以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
図1は、本発明が適用された車両用動力伝達装置10の構成を説明する骨子図である。この車両用動力伝達装置10は横置き型自動変速機であって、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両に好適に採用されるものであり、走行用の動力源としてエンジン12を備えている。内燃機関にて構成されているエンジン12の出力は、エンジン12のクランク軸、流体式伝動装置としてのトルクコンバータ14から前後進切換装置16、ベルト式無段変速機(CVT)18、減速歯車装置20を介して差動歯車装置22に伝達され、左右の駆動輪24L、24Rへ分配される。
トルクコンバータ14は、エンジン12のクランク軸に連結されたポンプ翼車14p、およびトルクコンバータ14の出力側部材に相当するタービン軸34を介して前後進切換装置16に連結されたタービン翼車14tを備えており、流体を介して動力伝達を行うようになっている。また、それ等のポンプ翼車14pおよびタービン翼車14tの間にはロックアップクラッチ26が設けられており、油圧制御回路100(図3参照)内のロックアップリレーバルブ104(図3参照)などによって係合側油室および開放側油室と連通する油路が切り換えられることにより、係合または開放されるようになっている。たとえばロックアップクラッチ26が完全係合させられることによって、ポンプ翼車14pおよびタービン翼車14tは一体回転させられる。また、ポンプ翼車14pには、無段変速機18の変速制御やベルト挟圧力制御、ロックアップクラッチ26の係合開放制御等を実施するための元圧を発生させる機械式のオイルポンプ28が連結されており、エンジンの回転と連動して作動させられる。
前後進切換装置16は、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1とダブルピニオン型の遊星歯車装置16pとを主体として構成されており、トルクコンバータ14のタービン軸34はサンギヤ16sに一体的に連結され、無段変速機18の入力軸36はキャリア16cに一体的に連結されている一方、キャリア16cとサンギヤ16sは前進用クラッチC1を介して選択的に連結され、リングギヤ16rは後進用ブレーキB1を介して非回転部材であるハウジングに選択的に固定されるようになっている。前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1は、何れも油圧アクチュエータによって摩擦係合させられる油圧式摩擦係合装置である。なお、前後進切換装置16が本発明の切替機構に対応し、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1が本発明の油圧式摩擦係合装置に対応している。前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1が本発明の油圧式摩擦係合装置として機能している。
そして、前進用クラッチC1が係合させられるとともに後進用ブレーキB1が開放されると、前後進切換装置16は一体回転状態とされることによりタービン軸34が入力軸36に直結され、前進用動力伝達経路が成立(達成)させられて、前進方向の駆動力が無段変速機18側へ伝達される。また、後進用ブレーキB1が係合させられるとともに前進用クラッチC1が開放されると、前後進切換装置16は後進用動力伝達経路が成立(達成)させられて、入力軸36はタービン軸34に対して逆方向へ回転させられるようになり、後進方向の駆動力が無段変速機18側へ伝達される。また、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1が共に開放されると、前後進切換装置16は動力伝達を遮断するニュートラル状態(動力伝達遮断状態)になる。
無段変速機18は、入力軸36に設けられた入力側部材である有効径が可変の駆動側プーリ(プライマリプーリ、プライマリシーブ)42と、出力軸44に設けられた出力側部材である有効径が可変の従動側プーリ(セカンダリプーリ、セカンダリシーブ)46と、それ等の可変プーリ42、46に巻き掛けられた伝動ベルト48とを備えており、可変プーリ42、46と伝動ベルト48との間の摩擦力を介して動力伝達が行われる。
可変プーリ42および46は、入力軸36および出力軸44にそれぞれ固定された固定回転体42aおよび46aと、入力軸36および出力軸44に対して軸まわりの相対回転不能かつ軸方向の移動可能に設けられた可動回転体42bおよび46bと、それらの間のV溝幅を変更する推力を付与する油圧アクチュエータとしての駆動側油圧アクチュエータ(プライマリプーリ側油圧アクチュエータ)42cおよび従動側油圧アクチュエータ(セカンダリプーリ側油圧アクチュエータ)46cとを備えて構成されており、駆動側油圧アクチュエータ42cへの作動油の油圧が油圧制御回路100によって制御されることにより、両可変プーリ42、46のV溝幅が変化して伝動ベルト48の掛かり径(有効径)が変更され、変速比γ(=入力軸回転速度Nin/出力軸回転速度Nout)が連続的に変化させられる。
図2は、図1の車両用動力伝達装置10などを制御するために車両に設けられた油圧制御装置の制御系統の要部を説明するブロック線図である。電子制御装置50は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン12の出力制御や無段変速機18の変速制御およびベルト挟圧力制御やロックアップクラッチ26のトルク容量制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用や無段変速機18およびロックアップクラッチ26の油圧制御用等に分けて構成される。
電子制御装置50には、エンジン回転速度センサ52により検出されたクランク軸回転角度(位置)ACR(°)およびエンジン12の回転速度(エンジン回転速度)Neに対応するクランク軸回転速度を表す信号、タービン回転速度センサ54により検出されたタービン軸34の回転速度(タービン回転速度)Ntを表す信号、入力軸回転速度センサ56により検出された無段変速機18の入力回転速度である入力軸36の回転速度(入力軸回転速度)Ninを表す信号、車速センサ(出力軸回転速度センサ)58により検出された無段変速機18の出力回転速度である出力軸44の回転速度(出力軸回転速度)Noutすなわち出力軸回転速度Noutに対応する車速Vを表す車速信号、スロットルセンサ60により検出されたエンジン12の吸気配管32に備えられた電子スロットル弁30のスロットル弁開度θTHを表すスロットル弁開度信号、冷却水温センサ62により検出されたエンジン12の冷却水温TWを表す信号、CVT油温センサ64により検出された無段変速機18等の油圧回路の油温TCVTを表す信号、アクセル開度センサ66により検出されたアクセルペダル68の操作量であるアクセル開度Accを表すアクセル開度信号、フットブレーキスイッチ70により検出された常用ブレーキであるフットブレーキの操作の有無BONを表すブレーキ操作信号、レバーポジションセンサ72により検出されたシフトレバー74のレバーポジション(操作位置)PSHを表す操作位置信号、油圧センサ75により検出される従動側油圧アクチュエータ46cのベルト狭圧Pdを表すベルト狭圧信号などが供給されている。
また、電子制御装置50からは、エンジン12の出力制御の為のエンジン出力制御指令信号SE、例えば電子スロットル弁30の開閉を制御するためのスロットルアクチュエータ76を駆動するスロットル信号や燃料噴射装置78から噴射される燃料の量を制御するための噴射信号や点火装置80によるエンジン12の点火時期を制御するための点火時期信号などが出力される。また、無段変速機18の変速比γを変化させる為の変速制御指令信号ST、伝動ベルト48の挟圧力を調整させる為の挟圧力制御指令信号SB、ロックアップクラッチ26の係合、開放、スリップ量を制御させる為のロックアップ制御指令信号SL/U、例えば油圧制御回路100内の前記ロックアップリレーバルブの弁位置を切り換える後述す第1ソレノイドバルブSL1および、第2ソレノイドバルブSL2を駆動するための指令信号やロックアップクラッチ26の係合力を調節するリニアソレノイドバルブSLUを駆動するための指令信号、ニュートラル制御時において前進用クラッチC1または後進用ブレーキB1を開放乃至半係合させるための信号、ガレージシフト時において前進用クラッチC1または後進用ブレーキB1の係合圧を調整するための信号などが油圧制御回路100へ出力される。
図3は、油圧制御回路100のうち、主にロックアップクラッチ26のロックアップ制御、およびシフトレバー74の操作に伴う前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1の係合油圧制御に関連する要部を示す油圧回路図である。図3において、油圧制御回路100は、例えばエンジン12によって駆動されるオイルポンプ102から吐出された作動油の吐出圧を調圧してライン圧PLを出力するリリーフ式の第1レギュレータバルブ104と、第1レギュレータバルブ104の調圧時に排出される余剰油をライン圧PLよりも低圧であるセカンダリ圧PL2に調圧して出力する第2レギュレータバルブ106と、第1レギュレータバルブ104によって調圧されたライン圧PLを元圧にして、高圧モジュレータ圧PLPMHおよび低圧モジュレータ圧PLPMLのいずれかに調圧する元圧調圧バルブ108と、元圧調圧バルブ108によって調圧されたモジュレータ圧PLPMを元圧にソレノイドモジュレータ圧PSMを調圧するソレノイドモジュレータバルブ110と、ソレノイドモジュレータバルブ110によって調圧されたソレノイドモジュレータ圧PSMを元圧にして第1切替圧PSL1を出力する、NC( 常閉) 型オンオフ電磁弁である第1ソレノイドバルブSL1と、ソレノイドモジュレータバルブ110によって調圧されたソレノイドモジュレータ圧PSMを元圧にして第2切替圧PSL2を出力する、NC( 常閉) 型オンオフ電磁弁である第2ソレノイドバルブSL2と、前記第1ソレノイドバルブSL1および第2ソレノイドバルブSL2の出力状態に従って前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1へ供給される作動油を切替えるクラッチアプライコントロールバルブ112と、前記第1ソレノイドバルブSL1および第2ソレノイドバルブSL2の出力状態に従ってロックアップクラッチ26を開放状態(非作動状態)とする開放側位置(オフ側位置)およびロックアップクラッチ26を係合状態(作動状態)とする係合側位置(オン側位置)の何れか択一的に切り替えるロックアップリレーバルブ114と、電子制御装置50から供給される駆動電流に対応した制御圧PSLUを出力するリニアソレノイドバルブSLUと、ロックアップリレーバルブ114が係合側位置に切り替えられた状態でリニアソレノイドバルブSLUの制御圧PSLUに従ってロックアップクラッチ26の係合力を制御するためのロックアップコントロールバルブ116と、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1が選択的に係合或いは開放されるようにシフトレバー74の操作に従って油路が機械的に切り換えられるマニュアルバルブ118とを備えている。
オイルポンプ102は、例えばベーンポンプや歯車ポンプで構成された定容積型のポンプであって、エンジン12の駆動に伴って駆動させられ、オイルパン120に還流した作動油を汲み上げて吐出ポートから吐出する。
第1レギュレータバルブ104は、元圧調圧バルブ108、駆動側プーリ42の駆動側油圧アクチュエータ42c、および従動側プーリ46の従動側アクチュエータ46c等の元圧となるライン圧PLを、無段変速機18の入力トルクTinに対応する図示しないリニアソレノイドバルブの制御圧PSLSに応じて必要かつ十分な値に調圧するリリーフ型の調圧弁である。第2レギュレータバルブ106は、第1レギュレータバルブ104からリリーフされた作動油を、ロックアップクラッチ26等に供給されるためのセカンダリ圧PL2に調圧するためのリリーフ型の調圧弁である。この第2レギュレータバルブ106は、リニアソレノイドバルブSLUの制御圧PSLUを受け入れる油室を備えており、制御圧PSLUによってセカンダリ圧PL2が必要かつ十分な値に油圧に制御される。
元圧調圧バルブ108は、第1レギュレータバルブ104によって調圧されたライン圧PLから、相対的に高圧の高圧モジュレータ圧PLPMHと、その高圧モジュレータ圧PLPMHよりも相対的に低圧の低圧モジュレータ圧PLPMLとのいずれかの圧(以下、特に区別しない場合にはモジュレータ圧PLPMと記載する)に調圧する減圧弁型の調圧弁である。元圧調圧バルブ108は、高圧モジュレータ圧PLPMHを出力する高圧位置(図の左側位置)、低圧モジュレータ圧PLPMLを出力する低圧位置(図の右側位置)のいずれかに位置させられるスプール弁子122と、ライン圧PLが入力される入力ポート124と、スプール弁子122の切替位置に応じて選択的に入力ポート124と連通される出力ポート126と、出力されたモジュレータ圧PLPMを受け入れるフィードバックポート128と、第2ソレノイドバルブSL2からの第2切替圧PSL2を受け入れる油室130と、後進用ブレーキB1へ供給される油圧を受け入れる油室132と、スプール弁子122を高圧位置側に常時付勢するスプリング134とを、備えている。なお、モジュレータ圧PLPMが本発明の元圧に対応し、高圧モジュレータ圧PLPMHが本発明の高圧側元圧に対応し、低圧モジュレータ圧PLPMLが本発明の低圧側元圧に対応している。
ここで、シフトレバー74が後進ポジション以外のポジションにある場合は、油室132に後進用ブレーキB1の油圧PB1が供給されず、第2ソレノイドバルブSL2から第2切替圧PSL2が出力されない場合には、モジュレータ圧PLPMは高圧モジュレータ圧PLPMHとなる。一方、第2ソレノイドバルブSL2から第2切替圧PSL2が出力される場合には、モジュレータ圧PLPMは低圧モジュレータ圧PLPMLとなる。すなわち、第2ソレノイドバルブSL2から出力される第2切替圧PSL2によって、モジュレータ圧PLPMが高圧モジュレータ圧PLPMHおよび低圧モジュレータ圧PLPMLのいずれかに調圧される。この元圧調圧バルブ108によって調圧されたモジュレータ圧PLPMは、リニアソレノイドバルブSLUの元圧、前進用クラッチC1、後進用ブレーキB1、駆動側油圧アクチュエータ42cの油圧を制御する図示しないリニアソレノイドバルブSLP、従動側油圧アクチュエータ46cの油圧を制御する図示しないリニアソレノイドバルブSLS等の元圧として使用される。
ソレノイドモジュレータバルブ110は、元圧調圧バルブ108によって調圧されたモジュレータ圧PLPMを元圧にして、一定圧であるソレノイドモジュレータ圧PSMを調圧し、第1ソレノイドバルブSL1および第2ソレノイドバルブSL2へそれらの元圧として供給する。
クラッチアプライコントロールバルブ112は、マニュアルバルブ118を介して前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1へ供給される作動油の供給状態を、元圧調圧バルブ108から出力されるモジュレータ圧PLPMまたはリニアソレノイドバルブSLUの制御圧PSLU の何れかに切替える切替弁として機能する。クラッチアプライコントロールバルブ112は、軸方向に移動させられることにより、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1に供給される作動油を元圧調圧バルブ108から出力されるモジュレータ圧PLPMとするnormal位置(図の左側位置)、リニアソレノイドバルブSLUの制御圧PSLUとするfail/ガレージ位置(図の右側位置)のいずれかに位置させられるスプール弁子140と、元圧調圧バルブ108によって調圧されたモジュレータ圧PLPMが入力される第1入力ポート142と、リニアソレノイドバルブSLUの制御圧PSLUが入力される第2入力ポート144と、マニュアルバルブ118の入力ポート160に接続され、スプール弁子140の切替位置に応じて第1入力ポート142および第2入力ポート144の何れかと連通される第1出力ポート146と、図示しない調圧弁によって調圧された制御圧PLPM2が入力される第3入力ポート148と、従動側油圧アクチュエータ46cの油圧Pdが入力される第4入力ポート150と、駆動側油圧アクチュエータ42cに接続され、スプール弁子140の切替位置に応じて第3入力ポート148および第4入力ポート150の何れかと連通される第2出力ポート152と、スプール弁子140をnormal位置側に常時付勢するスプリング154と、スプール弁子140にfail/ガレージ位置側に向かう推力を付与するために第1ソレノイドバルブSL1の第1切替圧PSL1を受け入れる油室156と、スプール弁子140にnormal位置側に向かう推力を付与するために第2ソレノイドバルブSL2の第2切替圧PSL2を受け入れる油室158とを、備えている。
クラッチアプライコントロールバルブ112において、例えば第1ソレノイドバルブSL1の第1切替圧PSL1が油室156に供給されると、スプール弁子140がスプリング154の付勢力に抗ってfail/ガレージ位置(図の右側位置)に移動させられる。このとき、第2入力ポート144と第1出力ポート146とが連通させられ、リニアソレノイドバルブSLUの制御圧PSLUがマニュアルバルブ118の入力ポート160に供給される。また、第4入力ポート150と第2出力ポート152とが連通させられ、従動側油圧アクチュエータ46cの油圧Pdが駆動側油圧アクチュエータ42cに供給される。
また、第2ソレノイドバルブSL2の第2切替圧PSL2が油室158に供給されると、スプール弁子140がnormal位置(図の左側位置)に移動させられる。このとき、第1入力ポート142と第1出力ポート146とが連通させられ、モジュレータ圧PLPMがマニュアルバルブ118の入力ポート160に供給される。また、第3入力ポート148と第2出力ポート152とが連通させられ、制御圧PLPM2が駆動側油圧アクチュエータ42cに供給される。
また、第1ソレノイドバルブSL1の第1切替圧PSL1および第2ソレノイドバルブSL2の第2切替圧PSL2共に出力される場合、第2切替圧PSL2に基づく推進力およびスプリング154の付勢力によって、スプール弁子140が第1切替圧PSL1に基づく推進力に抗ってnormal位置側(図において左側)に移動させられる。したがって、モジュレータ圧PLPMがマニュアルバルブ118の入力ポート160に供給されると共に、制御圧PLPM2が駆動側油圧アクチュエータ42cに供給される。
また、第1ソレノイドバルブSL1の第1切替圧PSL1および第2ソレノイドバルブSL2の第2切替圧PSL2共に出力されない場合には、スプリング154の付勢力によって、スプール弁子140がnormal位置側(図において左側)に移動させられる。したがって、モジュレータ圧PLPMがマニュアルバルブ118の入力ポート160に供給されると共に、制御圧PLPM2が駆動側油圧アクチュエータ42cに供給される。このように、クラッチアプライコントロールバルブ112は、第1ソレノイドバルブSL1の第1切替圧PSL1および第2ソレノイドバルブSL2の第2切替圧PSL2に応じて、マニュアルバルブ118の入力ポート160すなわち前進用クラッチC1または後進用ブレーキB1に供給される係合圧を切り替える。
マニュアルバルブ118において、入力ポート160には、クラッチアプライコントロールバルブ112の第1出力ポート146から出力された係合油圧Pa(制御圧PSLUまたはモジュレータ圧PLPM)が供給される。そして、シフトレバー74が「D」ポジション或いは「L」ポジションに操作されると、係合油圧Paが前進用出力ポート162を経て前進用クラッチC1に供給され、前進用クラッチC1が係合させられる。また、シフトレバー74が「R」ポジションに操作されると、係合油圧Paが後進用出力ポート164を経て後進用ブレーキB1に供給され、後進用ブレーキB1が係合させられる。また、シフトレバー74が「P」ポジションおよび「N」ポジションに操作されると、入力ポート160から前進用出力ポート162および後進用出力ポート164への油路がいずれも遮断され、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1が共に開放させられる。
トルクコンバータ14のロックアップクラッチ26は、係合側油路170を介して供給される係合側油室172内の油圧Ponと開放側油路174を介して供給される開放側油室176内の油圧Poffとの差圧ΔP(=Pon-Poff)によりフロントカバー178に摩擦係合させられる油圧式摩擦クラッチである。そして、トルクコンバータ14の運転条件としては、例えば差圧ΔPが負とされてロックアップクラッチ26が開放される所謂ロックアップオフ、差圧ΔPが零以上とされてロックアップクラッチ26が半係合される所謂スリップ状態、および差圧ΔPが最大値とされてロックアップクラッチ26が完全係合される所謂ロックアップオンの3条件に大別される。また、ロックアップクラッチ26のスリップ状態においては、差圧ΔPが零とされることによりロックアップクラッチ26のトルク分担がなくなって、トルクコンバータ14は、ロックアップオフと同様の運転状態とされる。
ロックアップリレーバルブ114は、ロックアップリレーバルブ114は、ロックアップクラッチ26の係合位置(ON位置:図の右側)および開放位置(OFF位置:図の左側)を切替えるために移動させられるスプール弁子180と、そのスプール弁子180の一方の軸端側に設けられてスプール弁子180に開放位置(OFF位置)側へ向かう推力を付与するスプリング182と、スプール弁子180を開放位置(OFF位置)へ移動させるための第1ソレノイドバルブSL1の第1切替圧PSL1を受け入れる油室184と、スプール弁子180を係合位置(ON位置)側へ移動させるための第2ソレノイドバルブSL2の第2切替圧PSL2を受け入れる油室186と、第2レギュレータバルブ106によって調圧されたセカンダリ圧PL2が入力される入力ポート188と、ロックアップコントロールバルブ116の制御ポート212と連通される迂回ポート190と、係合側油路170と連通されている係合側ポート192と、開放側油路174と連通されている開放側ポート194とを、備えている。
ロックアップコントロールバルブ116は、ロックアップクラッチ26を半係合状態とするスリップ位置(SLIP位置)、または完全係合状態とする完全係合位置(ON位置)の何れか切替えるために移動させられるスプール弁子200と、そのスプール弁子200にスリップ位置(SLIP位置)側へ向かう推力を付与するスプリング202と、そのスプール弁子200をスリップ側位置へ向かって付勢するためにトルクコンバータ14の係合側油室172内の油圧Ponを受け入れる油室204と、そのスプール弁子200を完全係合位置(ON位置)へ向かって付勢するためにトルクコンバータ14の開放側油室176内の油圧Poffを受け入れる油室206と、スプール弁子200を完全係合位置へ向かって付勢するために制御圧PSLUを受け入れる油室208と、セカンダリ圧PL2が入力される入力ポート210と、ロックアップリレーバルブ114の迂回ポート190と連通される制御ポート212とを備え、係合側油室172内にセカンダリ圧PL2が供給されている状態で、制御圧PSLUに応じて制御ポート212からの出力圧である解放側油室176内の油圧Poffを調圧することにより、ロックアップクラッチ26のスリップ状態或いは係合状態を制御する。
このように構成されたロックアップリレーバルブ114およびロックアップコントロールバルブ116により、以下のようにロックアップクラッチ26の作動状態が切り替えられる。
まず、ロックアップクラッチ26を解放状態からスリップ状態或いは係合状態へ切り換える前には、リニアソレノイドバルブSLUからの制御圧PSLUを上昇させるとロックアップクラッチ26の係合容量が直ちに上昇することを可能とするロックアップ準備状態が、ロックアップクラッチ26のスリップ制御或いは係合制御の予め設定された開始条件の成立が予測される場合に設けられる、このロックアップ準備状態は、ロックアップリレーバルブ114が、第2切替圧PSL2に基づいてロックアップクラッチ26の係合位置(ON位置:図の右側)にそのスプール弁子180が位置させられて、リニアソレノイドバルブSLUからの制御圧PSLUの上昇が、ロックアップクラッチ26の係合容量の上昇に直結する状態である。この状態では、第2ソレノイドバルブSL2のオン作動で出力される第2切替圧PSL2が供給されることで、ロックアップリレーバルブ114を図の右側に示すON位置とされるが、それと連動して、その第2切替圧PSL2が元圧調圧バルブ108の油室130にも供給されることで、元圧調圧バルブ108の出力ポート126からは、高圧モジュレータ圧PLPMHよりも相対的に低圧の低圧モジュレータ圧PLPMLが出力される。
次に、ロックアップクラッチ26が開放状態を含むスリップ状態乃至ロックアップオン状態に切り換えられた場合を説明する。ロックアップリレーバルブ114において、第2ソレノイドバルブSL2の第2切替圧PSL2が油室186に供給されてスプール弁子180が係合位置(ON位置)へ移動させられ、入力ポート188に供給されたセカンダリ圧PL2が係合側ポート192から係合側油路170を通り係合側油室172へ供給される。この係合側油室172へ供給されるセカンダリ圧PL2が油圧Ponとなる。同時に、開放側油室176は、開放側油路174を通り開放側ポート194から迂回ポート190を経てロックアップコントロールバルブ116の制御ポート212に連通させられる。そして、開放側油室176内の油圧Poffがロックアップコントロールバルブ116によって調整されるに従い、差圧ΔP(=Pon-Poff)が調整されて、ロックアップクラッチ26の作動状態がスリップ状態乃至ロックアップオンの範囲で切り替えられる。
次に、ロックアップクラッチ26が開放状態に切り換えられた場合を説明する。ロックアップリレーバルブ114において、第2切替圧PSL2が油室186に供給されず、第1切替圧PSL1が油室184に供給されると、その第1切替圧PSL1に基づく推力およびスプリング172の付勢力によってスプール弁子180が開放位置(OFF位置)に移動させられ、入力ポート188に供給されたセカンダリ圧PL2が開放側ポート194からトルクコンバータ14の開放側油路174を通り、開放側油室176へ供給される。そして、係合側油室172を経てトルクコンバータ14の係合側油路170を通り係合側ポート192に排出された作動油が排出ポート214から潤滑回路216へ供給される。これにより、差圧ΔPが負とされてロックアップクラッチ26がロックアップオフとされる。
上記のように、第1ソレノイドバルブSL1から第1切替圧PSL1が出力される一方、第2切替バルブSL2から第2切替圧PSL2が出力されない状態では、クラッチアプライコントロールバルブ112において、スプール弁子140がfail/ガレージ位置に移動させられる。このfail/ガレージ位置は、車両において何らかの故障が発生した場合、またはシフトレバー74を「N」ポジションから「D」、「R」、「L」ポジションのいずれかに切り替える際に実施されるガレージ制御時に切り替えられるものであり、この状態において、リニアソレノイドバルブSLUの制御圧PSLUが第2入力ポート144から第1出力ポート146を経てマニュアルバルブ118の入力ポート160に供給される。そして、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1の一方にその制御圧PSLUが供給され、その制御圧PSLUに基づいて前進用クラッチC1または後進用ブレーキB1が滑らかに係合される。また、駆動側油圧アクチュエータ42cには従動側油圧アクチュエータ46cの油圧Pdが供給されることで、予め設定されている変速比γaに調整される。
このとき、ロックアップリレーバルブ114においては、第1ソレノイドバルブSL1の切替圧PSL1が油室184に供給されるに従い、スプール弁子180が開放位置(OFF位置)に切り替えられるため、ロックアップリレーバルブ114の迂回ポート190は遮断された状態となる。したがって、ロックアップリレーバルブ114とロックアップコントロールバルブ116とは、遮断された状態となり、リニアソレノイドバルブSLUの制御圧PSLUが油室208に供給されてもロックアップクラッチ26には影響が生じない。上記より、第1ソレノイドバルブSL1から第1切替圧PSL1が出力された状態では、リニアソレノイドバルブSLUの制御圧PSLUは、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1の係合圧となる。このとき、元圧調圧バルブ108では、その油室130に第2ソレノイドバルブSL2の第2切替圧PSL2が供給されないため、スプール弁子122が高圧位置(図において左側)に位置させられ、出力ポート126から高圧モジュレータ圧PLPMHが出力される。
また、第1ソレノイドバルブSL1から第1切替圧PSL1が出力されない一方、第2ソレノイドバルブSL2から第2切替圧PSL2が出力される状態では、ロックアップリレーバルブ114において、スプール弁子180が係合位置(ON位置)側に位置させられる。この状態において、ロックアップコントロールバルブ116の油室208にリニアソレノイドバルブSLUの制御圧PSLUが供給されることで、スプール弁子200がSLIP位置乃至ON位置の範囲で制御され、ロックアップクラッチ26の係合状態(スリップ状態)が制御される。このとき、クラッチアプライコントロールバルブ112においては、第2切替圧PSL2が油室138に供給されることで、スプール弁子140がnormal位置に位置させられるため、リニアソレノイドバルブSLUの制御圧PSLUが供給される第2入力ポート144が遮断された状態となる。上記より、第2ソレノイドバルブSL2から切替圧PSL2が出力された状態では、リニアソレノイドバルブSLUの制御圧PSLUは、ロックアップクラッチ26の係合状態を制御するための係合制御圧として機能する。
また、元圧調圧バルブ108では、油室130に第2ソレノイドバルブSL2の切替圧PSL2が供給されるため、スプール弁子122が低圧位置(図において右側)に位置させられる。この状態では、上述したように、出力ポート126から低圧モジュレータ圧PLPMLが出力される。すなわち、ロックアップクラッチ26の作動時では、モジュレータ圧PLPMとして低圧モジュレータ圧PLPMLが出力される。この低圧モジュレータ圧PLPMLは、クラッチアプライコントロールバルブ112およびマニュアルバルブ118を介して前後進切換装置16の前進用クラッチC1または後進用ブレーキB1に供給されるが、ロックアップクラッチ26の作動状態では、トルクコンバータ14のトルク増幅作用が生じないため、前進用クラッチC1または後進用ブレーキB1に伝達されるトルクはロックアップクラッチ26の非作動時に比べて小さくなる。したがって、前進用クラッチC1または後進用ブレーキB1に低圧モジュレータ圧PLPMLが供給されても、油圧不足すなわちトルク容量不足による滑りが発生しない。
上記のように、第1ソレノイドバルブSL1および第2ソレノイドバルブSL2の作動状態の切替に関連して、クラッチアプライコントロールバルブ112の連通状態が切り替えられて前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1の作動状態が制御されると共に、ロックアップリレーバルブ114の連通状態が切り替えられてロックアップクラッチ26への準備状態や作動状態が制御される。なお、この第1ソレノイドバルブSL1および第2ソレノイドバルブSL2は、電子制御装置50により励磁、非励磁され、車両の走行状態に応じて適宜作動状態が切り替えられる。
ところで、上述したように、ロックアップクラッチ26が作動状態にある場合、元圧調圧バルブ108から低圧モジュレータ圧PLPMLが出力されることで、燃費を向上する効果が得られているが、ロックアップクラッチ26の非作動時であっても、高圧モジュレータ圧PLPMHを必要とする場合は、例えば車両を停止させた状態でアクセルペダルを踏み込む所謂フルストール時などに限定され、所定のモード走行を含めた大抵の走行状態では、モジュレータ圧PLPMが低圧モジュレータ圧PLPMLで賄うことができる。そこで、本実施例の油圧制御回路100では、ロックアップクラッチ26の非作動時においても、モジュレータ圧PLPMを高圧モジュレータ圧PLPMHおよび低圧モジュレータ圧PLPMLのいずれかに調圧可能に構成されている。
図4は、第1ソレノイドバルブSL1の第1切替圧PSL1および第2ソレノイドバルブSL2の第2切替圧PSL2の出力に応じた前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1(以下、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1を特に区別しない場合には、前後進クラッチと記載する)の係合状態、ロックアップクラッチ26の係合状態、クラッチ元圧の油圧、およびリニア元圧の油圧を示している。なお、本実施例において、クラッチ元圧とは、元圧調圧バルブ108からクラッチアプライコントロールバルブ112を介して前後進クラッチC1に供給される油圧、すなわちモジュレータ圧PLPMを示しており、リニア元圧とは、リニアソレノイドバルブSLUに供給される元圧すなわちモジュレータ圧PLPMを示している。したがって、本実施例では、クラッチ元圧およびリニア元圧は、共に元圧調圧バルブ108から出力されるモジュレータ圧PLPMに対応する。また、「○」は第1ソレノイドバルブSL1、第2ソレノイドバルブSL2から切替圧(PSL1、PSL2)が出力されていることを示しており、「×」が出力されていないことを示している。
図5は、電子制御装置50の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図5において、ロックアップ準備状態異常判定部220は、ロックアップ準備状態とするための指令が出ていないにも拘わらずロックアップ準備状態となっているか否か、すなわちロックアップリレーバルブ114がオン状態に切り換えられているか否かを、たとえば第2ソレノイドバルブSL2へ駆動信号を供給しないときにその第2ソレノイドバルブSL2から第2切替圧PSL2が出力されていることに基づいて異常を判定する。その第2切替圧PSL2が出力されていることは、たとえば図示しない油圧センサにより検出される。
制御圧上昇許可条件成立判定部222は、ロックアップ準備状態異常判定部220により異常にロックアップ準備状態とされていると判定されている時においてリニアソレノイドバルブSLUの制御圧PSLUを上昇させるための予め設定された制御圧上昇許可条件が成立したか否かを判定する。その制御圧上昇許可条件は、車速V(km/h)が、ロックアップクラッチ26が係合させられてもエンジンストールが生じないように予め設定された値V1以上の高車速領域であるという第1条件と、無段変速機18の入力トルクTin(Nm)が、ロックアップクラッチ26が係合させられてもエンジンストールが生じないように予め設定された値Tin1 以上の高トルク領域であるという第2条件と、トルクコンバータ14のスリップ回転数Ns (=エンジン回転数Ne /タービン回転数Nt 、単位はrpm)がトルクコンバータ14のトルク増幅率が小さく前進クラッチC1などの油圧式摩擦係合装置のすべりが発生しない予め設定された値Ns1以上の高スリップ領域であるという第3条件とのアンド条件である。
制御圧上昇制御部224は、上記制御圧上昇許可条件成立判定部222によりリニアソレノイドバルブSLUの制御圧PSLUを上昇させるための予め設定された制御圧上昇許可条件が成立したと判定された場合は、ロックアップクラッチ26を係合させる大きさまでそのリニアソレノイドバルブSLUの制御圧( 係合制御圧) PSLUを上昇させる。これにより、第2ソレノイドバルブSL2へ駆動信号を供給しないときにその第2ソレノイドバルブSL2から第2切替圧PSL2が出力されている第2ソレノイドバルブSL2の故障により、油圧制御回路100が前記ロックアップ準備状態に維持されているときに、ロックアップクラッチ26が係合させられるため、トルクコンバータのトルク増幅作用がなくなって無段変速機18に入力される入力トルクTinがそのトルク増幅作用による分だけ低減させられるので、油圧式摩擦係合装置のすべりや、そのすべりに起因する耐久性の低下が好適に抑制される。
元圧低圧異常判定部226は、上記制御圧上昇制御部224により、ロックアップクラッチ26を係合させる大きさまでリニアソレノイドバルブSLUの制御圧( 係合制御圧) PSLUが上昇させられているとき、トルクコンバータ14のスリップ回転数Ns がロックアップクラッチ26を係合状態を判定するために予め設定された係合判定値Ns2以下であることに基づいて、元圧調圧バルブ108により調圧される、前進クラッチC1などの元圧すなわちモジュレータ圧PLPMが低圧異常状態であることを判定する。制御圧( 係合制御圧) PSLUの上昇によロックアップクラッチ26のスリップ回転数Ns が係合判定値Ns2以下となったということは、第2ソレノイドバルブSL2の故障により第2切替圧PSL2が発生させられることで、その第2切替圧PSL2によりオン側へ切替られたロックアップリレーバルブ114を通して、制御圧PSLUの増加に応答してセカンダリ圧PL2が供給され且つ開放側油室176内のの油圧Poffがドレンされることによりロックアップクラッチ26の係合容量が高められたことが明らかであるからである。係合判定値Ns2は、ロックアップクラッチ26が係合状態となったことを判定するために予め設定された比較的小さい値である。
上記元圧低圧異常判定部226によって前進クラッチC1などの元圧すなわちモジュレータ圧PLPMが低圧異常状態であることが判定されると、入力トルク低減制御部230は、スロットルアクチュエータ76或いは燃料噴射装置78を制御してエンジン12の出力トルクを制限することにより無段変速機18の入力トルクTinを、制御圧( 係合制御圧) PSLUの上昇制御がなくてもロックアップクラッチ26が係合するように低減するとともに、制御圧上昇終了制御部228は、制御圧上昇制御部224によるリニアソレノイドバルブSLUの制御圧( 係合制御圧) PSLUの上昇制御を禁止する。また、ロックアップクラッチ解放回転数変更部232は、上記元圧低圧異常判定部226によって前進クラッチC1などの元圧すなわちモジュレータ圧PLPMが低圧異常状態であることが判定されると、トルクコンバータ14( ロックアップクラッチ26) を解放させるために予め設定あれた解放回転数、たとえばフューエルカットからエンジン作動への復帰回転数( フューエルカット復帰回転数) を、通常の値よりも高い値に変更する。元圧低圧異常状態ではロックアップクラッチ26の解放作動の応答性が低下することから、車速低下時などにおいて通常時よりも高い値に設定されたフューエルカット復帰回転数を用いてロックアップクラッチを解放させることで、ロックアップクラッチ26の解放遅れによる不都合、たとえばエンジン回転低下によるノッキング振動や、エンジンストールが好適に解消されるようにする。
図6は、図5の電子制御装置50の制御作動の一部、具体的にはロックアップクラッチ26の作動時に車両を停止させるに際して、前後進クラッチの滑りを防止する制御作動を説明するためのフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実施されるものである。
図6において、ロックアップ準備状態異常判定部220に対応するステップS1(以下、ステップを省略)では、ロックアップ準備状態とするための指令が出ていないにも拘わらずロックアップ準備状態となっている異常であるか否か、すなわちロックアップリレーバルブ114がオン状態に切り換えられている異常であるか否かが、たとえば第2ソレノイドバルブSL2へ駆動信号を供給しないときにその第2ソレノイドバルブSL2から第2切替圧PSL2が出力されていることに基づいて判定される。このS1の判断が否定される場合は、本ルーチンが終了させられた後で、S1以下が繰り返し実行される。図7のタイムチャートは、このような正常状態を示している。
しかし、このS1の判断が肯定される場合はロックアップ準備状態異常状態であるので、図8のt1時点に示すように、ロックアップ準備状態とされると同時に、それに連動して、前進クラッチC1の元圧であるモジュレータ圧PLPM が零下する。このような状態において、制御圧上昇許可条件成立判定部222に対応するS2において、リニアソレノイドバルブSLUの制御圧PSLUを上昇させるための予め設定された制御圧上昇許可条件が成立したか否かが判定される。たとえば、車速V(km/h)が、ロックアップクラッチ26が係合させられてもエンジンストールが生じないように予め設定された値V1以上の高車速領域であるか否か、無段変速機18の入力トルクTin(Nm)が、ロックアップクラッチ26が係合させられてもエンジンストールが生じないように予め設定された値Tin1 以上の高トルク領域であるか否か、および、トルクコンバータ14のスリップ回転数Ns (=エンジン回転数Ne /タービン回転数Nt 、単位はrpm)がトルクコンバータ14のトルク増幅率が小さく前進クラッチC1などの油圧式摩擦係合装置のすべりが発生しない予め設定された値Ns1以上の高スリップ領域であるか否かの第3条件が成立するかが判定される。
このS2の判断が否定される場合は、本ルーチンが終了させられた後で、S1以下が繰り返し実行される。しかし、S2の判断が肯定されると、制御圧上昇制御部224に対応するS3において、ロックアップクラッチ26を係合させる大きさまでそのリニアソレノイドバルブSLUの制御圧( 係合制御圧) PSLUが上昇させられる。図8のt1時点はこの状態を示している。これにより、第2ソレノイドバルブSL2へ駆動信号を供給しないときにその第2ソレノイドバルブSL2から第2切替圧PSL2が出力されている第2ソレノイドバルブSL2の故障により、油圧制御回路100が前記ロックアップ準備状態に維持されているときに、ロックアップクラッチ26が係合させられるため、トルクコンバータのトルク増幅作用がなくなって無段変速機18に入力される入力トルクTinがそのトルク増幅作用による分だけ低減させられるので、油圧式摩擦係合装置のすべりや、そのすべりに起因する耐久性の低下が好適に抑制される。
次いで、元圧低圧異常判定部226に対応するS4において、トルクコンバータ14のスリップ回転数Ns がロックアップクラッチ26を係合状態を判定するために予め設定された係合判定値Ns2以下であることに基づいて、元圧調圧バルブ108により調圧される、前進クラッチC1などの元圧すなわちモジュレータ圧PLPMが低圧異常状態であるか否かが判定する。このS4の判定が否定された場合は本ルーチンが終了させられて、S1以下が繰り返し実行される。しかし、S4の判断が肯定される場合は、元圧低圧異常判定部226に対応するS5において、元圧低圧異常の故障が判定されるとともに、その故障を示すフラグがセットされる。図8のt2時点はこの状態を示している。
次に、入力トルク低減制御部230に対応するS6では、スロットルアクチュエータ76或いは燃料噴射装置78を制御してエンジン12の出力トルクを制限することにより無段変速機18の入力トルクTinを、制御圧( 係合制御圧) PSLUの上昇制御がなくてもロックアップクラッチ26が係合するように低減される。また、制御圧上昇終了制御部228に対応するS7では、制御圧上昇制御部224によるリニアソレノイドバルブSLUの制御圧( 係合制御圧) PSLUの上昇制御が禁止される。そして、ロックアップクラッチ解放回転数変更部232に対応するS8では、トルクコンバータ14或いはロックアップクラッチ26を解放させるために予め設定された解放回転数、たとえばフューエルカットからエンジン作動への復帰回転数( フューエルカット復帰回転数) が、正常時の値よりも高い値に変更される。
上述のように、本実施例によれば、第2切替圧PSL2( 切替圧) を発生させる第2ソレノイドバルブSL2(ソレノイドバルブ) の故障により、油圧制御回路100がロックアップ準備状態に維持されても、ロックアップクラッチ26を係合させる大きさまで上昇させられているリニアソレノイドバルブSLUの制御圧( 係合制御圧) PSLUに基づいてそのロックアップクラッチ26が係合させられる。このため、トルクコンバータ14のトルク増幅作用がなくなって無段変速機18に入力される入力トルクTinがそのトルク増幅作用による分だけ低減させられるので、前進クラッチC1などの油圧式摩擦係合装置のすべりや、そのすべりに起因する耐久性の低下が好適に抑制される。
また、本実施例によれば、上記リニアソレノイドバルブSLUの制御圧( 係合制御圧) PSLUの上昇制御は、車両の速度Vが予め設定された値V1以上の高車速領域であるときに実行されるので、低車速領域において、第2ソレノイドバルブSL2(ソレノイドバルブ) の故障による元圧の低下に起因する前進クラッチC1などの油圧式摩擦係合装置のすべりを抑制するためにロックアップクラッチ26が係合させられることに起因するエンジンストールが好適に解消される。
また、本実施例によれば、上記リニアソレノイドバルブSLUの制御圧( 係合制御圧) PSLUの上昇制御は、無段変速機18に入力される入力トルクTinが予め設定された値Tin1 以上の高トルク領域であるときに実行されるので、第2ソレノイドバルブSL2(ソレノイドバルブ) の故障による元圧の低下に起因する前進クラッチC1などの油圧式摩擦係合装置のすべりを抑制するためにロックアップクラッチ26が係合させられることに起因するエンジンストールが好適に解消される。
また、本実施例によれば、上記リニアソレノイドバルブSLUの制御圧( 係合制御圧) PSLUの上昇制御は、トルクコンバータ14のスリップ回転数Ns が予め設定された値Ns1以上の高スリップ領域であるときに実行されるので、トルクコンバータ14のトルク増幅率が小さく本来的に油圧式摩擦係合装置のすべりが発生しない、トルクコンバータ14の低スリップ領域では、不要な係合制御圧の上昇が防止される。
また、本実施例によれば、上記リニアソレノイドバルブSLUの制御圧( 係合制御圧) PSLUの上昇制御は、第2ソレノイドバルブSL2(ソレノイドバルブ) を駆動しないときにその第2ソレノイドバルブSL2から第2切替圧PSL2( 切替圧) が出力される異常時に実行される。このようにすれば、本来的に油圧式摩擦係合装置のすべりが発生しない第2ソレノイドバルブSL2の正常時には、不要な係合制御圧の上昇が防止される。
また、本実施例によれば、リニアソレノイドバルブSLUの制御圧( 係合制御圧) PSLUの上昇によりロックアップクラッチ26のスリップ回転数Ns が所定の係合判定値Ns2よりも小さくなった場合に、前記元圧の低圧異常状態であると判定される。このようにすれば、第2切替圧PSL2( 切替圧) の出力によりオン側へ切り換えられたロックアップリレーバルブ114を通して、制御圧( 係合制御圧) PSLUによりロックアップクラッチ26の係合容量が高められたことが明らかであるので、第2ソレノイドバルブSL2(ソレノイドバルブ) の異常およびそれによる元圧の低圧異常状態が確実に判定される。
また、本実施例によれば、元圧低圧異常判定部226( S4) において元圧低圧異常状態であると判定された場合は、無段変速機18に入力される入力トルクTinを低減し、リニアソレノイドバルブSLUの制御圧( 係合制御圧) PSLUの上昇制御が終了させられる。このため、無段変速機18に入力される入力トルクTinが低減されて前進クラッチC1などの油圧式摩擦係合装置のスリップが抑制されるので、その油圧式摩擦係合装置のスリップを抑制するためにロックアップクラッチ26へ供給される制御圧( 係合制御圧) PSLUの上昇制御が不要となる。
また、本実施例によれば、元圧低圧異常判定部226( S4) において元圧低圧異常状態であると判定された場合は、トルクコンバータ14の予め設定された解放回転数たとえばフューエルカット復帰回転数が正常時のの解放回転数よりも高い値に変更される。このため、元圧低圧異常状態ではロックアップクラッチ26の解放作動の応答性が低下することから、車速低下時などにおいて通常時よりも高い値に設定された解放回転数たとえばフューエルカット復帰回転数でロックアップクラッチ26を解放させることで、ロックアップクラッチ26の解放遅れによる不都合、たとえばエンジン回転低下によるノッキング振動や、エンジンストールが好適に解消される。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例では、第2ソレノイドバルブSL2からの第2切替圧PSL2によって、ロックアップリレーバルブ114がロックアップ準備状態( オン側位置) とされることに連動して、元圧調圧バルブ108の油室130に第2ソレノイドバルブSL2の切替圧PSL2が供給されると、モジュレータ圧PLPMが低圧側とされていたが、その連動機構は、他の方式であってもよい。要するに、ロックアップリレーバルブ114がロックアップ準備状態( オン側位置) とされることに連動して、前進クラッチC1などの油圧式摩擦係合装置の元圧が低圧側とされるものであればよい。
また、前述の実施例の車両では、自動変速機としてベルト式の無段変速機18が備えられていたが、遊星歯車型の有段式自動変速機であってもよい。また、本発明では上記車両の形式に限定されず、例えばトロイダル式の無段変速機などロックアップクラッチを備えた自動変速機であれば、適宜使用することができる。
また、前述の実施例の油圧制御回路100では、油圧式摩擦係合装置としてベルト式無段変速機(CVT)18のに前進クラッチC1或いは後進ブレーキB1が用いられていたが、自動変速機として遊星歯車型の有段式自動変速機である場合には、上記油圧式摩擦係合装置として、有段式自動変速機内で複数のギヤ段を択一的に達成するために選択的に作動させられるクラッチ或いはブレーキが用いられてもよい。
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。