ところで、近年、デジタルデータからの画像形成技術が普及したことに伴い、特に印刷分野では、デスクトップパブリッシング(DTP)が普及しつつある。DTPにより印刷を行う場合であっても、実際の印刷物との光沢感や色感を確認するために、事前に色校正用プルーフを作製することが行われている。このプルーフの出力に、インクジェット記録方式を適用することが行われており、DTPにおいては印刷物の色再現性の高さ、色の安定性の高さが求められることから、記録媒体として、通常、インクジェット記録用の専用紙が使用されている。
インクジェット記録用の専用紙であるプルーフ用紙は、印刷本紙に実際に印刷した出力物と光沢感や色感が同じになるように作製されている。このように、印刷本紙の種類に応じて専用紙の材質が適宜調整されているが、多種多様の印刷本紙に全て対応した専用紙を作製するのは製造コストの上昇を招く。そこで、色校正用途においては、専用紙よりも印刷本紙にインクジェット記録を行いたいとの技術的観点における要望がある。また、専用紙を用いずに、直接印刷本紙にインクジェット記録を行ったものを最終校正見本とできれば、校正にかかるコストを大幅に低減できるとの経済的観点における要望がある。また、印刷分野で広く使用されている、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂やポリエステル樹脂に無機フィラー等を混合してフィルム化した合成紙は、リサイクル性に優れ、環境に優しい材料として近年注目されている。このような合成紙に記録を行いたいとの環境的観点における要望がある。
印刷本紙は、その表面に油性インクを受容するための塗工層が設けられた塗工紙であるが、吸水性が乏しいという特徴を有する。そのため、インクジェット記録に一般的に用いられている水性の顔料インクを使用すると、記録媒体(印刷本紙)へのインクの浸透性が低く、画像に滲みや凝集斑が生じる場合がある。
上記の問題に対し、例えば、特開2005−194500号公報(特許文献1)には、界面活性剤としてポリシロキサン化合物を用い、溶解助剤として1,2−ヘキサンジオール等のアルカンジオールを添加することにより、滲みが改善され、かつ専用紙に対する光沢性にも優れる顔料系インクが開示されている。また、特開2003−213179号公報(特許文献2)、特開2003−253167号公報(特許文献3)、または特開2006−249429号公報(特許文献4)には、グリセリンや1,3−ブタンジオール等のジオールやペンタントリオール等のトリオールアルコール溶剤をインク中に添加することにより、インクの記録媒体への浸透性を制御し、高品質な画像が得られることが提案されている。しかしながら、未だ、更なる高品質な画像が得られるインク組成物は希求されているといえる。
一方、特開2005−226073号公報(特許文献5)には、高射出頻度時に安定であり、かつ印刷媒体に付着した際に短い乾燥時間を示す、1,2−アルキルジオールとヒダントイン誘導体とを含むインク組成物が開示されているが、本発明のインク組成物とはまったく構成も効果も異なるインクである。
本発明者らは、今般、インク組成物に炭素数7〜10の難水溶性のアルカンジオールと、シクロデキストリン類と、ヒダントインまたはその誘導体とを含むことにより、各種記録媒体、とりわけ合成紙や印刷本紙のような非吸水性または低吸水性記録媒体においてもブリーディングやビーディングが抑制された高品質な画像が実現でき、インクの保存安定性や、目詰まり回復性や、インクの再溶解性にも優れるとの知見を得た。
したがって、本発明の目的は、各種記録媒体、とりわけ合成紙や印刷本紙のような非吸水性または低吸水性記録媒体においてもブリーディングやビーディングが抑制された高品質な画像が実現でき、インクの保存安定性や、目詰まり回復性や、インクの再溶解性にも優れるインク組成物を提供することにある。
そして、本発明によるインク組成物は、炭素数7〜10の難水溶性のアルカンジオールと、シクロデキストリン類と、ヒダントインまたはその誘導体とを含んでなるインク組成物である。
本発明のインク組成物によれば、各種記録媒体、とりわけ合成紙や印刷本紙のような非吸水性または低吸水性記録媒体においてもブリーディングやビーディングが抑制された高品質な画像が実現でき、インクの保存安定性や、目詰まり回復性や、インクの再溶解性にも優れるインク組成物を提供できる。
発明の具体的説明
<定義>
本明細書において、アルカンジオールの炭化水素基部分は、直鎖または分枝鎖のいずれであってもよい。
また、本明細書において、「難水溶性」とは、20℃の水への溶解度(水100gに対する溶質の量)が、1.0g未満であることを意味する。また、本明細書において「混和性」とは、20℃の水への溶解度(水100gに対する溶質の量)が、10.0gの場合に、凝集または相分離することなく、均一に分散または溶解する性質を意味する。
また、本明細書において、「非吸水性または低吸水性の記録媒体」とは、水性インクの受容層を備えていない、あるいは、水性インクの受容層が乏しい記録媒体をいう。より定量的には、非吸水性または低吸水性の記録媒体とは、記録面が、ブリストー(Bristow)法において接触開始から30msec1/2までの水吸収量が10mL/m2以下である記録媒体を示す。このブリストー法は、短時間での液体吸収量の測定方法として最も普及している方法であり、日本紙パルプ技術協会(JAPAN TAPPI)でも採用されている。試験方法の詳細は「JAPAN TAPPI紙パルプ試験方法2000年版」の規格No.51「紙及び板紙−液体吸収性試験方法−ブリストー法」に述べられている。
<インク組成物>
本発明によるインク組成物は、炭素数7〜10の難水溶性のアルカンジオールと、シクロデキストリン類と、ヒダントインまたはその誘導体とを含んでなる。各種記録媒体、とりわけ非吸水性または低吸水性の記録媒体においても、炭素数7〜10の難水溶性のアルカンジオールと、シクロデキストリン類と、ヒダントインまたはその誘導体とを含むインク組成物を用いることにより、高精細で高品質な画像を実現することができる。
なお、本明細書中、ビーディングとは、単色で印刷した際(例えば6インチ四方に単色(結果として、印刷される色が単一であることを意味し、その色を実現するインク組成物数は複数であってよい)で印刷した際)に発生する、局所的な同系色の濃度斑のことを意味し、記録媒体表面がインクによって被覆されない部分が残存することを意味するものではない。また、色材のブリーディングとは、各単色を隣接面として印刷した際(例えば3インチ四方に各単色を隣接面として印刷した際)に、境界線近傍において、混合色が発生してしまう現象を意味する。また、溶剤のブリーディングとは、各単色を隣接面として印刷した際(例えば3インチ四方に各単色を隣接面として印刷した際)に、境界線近傍において、溶剤の滲み出しによる色材の移動等により被覆状態が変化し、同系色の濃度斑が発生してしまう現象を意味する。
また、本発明においては、上記の記録媒体において、米坪が73.3〜〜209.2g/m2の印刷本紙等を用いた場合、とりわけ、米坪が73.3〜104.7g/m2の薄い印刷本紙を用いた場合であっても、印字面が内側に反り返る、いわゆるカールの発生を抑制できる。
上記のように、炭素数7〜10の難水溶性のアルカンジオールと、シクロデキストリン類と、ヒダントインまたはその誘導体とを含有することにより、ブリーディングやビーディングが抑制された高品質な画像が実現できる理由は定かではないが、以下のように考えられる。
記録媒体に記録する場合に発生するインクのビーディングは、例えば、24mN/mよりも高い表面張力を有するインクを用いた場合に、記録媒体に付着したインク滴が流動してしまうことが原因と考えられる。即ち、記録媒体に対するインク滴の接触角が高くなり、インク滴を弾いてしまうことに起因すると考えられる。したがって、ビーディングを抑制するにはインクの表面張力を小さくする必要がある。しかしながら、非吸水性または低吸水性の記録媒体に記録する場合には、インクに含有される水が吸収され難いために、例えば、20〜24mN/mの表面張力を有するインクであってもインク滴が流動してしまうことがある。
なお、本明細書における表面張力は、Wilhelmy法を用いて求めた値を意味する。Wilhelmy法による表面張力は、例えば、全自動表面張力計CBVP−Z(協和界面科学社製)によって測定が可能である。
よって、非吸水性または低吸水性の記録媒体において、インクのビーディングを抑制するには、インクの表面張力を小さくするだけでなく、記録媒体に付着した後の流動性を抑制することが好ましいと考えられる。
記録媒体にインクが付着すると、記録媒体に対してインクが濡れ広がった後に記録媒体へ浸透することが知られている。そうすると、記録媒体に記録する場合に発生するインクのブリーディングは、例えば、24mN/mよりも高い表面張力を有するインクを用いた場合に、記録媒体に付着したインク滴が流動してしまうことが原因と考えられる。即ち、記録媒体に対するインクの濡れ性が低いために、インクに含有される溶媒が記録媒体へ直ちに浸透しないことに起因すると考えられる。したがって、ブリーディングを抑制するにはインクの表面張力を小さくする必要がある。しかしながら、非吸水性または低吸水性の記録媒体に記録する場合には、インクに含有される水が浸透し難いために、例えば、20〜24mN/mの表面張力を有するインクであってもインク滴が流動してしまうことがある。
よって、非吸水性または低吸水性の記録媒体において、インクのブリーディングを抑制するには、インクの表面張力を小さくするだけでなく、記録媒体に付着してからのインクの流動性を抑制することが好ましいと考えられる。
本発明によるインク組成物にあっては、表面張力が低く、かつ記録媒体に付着した後のインク滴の流動性が抑制されたインクが実現できたものと考えられ、その結果、ブリーディング、ビーディングが効果的に抑制されたものと考えられる。
<難水溶性のアルカンジオール>
本発明のインク組成物には、炭素数7〜10の難水溶性のアルカンジオールが含まれる(以下、炭素数7〜10の難水溶性のアルカンジオールを単に「難水溶性のアルカンジオール」という場合もある)。
本発明の好ましい態様によれば、炭素数7〜10の難水溶性のアルカンジオールは、片末端アルカンジオールである。本発明の好ましい態様によれば、炭素数7〜10の難水溶性のアルカンジオールは、難水溶性の1,2−アルカンジオールであり、ビーディングをより効果的に抑制できる。難水溶性の1,2−アルカンジオールとしては、例えば、1,2−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオール、5−メチル−1,2−ヘキサンジオール、4−メチル−1,2−ヘキサンジオール、または4,4−ジメチル−1,2−ペンタンジオールが挙げられる。これらの中でも、1,2−オクタンジオールがより好ましい。
本発明の好ましい態様によれば、炭素数7〜10の難水溶性のアルカンジオールの含有量は、インクのブリーディングおよびビーディングインクを効率良く抑制出来る限りにおいて、高品質な画像を実現できる限りにおいて適宜決定されてよいが、組成物全体に対し、1.0〜4.0質量%が好ましく、より好ましくは1.5〜3.0質量%である。炭素数7〜10の難水溶性のアルカンジオールの量が上記範囲にあることで、とりわけ下限を下回らずにあることで、インクのブリーディングおよびビーディングを抑制し、高品質な画像を実現することができる。また、炭素数7〜10の難水溶性のアルカンジオールの量が上記範囲にあることで、とりわけ上限を超えずにあることでインクの初期粘度が高くなりすぎず、通常のインク保存状態において、油層の分離を有効に防止でき、インクの保存性の観点から好ましい。
本発明の好ましい態様によれば、前記難水溶性のアルカンジオールが、1,2−オクタンジオールであって、かつ前記難水溶性のアルカンジオールが、インク組成物に対して、
1.5〜3.0質量%含有するインク組成物である。前記難水溶性のアルカンジオールの含有量が、前記下限を下回らないことにより、インクのブリーディングとビーディングインクとを抑制することができ、前記上限を超えないことにより、インクの粘度を低く抑えることができる。
<シクロデキストリン類>
本発明によるインク組成物は、シクロデキストリン類を含んでなるものである。本発明のシクロデキストリン類とは、環状オリゴ糖であり、好ましくは、包接能を有する化合物の一種である。シクロデキストリン類はグルコース分子がα−1,4グルコシド結合で結合することにより基本骨格を形成しており、グルコース分子の個数に応じて、α−シクロデキストリン(6個)、β−シクロデキストリン(7個)、γ−シクロデキストリン(8個)、δ−シクロデキストリン(9個)と呼ばれる(括弧内はそれぞれグルコース分子の個数を表す)。
シクロデキストリン類は、一般に、その環状構造の外部が親水性を示し、その環状構造の内部が疎水性(親油性)を示すという特異的な構造を有している。上記の特異的な構造に由来して、シクロデキストリン類は環状構造の内径より小さい親油性分子を包みこむように取り込み、複合化することができる場合が多い。また前記環状構造の内径より大きい分子であっても、環状構造の内径より小さい親油性部分があれば、その部分がシクロデキストリン類内部に取り込まれ、複合化する場合が多い。なお、シクロデキストリン類の内径は、例えば、α−シクロデキストリンが4.7〜5.3Å、β−シクロデキストリンが6.0〜6.5Å、γ−シクロデキストリンが7.5〜8.3Åである。
本発明で用いられるシクロデキストリン類としては、特に限定されないが、例えば、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、およびδ−シクロデキストリンからなる群から選択される一種又は二種以上を用いることが可能であり、一つ以上の置換基を有することが好ましい。シクロデキストリン類が有する置換基の例としては、アシル基、ヒドロキシルアルキル基、アルキル基、グルコシル基、アミノ基、およびカルボキシメチル基が挙げられる。また、エピクロルヒドリンや多価グリシジルエーテルなどの架橋剤にて架橋したシクロデキストリンポリマー、グルコース、マルノースなどの分岐側鎖を有する分岐シクロデキストリン、高度分岐環状デキストリン等であってもよい。
上述のシクロデキストリン類の一種又は二種以上を用いることが可能である。好ましい置換基としては、アルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。特に、水に対する高い溶解性(25℃で30質量%以上)および難水溶性のアルカンジオールとの高い混和性の観点から、メチル−β−シクロデキストリンが一層好ましい。
シクロデキストリン類の製造方法としては、特に限定されないが、製造の容易さ、コスト、得られるシクロデキストリンの構造などの観点から適宜選択されるものである。置換基を有さないシクロデキストリン類の製造方法としては、例えば、デンプンにBacillus macerans由来の酵素を作用させる方法を用いることが可能である。置換基を有するシクロデキストリン類を製造する方法としては、例えば、シクロデキストリン類の水酸基の一部が脱プロトン化されているシクロデキストリンまたはその誘導体を反応中間体として反応させる製造方法を用いることが可能である。なお、シクロデキストリン類は市販品を用いても良く、例えば、CAVASOLやCAVAWAX(いずれもワッカー社製)が挙げられる。
本発明の好ましい態様によれば、シクロデキストリン類は、上記の効果を奏する限りにおいて、適宜決定されてよいが、インク組成物全体に対し、4.5〜18.0質量%含有されていることが好ましく、さらに好ましくは、4.5〜9.0質量%である。シクロデキストリン類の量を上記範囲とすることで、とりわけ下限を下回らずにあることで、フィルムへの定着性の観点から好ましい。また、シクロデキストリン類の量を上記範囲とすることで、とりわけ上限を超えずにあることで、インクの粘度を低く抑えることができ、また、低温環境下でのシクロデキストリン類の析出を抑えることができるので、好ましい。さらに好ましくは、シクロデキストリン類が、メチル化βシクロデキストリンであって、かつシクロデキストリン類が、インク組成物に対して、4.5〜9.0質量%含有する、インク組成物である。
また、本発明の好ましい態様によれば、前記難水溶性のアルカンジオールと、前記シクロデキストリン類との含有量比は、特に限定されないが、1:3〜1:6であることが好ましい。上記の範囲とすることにより、インクのベタツキが低減され、インクの保存安定性が向上し、さらにインクの再溶解性が向上する。
<ヒダントインおよびヒダントイン誘導体>
本発明によるインク組成物は、ヒダントインまたはその誘導体を含んでなるものである。本発明のインク組成物に用いられるヒダントイン誘導体は20℃/60%RHの環境下で24時間静置しても固体であることが好ましく、また水の沸点よりも融点が高いことが好ましい。さらに、ヒダントイン誘導体は20℃の水100gに対する溶解度が10.0質量%以上30質量%未満であることが好ましい。
ヒダントインまたはその誘導体としては、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、例えば、ヒダントイン、アラントイン、5−ヒダントイン酢酸、1−メチルヒダントイン、1−ヒドロキシメチルヒダントイン、1−エチルヒダントイン、1−プロピルヒダントイン、1−イソプロピルヒダントイン、1−ブチルヒダントイン、3−メチルヒダントイン、3−エチルヒダントイン、3−プロピルヒダントイン、3−ブチルヒダントイン、5−メチルヒダントイン、5−エチルヒダントイン、5−プロピルヒダントイン、5−ブチルヒダントイン、1,3−ジメチルヒダントイン、1,5−ジメチルヒダントイン、3,5−ジメチルヒダントイン、1,3−ジエチルヒダントイン、1,5−ジエチルヒダントイン、3,5−ジエチルヒダントイン、5,5−ジメチルヒダントイン、1−ヒドロキシメチル−5,5−ジメチルヒダントイン、1,3−ビス(ヒドロキシメチル)−5,5−ジメチルヒダントイン、1,3−ビス(2−ヒドロキシエチル)−5,5−ジメチルヒダントイン、1,3、5−トリメチルヒダントイン、1,3,5−トリエチルヒダントイン、1−アリルヒダントイン、1−フェニルヒダントイン、3−フェニルヒダントイン、5−フェニルヒダントイン、1−(4−メチルフェニル)ヒダントイン、3−(4−メチルフェニル)ヒダントイン、1−(1−ナフチル)ヒダントイン、1−(2−ナフチル)ヒダントイン、3−(1−ナフチル)ヒダントイン、3−(2−ナフチル)ヒダントイン、1−ベンジルヒダントイン、3−ベンジルヒダントイン、5−ベンジルヒダントインのベンジルヒダントインが挙げられる。特に、5,5−ジメチルヒダントイン、1−ヒドロキシメチル−5,5−ジメチルヒダントインが、水溶性と融点との観点から好ましい。
また、ヒダントインまたはその誘導体を含むインク組成物は、ヘッドをキャッピングした環境下での目詰まり回復性および高温低湿環境下での目詰まり回復性の両方を向上させる。理由は定かではないが、ヒダントインまたはその誘導体は、結晶性が高く、かつインクに含まれる樹脂の溶解性に優れるので、樹脂の乾燥造膜の際に、取り込まれることなく、局所的に乾燥固化することができると考えられる。インクに含まれる樹脂が乾燥造膜した後であっても、この乾燥物に、再びインクが付着すると、局所的に乾燥固化したヒダントインまたはその誘導体が、核となって再溶解し、目詰まりを解消していると考えられる。
融点が高く、水溶性の乏しい前記ヒダントインまたはその誘導体は、水の蒸発や、樹脂の乾燥造膜(MFT)よりも先に、固形化するので、局所的に乾燥固化し易いので、より好ましい。特に、目詰まり回復性や再溶解性との観点から、5,5−ジメチルヒダントイン、1−ヒドロキシメチル−5,5−ジメチルヒダントインが好ましい。
本発明の好ましい態様によれば、前記ヒダントインまたはその誘導体は、上記の効果を奏する限りにおいて、適宜決定されてよいが、インク組成物全体に対し、4.5〜9.0質量%含有されていることが好ましい。融点の高い前記ヒダントイン類の量を上記範囲とすることで、とりわけ下限を下回らずにあることで、ヘッドをキャッピングした環境下での目詰まり回復性および高温低湿環境下での目詰まり回復性の両方を向上させることから好ましい。また、前記ヒダントインまたはその誘導体の量を上記範囲とすることで、とりわけ上限を超えずにあることで、光沢の低下を抑制できるので、好ましい。
本発明のさらに好ましい態様によれば、前記難水溶性のアルカンジオールと、前記ヒダントインまたはその誘導体との含有量比は、特に限定されないが、1:3〜1:6であることが好ましい。この含有量比とすることにより、開放系目詰まり回復性と密閉系目詰まり回復性を向上させつつ、ビーディングとブリーディングを確保することができる。
<固形湿潤剤>
本発明によるインク組成物は、好ましくは、20℃、相対湿度が60%において、すなわち20℃、相対湿度が60%の環境下で静置しても固体である固形湿潤剤(以下、単に「固形湿潤剤」ということもある)を含んでいてもよい。この固形湿潤剤に含まれるものでとして、第1の糖質および第2の糖質が挙げられる。また、固形湿潤剤は、第1の糖質および第2の糖質からなる群から選ばれる一種以上を含んでなることが好ましい。第1の糖質および第2の糖質について、以下に詳述する。
第1の糖質
本発明に好適に使用できる第1の糖質は、糖であり、20℃/60%RHの環境下で24時間静置しても固体であることが好ましい。また、20℃/60%RHから20℃/80%RHへの吸湿率が0質量%以上10質量%未満であることが好ましい。また、第1の糖質は20℃の水100gに対する溶解度が30質量%以上であることが好ましい。
本明細書において、例えば、「A℃/X%RHからB℃/Y%へのRH吸湿率」とは、下記式で示される値である。
(吸湿率(質量%))=100×(MB−Y − MA−X)/MA−X
MA−Xは、A℃、相対湿度X%の環境下で24時間静置させた後の質量である。
MB−Yは、B℃、相対湿度Y%の環境下で24時間静置させた後の質量である。
前記第1の糖質は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、トレハロース、イソトレハロース、ネオトレハロース、およびマンニトールからなる群から選択される一種または二種以上が好ましい。また、トレハロース、イソトレハロース、およびネオトレハロースからなる群から選択される糖質を含む三糖類以上であってもよく、例えば、トレハロースと、マルトースとからなるマルトシルトレハロースが挙げられる。これらの中でも、第1の糖質としては、トレハロースがより好ましい。
トレハロースは、グルコースの1位同士がグルコシド結合をした非還元性の二糖類である。非還元糖であるため、メイラード反応による褐色変化が起きないことから、インクの保存安定性の観点から好ましい。また、水への溶解度および保水力が高く、吸湿性が極めて低い特性を有する。具体的には、高純度のトレハロース無水物は、水への溶解度(69g/100g(20℃))は非常に高いが、湿度が95%以下では吸湿性を示さない。したがって、トレハロースが水に接触した場合は、水を吸収しゲルとなるが、通常の環境(20℃、湿度が45%程度)では吸湿性を示さないために安定に存在することができる。
また、イソトレハロースおよびネオトレハロースは、グルコシド結合をした非還元性の二糖類である。非還元糖であるため、メイラード反応による褐色変化が起きないことから、インクの保存安定性の観点から好ましい。
第1の糖質の市販品としては、例えば、トレハロースの市販品であるトレハ微粉(株式会社林原商事社製)、マンニトールの市販品であるD−マンニトール(花王ケミカル株式会社製)等が挙げられる。
さらに、第1の糖質は、発酵法、加水分解法、糖転移反応法、糖縮合反応法、エピメラーゼ(異性化)法、重合法、化学架橋法などの定法により、澱粉糖から製造することが可能である。また、固形化も定法により製造可能である。つまり、糖質を含む溶液であるマスキットを噴霧乾燥する方法や、マスキットの水分を自然乾燥することでブロック状に晶出固化させ粉砕する方法、溶融状態のマスキットから種結晶を用いて再結晶化する方法等を用いる事が可能である。なお、使用するマスキットは、上述の低吸湿性が得られる第1の糖質を得られる糖質であれば良く、含有する糖質の種類が2種類以上であってもよい。
このような第1の糖質を含むインク組成物を用いた場合は、特に高速印刷をした場合に発生する流動斑に起因したビーディングを抑制できる。理由は定かではないが、例えば、以下のように考えられる。記録媒体上に付着されたインク組成物に含まれる第1の糖質は、水に対する高い溶解性と高い保水力を有するので、付着後にインク組成物に含まれる水を取りこんでゲル化(または固化)することができる。そして、ゲル化(または固化)したインク滴は流動性(流動斑)が抑制されると考えられる。また、ファントホッフの法則に従い、水溶性の糖を多く含ませることにより、浸透圧が高められ、浸透速度が向上したためと考えられる。上述の推考によらず、ビーディングが抑制されることで高速印刷が可能となり、また、記録媒体に付着させるインクのduty制限値が増加するために印刷物の色再現領域が向上する。
また、このような第1の糖質を含むインク組成物を用いて得られた記録物は、20℃、湿度が60%程度の多湿環境における耐結露性を向上できる。
また、このような第1の糖質を含むインク組成物は、特にヘッドをキャッピングした環境下(密閉系)での目詰まり回復性を向上できる。理由は定かではないが、吸湿性が低いので、キャップ内に滞留しているインク組成物が、ヘッドに充填されているインク組成物から水分を奪うことがないので、キャップで密閉されている状態での目詰まり回復性に優れると考えられる。
さらに、このような第1の糖質を含むインク組成物は、氷結晶の成長を防止することから、インクの低温保存安定性が向上する。
本発明の好ましい態様によれば、前記第1の糖質は、上記の効果を奏する限りにおいて、適宜決定されてよいが、インク組成物全体に対し、3.0〜9.0質量%含有されていることが好ましい。結晶性糖質の量を上記範囲とすることで、とりわけ下限を下回らずにあることで、上述の環境下での目詰まり回復性を向上させることから好ましく、また光沢の観点からも好ましい。また、第1の糖質の量を上記範囲とすることで、とりわけ上限を超えずにあることで、インクの初期粘度が高くなりすぎず、凍結温度を低下させるので、インクの低温保存性の観点から好ましい。さらに、米坪が73.3g/m2以下の薄い印刷本紙やPPC用紙(普通紙)を用いた場合であっても、印字面が内側に反り返る、いわゆるカールの発生を著しく抑制できる。理由は定かではないが、以下のように考えられる。セルロースは単糖類が連結(重合)した長い鎖状の糖類である。カールは、セルロース同士の水素結合が水分子によって切断され、水が蒸発乾燥する際に、切断されたセルロース同士の水素結合部位とは異なる部位において、セルロース同士の水素結合が再生されることによって生じる。よって、カールを抑制するには、水が蒸発乾燥した後で、可及的迅速にセルロース同士の水素結合の再生を阻害すればよい。この阻害剤として効果的な物質は、セルロースと類似の分子構造を有する結晶性糖質であり、さらに好ましくは乾燥性や再結晶性に優れるトレハロース、イソトレハロース、ネオトレハロースであると考えられる。
第2の糖質
本発明に好適に使用できる第2の糖質は、糖であり、20℃/60%RHの環境下で24時間静置しても固体であることが好ましい。また、20℃/60%RHから20℃/80%RHへの吸湿率が10質量%以上30質量%以下であることが好ましい。また、第2の糖質は20℃の水100gに対する溶解度が30質量%以上であることが好ましい。
前記第2の糖質は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、α-1,4結合のみの直鎖型マルトオリゴ糖ではマルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘブタオース、マルトオクタオース、マルトノナオース、マルトデカオースなどがある。アミロペクチンの分岐部分から得られる分子内にα-1,6結合をもつ分岐型マルトオリゴ糖としては、イソマルトース、パノース(グルコシルーマルトース)、グルコシルーマルトトリオースなどがある。また、マルチトール、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、およびスクロースなどがある。これらのなかでも、マルトトリオース、マルトテトラオース、およびマルトペンタオースからなる群から選択される一種または二種以上が、吸湿性に優れることから好ましく、マルトトリオースが特に好ましい。また、これらの還元糖であってもよい。
第2の糖質の市販品としては、例えば、マルトトリオースの市販品であるオリゴトース(三和澱粉工業株式会社製)、マルトースの市販品であるサンマルト(株式会社林原商事社製)、マルチトールの市販品としてはマビット(株式会社林原商事社製)や結晶マビット(株式会社林原商事社製)が挙げられ、結晶状のエリスリトールの市販品としては、日研化学株式会社製、三菱化学フーズ株式会社製、セレスター社製、カーギル社製のものが入手可能である。
なお、第2の糖質は上述の第1の糖質と同様に、定法により製造することが可能である。
また、このような第2の糖質を含むインク組成物は、低湿環境下(開放系)での目詰まり回復性を向上できる。理由は定かではないが、吸湿性が高いので、低湿環境下であっても大気中の水分を取り込むことにより目詰まり回復性に優れると考えられる。したがって、例えばヘッドのキャッピングを行わなくても長期間に渡って安定に記録することが可能となる。
本発明の好ましい態様によれば、前記第2の糖質は、上記の効果を奏する限りにおいて、適宜決定されてよいが、インク組成物全体に対し、3.0〜9.0質量%含有されていることが好ましい。吸湿性の高い第2の糖質の量を上記範囲とすることで、とりわけ下限を下回らずにあることで、高温高湿開放環境下での目詰まり回復性を向上させることから好ましく、また光沢の観点からも好ましい。また、第2の糖質の量を上記範囲とすることで、とりわけ上限を超えずにあることで、インクの膜のTgが高くなりすぎず、柔軟性を付与できるので、インクの定着性の観点から好ましい。さらに、乾燥性や再結晶性が優れる第1の糖質が、プリンターの廃液部分に堆積することを抑制できるので、好ましい。
本発明の好ましい態様によれば、前記固形湿潤剤が、インク組成物に対して、4.5〜13.5質量%含有することが好ましい。
また、本発明の好ましい別の態様によれば、前記第1および第2の糖質の合計含有量はインク組成物全量に対して6.0〜18.0質量%含有されていることが好ましい。上記の範囲とすることで目詰まり回復性の向上が得られるため好ましい。また、前記第1の糖質と、第2の糖質との含有量比は、特に限定されないが、1:5〜5:1であることが好ましい。上記の範囲とすることにより、密閉系の目詰まり回復性の向上と、インク廃液の流動性を確保できることから好ましい。
本発明の好ましい態様によれば、前記固形湿潤剤が、第1の糖質および第2の糖質からなる群から選択される一種または二種を含んでなり、かつ、前記第1の糖質が、トレハロース、イソトレハロース、ネオトレハロース、およびマンニトールからなる群から選択される一種または二種であり、前記第2の糖質が、マルトトリオース、マルトテトラオース、およびマルトペンタオースからなる群から選択される一種または二種以上であることが好ましい。インク組成物中に固形湿潤剤として、吸湿性が低い第1の糖質および吸湿性が高い第2の糖質の両方を含むことにより、吸湿性が高い第2の糖質を含む場合であっても密閉系での目詰まり回復性に優れ、吸湿性が低い第1の糖質を含む場合であっても開放系での目詰まり回復性に優れる。すなわち、本発明のインク組成物に、第1の糖質と、第2の糖質との両方を含むことにより、開放系の目詰まり回復性および密閉系の目詰まり回復性のいずれの効果も損なわずに、両方の効果を両立するものであり、この効果は今般初めて見出されたものである。
本発明のさらに好ましい態様によれば、前記難水溶性のアルカンジオールと、前記固形湿潤剤との含有量比は、特に限定されないが、1:3〜1:9であることが好ましい。この含有量比とすることにより、開放系目詰まり回復性と密閉系目詰まり回復性を確保しつつ、ビーディングとブリーディングを向上させることができる。
<水溶性のアルカンジオール>
本発明の好ましい態様によれば、本発明によるインク組成物は、炭素数7〜10の難水溶性のアルカンジオールと、シクロデキストリン類と、ヒダントインまたはその誘導体とに加えて、水溶性のアルカンジオールを含んでなることができる。これにより、インク組成物が含有している固形分以外の物質、すなわち溶剤を含む水溶液のブリーディング発生がさらに抑制できる点で有利である。
本発明の好ましい態様によれば、水溶性のアルカンジオールは、両末端または片末端アルカンジオールであり、分岐鎖を有するものがより好ましい。また、本発明の水溶性のアルカンジオールは炭素数3以上のアルカンジオールが好ましく、より好ましくは炭素数3〜6のアルカンジオールである。本発明によるインク組成物に含まれる水溶性のアルカンジオールは、好ましくは、2−メチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、および1,6−ヘキサンジオールが挙げられ、より好ましくは、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール等の水溶性のヘキサンジオールが挙げられ、その中でも1,2−ヘキサンジオールが好ましい。また、高周波数での吐出安定性が優れる観点から、1,6−ヘキサンジオールであってもよい。
<着色剤>
本発明によるインク組成物には着色剤を含んでもよい。着色剤としては、染料および顔料のいずれも使用することができるが、耐光性や耐水性の観点から顔料を好適に使用できる。また、着色剤は、前記顔料およびその顔料をインク中に分散させることが可能な下記分散剤を含んでなることが好ましい。
顔料としては、無機顔料および有機顔料を使用することができ、それぞれ単独または複数種を混合して用いることができる。前記無機顔料としては、例えば、酸化チタンおよび酸化鉄の他に、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法等の公知の方法によって製造されたカーボンブラックが使用できる。また、前記有機顔料としては、アゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等を含む)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料イソインドリノン顔料、キノフラロン顔料)、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック等が使用できる。
顔料の具体例は、得ようとするインク組成物の種類(色)に応じて適宜挙げられる。例えば、イエローインク組成物用の顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1,2,3,12,14,16,17,73,74,75,83,93,95,97,98,109,110,114,128,129,138,139,147,150,151,154,155,180,185等が挙げられ、これらの1種または2種以上が用いられる。これらのうち、特にC.I.ピグメントイエロー74,110,128、および129からなる群から選ばれる1種または2種以上を用いることが好ましい。また、マゼンタインク組成物用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド5,7,12,48(Ca),48(Mn),57(Ca),57:1,112,122,123,168,184,202,209;C.I.ピグメントバイオレット19等が挙げられ、これらの1種または2種以上が用いられる。これらのうち、特にC.I.ピグメントレッド122,202,209、およびC.I.ピグメントバイオレット19からなる群から選ばれる一種または二種以上を用いることが好ましく、これらの固溶体であってもよい。また、シアンインク組成物用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー1,2,3,15:2,15:3,15:4,15:34,16,22,60;C.I.バットブルー4,60等が挙げられ、これらの1種または2種以上が用いられる。これらのうち、特にC.I.ピグメントブルー15:3および/または15:4を用いることが好ましく、とりわけ、C.I.ピグメントブルー15:3を用いることが好ましい。
また、ブラックインク組成物用の顔料としては、例えば、ランプブラック(C.I.ピグメントブラック6)、アセチレンブラック、ファーネスブラック(C.I.ピグメントブラック7)、チャンネルブラック(C.I.ピグメントブラック7)、カーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)等の炭素類、酸化鉄顔料等の無機顔料;アニリンブラック(C.I.ピグメントブラック1)等の有機顔料等が挙げられるが、本発明においては、カーボンブラックが好ましく用いられる。カーボンブラックとして、具体的には、#2650、#2600、#2300、#2200、#1000、#980、#970、#966、#960、#950、#900、#850、MCF-88、#55、#52、#47、#45、#45L、#44、#33、#32、#30、(以上、三菱化学(株)製)、SpecialBlaek4A、550、Printex95、90、85、80、75、45、40(以上、デグッサ社製)、Regal660、RmogulL、monarch1400、1300、1100、800、900(以上、キャボット社製)、Raven7000、5750、5250、3500、3500、2500ULTRA、2000、1500、1255、1200、1190ULTRA、1170、1100ULTRA、Raven5000UIII、(以上、コロンビアン社製)等が挙げられる。
顔料の濃度は、インク組成物を調製した際に適宜な顔料濃度(含有量)に調整すればよいため特に限定されない。例えば、顔料濃度を1〜4質量%とすることで、粒状性が抑制された画像を得ることが可能である。一方、顔料濃度を4〜12質量%とすることで、発色性に優れた画像を得ることが可能である。
また、本発明においては、顔料の固形分濃度を6〜12質量%とすることで、滲みが抑制された画像を得ることが可能である。記録媒体上にインク液滴が付着すると、記録媒体の表面でインクが濡れ拡がるが、顔料固形濃度を6%質量%以上とした場合、濡れ拡がりが留まった後のインクの流動性が早期に失われるため、印刷本紙等の記録媒体に、特に低解像度で印刷した場合でも、より滲みを抑制することができる。すなわち、前記難水溶性のアルカンジオールと、前記固形湿潤剤とを組み合わせて使用することにより、インク吸収性の低い記録媒体上でもインクが濡れ拡がり、前記固形湿潤剤の効果により、初期粘度を著しく増加させること無く固形分を増加させ、乾燥性を速めると併せて、顔料でインクの固形分濃度を高くすることにより、記録媒体上でのインクの流動性を下げて、滲みを抑制することができると考えられる。特に、先行したインク滴が着滴してから概0.1秒以上経過した後に、後行するインク滴が2秒未満の内に、隣接するもしくは重なる間の記録時間間隔の場合において、ビーディングとブリーディングの抑制効果が顕著である。記録時間間隔とは、複数の異なるインクを記録媒体に塗布して、そのインクが隣接するもしくは重なる間の時間の間隔や、記録画素数に至るまで分割して記録する場合に、連続する二つの記録の間の時間の間隔をいう。
前記顔料は、後記する分散剤との混練処理がされた顔料であることが画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点から好ましい。
<分散剤>
本発明によるインク組成物は、着色剤を分散させるための分散剤としては、スチレン−アクリル酸系共重合樹脂(スチレンアクリル酸共重合樹脂)、オキシエチルアクリレート系樹脂(オキシエチル樹脂)、ウレタン系樹脂、およびフルオレン系樹脂からなる群から選択される少なくとも一種の樹脂を含んでなることが好ましく、より好ましくは、オキシエチルアクリレート系樹脂およびフルオレン系樹脂からなる群から選択される少なくとも一種の樹脂を含んでなる。これら共重合樹脂は、顔料に吸着して分散性を向上させる。
共重合体樹脂における疎水性モノマーの具体例としては、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルアクリレート、n−プロピルメタクリレート、iso−プロピルアクリレート、iso−プロピルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、sec−ブチルアクリレート、sec−ブチルメタクリレート、tert−ブチルアクリレート、tert−ブチルメタクリレート、n−ヘキシルアクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、n−オクチルアクリレート、n−オクチルメタクリレート、iso−オクチルアクリレート、iso−オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、デシルアクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルアクリレート、ステアリルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ジメチルアミノエチルアクリレート、2−ジメチルアミノエチルメタクリレート、2−ジエチルアミノエチルアクリレート、2−ジエチルアミノエチルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルアクリレート、アリルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェニルアクリレート、フエニルメタクリレート、ノニルフェニルアクリレート、ノニルフェニルメタクリレート、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルメタクリレート、ボルニルアクリレート、ボルニルメタクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、グリセロールアクリレート、グリセロールメタクリレート、スチレン、メチルスチレン、ビニルトルエン、ヒドロキシエチル化オルトフェニルフェノールアクリレートなどを挙げることができる。これらは、単独でまたは二種以上を混合して用いてもよい。
親水性モノマーの具体例としては、たとえばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸などを挙げることができる。
前記疎水性モノマーと親水性モノマーとの共重合樹脂は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合樹脂、スチレン−メチルスチレン−(メタ)アクリル酸共重合樹脂、またはスチレン−マレイン酸共重合樹脂、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合樹脂、またはスチレン−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合樹脂、ヒドロキシエチル化オルトフェニルフェノールアクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合樹脂のいずれかであることが好ましい。
前記共重合樹脂は、スチレンと、アクリル酸またはアクリル酸のエステルとを反応して得られる重合体を含む樹脂(スチレン−アクリル酸樹脂)であってもよい。あるいは、前記共重合樹脂は、アクリル酸系水溶性樹脂であってもよい。またはこれらのナトリウム、カリウム、アンモニウム、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、トリエチルアミン、ジエタノールアミン等の塩であってもよい。
前記共重合樹脂の酸価は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、好ましくは50〜320であり、一層好ましくは100〜250である。
前記共重合樹脂の重量平均分子量(Mw)は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、好ましくは2,000〜3万であり、より好ましくは2,000〜2万である。
前記共重合樹脂のガラス転移温度(Tg;JISK6900に従い測定)は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、好ましくは30℃以上であり、一層好ましくは50〜130℃である。
前記共重合樹脂は、顔料分散液中において顔料に吸着している場合と、遊離している場合とがあり、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、前記共重合樹脂の最大粒径は0.3μm以下であることが好ましく、平均粒径は0.2μm以下(さらに好ましくは0.1μm以下)であることが一層好ましい。なお、平均粒径とは、顔料が実際に分散液中で形成している粒子としての分散径(累積50%径)の平均値であり、例えば、マイクロトラックUPA(MicrotracInc.社)を使用して測定することができる。
前記共重合樹脂の含有量は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、前記顔料100質量部に対して、好ましくは20〜50質量部であり、一層好ましくは20〜40質量部である。
本発明においては、前記共重合樹脂として、オキシエチルアクリレート系樹脂を使用することもできる。使用することにより、インクの初期粘度の低減、高温時の保存安定性、目詰まり回復性に優れるので、より好ましい。
上記オキシエチルアクリレート系樹脂は、オキシエチルアクリレート骨格を有する樹脂であれば特に限定されないが、好ましくは下記式(I)で表される化合物である。下記式(I)で表される化合物は、例えば、モノマーモル比として、CAS No.72009−86−0のオルト-ヒドロキシエチル化フェニルフェノールアクリレートを45〜55%と、CAS No.79−10−7のアクリル酸を20〜30%と、CAS No.79−41−4のメタクリル酸を20〜30%と含む樹脂が挙げられる。これらは、単独でもまたは二種以上を混合して用いてもよい。また、上記モノマー構成比は、特に限定されないが、好ましくはCAS No.72009−86−0のオルト-ヒドロキシエチル化フェニルフェノールアクリレートが70〜85質量%、CAS No.79−10−7のアクリル酸が5〜15質量%、CAS No.79−41−4のメタクリル酸が10〜20質量%である。
(R1および/またはR3は水素原子またはメチル基であって、R2はアルキル基またはアリール基である。nは1以上の整数である。)
上記式(I)で表される化合物は、好ましくはノニルフェノキシポリエチレングリコールアクリレートまたはポリプロピレングリコール#700アクリレートが挙げられる。
前記オキシエチルアクリレート系樹脂の含有量は、インク組成物の初期粘度およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに、凝集斑を抑制し、埋まり性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、前記顔料100質量部に対して、好ましくは10〜40質量部であり、一層好ましくは15〜25質量部である。
前記オキシエチルアクリレート系樹脂に占めるアクリル酸とメタクリル酸の群から選ばれる水酸基を有するモノマー由来の樹脂構成比の合計は、インク組成物の初期粘度およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに、目詰まり回復性の観点からは、好ましくは30〜70%であり、一層好ましくは40〜60%である。
前記オキシエチルアクリレート系樹脂の架橋前の数平均分子量(Mn)は、インク組成物の初期粘度およびインク組成物の保存安定性を両立する観点からは、好ましくは4000〜9000であり、より好ましくは5000〜8000である。Mnは、例えば、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)で測定する。
前記オキシエチルアクリレート系樹脂は、顔料分散液中において顔料に吸着している場合と、遊離している場合とがあり、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、前記共重合樹脂の最大粒径は0.3μm以下であることが好ましく、平均粒径は0.2μm以下(さらに好ましくは0.1μm以下)であることが一層好ましい。なお、平均粒径とは、顔料が実際に分散液中で形成している粒子としての分散径(累積50%径)の平均値であり、例えば、マイクロトラックUPA(MicrotracInc.社)を使用して測定することができる。
前記オキシエチルアクリレート系樹脂の含有量は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、前記顔料100質量部に対して、好ましくは20〜50質量部であり、一層好ましくは20〜40質量部である。
また、本発明においては、定着性顔料分散剤として、ウレタン系樹脂を用いることにより、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる。ウレタン系樹脂とは、ジイソシアネート化合物と、ジオール化合物とを反応して得られる重合体を含む樹脂であるが、本発明においては、ウレタン結合および/またはアミド結合と、酸性基とを有する樹脂であることが好ましい。
ジイソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の芳香脂肪族ジイソシアネート化合物、トルイレンジイソシアネート、フェニルメタンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート化合物、これらの変性物が挙げられる。
ジオール化合物としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリエーテル系、ポリエチレンアジベート、ポリブチレンアジベート等のポリエステル系、ポリカーボネート系が挙げられる。
前記ウレタン系樹脂の酸価は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、好ましくは10〜300であり、一層好ましくは20〜100である。なお、酸価は、樹脂1gを中和させるのに必要なKOHのmg量である。
前記ウレタン樹脂の架橋前の重量平均分子量(Mw)は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、好ましくは100〜20万であり、より好ましくは1000〜5万である。Mwは、例えば、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)で測定する。
前記ウレタン樹脂のガラス転移温度(Tg;JISK6900に従い測定)は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、好ましくは−50〜200℃であり、一層好ましくは−50〜100℃である。
前記ウレタン系樹脂は、カルボキシル基を有することが好ましい。
前記ウレタン系樹脂の含有量は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、前記顔料100質量部に対して、好ましくは20〜50質量部であり、一層好ましくは20〜40質量部である。
さらに、本発明においては、定着性顔料分散剤として、フルオレン系樹脂を使用することもできる。使用することにより、インクの初期粘度の低減、高温時の保存安定性、印刷本紙への定着性に優れるので、より好ましい。
また、前記フルオレン系樹脂は、フルオレン骨格を有する樹脂であれば何ら制限されるものではなく、例えば、下記のモノマー単位を共重合することにより得ることができる。
5−イソシアネート−1−(イソシアネートメチル)−1,3,3−トリメチルシクロヘキサン(CAS No.4098−71−9)
2,2‘−[9H−フルオレン−9−イリデンビス(4,1−フェニレンオキシ)]ビスエタノール(CAS No.117344−32−8)
3−ヒドロキシ−2−(ヒドロキシメチル)−2−メチルプロピロン酸(CAS No.4767−03−7)
N,N−ジエチル−エタンアミン(CAS No.121−44−8)
上記フルオレン樹脂は、フルオレン骨格を有する樹脂であれば、モノマー構成比は、特に限定されないが、好ましくは、5−イソシアネート−1−(イソシアネートメチル)−1,3,3−トリメチルシクロヘキサン(CAS No.4098−71−9)が35〜45質量%、2,2‘−[9H−フルオレン−9−イリデンビス(4,1−フェニレンオキシ)]ビスエタノール(CAS No.117344−32−8)が40〜60質量%、3−ヒドロキシ−2−(ヒドロキシメチル)−2−メチルプロピオン酸(CAS No.4767−03−7)が5〜15質量%、N,N−ジエチル−エタンアミン(CAS No.121−44−8)が5〜15質量%である。
前記フルオレン系樹脂の架橋前の数平均分子量(Mn)は、インク組成物の初期粘度およびインク組成物の保存安定性を両立する観点からは、好ましくは2000〜5000であり、より好ましくは3000〜4000である。Mnは、例えば、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)で測定する。
前記フルオレン系樹脂は、顔料分散液中において顔料に吸着している場合と、遊離している場合と、があり、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、前記共重合樹脂の最大粒径は0.3μm以下であることが好ましく、平均粒径は0.2μm以下(さらに好ましくは0.1μm以下)であることが一層好ましい。なお、平均粒径とは、顔料が実際に分散液中で形成している粒子としての分散径(累積50%径)の平均値であり、例えば、マイクロトラックUPA(MicrotracInc.社)を使用して測定することができる。
前記フルオレン系樹脂の含有量は、カラー画像の定着性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層定着性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、前記顔料100質量部に対して、好ましくは20〜50質量部であり、一層好ましくは20〜40質量部である。
前記共重合樹脂および前記定着性顔料分散剤の質量比(前者/後者)は、1/2〜2/1が好ましいが、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、1/1.5〜1.5/1であることが一層好ましい。
前記顔料の固形分と、前記共重合樹脂および前記定着性顔料分散剤の固形分との質量比(前者/後者)は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、100/40〜100/100であることが好ましい。
また、分散剤として、界面活性剤を用いてもよい。このような界面活性剤としては、脂肪酸塩類、高級アルキルジカルボン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩類、高級アルキルスルホン酸塩、高級脂肪酸とアミノ酸の縮合物、スルホ琥珀酸エステル塩、ナフテン酸塩、液体脂肪油硫酸エステル塩類、アルキルアリルスルホン酸塩類などの陰イオン界面活性剤;脂肪酸アミン塩、第四アンモニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウムなどの陽イオン界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエステル類、ソルビタンアルキルエステル類、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル類などの非イオン性界面活性剤等を挙げることができる。上記した界面活性剤はインク組成物に添加されることで、界面活性剤としての機能をも果たすことは言うまでもない。
<界面活性剤>
本発明によるインク組成物は、界面活性剤を含んでもよい。記録媒体として、その表面にインクを受容するための樹脂がコーティングされたものに対して、界面活性剤を用いることにより、光沢感がより重視される写真紙等の記録媒体においても、優れた光沢を有する画像を実現することができる。とりわけ、印刷本紙のように、表面の受容層に油性インクを受容するための塗布層が設けられているような記録媒体を用いた場合であっても、色間の滲み(ブリーディング)を防止できるとともに、インク付着量の増加に伴い発生する光の反射光による白化を防止することができる。
本発明において用いられる界面活性剤としては、ポリオルガノシロキサン系界面活性剤を好適に使用でき、記録画像を形成する際に、記録媒体表面への濡れ性を高めてインクの浸透性を高めることができる。ポリオルガノシロキサン系界面活性剤を用いた場合、上記したような難水溶性のアルカンジオールを含有するため、界面活性剤のインク中への溶解性が向上し、不溶物等の発生を抑制できるため、吐出安定性がより優れるインク組成物を実現できる。
前記ポリオルガノシロキサン系界面活性剤は、特に限定されないが、グリセリンを20質量%、1,2−ヘキサンジオールを10質量%、前記ポリオルガノシロキサン系界面活性剤を0.1質量%、および水を69.9質量%含む水溶液とした場合に、その水溶液の1Hzの動的表面張力が26mN/m以下ものを使用することが好ましい。動的表面張力は、例えば、バブルプレッシャー動的表面張力計BP2(KRUS社製)を用いて測定することができる。
上記のような界面活性剤は市販されているものを用いてもよく、例えば、オルフィンPD−501(日信化学工業株式会社製)、オルフィンPD−570(日信化学工業株式会社製)、BYK−347(ビックケミー株式会社製)、BYK−348(ビックケミー株式会社製)等を用いることができる。
また、ポリオルガノシロキサン系界面活性剤として、下記式(II):
(式中、Rは水素原子またはメチル基を表し、aは2〜13の整数を表し、mは2〜70の整数を表し、nは1〜8の整数を表す。)
で表される一種または二種以上の化合物を含んでなるか、または、上記式(II)の化合物において、Rは水素原子またはメチル基を表し、aは2〜11の整数を表し、mは2〜50の整数を表し、nは1〜5の整数である一種または二種以上の化合物を含んでなることが好ましく、または、上記式(II)の化合物において、Rが水素原子またはメチル基であり、aが2〜13の整数であり、mは2〜50の整数であり、nは1〜5の整数である一種または二種以上の化合物を含んでなることがより好ましい。また、上記式(II)の化合物において、Rが水素原子またはメチル基であり、aが2〜13の整数であり、mは2〜50の整数であり、nは1〜8の整数である一種または二種以上の化合物を含んでなることがより好ましい。あるいは、上記式(II)の化合物において、Rがメチル基であり、aが6〜18の整数であり、mが0〜4であり、nが1または2である一種または二種以上の化合物を含んでなることが好ましく、または、Rがメチル基であり、aが6〜18の整数、であり、mが0であり、nが1である一種または二種以上の化合物を含んでなることがより好ましい。このような特定のオルガノポリシロキサン系界面活性剤を使用することにより、記録媒体として印刷本紙に印刷した場合であっても、インクの凝集むらがより改善される。
上記式(II)の化合物においては、aが2〜5の整数であり、mが20〜40の整数であり、nが2〜4の整数である化合物、aが7〜11の整数であり、mが30〜50の整数であり、nが3〜5の整数である化合物、aが9〜13の整数であり、mが2〜4の整数であり、nが1〜2の整数である化合物、または、aが6〜10の整数であり、mが10〜20の整数であり、nが4〜8の整数である化合物を用いることがより好ましい。このような化合物を使用することによって、より一層インクの凝集むらが改善できる。
また、上記式(II)の化合物においては、Rが水素原子であり、aが2〜5の整数であり、mが20〜40の整数であり、nが2〜4の整数である化合物、または、aが7〜11の整数であり、mが30〜50の整数であり、nが3〜5の整数である化合物を用いることがさらに好ましい。このような化合物を使用することにより、さらにインクの凝集むらと滲みを改善することができる。
また、上記式(II)の化合物においては、Rがメチル基であり、aが9〜13の整数であり、mが2〜4の整数であり、nが1〜2の整数である化合物、または、aが6〜10の整数であり、mが10〜20の整数であり、nが4〜8の整数である化合物を用いることがさらに好ましい。このような化合物を使用することにより、さらにインクの凝集むらと滲みを改善することができる。
さらに、上記式(II)の化合物においては、Rがメチル基であり、aが6〜12の整数、であり、mが0であり、nが1である化合物を用いることがさらに好ましい。このような化合物を使用することにより、さらにインクの凝集むらと滲みを改善することができる。
また、上記式(II)の化合物においては、Rが水素原子であり、aが7〜11の整数であり、mが30〜50の整数であり、nが3〜5の整数である化合物と、Rがメチル基であり、aが9〜13の整数であり、mが2〜4の整数であり、nが1〜2の整数である化合物と、Rがメチル基であり、aが6〜10の整数であり、mが10〜20の整数であり、nが4〜8の整数である化合物とを混合したものを用いることが最も好ましい。このような化合物を使用することにより、より一層、インクの凝集むらと滲みを改善することができる。
さらに、上記の式(II)においては、Rが水素原子であり、aが7〜11の整数であり、mが30〜50の整数であり、nが3〜5の整数である化合物と、Rがメチル基であり、aが9〜13の整数であり、mが2〜4の整数であり、nが1〜2の整数である化合物と、Rがメチル基であり、aが6〜18の整数であり、mが0であり、nが1である化合物とを混合したものを用いることが最も好ましい。このような化合物を使用することにより、より一層、インクの凝集むらと滲みを改善することができる。
前記ポリオルガノシロキサン系界面活性剤は、特に限定されないが、グリセリンを20質量%、1,2−ヘキサンジオールを10質量%、前記ポリオルガノシロキサン系界面活性剤を0.1質量%、および水を69.9質量%含むインク組成物とした場合に、そのインク組成物の1Hzの動的表面張力が26mN/m以下のものを使用することが好ましい。動的表面張力は、例えば、バブルプレッシャー動的表面張力計BP2(KRUS社製)を用いて測定することができる。
上記界面活性剤は、本発明によるインク組成物中に、好ましくは0.01〜1.0質量%、より好ましくは0.05〜0.50質量%含有される。特に、Rが水素基である上記界面活性剤を使用する場合は、Rがメチル基である上記界面活性剤を用いた場合よりも、含有量を少なくすることがビーディングの観点から好ましい。Rが水素基である界面活性剤を0.01〜0.1質量%含有させることにより、撥水性が発現し、ブリードを調整できる。
本発明によるインク組成物には、その他の界面活性剤、具体的には、アセチレングリコール系界面活性剤、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤等をさらに添加しても良い。
これらのうち、アセチレングリコール系界面活性剤としては、例えば、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、または3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3オール、2,4−ジメチル−5−ヘキシン−3−オールなどが挙げられる。また、アセチレングリコール系界面活性剤は市販品も利用することができ、例えば、オルフィンE1010、STG、Y(商品名、日信化学社製)、サーフィノール61、104,82,465,485、あるいはTG(商品名、Air Products and Chemicals Inc.製)が挙げられる。
<水、その他の成分>
本発明によるインク組成物は、上記した難水溶性のアルカンジオール、シクロデキストリン類を含有するとともに、溶媒として水を含有する。水は、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水または超純水を用いることが好ましい。特に、これらの水を、紫外線照射または過酸化水素添加等により滅菌処理した水は、長期間に亘ってカビやバクテリアの発生が防止されるので好ましい。
また、本発明によるインク組成物は、上記成分に加えて、浸透剤を含んでも良い。
グリコールエーテル類の具体例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−iso−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−tert−ブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−tert−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−tert−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコール−iso−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−tert−ブチルエーテル、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、3−メトキシ−1−ブタノールなどが挙げられ、これらの一種または二種以上の混合物として用いることができる。
上記グリコールエーテル類の中でも、多価アルコールのアルキルエーテルが好ましく、特にエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、または3−メトキシ−1−ブタノールが好ましい。
より好ましくは、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、または3−メトキシ−1−ブタノールである。
上記浸透剤の添加量は適宜決定されてよいが、0.1〜30質量%程度が好ましく、より好ましくは1〜20質量%程度である。
また、本発明によるインク組成物は、上記成分に加えて、記録媒体溶解剤を含んでも良い。
記録媒体溶解剤としては、N−メチル−2−ピロリドン、ピロリドンカルボン酸、およびそれらのアルカリ金属塩などの、ピロリドン類を好適に使用できる。上記記録媒体溶解剤の添加量は適宜決定されてよいが、0.1〜30質量%程度が好ましく、より好ましくは1〜20質量%程度である。
また、本発明によるインク組成物においては、グリセリンやその誘導体、例えば、3−(2−ヒドロキシエトキシ)−1,2−プロパンジオール(CAS14641−24−8)、3−(2−ヒドロキシプロポキシ)−1,2−プロパンジオール等の湿潤剤を含むことが好ましい。グリセリンやその誘導体は、インクジェットノズル等において、インクが乾燥して固化するのを防ぐ機能を有するものであるため、目詰まり回復性を向上させる観点で好ましい。本発明においては、これら湿潤剤を0.1〜8質量%以下含ませることもできる。
本発明によるインク組成物は、さらにノズルの目詰まり防止剤、防腐剤、酸化防止剤、導電率調整剤、pH調整剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、酸素吸収剤などを添加することができる。
防腐剤・防かび剤の例としては、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2−ジベンジンチアゾリン−3−オン(ICI社のプロキセルCRL、プロキセルBND、プロキセルGXL、プロキセルXL−2、プロキセルTN)等を挙げることができる。
さらに、pH調整剤、溶解助剤、または酸化防止剤の例として、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、プロパノールアミン、モルホリンなどのアミン類およびそれらの変成物、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムなどの無機塩類、水酸化アンモニウム、四級アンモニウム水酸化物(テトラメチルアンモニウムなど)、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウムなどの炭酸塩類その他燐酸塩など、あるいはN−メチル−2−ピロリドン、尿素、チオ尿素、テトラメチル尿素などの尿素類、アロハネート、メチルアロハネートなどのアロハネート類、ビウレット、ジメチルビウレット、テトラメチルビウレットなどのビウレット類など、L−アスコルビン酸およびその塩を挙げることができる。
また、本発明によるインク組成物は、酸化防止剤および紫外線吸収剤を含んでいてもよく、その例としては、チバ・スペシャリティーケミカルズ社のTinuvin 328、900、1130、384、292、123、144、622、770、292、Irgacor 252 153、Irganox 1010、1076、1035、MD1024、ランタニドの酸化物等を挙げることができる。
本発明によるインク組成物は、上記の各成分を適当な方法で分散・混合することよって製造することができる。好ましくは、まず顔料と高分子分散剤と水とを適当な分散機(例えば、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテータミル、ヘンシェルミキサー、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、ジェットミル、オングミルなど)で混合し、均一な顔料分散液を調製し、次いで、別途調製した樹脂(樹脂エマルジョン)、水、水溶性有機溶媒、糖、pH調製剤、防腐剤、防かび剤等を加えて十分溶解させてインク溶液を調製する。十分に攪拌した後、目詰まりの原因となる粗大粒径および異物を除去するためにろ過を行って目的のインク組成物を得ることができる。前記ろ過は、ろ材として、好ましくは、グラスファイバーフィルターを用いて行ってもよい。前記グラスファイバーは、樹脂含浸グラスファイバーであることが、静電吸着機能の観点から好ましい。また、グラスファイバーフィルターの孔径は、1〜40ミクロンが好ましく、さらに好ましくは1〜10ミクロンであることが、生産性と帯電遊離樹脂等の吸着除去の観点から好ましい。帯電遊離樹脂等の吸着除去を十分に行うことにより、吐出安定性を向上させることができる。上記のフィルターとして、例えば、日本ポール社製のウルチポアGFプラスを挙げることができる。
本発明によるインク組成物は、インクジェット記録用に用いることが好ましい。
〈インクジェット記録方法〉
本発明によるインク組成物を用いたインクジェット記録方法は、上記のインク組成物の液滴を吐出し、該液滴を記録媒体に付着させて印字を行うものである。本発明による記録方法においては、記録対象となる記録媒体は、特に限定されず、例えば、普通紙や水系インクの受容層を備える記録媒体のほか、非吸水性または低吸水性の記録媒体であっても好適に用いることが可能である。
〈非吸水性または低吸水性の記録媒体〉
非吸水性の記録媒体としては、例えば、インクジェット記録用に表面処理をしていない(すなわち、インク受容層を有していない)プラスチックフィルム、紙等の基材上にプラスチックがコーティングされているものやプラスチックフィルムが接着されているもの等が挙げられる。ここでいうプラスチックとしては、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。
低吸水性の記録媒体としては、例えば、塗工紙が挙げられ、微塗工紙、アート紙、コート紙、マット紙、キャスト紙等の記録本紙(印刷本紙)等が挙げられる。
塗工紙は、表面に塗料を塗布し、美感や平滑さを高めた紙である。塗料は、タルク、パイロフィライト、クレー(カオリン)、酸化チタン、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムなどの顔料と、デンプン、ポリビニルアルコールなどの接着剤を混合して作ることができる。塗料は、紙の製造工程の中でコーターという機械を用いて塗布する。コーターには、抄紙機と直結することで抄紙・塗工を1工程とするオンマシン式と、抄紙とは別工程とするオフマシン式がある。主に記録に用いられ、経済産業省の「生産動態統計分類」では印刷用塗工紙に分類される。
微塗工紙とは、塗料の塗工量が12g/m2以下の記録用紙のことをいう。アート紙とは、上級記録用紙(上質紙、化学パルプ使用率100%の紙)に40g/m2前後の塗料を塗工した記録用紙のことをいう。コート紙とは、20g/m2 − 40g/m2程度の塗料を塗工した記録用紙のことをいう。キャスト紙とは、アート紙やコート紙を、キャストドラムという機械で表面に圧力をかけることで、光沢や記録効果がより高くなるように仕上げた記録用紙のことをいう。
非吸水性または低吸水性の記録媒体として合成紙や印刷本紙(OKT+:王子製紙株式会社製)を用いることが好ましいが、とりわけ、アート紙、POD(プリントオンデマンド)用途に用いられる高画質用紙およびレーザープリンタ用の専用紙において、特に低解像度で印刷した場合でも、ブリーディングやビーディングが抑制された高品質な画像が実現できる。POD用途の高画質用紙としては、例えば、リコービジネスコートグロス100(リコー株式会社製)等が挙げられる。また、レーザープリンタ用の専用紙としては、例えばLPCCTA4(セイコーエプソン株式会社製)等が挙げられる。また、耐水紙としては、カレカ(三菱化学メディア株式会社製)や、レーザーピーチ(日清紡ポスタルケミカル株式会社製)等を挙げられる。
〈ニスコート〉
本発明によるインク組成物を用いた記録物は、商業印刷等に用いられるニスコーターで、オフセットニスまたはグラビアニスをオーバーコートしてもよい。インクジェット記録方法により、良好な画像を有するバリアブル印刷を実現し、多品種少量印刷に対応でき、またオフセットニスまたはグラビアニスをオーバーコートするにより、良好な耐水性や耐溶剤性を実現することが可能である。