用いてもよい。
図2及び図3に示すように、ケース本体40には、その内部に密閉部材43の摺動領域を形成するための円筒部44が一体に設けられている。円筒部44は、その内周面が密閉部材43のシール部43bに対応するシール面(被摺動面)として機能し、第2のカム機構16における出力用のカム部材161の外周囲に配置されている。
また、ケース本体40には、その外側面に突出し、かつ駆動源5を取り付けるための取付部40aが一体に設けられている。取付部40aには、回転軸線Oと平行な軸線方向に開口する貫通孔400aが設けられている。
ケース蓋体41は、ケース本体40にスプリングワッシャ付きのボルト42によって取り付けられ、全体がインナシャフト13(後述)を挿通させるキャップ部材によって形成されている。
駆動源5は、減速機構(図示せず)を内蔵するとともに、電動モータ50を有し、ケース本体40の取付部40aにボルト51によって取り付けられている。駆動源5のケース本体40に対する取り付けは位置決めピン52を用いて行われる。減速機構としては、例えば電動モータ50のモータ軸50aに固定されたウォームホイール(図示せず)、及びこのウォームホイールに噛合するウォーム53を有する歯車減速機構が用いられる。駆動源5(ウォーム53)には、第2のカム機構16(後述)にその作動力としての回転力を伝達するための伝達部材54が連結器55を介して取り付けられている。
伝達部材54は、所定の曲率半径をもつ曲面部54a有し、第2のカム機構16の上方に配置され、かつ装置ケース4内に収容されている。曲面部54aには、歯車伝達機構56の一部を構成する外歯540aが設けられている。伝達部材54の連結器55への取り付けは止め輪57を用いて行われる。
連結器55は、減速機構のウォーム53に連結する円筒部55a、及び伝達部材54に連結する軸部55bを有し、ウォーム53と伝達部材54との間に介在して配置されている。円筒部55aはその外周面に貫通孔400aの内周面との間でシール機構58が介在して、また軸部55bはその外周面に止め輪57がそれぞれ取り付けられている。
(メインクラッチ8の構成)
メインクラッチ8は、複数のインナクラッチプレート80及び複数のアウタクラッチプレート81を有する摩擦式のメインクラッチからなり、第1の回転部材としてのハウジング12と第2の回転部材としてのインナシャフト13との間に配置されている。
そして、メインクラッチ8は、複数のインナクラッチプレート80及び複数のアウタクラッチプレート81のうち互いに隣り合う内外のクラッチプレート同士を摩擦係合させ、またその摩擦係合を解除してハウジング12とインナシャフト13とを断続可能に連結するように構成されている。
インナクラッチプレート80及びアウタクラッチプレート81は、回転軸線Oに沿って交互に配置され、全体が環状の摩擦板によって形成されている。複数のインナクラッチプレート80及び複数のアウタクラッチプレート81のうち互いに隣り合う2つのクラッチプレート間のクリアランスC(図示せず)は、四輪駆動車200(図1に示す)の二輪駆動時に潤滑油の粘性に基づく引き摺りトルクによってクラッチプレート同士が摩擦係合しない寸法に設定されている。
インナクラッチプレート80は、その内周部にストレートスプライン嵌合部80aを有し、ストレートスプライン嵌合部80aを円筒部13a(インナシャフト13)のストレートスプライン嵌合部132aに嵌合させてインナシャフト13に相対回転不能かつ相対移動可能に連結されている。
インナクラッチプレート80には、その円周方向に沿って並列し、かつ回転軸線O方向に開口する複数の油孔80bが設けられている。複数のインナクラッチプレート80のうち電磁クラッチ側最端部のインナクラッチプレートは、メインクラッチ8の一方側の入力部として機能し、第1のカム機構15のメインカム151(後述)からアウタクラッチプレート81側に押付力(第1のカム推力)P1を受けると、この押付方向への移動によって互いに隣り合うインナクラッチプレート80とアウタクラッチプレート81とを摩擦係合させるように構成されている。また、複数のインナクラッチプレート80のうち電磁クラッチ9側の最端部と反対側の最端部のインナクラッチプレートは、メインクラッチ8の他方側の入力部として機能し、第2のカム機構16の出力用のカム部材161(後述)から押付部材162(後述)を介してアウタクラッチプレート81側に押付力(第2のカム推力)P2を受けると、この押付方向への移動によって互いに隣り合うインナクラッチプレート80とアウタクラッチプレート81との間のクリアランスC(図示せず)を例えばC=0に短縮するように構成されている。
アウタクラッチプレート81は、その外周部にストレートスプライン嵌合部81aを有し、ストレートスプライン嵌合部81aをリヤハウジング19のストレートスプライン嵌合部19b(後述)に嵌合させてハウジング12に相対回転不能かつ相対移動可能に連結されている。
(ハウジング12の構成)
ハウジング12は、フロントハウジング18及びリヤハウジング19からなり、回転軸線O上に配置され、かつサイドギヤ214R及び後輪側のアクスルシャフト213R(共に図1に示す)に連結されている。
フロントハウジング18は、第1〜第3のハウジングエレメント20〜22からなり、リヤハウジング19の開口内周面に取り付けられ、かつコイルホルダ23に玉軸受24を介して回転可能に支持されている。
コイルホルダ23は、その外周面に装置ケース4の内周面との間で介在するシール部材25が取り付けられ、全体がフロントハウジング18を挿通させる鍔付き円環部材によって形成されている。コイルホルダ23の装置ケース4に対する取り付けは、位置決めピン26を用いて行われる。また、コイルホルダ23は、その内周囲にフロントハウジング18(第1のハウジングエレメント20)の外周面との間で介在する環状空間27が形成されている。コイルホルダ23には、装置ケース4内に開口する油路23a、及び油路23aに連通して環状空間27に開口する油路23bが設けられている。油路23aはコイルホルダ23の軸線と平行な軸線をもって、また油路23bは油路23aの軸線と直交する軸線をもってそれぞれ形成されている。油路23bには、コイルホルダ23外側への潤滑油の漏洩を防止するためのボール状の栓体28が取り付けられている。
玉軸受24は、その軸線方向の移動が止め輪29,30によって規制され、かつ環状空間27に配置されている。
第1のハウジングエレメント20は、フロントハウジング18の内周側に配置され、全体が軟鉄等の磁性材料からなる軸状部材によって形成されている。第1のハウジングエレメント20の外周囲には、第2のハウジングエレメント21の内周面との間で介在する環状空間31が形成されている。また、第1のハウジングエレメント20の外周囲には、コイルホルダ23の内周面との間で介在するシール機構32が配置されている。第1のハウジングエレメント20の内周囲には、インナシャフト13の外周面との間で介在する針状ころ軸受33が配置されている。
第1のハウジングエレメント20には、各孔径を互いに異にする3つの孔部20a〜20cが設けられている。また、第1のハウジングエレメント20には、環状空間31,孔部20aに開口する油路200a、及び環状空間27,孔部20bに開口する油路201aが設けられている。
第2のハウジングエレメント21は、フロントハウジング18の外周側に配置され、全体が軟鉄等の磁性材料からなる円筒部材によって形成されている。第2のハウジングエレメント21の外周面には、その径方向に突出する複数(本実施の形態では4個)の係合凸部21aが設けられている。複数の係合凸部21aは、第2のハウジングエレメント21の円周方向に等間隔をもって配置されている。第2のハウジングエレメント21には、その外周面及び環状空間31に開口する油路21bが設けられている。
第3のハウジングエレメント22は、第1のハウジングエレメント20と第2のハウジングエレメント21との間に介在して配置され、全体がステンレス鋼等の非磁性材料からなるハウジングエレメント連結用の円環部材によって形成されている。
リヤハウジング19は、フロントハウジング18側とその反対側とに開口する収容空間19a、及びこの収容空間19aに露出するストレートスプライン嵌合部19bを有し、装置ケース4内に収容され、全体が無底円筒部材によって形成されている。収容空間19aはフロントハウジング18とリヤハウジング19との間に介在して、またストレートスプライン嵌合部19bはリヤハウジング19の内周面にそれぞれ配置されている。そして、リヤハウジング19は、フロントハウジング18と共に回転軸線Oの回りに回転するように構成されている。
リヤハウジング19には、その外周面にコイルホルダ23側で突出するフランジ19cが設けられている。また、リヤハウジング19には、フロントハウジング18(第2のハウジングエレメント21)の係合凸部21aに係合する複数(本実施の形態では4個)の係合凹部19dが設けられている。リヤハウジング19の外周面には、フランジ19cと係合凸部21aとの間に介在する止め輪34が取り付けられている。
(インナシャフト13の構成)
インナシャフト13は、各外径が互いに異なる3つの円筒部13a〜13c、これら円筒部13a〜13cのうち円筒部13a,13b間に介在する段差面13d、及び円筒部13a,13c間に介在する段差面13eを有し、回転軸線O上に配置され、かつ一部がハウジング12内に収容され、全体が軸線両方向に開口する無底円筒部材によって形成されている。円筒部13aの外径は最大の寸法(最大外径)に、円筒部13bの外径は最小の寸法(最小外径)に、また円筒部13cの外径は円筒部13aの外径と円筒部13bの外径との間の寸法(中間外径)にそれぞれ設定されている。そして、インナシャフト13は、その開口部内に後輪側のアクスルシャフト213R(図1に示す)の先端部を挿入させて収容するように構成されている。後輪側のアクスルシャフト213Rは、インナシャフト13にスプライン嵌合によって相対回転不能かつ相対移動可能に連結されている。
最大外径の円筒部13aは、最小外径の円筒部13bと中間外径の円筒部13cとの間に介在してインナシャフト13の軸線方向中央部に配置されている。最大外径の円筒部13aの外周面には、孔部20a内のフロントハウジング18側で突出するフランジ130aが一体に設けられている。フランジ130aには、その両端面に開口する油流動路131aが設けられている。
また、最大外径の円筒部13aの外周面には、リヤハウジング19の収容空間19aに露出し、メインクラッチ8におけるインナクラッチプレート80のストレートスプライン嵌合部80aに嵌合するストレートスプライン嵌合部132aが設けられている。
最大外径の円筒部13aの内周面には、装置ケース4内における潤滑油の装置ケース4外への流出を防止するためのキャップ状の栓体35が取り付けられている。最大外径の円筒部13aには、その内外周面に栓体35とフランジ130aとの間で開口する油路133aが設けられている。
最小外径の円筒部13bは、インナシャフト13の一方側(図3では左側)に配置され、かつフロントハウジング18の孔部20c内に針状ころ軸受33を介して回転可能に支持されている。最小外径の円筒部13bには、そのフロントハウジング18側の開口部を閉塞する有底円筒状のシャフト蓋36が取り付けられている。
シャフト蓋36には、フロントハウジング18(第1のハウジングエレメント20)における孔部20bの内周面との間にポンプを形成する外周面360aを有する截頭円錐形状のポンプ形成部36aが一体に設けられている。ポンプ形成部36aの外周面360aは、第1のハウジングエレメント20の内周面との間に孔部20b側から孔部20cに潤滑油を導入して針状ころ軸受33等に供給するための環状空間37が形成されている。環状空間37は、その内外径が油流入(導入)側から油流出(導出)側に向かって漸次大きくなる寸法に設定されている。
中間外径の円筒部13cは、インナシャフト13の他方側(図3では右側)に配置され、装置ケース4(ケース蓋体41)の内周面に玉軸受38を介して回転可能に支持されている。中間外径の円筒部13cの外周面には、玉軸受38と段差面13eとの間に介在する円筒状の受部材39が取り付けられている。中間外径の円筒部13cの先端部には、その外周面とケース蓋体41の内周面との間に介在するシール機構45が配置されている。玉軸受38は、その軸線方向の移動が止め輪46,47によって規制され、かつ中間外径の円筒部13cの外周面とケース蓋体41の内周面との間に介在して配置されている。
(電磁クラッチ9の構成)
電磁クラッチ9は、電磁コイル90及びアーマチャ91を有し、メインクラッチ8にハウジング12の回転軸線O上で並列して配置されている。そして、電磁クラッチ9は、ハウジング12の回転時に電磁力Fの発生によるアーマチャ91の電磁コイル90側への移動によって第1のカム機構15を作動させ、パイロットクラッチ10のインナクラッチプレート100とアウタクラッチプレート101とを互いに摩擦係合させるように構成されている。
電磁コイル90は、車両用のECUに接続され、かつコイルホルダ23内に保持されている。そして、電磁コイル90は、通電によってフロントハウジング18及びアーマチャ91等に跨って磁気回路Mを形成し、アーマチャ91にフロントハウジング18側への移動力を付与するための電磁力Fを発生させるように構成されている。
アーマチャ91は、その外周面にストレートスプライン嵌合部91aを有し、ストレートスプライン嵌合部91aをストレートスプライン嵌合部19bに嵌合させてリヤハウジング19に相対回転不能かつ相対移動可能に連結され、第1のカム機構15(メインカム151)とパイロットクラッチ10との間に介在してリヤハウジング19の収容空間19aに収容され、全体が鉄等の磁性材料からなる円環部材によって形成されている。そして、アーマチャ91は、電磁コイル90の電磁力Fを受け、フロントハウジング18側に回転軸線Oに沿って移動するように構成されている。
(パイロットクラッチ10の構成)
パイロットクラッチ10は、電磁クラッチ9への通電によるアーマチャ91の電磁コイル90側への移動によって互いに摩擦係合可能なインナクラッチプレート100及びアウタクラッチプレート101を有し、アーマチャ91とフロントハウジング18との間に配置され、かつリヤハウジング19の収容空間19aに収容されている。そして、パイロットクラッチ10は、インナクラッチプレート100及びアウタクラッチプレート101のうち互いに隣り合うクラッチプレート同士を摩擦係合させ、またその摩擦係合を解除してリヤハウジング19と第1のカム機構15(パイロットカム150)とを断続可能に連結するように構成されている。
インナクラッチプレート100及びアウタクラッチプレート101は、回転軸線Oに沿って交互に配置され、全体が環状の摩擦板によって形成されている。
インナクラッチプレート100は、その内周部にストレートスプライン嵌合部100aを有し、ストレートスプライン嵌合部100aをストレートスプライン嵌合部150aに嵌合させてパイロットカム150に相対回転不能かつ相対移動可能に連結されている。
アウタクラッチプレート101は、その外周部にストレートスプライン嵌合部101aを有し、ストレートスプライン嵌合部101aをストレートスプライン嵌合部19bに嵌合させてリヤハウジング19に相対回転不能かつ相対移動可能に連結されている。
(第1のカム機構15の構成)
第1のカム機構15は、ハウジング12(リヤハウジング19)からの回転力を受けて回転する入力用のボールカム部材(パイロットカム)150、このパイロットカム150に回転軸線Oに沿って並列する出力用のボールカム部材(メインカム)151、及びこのメインカム151とパイロットカム150との間に介在する複数(本実施の形態では6個)の球状のカムフォロア152を有し、メインクラッチ8とフロントハウジング18との間に配置され、かつリヤハウジング19の収容空間19aに収容されている。そして、第1のカム機構15は、電磁クラッチ9のクラッチ動作によって受けるハウジング12からの回転力をメインクラッチ8のクラッチ力となる押付力(第1のカム推力)P1に変換するように構成されている。
パイロットカム150は、その外周部にインナクラッチプレート100のストレートスプライン嵌合部100aに嵌合するストレートスプライン嵌合部150aを有し、インナシャフト13(円筒部13a)のフランジ130aに針状ころ軸受153を介して回転可能に支持され、全体がインナシャフト13を挿通させる円環部材によって形成されている。そして、パイロットカム150は、メインカム151との間に第1のカム推力P1を発生させてメインクラッチ8に出力するように構成されている。
パイロットカム150には、円周方向に並列し、かつカムフォロア152側に開口する複数(実施の形態では6個)のカム溝150bが設けられている。複数のカム溝150bは、パイロットカム150の円周方向に等間隔をもって配置されている。そして、複数のカム溝150bは、その中立位置からパイロットカム150の円周方向に沿って軸線方向の深さが漸次浅くなる凹溝によって形成されている。
メインカム151は、クラッチプレート押付部151aをメインクラッチ8側に有し、インナシャフト13(最大外径の円筒部13a)に相対移動可能に回転軸線Oに沿って配置され、全体がインナシャフト13を挿通させる円環部材によって形成されている。そして、メインカム151は、電磁コイル91の通電状態において第1のカム機構15によるカム作用によって、すなわちパイロットカム150の回転によって発生する第1のカム推力P1をカムフォロア152から受けてメインクラッチ8側に移動し、回転軸線Oの一方側(図3の左側)でメインクラッチ8の入力側のインナクラッチプレート80にクラッチプレート押付部151aを押し付けるように構成されている。
メインカム151には、円周方向に等間隔をもって並列し、かつカムフォロア152側に開口する複数(実施の形態では6個)のカム溝151bが設けられている。そして、複数のカム溝151bは、その中立位置からメインカム151の円周方向に沿って軸線方向の深さが漸次浅くなる凹溝によって形成されている。また、メインカム151には、回転軸線Oと平行な方向に開口する複数(実施の形態では6個)の油孔151c、及び複数のカム溝151bの開口方向と反対方向に開口する複数(実施の形態では6個)のピン取付孔151dが設けられている。複数の油孔151c及び複数のピン取付孔151dは、メインカム151の円周方向に等間隔をもって交互に配置されている。
ピン取付孔151dには、メインカム151と押付部材162(第2のカム機構16における出力用のカム部材161)との間に介在する復帰用スプリング154のばね力を案内するガイドピン155が取り付けられている。これにより、復帰用スプリング154のばね力がメインカム151及び出力用のカム部材161を互いに離間させる方向に作用し、インナクラッチプレート80及びアウタクラッチプレート81のうち互いに隣り合う2つのクラッチプレート間のクリアランスが四輪駆動車200(図1に示す)の二輪駆動時に潤滑油の粘性に基づく引き摺りトルクによってクラッチプレート同士を摩擦係合させない寸法に設定される。
カムフォロア152は、パイロットカム150のカム溝150bとメインカム151のカム溝151bとの間に介在して配置され、かつリテーナ156によって転動可能に保持されている。
(第2のカム機構16の構成)
第2のカム機構16は、その作動力となる回転力を駆動源5から受けて回転する入力用のカム部材160、及び入力用のカム部材160に回転軸線O上で並列する出力用のカム部材161を有し、第1のカム機構15にメインクラッチ8を介して回転軸線O上で対向する位置に配置されている。そして、第2のカム機構16は、第1のカム機構15による第1のカム推力P1の変換に先行して作動し、押付部材162をメインクラッチ8に押し付けてインナクラッチプレート80とアウタクラッチプレート81との間のクリアランスC(図示せず)を例えばC=0に短縮するための第2のカム推力P2を第1のカム推力P1の方向と反対方向に沿って入力用のカム部材160と出力用のカム部材161との間で発生させるように構成されている。
図5(a)〜(c)は入力用のカム部材を示す。図3及び図5(a)〜(c)に示すように、入力用のカム部材160は、出力用のカム部材161に対向する側に凹凸面163有し、伝達部材54に歯車伝達機構56を介して連結され、かつ受部材39に針状ころ軸受164を介して回転可能に支持され、全体がインナシャフト13を挿通させる円環部材によって形成されている。
凹凸面163は、入力用のカム部材160の円周方向に沿って交互に並列する凹部165及び凸部166を有し、出力用のカム部材161の凹凸面168との間において円周方向の相対移動によって軸線方向に相対移動するためのカム面で形成されている。本実施の形態では、凹凸面163が入力用のカム部材160の回転によって出力用のカム部材161を軸線(回転軸線O)方向に沿ってメインクラッチ8側に移動させるためのカム面で形成されている。
凹部165は、入力用のカム部材160の軸線方向一方側から軸線方向他方側(出力用のカム部材161側)に向かって切り欠き幅を漸次大きくする一対の切り欠き側面165a,165b、及び一対の切り欠き側面165a,165b間に介在する切り欠き底面(×面)165cを有する断面台形状の切り欠きによって形成されている。
一方の切り欠き側面165aは、回転軸線O回りの一方側で切り欠き底面165cに対し傾斜してカムとして、また他方の切り欠き側面165bは回転軸線O回りの他方側で切り欠き底面165cに直交してストッパとしてそれぞれ機能するように構成されている。
凸部166は、互いに隣り合う2つの凹部165のうち一方の凹部においてカムとして機能する切り欠き側面165a、他方の凹部においてストッパとして機能する切り欠き側面165b、及びこれら切り欠き側面165a,165b間に介在する端面(○面)166aを有する断面台形状の突起部によって形成されている。
入力用のカム部材160には、外周縁に沿って突出する扇形状の凸片167が一体に設けられている。凸片167には、伝達部材54の外歯540aに噛合する外歯167aが設けられている。
図6(a)〜(c)は出力用のカム部材を示す。図3及び図6(a)〜(c)に示すように、出力用のカム部材161は、入力用のカム部材160における凹凸面163に嵌合可能な凹凸面168を有し、入力用のカム部材160と押付部材162との間に介在して軸線方向に移動可能(円周方向には移動不能)に配置され、全体がインナシャフト13を挿通させる円環部材によって形成されている。また、出力用のカム部材161は、その外周面に密閉部材43における基部43aの内周面を取り付ける取付部材として機能するように構成されている。
凹凸面168は、出力用のカム部材161の円周方向に沿って交互に並列する凹部169及び凸部170を有し、入力用のカム部材160の凹凸面163との間において円周方向の相対移動によって軸線方向に相対移動するためのカム面で形成されている。本実施の形態では、凹凸面168が入力用のカム部材160の回転によって出力用のカム部材161を軸線(回転軸線O)方向に沿ってメインクラッチ8側に移動させるためのカム面で形成されている。
凹部169は、出力用のカム部材161の軸線方向一方側から軸線方向他方側(入力用のカム部材160側)に向かって切り欠き幅を大きくする一対の切り欠き側面169a,169b、及び一対の切り欠き側面169a,169b間に介在する切り欠き底面(×面)169cを有する断面台形状の切り欠きによって形成されている。
一方の切り欠き側面169aは、入力用のカム部材160における凹凸面163の切り欠き側面165aに対応し、回転軸線O回りの他方側で切り欠き底面169cに対し傾斜してカムとして機能するように構成されてきる。また、他方の切り欠き側面169bは、入力用のカム部材160における凹凸面163の切り欠き側面165bに対応し、回転軸線O回りの一方側で切り欠き底面169cに直交してストッパとして機能するように構成されている。
凸部170は、互いに隣り合う2つの凹部169のうち一方の凹部におけるカムとして機能する切り欠き側面169a、他方の凹部におけるストッパとして機能する切り欠き側面169b、及びこれら切り欠き側面169a,169b間に介在する端面(○面)170aを有する断面台形状の突起部によって形成されている。
これにより、入力用のカム部材160における凹凸面163と出力用のカム部材161における凹凸面168が切り欠き底面165c,169cを互いに当接させた初期状態において、入力用のカム部材160が回転軸線O回りの一方向に回転すると、入力用のカム部材160が切り欠き側面165aを出力用のカム部材161の切り欠き側面169aに当接させて回転軸線O回りに移動する。このため、カムとしての機能をもつ両切り欠き側面165a,169a間にカム作用が発生し、これに伴い第2のカム推力P2が入力用のカム部材160から出力用のカム部材161に作用し、出力用のカム部材161が入力用のカム部材160から離間する方向に回転軸線Oに沿って移動する。この場合、出力用のカム部材161の移動は、凹凸面168の端面170aに入力用のカム部材160における凹凸面163の端面166aが乗り上げるまで行われる。
なお、入力用のカム部材160が回転軸線O回りの他方向に回転すると、ストッパとして機能をもつ両切り欠き側面165b,切り欠き側面169bが互いに当接するため、両切り欠き側面165a,169a間にカム作用が発生せず、出力用のカム部材161が上記のようには軸線方向に移動することがない。
押付部材162は、その内周縁にストレートスプライン嵌合部162aを有するとともに、メインクラッチ8側にクラッチプレート押付部162bを有し、ストレートスプライン嵌合部162aをインナシャフト13(円筒部13a)のストレートスプライン嵌合部132aに嵌合させてインナシャフト13に相対回転不能かつ相対移動可能に連結され、かつ出力用のカム部材161に針状ころ軸受171を介して回転可能に支持され、全体がインナシャフト13を挿通させる円環部材によって形成されている。
そして、押付部材162は、第2のカム機構16の作動によって発生する第2のカム推力P2を出力用のカム部材161から受けてメインクラッチ8側に移動し、回転軸線Oの他方側(図3の右側)でメインクラッチ8の入力側のアウタクラッチプレート81にクラッチプレート押付部162bを押し付けるように構成されている。
(駆動力伝達装置1の動作)
次に、本実施の形態に示す駆動力伝達装置の動作につき、図1,図3,図4及び図8(a)〜(c)を用いて説明する。図7(a)〜(c)は第2のカム機構における入力用のカム部材及び出力用のカム部材の動作状態を示す。図8(a)及び(b)は第1の収容室における潤滑油の油面位置を示す。
図1において、四輪駆動車200の二輪駆動時にエンジン202を始動すると、エンジン202の回転駆動力がトランスミッション203を介してフロントディファレンシャル206に伝達され、さらにフロントディファレンシャル206から前輪側のアクスルシャフト208L,208Rを介して前輪204L,204Rに伝達され、前輪204L,204Rが回転駆動される。
この場合、駆動力断続装置3は、第1のスプライン歯部3aと第2のスプライン歯部3bとの間で動力伝達が不能となっている。また、図3(上半分)において、電磁クラッチ9の電磁コイル90が非通電状態にあるため、電磁コイル90を基点とした磁気回路Mが形成されず、アーマチャ91が電磁コイル90側に移動してハウジング12に連結されることがない。
このため、第1のカム機構15においてメインクラッチ8のクラッチ力となる第1のカム推力P1が発生せず、メインクラッチ8のインナクラッチプレート80とアウタクラッチプレート81とが互いに摩擦係合せず、エンジン202の回転駆動力はハウジング12からインナシャフト13に伝達されない。
一方、二輪駆動状態にある四輪駆動車200を四輪駆動状態に切り替えるには、駆動力伝達装置1によってプロペラシャフト2と後輪側のアクスルシャフト213R(プロペラシャフト2と後輪側のアクスルシャフト213Lとはリヤディファレンシャル207を介して常時連結)とをトルク伝達可能に連結し、引き続き駆動力断続装置3によってフロントデフケース212とプロペラシャフト2とをトルク伝達可能に連結する。
ここで、プロペラシャフト2と後輪側のアクスルシャフト213L,213Rの連結時には、先ず駆動源5の駆動力を第2のカム機構16に付与し、第2のカム機構16を作動させる。この場合、第2のカム機構16が作動すると、入力用のカム部材160が回転軸線O回りに回転する。
このため、図7(a)に示すように、入力用のカム部材160における凹凸面163と出力用のカム部材161における凹凸面168とが切り欠き底面165cと端面170aとを、また端面166aと切り欠き底面169cとをそれぞれ互いに当接させた初期状態から、入力用のカム部材160が切り欠き側面165aを出力用のカム部材161の切り欠き側面169aに当接させて回転軸線O(図3に示す)回りに移動する。この際、両切り欠き側面165a,169a間にカム作用が発生し、これに伴い第2のカム推力P2が入力用のカム部材160から出力用のカム部材161に作用する。これにより、図7(b)に示すように、出力用のカム部材161が入力用のカム部材160から離間する矢印X2方向に回転軸線Oに沿って移動する。この場合、出力用のカム部材161の移動は、図7(c)に示すように、凹凸面168の端面170aに入力用のカム部材160における凹凸面163の端面166aが乗り上げるまで行われる。
そして、出力用のカム部材161が矢印X2方向への移動によって押付部材162をメインクラッチ8側に復帰用スプリング154に抗して移動させ、押付部材162がクラッチプレート押付部162bでメインクラッチ8を第1のカム機構15側に押し付けて移動させる。これにより、複数のインナクラッチプレート80及び複数のアウタクラッチプレート81のうち互いに隣り合う2つのクラッチプレート間のクリアランスC(図示せず)が例えばC=0となる。
次に、電磁コイル90が通電されると、電磁コイル90を基点とした磁気回路Mがコイルホルダ23,アーマチャ91及びフロントハウジング18に跨って形成され、アーマチャ91が電磁コイル90への通電に基づいて発生する電磁力F(吸引力)によってフロントハウジング18に接近する方向に移動する。このため、アーマチャ91がフロントハウジング18にパイロットクラッチ10を介して連結され、ハウジング12の回転力がパイロットカム150に伝達され、パイロットカム150が回転する。
これに伴い、第1のカム機構15が作動し、第1のカム機構15において発生するカム作用によってメインクラッチ8のクラッチ力となる第1のカム推力P1に変換され、この第1のカム推力P1によってメインクラッチ8のクラッチプレート80,81同士を摩擦係合させる方向(矢印X1方向)にメインカム151が復帰用スプリング154のばね力に抗して移動する。
そして、メインカム151が矢印X1方向への移動によってクラッチプレート押付部151aでメインクラッチ8を第2のカム機構16側に押し付ける。
これにより、複数のインナクラッチプレート80及び複数のアウタクラッチプレート81のうち互いに隣り合う2つのクラッチプレートが摩擦係合し、エンジン202の回転駆動力がハウジング12からインナシャフト13に伝達され、さらにインナシャフト13から後輪側のアクスルシャフト213L,213Rを介して後輪205L,205Rに伝達され、後輪205L,205Rが回転駆動される。
次に、四輪駆動車200の二輪駆動及び四輪駆動に伴う装置ケース4(第1の収容室4a)内における潤滑油の油面位置について説明する。
四輪駆動車200(図1に示す)の二輪駆動による走行時には、第2のカム機構16が非作動状態であり、出力用のカム部材161がメインクラッチ8から最も離間する部位に配置される。このため、密閉部材43がメインクラッチ8から最も離間する部位に配置され、第1の収容室4aの内容積が四輪駆動車200の四輪駆動による走行時の場合と比べて大きくなる。これにより、図8(a)に示すように、第1の収容室4a内における潤滑油の油面位置aが四輪駆動車200の四輪駆動による走行時の場合(図8(b)に示す場合)と比べて低くなり、潤滑油の粘性に基づいて発生する引き摺りトルクを低減することができる。
一方、四輪駆動車200の四輪駆動による走行時には、第2のカム機構16の作動によって出力用のカム部材161がメインクラッチ8に最も接近する部位に移動する。このため、密閉部材43がメインクラッチ8に最も接近する部位に配置され、第1の収容室4aの内容積が四輪駆動車200の二輪駆動による走行時の場合と比べて小さくなる。これにより、図8(b)に示すように、第1の収容室4a内における潤滑油の油面位置bが四輪駆動車200の二輪駆動による走行時の場合(図8(a)に示す場合)と比べて高くなり、メインクラッチ8及びパイロットクラッチ10に潤滑油を十分に供給してその耐久性の低下を抑制することができる。
[実施の形態の効果]
以上説明した実施の形態によれば、次に示す効果が得られる。
(1)四輪駆動車200の四輪駆動及び二輪駆動による走行時に装置ケース4(第1の収容室4a)内における潤滑油の油面位置を所望の油面位置に確保することができ、引き摺りトルクを低減することができるとともに、メインクラッチ8及びパイロットクラッチ10における耐久性の低下を抑制することができる。
(2)メインクラッチ8のクラッチプレート間隔を短縮する(第2のカム機構16を作動させる)ための駆動源5を利用して密閉部材43を移動させることができるため、専用の駆動源が不要になり、コストの低廉化を図ることができる。
以上、本発明の駆動力伝達装置を上記実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能であり、例えば次に示すような変形も可能である。
(1)上記実施の形態では、シール部材としてのシール部43bが密閉部材43側に配置されている場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、装置ケース(円筒部)側にシール部材を配置してもよい。すなわち要するに、本発明は、円筒部の内周面と密閉部材の外周部との間にシール部材が介在して配置されていればよい。
(2)上記実施の形態では、第2のカム機構16の作動によってインナクラッチプレート80とアウタクラッチプレート81との間のクリアランスC(図示せず)を例えばC=0に短縮するための第2のカム推力P2を発生させる場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、第2のカム機構16の作動によってメインクラッチ8にクラッチプレート同士のクリアランスが初期状態の場合と比べて小さくなるような第2のカム推力P2を発生させてもよい。
(3)上記実施の形態では、ハウジング12が入力軸側に、またインナシャフト13が出力軸側にそれぞれ連結されている場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、ハウジングを出力軸側に、またインナシャフトを入力軸側にそれぞれ連結しても本実施の形態と同様の効果を奏する。