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JP5614590B2 - リチウムイオン二次電池 - Google Patents

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Description

本発明は、高電圧化に適したリチウムイオン二次電池に関する。
リチウムイオン二次電池は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出可能な正負の電極と、これら両電極間に介在されたセパレータとを備える。該セパレータには非水電解液が含浸されており、該電解液中のリチウムイオンが両電極間を行き来することにより充放電を行う。軽量でエネルギー密度が高いため、各種携帯機器の電源として普及している。また、車両等の大容量電源を要する分野においても利用が期待されており、さらなる高エネルギー密度化が求められている。リチウムイオン二次電池に関する技術文献として、特許文献1が挙げられる。
特開2007−524204号公報
高エネルギー密度化は、例えば、電池の高電圧化(使用時における上限電圧を高くすること)によって実現され得る。高電圧化の手段としては、例えば、正極材料として、一般的なリチウムイオン二次電池の典型的な使用態様における上限電圧よりも高い電位(例えば、正極電位が4.3V(対Li/Li)以上)まで充電される態様においても正極活物質として好適に機能し得るリチウム遷移金属化合物を使用することが検討されている。また、これに伴い、電解液成分(溶媒等)の耐酸化性向上も求められており、電解液溶媒として、フッ素化された有機溶媒を用いることが報告されている。しかしながら、一般に、物質の耐酸化性と耐還元性とは相反する特性であるので、一方を向上させると、他方が低下してしまう。そのため、耐酸化性の高い溶媒を含む電解液は、負極電位が低い状態のとき(典型的には電池が満充電状態またはそれに近い状態にあるとき、例えば、負極電位が0.1V(対Li/Li)程度のとき)、負極において該溶媒が還元分解しやすく、このため、該電池を満充電状態で長期間保存すると、該電池の容量が著しく低下したり、直流抵抗が大幅に増加したりする場合があった。
本発明は、上限電圧値の高い(例えば4.3V以上の)条件で好適に使用可能なリチウムイオン二次電池を提供することを一つの目的とする。本発明の他の目的は、かかるリチウムイオン二次電池を利用した電源装置の提供である。
本発明によると、正極活物質を有する正極と、負極活物質を有する負極と、非水溶媒と支持塩とを含む電解液Pと、を備えるリチウムイオン二次電池が提供される。上記正極活物質は、非水溶媒と支持塩とを含む電解質組成物Qによって被覆されている。上記電解質組成物Qは、高分子材料を10〜17質量%の割合で含み、ゲル状である。この組成物Qに含まれる非水溶媒の酸化電位(対Li/Li)は、上記電解液Pに含まれる非水溶媒の酸化電位(対Li/Li)よりも高い(典型的には0.1V以上、好ましくは0.2V以上、例えば0.3V〜1.0V程度高い。)。
ましい一態様では、上記正極活物質を含有する多孔質層を有する正極において、該多孔質層の微細な孔(細孔)の少なくとも一部(典型的には、少なくとも上記外表面に近接する部分にある細孔)に電解質組成物Qが入り込んで(浸み込んで)いる。高分子材料とは、ポリマー材料(一種または二種以上の単量体が結合して連なった(典型的には、かかる単量体が少なくとも5単位以上、通常は10単位以上連なった)構造を有する材料。)を指す。「電解質組成物Qに含まれる非水溶媒の酸化電位(対Li/Li)が電解液Pに含まれる非水溶媒の酸化電位(対Li/Li)よりも高い」とは、電解質組成物Qに含まれる非水溶媒(二種以上の非水溶媒の混合物であり得る。)について測定される酸化電位が、電解液Pに含まれる非水溶媒(二種以上の非水溶媒の混合物であり得る。)について測定される酸化電位よりも高いことを指す。ここで、酸化電位(酸化分解開始電位としても把握され得る。)とは、後述する酸化電位測定方法において、評価用セルに対し、段階的に電圧を高くしつつ定電圧充電を実施した場合に、電流値が0.1mAより大きくなったときの電位をいう。以下において、ゲル状の電解質組成物を単に電解質ゲルと称することがある。なお、上記電解液Pは溶液状である。
かかるリチウムイオン二次電池では、電解液Pが溶液状である一方、電解質組成物Qはゲル状であるので、これらが混ざり合うことなく分離された状態に維持され得る。また、電解質ゲルQに含まれる高分子材料の割合が10〜17質量%の範囲にあるので、電解質Qと電解液Pとが一部混ざり合う現象(電解質ゲルQから電解質成分が染み出て電解液Pに混ざって負極に接触する現象や、電解質ゲルQに電解液Pが浸み込んで正極に接触する現象)が効果的に抑制されて好適な分離状態が実現され得る一方、ゲル化による直流抵抗の増加が軽減され得る。また、かかる分離状態の実現により、電解液Pおよび電解質ゲルQの特性(耐酸化性、耐還元性等)を別々に制御することが可能である。さらには、電解質組成物Qがゲル状であるので、正極上に固定され、負極との直接接触が防止され、該電解質組成物Q中に含まれる溶媒の負極表面における還元分解が実質的に回避され得る。加えて、電解液Pと上記正極との間に電解質ゲルQが介在した構成であることから、電解液Pに含まれる溶媒が正極表面において酸化されて分解したり変質したりする(その結果、高抵抗被膜が形成されること等により電池性能を低下させ得る)現象が抑制され得る。これらのことから、例えば、従来の一般的なリチウムイオン二次電池より高い電圧値(例えば4.3V以上)でも好適に使用可能であり、且つ満充電状態で保存しても容量の低下や直流抵抗の上昇が少ないリチウムイオン二次電池が実現され得る。
好ましい一態様では、上記電解質ゲルQに含まれる非水溶媒は、酸化電位(対Li/Li)が4.3Vよりも高い。ここで、該電解質ゲルQに含まれる非水溶媒が二種以上の非水溶媒の混合物(混合溶媒)である場合、「上記電解質ゲルQに含まれる非水溶媒の酸化電位(対Li/Li)が4.3Vよりも高い」とは、該非水溶媒の全体について測定される酸化電位が4.3Vよりも高いことをいう。かかる態様のリチウムイオン二次電池は、上限電圧が4.3V以上の条件で好適に使用され得る。好ましい一態様では、上記混合溶媒に含まれる各成分(非水溶媒)のそれぞれについて測定される酸化電位が、いずれも4.3Vより高い。
他の好ましい一態様では、上記電解質組成物Qに含まれる非水溶媒は、酸化電位(対Li/Li)が、当該電池の満充電状態における正極活物質の電位(後述する作動電位をいう。)(対Li/Li)よりも高い。かかるリチウムイオン二次電池では、電池を満充電しても(SOC(State Of Charge)が100%の状態にしても)、上記電解質ゲルQに含まれる非水溶媒が酸化分解され難いので、正極の抵抗増加が抑制され得る。なお、「満充電する」とは、所望の容量(典型的には、電池設計で決められた定格容量)を確保するための上限電圧でSOC100%となるまで電池を充電することを指す。「満充電状態」とは、上記所望の容量を確保するための上限電圧で充電してSOC100%となった状態を指す。また、「満充電電位(対Li/Li)」とは、上記上限電圧(充放電制御システムの充電上限電位としても把握され得る。)における金属リチウム基準の正極電位を意味する。
他の好ましい一態様では、上記電解質組成物Qに含まれる非水溶媒のうち95体積%以上が、フッ素化されたカーボネートの少なくとも一種からなる。フッ素化されたカーボネートは、酸化電位(対Li/Li)が、対応するカーボネートよりも高い傾向にある。したがって、かかるリチウムイオン二次電池は、より高い上限電圧設定で使用可能であり、且つ満充電状態で保存されても容量の低下や直流抵抗の上昇が少ないものであり得る。
他の好ましい一態様では、上記リチウムイオン二次電池が、上記電解質組成物Qと上記負極との間に配置された多孔質プラスチック層をさらに備える。典型的には、上記多孔質プラスチック層の細孔には上記電解液Pが含浸している。かかるプラスチック層は物理的な細孔を有し、かかる細孔を通してリチウムイオンが効率的に両極間を移動することができる。好ましい一態様では、温度が該プラスチック層の融点に達すると、これら細孔が溶融により閉口する。すなわち、かかるプラスチック層を上記所定の場所に有するリチウムイオン二次電池には、従来の電池と同様に、過充電による過熱が発生した場合に充放電が停止されるシャットダウン機能が具備され得る。
ここに開示される技術の他の側面として、ここに開示されるリチウムイオン二次電池と、この電池に電気的に接続され、該電池の少なくとも上限電圧値を規定する制御回路と、を備える電源装置が提供される。ここで、上記上限電圧値は4.3V以上に設定されている。かかる電源装置は、その比較的高く設定された上限電圧値においても上記リチウムイオン二次電池の容量低下が少ないものであり得る。
上述のとおり、ここに開示されるリチウムイオン二次電池は、従来の一般的なリチウムイオン二次電池より高い上限電圧値の条件でも好適に使用可能であり、例えば満充電状態で保存しても容量の低下や直流抵抗の上昇が少ないので、車両において使用される電源として好適である。したがって、本発明によると、ここに開示されるいずれかのリチウムイオン二次電池を備えた車両が提供される。特に、かかるリチウムイオン二次電池を動力源(典型的には、ハイブリッド車両または電気車両の動力源)として備える車両(例えば自動車)が好ましい。
一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の外形を模式的に示す斜視図である。 図1におけるII−II線断面図である。 本発明のリチウムイオン二次電池を備えた車両(自動車)を模式的に示す側面図である。 本発明の一実施態様に係るリチウムイオン二次電池の構成概念を模式的に示す断面図である。 本発明の他の一実施態様に係るリチウムイオン二次電池の構成概念を模式的に示す断面図である。 一実施形態に係るリチウムイオン二次電池を含む電源システムを示す説明図である。
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明し、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
図4に示されるように、本発明の一実施態様に係るリチウムイオン二次電池500は、容器510内に、正極集電体532上に正極活物質層534を有する正極530と、負極集電体542上に負極活物質層544を有する負極540と、電解質ゲル(電解質組成物Q)536と、液状電解質(電解液P)537とを備える。正極活物質層534は正極活物質534Aを主成分とする層であり、負極活物質層544は負極活物質544Aを主成分とする層である。正極活物質層534は、電解質ゲル536で被覆されている。液状電解質537は、負極活物質層544には接するが、正極活物質層534には直に接しないように該電池内に含まれている。換言すれば、互いに相の異なる電解質組成物(電解質ゲルQ,電解液P)が、正極側(「正極に接するように」の意味)および負極側(「負極に接するように」の意味)にそれぞれ配置された構成を有する。すなわち、正極側に配置された電解質組成物Qはゲル相であり、負極側に配置された電解液Pは溶液相である。
本発明のリチウムイオン二次電池は、図4に示す電池500を変形した態様でも好ましく実施され得る。例えば、この電池500において、正極集電体532の片面(典型的には、負極に対向する面)のみに正極活物質層534を有し、この正極活物質層534を覆うように電解質ゲル536が付与された構成の電池(典型的には、負極についても、負極集電体542の片面(典型的には、正極に対向する面)のみに負極活物質層544が付与されている。)等も、ここに開示される電池の実施形態に含まれる。
正極側と負極側とで互いに組成が異なる電解質組成物を用いる場合、これらがいずれも液相であると、これら二種の溶液が混合して均一になるのを防ぐために、例えば、Li伝導性を有する一方これら二種の電解液の他成分に対する透過性が実質的にない物質からなる液相分離膜(例えば、リシコンからなる層)を間に介在させることが求められる。しかしながら、このような液密の分離膜はLi伝導速度が十分でない場合があり、該分離膜を介在させることにより充放電効率が著しく低下し得る。一方、ここに開示されるリチウムイオン二次電池では、正極側と負極側とで、互いに組成およびそれに伴う特性(少なくとも耐酸化性)が異なるのみならず互いに相の異なる電解質ゲルQと電解液Pとをそれぞれ用いる。したがって、上述のような液相分離膜を使用する必要がないため、より高いLi伝導速度が実現され得る。なお、ここに開示される技術は、図5に示されるように、図4に示すリチウムイオン二次電池500またはこれを上述のように変形した電池において、両極間に、電解液Pが透過可能な絶縁層(例えば多孔質プラスチック層)550をセパレータとして更に配置した態様でも好ましく実施され得る。
ここに開示されるリチウムイオン二次電池において、上記電解質組成物Qは、正極活物質層中の細孔および該正極活物質層表面に付与されている(保持されている)。この正極活物質層は、例えば、SOC0%〜100%のうち少なくとも一部範囲における作動電位(対Li/Li)が一般的なリチウムイオン二次電池(作動電位の上限が4.1V程度)よりも高い正極活物質を含む。例えば、作動電位(対Li/Li)が4.3Vよりも高いSOC範囲を有する正極活物質(換言すれば、SOC0%〜100%における作動電位の最高値が4.3Vよりも高い正極活物質)を好ましく使用することができる。好ましく使用され得る正極活物質としては、LiNiMn2−P(0.2≦P≦0.6;例えば、LiNi0.5Mn1.5),LiNiPO,LiCoPO,LiMnO等が例示される。
ここで、作動電位としては、以下のようにして測定される値を採用するものとする。すなわち、測定対象たる正極活物質を含む正極と、対極としての金属リチウムと、参照極としての金属リチウムと、EC:DMC=30:70(体積基準)の混合溶媒中に濃度1MのLiPFを含む電解液とを用いて三極セルを構築する。このセルの理論容量に基づき、SOC0%からSOC100%まで、5%刻みで調整する(例えば、定電流充電により調整する。)。このとき、各SOC値において、上記セルを1時間放置した後、正極電位(対Li/Li)を測定し、上記正極活物質の該SOC値における作動電位とする。
なお、通常、SOC0%〜100%の間で正極活物質の作動電位が最も高くなるのはSOC100%を含む範囲であるため、SOC100%(すなわち満充電状態)における作動電位が4.3Vよりも高い正極活物質を、作動電位が4.3Vよりも高いSOC範囲を有する正極活物質として把握することができる。満充電状態における正極活物質の作動電位(対Li/Li)(以下、「正極活物質の満充電電位」と表記することもある。)は、4.4Vより高いことがより好ましく、4.5Vより高いことがさらに好ましい。ここに開示される技術は、典型的には、正極活物質の満充電電位(対Li/Li)が7.0V以下(例えば5.0V以下)であるリチウムイオン二次電池に好ましく適用される。
上記電解質組成物Qは、ゲル状である。上記正極活物質に付与された態様の電解質ゲルは、例えば、非水溶媒(有機溶媒)中に支持塩を含む非水電解液に、ポリマー前駆体、重合開始剤等を加えた前駆体溶液を、正極活物質層に付与した後、適当な条件下に保持してゲル化させる(例えば、重合反応を進行させる)ことで形成することができる。典型的には、上記前駆体溶液を正極活物質層に十分に含浸させ、所望の電解質ゲル量に応じて余剰分の該前駆体溶液を該正極活物質層から適宜除去した後、適当な条件下(温度等)において重合反応に供する。重合温度は適宜選択すればよく、例えば、80〜140℃程度とすることができる。重合時間についても、適宜選択すればよく、例えば、5分〜3時間程度とすることができる。なお、ここでいう「重合反応」は、上記前駆体溶液のゲル化(硬化)に寄与し得るものであればよく、例えば架橋反応、縮合反応等であり得る。正極活物質層への上記前駆体溶液の含浸は、例えば、減圧下または真空下で行ってもよい。上記前駆体溶液の余剰分の除去は、含浸処理後の上記正極活物質層の表面に適宜の圧力(例えば、0.01MPa〜0.1MPa程度)を加えながら該余剰分の溶液を押し出すようにして実施することができる。上記電解質ゲルQに含まれる高分子材料(ポリマー)の割合(典型的には、上記前駆体溶液に含まれるポリマー前駆体の割合と略同等である。)は、凡そ10〜17質量%(好ましくは凡そ10〜15質量%)とする。
電解質ゲルQに含まれる高分子材料の割合を上記範囲とすることにより、電解質ゲルQと電解液Pとが一部混ざり合う現象を効果的に抑制することができる。例えば、後述する直流抵抗測定における評価条件のように正極と負極との間で電解質ゲルQが強く圧迫されても、該電解質ゲルQが亀裂を生じたり潰れ(崩れ)たりしてそこから電解液Pが正極に直接到達する事象が防止され得る。このことは、電解質ゲルQが正極と負極との間で圧迫された態様の電池において特に有益である。かかる態様の電池として、シート状の正極および負極が重ね合わされて緊密に捲回された捲回電極体を備える電池、その捲回電極体を径方向に押しつぶして扁平形状とし(あるいは、正負の電極シートを重ね合わせて扁平に捲回し)、その扁平方向に負荷(圧縮応力)が加わった状態で使用される電池(上記電極体を図1に示すように扁平な箱形の容器に収容し、該容器の扁平方向に拘束してなる電池;かかる電池を扁平方向に複数積層し、その積層方向に拘束してなる組電池;等であり得る。)等が例示される。また、電池をより強く圧縮することは、該電池のエネルギー密度の観点から有利である。したがって、上記のように電解質ゲルQが正負極間で強く圧迫された状態において好適な特性を示すことは、車両搭載用電池のように高エネルギー密度化の要請の強い用途向けの電池において殊に有意義である。
上記電解質組成物Qのうち、上記正極活物質層表面に積層された部分の厚み(正極活物質層表面から電解質ゲル層表面までの距離)は特に制限されない。例えば、正極表面に積層された部分を比較的厚くすることにより、両極間の絶縁層としての機能を高めることが可能である。一方、リチウムイオンの移動距離を短くして出力効率(Li伝導率)を高める観点、電池の軽量化および薄型化を図る等の観点からは、上記積層部の厚みは大きすぎない方が好ましい。これらのバランスを考慮して、上記厚みを例えば10μm〜100μm程度とすることができる。上記積層部の厚みが比較的薄い場合、両極間に、多孔質の絶縁層をセパレータとして介在させることが好ましい。この多孔質絶縁層は、例えば、両極間に介在された多孔質プラスチック層であり得る。かかる多孔質プラスチック層は、図5に例示する絶縁層550のように独立した部材(セパレータシート)であってもよく、他の部材と一体化した層(例えば、負極活物質層の表面に固定された層)であってもよい。
上記非水溶媒としては、酸化電位(対Li/Li)が使用する正極活物質の満充電電位(対Li/Li)より高い有機溶媒を適宜選択して使用することが好ましい。好ましくは、酸化電位(対Li/Li)が正極活物質の満充電電位(対Li/Li)より0.1V以上(例えば0.2V以上であり、0.3V以上であってもよく、0.5V以上であってもよい。)高い有機溶媒が使用され得る。かかる有機溶媒は、一種のみを単独で、または二種以上を組み合わせて用いることができる。かかる構成のリチウムイオン二次電池は、正極活物質に接している電解質組成物Q中の有機溶媒の酸化電位(対Li/Li)が、該電池のSOCが100%の状態における正極電位よりも高いものであり得る。したがって、正極における該溶媒の酸化分解が、より高度に抑制され得る。電解質組成物Qに含まれる非水溶媒の全量のうち、使用する正極活物質の満充電電位よりも酸化電位の高い有機溶媒の占める量が、50体積%を超える量であることが好ましく、より好ましくは75体積%以上、さらに好ましくは90体積%以上(例えば95体積%以上)であり、実質的に全部(例えば98体積%以上、典型的には100体積%)であってもよい。
電解質組成物Qの非水溶媒として、典型的には、フッ素化された有機溶媒を使用する。好ましいフッ素化有機溶媒としては、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、トリフルオロジメチルカーボネート(TFDMC)、ジフルオロジメチルカーボネート(メチルジフルオロメチルカーボネート、ジ(フルオロメチル)カーボネート)、フッ素化エステル、フッ素化エーテル等のフッ化カーボネート類(環状、直鎖状、分岐鎖状のいずれであってもよい。)が例示される。上記電解質組成物Qに含まれる非水溶媒のうち、典型的には50体積%以上、例えば75体積%以上(より好ましくは95体積%以上、さらに好ましくは99体積%以上)が、上記フッ化カーボネート類のうち少なくとも一種であることが好ましい。上記非水溶媒の実質的に全てが、一種または二種以上のフッ化カーボネートであってもよい。
なお、非水溶媒の酸化電位(対Li/Li)としては、以下の方法に従って測定された値を採用するものとする。
LiFePOを用いて作用極を作製する。詳しくは、LiFePOと、アセチレンブラック(導電材)と、PVDF(結着剤)とを、これらの質量比が85:5:10となるように混合し、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)に分散させてスラリー状の組成物を調製する。これをアルミニウム箔状に塗付し、乾燥後にロールプレスして作用極(正極)シートを作製する。上記作用極と、対極としての金属リチウムと、作用極としての金属リチウムと、測定対象たる電解液とを用いて三極セルを構築する。この三極セルに対し、該作用極から完全にLiを脱離させる処理を行う。具体的には、温度25℃において、該作用極の理論容量から予測した電池容量(Ah)の1/5の電流値で4.2Vまで定電流充電を行い、4.2Vにおいて電流値が初期電流値(すなわち、電池容量の1/5の電流値)の1/50となるまで定電圧充電を行う。次いで、測定対象電解液の酸化電位が含まれると予測される電圧範囲(典型的には4.2Vよりも高い電圧範囲)において、任意の電圧で定電圧充電を所定時間(例えば、10時間程度)行い、その際の電流値を測定する。より具体的には、上記電圧範囲のなかで電圧を段階的に(例えば、0.2Vステップで)高くし、各段階において定電圧充電を所定時間(例えば、10時間程度)行い、その際の電流値を測定する。定電圧充電時の電流値が0.1mAより大きくなったときの電位を、上記電解液の酸化電位とする。
上記電解質組成物Qに含まれる支持塩としては、一般的なリチウムイオン二次電池に支持塩として用いられるリチウム塩を、適宜選択して使用することができる。かかるリチウム塩として、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、Li(CFSON、LiCFSO等が例示される。かかる支持塩は、一種のみを単独で、または二種以上を組み合わせて用いることができる。特に好ましい例として、LiPFが挙げられる。上記非水電解液は、例えば、上記支持塩の濃度が0.7〜1.3mol/Lの範囲内となるように調製することが好ましい。
上記ポリマー前駆体としては、ゲル化後の特性(電気化学的安定性、熱安定性等)が所望の電池構成および使用条件に適応した材料(モノマーまたはオリゴマーであり得る。)を、一種のみを単独で、または二種以上を組み合わせて用いることができる。上記ポリマー前駆体は、多官能性あるいは単官能性であり得る。通常は、2個または3個以上の重合性(架橋性)官能基を有するポリマー前駆体(多官能性ポリマー前駆体)が好ましく使用される。好ましいポリマー前駆体として、ポリエチレンオキサイド(PEO),ポリプロピレンオキサイド(PPO),ポリアクリロニトリル(PAN),ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等が例示される。典型的には、熱重合性(熱架橋性)の官能基を有するポリマー前駆体が使用される。ここに開示される技術において好ましく用いられるポリマー前駆体の具体例としては、例えば、第一工業製薬株式会社製の品番「TA140」やその類似品を挙げることができる。上記ポリマー前駆体の使用量は、所望のゲル化度に応じて適宜選択する。本明細書においては、上述のとおり、上記電解質ゲルQに含まれるポリマーの割合と、上記前駆体溶液に含まれるポリマー前駆体の割合とが略同等であるものとして、該前駆体溶液の10〜17質量%程度(好ましくは10〜15質量%程度)とすることができる。
上記重合開始剤は、使用するポリマー前駆体の種類に応じて適宜選択して用いることができる。典型的には熱重合開始剤が使用される。熱重合開始剤としては、アゾ系、過酸化物系等の、従来公知の各種開始剤を用いることができる。好ましい重合開始剤として、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、過酸化ベンゾイル(BPO)等が例示される。上記重合開始剤の使用量は適宜選択すればよく、例えば、上記ポリマー前駆体に対して、0.1〜3質量%程度とすることができる。
上記非水電解液には、その他の添加剤として、一般的なリチウムイオン二次電池の電解液に添加され且つ上記重合反応を阻害しないもの、あるいは上記重合反応の制御に寄与し且つ正極に対して電気化学的に安定なもの、等を加えてもよい。
上記電解液Pは、負極と上記電解質組成物Qとの両方に接するように配置され、典型的には、少なくとも負極の活物質層に含浸されている。両極間にセパレータが配置される場合、該セパレータにも含浸されている。かかる電解液Pとしては、一般的なリチウムイオン二次電池において使用される非水電解液(すなわち、非水溶媒(有機溶媒)中に支持塩を含む溶液)を使用することができる。
上記電解液Pに含まれる非水溶媒としては、一般的なリチウムイオン二次電池の電解液に用いられ、負極での還元分解が起こり難い有機溶媒を適宜選択して使用することができる。これら有機溶媒は、一種のみを単独で、または二種以上を組み合わせて用いることができる。例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)等のカーボネート類(環状、直鎖状、分岐鎖状のいずれであってもよい。)を用いることができる。これらカーボネート類のうち少なくとも一種を使用することが好ましい。例えば、ECとDMCとの混合溶媒が好ましく使用され得る。なお、これら溶媒の一部は、負極表面で還元分解して該負極表面における副反応(還元分解等)を抑制する機能を有する表面被膜(SEI;Solid Electrolyte Interphase(固体電解質界面))を形成し得る。
上記電解液Pに含まれる支持塩としては、上記電解質組成物Qに含まれる支持塩と同様に、一般的なリチウムイオン二次電池用支持塩を用いることができる。典型的には、上記電解質組成物Qで用いた支持塩と同じ支持塩を使用する。特に好ましい例として、LiPFが挙げられる。電解液Pは、例えば、上記支持塩の濃度が0.7〜1.3mol/Lの範囲内となるように調製することが好ましい。
ここに開示されるリチウムイオン二次電池の好ましい一態様では、対応する理論容量30mAhのラミネートセル型評価用電池が、以下の特性:温度25℃にて、1/5CのレートでSOC60%に調製した後、350kg/25cmの負荷をかけて拘束した状態で1/3C,1C,3Cのレートで充電および放電を行い、そのときの過電圧を測定する評価試験において、測定された過電圧値を対応する電流値(例えば、1/3Cでは10mA)で除することで求められる初期直流抵抗が10Ω以下であり、且つ満充電状態で40℃の条件下に10日間保存した後において同様の条件で測定された保存後直流抵抗が11Ω以下である;を有する。上記初期直流抵抗および上記保存後直流抵抗は、いずれも10Ω以下であることがより好ましい。
この明細書により開示される事項には、ここに開示されるいずれかのリチウムイオン二次電池を、上記上限電圧値が4.3V以上(典型的には4.5V以上、例えば4.7V以上)に設定された充放電条件で使用する方法が含まれる。また、かかるリチウムイオン二次電池(複数個の電池を直列および/または並列に接続してなる組電池の形態であってもよい。)と、該電池を上記上限電圧値となり得るように設定された充放電条件で制御する制御機構(制御装置)とを備えた電源装置が含まれる。
上記電源装置は、例えば図6に示す電源装置800のように、リチウムイオン二次電池500と、これに接続された負荷802と、リチウムイオン二次電池500の状態に応じて負荷802の作動を調節する電子制御ユニット(ECU)804とを含む構成であり得る。負荷802は、リチウムイオン二次電池500に蓄えられた電力を消費する電力消費機および/または電池500に充電可能な電力供給機(充電器)を含み得る。ECU804は、所定の情報に基づいて、電池500の上限電圧値が4.3V以上の所定値(例えば4.5V)となるように負荷802を制御する。ECU804の典型的な構成には、少なくとも、かかる制御を行うためのプログラムを記憶したROM(Read Only Memory)と、そのプログラムを実行可能なCPU(Central Processing Unit)とが含まれる。上記所定の情報としては、例えば、電池500の電圧、各電極電位、充放電履歴、等のうち一または二以上の情報を利用可能である。ここに開示されるリチウムイオン二次電池500は、例えば、図6に示すような電源装置800の一構成要素として、図3に示すような車両(典型的には自動車、特にハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車のような電動機を備える自動車)1に搭載され得る。
以下、図面を参照しつつ、ここに開示されるリチウムイオン二次電池について、正負の電極を含む電極体と非水電解液とが角型形状の電池ケースに収容された態様のリチウムイオン二次電池100(図1)を例にして更に詳しく説明するが、本発明の適用対象をかかる実施形態に限定することを意図したものではない。すなわち、本発明に係るリチウムイオン二次電池の形状は特に限定されず、その電池ケース、電極体等は、用途や容量に応じて、素材、形状、大きさ等を適宜選択することができる。例えば、電池ケースは、直方体状、扁平形状、円筒形状等であり得る。
リチウムイオン二次電池100は、図1および図2に示されるように、捲回電極体20を、電解液P(符号37で表わす。)とともに、該電極体20の形状に対応した扁平な箱状の電池ケース10の開口部12より内部に収容し、該ケース10の開口部12を蓋体14で塞ぐことによって構築することができる。また、蓋体14には、外部接続用の正極端子38および負極端子48が、それら端子の一部が蓋体14の表面側に突出するように設けられている。
上記電極体20は、長尺シート状の正極集電体32の表面に正極活物質層34が形成され、さらに電解質組成物Q(符号36で表わす。)が付与された正極シート30と、長尺シート状の負極集電体42の表面に負極活物質層44が形成された負極シート40とを、典型的には2枚の長尺シート状のセパレータ50と共に重ね合わせて捲回し、得られた捲回体を側面方向から押しつぶして拉げさせることによって扁平形状に成形されている。なお、上述のとおり、正極活物質層34の表面に積層された電解質ゲル36を絶縁層として機能し得る厚みとする場合等には、セパレータ50の使用を省くことも可能である。
正極シート30は、その長手方向に沿う一方の端部において正極集電体32が露出している。同様に、捲回される負極シート40は、その長手方向に沿う一方の端部において、負極集電体42が露出している。そして、正極集電体32の該露出端部に正極端子38が、負極集電体42の該露出端部には負極端子48がそれぞれ接合され、上記扁平形状に形成された捲回電極体20の正極シート30または負極シート40と電気的に接続されている。正負極端子38,48と正負極集電体32,42とは、例えば超音波溶接、抵抗溶接等によりそれぞれ接合することができる。
正極シート30は、上述のように、例えば、上述した正極活物質を必要に応じて導電材や結着剤(バインダ)等とともに適当な溶媒(例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等)に分散させたペースト状またはスラリー状の組成物(正極合材)を正極集電体32に付与し、これを乾燥させて正極活物質層34を形成し、この正極活物質層に、上述した手法に準じて上記前駆体溶液を十分に含浸させ、余剰分の前駆体溶液があればこれを除去した後、重合反応に供し、電解質組成物Qからなるゲル相36を付与することにより好ましく作製することができる。正極活物質層に含まれる正極活物質の量は、例えば、69〜98質量%程度とすることができる。
導電材としては、カーボン粉末やカーボンファイバー等の導電性粉末材料が好ましく用いられる。カーボン粉末としては、種々のカーボンブラック、例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、グラファイト粉末等が好ましい。導電材は、一種のみを単独で、または二種以上を組み合わせて用いることができる。
正極活物質層に含まれる導電材の量は、正極活物質の種類や量に応じて適宜選択すればよく、例えば、1〜30質量%程度とすることができる。
結着剤としては、種々の結着性ポリマー類から選択される一種または二種以上を用いることができる。例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリプロピレンオキサイド(PPO)、ポリエチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体(PEO−PPO)等の有機溶媒溶解性のポリマーを好ましく使用することができる。他の使用可能な結着剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)、ポリビニルアルコール(PVA)等の水溶性ポリマー;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重含体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等のフッ素系樹脂、酢酸ビニル共重合体、スチレンブタジエンブロック共重合体(SBR)、アクリル酸変性SBR樹脂(SBR系ラテックス)、アラビアゴム等のゴム類(水分散性ポリマー);等が挙げられる。正極活物質層に含まれる結着剤の量は、正極活物質および導電材の種類や量に応じて適宜選択すればよく、例えば、1〜10質量%程度とすることができる。
正極集電体32には、導電性の良好な金属からなる導電性部材が好ましく用いられる。例えば、アルミニウムまたはアルミニウムを主成分とする合金を用いることができる。正極集電体32の形状は、リチウムイオン二次電池の形状等に応じて異なり得るため、特に制限はなく、棒状、板状、シート状、箔状、メッシュ状等の種々の形態であり得る。本実施形態ではシート状のアルミニウム製の正極集電体32が用いられ、捲回電極体20を備えるリチウムイオン二次電池100に好ましく使用され得る。かかる実施形態では、例えば、厚みが10μm〜30μm程度のアルミニウムシートが好ましく使用され得る。
負極シート40は、例えば、負極活物質を、必要に応じて結着剤(バインダ)等とともに適当な溶媒に分散させたペースト状またはスラリー状の組成物(負極合材)を負極集電体42に付与し、該組成物を乾燥させることにより好ましく作製することができる。
負極活物質としては、従来からリチウムイオン二次電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定なく使用することができる。例えば、少なくとも一部にグラファイト構造(層状構造)を含む粒子状の炭素材料(カーボン粒子)を用いることができる。いわゆる黒鉛質のもの(グラファイト)、難黒鉛化炭素質のもの(ハードカーボン)、易黒鉛化炭素質のもの(ソフトカーボン)、これらを組み合わせた構造を有するもののいずれも好ましく使用され得る。具体例として、天然黒鉛等が挙げられる。
結着剤には、上述の正極と同様のものから選択される一種または二種以上を用いることができる。負極活物質層に含まれる結着剤の量は特に制限されず、負極活物質の種類や量に応じて適宜選択すればよい。
負極集電体42としては、導電性の良好な金属からなる導電性部材が好ましく用いられる。例えば、銅または銅を主成分とする合金を用いることができる。また、負極集電体42の形状は、リチウムイオン二次電池の形状等に応じて異なり得るため、特に制限はなく、棒状、板状、シート状、箔状、メッシュ状等の種々の形態であり得る。本実施形態ではシート状の銅製の負極集電体42が用いられ、捲回電極体20を備えるリチウムイオン二次電池100に好ましく使用され得る。かかる実施形態では、例えば、厚みが6μm〜30μm程度の銅製シートを好ましく使用され得る。
セパレータ50(上述の多孔質プラスチック層に相当する。)は、正極シート30および負極シート40の間に介在する層であって、典型的にはシート状をなし、正極シート30表面(電解質組成物Qにより表面が被覆された正極活物質層34)と、負極シート40表面(負極活物質層44)にそれぞれ接するように配置される。そして、正極シート30と負極シート40における両電極活物質層34,44の接触に伴う短絡防止や、該セパレータ50の空孔内に上述の電解液Pを含浸させることにより電極間の伝導パス(導電経路)を形成する役割を担っている。かかるセパレータ50としては、従来公知のものを特に制限なく使用することができる。例えば、樹脂からなる多孔性シート(微多孔質樹脂シート)を好ましく用いることができる。ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン等の多孔質ポリオレフィン系樹脂シートが好ましい。単層構造シートおよび多層構造シートのいずれであってもよい。かかる多孔質プラスチック層の好適例としては、多孔質ポリオレフィンフィルム、例えばポリエチレン(PE)単層フィルム、ポリプロピレン(PP)/PE/PP三層フィルム等が挙げられる。セパレータの厚みは、例えば、凡そ10μm〜40μmの範囲内で設定することが好ましい。
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において「部」および「%」は、特に断りがない限り質量基準である。
<例1>
正極合材として、LiNi0.5Mn1.5(正極活物質)とアセチレンブラック(導電材)とPVDF(結着剤)とを、これらの質量比が87:10:3となるように混合し、NMPに分散させてスラリー状組成物を調製した。この正極合材を、厚さ15μmのアルミニウム箔(正極集電体)の片面に塗付した後乾燥させて正極活物質層を形成し、ロールプレスして正極シートを作製した。この正極シートを、一角に幅10mmの帯状部が突き出た5cm×5cmの正方形に切り出した。その帯状部から上記活物質層を除去し、アルミニウム箔を露出させて端子部を形成し、端子部付きの正極シートを得た。
負極合材として、天然黒鉛(負極活物質;平均粒径20μm,黒鉛化度≧0.9)とCMC(増粘剤)とSBR(結着剤)とを、これらの質量比が98:1:1となるように混合し、イオン交換水に分散させてスラリー状の組成物を調製した。この負極合材を、厚さ10μmの銅箔(負極集電体)の片面に、乾燥後の塗付量が正極と負極との理論容量比で1:1.5程度となるように塗布して乾燥させた後、ロールプレスして負極シートを作製した。この負極シートを、上記端子部付正極シートと同じ面積および形状に加工して、端子部付負極シートを得た。
FECとTFDMC(FHCO(C=O)CHF)とを体積比1:1の割合で含む混合溶媒に、LiPFを1mol/Lの濃度となるように溶解して非水電解液Aを調製した。
上記端子部付正極シートと、適切な大きさに切り出して上記電解液Aを含浸させたセパレータ(多孔質PP/PE/PP三層シート)と、上記端子部付負極シートとを、この順に重ね合わせ、ラミネートフィルムで覆った。ここへ上記電解液Aを更に注入し、該フィルムを封止して理論容量(1C容量;1Cは、1時間で満充放電可能な電流値)が30mAhのラミネートセル型電池を構築した。
<例2>
ECとDMCとを体積比1:1の割合で含む混合溶媒に、LiPFを1mol/Lの濃度となるように溶解して非水電解液Bを調製した。非水電解液Aの代わりに該非水電解液Bを用いた他は例1と同様にして、1C容量が30mAhのラミネートセル型電池を構築した。
<例3>
例1と同様の端子部付正極シートと、電解液Aを含浸させたセパレータ(多孔質PP/PE/PP三層シート)と、液相分離膜(隔壁材)としてのリシコンシート(オハラ社製;Li1+x+yAlTi2−xSiyP3-y12(x≒0.53,y≒0.16),厚さ100μm)と、例1と同様の端子部付負極シートとを、この順に重ね合わせ、ラミネートフィルムで覆った。このとき、上記リシコンシートの三辺を該ラミネートフィルムに接着剤(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製の商品名「アラルダイト」)で固定した。上記正極シートと上記セパレータとの間および上記リシコンシートと上記負極シートとの間に電解液Bを注入して該フィルムを封止し、1C容量が30mAhのラミネートセル型電池を構築した。この際、上記リシコンシートの残る一辺を該ラミネートフィルムの封止口部分に同様に固定した。すなわち、リシコンシートの四辺をラミネートフィルムに固定することによって、電解液Bがリシコンシートおよびセパレータとラミネートフィルムとの間をすり抜けて一方の電極側から他方の電極側へ移動したりしないようにした。
<例4>
電解液A95部とPEO系ポリマー前駆体(第一工業製薬株式会社製、品番「TA140」)5部とを混合したものに、AIBN(熱重合開始剤)0.1部を加えて攪拌し、前駆体溶液を得た。例1の正極シートの正極活物質層上にこの前駆体溶液を押し出し圧0.05MPaにて付与した後、該正極シートを温度60℃の乾燥炉に120分間保持して重合反応を進行させ、電解質ゲルpAが付与された正極シートを作製した。これを、例1と同様の面積および形状に加工して、端子部を設けた。
上記端子部付きのpAゲル付き正極シート、電解液Bを含浸させたセパレータ(多孔質PP/PE/PP三層シート)、例1と同様の端子部付き負極シートを、この順に重ね合わせ、ラミネートフィルムで覆った。ここへ電解液Bを更に注入し、該フィルムを封止して、1C容量が30mAhのラミネートセル型電池を構築した。
<例5>
電解液AとPEO系ポリマー前駆体との割合を、93:7とした他は例4と同様にして、1C容量が30mAhのラミネートセル型電池を構築した。
<例6>
電解液AとPEO系ポリマー前駆体との割合を、90:10とした他は例4と同様にして、1C容量が30mAhのラミネートセル型電池を構築した。
<例7>
電解液AとPEO系ポリマー前駆体との割合を、87:13とした他は例4と同様にして、1C容量が30mAhのラミネートセル型電池を構築した。
<例8>
電解液AとPEO系ポリマー前駆体との割合を、85:15とした他は例4と同様にして、1C容量が30mAhのラミネートセル型電池を構築した。
<例9>
電解液AとPEO系ポリマー前駆体との割合を、83:17とした他は例4と同様にして、1C容量が30mAhのラミネートセル型電池を構築した。
<例10>
電解液AとPEO系ポリマー前駆体との割合を、80:20とした他は例4と同様にして、1C容量が30mAhのラミネートセル型電池を構築した。
[コンディショニング処理]
各電池セルを二枚の板で挟み、350kgf(350kg/25cm)の負荷がかかる状態に拘束した。拘束した各電池セルに対して、1/3Cのレートで4.9Vまで充電する操作と、1/3Cのレートで3.5Vまで放電させる操作とを3回繰り返した。以下の測定等は、特に断りがない限り拘束したままの電池セルに対して行った。
[初期容量]
例1〜6に係る各電池セルに対し、温度25℃にて、1/5Cのレートで両端子間の電圧が4.9VとなるまでCC充電を行った後、電流値が1/50Cとなるまで定電圧(CV)充電を行って、満充電状態とした。次いで、1/5Cのレートで電圧が3.5VとなるまでCC放電させ、このときの放電容量を測定して初期容量とした。なお、充電終了後充電機をはずしたとき(過電圧が解除された状態)の両端子間電圧は、いずれも4.7〜4.8V程度であった。
[初期直流抵抗]
初期容量測定後の各電池セルに対し、温度25℃にて、1/5CのレートにてSOCが60%となるまでCC充電を行った。SOC60%に調整した各電池に対して1/3C,1C,3Cのレートで充電および放電を行い、そのときの過電圧を測定した。測定された過電圧値を対応する電流値(例えば、1/3Cでは10mA)で除することで抵抗を算出して初期直流抵抗とした。
[保存後の容量および容量維持率]
別途作製し、コンディショニング処理を施した例1〜6に係る各電池セルを、初期容量の測定時と同様にして満充電状態とした。次いで、温度40℃で10日間保持した後、温度25℃で5時間保持し、1/5Cのレートで電圧が3.5VとなるまでCC放電させ、このときの放電容量を測定して保存後容量とした。この保存後容量の初期容量に対する百分率を保存後容量維持率として算出した。
[保存後の直流抵抗]
保存後の各電池セルに対し、上記初期直流抵抗と同様にして直流抵抗を測定し、保存後の直流抵抗とした。該保存後直流抵抗の初期直流抵抗に対する百分率から、抵抗増加率(%)を算出した。
例1〜6の電池の構成を表1に、上記評価試験の結果を表2に示す。なお、表1において、正極側電解質組成物の種類(A,B,pA等)に続くカッコ内の数字は、ゲルに含まれる高分子材料(ポリマー)の割合(質量%)を指す。また、電解液A,Bについて、上述した方法に従って、4.2V〜5.2Vの範囲で電圧を0.2Vずつ変え、各電圧値で10時間定電圧充電を行い、これら電解液の酸化電位(すなわち、含まれる溶媒の酸化電位)を測定したところ、電解液Aの酸化電位は5.0〜5.2V、電解液Bの酸化電位は4.6〜4.8Vであった。
Figure 0005614590
Figure 0005614590
表1,2に示されるとおり、正極側、負極側ともに同じ電解液Aを用いてなる例1の電池セルは、保存後の抵抗増加率は比較的低かったものの、容量は満充電状態にて40℃10日間保存したのみで30%も低下した。これは、電解液Aの溶媒(フッ化カーボネート)の耐酸化性が比較的高かったことで、正極表面における該溶媒の酸化反応が防止されて該正極における抵抗増加は抑制されたものの、満充電状態の電池内において、電解液中の有機溶媒が負極表面で還元分解され、大きな不可逆容量が生じたことによるものと考えられる。
両極側に同じ電解液Bを用いてなる例2の電池セルは、例1の電池セルに比べて保存後の容量低下は少なかった。これは、電解液Bの溶媒(主にEC)から、負極での副反応(還元分解)を抑制するSEIが負極表面に効果的に形成され、不可逆容量の発生が抑制されたことによると考えられる。しかし、保存後の抵抗増加率は151%と非常に高かった。これは、満充電状態の電池内において、電解液B中の有機溶媒が正極表面で酸化され被膜を形成することにより、正極抵抗が顕著に増加したことによるものと考えられる。
両極間に隔壁材を配置することにより正極側に電解液Aを、負極側に電解液Bを用いることを実現した例3の電池セルは、満充電状態での保存後の容量低下は少なかった。これは、電解液Bを負極側のみに配置したことによる効果と考えられる。しかし、初期直流抵抗が10Ωを超える高さであったことは、電解液Aを正極側に配置したことで正極表面における高抵抗被膜の形成が回避されてもなお、隔壁材を用いたことによって両極間でのLiイオン伝導率が著しく低下した結果として直流抵抗が上昇したことを示すものである。
正極側に電解質ゲルpAを用い、負極側に電解液Bを用いてなる例4〜10の電池セルのうち、例4,5に係る電池セルは、満充電状態での保存後において容量が著しく低下した。このことは、これら電池において、ゲルpA中のポリマー量が10%未満であったので、電解質ゲルpAの溶媒の一部が染み出て電解液Bと混ざり合い、該溶媒が負極と接触したことで、負極表面における還元分解によって大きな不可逆容量が発生したことによると考えられる。
例10に係る電池セルにおいては、ゲルpA中のポリマー量が高かったことにより、電解質ゲルpAと電解液Bとの一部混合が起こらず、満充電状態での保存後も容量低下が少なかった。しかし、ポリマー割合が20質量%と高すぎたため、ゲル内でのLiイオン伝導率が低下したことによって、保存前の直流抵抗が10.6Ω、保存後の直流抵抗が12.1Ωと、固体の隔壁材を用いた例3の電池セルと同程度の高さとなった。
他方、ゲル中のポリマー量が10〜17質量%の範囲にある例6〜9に係る電池セルは、ゲル化によって直流抵抗が微増したものの、例3,9の電池セルの絶対値よりも著しく低い値が実現され、且つ直流抵抗の増加率はゲル化していない例1,3の電池と同程度に低く抑えられた。また、満充電状態での保存後の容量維持率は、いずれも90%以上と高い結果を示した。
以上、本発明を詳細に説明したが、上記実施形態および実施例は例示にすぎず、ここで開示される発明には上述の具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
1 車両
20 捲回電極体
30 正極シート
32 正極集電体
34 正極活物質層
36 電解質組成物Q
37 電解液P
38 正極端子
40 負極シート
42 負極集電体
44 負極活物質層
48 負極端子
50 セパレータ
100,500 リチウムイオン二次電池
530 正極
534 正極活物質層
534A 正極活物質
536 電解質ゲル(電解質組成物Q)
537 液状電解質(電解液P)
540 負極
544 負極活物質層
544A 負極活物質
550 絶縁層(セパレータ)
800 電源装置
804 電子制御ユニット(制御装置)

Claims (6)

  1. 正極活物質を有する正極と、
    負極活物質を有する負極と、
    非水溶媒と支持塩とを含む電解液Pと、
    を備え、
    前記正極活物質は、非水溶媒と支持塩とを含む電解質組成物Qによって被覆されており、
    ここで、前記電解Pに含まれる非水溶媒としてカーボネート類の少なくとも一種が使用され、
    前記電解質組成物Qは、高分子材料を10〜17質量%の割合で含むゲルであり、該組成物Qに含まれる非水溶媒の酸化電位(対Li/Li)は、前記電解液Pに含まれる非水溶媒の酸化電位(対Li/Li)よりも高く、
    前記電解質組成物Qに含まれる非水溶媒のうち75体積%以上は、フッ素化されたカーボネートの少なくとも一種からなる、リチウムイオン二次電池。
  2. 前記電解質組成物Qに含まれる非水溶媒は、酸化電位(対Li/Li)が4.3Vよりも高い、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
  3. 前記電解質組成物Qに含まれる非水溶媒は、酸化電位(対Li/Li)が、前記電池の満充電状態における前記正極活物質の電位(対Li/Li)よりも高い、請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池。
  4. 前記電解質組成物Qに含まれる非水溶媒のうち95体積%以上は、フッ素化されたカーボネートの少なくとも一種からなる、請求項1から3のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
  5. 前記電解質組成物Qと前記負極との間に配置された多孔質プラスチック層をさらに備える、請求項1から4のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
  6. 請求項1から5のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池と、
    前記電池に電気的に接続され、該電池の少なくとも上限電圧値を規定する制御回路と、
    を備え、
    前記上限電圧値が4.3V以上に設定されている、電源装置。
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