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JP5898437B2 - 非晶質炭素膜積層部材及びその製造方法 - Google Patents

非晶質炭素膜積層部材及びその製造方法 Download PDF

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JP5898437B2 JP2011202654A JP2011202654A JP5898437B2 JP 5898437 B2 JP5898437 B2 JP 5898437B2 JP 2011202654 A JP2011202654 A JP 2011202654A JP 2011202654 A JP2011202654 A JP 2011202654A JP 5898437 B2 JP5898437 B2 JP 5898437B2
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Description

本発明は、非晶質炭素膜積層部材及びその製造方法に関し、特に、非晶質炭素膜を部品や材料等の搬送用フィーダ、キャリア、ハンドリング用のトレイなどの除電対策に用いる、或いは、電池等の電極、又はセパレータ等に用いる非晶質炭素膜積層部材及びその製造方法に関する。
非晶質炭素膜又はシリコン等を含む非晶質炭素膜(以下、これらをまとめて「非晶質炭素膜」という。)は、硬く耐摩耗性に優れ、摩擦係数が小さく、軟質金属に対する凝着防止性も有しており、基材の表面に高機能を付与することができ、小型部品や材料の搬送用フィーダやキャリア、ハンドリング用のトレイなどを中心に、広い産業分野で利用され始めている。
非晶質炭素膜は、膜厚などの成膜条件、原料ガスや後処理にも依存するが、その導電性に係る体積抵抗率は10〜1012Ω・cm程度であって、絶縁体的な性格を有している。このため、非晶質炭素膜を前述の部品や材料等、また、被搬送物である部品や材料等の搬送を容易、円滑にするために添加されるマブシ粉のような粉体等(以下、「部品等」と称す)の搬送用フィーダやキャリア、ハンドリング用のトレイなどの被覆材として用いる際に、該部品等の一般的な静電気付着防止方法として、非晶質炭素膜厚を十分薄く形成し、さらに該非晶質炭素膜の形成された導電性を有する基材を基準電位点(大地等)に電気伝導体で接続すること、つまりアースすることにより、ワークが非晶質炭素膜と接触することで発生する静電気を、非晶質炭素膜、さらには基材を通じてアースに除去し、基材上に被覆した非晶質炭素膜へのワークの静電気付着を防止できていた。
しかし、非晶質炭素膜に接触し摺動する部品等のサイズが微小化するに従い、従来の非晶質炭素膜の静電気除去能力(導電性)、除去方法では不十分となり、静電気による非晶質炭素膜表面への付着・残留などの現象が確認されるようになってきた。
今日では携帯型電子機器が多くなり、使用される部品も微小化している。このような状況において、微小部品の生産過程に於ける部品搬送、部品加工のための整列、保管等の工程で部品の貼り付きによる残留が発生することは、性能の異なる部品の異種性能ロットへの混入や、生産ロット間の混入によるトレサビリティーの消失などの問題を惹起させ、生産工程の品質管理に重大な問題を引き起こすようになってきた。
また、リチウムイオン電池においては、正電極板として用いられる金属電極箔(金属集電体)の耐食性と導電性を向上させるべく、その表面に非晶質炭素膜が形成される(特許文献1)。また、燃料電池用セパレータにおいても、低電気抵抗性金属板の全表面を、良好な電気伝導性及び耐食性を有する非晶質炭素膜が被覆される(特許文献2)。しかしながら、非晶質炭素膜を厚く形成する場合、むしろ導電性が低下する虞がある。また、非晶質炭素膜が有する成膜プロセス上の異常放電等に起因するピンフォール等の膜欠陥を通して、電解液が浸透、基材である電極に達し、電極金属が腐食する事態が起こる虞もある。
また、通常の非晶質炭素膜でも、非常に薄く成膜した場合は、トンネル効果などで非晶質炭素膜を介しても通電は可能となるが、摩擦耐久性、非晶質炭素膜の連続性などを著しく損なうことになる。
一方、他の耐磨耗・軟質金属凝着防止、低摩擦の表面処理として、いわゆる「導電性アルマイト」と称される、アルミニウム、またはアルミニウム合金の素材に10Ω・cm程度の体積電気抵抗率を保持させるよう陽極酸化処理を行い、該膜をより薄めに基材上に形成することで、該膜に接するワークの帯電量を抑制したものも存在するが(特許文献3参照)、なお電気抵抗値は大きく、更に非晶質炭素膜のような優れた耐磨耗性や低摩擦性、軟質金属凝着防止性などの機能は発現できていない。
特開2009−134988号公報 特開2000−67881号公報 特開2006−291259号公報
近年、非晶質炭素膜自体も、シリコンを含有する非晶質炭素膜など通常の非晶質炭素膜に比べて電気抵抗の大きいものを下地密着層として用いたり、或いは、非晶質炭素膜の耐久性を高めるため、より厚く膜を構成するようになってきている現状があり、従来の静電気除電に貢献したと思われる方法では静電気の除去や、通電の確保が困難になってきている。
小型電子機器に使用されるチップ状電子部品は、チップ抵抗、チップLED、チップコンデンサなどと呼ばれ、部品の小型化が進み、0603形状(縦幅0.6mm×横幅0.3mm×厚み0.3mm)、0402形状(縦幅0.4mm×横幅0.2mm×厚み0.2mm)、といった超小型、軽量部品となってきている。前記小型軽量チップ部品の重量は0.4〜0.1mg程度のものも存在し、これら軽量物の製造工程に於ける搬送、整列、又は貯蔵等のハンドリングが必要になってくると、従来に比較し、一層微弱な静電気(電気的な吸引力)でも小型軽量部品のフィーダなどハンドリング用基材への付着は発生しやすくなり、より小さな電気抵抗を有するハンドリング基材が要求されるようになってきた。
そこで、非晶質炭素膜を前述の搬送用のフィーダやキャリア、ハンドリング用のトレイなどの被覆材として用いる際には、非晶質炭素膜を含め被覆した基材の静電気を除去する工夫がより一層必要である。
さらには、静電気による故障の可能性もある電子部品等のハンドリング基材における静電気除去は重要性を増している。
また、各種電池電極等、導電性の材料で形成されている電極の表面にトンネル効果を発現するような薄膜の非晶質炭素膜を形成する場合、成膜プロセス上の異常放電等に起因するピンフォール、電極基材の表面凹凸に起因する非晶質炭素膜の非連続状態等の非晶質炭素膜欠陥を通して、電解液等が浸透、下地に達し、電極金属が腐食する事態が起こるという問題もある。
本発明は、こうした現状を鑑み、簡単な構成で、しかも安価に製造可能であり、微小電子部品など各種部品等の搬送・整列・貯蔵において、さらには、非晶質炭素膜にて各種導電性電極等を被覆した場合の、非晶質炭素膜及び基材を通じて電気的な導通を確保し得る非晶質炭素膜積層部材、及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、以下のような手段を確立した。すなわち、基材上に非晶質炭素膜を成膜した後、非晶質炭素膜の表層部に「飛び飛び」の間隔にて、金属メッキを部分析出させることにより、非晶質炭素膜と基材との電気伝導性を確保するものである。そして、該手法により、前述の摩擦・摺動部品の表面処理用途においては、導電性を有する金属メッキが、「飛び飛びの部分」の状態で非晶質炭素膜の表面に存在し、非晶質炭素膜を形成した基材上に供給され、基材との摩擦等にて静電気を帯びた部品等のワークの少なくとも一部分が、ワークの存在、移動する経路含め、上記金属メッキ部分と常時、若しくは瞬時に物理的な接点(接触)を取ることを可能とするとともに(接触端子化)、当該接点を通じて除電が可能となる表面積層部材を提供しうることを見いだしたものである。また、前述の電池の電極やセパレータ等の被覆材用途に応用した場合には、該金属メッキ部分を通じてより低い電気抵抗での通電を確保するものである。
本発明はこれらの知見に基づいて完成に至ったものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
〈1〉基材上に成膜された非晶質炭素膜において、該非晶質炭素膜の表層部分及び/又は欠陥内壁部分に金属めっきが部分析出されていることを特徴とする非晶質炭素膜積層部材。
〈2〉前記非晶質炭素膜が、ケイ素を含有することを特徴とする上記〈1〉の非晶質炭素膜積層部材。
〈3〉前記非晶質炭素膜を最上層とする、部品搬送用部材、部品整列用部材又は部品保管用部材であることを特徴とする上記〈1〉又は〈2〉の非晶質炭素膜積層部材。
〈4〉電池用の電極集電体であることを特徴とする上記〈1〉又は〈2〉の非晶質炭素膜積層部材。
〈5〉燃料電池用のセパレータであることを特徴とする上記〈1〉又は〈2〉の非晶質炭素膜積層部材。
〈6〉基材上に非晶質炭素膜を成膜した後、該非晶質炭素膜の表層部分及び/又は欠陥内壁部分に金属めっきを部分析出させることにより、非晶質炭素膜と基材との電気伝導性を確保することを特徴とする、非晶質炭素膜積層部材の製造方法。
本発明によれば、非晶質炭素膜は静電気除電効果を保持し、部品等を非晶質炭素膜に接触させる方法で行う搬送・整列・貯蔵等にて生じる静電気の除去の促進、以て部品等の非晶質炭素膜への静電気付着を抑制することができる。
また、本発明を、電池の電極やセパレータなどの導電性基板表面に適用した場合、非晶質炭素膜の形成による導電性の低下を抑制することが可能となる。
実施例1のCCDカメラによる観察写真(×500) 実施例1のCCDカメラによる観察写真(×5000) 比較例のCCDカメラによる観察写真(×500) 実施例2のCCDカメラによる観察写真 実施例2のFIB加工部位を示す写真 凸部1のFIB−SEMによる断面観察写真
本発明の一実施形態に於いては、基材上に非晶質炭素膜を成膜した後、非晶質炭素膜の有するピンフォール等の欠陥部分に金属メッキを部分析出させることにより、非晶質炭素膜と基材との電気伝導性を向上、確保することを特徴とするものである。
最初に、本発明における基体と非晶質炭素膜、及び該非晶質炭素膜の形成方法について、順に説明する。
[基体]
本発明において、基体は、鉄、銅、アルミニウム、チタンなどの金属、アルミニウム合金、ステンレス鋼(SUS)等の各種合金金属系材料、導電性を有する炭素繊維とその構成物などの導電性を有する材料、さらには、導電性の接着剤や樹脂、導電性の金属薄膜や金属酸化物薄膜(ITOなど)を被覆した、ガラス、炭化ケイ素、セラミックス等の無機系材料、ポリエリレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等の高分子材料など、さらには、導電性を有するメッキ皮膜、または蒸着等導電性のイオンプレーティングの形成された各種基材等、用途に応じた種々の材質を用いることができる。
具体的な基体の一例としては、被搬送部品等に基材を通じて細かな振動を加えることにより部品等を移動させるボールフィーダーやリニアフィーダー、部品等を部品を収納するために形成された部屋(キャビティー)に収納し、さらに排出することで部品等の移動を行うインデックスキャリア、部品等を重力にて滑らせながら移動させるホッパーやシュート、部品等に加工、検査など行う際、単独、または複数の部品を一定の位置に保持固定するため部品等の保持、位置決めのための部屋(キャビティー)を形成した部品保持用のパレット、部品等を大気中の負圧(バキューム)にて吸着し移送、検査などを行う吸着ノズルや吸着板などの冶具などの各種部品等の搬送用フィーダーや、キャリア、部品整列、収納用の冶具などの少なくとも必要な一部の表面などである。
〔非晶質炭素膜〕
本発明の一実施形態に係る非晶質炭素膜層は、前記基体上に直接、或いは、接着層などの他の層を介して間接的に設けられるものである。
なお、本明細書において非晶質炭素膜とは、水素を含むか若しくは水素を含まないで形成され、膜の構造は、ダイヤモンド構造(sp3結合)とグラファイト構造(sp2結合)との双方を含む非晶質であればよく、その混在比率および水素含有の有無及び含有量は特に限定されない。両者の混在比率および水素含有量は、任意に調整することができる。
本実施形態の非晶質炭素膜は、各種PVD法、CVD法にて形成される。
例えば、PVD法であれば、2極スパッタリング法、3極スパッタリング法、4極スパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法、対抗ターゲット式スパッタリング法などの様々なプラズマスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法、ECRスパッタリング法などの様々なイオンビームスパッタリング法、直流印加式(DC)イオンプレーティング法、活性化反応蒸着法(ARE方式)、ホロカソード放電法(HCD法)、高周波励起法(RF法)などのプラズマを利用する様々なイオンプレーティング法、イオンクラスタービーム蒸着法(ICB法)、イオンビームエピタキシー法(IBE法)、イオンビーム蒸着法(IBD法)、イオンビームアシスト蒸着法(IBAD法)、イオン蒸着薄膜形成法(IVD法)などのイオンビームを利用する様々なイオンプレーティング法などであり、CVD法であれば、直流(DC)プラズマCVD法、低周波プラズマCVD法、高周波(RF)プラズマCVD法、パルス波プラズマCVD法、マイクロ波プラズマCVD法などの様々なプラズマCVD法であり、さらにはこれらの組み合わせなどの様々な公知のドライプロセスにより形成される。
なお、成膜する際の基体温度、ガス濃度、圧力、時間などの条件は、形成する非晶質炭素膜の組成、膜厚に応じて、適宜設定される。
さらに、必要に応じて、前記非晶質炭素膜にチタン、ケイ素、酸素、窒素、ホウ素、イオウなどの元素、またはチタン、ケイ素、酸素、窒素、ホウ素、イオウなどの元素を含む原料ガスや固形原料(ターゲットなど)を非晶質炭素膜の形成過程に使用、または混合、混載し、非晶質炭素膜の膜中にチタン、ケイ素、酸素、窒素、ホウ素、イオウなどの元素の少なくとも1つの元素を含有させたものでも良く、あるいは、非晶質炭素膜形成後、チタン、ケイ素、酸素、窒素、ホウ素、イオウなどの元素、またはチタン、ケイ素、酸素、窒素、ホウ素、イオウなどの元素を含む原料ガスまたは固形原料(ターゲットなど)を用い、前記元素をプラズマ照射することで、非晶質炭素膜の少なくとも表層にチタン、ケイ素、酸素、窒素、ホウ素、イオウなどの元素の少なくとも1つの元素を含有させたものでも良い。
例えば、本発明の一実施形態に係るa−C:H:Si膜は、非晶質炭素膜にケイ素を含有させるものであって、非晶質炭素膜中の、ケイ素含有量は、4〜50原子%である。
具体的には、プラズマCVD法の場合、テトラメチルシラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジメトキシジオメチルシランなどのケイ素を含む原料ガスを使用することにより、或いは、非晶質炭素膜の原料ガスであるエチレン、アセチレン、メタンなどの炭化水素系の原料ガスに前記ケイ素を含むガスを混合することによりケイ素を含む非晶質炭素膜を形成することができる。
[非晶質炭素膜の形成方法]
本発明の一実施形態にかかる基材表面に形成される非晶質炭素膜は、その成膜プロセス上、安定したグロー/アフターグロー放電下で安定的に作成されるのが理想的ではあるが、実際は、成膜基材上の細かな汚れ、基材の酸化による電気的な絶縁状態や、基材表面の起伏状態などに起因し、局所的に大電流を伴うアーク放電が多数起こっていると考えられ、成膜後の非晶質炭素膜表面を観察すると多数のクレータ状の細かな凹状の欠陥が観察できる。
非晶質炭素膜は、真空雰囲気中で加熱すると導電性が増大することが知られており、大電流を伴うアーク放電等にて、真空状態下で高温にて形成されたピンフォールなどの非晶質炭素欠陥部位は、導電性が高くなっていると想定できる。
また、ステンレス鋼板など、導電性の金属基材上に非晶質炭素膜を成膜し、基材側の面(ステンレス鋼板の非晶質炭素膜を成膜していない側の面)と、対向する非晶質炭素膜を形成した側の面にテスター(Kaise Ku−1133)のそれぞれの極を当て電気抵抗を測定した場合に、無限大(∞)の電気抵抗値が示されるものであっても、同一の非晶質炭素膜表面に、表面張力の小さく、毛管現象による浸透性の高いイソプロピルアルコール(IPA)などを滴下した後、該滴下した液滴部分にテスターの端子を当て電気抵抗を計測すると、20MΩ前後の抵抗値、さらには、非晶質炭素膜の膜厚が薄い場合は数kΩの抵抗が確認されることが簡易的な通電試験を通じて確認できている。
これは、非晶質炭素膜のピンフォール等の欠陥、特に微細な凹形状で、通常はテスターのプローブと直接接触しない欠陥にIPAが浸透し、その一部は基材に達し、基材との通電を助長する導電媒体になっているから、と推定できる。
次に、非晶質炭素膜に形成される部分メッキ被膜について説明する。
本発明にて非晶質炭素膜に形成される部分メッキ被膜は、電解Cuメッキ、電解Crメッキ、電解Snメッキ、電解Ni−Co合金メッキ、その他合金メッキ等、各種公知のメッキ法、及びメッキ皮膜を適宜選択することができる。
例えば、本発明の一実施形態にかかる電解Niメッキを非晶質炭素膜上に分部析出させる場合は、非晶質炭素膜が形成された基材を、スルファミン酸Ni、塩化Ni及びホウ酸を含み、約55℃に維持された溶液中で通電することによって形成される。
この溶液には、必要に応じ添加剤(光沢剤)を含めてもよい。電解Niメッキ層は、添加される添加剤(光沢剤)の添加量を調整することなどにより、Hv500程度の硬度を有するように形成することができる。
さらに、本発明の一実施形態にかかる電解Niメッキのメッキ浴中にフッ素樹脂の微粒子を予め分散させ、析出するNiメッキ皮膜中にフッ素微粒子を含有させることも公知の方法であり可能である。
本発明の一実施形態に係る非晶質炭素膜に形成される部分メッキ被膜(特に電解メッキ皮膜)は、基材表面(本願の場合は非晶質炭素膜)の結晶欠陥やピンフォール部分などからメッキ皮膜成長の原点になる「メッキ核」を形成する特徴があり、また、非晶質炭素膜の下地基材に通じるピンフォール部などでは、導電性を有するメッキ液が毛管現象によりピンフォールに浸透することで基材に達し、さらに、ピンフォールに充填されたメッキ液部分に印加される電圧により、導電性の高いピンフォール部分に電界が集中するため、非晶質炭素膜表層に無数に散在するピンフォール等の欠陥部分にまず微小なメッキ核が「飛び飛びの状態」で形成されるようになる。
このため、メッキ時間などの条件を調整することで、非晶質炭素膜の全面にめっき被膜を成長形成させること無く、導電性確保と、腐食の発生原因になるピンフォール等の非晶質炭素膜表面の「飛び飛びの欠陥部分」を、ある程度選択的、優先的、部分的に埋める形でメッキ核を形成されることが可能となる。
結果、本発明の一実施形態に係る非晶質炭素膜積層部材は、ピンフォール等の欠陥をメッキで埋め、非晶質炭素膜の耐候性の向上を併せて図ることができる。
また、本発明の一実施形態に係る非晶質炭素膜状の部分メッキの形成は、導電性の基材上に形成可能な公知の各種電解メッキ法、例えば、電解Cuメッキ、電解Crメッキ、電解Ni−Co合金メッキ法など様々な方法により適宜選択適用することが可能である。
例えば、本発明の一実施形態にかかる非晶質炭素膜上に部分形成されたNiメッキ上に、耐食性の高い硬質Crメッキ皮膜などを重ねて積層形成する、Niメッキ核の上に電位差の少ないSn−Ni合金メッキ層を積層形成する、さらには、硫黄成分を多く含む層を有するトリNiメッキ層(3層メッキ)のように、他のメッキ層の腐食進行を抑制するメッキ層をさらに追加積層形成するなど、公知のメッキ法を複数選択することにより、耐食性をより向上させることも可能である。
さらに、本発明の実施形態に係る様々な部分メッキを形成させた非晶質炭素膜積層部材の更に表面(上層部)に、本発明の「基材(基体)上に形成された電気伝導性が十分でない非晶質炭素膜の電気伝導性を改善、向上させる」という趣旨に反しない範囲で更に他の膜を形成することも可能である。
例えば、本発明の一実施形態に係る部品搬送用部材、部品整列用部材又は部品保管用部材の場合、具体的には、本発明の一実施形態に係る部分メッキの析出した非晶質炭素膜のさらに上層に20nm〜50nm程度の非常に薄いフッ素樹脂膜を追加形成することにより、本発明の非晶質炭素膜積層部材に撥水、撥油性を付与することも可能である。本発明の非晶質炭素膜積層部材において、通電させる静電気は数万ボルトの電圧に及ぶ場合もあり、静電気は非常に薄いフッ素樹脂膜を容易に通過することが可能であり、また、本発明の非晶質炭素膜積層部材の表層の凹凸の凸部に形成された薄いフッ素樹脂膜は耐摩耗性に乏しく、搬送される部品等の接触にて容易に摩滅し、フッ素樹脂膜が摩滅した部分に本発明の非晶質炭素膜積層部材が露出することになるためである。
更なる具体例として、本発明の様々な実施形態において、本発明の部分メッキを形成した非晶質炭素膜積層部材の上層に、更に別の非晶質炭素膜を、本発明の非晶質炭素膜積層部材の電気導電性を著しく損なわない厚さや物性で追加形成し、部分的なメッキ部分を非晶質炭素膜で被覆すると共に、該メッキ部分を強固に固定することも可能である。
また、電池等の電極に本発明の一実施形態に係る部分メッキを形成した非晶質炭素膜積層部材を形成する場合、さらに、その上層部に導電性のグラファイト、アセチレンブラック、カーボンブラックなど電池の活剤層として用いられる層を形成することは当然に予定される。
更なる具体例としては、電池等の電極に本発明の一実施形態に係る部分メッキを形成した非晶質炭素膜積層部材を形成する場合において、さらにその上層部に導電性を確保しながら、耐食性を向上させる目的で、耐食性に優れたチタン、クロムなどの金属層、金、白金、ロジウムなどの貴金属の薄膜層を形成する、または、本発明にて形成された部分メッキの非晶質炭素膜への侵食を一層促進させないように、無電解Niメッキ、金メッキその他各種公知の無電解メッキ層を追加形成することも可能である。
さらに、非晶質炭素膜の予め基材まで続いていない凹状の欠陥に形成されたメッキ核は、その成長に伴い非晶質炭素膜を基材側に向けて侵食しながら成長することが確認できる。
本発明の一実施形態に於いて、通常の非晶質炭素膜に比べ絶縁性の高い、基材と非晶質炭素膜との間に形成されるシリコンを含む非晶質炭素膜で構成される中間密着層を、従来のように導電性を考慮して極力薄く形成すること無しに、予め十分厚く該膜の連続性や応力緩和機能の発現に必要な十分な厚さで形成することが可能となる。
この場合、形成されるメッキ核と、基材との中間に位置する、より絶縁性の非晶質炭素膜がメッキの侵食により薄膜化することで、メッキ核と基材が接近し、電流が流れ易くなると考えることができる。
このように、本発明の一実施形態に於いては、従来は絶縁性をより増長させてしまうため使用できなかった、または、必要以上に薄く形成していた各種の「通常の非晶質炭素膜よりも絶縁性の高い非晶質炭素膜」の使用範囲を拡大することが可能となる。
以下、本発明について、実施例を用いて説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
1.薄く形成した非晶質炭素膜での実施
ステンレス鋼(SUS304)を表面粗さRa0.02μm程度に研磨したフィーダ(100mm×100mm、厚さ1mm)を2つ準備し、高圧DCパルスプラズマCVD装置に配置し非晶質炭素膜を成膜した。
成膜条件は、Arガスを流量30SCCM、ガス圧2Paに調整し、印加電圧−3kVでプラズマクリーニングを行った後、Arガスを排気し、トリメチルシランガスを流量30SCCM、ガス圧2Paにて導入し、印加電圧−4kVpにて密着用の下地層を100nm前後の厚さで形成した後、さらに非晶質炭素膜を以下の条件で成膜した。
なお、成膜装置初期到達真空度は7×10−4Pa、であり、高圧DCパルスプラズマCVD装置パルス電源のパルス周波数はいずれも10kHz、パルス幅10μsである。
・原料ガス:アセチレン
・成膜ガス圧力:2Pa
・ガス流量:30SCCM
・印加電圧:−5kVp
成膜時間:15分間
形成した非晶質炭素膜の総膜厚は、密着用の下地層含め概ね400nm程度である。
非晶質炭素膜を成膜した一方を実施例1として、スルファミン酸Niメッキ浴にて通電し、下記条件にて公知の方法で電解Niメッキを行った。メッキしない他の一方を比較例とした。
・電流密度:1A/dm
・メッキ時間:1分間
・電圧:2.4V前後
まず、実施例1及び比較例の表面状態をCCDカメラで観察した。
図1は、実施例1のCCDカメラによる観察写真であり、(A)、(B)は、それぞれ500倍、5000倍の拡大写真である。非晶質炭素膜の表面に散在する欠陥の凹部に、φ1μm〜10μm前後のNiメッキの核が凸状に無数に成長しているのが確認できる。
図2は、比較例のCCDカメラによる観察写真(×500)である。多数の非晶質炭素膜の欠陥が観察できる。
実施例1において、非晶質炭素膜の欠陥部分にNiメッキ核が成長するのは、被着物表面の欠陥部分を起点にメッキ核が成長するメッキ本来の性質に加え、前述のように、非晶質炭素膜に存在する、基材または基材近傍までの深度で存在するピンフォールに浸透したメッキ液により、該部分のメッキ析出が起こりやすいことに起因すると考えられる。
実施例1の非晶質炭素膜を形成していないステンレス鋼側の面にテスターの一方の極であるプローブを、さらに、非晶質炭素膜を形成した側の面との電気抵抗を、テスターのもう一方のプローブを凸状のNiメッキ核に接触させる方法で測定した。テスターは、kaise Ku−1133を使用した。
下記に示す測定抵抗値は、異なる任意のメッキ核10点にプローブを接触させて計測した際の電気抵抗の最大値と最小値である。
(1)Niメッキの析出部分
最大抵抗値:200kΩ 最小抵抗値:20kΩ
(2)非晶質炭素膜部分:∞(無限大)
測定の結果、Niメッキ核部分で電気抵抗が数十kΩレベルへ飛躍的に低下していることが確認できた。
以上のことから、非晶質炭素膜上に分散析出したNiメッキ核は、非晶質炭素膜を介して、基材であるステンレス鋼と電気的な導通を確保する手段であることが確認できた。よって静電気を帯びた非晶質炭素膜上の物質は、該Niメッキ析出物に接触することで、帯電した静電気を基材であるステンレス鋼側にアースすることが可能となる。
2.厚く形成した非晶質炭素膜での実施
ステンレス鋼(SUS304)の基材100mm×100mm、厚さ1mmに、高圧DCパルスプラズマCVD装置にて非晶質炭素膜を成膜した。
成膜条件は、装置の反応容器を7×10−4Paまで真空減圧した後、Arガスを流量30SCCM、ガス圧2Paに調整し、印加電圧−3kVpでプラズマクリーニングを行った後、Arガスを排気、続いてトリメチルシランガスを流量30SCCM、ガス圧2Paにて導入し、印加電圧−4kVpにて密着用の下地層を200nm前後成膜し、トリメチルシランを排気した後、アセチレンガスを流量30SCCM、ガス圧2Paにて導入し、印加電圧−5kVpにて非晶質炭素膜を260nm前後成膜した後、さらにアセチレンガスを排気し、再びトリメチルシランガスを流量30SCCM、ガス圧2Paにて導入し、印加電圧−5kVpにてシリコンを含む非晶質炭素膜層(最外層)を200nm程度の厚さで成膜し3層構造の総膜厚、約660nmの非晶質炭素膜層を形成した。非晶質炭素膜を成分の異なる3層構造としたのは、非晶質炭素膜に形成されたメッキ核の下部の状態〔特にメッキ核の非晶質炭素膜の最上層から中間層、最下層への成長状態〕が、各層でどのようになっているか後にSEM写真等で確認し易いためである。
なお、パルス状の印加電圧の周波数は、いずれも10kHz、パルス幅は10μsである。
上記試料をスルファミン酸Niメッキ浴中にて通電し、下記条件で公知の電解Niメッキを行い実施例2とした。
・電流密度:0.3A/dm
・メッキ時間:1分間
・電圧:2.4V前後
実施例2をCCDカメラにて表面状態を観察した写真を、図3に示す。
Niメッキの核が星雲状に基材一面に分散析出しているのが確認できる。
次に、Niメッキ核の部分を基材、非晶質炭素膜を含めて断面研磨し、該断面(非晶質炭素膜自体の膜構造)を観察した。
メッキ析出部分の集束イオンビーム(FIB)加工−走査型電子顕微鏡(SEM)による、非晶質炭素膜断面写真を、図5に示す。
なお、加工、観察条件は、FIB加工と2次電子象観察までが、メーカ:株式会社日立ハイテクノロジーズ、型式:NB5000形、日立集束イオンビーム加工観察装置システム、加速電圧:5.0kV
WD:5.0mm、5.1mm、信号検出器:LOWER-SE、検出信号:2次電子であり、
反射電子象の観察は、メーカ:株式会社日立ハイテクノロジーズ、型式:NB5000形、日立集束イオンビーム加工観察装置システム、加速電圧:5.0kV、WD:5.2mm、信号検出器:UPPER-SE
*E×B信号処理、検出信号:反射電子である。
1)断面観察用の加工
図4は、実施例2を試料に用いた、集束イオンビーム(FIB)による断面形成の加工部位を説明する図である。集束イオンビームを当てて試料表面の原子をはじきとばすことで試料を削ることが可能である。集束イオンビームは数100nmから数nmまで絞ることができるので、微細な加工が可能となる。
非晶質炭素膜平坦部に部分メッキが析出した凸部を選択し、断面観察時に最表面が認識できるように、試料をFIB−SEMに搭載前に試料全面にPt膜を20nmの厚さでコーティングした。
また、更に、評価領域である、Pt膜を形成した凸部に保護膜(カーボン膜)を形成した。
その後、上記中央の図、向かって右側の凸部1、左側の凸部2に対してそれぞれ集束イオンビーム(FIB)加工(85μm×12μm)を施した。
2)凸部断面の状態
図4の右端の図は、前記の凸部1の拡大写真であり、該図の破線部における断面の状態を図5に示す。
図5に示す各図面は、凸部1の断面露出(FIB加工)後の写真であり、向かって左側上段から下段までの3つの図が光学顕微鏡二次電子像(Lower)、及び写真向かって右側上段から下段の3つの図が反射電子像である。
凸部1の中央部下に窪みが確認された(右上写真(1))。
また、凸部の右側の非晶質炭素膜平坦部は、3層構造であることが確認できる(右下写真(2))。
凸部1中央部下と基板の距離は100nm程度まで近接している。
また、3層構造の上部側の層から、析出した部分メッキにより3層構造の非晶質炭素膜が上層部層から下部層に向かって順次侵食されたような非晶質炭素膜層の端断面の傾斜状態が確認できる。
よって、部分的なメッキ析出部分は、非晶質炭素膜の元来有する凹部の欠陥部分に該凹部をその形状のまま埋めるように析出したものではなく、メッキ核として析出後成長しながら非晶質炭素膜を下部側に向かって侵食していることが確認できる。
3)凸部2の断面の状態
図示しないが、凸部1と同様に、凸部2の中央部下にも凸部1同様に窪みが確認され、凸部2の下部に位置する非晶質炭素膜部は、非晶質炭素膜が薄くなっていることが確認でき、凸部2中央部下と基板の距離(非晶質炭素膜の厚み)は凸部1と同様に100nm程度まで近接している。
以上の観察から、メッキ析出部の電気伝導性が高いのは、メッキの析出初期のメッキ核が、非晶質炭素膜表面の欠陥部分に析出し、その段階ではまだ非晶質炭素膜は初期の非晶質炭素膜程度の厚みを有しているが、メッキの成長に伴い、非晶質炭素膜を侵食し、絶縁性の高い非晶質炭素膜が薄膜化することが確認できた。
結果、該部分の電気伝導性が向上するとともに、耐食性の高いNiメッキなどを非晶質炭素膜の元来有している欠陥に析出させてしまうため、非晶質炭素膜の欠陥に起因する耐候性劣化の防止も併せて行うことが可能となる。

Claims (7)

  1. 基材上に成膜された非晶質炭素膜を有し、該非晶質炭素膜の表層部分及び/又は欠陥内壁部分に金属メッキが部分析出されている非晶質炭素膜積層部材であって、該非晶質炭素膜を最上層とする、部品搬送用部材、部品整列用部材又は部品保管用部材であることを特徴とする非晶質炭素膜積層部材。
  2. 基材上に成膜された非晶質炭素膜を有し、該非晶質炭素膜の表層部分及び/又は欠陥内壁部分に金属メッキが部分析出されている非晶質炭素膜積層部材であって、電極であることを特徴とする非晶質炭素膜積層部材。
  3. 前記電極が電池用の電極であることを特徴とする請求項2に記載の非晶質炭素膜積層部材。
  4. 基材上に成膜された非晶質炭素膜を有し、該非晶質炭素膜の表層部分及び/又は欠陥内壁部分に金属メッキが部分析出されている非晶質炭素膜積層部材であって、燃料電池用のセパレータであることを特徴とする非晶質炭素膜積層部材。
  5. 前記非晶質炭素膜が、ケイ素を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の非晶質炭素膜積層部材。
  6. 前記非晶質炭素膜積層部材の上層に、更に別の非晶質炭素膜が、非晶質炭素膜積層部材の電気導電性を損なわない厚さで形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の非晶質炭素膜積層部材。
  7. 請求項1〜6のいずれか1項に記載の非晶質炭素膜積層部材の製造方法であって、
    基材上に非晶質炭素膜を成膜した後、該非晶質炭素膜の表層部分及び/又は欠陥内壁部分に金属メッキを部分析出させることにより、非晶質炭素膜と基材との電気伝導性を確保することを特徴とする非晶質炭素膜積層部材の製造方法。
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