本発明は、水相に対して油相が、水中油滴型エマルションの状態で含まれる水性ボールペン用インク組成物であって、前記水相及び/又は前記油相が着色剤を含み、前記油相が、当該油相を構成する成分中、芳香族系有機溶剤を50質量%以上、炭素数6〜22の脂肪酸を5質量%以上且つ50質量%未満含むことを特徴とする水性ボールペン用インク組成物である。以下に、本発明のインク組成物の成分を詳細に説明する。
本発明のインク組成物に用いる脂肪酸は、炭素数数6〜22の脂肪酸である。炭素数が6未満であると、十分な筆記安定性(終筆性)を提供しない。炭素数が22を超える脂肪酸も試験の結果、十分な筆記安定性(終筆性)を提供しなかった。これは、これら脂肪酸の融点と、芳香族系有機溶剤に対する溶解性が関係していると考えられる。本発明に用いることができる脂肪酸は、炭素数が6〜22の範囲であれば、直鎖型でも分岐型でも、また飽和型でも不飽和型でも、いずれの脂肪酸も用いることができる。
本発明に用いることができる好ましい脂肪酸は、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エイコサテトラエン酸、ドコサペンタエン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、エルカ酸等である。特に好ましい脂肪酸は、イソステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エイコサテトラエン酸、ドコサペンタエン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、エルカ酸である。
水中油滴型エマルションインク中に脂肪酸を添加すると筆記安定性(終筆性)が向上する理由はよくわかっていないが、脂肪酸が析出凝集物の生成を抑制し、また、生成した析出凝集物を再度溶解する機能を果たしていると考えられる。水中油滴型エマルションインクを用いたボールペンにおいて、ペン先部に凝集析出物が生じる理由は、油相中の溶解物が、インクリフィル中では析出しないが、ペン先部で析出して凝集すると考えられる。水中油滴型エマルションインクの油相中には、染料、樹脂等が溶解しているが、水中油滴型エマルションインクが、ペン先のボールとボールホルダーとの間を通過する際に撹拌されて、その狭い空間内でO/Wエマルションが転相してW/Oエマルションになり、連続層となった油相から溶解物が析出しやすくなると考えられる。油相中に脂肪酸を添加すると、前述の転相した状態において析出物の生成を抑制したり、生成した析出凝集物を再度溶解すると考えられる。
水中油滴型エマルションインク中に用いる、これらの脂肪酸の含有量は、インクの当該油相を構成する成分中、5質量%以上且つ50質量%未満であり、好ましくは、5〜20質量%とすることが望ましい。この脂肪酸の含有量が5質量%未満であると、効果が十分ではなく、また、50質量%以上となると、油相を構成する各成分の安定性が損なわれることがあるため、好ましくない。
本発明のインク組成物の油相は、有機溶剤中に、少なくとも着色剤としての染料を溶解させた油性溶液から成っており、また顔料を含んでいてもよい。油性溶液の溶剤としては、芳香族系有機溶剤が、当該油相を構成する溶剤(液体成分)中50質量%以上存在することを要し、70質量%以上であることが好ましい。
油性溶液の溶剤として用いることができる芳香族系有機溶剤は、特に、染料を溶解できることに加え、水と相溶しないこと、形成されたエマルションの保存安定性が良いこと、安全性が高いことを考慮すると、更に好ましい溶剤は、分子内に一つ以上の芳香環を有し、且つ溶剤の水への溶解度が、25℃において5g/l00g以下のものが好ましい。溶解度が5g/l00gを超えると、得られるエマルションが不安定となり経時的に相分離を生じる場合がある。
また、本発明の油性溶液に用いることができる溶剤は、比較的低揮発性の溶剤が好ましい。使用可能な溶剤は、以下に示す溶剤の例から選ばれる1種類の溶剤からなることができ、又は複数種の溶剤からなることができる。
本発明の油性溶液に用いることができる溶剤の例としては、ベンジルアルコール、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、アルキルスルフォン酸フェニルエステル、フタル酸ブチル、フタル酸エチルヘキシル、フタル酸トリデシル、トリメリット酸エチルヘキシル、ジエチレングリコールジベンゾエート、ジプロピレングリコールジベンゾエート、キシレン、トルエン等が挙げられる。特にこれらの中で、25℃における水への溶解性が1g/100g以下である、エチレングリコールモノベンジルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、アルキルスルフォン酸フェニルエステル、フタル酸エチルヘキシル、フタル酸トリデシル、トリメリット酸エチルヘキシル、ジエチレングリコールジベンゾエート、ジプロピレングリコールジベンゾエート、液状のキシレン樹脂等が好ましい溶剤として挙げられる。最も好ましくは、これらの中で、25℃における水への溶解性が0.1g/100g以下である、アルキルスルフォン酸フェニルエステル、トリメリット酸エチルヘキシル、ジエチレングリコールジベンゾエート、ジプロピレングリコールジベンゾエート等の他、液状のキシレン樹脂等が好ましい溶剤として挙げられる。
また、染料を溶解させる作業上の安全性の観点から、また高温時のエマルションの内圧の上昇による不安定化を抑制する観点から、沸点が200℃以上の溶剤が好ましい。好ましい溶剤の例としては、ベンジルアルコール、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、アルキルスルフォン酸フェニルエステル、フタル酸ブチル、フタル酸エチルヘキシル、フタル酸トリデシル、トリメリット酸エチルヘキシル、ジエチレングリコールジベンゾエート、ジプロピレングリコールジベンゾエート等が挙げられる。
また、本発明の油性溶液において、上記の芳香族系有機溶剤のほかに、任意の補助溶剤を含むことができる。例えば、アルコール類、多価アルコール類、グリコールエーテル類、炭化水素類、エステル類から選ばれる溶剤等を用いることができるが、水と無限に相溶する溶剤は水相への拡散、油滴の合一を引き起こすため、多量に使用すべきではない。油性溶液の質量%基準で10質量%以内とするのがよい。
アルコール類としては、炭素数が2以上の脂肪族アルコールが好ましく、例えば、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、tert−ブチルアルコール、1−ペンタノール、イソアミルアルコール、sec−アミルアルコール、3−ペンタノール、tert−アミルアルコール、n−ヘキサノール、メチルアミルアルコール、2−エチルブタノール、n−ヘプタノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、n−オクタノール、2−オクタノール、2−エチルヘキサノール、3,5,5−トリメチルヘキサノール、ノナノール、n−デカノール、ウンデカノール、n−デカノール、トリメチルノニルアルコール、テトラデカノール、ヘプタデカノール、シクロヘキサノール、2−メチルシクロヘキサノールやその他多種多様な高級アルコール等が挙げられる。
また、多価アルコール類としては分子内に2個以上の炭素、2個以上の水酸基を有する多価アルコールが好ましく、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、3−メチル−1,3ブンタンジオール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3プロパンジオール、1,3ブタンジオール、1,5ペンタンジオール、ヘキシレングリコール、オクチレングリコール等が挙げられる。
グリコールエーテル類としては、例えば、メチルイソプロピルエーテル、エチルエーテル、エチルプロピルエーテル、エチルブチルエーテル、イソプロピルエーテル、ブチルエーテル、ヘキシルエーテル、2−エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ−2−エチルブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノール、3−メトキシ−1−ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールターシャリーブチルエーテルジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、テトラプロピレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。
炭化水素類としては、ヘキサン、イソヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等の直鎖炭化水素類やシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の環状炭化水素類が挙げられる。
エステル類の補助溶剤としては例えば、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールジアセテート、3−メチル−3−メトキシブチルアセテート、プロピレングリコールエチルエーテルアセテート、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ギ酸ブチル、ギ酸イソブチル、ギ酸イソアミル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチル、酢酸イソアミル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸イソブチル、プロピオン酸イソアミル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、イソ酪酸メチル、イソ酪酸エチル、イソ酪酸プロピル、吉草酸メチル、吉草酸エチル、吉草酸プロピル、イソ吉草酸メチル、イソ吉草酸エチル、イソ吉草酸プロピル、トリメチル酢酸メチル、トリメチル酢酸エチル、トリメチル酢酸プロピル、カプロン酸メチル、カプロン酸エチル、カプロン酸プロピル、カプリル酸メチル、カプリル酸エチル、カプリル酸プロピル、ラウリン酸メチル、ラウリン酸エチル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、カプリル酸トリグリセライド、クエン酸トリブチルアセテート、オキシステアリン酸オクチル、プロピレングリコールモノリシノレート、2−ヒドロキシイソ酪酸メチル、3−メトキシブチルアセテート等、種々のエステルが挙げられる。
また、分子内に水酸基を持たない補助溶剤として、ジエーテルやジエステルを用いることができ、具体的には、例えば、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。
本発明のインク組成物の油相中の着色剤は少なくとも染料である。使用する染料が上述した溶剤に溶解するものであれば、一般的な油性インク組成物に使用されているいずれの染料も使用することができる。本発明に係る油溶性染料として、通常の染料インク組成物に用いられる直接染料、酸性染料、塩基性染料、媒染・酸性媒染染料、酒精溶性染料、アゾイック染料、硫化・硫化建染染料、建染染料、分散染料、油溶染料、食用染料、金属錯塩染料、造塩染料、樹脂に染料を染着した染料等の中から任意のものを使用することができる。これらの中で、有機溶剤に溶解しやすい造塩染料等のアルコール可溶染料、油溶染料等が、溶解性、エマルションの安定性の面から好ましい。特に好ましい染料は油溶染料である。
染料の下限となる配合量は、インク組成物全量の質量基準で0.3%以上となることが好ましい。0.3%未満であると、着色力が不十分である。また、上限となる配合量は、油性溶液総量の質量基準で70%以下となることが好ましい。70%を超えると染料の溶解が困難となり、ボールペンのインク組成物としては好ましくない。特に好ましくは、インク組成物の質量基準で1〜6%の範囲であり、且つ油性溶液の質量基準で10〜60%の範囲である。
本発明に使用できる造塩染料としては、バリファストカラー(登録商標、オリエント化学工業(株)製)、アイゼンスピロン染料、アイゼンSOT染料(登録商標名、保土谷化学工業(株)製)がある。
樹脂に染料を染着した染料としては、keiko−Colot MPI−500シリーズ、keiko−Colot MPI−500Cシリーズ、keiko−Colot NKS−1000シリーズ(登録商標、日本蛍光化学(株)製)がある。
油相中の着色剤は、エマルションの安定性を維持できるならば、染料と組み合わせて少量の顔料を用いることができる。顔料を用いる場合、顔料の量は、油性溶液の質量基準で10%以下であることが好ましい。10%を超えると、エマルションの安定性に不具合を起こす。
油相中で、染料と組み合わせて用いることができる顔料には、カーボンブラック、酸化チタン等の無機顔料、フタロシアニン系顔料、アゾ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、アンスラキノン系顔料、ペリレン系顔料、イソインドリノン系顔料、キナクリドン系顔料等各種有機顔料を挙げることができる。
本発明のインク組成物を調製するための油性溶液には、粘度を調整するため、樹脂を用いることができる。前記油性溶液の粘度は、乳化剤を含まない状態で、25℃、剪断速度3.83/秒において500〜1,000,000mPa・sが好ましい。粘度が、500mPa・s未満であると、筆記にガリツキ感が生じ、水中油滴型としたことによる油性インクとしての側面の性能を発揮しづらい。さらに、エマルションの安定性にも好ましくない。1,000,000mPa・sを超えると重い筆感となり、ボールペンのインク組成物としては好ましくない。25℃、剪断速度3.83/秒において3,000〜500,000mPa・sの粘度範囲が、特に好ましい。
本発明のインク組成物に用いることができる樹脂の具体的な例として、ケトン樹脂、スルホアミド樹脂、マレイン酸樹脂、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、エステルガム、キシレン樹脂、アルキッド樹脂、フェノール樹脂、ロジン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコール、アクリル系樹脂、メラミン系樹脂、セルロース系樹脂等の天然及び合成樹脂及びこれら樹脂の誘導体を挙げることができ、それらの1種又は2種以上を用いることができる。
前記油性溶液中の染料及びその他の添加物の量は、固形分濃度として全油性溶液の質量基準で3〜70%であることが好ましい。固形分濃度が、3%未満であると、十分な粘性付与ができなくなる。70%を超えると染料の溶解が困難となり、ボールペンのインク組成物としては好ましくない。固形分濃度が10%〜60%の範囲が特に好ましい。
本発明のインク組成物の水相は、水に、少なくとも着色剤を分散又は溶解させた分散体又は水溶液から成ることができる。1つの態様として、水相は水に顔料を分散させた顔料分散体から成ることができる。別の態様では、水相は、顔料の代わりに水に水溶性染料を溶解させた水溶液から成ることができる。水相の着色剤として、顔料と染料を併用することもできる。また、別の態様では、本発明の水相は着色剤を含まない。
着色剤として顔料を用いる場合は、例えば、この顔料分散体は、イオン交換水、精製水を用いた顔料分散体である。顔料としては、カーボンブラック、酸化チタン等の無機顔料、フタロシアニン系顔料、アゾ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、アンスラキノン系顔料、ペリレン系顔料、イソインドリノン系顔料、キナクリドン系顔料等の各種有機顔料を使用することができる。
顔料としては、例えば、C.I.Pigment Black 1,7、C.I.Pigment Yellow 1,2,3,12,13,14,16,17,20,24,34,35,42,53,55,65,73,74,75,81,83,86,93,94,95,97,98,99,100,101,104,108,109,110,114,117,120,125,128,129,137,138,139,147,148,150,151.153,154,155,166,167,168,173C,174,180,185等、C.I.Pigment Red 1,2,3,5,7,8,9,10,12,16,17,19,22,38,41,43,48,48:2,48:3,49,50:1,52,53,53:1,57,57:1,58:2,60,63:1,63:2,64:1,86,88,90,9,112,122,123,127,146,149,166,168,170,175,176,177,179,180,181,184,185,189,190,192,194,198,202,206,207,209,215,216,217,220,223,224,226,227,228,238,240,245,254,225等、C.I.Pigment Blue 1,2,3,15:1,15:2,15:3,15:4,15:6,16,17,22,25,60,64,66等、C.I.Pigment Orannge 5,10,13,16,36,40,43,48,49,51,55,59,61,71等、C.I.Pigment Violet 1,3,5:1,16,19,23,29,30,31,33,36,37,38,40,42,50等、C.I.Pigment Green 7,10,36等、C.I.Pigment Brown 23,25,26等が挙げられる。
水相に分散される顔料の色と、油相に溶解される染料の色とは、同じであっても、異なっていてもよい。顔料の色と同じ色の染料を用いる場合は、同色の染料によりインクの色が鮮やかになると同時に、色濃度が向上する。顔料の色と異なる色の染料を用いる場合は、インクの色として、自由度の高い調色のバリエーションが得られる。
顔料分散体を得るための分散剤は各種市販されているものを使用することができ、特に限定されないが、並存する水中油滴型エマルションとの相性、保存安定性の面から、高分子の樹脂系分散剤が好ましく、エマルション形成に用いる乳化剤として使用される材料とは異なる材料が好ましい。例えば、スチレンアクリル樹脂やポリオキシエチレン系分散剤を用いることができる。特に好ましい分散剤は、ポリマーであるスチレンアクリル樹脂である。
顔料を用いる場合、使用する顔料の量は、インク組成物全質量に対し、3〜15%、好ましくは5〜10%である。顔料の量が3%以下となると、着色剤の主成分としては、耐光性が悪くなり、また描線の濃度感にも欠ける。顔料の量が15%以上になると、顔料の分散安定性面から好ましくない。使用する分散剤の量は、顔料分散体の顔料の総質量に対して、20〜100%の範囲となるのが好ましい。
水相への顔料の分散方法には、例えば、混合撹拌機により各成分を均一に混合する方法や、ボールミル、ビーズミル、ロールミル、ホモミキサー、ディスパー、超音波分散機、高圧ホモジナイザー等の分散機を用いることができる。
本発明のインク組成物の水相は水に顔料に加えて、染料も含むことができる。使用することができる染料は、上述した油相に用いることができる染料から選択することができる。
また、水相は、低温時でのインク凍結防止や、ペン先でのインク乾燥防止を目的とする添加剤を含むことができ、具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、チオジエチレングリコール、グリセリン等のグリコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類などが挙げられ、単独又は混合して使用することができる。添加剤の使用量は、水相の質量基準で、0〜50%、好ましくは0〜30%である。50%以上添加すると、得られるエマルションの安定性に不具合を起こす。
水相は、前述の油性溶液と混合して、安定なエマルションを形成するために乳化剤を含有する。本発明に係る油性溶液の主溶剤と混合して、長期的に安定なエマルションを形成する乳化剤は、分子骨格中に芳香環を1つ以上有する乳化剤である。分子骨格中に芳香環を1つ以上有する乳化剤は、親油基である芳香環が油相の染料溶液に対して親和性が高いため、長期的に安定なエマルションを形成すると考えられる。
本発明のインク組成物に用いることができる芳香族系乳化剤としては、芳香環を1つ以上有しているものであれば、特に限定されない。乳化剤は通常エチレンオキサイド(EO)付加モル数によって、その性質を変えることができる。油性溶液に用いる主溶剤と関連して、エチレンオキサイド付加モル数が40mol以上のものが好ましい。長鎖のエチレンオキサイド鎖により、粒子の合一を抑制するためである。
前述のエチレンオキサイド付加モル数が40mol以上の乳化剤と、油相への配向が強いエチレンオキサイド付加モル数が3〜15molの乳化剤とを組み合わせて用いることができる。油相へ配向の強いものと水相へ配向の強い乳化剤を組み合わせることにより、界面のミセル濃度が高まり、エマルションの安定性が増すと考えられるからである。
HLB値(親水親油バランス値)については、非イオン性界面活性剤については少なくともHLB値が15以上の乳化剤を1種以上用いることが好ましい。エチレンオキサイド付加モル数が多くても、HLB値が低い場合は、油相側に乳化剤が取り込まれすぎてしまうからである。
エチレンオキサイド40mol以上を有する乳化剤としては、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンモノスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンクミルフェニルエーテル等の多環フェニル型非イオン界面活性剤で、エチレンオキサイド鎖40mol以上付加したもの、及びその硫酸塩等のイオン性界面活性剤を挙げることができる。エチレンオキサイド付加モル数については40mol以上、且つ200mol以下が好ましい。200mol以上付加した乳化剤の場合、粘度上昇が著しく、使用に不適当な場合が生じる。
また、エチレンオキサイド付加モル数3〜15のものとしては、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンモノスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンクミルフェニルエーテル等の多環フェニル型非イオン界面活性剤で、エチレンオキサイド鎖3〜15mol付加したもの、及びその硫酸塩等のイオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等のアルキルフェノール型非イオン性界面活性剤等を挙げることができる。
乳化剤は分子内に芳香環を有する界面活性剤以外に、他の構造を有する任意の乳化剤を追加して添加することができる。例えば、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシエチレンアルキル(C10〜C18)エステル等の直鎖炭化水素型非イオン性界面活性剤、ソルビタン誘導体等が挙げられる。乳化剤の量は、油性溶液の質量基準で5〜150%であることが好ましく、10〜100%であることが最も好ましい。
乳化剤以外に、水相は水性ボールペンに通常使用される各種の添加剤、例えば、防錆剤、防腐剤、PH調整剤、潤滑剤、保湿剤、樹脂、天然多糖類等の増粘剤等を含有することができる。
本発明の水中油滴型水性ボールペン用インク組成物中に占める油相成分の割合は、質量基準で1〜20%であり、好ましくは5〜15%である。油相成分の割合が1%より小さいと、色濃度の向上、筆記性で満足な性能が得られず、通常の水性ボールペンとなんら変わらなくなる。また、油相成分の割合が20%より大きいと、顔料分散体との相互作用でエマルションが不安定化となる場合があり、また油分が増えるため、描線乾燥性に悪影響を及ぼす。
エマルションの平均粒子径は好ましくは200nm以下であり、更に好ましくは150nm以下である。平均粒子径を200nm以下とするのは、粒子の沈降や、粒子同士の衝突による合一を抑制するためである。粒子径の調整は、後述する乳化方法による制御することができ、また高圧ホモジナイザー等の乳化機を用いた機械的せん断力によっても微細化することができる。
本発明の水中油滴型エマルションの乳化方法は、従来技術において知られている種々の乳化方法、例えば、転相乳化方法、D相乳化方法、PIT乳化方法、機械的な乳化方法を用いることができる。例えば、転相乳化方法においては、本発明の水中油滴型エマルションは以下の工程により製造される:
a)有機溶剤中で、着色剤としての染料を含む油性溶液成分を攪拌して、固形分を溶解させる工程、
b)水相成分に乳化剤を加えて攪拌して溶解させる工程、
c)水相成分に、顔料と必要に応じて分散剤を加えて顔料を分散させる工程、
d)工程aで得られた油性溶液を攪拌しながら、工程b及び工程cで得られた水相成分を徐々に添加して油中水滴型エマルション得る工程、
e)攪拌しながら、さらに水相成分を添加して相転移を経て水中油滴型エマルションを得る工程。
顔料分散体を含む水相を調製する工程は、水性顔料インクとして従来公知の方法を採用することができる。例えば:
a)顔料、分散剤、溶剤及びpH調整剤を攪拌機にて3時間攪拌する工程、
b)サンドミルにて5時間分散する工程、
c)上記顔料分散液の粗大粒子を遠心分離機で除去する工程、
d)上記顔料分散液を希釈し、その他の成分を添加する工程。
上述したように調製した、水中油滴型エマルションと顔料分散体を含む水相とを攪拌混合する。この攪拌混合は、例えば、混合撹拌機により各成分を均一に混合する方法や、ボールミル、ビーズミル、ロールミル、ホモミキサー、ディスパー、超音波分散機、高圧ホモジナイザー等の分散機を用いて各成分を分散混合する方法を用いることができる。このとき、油相成分と水相成分とを同時に撹拌混合あるいは分散混合してもよく、また各成分を順次撹拌混合あるいは分散混合しても構わない。
なお、上記では顔料分散体を含む水相を例示したが、水相に含まれる着色剤は顔料に限定されるものではなく、また水相が着色剤を含まず、着色剤が油相にのみ配合されてもよい。
尚、水中油滴型エマルション製造の際の水相成分として、前もって調製した顔料分散体を用いても良いが、転相乳化等で相転移する際に顔料分散系に悪影響を与えることも考えられるので、水中油滴型エマルション製造工程と顔料分散工程は分けて行うのが好ましい。
本発明の水性ボールペン用インク組成物の粘性は好ましくは25℃、せん断速度380/秒の粘度が1〜100mPa・s、更に好ましくは5〜50mPa・sであることが好ましい。100mPa・s以上であると、インクの粘性が高まる結果、インクリフィル内でのインクの追従性が悪化するため、好ましくない。
以下、最も代表的な実施例により、本発明の好適態様とその優れた効果を具体的に説明する。尚、以下において、部はすべて質量部であり、%はすべて質量%である。
実施例1〜15において、混合する脂肪酸及び溶剤をそれぞれ変えてインク組成物の調製を行った。まず、表1に記載の油相成分を攪拌しながら50℃〜60℃の温度に加温して、これらの成分を完全に溶解させた油性溶液を得た。表1中の値は、油性溶液全量を100とした場合の各成分の質量%値である。
一方、これとは別個に界面活性剤を精製水に攪拌しながら溶解させ乳化剤溶液を作成した。次に、攪拌しながら前記油性溶液に対して前記乳化剤溶液を徐々に添加することによって、油中水滴型(w/o)から水中油滴型(o/w)に転相させて水中油滴型のエマルションを得た。
その後、撹拌しながら、この水中油滴型のエマルションへ、顔料Aと、分散剤、プロピレングリコール及び水からなる顔料分散体、さらに、潤滑剤、トリエタノールアミン及び水から成る添加剤成分を添加し、本発明のインク組成物を得た。使用した乳化剤溶液、顔料分散体成分及び添加剤成分の詳細を表2に示す。尚、油相成分と水相成分の混合比は「油相成分:水相成分=10:90(インク中に占める油相成分の割合が10%)」として調製した。
実施例1〜15において作成された各インク組成物とインク追従体を用いて水性ボールペンを作製した。具体的には、ボールペン〔三菱鉛筆株式会社製、商品名:シグノUM−100〕の軸を使用し、内径3.8mm、長さ113mmポリプロピレン製インク収容管とステンレス製チップ(超硬合金ボール、ボール径0.38mm)及び該収容管と該チップを連結する継手からなるリフィールに、上記インク組成物及びインク後端にインク追従体を装填してボールペンを作製し、以下の評価試験を行った。
比較例1〜4として、表3に記載する油相成分及び表4に記載する水相成分を用意し、上記各実施例と同様の操作によりインク組成物を得た。尚、比較例1は、実施例1で用いたオレイン酸(C18:不飽和)をオレイルアルコールに変えた以外は実施例1と同じである。比較例2は、実施例1で用いたオレイン酸(C18:不飽和)を吉草酸(C5:飽和)に変えた以外は実施例1と同じである。比較例1は、実施例1で用いたオレイン酸(C18:不飽和)をcis−15−テトラコセン酸(C24:不飽和)に変えた以外は実施例1と同じである。比較例4は、実施例1で用いた主たる有機溶剤Aを非芳香族系有機溶剤E(2−エチルヘキシルグリコール)に変えた以外は実施例1と同じである。実施例と同様にボールペンを作成し、以下の評価試験を行った。
<評価>
(a)インク粘度
インクの粘度測定については、HAAKE社製レオメータ、RheoStress600を用いた。円錐コーンは、直径20mm、傾斜角1度のものを用いた。測定条件は25℃、せん断速度380/秒の条件で、30秒間測定して安定した数値を粘度とした。
(b)カスレ試験
各ペン体をISO規格に準拠した筆記用紙に、フリーハンドで5周螺旋筆記し、目視により描線のカスレ度合いを下記の基準で評価した。
○:螺旋(直径約20mm)筆記20周で、カスレが無かった。
△:螺旋(直径約20mm)筆記20周で5〜10周のカスレが発生した。
×:螺旋(直径約20mm)筆記20周で10周以上のカスレが発生した。
(c)筆記安定性(終筆性)試験
ISO規格14145−1に準拠した自動筆記試験機を用い、筆記速度:4.5m/分、筆記角度:90°筆記荷重:1.96Nの条件で行い、目視により描線の状態およびインクの消費量を下記の基準で評価した。
○:カスレなくインクを全て消費した。
△:ところどころカスレは発生するがインクを全て消費した。
×:筆記不能が発生した。
上記試験の結果を表5、表6に示す。オレイルアルコールを用いた比較例1は、筆記安定性が悪い。比較例2は、筆記安定性には効果がみられるが、カスレが目立った。これは、エマルションが不安定で、一部凝集しているためと考えられる。比較例4は、添加した脂肪酸の溶剤に対する溶解性が悪く、筆記安定性に効果がでていない。これらの結果から、本発明のインク組成物が、比較例インクに比べて、優れた結果を示すことがわかる。