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JP5612245B2 - 熱発泡性マイクロスフェアー及びその製造方法並びに組成物 - Google Patents

熱発泡性マイクロスフェアー及びその製造方法並びに組成物 Download PDF

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JP5612245B2 JP2007501697A JP2007501697A JP5612245B2 JP 5612245 B2 JP5612245 B2 JP 5612245B2 JP 2007501697 A JP2007501697 A JP 2007501697A JP 2007501697 A JP2007501697 A JP 2007501697A JP 5612245 B2 JP5612245 B2 JP 5612245B2
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Description

本発明は、重合体から形成された外殻内に発泡剤が封入された構造を持つ熱発泡性マイクロスフェアーに関し、さらに詳しくは、ナトリウムイオンやマグネシウムイオン、塩素イオン等のイオン性不純物の含有量が少ない熱発泡性マイクロスフェアーに関する。
また、本発明は、高分子材料、塗料、粘着剤、インク、または水系媒体中に、イオン性不純物の含有量が少ない熱発泡性マイクロスフェアー若しくはその発泡体が分散した組成物に関する。さらに、本発明は、イオン性不純物の含有量が少ない熱発泡性マイクロスフェアーの製造方法に関する。
熱発泡性マイクロスフェアーは、揮発性の発泡剤を重合体によりマイクロカプセル化したものであり、熱膨張性マイクロカプセルまたは熱膨張性微小球とも呼ばれている。熱発泡性マイクロスフェアーは、一般に、水系分散媒体中で、少なくとも重合性単量体と発泡剤を含有する重合性単量体混合物を懸濁重合する方法により製造することができる。重合反応が進むにつれて、生成する重合体により外殻(シェル)が形成され、その外殻内に発泡剤が包み込まれるようにして封入された構造を持つ熱発泡性マイクロスフェアーが得られる。
外殻を形成する重合体としては、一般に、ガスバリア性が良好な熱可塑性樹脂が用いられている。外殻を形成する重合体は、加熱により軟化する。発泡剤としては、加熱によりガス状になる炭化水素などの低沸点化合物が用いられている。熱発泡性マイクロスフェアーを加熱すると、発泡剤が気化して膨脹する力が外殻に働くが、同時に外殻を形成する重合体の弾性率が急激に減少する。そのため、ある温度を境にして、急激な膨脹が起きる。この温度を発泡開始温度という。熱発泡性マイクロスフェアーは、発泡開始温度以上の温度に加熱すると、それ自体が膨脹して、発泡体粒子(独立気泡体)を形成する。
熱発泡性マイクロスフェアーは、発泡体粒子を形成する特性を利用して、意匠性付与剤、機能性付与剤、軽量化剤などとして、広範な分野で用いられている。より具体的に、熱発泡性マイクロスフェアーは、例えば、合成樹脂(熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂)やゴムなどのポリマー材料、塗料、インク、水系媒体などに添加して用いられている。それぞれの用途分野で高性能化が要求されるようになると、熱発泡性マイクロスフェアーに対する要求水準も高くなってきている。熱発泡性マイクロスフェアーに対する要求性能の一つとして、イオン性不純物の含有量の低減が挙げられる。
前記したとおり、熱発泡性マイクロスフェアーは、水系分散媒体中で、少なくとも重合性単量体と発泡剤を含有する重合性混合物を懸濁重合する方法により製造されている。水系分散媒体は、重合性混合物を安定かつ均一な液滴として懸濁させるために、一般に、イオン交換水などの水系分散媒体に分散安定剤や分散助剤を添加して調製されている。
具体的に、例えば、水系分散媒体中に分散安定剤として水酸化マグネシウムコロイドを含有させると、粒径分布がシャープな熱発泡性マイクロスフェアーを得ることができる。水系分散媒体中に分散助剤として塩化ナトリウムや硫酸ナトリウムなどの無機塩を含有させると、より均一な粒子形状を有する熱発泡性マイクロスフェアーを得ることができる。水系分散媒体に重合助剤として亜硝酸ナトリウムを含有させると、重合時に重合体粒子同士の凝集を防ぎ、かつ、重合缶壁へのスケールの付着を防ぐことができる。
分散安定剤として使用した水酸化マグネシウムコロイドは、アルカリ条件下では難水溶性であるが、重合後に酸を添加して酸性または中性条件にすると、溶解してマグネシウムイオンを生成する。塩化ナトリウムなどの無機塩は、重合反応混合物中に含まれており、イオン性不純物となる。亜硝酸ナトリウムは、酸性条件下で部分的に分解して、ナトリウムイオンを発生することがある。
重合終了後、一般に、重合反応混合物から熱発泡性マイクロスフェアーを濾過し、水洗することにより不純物を除去している。しかし、通常の洗浄により精製した熱発泡性マイクロスフェアーには、微量ではあるが、ナトリウムイオンなどの周期表1A族金属イオン(「アルカリ金属イオン」ともいう)、マグネシウムイオンなどの周期表2A族金属イオン(広義の「アルカリ土類金属イオン」)、塩素イオンなどハロゲンイオン、またはこれらの混合物がイオン性不純物として残留しており、それが様々な不都合の原因となったり、あるいは新たな用途展開の妨げになったりしていることが判明した。
自動車の車体底部に塗装する耐チッピング塗料の軽量化のために、熱発泡性マイクロスフェアーを添加した耐チッピング塗料を使用すると、熱発泡性マイクロスフェアーに含まれているイオン性不純物が車体底部における錆びの発生原因となる。粘着剤層中に熱発泡性マイクロスフェアーを含有する粘着シートは、熱発泡性マイクロスフェアーを加熱発泡させると粘着力が低下するため、電子部品加工時の仮固定用材料や剥離可能なラベルなどの用途に適している。しかし、熱発泡性マイクロスフェアーに含まれる微量のイオン性不純物が電子部品を汚染したり、金属部材や金属めっき部分を腐食したりしやすい。
熱発泡性マイクロスフェアーに含まれるイオン性不純物の量を低減するには、重合後の洗浄工程で十分に水洗を行う方法が考えられるが、どの程度までイオン性不純物を低減させれば、要求水準を満足させることができるのかが不明瞭であった。また、水洗回数や洗浄水の使用量を増やすと、濾過時間が長くなって生産性が低下し、排水量も増加する。したがって、作業量の軽減、コストの低減、排水量の抑制などの観点からは、単に十分に水洗をすればよいというものではない。さらに、外殻の重合体が結合ハロゲン原子を有する重合性単量体(「ハロゲン化重合性単量体」ともいう)を用いて形成されたものであると、熱発泡性マイクロスフェアーの発泡や成形、乾燥などの際に加熱されて、塩素イオンなどのハロゲンイオンが生成しやすい。
従来、基材の少なくとも一方の面に熱膨張性微小球(すなわち、熱発泡性マイクロスフェアー)を含有する熱膨張性粘着層が形成された加熱剥離型粘着シートであって、該熱膨張性粘着層中に腐食防止成分を含有させた加熱剥離型粘着シートが提案されている(特開2004−175960号公報)。該文献には、熱膨張性粘着層中にイオン吸着剤や防錆剤などの腐食防止成分を含有させると、イオン成分を除去することなく、イオン成分を無害化することができると記載されている。
しかし、腐食防止成分を添加する方法では、粘着剤中に腐食防止成分を極めて小さな平均粒径を有する微粒子として均一に分散させるために、分散工程や塗工工程を精密に制御する必要がある。それに加えて、腐食防止成分が不均一に分散している箇所があると、イオン性不純物が部分的に残留してしまう。また、この方法では、熱発泡性マイクロスフェアーが含有するイオン性不純物量が不明であるため、腐食防止成分の添加量を厳密に調節することが困難である。腐食防止成分を多量に添加すると、粘着力などの粘着特性に悪影響が生じる。
本発明の課題は、イオン性不純物の含有量が少なく、腐食防止などの要求水準を満足する熱発泡性マイクロスフェアーを提供することにある。
また、本発明の課題は、イオン不純物の含有量が低減された熱発泡性マイクロスフェアーを含有する組成物を提供することにある。
本発明の他の課題は、洗浄工程を簡単な方法により制御することにより、所望の水準の導電率、ひいては所望のイオン性不純物含有量を有する熱発泡性マイクロスフェアーを製造する方法を提供することにある。
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意研究した結果、熱発泡性マイクロスフェアーの水抽出液の導電率を1mS/cm(1000μS/cm)以下、好ましくは0.5mS/cm(500μS/cm)以下に制御することにより、ナトリウムイオンやマグネシウムイオン、塩素イオンなどのイオン性不純物の含有量が、腐食防止及び/または汚染防止の要求水準を満足する熱発泡性マイクロスフェアーの得られることを見出した。
熱発泡性マイクロスフェアーの水抽出液の導電率を低減させるには、重合後の洗浄工程において水洗を十分に行う方法が効果的であるが、その際、洗浄水の濾過により得られた濾液の導電率を連続的または間欠的に測定し、予め作成した濾液の導電率と熱発泡性マイクロスフェアーの水抽出液の導電率との間の関係式に基づいて、洗浄条件を制御することにより、所望の導電率を示す熱発泡性マイクロスフェアーを得ることができる。そのため、重合後、所望のイオン性不純物含有量を有する熱発泡性マイクロスフェアーを最小限の水洗処理によって効率良く回収することができる。
本発明の熱発泡性マイクロスフェアーまたはその発泡体を高分子材料、塗料、粘着剤、インク、または水系媒体中に分散させると、イオン性不純物による腐食や汚染などの不都合が生じない組成物を得ることができる。本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
本発明によれば、重合体から形成された外殻内に発泡剤が封入された構造を持つ熱発泡性マイクロスフェアーであって、
(1)(i)熱発泡性マイクロスフェアーが、分散安定剤、分散助剤又は重合助剤としてイオン性不純物となりうる化合物を含有する水系分散媒体中で、少なくとも発泡剤及び重合性単量体を含有する重合性単量体混合物を懸濁重合する方法により製造され、
(ii)外殻を形成する重合体が、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ビニル芳香族化合物、及び酢酸ビニルからなる群より選ばれる少なくとも一種のビニル単量体を含有する重合性単量体または重合性単量体混合物を重合して得られる単独重合体若しくは共重合体であって、塩化ビニリデン(共)重合体または(メタ)アクリロニトリル(共)重合体であり、
(iii)下記工程1及び2:
(工程1)25℃の温度で、熱発泡性マイクロスフェアー5gをpHが7で導電率がσ1のイオン交換水20g中に分散させて、分散液を調製する工程1;及び
(工程2)同温度で、該分散液を30分間振とうして、水抽出処理を行う工程2;
により得られた水抽出液について、25℃で測定した導電率をσ2としたとき、σ2とσ1との差σ2−σ1が0.5mS/cm以下であり、
(iv)熱発泡性マイクロスフェアー1gを超純水50mlに分散し、40℃で1時間抽出した熱水抽出液について、イオンクロマトグラフィにより測定した周期表1A族金属イオン及び周期表2A族金属イオンからなる群より選ばれる金属イオンの含有量が100μg/g以下であり、かつ、
(v)熱発泡性マイクロスフェアー1gを超純水50mlに分散し、40℃で1時間抽出した熱水抽出液について、イオンクロマトグラフィにより測定したハロゲンイオンの含有量が200μg/g以下であり、
(2)下記の工程I乃至III:
(工程I)25℃の温度で、熱発泡性マイクロスフェアー1gを超純水50ml中に分散させて、分散液を調製する工程I;
(工程II)該分散液を40℃及び120℃の各温度に加熱して、1時間熱水抽出処理する工程II;及び
(工程III)各熱水抽出液を冷却した後、25℃の温度で、イオンクロマトグラフィにより各熱水抽出液中のハロゲンイオン濃度を測定する工程III;
により熱発泡性マイクロスフェアー1g当りのハロゲンイオン含有量(μg/g)を測定したとき、40℃の温度で熱水抽出処理した場合のハロゲンイオン含有量Aに対する120℃の温度で熱水抽出処理した場合のハロゲンイオン含有量Bの比B/Aが5倍以下であり、
(3)該塩化ビニリデン(共)重合体が、塩化ビニリデン30〜100重量%、並びにアクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレン及び酢酸ビニルからなる群より選ばれる少なくとも一種のビニル単量体0〜70重量%を含有する重合性単量体または重合性単量体混合物を用いて得られた塩化ビニリデン(共)重合体であり、かつ、
(4)該(メタ)アクリロニトリル(共)重合体が、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルからなる群より選ばれる少なくとも一種のニトリル単量体30〜100重量%、並びに塩化ビニリデン、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレン、及び酢酸ビニルからなる群より選ばれる少なくとも一種のビニル単量体0〜70重量%を含有する重合性単量体または重合性単量体混合物を用いて得られた(メタ)アクリロニトリル(共)重合体である熱発泡性マイクロスフェアーが提供される。
本発明によれば、重合体から形成された外殻内に発泡剤が封入された構造を持つ熱発泡性マイクロスフェアーであって、
(1)(i)熱発泡性マイクロスフェアーが、分散安定剤、分散助剤又は重合助剤としてイオン性不純物となりうる化合物を含有する水系分散媒体中で、少なくとも発泡剤及び重合性単量体を含有する重合性単量体混合物を懸濁重合する方法により製造され、
(ii)外殻を形成する重合体が、(メタ)アクリロニトリル(共)重合体であり、
(iii)下記工程1及び2:
(工程1)25℃の温度で、熱発泡性マイクロスフェアー5gをpHが7で導電率がσ1のイオン交換水20g中に分散させて、分散液を調製する工程1;及び
(工程2)同温度で、該分散液を30分間振とうして、水抽出処理を行う工程2;により得られた水抽出液について、25℃で測定した導電率をσ2としたとき、σ2とσ1との差σ2−σ1が0.5mS/cm以下であり、
(iv)熱発泡性マイクロスフェアー1gを超純水50mlに分散し、40℃で1時間抽出した熱水抽出液について、イオンクロマトグラフィにより測定した周期表1A族金属イオン及び周期表2A族金属イオンからなる群より選ばれる金属イオンの含有量が100μg/g以下であり、かつ、
(v)熱発泡性マイクロスフェアー1gを超純水50mlに分散し、40℃で1時間抽出した熱水抽出液について、イオンクロマトグラフィにより測定したハロゲンイオンの含有量が200μg/g以下であり、
(2)下記の工程I乃至III:
(工程I)25℃の温度で、熱発泡性マイクロスフェアー1gを超純水50ml中に分散させて、分散液を調製する工程I;
(工程II)該分散液を40℃及び120℃の各温度に加熱して、1時間熱水抽出処理する工程II;及び
(工程III)各熱水抽出液を冷却した後、25℃の温度で、イオンクロマトグラフィにより各熱水抽出液中のハロゲンイオン濃度を測定する工程III;
により熱発泡性マイクロスフェアー1g当りのハロゲンイオン含有量(μg/g)を測定したとき、40℃の温度で熱水抽出処理した場合のハロゲンイオン含有量Aに対する120℃の温度で熱水抽出処理した場合のハロゲンイオン含有量Bの比B/Aが5倍以下であり、
(3)該(メタ)アクリロニトリル(共)重合体が、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルからなる群より選ばれる少なくとも一種のニトリル単量体30〜100重量%、並びにアクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレン、及び酢酸ビニルからなる群より選ばれる少なくとも一種のビニル単量体0〜70重量%を含有する重合性単量体または重合性単量体混合物を用いて得られた(メタ)アクリロニトリル(共)重合体であり、かつ
(4)該イオン性不純物が、周期表1A族金属イオン、周期表2A族金属イオン、またはハロゲンイオンである熱発泡性マイクロスフェアーが提供される。
また、本発明によれば、高分子材料、塗料、粘着剤、インク、または水系媒体中に、前記の熱発泡性マイクロスフェアーまたはその発泡体が分散している組成物が提供される。
さらに、本発明によれば、分散安定剤、分散助剤又は重合助剤としてイオン性不純物となりうる化合物を含有する水系分散媒体中で、少なくとも発泡剤及び重合性単量体を含有する重合性単量体混合物を懸濁重合して、生成重合体から成形された外殻内に発泡剤が封入された構造を持つ熱発泡性マイクロスフェアーを合成する重合工程、及び熱発泡性マイクロスフェアーを洗浄する洗浄工程を含む熱発泡性マイクロスフェアーの製造方法であって、(i)該洗浄工程において、イオン交換水を用いた洗浄と濾過とを行い、その際、濾液の導電率を測定し、予め作成した濾液の導電率と熱発泡性マイクロスフェアーの水抽出液の導電率との間の関係式に基づき、所望の導電率を示す熱発泡性マイクロスフェアーを得ること、かつ、(ii)該関係式が、濾液の導電率xを独立変数とし、熱発泡性マイクロスフェアーの水抽出液の導電率yを従属変数とする下記式(1)
y=α+βx (1)
(式中、α及びβは、パラメータである。)
で表される線形モデルの関係式であることを特徴とする前記の熱発泡性マイクロスフェアーの製造方法が提供される。
図1は、濾液の導電率と熱発泡性マイクロスフェアーの導電率との関係を示すグラフである。(なお、熱発泡性マイクロスフェアーの導電率とは、熱発泡性マイクロスフェアーを水で抽出したときの水抽出液の導電率を意味する。)
図2は、熱発泡性マイクロスフェアーの導電率とイオン性不純物(ナトリウムイオン及び塩素イオン)の含有量との関係を示すグラフである。(なお、熱発泡性マイクロスフェアーの導電率とは、熱発泡性マイクロスフェアーを水で抽出したときの水抽出液の導電率を意味する。)
本発明の熱発泡性マイクロスフェアーは、重合体から形成された外殻内に発泡剤が封入された構造を有している。このような構造を有する熱発泡性マイクロスフェアーは、一般に、分散安定剤を含有する水系分散媒体中で、重合性単量体を発泡剤の存在下に懸濁重合する方法により製造することができる。
イオン性不純物の含有量が低減され、水抽出液の導電率が小さな熱発泡性マイクロスフェアーを得るには、重合工程後の洗浄工程で必要な程度の水洗を行う方法;ハロゲン原子を含有しない重合性単量体を使用する方法;これらを組み合わせた方法が挙げられる。
(1)ビニル単量体
外殻を形成する重合体としては、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、ビニル芳香族化合物類、及び酢酸ビニルからなる群より選ばれる少なくとも一種のビニル単量体を含有する重合性単量体または重合性単量体混合物を重合して得られる単独重合体若しくは共重合体が好ましい。塩素イオンなどのハロゲンイオンの含有量が少ない熱発泡性マイクロスフェアー、あるいは加熱処理時に脱ハロゲンを起こしにくい熱発泡性マイクロスフェアーを得るには、塩素原子などのハロゲン原子を含有する重合性単量体の使用割合を少なくするか、まったく使用しないことが好ましい。
アクリル酸エステル類としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、ジシクロペンテニルアクリレートが挙げられるが、これらに限定されない。メタクリル酸エステル類としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、イソボルニルメタクリレートが挙げられるが、これらに限定されない。ビニル芳香族化合物類としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ハロゲン化スチレンが挙げられるが、これらに限定されない。
ビニル単量体としては、上記モノビニル単量体以外に、例えば、α−クロロアクリロニトリル、α−エトキシアクリロニトリル、フマロニトリルなどのニトリル単量体類;塩化ビニル;クロロプレン、イソプレン、ブタジエンなどの共役ジエン類;N−フェニルマレイミド、N−ナフチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、メチルマレイミドなどのN−置換マレイミド類;クロトン酸、無水マレイン酸などの不飽和酸類;などのその他のビニル単量体を必要に応じて使用することができる。
本発明の熱発泡性マイクロスフェアーは、外殻を形成する重合体がガスバリア性に優れたものであることが好ましく、ガスバリア性、耐熱性及び耐溶剤性に優れたものであることがより好ましい。これらの観点から、外殻を形成する重合体としては、塩化ビニリデン(共)重合体及び(メタ)アクリロニトリル(共)重合体が好ましく、塩化ビニリデン共重合体及び(メタ)アクリロニトリル共重合体がより好ましく、(メタ)アクリロニトリル共重合体が特に好ましい。さらには、ハロゲン原子やニトリル基を持たないモノビニル単量体からなる共重合体も使用しうる。
塩化ビニリデン(共)重合体としては、塩化ビニリデン単独、あるいは塩化ビニリデンとこれと共重合可能なビニル単量体との混合物を用いて得られる単独重合体及び共重合体を挙げることができる。塩化ビニリデンと共重合可能なビニル単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、スチレン、及び酢酸ビニルが挙げられる。
このような塩化ビニリデン(共)重合体としては、(A) 塩化ビニリデン30〜100重量%と、(B) アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレン及び酢酸ビニルからなる群より選ばれる少なくとも一種のビニル単量体0〜70重量%とを含有する重合性単量体または重合性単量体混合物を用いて得られた(共)重合体が好ましい。塩化ビニリデンの共重合割合が30重量%未満であると、外殻のガスバリア性を十分に高くすることが困難である。
また、塩化ビニリデン共重合体としては、(A1)塩化ビニリデン40〜80重量%と、(B1)アクリロニトリル及びメタクリロニトリルからなる群より選ばれる少なくとも一種のビニル単量体0〜60重量%と、(B2)アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも一種のビニル単量体0〜60重量%とを含有する重合性単量体混合物を用いて得られた共重合体が好ましい。このような共重合体とすることにより、発泡温度の設計が容易であり、また、高発泡倍率を達成しやすい。
耐溶剤性や高温での発泡性の観点からは、(メタ)アクリロニトリル(共)重合体により外殻を形成することが好ましい。ここで、(メタ)アクリロニトリルとは、アクリロニトリル及び/またはメタクリロニトリルを意味する。換言すれば、(メタ)アクリロニトリルとは、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルからなる群より選ばれる少なくとも一種のニトリル単量体を意味する。ニトリル単量体としては、アクリロニトリル及び/またはメタクリロニトリルとともに、必要に応じて、α−クロロアクリロニトリル、α−エトキシアクリロニトリル、フマロニトリルなどを併用してもよい。
(メタ)アクリロニトリル(共)重合体としては、(メタ)アクリロニトリル単独、あるいは(メタ)アクリロニトリルとそれと共重合可能なビニル単量体とを用いて得られる共重合体を挙げることができる。(メタ)アクリロニトリルと共重合可能なビニル単量体としては、塩化ビニリデン、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレン、酢酸ビニルなどが好ましい。
このような(メタ)アクリロニトリル(共)重合体としては、(C) アクリロニトリル及びメタクリロニトリルからなる群より選ばれる少なくとも一種のニトリル単量体30〜100重量%と、(D) 塩化ビニリデン、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレン、及び酢酸ビニルからなる群より選ばれる少なくとも一種のビニル単量体0〜70重量%とを含有する重合性単量体または重合性単量体混合物を用いて得られた(共)重合体が好ましい。(メタ)アクリロニトリルの共重合割合が30重量%未満では、耐溶剤性や耐熱性が不充分となる。
(メタ)アクリロニトリル(共)重合体は、(メタ)アクリロニトリルの使用割合が大きく、発泡温度が高い(共)重合体と、(メタ)アクリロニトリルの使用割合が小さく、発泡温度が低い(共)重合体とに分けることができる。(メタ)アクリロニトリルの使用割合が大きい(共)重合体としては、(C) アクリロニトリル及びメタクリロニトリルからなる群より選ばれる少なくとも一種の単量体70〜100重量%と、(D) 塩化ビニリデン、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレン、及び酢酸ビニルからなる群より選ばれる少なくとも一種のビニル単量体0〜30重量%とを含有する重合性単量体または重合性単量体混合物を用いて得られた(共)重合体が挙げられる。一方、(メタ)アクリロニトリルの使用割合が小さい(共)重合体としては、(C) アクリロニトリル及びメタクリロニトリルからなる群より選ばれる少なくとも一種のニトリル単量体30重量%以上70重量%未満と、(D) 塩化ビニリデン、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレン、及び酢酸ビニルからなる群より選ばれる少なくとも一種の単量体30重量%超過70重量%以下とを含有する重合性単量体または重合性単量体混合物を用いて得られた共重合体が挙げられる。
(メタ)アクリロニトリル(共)重合体は、(C1)アクリロニトリル及びメタクリロニトリルからなる群より選ばれる少なくとも一種のニトリル単量体51〜100重量%と、(D1)塩化ビニリデン0〜40重量%と、(D2)アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも一種のビニル単量体0〜48重量%とを含有する重合性単量体または重合性単量体混合物を用いて得られた(メタ)アクリロニトリル(共)重合体が好ましい。
外殻の重合体として、塩化ビニリデンを含まない(共)重合体が望まれる場合には、(E) アクリロニトリル及びメタクリロニトリルからなる群より選ばれる少なくとも一種の単量体30〜100重量%と、(F) アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも一種の単量体0〜70重量%とを含有する重合性単量体または重合性単量体混合物を用いて得られた(メタ)アクリロニトリル(共)重合体が好ましい。また、(メタ)アクリロニトリル共重合体としては、(E1)アクリロニトリル1〜99重量%と、(E2)メタクリロニトリル1〜99重量%と、(F) アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも一種の単量体0〜70重量%とを含有する重合性単量体混合物を用いて得られた共重合体が好ましい。
さらに、加工性、発泡性、ガスバリア性、耐溶剤性などが特に優れた熱発泡性マイクロスフェアーを得るには、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルからなる群より選ばれる少なくとも一種のニトリル単量体70〜99重量%とその他のビニル単量体1〜30重量%とを含有する重合性単量体混合物を重合して得られる(メタ)アクリロニトリル共重合体が好ましい。この(メタ)アクリロニトリル共重合体において、アクリロニトリルとメタクリロニトリルとを併用することが好ましく、アクリロニトリル20〜80重量%とメタクリロニトリル20〜80重量%の割合で含有するニトリル単量体混合物がより好ましい。ニトリル単量体の割合は、好ましくは80〜99重量%、より好ましくは85〜98重量%である。その他のビニル単量体としては、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルが好ましいが、これら以外の前述の各種ビニル単量体を使用することもできる。
外殻を形成する重合体として、結合ハロゲン原子やニトリル基を持たない共重合体が挙げられる。結合ハロゲン原子やニトリル基を持たない共重合体としては、(G1)不飽和酸類のビニル単量体から選ばれる少なくとも1種類のビニル単量体1〜40重量%、(G2)アクリルエステル類及びメタクリル酸エステル類から選ばれる少なくとも1種類のビニル単量体20〜99重量%、及び必要に応じて(G3)その他のビニル単量体0〜5重量%を重合して得られる共重合体等が挙げられる。
(2)架橋性単量体
本発明では、重合性単量体として、前記の如きビニル単量体と架橋性単量体とを併用することができる。架橋性単量体を併用することにより、加工性、発泡特性、耐熱性、耐溶剤性などを改良することができる。架橋性単量体としては、2つ以上の重合性炭素−炭素二重結合を有する多官能性化合物が用いられる。重合性炭素−炭素二重結合としては、例えば、ビニル基、メタクリル基、アクリル基、アリル基が挙げられる。2つ以上の重合性炭素−炭素二重結合は、それぞれ同一または相異なっていてもよい。
架橋性単量体としては、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、これらの誘導体等の芳香族ジビニル化合物;エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチルグリコールジメタクリレート等のジエチレン性不飽和カルボン酸エステル;1,4−ブタンジオール、1,9−ノナンジオール等の脂肪族両末端アルコール由来のアクリレートまたはメタクリレート;N,N−ジビニルアニリン、ジビニルエーテル等のジビニル化合物;などの二官能の架橋性単量体が挙げられる。
三官能以上の多官能架橋性単量体としては、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、トリアクリルホルマール、イソシアヌル酸トリアリルなどが挙げられる。
架橋性単量体の中でも、発泡性と加工性とのバランスを取りやすい点で、重合性炭素−炭素二重結合を2個有する二官能架橋性単量体が好ましい。二官能架橋性単量体としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、アルキルジオール、アルキルエーテルジオール、及びアルキルエステルジオールからなる群より選ばれるジオール化合物から誘導された屈曲性連鎖を介して、直接的または間接的に、2個の重合性炭素−炭素二重結合が連結された構造の化合物であることが好ましい。
上記の屈曲性連鎖を介して2個の重合性炭素−炭素二重結合が連結された構造の二官能架橋性単量体としては、例えば、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、アルキルジオールジアクリレート、アルキルジオールジメタクリレート、アルキルエーテルジオールジアクリレート、アルキルエーテルジオールジメタクリレート、アルキルエステルジオールジアクリレート、アルキルエステルジオールジメタクリレート、及びこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
より具体的に二官能架橋性単量体としては、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート〔エチレンオキサイド単位(−CH CH O−)が通常2〜15個〕;ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート[プロピレンオキサイド単位〔−CH(CH )CH O−〕または〔−CH CH(CH )O−〕が通常2〜20個];エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、3−メチル−1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、2−メチル−1,8−オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレートなどのアルキルジオールジ(メタ)アクリレート(屈折性連鎖が脂肪族炭素からなり、連結部の炭素原子数が通常2〜20個);3−オキサ−1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレートのようなアルキルエーテルジオールジ(メタ)アクリレート〔屈曲性連鎖が脂肪族炭素とエーテル結合とから構成されている。エーテル結合が1個の場合(−R −O−R −)は、通常、各脂肪族炭素は同じではない。〕;ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートのようなアルキルエステルジオールジ(メタ)アクリレート〔屈曲性連鎖が脂肪族炭素とエステル結合とから構成されている。(−R −COO−R −)〕;などが挙げられる。ここで、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートまたはメタクリレートを意味する。
架橋性単量体として、このような屈曲性連鎖を有する二官能架橋性単量体を用いると、発泡倍率を高度に保持しながら、外殻の重合体の弾性率の温度依存性を小さくすることができ、かつ、混練加工、カレンダー加工、押出加工、射出成形などの加工工程で、剪断力を受けても、外殻の破壊や内包ガスの散逸が起こり難い熱発泡性マイクロスフェアーを得ることができる。
架橋性単量体の使用割合は、ビニル単量体100重量部に対して、通常5重量部以下、好ましくは0.01〜5重量部、より好ましくは0.05〜4重量部、特に好ましくは0.1〜3重量部である。架橋性単量体の使用割合が小さすぎると加工性が低下し、大きすぎると外殻を形成する重合体の熱可塑性が低下して発泡が困難になる。
(3)発泡剤
発泡剤としては、例えば、エタン、エチレン、プロパン、プロペン、n−ブタン、イソブタン、ブテン、イソブテン、n−ペンタン、イソペンタン(即ち、2−メチルブタン)、ネオペンタン、イソオクタン(即ち、2,2,4−トリメチルペンタン)、n−ヘキサン、イソヘキサン、n−ヘプタン、イソドデカン(即ち、2,2,4,6,6−ペンタメチルヘプタン)、石油エーテルなどの炭化水素;CClF、CCl 、CClF、CClF−CClなどのクロロフルオロカーボン;テトラメチルシラン、トリメチルエチルシラン、トリメチルイソプロピルシラン、トリメチル−n−プロピルシランなどのテトラアルキルシラン;が挙げられる。これらの発泡剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
これらの発泡剤の中でも、イソブタン、n−ブタン、n−ペンタン、イソペンタン、n−ヘキサン、イソヘキサン、n−ヘプタン、イソヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、イソドデカン、石油エーテル、及びこれらの2種以上の混合物が好ましい。発泡剤として、加熱により熱分解してガス状になる化合物を使用してもよい。
熱発泡性マイクロスフェアー中に封入される発泡剤の割合は、全量基準で、通常5〜50重量%、好ましくは7〜40重量%である。したがって、重合性単量体と発泡剤との使用割合は、重合後に外殻重合体と発泡剤とが上記割合となるように調節することが望ましい。
(4)熱発泡性マイクロスフェアーの製造方法
本発明の熱発泡性マイクロスフェアーは、分散安定剤を含有する水系分散媒体中で、重合性単量体を発泡剤の存在下に懸濁重合する方法により製造することができる。少なくとも重合性単量体と発泡剤とを含有する重合性単量体混合物を水系分散媒体中に分散させて、油性の重合性単量体混合物の液滴を形成する(造粒工程または懸濁工程ということがある)。この液滴形成後、重合性開始剤を用いて、重合性単量体の重合を行う。懸濁重合により、生成重合体から形成された外殻内に発泡剤が封入された構造を持つ熱発泡性マイクロスフェアーを得ることができる。
重合開始剤としては、この技術分野で一般に使用されているものを使用することができるが、重合性単量体に可溶性である油溶性重合開始剤が好ましい。このような重合開始剤としては、例えば、過酸化ジアルキル、過酸化ジアシル、パーオキシエステル、パーオキシジカーボネート、及びアゾ化合物が挙げられる。
重合開始剤の具体例としては、メチルエチルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイドなどの過酸化ジアルキル;イソブチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイドなどの過酸化ジアシル;t−ブチルパーオキシピバレート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、クミルパーオキシネオデカノエート、(α,α−ビス−ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼンなどのパーオキシエステル;ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピル−オキシジカーボネート、ジ−イソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ(2−エチルエチルパーオキシ)ジカーボネート、ジ−メトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチルパーオキシ)ジカーボネートなどのパーオキシジカーボネート;2,2′−アゾビスイソブチロニトリル、2,2′−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2′−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1′−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)などのアゾ化合物;などが挙げられる。
重合開始剤は、通常、重合性単量体混合物中に含有させるが、早期重合を抑制する必要がある場合には、造粒工程中または造粒工程後に、その一部または全部を水系分散媒体中に添加して、重合性単量体混合物の液滴中に移行させてもよい。重合開始剤は、水系分散媒体基準で、通常0.0001〜3重量%の割合で使用される。
懸濁重合は、一般に、分散安定剤を含有する水系分散媒体中で行われる。分散安定剤としては、例えば、シリカ、リン酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化第二鉄、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、シュウ酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウムなどを挙げることができる。これらの分散安定剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。分散安定剤は、重合性単量体100重量部に対して、通常0.1〜20重量部の割合で使用される。
分散安定剤に加えて、分散助剤(分散安定助剤ともいう)として、例えば、ジエタノールアミンと脂肪族ジカルボン酸の縮合生成物、尿素とホルムアルデヒドとの縮合生成物、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンイミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、ゼラチン、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、ジオクチルスルホサクシネート、ソルビタンエステル、各種乳化剤等を使用することができる。
分散安定剤を含有する水系分散媒体は、通常、分散安定剤や分散助剤を脱イオン水などの水に添加して調製する。重合時の水相のpHは、使用する分散安定剤や分散助剤の種類によって適宜決められる。例えば、分散安定剤としてコロイダルシリカなどのシリカを使用する場合は、酸性条件下で重合が行われる。水系分散媒体を酸性にするには、必要に応じて酸を加えて、pHを約3〜4に調整する方法が採用される。分散安定剤として、水酸化マグネシウムやリン酸カルシウムなどを使用する場合は、アルカリ性条件下で重合させる。
分散安定剤の好ましい組み合わせの一つとして、コロイダルシリカと縮合生成物との組み合わせがある。縮合生成物としては、ジエタノールアミンと脂肪族ジカルボン酸の縮合生成物が好ましく、ジエタノールアミンとアジピン酸の縮合物やジエタノールアミンとイタコン酸の縮合生成物がより好ましい。縮合生成物の酸価(mgKOH/g)は、好ましくは60以上95未満、より好ましくは65以上90以下である。さらに、分散助剤として、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム等の無機塩を添加すると、より均一な粒子形状を有する発泡性マイクロスフェアーが得られやすくなる。無機塩としては、食塩が好適に用いられる。
コロイダルシリカの使用量は、その粒子径によっても変わるが、通常、重合性単量体100重量部に対して、1〜20重量部、好ましくは2〜15重量部の割合である。縮合生成物は、重合性単量体100重量部に対して、通常0.05〜2重量部の割合で使用される。無機塩は、重合性単量体100重量部に対して、通常0〜150重量部、好ましくは50〜100重量部の割合で使用される。
分散安定剤の他の好ましい組み合わせとしては、コロイダルシリカと水溶性窒素含有化合物との組み合わせが挙げられる。水溶性窒素含有化合物としては、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリジメチルアミノエチルメタクリレートやポリジメチルアミノエチルアクリレートに代表されるポリジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、ポリジメチルアミノプロピルアクリルアミドやポリジメチルアミノプロピルメタクリルアミドに代表されるポリジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、ポリアクリルアミド、ポリカチオン性アクリルアミド、ポリアミンスルホン、ポリアリルアミンが挙げられる。これらの中でも、コロイダルシリカとポリビニルピロリドンとの組み合わせが好適に用いられる。さらに、他の好ましい組み合わせとしては、水酸化マグネシウム及び/またはリン酸カルシウムと乳化剤との組み合わせがある。
分散安定剤として、水溶性多価金属塩化合物(例えば、塩化マグネシウム)と水酸化アルカリ金属(例えば、水酸化ナトリウム)との水相中での反応により得られる難水溶性金属水酸化物(例えば、水酸化マグネシウム)のコロイドを用いることができる。また、リン酸カルシウムとしては、リン酸ナトリウムと塩化カルシウムとの水相中での反応生成物を使用することができる。乳化剤は、一般に使用しないが、所望により陰イオン性界面活性剤、例えば、ジアルキルスルホコハク酸塩やポリオキシエチレンアルキル(アリル)エーテルのリン酸エステル等を用いてもよい。
重合助剤として、水系分散媒体中に、亜硝酸アルカリ金属塩、塩化第一スズ、塩化第二スズ、水可溶性アスコルビン酸類、及びホウ酸からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を存在させることができる。これらの化合物の存在下に懸濁重合を行うと、重合時に、重合粒子同士の凝集が起こらず、重合物が重合缶壁に付着することがなく、重合による発熱を効率的に除去しながら安定して熱発泡性マイクロスフェアーを製造することができる。
亜硝酸アルカリ金属塩の中では、亜硝酸ナトリウム及び亜硝酸カリウムが入手の容易性や価格の点で好ましい。アスコルビン酸類としては、アスコルビン酸、アスコルビン酸の金属塩、アスコルビン酸のエステルなどが挙げられるが、これらの中でも水可溶性のものが好適に用いられる。ここで、水可溶性アスコルビン酸類とは、23℃の水に対する溶解性が1g/100cm 以上であるものを意味する。これらの中でも、L−アスコルビン酸(ビタミンC)、アスコルビン酸ナトリウム、及びアスコルビン酸カリウムが、入手の容易性や価格、作用効果の点で、特に好適に用いられる。これらの化合物は、重合性単量体100重量部に対して、通常、0.001〜1重量部、好ましくは0.01〜0.1重量部の割合で使用される。
水系分散媒体に各成分を添加する順序は、任意であるが、通常は、水と分散安定剤、必要に応じて分散助剤や重合助剤などを加えて、分散安定剤を含有する水系分散媒体を調製する。発泡剤、ビニル単量体及び架橋性単量体は、別々に水系分散媒体に加えて、水系分散媒体中で一体化して重合性単量体混合物を形成してもよいが、通常は、予めこれらを混合してから、水系分散媒体中に添加する。重合開始剤は、予め重合性単量体に添加して使用することができるが、早期重合を避ける必要がある場合には、例えば、重合性単量体混合物を水系分散媒体中に添加し、攪拌しながら重合開始剤を加え、水系分散媒体中で一体化してもよい。重合性単量体混合物と水系分散媒体との混合を別の容器で行って、高剪断力を有する攪拌機や分散機で攪拌混合した後、重合缶に仕込んでもよい。
重合性単量体混合物と水系分散媒体とを攪拌混合することにより、水系分散媒体中で重合性単量体混合物の液滴を形成する。液滴の平均粒径は、目的とする熱発泡性マイクロスフェアーの平均粒径とほぼ一致させることが好ましく、通常1〜200μm、好ましくは3〜150μm、特に好ましくは5〜100μmである。粒径分布が極めてシャープな熱発泡性マイクロスフェアーを得るには、水系分散媒体及び重合性単量体混合物を連続式高速回転高剪断型攪拌分散機内に供給し、該攪拌分散機中で両者を連続的に攪拌して分散させた後、得られた分散液を重合槽内に注入し、そして、該重合槽内で懸濁重合を行う方法を採用することが好ましい。水系分散媒体に重合性単量体混合物を添加した後、回分式高速回転高剪断型分散基で攪拌混合して液滴を造粒してもよい。
懸濁重合は、一般に、反応槽内を脱気するか、不活性ガスで置換して、30〜100℃の温度に昇温して行う。懸濁重合中、重合温度は一定の温度に制御してもよいし、段階的に昇温重合してもよい。懸濁重合後、生成した熱発泡性マイクロスフェアーを含有する反応混合物を、濾過、遠心分離または沈降などの方法により処理して、反応混合物から熱発泡性マイクロスフェアーを分離する。懸濁重合後、酸処理またはアルカリ処理して、分散安定剤を可溶化させてもよい。分離した熱発泡性マイクロスフェアーは、洗浄し濾過した後、ウエットケーキの状態で回収される。必要に応じて、熱発泡性マイクロスフェアーは、発泡を開始しない比較的低温で乾燥される。
(5)イオン性不純物含有量が低減された熱発泡性マイクロスフェアー
熱発泡性マイクロスフェアーに含まれるイオン性不純物としては、例えば、ナトリウムイオンやカリウムイオンなどの周期表1A族金属イオン(アルカリ金属イオン);マグネシウムイオンやカルシウムイオンなどの周期表2A族金属イオン(広義のアルカリ土類金属イオン);塩素イオン、塩化物イオン、フッ素イオン、フッ化物イオンなどのハロゲンイオン;が挙げられる。イオン性不純物の代表的なものは、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン及び塩素イオンである。これらのイオン性不純物の多くは、分散安定剤として使用される水酸化マグネシウムコロイド、分散助剤として使用される塩化ナトリウムや硫酸ナトリウム等の無機塩、重合性単量体として使用される塩化ビニリデンなどに由来するものである。
本発明の製造方法では、重合後の洗浄工程において、熱発泡性マイクロスフェアーの導電率が所望の水準になるまで洗浄を行う。従来、熱発泡性マイクロスフェアーに含まれるイオン性不純物に起因する問題が十分に認識されていなかったこと、水洗回数や洗浄水の使用量を増やすと、濾過時間が長くなって生産性が低下し、排水量も増加することなどの理由で、十分な洗浄が行われていなかったのが現状である。
本発明者は、熱発泡性マイクロスフェアーの導電率とイオン性不純物の含有量との間に一定の関係のあることを見出した。熱発泡性マイクロスフェアーの導電率とは、熱発泡性マイクロスフェアーを水で抽出したときの水抽出液の導電率を意味する。熱発泡性マイクロスフェアーの水抽出液の導電率の測定法は、次の通りである。
より具体的に、下記工程1及び2:
(1)25℃の温度で、熱発泡性マイクロスフェアー5gをpHが7で導電率がσ1のイオン交換水20g中に分散させて、分散液を調製する工程1;及び
(2)同温度で、該分散液を30分間振とうして、水抽出処理を行う工程2;
により水抽出液を得る。この水抽出液(液相)について、25℃(25±0.2℃)で測定した導電率をσ2とする。
イオン交換水としては、陽イオン交換処理と陰イオン交換処理によって、pHが7(7±0.3)となったイオン交換水を使用する。イオン交換水のpHは、pH計を用いて測定する。25℃で測定したpH7のイオン交換水の導電率をσ1とする。水抽出液の導電率σ2とイオン交換水の導電率σ1との差σ2−σ1を求める。導電率は、導電率計を用いて測定する。
この差σ2−σ1は、1mS/cm(1000μS/cm)以下、好ましくは0.5mS/cm(500μS/cm)以下、より好ましくは0.1mS/cm(100μS/cm)以下、特に好ましくは0.05mS/cm(50μS/cm)以下である。本発明では、0.5mS/cm(500μS/cm)以下である。極めて高純度の熱発泡性マイクロスフェアーが求められる用途には、この差σ2−σ1を0.03mS/cm(30μS/cm)以下、さらには0.02mS/cm(20μS/cm)または以下0.01mS/cm(10μS/cm)以下に低減することができる。
上記のように、熱発泡性マイクロスフェアーの導電率を低減することにより、イオン性不純物の含有量を低減することができる。(なお、熱発泡性マイクロスフェアーの導電率とは、熱発泡性マイクロスフェアーを水で抽出したときの水抽出液の導電率を意味する。)熱発泡性マイクロスフェアーのイオン性不純物含有量は、熱発泡性マイクロスフェアー1gを超純水50mlに分散し、40℃で1時間抽出した熱水抽出液について、イオンクロマトグラフィによりイオン性不純物の濃度を測定し、そして、熱発泡性マイクロスフェアー1g当りのイオン含有量(μg/g)を算出する方法により測定することができる。超純水は、イオン成分の含有量が実質的にゼロの水である。イオン含有量の単位μg/gは、熱発泡性マイクロスフェアーに対する分率で表すと、ppmに相当する。
例えば、ナトリウムイオンについては、通常1000μg/g以下、好ましくは700μg/g以下、より好ましくは500μg/g以下、特に好ましくは300μg/g以下にまで低減することが望ましい。極めて高純度の熱発泡性マイクロスフェアーが望まれる場合には、ナトリウムイオンの含有量を100μg/g以下、さらには50μg/gまたは30μg/g以下にまで低減することができる。本発明では、100μg/g以下である。ナトリウムイオン以外のアルカリ金属イオンや、マグネシウムイオンなどの周期表2A族金属イオンの含有量も、ナトリウムイオンと同水準にまで低減することが好ましい。
塩素イオンなどのハロゲンイオンについては、通常1500μg/g以下、好ましくは1000μg/g以下、より好ましくは500μg/g以下、特に好ましくは300μg/g以下にまで低減することが望ましい。極めて高純度の熱発泡性マイクロスフェアーが望まれる場合には、塩素イオンなどのハロゲンイオンの含有量を200μg/g以下、さらには100μg/gまたは50μg/g以下にまで低減することができる。本発明では、200μg/g以下である。
イオン性不純物の含有量が前記範囲にあることにより、金属に対する腐食を抑制し、電子部品に対する汚染を抑制することができる。イオン性不純物の含有量は、熱発泡性マイクロスフェアーの用途に応じて、適宜調節することができる。
本発明者は、水系分散媒体中で、少なくとも発泡剤及び重合性単量体を含有する重合性単量体混合物を懸濁重合して、生成重合体から成形された外殻内に発泡剤が封入された構造を持つ熱発泡性マイクロスフェアーを合成する重合工程、及び熱発泡性マイクロスフェアーを洗浄する洗浄工程を含む熱発泡性マイクロスフェアーの製造方法であって、該洗浄工程において、イオン交換水を用いた洗浄と濾過とを行い、その際、濾液の導電率を測定し、予め作成した濾液の導電率と熱発泡性マイクロスフェアーの水抽出液の導電率との間の関係式に基づいて、所望の導電率を示す熱発泡性マイクロスフェアーを得ることができることを見出した。イオン交換水としては、pHが約7のイオン交換水を使用することが好ましい。(なお、所望の導電率とは、熱発泡性マイクロスフェアーを水で抽出したときの水抽出液の導電率を意味する。)
ここで、熱発泡性マイクロスフェアーの導電率は、前記と同じ方法により測定して得られる水抽出液の導電率である。濾液の導電率と熱発泡性マイクロスフェアーの水抽出液の導電率の測定は、同じ測定温度で行うことが望ましい。測定温度としては、前記と同様25℃(25±0.2℃)とすることが好ましい。洗浄工程における濾過は、自然濾過、吸引濾過、遠心分離など任意の手段を採用することができる。
洗浄工程では、重合工程で得られた熱発泡性マイクロスフェアーを含有する水分散液を濾過し、熱発泡性マイクロスフェアーを含有するウエットケーキとイオン交換水とを接触させて洗浄し、洗浄後の洗浄水を濾過する。濾過により得られた濾液の中には、イオン性不純物が含まれている。洗浄工程は、バッチ式で行っても、連続式で行ってもよい。
バッチ式の洗浄工程を採用する場合には、例えば、重合工程で得られた熱発泡性マイクロスフェアーを含有する水分散液をフィルターで濾過し、次いで、熱発泡性マイクロスフェアーを含有するケーキにイオン交換水を導入して洗浄し、そして、洗浄水を濾過する。通常、イオン交換水による洗浄と濾過とを複数回繰り返す。各洗浄回毎に濾液の導電率を測定し、予め作成した濾液の導電率と熱発泡性マイクロスフェアーの水抽出液の導電率との間の関係式に基づいて、所望の導電率を示す熱発泡性マイクロスフェアーを得る。この方法によれば、濾液の導電率に基づいて、所望の導電率を示す熱発泡性マイクロスフェアーを得ることができるため、洗浄に用いるイオン交換水の量と洗浄回数を最小限に制御することが可能となる。また、この方法により、一定の品質を持つ製品を製造することができる。(なお、所望の導電率とは、熱発泡性マイクロスフェアーを水で抽出したときの水抽出液の導電率を意味する。)
連続式の洗浄工程を採用する場合には、例えば、重合工程で得られた熱発泡性マイクロスフェアーを含有する水分散液を遠心脱水機に導入して、遠心分離により脱水し、次いで、遠心脱水機中の熱発泡性マイクロスフェアーを含有するケーキにイオン交換水を連続的にシャワーリングしながら遠心分離により脱水を行う。脱水により得られる濾液を連続的または間欠的にサンプリングして、その導電率を測定する。この方法によれば、濾液の導電率に基づいて、所望の導電率を示す熱発泡性マイクロスフェアーを得ることができるため、洗浄に用いるイオン交換水の量と洗浄時間を最小限に制御することが可能となる。また、この方法により、一定の品質を持つ製品を製造することができる。
連続式の洗浄方法の他の例としては、周回して走行可能な無端状濾布を備えた真空ベルトフィルタに、重合工程で得られた熱発泡性マイクロスフェアーを含有する水分散液を供給し、無端状濾布が水平方向に走行する濾過処理部において、該濾布上で水分散液の濾過によるケーキの形成、イオン交換水のシャワーリングによるケーキの洗浄、及びケーキの真空脱水を順次行う方法が挙げられる。真空脱水により得られた濾液を連続的または間欠的にサンプリングし、その導電率を測定する。
濾液の導電率と熱発泡性マイクロスフェアーの水抽出液の導電率との間の関係式は、それぞれの導電率の測定結果をデータベースとして使用し、該データベースを回帰分析することにより、線形モデル、両対数モデルまたは半対数モデルの関係式を作成することにより得ることができる。これらのモデルの中でも、濾液の導電率xを独立変数とし、熱発泡性マイクロスフェアーの水抽出液の導電率yを従属変数とする下記式(1)
y=α+βx (1)
(式中、α及びβは、パラメータである。)
で表される線形モデルの関係式が適している。
関係式(1)の各パラメータは、重合に使用する重合性単量体の種類、分散安定剤や分散助剤の種類と量、洗浄水の使用量などに応じて変化する。そのため、重合条件や洗浄条件に応じて、これらのパラメータを決定する。所定の重合処方が確立している場合には、基本的に同一の関係式を使用することができる。
この関係式(1)に、熱発泡性マイクロスフェアーの目標とする導電率を代入すると、それに対応する濾液の導電率を算出することができる。したがって、洗浄工程において、濾液の導電率をモニターすることにより、洗浄水の使用量や洗浄回数を調節することができ、過剰な洗浄による効率の低下やコスト高を抑制することができる。逆に、濾液の導電率を測定することにより、熱発泡性マイクロスフェアーの導電率、ひいてはナトリウムイオンや塩素イオン等のイオン性不純物の含有量を予測することができるので、高度な品質管理を簡便な方法により行うことができる。(なお、目標とする導電率とは、熱発泡性マイクロスフェアーを水で抽出したときの水抽出液の導電率を意味する。)
前記関係式(1)は、そのままで熱発泡性マイクロスフェアーの導電率の測定に使用することができるが、図1に示すようにグラフ化しておくこともできる。図1のグラフに基づいて、濾液の導電率の測定値から、熱発泡性マイクロスフェアーの導電率を簡単に読み取ることができる。(なお、熱発泡性マイクロスフェアーの導電率とは、熱発泡性マイクロスフェアーを水で抽出したときの水抽出液の導電率を意味する。)
図2に示すように、熱発泡性マイクロスフェアーの導電率とナトリウムイオン(Na)及び塩素イオン(Cl)の各含有量との間に、一般に線形の関係があるため、熱発泡性マイクロスフェアーの導電率の測定値に基づいて、ナトリウムイオン及び/または塩素イオンの含有量を予測することができる。他のイオン性不純物についても同様である。熱発泡性マイクロスフェアーの導電率とイオン性不純物の含有量との測定データに基づいて、回帰分析により前記の如き線形モデルの関係式を作成することもできる。また、所望により、濾液の導電率とイオン性不純物の含有量との測定データに基づいて、回帰分析により前記の如き線形モデルの関係式を作成することもできる。(なお、熱発泡性マイクロスフェアーの導電率とは、熱発泡性マイクロスフェアーを水で抽出したときの水抽出液の導電率を意味する。)
このようにして得られた熱発泡性マイクロスフェアーは、所望により、各種化合物で表面処理を行うことができる。また、熱発泡性マイクロスフェアーの表面に無機微粉末を付着させて、粒子同士の凝集を防ぐことができる。さらに、熱発泡性マイクロスフェアーの表面を各種材料でコーティングすることもできる。
本発明の熱発泡性マイクロスフェアーは、重合体から形成された外殻内に発泡剤が封入された構造を有している。外殻を形成する重合体は、重合性単量体(主としてビニル単量体)の重合より形成されるが、ビニル単量体と架橋性単量体とを併用することにより、外殻重合体の弾性率の温度依存性を小さくすることができる。
重合体として、好ましくは塩化ビニリデン(共)重合体または(メタ)アクリロニトリル(共)重合体、より好ましくは塩化ビニリデン共重合体と(メタ)アクリロニトリル共重合体、特に好ましくは(メタ)アクリロニトリル共重合体を用いることにより、ガスバリア性を高め、さらには、耐熱性や耐溶剤性に優れた外殻を形成することができる。重合性単量体として、塩化ビニリデン等の結合ハロゲン原子を含有する重合性単量体を全く使用しないか、その使用割合が小さい場合には、脱塩素反応に起因する塩素イオン等のハロゲンイオンの生成を抑制することができる。
結合ハロゲン原子を含有する重合性単量体として、一般に、塩化ビニリデンが汎用されているため、熱発泡性マイクロスフェアーには、塩素イオンが含まれていることが多い。
常温(25℃)での導電率が低く、塩素イオンなどのハロゲンイオンの含有量が少ない熱発泡性マイクロスフェアーであっても、高温に加熱すると脱ハロゲン化反応が起こり、ハロゲンイオンの量が急激に増加する傾向を示す。本発明の熱発泡性マイクロスフェアーは、高温での脱ハロゲン反応によるハロゲンイオンの濃度が低いものであることが好ましい。ハロゲン原子を含有する重合性単量体として塩化ビニリデンが汎用されているため、熱発泡性マイクロスフェアーには、塩素イオンが含まれていることが多い。したがって、本発明の熱発泡性マイクロスフェアーは、高温での脱塩素反応に起因する塩素イオン濃度が低いものであることがより好ましい。
具体的には、下記の手順により測定した40℃で熱水抽出した塩素イオン含有量に対する120℃で熱水抽出した塩素含有量の比率が小さな熱発泡性マイクロスフェアーが好ましい。より具体的には、下記の工程I乃至III:
(I)25℃の温度で、熱発泡性マイクロスフェアー1gを超純水50ml中に分散させて、分散液を調製する工程I;
(II)該分散液を40℃及び120℃の各温度に加熱して、1時間熱水抽出処理する工程II;及び
(III)各熱水抽出液を冷却した後、25℃の温度で、イオンクロマトグラフィにより各熱水抽出液中のハロゲンイオン濃度を測定する工程III;
により熱発泡性マイクロスフェアー1g当りのハロゲンイオン含有量(μg/g)を測定し、そして、40℃の温度で熱水抽出処理した場合のハロゲンイオン含有量Aに対する120℃の温度で熱水抽出処理した場合のハロゲンイオン含有量Bの比B/Aを算出する。
熱発泡性マイクロスフェアー1gを50mlの超純水に分散させ、40℃で1時間加熱して熱水抽出処理を行うには、密閉容器を用いて行うか、開放容器を用いて行う。開放容器を用いて行う場合には、1時間の加熱処理後に、蒸発した水分量と同じ量の超純水を追加し、25℃(25±0.2℃)に冷却してからイオンクロマトグラフィによる測定を行う。
熱発泡性マイクロスフェアー1gを50mlの超純水に分散させ、120℃で1時間加熱して熱水抽出処理を行うには、通常、密閉容器を使用する。熱水抽出処理後、熱水抽出液を25℃(25±0.2℃)に冷却してからイオンクロマトグラフィでハロゲンイオン濃度を測定する。これらのハロゲンイオン濃度は、熱発泡性マイクロスフェアー1g当りの含有量(μg/g)に換算する。ハロゲンイオンの多くは、塩素イオンであるため、上記方法は、ハロゲンイオン濃度として塩素イオン濃度を測定する方法に好適に適用することができる。
塩素イオンなどのハロゲンイオンは、分散安定剤や分散助剤、重合助剤などに由来するものと、重合性単量体の使用に起因するものとがあるが、重合性単量体として塩化ビニリデンなどの塩素原子を含有する重合性単量体を用いると、高温での塩素イオン濃度が著しく増大する。熱発泡性マイクロスフェアーは、加熱発泡時に高温に加熱される。また、熱発泡性マイクロスフェアーをポリマー材料と混練する際に、加熱して溶融混練することがある。加熱により生成した塩素イオンは、腐食や汚染の原因物質となる。
本発明の熱発泡性マイクロスフェアーは、40℃の温度で熱水抽出処理した場合のハロゲンイオン(例えば、塩素イオン)含有量Aに対する120℃の温度で熱水抽出処理した場合のハロゲンイオン含有量Bの比B/Aが、好ましくは50倍以下、より好ましくは30倍以下、特に好ましくは10倍以下である。高温での脱ハロゲン反応(例えば、脱塩素反応)に起因するハロゲンイオンの含有量が極めて小さな熱発泡性マイクロスフェアーが望まれる用途に適用する場合には、比B/Aが5倍以下、さらには3倍以下であることが望ましい。本発明では、5倍以下である。
本発明の熱発泡性マイクロスフェアーの平均粒径は、特に限定されないが、通常1〜200μm、好ましくは3〜150μm、特に好ましくは5〜100μmである。熱発泡性マイクロスフェアーの平均粒径が小さすぎると、発泡性が不十分となる。熱発泡性マイクロスフェアーの平均粒径が大きすぎると、美麗な外観が要求される分野では、表面の平滑性が損なわれるため好ましくなく、また、加工時の剪断力に対する抵抗性も不十分となる。
本発明の熱発泡性マイクロスフェアーにおける発泡剤の含有量は、全重量基準で、通常5〜50重量%、好ましくは7〜40重量%である。発泡剤の含有量が少なすぎると、発泡倍率が不十分となり、大きすぎると、外殻の厚みが薄くなりすぎて、加工時に加熱下での剪断力を受けて早期発泡や外殻の破裂を起こし易くなる。
(6)用途
本発明の熱発泡性マイクロスフェアーは、加熱発泡(熱膨脹)させて、あるいは未発泡のままで、各種分野に使用される。熱発泡性マイクロスフェアーは、例えば、その膨脹性を利用して、自動車等の塗料の充填剤;壁紙や発泡インク(T−シャツ等のレリーフ模様付け)の発泡剤;収縮防止剤などに使用される。
本発明の熱発泡性マイクロスフェアーは、発泡による体積増加を利用して、合成樹脂(熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂)やゴムなどのポリマー材料、塗料、超軽量紙、各種資材などの軽量化や多孔質化、各種機能性付与(例えば、自動車用途の耐チッピング性、金属ケーブル・電線・金属接点の絶縁性、スリップ性、断熱性、クッション性、遮音性等)の目的で使用される。ポリマー材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS樹脂、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、水素添加SBS、水素添加SIS、天然ゴム、各種合成ゴム、熱可塑性ポリウレタンなどが挙げられる。
本発明の熱発泡性マイクロスフェアーは、表面性や平滑性が要求される塗料、壁紙、インク分野に好適に用いることができる。本発明の熱発泡性マイクロスフェアーは、混練加工、カレンダー加工、押出加工、射出成形などの加工工程を必要とする用途分野に好適に適用することができる。
このように、本発明の熱発泡性マイクロスフェアーは、発泡剤として使用したり、ポリマー材料と混合して組成物としたりすることができる。本発明の熱発泡性マイクロスフェアーは、未発泡のまま熱可塑性樹脂と混練し、ペレット化することができる。本発明の熱発泡性マイクロスフェアーは、ポリマー材料や塗料、インク、水系媒体などに配合し、加熱発泡して発泡体粒子を含有する物品(例えば、発泡成形品、発泡塗膜、発泡インク)とすることができる。
本発明の熱発泡性マイクロスフェアーは、発泡剤中に染料等の着色剤、香料、防虫剤、抗菌剤などを溶解もしくは分散させて、それぞれの機能を発揮させることができる。このような機能を有する熱発泡性マイクロスフェアーは、未発泡のままで使用することも可能である。
本発明の熱発泡性マイクロスフェアーは、粘着剤に添加することができる。合成樹脂フィルムや紙などの基材の片面または両面に熱発泡性マイクロスフェアーを含有する熱膨張性粘着剤層を形成した粘着シートは、熱発泡性マイクロスフェアーを加熱発泡させることにより、被着体から容易に剥離することができる。
このように、本発明の熱発泡性マイクロスフェアーは、高分子材料、塗料、粘着剤、インク、または水系媒体中に、未発泡のままで、あるいは発泡体として分散させて組成物とすることができる。
水系媒体は、水単独または必要に応じて各種添加剤を含む水媒体を意味する。特に、水系媒体が水のみの場合が、各種用途の原料組成物(スラリー)として好適に用いられる。
本発明の熱発泡性マイクロスフェアーは、イオン吸着剤や防錆剤を添加しなくても、防錆効果に優れているが、極めて高度の防錆効果やイオン汚染防止効果が求められる用途には、必要に応じて、ステアリン酸カルシウムなどの高級脂肪酸塩、ハイドロタルサイト系化合物などのイオン吸着剤;亜硝酸ナトリウム、クロム酸ナトリウム、ベンゾトリアゾール、オクタデシルアミンなどの防錆剤;などを添加してもよい。
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。
<測定方法>
(1)発泡開始温度及び最大発泡温度
パーキンエルマー社製のTMA-7型を用いてTMA測定を行った。サンプル約0.25mgを使用し、昇温速度5℃/分で昇温して、発泡挙動を観察した。より具体的には、容器にサンプル(熱発泡性マイクロスフェアー)を入れて、昇温速度5℃/分で昇温し、その高さの変位を連続的に測定した。容器内におけるサンプルの高さの変位が始まった温度を発泡開始温度(Tstart)とし、高さが最大となった温度を最大発泡温度(Tmax)とした。
(2)発泡倍率
熱発泡性マイクロスフェアー0.7gを、ギア式オーブン中に入れ、所定の温度(発泡温度)で2分間加熱して発泡させる。得られた発泡体をメスシリンダーに入れて体積を測定し、発泡体の体積を未発泡時の熱発泡性マイクロスフェアーの体積で割って発泡倍率を算出した。
(3)平均粒径
島津製作所製の粒径分布測定器SALD−3000Jを用いて熱発泡性マイクロスフェアーの粒度分布を測定し、そのメジアン径で平均粒径(μm)を表わした。
(4)イオン交換水のpHと導電率
水に陽イオン交換処理と陰イオン交換処理を施して、pH7(7±0.3)のイオン交換水を調製した。pHは、pH計を用いて測定した。また、導電率計(堀場製作所)を用いて、25℃(25±0.2℃)でイオン交換水の導電率σ1を測定した。
(5)水抽出液の導電率
熱発泡性マイクロスフェアーの水抽出液の導電率の測定は、下記の手順によって測定した。25℃の温度で、熱発泡性マイクロスフェアー5gをpHが7で導電率がσ1のイオン交換水20g中に分散させて、分散液を調製する工程1;及び同温度で、該分散液を30分間振とうして、水抽出処理を行う工程2;により得られた水抽出液について、25℃で測定した導電率をσ2としたとき、σ2とσ1との差σ2−σ1を求めた。
(6)イオン性不純物の含有量
熱発泡性マイクロスフェアーのイオン性不純物の含有量は、熱発泡性マイクロスフェアー1gを超純水50mlに分散し、40℃で1時間抽出した熱水抽出液について、イオンクロマトグラフィにより各イオン濃度を測定する方法により測定した。40℃で1時間加熱して熱水抽出処理を行うには、密閉容器を用いて行うか、開放容器を用いて行う。開放容器を用いて行う場合には、1時間の加熱処理後に、蒸発した水分量と同じ量の超純水を追加し、25℃(25±0.2℃)に冷却してからイオンクロマトグラフィによる測定を行った。
各イオン濃度は、熱発泡性マイクロスフェアー1g当りの含有量(μg/g)として表示した。イオンクロマトグラフィによる測定は、25℃(25±0.2℃)で行った。超純水としては、イオン成分の含有量が実質的にゼロの水を用いた。使用したイオンクロマトグラフィは、IC−500P(横河電気製)であった。測定条件は、下記のとおりである。
カラム: プレカラムPAM3−025、分離カラムSAM1−125
溶離液: 4.4mMのNa/1.2mMのNaHCO
溶離液の流量: 2ml/min
除去液: 15mMのHSO
除去液の流量: 2ml/min
(7)塩素イオン含有量の比B/A
40℃の温度で熱水抽出処理した場合の塩素イオン含有量Aに対する120℃の温度で熱水抽出処理した場合の塩素イオン含有量Bの比B/Aは、以下の方法により測定した。40℃の温度での熱水抽出処理と塩素イオン含有量の測定は、前記と同じ方法により行った。他方、120℃で1時間加熱して熱水抽出処理を行うには、密閉容器を使用して行った。熱水抽出処理後、熱水抽出液を25℃(25±0.2℃)に冷却してからイオンクロマトグラフィで塩素イオン濃度を測定した。これらの塩素イオン濃度は、熱発泡性マイクロスフェアー1g当りの含有量(μg/g)に換算し、両者の比B/Aを算出した。
[実施例1]
攪拌機付きの重合缶(1.5リットル)にコロイダルシリカ11g(固形分40重量%のシリカ分散液27.5g)、ジエタノールアミン−アジピン酸縮合生成物(酸価78mgKOH/g)1.28g(濃度50重量%溶液で2.56g)、食塩(NaCl)195.4g、亜硝酸ナトリウム0.32g、及びイオン交換水を合計で868gになるように仕込み、水系分散媒体を調製した。この水系分散媒体のpHが3.2になるように、塩酸を添加してpHを調整した。
一方、アクリロニトリル147.4g、メタクリロニトリル68.2g、メタクリル酸メチル4.4g、ジエチレングリコールジメタクリレート3.3g、イソペンタン22g、及びイソオクタン44gからなる油性混合物を調製した。この油性混合物と前記で調製した水系分散媒体とを回分式高速回転高剪断型分散機で攪拌混合して、油性混合物の微小な液滴を造粒した。
この油性混合物の微小な液滴を含有する水系分散媒体を、攪拌機付きの重合缶(1.5リットル)に仕込み、温水バスを用いて60℃で20時間反応させた。得られた反応生成物を吸引濾過した。母液がほとんど出なくなったところで、約300gのイオン交換水を入れ、吸引濾過した。この作業を何度か繰り返し、それぞれの濾液及び濾過ケーキの乾燥後の導電率を測定した。濾過ケーキは、一昼夜放置することにより自然乾燥させた。このようにして得られた熱発泡性マイクロスフェアーは、平均粒径が33μm、発泡開始温度が130℃、最大発泡倍率が85倍、200℃での発泡倍率が60倍であった。
濾液の導電率と熱発泡性マイクロスフェアーの水抽出液の導電率との関係を表1及び図1に示す。また、これらの測定結果をデータベースにして回帰分析した結果、下記の線形モデルの関係式(1a)が得られた。
y=0.00198+0.183713x (1a)
Figure 0005612245
(なお、表1における熱発泡性マイクロスフェアーの導電率とは、熱発泡性マイクロスフェアーを水で抽出したときの水抽出液の導電率を意味する。)
以上の結果から、濾液の導電率と熱発泡性マイクロスフェアーの導電率には相関があり、濾液の導電率を測定すれば、熱発泡性マイクロスフェアーの導電率を予測できることがわかる。
[実施例2]
実施例1の方法と同様にして熱発泡性マイクロスフェアーを得て、洗浄度合いを変化させたサンプルを作成した。それぞれの熱発泡性マイクロスフェアーの導電率とイオン成分との関係を表2及び図2に示す。(なお、表2における熱発泡性マイクロスフェアーの導電率とは、熱発泡性マイクロスフェアーを水で抽出したときの水抽出液の導電率を意味する。)
Figure 0005612245
表2及び図2の結果から、熱発泡性マイクロスフェアーの導電率とイオン成分には相関が見られ、熱発泡性マイクロスフェアーの導電率からイオン成分の含有量を予測できることがわかる。(なお、熱発泡性マイクロスフェアーの導電率とは、熱発泡性マイクロスフェアーを水で抽出したときの水抽出液の導電率を意味する。)
[実施例3](本発明では参考例となる。)
攪拌機付きの重合缶(1.5リットル)に脱イオン水770g、固形分40重量%のコロイダルシリカ11gを加え溶解させた。さらに、塩酸を加えて、pHが3.5の水系分散媒体を調製した。一方、塩化ビニリデン123.2g、アクリロニトリル85.8g、メタクリル酸メチル11g、トリメタクリル酸トリメチロールプロパン0.33g、2,2′−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル1.1g、及びブタン35.2gからなる油性混合物を調製した(重量部比;塩化ビニリデン/アクリロニトリル/メタクリル酸メチル=56/39/5)。次いで、この油性混合物と前記で調製した水系分散媒体とを回分式高速回転高剪断型分散機で攪拌混合して、油性混合物の微小な液滴を造粒した後、前記重合缶に仕込み、50℃で22時間反応させた。
得られた反応生成物を吸引濾過し、イオン交換水300gで2回洗浄した。このようにして得られた熱発泡性マイクロスフェアーは、平均粒径が11μm、発泡開始温度が85℃、最大発泡倍率が60倍、130℃での発泡倍率が48倍、導電率が0.3mS/cmであった。
このようにして得られた熱発泡性マイクロスフェアー1gを超純水50mlに分散し、40℃または120℃で1時間熱水抽出処理し、そしてナトリウムイオンと塩素イオンの濃度をイオンクロマトグラフィで測定した。測定結果を表3に示す。
Figure 0005612245
表3の結果から、熱水抽出温度によってイオン成分の含有量が変動し、抽出温度が高いほどイオン成分の含有量が大きくなることがわかる。特に、重合性単量体として塩化ビニリデンを含有する重合性単量体組成物を用いた場合(実施例3)には、120℃での塩素イオン含有量が急激に増大することがわかる。
[実施例4]
酢酸エチルとアセトンとの混合溶媒中で、アクリル酸2−エチルヘキシル/酢酸ビニル/アクリル酸(重量比=83/15/2)を重合して、共重合体を含有する溶液を調製した。得られたアクリル共重合体100重量部(固形分)に、ポリイソシアネート架橋剤(日本ポリウレタン社製、商品名「コロネートL)0.6重量部を添加した。さらに、実施例2で得られた3種類の熱発泡性マイクロスフェアー(導電率=0.135mS/cm、0.460mS/cm、及び1.610mS/cm)をそれぞれ30重量部添加して、3種類の溶液を調製した。
これら3種類の溶液のそれぞれを、乾燥後の厚みが60μmとなるように厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗布し、乾燥させた。このようにして得られた各粘着シートを、アルミニウムを蒸着したシリコンウェハ及び銅板に貼り付けて、温度40℃、相対湿度90%の環境下に10日間放置した。その後、粘着シートを剥離して、アルミニウム蒸着シリコンウェハ及び銅板の表面を観察し、腐食の有無を判定した。少しでも腐食している部分がある場合を「腐食あり」と判定した。結果を表4に示す。(なお、表4における熱発泡性マイクロスフェアーの導電率とは、熱発泡性マイクロスフェアーを水で抽出したときの水抽出液の導電率を意味する。)
Figure 0005612245
表4の結果から明らかなように、本発明の熱発泡性マイクロスフェアー(導電率が0.135及び0.460mS/cm)は、いずれの場合も腐食が観察されなかったが、導電率が1.610mS/cmの場合には、腐食が見られた。(なお、この場合の導電率とは、熱発泡性マイクロスフェアーを水で抽出したときの水抽出液の導電率を意味する。)
本発明によれば、イオン性不純物の含有量が低減され、金属の腐食や電子部品の汚染などの不都合が解消された熱発泡性マイクロスフェアーを提供することができる。また、本発明によれば、イオン性不純物の含有量が低減された熱発泡性マイクロスフェアーを含有し、金属の腐食や電子部品の汚染などの不都合が発生しないポリマー組成物、発泡塗料、発泡粘着剤、発泡インクなどが提供される。
さらに、本発明によれば、重合後の洗浄工程において、予め作成した濾液の導電率と熱発泡性マイクロスフェアーの水抽出液の導電率との間の関係式に基づいて、効率良く所望の導電率を示す熱発泡性マイクロスフェアーを得ることができる。(なお、所望の導電率とは、熱発泡性マイクロスフェアーを水で抽出したときの水抽出液の導電率を意味する。)
本発明の熱発泡性マイクロスフェアーは、未発泡のままで、あるいは膨脹性を利用して、自動車等の塗料の充填剤;壁紙や発泡インク(T−シャツ等のレリーフ模様付け)の発泡剤;収縮防止剤などに利用することができる。本発明の熱発泡性マイクロスフェアーは、発泡による体積増加を利用して、ポリマー材料、塗料、各種資材などの軽量化や多孔質化、各種機能性付与の目的で利用することができる。本発明の熱発泡性マイクロスフェアーは、粘着剤中に分散させて、加熱剥離型粘着シートまたはテープにすることができる。
本発明の熱発泡性マイクロスフェアーは、表面処理を行ったり、発泡剤に染料などの各種添加剤成分を加えたりすることにより、様々な機能性を付与することができる。本発明の熱発泡性マイクロスフェアーは、イオン性不純物の含有量が低減されているため、電子部品関連用途や金属と接触する用途等に好適に適用することができる。

Claims (8)

  1. 重合体から形成された外殻内に発泡剤が封入された構造を持つ熱発泡性マイクロスフェアーであって、
    (1)(i)熱発泡性マイクロスフェアーが、分散安定剤、分散助剤又は重合助剤としてイオン性不純物となりうる化合物を含有する水系分散媒体中で、少なくとも発泡剤及び重合性単量体を含有する重合性単量体混合物を懸濁重合する方法により製造され、
    (ii)外殻を形成する重合体が、(メタ)アクリロニトリル(共)重合体であり、
    (iii)下記工程1及び2:
    (工程1)25℃の温度で、熱発泡性マイクロスフェアー5gをpHが7で導電率がσ1のイオン交換水20g中に分散させて、分散液を調製する工程1;及び
    (工程2)同温度で、該分散液を30分間振とうして、水抽出処理を行う工程2;により得られた水抽出液について、25℃で測定した導電率をσ2としたとき、σ2とσ1との差σ2−σ1が0.5mS/cm以下であり、
    (iv)熱発泡性マイクロスフェアー1gを超純水50mlに分散し、40℃で1時間抽出した熱水抽出液について、イオンクロマトグラフィにより測定した周期表1A族金属イオン及び周期表2A族金属イオンからなる群より選ばれる金属イオンの含有量が100μg/g以下であり、かつ、
    (v)熱発泡性マイクロスフェアー1gを超純水50mlに分散し、40℃で1時間抽出した熱水抽出液について、イオンクロマトグラフィにより測定したハロゲンイオンの含有量が200μg/g以下であり、
    (2)下記の工程I乃至III:
    (工程I)25℃の温度で、熱発泡性マイクロスフェアー1gを超純水50ml中に分散させて、分散液を調製する工程I;
    (工程II)該分散液を40℃及び120℃の各温度に加熱して、1時間熱水抽出処理する工程II;及び
    (工程III)各熱水抽出液を冷却した後、25℃の温度で、イオンクロマトグラフィにより各熱水抽出液中のハロゲンイオン濃度を測定する工程III;
    により熱発泡性マイクロスフェアー1g当りのハロゲンイオン含有量(μg/g)を測定したとき、40℃の温度で熱水抽出処理した場合のハロゲンイオン含有量Aに対する120℃の温度で熱水抽出処理した場合のハロゲンイオン含有量Bの比B/Aが5倍以下であり、
    3)該(メタ)アクリロニトリル(共)重合体が、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルからなる群より選ばれる少なくとも一種のニトリル単量体30〜100重量%、並びにアクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレン、及び酢酸ビニルからなる群より選ばれる少なくとも一種のビニル単量体0〜70重量%を含有する重合性単量体または重合性単量体混合物を用いて得られた(メタ)アクリロニトリル(共)重合体であり、かつ
    (4)該イオン性不純物が、周期表1A族金属イオン、周期表2A族金属イオン、またはハロゲンイオンである熱発泡性マイクロスフェアー。
  2. 重合性単量体混合物が、架橋性単量体として、2つ以上の重合性炭素−炭素二重結合を持つ多官能性化合物を、少なくとも1種のビニル単量体100重量部に対して、0.01〜5重量部の割合で更に含有するものである請求項1記載の熱発泡性マイクロスフェアー。
  3. 多官能性化合物が、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、アルキルジオール、アルキルエーテルジオール、及びアルキルエステルジオールからなる群より選ばれるジオール化合物から誘導された屈曲性連鎖を介して、直接的または間接的に、2個の重合性炭素−炭素二重結合が連結された構造の化合物である請求項2記載の熱発泡性マイクロスフェアー。
  4. (メタ)アクリロニトリル(共)重合体が、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルからなる群より選ばれる少なくとも一種の単量体30〜100重量%、並びにアクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも一種の単量体0〜70重量%を含有する重合性単量体または重合性単量体混合物を用いて得られた(メタ)アクリロニトリル(共)重合体である請求項1記載の熱発泡性マイクロスフェアー。
  5. (メタ)アクリロニトリル共重合体が、アクリロニトリル1〜99重量%、メタクリロニトリル1〜99重量%、並びにアクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも一種の単量体0〜70重量%を含有する重合性単量体混合物を用いて得られた(メタ)アクリロニトリル共重合体である請求項1記載の熱発泡性マイクロスフェアー。
  6. (メタ)アクリロニトリル共重合体が、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルからなる群より選ばれる少なくとも一種のニトリル単量体70〜99重量%とその他のビニル単量体1〜30重量%を含有する重合性単量体混合物を重合して得られる(メタ)アクリロニトリル共重合体である請求項1記載の熱発泡性マイクロスフェアー。
  7. 高分子材料、塗料、粘着剤、インク、または水系媒体中に、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の熱発泡性マイクロスフェアー若しくはその発泡体が分散している組成物。
  8. 分散安定剤、分散助剤又は重合助剤としてイオン性不純物となりうる化合物を含有する水系分散媒体中で、少なくとも発泡剤及び重合性単量体を含有する重合性単量体混合物を懸濁重合して、生成重合体から成形された外殻内に発泡剤が封入された構造を持つ熱発泡性マイクロスフェアーを合成する重合工程、及び熱発泡性マイクロスフェアーを洗浄する洗浄工程を含む熱発泡性マイクロスフェアーの製造方法であって、(i)該洗浄工程において、イオン交換水を用いた洗浄と濾過とを行い、その際、濾液の導電率を測定し、予め作成した濾液の導電率と熱発泡性マイクロスフェアーの水抽出液の導電率との間の関係式に基づき、所望の導電率を示す熱発泡性マイクロスフェアーを得ること、かつ、(ii)該関係式が、濾液の導電率xを独立変数とし、熱発泡性マイクロスフェアーの水抽出液の導電率yを従属変数とする下記式(1)
    y=α+βx (1)
    (式中、α及びβは、パラメータである。)
    で表される線形モデルの関係式であることを特徴とする請求項1記載の熱発泡性マイクロスフェアーの製造方法。
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