次に、添付図面を参照して、本発明の実施形態による固体酸化物型燃料電池(SOFC)を説明する。
図1は、本発明の一実施形態による固体酸化物型燃料電池(SOFC)を示す全体構成図である。この図1に示すように、本発明の一実施形態による固体酸化物型燃料電池(SOFC)1は、燃料電池モジュール2と、補機ユニット4を備えている。
燃料電池モジュール2は、ハウジング6を備え、このハウジング6内部には、断熱材7を介して密封空間8が形成されている。この密閉空間8の下方部分である発電室10には、燃料ガスと酸化剤(空気)とにより発電反応を行う燃料電池セル集合体12が配置されている。この燃料電池セル集合体12は、10個の燃料電池セルスタック14(図5参照)を備え、この燃料電池セルスタック14は、16本の燃料電池セルユニット16(図4参照)から構成されている。このように、燃料電池セル集合体12は、160本の燃料電池セルユニット16を有し、これらの燃料電池セルユニット16の全てが直列接続されている。
燃料電池モジュール2の密封空間8の上述した発電室10の上方には、燃焼室18が形成され、この燃焼室18で、発電反応に使用されなかった残余の燃料ガスと残余の酸化剤(空気)とが燃焼し、排気ガスを生成するようになっている。
また、この燃焼室18の上方には、燃料ガスを改質する改質器20が配置され、前記残余ガスの燃焼熱によって改質器20を改質反応が可能な温度となるように加熱している。さらに、この改質器20の上方には、改質器20の熱を受けて空気を加熱し、改質器20の温度低下を抑制するための空気用熱交換器22が配置されている。
次に、補機ユニット4は、水道等の水供給源24からの水を貯水してフィルターにより純水とする純水タンク26と、この貯水タンクから供給される水の流量を調整する水流量調整ユニット28(モータで駆動される「水ポンプ」等)を備えている。また、補機ユニット4は、都市ガス等の燃料供給源30から供給された燃料ガスを遮断するガス遮断弁32と、燃料ガスから硫黄を除去するための脱硫器36と、燃料ガスの流量を調整する燃料流量調整ユニット38(モータで駆動される「燃料ポンプ」等)を備えている。さらに、補機ユニット4は、空気供給源40から供給される酸化剤である空気を遮断する電磁弁42と、空気の流量を調整する改質用空気流量調整ユニット44及び発電用空気流量調整ユニット45(モータで駆動される「空気ブロア」等)と、改質器20に供給される改質用空気を加熱する第1ヒータ46と、発電室に供給される発電用空気を加熱する第2ヒータ48とを備えている。これらの第1ヒータ46と第2ヒータ48は、起動時の昇温を効率よく行うために設けられているが、省略しても良い。
次に、燃料電池モジュール2には、排気ガスが供給される温水製造装置50が接続されている。この温水製造装置50には、水供給源24から水道水が供給され、この水道水が排気ガスの熱により温水となり、図示しない外部の給湯器の貯湯タンクへ供給されるようになっている。
また、燃料電池モジュール2には、燃料ガスの供給量等を制御するための制御ボックス52が取り付けられている。
さらに、燃料電池モジュール2には、燃料電池モジュールにより発電された電力を外部に供給するための電力取出部(電力変換部)であるインバータ54が接続されている。
次に、図2及び図3により、本発明の実施形態による固体酸化物型燃料電池(SOFC)の燃料電池モジュールの内部構造を説明する。図2は、本発明の一実施形態による固体酸化物型燃料電池(SOFC)の燃料電池モジュールを示す側面断面図であり、図3は、図2のIII-III線に沿って断面図である。
図2及び図3に示すように、燃料電池モジュール2のハウジング6内の密閉空間8には、上述したように、下方から順に、燃料電池セル集合体12、改質器20、空気用熱交換器22が配置されている。
改質器20は、その上流端側に純水を導入するための純水導入管60と改質される燃料ガスと改質用空気を導入するための被改質ガス導入管62が取り付けられ、また、改質器20の内部には、上流側から順に、蒸発部20aと改質部20bを形成され、これらの蒸発部20aと改質部20bには改質触媒が充填されている。この改質器20に導入された水蒸気(純水)が混合された燃料ガス及び空気は、改質器20内に充填された改質触媒により改質される。改質触媒としては、アルミナの球体表面にニッケルを付与したものや、アルミナの球体表面にルテニウムを付与したものが適宜用いられる。
この改質器20の下流端側には、燃料ガス供給管64が接続され、この燃料ガス供給管64は、下方に延び、さらに、燃料電池セル集合体12の下方に形成されたマニホールド66内で水平に延びている。燃料ガス供給管64の水平部64aの下方面には、複数の燃料供給孔64bが形成されており、この燃料供給孔64bから、改質された燃料ガスがマニホールド66内に供給される。
このマニホールド66の上方には、上述した燃料電池セルスタック14を支持するための貫通孔を備えた下支持板68が取り付けられており、マニホールド66内の燃料ガスが、燃料電池セルユニット16内に供給される。
次に、改質器20の上方には、空気用熱交換器22が設けられている。この空気用熱交換器22は、上流側に空気集約室70、下流側に2つの空気分配室72を備え、これらの空気集約室70と空気分配室72は、6個の空気流路管74により接続されている。ここで、図3に示すように、3個の空気流路管74が一組(74a,74b,74c,74d,74e,74f)となっており、空気集約室70内の空気が各組の空気流路管74からそれぞれの空気分配室72へ流入する。
空気用熱交換器22の6個の空気流路管74内を流れる空気は、燃焼室18で燃焼して上昇する排気ガスにより予熱される。
空気分配室72のそれぞれには、空気導入管76が接続され、この空気導入管76は、下方に延び、その下端側が、発電室10の下方空間に連通し、発電室10に余熱された空気を導入する。
次に、マニホールド66の下方には、排気ガス室78が形成されている。また、図3に示すように、ハウジング6の長手方向に沿った面である前面6aと後面6bの内側には、上下方向に延びる排気ガス通路80が形成され、この排気ガス室通路80の上端側は、空気用熱交換器22が配置された空間と連通し、下端側は、排気ガス室78と連通している。また、排気ガス室78の下面のほぼ中央には、排気ガス排出管82が接続され、この排気ガス排出管82の下流端は、図1に示す上述した温水製造装置50に接続されている。
図2に示すように、燃料ガスと空気との燃焼を開始するための点火装置83が、燃焼室18に設けられている。
次に図4により燃料電池セルユニット16について説明する。図4は、本発明の一実施形態による固体酸化物型燃料電池(SOFC)の燃料電池セルユニットを示す部分断面図である。
図4に示すように、燃料電池セルユニット16は、燃料電池セル84と、この燃料電池セル84の上下方向端部にそれぞれ接続された内側電極端子86とを備えている。
燃料電池セル84は、上下方向に延びる管状構造体であり、内部に燃料ガス流路88を形成する円筒形の内側電極層90と、円筒形の外側電極層92と、内側電極層90と外側電極層92との間にある電解質層94とを備えている。この内側電極層90は、燃料ガスが通過する燃料極であり、(−)極となり、一方、外側電極層92は、空気と接触する空気極であり、(+)極となっている。
燃料電池セル16の上端側と下端側に取り付けられた内側電極端子86は、同一構造であるため、ここでは、上端側に取り付けられた内側電極端子86について具体的に説明する。内側電極層90の上部90aは、電解質層94と外側電極層92に対して露出された外周面90bと上端面90cとを備えている。内側電極端子86は、導電性のシール材96を介して内側電極層90の外周面90bと接続され、さらに、内側電極層90の上端面90cとは直接接触することにより、内側電極層90と電気的に接続されている。内側電極端子86の中心部には、内側電極層90の燃料ガス流路88と連通する燃料ガス流路98が形成されている。
内側電極層90は、例えば、Niと、CaやY、Sc等の希土類元素から選ばれる少なくとも一種をドープしたジルコニアとの混合体、Niと、希土類元素から選ばれる少なくとも一種をドープしたセリアとの混合体、Niと、Sr、Mg、Co、Fe、Cuから選ばれる少なくとも一種をドープしたランタンガレードとの混合体、の少なくとも一種から形成される。
電解質層94は、例えば、Y、Sc等の希土類元素から選ばれる少なくとも一種をドープしたジルコニア、希土類元素から選ばれる少なくとも一種をドープしたセリア、Sr、Mgから選ばれる少なくとも一種をドープしたランタンガレート、の少なくとも一種から形成される。
外側電極層92は、例えば、Sr、Caから選ばれた少なくとも一種をドープしたランタンマンガナイト、Sr、Co、Ni、Cuから選ばれた少なくとも一種をドープしたランタンフェライト、Sr、Fe、Ni、Cuから選ばれた少なくとも一種をドープしたランタンコバルタイト、銀、などの少なくとも一種から形成される。
次に図5により燃料電池セルスタック14について説明する。図5は、本発明の一実施形態による固体酸化物型燃料電池(SOFC)の燃料電池セルスタックを示す斜視図である。
図5に示すように、燃料電池セルスタック14は、16本の燃料電池セルユニット16を備え、これらの燃料電池セルユニット16の下端側及び上端側が、それぞれ、セラミック製の下支持板68及び上支持板100により支持されている。これらの下支持板68及び上支持板100には、内側電極端子86が貫通可能な貫通穴68a及び100aがそれぞれ形成されている。
さらに、燃料電池セルユニット16には、集電体102及び外部端子104が取り付けられている。この集電体102は、燃料極である内側電極層90に取り付けられた内側電極端子86と電気的に接続される燃料極用接続部102aと、空気極である外側電極層92の外周面全体と電気的に接続される空気極用接続部102bとにより一体的に形成されている。空気極用接続部102bは、外側電極層92の表面を上下方向に延びる鉛直部102cと、この鉛直部102cから外側電極層92の表面に沿って水平方向に延びる多数の水平部102dとから形成されている。また、燃料極用接続部102aは、空気極用接続部102bの鉛直部102cから燃料電池セルユニット16の上下方向に位置する内側電極端子86に向って斜め上方又は斜め下方に向って直線的に延びている。
さらに、燃料電池セルスタック14の端(図5では左端の奥側及び手前側)に位置する2個の燃料電池セルユニット16の上側端及び下側端の内側電極端子86には、それぞれ外部端子104が接続されている。これらの外部端子104は、隣接する燃料電池セルスタック14の端にある燃料電池セルユニット16の外部端子104(図示せず)に接続され、上述したように、160本の燃料電池セルユニット16の全てが直列接続されるようになっている。
次に図6により本実施形態による固体酸化物型燃料電池(SOFC)に取り付けられたセンサ類等について説明する。図6は、本発明の一実施形態による固体酸化物型燃料電池(SOFC)を示すブロック図である。
図6に示すように、固体酸化物型燃料電池1は、制御部110を備え、この制御部110には、使用者が操作するための「ON」や「OFF」等の操作ボタンを備えた操作装置112、発電出力値(ワット数)等の種々のデータを表示するための表示装置114、及び、異常状態のとき等に警報(ワーニング)を発する報知装置116が接続されている。なお、この報知装置116は、遠隔地にある管理センタに接続され、この管理センタに異常状態を通知するようなものであっても良い。
次に、制御部110には、以下に説明する種々のセンサからの信号が入力されるようになっている。
先ず、可燃ガス検出センサ120は、ガス漏れを検知するためのもので、燃料電池モジュール2及び補機ユニット4に取り付けられている。
CO検出センサ122は、本来排気ガス通路80等を経て外部に排出される排気ガス中のCOが、燃料電池モジュール2及び補機ユニット4を覆う外部ハウジング(図示せず)へ漏れたかどうかを検知するためのものである。
貯湯状態検出センサ124は、図示しない給湯器におけるお湯の温度や水量を検知するためのものである。
電力状態検出センサ126は、インバータ54及び分電盤(図示せず)の電流及び電圧等を検知するためのものである。
発電用空気流量検出センサ128は、発電室10に供給される発電用空気の流量を検出するためのものである。
改質用空気流量センサ130は、改質器20に供給される改質用空気の流量を検出するためのものである。
燃料流量センサ132は、改質器20に供給される燃料ガスの流量を検出するためのものである。
水流量センサ134は、改質器20に供給される純水の流量を検出するためのものである。
水位センサ136は、純水タンク26の水位を検出するためのものである。
圧力センサ138は、改質器20の外部の上流側の圧力を検出するためのものである。
排気温度センサ140は、温水製造装置50に流入する排気ガスの温度を検出するためのものである。
発電室温度センサ142は、図3に示すように、燃料電池セル集合体12の近傍の前面側と背面側に設けられ、燃料電池セルスタック14の近傍の温度を検出して、燃料電池セルスタック14(即ち燃料電池セル84自体)の温度を推定するためのものである。
燃焼室温度センサ144は、燃焼室18の温度を検出するためのものである。
排気ガス室温度センサ146は、排気ガス室78の排気ガスの温度を検出するためのものである。
改質器温度センサ148は、改質器20の温度を検出するためのものであり、改質器20の入口温度と出口温度から改質器20の温度を算出する。
外気温度センサ150は、固体酸化物型燃料電池(SOFC)が屋外に配置された場合、外気の温度を検出するためのものである。また、外気の湿度等を測定するセンサを設けるようにしても良い。
これらのセンサ類からの信号は、制御部110に送られ、制御部110は、これらの信号によるデータに基づき、水流量調整ユニット28、燃料流量調整ユニット38、改質用空気流量調整ユニット44、発電用空気流量調整ユニット45に、制御信号を送り、これらのユニットにおける各流量を制御するようになっている。
次に図7により本実施形態による固体酸化物型燃料電池(SOFC)による起動時の動作を説明する。図7は、本発明の一実施形態による固体酸化物型燃料電池(SOFC)の起動時の動作を示すタイムチャートである。
最初は、燃料電池モジュール2を温めるために、無負荷状態で、即ち、燃料電池モジュール2を含む回路を開いた状態で、運転を開始する。このとき、回路に電流が流れないので、燃料電池モジュール2は発電を行わない。
先ず、改質用空気流量調整ユニット44から改質用空気を第1ヒータ46を経由して燃料電池モジュール2の改質器20へ供給する。また、同時に、発電用空気流量調整ユニット45から発電用空気を第2ヒータ48を経由して燃料電池モジュール2の空気用熱交換器22へ供給し、この発電用空気が、発電室10及び燃焼室18に到達する。
この直ぐ後、燃料流量調整ユニット38からも燃料ガスが供給され、改質用空気が混合された燃料ガスが、改質器20及び燃料電池セルスタック14、燃料電池セルユニット16を通過して、燃焼室18に到達する。
次に、点火装置83により着火して、燃焼室18にある燃料ガスと空気(改質用空気及び発電用空気)とを燃焼させる。この燃料ガスと空気との燃焼により排気ガスが生じ、この排気ガスにより、発電室10が暖められ、また、排気ガスが燃料電池モジュール2の密封空間8内を上昇する際、改質器20内の改質用空気を含む燃料ガスを暖めると共に、空気熱交換器22内の発電用空気も暖める。
このとき、燃料流量調整ユニット38及び改質用空気流量調整ユニット44により、改質用空気が混合された燃料ガスが改質器20に供給されているので、改質器20において、式(1)に示す部分酸化改質反応POXが進行する。この部分酸化改質反応POXは、発熱反応であるので、起動性が良好となる。また、この昇温した燃料ガスが燃料ガス供給管64により燃料電池セルスタック14の下方に供給され、これにより、燃料電池セルスタック14が下方から加熱され、また、燃焼室18も燃料ガスと空気が燃焼して昇温されているので、燃料電池セルスタック14は、上方からも加熱され、この結果、燃料電池セルスタック14は、上下方向において、ほぼ均等に昇温可能となっている。この部分酸化改質反応POXが進行しても、燃焼室18では継続して燃料ガスと空気との燃焼反応が持続される。
CmHn+xO2 → aCO2+bCO+cH2 (1)
部分酸化改質反応POXの開始後、改質器温度センサ148により改質器20が所定温度(例えば、600℃)になったことを検知したとき、水流量調整ユニット28、燃料流量調整ユニット38及び改質用空気流量調整ユニット44により、燃料ガスと改質用空気と水蒸気とを予め混合したガスを改質器20に供給する。このとき、改質器20においては、上述した部分酸化改質反応POXと後述する水蒸気改質反応SRとが併用されたオートサーマル改質反応ATRが進行する。このオートサーマル改質反応ATRは、熱的に内部バランスが取れるので、改質器20内では熱的に自立した状態で反応が進行する。即ち、酸素(空気)が多い場合には部分酸化改質反応POXによる発熱が支配的となり、水蒸気が多い場合には水蒸気改質反応SRによる吸熱反応が支配的となる。この段階では、既に起動の初期段階は過ぎており、発電室10内がある程度の温度まで昇温されているので、吸熱反応が支配的であっても大幅な温度低下を引き起こすことはない。また、オートサーマル改質反応ATRが進行中も、燃焼室18では燃焼反応が継続して行われている。
式(2)に示すオートサーマル改質反応ATRの開始後、改質器温度センサ146により改質器20が所定温度(例えば、700℃)になったことを検知したとき、改質用空気流量調整ユニット44による改質用空気の供給を停止すると共に、水流量調整ユニット28による水蒸気の供給を増加させる。これにより、改質器20には、空気を含まず燃料ガスと水蒸気のみを含むガスが供給され、改質器20において、式(3)の水蒸気改質反応SRが進行する。
CmHn+xO2+yH2O → aCO2+bCO+cH2 (2)
CmHn+xH2O → aCO2+bCO+cH2 (3)
この水蒸気改質反応SRは吸熱反応であるので、燃焼室18からの燃焼熱と熱バランスをとりながら反応が進行する。この段階では、燃料電池モジュール2の起動の最終段階であるため、発電室10内が十分高温に昇温されているので、吸熱反応が進行しても、発電室10が大幅な温度低下を招くこともない。また、水蒸気改質反応SRが進行しても、燃焼室18では継続して燃焼反応が進行する。
このようにして、燃料電池モジュール2は、点火装置83により点火した後、部分酸化改質反応POX、オートサーマル改質反応ATR、水蒸気改質反応SRが、順次進行することにより、発電室10内の温度が徐々に上昇する。次に、発電室10内及び燃料電池セル84の温度が燃料電池モジュール2を安定的に作動させる定格温度よりも低い所定の発電温度に達したら、燃料電池モジュール2を含む回路を閉じ、燃料電池モジュール2による発電を開始し、それにより、回路に電流が流れる。燃料電池モジュール2の発電により、燃料電池セル84自体も発熱し、燃料電池セル84の温度も上昇する。この結果、燃料電池モジュール2を作動させる定格温度、例えば、600℃〜800℃になる。
この後、定格温度を維持するために、燃料電池セル84で消費される燃料ガス及び空気の量よりも多い燃料ガス及び空気を供給し、燃焼室18での燃焼を継続させる。なお、発電中は、改質効率の高い水蒸気改質反応SRで発電が進行する。
次に、図8により本実施形態による固体酸化物型燃料電池(SOFC)の運転停止時の動作を説明する。図8は、本実施形態により固体酸化物型燃料電池(SOFC)の運転停止時の動作を示すタイムチャートである。
図8に示すように、燃料電池モジュール2の運転停止を行う場合には、先ず、燃料流量調整ユニット38及び水流量調整ユニット28を操作して、燃料ガス及び水蒸気の改質器20への供給量を減少させる。
また、燃料電池モジュール2の運転停止を行う場合には、燃料ガス及び水蒸気の改質器20への供給量を減少させると同時に、改質用空気流量調整ユニット44による発電用空気の燃料電池モジュール2内への供給量を増大させて、燃料電池セル集合体12及び改質器20を空気により冷却し、これらの温度を低下させる。その後、改質器20の温度が所定温度、例えば、400℃まで低下したとき、燃料ガス及び水蒸気の改質器20への供給を停止し、改質器20の水蒸気改質反応SRを終了する。この発電用空気の供給は、改質器20の温度が所定温度、例えば、200℃まで低下するまで、継続し、この所定温度となったとき、発電用空気流量調整ユニット45からの発電用空気の供給を停止する。
このように、本実施形態においては、燃料電池モジュール2の運転停止を行うとき、改質器20による水蒸気改質反応SRと発電用空気による冷却とを併用しているので、比較的短時間に、燃料電池モジュールの運転を停止させることができる。
次に、図9乃至図17を参照して、本発明の第1実施形態による固体酸化物型燃料電池1の制御を説明する。
図9は、本実施形態の固体酸化物型燃料電池1における出力電流と燃料供給量の関係を示すグラフである。図10は、固体酸化物型燃料電池1における出力電流と、供給された燃料により発生する熱量の関係を示すグラフである。
まず、図9の実線に示すように、本実施形態の固体酸化物型燃料電池1は、需要電力に応じて、出力を定格出力電力である700W(出力電流7A)以下で可変できるように構成されている。所要の電力を出力するために必要とされる燃料供給量(L/min)は、図9に実線で示す基本燃料供給テーブルとして設定されている。制御手段である制御部110は、需要電力検出手段である電力状態検出センサ126によって検出された需要電力に応じて、基本燃料供給テーブルに基づいて燃料供給量を決定し、これに基づいて燃料供給手段である燃料流量調整ユニット38を制御するように構成されている。
発電に必要な燃料の量は出力電力(出力電流)に比例するが、図9に実線で示すように、基本燃料供給テーブルに設定された燃料供給量は、出力電流に比例していない。これは、出力電力に比例して燃料供給量を低下させてしまうと、燃料電池モジュール2内の燃料電池セルユニット16を発電可能な温度に維持することができなくなるためである。このため、本実施形態においては、基本燃料供給テーブルは、出力電流7A付近の大発電電力時には燃料利用率約70%に設定され、出力電流2A程度の小発電電力時には燃料利用率約50%に設定されている。このように、小発電電力領域における燃料利用率を低下させ、発電に使用されなかった燃料を燃焼させて改質器20等の加熱に使用することにより、燃料電池セルユニット16の温度低下を抑制し、燃料電池モジュール2内を発電可能な温度に維持している。
しかしながら、燃料利用率を低下させることにより、発電に寄与しない燃料を増加させることになるので、小発電電力領域における固体酸化物型燃料電池1のエネルギー効率が低下する。本実施形態の固体酸化物型燃料電池1においては、制御部110に内蔵された燃料テーブル変更手段110a(図6)が、所定の条件に応じて基本燃料供給テーブルに設定された燃料供給量を変更・補正して、燃料供給量を図9破線に一例を示すように減少させ、小発電電力領域における燃料利用率が上昇される。これにより、固体酸化物型燃料電池1のエネルギー効率が向上される。
図10は、本実施形態の固体酸化物型燃料電池1において、基本燃料供給テーブルに基づいて燃料を供給した場合における出力電流と、供給された燃料の熱量との関係を模式的に示すグラフである。図10に一点鎖線で示すように、燃料電池モジュール2を熱的に自立させ、安定に運転するために必要な熱量は、出力電流の増加と共に単調に増加する。図10に実線で示すグラフは、基本燃料供給テーブルに従って燃料が供給された場合における熱量を示している。本実施形態では、中発電電力に相当する出力電流5Aよりも低い領域では、一点鎖線で示す必要な熱量と、実線で示す基本燃料供給テーブルに基づいて供給される熱量がほぼ一致している。
さらに、出力電流5Aよりも高い領域では、基本燃料供給テーブルに従って供給される実線で示す熱量は、熱自立するために最低限必要な一点鎖線で示す熱量を上回っている。この実線と破線の間の余剰熱量は、燃料電池モジュール2に設けられた蓄熱材である断熱材7に蓄積される。また、固体酸化物型燃料電池1からの出力電流と、この電流を定常的に出力している場合における燃料電池モジュール2内の燃料電池セルユニット16の温度とは相関があり、出力電流を大きくするためには燃料電池セルユニット16の温度を高くする必要があることから、出力電流が大きい状態では燃料電池セルユニット16の温度は高い状態にある。本実施形態においては、出力電流5Aは、蓄熱温度Thである約633℃に対応している。従って、本実施形態の固体酸化物型燃料電池1では、出力電流5A、蓄熱温度Th=約633℃以上の場合において、より多くの熱量が断熱材7に蓄積される。
この蓄熱温度Thは、発電電力範囲である0W〜700Wの中央値である350Wよりも大きい500W(出力電流5A)に対応する温度に設定されている。また、出力電流5A以下の領域においては、基本燃料供給テーブルに基づいて供給される熱量は、熱自立するために最低限必要な熱量とほぼ同一(僅かに基本燃料供給テーブルの熱量が大きい)に設定されている。このため、図10の破線に一例を示すように、基本燃料供給テーブルによる燃料供給量が補正され、燃料供給量が減少されると、熱的に自立するために必要な熱量が不足する。
本実施形態においては、後述するように、発電電力が小さい領域において、基本燃料供給テーブルで設定された燃料供給量を一時的に減少させるように補正して、燃料利用率を向上させる。一方、基本燃料供給テーブルの燃料供給量を減少させたことにより不足する熱量は、燃料電池モジュール2が蓄熱温度Thよりも高い領域で運転されている間に断熱材7に蓄積された熱量を利用して補充している。なお、本実施形態においては、断熱材7の熱容量が非常に大きいため、燃料電池モジュール2が大発電電力で所定時間運転された後、発電電力が小さい領域で運転される場合には、断熱材7に蓄積された熱量を2時間以上に亘って利用することができ、この間の燃料供給量を減じる補正を行うことにより燃料利用率が向上される。
また、本実施形態においては、出力電流5A、蓄熱温度Th=約633℃以上の場合において、より多くの熱量が断熱材7に蓄積されるように基本燃料供給テーブルが設定されているが、出力電流5A以上の領域においても熱自立するために最低限必要な熱量とほぼ同一(僅かに基本燃料供給テーブルの熱量が大きい)に基本燃料供給テーブルを設定することもできる。即ち、発電電力が大きい領域においては、燃料電池モジュール2の作動温度は、発電電力が小さい場合よりも高いので、燃料供給量が熱自立のための必要最低限の熱量に設定されていても、小発電電力時に利用可能な熱量を断熱材7に蓄積することができる。本実施形態のように、大発電電力時に積極的に燃料供給量を多く設定しておくことにより、電力需要がピークとなる夜間帯の短時間で断熱材7に必要な熱量を確実に蓄積させることができる。
次に、図11乃至図17を参照して、本発明の第1実施形態による固体酸化物型燃料電池1の具体的な制御を説明する。
図11は、本実施形態における燃料供給量の制御フローチャートである。図12は、断熱材7に蓄積された熱量を推定するために使用される蓄熱量推定テーブルである。図13は、蓄熱量推定テーブルをグラフ化したものである。図14は、出力電流に対する第1修正係数の値を示すグラフである。図15は、出力電流に対する第2修正係数の値を示すグラフである。
図11に示すフローチャートは、固体酸化物型燃料電池1の発電運転中において、制御部110において所定の時間間隔で実行される。まず、図11のステップS1においては、図12に示す蓄熱量推定テーブルに基づいて積算処理が実行される。ステップS1において計算される積算値Niは、後述するように、断熱材7等に蓄積された利用可能な蓄熱量の指標となる値であり、0〜1の間の値をとる。
次に、ステップS2においては、ステップS1で計算された積算値Niが0であるか否かが判断される。積算値Niが0である場合にはステップS3に進み、0以外である場合にはステップS4に進む。
積算値Niが0である場合には、断熱材7等には利用可能な程度に熱量が蓄積されていないと推定されるため、ステップS3においては、制御部110により、燃料供給量が基本燃料供給テーブルに基づいて決定される。制御部110は、燃料流量調整ユニット38に信号を送り、決定された燃料供給量を燃料電池モジュール2に供給する。従って、この場合には、発電電力が少ないとしても燃料利用率を高くする補正は実行されない。ステップS3の後、図11に示すフローチャートの1回の処理を終了する。
一方、ステップS4においては、基本燃料供給テーブルによって決定された燃料供給量に対する利用率変更量が、積算値Niに基づいて決定される。即ち、積算値Niが1である場合には、最も大幅に燃料供給量が減少されて、燃料利用率が向上され、積算値Niが小さいほど燃料供給量の減少幅が小さくされる。
次に、ステップS5においては、図14に示すグラフに基づいて、第1修正係数が決定される。図14に示すように、第1修正係数は、出力電流が少ない領域においては1であり、出力電流が4.5Aを超えると0になる。即ち、発電電力が小さい領域においては、断熱材7に蓄積された熱量を利用して燃料供給量を減少させる補正が行なわれ、燃料利用率が向上される一方、発電電力が大きい領域では補正は実行されない。これは、発電電力が大きい領域においては、基本燃料供給テーブルによっても十分に燃料利用率の高い運転が可能であると共に、大発電電力時には、燃料電池モジュール2内の温度が高いため断熱材7の蓄熱を利用しにくいためである。
次いで、ステップS6においては、図15に示すグラフに基づいて、第2修正係数が決定される。図15に示すように、第2修正係数は、出力電流が1A以下の領域においては0.5であり、出力電流が1〜1.5Aの領域で直線的に増加し、出力電流が1.5A以上の領域では1になる。即ち、発電電力が利用率抑制発電量である150W以下の領域においては、基本燃料供給テーブルによる燃料供給量の絶対値が小さいため、これに大幅な補正を加えて燃料供給量を減少させると燃料電池セルユニット16を損傷する虞があるためである。また、基本燃料供給テーブルの補正量を少なく抑えておくことにより、断熱材7に蓄積された熱量を少しずつ利用することができ、長時間に亘って蓄熱を利用することが可能になる。従って、第2修正係数は、発電電力が小さいほど基本燃料供給テーブルの補正量を減少させ、基本燃料供給テーブルの変更、補正をする期間を延長する変更期間延長手段として機能する。この変更期間延長手段は、基本燃料供給テーブルの補正が開始された後、断熱材7に蓄積された熱量が使用されるため、補正を実行している期間が長くなるにつれて次第に蓄熱量が減少し、蓄熱量が減少すると燃料利用率の補正量が減少するので、更に蓄熱を利用することができる期間を延長するように作用する。
なお、変形例として、第2修正係数を使用した補正量の修正は行わなくても良い。
次に、ステップS7においては、ステップS4において決定された利用率変更量に、ステップS5において決定された第1修正係数、ステップS6において決定された第2修正係数を乗じて、最終的な利用率変更量を決定する。さらに、水供給量の補正量を、決定された燃料供給量に対応して決定すると共に、発電用空気供給量を、通常の空気供給量に対して10%低下させる。また、燃料供給量の制御ゲインを通常運転時の制御ゲインに対して10%増大させ、燃料供給量を変化させる際の追従性を向上させる。
このように、基本燃料供給テーブルの補正を実行する際の燃料供給量の制御ゲインを増大させ、燃料供給量の追従性を高く設定しておくことにより、推定される蓄熱量の減少に伴って補正後の燃料利用率が低下されていく(燃料供給量が増加される)際、速やかに燃料供給量を増加させることができる。これにより、燃料供給量を増加させる応答の遅れによる燃料電池モジュール2の過剰冷却が防止される。従って、ステップS7における、制御ゲインを増大させる制御は、過剰冷却防止手段として作用する。また、発電用の2次空気量を10%低下させることで、セルや改質器など燃料電池モジュール2内への冷却を抑制できるため蓄熱量の減少を抑え蓄熱を有効に利用させることが可能となる。よって、次空気量を10%低下させる制御も、過剰冷却防止手段として作用する。
ステップS8においては、制御部110は、燃料流量調整ユニット38、水流量調整ユニット28、発電用空気流量調整ユニット45に信号を送り、ステップS7において決定された量の燃料、水、発電用空気を燃料電池モジュール2に供給する。ステップS8の後、図11に示すフローチャートの1回の処理を終了する。また、基本燃料供給テーブルの補正が実行されることにより、積算値Niが0まで低下すると、処理は、再びステップS2からステップS3に移行するようになる。これにより、基本燃料供給テーブルの補正が終了し、再び基本燃料供給テーブルに基づく燃料供給量の制御が実行されるようになる。
次に、図12及び図13を参照して、断熱材7等に蓄積されている蓄熱量の推定を説明する。
蓄熱量の推定は、制御部110に内蔵されている蓄熱量推定手段110b(図6)により実行される。図11に示すフローチャートのステップS1が実行されると、蓄熱量推定手段110bは、温度検出手段である発電室温度センサ142から発電室の温度を読み込む。次に、蓄熱量推定手段110bは、発電室温度センサ142の検出温度Tdに基づいて、図12に示す蓄熱量推定テーブルを参照し、加減算値を決定する。例えば、検出温度Tdが645℃である場合には、加算値は1/50000に決定され、この値が積算値Niに加算される。このような積算は、固体酸化物型燃料電池1の始動後、所定の時間間隔で実行される。本実施形態においては、図11に示すフローチャートは、0.5sec毎に実行されるので、0.5secに1回ずつ積算が実行される。このため、例えば、検出温度Tdが645℃で一定の場合には、0.5secに1回ずつ1/50000の値が積算され、積算値Niが増加する。
このような積算値Niは、燃料電池モジュール2や発電室10内の温度の履歴を反映するものであり、断熱材7等に蓄積されている蓄熱量の程度を示す指標となる値である。この積算値Niは、0〜1の範囲に制限されており、積算値Niが1に到達した場合には、値は次に減算が行われるまで1に保持され、積算値Niが0まで減少した場合には、値は次に加算が行われるまで0に保持される。本明細書においては、本実施形態における積算値Niのように、蓄熱量の程度を示す指標となる値が蓄熱量の推定値であるとする。従って、本実施形態においては、燃料電池モジュール2の温度に基づいて蓄熱量が推定される。
図11に示すフローチャートのステップS4において計算される、基本燃料供給テーブルに対する利用率変更量は、この積算値Niに所定の補正量を乗じることによって決定される。従って、蓄熱量の推定値である積算値Niが大きいほど補正量は増加し、積算値Niが1のとき利用率変更量は最大となり、積算値Niが0のときには補正は実行されない(利用率変更量=0)。即ち、積算値Niが0の場合には、蓄熱量の推定値が、基本燃料供給テーブルの補正を実行する変更実行蓄熱量未満であると判断して、燃料利用率の補正は実行されない。
図12及び図13に示すように、本実施形態においては、積算は、検出温度Tdが変更基準温度Tcrである635℃よりも高い場合には加算が行われ、低い場合には減算が行われる。即ち、検出温度Tdが変更基準温度Tcrよりも高い場合には、断熱材7等に燃料利用率の向上に利用可能な熱量が蓄積され、変更基準温度Tcrよりも低い場合には、断熱材7等に蓄積されている熱が奪われると仮定して、積算値Niが計算される。換言すれば、積算値Niは、検出温度Tdの変更基準温度Tcrに対する温度偏差の時間積分に対応し、この積算値Niに基づいて蓄熱量が推定される。
なお、本実施形態においては、蓄熱量推定の基準となる変更基準温度Tcrは、熱の蓄積が多くなる蓄熱温度Thよりも僅かに高く設定されている(図10)。このため蓄熱量の推定値は実際よりも少なく推定される。これにより、実際よりも大きく推定された蓄熱量に基づいて、燃料利用率を高める補正を過度に実施し、燃料電池モジュール2の過剰な温度低下を引き起こすのを回避している。
従って、検出温度Tdが変更基準温度Tcrよりも高い状態で、発電電力が小さくなった場合には、基本燃料供給テーブルに対する補正が実行される。一方、検出温度Tdが変更基準温度Tcrよりも低い状態で、発電電力が小さくなった場合には、基本燃料供給テーブルに対する補正量が減少され(積算値Niが減少することによる)、或いは、補正が実行されない(積算値Niが0である場合)。
具体的には、図12及び図13に示すように、検出温度Tdが580℃よりも低い場合には、積算値Niから20/50000が減算される。また、検出温度Tdが580℃以上、620℃未満の場合には積算値Niから10/50000×(620−Td)/(620−580)が減算される。検出温度Tdが620℃以上、630℃未満の場合には積算値Niから1/50000が減算される。このように、検出温度Tdが検出温度Tdよりも低いほど積算値Niは急激に減少され、これに伴い燃料利用率の補正量も急激に減少される。
一方、検出温度Tdが650℃以上の場合には、積算値Niに1/50000×(Td−650)が加算される。また、検出温度Tdが640℃以上、650℃未満の場合には積算値Niに1/50000が加算される。このように、検出温度Tdが検出温度Tdよりも高いほど積算値Niは急激に増加され、これに伴い燃料利用率の補正量も急激に増大される。
さらに、検出温度Tdが630〜640℃の間では、検出温度Tdが上昇傾向にある場合と、低下傾向にある場合で処理が異なる。
即ち、検出温度Tdが630℃以上、632℃未満の場合、検出温度Tdが上昇傾向にある場合には加算値は0(加減算を行わない)にされ、低下傾向にある場合には1/50000が減算される。このように、検出温度Tdが変更基準温度Tcrよりも低く、それらの差が微少偏差温度である5℃以下である場合においては、検出温度Tdが低下傾向にあるときは、上昇傾向にあるときよりも急激に積算値Niを減少させる。ここで、断熱材7等は熱容量が非常に大きく、検出温度Tdが一旦低下傾向に入ると、しばらくの間温度が低下し続けることが予想される。従って、このような状況においては、速やかに積算値Niを減少させて、燃料利用率を高める(燃料供給量を減少させる)補正を抑制することにより、燃料電池モジュール2に著しい温度低下が発生するリスクを回避する必要がある。
一方、検出温度Tdが638℃以上、640℃未満の場合、検出温度Tdが上昇傾向にある場合には1/50000が加算され、低下傾向にある場合には加算値は0(加減算を行わない)にされる。上記のように、断熱材7等は熱容量が非常に大きく、検出温度Tdが一旦上昇傾向に入るとしばらくの間温度が上昇し続けることが予想される。従って、このような状況においては、速やかに積算値Niを増加させることにより燃料利用率を高める(燃料供給量を減少させる)補正を促進し、蓄熱を積極的に利用して燃料利用率を向上させる。
このように、積算値Niに対する加減算値は、検出温度Tdの変化状態に応じて異なる値をとる。従って、検出温度Tdと変更基準温度Tcrの間の温度偏差と、蓄熱量を反映している積算値Niの関係は、検出温度Tdの変化状態に応じて変更される。
また、検出温度Tdが632℃以上、638℃未満の場合には、検出温度Tdが変更基準温度Tcrである635℃近傍にあり、安定しているとみなして、検出温度Tdの傾向にかかわらず加算値を0(加減算を行わない)として現在の状態を維持させる。
次に、図16を参照して、燃料電池モジュール2が劣化した場合における処理を説明する。図16は、燃料電池モジュール2が劣化した場合における補正量の変更を行うためのフローチャートである。
燃料電池セルユニット16は、長年使用することにより劣化が進行すると、同一の燃料供給量に対して取り出すことのできる電力が低下する。また、これに伴い、同一の電力を生成しているときの燃料電池セルユニット16の温度も上昇する。本実施形態の固体酸化物型燃料電池1においては、所定の発電電力時の燃料電池モジュール2(燃料電池セルユニット16)の温度に基づいて、燃料電池モジュール2の劣化を判定している。なお、燃料電池モジュールの劣化は、所定の燃料供給量に対する取り出し可能な電力、又は電圧等によって判定することもできる。
図16に示すフローチャートは、制御部110により、所定期間毎に、例えば、数ヶ月乃至数年毎に実行される。まず、図16のステップS21において、燃料電池セルユニット16が劣化しているか否かが判断される。燃料電池セルユニット16が劣化していないと判定された場合には、図16に示すフローチャートの1回の処理を終了する。燃料電池セルユニット16が劣化したことが判定されると、ステップS22に進む。
ステップS22においては、変更基準温度Tcrを5℃高い値に変更すると共に、第3修正係数を0.8に設定し、図16に示すフローチャートの1回の処理を終了する。これは、燃料電池セルユニット16が劣化すると、燃料電池モジュール2の作動温度が全体に温度の高い側にシフトするため、燃料利用率補正の基準となる温度もこれに合わせて変更するものである。また、第3修正係数は、図11のステップS4において決定された利用率変更量に乗じられる係数である。第3修正係数は、燃料電池セルユニット16が劣化する前は1に設定されており、劣化したことが判定されると0.8に変更され、利用率変更量が20%減少される。これにより、燃料電池セルユニット16が劣化した状態で燃料利用率を大きく補正することによる、燃料電池セルユニット16の劣化の促進が防止される。なお、燃料電池モジュール2が劣化したことが一度判定され、その後の更なる劣化の進行を判定する場合には、劣化を判定するための温度の閾値を更新する。これにより、劣化の進行度合いを複数回に亘って判断することが可能になる。また、変更基準温度Tcrの値は、劣化したことが判断される度に変更される。
次に、図17を参照して、本発明の第1実施形態による固体酸化物型燃料電池1の作用を説明する。図17(a)は、本実施形態による固体酸化物型燃料電池1の作用を概念的に示す図であり、(b)は一般的な住宅における一日の需要電力の推移と、断熱材に蓄積される熱量の推移を模式的に示す図である。図17(a)上段のグラフは、断熱材7に利用可能な熱量が蓄積されていない場合の作用を概念的に示すものであり、中段及び下段のグラフは、蓄積された熱量が少ない場合及び多い場合を夫々示している。図17(a)上段のように、発電電力が大きく、燃料供給量の多い運転が短時間である場合には、断熱材7には利用可能な熱量が蓄積されないので、発電電力が減少した後の運転は、基本燃料供給テーブルに基づいて決定され、燃料利用率が高められることはない。一方、図17(a)中段のように、発電電力が大きい運転が或る程度の時間行われた場合には、発電電力が減少した後の運転は、発電電力が大きい時に断熱材7に蓄積された熱量を利用して行われるので、断熱材7に利用可能な熱量が残存している間、燃料供給量が基本燃料供給テーブルよりも減少された高効率円転が行われる。これにより、中段のグラフの斜線を施した部分に相当する燃料が節約される。さらに、図17(a)下段のように、発電電力が大きい運転が長時間行われた場合には、断熱材7には多量の熱量が蓄積されているので、より長い時間に亘って蓄積された熱量を利用した高効率運転が実行され、より多くの燃料が節約される。
次に、図17(b)においては、住宅で使用される需要電力を実線で、固体酸化物型燃料電池1による発電電力を破線で、蓄熱量の指標となる積算値Niを一点鎖線で示している。
まず、家人が就寝中の時刻t0〜t1においては、住宅で使用される需要電力は少なく、時刻t1において家人が起床すると需要電力は増大する。これに伴い固体酸化物型燃料電池1の発電電力も増加し、需要電力のうち、燃料電池の定格電力を上回る電力については系統電力から供給される。また、家人が就寝中の6〜8時間程度は使用される電力が少ない状態が続いていたため、起床時t1においては、蓄熱量推定手段110bにより推定された蓄熱量(積算値Ni)は0又は非常に小さな値となっている。
時刻t1において発電電力が増加し、燃料電池モジュール2が蓄熱温度Thよりも高い温度で運転されると、蓄熱量は次第に増加し、時刻t2において、積算値最大の1程度まで増加する。その後、時刻t3において家人が外出すると、需要電力は急激に減少する。このように、蓄熱量が変更実行蓄熱量以上である状態で発電電力が低下すると、燃料テーブル変更手段110aによる基本燃料供給テーブルの補正が実行され、小発電電力における燃料利用率が高められる。燃料利用率を高めた運転が行われると、断熱材7に蓄積された熱量が利用されるので、積算値Niも減少する。本実施形態においては、1〜3時間程度、燃料利用率を高めた運転を実行可能である。
次いで、時刻t4において家人が帰宅すると、再び需要電力が増加する。積算値Niは、時刻t4における需要電力の増加から遅れて増大し(時刻t4〜t5)、再び最大値に到達する。次いで、時刻t6において家人が就寝し、需要電力が低下した後、燃料利用率を高めた運転が行われる(時刻t6以降)。
住宅における需要電力がこのように推移した場合には、断熱材7に蓄積された熱量を利用した燃料利用率を高めた運転が一日に2回行われる。この燃料利用率を高めた運転期間は、発電電力が少ない期間の20〜50%にも及び、固体酸化物型燃料電池1の総合的なエネルギー効率を大きく向上させる。
従来の固体酸化物型燃料電池においては、発電電力が小さい場合には、発電熱が低下するため、燃料電池モジュールが温度低下を起こしやすい。このため、小発電電力時には燃料利用率を下げ、発電に使用されなかった燃料により燃料電池モジュールを加熱して過度の温度低下を防止していた。特に、燃料電池モジュール内に改質器が配置されているタイプの固体酸化物型燃料電池においては、改質器内で吸熱反応が発生するので、温度低下が起こりやすい。
本発明の実施形態の固体酸化物型燃料電池1によれば、発電電力が小さい場合において、蓄熱量推定手段110bにより断熱材7に利用可能な熱量が蓄積されていることが推定されると、一時的に燃料利用率が高くなるように基本燃料供給テーブルを補正する(図11、ステップS7)。これにより、固体酸化物型燃料電池1の熱的な自立を維持し、過度の温度低下を回避しながら、固体酸化物型燃料電池1の総合的なエネルギー効率を向上させることができる。
本実施形態の固体酸化物型燃料電池1によれば、所定の蓄熱温度Thよりも高い領域で、より多くの熱量が断熱材7に蓄積されるように設定されている(図10)ので、燃料利用率を高くできる蓄熱温度Thよりも高い領域で積極的に熱を蓄積し、この熱を、燃料電池モジュール2の温度が比較的低く、蓄熱を利用しやすい小発電電力時に消費することにより、蓄熱された熱量を効果的に利用することができる。
本実施形態の固体酸化物型燃料電池1によれば、発電室温度センサ142によって検出された検出温度Tdは、概ね断熱材7に蓄積された熱量を反映しているので、検出温度Tdと変更基準温度Tcrの関係のみから簡単に基本燃料供給テーブルを補正することができる。
本実施形態の固体酸化物型燃料電池1によれば、変更基準温度Tcrは、蓄熱温度Thよりも高く設定されている(図10)ので、断熱材7への蓄熱量が多くなる蓄熱温度Thよりも高い変更基準温度Tcr以上で蓄熱が利用されることになり、蓄熱量が少ない状態で蓄熱が利用され、過度の温度低下を引き起こすリスクを回避することができる。
本実施形態の固体酸化物型燃料電池1によれば、蓄熱量推定手段110bが検出温度Tdの履歴に基づいて蓄熱量を推定する(図11、ステップS4、図13)ので、現在の検出温度Tdのみから蓄熱量を推定する場合に比べ正確に推定することができ、蓄熱をより有効に活用することができる。
本実施形態の固体酸化物型燃料電池1によれば、温度偏差を時間で積分することによって、断熱材7に蓄積されている蓄熱量を推定しているので(図11、ステップS4、図13)、蓄熱温度Thよりも高い温度で運転された時間が長い場合には推定される蓄熱量が大きく、短い場合には推定される蓄熱量が小さくなり、より正確に蓄熱量を推定することができる。これにより、蓄熱を利用することによる過度の温度低下等のリスクを確実に回避することができる。
本実施形態の固体酸化物型燃料電池1によれば、蓄熱量が大きいほど燃料利用率を高くする補正量を増加させるので(図11、ステップS4、図13)、過度の温度低下等のリスクを確実に回避しながら、燃料利用率を大幅に向上させる補正を実行することができる。
本実施形態の固体酸化物型燃料電池1によれば、検出温度Tdが高いほど補正量を急激に増大させる一方、検出温度Tdが低いほど補正量を急激に減少させるので(図13)、検出温度Tdが高い場合には大幅な燃料利用率の補正ができると共に、検出温度Tdが低い場合には急速に補正量を減少させることができるので、過度の温度低下を確実に防止することができる。
本実施形態の固体酸化物型燃料電池1によれば、検出温度Td又は発電電力の状態に応じて、蓄熱量の推定値と、補正量の関係が変更されるので(図13、630〜640℃、図14、図15、図18)、過度の温度低下の防止と、蓄熱の効果的な活用を両立することができる。
本実施形態の固体酸化物型燃料電池1によれば、燃料テーブル変更手段110aは、発電電力が少ない場合には補正量を小さくするので(図15)、蓄熱の利用量が減少し、蓄熱を利用することができる期間を延長することができる。
本実施形態の固体酸化物型燃料電池1によれば、検出温度Tdと変更基準温度Tcrの差が所定の微少偏差温度以下で、検出温度Tdが低下傾向にある場合には蓄熱量の推定値が急激に減少されるので(図13、630〜632℃)、検出温度Tdが低下傾向にある局面で蓄熱量の推定値が早急に減少され、過度の温度低下を確実に防止することができる。
本実施形態の固体酸化物型燃料電池1によれば、燃料電池モジュール2の状態に応じて燃料利用率を高くする補正量を変更するので(図14、図15、図16)、燃料電池モジュール2の状態に適合しない燃料利用率の補正を防止することができる。
本実施形態の固体酸化物型燃料電池1によれば、燃料電池モジュール2が劣化した場合に変更基準温度Tcrが高い値に変更されるので(図16)、劣化して作動温度が上昇した燃料電池モジュール2に過度の負担をかけることなく、燃料利用率の補正を実行することができる。
本実施形態の固体酸化物型燃料電池1によれば、燃料電池モジュール2が劣化した場合には補正量が減少されるので(図16、ステップS22)、燃料利用率を補正することによる劣化の促進を抑制することができる。
また、上述した本発明の第1実施形態においては、積算値Niに加算、減算される加減算値は、図12に示した蓄熱量推定テーブルのように、検出温度Tdのみに基づいて計算されていたが、変形例として、出力電流を加味して加減算値を決定することもできる。例えば、図12の蓄熱量推定テーブルに基づいて決定された加減算値に、図18に示す電流補正係数を乗じた値を積算することにより積算値Niを計算することができる。図18に示すように、電流補正係数は、出力電流3A以下では1/7に設定され、4A以上では1/12に設定され、3〜4Aの間は、1/7から1/12に直線的に低下している。
このように設定された電流補正係数を乗じることにより、発電電力の小さい領域では、積算値Niは急速に増減し、中発電電力以上の領域では、積算値Niの増減が緩やかになる。このため、基本燃料供給テーブルの補正により、断熱材7に蓄積された熱量を大きく消費する小発電電力時には、積算値Niが速やかに減少される。これにより、蓄熱量を過大に推定することにより著しい温度低下を招くリスクを、より確実に防止することができる。
また、上述した実施形態においては、積算値Niに加算又は減算する加減算値は、図13に示すように検出温度Tdのみによって決定されていたが、加減算値が出力電流にも依存するように本発明を構成することもできる。例えば、出力電流が3A(出力電力300W)以下の場合において、変更基準温度Tcrを2℃程度高く変更し、図13のグラフ全体を2℃程度左にシフトしても良い。このように構成することにより、発電電力が小さい場合には、変更基準温度Tcrが高い値に変更され、蓄熱量の推定値が小さな値に算出される。これにより、燃料利用率を高くする補正量が減少されるので、発電電力が小さく燃料供給量の絶対量が少ない領域において大幅に燃料利用率を向上させ、燃料供給量が過度に低下するのを抑制することができる。
次に、図19乃至33を参照して、本発明の第2実施形態による固体酸化物型燃料電池を説明する。
本実施形態の固体酸化物型燃料電池は、制御部110による制御が、上述した第1実施形態とは異なる。従って、ここでは、本発明の第2実施形態の、第1実施形態とは異なる部分のみを説明し、同様の構成、作用、及び効果については説明を省略する。
また、上述した第1実施形態においては、需要電力に応じ、基本燃料供給テーブルに基づいて燃料供給量を決定し、決定された燃料供給量を、断熱材7に蓄積された熱量に基づいて減少させ、一時的に燃料利用率が高くなるように変更していた。これに対し、第2実施形態による固体酸化物型燃料電池においては、基本燃料供給テーブルによる燃料供給量の決定、推定蓄熱量に基づく燃料供給量の変更という処理は実行されず、燃料供給量は、検出温度Td等に基づいて直接計算される。しかしながら、本実施形態において、検出温度Td等に基づいて直接決定される燃料供給量は、断熱材7に蓄積された熱量等が加味されたものとなっており、蓄熱量が多い状態においては、蓄熱を利用して燃料利用率が向上されるので、第1実施形態と同様の技術思想を実現したものであるということができる。
さらに、上述した第1実施形態においては、推定された蓄熱量に基づいて燃料利用率を高めるための燃料供給量の変更は、変更量に第1修正係数(図11のステップS5、図14)が乗じられているため、専ら、発電電力が小さい状態において行われていた(出力電流4.5A以上では、第1修正係数=0)。これに対して、本実施形態においては、第1実施形態における第1修正係数に相当する係数は使用されていない。従って、本実施形態においては、発電電力が小さい領域ばかりでなく、発電電力が大きい領域においても、断熱材7等に蓄積された熱量を利用した高効率制御が実行される。このため、本実施形態の固体酸化物型燃料電池によれば、蓄熱を利用して燃料利用率を向上させるという効果の他に、燃料電池モジュール2内の温度が過剰に上昇した場合において、断熱材7等に蓄積された熱量を消費することにより、温度上昇を抑制するという効果も得られる。なお、上述した第1実施形態においても、第1修正係数を省略(変更量に第1修正係数を乗じない)することにより、同様の効果を得ることができる。
図19は、需要電力の変化と、燃料供給量、及び燃料電池モジュール2から実際に取り出される電流の関係を模式的に示したグラフである。図20は、発電用空気供給量、水供給量、燃料供給量、及び燃料電池モジュール2から実際に取り出される電流の関係の一例を示したグラフである。
図19に示すように、燃料電池モジュール2は、図19の最上段に示す需要電力に応じた電力を生成できるように制御される。制御部110は、需要電力に基づいて、燃料電池モジュール2が生成すべき目標の電流である燃料供給電流値Ifを、図19の2段目のグラフに示すように設定する。燃料供給電流値Ifは、概ね需要電力の変化に追従するように設定されるが、燃料電池モジュール2の応答速度は需要電力の変化に対して極めて緩慢であるため、需要電力の短周期の急激な変化には追従せず、需要電力に緩やかに追従するように設定される。また、需要電力が固体酸化物型燃料電池の最大定格電力を超えた場合には、燃料供給電流値Ifは最大定格電力に対応する電流値まで追従し、それ以上の電流値に設定されることはない。
制御部110は、図19の3段目のグラフに示すように、燃料供給手段である燃料流量調整ユニット38を制御して、燃料供給電流値Ifに対応する電力が生成できる流量の燃料供給量Frを燃料電池モジュール2に供給する。なお、燃料供給量に対する実際に発電に使用される燃料の割合である燃料利用率が一定であるとすれば、燃料供給電流値Ifと燃料供給量Frは比例する。図19のグラフは、燃料供給電流値Ifと燃料供給量Frが比例するものとして描かれているが、後述するように、実際には本実施形態においても燃料利用率は一定ではない。
さらに、図19の最下段のグラフに示すように、制御部110は、燃料電池モジュール2から取り出すことができる電流値である取出可能電流Iinvをインバータ54に対して指示する信号を出力する。インバータ54は、時々刻々急激に変化する需要電力に応じ、取出可能電流Iinvの範囲内で燃料電池モジュール2から電流(電力)を取り出す。需要電力が取出可能電流Iinvを上回る部分については、系統電力から供給される。ここで、図19に示すように、制御部110がインバータ54に指示する取出可能電流Iinvは、電流が増加傾向にある場合、燃料供給量Frの変化に対して所定時間遅れて変化するように設定される。例えば、図19の時刻t10においては、燃料供給電流値If及び燃料供給量Frが上昇を始めた後、遅れて、取出可能電流Iinvの増加が開始される。また、時刻t12においても、燃料供給電流値If及び燃料供給量Frの増加の後、遅れて、取出可能電流Iinvの増加が開始される。このように、燃料供給量Frを増加させた後、実際に燃料電池モジュール2から取り出す電力を増加させるタイミングを遅らせることにより、燃料電池モジュール2に供給された燃料が改質器20等を通って燃料電池セルスタック14に到達するまでの時間遅れや、燃料が電池セルスタック14に到達した後、実際の発電反応が可能になるまでの時間遅れに対処している。これにより、各燃料電池セルユニット16において燃料枯れが発生し、燃料電池セルユニット16が損傷されるのを確実に防止している。
図20は、発電用空気供給量、水供給量、及び燃料供給量の変化と、取出可能電流Iinvの関係をより詳細に示したものである。なお、図20に示されている発電用空気供給量、水供給量、及び燃料供給量のグラフは、何れも、各供給量に対応する電流値に換算されている。即ち、供給された発電用空気、水、及び燃料が余ることなく全て発電に使用される供給量に設定されているとすれば、各供給量のグラフが取出可能電流Iinvのグラフと重なるように換算されている。従って、各供給量のグラフの、取出可能電流Iinvに対するずれ量は、各供給量の余剰分に対応する。発電に使用されずに残った残余燃料は、燃料電池セルスタック14上方の燃焼部である燃焼室18において燃焼され、燃料電池モジュール2内の加熱に利用される。
図20に示すように、発電用空気供給量、水供給量、及び燃料供給量は、常に、取出可能電流Iinvを上回っており、各供給量によって生成可能な電流を上回る電流が燃料電池モジュール2から取り出され、燃料枯れ、空気枯れ等によって燃料電池セルユニット16が損傷されるのを防止している。また、取出可能電流Iinvを上回って供給されている燃料供給量に対し、水供給量は、供給された燃料の全てを水蒸気改質可能な供給量に設定されている。即ち、供給された燃料の全てが水蒸気改質されるように、水供給量は、水蒸気改質に必要な水蒸気の量と、燃料中に含まれる炭素の量との比であるS/Cを考慮して設定されている。これにより、改質器内における炭素析出を防止している。また、需要電力の増加に伴って取出可能電流Iinvも増加傾向にある、図20の領域A、領域Cにおいては、取出可能電流Iinvが横這いである領域Bよりも、燃料供給量等の余裕量が大きく(燃料利用率が低く)設定されている。また、発電電力を増加させる場合には、制御部110に内蔵された電力取出遅延手段110c(図6)により、燃料電池モジュール2に供給する燃料供給量を増加させた後、遅れて、燃料電池モジュール2から出力させる発電電力が増加される。即ち、需要電力の変化に応じて燃料供給量が変化された後、遅れて、燃料電池モジュール2から実際に出力させる電力が変化される。さらに、需要電力の低下に応じて取出可能電流Iinvを急激に低下させた場合(領域C、領域Dの初期)には、各供給量は、取出可能電流Iinvの低下よりも所定時間遅れて低下される。従って、取出可能電流Iinvが急激に低下した後の所定時間の間には、非常に多くの残余燃料が発生する。このような取出可能電流Iinvの急激な低下は、需要電力が急激に低下した場合において、電流の逆潮流を防止するために行われる。このように、発電電力を増加させる際、及び発電電力を低下させる際には、発電電力が一定である場合よりも多くの残余燃料が発生し、この残余燃料が燃料電池モジュール2の加熱に使用されることになる。このため、燃料電池モジュール2を高発電電力で長時間運転した場合ばかりでなく、発電電力を頻繁に増減させた場合にも燃料電池モジュール2は強く加熱され、断熱材7に多くの熱量が蓄積される。
本実施形態の固体酸化物型燃料電池においては、高発電電力で長時間運転した後、発電電力が少なくなった場合に蓄熱を利用するばかりでなく、発電電力の増減等によって蓄積されつつある熱量が、状況に応じて逐次利用される。
次に、図21乃至28を参照して、検出温度Tdに基づいて発電用空気供給量、水供給量、及び燃料供給量を決定する手順を説明する。
図21は、検出温度Tdに基づいて発電用空気供給量、水供給量、及び燃料供給量を決定する手順を示すフローチャートである。図22は発電電流に対する適正な燃料電池セルスタック14の温度を示すグラフである。図23は積算値に応じて決定される燃料利用率を示すグラフである。図24は、各発電電流に対して決定され得る燃料利用率の値の範囲を示すグラフである。図25は積算値に応じて決定される空気利用率を示すグラフである。図26は、各発電電流に対して決定され得る空気利用率の値の範囲を示すグラフである。図27は、決定された空気利用率に対して水供給量を決定するためのグラフである。図28は、発電電流に対する適正な燃料電池モジュール2の発電電圧を示すグラフである。
図22に一点鎖線で示すように、本実施形態においては、燃料電池モジュール2によって生成すべき電流に対して、適正な燃料電池セルスタック14の温度Ts(I)が規定されている。制御部110は、燃料電池セルスタック14の温度が、適正な温度Ts(I)に近づくように、燃料供給量等を制御する。即ち、制御部110は、概略的には、発電電流に対して燃料電池セルスタック14の温度が高い場合(燃料電池セルスタック14の温度が図22の一点鎖線よりも上にある場合)には、燃料利用率を高め、断熱材7等に蓄積されている熱量を積極的に消費して、燃料電池モジュール2内の温度を低下させる。逆に、発電電流に対して燃料電池セルスタック14の温度が低い場合には、燃料利用率を低下させ、燃料電池モジュール2内の温度が低下しないようにする。具体的には、燃料利用率は単純な検出温度Tdのみに基づいて決定されるのではなく、検出温度Td等に基づいて決定される加減算値を積算することにより蓄熱を反映した量を計算し、この量に基づいて燃料利用率等が決定される。この加減算値を積算することによる蓄熱量の推定値は、制御部に内蔵された蓄熱量推定手段110bにより計算される。
図21に示すフローチャートは、温度検出手段である発電室温度センサ142によって検出された検出温度Td等に基づいて発電用空気供給量、水供給量、及び燃料供給量を決定するものであり、所定の時間間隔で実行される。
まず、図21のステップS31においては、検出温度Td及び図22に基づいて、第1加減算値M1が計算される。まず、検出温度Tdが、燃料電池セルスタック14の適正温度Ts(I)に対して、所定の温度範囲内(図22の2本の実線の間)にある場合には、第1加減算値M1は0にされる。
即ち、検出温度Tdが、
Ts(I)−Te≦Td≦Ts(I)+Te
の範囲内にある場合には、第1加減算値M1=0にされる。ここで、Teは第1加減算値閾値温度である。なお、本実施形態においては、第1加減算値閾値温度Teは3℃である。
また、検出温度Tdが、適正温度Ts(I)よりも低く、
Td<Ts(I)−Te (4)
の範囲内(図22における下側の実線よりも下)にある場合には、第1加減算値M1は、
M1=Ki×(Td−(Ts(I)−Te)) (5)
によって計算される。この際、第1加減算値M1は、負の値(減算値)となる。なお、Kiは、所定の比例定数である。
また、検出温度Tdが、適正温度Ts(I)よりも高く、
Td>Ts(I)+Te (6)
の範囲内(図22における上側の実線よりも上)にある場合には、第1加減算値M1は、
M1=Ki×(Td−(Ts(I)+Te)) (7)
によって計算される。この際、第1加減算値M1は、正の値(加算値)となる。このように、第1加減算値M1は、検出温度Tdの他、発電電流に基づいて決定され、これを積算することにより蓄熱量が推定される。即ち、適正温度Ts(I)は、発電電流(電力)に応じて異なるように設定され、この適正温度Ts(I)に基づいて決定される(Ts(I)+Te)の値、及び(Ts(I)−Te)の値に基づいて、第1加減算値M1が正又は負の値に決定される。
なお、検出温度Tdが(Ts(I)+Te)を超えると、第1加減算値M1は正の値となり、後述するように燃料利用率を高くする燃料供給量の変更が行われるので、本明細書においては、各発電電力に対する温度(Ts(I)+Te)を燃料利用率変更温度と称する。また、燃料利用率変更温度(Ts(I)+Te)を超えることにより、燃料利用率を高くした高効率制御に移行した後、高効率制御から蓄積されている熱量の消費を行わない目標温度域制御に復帰するタイミングは、後述するように、第1加減算値M1等の積算値N1idが0まで低下した時点となる。このため、検出温度Tdが燃料利用率変更温度(Ts(I)+Te)よりも低下した後も、暫時、積算値N1idは0よりも大きい値に維持され、高効率制御が行われる。従って、高効率制御から目標温度域制御に復帰する目標温度域制御復帰温度は、燃料利用率変更温度よりも低い温度になる。
次に、図21のステップS32においては、最新の検出温度Td、及び1分前に検出された検出温度Tdbに基づいて、第2加減算値M2が計算される。まず、最新の検出温度Tdと1分前の検出温度Tdbの差の絶対値が所定の第2加減算値閾値温度未満である場合には、第2加減算値M2は0にされる。なお、本実施形態においては、第2加減算値閾値温度は1℃である。
また、最新の検出温度Tdと1分前の検出温度Tdbの差である変化温度差が所定の第2加減算値閾値温度以上の場合には、第2加減算値M2は、
M2=Kd×(Td−Tdb) (8)
によって計算される。この第2加減算値M2は、検出温度Tdが上昇傾向にある場合には正の値(加算値)となり、検出温度Tdが低下傾向にある場合には負の値(減算値)となる。なお、Kdは、所定の比例定数である。従って、検出温度Tdが上昇している場合において、変化温度差(Td−Tdb)が大きい領域においては、変化温度差が小さい領域よりも、速応推定値である第2加減算値M2が大きく増加される。逆に、検出温度が低下している場合において、変化温度差(Td−Tdb)の絶対値が大きい領域においては、変化温度差の絶対値が小さい領域よりも、第2加減算値M2は大きく減少される。
なお、本実施形態においては、比例定数Kdは一定値であるが、変形例として、変化温度差が正の場合と負の場合で、異なる比例定数Kdを使用することもできる。例えば、変化温度差が負である場合に比例定数Kdを大きく設定することもできる。これにより、検出温度が低下している場合には、検出温度が上昇している場合よりも、変化温度差に対して急激に速応推定値が変化される。或いは、変形例として、変化温度差の絶対値が大きい領域において、小さい領域よりも比例定数Kdを大きく設定することもできる。これにより、変化温度差の絶対値が大きい領域においては、変化温度差の絶対値が小さい領域よりも、変化温度差の変化に対して急激に速応推定値が変化される。また、変化温度差の正負に基づく比例定数Kdの変更と、変化温度差の絶対値の大小に基づく比例定数Kdの変更を組み合わせることもできる。
次いで、図21のステップS33においては、ステップS31で計算された第1加減算値M1、及びステップS32で計算された第2加減算値M2を、第1積算値N1idに積算する。第1積算値N1idには、第1加減算値M1により、断熱材7等に蓄積された利用可能な蓄熱量が反映され、第2加減算値M2により、直近の検出温度Tdの変化が反映される。即ち、第1積算値N1idは、断熱材7等に蓄積された利用可能な蓄熱量の推定値として利用することができる。また、積算は、固体酸化物型燃料電池の運転開始後継続的に、図21のフローチャートが実行される毎に行われ、前回計算された第1積算値N1idに、第1加減算値M1及び第2加減算値M2が加算又は減算され、新たな第1積算値N1idに更新される。第1積算値N1idは、0〜4の間の値をとるように制限されており、第1積算値N1idが4に到達した場合には、値は次に減算が行われるまで4に保持され、第1積算値N1idが0まで減少した場合には、値は次に加算が行われるまで0に保持される。
なお、ステップS33においては、第1積算値N1idに加え、第2積算値N2idの値も計算する。第2積算値N2idは、後述するように、燃料電池モジュール2に劣化が発生するまでは、第1積算値N1idと全く同様に計算され、第1積算値N1idと同一の値を取る。
なお、上記のように、本実施形態においては、第1加減算値M1と第2加減算値M2の和を第1積算値N1idに積算することにより、積算値を計算している。即ち、
N1id=N1id+M1+M2 (9)
により、第1積算値N1idを計算している。ここで、変形例として、第1加減算値M1と第2加減算値M2の積を積算することにより、積算値を計算しても良い。即ち、この変形例では、第1積算値N1idは、
N1id=N1id+Km×M1×M2 (10)
により計算される。ここで、Kmは、所定の条件に応じて変更される可変の係数である。また、この変形例においては、最新の検出温度Tdと1分前の検出温度Tdbの差の絶対値が所定の第2加減算値閾値温度未満である場合には、第2加減算値M2は1にされる。
さらに、図21のステップS34においては、計算された第1積算値N1idに基づいて、図23及び図24のグラフを使用して、燃料利用率が決定される。
図23は、計算された第1積算値N1idに対する燃料利用率Ufの設定値を示すグラフである。図23に示すように、第1積算値N1idが0である場合には、燃料利用率Ufは最小値である最小燃料利用率Ufminに設定される。また、第1積算値N1idの増加と共に燃料利用率Ufも増加し、第1積算値N1id=1において最大値である最大燃料利用率Ufmaxとなる。この間、燃料利用率Ufは、第1積算値N1idが小さい領域では傾きが小さく、第1積算値N1idが1に近づくほど傾きが大きくなる。即ち、推定蓄熱量が大きい領域においては、推定蓄熱量が小さい領域よりも、推定蓄熱量の変化に対して大幅に燃料利用率Ufが変化される。換言すれば、推定された蓄熱量が大きいほど大幅に燃料利用率Ufを高めるように燃料供給量が減少される。さらに、第1積算値N1idが1よりも大きい場合には、燃料利用率Ufは最大燃料利用率Ufmaxに固定される。これらの最小燃料利用率Ufmin及び最大燃料利用率Ufmaxの具体的な値は、発電電流に基づいて、図24に示すグラフにより決定される。このように、断熱材7等に利用可能な熱量が蓄積されていることが推定された場合には、利用可能な熱量が蓄積されていない場合よりも同一の発電電力に対して燃料利用率が高くなるように、燃料供給量が減少される。
図24は、各発電電流に対し、燃料利用率Ufがとり得る値の範囲を示すグラフであり、各発電電流について燃料利用率Ufの最大値及び最小値が示されている。図24に示すように、各発電電流に対する最小燃料利用率Ufminは、発電電流の増加と共に大きくなるように設定されている。即ち、発電電力が大きいときは燃料利用率が高く、発電電力が小さいときには燃料利用率が低くなるように設定されている。この最小燃料利用率Ufminの直線は、第1実施形態の図9における基本燃料供給テーブルに対応するものであり、この直線上の燃料利用率に設定された場合には、断熱材7等に蓄積された熱量を利用することなく、燃料電池モジュール2は熱的に自立することができる。
一方、最大燃料利用率Ufmaxは、各発電電流に対して折れ線状に変化するように設定されている。ここで、各発電電流に対して燃料利用率Ufがとり得る値の範囲(最大燃料利用率Ufmaxと最小燃料利用率Ufminの差)は、最大の発電電流で最も狭く、発電電流が減少するにつれて広くなる。これは、最大の発電電流付近では、熱的に自立可能な最小燃料利用率Ufminが高く、蓄熱を利用しても燃料利用率Ufを高める(燃料供給量を減じる)余地が少ないためである。さらに、発電電流が減少するにつれて熱的に自立可能な最小燃料利用率Ufminは低くなるため、蓄熱を利用することにより燃料供給量を減じる余地が大きくなり、蓄熱量が多い場合には、燃料利用率Ufを大幅に高めることが可能である。このため、発電電力が小さい領域においては、発電電力が大きい領域よりも、広い範囲で燃料利用率が変更される。
また、発電電流が非常に小さい、所定の利用率抑制発電量IU以下の領域においては、発電電力が小さくなるほど燃料利用率Ufがとり得る値の範囲が狭くなるように設定されている。これは、発電電流が小さい領域では、熱的に自立可能な最小燃料利用率Ufminが低く、これを改善する余地は大きい。しかしながら、発電電流が小さい領域では、燃料電池モジュール2内の温度が低いため、この状態で大幅に燃料利用率Ufを改善し、断熱材7等に蓄積されている熱量を急激に消費すると、燃料電池モジュール2内の過剰な温度低下を招くリスクがある。このため、発電電流が非常に小さい利用率抑制発電量IU以下の領域においては、発電電力が小さくなるほど燃料利用率Ufを高める変更量が大幅に抑制される。即ち、燃料供給量を減少させる変更量は燃料電池モジュール2の発電量が少ないほど少なくなる。これにより、急激な温度低下のリスクを回避すると共に、蓄積された熱量を長時間に亘って利用することを可能にしている。
本実施形態においては、制御部110に内蔵された燃料供給量変更手段110aにより、最小燃料利用率Ufminに対して燃料利用率Ufが高くなるように燃料供給量が減少される。この燃料供給量変更手段110aは、基本燃料供給テーブルを変更するものではないが、ベースとなる燃料供給量を変更して燃料利用率を高めるように作用するので、第1実施形態における燃料テーブル変更手段に対応する構成である。
図21のステップS34においては、発電電流に基づいて、最小燃料利用率Ufmin及び最大燃料利用率Ufmaxの具体値を、図24のグラフを使用して決定する。次に、決定された最小燃料利用率Ufmin及び最大燃料利用率Ufmaxを図23のグラフに適用し、ステップS33において計算された第1積算値N1idに基づいて、燃料利用率Ufを決定する。
次に、図21のステップS35においては、第2積算値N2idに基づいて、図25及び図26のグラフを使用して、空気利用率が決定される。
図25は、計算された第2積算値N2idに対する空気利用率Uaの設定値を示すグラフである。図25に示すように、第2積算値N2idが0乃至1である場合には、空気利用率Uaは最大値である最大空気利用率Uamaxに設定される。さらに、第2積算値N2idが1を超えて増加すると共に空気利用率Uaは低下し、第2積算値N2id=4において最小値である最小空気利用率Uaminとなる。このように、空気利用率Uaを低下させることによる増加分の空気は冷却用の流体として作用するので、図25に示す空気利用率Uaの設定は、強制冷却手段として作用する。これらの最小空気利用率Uamin及び最大空気利用率Uamaxの具体的な値は、発電電流に基づいて、図26に示すグラフにより決定される。
図26は、各発電電流に対し、空気利用率Uaがとり得る値の範囲を示すグラフであり、各発電電流について燃料利用率Uaの最大値及び最小値が示されている。図26に示すように、各発電電流に対する最大空気利用率Uamaxは、発電電流の増加と共に僅かに大きくなるように設定されている。一方、最小空気利用率Uaminは、発電電流の増加と共に低下する。空気利用率Uaを、最大空気利用率Uamaxよりも低下させる(空気供給量を増大させる)ことは、発電に必要な空気よりも多い空気を燃料電池モジュール2内に導入することになり、これにより、燃料電池モジュール2内の温度は低下される。従って、燃料電池モジュール2内の温度が過剰に上昇し、温度を低下させる必要がある場合には、空気利用率Uaを低下させる。本実施形態においては、発電電流の増加と共に最小空気利用率Uaminを低下(空気供給量を増加)させていくと、所定の発電電流において、最小空気利用率Uaminに対応する空気供給量が発電用空気流量調整ユニット45の最大空気供給量を超えてしまう。このため、最小空気利用率Uaminが図26において破線で示されている所定の発電電流以上の領域では、図25のグラフによって設定された空気利用率Uaを実現することができない場合がある。この場合には、実際に供給される空気供給量は、設定された空気利用率Uaに関わらず、発電用空気流量調整ユニット45の最大空気供給量に固定される。これに伴い、所定の発電電流以上では、実際に実現される最小の空気利用率Uaは増大する。また、最大空気供給量が大きい発電用空気流量調整ユニットを使用した場合には、図26に破線で示された部分の最小空気利用率Uaminを実現することもできる。なお、発電用空気流量調整ユニット45の最大空気供給量に達することにより規定された空気利用率Uaを、限界最小空気利用率ULaminと記載する。
図21のステップS35においては、発電電流に基づいて、最小空気利用率Uamin及び最大空気利用率Uamaxの具体値を、図26のグラフを使用して決定する。次に、決定された最小空気利用率Uamin及び最大空気利用率Uamaxを図25のグラフに適用し、ステップS33において計算された第2積算値N2idに基づいて、空気利用率Uaを決定する。
次に、図21のステップS36においては、ステップS35において決定された空気利用率Uaに基づき、図27を使用して水蒸気量と炭素量の比であるS/Cを決定する。
図27は、横軸を空気利用率Ua、縦軸を、供給された水と、燃料に含まれる炭素との比S/Cとしたグラフである。
まず、ステップS35において設定された空気利用率Uaが、発電用空気流量調整ユニット45の最大空気供給量によって規定されていない発電電流の領域(図27におけるUamax〜ULamin間)では、水蒸気量と炭素量の比S/Cの値は、2.5に固定される。なお、水蒸気量と炭素量の比S/C=1とは、供給された燃料に含まれる炭素の全量が、供給された水(水蒸気)により化学的に過不足なく水蒸気改質される状態を意味する。従って、水蒸気量と炭素量の比S/C=2.5とは、燃料を水蒸気改質するために化学的に必要最小限の水蒸気量の2.5倍の水蒸気(水)が供給されている状態を意味する。実際には、S/C=1となる水蒸気量では改質器20内において炭素析出が発生してしまうため、S/C=2.5程度となる水蒸気量が燃料を水蒸気改質するための適量である。
次に、ステップS35において設定される空気利用率Uaが、発電用空気流量調整ユニット45の最大空気供給量によって制限される発電電流の領域では、図27のグラフを使用して水蒸気量と炭素量の比S/Cが決定される。図27において、横軸は空気利用率Uaであり、空気利用率Uaが大きく、最大空気利用率Uamaxに近いほど空気供給量は少なくなる。一方、空気利用率Uaを低下させ、最小空気利用率Uamin(図26における破線)に近づくと、空気供給量が限界に達し、空気利用率Uaは限界最小空気利用率ULaminになる。図27に示すように、空気利用率Uaが限界最小空気利用率ULaminよりも大きい(空気供給量が少ない)場合には、水蒸気量と炭素量の比S/C=2.5に設定される。さらに、ステップS35において決定された空気利用率Uaが、限界最小空気利用率ULaminよりも小さい(空気供給量が多い)場合(図27におけるUamin〜ULamin間)には、空気利用率Uaの減少と共に水蒸気量と炭素量の比S/Cは増大され、最小空気利用率Uaminにおいて、S/C=3.5に設定される。即ち、ステップS35において決定された空気利用率Uaが、限界最小空気利用率ULaminにより実現できない場合(空気利用率Uaが図26の斜線の範囲内に決定された場合)には、水蒸気量と炭素量の比S/Cを増大させ、水供給量を増大させる。これにより、改質器20から流出する改質された燃料ガスの温度を低下させ、燃料電池モジュール2内の温度を低下傾向にする。このように、空気利用率Uaを低下させて空気供給量を増加させた後、水供給量を増大させると、増加分の水(水蒸気)は、冷却用の流体として作用するので、図27に示す水供給量の設定は強制冷却手段として作用する。
ステップS37においては、ステップS34、S35、及びS36において決定された燃料利用率Uf、空気利用率Ua、及び水蒸気量と炭素量の比S/Cと、発電電流に基づいて、具体的な燃料供給量、空気供給量、水供給量を決定する。即ち、全量が発電に使用されるとした場合の燃料供給量を、決定された燃料利用率Ufで除することにより実際の燃料供給量を計算し、全量が発電に使用されるとした場合の空気供給量を決定された空気利用率Uaで除することにより実際の空気供給量を計算する。また、計算された燃料供給量及びステップS36において決定された水蒸気量と炭素量の比S/Cに基づいて、水供給量を計算する。
次いで、ステップS38において、制御部110は、燃料流量調整ユニット38、発電用空気流量調整ユニット45、及び水供給手段である水流量調整ユニット28に信号を送り、ステップS37において計算された量の燃料、空気、及び水を供給し、図21のフローチャートの1回の処理を終了する。
次に、図21のフローチャートを実行する時間間隔を説明する。本実施形態において、図21のフローチャートは、出力電流が大きい場合には、0.5秒毎に実行され、出力電流が低下するにつれて、その2倍の1秒、4倍の2秒、8倍の4秒毎に実行される。これにより、第1及び第2加減算値が一定値である場合には、時間当たりの第1又は第2積算値の変化は、出力電流が少ないほど緩やかになる。即ち、蓄熱量推定手段110bは、出力電流(発電電力)が大きいほど蓄熱量の推定値を時間に対して急激に変化させる。これにより、積算値による蓄熱量の推定が、実際の蓄熱量を良く反映したものとなる。
次に、図28を参照して、燃料電池モジュール2に劣化が発生した場合における、燃料供給量、空気供給量、及び水供給量の決定手順を説明する。図28は、燃料電池モジュール2による発電電流に対する発電電圧を示す図である。一般に、燃料電池セルスタック14には、内部抵抗が存在するため、図28に示すように、燃料電池モジュール2から出力される電流が増大すると、電圧は低下する。図28に示す一点鎖線は、燃料電池モジュール2に劣化が生じていない場合における発電電流と発電電圧の関係を示している。これに対して、燃料電池モジュール2に劣化が生じると、燃料電池セルスタック14の内部抵抗が増大するため、同一の発電電流に対する発電電圧が低下する。
本実施形態の固体酸化物型燃料電池においては、初期の発電電圧に対して、発電電圧が10%以上低下し、発電電圧が図28の実線よりも下の領域に入ると、劣化に対応した処理により燃料供給量、空気供給量、及び水供給量を決定している。
即ち、発電電圧が図28の実線よりも下の領域にある場合には、図21のステップS33において、第1積算値N1idの積算を停止させ、第2積算値N2idの積算のみが継続される。これにより、燃料利用率Ufを決定するための図23のグラフを参照する際に使用される第1積算値N1idの値は、一定値に固定される。これにより、燃料利用率Ufは、発電電圧が図28の実線よりも下の領域から脱するまで固定される。このように、燃料電池モジュール2が劣化した後は、燃料電池モジュール2が劣化する前よりも、燃料利用率Ufを高める変更が少なくされる。一方、空気利用率Uaを決定するための図26のグラフを参照する際に使用される第2積算値N2idの値は、従前の通り増減され、空気利用率Uaの増減は継続される。このように、燃料利用率Ufは、推定蓄熱量に対応した第1、第2積算値、需要電力の他に、燃料電池モジュール2の劣化に基づいて変更される。
次に、図21のフローチャートによって実現される固体酸化物型燃料電池の作用を説明する。
まず、ステップS33において計算される第1積算値N1idの値が0である場合には、ステップS34において決定される燃料利用率Ufが、その発電電流における最小燃料利用率Ufmin(燃料供給量最大)に設定される。これにより、第1積算値N1idの値が0であり、断熱材7等に蓄積された熱量が少ない状態においても、燃料電池モジュール2が熱的に自立できる十分な燃料が供給される。また、ステップS33において計算される第2積算値N2idの値が、第1積算値N1idと同様に0である場合には、ステップS35において決定される空気利用率Uaが、その発電電流における最大空気利用率Uafmax(空気供給量最小)に設定される。このため、燃料電池モジュール2に導入される発電用の空気により燃料電池セルスタック14が冷却される作用は最小にされ、燃料電池セルスタック14の温度を上昇傾向にすることができる。
次に、検出温度Tdが適正温度Ts(I)よりも高く、Td>Ts(I)+Teの状態で燃料電池モジュール2が運転されると、第1加減算値M1の値は正値となり、第1積算値N1idの値が0よりも大きくなる。これにより、図23において、最小燃料利用率Ufminよりも高い燃料利用率Ufが設定されて燃料供給量が減少され、発電に使用されずに残る残余燃料の量が減少される。燃料利用率Ufは、燃料供給量変更手段110aにより、推定蓄熱量に対応した第1積算値N1idの値が大きいほど大幅に高くされる。燃料利用率Ufが高められることにより、燃料供給量は熱自立可能な供給量よりも少なくされ、断熱材7等に蓄積された熱量を利用した高効率制御が実行される。残余燃料の量が減少され、断熱材7等に蓄積された熱量が利用されるので、燃料供給量変更手段110aは、発電を継続しながら燃料電池モジュール2内の温度上昇を抑制する。Td>Ts(I)+Teの状態で運転が継続されると、正値の第1加減算値M1の積算が繰り返され、第1積算値N1idの値も増大する。第1積算値N1idが1に達すると、燃料利用率Ufは、最大燃料利用率Uafmax(燃料供給量最小)に設定される。このように、燃料電池モジュール2に供給される燃料は、断熱材7等に蓄積された熱量を反映した、検出温度Tdの過去の履歴に基づいて決定される。
第1積算値N1idが更に増大し、1を超えた場合においても、図23に示すように、燃料利用率Ufは、最大燃料利用率Uafmax(燃料供給量最小)に維持される。一方、第1積算値N1idと同一の値をとる第2積算値N2idの値(燃料電池モジュール2が劣化していない場合)も1を超えるので、図25に基づいて、空気利用率Uaが低下(空気供給量増加)される。これにより、燃料電池モジュール2内は、供給される空気の増加により冷却傾向となる。
これに対して、検出温度Tdが適正温度Ts(I)よりも低く、Td<Ts(I)−Teの状態で燃料電池モジュール2が運転されると、第1加減算値M1の値は負値となり、第1積算値N1idの値は減少される。これにより、燃料利用率Ufは、維持(第1積算値N1id>1)又は低下(第1積算値N1id≦1)される。また、空気利用率Uaは、増大(第2積算値N2id>1)又は維持(第2積算値N2id≦1)される。これにより、燃料電池モジュール2内の温度を上昇傾向にすることができる。
以上は、検出温度Tdの履歴に基づいて計算される第1加減算値M1のみに注目した固体酸化物型燃料電池の作用であるが、第1積算値N1id及び第2積算値N2idは、第2加減算値M2によっても影響を受ける。燃料電池モジュール2、特に、燃料電池セルスタック14は、非常に熱容量が大きく、その検出温度Tdの変化は極めて緩慢である。このため、検出温度Tdが一旦上昇傾向に入ると、その温度上昇を短時間で抑制することは困難であり、また、検出温度Tdが低下傾向に入った場合にも、これを上昇傾向に戻すには長い時間を要する。このため、検出温度Tdに上昇又は低下の傾向が現れた場合には、これに迅速に反応して第1、第2積算値を修正する必要がある。
即ち、最新の検出温度Tdが、1分前の検出温度Tdbよりも第2加減算値閾値温度以上高い場合には、第2加減算値M2が正の値となり、第1、第2積算値が増大される。これにより、検出温度Tdが上昇傾向に入ったことを第1、第2積算値に反映させることができる。同様に、最新の検出温度Tdが、1分前の検出温度Tdbよりも第2加減算値閾値温度以上低い場合には、第2加減算値M2が負の値となり、第1、第2積算値が減少される。即ち、発電室温度センサ142により検出された最新の検出温度Tdと、過去の検出温度Tdbとの差である変化温度差に基づいて速応推定値である第2加減算値M2が計算される。従って、検出温度Tdが急激に低下している場合には、緩やかに低下している場合よりも、燃料利用率Ufを高める変更量が大幅に抑制され、また、発電電力が利用率抑制発電量IU以下の領域では最大燃料利用率Ufmaxも低く設定されているため、変更量は、より大幅に抑制される。これにより、検出温度Tdが低下傾向に入ったことを第1、第2積算値に反映させることができる。このように、本実施形態においては、検出温度Tdに基づいて決定された第1加減算値M1の積算値、及び新しく検出された検出温度Tdと過去に検出された検出温度Tdbの差に基づく差分値に基づいて蓄熱量が推定される。即ち、本実施形態においては、検出温度Tdの履歴に基づいて計算される基本推定値である第1加減算値M1の積算値、及び基本推定値を計算する履歴よりも短い期間における検出温度Tdの変化率に基づいて計算される速応推定値である第2加減算値M2に基づいて、蓄熱量推定手段110bにより蓄熱量が推定される。このように、本実施形態においては、基本推定値と速応推定値の和に基づいて蓄熱量が推定される。
なお、燃料電池モジュール2の温度変化は、検出温度TdとTdbを検出する間隔である1分に比して極めて緩慢であるため、第2加減算値M2は0である場合が多い。このため、第1、第2積算値は、主に第1加減算値M1によって支配され、検出温度Tdの上昇又は低下傾向が現れたとき、第2加減算値M2が、第1、第2積算値の値を修正するように作用する。このように、蓄熱量の推定値には、検出温度の履歴の他に、第2加減算値M2によって直近の検出温度Tdの変化が加味される。このため、直近の検出温度Tdの変化が大きい(第2加減算値閾値温度以上の変化)場合には、第2加減算値M2が値を持つので、蓄熱量の推定値が修正され、燃料利用率Ufが大幅に変更される。
次に、図29乃至図32を参照して、発電電力の可変範囲の制限を説明する。
上記のように、本実施形態の固体酸化物型燃料電池においては、断熱材7等に蓄積された熱量を利用することにより、燃料利用率を高めると共に、蓄熱を積極的に利用することにより燃料電池モジュール2内の温度を適正な温度にコントロールしている。一方、図19、20により説明したように、燃料電池モジュール2が生成する電力が需要電力に合わせて頻繁に増減されると、これにより燃料電池モジュール2内の温度が過剰に上昇する場合がある。このような過剰な温度上昇に対しては、燃料利用率を高め、断熱材7等に蓄積された熱量を積極的に利用することにより、これを抑制することが可能である。しかしながら、図24により説明したように、発電する電力が大きい領域においては、設定されている最小燃料利用率Ufminが大きい値であるため、この燃料利用率を高めて、蓄熱を利用する余地は少ない。従って、発電電力が大きい場合においては、燃料利用率を高めて、蓄熱を利用しても、過剰に上昇した燃料電池モジュール2内の温度を、効果的に低下させることは困難である。このため、本実施形態においては、燃料電池モジュール2内の過剰な温度上昇が発生した場合には、発電電力を需要電力に追従させる可変範囲を低く制限している。これにより、燃料電池モジュール2は、小さい発電電力で運転されることになるため、蓄熱を利用する余地が大きくなり、燃料電池モジュール2内の温度を効果的に低下させることが可能になる。また、発電電力を需要電力に追従させる可変範囲を狭くすることにより、発電電力の頻繁な増減による温度上昇が抑制される。
なお、図19、20により説明した、需要電力の頻繁な増減による燃料電池モジュール2内の温度上昇は、上述した本発明の第1実施形態の固体酸化物型燃料電池においても発生する。従って、図29乃至図32を参照して以下に説明する発電電力の可変範囲の制限は、上述した本発明の第1実施形態と組み合わせて実施することもできる。
図29は、本実施形態において、燃料電池モジュールが生成する電力の範囲を制限する手順を示すフローチャートである。図30は、発電電流と検出温度Tdに対する電流制限を示すマップである。図31は、本実施形態における作用の一例を示すタイムチャートである。図32は、燃料電池モジュール内の温度と、発電可能な最大電力の関係の一例を示すグラフである。
まず、図30の実線に示すように、本実施形態の固体酸化物型燃料電池においては、各発電電流に対する燃料電池モジュール2内の適正な温度が設定されている。この適正な温度は、図22における一点鎖線に対応するものである。また、図30に示すように、適正な温度よりも温度が高い領域には、電流維持領域が設定されている。この電流維持領域の最低の温度は、燃料電池モジュール2による発電電力に応じて異なるように設定されており、発電電力が大きいほど電流維持領域の最低の温度が高く設定されている。また、各発電電力に対する電流維持領域の最低の温度は、燃料電池モジュール2の適正な温度との差が、発電電力が低いほど大きくなるように設定されている。燃料電池モジュール2の運転状態がこの電流維持領域に入った場合には、燃料電池モジュール2からの出力電流の増加が禁止される。さらに、電流維持領域よりも温度が高い領域には、電流低下領域が設定されている。運転状態がこの電流低下領域に入った場合には、燃料電池モジュール2からの出力電流は強制的に低下される。電流低下領域よりも温度が高い領域には、空冷領域が設定されている。運転状態がこの空冷領域に入った場合には、発電用空気の供給量が、発電用空気流量調整ユニット45により供給可能な最大流量に設定される。空冷領域よりも温度が高い領域には、運転停止領域が設定されている。運転状態がこの運転停止領域に入った場合には、燃料電池モジュール2による発電を停止させ、固体酸化物型燃料電池の故障を防止する。
さらに、検出温度Tdが急激に上昇した場合には、電流維持領域を画定する温度を、図30に一点鎖線で示すように低下させる。また、この場合には、電流低下領域を画定する温度を、図30に二点鎖線で示すように低下させる。これにより、検出温度Tdが急激に上昇した場合には、早期に電流制限を実施し、過剰な温度上昇を確実に抑制する。
次に、図29を参照して、燃料電池モジュールが生成する電流制限の手順を説明する。
まず、図29のステップS41においては、検出温度Tdが読み込まれる。次いで、ステップS42においては、ステップS41で読み込まれた検出温度Tdと、所定時間前の検出温度Tdが比較される。ステップS41で読み込まれた検出温度Tdと所定時間前の検出温度Tdの差が、所定の閾値温度以下の場合にはステップS43に進む。
ステップS43においては、温度領域を判定するマップとして、図30に実線で示す基本特性が選択される。一方、最新の検出温度Tdと所定時間前の検出温度Tdの差が、所定の閾値温度よりも大きい場合には、ステップS44に進み、ステップS44においては、温度領域を判定するマップとして、図30に一点鎖線及び二点鎖線で示す急昇温特性が選択される。
次いで、ステップS45においては、検出温度Tdが運転停止領域内か否かが判断される。本実施形態においては、検出温度Tdが780℃以上である場合に、運転停止領域内と判断される。検出温度Tdが運転停止領域内と判断された場合には、ステップS46に進む。ステップS46においては、燃料電池モジュール2による発電が停止され、固体酸化物型燃料電池システムが緊急停止される。
一方、ステップS45において、検出温度Tdが運転停止領域内ではないと判断された場合には、ステップS47に進む。ステップS47においては、検出温度Tdが空冷領域内か否かが判断される。本実施形態においては、検出温度Tdが750℃以上である場合に、空冷領域内と判断される。検出温度Tdが空冷領域内と判断された場合には、ステップS48に進む。
ステップS48においては、発電電流が最小の電流である1Aに固定され、この電流は、インバータ54には出力されず、補機ユニット4により消費される。また、空気供給量は、発電用空気流量調整ユニット45により供給可能な最大流量に設定される。また、水の供給量も増加され、水蒸気量と炭素量の比S/C=4に設定され、図29のフローチャートの1回の処理が終了する。
一方、ステップS47において、検出温度Tdが空冷領域内ではないと判断された場合には、ステップS49に進む。ステップS49においては、検出温度Td及び発電電流が、電流低下領域内にあるか否かが判断され、電流低下領域内にある場合にはステップS50に進む。
ステップS50においては、燃料電池モジュール2による発電電流が、強制的に4A以下に低下される。即ち、燃料電池モジュール2による発電電力の上限値を、最大定格電力である700Wの2分の1よりも高い温度上昇抑制電力(400W)に低下させる。以後、需要電力が低下した場合には、需要電力に追従して発電電力(電流)の上限値を低下させ、需要電力が増加しても、発電電流は増加させずに維持される。これにより、図29のフローチャートの1回の処理が終了する。このような発電電流の制限は、検出温度Td及び発電電流が、電流低下領域から外れるまで継続される。
一方、ステップS49において、検出温度Td及び発電電流が、電流低下領域内にないと判断された場合にはステップS51に進む。ステップS51においては、検出温度Td及び発電電流が、電流維持領域内にあるか否かが判断され、電流維持領域内にある場合にはステップS52に進む。
ステップS52においては、発電電流の増加が禁止され、以後、需要電力が増加しても、発電電流は増加させずに維持される。また、需要電力が低下した場合には、需要電力の低下に追従して発電電流(電力)の上限値を低下させ、需要電力が増加しても、発電電流(電力)の上限値は上昇させずに維持される。このような発電電流の制限は、検出温度Td及び発電電流が、電流維持領域から外れ、燃料電池モジュール2の過剰な温度上昇が解消されるまで継続される。これにより、図29のフローチャートの1回の処理が終了する。
本実施形態においては、各発電電流について、検出温度Tdが電流維持領域の最低温度を超えると、発電電力の規制が開始されるので、本明細書においては、各発電電流に対する電流維持領域の最低温度を発電電力規制温度(図30)と称する。この発電電力規制温度は、本実施形態においては、燃料利用率を高くする変更が開始される燃料利用率変更温度(Ts(I)+Te)(図22)よりも高く設定されている。
一方、ステップS51において、検出温度Td及び発電電流が、電流維持領域内にないと判断された場合にはステップS53に進む。ステップS53においては、発電電流の制限は実行されず、蓄熱を利用した制御が実行される。
次に、図31を参照して、発電電流制限の一例を説明する。
図31に示すタイムチャートは、上段から順に、検出温度Td、目標電流、発電電流、燃料供給量、燃料利用率、及び空気供給量の変化を模式的に示す図である。ここで、目標電流とは、需要電力及び発電電圧より求められた電流である。
まず、図31の時刻t20においては、発電電流は約6Aであり、検出温度Tdは、発電電流約6Aにおける適正温度よりもやや低い状態にある(図30のt20に対応)。
次いで、時刻t20〜t21においては、需要電力が短時間に大きく増減を繰り返したため、目標電流も大幅に増減していると共に、発電電流もこれに追従すべく増減している。これに対して、燃料供給量は、図20により説明したように、発電電流が低下した後も所定時間保持されると共に、発電電流の増加よりも先行して増加されるため、発電電流に対して過剰になり、多くの余剰燃料が発生している。この余剰燃料は、燃料電池モジュール2内の加熱に使用されるため、時刻t20〜t21において、検出温度Tdは上昇傾向となっている。
さらに、時刻t21において、検出温度Tdが発電電流約6Aにおける電流維持領域の温度に到達する(図30のt21、図29のステップS51→S52に対応)。これにより、図29のステップS52が実行され、以後、発電電流の増加は禁止され、発電電流が維持される。このため、時刻t21〜t22において、目標電流が約7Aに増加しているが、発電電流は約6Aに維持される。発電電流の増加を禁止することにより、発電電力の可変範囲の上限値が低下され、可変範囲が狭くされるので、発電電力の変化に伴う残余燃料の量が少なくなる。このように、発電を継続しながら残余燃料の量を減じる図29のステップS52は、温度上昇抑制手段として作用する。また、温度上昇抑制手段として作用するステップS52を実行するか否かを判断するステップS51は、燃料電池モジュール2内の過剰な温度上昇の発生を推定する過昇温推定手段として作用する。
さらに、時刻t21〜t22においては、検出温度Tdが上昇するため、第1加減算値M1が正に大きい値となり、第1積算値N1idの値も著しく増加する。これにより、燃料利用率Ufを増加させるように燃料供給量が減少される(図23)。この燃料利用率Ufの増加も、残余燃料の量を減じ、燃料電池モジュール2内の温度を低下させるように作用するので、温度上昇抑制手段として作用する。なお、時刻t21〜t22においては、燃料利用率Ufを増加させ、断熱材7等に蓄積された熱量を積極的に消費しているが、燃料電池モジュール2の熱容量が非常に大きいため、検出温度Tdは上昇を続けている。
次に、時刻t22においては、増加された燃料利用率Ufが、発電電流約6Aにおける最大の燃料利用率である最大燃料利用率Ufmax(=75%)に到達する(図23におけるN1id=1、図24)。時刻t22において燃料利用率Ufは最大燃料利用率Ufmaxまで高められているので、時刻t22〜t23においては、燃料利用率Ufは最大燃料利用率Ufmaxに維持される。一方、時刻t22〜t23において、検出温度Tdは依然として上昇を続けているため、第2積算値N2idの値(第1積算値N1idと同一の値)も増加する。これに伴い、空気利用率Uaが低下される(図25におけるN2id>1)、即ち、空気供給量が増加される。
さらに、時刻t23において、検出温度Tdは、発電電流約6Aにおける電流低下領域の温度に到達する(図29のステップS49→S50に対応)。これにより、図29のステップS50が実行され、発電電流は、約6Aから4Aに急激に低下され(図30のt23→t23’)、発電電力の可変範囲の上限値が更に低下され、可変範囲が更に狭くされる。このため、燃料利用率Ufは、発電電流約6Aにおける最大燃料利用率Ufmaxから、発電電流4Aにおける最大燃料利用率Ufmaxに僅かに低下される(図24、図31)。なお、時刻t23において、燃料利用率Ufは低下されるが、発電電流が4Aに減少されているため、燃料供給量の絶対量、及び残余燃料の絶対量は低下する。発電電流を低下させた状態で燃料利用率Ufを最大燃料利用率Ufmaxに維持しているため、蓄積された熱量の消費が更に促進される。このように、発電電流を減じることにより、発電を継続しながら残余燃料の量を減じる図29のステップS50も、温度上昇抑制手段として作用する。しかしながら、時刻t23〜t24においては、検出温度Tdは依然として上昇する。
次いで、時刻t24において、検出温度Tdは空冷領域の温度に到達する(図29のステップS47→S48、図30のt24に対応)。これにより、図29のステップS48が実行され、空気供給量が、発電用空気流量調整ユニット45の最大空気供給量まで増加される。また、発電電流は4Aから1Aに向けて次第に低下される。以後、この温度上昇抑制発電量である1Aに低下された発電電流は、検出温度Tdが、電流維持領域よりも低い温度に低下するまで一定に維持される。また、1Aに低下された発電電流は、インバータ54には出力されず、全量が補機ユニット4によって消費される。発電電流の低下に伴い、燃料利用率Ufは、発電電流4Aにおける最大燃料利用率Ufmaxから、発電電流1Aにおける最大燃料利用率Ufmax(=50%)に低下される(図24)。
このように、温度上昇抑制手段である図29のステップS50における、残余燃料の量を減少させる温度上昇の抑制が実行された後、更なる温度上昇の抑制が必要な場合において、供給される空気が増加される。発電に必要な供給量以上に増加された増加分の空気は、燃料電池モジュール2に流入される冷却用の流体として作用するので、図29のステップS48は、強制冷却手段として機能する。
一方、残余燃料の量を減少させる温度上昇抑制手段であるステップS50を実行することにより、検出温度Tdが空冷領域の温度に到達することなく低下した場合には、強制冷却手段であるステップS48による冷却は実行されない。従って、強制冷却手段による温度上昇の抑制は、温度上昇抑制手段による温度上昇の抑制が実行された後、燃料電池モジュール2内の温度変化に基づいて、実行されるか否かが決定される。
時刻t24の後、検出温度Tdは上昇を続けるが、時刻t25において低下に転じる(図30のt24→t25)。その後、検出温度Tdは低下し、時刻t26において、電流低下領域の上限の温度まで低下する(図30のt25→t26)。これにより、空気供給量の低下が開始される。
次に、時刻t27において、電流維持領域の上限の温度まで低下する(図30のt26→t27)。検出温度Tdは更に低下を続け、時刻t28において、電流維持領域の下限の温度まで低下する(図30のt27→t28)。
時刻t28において、検出温度Tdが電流維持領域から脱すると、発電電流は、目標電流に追従すべく増加を開始する。これに伴い、燃料供給量も増加する。また、燃料利用率Ufは、各発電電流に対応した最大燃料利用率Ufmaxをとりながら増加する。
なお、上述した実施形態においては、燃料電池モジュール2内の温度に応じ、発電電力の可変範囲の上限値を低下させることにより、温度上昇を抑制していたが、変形例として、発電電力の増減頻度を低下させることにより温度上昇を抑制することもできる。即ち、燃料電池モジュール2内の温度が上昇した場合には、需要電力の増加に追従して発電電力を増加させる追従性を低下させることにより、温度上昇を抑制することもできる。需要電力の増加に対する追従性を低下させると、需要電力が増加した場合、発電電力は、より緩慢に増加する。このため、需要電力が頻繁に増減された場合には、これに追従しようとする発電電力の増減幅が結果的に小さくなると共に、増減する頻度も少なくなり、発生する残余燃料の量も減少する。このような、需要電力の増加に対する追従性の低下は、燃料電池モジュール2内の過剰な温度上昇が解消されるまで継続する。
或いは、需要電力の増加に追従して発電電力を増加させる時間当たりの頻度に制限を加えることもできる。この場合には、発電電力が増加傾向に転じる所定時間当たりの回数に制限を加え、所定時間当たりの回数が多くなった場合には、需要電力の増加に発電電力を追従させないように、発電電力を制御する。
また、上述した実施形態においては、検出温度Tdが電流低下領域の温度に到達すると、発電電流の上限値を4Aに低下させていたが、変形例として、低下させる発電電力の上限値を可変にすることもできる。例えば、燃料電池モジュール2内の温度が高いほど、低下させる発電電力の上限値を低く設定することができる。
次に、図32を参照して、燃料電池モジュール2内の温度と、発電可能な最大電力の関係を説明する。
上記のように、燃料電池モジュール2の発電電力(電流)と、燃料電池モジュール2内の適正な温度には相関があり、大きな発電電力を得るためには、燃料電池モジュール2内の温度を高くする必要がある。しかしながら、燃料電池モジュール2が、発電電力に対する適正温度よりも高い、700℃程度を超える温度領域では、燃料電池セルスタック14の特性上、各燃料電池セルユニット16が発生する電位が低下する。このため、大きな電力を得るために、燃料電池セルスタック14から大きな電流を引き出すと、更に燃料電池セルスタック14の温度が上昇して発生する電位が低下するので、電流を増大させても出力電力が増加しないという現象が発生する。これにより、図32に示すように、燃料電池モジュール2内の温度が高い領域においては、温度が上昇すると発電可能な最大電力が却って低下する。このような温度領域において、燃料電池モジュール2から最大定格電力を取り出そうとすると、取り出す電力を増大させるために電流を増加させ、この電流上昇が更に燃料電池モジュール2の温度を上昇させて、取り出される電力を低下させることになる。このような状態が持続すると、所定の定格電力を得ようとするために、燃料電池モジュール2の温度が急上昇する熱暴走を招く。
本実施形態においては、燃料電池モジュール2内の温度が適正温度よりも高い領域では、需要電力が増大された場合にも発電電流を維持、又は低下させることにより、熱暴走を未然に防止している。
次に、図33を参照して、本実施形態における検出温度Tdの測定を説明する。
図33は、複数の温度センサの検出温度Tdに基づいて、第1加減算値M1を計算する手順を示すフローチャートである。
図3に示すように、本実施形態においては、発電室10内に、2つの発電室温度センサ142が備えられている。ここで、本実施形態においては、燃料電池モジュール2内には、幅方向に20本の燃料電池セルユニット16が並べられ(図2)、奥行き方向に8本の燃料電池セルユニット16が並べられ(図3)ている。従って、全160本の燃料電池セルユニット16は、平面視で長方形状に配列されている。本実施形態においては、2つの発電室温度センサ142のうち、一方は上記長方形の頂点に隣接して配置され、他方は上記長方形の長辺の中点に隣接して配置されている。このように、本実施形態においては、2つの発電室温度センサ142は、燃料電池モジュール2内の異なる温度が検出されるように、異なる位置に配置されている。
このため、上記長方形の頂点に隣接して配置された発電室温度センサ142の検出温度Tdは、長方形の頂点付近に配置された燃料電池セルユニット16の温度を主に反映し、上記長方形の長辺の中点に隣接して配置された発電室温度センサ142の検出温度Tdは、長方形の長辺の中点付近(中間部)に配置された燃料電池セルユニット16の温度を主に反映している。長方形の頂点付近に配置された燃料電池セルユニット16は、周囲の断熱材7等に熱を奪われやすいため、最も温度が低く、長方形の長辺の中点付近に配置された燃料電池セルユニット16は、頂点付近に配置された燃料電池セルユニット16よりも温度が高くなる。本実施形態においては、これらの燃料電池セルユニット16の温度差は数十度にも及ぶ場合がある。なお、上記長方形の対角線の交点付近に配置された燃料電池セルユニット16は最も温度が高くなると考えられ、この温度を測定するように発電室温度センサを配置しても良い。
まず、図33のステップS61においては、2つの発電室温度センサ142から夫々検出温度Tdを読み込む。次に、ステップS62においては、読み込まれた2つの検出温度Tdの平均値を計算し、平均された温度が適正温度Ts(I)(図22)よりも高いか否かが判断される。平均された温度が適正温度Ts(I)よりも高い場合にはステップS63に進み、適正温度Ts(I)よりも低い場合にはステップS64に進む。
ステップS63においては、2つの検出温度Tdのうち、高い方の検出温度Tdに基づいて、第1加減算値M1が計算され(第1加減算値M1は正の値又は0になる)、図33のフローチャートの一回の処理を終了する。即ち、2つの検出温度Tdのうち、高い方の検出温度Tdに基づいて、推定される蓄熱量の増加量が決定される。一方、ステップS64においては、2つの検出温度Tdのうち、低い方の検出温度Tdに基づいて、第1加減算値M1が計算され(第1加減算値M1は負の値又は0になる)、図33のフローチャートの一回の処理を終了する。即ち、2つの検出温度Tdのうち、低い方の検出温度Tdに基づいて、推定される蓄熱量の減少量が決定される。このように、適正温度Ts(I)よりも高い場合には高温側の検出温度Tdを採用し、低い場合には低温側の検出温度Tdを採用する。これにより、過剰な温度上昇が問題となる場合には、温度の高い燃料電池セルユニット16の温度に基づいて蓄熱量が推定される。また、温度低下が問題となる場合には、温度の低い燃料電池セルユニット16(通常、長方形の頂点に位置する燃料電池セルユニット)の温度に基づいて蓄熱量が推定されるので、各燃料電池セルユニット16の温度が異なっていても、安全側で蓄熱量を推定することができる。
なお、上述した実施形態においては、検出温度Tdの高温側又は低温側を選択し、これに基づいて積算値を計算していたが、変形例として、各検出温度Tdについて夫々積算値を求めても良い。即ち、複数の検出温度各々に基づいて加減算値を決定し、決定された加減算値を各検出温度毎に積算して複数の積算値を計算することにより蓄熱量を推定すると共に、複数の積算値全てが増加している場合には複数の積算値のうちの大きい数値を、複数の積算値のうちの一部が低下している場合には複数の積算値のうちの小さい数値を選択し、これを蓄熱量の推定値として使用しても良い。
また、上述した実施形態においては、ステップS63において検出温度の高温側を採用し、ステップS64において検出温度の低温側を採用していたが、変形例として、2つの検出温度の重み付き平均に基づいて第1加減算値M1を計算して、蓄熱量を推定することもできる。例えば、ステップS63においては、検出温度の高温側に0.7を乗じた値と、低温側に0.3を乗じた値とを加算した値に基づいて第1加減算値M1を計算し、ステップS64においては、検出温度の高温側に0.3を乗じた値と、低温側に0.7を乗じた値とを加算した値に基づいて第1加減算値M1を計算することができる。これにより、検出温度Tdが高く、蓄熱量の推定値を増加させる(第1加減算値M1が正又は0)ステップS63においては、複数の検出温度Tdのうちの最も高い温度が最も重みが大きいファクターとして蓄熱量の推定に使用され、蓄熱量の推定値を低下させる(第1加減算値M1が負又は0)ステップS64においては、最も低い温度が最も重みが大きいファクターとして蓄熱量の推定に使用される。
或いは、各検出温度Tdに重み付けをせず、常に、各検出温度Tdを単純平均した値により第1加減算値M1を計算することもできる。
また、長方形の頂点に位置する燃料電池セルユニットの温度が、所定の利用抑制セルユニット温度以下に低下した場合において、燃料利用率Ufの増加を抑制するように、第1加減算値M1を決定することもできる。
次に、図34を参照して、本実施形態の変形例による加減算値の計算を説明する。なお、本変形例による加減算値の計算は、図33による処理と併用しても良いし、或いは、単独で適用することもできる。本変形例を単独で適用する場合には、発電室温度センサ142は1つであっても良い。
図34は、温度検出手段である発電室温度センサ142に加え、もう1つの温度検出手段である改質器温度センサ148による検出温度に基づいて、第1加減算値M1を計算する手順を示すフローチャートである。
まず、図34のステップS71において、改質器温度センサ148から検出温度を読み込む。本実施形態においては、改質器20には、入口側と出口側の2箇所に改質器温度センサ148が取り付けられており、改質器20の入口付近の温度と、出口入口付近の温度が測定されるようになっている。通常、改質器20の温度は、吸熱反応である水蒸気改質反応が多く発生する入口側の温度が低く、出口側の温度が高くなる。
次に、ステップS72において、改質器20の各検出温度と、所定の利用抑制改質器温度が比較される。まず、改質器20の2つの検出温度のうち、低い方の検出温度が低温側利用抑制改質器温度Tr0よりも低く、且つ、高い方の検出温度が高温側利用抑制改質器温度Tr1よりも低い場合には、ステップS73に進む。一方、改質器20の2つの検出温度のうち、高い方の検出温度が高温側利用抑制改質器温度Tr1よりも高く、且つ、低い方の検出温度が低温側利用抑制改質器温度Tr0よりも高い場合には、ステップS75に進む。また、これらの何れにも該当しない場合にはステップS74に進む。
ステップS73においては、改質器20の温度が各利用抑制改質器温度よりも低いため、燃料利用率Ufが低下する(燃料供給量が増加する)ように、第1加減算値M1を補正する。即ち、発電室温度センサ142による検出温度Tdに基づいて計算された第1加減算値M1の絶対値の10%分を、第1加減算値M1から減じた値を第1加減算値M1として積算に使用する。これにより、蓄熱量の推定値である第1積算値N1idが減少する(増加が抑制される)ので、燃料利用率Ufは低下傾向(燃料利用率の増加が抑制される)となり、改質器20の温度は上昇される。
一方、ステップS75においては、改質器20の温度が各利用抑制改質器温度よりも高いため、燃料利用率Ufが高くなる(燃料供給量が減少する)ように、第1加減算値M1を補正する。即ち、発電室温度センサ142による検出温度Tdに基づいて計算された第1加減算値M1の絶対値の10%分を、第1加減算値M1に加算した値を第1加減算値M1として積算に使用する。これにより、蓄熱量の推定値である第1積算値N1idが増加する(減少が抑制される)ので、燃料利用率Ufは上昇傾向となり、改質器20の温度は低下される。これにより、改質器20の温度が上昇しすぎることによる改質器20の損傷が防止される。
また、ステップS74においては、改質器20の温度が適正温度範囲にあるため、第1加減算値M1の補正は実行せずに、図34のフローチャートの1回の処理を終了する。(改質器20の2つの検出温度には相関があるため、低い方の検出温度が低温側利用抑制改質器温度よりも低く、且つ、高い方の検出温度が高温側利用抑制改質器温度よりも高い状態は、通常、発生しない。)
なお、本変形例において、2つの改質器温度センサ148による検出温度を平均し、平均した検出温度を1つ又は2つの利用抑制改質器温度と比較することにより、燃料利用率を補正しても良い。また、改質器温度センサ148による検出温度の時間当たりの変化率に応じて、変化率が高い場合には、燃料利用率を補正する量を大きくしても良い。
次に、図35を参照して、本実施形態の変形例による加減算値の計算を説明する。なお、本変形例による加減算値の計算は、図33、図34による処理と併用しても良いし、或いは、単独で適用することもできる。本変形例を単独で適用する場合には、発電室温度センサ142は1つであっても良い。
図35は、温度検出手段である発電室温度センサ142に加え、もう1つの温度検出手段である排気温度センサ140による検出温度に基づいて、第1加減算値M1を計算する手順を示すフローチャートである。
まず、図35のステップS81において、排気温度センサ140から検出温度を読み込む。本実施形態においては、排気温度センサ140は、燃焼室18において燃焼され、排気ガス排出管82を通って流出する排気ガスの温度を測定するように配置されている。
次に、ステップS82において、排気ガスの検出温度と、所定の利用抑制排気温度が比較される。まず、排気ガスの検出温度が、所定の低温側利用抑制排気温度Tem0よりも低い場合には、ステップS83に進む。一方、排気ガスの検出温度が、所定の高温側利用抑制排気温度Tem1よりも高い場合には、ステップS85に進む。排気ガスの検出温度が、高温側利用抑制排気温度Tem1よりも低く、且つ、低温側利用抑制排気温度Tem0よりも高い場合には、ステップS84に進む。
ステップS83においては、排気ガスの温度が適正温度よりも低いため、燃料利用率Ufが低下する(燃料供給量が増加する)ように、第1加減算値M1を補正する。即ち、発電室温度センサ142による検出温度Tdに基づいて計算された第1加減算値M1の絶対値の10%分を、第1加減算値M1から減じた値を第1加減算値M1として積算に使用する。これにより、蓄熱量の推定値である第1積算値N1idが減少する(増加が抑制される)ので、燃料利用率Ufは低下傾向(燃料利用率Ufの増加が抑制される)となり、排気ガスの温度は上昇される。
一方、ステップS85においては、排気ガスの温度が適正温度よりも高いため、燃料利用率Ufが高くなる(燃料供給量が減少する)ように、第1加減算値M1を補正する。即ち、発電室温度センサ142による検出温度Tdに基づいて計算された第1加減算値M1の絶対値の10%分を、第1加減算値M1に加算した値を第1加減算値M1として積算に使用する。これにより、蓄熱量の推定値である第1積算値N1idが増加する(減少が抑制される)ので、燃料利用率Ufは上昇傾向となり、排気ガスの温度は低下される。これにより、燃料電池モジュール2内の温度が適正化される。
また、ステップS84においては、排気ガスの温度が適正温度範囲にあるため、第1加減算値M1の補正は実行せずに、図35のフローチャートの1回の処理を終了する。
なお、本変形例において、排気温度センサ140による検出温度の時間当たりの変化率に応じて、変化率が高い場合には、燃料利用率を補正する幅を大きくしても良い。
本発明の第2実施形態の固体酸化物型燃料電池によれば、蓄熱量推定手段110bは、複数の温度検出手段(発電室温度センサ142、改質器温度センサ148、排気温度センサ140)により検出された複数の検出温度Tdに基づいて(図33〜35)断熱材7に蓄積されている蓄熱量を推定し(図21)、制御部110は、推定された蓄熱量が大きいほど同一の発電電力に対して燃料利用率が高くなるように燃料利用率を決定する(図23)。これにより、断熱材7に蓄積されている蓄熱を利用して、燃料供給量を減少させ、固体酸化物型燃料電池の総合的なエネルギー効率を向上させることができる。
また、検出温度Tdに基づいて蓄熱量を推定しているので、推定された蓄熱量には、残余燃料の量が十分に反映され、推定蓄熱量は信頼性の高いものとなる。特に、発電電力を増加させる際、燃料供給量を増加させた後、遅れて発電電力を増加させる本実施形態の燃料電池においても(図20)、蓄熱量を正確に把握することができる。このため、燃料電池モジュール2の温度低下等のリスクを回避しながら、蓄積された熱量を十分に活用することができる。
さらに、本実施形態の固体酸化物型燃料電池によれば、複数の温度検出手段により検出された複数の検出温度Tdに基づいて蓄熱量を推定しているので(図33〜35)、燃料電池モジュール2内の部分的な温度低下、温度上昇等のリスクを回避しながら、蓄積された熱量を十分に活用することができる。
また、本実施形態の固体酸化物型燃料電池によれば、複数の異なる検出温度Tdに基づいて、蓄熱量が推定されるので、燃料電池モジュール2内の温度分布を把握することができ、より確実に、過剰な温度上昇、温度低下を防止することができる。
さらに、本実施形態の固体酸化物型燃料電池によれば、燃料利用率を高める場合には検出温度Tdの高い温度を、燃料利用率を低くする場合には低い温度を重みが大きいファクターとして蓄熱量を推定する(図33)ので、過剰な温度上昇、温度低下に対し、夫々安全側の検出温度Tdを主に使用して蓄熱量を推定することができる。
また、本実施形態の固体酸化物型燃料電池によれば、複数の検出温度Tdのうちの最も高い温度に基づいて(図33)、推定される蓄熱量の増加量(第1加減算値M1)が決定されるので、過剰な温度上昇に対して最速で対処することができ、過昇温による燃料電池セルスタック14の損傷を確実に防止することができる。
さらに、本実施形態の固体酸化物型燃料電池によれば、複数の検出温度Tdのうちの最も低い温度に基づいて(図33)、推定される蓄熱量の減少量(第1加減算値M1)が決定されるので、過剰な温度低下に対して最速で対処することができ、過剰冷却による燃料電池セルスタック14の損傷を確実に防止することができる。
また、本実施形態の固体酸化物型燃料電池によれば、各検出温度Tdに基づく加減算値が各検出温度毎に積算されて蓄熱量が推定されるので(第2実施形態の変形例)、燃料電池モジュール2内の各部の蓄熱量を正確に把握することができ、温度分布に適合した蓄熱の利用を行うことができる。
さらに、本実施形態の固体酸化物型燃料電池によれば、蓄熱量が、複数の検出温度Tdの重み付き平均に基づいて推定されるので(第2実施形態の変形例)、簡単な演算により、各検出温度Tdを適切に加味した蓄熱量の推定を行うことができる。
また、本実施形態の固体酸化物型燃料電池によれば、改質器20の温度が所定の利用抑制改質器温度以下の場合には、燃料利用率の増加が抑制されるので(図34)、改質器20内における吸熱反応等により改質器20が過剰冷却され、改質性能が悪化するのを防止することができる。また、改質性能の悪化に伴う燃料電池セルスタック14の損傷を回避することができる。
さらに、本実施形態の固体酸化物型燃料電池によれば、排気の温度が所定の利用抑制排気温度以下の場合には、燃料利用率の増加が抑制されるので(図35)、燃料電池モジュール2内における、燃料電池セルスタック14以外の部位の温度低下を察知して、過剰な温度低下を未然に防止することができる。
また、本実施形態の固体酸化物型燃料電池によれば、長方形の頂点に位置する燃料電池セルユニット16の温度が所定の利用抑制セルユニット温度以下の場合には、燃料利用率の増加が抑制されるので(第2実施形態の変形例)、燃料電池セルスタック14のうちの温度の低い燃料電池セルユニット16の温度に基づいて燃料利用率の増加が抑制され、一部のセルユニットの過剰冷却による損傷を防止することができる。
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、上述した実施形態に種々の変更を加えることができる。特に、上述した実施形態においては、断熱材(蓄熱材)の熱容量は一定であったが、変形例として、熱容量を変更できるように燃料電池モジュールを構成することができる。この場合には、大きな熱容量をもつ追加熱容量部材を、燃料電池モジュールと熱的に連結及び切り離しできるように配置しておく。熱容量を大きくすべき状態においては追加熱容量部材を燃料電池モジュールと熱的に連結し、熱容量を小さくすべき状態においては追加熱容量部材を熱的に切り離す。例えば、固体酸化物型燃料電池の起動時においては、追加熱容量部材を切り離しておくことにより熱容量を小さくし、燃料電池モジュールの昇温を速くする。一方、固体酸化物型燃料電池が、大発電電力で長時間運転されことが予想される場合には、燃料電池モジュールが、より多くの余剰熱量を蓄積できるように、追加熱容量部材を連結する。