以下、図1〜図15に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
先ず、図1のスケルトン図と、図2および図3の詳細図とに基づいて、前進10速、後進1速の自動変速機Tの構造を説明する。
エンジンEのクランクシャフト11はトルクコンバータTCを介して自動変速機Tの入力軸12に接続される。入力軸12の外周には、エンジンEに近い側(図中右側)から遠い側(図中左側)に向かって第1遊星歯車機構PGSa、第2遊星歯車機構PGSb、第3遊星歯車機構PGScおよび第4遊星歯車機構PGSdが順番に配置される。また第1〜第4遊星歯車機構PGSa,PGSb,PGSc,PGSdの各要素の結合関係を切り換えて各変速段を確立するために、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、第3ブレーキB3および第4ブレーキB4が設けられる。第2ブレーキB2は2ウェイクラッチで構成されており、それが係合する相対回転の方向を任意に切り換えることが可能である。その他のクラッチおよびブレーキは湿式多板型のもので構成される。
シングルピニオン型の第1遊星歯車機構PGSaは、第1サンギヤSa、第1キャリヤCa、第1リングギヤRaおよび複数の第1ピニオンPa…を備えており、第1キャリヤCaに回転自在に支持された第1ピニオンPa…は、第1サンギヤSaおよび第1リングギヤRaに同時に噛合する。
第1サンギヤSaは第1ブレーキB1を介して変速機ケース13に結合可能である。すなわち、第1ブレーキB1は第1サンギヤSaと一体のブレーキハブ14と、ブレーキハブ14および変速機ケース13間に配置された複数の摩擦係合要素15…と、変速機ケース13に軸方向摺動可能に配置されたブレーキピストン16とを備えており、油室17に供給される油圧でブレーキピストン16を駆動して摩擦係合要素15…を相互に係合させると、第1サンギヤSaが変速機ケース13に結合される。
なお、変速機ケース13は実際には複数の部材で構成されるが、図面では便宜的に一部材として記載している。また本明細書では、トルクコンバータケース18に固定されたステータシャフト19も変速機ケース13の一部としている。
第1キャリヤCaから径方向外側に延びる連結部材20は、第2ブレーキB2を介して変速機ケース13に結合可能である。また第1キャリヤCaは、第1クラッチC1を介して入力軸12に結合可能である。すなわち、第1クラッチC1は、連結部材21を介して第1キャリヤCaの径方向内端に接続されたクラッチハブ22と、入力軸12に固定されたクラッチドラム23と、クラッチハブ22およびクラッチドラム23間に配置された複数の摩擦係合要素24…と、クラッチドラム23の内部に摺動自在に配置されたクラッチピストン25とを備えており、油室26に供給される油圧でクラッチピストン25を駆動して摩擦係合要素24…を相互に係合させると、第1キャリヤCaが入力軸12に結合される。
第1リングギヤRaは、連結部材27を介して後述する第3遊星歯車機構PGScの第3キャリヤCcに接続される。
シングルピニオン型の第2遊星歯車機構PGSbは、第2サンギヤSb、第2キャリヤCb、第2リングギヤRbおよび複数の第2ピニオンPb…を備えており、第2キャリヤCbに回転自在に支持された第2ピニオンPb…は、第2サンギヤSbおよび第2リングギヤRbに同時に噛合する。
第2サンギヤSbは、連結部材28を介して後述する第3遊星歯車機構PGScの第3リングギヤRcに接続される。第2キャリヤCbは前記連結部材20を介して第1遊星歯車機構PGSaの第1キャリヤCaに一体に接続され、かつ前記第2ブレーキB2を介して変速機ケース13に結合可能である。第2リングギヤRbには出力ギヤ29が一体に形成されており、出力ギヤ29は一対のボールベアリング30,30を介して変速機ケース13に回転自在に支持される。
シングルピニオン型の第3遊星歯車機構PGScは、第3サンギヤSc、第3キャリヤCc、第3リングギヤRcおよび複数の第3ピニオンPc…を備えており、第3キャリヤCcに回転自在に支持された第3ピニオンPc…は、第3サンギヤScおよび第3リングギヤRcに同時に噛合する。
第3サンギヤScは入力軸12に一体に結合される。第3キャリヤCcは、前記連結部材27を介して第1遊星歯車機構PGSaの第1リングギヤRaに接続される。第3リングギヤRcは、第2クラッチC2を介して後述する第4遊星歯車機構PGSdの第4サンギヤSdに接続されたクラッチドラム31に結合可能である。すなわち、第2クラッチC2は、第3リングギヤRcおよびクラッチドラム31間に配置された複数の摩擦係合要素32…と、クラッチドラム31の内部に摺動自在に配置されたクラッチピストン33とを備えており、油室34に供給される油圧でクラッチピストン33を駆動して摩擦係合要素32…を相互に係合させると、第3遊星歯車機構PGScの第3リングギヤRcが第4遊星歯車機構PGSdの第4サンギヤSdに結合される。
シングルピニオン型の第4遊星歯車機構PGSdは、第4サンギヤSd、第4キャリヤCd、第4リングギヤRdおよび複数の第4ピニオンPd…を備えており、第4キャリヤCdに回転自在に支持された第4ピニオンPd…は、第4サンギヤSdおよび第4リングギヤRdに同時に噛合する。
第4サンギヤSdに接続された前記クラッチドラム31は、第3ブレーキB3を介して変速機ケース13に結合可能である。すなわち、第3ブレーキB3は、クラッチドラム31および変速機ケース13間に配置された複数の摩擦係合要素35…と、変速機ケース13の内部に摺動自在に配置されたブレーキピストン36とを備えており、油室37に供給される油圧でブレーキピストン36を駆動して摩擦係合要素35…を相互に係合させると、第4サンギヤSdが変速機ケース13に結合される。
第4キャリヤCdは、連結部材38を介して第3遊星歯車機構PGScの第3キャリヤCcに接続される。第4リングギヤRdは、第3クラッチC3を介して入力軸12に結合可能である。すなわち、第3クラッチC3は、第4リングギヤRdに一体に接続されたクラッチドラム39と、入力軸12に一体に接続されたクラッチハブ40と、クラッチドラム39およびクラッチハブ40間に配置された複数の摩擦係合要素41…と、クラッチドラム39の内部に摺動自在に配置されたクラッチピストン42とを備えており、油室43に供給される油圧でクラッチピストン42を駆動して摩擦係合要素41…を相互に係合させると、第4リングギヤRdが入力軸12に結合される。
さらに、第4リングギヤRdは、第4ブレーキB4を介して変速機ケース13に結合可能である。すなわち、第4ブレーキB4は、前記クラッチドラム39および変速機ケース13間に配置された複数の摩擦係合要素44…と、変速機ケース13の内部に摺動自在に配置されたブレーキピストン45とを備えており、油室46に供給される油圧でブレーキピストン45を駆動して摩擦係合要素44…を相互に係合させると、第4リングギヤRdが変速機ケース13に結合される。
入力軸12のエンジンE側の軸端は変速機ケース13の一部を構成するステータシャフト19にボールベアリング47を介して直接支持され、入力軸12のエンジンEと反対側の軸端は、そこに固定されたクラッチハブ40が変速機ケース13にボールベアリング48を介して支持される。
第1遊星歯車機構PGSa、第2遊星歯車機構PGSb、第3遊星歯車機構PGScおよび第4遊星歯車機構PGSdの各ギヤは伝達トルクの変動を減らすべくヘリカルギヤで構成されるが、ヘリカルギヤには噛合反力により軸方向のスラスト力が作用するため、相対回転する部材間に13個のスラストベアリングが配置される。
第1スラストベアリングT1は、変速機ケース13の一部を構成するステータシャフト19と第1クラッチC1のクラッチドラム23との間に配置される。第2スラストベアリングT2は、前記クラッチドラム23と第1クラッチC1のクラッチハブ22との間に配置される。第3スラストベアリングT3は、前記クラッチハブ22と第1遊星歯車機構PGSaの第1サンギヤSaとの間に配置される。第4スラストベアリングT4は、前記第1サンギヤSaと第1遊星歯車機構PGSaの第1キャリヤCaとの間に配置される。第5スラストベアリングT5は、第1遊星歯車機構PGSaの第1リングギヤRaに接続された連結部材27と第2遊星歯車機構PGSbの第2サンギヤSbとの間に配置される。第6スラストベアリングT6は、前記連結部材27と第1遊星歯車機構PGSaの第1キャリヤCaとの間に配置される。
第7スラストベアリングT7は、第2遊星歯車機構PGSbの第2サンギヤSbと第3遊星歯車機構PGScの第3キャリヤCcとの間に配置される。第8スラストベアリングT8は、前記第3キャリヤCcと第3遊星歯車機構PGScの第3サンギヤScとの間に配置される。第9スラストベアリングT9は、前記第3キャリヤCcと第2クラッチC2のクラッチドラム31との間に配置される。第10スラストベアリングT10は、第4遊星歯車機構PGSdの第4サンギヤSdと第4キャリヤCdとの間に配置される。第11スラストベアリングT11は、前記第4キャリヤCdと第3クラッチC3のクラッチドラム39との間に配置される。第12スラストベアリングT12は、前記クラッチドラム39と入力軸12に固定したスラストプレート49との間に配置される。第13スラストベアリングT13は、第3クラッチC3のクラッチハブ40と変速機ケース13との間に配置される。
第4遊星歯車機構PGSdの第4サンギヤSdと、第2クラッチC2のクラッチドラム31との間にはシム50(図3参照)が配置される。第1遊星歯車機構PGSaの第1キャリヤCaと、第1クラッチC1のクラッチハブ22から図中左側に延びる連結部材21とが突き当て部51(図2参照)で突き当てられる。そして第1スラストベアリングT1と、第1クラッチC1のクラッチドラム23との間には、入力軸12上に積み重ねられる各部品の寸法誤差を調整するためのシム52(図2参照)が配置される。
第2遊星歯車機構PGSbの第2サンギヤSbが第7スラストベアリングT7にスラスト荷重を伝達する荷重伝達面P1から、スラストプレート49が第12スラストベアリングT12からスラスト荷重を受ける荷重受け面P2までの距離L1は、荷重伝達面P1および荷重受け面P2間に配置される複数の部品、つまり第7スラストベアリングT7、第3遊星歯車機構PGScの第3キャリヤCc、第9スラストベアリングT9、第2クラッチC2のクラッチドラム31、シム50、第4遊星歯車機構PGSdの第4サンギヤSd、第10スラストベアリングT10、第4遊星歯車機構PGSdの第4キャリヤCd、第11スラストベアリングT11、第3クラッチC3のクラッチドラム39および第12スラストベアリングT12の軸方向長さの合計値よりも大きく設定されている(図3参照)。
第4遊星歯車機構PGSdの第4キャリヤCdに連結された連結部材38の図中右端外周面に形成された外周スプラインSPoと、第3遊星歯車機構PGScの第3キャリヤCcの図中左端内周面に形成された内周スプラインSPiとが噛合する(図6参照)。第3キャリヤCcの内周スプラインSPiの内径r1は第3遊星歯車機構PGScの第3サンギヤScの外径r2よりも大きく設定される。
第1遊星歯車機構PGSaの第1キャリヤCaが第4スラストベアリングT4にスラスト荷重を伝達する荷重伝達面P3から、第1クラッチC1のクラッチハブ22が第3スラストベアリングT3からスラスト荷重を受ける荷重受け面P4までの距離L2は、第4スラストベアリングT4、第1遊星歯車機構PGSaの第1サンギヤSaおよび第3スラストベアリングT3の軸方向長さの合計値よりも大きく設定される(図2参照)。
図4は第1〜第4遊星歯車機構PGSa,PGSb,PGSc,PGSdの共線図であり、上から下に順番に第4遊星歯車機構PGSd、第3遊星歯車機構PGSc、第1遊星歯車機構PGSaおよび第2遊星歯車機構PGSbに対応する。
例えば、上から3段目に示される第1遊星歯車機構PGSaのギヤ比はhであり、第1サンギヤSaおよび第1キャリヤCa間の距離と、第1キャリヤCaおよび第1リングギヤRa間の距離との比は、h:1に設定される。同様に第2遊星歯車機構PGSbのギヤ比はiであり、第3遊星歯車機構PGScのギヤ比はjであり、第4遊星歯車機構PGSdのギヤ比はkである。
各共線図における2本の平行な横線のうち、上側の横線は回転速度が「1」(入力軸12と同一回転速度)であることを意味し、下側の横線は回転速度が「0」(停止)であることを意味している。また破線で示す速度線は、第1〜第4遊星歯車機構PGSa,PGSb,PGSc,PGSdのうち、動力伝達する遊星歯車機構に追従して他の遊星歯車機構が空転することを示している。
図7は第1遊星歯車機構PGSa、第2遊星歯車機構PGSb、第3遊星歯車機構PGScおよび第4遊星歯車機構PGSdの第1〜第4サンギヤSa,Sb,Sc,Sdに作用するトルクの向きを示すもので、「+」はエンジンEのトルクの向きと同じであることを示し、「−」はエンジンEのトルクの向きと逆であることを示している。ヘリカルギヤよりなる第1〜第4サンギヤSa,Sb,Sc,Sdに作用するスラスト荷重の方向は、トルクの方向に応じて決定される。
図11から図15に示すように、第1遊星歯車機構PGSaの第1サンギヤSaには、1速変速段〜5速変速段で図中左向きのスラスト荷重が作用し、その他の変速段ではスラスト荷重が作用しない。第2遊星歯車機構PGSbの第2サンギヤSbには、全ての前進変速段で図中左向きのスラスト荷重が作用し、リバース変速段で図中右向きのスラスト荷重が作用する。第3遊星歯車機構PGScの第3サンギヤScには、8速変速段を除く前進変速段で図中左向きのスラスト荷重が作用し、リバース変速段で図中右向きのスラスト荷重が作用する。第4遊星歯車機構PGSdの第4サンギヤSdには、6速変速段、7速変速段、9速変速段および10速変速段で図中左向きのスラスト荷重が作用し、3速変速段、4速変速段およびリバース変速段で図中右向きのスラスト荷重が作用する。
図8は各変速段における第1〜第13スラストベアリングT1〜T13の差回転の一例を示すもので、1,000rpmは入力軸12および変速機ケース13間の差回転に相当する。例えば、入力軸12および変速機ケース13間に配置された第1スラストベアリングT1および第13スラストベアリングT13の差回転は1,000rpmである。
図9は各変速段における第1〜第13スラストベアリングT1〜T13に作用するスラスト荷重の一例を示すものである。第1〜第13スラストベアリングT1〜T13に作用するスラスト荷重はギヤのねじれ角により変化するため、図9にはその一例が示されている。
シングルピニオン型の遊星歯車機構のサンギヤおよびリングギヤは共通のピニオンに噛合するため、サンギヤおよびリングギヤが受けるスラスト荷重は同じ大きさで相互に逆向きになる。図10は第1遊星歯車機構PGSaの第1サンギヤSaおよび第1リングギヤRaのスラスト荷重F1と、第2遊星歯車機構PGSbの第2サンギヤSbおよび第2リングギヤRbのスラスト荷重F2と、第3遊星歯車機構PGScの第3サンギヤScおよび第3リングギヤRcのスラスト荷重F3と、第4遊星歯車機構PGSdの第4サンギヤSdおよび第4リングギヤRdのスラスト荷重F4とを、各変速段について示すものである。なお、図10におけるF1〜F4の数値は、それらの間の相対的な大きさを示している。
次に、上記構成を備えた本発明の実施の形態を説明する。
先ず、図1のスケルトン図、図4の共線図および図5の係合表に基づいて各変速段のトルクフローを説明する。図5の係合表における○印はクラッチあるいはブレーキが係合状態にあることを示している。また第2ブレーキB2は2ウェイクラッチで構成されるため、正転阻止状態Fと、逆転阻止状態Rとに切り換えられる。アンダーラインを施したFおよびRは、第2ブレーキB2の作用で第1キャリヤCaおよび第2キャリヤCbの回転速度が「0」になることを示している。
1速変速段の確立時には、第1ブレーキB1を係合し、第2ブレーキB2を逆転阻止状態にし、第3ブレーキB3を係合する。第2ブレーキB2を逆転阻止状態にすることで、第1キャリヤCaおよび第2キャリヤCbの逆転が阻止される。第1ブレーキB1を係合することで、第1サンギヤSaの回転速度が「0」になる。これにより、第1遊星歯車機構PGSaの三つの要素が相対回転不能なロック状態になり、第1リングギヤRa、第3キャリヤCcおよび第4キャリヤCdの回転速度も「0」になる。その結果、出力ギヤ29が接続された第2リングギヤRbの回転速度が図4に示す「1st」になり、1速変速段が確立する。
なお、1速変速段を確立するには第3ブレーキB3を係合する必要はないが、1速変速段を確立中に予め第3ブレーキB3を係合しておけば、1速変速段から2速変速段への移行をスムーズに行うことができる。また1速変速段でエンジンブレーキを作動させる必要がある場合には、第2ブレーキB2を逆転阻止状態から正転阻止状態に切り換えれば良い。
2速変速段の確立時には、第1ブレーキB1を係合し、第2ブレーキB2を逆転阻止状態にし、第3ブレーキB3を係合し、第2クラッチC2を係合する。第2ブレーキB2を逆転阻止状態にすることで、第1キャリヤCaおよび第2キャリヤCbの正転が許容される。第1ブレーキB1を係合することで、第1サンギヤSaの回転速度が「0」になる。第3ブレーキB3を係合することで、第4サンギヤSdの回転速度が「0」になる。第2クラッチC2を係合することで、第3リングギヤRcおよび第2サンギヤSbの回転速度が、第4サンギヤSdの回転速度と同一の「0」になる。その結果、出力ギヤ29が接続された第2リングギヤRbの回転速度が図4に示す「2nd」になり、2速変速段が確立する。
3速変速段の確立時には、第1ブレーキB1を係合し、第2ブレーキB2を逆転阻止状態にし、第3ブレーキB3を係合し、第3クラッチC3を係合する。第2ブレーキB2を逆転阻止状態にすることで、第1キャリヤCaおよび第2キャリヤCbの正転が許容される。第1ブレーキB1を係合することで、第1サンギヤSaの回転速度が「0」になる。第3ブレーキB3を係合することで、第4サンギヤSdの回転速度が「0」になる。第3クラッチC3を係合することで、第4リングギヤRdの回転速度が、入力軸12に接続された第3サンギヤScの回転速度と同一速度の「1」となる。このようにして、第4サンギヤSdの回転速度が「0」になり、第4リングギヤRdの回転速度が「1」になるため、第4キャリヤCdの回転速度、つまり第4キャリヤCd、第3キャリヤCcおよび第1リングギヤRaの回転速度はk/(k+1)となる。その結果、出力ギヤ29が接続された第2リングギヤRbの回転速度が図4に示す「3rd」になり、3速変速段が確立する。
4速変速段の確立時には、第1ブレーキB1を係合し、第2ブレーキB2を逆転阻止状態にし、第2クラッチC2を係合し、第3クラッチC3を係合する。第2ブレーキB2を逆転阻止状態にすることで、第1キャリヤCaおよび第2キャリヤCbの正転が許容される。第1ブレーキB1を係合することで、第1サンギヤSaの回転速度が「0」になる。第2クラッチC2を係合することで、第4サンギヤSd、第3リングギヤRcおよび第2サンギヤSbが同一速度で回転する。これにより第3遊星歯車機構PGScおよび第4遊星歯車機構PGSd間で、第3キャリヤCcと第4キャリヤCdとが連結され、第3リングギヤRcと第4サンギヤSdとが連結されることになり、第2クラッチC2を係合する4速変速段においては、第3遊星歯車機構PGScと第4遊星歯車機構PGSdとで四つの要素からなる一つの共線図を描くことができる。
そして第3クラッチC3を係合することで、第4リングギヤRdの回転速度が第3サンギヤScの回転速度と同一速度の「1」になり、第3遊星歯車機構PGScと第4遊星歯車機構PGSdとを構成する四つの要素のうちの二つの要素の回転速度が同一速度の「1」になる。その結果、第3遊星歯車機構PGScおよび第4遊星歯車機構PGSdは各要素が相対回転不能なロック状態になり、第3遊星歯車機構PGScおよび第4遊星歯車機構PGSdの全ての要素の回転速度が「1」になる。そして第1キャリヤCaおよび第2キャリヤCbの回転速度がh/(h+1)になり、出力ギヤ29が接続された第2リングギヤRbの回転速度が図4に示す「4th」になり、4速変速段が確立する。
5速変速段の確立時には、第1ブレーキB1を係合し、第2ブレーキB2を逆転阻止状態にし、第1クラッチC1を係合し、第3クラッチC3を係合する。第2ブレーキB2を逆転阻止状態にすることで、第1キャリヤCaおよび第2キャリヤCbの正転が許容される。第1ブレーキB1を係合することで、第1サンギヤSaの回転速度が「0」になる。第1クラッチC1を係合することで、第1キャリヤCaおよび第2キャリヤCbの回転速度が第3サンギヤScの回転速度と同一速度の「1」になる。その結果、出力ギヤ29が接続された第2リングギヤRbの回転速度が図4に示す「5th」になり、5速変速段が確立する。
なお、5速変速段を確立する際に第3クラッチC3を係合する必要はないが、5速変速段に隣接する4速変速段および6速変速段では第3クラッチC3を係合する必要があるため、5速変速段を確立中に第3クラッチC3を係合しておくことで4速変速段あるいは6速変速段へのシフトチェンジをスムーズに行うことができる。
6速変速段の確立時には、第2ブレーキB2を逆転阻止状態にし、第1クラッチC1を係合し、第2クラッチC2を係合し、第3クラッチC3を係合する。第2ブレーキB2を逆転阻止状態にすることで、第1キャリヤCaおよび第2キャリヤCbの正転が許容される。第2クラッチC2および第3クラッチC3を係合することで、4速変速段において説明したように、第3遊星歯車機構PGScと第4遊星歯車機構PGSdとがロック状態になり、第3リングギヤRcおよび第2サンギヤSbの回転速度が「1」になる。第1クラッチC1を係合することで第1キャリヤCaおよび第2キャリヤCbの回転速度が「1」になる。
これにより、第2遊星歯車機構PGSbは、第2キャリヤCbおよび第2サンギヤSbの回転速度が同一速度の「1」になり、各要素が相対回転不能なロック状態になる。その結果、出力ギヤ29が接続された第2リングギヤRbの回転速度が図4に示す「6th」の「1」になり、6速変速段が確立する。
7速変速段の確立時には、第2ブレーキB2を逆転阻止状態にし、第3ブレーキB3を係合し、第1クラッチC1を係合し、第3クラッチC3を係合する。第2ブレーキB2を逆転阻止状態にすることで、第1キャリヤCaおよび第2キャリヤCbの正転が許容される。第3ブレーキB3を係合することで、第4サンギヤSdの回転速度が「0」になる。第3クラッチC3を係合することで、第4リングギヤRdの回転速度が第3サンギヤScの回転速度と同一速度の「1」になり、第3キャリヤCc、第1リングギヤRaおよび第4キャリヤCdの回転速度がk/(k+1)になる。第1クラッチC1を係合することで、第1キャリヤCaおよび第2キャリヤCbの回転速度が、入力軸12に接続された第3サンギヤScの回転速度と同一速度の「1」になる。その結果、出力ギヤ29が接続された第2リングギヤRbの回転速度が図4に示す「7th」になり、7速変速段が確立する。
8速変速段の確立時には、第2ブレーキB2を逆転阻止状態にし、第3ブレーキB3を係合し、第1クラッチC1を係合し、第2クラッチC2を係合する。第2ブレーキB2を逆転阻止状態にすることで、第1キャリヤCaおよび第2キャリヤCbの正転が許容される。第3ブレーキB3を係合することで、第4サンギヤSdの回転速度が「0」になる。第2クラッチC2を係合することで、第3リングギヤRcおよび第2サンギヤSbの回転速度が第4サンギヤSdの回転速度と同一速度の「0」になる。第1クラッチC1を係合することで、第1キャリヤCaおよび第2キャリヤCbの回転速度が第3サンギヤScの回転速度と同一速度の「1」になる。その結果、出力ギヤ29が接続された第2リングギヤRbの回転速度が図4に示す「8th」になり、8速変速段が確立する。
9速変速段の確立時には、第2ブレーキB2を逆転阻止状態にし、第3ブレーキB3を係合し、第4ブレーキB4を係合し、第1クラッチC1を係合する。第2ブレーキB2を逆転阻止状態にすることで、第1キャリヤCaおよび第2キャリヤCbの正転が許容される。第3ブレーキB3を係合することで、第4サンギヤSdの回転速度が「0」になる。第4ブレーキB4を係合することで、第4リングギヤRdの回転速度も「0」になる。これにより、第4遊星歯車機構PGSdがロック状態になり、第4キャリヤCd、第3キャリヤCcおよび第1リングギヤRaの回転速度も「0」になる。
第1クラッチC1を係合することで、第1キャリヤCaおよび第2キャリヤCbの回転速度は第3サンギヤScの回転速度と同一速度の「1」になる。その結果、出力ギヤ29が接続された第2リングギヤRbの回転速度が図4に示す「9th」になり、9速変速段が確立する。
10速段の確立時には、第2ブレーキB2を逆転阻止状態にし、第4ブレーキB4を係合し、第1クラッチC1を係合し、第2クラッチC2を係合する。第2ブレーキB2を逆転阻止状態にすることで、第1キャリヤCaおよび第2キャリヤCbの正転が許容される。第2クラッチC2を係合することで、第3リングギヤRcおよび第2サンギヤSbが第4サンギヤSdと同一速度で回転する。第4ブレーキB4を係合することで、第4リングギヤRdの回転速度が「0」になる。第1クラッチC1を係合することで、第1キャリヤCaおよび第2キャリヤCbの回転速度が第3サンギヤScの回転速度と同一速度の「1」になる。その結果、出力ギヤ29が接続された第2リングギヤRbの回転速度が図4に示す「10th」になり、10速変速段が確立する。
リバース変速段の確立時には、第2ブレーキB2を正転阻止状態にし、第3ブレーキB3を係合し、第3クラッチC3を係合する。第3ブレーキB3および第3クラッチC3を係合することで、第3キャリヤCc、第1リングギヤRaおよび第4キャリヤCdの回転速度がk/(k+1)になる。第2ブレーキB2を正転阻止状態にすることで、第1キャリヤCaおよび第2キャリヤCbの正転が阻止され、第1キャリヤCaおよび第2キャリヤCbの回転速度が「0」になる。その結果、出力ギヤ29が接続された第2リングギヤRbの回転速度が図4に示す「Rvs」になり、リバース変速段が確立する。
次に、スラストベアリングのフリクションの低減について説明する。
第2遊星歯車機構PGSbの第2サンギヤSbには、全ての前進変速段において図中左向きのスラスト荷重F2が作用する(図7および図11参照)。スラスト荷重F2は第7スラストベアリングT7、第3遊星歯車機構PGScの第3キャリヤCc、第8スラストベアリングT8および第3遊星歯車機構PGScの第3サンギヤScを介して入力軸12に伝達され、入力軸12から第3クラッチC3のクラッチハブ40および第13スラストベアリングT13を介して変速機ケース13に伝達される。
その際に、図3に示すように、第2遊星歯車機構PGSbの第2サンギヤSbが第7スラストベアリングT7にスラスト荷重を伝達する荷重伝達面P1から、スラストプレート49が第12スラストベアリングT12からスラスト荷重を受ける荷重受け面P2までの距離L1は、荷重伝達面P1および荷重受け面P2間に配置される第7スラストベアリングT7、第3遊星歯車機構PGScの第3キャリヤCc、第9スラストベアリングT9、第2クラッチC2のクラッチドラム31、シム50、第4遊星歯車機構PGSdの第4サンギヤSd、第10スラストベアリングT10、第4遊星歯車機構PGSdの第4キャリヤCd、第11スラストベアリングT11、第3クラッチC3のクラッチドラム39および第12スラストベアリングT12の軸方向長さの合計値よりも大きく設定されているので、第2遊星歯車機構PGSbの第2サンギヤSbのスラスト荷重F2は入力軸12を介して最短経路で変速機ケース13に伝達されることになる。その結果、前記スラスト荷重F2が第4遊星歯車機構PGSd、スラストベアリングT9〜T12等の多くの部品を経由することが防止され、フリクションの低減や部品の薄肉化が可能になる。
また3速変速段および4速変速段では、第4遊星歯車機構PGSdの第4リングギヤRdに図中左向きのスラスト荷重F4(図7および図15参照)が作用するが、そのスラスト荷重F4は第4リングギヤRdからクラッチドラム39、第12スラストベアリングT12およびスラストプレート49を介して入力軸12に伝達し、そこから第13スラストベアリングT13を介して変速機ケース13で支持することができる。
図6は前記シム50(図3参照)の厚さを決定する手順を示すものである。先ず、入力軸12の外周に第3クラッチC3、第4ブレーキB4、第3ブレーキB3および第4遊星歯車機構PGSd等を組み付けておく。この状態で、第4遊星歯車機構PGSdの第4サンギヤSdのシム50に当接する面から、予め入力軸12にスプライン結合された第3遊星歯車機構PGScの第3サンギヤScの図中右端までの距離Xを測定する。
次に、予めサブアセンブリとして組み立てた第2クラッチC2のクラッチドラム31の図中左端(シム50に当接する面)から図中右端(第9スラストベアリングT9に当接する面)までの距離Yを測定する。また第3キャリヤCc、第3ピニオンPc、第8スラストベアリングT8および第9スラストベアリングT9をサブアセンブリとして予め組み立てておき、第9スラストベアリングT9の図中左端および第8スラストベアリングT8の図中左端までの距離Zを測定する。そしてX−(Y+Z)よりも僅かに小さい値をシム50の厚さとし、予め用意した複数種類の厚さのシム50の中から、上記厚さに対応するシム50を選択して使用すれば良い。
上述のようにして、予め組み付けられた第3キャリヤCcのサブアセンブリを入力軸12の外周に嵌合するように組み付ける際に、第3キャリヤCcの内周スプラインSPiは第3サンギヤScの外周を図中右側から左側に通過するが、第3キャリヤCcの内周スプラインSPiの半径r1は第3サンギヤScの半径r2よりも大きく設定されているため、第3サンギヤScと干渉することなく第3遊星歯車機構PGScのサブアセンブリを組み付けることができる。
以上のように、第3遊星歯車機構PGScの第3リングギヤRcおよび第4遊星歯車機構PGSdの第4サンギヤSdを結合可能な第2クラッチC2のクラッチドラム31と、第4遊星歯車機構PGSdの第4サンギヤSdとの間にシム50を配置したので、シム50の挿入により第4遊星歯車機構PGSdの各要素間の相対距離あるいは第2クラッチC2の各要素間の距離が影響を受けることがないだけでなく、第4遊星歯車機構PGSdおよび第2クラッチC2間のデッドスペースを利用してシム50を配置することができるので、自動変速機Tの軸方向寸法の増加を最小限に抑えることができる。
図2に示すように、第1遊星歯車機構PGSaの第1キャリヤCaの図中左側の端部と、第1クラッチC1のクラッチハブ22から延びる連結部材21の図中左側の端部とが突き当て部51において突き当てられるので、車両の減速走行時(エンジンブレーキ作動時)や車両の後進走行時に第2遊星歯車機構PGSbの第2サンギヤSbに作用する図中右向きのスラスト荷重は、第5スラストベアリングT5→連結部材27→第6スラストベアリングT6→第1遊星歯車機構PGSaの第1キャリヤCa→突き当て部51→連結部材21→第1クラッチC1のクラッチハブ22→第2スラストベアリングT2→第1クラッチC1のクラッチドラム23→シム52→第1スラストベアリングT1の経路でステータシャフト19(変速機ケース13)に伝達される。
このとき、仮に突き当て部51が存在しないとすると、第6スラストベアリングT6から第1遊星歯車機構PGSaの第1キャリヤCaに入力した荷重は、連結部材21を経由することなく、第4スラストベアリングT4→第1遊星歯車機構PGSaの第1サンギヤSa→第3スラストベアリングT3の経路で第1クラッチC1のクラッチハブ22→第2スラストベアリングT2に伝達されてしまい、高速回転する第1遊星歯車機構PGSaの第1サンギヤSaの両側の第4スラストベアリングT4および第3スラストベアリングT3に大きなフリクションが発生してしまうことになる。しかもスラスト荷重が第4スラストベアリングT4および第3スラストベアリングT3を経由すると、第4スラストベアリングT4および第3スラストベアリングT3の寸法公差分を補償するためにシム52の厚さの種類が増加してしまう問題がある。
一方、本実施の形態によれば、突き当て部51を設けたことにより前記スラスト荷重が第1遊星歯車機構PGSaの第1サンギヤSaを挟む第4スラストベアリングT4および第3スラストベアリングT3を迂回するため、第4スラストベアリングT4および第3スラストベアリングT3のフリクションが低減するだけでなく、それら寸法公差分を考慮する必要がなくなってシム52の厚さの種類を減らすことができる。
このとき、第1遊星歯車機構PGSaの第1キャリヤCaが第4スラストベアリングT4にスラスト荷重を伝達する荷重伝達面P3から、第1クラッチC1のクラッチハブ22が第3スラストベアリングT3からスラスト荷重を受ける荷重受け面P4までの距離L2は、第4スラストベアリングT4、第1遊星歯車機構PGSaの第1サンギヤSaおよび第3スラストベアリングT3の軸方向長さの合計値よりも大きいので、第2遊星歯車機構PGSbから入力される図中右向きのスラスト荷重が第4スラストベアリングT4および第3スラストベアリングT3を経由して変速機ケース13に伝達される事態を回避してフリクションを確実に低減することができる。
なお、前記突き当て部51が設けられた第1遊星歯車機構PGSaの第1キャリヤCaの端部は、第6スラストベアリングT6の保持部を兼ねている。
次に、第1遊星歯車機構PGSa、第2遊星歯車機構PGSb、第3遊星歯車機構PGScおよび第4遊星歯車機構PGSdのヘリカルギヤのねじれ角の方向の設定について説明する。
第2遊星歯車機構PGSbの第2リングギヤRbは出力ギヤ29と一体に形成されているため、第2リングギヤRbが発生する図中右向きのスラスト荷重F2は出力ギヤ29およびボールベアリング30,30を介して変速機ケース13に伝達される。従って、第2遊星歯車機構PGSbの第2サンギヤSbが発生する図中左向きのスラスト荷重F2を、第2遊星歯車機構PGSbの第2リングギヤRbが発生する図中右向きのスラスト荷重F2と直接相殺することはできず、何れかの経路で変速機ケース13に伝達して支持する必要がある。このとき、第2サンギヤSbの図中左向きのスラスト荷重F2を他の遊星歯車機構が発生するスラスト荷重と相殺することができれば、それが変速機ケース13に伝達される経路に存在するスラストベアリングのフリクションを低減することができる。
このような観点から、本実施例では、図11に示すように、第2遊星歯車機構PGSbの第2サンギヤSbが発生する図中左向きのスラスト荷重F2を、それに隣接する第3遊星歯車機構PGScの第3リングギヤRcが発生する図中右向きのスラスト荷重F3と連結部材28上で直ちに相殺し、その差分であるスラスト荷重F2−F3だけを第8スラストベアリングT8、第3遊星歯車機構PGScの第3サンギヤSc、入力軸12および第13スラストベアリングT13を介して変速機ケース13に伝達している。
図10から明らかなように、本実施の形態では、全ての前進変速段において、第2サンギヤSbの図中左向きのスラスト荷重F2は第3リングギヤRcの図中右向きのスラスト荷重F3よりも大きくなり、その差分であるスラスト荷重F2−F3は常に図中左向きになっている。しかしながら、上記したF2>F3の関係が常に成り立つ必要はなく、低速変速段(例えば、1速変速段や2速変速段)においてF2<F3となるようにギヤの捩じれ角を設定しても良い。なぜならば、発進や低速走行に使用される低速変速段ではもともと動力伝達の損失が大きいため、F2>F3の関係が成り立っても得られるフリクション低減効果が小さいからである。
また第2サンギヤSbの図中左向きのスラスト荷重F2は第7スラストベアリングT7および第8スラストベアリングT8に入力されるが、そのスラスト荷重F2の一部を第3リングギヤRcの図中右向きのスラスト荷重F3で相殺することで、第7スラストベアリングT7および第8スラストベアリングT8の負荷を低減することができる。
なお、図11では、第1遊星歯車機構PGSaおよび第4遊星歯車機構PGSdは無負荷であると仮定している。
図7および図12に示すように、第1遊星歯車機構PGSaの第1サンギヤSaおよび第1リングギヤRaには、1速変速段〜5速変速段だけにスラスト荷重F1が作用し、しかも第1サンギヤSaの図中左向きのスラスト荷重F1と第1リングギヤRaの図中右向きのスラスト荷重F1とは等しくなる。そして第1サンギヤSaの図中左向きのスラスト荷重F1は、第4スラストベアリングT4→第1キャリヤCa→第6スラストベアリングT6→連結部材27の経路で第1リングギヤRaに伝達され、第1リングギヤRaの図中右向きのスラスト荷重F1と完全に相殺されるため、そのスラスト荷重F1が他の遊星歯車機構に影響を及ぼすことがない。
遊星歯車機構のサンギヤに作用するスラスト荷重の向きは、そのサンギヤの回転方向(トルクの方向)と歯面の捩じれ角の方向とにより決定されるが、捩じれ角の方向は変化しないため、回転方向の変化に応じてスラスト荷重の方向が変化することになる。またシングルピニオン型の遊星歯車機構では、サンギヤに作用するスラスト荷重とリングギヤに作用するスラスト荷重とは相互に逆方向を向くことになる。
本実施の形態では、第4遊星歯車機構PGSdの第4サンギヤSdの回転方向(トルクの方向)が図7に示すようになるため、第4遊星歯車機構PGSdの第4サンギヤSdおよび第4リングギヤRdのスラスト荷重F4は、3速変速段、4速変速段およびリバース変速段では、それぞれ図中右向きおよび図中左向きであるが、6速変速段、7速変速段、9速変速段および10速変速段では、それぞれ図中左向きおよび図中右向きに変化する。第4サンギヤSdおよび第4リングギヤRdのスラスト荷重F4の向きを上記のように設定することで、次のような作用効果を得ることができる。
図8に示すように、高速変速段である9速変速段および10速変速段では、第12スラストベアリングT12の差回転が最大の1000rpmになってフリクションが増大する問題があるが、第4サンギヤSdおよび第4リングギヤRdのスラスト荷重F4の向きを上記のように設定することで、図13に示すように、9速変速段および10速変速段において、第4サンギヤSdおよび第4リングギヤRdのスラスト荷重F4が第10スラストベアリングT10および第11スラストベアリングT11において相殺され、差回転が大きい第12スラストベアリングT12に伝達されなくなり、第12スラストベアリングT12のフリクションを効果的に低減することができる。
ところで、6速変速段では第4遊星歯車機構PGSdの第4サンギヤSdに作用する図中右向きのスラスト荷重F4が大きくなる(図10参照)。従って、第4遊星歯車機構PGSdの第4リングギヤRdおよび第4サンギヤSdに作用するスラスト荷重F4の方向を、図13で説明した実施の形態と逆に設定したと仮定すると、図14に示すように、第7スラストベアリングT7には図中左向きのスラスト荷重F2−F3と、第4サンギヤSdから第9スラストベアリングT9を介して伝達される図中右向きのスラスト荷重F4とが入力する。6速変速段では図中右向きのスラスト荷重F4が大きくなるため、その合力であるF2−F3−F4が負値になり、第7スラストベアリングT7を図中右向き付勢してしまう可能性がある。
このような事態になると、第7スラストベアリングT7を図中右向き付勢するスラスト荷重は、第7スラストベアリングT7→第5スラストベアリングT5→第6スラストベアリングT6→第2スラストベアリングT2→第1スラストベアリングT1の経路でステータシャフト19(変速機ケース13)まで伝達され、その経路に存在する前記5個のスラストベアリングT7〜T5,T2,T1のフリクションが増加してしまう。
以上のことから、6速変速段、7速変速段、9速変速段および10速変速段において、第4遊星歯車機構PGSdの第4サンギヤSdのスラスト荷重F4が図中左向きになるように、ヘリカルギヤのねじれ角を設定する必要がある。
ところで、上述したように、6速変速段、7速変速段、9速変速段および10速変速段で第4遊星歯車機構PGSdの第4サンギヤSdのスラスト荷重F4が図中左向きになるようにヘリカルギヤのねじれ角を設定すると、3速変速段および4速変速段では第4遊星歯車機構PGSdの第4サンギヤSdのスラスト荷重F4の向きが逆転して図中右向きになるため(図7参照)、図14で説明したように、第4サンギヤSdのスラスト荷重F4が5個のスラストベアリングT7〜T5,T2,T1に伝達されてしまう可能性がある。
しかしながら、3速変速段および4速変速段における第4サンギヤSdの図中右向きのスラスト荷重F4は、6速変速段における第4サンギヤSdの図中右向きのスラスト荷重F4に比べて小さいため(図10参照)、その合力であるF2−F3−F4が負値になることはなく、スラスト荷重F4が5個のスラストベアリングT7〜T5,T2,T1を介してステータシャフト19(変速機ケース13)に伝達されてしまう事態を回避することができる(図15参照)。
また3速変速段および4速変速段では第4遊星歯車機構PGSdの第4リングギヤRdの図中左向きのスラスト荷重F4が第12スラストベアリングT12に伝達されてしまうが、3速変速段および4速変速段では第12スラストベアリングT12の差回転がゼロであるため(図8参照)、スラスト荷重F4が入力しても第12スラストベアリングT12のフリクションが増加する問題は発生しない。
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
例えば、実施の形態では第3遊星歯車機構PGScの第3サンギヤScを入力軸12にスプライン結合しているが、その第3サンギヤScを入力軸12と一体に形成しても良い。
また実施の形態では第2ブレーキB2を2ウェイクラッチで構成しているが、それを多板型のブレーキで構成することができる。
また実施の形態では第13スラストベアリングT13は入力軸12から入力されるスラスト荷重をボールベアリング48の外輪を介して変速機ケース13に伝達しているが、第13スラストベアリングT13を廃止し、ボールベアリング48をスラスト荷重も支持可能なボールベアリング(例えば、アンギュラボールベアリング)に変更することで、入力軸12から入力されるスラスト荷重を変速機ケース13に伝達しても良い。