上述した特許文献1に記載されている技術のように、吸気弁及び排気弁をオーバーラップさせる方法を利用する場合には、オーバーラップ中に燃料を噴射せざるを得ない状況が生じ得る。例えば、内燃機関の高負荷及び高回転領域では、排気弁の閉弁前に燃料噴射を開始することが求められる。しかしながら、オーバーラップ中に燃料を噴射すると、燃焼室から掃気すべき排気に加えて、噴射されたばかりの未燃燃料までもが排気系へ吹き抜けてしまうおそれがある。即ち、オーバーラップ量を増加させることで得られるスカベンジ効果によって、燃焼室に留まるべき燃料(即ち、燃焼室で燃焼されるべき燃料)までもが直ちに排出されてしまうという技術的問題点が生ずる。
本発明は、上述した問題点に鑑みなされたものであり、未燃燃料の排気系への吹き抜けを低減することが可能な内燃機関の制御装置を提供することを課題とする。
本発明の内燃機関の制御装置は上記課題を解決するために、過給器及び燃料を噴射する燃料噴射手段を備える内燃機関の制御装置であって、前記内燃機関における吸気圧及び排気圧を検出する吸排気圧検出手段と、前記内燃機関に設けられた吸気弁及び排気弁のバルブタイミングを制御する吸排気弁制御手段と、前記吸気圧が前記排気圧より高く、且つ、前記吸気弁及び前記排気弁のバルブタイミングをオーバーラップさせている場合に、前記内燃機関に噴射される燃料の貫徹力が高くなるように前記燃料噴射手段を制御する貫徹力調整手段とを備え、前記燃料噴射手段は、前記内燃機関の吸気ポートに燃料を噴射するポート噴射手段、及び噴射する燃料の圧力が前記ポート噴射手段とは異なる第2噴射手段を含んでおり、前記貫徹力調整手段は、前記ポート噴射手段により噴射された燃料が前記吸気弁と干渉しないように、前記ポート噴射手段による燃料の噴射タイミングを前記吸気弁の開弁時期に近づけ、且つ前記ポート噴射手段及び前記第2噴射手段の噴き分け率を、噴射する燃料の圧力が低い方の割合が小さくなるように変更することで前記貫徹力を高くする。
本発明に係る内燃機関は、例えば車両に搭載されたガソリンエンジン等の内燃機関であり、気筒内部の燃焼室において燃料を含む混合気が燃焼した際に発生する力を、ピストン、コネクティングロッド及びクランク軸等の物理的又は機械的な伝達手段を適宜介して駆動力として取り出すことが可能に構成されている。また本発明に係る内燃機関は、過給器及び燃料噴射手段を備えている。
過給器は、例えば排気通路に設けられたタービンにより排気熱を回収してコンプレッサを駆動する所謂ターボチャージャや、このタービンを電気モータ等により駆動する所謂MAT(Motor Assist Turbo)や、タービンハウジングに設けられたノズルベーンを開閉駆動して過給効率を可変とするVNT(Variable Nozzle Turbo)や、同様にコンプレッサハウジングに設けられたノズルベーンを開閉駆動して過給効率を可変とするVGC(Variable Geometry Compressor)等を含み得る。
燃料噴射手段は、内燃機関の燃焼に用いるガソリン、軽油及びアルコール燃料等の燃料を噴射するインジェクタ等を含んでいる。燃料噴射手段は、例えば内燃機関の気筒内部に直接燃料を噴射する直噴型のものであってもよいし、吸気ポートに燃料を噴射するポート噴射型のものであってもよい。
本発明に係る内燃機関の制御装置は、上述した内燃機関を制御する制御装置であって、例えば、一又は複数のCPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、各種プロセッサ又は各種コントローラ、或いは更にROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、バッファメモリ又はフラッシュメモリ等の各種記憶手段等を適宜に含み得る、単体の或いは複数のECU(Electronic Controlled Unit)等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る。
本発明に係る内燃機関の制御装置では、その動作時に、吸排気圧検出手段によって、内燃機関における吸気圧及び排気圧が検出される。吸排気圧検出手段は、例えば吸気圧センサ及び排気圧センサを含んで構成される。但し、ここでの吸排気圧検出手段は、吸気圧及び排気圧の具体的な数値を検出するものでなくとも、後述するように、吸気圧が排気圧より高い状態であるか否かを検出できるものであればよい。
また本発明に係る内燃機関の制御装置によれば、吸排気弁制御手段によって、内燃機関に設けられた吸気弁及び排気弁のバルブタイミングが制御される。吸排気弁制御手段は、例えば吸気弁の開弁及び閉弁時期、並びに排気弁の開弁及び閉弁時期を、内燃機関の運転状況等に応じて適宜進角又は遅角側に調整する。また本発明に係る吸排気弁制御手段は特に、吸気弁及び排気弁のバルブタイミングをオーバーラップさせることが可能とされている。即ち、吸気弁及び排気弁の両方が開弁する期間を実現することが可能とされている。
本発明では特に、上述した吸排気検出手段によって吸気圧が排気圧より高いことが検出されており、且つ、吸排気弁制御手段によって吸気弁及び排気弁のバルブタイミングをオーバーラップさせている場合に、貫徹力調整手段によって、内燃機関に噴射される燃料の貫徹力が高くなるように燃料噴射手段が制御される。燃料の貫徹力は、例えば噴射される燃料の圧力を高くする、複数の噴射方式を有する場合に燃圧の高い方式の噴射割合を高くする、或いは燃料の分割噴射回数を減らす等の方法で高くすることができる。
ここで、内燃機関における吸気圧が排気圧より高い場合に、吸気弁及び排気弁のバルブタイミングをオーバーラップさせると、スカベンジ効果によって気筒内部が掃気され、燃焼状態の悪化を防止することができる。しかしながら、このようなオーバーラップ中に燃料を噴射する場合、気筒内部から掃気すべき排気に加えて、噴射されたばかりの未燃燃料までもが排気系へ吹き抜けてしまうおそれがある。即ち、スカベンジ効果によって、気筒内部に留まるべき燃料(即ち、気筒内部で燃焼されるべき燃料)までもが直ちに排出されてしまう。
しかるに本発明では、上述したように、内燃機関における吸気圧が排気圧より高く、且つ、吸気弁及び排気弁のバルブタイミングをオーバーラップさせている場合(以下、適宜「スカベンジ中」と称する)には、燃料噴射手段から噴射される燃料の貫徹力が高くされる。よって、スカベンジ効果によって、掃気されるべきでない未燃燃料までもが排気側へ吹き抜けてしまうことを低減できる。尚、噴射される燃料の貫徹力は、不都合を生じない範囲で可能な限り高くされることが望ましいが、通常の燃料噴射時の貫徹力よりも多少なりとも高くすることができれば、上述した効果は相応に得られる。
以上説明したように、本発明に係る内燃機関の制御装置によれば、未燃燃料の排気系への吹き抜けを低減することが可能である。
本発明の内燃機関の制御装置の一態様では、前記貫徹力調整手段は、前記燃料噴射手段によって噴射される燃料の圧力を高くすることで前記貫徹力を高くする。
この態様によれば、スカベンジ中には、貫徹力調整手段によって燃料噴射手段から噴射される燃料の圧力が高くされる。即ち、スカベンジ中の燃料噴射手段からは、通常の燃料噴射時と比べて高い圧力で燃料が噴射される。このようにすれば、燃料の圧力が高くなる分だけ燃料の貫徹力が高められるため、スカベンジ効果による未燃燃料の排気系への吹き抜けを確実に低減することが可能である。
本発明の内燃機関の制御装置の他の態様では、前記燃料噴射手段は、噴射する燃料の圧力が互いに異なる第1噴射手段及び第2噴射手段を含んでおり、前記貫徹力調整手段は、前記第1噴射手段及び前記第2噴射手段の噴き分け率を、噴射する燃料の圧力が低い方の割合が小さくなるように変更することで前記貫徹力を高くする。
この態様によれば、燃料噴射手段は、噴射する燃料の圧力が互いに異なる第1噴射手段及び第2噴射手段を含んで構成される。第1噴射手段及び第2噴射手段の一例としては、例えば気筒内部に直接燃料を噴射する直噴型の噴射手段、及び吸気ポートに燃料を噴射するポート噴射型の噴射手段等が挙げられる。
本態様では特に、スカベンジ中には、貫徹力調整手段によって、第1噴射手段及び第2噴射手段の噴き分け率が噴射する燃料の圧力が低い方の割合が小さくなるように変更される。言い換えれば、噴射する燃料の圧力が高い方の割合が大きくなるように噴き分け率が変更される。例えば、上述した直噴型の噴射手段及びート噴射型の噴射手段の場合、噴射する燃料の圧力が比較的高い直噴型の噴射手段の割合は大きくされ、噴射する燃料の圧力が比較的低いポート噴射型の噴射手段の割合は小さくされる。
上述したように噴き分け率を変更すれば、燃料の圧力が低い方の割合が小さくされる分、噴射される燃料の全体としての圧力は高くなる。よって、燃料の貫徹力が高められ、スカベンジ中における未燃燃料の排気系への吹き抜けを確実に低減することが可能である。
尚、燃料噴射手段が、第1噴射手段及び第2噴射手段に加えて、第3、第4、・・・の噴射手段を含む場合であっても、燃料の圧力がより低い方の割合が小さくなるよう噴き分け率を変更すれば、上述したように噴射される燃料の全体としての圧力が高められ、燃料の貫徹力を高くすることができる。
本発明の内燃機関の制御装置の他の態様では、前記内燃機関に供給すべき燃料を複数回に分割して噴射するように前記燃料噴射手段を制御する分割噴射制御手段を備え、前記貫徹力調整手段は、前記分割噴射制御手段における分割回数を減らすことで前記貫徹力を高くする。
この態様によれば、分割噴射制御手段によって、内燃機関に供給すべき燃料を複数回に分割して噴射するように燃料噴射手段が制御される。そして特に、スカベンジ中には、貫徹力調整手段によって、分割回数を減らすように分割噴射制御手段が制御される。これにより、燃料噴射手段における1回当たりの噴射量は増加することになる。よって、噴射される燃料の圧力が高くなり、結果として燃料の貫徹力が高められる。従って、スカベンジ中における未燃燃料の排気系への吹き抜けを確実に低減することが可能である。
本発明の内燃機関の制御装置の他の態様では、前記燃料噴射手段は、前記内燃機関の吸気ポートに燃料を噴射するポート噴射手段を含んでおり、前記貫徹力調整手段は、前記ポート噴射手段による燃料の噴射タイミングを、前記吸気弁の開弁時期に近づけることで前記貫徹力を高くする。
この態様によれば、燃料噴射手段は、吸気ポートに燃料を噴射するポート噴射手段から燃料を噴射することが可能とされている。尚、燃料噴射手段は、ポート噴射手段以外の噴射手段を含んでいても構わない。
本態様では特に、スカベンジ中には、貫徹力調整手段によって、ポート噴射手段による燃料の噴射タイミングが吸気弁の開弁時期に近づけられる。よって、ポート噴射手段から噴射された燃料が閉じられた吸気弁と干渉し、貫徹力が弱まってしまうことを低減できる。従って、燃料の貫徹力を通常より高くすることができる。
尚、ポート噴射手段からの燃料噴射は、通常は(即ち、スカベンジ中以外の期間では)吸気弁の閉弁時期に行われる。よって、ポート噴射手段からの燃料噴射を全て吸気弁の開弁時期に行うようにせずとも、部分的に吸気弁の開弁時期と重複して行われるようにすれば、上述した効果は相応に得られる。
本発明の作用及び他の利得は次に説明する発明を実施するための形態から明らかにされる。
以下では、本発明の実施形態について図を参照しつつ説明する。
先ず、本実施形態に係るエンジンシステム全体の構成について、図1を参照して説明する。ここに図1は、エンジンシステムの全体構成を示す概略図である。尚、図1では、説明の便宜上、エンジンシステムを構成する各要素のうち本実施形態と関わりの深いもののみを選択的に図示しており、その他の要素については適宜図示を省略してある。
図1において、本実施形態に係るエンジンシステムは、ECU100と、コンプレッサ110と、タービン120と、エンジン200とを備えている。
ECU100は、本発明の「内燃機関の制御装置」の一例であり、例えばCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等を備え、エンジンシステムの動作全体を制御する電子制御ユニットである。ECU100は、例えばROM等に格納された制御プログラムに従って各種制御を実行可能に構成されている。ECU100の具体的な構成については、後に詳述する。
コンプレッサ110は、流入された空気を圧縮し、圧縮空気として下流に供給する。タービン120は、エンジン200から排気管215を介して供給された排気を動力として回転する。タービン110は、シャフトを介してコンプレッサ110に連結されており、相互に一体に回転することが可能に構成されている。即ち、タービン120とコンプレッサ110とによって、本発明に係る「過給器」の一例であるターボチャージャが構成される。
エンジン200は、例えば自動車等の車両の動力源たるガソリンエンジンであり、本発明に係る「内燃機関」の一例である。エンジン200は、シリンダブロック内に気筒201が4本直列に配置されてなる直列4気筒ガソリンエンジンである。
エンジン200における吸気側(即ち、気筒201より上流側)には、エアクリーナ101、吸気制御弁103、コンプレッサ110、インタークーラ113及びスロットル弁208が設けられている。
エアクリーナ101は、外部から吸入した空気を浄化し、吸気管102を介して、コンプレッサ110へと供給する。コンプレッサ110の下流に設けられたインタークーラ113は、吸入空気を冷却して空気の過給効率を上昇させることが可能に構成されている。インタークーラ113の下流には、スロットルバルブ208が設置されている。
吸気側から気筒201内部に導かれた混合気は、不図示の点火装置による点火動作によって点火せしめられ、気筒201内で爆発工程が行われる。爆発工程が行われると、燃焼済みの混合気(一部未燃状態の混合気を含む)は、爆発工程に続く排気工程において、不図示の排気ポートに排出される。排気ポートに排出された排気は、排気管215に導かれる。
エンジン200における排気側(即ち、気筒201より下流側)には、HPLEGR管117と、HPLEGR制御弁118と、タービン120と、三元触媒122と、LPLEGR管123と、LPLEGR制御弁124とが設けられている。
HPLEGR管117は、エンジン200から排出された排気管215における排気を、エンジン200の吸気側である吸気管207に還流可能である。HPLEGR管117には、HPLEGR制御弁118が設けられており、EGRガスの量が調節可能とされている。HPLEGR制御弁118は、例えば全開及び全閉の二値的な開閉状態を採り得る電磁開閉弁であり、ECU100と電気的に接続されることによって、その開閉状態がECU100により制御される構成となっている。
三元触媒122は、排気管121上に設けられており、タービン120を通過した排気中に含まれるHC(炭化水素)、CO2(二酸化炭素)及びNOx(窒素酸化物)を夫々浄化する。
LPLEGR管123は、三元触媒122の下流の排気を、コンプレッサ110の入口側である吸気管102に還流可能である。LPLEGR管123には、LPLEGR制御弁124が設けられており、EGRガスの量が調節可能とされている。LPLEGR制御弁124は、HPLEGR制御弁118と同様に、例えば全開及び全閉の二値的な開閉状態を採り得る電磁開閉弁であり、ECU100と電気的に接続されることによって、その開閉状態がECU100により制御される構成となっている。
次に、本実施形態に係るエンジン200の構成について、図2を参照してより詳細に説明する。ここに図2は、エンジンの一断面構成を例示する模式図である。尚、図2では、図1で示したエンジンシステムを構成する各部材を適宜省略して図示している。
図2において、エンジン200は、気筒201内において燃焼室に点火プラグ(符号省略)の一部が露出してなる点火装置202による点火動作を介して混合気を燃焼せしめると共に、係る燃焼による爆発力に応じて生じるピストン203の往復運動を、コネクティングロッド204を介して、クランクシャフト205の回転運動に変換することが可能に構成されている。
クランクシャフト205近傍には、クランクシャフト205の回転位置(即ち、クランク角)を検出するクランクポジションセンサ206が設置されている。このクランクポジションセンサ206は、ECU100と電気的に接続されており、ECU100では、このクランクポジションセンサ206から出力されるクランク角信号に基づいて、クランクシャフト205の角速度及びエンジン200の機関回転数Neが算出される構成となっている。
エンジン200において、外部から吸入された空気は吸気管207を通過し、吸気ポート210を介して吸気バルブ211の開弁時に気筒201内部へ導かれる。一方、吸気ポート210には、本発明に係る「ポート噴射手段」の一例たる吸気ポートインジェクタ212aの燃料噴射弁が露出しており、吸気ポート210に対し燃料を噴射することが可能な構成となっている。吸気ポートインジェクタ212から噴射された燃料は、吸気バルブ211の開弁時期に前後して吸入空気と混合され、上述した混合気となる。燃料は、図示せぬ燃料タンクに貯留されており、図示せぬフィードポンプの作用により、図示せぬデリバリパイプを介して吸気ポートインジェクタ212aに圧送供給されている。
気筒201内部と吸気管207とは、吸気バルブ210の開閉によってその連通状態が制御されている。気筒201内部で燃焼した混合気は排気となり吸気バルブ210の開閉に連動して開閉する排気バルブ213の開弁時に排気ポート214を介して排気管215に導かれる。
一方、吸気管207における、吸気ポート210の上流側には、吸入空気量を調節可能なスロットルバルブ208が配設されている。このスロットルバルブ208は、ECU100と電気的に接続されたスロットルバルブモータ209によってその駆動状態が制御される構成となっている。
尚、ECU100は、基本的には不図示のアクセルペダルの開度(即ち、上述したアクセル開度Ta)に応じたスロットル開度が得られるようにスロットルバルブモータ209を制御するが、スロットルバルブモータ209の動作制御を介してドライバの意思を介在させることなくスロットル開度を調整することも可能である。即ち、スロットルバルブ208は、一種の電子制御式スロットルバルブとして構成されている。
吸気ポート210には、吸気圧を検出する吸気圧センサ216aが設けられている。一方、排気ポート214には、排気圧を検出する排気圧センサ216bが設けられている。これら吸気圧センサ216a及び排気圧センサ216bは、夫々ECU100と電気的に接続されており、検出された吸気圧及び排気圧は、夫々ECU100により一定又は不定の検出周期で把握される構成となっている。
排気管215には、エンジン200の排気空燃比を検出することが可能に構成された空燃比センサ217が設置されている。更に、気筒201を収容するシリンダブロックに設置されたウォータージャケットには、エンジン200を冷却するために循環供給される冷却水(LLC)に係る冷却水温を検出するための水温センサ218が配設されている。これら空燃比センサ217及び水温センサ218は、夫々ECU100と電気的に接続されており、検出された空燃比及び冷却水温は、夫々ECU100により一定又は不定の検出周期で把握される構成となっている。
ここで、エンジン200には、上述の吸気ポートインジェクタ212aに加えて、直噴インジェクタ212bが備わっている。直噴インジェクタ212bは、燃焼室に噴射ノズルが露出する燃料噴射弁を有しており、高温高圧の燃焼室内に燃料たるガソリンを気化させた状態で直噴燃料として噴射することが可能である。直噴インジェクタ212bは、ECU100と電気的に接続されており、ECU100によりその駆動状態が制御される構成となっている。
尚、補足すると、この直噴インジェクタ212bからの直噴燃料を用いた燃焼制御としては、例えば、希薄空燃比下における成層燃焼制御や、吸気行程同期噴射による均質燃焼制御等がある。前者は、点火装置202の点火プラグ近傍に直噴燃料の噴霧を偏在させることにより、気筒内部を希薄空燃比とすることを可能とした制御であり、他方は、例えば予混合された燃料を理論空燃比近傍の空燃比下で燃焼させる制御である。
次に、本実施形態に係る内燃機関の制御装置であるECU100の具体的な構成について、図3を参照して説明する。ここに図3は、ECUの構成を示すブロック図である。
図3において、ECU100は、吸排気圧検出部310と、スカベンジ判定部320と、バルブタイミング制御部330と、貫徹力制御部340と、燃料噴射制御部350とを備えて構成されている。尚、貫徹力制御部340は、噴き分け率調整部341と、PFI(Port Fuel Injection)噴射時期調整部342と、DI(Direct Injection)燃圧調整部343と、DI分割回数調整部344とを備えている。
吸排気圧検出部310は、本発明に係る「吸排気圧検出手段」の一例であり、吸気圧センサ216a及び排気圧センサ216b(図2参照)を利用してエンジン200における吸気圧及び排気圧を検出する。吸排気圧検出部310において検出された吸気圧及び排気圧の値は、スカベンジ判定部320へと伝達される。
スカベンジ判定部320は、上述した吸排気圧検出部310において検出された吸気圧及び排気圧の値、並びに外部から入力される各種判定情報に基づいて、エンジン200におけるスカベンジを行うか否かを判定する。尚、ここでのスカベンジとは、吸気圧より排気圧が高い場合に、吸気バルブ210及び排気バルブ213をオーバーラップさせることで実現される、気筒201内部の掃気を意味している。スカベンジ判定部320は、スカベンジを行うか否かに応じて、バルブタイミング制御部330及び貫徹力調整部340を夫々制御する。
バルブタイミング制御部330は、本発明の「バルブタイミング制御手段」の一例であり、吸気バルブ210及び排気バルブ213のバルブタイミング(即ち、開弁時期及び閉弁時期)を制御可能に構成されている。
貫徹力調整部340は、本発明の「貫徹力調整手段」の一例であり、ポート噴射インジェクタ212a及び直噴インジェクタ212bから噴射される燃料の貫徹力を夫々調整可能に構成されている。噴き分け率調整部341は、ポート噴射インジェクタ212a及び直噴インジェクタ212bの噴き分け率(即ち、ポート噴射インジェクタ212a及び直噴インジェクタ212b各々の噴射量の割合)を調整する。PFI噴射時期調整部342は、ポート噴射インジェクタ212aの燃料噴射時期を調整する。DI燃圧調整部343は、直噴インジェクタ212bから噴射される燃料の圧力を調整する。DI分割回数調整部344は、直噴インジェクタ212bが行う分割噴射の分割回数を調整する。
燃料噴射制御部350は、貫徹力調整部140によって調整された各種条件で燃料を噴射するようポート噴射インジェクタ212a及び直噴インジェクタ212bを制御する。
上述した各部位を含んで構成されたECU100は、一体的に構成された電子制御ユニットであり、上記各部位に係る動作は、全てECU100によって実行されるように構成されている。但し、本発明に係る上記部位の物理的、機械的及び電気的な構成はこれに限定されるものではなく、例えばこれら各部位は、複数のECU、各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等として構成されていてもよい。
次に、本実施形態に係る内燃機関の制御装置であるECU100が行う処理及びその効果について、図4から図9を参照して説明する。
先ず、ECU100が行うスカベンジを行うか否かの判定処理について、図4を参照して説明する。ここに図4は、スカベンジ判定処理を示すフローチャートである。
図4において、ECU100では、スカベンジを行うか否かを判定する際に、先ず吸排気圧検出部310によってエンジン200の吸気圧及び排気圧が検出される(ステップS101)。吸気圧及び排気圧が検出されると、スカベンジ判定部320では、吸気圧が排気圧より高いか否かが判定される(ステップS102)。
ここでスカベンジは、上述したように吸気圧が排気圧より高いことで得られるスカベンジ効果を利用して、排気側に気筒201内部のガスを排出するものである。よって、吸気圧が排気圧より低い場合は、スカベンジを行うことができない。よって、吸気圧が排気圧より低いと判定された場合(ステップS102:NO)、スカベンジが開始されずに処理は終了する。
一方、吸気圧が排気圧より高いと判定された場合(ステップS102:YES)、スカベンジ判定部320では、その他のスカベンジ開始条件が満たされているか否かが判定される(ステップS103)。尚、その他の開始条件としては、例えば気筒201内部の推定排気量や、エンジン200における運転状況等が挙げられる。
スカベンジ開始条件が満たされていない場合(ステップS103:NO)、スカベンジは開始されずに処理が終了する。一方、スカベンジ開始条件が満たされている場合(ステップS103:YES)、スカベンジ判定部320では、要求スカベンジ量(即ち、スカベンジによって掃気すべき量)が決定される(ステップS104)。スカベンジ判定部320は、例えばスカベンジを行うか否かを判定する際に用いた各種パラメータに基づいて、要求スカベンジ量を決定する。
要求スカベンジ量が決定されると、バルブタイミング制御部330が制御され、要求スカベンジ量に応じて、吸気バルブ210及び排気バルブ213のバルブタイミングが夫々変更される(ステップS105)。具体的には、要求スカベンジ量が多いほど、吸気バルブ210及び排気バルブ213のバルブオーバーラップ期間が大きくされる。
次に、ECU100が行うスカベンジ中の燃料噴射制御処理について、図5を参照して説明する。ここに図5は、スカベンジ中の燃料噴射制御処理を示すフローチャートである。
図5において、スカベンジが開始されると、先ずエンジン200が高回転及び高負荷状態であるか否かが判定される(ステップS201)。エンジン200が高回転及び高負荷状態である場合には、エンジン200に対する燃料の噴射量が増加すると考えられる。よって、エンジン200が高回転及び高負荷状態であるか否かは、燃料噴射制御部350における燃料の噴射量が所定の閾値を超えているか否かで判定できる。
ここで、エンジン200が高回転及び高負荷状態である場合は、インターバル確保のため上死点付近で燃料を噴射することが求められる。この場合、仮に何らの対策も施さなければ、気筒201の内部に噴射されたばかりの未燃燃料が、スカベンジ効果によって排気側に吹き抜けてしまうおそれがある。一方で、エンジン200が高回転及び高負荷状態でない場合は、上死点付近で燃料を噴射することは求められない。よって、気筒201の内部に噴射されたばかりの未燃燃料が、スカベンジ効果によって排気側に吹き抜けてしまう可能性は低い。このため、エンジン200が高回転及び高負荷状態でないと判定された場合(ステップS201:NO)、燃料噴射制御は行われず処理が終了する。即ち、燃料噴射は、スカベンジを行わない場合と同様の条件で行われることになる。
エンジン200が高回転及び高負荷状態である場合(ステップS201:YES)、ECU100では、スカベンジ領域であるか否か(即ち、バルブタイミングがオーバーラップし、実際にスカベンジが行われているか否か)が判定される(ステップS202)。ここで、スカベンジ領域であると判定されると(ステップS202:YES)、上述した未燃燃料の排気側への吹き抜けを低減するために、以下に示す燃料噴射制御処理が実施されることになる。
燃料噴射制御処理では、先ず吸気ポートインジェクタ212aによる燃料噴射が行われているか否かが判定される(ステップS203)。即ち、直噴インジェクタ212bのみで燃料噴射が行われていないか否かが判定される。ここで、吸気ポートインジェクタ212aによる燃料噴射が行われていない場合(ステップS203:NO)、以下に示すステップS203及びステップS204に係る処理は省略される。
吸気ポートインジェクタ212aによる燃料噴射が行われている場合(ステップS203:YES)、吸気ポートインジェクタ212a及び直噴インジェクタ212bの噴き分け率が、直噴インジェクタ212bの割合が高くなるように変更される(ステップS204)。より具体的には、吸気ポートインジェクタ212aと比べて高い燃圧で燃料を噴射する直噴インジェクタ212bの割合が高くされることで、吸気ポートインジェクタ212a及び直噴インジェクタ212bから噴射される燃料全体としての燃圧が高められる。これにより、燃料の貫徹力を高めることが可能となる。
以下に、噴き分け率の具体的な変更方法について、図6を参照して説明する。ここに図6は、要求スカベンジ量と燃料噴き分け率との相関を示すグラフである。
図6において、要求スカベンジ量はΔovrptsca、スカベンジ中の調整後の噴き分け率はkpfiscaとして示されている。尚、噴き分け率kpfiscaは、例えば“1”から“0”までの値をとり、“1”の場合は全ての燃料が吸気ポートインジェクタ212aから噴射されることを示す。また“0”の場合は、全ての燃料が直噴インジェクタ212bから噴射されることを示す。即ち、噴き分け率kpfiscaの値が高いほど、吸気ポートインジェクタ212aから噴射される燃料の割合が大きくなる。
ここで、噴き分け率の基準値(即ち、燃料噴射制御を行わない場合の値)としてkpfiが与えられているとすると、スカベンジ中の調整後の噴き分け率kpfiscaは、基準値kpfiに、補正値であるΔkpfiscaを加算した値として表される。Δkpfiscaは、図中の網掛け部分に相当する値であり、例えば以下に示す数式(1)を用いて算出される。
Δkpfisca=Kkpfi×Δovrptsca ・・・(1)
尚、Kkpfiは、噴き分け率の補正係数であり、予め設定される値である。
以上のように、噴き分け率kpfiscaは、基準値であるkpfiに対して、要求スカベンジ量Δovrptscaに応じた補正量が加算されることで決定される。
図5に戻り、燃料噴射制御処理では更に、吸気ポートインジェクタ212aによる燃料の噴射時期が調整される(ステップS205)。より具体的には、吸気ポートインジェクタ212aによる燃料の噴射タイミングが吸気バルブ210の開弁時期に近づくよう遅角させられる。よって、吸気ポートインジェクタ212aから噴射された燃料が閉じられた吸気バルブ210と干渉し、貫徹力が弱まってしまうことを低減できる。
以下に、吸気ポートインジェクタ212aによる燃料の噴射時期の具体的な変更方法について、図7を参照して説明する。ここに図7は、要求スカベンジ量と吸気ポートへの燃料噴射時期との相関を示すグラフである。
図7において、要求スカベンジ量はΔovrptsca、スカベンジ中の調整後の吸気ポートインジェクタ212aによる燃料噴射時期はainjpscaとして示されている。ここで、噴射時期の基準値(即ち、燃料噴射制御を行わない場合の値)としてainjpが与えられているとすると、スカベンジ中の調整後の燃料噴射時期ainjpscaは、基準値ainjpに、補正値であるΔainjpscaを加算した値として表される。Δainjpscaは、図中の網掛け部分に相当する値であり、例えば以下に示す数式(2)を用いて算出される。
Δainjpsca=Kap×Δovrptsca ・・・(2)
尚、Kapは、噴射時期の補正係数であり、予め設定される値である。
以上のように、吸気ポートインジェクタ212aによる燃料噴射時期ainjpscaは、基準値であるainjpに対して、要求スカベンジ量Δovrptscaに応じた補正量が加算されることで決定される。
図5に戻り、燃料噴射制御処理では更に、直噴インジェクタ212bによる燃料の圧力が調整される(ステップS206)。このように噴射される燃料の圧力を高めれば、確実に燃料の貫徹力を高めることができる。尚、直噴インジェクタ212bの燃圧に加えて又は代えて、吸気ポートインジェクタ212bを高めるようにしてもよい。
以下に、直噴インジェクタ212bの燃圧の具体的な変更方法について、図8を参照して説明する。ここに図8は、要求スカベンジ量と直噴燃料の燃圧との相関を示すグラフである。
図8において、要求スカベンジ量はΔovrptsca、スカベンジ中の調整後の燃圧はeprscaとして示されている。ここで、燃圧の基準値(即ち、燃料噴射制御を行わない場合の値)としてeprreqが与えられているとすると、スカベンジ中の調整後の燃圧eprscaは、基準値eprreqに、補正値であるΔeprscaを加算した値として表される。Δeprscaは、図中の網掛け部分に相当する値であり、例えば以下に示す数式(3)を用いて算出される。
Δeprsca=Kp×Δovrptsca ・・・(3)
尚、Kpは、燃圧の補正係数であり、予め設定される値である。
以上のように直噴インジェクタ212bによる燃料の圧力eprscaは、基準値であるeprreqに対して、要求スカベンジ量Δovrptscaに応じた補正量が加算されることで決定される。
図5に戻り、燃料噴射制御処理では更に、直噴インジェクタ212bによる分割噴射の分割回数が調整される(ステップS207)。直噴インジェクタ212bは、エンジン200に供給すべき燃料を複数回に分割して噴射するように制御されている。ここで、分割噴射における分割回数を減らすようにすれば、直噴インジェクタ212bにおける1回当たりの噴射量は増加することになる。よって、噴射される燃料の圧力が高くなり、結果として燃料の貫徹力が高められる。
以下に、直噴インジェクタ212bの分割噴射回数の具体的な変更方法について、図9を参照して説明する。ここに図9は、要求スカベンジ量と分割噴射の回数との相関を示すグラフである。
図9において、要求スカベンジ量はΔovrptsca、スカベンジ中の調整後の分割噴射回数はNmultiscaとして示されている。ここで、分割噴射回数の基準値(即ち、燃料噴射制御を行わない場合の値)としてNmultiが与えられているとすると、スカベンジ中の調整後の分割噴射回数Nmultiscaは、基準値Nmultiに、補正値であるΔNmultiscaを加算した値として表される。ΔNmultiscaは、図中の網掛け部分に相当する値であり、例えば以下に示す数式(4)を用いて算出される。
ΔNmultisca=Kn×Δovrptsca ・・・(4)
尚、Knは、分割噴射回数の補正係数であり、予め設定される値である。
以上のように直噴インジェクタ212bによる分割噴射回数Nmultiscaは、基準値であるNmultiに対して、要求スカベンジ量Δovrptscaに応じた補正量が加算されることで決定される。
燃料噴射制御処理では、上述したような燃料の貫徹力を高めるための各種処理が実行される。尚、上述したステップS204〜S207の処理は常に全てが行われる必要はなく、少なくとも1つの処理が行われるだけでも効果を発揮することができる。
以上説明したように、本実施形態に係る内燃機関の制御装置によれば、スカベンジ中の燃料の貫徹力が高められる。従って、未燃燃料の排気系への吹き抜け好適に低減することが可能である。
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う内燃機関の制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。