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JP5427666B2 - 改質圧粉体の製造方法、および該製造方法によって得られた圧粉磁心 - Google Patents

改質圧粉体の製造方法、および該製造方法によって得られた圧粉磁心 Download PDF

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Description

本発明は、改質圧粉体の製造方法、および、この製造方法を用いて得られる圧粉磁心に関する。
電磁気部品用圧粉磁心は、製造工程においてハンドリング性が良好なことや、コイルにするための巻き線の際に破損しない十分な機械的強度を有することが重要である。これらの点を考慮して、圧粉磁心分野では、鉄粉粒子を電気絶縁物で被覆する技術が知られている。このように、電気絶縁物で鉄粉粒子を被覆することで鉄粉粒子間が電気絶縁物を介して接着されるため、これを用いて得られる圧粉磁心は機械的強度が向上する。
これまで、かかる電気絶縁物の形成材料として、耐熱性の高いシリコーン樹脂を用いる技術が開発されている。また、樹脂以外の電気絶縁物(形成材料)として、リン酸等から得られるガラス状化合物を利用する技術も古くから知られている(特許文献1)。
さらに、本出願人は、鉄基軟磁性粉末表面に、特定の元素を含むリン酸系化成皮膜と、シリコーン樹脂皮膜とをこの順で形成することで、高磁束密度、低鉄損、高機械的強度の圧粉磁心を提供することに成功し、既に特許を受けている(特許文献2)。
しかし、圧粉磁心の高性能化の要求は特許文献2の出願時に比べてさらに高まっており、従来にも増して、高機械的強度が求められるようになっている。
特許第2710152号公報 特許第4044591号公報
本発明は上記従来の問題を解決するためになされたものであり、機械的強度により一層優れた圧粉磁心用の圧粉体を提供することを課題とした。
上記課題を解決することのできた本発明の改質圧粉体の製造方法は、リン酸系化成皮膜を有する鉄基軟磁性粉末を圧縮して得られる圧粉体に、超臨界状態の水を接触させることを特徴とする。
このように、圧粉体に、超臨界状態の水を接触させることにより、圧粉体内部にまで水が浸透し、圧粉体を構成する個々の鉄基軟磁性粉末の表面が酸化されることとなる。その結果、リン酸系化成皮膜が水由来の酸素を介して鉄基軟磁性粉末表面と強固な結合を形成することになり、鉄基軟磁性粉末同士の結合力が向上し、本発明の圧粉体(圧粉磁心)の機械的強度も向上するものと推測される。
本発明の改質圧粉体の製造方法では、前記超臨界状態の水を、前記圧粉体に10分以上接触させることが好ましい実施態様である。また、前記超臨界状態の水を接触させる前に、前記圧粉体を容器内に収容して不活性ガスパージを行うことも好ましい実施態様である。さらに、前記超臨界状態の水を接触させた後に、400℃以上で熱処理することも好ましい実施態様である。特に、上記方法(超臨界状態の水接触の後に熱処理を行う方法)は、前記鉄基軟磁性粉末が、前記リン酸系化成皮膜の上にさらにシリコーン樹脂皮膜を有している場合に行うことが好ましい。
本発明には、上記の製造方法により得られることを特徴とする圧粉磁心が包含される。その際、圧粉磁心の密度は7.55g/cm3以上であることが好ましい。
本発明によれば、機械的強度に一層優れる圧粉体(圧粉磁心)を得ることができた。
本発明の改質圧粉体の製造方法は、リン酸系化成皮膜を有する鉄基軟磁性粉末(以下、これを「圧粉体用鉄粉」と言う場合がある。)を圧縮して得られる圧粉体に、超臨界または亜臨界状態の水を接触させることを特徴とする。以下、本発明の改質圧粉体の製造方法について詳述する。
(鉄基軟磁性粉末)
本発明で用いる鉄基軟磁性粉末は、強磁性体の鉄基粉末であり、具体的には、純鉄粉、鉄基合金粉末(Fe−Al合金、Fe−Si合金、センダスト、パーマロイなど)、および鉄基アモルファス粉末等が挙げられる。これらの鉄基軟磁性粉末は、例えば、アトマイズ法によって溶融鉄(または溶融鉄合金)を微粒子とした後に還元し、次いで粉砕する等によって製造できる。このような製法では、ふるい分け法で評価される粒度分布で累積粒度分布が50%になる粒径(メジアン径)が20〜250μm程度の鉄基軟磁性粉末が得られるが、本発明で用いる鉄基軟磁性粉末は、粒径(メジアン径)が50〜150μm程度であることが好ましい。
(リン酸系化成皮膜)
本発明で用いる鉄基軟磁性粉末は、リン酸系化成皮膜を有している。これにより、鉄基軟磁性粉末に電気絶縁性を付与することができる。
このリン酸系化成皮膜は、Pを含む化合物を用いて形成されるガラス状の皮膜であればその組成は特に限定されるものではないが、P以外に、さらにCo、Na、Sを含む化合物や、Csおよび/またはAlを含む化合物を用いて形成されるガラス状の皮膜であることが好ましい。本発明は、鉄基軟磁性粉末の表面に水由来の酸素を配しようとするところに特徴を有するが、かかる水由来の酸素が、後に行う熱処理(焼鈍)時にFeと半導体を形成して比抵抗を低下させるのを、これらの元素が抑制するからである。
リン酸系化成皮膜が、P以外に、上記Co等を含む化合物を用いて形成されるガラス状の皮膜である場合には、これらの元素の含有率は、圧粉体用鉄粉100質量%中の量として、Pは0.005〜1質量%、Coは0.005〜0.1質量%、Naは0.002〜0.6質量%、Sは0.001〜0.2質量%であることが好ましい。また、Csは0.002〜0.6質量%、Alは0.001〜0.1質量%であることが好ましい。CsとAlとを併用する場合も、それぞれをこの範囲内とすることが好ましい。
上記元素のうち、Pは酸素を介して鉄基軟磁性粉末表面と化学結合を形成する。従って、P量が0.005質量%未満の場合には、鉄基軟磁性粉末表面とリン酸系化成皮膜との化学結合量が不十分となり、強固な皮膜を形成しないおそれがあり好ましくない。一方、P量が1質量%を超える場合には、化学結合に関与しないPが未反応のまま残留し、かえって結合強度を低下させるおそれがあり、好ましくない。
Co、Na、S、Cs、Alは、後に行う熱処理(焼鈍)中にFeと酸素が半導体を形成するのを阻害して、比抵抗が低下するのを抑制する作用を有する。Co、NaおよびSは、複合添加されることによってその効果を最大化させる。また、CsとAlはいずれか一方でも構わないが、各元素の下限値は、Co、NaおよびSの複合添加の効果を発揮させるための最低量である。また、Co、Na、S、Cs、Alは、必要以上に添加量を上げると複合添加時に相対的なバランスを維持できなくなるだけでなく、酸素を介したPと鉄基軟磁性粉末表面との化学結合の生成を阻害するものと考えられる。
本発明のリン酸系化成皮膜には、MgやBが含まれていてもよい。これらの元素の含有率は、圧粉体用鉄粉100質量%中の量として、Mg、B共に、0.001〜0.5質量%であることが好適である。
本発明のリン酸系化成皮膜の膜厚は、1〜250nm程度が好ましい。膜厚が1nmより薄いと絶縁効果が発現しない場合がある。また250nmを超えると、絶縁効果が飽和する上、圧粉体の高密度化の点からも望ましくない。より好ましい膜厚は、10〜50nmである。
(リン酸系化成皮膜の形成方法)
本発明の製造方法で用いる圧粉体用鉄粉は、いずれの態様で製造されてもよいが、例えば、水および/または有機溶剤からなる溶媒にPを含む化合物を溶解させた溶液と、鉄基軟磁性粉末とを混合した後、必要に応じて前記溶媒を蒸発させて得ることができる。
本工程で用いる溶媒としては、水や、アルコールやケトン等の親水性有機溶剤、及びこれらの混合物が挙げられる。溶媒中には公知の界面活性剤を添加してもよい。
Pを含む化合物としては、例えばオルトリン酸(H3PO4)が挙げられる。また、リン酸系化成皮膜が上記の組成となるようにするための化合物としては、例えば、Co3(P
42(CoおよびP源)、Co3(PO42・8H2O(CoおよびP源)、Na2HP
4(PおよびNa源)、NaH2PO4(PおよびNa源)、NaH2PO4・nH2O(PおよびNa源)、Al(H2PO43(PおよびAl源)、Cs2SO4(CsおよびS源
)、H2SO4(S源)、MgO(Mg源)、H3BO3(B源)等が挙げられる。なかでも、リン酸二水素ナトリウム塩(NaH2PO4)をP源やNa源として用いると、得られる圧粉体の密度、機械的強度、比抵抗がバランス良く優れるものとなるため好ましい。
鉄基軟磁性粉末に対するPを含む化合物の添加量は、形成されるリン酸系化成皮膜の組成が上記の範囲になるものであればよい。例えば、固形分が0.01〜10質量%程度となるように調製した、Pを含む化合物(さらには、皮膜に含ませようとする元素を含む化合物)の溶解溶液を、鉄基軟磁性粉末100質量部に対し1〜10質量部程度添加して、公知のミキサー、ボールミル、ニーダー、V型混合機、造粒機等の混合機で混合することによって、形成されるリン酸系化成皮膜の組成を上記の範囲内にすることができる。
また必要に応じて、上記混合工程の後、常圧下、減圧下、または真空下で、150〜250℃で乾燥する。
乾燥後には、目開き200〜500μm程度の篩を通過させてもよい。
(シリコーン樹脂皮膜)
本発明の圧粉体用鉄粉は、前記リン酸系化成皮膜の上にさらにシリコーン樹脂皮膜を有していてもよい。これにより、シリコーン樹脂の架橋・硬化反応終了時(圧縮時)には、粉末同士が強固に結合する。また、耐熱性に優れたSi−O結合を形成して熱的安定性に優れた絶縁皮膜となる。
シリコーン樹脂皮膜は、二官能性のD単位(R2SiX2:Xは加水分解性基)よりは、三官能性のT単位(RSiX3:Xは前記と同じ)を多く持つことが好ましい。硬化が遅
いものでは粉末がべとついて、シリコーン樹脂皮膜形成後のハンドリング性が悪くなるためである。しかし、四官能性のQ単位(SiX4:Xは前記と同じ)が多く含まれている
と、予備硬化の際(後述する)に粉末同士が強固に結着してしまい、後の圧縮操作が行えなくなるため好ましくない。よって、シリコーン樹脂皮膜はT単位を60モル%以上含むことが好ましく、80モル%以上含むことがより好ましく、全てT単位であることが最も好ましい。
上記Rとしては、メチル基またはフェニル基が挙げられる。一般にフェニル基を多く持つ方が耐熱性は高いとされているが、本発明で採用するような高温の焼鈍条件では、フェニル基の存在はそれほど有効とは言えなかった。フェニル基の嵩高さが、緻密なガラス状網目構造を乱して、熱的安定性や鉄との化合物形成阻害効果を逆に低減させるのではないかと考えられる。よって、本発明のシリコーン樹脂皮膜では、メチル基が50モル%以上占めることが好ましく、70モル%以上占めることがより好ましく、フェニル基を全く持たないことが最も好ましい。
なお、シリコーン樹脂(皮膜)のメチル基とフェニル基の比率や官能性については、FT−IR等で分析可能である。
シリコーン樹脂皮膜の付着量は、リン酸系化成皮膜とシリコーン樹脂皮膜とがこの順で形成された圧粉体用鉄粉を100質量%としたとき、0.05〜0.3質量%となるように調整することが好ましい。付着量が0.05質量%未満の場合には、シリコーン樹脂皮膜が形成された圧粉体用鉄粉は絶縁性に劣り、電気抵抗が低くなる。また、0.3質量%を超える場合には、得られる圧粉体の高密度化が達成しにくい。
シリコーン樹脂皮膜の厚みとしては、1〜200nmが好ましい。より好ましい厚みは20〜150nmである。また、リン酸系化成皮膜とシリコーン樹脂皮膜との合計厚みは250nm以下とすることが好ましい。250nmを超えると、磁束密度の低下が大きくなる場合がある。
(シリコーン樹脂皮膜の形成方法)
シリコーン樹脂皮膜の形成は、例えば、シリコーン樹脂を水および/または有機溶剤に溶解させたシリコーン樹脂溶液と、リン酸系化成皮膜を有する鉄基軟磁性粉末(以下、便宜上、単に「リン酸系皮膜形成鉄粉」と称する場合がある。)とを混合し、次いで必要に応じて前記水および/または有機溶剤を蒸発させることによって行うことができる。
本工程で用いるシリコーン樹脂としては、これを用いて形成されるシリコーン樹脂皮膜の組成(特にT単位、及びR)を上記の範囲にできるものであることが好ましく、T単位が好ましくは60モル%以上(より好ましくは80モル%以上、最も好ましくは全てT単位)で、Rの50モル%以上(より好ましくは70モル%以上、最も好ましくは100モル%)がメチル基であるシリコーン樹脂が好ましい。具体的には、メチル基が50モル%以上のメチルフェニルシリコーン樹脂(例えば、信越化学工業社製のKR255、KR311等)を用いることが好ましく、メチル基が70モル%以上のメチルフェニルシリコーン樹脂(例えば、信越化学工業社製のKR300等)を用いることがより好ましく、フェニル基を全く持たないメチルシリコーン樹脂(例えば、信越化学工業社製のKR251、KR400、KR220L,KR242A、KR240、KR500、KC89等や、東レ・ダウコーニング社製のSR2400等)を用いることが最も好ましい。
本工程で用いる有機溶剤としては、アルコール類や、トルエン、キシレン等の石油系有機溶剤等が挙げられる。
リン酸系皮膜形成鉄粉に対するシリコーン樹脂の添加量は、形成されるシリコーン樹脂皮膜の付着量が上記の範囲になるものであればよい。例えば、固形分が大体2〜10質量%になるように調製したシリコーン樹脂溶液を、リン酸系皮膜形成鉄粉100質量部に対し0.5〜10質量部程度添加して行うことによって、シリコーン樹脂皮膜の付着量を上記範囲内にすることができる。添加量が0.5質量部より少ないと混合に時間がかかったり、皮膜が不均一になるおそれがある。一方、10質量部を超えると乾燥に時間がかかったり、乾燥が不充分になるおそれがある。なお、シリコーン樹脂溶液は適宜加熱しておいても構わない。
本工程でリン酸系皮膜形成鉄粉とシリコーン樹脂溶液とを混合する際に用いる混合機としては、特に限定されるものではなく、上記の混合機であってよい。
本工程では、リン酸系皮膜形成鉄粉とシリコーン樹脂溶液との混合操作の後、必要に応じて乾燥して、前記水および/または有機溶剤を蒸発させてもよい。
この乾燥工程では、用いた有機溶剤が揮発する温度で、かつ、シリコーン樹脂の硬化温度未満に加熱して、水および/または有機溶剤を充分に蒸発揮散させることが望ましい。具体的な乾燥温度としては、有機溶剤として上記のアルコール類や石油系有機溶剤を用いた場合は、60〜80℃程度が好適である。
乾燥後には、凝集ダマを除くために、目開き200〜500μm程度の篩を通過させておくことが好ましい。
乾燥後には、シリコーン樹脂皮膜が形成された圧粉体用鉄粉(以下、便宜上、単に「シリコーン樹脂皮膜形成鉄粉」と称する場合がある。)を加熱して、シリコーン樹脂皮膜を予備硬化させることが推奨される。
予備硬化とは、シリコーン樹脂皮膜の硬化時における軟化過程を粉末状態で終了させる処理である。この予備硬化処理によって、温間成形時(100〜250℃程度)にシリコーン樹脂皮膜形成鉄粉の予備硬化物の流れ性を確保することができる。具体的な手法としては、シリコーン樹脂皮膜形成鉄粉を、このシリコーン樹脂の硬化温度近傍で短時間加熱する方法が簡便であるが、薬剤(硬化剤)を用いる手法も利用可能である。予備硬化と、硬化(予備ではない完全硬化)処理との違いは、予備硬化処理では、粉末同士が完全に接着固化することなく、容易に解砕が可能であるのに対し、粉末の圧縮操作後に行う高温加熱硬化処理では、樹脂が硬化して鉄粉同士が接着固化する点である。完全硬化処理によって圧粉体強度が向上する。
上記したように、シリコーン樹脂皮膜形成鉄粉を予備硬化させた後、解砕することで、流動性に優れた圧粉体用鉄粉が得られ、圧縮操作の際に成形型へ、砂のようにさらさらと投入することができるようになる。予備硬化させないと、例えば温間成形の際に鉄粉同士が付着して、成型型への短時間での投入が困難となることがある。実操業上、ハンドリング性の向上は非常に有意義である。また、予備硬化させることによって、得られる圧粉体の比抵抗が非常に向上することが見出されている。この理由は明確ではないが、硬化の際の鉄基軟磁性粉末との密着性が上がるためではないかと考えられる。
短時間加熱法によって予備硬化を行う場合、100〜200℃で5〜100分の加熱処理を行うとよい。130〜170℃で10〜40分の加熱処理がより好ましい。予備硬化後も、篩を通過させておくことが好ましい。
(潤滑剤)
本発明の圧粉体用鉄粉は、さらに潤滑剤を含有してもよい。この潤滑剤の作用により、圧粉体用鉄粉を圧縮成形する際の圧粉体用鉄粉間、あるいは圧粉体用鉄粉と成形型内壁間との摩擦抵抗を低減でき、成形体の型かじりや成形時の発熱を防止することができる。このような効果を有効に発揮させるためには、潤滑剤が圧粉体用鉄粉全量中、0.2質量%以上含有されていることが好ましい。しかし、潤滑剤量が多くなると、圧粉体の高密度化に反するため、0.8質量%以下にとどめることが好ましい。
圧粉体用鉄粉に潤滑剤を含有させる方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、圧粉体用鉄粉に潤滑剤を添加して行う方法や、圧粉体用鉄粉を圧縮成形する際に、成形型内壁面に予め潤滑剤を塗布した後、成形する方法(型潤滑成形)が挙げられる。なお、型潤滑成形の場合には、0.2質量%より少ない潤滑剤量でも構わない。
潤滑剤としては、従来から公知のものを使用すればよく、具体的には、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウム等のステアリン酸の金属塩粉末、およびパラフィン、ワックス、天然または合成樹脂誘導体等が挙げられる。
(圧縮成形)
本発明の改質圧粉体の製造方法は、上記圧粉体用鉄粉(リン酸系皮膜形成鉄粉、あるいはシリコーン樹脂皮膜形成鉄粉)を圧縮成形して圧粉体を得る工程を含むが、圧縮成形法は特に限定されず、従来公知の方法が採用可能である。
圧縮成形の好適条件は、面圧で、490MPa〜1960MPa、より好ましくは790MPa〜1180MPaである。特に、980MPa以上の条件で圧縮成形を行うと、密度が7.55g/cm3以上である圧粉体を得やすく、高強度で磁気特性(磁束密度)の良好な圧粉体が得られるため好ましい。成形温度は、室温成形、温間成形(100〜250℃)いずれも可能である。型潤滑成形で温間成形を行う方が、より高強度の圧粉体が得られるため、好ましい。強度の目安としては、後述する実施例における測定方法で、120MPa以上が好ましい。
(超臨界または亜臨界状態の水による接触処理)
本発明の改質圧粉体の製造方法は、超臨界または亜臨界状態の水を圧粉体に接触させる工程を含む。圧粉体を超臨界または亜臨界状態の水と接触させて処理することにより、圧粉体内部まで水が浸透することになり、ひいては、圧粉体を構成する個々の鉄基軟磁性粉末の表面を酸化させることとなる。その結果、鉄基軟磁性粉末を被覆するリン酸系化成皮膜が、この水由来の酸素を介して鉄基軟磁性粉末表面と強固な結合を形成することとなる。
超臨界または亜臨界状態の水を圧粉体と接触させる方法については、特に限定されるものではなく、例えば、超臨界または亜臨界状態の水で飽和した環境下に圧粉体を曝すことによって行えばよい。具体的には、耐圧容器内に圧粉体を入れ密封した後、加熱した水を耐圧容器内へ所定の圧力となるまで導入する方法等が挙げられる。なお、水の超臨界状態は、温度374℃以上、圧力(ゲージ圧)22MPa以上で到達することとなる。
超臨界(温度374℃以上、圧力(ゲージ圧)22MPa以上)または亜臨界状態の水による接触処理時間は、10分以上が好ましく、100分以上が好ましく、200分以上がより好ましい。これにより、圧粉体内部まで十分に水を浸透させることができる。
本発明においては、超臨界または亜臨界状態の水による処理の後、圧粉体を乾燥させることが好ましい。乾燥条件は、その目的を達成することができれば特に限定されるものではなく、例えば、上記処理後に、水を排出し、容器内の温度を100〜300℃に維持しつつ、容器内に不活性ガスを30分〜2時間流通させることによって行う方法が挙げられる。
本発明では、上記超臨界または亜臨界状態の水による接触処理に先駆けて、圧粉体を容器内に収容して不活性ガスパージを行って、圧粉体の内部にある気体を不活性ガスで置換することが好ましい。圧粉体内部に空気(酸素)が残っていると、超臨界または亜臨界状態の水との接触処理を行った際に、圧粉体の表面のみが酸化され、圧粉体内部まで超臨界または亜臨界状態の水を浸透させることができない場合があるからである。
不活性ガスパージは、例えば、耐圧容器内に圧粉体を投入した後、容器内に不活性ガスを封入して、容器内を不活性ガスで飽和させる操作を数回(2〜3回)繰り返して行う方法が挙げられる。
本発明で用いる不活性ガスとしては、例えば、窒素ガスの他、ヘリウムガスやアルゴンガス等の希ガスが挙げられる。これらの不活性ガスは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、かかる不活性ガスには、本工程の目的を阻害しない範囲において、不活性ガス以外の他のガスが含まれていてもよい。好ましくは、純度99%以上の窒素ガスである。
(熱処理)
本発明の改質圧粉体の製造方法では、超臨界または亜臨界状態の水による接触処理の後、あるいは、続く乾燥処理の後、圧粉体を高温で焼鈍してもよい。これにより、圧粉体のヒステリシス損失を低減することができる。このときの焼鈍温度は400℃以上が好ましく、比抵抗の劣化がなければ、より高温で熱処理することが望ましい。焼鈍時の雰囲気は特に限定されないが、窒素等の不活性ガス雰囲気下が好ましい。焼鈍時間は比抵抗の劣化がなければ特に限定されないが、20分以上が好ましく、30分以上がより好ましく、1時間以上がさらに好ましい。
特に、シリコーン樹脂皮膜形成鉄粉を圧縮成形した圧粉体を用いて本発明の改質圧粉体を得る場合には、上記熱処理は、超臨界または亜臨界状態の水による接触処理を行った後に行うことが好ましい。かかる構成により、上記処理の順序を逆に行った場合(すなわち、圧粉体を熱処理した後、超臨界または亜臨界状態の水による接触処理を行った場合)に比して、機械強度(特に、抗折強度)に一層優れた改質圧粉体を得ることができる。このメカニズムの詳細については不明であるが、以下のように推測される。すなわち、シリコーン樹脂皮膜形成鉄粉を圧縮成形した圧粉体を超臨界または亜臨界状態の水と接触させることによって、圧粉体中に存在するシリコーン樹脂皮膜が消失し、その消失した箇所に水由来の酸素と鉄の反応により酸化鉄の層が形成されて隙間が埋められる。そして、次いで行われる熱処理によって酸化鉄の焼結が起り、圧粉体を構成する個々の鉄基軟磁性粉末同士の結合がより強固になって、改質圧粉体の機械強度が高まると推測される。
一方、シリコーン樹脂皮膜形成鉄粉を圧縮成形した圧粉体を熱処理した後、超臨界または亜臨界状態の水による接触処理を行った場合には、圧粉体に熱処理のみを行う場合よりは、得られる改質圧粉体の機械強度は向上するものと見込まれる。しかしながら、熱処理によってシリコーン樹脂が変性してしまい、次いで行う超臨界または亜臨界状態の水による接触処理では消失し難い変性シリコーン樹脂皮膜が形成されることとなる。その結果、超臨界または亜臨界状態の水が個々の鉄基軟磁性粉末間にまで侵入し難くなって、上記のような酸化鉄の層が十分に形成されず、改質圧粉体の機械強度がさほど向上しなかったものと推測される。
(圧粉磁心)
本発明の製造方法によって得られる圧粉体は、機械的強度に優れているため、圧粉磁心として好適に用いることができる。
その他、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内で、当業者の知識に基づき種々なる改良、修正、変形を加えた態様で実施することができる。
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施をすることは全て本発明の技術的範囲に包含される。なお、特に断らない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」をそれぞれ意味する。
先ず、実験例で用いた評価方法について、以下説明する。
(密度)
試験片の体積、及び質量から算出した。
(抗折強度)
31.75mm×12.7mm×厚み5mmの短冊状試験片を作成し、日本粉末冶金工業会のJPMA M 09−1992に準拠して、3点曲げ試験を行って求めた。
(実験例1)
<リン酸系化成皮膜の形成>
鉄基軟磁性粉末として純鉄粉(神戸製鋼所製;アトメル(登録商標)300NH;粒径(メジアン径)80〜100μm)を用いた。水:1000部、Na2HPO4:88.5部、H3PO4:181部、H2SO4:61部、Co3(PO42:30部、Cs2SO4:44部を混合した混合液を、さらに水で10倍に希釈して得た処理液10部を、目開き300μmの篩を通した上記純鉄粉200部に添加して、V型混合機を用いて30分以上混合した後、大気中、200℃で30分乾燥し、目開き300μmの篩を通して、リン酸系皮膜形成鉄粉を得た。
<シリコーン樹脂皮膜の形成>
シリコーン樹脂(信越化学工業社製;KR220L;メチル基100モル%、T単位100モル%)をトルエンに添加・混合して、4.8%の固形分濃度の樹脂溶液を作製した。この樹脂溶液を、上記工程で得たリン酸系皮膜形成鉄粉(1kg)に対して樹脂固形分が0.15%となるように添加して混合した。次いで、オーブン炉で大気圧中、75℃、30分間加熱して乾燥した後、目開き300μmの篩を通した。その後、150℃で30分間予備加熱を行い、シリコーン樹脂皮膜形成鉄粉を得た。
<圧縮成形>
続いて、ステアリン酸Znをアルコールに分散させた潤滑剤溶液を、金型表面に塗布した後、シリコーン樹脂皮膜形成鉄粉を入れ、面圧980MPaで室温(25℃)での圧縮成形を行い、圧粉成形体1を得た。柱状の成形体寸法は、31.75mm×12.7mm、高さ約5mmである。
<熱処理>
その後、600℃で1時間、窒素雰囲気下で焼鈍して、圧粉体1を得た。昇温速度は約5℃/分とし、熱処理後は炉冷した。
(実験例2)
<リン酸系化成皮膜の形成、シリコーン樹脂皮膜の形成、圧縮成形>
実験例1と同様に、リン酸系化成皮膜の形成、シリコーン樹脂皮膜の形成、及び圧縮成形を行い、圧粉成形体1を得た。
<常圧水蒸気処理>
得られた圧粉成形体1を、容量0.5Lの容器に入れ、窒素パージを3回行った。次いで、純水100gを容器に入れ、90℃に昇温して240分間保持した。続いて、窒素パージして容器内の水蒸気を排出した後、さらに容器内に窒素ガスを少量流しながら90℃下、1時間保持して乾燥し、炉冷後、圧粉体2を得た。
(実験例3)
<リン酸系化成皮膜の形成>
実験例1と同様に、リン酸系化成皮膜の形成を行い、リン酸系皮膜形成鉄粉を得た。
<圧縮成形>
得られたリン酸系皮膜形成鉄粉を用いて、実験例1と同様に圧縮成形を行い、同形状の圧粉成形体3を得た。
<熱処理>
得られた圧粉成形体3を用いて、実験例1と同様に熱処理を行い、圧粉体3を得た。
(実験例4)
<リン酸系化成皮膜の形成>
実験例1と同様に、リン酸系化成皮膜の形成を行い、リン酸系皮膜形成鉄粉を得た。
<圧縮成形>
得られたリン酸系皮膜形成鉄粉を用いて、実験例1と同様に圧縮成形を行い、同形状の圧粉成形体4を得た。
<超臨界水処理>
圧粉成形体4を、容量0.5Lの耐圧容器に入れ、容器内を1MPaにして窒素パージを3回行った。その後、常圧に戻して純水100gを容器に入れ、120℃で水蒸気パージして容器内の窒素を排出した。続いて、断熱材を巻いた熱線ヒーターで容器内を390℃に加熱し、さらにプランジャータイプの高圧ポンプで水蒸気を送り、容器内を29MPa(ゲージ圧)にして、容器内の水を超臨界状態にした。その後、圧力をモニターしながら適宜水蒸気を高圧ポンプから送り、240分間、容器内の水を超臨界状態に保った。その後、200℃まで炉冷し、窒素パージして容器内の水蒸気を排出した後、さらに容器内に窒素ガスを少量流しながら、200℃下、1時間保持して乾燥し、炉冷後、圧粉体4を得た。
(実験例5)
<リン酸系化成皮膜の形成、シリコーン樹脂皮膜の形成、圧縮成形>
実験例1と同様に、リン酸系化成皮膜の形成、シリコーン樹脂皮膜の形成、及び圧縮成形を行い、圧粉成形体1を得た。
<超臨界水処理>
得られた圧粉成形体1を用いて、実験例4と同様に超臨界水処理を行い、圧粉体5を得た。
(実験例6)
<リン酸系化成皮膜の形成、シリコーン樹脂皮膜の形成、圧縮成形、超臨界水処理>
実験例5において、超臨界処理をする際の容器内の温度390℃を500℃に変更した以外は実験例5と同様にして、圧粉体6を得た。
(実験例7)
<リン酸系化成皮膜の形成、シリコーン樹脂皮膜の形成、圧縮成形、超臨界水処理>
実験例5と同様に、リン酸系化成皮膜の形成、シリコーン樹脂皮膜の形成、圧縮成形、及び超臨界水処理を行い、圧粉体5を得た。
<熱処理>
得られた圧粉体5を用いて、実験例1と同様に熱処理を行い、圧粉体7を得た。
(実験例8)
<リン酸系化成皮膜の形成、シリコーン樹脂皮膜の形成、圧縮成形、超臨界水処理>
実験例6と同様に、リン酸系化成皮膜の形成、シリコーン樹脂皮膜の形成、圧縮成形、及び超臨界水処理を行い、圧粉体6を得た。
<熱処理>
得られた圧粉体6を用いて、実験例1と同様に熱処理を行い、圧粉体8を得た。
(圧粉体特性)
得られた圧粉体1〜8の密度、及び抗折強度を測定した。その結果を表1に示す。
Figure 0005427666
実験例1〜3と、実験例4〜8との比較から、圧縮成形して得られた圧粉成形体を、超臨界状態の水と接触処理させて得られる圧粉体は、かかる処理がなされずに得られる圧粉体に比して、抗折強度が向上する(すなわち、機械的強度にも優れた圧粉磁心が得られる)ことが分かった。
(実験例9)
<リン酸系化成皮膜の形成、シリコーン樹脂皮膜の形成、圧縮成形、熱処理>
実験例1と同様に、リン酸系化成皮膜の形成、シリコーン樹脂皮膜の形成、圧縮成形、及び熱処理を行い、圧粉体1を得た。
<超臨界水処理>
得られた圧粉体1を用いて、実験例4と同様に超臨界水処理を行い、圧粉体9を得た。
(実験例10)
<リン酸系化成皮膜の形成、シリコーン樹脂皮膜の形成、圧縮成形、熱処理、超臨界水処理>
実験例9において、超臨界処理をする際の容器内の温度390℃を500℃に変更した以外は実験例9と同様にして、圧粉体10を得た。
(圧粉体特性)
得られた圧粉体9及び10の密度、及び抗折強度を測定した。その結果を表2に示す。なお、超臨界水処理の効果を明確にするために、表2にも実験例1の結果を記載した。
Figure 0005427666
実験例1と、実験例9及び10との比較から、圧縮成形して得られた圧粉成形体を熱処理だけして得られる圧粉体よりも、その後さらに超臨界水処理して得られる圧粉体の方が抗折強度に優れることが分かった。また、実験例7及び8と、実験例9及び10との比較から、圧縮成形して得られた圧粉成形体を先ず超臨界水処理した後、次いで熱処理して得られる圧粉体の方が、圧粉成形体を熱処理した後に超臨界水処理して得られる圧粉体に比して、抗折強度が向上することが分かった。したがって、より高強度の圧粉体が求められる場合には、圧粉成形体を先ず超臨界水処理した後に熱処理を行って圧粉体とするのが好ましいことが分かった。
本発明の改質圧粉体の製造方法は、モータのロータやステータのコアとなる圧粉磁心の製造に有用である。

Claims (7)

  1. リン酸系化成皮膜を有する鉄基軟磁性粉末を圧縮して得られる圧粉体に、超臨界状態の水を接触させることを特徴とする改質圧粉体の製造方法。
  2. 前記超臨界状態の水を、前記圧粉体に10分以上接触させる請求項1に記載の改質圧粉体の製造方法。
  3. 前記超臨界状態の水を接触させる前に、前記圧粉体を容器内に収容して不活性ガスパージを行う請求項1または2に記載の改質圧粉体の製造方法。
  4. 前記超臨界状態の水を接触させた後に、400℃以上で熱処理する請求項1から3のいずれか一項に記載の改質圧粉体の製造方法。
  5. 前記鉄基軟磁性粉末が、前記リン酸系化成皮膜の上にシリコーン樹脂皮膜を有している請求項4に記載の改質圧粉体の製造方法。
  6. 請求項1から5のいずれか一項に記載の製造方法により得られることを特徴とする圧粉磁心。
  7. 密度が7.55g/cm3以上である請求項6に記載の圧粉磁心。
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