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JP5513922B2 - 圧粉磁心用鉄基軟磁性粉末およびその圧粉磁心用鉄基軟磁性粉末の製造方法並びに圧粉磁心 - Google Patents

圧粉磁心用鉄基軟磁性粉末およびその圧粉磁心用鉄基軟磁性粉末の製造方法並びに圧粉磁心 Download PDF

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JP5513922B2 JP2010031118A JP2010031118A JP5513922B2 JP 5513922 B2 JP5513922 B2 JP 5513922B2 JP 2010031118 A JP2010031118 A JP 2010031118A JP 2010031118 A JP2010031118 A JP 2010031118A JP 5513922 B2 JP5513922 B2 JP 5513922B2
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Description

本発明は、鉄粉や鉄基合金粉末等の鉄基軟磁性粉末の表面に耐熱性の高い絶縁被膜を形成した圧粉磁心用鉄基軟磁性粉末と、その圧粉磁心用鉄基軟磁性粉末の製造方法、並びにその圧粉磁心用鉄基軟磁性粉末を用いて作製された圧粉磁心に関するものである。
従来から交流で使用されるモータ、トランスなどの電磁気部品の磁心には、電磁鋼板や電気鉄板を積層した磁心が用いられていたが、近年は、これら電磁鋼板や電気鉄板を積層した磁心に比べ、より磁気特性に優れ、三次元形状の自由度も高いことから、表面に絶縁処理した純鉄粉や軟磁性鉄基合金粉末等の圧粉磁心用鉄基軟磁性粉末(以下、純鉄粉と軟磁性鉄基合金粉末等をまとめて圧粉磁心用鉄基軟磁性粉末ともいう)を、圧縮成形した圧粉磁心が用いられるようになってきた。
表面に絶縁処理した純鉄粉や軟磁性鉄基合金粉末等の圧粉磁心用鉄基軟磁性粉末、或いは、その圧粉磁心用鉄基軟磁性粉末を圧縮成形して作製した圧粉磁心としては、鉄基軟磁性粉末の表面をリン酸等から得られるガラス状絶縁層で被覆した提案が特許文献1としてあり、古くから知られている。また、その鉄基軟磁性粉末とガラス状絶縁層の密着性を向上させるために、鉄基軟磁性粉末の表面を大気中で酸化してその表面に酸化被膜を形成した技術が特許文献2として提案されている。しかしながら、これらガラス状絶縁層等の無機系絶縁被膜は、熱的安定性に優れているはずであるが、高温での熱処理(焼鈍)を行うと絶縁性が低下してしまうという問題があった。
このような観点から、耐熱性の高いシリコーン樹脂を絶縁被膜として採用する技術が開発されている。特許文献3記載の技術では、特定のメチル−フェニルシリコーン樹脂を絶縁材料として用いている。しかし、この技術では、熱的安定性を確保するために、鉄粉に対して1質量%以上の樹脂を用いており、高密度成形という観点からはまだ改善の余地がある技術である。また、特許文献4や特許文献5として、耐熱性を確保するために、シリコーン樹脂にガラス粉末や顔料を加える提案もなされている。しかし、これらの技術は、ガラス粉末や顔料を添加することで高密度化が阻害されてしまう点で問題があった。
そこで、本発明者らが提案したのが、特許文献6に記載の技術である。この技術は、鉄基軟磁性粉末の表面に、内側から順に、リン酸系化成被膜、シリコーン樹脂被膜を形成し、そのリン酸系化成被膜に、Co、Na、S、SiおよびWよりなる群から選択される1種以上の元素を含ませた圧粉磁心用鉄基軟磁性粉末等に関する技術であり、この成分組成のリン酸系化成被膜と、シリコーン樹脂被膜を複合させることで、より高度な耐熱性を有する電気絶縁膜を形成することに成功した。しかしながら、リン酸系化成被膜に含有させる元素のうち、CoやWなどは入手困難な希少金属であって、コストが高いことが問題点であり、原料を容易に入手でき、また、コストの上昇なしにこの技術と同等の効果が得られる汎用技術が開発されることが待ち望まれていた。
特開平6−260319号公報 特開平8−167519号公報 特開2002−83709号公報 特開2003−3003711号公報 特開2004−143554号公報 特許第4044591号公報
本発明は、上記従来の問題を解決せんとしてなされたもので、入手困難で、且つ高価なCoやWなどの希少金属を用いることがなくても、且つ、高密度に成形するために絶縁材料の量を低減しても、鉄粉粒子間を効果的に絶縁することができ、機械的強度にも優れ、更に、高温での熱処理を行っても電気絶縁性を維持できるような熱的安定性に優れた圧粉磁心用鉄基軟磁性粉末、およびその圧粉磁心用鉄基軟磁性粉末の製造方法、並びにその圧粉磁心用鉄基軟磁性粉末を用いて作製した圧粉磁心を提供することを課題とするものである。
請求項1記載の発明は、鉄基軟磁性粉末の表面に、内側から順に、リン酸系化成被膜、シリコーン樹脂被膜が形成されており、前記リン酸系化成被膜には、CoおよびWが含有されておらず、P、B、MgおよびAlが含有されており、前記リン酸系化成被膜に含有される各元素は、前記リン酸系化成被膜が表面に形成された鉄基軟磁性粉末100質量部に対して、P:0.010〜0.100質量部、B:0.001〜0.010質量部、Mg:0.001〜0.020質量部、Al:0.005〜0.050質量部が夫々含有されていることを特徴とする圧粉磁心用鉄基軟磁性粉末である。
請求項記載の発明は、請求項記載の圧粉磁心用鉄基軟磁性粉末の製造方法であって、B、MgおよびAlを含有するリン酸系化成処理溶液と鉄基軟磁性粉末とを混合した後、水および/または有機溶媒を蒸発させてリン酸系化成被膜を前記鉄基軟磁性粉末の表面に形成する工程と、シリコーン樹脂を有機溶媒に溶解し、このシリコーン樹脂溶液と、前記リン酸系化成被膜が表面に形成された鉄基軟磁性粉末とを混合した後、溶媒を蒸発させてシリコーン樹脂被膜を前記リン酸系化成被膜の上に形成する工程とを含むことを特徴とする圧粉磁心用鉄基軟磁性粉末の製造方法である。
請求項記載の発明は、請求項1に記載の圧粉磁心用鉄基軟磁性粉末を圧縮成形して作製されたことを特徴とする圧粉磁心である。
本発明によると、入手困難で、且つ高価な希少金属を用いることなくても、B、MgおよびAlというごく一般的な元素を添加するだけで、リン酸系化成被膜の耐熱性を改善することができ、また、そのリン酸系化成被膜とシリコーン樹脂被膜とを複合させることで、より高度な耐熱性を有する電気絶縁層を形成することができる。
また、P、B、MgおよびAlを含有するリン酸系化成被膜を鉄基軟磁性粉末素材の表面に形成することにより、高い耐熱性、電気絶縁性を確保するこができ、更には、圧粉磁心用鉄基軟磁性粉末を用いて作製される圧粉磁心の高密度化を図ることもできる。
よって、本発明の圧粉磁心用鉄基軟磁性粉末を用いて製造した圧粉磁心は、高磁束密度、低鉄損、高機械的強度という交流で使用されるモータ、トランスなどの電磁気部品の磁心としての要求特性を全て満足する高性能なものとなる。
本発明者らは、リン酸のみからなる被膜や、特許文献1記載のリン酸等から得られるガラス状絶縁層でなる被膜を、鉄基軟磁性粉末基材の表面に形成した後、その鉄基軟磁性粉末を圧粉成形により圧粉成形体(圧粉磁心)とし、温度を変化させてその圧粉成形体の比抵抗(μΩ・m)を測定した。その結果、いずれの例も、450℃(窒素雰囲気下で1時間)での処理により、その比抵抗は、10μΩ・m程度にまで低下してしまことが確認された。
本発明者らが、この比抵抗の低下原因を検討したところ、リン酸系の被膜中に含有されるリン酸由来の酸素原子が、高温での熱処理中に拡散してFeと結合し、半導体として機能するようなFeの酸化物を形成するため、比抵抗を低下させていることが推測された。その理由から、このような半導体的酸化物の形成を何らかの方法で阻害することが、リン酸系被膜の熱的安定性の改善につながると考え、検討した結果、発明に至ったのが特許文献6に記載の発明である。
しかしながら、この特許文献6に記載の発明では、リン酸系化成被膜に含有させる元素のうち、CoやWなどは入手困難な希少金属であって、また、コストが高くなることが問題であり、これら希少金属に代えて、一般的な元素を添加しても、同等の効果を得ることができないかと考え、更に、鋭意、検討を進めた。その結果、リン酸系化成被膜に、これら希少金属に代えて、P、B、MgおよびAlを含有することでも、同等の効果を得られることを見出し、本発明の完成に至った。
以下、本発明を実施形態に基づいて更に詳細に説明する。
本発明の圧粉磁心用鉄基軟磁性粉末は、鉄基軟磁性粉末の表面に、内側から順に、リン酸系化成被膜、シリコーン樹脂被膜が、絶縁被膜として形成されてなるものである。これら絶縁被膜のうち、内側のリン酸系化成被膜は、電気絶縁性を確保するために、また、最表面のシリコーン樹脂被膜は、電気絶縁性の熱的安定性を向上させるためと機械的強度発現のために形成する。この圧粉磁心用鉄基軟磁性粉末は、必要に応じて圧縮成形時の摩擦を低減するための潤滑剤が配合されて圧縮成形され、主に交流で使用されるモータ、トランスなどの電磁気部品の磁心等として使用される。
鉄基軟磁性粉末は、強磁性体の金属粉末であり、具体例としては、純鉄粉、鉄基合金粉末(Fe−Al合金、Fe−Si合金、センダスト、パーマロイ等)、アモルファス粉末等を挙げることができる。このような鉄基軟磁性粉末は、例えば、アトマイズ法によって、微粒子とした後に還元し、その後、粉砕すること等によって製造することができる。このような製造法では、ふるい分け法で評価される粒度分布で、累積粒度分布が50%になる粒径が20〜250μm程度の鉄基軟磁性粉末が得られるが、本発明においては、平均粒径が50〜150μm程度の鉄基軟磁性粉末を用いることが好ましい。
本発明においては、圧粉磁心用鉄基軟磁性粉末の製造にあたり、まず、鉄基軟磁性粉末の表面にリン酸系化成被膜を形成する。このリン酸系化成被膜は、オルトリン酸:HPO(単にリン酸ともいう)などの化成処理によって生成するガラス状の被膜である。但し、本発明では、このリン酸系化成被膜が、P、B、MgおよびAlを含有するものでなくてはならない。リン酸系化成被膜中の酸素原子が高温での熱処理中にFeと半導体を形成するのを阻害して、熱処理中の比抵抗の低下を抑制するために、これらの元素を併せて含有させることが特に有効であることが見出されたからである。
これらの元素の添加によって、高温熱処理中の比抵抗の低下を抑制するためには、リン酸系化成被膜が表面に形成された鉄基軟磁性粉末100質量部に対して、P:0.010〜0.100質量部、B:0.001〜0.010質量部、Mg:0.001〜0.020質量部、Al:0.005〜0.050質量部が夫々含有されていることが好ましい。
これらの元素のうち、Pは酸素を介して鉄基軟磁性粉末の表面と化学結合を形成する。従って、Pの含有量が少なすぎると、化学結合量が不十分となり強固な被膜を形成できなくなるおそれがあり好ましくない。一方、Pの含有量が多すぎると、化学結合に関与しないPが未反応のまま被膜に残留し、却って結合強度を低下させるおそれがあり好ましくない。従って、Pの含有量を、強固な被膜を形成する上で問題のない、0.010〜0.100質量部とした。
また、B、MgおよびAlは、高温熱処理中(高温焼鈍中)にFeと酸素が半導体を形成するのを阻害して、比抵抗が低下するのを抑制する作用を有する。特にこれらの元素は、複合添加することによってその作用が顕著に現れるため、Pと併せて必ず複合添加する必要がある。これらの元素の含有量が少なすぎると、比抵抗の低下を抑制する作用を発揮できなくなる。一方、これらの元素の含有量が多すぎると、複合添加時に相対的なバランスを維持できなくなり、また、酸素を介したPと鉄基軟磁性粉末の表面との化学結合を阻害するおそれを生じる。従って、Bの含有量は0.001〜0.010質量部、Mgの含有量は0.001〜0.020質量部、Alの含有量は0.005〜0.050質量部とした。
このリン酸系化成被膜の膜厚は1〜250nmが好ましい。膜厚が1nmより薄いと絶縁効果が発現し難く、250nmを超えると絶縁効果が飽和する上、成形される圧粉磁心の高密度化を阻害するためである。また、その付着量は、0.01〜0.8質量部程度が好ましい。
リン酸系化成被膜は、水性溶媒に、P、B、MgおよびAlを含有する化合物(元素単体でも可)等を溶解させて得たリン酸系化成処理溶液(処理液)を鉄基軟磁性粉末と混合し、乾燥させることで形成できる。具体的には、水性溶媒にオルトリン酸(HPO)などを溶解して、固形分0.1〜10質量部程度の処理液とし、鉄基軟磁性粉末:100質量部に対して、その処理液を1〜10質量部添加して、ミキサー、ボールミル、ニーダー、V型混合機、造粒機等で混合し、大気中、減圧下、或いは真空下で、150〜250℃で乾燥すれば形成できる。
P、B、MgおよびAlを含有する化合物としては、オルトリン酸(HPO):P源、ホウ酸(HBO):B源、酸化マグネシウム(MgO):Mg源、Al(HPO:PおよびAl源、等を挙げることができる。尚、B、MgおよびAlは、化合物とせずそのまま添加しても良い。また、水性溶媒としては、水、アルコールやケトン等の親水性有機溶媒、或いはこれらの混合物等を挙げることができる。また、この水性溶媒中には界面活性剤を添加しても良い。
次に、リン酸系化成被膜の上にシリコーン樹脂被膜を形成する。このシリコーン樹脂被膜を構成するシリコーン樹脂は、その架橋・硬化反応終了時(圧粉磁心の成形時)に、粉末同士が強固に結合するので、成形される圧粉磁心の機械的強度が増大する。また、耐熱性に優れたSi−O結合を形成して熱的安定性に優れた絶縁被膜となる。
このシリコーン樹脂としては、硬化が遅くなると粉末がべとついて被膜形成後のハンドリング性が悪くなる二官能性のD単位(RSiX:Xは加水分解性基)よりは、三官能性のT単位(RSiX:Xは加水分解性基)を多く含有する方が好ましい。また、四官能性のQ単位(SiX:Xは加水分解性基)が多く含まれていると、後述する予備硬化の際に粉末同士が強固に結着してしまい、後の成形が行えなくなることがあるので好ましくない。よって、T単位が60モル%以上、好ましくは80モル%以上、最も好ましくは全てがT単位のシリコーン樹脂被膜が形成されていることが推奨される。
よって、本発明では、シリコーン樹脂としては、メチル基が50モル%以上のメチルフェニルシリコーン樹脂を用いることが好ましく、また、メチル基が70モル%以上のメチルフェニルシリコーン樹脂を用いることがより好ましく、フェニル基が全く存在しないメチルフェニルシリコーン樹脂を用いることが最も好ましい。メチル基が50モル%以上のメチルフェニルシリコーン樹脂としては、信越化学工業製のKR255、KR311を、メチル基が70モル%以上のメチルフェニルシリコーン樹脂としては、信越化学工業製のKR300を、フェニル基が全く存在しないメチルフェニルシリコーン樹脂としては、信越化学工業製のKR251、KR400、KR220L、KR242A、KR240、KR500、KC89、また、東レダウコーニング社製のSR2400を、夫々例示することができる。尚、シリコーン樹脂のメチル基とフェニル基の比率や官能性については、FT−IR等で分析することができる。
このシリコーン樹脂被膜の膜厚は1〜300nmが好ましい。より好ましい膜厚は10〜200nmである。また、その付着量は、リン酸系化成被膜が表面に形成された鉄基軟磁性粉末と、シリコーン樹脂被膜の合計を100質量部としたとき、0.01〜0.5質量部であることが好ましい。0.01質量部より少ないと、絶縁性に劣り、電気抵抗が低くなる。また、0.5質量部より多いと、圧粉磁心の高密度化ができにくくなる。
また、シリコーン樹脂被膜とリン酸系化成被膜を合わせた厚みは500nm以下であることが好ましい。合計膜厚が500nmを超えると磁束密度の低下が大きくなることがある。
リン酸系化成被膜の表面に、シリコーン樹脂被膜を形成するには、アルコール類やトルエン、キシレン等の石油系有機溶剤などにシリコーン樹脂を溶解させて、そのシリコーン樹脂と鉄基軟磁性粉末とを混合した後、有機溶媒を揮発させれば良い。このシリコーン樹脂被膜の形成条件は特に限定されるわけではないが、固形分が2〜10質量部になるように調製したシリコーン樹脂溶液を、リン酸系化成被膜が表面に形成された鉄基軟磁性粉末:100質量部に対して、0.5〜10質量部添加し、混合して乾燥することが好ましい。シリコーン樹脂溶液の添加量が0.5質量部より少ないと、混合に時間がかかりすぎたり、形成される被膜が不均一になったりするおそれがある。一方、シリコーン樹脂溶液の添加量が10質量部を超えると、乾燥に時間がかかりすぎたり、乾燥が不十分になったりするおそれがある。尚、シリコーン樹脂溶液は適宜加熱しておいても構わない。また、これらの混合には、ミキサー、ボールミル、ニーダー、V型混合機、造粒機等を用いることができる。
このシリコーン樹脂被膜形成における最後の乾燥工程においては、シリコーン樹脂被膜の形成に用いた有機溶剤が揮発する温度で、且つ、シリコーン樹脂の硬化温度未満の温度に加熱して、有機溶剤を十分に蒸発揮散させることが好ましい。具体的な乾燥温度としては、有機溶剤がアルコール類や石油系有機溶剤である場合は、60〜80℃程度が好適な温度である。また、その乾燥後には、凝集ダマを除くために、シリコーン樹脂被膜が最表面に形成された鉄基軟磁性粉末(圧粉磁心用鉄基軟磁性粉末)を、目開き300〜500μm程度の篩に通過させておくことが好ましい。
乾燥後には、シリコーン樹脂被膜を予備硬化させることが推奨される。予備硬化とは、シリコーン樹脂被膜の硬化時における軟化過程を圧粉磁心用鉄基軟磁性粉末が粉末状態のまま終了させる処理のことをいう。この予備硬化処理によって、100〜250℃程度での温間成形時に圧粉磁心用鉄基軟磁性粉末の流れ性を確保することができる。具体的な手法としては、圧粉磁心用鉄基軟磁性粉末を、そのシリコーン樹脂の硬化温度近傍で短時間加熱する方法が簡便であるが、硬化剤を用いる手法も採用することができる。尚、予備硬化処理と硬化(完全硬化)処理の違いは、予備硬化処理では、圧粉磁心用鉄基軟磁性粉末同士が完全に接着固化することなく、容易に解砕することが可能であるのに対し、圧粉磁心用鉄基軟磁性粉末の成形後に行う高温加熱硬化処理(完全硬化処理)では、シリコーン樹脂が硬化して圧粉磁心用鉄基軟磁性粉末同士が接着固化する点である。この完全硬化処理によって、圧粉磁心の成形体強度が向上する。
以上のように、シリコーン樹脂被膜を予備硬化させた後、解砕することで、流動性に優れた圧粉磁心用鉄基軟磁性粉末を得ることができ、続く工程の圧縮成形の際に、成形型へ砂のような状態で圧粉磁心用鉄基軟磁性粉末をスムーズに投入することができるようになる。予備硬化させない場合は、温間成形時等に圧粉磁心用鉄基軟磁性粉末が付着してスムーズに成形型へ投入することができなくなることがある。また、予備硬化させることで、最終的に得られる圧粉磁心の比抵抗が非常に向上する。その理由は明確ではないが、硬化の際に圧粉磁心用鉄基軟磁性粉末との密着性が上がるためではないかと考えられる。
短時間加熱法によって、予備硬化を行う場合、100〜200℃で5〜100分の加熱処理を行うと良い。また、130〜170℃で10〜30分の加熱処理を行うことがより好ましい。予備硬化後の圧粉磁心用鉄基軟磁性粉末も、目開き300〜500μm程度の篩を通過させておくことが好ましい。
本発明の圧粉磁心用鉄基軟磁性粉末には、更に潤滑剤が含有されていても良い。この潤滑剤の作用により、圧粉磁心用鉄基軟磁性粉末を圧縮成形する際の圧粉磁心用鉄基軟磁性粉末間、或いは、圧粉磁心用鉄基軟磁性粉末と成形型の内壁間の摩擦抵抗を低減することができ、成形体の型かじりの発生や成形時の発熱を抑制することができる。このような効果を有効に発揮させるためには、圧粉磁心用鉄基軟磁性粉末全量中、潤滑剤が0.2質量部以上含有されていることが好ましい。しかし、潤滑剤の含有量が多くなりすぎると、圧粉磁心の高密度化に影響を及ぼすため、その含有量は多くとも0.8質量部にとどめておくことが好ましい。尚、圧縮成形する際に、成形型の内壁面に潤滑剤を塗布した後に成形する型潤滑成形を実施する場合は、潤滑剤の含有量は0.2質量部未満であっても構わない。
尚、この潤滑剤としては、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウムなどのステアリン酸の金属塩粉末、パラフィン、ワックス、天然樹脂誘導体、合成樹脂誘導体等を挙げることができる。
この圧粉磁心用鉄基軟磁性粉末を用いて圧粉磁心を作製するにあたっては、先に説明したように、まず、圧粉磁心用鉄基軟磁性粉末を成形型に投入して圧縮成形する。この圧縮成形法は特に限定されないが、従来から公知の圧縮成形法を採用することが可能である。次に、その圧縮成形法の一例を説明する。
圧縮成形の好適な条件は、面圧で、490〜1960MPa、より好ましくは790〜1180MPaである。その中でも、特に980MPa以上の条件で圧縮成形を行うと、密度が7.50g/cmの圧縮磁心を得やすくなり、高密度で磁気特性(磁束密度)に優れた圧縮磁心を得ることが可能になるため好ましい。また、成形温度は、室温成形、温間成形(100〜250℃)のいずれであっても構わないが、型潤滑成形で温間成形を行う方が、より高強度の圧縮磁心を得ることができるため好ましい。
圧縮成形後は、圧縮磁心のヒステリシス損を低減するため、高温で熱処理(焼鈍)を行う。このときの熱処理温度は400℃以上の高温であることが好ましく、比抵抗の劣化がなければ、更に高温で熱処理することが好ましい。熱処理雰囲気は、酸素を含まなければ特に限定されないが、窒素等の不活性雰囲気下が好ましい。また、熱処理時間は、比抵抗の劣化がなければ特に限定されないが、20分以上が好ましく、30分以上がより好ましく、1時間以上が更に好ましい。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
鉄基軟磁性粉末としては、純鉄粉(神戸製鋼所製、アトメル300NH、平均粒径80〜100μm)を用いた。比較例1では、水:1000質量部、HPO:193質量部を、比較例2では、水:1000質量部、HPO:193質量部、MgO:31質量部、HBO:30質量部を、比較例3および比較例4では、水:1000質量部、NaHPO:88.5質量部、HPO:181質量部、HSO:61質量部、Co(PO:30質量部を、発明例5および発明例6では、水:1000質量部、HPO:193質量部、MgO:31質量部、HBO:30質量部、Al(HPO:323質量部を、夫々原液とし、10倍に希釈した処理液を、前記純鉄粉100質量部に対して5質量部添加し、V型混合機を用いて30分以上混合した後、200℃の大気中で30分乾燥し、目開き300μmのふるいに通した。
次に、フェニル基が存在しないメチルフェニルシリコーン樹脂をトルエンに溶解させて、固形分濃度が5%(比較例1〜3、発明例5)或いは10%(比較例4、発明例6)の樹脂溶液を作製し、それら樹脂溶液を純鉄粉に対して樹脂固形分が、0.1%(比較例1〜3、発明例5)或いは0.2%(比較例4、発明例6)となるように添加混合し、200℃の大気中で30分乾燥した後、150℃で30分の予備硬化処理を行った。
作製した粉末を130℃に加熱した後、同じく130℃に加熱した金型を用い、その金型の表面にステアリン酸亜鉛をアルコールに分散させて塗布し、面圧1176MPaで圧粉成形を行った。成形体の寸法は、31.75mm×12.7mm×約5mmである。その後、窒素雰囲気下で、全ての比較例、発明例共に、550℃と600℃の2種類の条件で、30分の加熱を行った。
得られた成形体の密度、抗折強度(3点曲げ試験:日本粉末冶金工業会のJPMA M 09−1992に準拠)、並びに比抵抗を測定した。その測定結果を、前記成形体の製造条件の詳細と共に、表1に示す。
Figure 0005513922
比較例1は、鉄基軟磁性粉末の表面にPを含有するリン酸系化成被膜を形成したもの、比較例2は、鉄基軟磁性粉末の表面にP、B、Mgを含有するリン酸系化成被膜を形成したものである。また、比較例3および比較例4は、鉄基軟磁性粉末の表面にP、Na、S、Coを含有するリン酸系化成被膜を形成したものであり、成形体密度、抗折強度、比抵抗が優れているという結果が既に得られているが、入手困難な希少金属であるCoを添加元素として用いる必要があるものである。一方、発明例5および6は、添加元素は容易に入手できる一般的な元素のみであり、鉄基軟磁性粉末の表面にP、B、Mg、Alを含有するリン酸系化成被膜を形成したものである。
表1によると、鉄基軟磁性粉末の表面にP、B、Mg、Alを含有するリン酸系化成被膜を形成した発明例5および発明例6は、鉄基軟磁性粉末の表面にP、Na、S、Coを含有するリン酸系化成被膜を形成した比較例3および比較例4と比べて、成形体密度、抗折強度、比抵抗には何ら遜色がなく、成形体密度、抗折強度、比抵抗のバランスに優れていることが分かる。また、発明例5および発明例6は、熱処理温度を550℃とした場合は、むしろ、比較例3および比較例4よりも比抵抗が優れており、熱処理温度を600℃とした場合は、むしろ、比較例3および比較例4よりも抗折強度が優れているという測定結果を得ることができた。
尚、鉄基軟磁性粉末の表面にP、B、Mgを含有するリン酸系化成被膜を形成した場合、すなわちAlを添加元素として用いなかった比較例2では、比較例1と比べても優れた測定結果を得ることができなかった。

Claims (3)

  1. 鉄基軟磁性粉末の表面に、内側から順に、リン酸系化成被膜、シリコーン樹脂被膜が形成されており、
    前記リン酸系化成被膜には、CoおよびWが含有されておらず、P、B、MgおよびAlが含有されており、
    前記リン酸系化成被膜に含有される各元素は、前記リン酸系化成被膜が表面に形成された鉄基軟磁性粉末100質量部に対して、P:0.010〜0.100質量部、B:0.001〜0.010質量部、Mg:0.001〜0.020質量部、Al:0.005〜0.050質量部が夫々含有されていることを特徴とする圧粉磁心用鉄基軟磁性粉末。
  2. 請求項記載の圧粉磁心用鉄基軟磁性粉末の製造方法であって、
    B、MgおよびAlを含有するリン酸系化成処理溶液と鉄基軟磁性粉末とを混合した後、水および/または有機溶媒を蒸発させてリン酸系化成被膜を前記鉄基軟磁性粉末の表面に形成する工程と、
    シリコーン樹脂を有機溶媒に溶解し、このシリコーン樹脂溶液と、前記リン酸系化成被膜が表面に形成された鉄基軟磁性粉末とを混合した後、溶媒を蒸発させてシリコーン樹脂被膜を前記リン酸系化成被膜の上に形成する工程とを含むことを特徴とする圧粉磁心用鉄基軟磁性粉末の製造方法。
  3. 請求項に記載の圧粉磁心用鉄基軟磁性粉末を圧縮成形して作製されたことを特徴とする圧粉磁心。
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