上述したように、特許文献1、2に開示されているセンサ本体によると、母材(エラストマーまたは樹脂)の弾性変形により導電パスが崩壊して、電気抵抗が増加する。つまり、特許文献1、2のセンサは、母材の弾性領域における電気抵抗の増加を利用して、変形を検出する。しかしながら、歪みが入力されてから母材が弾性変形するまでには、時間を要する。このため、母材の弾性領域において、曲げ変形を検出しようとすると、母材の弾性変形に要する時間だけ、応答が遅れてしまう。したがって、検出精度が低下してしまう。とりわけ、曲げ変形が高速の場合には、応答遅れが一層大きくなり、さらに検出精度が低下するおそれがある。また、母材の弾性変形の速度は、歪みの入力速度や雰囲気温度に影響される。このため、歪みの入力速度や雰囲気温度も、検出精度が低下する一因となる。
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、歪みの入力速度に対する依存性が小さく、応答遅れが生じにくい曲げセンサを提供することを課題とする。また、当該曲げセンサを用いて、測定対象物の曲げ変形時の形状を精度良く測定することができる変形形状測定方法を提供することを課題とする。
(1)本発明の曲げセンサは、基材と、該基材表面に配置され、マトリックス樹脂と、該マトリックス樹脂中に30vol%以上の充填率で充填されている導電性フィラーと、を有し、該導電性フィラー同士の接触により三次元的な導電パスが形成され、変形量が増加するに従って電気抵抗が増加するセンサ本体と、該センサ本体を被覆するように配置され、弾性変形可能なカバーフィルムと、該センサ本体に接続され、電気抵抗を出力可能な複数の電極と、を備え、該センサ本体には、曲げ変形した時に該導電パスを切断する方向に、予めクラックが形成されていることを特徴とする。
本発明の曲げセンサを構成するセンサ本体において、導電性フィラーは、マトリックス樹脂中に30vol%以上の充填率で充填されている。ここで、導電性フィラーの充填率は、センサ本体の体積を100vol%とした場合の値である。導電性フィラーの充填率が高いため、センサ本体には、導電性フィラー同士の接触により、三次元的な導電パスが形成されている。つまり、センサ本体は、無荷重状態で高い導電性を有すると共に、変形量が増加するに従って電気抵抗が増加する。
加えて、センサ本体には、予めクラックが形成されている。クラックは、曲げ変形した時に導電パスを切断する方向に、形成されている。図1に、センサ本体におけるクラックの一部近傍を拡大した模式図を示す。ただし、図1は、本発明の曲げセンサを説明するための模式図である。図1は、例えば、クラックの形状、クラックの延在方向、導電性フィラーの形状、導電パスの形状、導電パスの延在方向等、本発明を何等限定するものではない。図1中、(a)は曲げ変形前の無荷重状態を、(b)は曲げ変形後の状態を、各々示す。
図1(a)に示すように、センサ本体800は、マトリックス樹脂801と導電性フィラー802とクラック803とを有している。センサ本体800には、導電性フィラー802同士の接触により、導電パスPが形成されている。クラック803は、図中、左右方向(伸張方向)と交差する方向に形成されている。センサ本体800に荷重が加わると、センサ本体800が曲げ変形を開始する。センサ本体800が曲げ変形により左右方向に伸張されると、図1(b)に示すように、クラック803が開口する。これにより、導電性フィラー802同士の接触が断絶されて、導電パスPが切断される。その結果、電気抵抗が増加する。加わっていた荷重が除去されると、センサ本体800は元の状態(図1(a)の状態)に復元する。これにより、クラック803も元の状態に戻る。
このように、本発明の曲げセンサのセンサ本体では、曲げ変形により歪みが入力されると、マトリックス樹脂の弾性変形を待たずに、導電パスが切断される(ただし、本発明の曲げセンサは、マトリックス樹脂の弾性変形により導電パスが切断される場合を除外するものではない。)。したがって、応答遅れが生じにくい。
また、主にクラックの開口により導電パスが切断されるため、マトリックス樹脂の弾性変形のみに依存して導電パスが切断される場合(前出図17参照)と比較して、小さな歪みについても精度良く検出することができる。
また、前述したように、マトリックス樹脂の弾性変形の速度は、雰囲気温度に影響される。この点、本発明の曲げセンサの導電パスは、主にクラックの開口により切断される。このため、マトリックス樹脂の弾性変形のみに依存して導電パスが切断される場合(前出図17参照)と比較して、雰囲気温度に対する応答速度の依存性が小さい。並びに、後述する実施例から明らかなように、歪み入力速度に対する応答速度の依存性も小さい。
また、センサ本体は、カバーフィルムにより被覆されている。これにより、センサ本体の劣化が抑制される。ここで、カバーフィルムは弾性変形可能である。よって、曲げ変形後に除荷されると、カバーフィルムの弾性復元力に助けられて、センサ本体が元の形状に復元しやすくなる。また、開いたクラックも元の状態に戻りやすくなる。
また、センサ本体は、基材の表面に配置されている。基材の厚さを調整することにより、曲げセンサの感度を調整することができる。例えば、曲げ変形時の曲率中心が基材の裏側にある場合、基材の厚さを大きくすると、曲げ変形時におけるセンサ本体の歪み量が大きくなる。すなわち、基材とセンサ本体との合計厚さをt、曲げ変形時の曲率中心から基材裏面までの曲率半径をRとすると、歪み量εはε=t/Rとなる。このため、基材の厚さを大きくすると、曲げ変形時におけるセンサ本体の歪み量が大きくなる。これにより、曲げセンサの感度を向上させることができる。
なお、上記特許文献3〜5には、クラックの開閉により電気抵抗が増加する導電インクが開示されている。しかしながら、いずれの導電インクにおいても、クラックは、曲げ変形時に発生している。言い換えると、導電インクを使用する前には、クラックは形成されていない。この点において、開示された導電インクは、本発明のセンサ本体とは異なる。すなわち、曲げ変形時に新たなクラックが形成されると、曲げセンサの感度が変化してしまう。このため、本発明においては、センサ本体の製造時に予めクラックを形成しておき、曲げ変形時における新たなクラックの形成を抑制している。
(2)好ましくは、上記(1)の構成において、前記導電性フィラーの平均粒子径は、0.05μm以上100μm以下である構成とする方がよい。
導電性フィラーの粒子径が小さいと、マトリックス樹脂に対する補強効果が大きくなる。このため、クラックを形成しにくい。また、センサ本体の破断歪み(センサ本体にクラックが発生する際の歪み)が大きくなるため、電気抵抗の増加が、クラックの開口よりも、センサ本体の弾性変形に依存しやすくなる。また、センサ本体を製造する際に、マトリックス樹脂と導電性フィラーとを含むセンサ材料を塗料化しにくい。このような観点から、導電性フィラーの平均粒子径を、0.05μm以上とすることが望ましい。こうすることで、導電性フィラーの界面に沿って、クラックを形成しやすくなる。また、導電性フィラーの界面でクラックが開口しやすくなり、センサ本体の破断歪みを小さくすることができる。導電性フィラーの平均粒子径を、0.5μm以上、さらには1μm以上とするとより好適である。
一方、導電性フィラーの平均粒子径が100μmを超えると、無荷重状態における導電パスの数が少なくなると共に、曲げ変形に対して導電性フィラーの接触状態が変化しにくくなり、電気抵抗の変化が緩慢となる。また、センサ本体の厚さを薄くしにくくなる。導電性フィラーの平均粒子径を、30μm以下、さらには10μm以下とするとより好適である。なお、平均粒子径としては、導電性フィラーの累積粒度曲線において積算重量が50%となる粒子径(D50)を採用する。
(3)好ましくは、上記(1)または(2)の構成において、前記導電性フィラーは、球状カーボンである構成とする方がよい。
導電性フィラーの形状を球状とすることにより、導電性フィラーを、マトリックス樹脂中に、最密充填に近い状態で配合することができる。これにより、三次元的な導電パスが形成されやすくなり、所望の導電性が発現しやすくなる。また、センサ本体の弾性変形に対して、導電性フィラーの接触状態が変化しやすい。このため、電気抵抗の変化が大きい。また、球状カーボンとしては、表面の官能基が少ないものが望ましい。表面の官能基が少ないと、マトリックス樹脂との界面で破壊が生じやすく、センサ本体にクラックを形成しやすい。
(4)好ましくは、上記(1)ないし(3)のいずれかの構成において、前記センサ本体において、複数の前記電極の配置方向に連なる長さ2mm以下の単位区間を複数区画した場合に、前記クラックは、該単位区間内に、少なくとも一つ形成されている構成とする方がよい。
曲げセンサの感度は、センサ本体に形成されたクラックの密度(複数の電極の配置方向における単位長さあたりのクラック本数)により変化する。単位区間の長さを2mm以下としたのは、2mmを超えると、クラックの密度が小さくなり、曲げセンサの感度が低下するからである。言い換えると、所望の感度を実現しにくくなるからである。より好ましくは、単位区間の長さを1mm以下とする方がよい。こうすると、さらに曲げセンサの感度が向上する。
(5)好ましくは、上記(1)ないし(4)のいずれかの構成において、前記センサ本体には、予め歪みが入力されている構成とする方がよい。
センサ本体を曲げると、曲げ変形の初期段階においては弾性領域が、その後の段階においては破断歪み以上の領域が、出現する。前出特許文献1、2のセンサは、弾性領域だけを利用して、変形を検出している。
図2に、センサ本体の歪み量と電気抵抗との関係を表す模式グラフを示す。ただし、図2は、本構成を何等限定するものではない。図2に示すように、センサ本体を曲げるのに従って、歪み量は大きくなる。歪み量が大きくなると、電気抵抗も大きくなる。
ここで、図中、矢印Y1で示すように、曲げ変形の初期段階においては、歪み量に対して電気抵抗が、略二次曲線的に上昇する。このため、図中、点X1で示すように、曲げ変形当初の、歪み量に対する電気抵抗の応答性が、低くなる。なお、矢印Y1で示す領域は、センサ本体の弾性領域と推定される。
また、図中、矢印Y2で示すように、曲げ変形の初期段階後の段階においては、歪み量に対して電気抵抗が、略線形的に上昇する。また、図中、点X2で示すように、点X1と比較して、歪み量に対する電気抵抗の応答性が、高くなる。なお、矢印Y2で示す領域は、センサ本体の弾性領域を超えた、破断歪み以上の領域であると推定される。
よって、曲げ変形の検出領域としてセンサ本体の弾性領域だけを利用する場合と比較して、センサ本体の破断歪み以上の領域を利用する場合(破断歪み以上の領域だけを利用する場合、および弾性領域と破断歪み以上の領域とを併用する場合を含む)の方が、同じ歪み量が入力された場合の電気抵抗の変化が大きくなる。このため、曲げセンサの感度が向上する。また、歪み量に対して電気抵抗が略線形的に上昇するため、電気抵抗から歪み量を算出しやすくなる。
この点、本構成によると、センサ本体に予め歪みが入力されている。このため、センサ本体の曲げ変形時の総歪み量は、予め入力されている歪み量と、曲げ変形に伴う歪み量と、の和になる。つまり、センサ本体の総歪み量は、曲げ変形に伴う歪み量のみの場合と比較して、大きくなる。これにより、検出領域として、センサ本体の破断歪み以上の領域を用いやすくなる。すなわち、検出領域を、歪み量と電気抵抗との関係が線形な領域へ、ずらしやすくなる(歪みオフセット)。したがって、本構成によると、曲げセンサの感度が向上する。また、電気抵抗から、歪み量、ひいては曲げ変形時のセンサ本体の形状等を、算出しやすくなる。
(6)好ましくは、上記(1)ないし(5)のいずれかの構成において、複数の前記電極は、導電塗料を前記基材に印刷して形成されている構成とする方がよい。
例えば、フレキシブルプリント配線板(FPC)等の表面にセンサ本体等を配置して、本発明の曲げセンサを構成することができる。FPC上の導電パターンは、金属箔のエッチングにより形成されている。金属箔のエッチングによると、電極や配線を、細線かつ挟ピッチで形成することができる。したがって、FPCを用いると、本発明の曲げセンサを小型化することができる。
しかしながら、電極を、金属箔のエッチングにより形成すると、電極の端部が角張りやすい。このため、センサ本体を湾曲させて硬化した後、元の状態に戻すことによりクラックを形成する場合、予め形成されている電極の端部に応力が集中しやすい。これにより、クラックが電極周辺に集中して形成されるおそれがある。つまり、センサ本体におけるクラックの分布に、ばらつきが生じるおそれがある。図18に、エッチングにより電極を形成した場合における、クラック形成時のセンサ本体の一部断面模式図を示す。
図18に示すように、センサ本体810は、基材811の表面に配置されている。センサ本体810と基材811との間には、所定の間隔で電極812a〜812cが介装されている。電極812a〜812cは、金属箔をエッチングして形成されている。電極812a〜812cの、センサ本体810の延在方向の端部には、角部813が存在する。角部813には、応力が集中しやすい。このため、クラック814は、電極812a〜812cの周辺に集中して形成されている。
このように、クラックの分布にばらつきがあると、電極で区切られた測定区間ごとのセンサ応答に差が生じてしまう。また、金属箔からなる電極は、樹脂をバインダーとするセンサ本体との密着性が充分ではない。このことも、電極周辺にクラックが集中する要因となる。
本構成によると、導電塗料を基材に印刷して、電極を形成する。導電塗料の印刷により形成された電極の端部は、角張りにくい。このため、センサ本体にクラックを形成する際に、電極の端部に応力が集中しにくい。また、導電塗料は、樹脂やエラストマーをバインダーとする。このため、導電塗料から形成された電極は、センサ本体との密着性が良好である。したがって、本構成によると、クラックを、センサ本体の全体に亘り略均一に形成することができる。これにより、測定区間によらず、安定したセンサ応答を得ることができる。図19に、印刷により電極を形成した場合における、クラック形成時のセンサ本体の一部断面模式図を示す。
図19に示すように、センサ本体810は、基材811の表面に配置されている。センサ本体810と基材811との間には、所定の間隔で電極812a〜812cが介装されている。電極812a〜812cは、導電塗料を印刷して形成されている。電極812a〜812cの、センサ本体810の延在方向の端部には、曲面状の面取部815が存在する。面取部815には、応力が集中しにくい。このため、クラック814は、センサ本体11の全体に亘り、略均一に形成されている。
(6−1)好ましくは、上記(6)の構成において、導電塗料は、樹脂またはエラストマーからなるバインダーと導電材とを有する構成とするとよい。導電材としては、例えば、銀、金、銅、ニッケル等の金属粉末、導電性を有するカーボン粉末、粒子表面が金属で被覆された被覆粒子等を使用すればよい。
(7)好ましくは、上記(6)の構成において、前記電極の表面形状における、前記センサ本体の延在方向の端線は、曲線部を有する構成とする方がよい。
本構成によると、センサ本体を湾曲させて硬化した後、元の状態に戻すことによりクラックを形成する場合に、基材とセンサ本体との間に介装された電極の端部に、応力が集中しにくい。したがって、センサ本体に、より均一にクラックを形成することができる。
(8)好ましくは、上記(1)ないし(7)のいずれかの構成において、複数の前記電極と各々接続されている配線を備え、該配線は、金属箔をエッチングして形成されている構成とする方がよい。
後出(10)の構成にて説明するように、本発明の曲げセンサにより、測定対象物の変形形状を測定する場合には、電極の数を多くして、測定区間をより細かく設定することが望ましい。この場合、各々電極に接続される配線の数も多くなる。本構成によると、細線かつ挟ピッチで、配線パターンを形成することができる。したがって、曲げセンサを小型化するのに好適である。
(9)好ましくは、上記(1)ないし(8)のいずれかの構成において、さらに、前記基材裏面に配置される歪み調整板と、該歪み調整板と該基材とを接着する接着層と、を備え、該基材、該歪み調整板、および該接着層は、いずれも、貯蔵弾性率が遷移するガラス−ゴム転移領域が、曲げセンサを使用する温度範囲の下限温度−10℃よりも低温側、または上限温度+10℃よりも高温側にある材料からなる構成とするとよい。
前出(1)の構成にて説明したように、基材の厚さを大きくすると、曲げ変形時におけるセンサ本体の歪み量が大きくなる(ε=t/R)。本構成によると、歪み調整板を基材の裏面に配置することにより、基材の厚さを大きくしたのと同じ効果が得られる。すなわち、基材に歪み調整板を積層すると、曲げ変形による歪みが拡大される。これにより、曲げセンサの感度を向上することができる。また、歪み調整板の厚さを調整することにより、センサ応答を最適化することができる。
歪み調整板は、接着層を介して基材に貼り付けられている。例えば、歪み調整板と比較して、接着層が軟らか過ぎる場合には、歪み調整板を介して伝達された曲げ変形が接着層で緩和されてしまう。これにより、曲げ変形が、正確かつ速やかに、センサ本体に伝達されにくくなる。その結果、曲げ変形の検出精度の低下や、応答遅れが生じてしまう。
本構成によると、基材、歪み調整板、および接着層の全てについて、貯蔵弾性率が遷移するガラス−ゴム転移領域が、曲げセンサを使用する温度範囲の下限温度−10℃よりも低温側、または上限温度+10℃よりも高温側にある材料で構成する。以下、ガラス−ゴム転移領域について説明する。図20に、温度に対する貯蔵弾性率の変化の一例を示す。
図20に示すように、樹脂等の高分子材料の貯蔵弾性率は、ある温度範囲で急激に変化する。貯蔵弾性率が大きい領域(A)はガラス状態、貯蔵弾性率が小さい領域(B)はゴム状態、と称される。すなわち、高分子材料は、温度の上昇と共に、ガラス状態からゴム状態へ変化する。温度を上昇させた場合に、貯蔵弾性率のグラフが、領域(A)の貯蔵弾性率の外挿線aと解離し始める温度をT1とする。さらに温度を上昇させて、貯蔵弾性率のグラフが、領域(B)の貯蔵弾性率の外挿線bと一致し始める温度をT2とする。そして、T1からT2までの温度範囲(図中、ハッチングで示す)を、ガラス−ゴム転移領域と定義する。
本明細書においては、貯蔵弾性率として、JIS K7244−1(1998)、JIS K7244−4(1999)に準じた、以下の測定方法で測定した値を採用する。すなわち、まず、幅5mm、長さ20mm、厚さ1mmの短冊状の試験片を作製した。次に、動的粘弾性測定装置((株)UBM製「Rheogel−E4000F」)を用いて、−70〜120℃における貯蔵弾性率を測定した。測定は、引張りモード、昇温速度3℃/分、周波数1Hzで行った。
例えば、曲げセンサを使用する温度範囲を、20〜25℃と設定する。この場合、基材、歪み調整板、および接着層は、ガラス−ゴム転移領域が下限温度−10℃、つまり10℃よりも低温側、または上限温度+10℃、つまり35℃よりも高温側にある材料のいずれかで構成される。なお、曲げセンサを使用する温度が、例えば20℃のように、範囲を持たない場合には、その温度を基準にして±10℃の範囲を設定すればよい。本構成によると、曲げセンサを使用する温度範囲において、基材、歪み調整板、および接着層の硬さの状態が統一される。また、曲げセンサを使用する温度範囲において、ガラス状態→ゴム状態、またはゴム状態→ガラス状態というように、状態が変化しない。例えば、高速で曲げ変形した場合には、使用温度が低温側にシフトした場合と同じ挙動になる。しかし、本構成によると、使用温度の下限、上限から、さらに±10℃だけ余裕を持って温度範囲を設定している。したがって、高速で曲げ変形した場合であっても、使用温度の範囲内に、ガラス−ゴム転移領域が含まれることはない。
このように、本構成によると、荷重入力側に配置される基材等の部材において、曲げ変形が緩和されるおそれは小さい。つまり、曲げ変形が、正確にセンサ本体に伝達される。したがって、本構成によると、曲げ変形の検出精度の低下を抑制することができる。
特に、ガラス−ゴム転移領域が、曲げセンサを使用する温度範囲の上限温度+10℃よりも高温側にある材料を採用すると、基材、歪み調整板、および接着層の全てをガラス状態の硬い材料で構成することができる。これにより、曲げ変形が、速やかにセンサ本体に伝達される。よって、応答遅れが生じにくい。
(10)本発明の変形形状測定方法は、上記(1)ないし(9)のいずれかの構成の曲げセンサの曲げ変形を、前記電極で区切られた測定区間ごとに検出する検出工程と、検出された該測定区間の変形データから、該測定区間の変形形状を算出する部分形状算出工程と、算出された該測定区間の変形形状を繋ぎ合わせて、該曲げセンサ全体の変形形状を算出する全体形状算出工程と、を有する。
本発明の変形形状測定方法では、曲げセンサを複数の測定区間に区画して、各測定区間における変形形状を繋ぎ合わせて、曲げセンサ全体の変形形状、つまり測定対象物の変形形状を測定する。本発明の変形形状測定方法によると、上記本発明の曲げセンサを用いて、測定対象物の変形形状を、容易かつ動的に、測定することができる。また、電極の配置数を増加させると、測定区間をより細かく設定することができる。これにより、曲げセンサ、つまり測定対象物をより細かく分割して、各々の部分形状を算出することができる。その結果、曲げセンサ、つまり測定対象物の変形形状を、精度良く算出することができる。
以下、本発明の曲げセンサおよび変形形状測定方法の実施形態について説明する。
<第一実施形態>
[曲げセンサの構成]
まず、本実施形態の曲げセンサの構成について説明する。図3に、曲げセンサの正面図を示す。図4に、図3のIV−IV断面図を示す。図5に、図4の円V内の拡大図を示す。説明の便宜上、図3では、カバーフィルムの右半分を除去して示す。図3、図4に示すように、曲げセンサ1は、基材10と、センサ本体11と、電極12a〜12iと、配線13a〜13iと、カバーフィルム14と、を備えている。
基材10は、ポリイミド製であって、左右方向に延びる帯状を呈している。基材10の膜厚は約300μmである。基材10の右端には、コネクタ15が取り付けられている。
センサ本体11は、左右方向に延びる帯状を呈している。センサ本体11の膜厚は約100μmである。センサ本体11は、基材10の表面(後面)に固定されている。センサ本体11には、予め歪みが入力されている。
センサ本体11は、エポキシ樹脂(マトリックス樹脂)にカーボンビーズ(導電性フィラー)が配合されてなる。カーボンビーズの充填率は、センサ本体11の体積を100vol%とした場合の約45vol%である。図5に模式的に示すように、センサ本体11には、予め複数のクラックC1が形成されている。クラックC1は、電極12a〜12iの配置方向(左右方向)と交差する方向、すなわち、センサ本体11の厚さ方向(前後方向)に延びるように配置されている。クラックC1は、センサ本体11の左右方向に連なる長さ2mmの単位区間U1内に、約2個ずつ形成されている。
電極12a〜12iは、センサ本体11を左右方向に八分割するように、配置されている。電極12a〜12iは、いずれも、上下方向に延びる短冊状を呈している。電極12a〜12iは、いずれも、センサ本体11と基材10との間に、介装されている。また、隣り合う一対の電極(例えば、電極12aと電極12b)により、測定区間L1〜L8が区画されている。電極12a〜12iとコネクタ15とは、各々、配線13a〜13iにより、結線されている。
カバーフィルム14は、アクリルゴム製であって、左右方向に延びる帯状を呈している。カバーフィルム14は、基材10、センサ本体11、および配線13a〜13iを、後方から被覆している。
[曲げセンサの製造方法]
次に、本実施形態の曲げセンサ1の製造方法について説明する。本実施形態の曲げセンサ1の製造方法は、塗料準備工程と、印刷工程と、曲げ硬化工程と、除荷工程と、カバーフィルム印刷工程と、を有している。
塗料準備工程においては、センサ塗料、電極塗料、配線塗料、コネクタ塗料、およびカバーフィルム塗料を、各々準備する。すなわち、センサ塗料を、エポキシ樹脂の硬化前樹脂(日本ペルノックス(株)製「ペルノックス(登録商標)ME−562」;液状)100質量部と、硬化剤(同社製「ペルキュア(登録商標)HV−562」;液状)150質量部と、カーボンビーズ(日本カーボン(株)製「ニカビーズ(登録商標)ICB0520」、平均粒子径約5μm)300質量部と、を羽根攪拌により混合して調製する。電極塗料、配線塗料、およびコネクタ塗料には、藤倉化成(株)製「ドータイト(登録商標)FA−312」を使用する。ここで、電極塗料は、本発明における導電塗料に含まれる。カバーフィルム塗料を、次のようにして調製する。まず、アクリルゴムポリマー(日本ゼオン(株)製「ニポール(登録商標)AR51」)100質量部と、加硫助剤のステアリン酸(花王(株)製「ルナック(登録商標)S30」)1質量部と、加硫促進剤のジメチルジチオカルバミン酸亜鉛(大内新興化学(株)製「ノクセラー(登録商標)PZ」)2.5質量部、およびジメチルジチオカルバミン酸第二鉄(同社製「ノクセラーTTFE」)0.5質量部と、をロール練り機にて混合し、エラストマー組成物を調製する。次に、調製したエラストマー組成物を、印刷用溶剤のエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート312質量部に溶解させる。
印刷工程においては、カバーフィルム塗料以外の塗料を、スクリーン印刷機を用いて、基材10の表面に印刷する。まず、基材10の表面に、電極塗料、配線塗料、およびコネクタ塗料を、順に印刷する。次に、塗料印刷後の基材10を、約140℃の乾燥炉内に約30分間静置して、塗膜を硬化させる。このようにして、電極12a〜12i、配線13a〜13i、およびコネクタ15を形成する。続いて、電極12a〜12i等が形成された基材10の表面に、センサ塗料を印刷する。
曲げ硬化工程においては、センサ塗料の塗膜が内側になるように基材10を湾曲させて、その状態で加熱して、塗膜を硬化させる。図6に、曲げ硬化工程の前半の模式図を示す。図7に、同工程の後半の模式図を示す。
まず、図6、図7に示すように、センサ塗料の塗膜110が形成された基材10を、C字形状の金型2の内周面20に貼り付ける。この時、金型2の内周面20に、基材10の前面100を当接させる。次に、金型2を乾燥炉内に入れ、約140℃で1時間保持して、塗膜110を一次硬化させる。続いて、約170℃で2時間保持して、塗膜110を二次硬化させる。
除荷工程においては、基材10を、硬化した塗膜110と共に金型2から剥離して、基材10および硬化した塗膜110を、湾曲した状態から、元の平面状態(前出図6参照)に戻す。本工程により、硬化した塗膜110(センサ本体11)に、歪みが入力されると共に、クラックが形成される。このようにして、センサ本体11を形成する。
カバーフィルム印刷工程においては、スクリーン印刷機を用いて、塗料準備工程にて調製したカバーフィルム塗料を印刷する。まず、基材10、センサ本体11、および配線13a〜13iの表面を覆うように、カバーフィルム塗料を印刷する。次に、塗料印刷後の基材10を約150℃の乾燥炉内に約30分間静置して、塗膜を硬化させる。このようにして、カバーフィルム14を形成する。以上の工程により、曲げセンサ1を作製する。
[曲げセンサの動き]
次に、本実施形態の曲げセンサ1の動きについて説明する。図8に、衝突物の衝突前における、曲げセンサの下方から見た断面図(前出図3のIV−IV断面に相当)を示す。図9に、衝突物の衝突後における、曲げセンサの下方から見た断面図を示す。
図8、図9に示すように、曲げセンサ1は、自動車のバンパカバー90の後面90aに設置されている。基材10は、後面90aに貼着されている。衝突物Oが、バンパカバー90に前方から衝突すると、バンパカバー90は、後方に陥没するように変形する。バンパカバー90の変形は、曲げセンサ1に伝達される。すなわち、バンパカバー90の変形は、基材10を介して、センサ本体11、カバーフィルム14に伝達される。これにより、センサ本体11は、基材10およびカバーフィルム14と共に、前方に開口するC字状に湾曲する。
図8に示す衝突前状態においては、センサ本体11には、カーボンビーズ同士の接触により、多数の導電パスが形成されている。したがって、電極12a〜12i間に区画されている測定区間L1〜L8(前出図4参照)において検出されるセンサ本体11の電気抵抗は、いずれも比較的小さい。これに対して、図9に示す衝突後状態においては、衝突の初期段階で、センサ本体11が曲がることにより、センサ本体11内のクラックが開口する。このため、導電パスが切断される。加えて、導電性フィラー同士の接触状態が変化することにより、導電パスが切断される。これにより、曲げ変形した測定区間L3〜L6において検出される電気抵抗は、衝突前状態に対して、大きくなる。したがって、出力された電気抵抗値から、センサ本体11、つまりバンパカバー90の曲げ変形を検出することができる。
[変形形状測定方法]
次に、本実施形態の曲げセンサ1を用いた変形形状測定方法について説明する。本実施形態の変形形状測定方法は、検出工程と、部分形状算出工程と、全体形状算出工程と、を有している。
検出工程においては、上述したように、曲げセンサ1により、測定対象物であるバンパカバー90の曲げ変形を、電極12a〜12iで区切られた測定区間L1〜L8ごとに検出する。
部分形状算出工程においては、検出された測定区間L1〜L8の変形データから、測定区間L1〜L8各々の変形形状を算出する。すなわち、予め求めておいたセンサ本体11の歪み量ε(ε=t/R;tは基材10とセンサ本体11との合計厚さ(既知)、Rは曲げ変形時の曲率中心から基材10裏面までの曲率半径)と電気抵抗との関係を用いて、測定区間L1〜L8ごとに、変形データ(電気抵抗値)から歪み量εを算出する。そして、得られた歪み量εから、測定区間L1〜L8各々の曲率、曲率半径を算出する。すなわち、測定区間L1〜L8各々の変形形状を算出する。
全体形状算出工程においては、算出された測定区間L1〜L8各々の変形形状を繋ぎ合わせて、センサ本体11の変形形状を算出する。図10に、図9に示した衝突後状態におけるセンサ本体の変形形状(実際の形状)に対する、本実施形態の変形形状測定方法により算出されたセンサ本体の変形形状(推定形状)を表す模式図を示す。図10に示すように、本工程においては、隣り合う測定区間L1〜L8の端点a〜iが、互いに接線を共有するように、測定区間L1〜L8の変形形状を繋ぎ合わせる。このようにして、センサ本体11全体の変形形状を算出する。つまり、バンパカバー90(詳しくは、バンパカバー90のうち曲げセンサ1が配置されている部分)の衝突後の変形形状を算出する。
[作用効果]
次に、本実施形態の曲げセンサ1および変形形状測定方法の作用効果について説明する。本実施形態の曲げセンサ1によると、センサ本体11が曲がることにより、クラックC1が開口する。これにより、導電パスが切断されて、センサ本体11の電気抵抗が、速やかに増加する。したがって、応答遅れが小さい。
また、主にクラックC1の開口により導電パスが切断されるため、マトリックス樹脂の弾性変形のみに依存して導電パスが切断される場合(前出図17参照)と比較して、小さな歪みについても精度良く検出することができる。
また、前述したように、マトリックス樹脂の弾性変形の速度は、雰囲気温度に影響される。この点、本実施形態の曲げセンサ1の導電パスは、主にクラックC1の開口により切断される。このため、マトリックス樹脂の弾性変形のみに依存して導電パスが切断される場合(前出図17参照)と比較して、雰囲気温度に対する応答速度の依存性が小さい。並びに、後述する実施例から明らかなように、歪み入力速度に対する応答速度の依存性も小さい。
また、センサ本体11において、クラックC1は、左右方向に連なる長さ2mmの単位区間U1内に、約2個ずつ形成されている。このため、曲げセンサ1の感度が高い。また、曲げ変形の初期段階において、クラックC1の開口による電気抵抗の増加が大きくなる。
また、センサ本体11は、カバーフィルム14により被覆されている。これにより、センサ本体11の劣化が抑制される。また、曲げ変形後に除荷された際には、カバーフィルム14の弾性復元力に助けられて、センサ本体11が元の形状に復元しやすい。
また、センサ本体11において、エポキシ樹脂(マトリックス樹脂)に充填されているカーボンビーズ(導電性フィラー)の平均粒子径は、比較的大きい。このため、導電性フィラーの界面に沿って、クラックC1が形成されやすい。加えて、曲げ変形によりクラックC1が開口しやすいため、センサ本体11の破断歪みを小さくすることができる。
また、導電性フィラーは球状を呈している。このため、マトリックス樹脂中に、導電性フィラーを、最密充填に近い状態で配合することができる。これにより、三次元的な導電パスが形成されやすくなり、センサ本体11の無荷重状態における導電性を、大きくすることができる。また、センサ本体11の曲げ変形に対して、導電性フィラーの接触状態が変化しやすい。このため、電気抵抗の変化が大きい。また、カーボンビーズは、官能基が少ない。このため、マトリックス樹脂との界面で破壊が生じやすく、センサ本体11にクラックC1を形成しやすい。
また、センサ本体11を製造する際、検出する曲げ変形とは反対の方向に湾曲した状態で、センサ塗料の塗膜を硬化させている。これにより、バンパカバー90に取り付けられた段階で、センサ本体11には、予め歪みが入力されている。したがって、センサ本体11の曲げ変形時の総歪み量は、予め入力されている歪み量と、曲げ変形に伴う歪み量と、の和になる。センサ本体11の総歪み量が大きいと、検出領域を、センサ本体11の破断歪み以上の領域、すなわち歪み量と電気抵抗との関係が略線形な領域へ、ずらすことができる(前出図2参照)。したがって、本実施形態の曲げセンサ1によると感度が向上する。また、電気抵抗から歪み量を算出しやすくなる。
また、本実施形態の変形形状測定方法によると、曲げセンサ1を用いて、バンパカバー90の変形形状を、容易に測定することができる。上述したように、曲げセンサ1は、応答遅れが生じにくい。よって、バンパカバー90の実際の変形形状と、算出された変形形状との間に、タイムラグが発生しにくくなる。また、曲げセンサ1の検出領域として、歪み量と電気抵抗との関係が略線形な領域を使用することにより、バンパカバー90の変形形状を、精度良く測定することができる。
<第二実施形態>
本実施形態の曲げセンサおよび変形測定方法と、第一実施形態の曲げセンサおよび変形測定方法と、の相違点は、センサ本体の数、および測定対象物に対する曲げセンサの取り付け方である。したがって、ここでは相違点についてのみ説明する。
図11に、取付状態における、曲げセンサの下方から見た断面図を示す。図11中、前出図8と対応する部材については、同じ符号で示す。また、図11では、説明の便宜上、電極および配線を省略して示す。
図11に示すように、測定対象物91は粘土製であって、半円柱状を呈している。曲げセンサ3は、測定対象物91の外周曲面910に取り付けられている。曲げセンサ3の長手方向と外周曲面910の周方向とは略一致している。曲げセンサ3は、基材10と、五つのセンサ本体30〜34と、カバーフィルム14と、を備えている。曲げセンサ3は、基材10が外周曲面910と当接するように、取り付けられている。基材10は、外周曲面910に貼着されている。五つのセンサ本体30〜34は、曲げセンサ3の長手方向に、直列に配置されている。センサ本体30〜34の構成は、いずれも第一実施形態のセンサ本体の構成と、同じである。センサ本体30〜34の各々は、センサ塗料の硬化時の湾曲状態(前出図7参照)を元の平面状態(前出図6参照)に戻した状態から、さらに反対側に湾曲させた状態で、配置されている。すなわち、センサ本体30〜34には、予め歪みが入力されている。また、曲げセンサ3の取付状態において、センサ本体30〜34に形成されたクラックは、開口している。このため、導電パスの多くは、切断された状態である。
例えば、測定対象物91が左右方向に伸張され、かつ前後方向に圧縮されるように変形すると、図11中破線で示すように、センサ本体30〜34は、外周曲面910と共に、曲率半径が大きくなる方向に曲げ変形する。つまり、平面状態に近くなるように曲げ変形する。すると、クラックが閉口すると共に、導電性フィラー同士の接触状態が変化することにより、導電パスが復元される。これにより、センサ本体30〜34の各々において検出される電気抵抗は、曲げ変形前の取付状態に対して、小さくなる。したがって、出力された電気抵抗値から、測定対象物91の曲げ変形を検出することができる。
また、予め求めておいたセンサ本体30〜34の歪み量と電気抵抗との関係を用いて、センサ本体30〜34における測定区間ごとに、変形データ(電気抵抗値)から、歪み量を算出する。得られた歪み量から、各々の測定区間の曲率、曲率半径を算出する。そして、各々の測定区間の変形形状を算出する。算出された測定区間の変形形状を繋ぎ合わせて、測定対象物91におけるセンサ本体30〜34ごとの変形形状を算出する。これらの変形形状を繋ぎ合わせて、曲げセンサ3全体、つまり測定対象物91の変形形状を算出する。
本実施形態の曲げセンサ3は、第一実施形態の曲げセンサと同様の作用効果を有する。また、本実施形態の曲げセンサ3は、直列に配置された5つのセンサ本体30〜34を有している。このため、長尺状の測定対象物91の曲げ変形を検出するのに好適である。
<第三実施形態>
本実施形態の曲げセンサおよび変形測定方法と、第一実施形態の曲げセンサおよび変形測定方法と、の相違点は、電極形状、配線の構成および形成方法である。したがって、ここでは相違点についてのみ説明する。
図21に、本実施形態の曲げセンサにおける左端付近の拡大図を示す。説明の便宜上、図21では、カバーフィルムを省略して示す。なお、図21は、前出図3と対応している。よって、図3と対応する部材については、同じ符号で示す。
図21に示すように、電極12a、12bの表面形状は、楕円状を呈している。電極12a、12bの左右方向(センサ本体11の延在方向)の端線は、曲線部120a、120bを有する。電極12a、12bは、センサ本体11と基材10との間に、介装されている。電極12a、12bは、樹脂に銀粉末を配合した電極塗料を、基材10にスクリーン印刷して形成されている。当該電極塗料は、本発明における導電塗料に含まれる。
配線13a、13bは、各々、電極12a、12bとコネクタ(図略)とを、接続している。配線13a、13bは、基材10の表面(後面)に予め貼着されていた銅箔を、所定のパターンにエッチングして、形成されている。なお、図示していないが、本実施形態の曲げセンサにおける他の電極12c〜12iについても、電極12a、12bと同様に形成されている。また、配線13c〜13iについても、配線13a、13bと同様に形成されている。
本実施形態の曲げセンサおよび変形測定方法は、第一実施形態の曲げセンサおよび変形測定方法と共通する部分については、第一実施形態と同様の作用効果を奏する。また、本実施形態の曲げセンサ1によると、配線13a〜13iは、銅箔をエッチングして形成されている。したがって、配線13a〜13iを、細線かつ挟ピッチで、形成することができる。これにより、電極12a〜12iの数が多くても、曲げセンサ1を小型化することができる。
一方、電極12a〜12iは、電極塗料を印刷して形成されている。このため、電極12a〜12iの端部は、角張りにくい。つまり、電極12a〜12iの左右方向の端面には、面取部が存在する(前出図19参照)。面取部には、応力が集中しにくい。また、電極塗料は、樹脂をバインダーとする。このため、電極12a〜12iとセンサ本体11との密着性は良好である。さらに、電極12a〜12iは、楕円状を呈している。つまり、電極12a、12bの左右方向の端線は、曲線部120a、120bを有する。このため、応力が集中しにくい。よって、クラックが電極12a〜12i周辺に集中して形成されるおそれは小さい。つまり、センサ本体11の全体に亘り、クラックを略均一に形成することができる。したがって、本実施形態の曲げセンサ1によると、測定区間によらず、安定したセンサ応答を得ることができる。
<第四実施形態>
本実施形態の曲げセンサおよび変形測定方法と、第一実施形態の曲げセンサおよび変形測定方法と、の相違点は、基材の前面に接着層を介して歪み調整板を配置した点である。したがって、ここでは相違点についてのみ説明する。
図22に、本実施形態の曲げセンサにおける左右方向の断面図を示す。図22は、前出図3のIV−IV断面図に相当する。図22中、図4と対応する部材については、同じ符号で示す。
図22に示すように、曲げセンサ1は、基材10と、センサ本体11と、電極12a〜12iと、配線と、カバーフィルム14と、歪み調整板16と、接着層17と、を備えている。基材10、センサ本体11、電極12a〜12i、配線、およびカバーフィルム14については、第一実施形態と同じである。曲げセンサ1の使用温度は、約20℃に設定されている。基材10は、ポリイミド製である。当該ポリイミド(基材10)のガラス−ゴム転移領域は、300〜350℃である。つまり、30℃(曲げセンサ1の使用温度+10℃)よりも高温側にある。
歪み調整板16は、ガラス布基材エポキシ樹脂(FR−4)製であって、当該ガラス布基材エポキシ樹脂(歪み調整板16)のガラス−ゴム転移領域は、100〜150℃である。つまり、30℃よりも高温側にある。歪み調整板16は、左右方向に延びる平板状を呈している。歪み調整板16の厚さは約0.5mmである。また、歪み調整板16の幅(上下方向長さ)は、基材10の幅と略同じである。歪み調整板16は、基材10の前方に配置されている。歪み調整板16と基材10とは、接着層17を介して接着されている。
接着層17は、エポキシ系の非弾性接着剤からなる。当該非弾性接着剤(接着層17)のガラス−ゴム転移領域は、40〜70℃である。つまり、30℃よりも高温側にある。接着層17の厚さは、約100μmである。
本実施形態の曲げセンサおよび変形測定方法は、第一実施形態の曲げセンサおよび変形測定方法と共通する部分については、第一実施形態と同様の作用効果を奏する。また、本実施形態の曲げセンサ1によると、基材10、歪み調整板16、および接着層17は、全て、ガラス−ゴム転移領域が曲げセンサ1の使用温度+10℃よりも高温側にある材料から構成されている。このため、曲げセンサ1を使用する温度範囲において、基材10、歪み調整板16、および接着層17は、いずれもガラス状態になっている。また、曲げセンサ1を使用する温度範囲において、ガラス状態からゴム状態への状態変化もない。よって基材10等において、曲げ変形が緩和されるおそれは小さい。つまり、曲げ変形が、正確にセンサ本体11に伝達される。その結果、曲げ変形の検出精度が低下しにくい。また、基材10等が、全てガラス状態の硬い材料で構成されている。このため、曲げ変形が、速やかにセンサ本体11に伝達される。よって、応答遅れが生じにくい。
<その他>
以上、本発明の曲げセンサの実施形態について説明した。しかしながら、本発明の曲げセンサの実施形態は上記形態に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。
例えば、センサ本体にクラックを形成するために、上記実施形態では、曲げセンサを製造する過程において、センサ塗料の塗膜を、検出する曲げ変形とは反対の方向に湾曲させながら硬化させた。この場合、湾曲させる程度は、形成されるクラックの密度や大きさ、入力される歪み量等を考慮して、適宜調整すればよい。また、除荷工程の後に、さらに曲げ工程を追加してもよい。すなわち、曲げ工程において、硬化後に平面状態に戻したセンサ本体に対して、さらに曲げ−戻しを繰り返し行う。あるいは、当該センサ本体を、曲げ硬化工程の曲げ方向とは反対方向に湾曲させる。こうすることにより、クラックを増加させて、マトリックス樹脂中に分散させることができる。
また、センサ本体にクラックを形成する方法は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、予め基材の表面に凹凸を形成しておき、当該凹凸表面に、センサ塗料を印刷して硬化させてもよい。こうすると、塗膜の硬化時に凹凸の角部分に応力が集中することにより、クラックが形成されやすくなる。硬化後、さらにセンサ本体を曲げ加工することが望ましい。こうすることにより、クラックを増加させて、マトリックス樹脂中に分散させることができる。また、形成する凹凸の分布等を工夫することにより、クラックの分布等を調整することができる。
また、上記実施形態では、クラックを形成すると共に、センサ本体に歪みを入力した。しかし、予歪みは必ずしも入力されていなくてもよい。
カバーフィルムとしては、アクリルゴム等の合成ゴムや天然ゴムを用いることができる。基材としては、ポリイミドの他、絶縁性の高いポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の樹脂フィルムを用いることができる。また、基材の厚さを調整することにより、曲げセンサの感度を調整することができる。例えば、基材の厚さを大きくすると、曲げ変形時におけるセンサ本体の歪み量が大きくなる。これにより、曲げセンサの感度を向上させることができる。
電極の数や配置形態は、上記実施形態に限定されるものではない。電極の数を増加させることにより、測定区間をより細かく区画することができる。こうすることにより、測定対象物の形状を、より細かく分割して測定することができる。その結果、測定対象物全体の変形形状を、より正確に算出することができる。
また、電極の形状も、上記実施形態に限定されるものではない。クラック形成時に電極の端部への応力集中を抑制するという観点から、センサ本体の延在方向の端線が曲線部を有する形状に、電極を形成することが望ましい。図23に、電極の表面形状例を示す。図23中、左右方向がセンサ本体の延在方向に相当する。図23に示すように、好適な電極の表面形状として、(a)真円状、(b)楕円状、(c)長円状(一対の対向する半円を直線で連結した形状)等が挙げられる。また、電極を印刷により形成する場合には、スクリーン印刷の他、インクジェット印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、パッド印刷、リソグラフィー等を用いることができる。
また、上記第二実施形態の曲げセンサによると、一枚の基材の表面に、複数のセンサ本体を配置すると共に、センサ本体の全てを一枚のカバーコートで被覆した。しかし、センサ本体ごとに、基材およびカバーフィルムを独立させてもよい。すなわち、上記第一実施形態の曲げセンサを複数連結させて、測定対象物に取り付けてもよい。測定対象物には、カバーフィルム側、基材側のいずれを接触させてもよい。また、曲げセンサを直線状に配置しても、湾曲させて配置してもよい。
センサ本体を構成するマトリックス樹脂、導電性フィラーについても、上記実施形態に限定されるものではない。マトリックス樹脂としては、熱硬化樹脂または熱可塑性樹脂を用いればよい。マトリックス樹脂は、後述する導電性フィラーとの相溶性等を考慮して、選択されることが望ましい。熱硬化樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン、ポリイミド等が挙げられる。また、熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、ポリビニルアセテート(PVAc)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等が挙げられる。
導電性フィラーは、導電性を有する粒子であれば、特に限定されるものではない。例えば、炭素材料、金属等の微粒子が挙げられる。これらのうち、一種を単独で、あるいは二種以上を併せて用いることができる。導電性フィラーのアスペクト比(短辺に対する長辺の比)は、1以上2以下の範囲が望ましい。アスペクト比が2より大きくなると、導電性フィラー同士の接触により、一次元的な導電パスが形成され易くなる。このため、変形時に所望の電気抵抗の変化が得にくくなる。例えば、マトリックス樹脂中における導電性フィラーの充填状態を、より最密充填状態に近づけるという観点から、導電性フィラーとして、球状(真球あるいは極めて真球に近い形状)の粒子を採用するとよい。
センサ本体には、マトリックス樹脂、導電性フィラーに加え、各種添加剤が配合されていてもよい。添加剤としては、例えば、老化防止剤、可塑剤、軟化剤、着色剤等が挙げられる。センサ本体は、例えば、マトリックス樹脂、導電性フィラー等を含むセンサ塗料を、基材表面に塗布した後、乾燥、硬化させて製造することができる。また、加熱溶融した熱可塑性樹脂に導電性フィラーを加えて混合した後、基材の表面に成形して製造してもよい。センサ塗料の塗布方法は、既に公知の種々の方法を採用することができる。例えば、インクジェット印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、パッド印刷、リソグラフィー等の印刷法の他、ディップ法、スプレー法、バーコート法等が挙げられる。
上記第四実施形態の曲げセンサによると、基材の前面に、接着層を介して歪み調整板を配置した。歪み調整板の材質は、基材の材質、曲げセンサの使用温度とガラス−ゴム転移領域との関係を考慮して、適宜決定すればよい。また、歪み調整板の厚さを大きくすると、曲げ変形による歪みを拡大することができる。よって、想定される曲げ変形に応じて、歪み調整板の厚さを調整し、センサ応答を最適化すればよい。また、接着層を構成する接着剤についても、基材および歪み調整板の材質、曲げセンサの使用温度とガラス−ゴム転移領域との関係を考慮して、適宜決定すればよい。
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
<曲げセンサの応答性>
[実験方法]
電極の配置形態以外は、上記第一実施形態と同様の曲げセンサを作製した。当該曲げセンサ(以下適宜、「実施例のセンサ」と称す)について衝突実験を行い、応答性を評価した。図12に、衝突実験装置の模式図を示す。図12に示すように、衝突実験装置5は、ストライカー50と、弾性体51と、絶縁シート52と、を備えている。弾性体51は、ウレタンフォーム製であって、直方体を呈している。絶縁シート52は、ポリエチレン製であって、弾性体51の上面に配置されている。曲げセンサ6は、基材60と、センサ本体61と、一対の電極63a、63bと、カバーフィルム64と、を備えている。基材60、センサ本体61、およびカバーフィルム64の構成は、上記第一実施形態と同じである。電極63aはセンサ本体61の左端に、電極63bはセンサ本体61の右端に、各々配置されている。電極63a、63bは、センサ本体61と基材60との間に、介装されている。曲げセンサ6は、基材60が上側になるように、絶縁シート52の上面に配置されている。曲げセンサ6に対して、半円筒状のストライカー50を上方から衝突させて、衝突実験を行った。
[実験結果]
図13に、実施例のセンサの応答の経時変化を示す(ストライカー速度:8.0m/s)。図13の縦軸は、次式(1)により算出される抵抗増加率である。
抵抗増加率(−)=ΔR/R0=(R−R0)/R0・・・(1)
[R0:衝突前の初期電気抵抗値、R:衝突後の電気抵抗値]
なお、図13には、比較のため、従来の曲げセンサ(以下、「比較例のセンサ」と称す)の結果についても併せて示す。比較例のセンサは、エポキシ樹脂にカーボンビーズが充填されてなるセンサ本体を備えている。センサ本体には、クラックは形成されていない。
図13に示すように、実施例のセンサによると、衝突直後に電気抵抗が急上昇して、衝突から約6m秒後には、応答が完了していることがわかる。これに対して、比較例のセンサによると、電気抵抗の上昇が緩慢で、衝突から約6m秒後には、まだ応答は完了していない。また、実施例のセンサと比較して、抵抗増加率も小さい。
また、図14に、ストライカー速度を変化させた時の、実施例のセンサの応答の経時変化を示す。ストライカー速度は、8.0m/s、4.0m/s、2.0m/sの三種類とした。図14においては、速度=8.0m/sのデータを太線で、速度=4.0m/sのデータを中太線で、速度=2.0m/sのデータを細線で、それぞれ示す。各速度ごとに、4回ずつ測定を行った。図14中、静的応答とは、ストライカー50で、曲げセンサ6を上方からゆっくり押圧し変形を保持した時に得られる、電気抵抗の最大値を意味する。
図14に示すように、実施例のセンサによると、ストライカー速度、すなわち歪みの入力速度によらず、ストライカーの形状に対応した一定の電気抵抗値を示した。以上より、本発明の曲げセンサによると、歪みの入力速度に対する依存性が小さいことが確認された。
<センサ応答の線形性>
[実験方法]
上記実施例のセンサについて、予めセンサ本体に入力する歪み量(以下、「予歪み量」と称す)を変化させて、曲げ実験を行った。予歪み量は、曲げ硬化工程で使用する金型内周面の曲率を変化させて調整した。ここで、予歪み量εpreは、次式(2)により算出される。
εpre(%)=Ls/Lc×100・・・(2)
[Ls:曲げ硬化時の、センサ本体の最表面の長手方向長さ、Lc:基材の厚さ方向中心面の長手方向長さ(定数)]
曲げ実験は、センサ本体の予歪み量が異なる複数の試験片(センサ本体+基材)を、曲げ部材に貼着して、予歪み入力時に湾曲した方向とは反対方向に湾曲させて行った。試験片の予歪み量は、0%、0.5%、0.7%、0.9%の四種類とした。また、基材の厚さは0.5mmとした。曲げ変形時に入力される歪み量εbendは、次式(3)により算出される。
εbend(%)=(L−L0)/L0×100=t/r・・・(3)
[L:曲げ変形時の、センサ本体の最表面の長手方向長さ、L0:初期状態(曲げ変形前)の、センサ本体の最表面の長手方向長さ、t:試験片厚さ、r:試験片の曲率半径]
[実験結果]
図15に、各々の試験片から測定された、総歪み量に対する電気抵抗の変化を示す。総歪み量は、予歪み量に曲げ実験時の歪み量を加えた値(εpre+εbend)である。図15に示すように、予歪み量が大きくなるに従って、総歪み量が大きくなる。これに伴い、電気抵抗も大きくなっている。以上より、センサ塗料の塗膜を湾曲させた状態で、加熱硬化させることより、センサ本体に所定の歪みが入力されることが確認された。
また、各々の試験片について、曲げ変形時の曲率(1/r)に対する、抵抗増加率(ΔR/R0;R0は曲げ変形前の初期電気抵抗値、Rは曲げ変形時の電気抵抗値)をプロットした。そして、曲率と抵抗増加率との関係を、一次式で近似して、寄与率(相関係数の2乗)を求めた。図16に、予歪み量に対する寄与率を示す。
図16に示すように、予歪み量が0.5%、0.7%、0.9%の場合、寄与率は極めて1に近い値になった。具体的には、予歪み量が0%の場合の寄与率は0.8523であったのに対して、予歪み量が0.5%の場合の寄与率は0.9975、予歪み量が0.7%の場合の寄与率は0.998、予歪み量が0.9%の場合の寄与率は0.99845であった。すなわち、予歪み量が0.5%、0.7%、0.9%の場合、曲率と電気抵抗との関係は、略線形であるといえる。このように、センサ本体に予め所定の歪みを入力しておくことにより、曲げセンサの検出領域を、曲げ変形とセンサ応答との関係が線形な領域にシフトさせることができる。
<歪み調整板による歪み拡大効果>
カバーフィルムが無い以外は、上記第四実施形態と同じ構成の曲げセンサを作製し、歪み調整板の厚さを変えて、曲げ変形に対する歪み量を測定した。曲げセンサにおけるセンサ本体の厚さは約80μm、基材の厚さは約120μm、接着層の厚さは約100μmである。歪み調整板の厚さは、200μm、900μmの二種類とした。図24に、曲げ変形に対する歪み量の測定結果を示す。図24には、比較のため、歪み調整板および接着層が無い曲げセンサ(基材+センサ本体)の測定結果についても併せて示す。なお、本測定においては、曲げセンサの1/2厚さの部分を曲げの中立面とした。したがって、図24の縦軸の歪み量は、次式(4)により算出される。
歪み量=(L−L0)/L0={(r+t/2)θ−rθ}/rθ=t/2r・・・(4)
[L:曲げ変形時の、曲げセンサ最表面の長手方向長さ、L0:初期状態(曲げ変形前)の、曲げセンサ最表面の長手方向長さ、t:曲げセンサの厚さ、r:曲率中心から曲げの中心軸までの曲率半径]
図24に示すように、歪み調整板を配置した曲げセンサについては、歪み調整板が無い曲げセンサに対して、歪み量が大きくなった。また、歪み調整板が厚いほど、歪み量がより大きくなった。このように、歪み調整板を配置すると、曲げ変形による歪みを拡大することができる。また、歪み調整板を厚くすることにより、歪み量をより大きくすることができる。
<接着層の種類によるセンサ応答への影響>
接着層を変更して、上記第四実施形態と同じ構成の曲げセンサを作製し、応答性を評価した。応答性の評価は、約20℃で行った。接着層には、ガラス−ゴム転移領域が異なる二種類の接着剤を用いた。図25に、使用した接着剤のガラス−ゴム転移領域を示す。
図25に示すように、接着剤Aのガラス−ゴム転移領域は、40〜70℃であり、30℃(使用温度+10℃)よりも高温側にある。一方、接着剤Bのガラス−ゴム転移領域は、−60〜40℃であり、使用温度の20℃±10℃の範囲を含んでいる。ちなみに、基材および歪み調整板のガラス−ゴム転移領域は、30℃よりも高温側にある。
これら二種類の接着剤を各々用いた二つの曲げセンサについて、上記同様の衝突実験を行い、応答性を評価した(前出図12参照)。以下、二つの曲げセンサを、使用した接着剤の種類により、曲げセンサA、曲げセンサB、と称す。曲げセンサA、Bについては、いずれも歪み調整板が上側になるように、絶縁シートの上面に配置した。ストライカー速度は、8.0m/sとした。図26に、センサ応答の経時変化を示す。図26の縦軸は、前出式(1)により算出される抵抗増加率である。
図26に示すように、曲げセンサAについては、ストライカーの衝突により曲げ変形し始めると、速やかに電気抵抗が増加した。そして、曲げ変形が完了すると電気抵抗の増加も停止して、その後は、曲げ変形完了時の電気抵抗の値が保持されていた。一方、曲げセンサBについては、曲げ変形開始と共に、ゆるやかに電気抵抗が増加した。そして、曲げ変形が完了しても電気抵抗の増加が続き、曲げ変形が完了してから約4ミリ秒後に、想定された電気抵抗値に達した。曲げセンサBは、ガラス−ゴム転移領域が使用温度範囲と重なる接着剤Bを用いた。このため、歪み調整板を介して伝達された曲げ変形が、接着層で緩和されたと考えられる。したがって、曲げセンサBにおいては、曲げ変形が速やかにセンサ本体に伝達されずに、応答遅れが生じた。